説明

心房細動を誘発させる方法

【課題】ヒトと類似の発症メカニズムを有する発作性心房細動モデル動物又はラットを、心房細動抑制剤(抗不整脈薬)の薬効を評価するためのスクリーニングに簡易かつ有効に利用することである。
【解決手段】ラットに麻酔薬を投与し眠らせた状態で、心房に刺激を与えて心房細動を誘発させる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心房細動を誘発させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発作性の心房細動は、洞結節と呼ばれる心臓のペースメーカが一時的な機能障害に陥り、正常な心房の興奮が開始されず、心房の筋肉が1分間に300〜500回と正常の5倍以上の速さで不規則に細かく震え、心房の補助ポンプとしての収縮や拡張がなくなる不整脈の一つである。発作性の心房細動は、性別や年齢に関係なく起こり得るものであり、1000人に約5人の割合で発生している。
【0003】
発作性の心房細動が起こると、心房内での血液の流れが悪くなるため血液が固まり易く、血栓が生じ易くなる。そして、この血栓が脳に到達すると脳の血管を詰まらせて、心原性脳塞栓症を起こすおそれがある。現在は、その対症療法として抗血栓予防薬ワルファリンが使われており、また、発症原因である心房細動を抑制する医薬品としては、ジソピラミドやピルシカイニドなどの抗不整脈薬が知られている。しかし、これらの医薬品は経験則に基づいて投薬されているものであり、何らかの評価試験に基づいたものではない。
【0004】
新たな発作性心房細動予防薬の発見には、心房細動モデル動物を用いたスクリーニングが重要であり、特に短期間で発作性心房細動病態へと移行し、動物への負荷が少なく確実な評価が行なえるモデル動物は非常に有用性が高い。現在、心房細動モデルとしては、例えばアコニチンモデル Am. Heart. J. 58: 59−70 (1959). Moe et al.があり、これはアコニチンを心耳に局所投与することによって局所起源の心房細動を起こすものであるが、臨床における発作性心房細動とは直接関係が無い。また、無菌性心膜炎モデル J. Am Coll Cardiol., 8, 872−879 (1986), Page et al.は、心房筋表面にタルクパウダを無菌的に散布し、心膜炎を起こすことによって心房性不整脈を誘発し易くしたモデルで、Kumagaiらはこのモデルで心房細動が誘発されることを明らかにした。このモデルでは心房細動の発生機序を検討するのに用いられているが、心膜炎による心房細動であるため、心臓手術後に発生する臨床におけるごく限られた心房細動を反映した方法に過ぎない。このように、いずれのモデルも臨床における発作性心房細動のメカニズムとは異なっており、発作性心房細動モデル系としては適切ではない。
【0005】
また、前記スクリーニングのために適用されるモデル動物の作製方法が特許文献1及び特許文献2に記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の発明は、心不全モデル動物の作製方法であり、イヌやラットなどの動物に冠動脈狭窄と冠動脈および腹部大動脈以外の動脈狭窄とを同時期に開始させるものである。一方、特許文献2に記載の発明は、突然心臓死を生じさせ得るような心室性不整脈を誘導するモデル動物の作製方法であり、イヌの心臓内にAVブロック及び心筋梗塞を作製するものである。このように、いずれのモデル動物も心房細動を誘発させるために必ずしも適したモデルとはなり得ないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−291373号公報
【特許文献2】特表2002−543812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ヒトと類似の発症メカニズムを有する発作性心房細動モデル動物を作製し、このモデル動物又はラットに心房細動を高い確率で誘発させることによって、心房細動の予防薬及び治療薬の薬効評価を簡易に行なえるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る心房細動モデル動物は、イヌの房室結節領域に電極カテーテルを挿入し、前記電極カテーテルから前記房室結節領域に高周波を通電して前記房室結節を破壊し、房室伝導をブロックすることによって、心房が肥大化されたことを特徴とする。肥大化されたイヌの心房はヒトのそれに近い大きさになるので、心房細動モデルとしての利用価値が大きい。
【0009】
また、本発明に係る心房細動を誘発させる方法は、房室伝導をブロックされた心房細動モデル動物の心房内に電極カテーテルを挿入し、洞結節又は心房中隔を電気刺激することを特徴とする。前記洞結節は心臓のペースメーカとして機能し、また、心房中隔は左心房と右心房とを仕切る壁であるから、これら洞結節又は心房中隔を短時間(約10秒間)刺激するだけで、心房細動を高い確率で再現性をもって誘発させることができる。
【0010】
また、本発明に係る心房細動を誘発させる方法は、心房細動モデル動物が完全房室ブロック犬以外にラットの場合を含み、ラットに麻酔薬を投与して眠らせた状態で、心房に刺激を与えることを特徴とする。この方法は、非常に簡便であり、またラットも容易に入手できることから、心房細動予防薬等の一次評価試験に最適なものとなる。
【0011】
前記麻酔薬は特に限定していないが、ペントバルビタールが入手の容易さ、使い易さ、麻酔の効き目の点で優れている。また、ラットを安定的に眠らせた状態を保つために、挿管して人工呼吸器を用いることが望ましい。さらに、ラットの場合には心房に直接カテーテルを挿入することが難しいが、食道に挿入した電極カテーテルによる電気刺激によって、心房細動を誘発させることが可能である。一例として、前記食道への電気刺激を約30秒間行なうことで、心房細動は高い確率で誘発される。
【0012】
また、本発明に係る心房細動抑制剤の評価方法は、心房細動モデル動物及びラットのいずれかの心房を電気刺激して心房細動を誘発させた時の心房細動持続時間を計測し、その心房細動が収まった直後に心房細動抑制剤を投与し、投与後所定時間毎に再び同様の方法で心房細動を誘発させ、その時の心房細動継続時間を計測して、心房細動抑制剤の投与前の心房細動持続時間と比較することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る心房細動抑制剤の評価方法の他の手段は、心房細動モデル動物及びラットのいずれかの心房を電気刺激した時に心房細動が誘発される頻度と、心房細動抑制剤を投与した後、所定時間毎に再び同様の方法で心房細動が誘発される頻度とを比較することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ヒトで起こる心房細動と同様のメカニズムを有しているイヌの心房細動モデル動物を作製したことから、心房細動のin vivo評価系として優れており、心房細動予防薬や治療のために用いられる薬物のスクリーニングに有効かつ効率的に適用することができる。
【0015】
また、ラットによる心房細動の誘発方法は、非常に簡便であり、またラットも容易に入手できることから、前記心房細動予防薬等の一次スクリーニングの活用に最適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】完全房室ブロック犬が発作性心房細動を起こした時の心電図である。
【図2】完全房室ブロック犬に電気刺激を与えた時の心電図である。
【図3】完全房室ブロック犬を用いた心房細動持続時間による薬物評価試験の結果を示すグラフである。
【図4】ラットを用いた心房細動持続時間による薬物評価試験の結果を示すグラフである。
【図5】完全房室ブロック犬を用いた心房細動誘発率による薬物評価試験の結果を示すグラフである。
【図6】実施例3において、ラットに薬物を与えた時の心拍数の経過時間に対する変化を示すグラフである。
【図7】実施例3において、ラットに薬物を与えた時の血圧の経過時間に対する変化を示すグラフである。
【図8】実施例3において、ラットに薬物を与えた時の心電図の各指標(QT、PR、QRS)の経過時間に対する変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明における心房細動モデル動物の作製方法ではイヌを対象としている。イヌの大きさや種類、年齢、雌雄の別などは制約を受けないが、実験動物としての実績があるビークル犬が取扱い易さの点で優れており、特に、体重10kg位の1,2歳のビーグル犬が好ましい。また、本発明における心房細動モデル犬は、慢性房室ブロック犬として作製される。房室伝導を完全にブロックすることで心房の肥大化を図り、それに伴う心房細動の誘発を促進させるためである。以下、完全房室ブロック犬を作製するための一例を説明する。先ず、体重10kgのビーグル犬をペントバルビタールやハロセンなどで麻酔し、さらに呼吸を安定させるために挿管して人工呼吸器から一定量(例えば20ml/kg)の酸素又は大気を供給する。このようにして、イヌの呼吸を安定させたのち、電極が先端部に取り付けられた電極カテーテルを大腿静脈から房室結節領域に挿入し、先端電極を所定位置に固定する。次いで、電極カテーテルから房室結節領域に高周波(500kHz 20W)を通電して房室結節を焼き切って破壊し、完全房室ブロック犬を作製する。
【0018】
上記のように、完全房室ブロックを作製することによって、洞結節のペースメーカとしての機能が停止されるため、右心室及び左心室は以後ヒス束のリズムによって血液のポンプ機能を果たすことになる。そのため。心臓から血液を送り出すポンプ機能が低下すると共に心拍数も大幅に減少して心臓に負担が掛かり、結果として心臓全体が肥大化していく。そして、4〜6週間後には心臓の大きさが約2倍程度に肥大してしまう。このように、洞結節の機能が損なわれて心房が肥大化してしまうと心房細動が起こり易くなり、心房内で発生する無秩序な興奮旋回によって血栓も生じ易いものとなる。図1は上述した完全房室ブロック犬の術後6週間目の体表面心電図の一部を拡大したものであり、突発性の心房細動を引き起こしていることを示している。即ち、7:47am頃には通常の拍動を打っていたものが、8:47am頃に心房細動を引き起こし、9:45am頃まで約1時間にわたって心房細動が続いた後、10:46am頃に通常の拍動に戻っていることを示す。このように、完全房室ブロック犬は、突発性の心房細動を引き起こし易い特性を持つモデル動物となる。
【0019】
本発明は、上記のように完全房室ブロック犬の肥大化された心房が心房細動を誘発し易い性質を利用し、この心房細動を再現性をもって誘発させることによって抗不整脈薬の薬効評価に応用できることを見出した。
【0020】
本発明では、完全房室ブロック犬に対して、心房細動を高い確率で再現性をもって誘発させるために、洞結節又は心房中隔を電気刺激する。前述したように、洞結節はペースメーカであり、また、心房中隔は左心房と右心房とを隔てている1〜2mm程度の壁であることから、これらの洞結節や心房中隔を直接刺激することで、心房細動が高い確率で誘発されることになる。図2は心房、特に洞結節に電気刺激を与えた時の心電図を示す。(a)は電極カテーテルを大腿静脈から右心房に挿入した時の心内心電図波形、(b)は電極カテーテルを食道から誘導した左心房の心内心電図波形、(c)は体表面心電図波形である。前記電極カテーテルを通じて60V、60msの間隔で10秒間通電して電気刺激を加えることで、約2〜5秒間心房細動を人工的に起こさせることができる。電気刺激を加えたときに心房細動の発生する確率は、上記完全房室ブロック犬の場合約8割であった。
【0021】
前記洞結節又は心房中隔を電気刺激する方法としては、例えば、前記完全房室ブロック犬を作製する場合と同様、ペントバルビタールやハロセンなどで麻酔し、さらに呼吸を安定させるために挿管して人工呼吸器から酸素又は大気を供給する。このようにして、呼吸を安定させたのち、電極が先端部に取り付けられた電極カテーテルを大腿静脈から右心房内に挿入し、洞結節領域又は心房中隔領域に通電して該部位を電気刺激する。通電は、例えば60V、60ms間隔で約10秒間加えることで、約8割の確率で心房細動を起こさせることができる。本発明者らは、通電時間の違いによって心房細動の起こる確率が異なるか否かを実験した。その実験結果によれば、60V、60ms間隔で1秒間又は3秒間だけ電子刺激を与えた場合には再現性をもって心房細動を誘発させることはできなかったが、電気刺激を10秒間、30秒間、60秒間与えた場合には、いずれも8割以上の再現性をもって心房細動が誘発された。
【0022】
本発明者らは、前記の完全房室ブロック犬以外の心房細動モデル動物についても検討を重ねた結果、通常のラットが電気刺激によって心房細動を再現性をもって誘発されることを見出した。ラットの場合には、上記のように房室伝導をブロックする作業を伴うことなく、通常のラットの心臓に電気刺激を与えるだけの簡易な手段で心房細動を誘発させることができることから、心房細動予防薬等の一次評価試験のモデルとして有用なものとなる。
【0023】
電気刺激の具体的方法としては、例えばラットをペントバルビタールやハロセンなどで麻酔し、前記完全房室ブロック犬の場合と同様、人工呼吸器を用いて呼吸を安定化させる。この状態で、電極カテーテルを食道に挿入し、食道を通してラット心房を電気刺激することで心房細動を誘発させることができる。電気刺激は、例えば、閾値(約40V)約1.5倍の電圧を12ms間隔で約30秒間加えることで心房細動を約8割の再現性をもって誘発させることができる。本発明者らは、ラットについても通電時間の違いに基づく心房細動の起こる確率を実験した。その実験結果によれば、閾値の約1.5倍の電圧を12msの間隔で1秒間又は3秒間だけ電子刺激を与えた場合には再現性をもって心房細動を誘発させることはできなかったが、電気刺激を10秒間、30秒間、60秒間与えた場合には、いずれも再現性をもって心房細動が誘発され、特に30秒間と60秒間の場合には約8割の確率で心房細動が誘発された。
【0024】
次に、上記完全房室ブロック犬及びラットを心房細動モデルとして使用した場合の薬物の評価試験について説明する。
【0025】
薬物の評価試験は、臨床で使われている心房細動の予防薬や治療薬のみならず、新たに開発した製薬に対する評価実験にも応用することができる。例えば、心房細動の治療薬として長年の間使われているピルジカイニドやジソピラミドなどについて再評価を行なうことができる。評価試験としては、心房細動に対する薬物による抑制効果試験だけでなく、薬物による不整脈の増悪効果の評価モデルとしても利用が可能である。さらには、薬物を投与した時の心拍数や血圧、心電図の変化等に対しても評価することができる。
【0026】
評価試験は以下のようにして行なわれる。例えば、前記完全房室ブロック犬又はラットの心房を電気刺激することによって心房細動を誘発させ、その時の心房細動持続時間を計測する。心房細動が収まった直後に薬物を投与し、投与後所定時間毎、例えば10分、20分、30分、60分経過後に同様の方法で心房細動を誘発させ、その時の心房細動持続時間を計測する。薬物投与前と投与後の心房細動持続時間を比較することで、薬物の治療効果を評価することができる。薬物投与前より投与後の心房細動持続時間の方が短くなっていれば、薬効が認められるとの評価ができる。
【0027】
また、他の評価試験としては、前記完全房室ブロック犬又はラットの心房を薬物を投与せずに電気刺激した時に心房細動が誘発される頻度と、薬物を投与した後、所定時間毎に電気刺激して心房細動が誘発される頻度とを比較することで、薬物の予防効果を評価することができる。薬物投与前より投与後の心房細動発生回数の方が少なくなっていれば、薬効が認められるとの評価ができる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
完全房室ブロック犬の作製
生後約1年の雌のビーグル犬(約10kg)にペントバルビタールをゆっくり静注し(30mg/kg)し、同時に気管に人工呼吸器を挿管して一定量(20ml/kg)の酸素又は大気を供給して人工呼吸させる。大腿部を剃毛し、アルコール綿で消毒してから、大腿静脈にガイドワイヤを挿入し、さらにペーシング電極が先端部に取り付けられた電極カテーテルを大腿静脈から右心室まで挿入する。そして、ヒス束心電図が最大に記録できる部位を探して先端の電極を固定する。次に、電極カテーテルの先端電極から房室結節領域に高周波(500kHz 20W)を10秒間通電して房室結節を破壊し、房室伝導をブロックすることで完全房室ブロック犬を作製した。
【0029】
(実施例2)
心房細動持続時間による薬物評価試験1
この薬物評価試験1には、前記実施例1で作製された完全房室ブロック犬を使用し、術後約4〜6ヶ月を経過したモデルである。心房細動を人工的に誘発させる方法は、前記完全房室ブロック犬を作製する場合と同様、完全房室ブロック犬にペントバルビタールをゆっくり静注し(30mg/kg)し、同時に気管に挿管して人工呼吸器から一定量(20ml/kg)の酸素又は大気を供給して人工呼吸させる。その状態で大腿静脈から電極カテーテルを右心房内に挿入し、洞結節を電気刺激する。この時の電気刺激は、60Vの電圧を、60ms間隔で約10秒間加える。
【0030】
前記電気刺激によって心房細動が誘発されるので、その時の心房細動持続時間を計測する。そして、心房細動が収まった直後にピルジカイニド(1mg/kg)を大腿静脈内にゆっくり時間を掛けて投与し、投与後15分、30分、45分、60分後に再び電気刺激を与えて心房細動を誘発させ、その時の心房細動持続時間を計測した。これとは別に、前記ピルジカイニドの代わりにコントロールとして生理食塩水(1ml/kg)を投与して同様の試験を行なった。
【0031】
上記試験結果を図3に示す。この図の縦軸は心房細動の持続時間、横軸はピルジカイニド又は生理食塩水の投与後の経過時間をそれぞれ示す。図3(a)(b)の試験結果によれば、ピルジカイニド投与前の心房細動持続時間は約2秒程度であったものが、投与後15分後には約0.2秒程度にまで短縮され、その後徐々に投与前の値に戻る傾向が見られた。これに対して、生理食塩水を投与した場合の心房細動持続時間は、ピルジカイニド投与の前後を問わずほとんど一定値を保っている。このことから、ピルジカイニドには心房細動を抑制する効果を持ち、また抑制効果が投与後すぐに現われるとの評価ができる。
【0032】
(実施例3)
心房細動持続時間による薬物評価試験2
この薬物評価試験2にはラットを使用した。ラットに心房細動を人工的に誘発させる方法は、上述した完全房室ブロック犬の場合と同様である、先ず、ラットにペントバルビタールをゆっくり腹腔内投与し(50mg/kg)し、同時に気管に挿管した人工呼吸器から一定量(10ml/kg)の酸素又は大気を供給して呼吸を安定させる。この状態で、電極カテーテルを食道に挿入し、食道から心房を電気刺激することで心房細動を誘発させた。この時の電気刺激は、閾値の約1.5倍の電圧を12ms間隔で約30秒間加える。
【0033】
上記薬物評価試験1と同様、電気刺激によって誘発されたラットの心房細動の持続時間を計測する。そして、心房細動が収まった直後にピルジカイニド(1mg/kg)を大腿静脈内にゆっくり時間を掛けて投与し、10分、20分、30分、60分後に再び電気刺激を与えて心房細動を誘発させ、その時の心房細動持続時間を計測した。これとは別に、前記ピルジカイニドの代わりにコントロールとして生理食塩水(1ml/kg)を投与して同様の試験を行なった。
【0034】
上記試験結果を図4に示す。この図の縦軸は心房細動の持続時間、横軸はピルジカイニド又は生理食塩水の投与後の経過時間をそれぞれ示す。図4(a)(b)の試験結果によれば、前記薬物評価試験1場合と同様の傾向が見られ、ピルジカイニド投与前の心房細動持続時間は約12秒間であったものが、投与後10分後には約4秒間にまで短縮され、その後徐々に投与前の値に戻る傾向が見られた。これに対して、生理食塩水を投与した場合の心房細動持続時間は、ピルジカイニド投与の前後を問わずほとんど一定値を保っている。このことから、ラットを用いた心房細動モデルも、前記完全房室ブロック犬と同様、ピルジカイニドの薬効を評価することができる。
【0035】
(実施例4)
心房細動誘発率による薬物評価試験
この薬物評価試験には、前記実施例1で作製された完全房室ブロック犬を使用した。また、電気刺激を与えて心房細動を人工的に誘発させる方法も実施例1と同様である。この実施例4では時間的間隔を置きながら電気刺激を10回行い、その内で何回心房細動を誘発したかを記録する。そして、心房細動が収まった直後にピルジカイニド(1mg/kg)を大腿静脈内にゆっくり時間を掛けて投与し、投与後15分、30分、45分、60分後に再び電気刺激を10回与えて、その時に発生した心房細動を記録する。これとは別に、前記ピルジカイニドの代わりにコントロールとして生理食塩水(1ml/kg)を投与して同様の試験を行なった。
【0036】
上記試験結果を図5に示す。この図の縦軸は心房細動の誘発率、横軸はピルジカイニド又は生理食塩水の投与後の経過時間をそれぞれ示す。図5(a)(b)の試験結果によれば、ピルジカイニド投与前の心房細動誘発率は約8割であったものが、投与後15分後には約2割、30分後は約2.5割、60分後でも約3割の誘発率であり、心房細動誘発率の有意な低下が認められた。これに対して、生理食塩水を投与した場合の心房細動誘発率は、ピルジカイニドを投与しても有意な低下は認められなかった。このことから、ピルジカイニドには心房細動の誘発を抑制する効果があり、その抑制効果が投与後1時間にわたって持続するとの薬効評価を完全房室ブロック犬によって行なうことができる。
【0037】
(実施例5)
前記実施例3において、ラットに電気刺激を与えた時の心拍数、血圧及び心電図の各指標であるQT間隔「電気的心室脱再分極時間」、PR間隔「房室伝導時間」、QRS幅「心室興奮時間」についての評価を行なった。電気刺激の条件、ピルジカイニド投与量、投与後の計測経過時間は前記実施例3と同様である。その結果を図6、図7及び図8にそれぞれ示す。図6〜図8において、縦軸はそれぞれ心拍数、血圧、QT間隔・PR間隔・QRS幅を示し、横軸はいずれもピルジカイニド投与後の経過時間を示す。なお、この評価試験においても、ピルジカイニドの代わりに生理食塩水を投与して同様の評価を行なった。
【0038】
上記試験結果を図6〜図8に示す。その結果によれば、心拍数及び血圧は、ピルジカイニド投与後10分後に僅かに低下したが、一過性のものであってその後は一定している。一方、心電図の各指標(QT、PR、QRS)には時間経過による変化は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラットに麻酔薬を投与し眠らせた状態で、心房に刺激を与えて心房細動を誘発させることを特徴とする方法。
【請求項2】
麻酔薬がペントバルビタールである請求項1に記載の心房細動を誘発させる方法。
【請求項3】
眠らせた状態は、人工呼吸器を用いて呼吸が安定的に保持されている状態である請求項1から2のいずれかに記載の心房細動を誘発させる方法。
【請求項4】
心房への刺激は、食道に挿入した電極カテーテルの電気刺激による請求項1から3のいずれかに記載の心房細動を誘発させる方法。
【請求項5】
電気刺激が10秒以上行なわれる請求項4に記載の心房細動を誘発させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−97954(P2011−97954A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15743(P2011−15743)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【分割の表示】特願2004−257448(P2004−257448)の分割
【原出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(599055382)学校法人東邦大学 (18)
【Fターム(参考)】