説明

心臓血管の適応症および腎臓の適応症に対してCGRPを使用する方法

本発明は、ステージB、ステージC、またはステージDの心不全患者において、心不全および腎機能不全を処置し、そしてこれらに関連する死亡を防ぐ方法を提供し、そして治療有効量のCGRPを投与する改良された方法を提供することによって、生活の質を改善するため方法を提供する。1つの方法は、この患者において症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または心不全の病状の進行を防止および/もしくは遅延させることが必要とされる日数の間、この患者に約50ng/分と約500ng/分との間のCGRPを、1日あたり30分間と8時間との間の時間で投与する工程を包含する。この治療は、外来患者または入院患者を基本として投与され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1.発明の分野)
本発明は概して、心不全を処置し、そして腎機能を改善するための方法に関し、そしてより詳しくは、心不全の処置または防止のため、および腎機能を改善するためのCGRPの投与に対して指向される。
【背景技術】
【0002】
(2.先行技術の記載)
心不全は、心室を血液で満たすか、または血液を排出する心室の能力を損なう、あらゆる構造的または機能的な心臓の障害から生じ得る、複雑な臨床上の症候群であり、この心臓は、あるべき効率よりも低い効率で働く。心不全は、運動耐容量を制限し得る特定の症状(例えば、呼吸困難および疲労)および肺のうっ血および末梢の浮腫を生じ得る兆候(例えば、体液貯留)によって特徴付けられる。どちらの異常も、罹患した個体の機能的能力および生活の質を損ない得るが、それらは、必ずしも、その臨床像を同時に支配し得ない。全ての患者が、最初の評価のときまたはその後の評価のときに容量過負荷を有するわけではないので、用語「心不全」は、古い用語「うっ血性心不全」に対して好ましい。
【0003】
心不全の臨床上の症候群は、心膜、心筋、心内膜、または大血管の障害から生じ得る。例えば、心不全の一般的な原因としては、以下が挙げられる:心筋に対して血液を供給する動脈の狭窄(冠動脈心疾患);心臓の正常な機能を妨害するのに非常に十分な瘢痕組織を生じる心臓発作(心筋梗塞)前;高血圧;過去のリウマチ熱または生まれつき存在する異常に起因する心臓弁の疾患;心臓の筋肉自体の原疾患(心筋症);生まれつき存在する心臓の欠陥(先天性心疾患)および心臓弁の感染および/または筋肉自体の感染(心内膜炎および/または心筋炎もしくは心外膜炎)。心不全を有する患者の多くは、左室機能の障害に起因する症状を有する。これらの疾患プロセスの各々は、心筋収縮の強さおよび効率を減少させることによってか、機械的問題または損なわれた拡張期の弛緩に起因して心臓を血液で満たすポンプのように動く心房の能力を制限することによってか、または多すぎる血液で心房を満たすことによって心不全をもたらし得る。
【0004】
腎血流量はまた、心疾患の臨床上の症候群の発症において重要な因子である。腎血流量は、いくつかの重要な神経ホルモンの応答ならびに塩および水の貯留の決定因子である。腎血流量は、HFを有する患者において減少され、そしてHFを有する多くの患者もまた、最終的に腎不全を発症する。
【0005】
成人の慢性心不全の評価および管理に対する米国心臓学会のガイドラインによって認識される心不全の4つのステージが存在する。ステージAは、心不全を発症する危険が高いが、心臓の特定された構造的異常または機能的異常を有さず、そして心不全の兆候および症状を示さない患者をいう。必要な場合、ステージAの患者は、血圧を下げそして心臓の作業負荷を減少させるためにACEインヒビターを処方される。ステージBとは、心不全の発症に大きく関連する構造的心疾患を発症したが、心不全の兆候および症状を示さない患者をいう。ステージBの患者は、代表的にはACEインヒビターおよび心筋の酸素要求量を減少させ、それによって虚血を軽減し、そして心拍数および心仕事量を減少させるβ遮断薬を処方される。ステージCとは、内在する構造的疾患に関連する心不全の、現在の症状または前段症状をいう。ステージCにおけるHFの管理は、ACEインヒビター、β遮断薬、利尿薬、およびジギタリスを含む3剤療法または4剤療法を包含し得る。ステージDとは、最大限の医学的治療にもかかわらず安静状態にて、進行した構造的心疾患および心不全の顕著な症状を有し、特殊な介入を必要とする患者をいう。HFが末期的状態である場合、中期のHFおよび末期のHF(それぞれステージCおよびステージD)の処置は、症状を緩和すること、および患者が比較的に活発なライフスタイルを生き続け得るような患者の生活の質を向上させることに重点を置く。心不全の進行の良好な管理および心不全の症状を軽減する有効的処置は、心臓の駆出率の増加、呼吸困難の減少、および心不全の症状の頻度および/または重症度における変化をモニタリングすることによって決定される。しかし現行の末期の薬物療法(例えば、ドブタミンまたはミルリノン)は、患者の生活の質を向上させる一方で、これらの薬物療法はまた、死亡率の上昇を示してきた。
【0006】
米国において約400万人の人々が種々の程度の心不全に罹患していることが、推測される。心不全は、慢性症状であるが、この疾患は、しばしば緊急の病院での処置を必要とする。患者には通常、重篤かまたは激しい息切れを伴う急性の肺うっ血が認められる。HFに対する緊急の処置は、他の心臓の診断のいずれかよりも長い在院日数を要して行われ、その処置には、毎年、米国において75億ドル超が費やされる。
【0007】
慢性心不全の処置における現行の調査は、梗塞の大きさを最小化するか減少させること、および再灌流傷害を防ぐことによって、心臓保護、心筋組織の救出を提供することに重点が置かれる。心不全を処置するための多くの現行の薬物療法は、心筋梗塞に関連する特定の臨床面に取り組む(例えば、抗血小板/フィブリン溶解活性、抗炎症活性、および抗酸化活性)。このような薬物としては、血管の狭窄を防ぎ、そして身体の血流を増加させるACEインヒビター、過剰な液体を除去する利尿薬、心臓の作業負荷を減少させるβ遮断薬、心臓に通う血流を増加させ、そして血管の狭窄を防ぐカルシウムチャネル遮断薬、血餅を防ぐ血液希釈剤、および血液を拍出する心臓の能力を強化する強心薬が挙げられる。これまでにわずかな会社のみが、組織の救出に努める新薬を開発しているが、これらの薬物の有効性は、臨床上で確立されたままである。全ての薬物と同様に、これらの薬剤は、それらの有効性を確保するのに十分な用量で用いられる必要がある。しかし、問題として、過度の処置は、低血圧、腎機能障害、低ナトリウム血症、低カリウム血症、心不全の悪化、精神機能障害、および他の有害な状態をもたらし得る。外科的処置としては、血管形成術、冠状動脈バイパス移植、弁置換、ペースメーカー、体内徐細動器、左心室補助デバイス、および心臓移植が挙げられる。
【0008】
心不全は、65歳を越える患者における、入院に対する一番多い診断である。$381億超が、1991年から毎年、入院患者および外来患者において費やされ、そしてHFを処置する薬物に$5億超が費やされてきた。この障害は、各年に1200万人〜1500万人の外来患者をなす根元的な理由であり、そして各年に170万人〜260万人の入院患者をなす根元的な理由である。心不全患者を処置するのに必要な入院に掛かる費用に起因して、最新の傾向は、外来患者からHF患者を、可能な限りすぐ(多くの場合、入院から48時間以内)に処置することである。現在、専門の外来診療所が、心不全患者のために利用可能である。この患者は代表的に、血流力学的な症状が改善するまで、処方された心不全療法の静脈注入を受けるために1週間に1回〜4回、その診療所に通う。
【0009】
カルシトニン遺伝子関連ペプチド(「CGRP」)は、ヒトの身体に天然に存在する最も強力な血管拡張ペプチドである、37アミノ酸の神経ペプチドである。CGRPは、中枢神経系および末梢神経系全体に分布され、そして心臓血管の機能に関連することがしられる領域に見出される(非特許文献1)。末梢的には、CGRPは、心臓中に見いだされ、特に洞房結節および房室結節に関連する。さらに、CGRPは、大脳動脈、冠状動脈、および腎動脈を含む末梢血管系全体にわたる高密度な周外膜(periadventitial)網を形成する神経線維中に見出される。CGRPは、心臓血管に対する顕著な効果を有し、この効果としては、血管拡張、ならびに正の変時効果および正の変力効果が挙げられ、この効果は、通常の心臓血管機能において重要な役割を果たし得る(非特許文献2)。
【0010】
投与される場合、CGRPは、明白な心臓血管に対する利益を有し、この利益としては、血管拡張、虚血性の心臓保護、心臓発作に起因する梗塞サイズの減少、再狭窄の出現を強力に減少させ得る血小板凝集の阻害および平滑筋細胞の増殖、上昇した腎機能、ならびに心臓血管機能の全体的に上昇した効率が挙げられる。心臓保護を提供し、再灌流傷害を最小化し、そして梗塞の大きさを減少させる結果として、CGRPはまた、心筋組織の救出を促進する。CGRPはまた、収縮性、変時性、微小血管の透過性、血管緊張および血管新生の調節において役割を果たす。CGRPはまた、汎用的な薬物処置に対して重要な利点を有する。第1に、CGRPは、汎用的な心臓血管の薬物(例えば、ニトログリセリン、ドブタミン、およびナトレコール(Natrecor))に付随する非常に危険な副作用、毒性および耐容性を生じない。事実、CGRPは、サイトカイン放出の阻害を介して免疫応答を下方制御することが報告され、そして免疫が抑制された患者に、感受性の誘導を伴わずに安全に投与されてきた。第2に、CGRPが複数の血流力学的な利益を有することに起因して、CGRPは、特定の血流力学的機能を維持するための薬物カクテルに対する必要性を強力に減少させ得るかまたは排除し得る。第3に、CGRPの生物化学的活性は、心臓、腎臓および生殖器(genitilia)中に集中する特定のレセプター結合部位によって媒介され、そしてCGRPは、内皮細胞および平滑筋細胞の表面上に、それぞれ位置する2つの特定のCGRPレセプターのサブタイプに作用することが知られている。したがって、CGRPは、全身的に投与される場合、実質的に副作用を示さないか、または耐容性を示す。
【0011】
研究は、CGRPの緊急投与が、多くの臨床的なシナリオにおいて、上昇した心機能および減少した全身の抵抗を生じ得ることを実証した。例えば、非特許文献3は、0.8、3.2、または16ng/kg/分(すなわち、70kgの被験体に基づいて56、224、または1120ng/分の速度におけるCGRPの短時間のIV注入(10または20分間)が、頻脈の観察無しで有益な血流力学的効果(例えば、減少した全身血管抵抗および心拍出量の増加)を生じることを報告した。この研究は、より低用量のCGRPが細動脈の純粋な血管拡張因子として働き、より高用量のCGRPは、混合型の血管拡張因子として作用することを結論付けた。非特許文献4は、48時間の持続的IV注入または2日間連続した2〜8時間の注入のいずれかによる600ng/分の速度におけるCGRPの投与を報告した。持続的注入療法において、注入は、悪心、下痢、および/または激しい顔面紅潮に起因して、6人の患者のうち3人において28時間後に中断された。一方、パルス療法は、良好に耐容され、そして血流力学的な機能(例えば、左心室の機能)を改善することが観察された。しかし、頻脈および神経液性の応答に関する好ましくない副作用もまた、パルス療法において観察された。非特許文献5は、8時間のIV注入による8ng/kg/分(すなわち、70kgの被験体に基づいて560ng/分)の速度におけるCGRPの投与を報告した。この治療は、有益な血流力学的効果(例えば、減少した肺および全身の動脈圧、減少した血管抵抗ならびに上昇した心拍出量)を有することが観察された。腎血流量および糸球体濾過が、処置の間に上昇することもまた観察された。しかし、この血流力学的効果は、CGRP注入の中止後30分以内に消失した。
【非特許文献1】Wimalawansa,S.、「Critical Reviews in Neurobiology」、1997年、第11巻、167−239ページ
【非特許文献2】Wimalawansa,S.、「Ehdocrine Reviews」、1996年、第17巻、208ページ、217ページ
【非特許文献3】Anandら、「J.Am.Coll.Cardiol.」、1991年、第17巻、208−217ページ
【非特許文献4】Stephensonら、「Int.J.Cardiol.」、1992年、第37巻、407−414ページ
【非特許文献5】Sekharら、「Am.J.Cardiol.」、1991年、第67巻、732−736ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
慢性HFは、進行性疾患である。したがって、患者の生活の質を向上させ、そして状態を悪化させる症状を軽減しながら疾患の進行を低減させることを初めに模索する治療が望まれる。その治療は、急性症状の発現における入院治療よりもむしろ、適切な薬物療法の慣習的な投与または徐放的投与によって慢性心不全が管理されかつ制御され得る場合に、はるかに費用が効率的であり、そして患者の健康に対して、より良いものであり得る。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明は、患者における心不全(「HF」)および/もしくは腎不全の処置または防止のための方法を提供し、この方法は、CGRPを投与する新規な方法を包含する。本方法は、CGRPに通常付随する有害な効果(例えば、悪心、下痢、激しい顔面紅潮および間欠性の頻脈)を最小化するかまたは減弱させつつ、HFの基礎をなす状態を処置する、HF患者のための長期のCGRP投薬レジメンを包含する。
【0014】
より具体的には、本発明の1つの局面は、患者においてHFおよび/または腎不全を処置する方法を提供し、この方法は、その患者において心不全の症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または病状の進行を防止および/もしくは遅延させることが必要とされる日数の間、CGRPをこの患者に約50ng/分と約500ng/分との間の速度で、1日あたり30分間と8時間との間の時間投与する工程を包含する。
【0015】
本発明は、患者においてHFおよび/または腎不全を処置する方法をさらに提供し、この方法は、その患者において心不全の症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または病状の進行を防止および/もしくは遅延させることが必要とされる場合に、約500ng/分と600ng/分との間の速度で、少なくとも3日間連続または1週間に数回、1日あたり8時間までこの患者にCGRPを投与する工程を包含する。
【0016】
本発明の別の局面は、患者においてHFおよび/または腎不全を処置する方法を提供し、この方法は、その患者において心不全の症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または病状の進行を防止および/もしくは遅延させることが必要とされる場合に、CGRPを心不全の患者に、初期療法または維持療法として、0.8ng/kg/分〜10ng/kg/分との間の速度で、1日あたり1〜8時間掛けて2回以上投与する工程を包含する。
【0017】
上記の方法は、好ましくは初期療法完了後に、CGRPのより低用量か、またはより低い投薬速度で維持療法としてさらに使用され得る。
【0018】
本発明は、HFの危険にある患者においてHFを防止するためか、またはHFを罹患する患者においてHFの進行もしくは症状を遅くするための予防方法をさらに提供する。例えば、本発明の別の局面は、患者において心筋梗塞の発症を防止するかまたは発症の危険を減少させる方法を提供し、この方法は、この心筋梗塞の発症を防止するかまたは発症の危険を減少させるのに有効な量のCGRP処方物を、心筋梗塞を有する危険にあるヒトに投与する工程を包含する。
【0019】
上記の方法の全てにおいて、患者に送達されるCGRPの量は、その症状、HFのステージ、重症度の程度および/またはその患者に投与される他の薬剤(例えば、利尿薬)に依存する。
【0020】
本発明は、現行のHF治療を増強する方法をさらに提供し、この方法は、HFに対する1つ以上のさらなる薬物と一緒に、本発明の投薬レジメンにしたがってCGRPを投与する工程を包含し、CGRPおよびこのさらなる薬物は、一緒(個別におよび同時に)に投与されても任意の順序で別々に投与されてもよい。
【0021】
本発明は、患者において虚血を解消する方法を提供し、この虚血は、心筋梗塞に起因し、この方法は、心臓保護、梗塞サイズの減少、再灌流傷害の減少、症状の軽減を提供し、かつ/または症状の悪化を防ぐことが必要とされる場合に、単独かまたは他の介入性療法と組み合わせて、0.8ng/kg/分〜16ng/kg/分の間の速度で1日あたり24時間まで患者に初期療法または維持療法としてCGRPを投与する工程を包含する。
【0022】
本発明の別の局面は、減少した腎機能に苦しむ患者において腎血流量および糸球体濾過を改善する方法を包含し、この方法は、腎血流量および/または糸球体濾過を改善するのに有効な様式で改善の必要がある患者にCGRPを投与する工程を包含する。
【0023】
本明細書中に記載される方法のいずれかにおいて、CGRPまたはその薬学的に受容可能な処方物は、多くの公知である薬物投与方法によって投与され得、その投与方法としては、非経口投与、経皮投与、または経粘膜投与が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明の方法によるCGRPの投与は、HFに対する現行の処置と比較して、急性心虚血および急性心不全のより安全かつ有効な処置を提供する。CGRPを用いる処置によって、心臓保護、心筋組織の救出、心臓の血流力学的な改善、および腎機能における利点が与えられ、本発明の方法は、保健医療システムへのエントリーの際に、心筋梗塞(MI)を罹患する患者を最初に処置する救命救急医、ならびに/または血管形成術またはステントの手順を使用して虚血心臓に血流を再度確立することに従事する介入性処置(interventional)に関する心臓病専門医、および/もしくは末期患者の向上された生活の質を提供するために、中期から末期のHF患者を処置する心臓病専門医が保有する対処法において強力な最新の武器となる可能性を有する。
【0025】
本発明のさらなる利点および新規の特徴は、以下の記載に部分的に示され、そして一部は、以下の明細書の実験において当業者に明らかになるかまたは本発明の実施によって理解され得る。本発明の利点は、添付の特許請求の範囲で特に示される手段、組み合わせ、組成物、および方法によって実現され、そして達成され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
本発明の1つの局面は、HFを処置するかまたは防止するのに有効な様式でHFを有する患者にCGRPを投与するための改良された方法を提供する。本発明の方法のいずれかに従う処置は、入院患者の設定(例えば、病院および救急処置室)に施され得るか、または外来患者の設定(例えば、ホスピスもしくは在宅保健医療の設備、または心筋梗塞を有する患者に対する緊急処置要員による施与)において施され得る。本発明は、入院患者の環境または外来患者の設定のいずれかで、患者にCGRPを投与する改良された方法を提供することによって、HFを有する患者においてHFの症状を減弱させる方法および/または血流力学的な機能を改善する方法を、さらに提供する。
【0027】
本明細書中で使用される場合、「HFを処置すること」とは、CGRPの長期の投与に付随し得る有害な効果(例えば、悪心、下痢、激しい顔面紅潮および間欠性の頻脈)を最小化するかまたは減弱させつつ、HFの基礎をなす1つ以上の状態(減少した心収縮性、異常な拡張期コンプライアンス、減少した1回拍出量、肺うっ血、減少した心拍出量、および他の低下した血流力学的な機能が挙げられるが、これらに限定されない)のいずれかを処置することをいう。「HFを処置すること」はまた、HFに関連する症状を軽減するかまたは減弱させることを含む。
【0028】
本発明はまた、HFを有する患者において生活の質を改善する方法を提供する。「生活の質」とは、人間の歩く能力、階段を登る能力、用事をこなす能力、家事をする能力、レクリエーション活動に参加する能力、および/もしくは活動の間の断続的に頻繁な休憩を必要としない能力、ならびに/または睡眠障害もしくは息切れの非存在の1つ以上をいう。
【0029】
本発明の目的に関して、「HFを有する患者」とは、成人の慢性心不全の評価および管理に対する米国心臓学会のガイドラインにおける分類にしたがうステージB、ステージC、またはステージDの心不全を有する人間をいう。米国心臓学会のガイドラインは、子供におけるHFを除外するが、本発明の目的に関して、本方法は、年齢に関係なく、あらゆる患者に適用可能であると考えられるべきである。
【0030】
より具体的には、本方法は、患者においてHFを処置するかもしくは防止するためおよび/または腎機能を改善するために有効量のCGRPを与えるための改良された方法を提供する。本発明に従うHFの処置において、CGRPを単独で含むか、またはCGRPを他の薬物もしくは治療と組み合わせて含む組成物は、良好な医事と一致する様式で処方され、投薬され、そして投与される。実際の用量は、それぞれの場合の特定の要素に依存することが理解されるべきである。一般的に、有効量のCGRPまたはその薬学的に受容可能な処方物を提供するために必要とされる用量は、本明細書中に開示される範囲であり、そして当業者によって調製され得る。この用量は、個々の患者の臨床的状態(特に、CGRPを単独で用いた処置の副作用またはCGRPを他の治療因子と組み合わせた処置の副作用)、年齢、健康、生理的状態、性別、食生活および患者の医学的な状態、心不全の重症度(すなわち、ステージ)、投与経路、CGRPの送達部位、使用される薬物送達システムの型、CGRPが薬物の組み合わせの一部として投与されるか否か、投与計画、および実施者が知り得る他の要因に応じて変わる。したがって、個々の必要性が変化し得る一方で、本明細書中に開示される範囲内における(単独または他の薬物との組み合わせでの)CGRPの有効量についての至適範囲の決定は、当業者の専門知識の範囲内である。したがって、本明細書中の目的に対する各成分の「有効量」は、このような検討によって決定され、そして1つ以上の血流力学的な機能を改善し、および/またはHF患者における1つ以上の有害な状態を寛解させ、および/またはHF患者の生活の質を改善し、および/または腎機能を改善する量である。
【0031】
用語「血流力学的な機能」としては、心拍数、右の動脈の圧力、肺動脈圧、肺動脈の楔入圧、全身の動脈の圧力、心拍出量(すなわち、心係数)、1回拍出量係数、肺血管抵抗、および全身血管抵抗が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
用語「改良された血流力学的な機能」としては、増加した心拍出量、減少した肺動脈の楔入圧、減少した肺血管抵抗、および減少した全身血管抵抗、増加した心収縮性、正常な拡張期コンプライアンス、増加した1回拍出量、ならびに軽減した肺うっ血が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
用語「後負荷」とは、大動脈に血液を送る各拍動の間に心臓が克服する抵抗をいう。この抵抗力としては、血管作動性および血液粘度が挙げられる。
【0034】
用語「心係数」(CI)とは、体表面積の1メートル四方あたりの1分間あたりに心臓によって拍出される血液の量をいう。
【0035】
用語「心拍出量」(CO)とは、1分間に心臓によって拍出される血液の体積をいう。増加した心拍出量は、高い循環容量を示す。減少された心拍出量は、循環容量の減少、または心室収縮の強さの減少を示す。
【0036】
用語「中心静脈圧」(CVP)とは、Right Ventricular End Diastolic Pressure(RVEDP)と近似して使用される解釈をいう。このRVEDPは、右心室の機能および全身的な体液の状態を評価する。低いCVP値は代表的に、血液量減少または減少した静脈還流量を反映し、高いCVP値は、水分過剰、増加した静脈還流量または右側の心不全(right−sided cardiac failure)を反映する。
【0037】
用語「心拍数の変化」とは、頻脈または増加した作業負荷を示す状態をいう。
【0038】
用語「呼吸困難」は、息切れを意味する。呼吸困難は、心不全の処置における有効性を扱うための主要な臨床上の指標である。
【0039】
用語「左心室の1回拍出係数」(LVSI)とは、静止状態から最大収縮時点までの左心室の収縮性の状態における違いをいう。
【0040】
用語「平均動脈圧」(MAP)とは、心拍出量(CO)と全身血管抵抗(SVR)との間の関係における変化をいい、そして器官を灌流する脈管における動脈圧を反映する。低いMAPは、器官に通う減少した血流量を示し、そして高いMAPは、増加した心臓の作業負荷を示す。
【0041】
用語「神経ホルモンの放出」とは、血管を収縮させる神経ホルモンである、ノルエピネフリン、エピネフリン、およびレニンを放出することによって腎血流量を増加させる、腎臓による応答をいう。これらのホルモンが作用し、末梢血管系を狭窄してPVRに悪影響を及ぼす。
【0042】
用語「前負荷」とは、心房を満たす肺の血液と心筋線維の伸展との組み合わせをいう。前負荷は、血管内容積の可変性によって調節される。容積の減少は、前負荷を減少させるが、容積の増加は、前負荷、平均動脈圧(MAP)および1回拍出係数(SI)を上昇させる。前負荷は、拡張期の間に起こる。
【0043】
用語「肺動脈圧」(PA圧力)とは、肺動脈中の血圧をいう。上昇した肺動脈圧は、心臓の右左シャント、肺動脈の高血圧、COPD、肺気腫、肺塞栓、肺水腫、または左室不全を示し得る。
【0044】
用語「肺毛細管楔入圧」(PCWPまたはPAWP)とは、LVEDP(左室拡張終期圧)と近似して使用される圧力をいう。高いPCWPは、左室不全、僧帽弁の病理、心不全、および/または出血後の心臓の圧迫を示す。PCWPは、心不全処置における有効性を扱うための主要な臨床上の指標である。
【0045】
用語「肺血管抵抗」(PVR)とは、血流に対する肺の血管床の抵抗または障害の測定値をいう。増加したPVRは、肺動脈の疾患、肺塞栓、肺の脈管炎、または低酸素によって引き起こされる。減少したPVRは、薬剤(例えば、カルシウムチャネル遮断薬、アミノフィリンまたはイソプロテレノール)によって引き起こされるか、またはOの送達によって引き起こされる。
【0046】
用語「腎血流量」(RBF)とは、腎臓中への血流の測定値をいう。心拍出量の20%が腎臓を通過し、これは、体重の1%未満に見合う。増加した腎血流量は、上昇した腎機能および尿の排出に比例する。
【0047】
用語「腎糸球体濾過」(RBF)とは、タンパク質を含まない限外濾過液である血漿が糸球体係蹄の壁を横切るような尿形成における最初の工程をいう。増加した腎血流量は、糸球体を横切る血漿の流れを増加させて、尿の排出を増加させる。
【0048】
用語「右室圧」(RV圧力)とは、右心室の機能および全身的な体液の状態を示す、直接的な測定値をいう。高いRV圧力は、肺の高血圧、右心室不全、またはうっ血性心不全を示し得る。
【0049】
用語「1回拍出係数(stroke index)」または「1回拍出量係数(stroke volume index)」(SIまたはSVI)は、交換可能に使用され、そして体表面積(BSA)に対して1回の心周期において心臓から排出される血液の量をいう。SVIは、拍動1回あたりに、1メートル四方あたりミリリットル単位で測定される。増加したSVIは、初期の敗血症性ショック、高体温、もしくは血液量過多を示し得るか、または薬剤(例えば、ドパミン、ドブタミンまたはジギタリス)によって引き起こされ得る。減少したSVIは、CHF、後期の敗血症性ショック、β遮断薬、またはMIによって引き起こされ得る。
【0050】
用語「1回拍出量」(SV)とは、1回の心周期あたり心臓によって拍出される血液の量をいい、そして拍動1回あたりミリリットル単位で測定される。減少したSVは、障害された心収縮性、または弁の機能障害を示し得、そして心不全を生じ得る。増加したSVは、循環容量の増加または増加した収縮性によって引き起こされ得る。
【0051】
用語「全身血管抵抗」(SVR)とは、血流に対する全身の血管床の抵抗または障害の測定値をいう。SVRの増加は、血管収縮薬、血液量減少、または後期の敗血症性ショックによって引き起こされ得る。SVRの減少は、初期の敗血症性ショック、血管拡張薬、モルヒネ、硝酸塩または高炭酸ガスによって引き起こされ得る。
【0052】
「マイクログラム」(μg)は、グラムの100万分の1(すなわち、10−6グラム)である。
【0053】
「ナノグラム」(ng)は、グラムの10億分の1(すなわち、10−9グラム)である。
【0054】
「ピコグラム」(pg)は、グラムの1兆分の1(すなわち、10−12グラム)である。
【0055】
表1は、上記の血流力学的なパラメーターに関する正常値を提供する。
【0056】
【表1】

CGRPの種々の供給源が、本発明の方法において使用され得る。例えば、合成CGRPは、周知の方法に従う自動化ペプチド合成機を使用して得ることができる。CGRPを合成するための1つの方法は、周知のMerrifield法である(Merrifield,R.B.,J.Am.Chem.Soc.,85:2149(1963)およびMerrifield,R.B.,Science,232:341(1986)(これらは、本明細書中に参考として具体的に援用される)を参照のこと)。ヒトCGRPはまた、商業的供給源(例えば、Peninsula Laboratory(Belmont,CA)、Bachem Biosciences,Inc.(King of Prussia,PA)およびSigma Chemicals(St.Louis,MO))から入手できる。商用の等級のヒトCGRPは、ヒトに使用するために市販されない(なぜなら、この等級は、GMP/GLPの等級ではないからである);したがって、市販のヒトCGRPは、ヒトに対する使用に適合するように精製されかつ滅菌された場合にのみ、本発明に使用され得る。遺伝的に操作されたヒトCGRPもまた、本発明に使用され得る。同様の結果はまた、CGRPアナログまたはCGRPの「レセプター構造」に基づくアナログを使用して達成され得る。これらのアナログとしては、ペプチドベースのアナログ、ならびにペプチドを模倣したアナログが挙げられる。したがって、CGRPと同様に機能するアナログは、本発明の目的のためのCGRPの等価物であることが考慮される。動物に由来するCGRPは、生物学的に活性であり、したがってまた、本発明に使用され得るが;実際問題として、動物由来のCGRPは、アレルギーおよび自己免疫の問題を呈することから、好ましくは忌避される。
【0057】
本発明の方法における使用に適したCGRPの他の形態は、CGRPの薬学的に受容可能なプロドラッグである。「薬学的に受容可能なプロドラッグ」は、生理学的条件下か、または加溶媒分解によって特定の化合物またはこのような化合物の薬学的に受容可能な塩に変換され得る化合物である。CGRPのプロドラッグは、当該分野で公知である慣習的な技術を使用して同定され得る。プロドラッグは化合物を含み、ここでアミノ酸残基、または2つ以上(例えば、2つ、3つまたは4つ)のアミノ酸残基のポリペプチド鎖は、アミド結合またはエステル結合によって、本発明の化合物の遊離アミノ基、遊離水酸基、または遊離カルボキシル基に共有結合される。プロドラッグのさらなる型もまた包含される。例えば、遊離カルボキシル基は、アミドまたはアルキルエステルとして誘導体化され得る。遊離水酸基は、Advanced Drug Delivery Reviews 1996,19,115に概説されるように、ヘミコハク酸、リン酸エステル、ジメチルアミノ酢酸、およびホスホリルオキシメチルオキシカルボニルが挙げられるがこれらに限定されない群を使用して誘導体化され得る。カーボネートのプロドラッグ(水酸基のスルホン酸エステルおよび硫酸エステル)であるような、水酸基およびアミノ基のカーバメートのプロドラッグもまた含まれる。(アシルオキシ)メチルエーテルおよび(アシルオキシ)エチルエーテルのような水酸基の誘導体化もまた包含され、ここでこのアシル基は、エーテル官能基、アミン官能基およびカルボン酸官能基が挙げられるがこれらに限定されない基で、必要に応じて置換される、アルキルエステルであり得るか、またはこのアシル基は上記のようなアミノ酸エステルである。この型のプロドラッグは、J.Med.Chem.1996,39,10に記載される。遊離アミンもまた、アミド、スルホンアミド、またはホスホンアミドとして誘導体化され得る。これらのプロドラッグ部分の全ては、エーテル官能基、アミン官能基およびカルボン酸官能基が挙げられるがこれらに限定されない基を取り込み得る。このようなプロドラッグ誘導体の他の例は、a)H.Bundgaardによって編集されたDesign of Prodrugs(Elsevier,1985)およびK.Widderらによって編集されたMethods in Enzymology、第42巻、309−396ページ(Academic Press,1985);b)Krogsgaard−LarsenおよびH.Bundgaardによって編集されたA Textbook of Drug Design and Development、H.Bundgaardによる第5章、「Design and Application of Prodrugs」、113−191ページ(1991);c)H.Bundgaard,Advanced Drug Delivery Reviews,8:1−38(1992);d)H.Bundgaardら、J.Pharmaceutical Sciences,77:285(1988);ならびにe)N.Kakeyaら、Chem.Pharm.Bull.,32:692(1984)(これらの各々は、本明細書中に参考として具体的に援用される)に記載される。
【0058】
制御された用量で投与される場合、CGRPは、明白な心臓血管に対する利益を有し、この利益としては、血管拡張、虚血性の心臓保護、心臓発作に起因する梗塞サイズの減少、再狭窄の出現を強力に減少させ得る血小板凝集の阻害および平滑筋細胞の増殖、上昇した腎機能、ならびに心臓血管機能の全体的に上昇した効率が挙げられる。CGRPはまた、収縮性、変時性、微小血管の透過性、血管緊張および血管新生の調節において役割を果たす。
【0059】
記載された通り、CGRPは、汎用的な薬物処置に対して重要な利点を有する。第1に、CGRPは、汎用的な心臓血管の薬物(例えば、ニトログリセリン、ドブタミン、およびナトレコール)に付随する非常に危険な副作用、毒性および耐容性を生じない。事実、CGRPは、サイトカイン放出の阻害を介して免疫応答を下方制御することが報告され、そして免疫が抑制された患者に、感受性の誘導を伴わずに安全に投与されてきた。第2に、CGRPが複数の血流力学的な利益を有することに起因して、CGRPは、特定の血流力学的機能を維持するための薬物カクテルに対する必要性を強力に減少させ得るかまたは排除し得る。事実、動物およびヒトにおけるこの薬物の効力、安全性および効率についての20年を越える調査は、CGRPの心臓血管に対する利益を実証し、そしてCGRPが、全身的に投与される場合、実質的に副作用を示さないか、または耐容性を示すことを明らかにした。
【0060】
概して、HF患者の処置において、以下の4つの目標が存在する:(1)症状を処置すること;(2)心機能障害の進行を遅らせること;(3)病院に留まる期間を減少させること;(4)入院間の時間を増加させ、そして医療費を最小化すること。本発明の方法に従ってHFを処置する方法は、これらの目標の1つ以上を達成すると考えられる。
【0061】
1つの実施形態に従って、本発明は、患者においてHFを処置する方法を提供し、この方法は、その患者において心不全の症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または病状の進行を防止および/もしくは遅延させることが必要とされる日数の間、CGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物をこの患者に約50ng/分と約500ng/分との間の速度で、1日あたり30分間と8時間との間の時間投与する工程を包含する。例えば、CGRPは、24時間と48時間との間の時間に、持続的または間欠的に投与されても、ボーラス投与として投与されてもよい。CGRPがそれぞれの日に2回以上、間欠的に投与される場合、より低用量(例えば、0.8ng/分〜10ng/分)が投与され得る。
【0062】
処置は、患者において症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または心不全の病状の進行を防止および/もしくは遅延させることが必要とされる場合、またはこの処置がもはやその患者に良好に耐容されなくなるまでか、または医師が処置を打ち切るまで継続される。例えば、医師は、本発明にしたがってCGRPを用いて処置される患者において、HFに関する1つ以上の症状、腎血流量、糸球体濾過率、ならびに/または尿素およびクレアチニンの血清レベルをモニタリングし得、そして一定の期間にHFに関する1つ以上の症状の減弱を観察することによって、その患者が一定の期間にCGRPのさらなる投与無しで上記の処置の正の効果を維持し得ることを結論付ける。必要な場合に、次いで、この患者は随時、さらなる処置にちょうどよい時期に後日戻り得る。
【0063】
別の実施形態にしたがって、本発明は、患者においてHFを処置する方法を提供し、この方法は、その患者において心不全の症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または病状の進行を防止および/もしくは遅延させることが必要とされる場合に、約500ng/分と600ng/分との間の速度で、少なくとも3日間連続または1週間に数回、1日あたり約8時間、この患者にCGRPを投与する工程を包含する。この処置は、その患者において心不全の悪化を防ぎ、そして患者の生活の質を向上させる外来患者に対する療法として提供され得る。
【0064】
本明細書中で使用される場合、「日」は、24時間を意味する。したがって、例えば、「連続して少なくとも3日間」は、少なくとも72時間を意味する。この処置の間かまたは処置後に、医師は、本発明にしたがってCGRPを用いて処置される患者において、HFに関する1つ以上の症状、腎血流量、糸球体濾過率、ならびに/または尿素およびクレアチニンの血清レベルをモニタリングし得、そして一定の期間に1つ以上のこのパラメーターの改善を観察することによって、その患者が一定の期間にCGRPのさらなる投与無しで上記の処置の正の効果を維持し得ることを結論付ける。
【0065】
別の実施形態にしたがって、本発明は、患者においてHFを処置する方法を提供し、この方法は、その患者の入院の各日か、または必要に応じて、約50ng/分と400ng/分との間の速度で、1日あたり最長で8時間掛けてこの患者にCGRPを投与する工程を包含する。特定の場合において、この患者は、同じ時間に対して、より高用量(例えば、2μg/分まで)を必要とし得る。
【0066】
一旦、本発明の方法のいずれかにしたがうCGRPを用いる処置が所望の結果(例えば、心不全の症状の軽減、症状の悪化の防止、そして/または病状の進行を防止および/もしくは遅延させること)を達成すると、その後、この患者は、所望される場合に維持療法を受容し得る。例えば、より低用量のCGRP(例えば、10ng/分未満)は、任意の適切な経路(注射、静脈内投与などが挙げられるがこれらに限定されない)によって、維持療法のためにその患者に投与され得る。1つの実施形態において、送達レジメンは、所望の時間(例えば、3ヶ月、6ヶ月、または9ヶ月の期間にわたって)、約0.8ng/分〜10ng/分の間の速度でCGRPを送達するために設計され得る。
【0067】
本発明の方法のいずれかに従うCGRP療法が、虚血性の障害に由来するさらなる損傷を防止し、そして治癒プロセスを促進することに起因して、CGRPはまた、心臓の状態の、より深刻かつ進行性の疾患(例えば、HF)へのさらなる悪化を遅延または妨げるために使用され得る。したがって、上記の方法の各々はまた、初期のHFの、より進んだステージへの進行を防止または遅らせる予防的処置として使用され得る。すなわち、一旦、本発明の方法のいずれかに従うCGRPを用いる処置が所望の結果を達成すると、その後、この患者は必要に応じて、維持療法を受容し得る。例えば、心臓の状態を有する患者に対して維持療法を提供するための、本発明の1つの実施形態は、より低用量のCGRP(例えば、10ng/分未満)を、任意の適切な経路(注射、静脈内投与、徐放性の投与などが挙げられるが、これらに限定されない)によって、維持療法のために患者に提供する工程を包含する。1つの実施形態において、この送達システムは、所望の時間(例えば、3ヶ月、6ヶ月、または9ヶ月の期間にわたって)、約0.8ng/分〜10ng/分の間の速度でCGRPを送達するために設計され得る。代替的な実施形態において、この患者は、徐放性処方物による、長期であり低用量のCGRPの維持投与を受容し得る。
【0068】
さらに、心筋梗塞(MI)に罹患した患者が、将来、別のMIに罹患し得ることは公知である。したがって、MIを有する患者は、HFの1つ以上の症状が消失するまで、本発明の方法のいずれかにしたがうCGRPの初期用量を用いて処置され得、次いでこの患者は、CGRP維持投薬レジメンにおかれ得る。この維持レジメンはまた、最初にCGRP以外の手段によってMIについて処置されたMI後の患者に提供され得、そしてこのレジメンは、まだMIに罹患していないHF患者に使用され得る。HFの、より進んだステージへの進行を遅らせるか、または進んだHFを有する患者におけるMIの危険を防止または減少させる手段として使用され得る。
【0069】
本発明は、低下した腎機能を患う患者において腎機能を改善するための方法をさらに提供し、この方法は、HFを処置するための上記の投薬レジメンのいずれかに従ってCGRPを投与する工程を包含する。本明細書中で使用される場合、用語「改善した腎機能」は、増加した糸球体濾過、増加した腎血流量ならびに尿素およびクレアチニンの減少した血清レベルを含む。
【0070】
必要な場合、CGRPは、単独であろうと少なくとも1つの他の因子(このような因子としては抗増殖因子、抗凝固因子、血管拡張薬、利尿薬、β遮断薬、カルシウムイオンチャネル遮断薬、血液希釈剤、強心薬、ACEインヒビター、抗炎症剤、抗酸化剤および/または遺伝子治療因子が挙げられるがこれらに限定されない)との組み合わせであろうと、本発明の方法に従って投与され得る。他の因子と組み合わせて使用される場合、CGRPおよびその因子は、個別(同時かまたは任意の順序で別々に)に投与されても、混合物として投与されてもよい。1つの実施形態において、CGRPおよび少なくとも1つの他の因子は、別個の成分として投与され、これらの成分は、ほぼ同時に患者に投与される。「ほぼ同時」は、一方の化合物(例えば、CGRP)を患者に投与する工程の約30分以内に、他方の化合物(例えば、抗増殖因子または抗凝固因子)が患者に投与されることを意味する。「ほぼ同時」はまた、その化合物の併用投与または同時投与を含む。
【0071】
(現行のHF療法の増強)
本発明のさらなる局面は、現行のHF療法を増強するために、本明細書に開示される方法のいずれかに従ってCGRPを投与する工程によってHFを処置する方法を提供する。CGRPは、HFのための1つ以上のさらなる薬物と一緒に、本発明の投薬レジメンのいずれかに従って投与され得、ここでCGRPおよびこのさらなる薬物は、一緒(個別におよび同時に)に投与されても任意の順序で別々に投与されてもよい。
【0072】
(急性心筋梗塞)
急性MIの処置において、医師は、心臓への血流を復旧するために集中的な行動をとり、永続的な虚血性の損傷を最小限にする。これらの処置は、冠状動脈を拡張し、そして血栓を溶解し、そして血小板凝集を阻害する試みにおいて、血管拡張薬(ニトログリセリン)および抗トロンビン薬(ストレプトキナーゼ、tPA)、および血小板凝集インヒビター(gpIIb/IIIa)の形態をとる。処置が血流の復旧に成功した場合、その患者は、CCUでの回復にまわされても、残りの閉塞のいずれかを広げる血管形成またはステント手順のためにカテーテル処置室に向かってもよい。しかし、虚血の現象それ自体は、フリーラジカルの生成をもたらし、そしてこのプロセスは、血管が再度開かれ、そして血流が復旧した場合に増強され、さらなる組織損傷を生じる。この背景において、本発明の方法のいずれか(特に注入の方法)にしたがって、単独または他の治療的介入との組み合わせで施されるCGRP療法は、薬剤の治療上の利益を向上させることによって、現行の療法(例えば、抗トロンビン薬)を増強させ得る。評価および処置の初期段階にて注入される場合、CGRPの心臓保護の利益は、介入性療法が開始される場合に再灌流傷害を最小限にするのに適切なCGRPのレベルを提供し、それによって正の急性かつ長期の回復転帰を最大限にする。
【0073】
したがって、本発明のさらなる局面は、患者において虚血を相殺する方法を包含し、この虚血は心筋梗塞(MI)に起因する。したがって、この患者は、むしろMIを罹患するかまたはその危険がある者であり、HF患者である必要はない。本方法は、心臓保護、梗塞サイズの減少、再灌流傷害の減少、症状の軽減を提供および/または症状の悪化を防止する必要がある場合に、初期療法または維持療法として、単独または他の介入性療法と組み合わせて、0.8ng/kg/分〜16ng/kg/分の間の速度で1日あたり24時間までの間、この患者にCGRPを投与する工程を包含する。
【0074】
(経皮的経管的冠状動脈形成術(PTCA)およびステント術)
抗トロンビン療法が、救急処置室において無効な場合、または選択的なPTCA介入が血流を復旧するのに必要であることが決定される場合、既に救急処置室でのプロセス中にあるか、またはカテーテル処置室で開始されたCGRP注入療法は、血流が虚血性の組織に対して復旧される場合に、上記の利益と同じ再灌流の利益を提供し得る。カテーテル処置室におけるさらなる利益は、CGRP注入療法が冠血管を局所的に拡張、手順の間の血管痙攣および血流非再開(no−reflow)の発生を減少させ、腎血流量を増加させ、そしてPTCA後の短い時間(<24時間)において血小板凝集および平滑筋の増殖の防止を補助する場合に成立する。現在、Reopro(登録商標)またはIntegrillin(登録商標)は、PTCA手順の前、またはその間に投与されて、血小板凝集を停止し、そして長期間(>48時間)における再狭窄の発生を減少させる。CGRP注入療法は、再灌流傷害を防止する治療上の利益を向上させ、ならびに短い期間(<24時間)において血小板凝集および平滑筋細胞の増殖を阻害することによって、これらの現行の再狭窄療法を増強し得る。
【0075】
(冠状動脈バイパス術(CABG))
CABGが、緊急手術または選択的手術として行われる場合、CGRP注入療法は、急性MIの処置およびPTCA手順に関する上記の利益の全てを提供し得る。結果として、CABG手順は、大きな正の結果および非常に短い期間の合併症さえも、潜在的にもたらす。
【0076】
(冠疾患病室(CCU)回復)
CCU患者におけるCGRP注入療法は、梗塞サイズを減少させ、そして心臓の組織の救出を促進するCGRPの能力を最大化し得る。この療法が救急処置室、カテーテル処置室、手術室、またはCCUのいずれにおいて開始されても、回復プロセスおよび治癒プロセスは、CCUで始まり、CGRPは、数日間の過程にわたって投与され得、そしてCGRP注入療法の長期の利益が成立する。
【0077】
本発明の方法にしたがって、動物(ヒトを含む)の治療的処置(予防的処置を含む)に関してCGRPを使用するために、CGRPは、薬学的組成物のような標準的な薬学的慣習によって正常に処方される。本発明のこの局面にしたがって、薬学的に受容可能な希釈液またはキャリアと共にCGRPを含有する薬学的組成物が提供され、このCGRPは、効果的にHFを処置もしくは防止し、そして/または腎機能を改善するための量で存在する。
【0078】
CGRPは、任意の利用可能かつ効果的な送達システムによって患者に投与され、この送達システムとしては、用量単位処方物における、非経口的、経皮的、鼻腔内、舌下、経粘膜的、動脈内、または皮内の投与様式が挙げられるが、これらに限定されず、この処方物は、汎用の無毒性な薬学的に受容可能なキャリア、アジュバント、および所望されるビヒクル(例えば、デポーまたは徐放性の生分解性ポリマー)を含む。
【0079】
より具体的には、CGRPまたはその薬学的に受容可能な処方物は、非経口投与(例えば、静脈内注射、皮下注射、または筋肉内注射)のために処方される。注射用処方物のために、CGRPの用量は、滅菌水溶液と組み合わされ得、この溶液は、好ましくは患者の血液と等張である。このような処方物は、生理学的に適合性の物質(例えば、塩化ナトリウム、グリシンなど)を含み、そして水溶液を生成するために生理学的条件と適合する緩衝化されたpHを有する水中に固体の活性成分を溶解し、次いで当該分野において公知である方法によって溶液を滅菌することによって調製され得る。この処方物は、ユニットまたは複数用量容器(例えば、密封されたアンプルまたはバイアル)中に存在し得る。この処方物は、注射の任意の様式(筋膜上、皮内、筋肉内、血管内、静脈内、実質内、皮下が挙げられるが、これらに限定されない)、経口処方物または鼻用処方物によって送達され得る(例えば、米国特許第5,958,877号(これは、本明細書中に参考として具体的に援用される)を参照のこと)。
【0080】
薬学的組成物はまた、滅菌した注射用水性懸濁液または滅菌した注射用油性懸濁液の形態であり得、これらの懸濁液は、1つ以上の適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用する公知の手順によって処方され得る。滅菌注射用調製物はまた、無毒性の非経口的に受容可能な希釈液もしくは溶媒中の注射用溶液または注射用懸濁液(例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液)であり得る。
【0081】
別の実施形態において、CGRPは、移植可能なポンプを使用して適切に投与され得、このポンプは、特に外来患者の処置に適用可能である。例えば、一定速度のポンプが使用されて、CGRPの一定であり変化しない送達を一定の期間にわたって提供する。あるいは、注入速度を変化させることが望まれる場合、プログラム可能なポンプが使用され得る。一定速度のポンプおよびプログラム可能なポンプは、当該分野において周知であり、そしてこれらについてさらに記載する必要はない。CGRPはまた、移植可能な浸透圧性の小型ポンプ(例えば、米国特許第5,728,396号および同第6,358,247号(これらの開示は、その全体が本明細書中に具体的に援用される)に記載されるポンプ)から放出または送達され得る。浸透圧性の小型ポンプからの放出速度は、CGRPの徐放または標的化送達のために放出開口部に配された、微小孔を有する急速反応ゲルによって調節され得る。浸透圧性のポンプは、それらが、一定速度のポンプおよびプログラム可能なポンプよりずっと小さいという点で好まれる。
【0082】
CGRPはまた、経皮送達デバイス、パッチ、電気泳動デバイス、包帯などを介して患者に投与され得る。このような経皮パッチは、制御された量でのCGRPの持続的注入または非持続的注入を提供するために使用され得る。薬学的因子の送達のための経皮パッチの構築および使用は、当該分野において公知である。例えば、米国特許第5,023,252号(この開示は、本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。このようなパッチは、医薬品の持続的送達、パルス的な送達、または応需型の送達のために構築され得る。例えば、CGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物の用量は、皮膚浸透亢進因子(オレイン酸、オレイルアルコール、長鎖脂肪酸、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプロパノール、エトキシジグリコール、キシレンスルホン酸ナトリウム、エタノール、N−メチルピロリドン、ラウロカプラム、アルカンカルボン酸、ジメチルスルホキシド、極性脂質、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられるが、これらに限定されない)と組み合され得、皮膚浸透亢進因子は、CGRPの用量に対する皮膚の透過性を上昇させ、そしてCGRPの用量が浸透して皮膚を通過し、そして血流に入ることを可能にする。CGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物は、1つ以上の因子(アルコール、保湿剤、湿潤剤、油、乳化剤、濃化剤、希釈剤、界面活性剤、芳香剤、保存剤、抗酸化剤、ビタミン、および無機塩類が挙げられるが、これらに限定されない)と組み合され得る。CGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物はまた、ポリマー性物質(エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレン/ビニルアセテート、ポリビニルピロリドンなどが挙げられるが、これらに限定されない)と組み合わされてゲル形態の組成物を提供し得、この組成物は、溶媒(例えば、塩化メチレン)中に溶解され、所望の粘度になるまでエバポレートされ、その後、基材に塗布されてパッチを提供し得る。この基材は、汎用の材料(例えば、ポリエチレン、エチレン−ビニルアセテートコポリマー、ポリウレタンなど)のいずれかであり得る。
【0083】
CGRPはまた、経粘膜的に投与され得る(すなわち、粘膜表面に対して投与され、そして粘膜表面を通過する)。CGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物の供給源の経粘膜投与は、一般的に、インタクトな粘膜とCGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物とを接触させる工程、および所望の治療効果を引き起こすのに十分な時間、粘膜との接触している供給源を維持する工程によって達成され得る。好ましくはCGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物は、口の粘膜または鼻の粘膜(例えば、頬の粘膜、舌下の粘膜、副鼻腔(sinuidal)の粘膜、歯茎、または唇の裏側)に投与される。特に、CGRPの供給源は、当該分野において周知である汎用技術を使用して処方され得る、口腔、鼻腔、副鼻腔、直腸腔、または膣腔に使用可能な任意の調製物である。例えば、この調製物は、溶解または崩壊して、その薬物を患者の口に送達するバッカル錠、舌下錠、スプレーなどであり得る。スプレーまたは点鼻液もまた、CGRPまたはその薬学的に受容可能な組成物を鼻腔または副鼻腔に送達するために使用され得る。この調製物は、持続性の様式で薬物を送達してもしなくてもよい。このような調製物を製造する工程の例は、例えば、米国特許第4,764,378号(これは、本明細書中に参考として具体的に援用される)に開示される。この調製物はまた、粘膜に付着するシロップ剤であり得る。適切な粘膜付着因子としては、当該分野において周知である因子(例えば、好ましくは約450,000〜約4,000,000の分子量を有するポリアクリル酸(例えば、CarbopolTM 934P);カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(例えば、MethocelTM K100)、およびヒドロキシプロピルセルロース)が挙げられる。
【0084】
経粘膜調製物はまた、上記薬物を含み、そして粘膜表面に付着する包帯、パッチなどの形態であり得る。粘膜付着性調製物は、インタクトな粘膜と接触し、その粘膜に所望の治療効果を引き起こすのに十分な時間付着する調製物である。適切な経粘膜パッチは、例えば、PCT公開番号第93/23011号(これは、本明細書中に参考として具体的に援用される)に記載される。適切なパッチは、大量の流体の流れを防ぎ、そしてそのパッチからの薬物の損失に対する障壁を提供する任意の可撓性フィルムであり得る基材を含有する。この基材は、任意の慣習的な材料(例えば、ポリエチレン、エチル−ビニルアセテートコポリマー、ポリウレタン)などであり得る。それ自体が粘膜付着性ではないマトリックスを含むパッチにおいて、薬物含有マトリックスは、このパッチが粘膜表面上に保持され得るために粘膜付着成分(上記の粘膜付着因子のような)と結合され得る。適切な構造物としては、パッチまたはデバイスが挙げられ、ここで上記マトリックスは、基板の一部がこのマトリックスの周辺部から外に向かって伸びるように、その基板より小さい周辺部を有する。粘膜付着層は、基板の裏面が、基板の周辺部に粘膜付着因子の層を運ぶように、外側に向かって伸びる基板の一部を覆う。この基板および粘膜付着因子の周囲の環は、一緒になって、薬物含有マトリックス(例えば、錠剤、ゲルまたは粉末)を含むレザバーを形成する。上記マトリックスから上記粘膜付着因子を分離するために、そのマトリックスとその粘膜付着因子との間に障壁要素を組み込むことが所望され得る。この障壁要素は、好ましくは水、および付着を意図される部位に存在する粘膜の流体を実質的に通さない。このような障壁要素を有するパッチまたはデバイスは、その粘膜と接触している表面によってのみ水和され得、そしてこれらのパッチまたはデバイスはレザバーを介して水和されない。このようなパッチは、当業者にとって周知である一般的な方法によって調製され得る。この調製物はまた、例えば、PCT公開番号第96/30013号(これは、本明細書中に参考として具体的に援用される)に記載されるような粘膜付着マトリックスを含有する、ゲルまたはフィルムであり得る。
【0085】
本発明はまた、HFを処置しそして/または腎機能を改善するための薬学的キットを提供し、このキットは、本発明の1つ以上のCGRP薬学的組成物を含む1つ以上の容器を備える。このようなキットはまた、HFの処置もしくは防止および/または腎不全の改善のためにCGRPと同時使用するための、さらなる薬物または治療因子(例えば、抗増殖因子もしくは抗凝固因子、または心臓血管の疾患などを処置するのに使用される他の化合物)を備える。この実施形態において、CGRPおよびこの薬物は、1つの容器中に混合物として処方され得るか、または同時投与または個別投与のために、別々の容器に含まれ得る。このキットは、上記化合物および/または組成物を投与するためのデバイス、ならびにヒト投与に関する製造、使用または販売についての行政機関による承認を反映する、医薬品もしくは生物学的製剤の、製造、使用または販売を規制する行政機関によって定められた形式の指示書をさらに備え得る。
【0086】
前述の説明は、本発明の原理の例示としてのみ考慮される。さらに、多くの改変および変更は、当業者にとって直ちに明らかであり、上記の通りに示される正確な構成およびプロセスについて本発明を限定することは望まれない。したがって、全ての適切な改変および等価物は、添付の特許請求の範囲によって定義されるような、本発明の範囲内に納まることが求められる。
【0087】
言葉「包含する(comprise)」、「包含すること(comprising)」、「含む(include)」、「含むこと(including)」、および「含む(includes)」は、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、記載された特徴、数値、構成要素、または工程の存在を特定することを意図されるが、それらは、1つ以上の他の特徴、数値、構成要素、工程、またはそれらの群の存在または付加を妨げない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において心不全および/または腎不全を処置する方法であって、該方法は、該患者において心不全の症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または病状の進行を防止および/もしくは遅延させることが必要とされる場合に、CGRPを該患者に約50ng/分と約500ng/分との間の速度で、1日あたり30分間と8時間との間の時間投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記CGRPは、非経口的、経口的、舌下、鼻腔内、冠動脈内、動脈内、静脈内、経粘膜的、または皮内に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CGRPは、一定速度のポンプ、速度変動型のポンプ、プログラム可能なポンプ、または浸透圧性のポンプにより投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記CGRPは、経皮的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記経皮的投与は、経皮送達デバイス、クリーム、軟膏、パッチまたは包帯を用いて達成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記CGRPは、浸透亢進因子と組み合わされる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記浸透亢進因子は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプロパノール、オレイルアルコール、エトキシジグリコール、キシレンスルホン酸ナトリウム、エタノール、オレイン酸、N−メチルピロリドン、ラウロカプラム、アルカンカルボン酸、ジメチルスルホキシド、極性脂質、およびN−メチル−2−ピロリドンからなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記浸透亢進因子は、オレイン酸、オレイルアルコール、または長鎖脂肪酸である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記CGRPは、アルコール、保湿剤、湿潤剤、油、乳化剤、濃化剤、希釈剤、界面活性剤、芳香剤、保存剤、抗酸化剤、ビタミン、および無機塩類からなる群より選択される1つ以上の因子と組み合わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、該方法は、抗増殖因子、抗凝固因子、血管拡張薬、利尿薬、β遮断薬、カルシウムイオンチャネル遮断薬、血液希釈剤、強心薬、ACEインヒビター、抗炎症剤、および抗酸化剤からなる群より選択される少なくとも1つの薬物を投与する工程をさらに包含する、方法。
【請求項11】
前記CGRPおよび前記少なくとも1つの薬物は、混合物として、別個かつ同時に投与されるか、または任意の順番で別個に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記処置の長さは、前記患者において、腎血流量、糸球体濾過率、および/または尿素およびクレアチニンの血清レベルを改善するのに十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記処置は、前記患者が病院にいる期間の間、該病院で該患者に施される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記処置は、外来患者を基本として患者に施される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記患者は、小児科の患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記処置は、該処置の後に、前記心不全の症状の悪化を軽減もしくは防止するか、または進行を防止もしくは遅延させることが必要とされる場合に、0.8ng/kg/分〜10ng/kg/分の間の速度でCGRPを投与する工程を包含する維持療法を伴う、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
患者において心不全を処置する方法であって、該方法は、該患者において心不全の症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または病状の進行を防止および/もしくは遅延させることが必要とされる場合に、約500ng/分と600ng/分との間の速度で、少なくとも3日間連続または1週間に数回、1日あたり8時間まで該患者にCGRPを投与する工程を包含する、方法。
【請求項18】
前記処置は、救急処置室または集中治療室において、外来患者の治療として提供される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記処置は、前記患者の生活の質をさらに改善する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
患者において心不全および/または腎不全を処置する方法であって、該方法は、該患者において心不全の症状の軽減を提供し、症状の悪化を防止し、そして/または病状の進行を防止および/もしくは遅延させることが必要とされる場合に、CGRPを心不全の患者に、初期療法または維持療法として、0.8ng/kg/分〜10ng/kg/分の間の速度で、1日あたり2回以上投与する工程を包含する、方法。
【請求項21】
心筋梗塞の発症の危険を防止するかまたは減少させる方法であって、該方法は、該心筋梗塞の発症の危険を防止するかまたは減少させるのに有効な量のCGRP処方物を、心筋梗塞を有する危険にある患者に投与する工程を包含する、方法。
【請求項22】
患者において虚血を相殺する方法であって、該虚血は、心筋梗塞に起因し、該方法は、心臓保護、梗塞サイズの減少、再灌流傷害の減少、症状の軽減を提供し、かつ/または症状の悪化を防止することが必要とされる場合に、単独かまたは他の介入性療法と組み合わせて、0.8ng/kg/分〜16ng/kg/分の間の速度で1日あたり24時間まで、該患者に、初期療法または維持療法としてCGRPを投与する工程を包含する、方法。

【公表番号】特表2007−517911(P2007−517911A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549623(P2006−549623)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/001224
【国際公開番号】WO2005/070444
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(506232718)バソジェニックス ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】