説明

応答ガラス及びガラス電極

【課題】イオン濃度測定機能を損なわずに、汚れが付きにくく、落ちやすい応答ガラス及びそれを備えているガラス電極を提供する。
【解決手段】応答ガラス3の表面に、アナターゼ型の二酸化チタンを含有する薄膜7が形成してあり、前記薄膜は全体が連続して一体となるようにしてある。また前記薄膜に貴金属イオンを加えることにより酸化還元サイトを形成し二酸化チタンの光触媒活性度を増強できる。このようにイオン濃度測定機能を損なわずに前記応答ガラスを汚れにくく、また汚れが付着しても容易に落とすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオン濃度測定機能を損なわずに、汚れが付きにくく、落ちやすい応答ガラス及びそれを備えたガラス電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタン(TiO、チタニア)の結晶型には複数種類あるが、従来アナターゼ型の結晶性の二酸化チタンが可視光に応答して光触媒能を発現することは知られている(非特許文献1)。この光触媒能としては、強力な酸化還元作用と、超親水作用が挙げられ、例えば、HOの分解作用で生じたOの酸化作用を利用して、病院の手術室の壁・床を二酸化チタンでコーティングして、紫外光ランプを照らして殺菌処理を行ったり、超親水作用を利用して、自動車のサイドミラーや道路のミラー等を二酸化チタンでコーティングして、雨天時にセルフクリーニングが可能となるガラスの防曇加工等が行われたり、ビル外壁やテントシート等の汚れ防止へも応用されている。
【0003】
一方、イオン選択性電極やpH電極の応答ガラスは汚れが付着すると不斉電位が生じ、測定値に誤差が生じるので、測定の精度を保つために、測定の都度、洗浄剤等を用いて充分に洗浄し、応答ガラスに付いた汚れを除去することが必要である。このため、応答ガラスに二酸化チタンの光触媒能を利用することができれば、洗浄が簡便に行えると考えられる。
【0004】
特許文献1には、表面に二酸化チタン膜がドット状に形成された応答ガラスを備えているガラス電極が記載されており、当該二酸化チタン膜により有機ハロゲン化物の分解を行うことが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−14078
【非特許文献1】「光触媒 基礎・材料開発・応用」 2004年6月22日発刊 株式会社エヌ・ティー・エス発行、橋本和仁等
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のガラス電極のように、ガラス膜表面に不均一に二酸化チタン膜が形成され、二酸化チタン膜が形成されている箇所とガラスがむき出しになっている箇所とが混在していると、二酸化チタン微粒子は負の電荷を帯びていることから応答ガラスに電気的なむらが生じる。このことによりガラス電極に不斉電位が生じ、これにより正確な測定が阻害される。
【0007】
そこで本発明は、イオン濃度測定機能を損なわずに、汚れが付きにくく、落ちやすい応答ガラス及びそれを備えているガラス電極を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る応答ガラスは、イオン応答するガラス膜の表面に、アナターゼ型の二酸化チタンを含有する薄膜が形成してあり、前記薄膜は全体が連続して一体となっていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、応答ガラスの表面に形成された二酸化チタンを含有する薄膜が、その全体が連続して一体となっていることより、膜全体が電気的にも連絡しているので、局所的には二酸化チタンが負に帯電しても膜全体としては電荷が局在せずに拡散することができ、このため不斉電位が生じにくく、イオン濃度の測定も精度良く行うことができる。
【0010】
本発明に係る応答ガラスとしては特に限定されず、各種イオン選択性電極用及びpH電極用のいずれの応答ガラスであってもよい。
【0011】
前記薄膜は、空隙又は空孔が形成された多孔質からなることが好ましい。ここで、前記多孔質は、水分子やイオンが通過可能な、数Å以上の空隙又は空孔を備えたものである。
【0012】
前記薄膜は全体が連続して一体となっていて、膜全体が電気的に連絡しているものであればよく、薄膜全体が隙間なく応答ガラス膜上を覆うものであってもよいが、部分的に隙間が形成された網目状のものであってもよい。
【0013】
前記薄膜は二酸化チタンのみからなるものであってもよいが、他の成分が配合されていてもよく、用途に応じて、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)等の遷移金属を含有していてもよい。これらの遷移金属を添加した場合は、応答ガラスのアルカリ誤差を低減することができる。また、この場合は、光触媒活性度を増強することもできる。
【0014】
前記薄膜は膜構造を形成する二酸化チタンとは別個にアナターゼ型の二酸化チタン微粒子を含有していてもよい。膜中に別途アナターゼ型の二酸化チタン微粒子が配合されて分散していることにより、前記薄膜の光触媒活性を調節又は増強することが可能となり、例えば、前記薄膜がゾルゲル法により形成された場合は焼成工程において、不純物が混入したりアナターゼ型への結晶化が不充分であったりする場合があるが、このような場合に別途配合した二酸化チタン微粒子により光触媒活性を補充することができる。
【0015】
更に、前記薄膜に、銅(Cu)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)等の貴金属イオンを加えることにより酸化還元サイトを形成し光触媒活性度を増強することができる。また、鉄(Fe)等の遷移金属イオンを加えることにより可視光まで分解応答させることもできる。
【0016】
このような本発明に係る応答ガラスの製造方法としては特に限定されないが、例えば、必要に応じてコバルトやアナターゼ型の二酸化チタン微粒子等の付加的成分を添加したチタンアルコキシドの溶液を未処理の応答ガラスに塗布し、次いで焼成することにより本発明に係る応答ガラスを製造することができる。
【0017】
また、前記薄膜を多孔質とする場合は、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)等をチタンアルコキシドの溶液に添加すればよく、これを未処理の応答ガラスに塗布し、焼成してPVPを分解・除去することにより、空隙又は空孔が形成された薄膜を製造することができる。この際、PVPの添加量は得られるガラス電極の用途によって適宜調節することができる。
【0018】
このような本発明に係る応答ガラスを備えているガラス電極もまた、本発明の1つである。本発明に係るガラス電極としては特に限定されず、各種イオン選択性電極やpH電極が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
このような構成を有する本発明によれば、イオン濃度測定機能を損なわずに、応答ガラスを汚れにくく、また汚れが付着しても容易に落とすことが可能なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係るガラス電極としてpH電極を、図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態に係るpH電極1は、図1及び図2に示すように、円筒状のガラス製の支持管2と、その支持管2の先端部に接合した応答ガラス3とを備えている。
【0022】
支持管2には、内部電極4が収容してあり、かつ、内部液5が充填してある。当該内部電極4としては、例えば塩化銀電極が用いられ、内部液5としては、例えばpH7に調整した塩化カリウム溶液が用いられる。
【0023】
内部電極4には、リード線6が接続してあり、リード線6はこの支持管2の基端部から外部に延出し、図示しないpH計本体に接続されるようにしてある。
【0024】
応答ガラス3は、充分な起電力を発生させるためにリチウム(Li)を多く含む多成分ガラスを素材とすることが必要であり、例えば、ケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス等にリチウムを配合したものを素材ガラスとする。この応答ガラス3を前記支持管2に接合するには、応答ガラス3に用いられる素材ガラスの原料を、例えば千数百度に保たれた炉内で溶融状態にしておき、そこに支持管2の先端部を浸漬した後、所定速度で引き上げるといった方法がとられる。次いで、ブロー成形を行うことによりガラス膜の先端部を略半球状とすることができる。
【0025】
pH電極1の応答ガラス3を試料溶液に浸すと、応答ガラス3に内部液5と試料溶液との間のpH差に応じた起電力が生じる。この起電力を、図示しない比較電極を用いて、pH電極1の内部電極4と比較電極の内部電極との電位差(電圧)として測定してpHを算出する。この起電力は温度によって変動するため、温度素子を用い、この出力信号値をパラメータとして前記電位差を補正して、試料溶液のpHを算出しpH計本体に表示することが好ましい。
【0026】
本実施形態において、応答ガラス3の略半球状の先端部表面には、アナターゼ型の二酸化チタンを含有し、かつ、全体が連続して一体となっている薄膜7が形成してある。当該薄膜7は多孔質からなり、膜厚が数100nmのものであり、全体が隙間なく応答ガラス膜を覆っているもの以外に、部分的に隙間が形成された網目状のものであってもよい。また、コバルト等の二酸化チタン以外の成分が配合されたものや、膜構造を形成する二酸化チタンとは別個に、膜中に二酸化チタン微粒子が配合されたものであってもよい。ここで前記薄膜7にコバルトを配合することにより前記薄膜7のアルカリ誤差を低減することができ、二酸化チタン微粒子、金属微粒子又は金属イオンを配合することにより前記薄膜7の光触媒活性を調節又は増強することができる。
【0027】
前記二酸化チタン微粒子の粒径や結晶密度は得られる応答ガラス3の用途に合わせて適宜選択することができる。
【0028】
応答ガラス3の略半球状の先端部に前記薄膜7を形成する方法として、例えばゾルゲル法を用いる場合は、まず、チタンアルコキシド溶液にアルコールを添加して混合溶液を調製し、次に、この混合溶液に加水分解に必要な水、触媒として硝酸等を加えて出発溶液を調製する。この出発溶液を一定温度で攪拌してアルコキシドの加水分解と重縮合反応とを行い、チタンの水酸化物微粒子を生成しチタニアゾルを作る。得られたチタニアゾルをディップコーティング法等を用いてガラス膜表面に塗布した後、乾燥し、焼成することにより、二酸化チタンの薄膜7を形成することができる。
【0029】
前記薄膜7を網目状構造とする場合は、チタンアルコキシド溶液にPVP等を添加し、焼成工程において、PVP等を分解して除去することができる。
【0030】
前記薄膜7にコバルトや二酸化チタン微粒子を配合する場合にも、同様にチタンアルコキシド溶液に添加すればよい。
【0031】
このようにして前記薄膜7が形成された応答ガラス3に、洗浄時等において、LED、水素放電管、キセノン放電管、水銀ランプ、ルビーレーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ、色素レーザ等を光源として紫外線等の光を照射すると二酸化チタンに光触媒能が誘起され、酸化作用により付着した有機物等を分解し、かつ、超親水作用により付着物が剥離しやすい状態になる、いわゆるセルフクリーニング機能を発揮する。
【0032】
上記のとおりpH電極1はセルフクリーニング機能を発揮する一方で、薄膜7全体は電気的に連絡しているので、応答ガラス3には不斉電位が生じにくく、pH測定能は良好に保たれる。このことを以下のとおりデータを提示して詳述する。
【0033】
堀場製作所製pH電極(#9621)の応答ガラス表面に各種の二酸化チタン薄膜をゾル−ゲル法で作製し、pH7→pH4→pH9の順で電位測定を3回行なった。電位は約3分で安定するので、3回目の測定開始から3分経過後の値を用いて、pH7における不斉電位とpH4−9間のpH感度をそれぞれ求めた。この際、比較電極としては堀場製作所製(#2565)を使用した。電位測定の結果(サンプル9のみ)を図3のグラフに示し、不斉電位とpH感度の測定結果を表1に示した。なお、表1に記載した不斉電位は未処理のpH電極(#9621)を基準としたものである。また、サンプル5〜9において、TiO粒子としてはP−25(日本アエロジル製、粒径0.02μm)を使用した。ここで、感度とは、ネルンスト応答における理論値を100%として表した値である。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示したとおり、いずれのサンプルも不斉電位が小さく、精度の高い測定を可能とするものであることが明らかとなった。また、二酸化チタン薄膜中にTiO粒子を配合しても、一般の屋内照明下では電位が変化しないことも明らかとなった。
【0036】
また、一般的に応答ガラス中に不純物が混入している場合はpH応答性が低下するが、図3のグラフに示したとおり、応答ガラス表面にTiO粒子が配合されている二酸化チタン薄膜が形成されていても、pH応答時間は従来のpH電極と遜色なかった。
【0037】
更に、堀場製作所製pH電極(#9621)の応答ガラス表面に形成した二酸化チタン薄膜中のTiO粒子(P−25、日本アエロジル製、粒径0.02μm)の配合量を変えて、二酸化チタン薄膜表面にメチレンブルーを塗布した場合の分解性能を評価した。評価はXeライト(200〜1100nm,8mWcm−2(365nm))を1時間照射することにより行なった。結果は図4のグラフに示した。
【0038】
図4のグラフに示したとおり、TiO粒子の配合量が5mol%以上であれば、TiO粒子を配合しない場合に比べて約20%以上分解率が上昇することが判明した。なお、一般の屋内照明ではメチレンブルーは分解されなかった。
【0039】
従って、このような本実施形態に係るpH電極1によれば、通常の屋内照明下では、光触媒活性を発現しないので試料に変化を及ぼさないとともに、電位の変化も生じないのでpHを正確に測定することができる。一方、本実施形態に係るpH電極1は紫外線を照射することにより光触媒活性を発現して、応答部に付着した物質を分解したり付着しにくくしたりすることができる。また、二酸化チタン薄膜中に少量のTiO粒子を配合することにより、上述の性能を維持したまま、応答部に付着した物質の分解率を大幅に上昇することができる。
【0040】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではない。
本発明に係るガラス電極はpH電極1に限られず、例えば、塩化物イオン、フッ化物イオン、硝酸イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、シアン化物イオン、硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、銅イオン、カドミウムイオン、鉛イオン、チオシアン酸イオン、銀イオン等の各種のイオン選択性電極であってもよい。また、ガラス電極と比較電極とを一体化した複合電極や、複合電極に更に温度補償電極を加えて一体化した一本電極であってもよい。
【0041】
応答ガラス3の先端部は略半球状に限定されず、イオン濃度測定機能を発揮しうる形状であればいずれの形状に成形されていてもよい。
【0042】
紫外線等の光源は、pH電極1とは別個に設けてもよいが、pH電極1自体が紫外線等の光源を備えていてもよい。
【0043】
またpH電極1と比較電極とpH計本体と紫外線等の光源とを組み合わせて、pH測定装置を構成してもよい。
【0044】
その他、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によって、イオン濃度の測定機能を阻害せずに、セルフクリーニング機能を付与したガラス電極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態におけるガラス電極の内部構造を1部示す部分破断図。
【図2】図1における応答ガラス3近傍の拡大図。
【図3】サンプル9の電位測定の結果を示すグラフ。
【図4】応答ガラス表面に形成した二酸化チタン薄膜中のTiO粒子の配合量と、メチレンブルーの分解率の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0047】
1…ガラス電極
2…支持管
3…応答ガラス
4…内部電極
5…内部液
6…リード線
7…薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン応答するガラス膜の表面に、アナターゼ型の二酸化チタンを含有する薄膜が形成してあり、前記薄膜は全体が連続して一体となっていることを特徴とする応答ガラス。
【請求項2】
前記薄膜は、多孔質からなる請求項1記載の応答ガラス。
【請求項3】
前記薄膜は、コバルト、ニッケル、タングステン、銅、白金、金、銀、及び、鉄からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有している請求項1又は2記載の応答ガラス。
【請求項4】
前記薄膜は、更にアナターゼ型の二酸化チタン微粒子が配合されている請求項1、2又は3記載の応答ガラス。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の応答ガラスを備えていることを特徴とするガラス電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−241697(P2008−241697A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43769(P2008−43769)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)