説明

快削性セラミックス及びその製造方法

【課題】加工性に優れた快削性セラミックスを提供する。
【解決手段】酸化アルミニウムからなり、XRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2であることを特徴とする快削性セラミックス。純度99質量%以上、粒子径0.03μm以下、のTiO粉末を0.1〜0.4質量%添加してなり、酸化アルミニウム焼結体の平均結晶粒径が10μm以上、焼結体密度が3.90g/cm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れた、いわゆる快削性セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、機械的強度、耐熱性及び耐食性等に優れることから、種々の構造部材として用いられている。しかしながら、機械的強度に優れる反面、加工し難いため、加工コストが高くなってしまうという課題がある。そこで、加工性を改善すべく種々の試みがなされている。
【0003】
例えば、内部に気孔を有する粒径10μm以上のアルミナ大径粒子と粒径5μm以下のアルミナ小径粒子を有し、開気孔率を0.1%以下とすることにより、緻密質で一定の強度を有すると共に、研削時にはアルミナ大径粒子内部の気孔を起点として、クラックが発生し、脱粒し、研削抵抗を小さくできるセラミックスが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、酸化チタンを1〜17体積%と、アルミナを99〜83体積%からなるもので、酸化チタンを1〜17体積%と、アルミナを99〜83体積%とからなる主成分100重量部に対して、ジルコニアを0.1〜5重量部含有するセラミックスが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−132590号公報
【特許文献2】特開平07−287815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された発明では、焼結体の内部に気孔を有するため、焼結体の密度は小さくなり、機械的強度が低下する。
【0007】
また、特許文献2に記載された発明は、イオンを照射して微細加工を行うイオンミリングには良好な加工性を示しているが、通常の砥石を用いた研削加工においては、加工性は十分でない。
【0008】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、加工性に優れた快削性セラミックスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するため、以下に示す(1)〜(5)の発明を提供する。
(1)酸化アルミニウム焼結体からなり、XRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2であることを特徴とする快削性セラミックス。このような結晶配向性を有することで、加工性に優れたセラミックスを提供することができる。
【0010】
(2)TiOを0.1〜0.4質量%含む(1)記載の快削性セラミックス。TiOを所定量含ませることで上記のような結晶配向性を持たせることが可能となる。その結果、加工性に優れたセラミックスを提供することができる。
【0011】
(3)焼結体の平均結晶粒径が10μm以上である(1)または(2)記載の快削性セラミックス。上記のようにTiOを含ませて結晶配向性を調整するとともに、平均結晶粒径を所定の大きさとすることで加工性を高めることが可能となる。
【0012】
(4)焼結体密度が3.90g/cm以上である(1)〜(3)記載の快削性セラミックス。上記のようにTiOを含ませて結晶配向性を調整するとともに、平均結晶粒径を所定の大きさとすることで、十分な焼結体密度を有していながら加工性も高めることができる。
(5)粒子径0.03μm以下、純度99質量%以上のTiO粉末を添加してなる(1)〜(4)記載の快削性セラミックス。上記のような結晶配向性を持たせるには、酸化アルミニウムに添加するTiO粉末の粒子径と純度について所定値のものを用いることが肝要である。
(6)鋳込み成形体を焼結してなる(1)〜(5)記載の快削性セラミックス。鋳込み成形は、本発明の快削性セラミックスを得るうえで、適した方法の一つである。
(7)酸化アルミニウム粉末に、TiO粉末を0.1〜0.4質量%添加してなる原料粉末を含むスラリーを調整する工程と、
前記スラリーを用いて鋳込み成形により成形体を得る工程と、
焼結体の平均結晶粒径が10μm以上、焼結体密度が3.90g/cm以上となるように前記成形体を焼結する工程と、を含む、
XRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2である快削性セラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
加工性に優れた快削性セラミックスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の試料のXRDチャートである。
【図2】I300とI104を抜き出して示した図である。
【図3】酸化アルミニウム焼結体の研削抵抗の測定例を示した図である。
【図4】実施例1の試料のSEM写真である。
【図5】比較例3の試料のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の快削性セラミックスについて、より詳細に説明する。本発明の快削性セラミックスは、酸化アルミニウム焼結体からなる。酸化アルミニウムは、機械的強度、耐熱性及び耐食性等に優れ、また比較的安価で最も汎用性の高いセラミックスである。酸化アルミニウム焼結体の加工性を向上させることにより、大幅な製造コストの低減が期待できる。
【0016】
図1に本発明の快削性セラミックスを構成する酸化アルミニウム焼結体のXRD測定により得られるチャート例を示す。このようなチャートから(104)面と(300)面のピークを抜き出して示したものが図2である。それぞれの面についてピーク強度I300及びI104を求めた後、結晶配向度I300/(I300+I104)を算出することができる。
【0017】
こうして算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2であることが好ましい。表1にJCPDSカードNo.10−173に記載されているα−AlのX線回折ピーク強度と、図1に示した本発明の快削性セラミックスを構成する酸化アルミニウム焼結体の各結晶面のピーク強度との比較表を示す。表中のピーク強度の数値は、最大ピークを100として各結晶面のピーク強度の相対値を示したものである。
【0018】
【表1】

【0019】
本発明の酸化アルミニウムの例では、(300)面のピーク強度がJCPDSカードの標準データの強度と比べて低いことがわかる。結晶配向度I300/(I300+I104)を比較したものを表2に示す。
【表2】

【0020】
本発明の酸化アルミニウム焼結体の例では、I300/(I300+I104)は、0.15であり、標準データと比べて小さい値を有しており、結晶配向性が著しいことがわかる。本発明は、この結晶配向度I300/(I300+I104)における結晶配向性と酸化アルミニウム焼結体の加工性とが強く関係していることを見出し発明に至ったものである。
【0021】
酸化アルミニウムの結晶配向度を上記範囲に制御するには、TiOを0.1〜0.4質量%含ませることが好ましい。これによって、焼結時の酸化アルミニウム結晶粒の成長により、所定の配向が多くなることにより、上記のような結晶配向度を有し、加工性に優れた酸化アルミニウム焼結体が得られる。
【0022】
酸化アルミニウム焼結体の平均結晶粒径は10μm以上であることが好ましい。十分に粒成長させることで、結晶配向が進み加工性が高まる。ただし、平均結晶粒径は50μm以下とすることが好ましい。粒成長が過剰になると気孔が生じやすくなり緻密性が損なわれるおそれがある。
【0023】
酸化アルミニウム焼結体の焼結体密度は3.90g/cm以上である。本発明は、加工性に優れた緻密質の酸化アルミニウム焼結体に関する。焼結体密度が低下すれば、加工し易くなるが、強度等の他の物性に悪影響を及ぼすので好ましくない。本発明は、強度等の他の物性を維持しつつ加工性を高めたものである。
【0024】
次に、本発明の酸化アルミニウム焼結体からなる快削性セラミックスの製造方法について説明する。
【0025】
酸化アルミニウム(Al)粉末は高純度のものを用いることが望ましい。その純度は、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上の用いることが望ましい。酸化アルミニウム粉末の粒径は0.5μm以下であるものを用いることが好ましい。さらに好ましい範囲は0.1〜0.5μmである。
【0026】
添加する酸化チタン粉末は高純度のものを用いることが望ましい。その純度は好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上のものを用いることが好ましい。酸化チタン粉末の粒径は0.5μm以下であるものを用いることが好ましく、さらに好ましい範囲は0.03μm以下である。また、酸化チタン(TiO)粉末で添加されることが好ましいが、これに限定されず、大気中での焼結後に酸化物を生成する塩化物、有機チタン化合物等の種々の形態であっても良い。このような酸化チタン粉末を用いることで、結晶配向性を有し、加工性に優れた酸化アルミニウム焼結体を得ることができる。
【0027】
酸化アルミニウム粉末と酸化チタン粉末の混合は、ボールミル混合等の公知の方法を用いることができる。適宜、分散剤やバインダー等を加えて原料粉末を作製する。
【0028】
原料粉末の成形は、一軸プレス成形、CIP成形、湿式成形等種々の成形方法を用いることができる。なかでも、加圧鋳込みや廃泥鋳込みなどの鋳込み成形が好ましい。その場合のスラリー作製は、十分に混合することが好ましい。例えば、混合時間18時間以上とすることができる。十分に混合しないと、分散が均一であるスラリーを得ることが難しくなる。
【0029】
成形された成形体の密度は、焼結体密度の0.65まで高めることが好ましい。本発明の酸化アルミニウム焼結体では、3.90g/cm以上の焼結体が得られることから、少なくとも2.54g/cmの密度とすることが好ましい。
【0030】
焼結は、大気、真空または不活性ガス等の種々の雰囲気中で、常圧で焼結することができる。なかでも常圧の大気雰囲気が最も好適である。焼成雰囲気がカーボンやCO等の還元能を有する物質が含まれる還元雰囲気である場合、焼結体が青味を呈する場合がある。
【0031】
焼成温度は、例えば1300〜1700℃の範囲とすることができる。焼結体の平均結晶粒径が10μm以上となり、十分に緻密化する温度であれば良い。
【0032】
以下、実施例と比較例を示して説明する。
【0033】
[実施例]
平均粒子径0.5μm、純度99.5%のAl粉末および平均粒子径0.02μm、純度99.9%のTiO粉末を原料粉末とし、Al粉末とTiO粉末の質量比(99.9〜99.6):(0.1〜0.4)の割合で樹脂ポットに入れた。混合媒体として、任意量のΦ10のAlボールを用い、18時間混合してスラリーを得た。成形は、鋳込み成形で行った。作製した成形体を常圧大気中、昇温速度50℃/hrで1600℃まで加熱し、3時間保持した後、自然冷却して焼結体を得た。なお、本発明では、レーザー回折式粒度分布測定によるメジアン径(D50)をもって原料粉末の平均粒子径とする。
【0034】
[比較例]
実施例と同一のAl粉末を用いて、酸化アルミニウム焼結体を作製した。比較例1は、TiO粉末に平均粒子径0.25μm、純度80%のものを用いた。比較例2及び3は、いずれもTiO粉末を添加せずに、鋳込み成形及びCIP成形により成形した。比較例の試料については適宜焼成温度を調整し、密度3.90g/cm以上に緻密化させた。それ以外は、実施例と同じ条件で焼結体を作製した。
【0035】
得られた焼結体について、焼結密度、XRD及び平均粒子径の測定を行った。焼結密度は、アルキメデス法により測定した。XRDは鏡面研磨した焼結体表面を用い、リガク社製X線回折装置MultiFlexを使用し、CuKα線源、加速電圧40kV、40mAで測定した。平均粒子径は焼結体表面を鏡面研磨後、研磨面を熱腐食し結晶粒界を析出させたあとにSEM観察を行って、インターセプト法から求めた。
【0036】
加工性の評価は、平面研削抵抗の測定によって行った。表3に平面研削加工の条件を示す。平面研削プランジ加工時の砥石の切込量を10、20、40、60μmに変化させて研削抵抗を測定した。研削抵抗は、精密平面研削盤(ナガセ製SGC-104PCNC)のテーブル面に工具動力計(キーエンス社製 AFT-ZM型)を取り付け、被削材料を同動力計に固定し、プランジ研削を行ない評価した。
【表3】

【0037】
XRD測定及び加工性の評価の結果、実施例の酸化アルミニウム焼結体では、XRDのピーク強度により算出される結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2となり、比較例に比べて研削抵抗が低く、加工性に優れていることがわかった。また、実施例の酸化アルミニウム焼結体の平均結晶粒径は10〜50μmであり、焼結体密度は、3.90g/cm以上であった。さらに、得られた焼結体密度の数値及び、成形体から焼結体を得るときの焼結収縮率から成形体の密度を求めたところ、いずれも2.54g/cm以上であった。
【0038】
XRDのピーク強度により算出される結晶配向度及び、試料の研削抵抗の測定結果を表4に示す。なお、実施例1及び実施例2は、同一条件(酸化チタン粉末添加量0.2質量%)で作製したものである。
【表4】

【0039】
実施例1及び実施例2の測定では、結晶配向度I300/(I300+I104)が0.15および0.20を示した。一方、比較例の結晶配向度は、0.36〜0.38であり、JCPDSカードNo.10−173に近い数値が得られた。図1に実施例1のXRDチャートを示す。
【0040】
実施例1及び実施例2の研削抵抗は、比較例1〜3と比べて研削抵抗が小さかった。表6をグラフ化したものを図3に示す。
【0041】
実施例1及び比較例3の試料のSEM写真を図4及び図5に示す。実施例1の酸化アルミニウム焼結体の平均結晶粒径は29μmであり、比較例3の平均結晶粒径は6.3μmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウム焼結体からなり、
XRDのピーク強度により算出される結晶配向度結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2であることを特徴とする快削性セラミックス。
【請求項2】
TiOを0.1〜0.4質量%含む請求項1記載の快削性セラミックス。
【請求項3】
焼結体の平均結晶粒径が10μm以上である請求項1または2記載の快削性セラミックス。
【請求項4】
焼結体密度が3.90g/cm以上である請求項1〜3記載の快削性セラミックス。
【請求項5】
粒子径0.03μm以下、純度99質量%以上のTiO粉末を添加してなる請求項1〜4記載の快削性セラミックス。
【請求項6】
鋳込み成形体を焼結してなる請求項1〜5記載の快削性セラミックス。
【請求項7】
酸化アルミニウム粉末に、TiO粉末を0.1〜0.4質量%添加してなる原料粉末を含むスラリーを調整する工程と、
前記スラリーを用いて鋳込み成形により成形体を得る工程と、
焼結体の平均結晶粒径が10μm以上、焼結体密度が3.90g/cm以上となるように前記成形体を焼結する工程と、を含む、
XRDのピーク強度により算出される結晶配向度結晶配向度I300/(I300+I104)が0.1〜0.2である快削性セラミックスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−73905(P2011−73905A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225562(P2009−225562)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】