説明

心内心電計信号の正確な時間注釈

【課題】心臓などの、患者の身体器官から生成される電気信号は、典型的には雑音性であるため身体器官からの信号に対する雑音の影響を低減するためのプロセスを提供する。
【解決手段】単極性又は双極性の心電計(ECG)解析システムにおいて、時変心内電位信号を感知することと、既定の振動波形に対する、時変心内電位信号の適合を見出し信号を解析するための方法と、その適合に応答して、信号の注釈時間を推定することを更に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には、信号解析に関し、具体的には、医療処置の間に生成される信号の解析に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓などの、患者の身体器官から生成される電気信号は、典型的には雑音性である。これらの信号は典型的には、患者に対する医療処置の間に測定され、信号に対する雑音は通常は、複数の要因によって引き起こされる。要因のうちの一部は、電極と器官の一区域との接触の移動若しくは変化などの、人為的結果、測定されている領域の近位で発生している他の信号による干渉、身体器官の比較的高いインピーダンス、及び生成されている信号の固有の変化である。
【0003】
身体器官からの信号に対する雑音の影響を低減するためのプロセスは、それゆえに有利である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施形態は、信号を解析するための方法を提供し、この方法は、
時変心内電位信号を感知することと、
既定の振動波形に対する、時変心内電位信号の適合を見出すことと、
その適合に応答して、信号の注釈時間を推定することとを含む。
【0005】
開示される実施形態では、時変心内電位信号は、単極性信号を含む。典型的には、既定の振動波形は、単一の極大値、単一の極小値、及び極小値と極大値とを分離する単一の変曲を有する、単一の完全な振動を含む。
【0006】
代替的な実施形態では、既定の振動波形は、ガウス関数の一次微分を含む。典型的には、一次微分は、非対称因子によって歪められる。
【0007】
開示される別の実施形態では、時変心内電位信号は、双極性信号を含む。既定の振動波形は、第1の単一の完全な振動と、第2の単一の完全な振動との差異を含み得る。典型的には、第1の単一の完全な振動は、第1の単一の極大値、第1の単一の極小値、及び第1の極大値と第1の極小値とを分離する第1の変曲を含み、第2の単一の完全な振動は、第2の単一の極大値、第2の単一の極小値、及び第2の極大値と第2の極小値とを分離する第2の変曲を含む。
【0008】
第1の単一の完全な振動と、第2の単一の完全な振動とは、時間差によって分離することができる。この時間差は、双極性信号を生成する電極の、空間的分離の関数とすることができる。あるいは、又はそれに加えて、この時間差は、活性化波の伝播方向に対する、電極の配向の関数とすることができる。
【0009】
開示される更なる実施形態では、既定の振動波形は、第1のガウス関数の一次微分と、第2のガウス関数の一次微分との差異を含む。典型的には、第1のガウス関数の一次微分は、第1の非対称因子によって歪められ、第2のガウス関数の一次微分は、第2の非対称因子によって歪められる。
【0010】
開示される、更なる実施形態では、時変心内電位信号は、時間差を間に有する3つ又は4つ以上の単極性信号を含み、活性化波の伝播方向は、その時間差の関数である。典型的には、それぞれの位置を有するそれぞれの電極が、3つ又は4つ以上の単極性信号を生成し、それぞれの位置を、関数のパラメーターとすることができる。
【0011】
本発明の一実施形態により、信号を解析するための装置が更に提供され、この装置は、
時変心内電位信号を感知するように構成されるセンサーと、
既定の振動波形に対する、時変心内電位信号の適合を見出し、その適合に応答して、信号の注釈時間を推定するように構成される、プロセッサとを含む。
【0012】
本開示は、以下の本開示の実施形態の「発明を実施するための形態」を、以下の図面と併せ読むことによって、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による、心電計(ECG)解析システムの概略図。
【図2】本発明の一実施形態による、ECG解析システムによって処理される、典型的なECG信号の概略的グラフ。
【図3】本発明の実施形態による、ECG信号に適合させるために使用される等式によって作成された概略的グラフ。
【図4】本発明の実施形態による、ECG信号に適合させるために使用される等式によって作成された概略的グラフ。
【図5】本発明の一実施形態による、心内信号を解析する際の工程を示す流れ図。
【図6】本発明の一実施形態による、図1のシステムによって得られた結果を示す概略的グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
概論
本発明の一実施形態は、単極性又は双極性とすることができる、「生の」心内信号、又はフィルター処理された心内信号を処理するための方法を提供する。典型的には、この処理は、既定の波形に心内信号を適合させ、生の信号からではなく、その適合された信号から、信号の注釈時間を導き出すことを含む。
【0015】
典型的には、単極性信号は、単一の完全な振動を表す等式に適合される。双極性信号は、典型的には時間差によって分離される、2つの単一の完全な振動の差異を表す等式に適合させることができる。一部の実施形態では、単一の完全な振動は、ガウス関数の微分に対応する。非対称因子を、その微分に適用することができ、一部の実施形態では、非対称因子は、ガウス関数に対応する。
【0016】
本発明者らは、生の信号又はフィルター処理された信号から直接判定される注釈時間と比較して、生の信号又はフィルター処理された信号を、既定の等式に適合させ、その適合された信号から注釈時間を測定することにより、注釈時間の変動が低減されることを見出した。
【0017】
システムの説明
ここで図1を参照すると、この図1は、本発明の一実施形態による、心電計(ECG)解析システム20の概略図である。システム20は、ヒト患者の器官内部に位置決めされる1つ又は2つ以上の電極から、少なくとも1つの、典型的には複数個の電気信号を受信する。典型的には、それらの信号は、器官内の1つ又は2つ以上のプローブ上に定置される、多数の電極から受信される。例えば、心臓に対する侵襲的手技の間、1つ又は2つ以上の電極を有する第1のプローブを、心臓の基準領域内に位置決めして、その領域から、基準ECG信号を感知するために使用することができる。複数の電極を有する第2のプローブを使用して、心臓の他の領域から、他のECG信号を検出して記録することができる。
【0018】
簡潔性及び明瞭性のために、以下の説明は、特に既述のない限り、単一のプローブ24を使用して、心臓34からの電気信号を感知する調査手順を想定する。更には、プローブの遠位端32は、2つの実質的に同様の電極22A、22Bを有するものと想定される。電極22A、22Bは、本明細書では電極22と称される場合がある。当業者であれば、この説明を、1つ又は2つ以上の電極を有する複数のプローブ関して、並びに、心臓以外の器官によって生成される信号に関して、適応させることが可能であろう。
【0019】
典型的には、プローブ24は、システム20のユーザー28によって実行されるマッピング手順の間に、被験者26の身体内に挿入される、カテーテルを含む。本明細書での説明では、ユーザー28は、一例として、医療専門家であると想定される。この手順の間、被験者26は、接地電極23に取り付けられると想定される。一部の実施形態では、電極29を、心臓34の領域内で被験者26の皮膚に取り付けることができる。
【0020】
システム20は、メモリ44と通信する処理装置42を含む、システムプロセッサ40によって制御することができる。プロセッサ40は典型的には、動作制御機器38を含むコンソール46内に搭載される。制御機器38は、典型的には、専門家28がプロセッサと対話するために使用する、マウス又はトラックボールなどの、ポインティングデバイス39を含む。プロセッサは、メモリ44内に格納される、プローブ経路指定モジュール30及びECGモジュール36を含めた、ソフトウェアを使用して、システム20を動作させる。ECGモジュール36は、基準ECGサブモジュール37及びマップECGサブモジュール41を含み、それらの機能は以下で説明される。プロセッサ40によって実行される動作の結果は、ディスプレイ48上で専門家に提示され、このディスプレイ48は、典型的には、操作者に対するグラフィックユーザーインターフェース、電極22によって感知されるECG信号の視覚的表現、及び/又は調査されている間の心臓34の画像を提示する。ソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して、電子的形態で、プロセッサ40にダウンロードすることができ、あるいは、又はそれに加えて、磁気メモリ、光メモリ、又は電子メモリなどの、非一時的な有形媒体上に提供及び/又は格納することができる。
【0021】
ECGモジュール36は、電極22からの電気信号を受信するように結合される。このモジュールはまた、電極29のうちの1つ又は2つ以上からの信号を受信するように結合することもできる。ECGモジュールは、信号を解析するように構成され、ディスプレイ48上に、標準的なECG形式で、典型的には、時間と共に変動するグラフ式表現で、解析の結果を提示することができる。
【0022】
プローブ経路指定モジュール30は、プローブが被験者26の内部にある間に、プローブ24の諸区域を追跡する。経路指定モジュール30は、典型的には、被験者26の心臓内部での、プローブ24の遠位端32の、場所及び配向の双方を追跡する。一部の実施形態では、モジュール30は、プローブの他の区域を追跡する。この経路指定モジュールは、当該技術分野において既知の、プローブを追跡するための任意の方法を使用することができる。例えば、モジュール30は、被験者の付近で、磁場発信器を動作させることにより、その発信器からの磁場は、追跡されているプローブの諸区域内に配置された追跡コイルと、相互作用することができる。磁場と相互作用するコイルは、モジュールに伝送される信号を生成し、モジュールは、その信号を解析して、コイルの場所及び配向を判定する。(簡潔性のために、そのようなコイル及び発信器は、図1には示されない。)Biosense Webster(Diamond Bar,CA)によって生産される、Carto(登録商標)システムは、そのような追跡方法を使用する。あるいは、又はそれに加えて、経路指定モジュール30は、電極23、電極29、及び電極22の間のインピーダンス、並びに、プローブ上に配置することができる他の電極に対するインピーダンスを測定することによって、プローブ24を追跡することができる。(この場合には、電極22及び/又は電極29は、ECG信号及び追跡信号の双方を提供することができる。)Biosense Websterによって生産される、Carto3(登録商標)システムは、磁場発信器及びインピーダンス測定の双方を、追跡に関して使用する。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態による、システム20によって処理される、典型的なECG信号の概略的グラフを示す。グラフ100、102は、「生の」(すなわち、未処理の)双極性心内ECG信号の、例示的な、電位対時間のプロットを示す。これらの信号は、電極が心臓壁に接触する間の、電極22Aと電極22Bとの電位差に由来するものと想定される。当該技術分野において既知であるように、心内ECG信号は雑音性であり、その雑音は、典型的には、線放射、他の電気機器との近接性、及び、患者の筋収縮(心筋を除く)などの患者26に由来する他の電気供給源などの、多数の要因によって生成される。雑音は、典型的には、生の信号から注釈時間の定量的測定を行なう際に、問題を引き起こす。
【0024】
例えば、信号の「R」ピークの時間を含む、注釈時間Tが必要とされる場合があり、この時間は、信号の立上がりから測定される。グラフ100は、Tが、約30msであると測定されることを示すが、グラフ102は、Tが、約25msであると測定されることを示す。グラフに示されるように、Tの測定値は変動する。
【0025】
上述のように、グラフ100、102は、電極22Aと電極22Bとの差信号によって作り出される、双極性のグラフを示す。各電極22A又は電極22B上の信号は、共通の基準電極に対して測定される場合、単極性信号であることにより、この双極性信号は、2つの単極性信号の差異として考慮することができる。基準電極は、接地電極23、及び/又は皮膚電極29のうちの1つ又は2つ以上、及び/又は心臓と接触する1つ又は2つ以上の他の電極などの、任意の便宜的な電極とすることができる。
【0026】
図3及び図4は、本発明の実施形態による、ECG信号に適合させるために使用される等式によって作成された概略的グラフを示す。本発明の実施形態は、図2に示すECG信号などの信号に、既定の等式を適合させる。この等式は、既定の振動波形、典型的には、単一の完全な振動の形態である波形、すなわち、実質的にゼロの信号レベルを有する開始点及び終了点を有し、その2つの点の間の全ての電気的活動を包含する波形に対応する。典型的には、単一の完全な振動のグラフは、単一の極小値及び単一の極大値を有する。極大値と極小値とは、単一の変曲によって分離することができる。
【0027】
一部の実施形態では、また本明細書で例示されるように、信号に適合される既定の等式は、ガウス関数の一次微分から導かれ、非対称因子によって歪められる。
【0028】
それゆえ、電極22A又は電極22Bから受信される単極性ECG信号に関しては、プロセッサ40は、以下の等式(1)によって与えられる一般形態を有する等式を、信号に適合させる。
【数1】

式中、V単極性(t)は、時間tでの、電極で測定される、変動する単極性電位信号を表し、
は、時間t=0に対しての、信号の時間的変位である。tは、活性化波が電極の位置を通過する際の時間に対応し、
Aは、信号の振幅であり、
は、信号の非対称性を規定するパラメーターであり、
wは、信号の幅を規定するパラメーターである。
【0029】
等式(1)の検証は、この等式によって提供される非対称因子が、ガウス関数に対応することを示す。それゆえ、等式(1)は、ガウス関数と、ガウス関数の一次微分とを合計する。
【0030】
以下の説明では、ti1、A1、ts1、及びwのパラメーターはまた、等式(1)の単極性適合パラメーターとも総称される。
【0031】
グラフ110、112、及びグラフ114(図3)は、等式(1)によって作り出される、波形に対するt及びwのパラメーターの値の効果を示す。簡潔性のために、各グラフの縦座標及び横座標の単位は、任意であると想定される。グラフ110に示すように、t=0に関しては、グラフは、(3,0)で対称の中心を有する、2回転対称を有する。(換言すれば、グラフの平面内の180°の回転の下で、このグラフは、それ自体へと変換する。)グラフ112は、t=3の正値に関しては、グラフが非対称になることを示す。この非対称性は、tの増大と共に増大する。
【0032】
グラフ114によって示されるように、wの値は、グラフの全幅を変化させるものであり、wの値を増大させることにより、幅が低減される。
【0033】
ECG信号が双極性信号である場合には、そのECG信号は、電極22A上の単極性信号V単極性(t)と、電極22B上の単極性信号V単極性(t)との差異によって生成されるものと、想定することができる。これらのような双極性信号に関しては、プロセッサは、等式(1)から導かれる等式(2)を、信号に適合させる。
【数2】

式中、V双極性(t)は、時間tでの、電極で測定される、変動する双極性電位信号を表し、
単極性(t)、V単極性(t)は、V及びVとも称され、等式(1)に関して上記で規定されるようなものであり、
i1、ti2は、V、Vの時間的変位であり、
A1、A2は、V、Vの振幅であり、
s1、ts2は、V、Vの非対称性を規定し、
、wは、V、Vの幅を規定する。
【0034】
双極性信号に関しては、時間差Δt=ti1−ti2が存在し、この時間差は、2つの単極性信号、V単極性(t)とV単極性(t)との、時間的変位の差異に等しい。2つの単極性信号の間の時間差は、典型的には、双極性信号を生成する2つの電極の空間的分離、及び活性化波の伝播方向に対する電極の配向の関数である。それゆえ、2つの電極の場合には、活性化波の伝播方向の少なくとも1つの成分を、単極性信号の時間差から判定することができる。3つ以上の電極に関しては、その3つ以上の電極によって検出される、それぞれの単極性信号の間の時間差、並びに電極の位置により、典型的には、伝播方向の複数の成分を見出すことが可能になる点が理解されるであろう。それらの複数の成分から、活性化波の伝播方向(単に一成分ではない)を推定することができる。
【0035】
以下の説明では、ti1、ti2、A1、A2、ts1、ts2、及びw、wのパラメーターはまた、等式(2)の双極性適合パラメーターとも総称される。
【0036】
グラフ120、122、及びグラフ124(図4)は、等式(2)の適用を示す。グラフ120及びグラフ122は、電圧対時間の、2つの単極性の等式のグラフであり、それぞれ、t=3及びt=4.5の時間的変位(任意の単位での)、並びに4及び2の幅を有する。グラフ124は、それらの2つの式の差異のグラフであり、Δt=4.5−3=1.5の時間差を有する、双極性電圧対時間の関数を示す。
【0037】
生成される心内単極性信号及び心内双極性信号は、特に、信号を測定するために使用される電極の位置に応じて変化する。生成される信号はまた、測定されている心臓の状態、すなわち、その心臓が、健常な方式で機能しているか、又は病的な方式で機能しているかに応じても変化する。
【0038】
心臓が、特定の欠陥により病的である場合には、その心臓はまた、健常な心臓の心内信号とは異なる、標準的な心内信号を作り出す(同様の相違は、皮膚ECG信号、すなわち、身体表面信号を使用する診断で使用することができる)。特定の欠陥の場合には、病的な心臓は、標準的な欠陥性の単極性信号又は双極性信号を生成し、この信号内の欠陥は、対応する心臓欠陥によって引き起こされる。
【0039】
図5は、本発明の一実施形態による、心内信号を解析する際の、プロセッサ40によって実行される工程を示す流れ図200である。以下の説明では、信号は、双極性信号を含むものと想定される。当業者であれば、この説明を、必要な変更を加えて、単極性信号に関して適応させることが可能であろう。
【0040】
最初の工程202では、専門家28は、心臓34内にプローブ24を挿入することにより、電極22A及び電極22Bを、心臓壁の一区域と接触させる。プロセッサ40が、電極から心内双極性ECG信号を取得し、各ECG信号は、電位V及び時間tの順序対:{(V,t)}を含む。
【0041】
心拍選択工程204では、1つの完全な心拍を選択する。それゆえ、選択された心拍の持続時間が、Tであり、工程202での取得が、サンプリング周波数SampleRateで実行される場合には、選択された心拍内には、双極性信号の約T/SampleRate個のサンプルが存在する。
【0042】
解析工程206では、プロセッサは、選択された心拍に、等式(2)を適合させて、選択された心拍に対する最良適合を与える、等式(2)の適合パラメーターの値のセットを導く。
【0043】
比較工程208では、プロセッサは、経路指定モジュール30を使用して、電極22A及び電極22Bが、心臓に対して同じ位置にあるか否かを確認する。この比較が、肯定的な結果を返すことにより、電極が同じ位置にある場合には、平均化工程210で、プロセッサは、その位置での全ての心拍に関する適合パラメーターを平均化して、平均化適合パラメーターのセットを生成する。流れ図は、次いで注釈工程212に進む。
【0044】
比較が、否定的な結果を返すことにより、電極が移動している場合には、平均化は実行されずに、流れ図は、工程212に直接進む。
【0045】
注釈時間工程212では、工程210(平均化が実施される場合)又は工程206(平均化が存在していない場合)のいずれかで導かれた適合パラメーターを使用して、注釈時間を推定する。注釈時間は、ECG信号の特性の発生の基準時間である。注釈時間は、身体表面ECGに対して、又は、例えば冠状静脈洞内に定置されるカテーテルからの、心内基準ECGに対して、規定することができる。基準注釈時間を規定するために使用される、典型的な信号特性としては、QRS群のRピーク最大値が生じる時間、QRS群の最小微分係数が生じる時間、完全な信号のエネルギーの中心が生じる時間、又は完全な信号の最初の兆候が生じる時間が挙げられるが、これらに限定されない。基準注釈時間は典型的には、信号が測定される心臓内の位置に応じて決定される。基準注釈時間に関する規定、及びそれらの注釈時間の値は、基準ECGサブモジュール37内に格納される。
【0046】
マップ構築工程214では、プロセッサは、心臓34の電気解剖学的マップの点を構成する。マップの点を構成するために、プロセッサは、工程212で推定された注釈時間の差異、及び関連する基準注釈時間(サブモジュール37内に格納)を、心臓のマップ内に組み込む(経路指定モジュール30を使用して)(図1)。サブモジュール41もまた、この工程で使用される。
【0047】
継続条件216が、肯定的な結果を返すことによって、工程202〜214の繰り返しが指示される。典型的には、専門家28が、工程214のマッピング手順の停止を決定することによって、条件216が否定的な結果を返す場合には、流れ図は終了する。
【0048】
上述のように、工程202〜214は、典型的には、健常な心臓内、及び既知の欠陥を有する病的な心臓内での、電極の種々の位置を含む、種々の状況に関して、実行することができる。
【0049】
図6は、本発明の一実施形態による、上述の方法の適用の結果を示す、概略的グラフを示す。心内ECG信号を、様々な異なる場合から記録して、データプールを作成した。約5,900の心拍を、データプールから抽出した。全ての心拍を11のグループへと編成し、各グループは、規定の閾値未満の振幅を有する心拍を含むものとした。
【0050】
この閾値は、信号の雑音の尺度であるため、より低い閾値を有する信号は、より高い雑音レベルを有する。特定のグループ内の各心拍に関して、Rピーク最大値の発生時間tRk、及び活性化波の通過の発生時間tCkを推定した。kは、測定されている心拍の数を表す指標である。tCkは、流れ図200に関して説明されるものと同様の、本明細書では適合注釈方法とも称される、適合解析を使用して、推定した。tRkを推定するための方法はまた、本明細書では、最大値注釈方法とも称される。
【0051】
各グループの範囲内で、以下の時間の差異を算出した。
【数3】

【0052】
等式(3)から、以下の変動係数を算出した。
【数4】

式中、σ(Δt)は、全てのΔt値の標準偏差であり、
M(Δt)は、全てのΔt値の平均である。
【0053】
等式(4)の式は、所定のグループの範囲内の心拍の、最大値注釈方法又は適合注釈方法による、注釈時間の変動性の尺度を与える。
【0054】
グラフ300は、1つのグループの、変動性VAR対閾値をプロットし、グラフ302は、グラフ300の直線回帰である。グラフ310は、1つのグループの、変動性VAR対閾値をプロットし、グラフ312は、グラフ310の直線回帰である。2つのグラフのセットの比較によって、低い閾値の値に関しては、すなわち、高い雑音の値を有する信号に関しては、本明細書で説明される方法に従って処理された、すなわち、適合注釈方法を使用して処理された信号の変動性は、これらの方法で処理されていない信号の変動性よりも小さいことが、明らかである。
【0055】
上述の実施形態は、例示として記載されるものであり、本発明は、上記で具体的に図示及び説明されているものに限定されないことが理解されるであろう。むしろ、本発明の範囲には、上記で説明された様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせ、並びに当業者であれば前述の説明を読むことで想到されるであろう、先行技術に開示されていない、それらの変型及び修正が含まれる。
【0056】
〔実施の態様〕
(1) 信号を解析するための方法であって、
時変心内電位信号を感知することと、
既定の振動波形に対する、前記時変心内電位信号の適合を見出すことと、
前記適合に応答して、前記信号の注釈時間を推定することと、を含む、方法。
(2) 前記時変心内電位信号が、単極性信号を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記既定の振動波形が、単一の極大値、単一の極小値、及び前記極小値と前記極大値とを分離する単一の変曲を有する、単一の完全な振動を含む、実施態様2に記載の方法。
(4) 前記既定の振動波形が、ガウス関数の一次微分を含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記一次微分が、非対称因子によって歪められる、実施態様4に記載の方法。
(6) 前記時変心内電位信号が、双極性信号を含む、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記既定の振動波形が、第1の単一の完全な振動と、第2の単一の完全な振動との差異を含む、実施態様6に記載の方法。
(8) 前記第1の単一の完全な振動が、第1の単一の極大値、第1の単一の極小値、及び前記第1の極大値と前記第1の極小値とを分離する第1の変曲を含み、前記第2の単一の完全な振動が、第2の単一の極大値、第2の単一の極小値、及び前記第2の極大値と前記第2の極小値とを分離する第2の変曲を含む、実施態様7に記載の方法。
(9) 前記第1の単一の完全な振動と、前記第2の単一の完全な振動とが、時間差によって分離される、実施態様7に記載の方法。
(10) 前記時間差が、前記双極性信号を生成する電極の、空間的分離の関数である、実施態様9に記載の方法。
【0057】
(11) 前記時間差が、活性化波の伝播方向に対する、電極の配向の関数である、実施態様9に記載の方法。
(12) 前記既定の振動波形が、第1のガウス関数の一次微分と、第2のガウス関数の一次微分との差異を含む、実施態様6に記載の方法。
(13) 前記第1のガウス関数の一次微分が、第1の非対称因子によって歪められ、前記第2のガウス関数の一次微分が、第2の非対称因子によって歪められる、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記時変心内電位信号が、時間差を間に有する3つ又は4つ以上の単極性信号を含み、活性化波の伝播方向が、前記時間差の関数である、実施態様1に記載の方法。
(15) それぞれの位置を有するそれぞれの電極が、前記3つ又は4つ以上の単極性信号を生成し、前記それぞれの位置が、前記関数のパラメーターを含む、実施態様14に記載の方法。
(16) 信号を解析するための装置であって、
時変心内電位信号を感知するように構成されるセンサーと、
既定の振動波形に対する、前記時変心内電位信号の適合を見出し、前記適合に応答して、前記信号の注釈時間を推定するように構成される、プロセッサと、
を含む、装置。
(17) 前記時変心内電位信号が、単極性信号を含む、実施態様16に記載の装置。
(18) 前記既定の振動波形が、単一の極大値、単一の極小値、及び前記極小値と前記極大値とを分離する単一の変曲を有する、単一の完全な振動を含む、実施態様17に記載の装置。
(19) 前記既定の振動波形が、ガウス関数の一次微分を含む、実施態様16に記載の装置。
(20) 前記一次微分が、非対称因子によって歪められる、実施態様19に記載の装置。
【0058】
(21) 前記時変心内電位信号が、双極性信号を含む、実施態様16に記載の装置。
(22) 前記既定の振動波形が、第1の単一の完全な振動と、第2の単一の完全な振動との差異を含む、実施態様21に記載の装置。
(23) 前記第1の単一の完全な振動が、第1の単一の極大値、第1の単一の極小値、及び前記第1の極大値と前記第1の極小値とを分離する第1の変曲を含み、前記第2の単一の完全な振動が、第2の単一の極大値、第2の単一の極小値、及び前記第2の極大値と前記第2の極小値とを分離する第2の変曲を含む、実施態様22に記載の装置。
(24) 前記第1の単一の完全な振動と、前記第2の単一の完全な振動とが、時間差によって分離される、実施態様22に記載の装置。
(25) 前記時間差が、前記双極性信号を生成する電極の、空間的分離の関数である、実施態様24に記載の装置。
(26) 前記時間差が、活性化波の伝播方向に対する、電極の配向の関数である、実施態様24に記載の装置。
(27) 前記既定の振動波形が、第1のガウス関数の一次微分と、第2のガウス関数の一次微分との差異を含む、実施態様21に記載の装置。
(28) 前記第1のガウス関数の一次微分が、第1の非対称因子によって歪められ、前記第2のガウス関数の一次微分が、第2の非対称因子によって歪められる、実施態様27に記載の装置。
(29) 前記時変心内電位信号が、時間差を間に有する3つ又は4つ以上の単極性信号を含み、活性化波の伝播方向が、前記時間差の関数である、実施態様16に記載の装置。
(30) それぞれの位置を有するそれぞれの電極が、前記3つ又は4つ以上の単極性信号を生成し、前記それぞれの位置が、前記関数のパラメーターを含む、実施態様29に記載の装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を解析するための方法であって、
時変心内電位信号を感知することと、
既定の振動波形に対する、前記時変心内電位信号の適合を見出すことと、
前記適合に応答して、前記信号の注釈時間を推定することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記時変心内電位信号が、単極性信号を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記既定の振動波形が、単一の極大値、単一の極小値、及び前記極小値と前記極大値とを分離する単一の変曲を有する、単一の完全な振動を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記既定の振動波形が、ガウス関数の一次微分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記一次微分が、非対称因子によって歪められる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記時変心内電位信号が、双極性信号を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記既定の振動波形が、第1の単一の完全な振動と、第2の単一の完全な振動との差異を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の単一の完全な振動が、第1の単一の極大値、第1の単一の極小値、及び前記第1の極大値と前記第1の極小値とを分離する第1の変曲を含み、前記第2の単一の完全な振動が、第2の単一の極大値、第2の単一の極小値、及び前記第2の極大値と前記第2の極小値とを分離する第2の変曲を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の単一の完全な振動と、前記第2の単一の完全な振動とが、時間差によって分離される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記時間差が、前記双極性信号を生成する電極の、空間的分離の関数である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記時間差が、活性化波の伝播方向に対する、電極の配向の関数である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記既定の振動波形が、第1のガウス関数の一次微分と、第2のガウス関数の一次微分との差異を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のガウス関数の一次微分が、第1の非対称因子によって歪められ、前記第2のガウス関数の一次微分が、第2の非対称因子によって歪められる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記時変心内電位信号が、時間差を間に有する3つ又は4つ以上の単極性信号を含み、活性化波の伝播方向が、前記時間差の関数である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
それぞれの位置を有するそれぞれの電極が、前記3つ又は4つ以上の単極性信号を生成し、前記それぞれの位置が、前記関数のパラメーターを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
信号を解析するための装置であって、
時変心内電位信号を感知するように構成されるセンサーと、
既定の振動波形に対する、前記時変心内電位信号の適合を見出し、前記適合に応答して、前記信号の注釈時間を推定するように構成される、プロセッサと、
を含む、装置。
【請求項17】
前記時変心内電位信号が、単極性信号を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記既定の振動波形が、単一の極大値、単一の極小値、及び前記極小値と前記極大値とを分離する単一の変曲を有する、単一の完全な振動を含む、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記既定の振動波形が、ガウス関数の一次微分を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項20】
前記一次微分が、非対称因子によって歪められる、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記時変心内電位信号が、双極性信号を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項22】
前記既定の振動波形が、第1の単一の完全な振動と、第2の単一の完全な振動との差異を含む、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記第1の単一の完全な振動が、第1の単一の極大値、第1の単一の極小値、及び前記第1の極大値と前記第1の極小値とを分離する第1の変曲を含み、前記第2の単一の完全な振動が、第2の単一の極大値、第2の単一の極小値、及び前記第2の極大値と前記第2の極小値とを分離する第2の変曲を含む、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記第1の単一の完全な振動と、前記第2の単一の完全な振動とが、時間差によって分離される、請求項22に記載の装置。
【請求項25】
前記時間差が、前記双極性信号を生成する電極の、空間的分離の関数である、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記時間差が、活性化波の伝播方向に対する、電極の配向の関数である、請求項24に記載の装置。
【請求項27】
前記既定の振動波形が、第1のガウス関数の一次微分と、第2のガウス関数の一次微分との差異を含む、請求項21に記載の装置。
【請求項28】
前記第1のガウス関数の一次微分が、第1の非対称因子によって歪められ、前記第2のガウス関数の一次微分が、第2の非対称因子によって歪められる、請求項27に記載の装置。
【請求項29】
前記時変心内電位信号が、時間差を間に有する3つ又は4つ以上の単極性信号を含み、活性化波の伝播方向が、前記時間差の関数である、請求項16に記載の装置。
【請求項30】
それぞれの位置を有するそれぞれの電極が、前記3つ又は4つ以上の単極性信号を生成し、前記それぞれの位置が、前記関数のパラメーターを含む、請求項29に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−103130(P2013−103130A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−247240(P2012−247240)
【出願日】平成24年11月9日(2012.11.9)
【出願人】(511099630)バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
【住所又は居所原語表記】4 Hatnufa Street, Yokneam 20692, Israel
【Fターム(参考)】