説明

快適性評価装置及び快適性評価方法

【課題】急激な環境温湿度変化に対する、衣服内温湿度、皮膚の温度、消費熱量の少なくとも1つの変化を、より人に近い状態で正確に評価できる、発汗人体模型装置を用いた快適性評価装置及び評価方法を提供する。
【解決手段】発汗人体模型装置101と、温度または/及び湿度の異なる2つの恒温恒湿室(A)及び(B)へ発汗人体模型装置を移動機構102で移動させる快適性評価装置であって、発汗人体模型装置は、全身を、頭部、体幹部前、後、腰部、右左腕部、右左大腿部、右左下腿部の10部位に分割され、頭部以外の9部位には、発汗機構、水量調整手段、第1センサ(温度)と、第2センサ(温湿度)とを備え、恒温恒湿室(B)と(A)は、壁または床を介して隣接し、開閉機構103が設けられている。前記快適性評価装置を用いて、発汗人体模型装置の衣服内温湿度、皮膚の温度、消費熱量の少なくとも1つを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が2つの異なる温熱環境を移動した際の快適性を評価するための、評価装置及び快適性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、安定した発汗状態や温熱状態を人工的に再現することができる発汗人体模型装置が快適性評価に用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。快適性の中でも、オフィスから屋外、リビングから寝室および屋外から自動車室内などの2つの環境を人が移動する際に快適性は大きく変化し、この移動時の快適性を考慮した衣服やカーシートなどの事前評価を行うことは有用である。特に、夏季の駐車中の自動車室内は、建築物に対しガラスの占有面積が大きく、かつ、狭く密閉された空間であるため、非常に高温になる。そのため、乗車直後にエアコンを稼動させても、しばらくは汗をかいてむれ感などの不快感が生じる。
【0003】
しかしながら、この発汗人体模型装置が2つの異なる温熱環境間を移動する際の快適性を評価するためには、発汗人体模型装置は異なる部屋を移動する機構が設けられていないため、設置されている恒温恒湿室の温湿度制御を変更する方法しかない。さらに、この方法では環境温湿度変化が遅く、急激な環境温湿度変化に対する、人の反応を正確に捉えることができない。また、ホットプレートに発汗孔が設けられた簡易型かつ小型の発汗装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この発汗装置は小型であるため、2つの異なる温熱環境を移動することができるが、衣服などの評価は製品の一部のみの評価にとどまり、製品の全体としての評価が不可能である。
【特許文献1】特開2003−504541
【特許文献2】特開2004−68230
【特許文献3】特開2003−16751
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、急激な環境温湿度変化に対する、衣服内温湿度、皮膚の温度、消費熱量の少なくとも1つの変化を、より人に近い状態で正確に評価することができる、発汗人体模型装置を用いた快適性評価装置及び快適性評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決することができる本発明の快適性評価装置及び快適性評価方法は、以下の構成からなる。
すなわち、第1の発明は、発汗人体模型装置201、温度または/及び湿度の異なる2つの恒温恒湿室(A)及び(B)、恒温恒湿室(B)から恒温恒湿室(A)へ発汗人体模型装置201を移動させる移動機構102を具備してなる快適性評価装置であって、
発汗人体模型装置201は、全身を、頭部203、体幹部前205、体幹部後206、腰部207、右腕部208、左腕部209、右大腿部210、左大腿部211、右下腿部212および左下腿部213の10部位に分割され、頭部203以外の前記9部位には、表面側から順に模擬皮膚303、発汗孔302を有する本体壁301、および過熱ヒータ304が積層された発汗機構と、上記発汗孔に水分を供給する水量調整手段308と、模擬皮膚303の表面温度を測定するため、模擬皮膚303の表面に接するように設けられる第1センサ(温度センサ309)と、衣服310を発汗人体模型装置201に装着した場合に、模擬皮膚303と衣服310との間に形成される空気層Cの温度および湿度を測定するため、センサ部が空気層Cに位置するように設置される第2センサ(温湿度センサ311)とを備え、
恒温恒湿室(B)と恒温恒湿室(A)は、壁または床を介して隣接しており、該壁または床には開閉機構が設けられている、快適性評価装置である。
【0006】
第2の発明は、発汗人体模型装置201の頭部203は、外部から発汗人体模型装置201内に発汗チューブ202が挿入され、さらに温度制御機構部204が設けられてなる第1の発明に記載の快適性評価装置である。
【0007】
第3の発明は、発汗人体模型装置101の移動機構102が、発汗人体模型装置101を頭部から吊り下げたレールをスライドさせて発汗人体模型装置101を移動させるレールスライド式移動機構であることを特徴とする、第1の発明に記載の快適性評価装置である。
【0008】
第4の発明は、恒温恒湿室(A)および恒温恒湿室(B)の容積比(A/B)が、3/1〜5/1であり、移動前の発汗人体模型装置101が恒温恒湿室(B)に設置されていることを特徴とする第1の発明に記載の快適性評価装置である。
【0009】
第5の発明は、恒温恒湿室(A)および恒温恒湿室(B)の内圧が、恒温恒湿室(A)に対して恒温恒湿室(B)が負圧であることを特徴とする、第1または4の発明に記載の快適性評価装置である。
【0010】
第6の発明は、第1〜5の発明のいずれか1つに記載の快適性評価装置を用いて、温度または/および湿度を変化させた環境下で、発汗人体模型装置201の体幹前部205、体幹後部206、腰部207、右腕部208、左腕部209、右大腿部210、左大腿部211、右下腿部212および左下腿部213の衣服内温湿度、皮膚の温度、消費熱量の少なくとも1つを評価する快適性評価方法であって、
恒温恒湿室(B)に配置された発汗人体模型装置201を、恒温恒湿室(B)とは温度または/及び湿度の異なる恒温恒湿室(A)へ、移動機構102を用いて発汗人体模型装置201を移動させることを特徴とする快適性評価方法である。
【発明の効果】
【0011】
本願発明によれば、恒温恒湿室(B)に設置された発汗人体模型装置101を、移動機構102により恒温恒湿室(A)に移動させることができるため、発汗人体模型装置101が移動した後の恒温恒湿室(A)の温度または/および湿度の変化が小さく、より人に近い状態での快適性評価ができる。
【0012】
また、発汗人体模型装置201の頭部203に、外部から発汗人体模型装置201内に発汗チューブ202を挿入し、さらに温度制御機構部204を設けることにより、環境温度の影響を受けにくく、安定した温度の発汗を得ることができる。
【0013】
また、発汗人体模型装置101の移動機構102が、発汗人体模型装置101を頭部から吊り下げたレールをスライドさせて発汗人体模型装置101を移動させるレールスライド式移動機構を用いることにより、発汗人体模型装置101を様々な姿勢で、非接触でタイムラグなく、速やかに2つの恒温恒湿間を移動させることができる。
【0014】
さらに、恒温恒湿室(B)に配置された発汗人体模型装置201を、恒温恒湿室(B)とは温度または/及び湿度の異なる恒温恒湿室(A)へ、移動機構102を用いて発汗人体模型装置201を移動させる際に、(1)恒温恒湿室(A)および恒温恒湿室(B)の容積比(A/B)を3/1〜5/1とする、あるいは、(2)恒温恒湿室(B)を恒温恒湿室(A)に対し負圧にする、ことにより、恒温恒湿湿(B)と恒温恒湿室(A)の間の開閉機構(例えば、ドア、シャッター)を開放して、発汗人体模型装置101を、恒温恒湿室(B)から恒温恒湿湿(A)に移動させても、発汗人体模型装置101が移動後に設置される恒温恒湿室(A)の温度あるいは/および湿度の変動を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明における発汗人体模型装置201は、日本人の成人男子をベースにした人体形状本体壁301を備え、関節部、頭部、手、足以外の全身部位で人体に近い産熱発汗が模擬できる機能を備えている。また、股部および膝部に相当する位置を屈曲可能にすることで、立位および寝位だけでなく、座位を含む3態様の姿勢変化が可能で、衣服を装着しているときの衣服内温湿度、消費電力を計測できる機能を有している。
【0016】
図2を参照して、本実施の形態における発汗人体模型装置201は、その表面を、体幹前部205、体幹後部206、腰部207、右腕部208、左腕部209、右大腿部210、左大腿部211、右下腿部212、および左下腿部213の9つの表面部位に分割して、各部位の発汗、皮膚の温度を制御する機構が採用されている。
【0017】
発汗人体模型装置201のボディは、JISL4004に準拠したサイズの日本人成人男性25〜29歳の平均(200人)に近似し、厚さ4mmアルミ合金製の鋳造ボディからなり、表面にアルマイト加工を施して黒色にしてある。両肩、股部、膝に人間の関節機能を再現するための屈曲機構が備えられ、立位、寝位、および座位の姿勢変化が可能である。
【0018】
他の金属装置類を含むボディ重量は約60kgである。発汗人体模型装置201の産熱、発汗に寄与する部位の面積には、頭部、手、足、関節の接合面などの面積は含まれていない。
【0019】
上述したように、この発汗人体模型装置201の発汗制御は、体幹前205、体幹後206、腰207、左右腕208、209、左右大腿210、211、左右下腿212、213の合計9部位に分割されている。関節部位として、左右の腕と体幹部との間(肩)、左右の腕と股部(大腿部の付け根)との間、左右の大腿部と下腿部との間(膝)にあり、関節自由度は肩が3次元、大腿部の付け根および膝が2次元のジョイント機構を採用している。
【0020】
上記関節部位に加え、首部、体幹前後部、腰部、手首部、足首部には樹脂版による断熱が施してある。発汗人体模型装置201の姿勢変化を伴う場合は、腿部の関節の調節により、立位、座位、寝位の3姿勢変化および維持が可能である。関節固定角度は、膝、大腿部の付け根ともに、0°、30°、60°、90°で固定可能である。
【0021】
次に、図3を参照して、発汗人体模型装置201の発汗機構の構成について説明する。発汗人体模型装置201の人体形状を形作る本体壁301の所定位置には発汗孔302と、この発汗孔302を含む本体壁301を覆うように設けられる模擬皮膚303と、本体壁301の内面側に設けられる加熱手段である過熱ヒータ304、発汗孔302に所定量の水分を送り込むための水量調整手段308と、模擬皮膚303の表面温度を測定するため、模擬皮膚303の表面に接するように設けられる第1センサとしての温度センサ309と、衣服310を発汗人体模型装置201に装着した場合に、模擬皮膚303と衣服310との間に形成される空気層Cの温度および湿度を測定するため、センサ部が空気層Cに位置するように設置される第2センサとしての温湿度センサ311とを備えている。なお、皮膚の温度とは、発汗人体模型装置201のボディ部位の設定温度、あるいは温度センサ309にて計測した発汗人体模型装置201の表面温度を意味する。また、衣服内気候とは、発汗人体模型装置201の皮膚表面と衣服との隙間の温度および湿度を意味する。
【0022】
水量調整手段308としては、発汗孔302に直接連通するチューブ305と、送水ポンプ305と、水を蓄えるための含水タンク307とを備える。
【0023】
発汗孔302は、全身に約0〜450個設けられ、各発汗孔302にチューブ305が配置されるとともに、上述した身体の各部位ごとに送水ポンプ306が割り当てられる。したがって、身体の各部位ごとに送水量を調整することが可能である。たとえば、発汗孔302の直径は約1mmである。なお、送水量とは、発汗人体模型装置201のボディ部分の設定する水の吐出量を示し、単位はg/m・hである。
【0024】
送水ポンプ306には、0g/h〜1300g/hrの水吐出量の制御が可能な送水ポンプを用いる。発汗人体模型装置の発汗量に換算すると、0g/m・hr〜999g/m・hrの範囲に制御することが可能である。送水量は、送水ポンプ306の運転/停止時間の関係に基づき設定される。含水タンク307の水源秤量も天秤でモニターすることが可能である。発汗人体模型装置201の姿勢変化の影響は、チューブ305に最も屈曲が生じると思われる座位姿勢、ベッド差が懸念される寝位においても吐出を確認したが、実用上の問題はない。
【0025】
本体壁301の表面には、発汗孔302から吐出する水を皮膚上に拡散させるため、人体模型を覆う模擬皮膚303が設けられている。模擬皮膚303は、0.1ccの水を滴下し10秒後の水拡散面積が2cm以上有する素材であればよい。ただし、前記の水拡散面積の測定は、模擬皮膚303の下に本体壁301のボディを接触させた状態で行う。模擬皮膚303としては、例えば、編物、織物、不織布または濾紙が使用できるが、立体的に人体を覆うことが容易にできる編物が望ましい。編物を構成する素材は、綿、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタンなどが例示される。0.1ccの水を滴下し10秒後の水拡散面積は、例えば、綿では2cm、ポリエチレンテレフタレートでは3.5cmである。吐出された水を速やかに拡散するために、綿またはポリエステルまたはポリウレタンを混用することが望ましい。体幹部(体幹前205、体幹後206、腰207)はボディスーツ状に縫製され、四肢(左右腕208、209、左右大腿部210、211、左右下腿部212、213)はそれぞれ筒状に縫製されている。なお、関節部は模擬皮膚303では覆われていないが、吐出された水を全身に拡散するためには全身が覆われていることが望ましい。
【0026】
加熱ヒータ304として本体壁301のボディ内側には、分割した各部位ごとにコードヒータがワイヤリングしてある。各部位のヒータ容量は、約100〜200Wである。各部位の略中央の領域に、模擬皮膚303の表面温度を測定するための温度センサ309設けられている。なお、温度センサ309を制御するためのケーブル類は全て発汗人体模型装置201の頭部203側から、本体壁301の内側に導入している。各部位への供給電力は、通電時間率とヒータ容量との積から算出することが可能である。なお、供給電力の単位はW/mである。
【0027】
本発明において、発汗人体模型装置201の頭部203の温度制御機構204とは、発汗人体模型装置201の頭部203から挿入された発汗チューブ202の周囲の温度制御が可能で、定温制御または定電力制御にすることで、発汗チューブ202の温度を任意に制御でき、発汗人体模型装置201の皮膚の温度が環境温度より3℃以上低い場合は、ヒータだけでもよく、このような場合にでも安定した発汗量を確保することができる。冷却機構は発汗人体模型装置201の皮膚の温度が環境温度より3℃以上高い場合には必要である。
【0028】
本発明において、移動機構102とは、発汗人体模型装置101を恒温恒湿室(B)から恒温恒湿室(A)へ、発汗人体模型装置101を頭部から吊り下げたレール(1)が手動または電動によりレール(2)下をスライドするレールスライド方式、発汗人体模型装置101を回転するベルトコンベア状の床の上に設置し、ベルトコンベアを作動させることで発汗人体模型装置101を恒温恒湿室(B)から恒温恒湿室(A)へ移動するベルト式、発汗人体模型装置101を複数のローラーからなる床の上に設置し、発汗人体模型装置101をローラー上で滑らせて移動させるローラー式、発汗人体模型装置101を複数のボールからなる床の上に設置し、発汗人体模型装置101をボール上で滑らせて移動させるボール式、発汗人体模型装置101を台車に載せて移動させる台車移動方式、チェーンを発汗人体模型装置101の頭部203につなぎ、該チェーンを滑車上で滑らせながら引っ張ることで発汗人体模型装置101を移動させるチェーンブロック方式を採用した機構のことを言うが、発汗人体模型装置101が2つの恒温恒湿室間を移動できれば、これに限られるものではない。
【0029】
また、発汗人体模型装置101が移動機構を具備する自走式であってもよい。さらに、恒温恒湿室は、横に隣接している場合だけではなく、上下に垂直、あるいは斜め方向に隣接していてもよい。この場合には、移動機構がエレベーター方式でもよいし、滑車を利用して発汗人体模型装置を上下に移動させる方式でもよい。
しかしながら、発汗人体模型装置101が様々な姿勢で移動でき、速やかに2つの恒温恒湿間を移動させる点から、レールスライド方式を採用することが望ましい。
【0030】
本発明において、発汗人体模型装置201は、恒温恒湿室(B)から、該恒温恒湿室(B)と温度または/および湿度の異なる恒温恒湿室(A)に移動する。恒温恒湿室(B)と恒温恒湿室(A)は、壁または床を介して隣接しており、該壁または床には開閉機構が設けられている。開閉機構としては、例えば、ドアまたはシャッターが挙げられ、発汗人体模型装置を安定して移動させることができれば、自動でも手動でもかまわない。
【0031】
本発明において、発汗人体模型装置201を移動させた後の恒温恒湿室(A)の温度または/および湿度の変化を小さくするために、恒温恒湿室内の容積は、恒温恒湿室(B)よりも恒温恒湿室(A)の方を大きくすることが好ましい。
【0032】
本発明において、恒温恒湿室(A)は、例えば、容積が10〜30mで、温度または/および湿度を任意に制御できる。また、本発明において、恒温恒湿室(B)は、例えば、容積が1〜5mで、温度または/および湿度を任意に制御できる。発汗人体模型装置101を恒温恒湿室(B)から恒温恒湿室(A)に移動させる際に、恒温恒湿室(B)と、恒温恒湿室(B)に隣接する恒温恒湿室(A)の間のドアを開放しても、恒温恒湿室(B)の容積が恒温恒湿室(A)の容積に比べ充分に小さい場合、恒温恒湿室(B)からの温度または/および湿度の影響を、移動先の恒温恒湿室(A)において小さくすることができる。恒温恒湿室(A)と恒温恒湿室(B)の容積比(A/B)は、3/1〜5/1がさらに好ましい。
【0033】
また、発汗人体模型装置201を移動させた後の恒温恒湿室(A)の温度または/および湿度の変化を小さくするために、恒温恒湿室内に送る風量は、恒温恒湿室(B)よりも恒温恒湿室(A)の方を多くして、恒温恒湿室(A)に対して恒温恒湿室(B)を負圧にしておくことが好ましい。
【0034】
本発明において、恒温恒湿室(A)の風量は20〜100m/sで、恒温恒湿室(B)の風量は1〜15m/sであることが好ましい。発汗人体模型装置101を移動する際に恒温恒湿室(B)と、恒温恒湿室(B)に隣接する恒温恒湿室(A)の間のドアを開放しても、恒温恒湿室(B)の風量が恒温恒湿室(A)の風量に比べ充分に低い場合、恒温恒湿室(B)が恒温恒湿室(A)に対し負圧になり、恒温恒湿室(B)からの温度または/および湿度の影響を、移動先の恒温恒湿室(A)において小さくすることができる。
【0035】
10名のモニターを用いて、環境が変化した際のカーシート着座中の衣服内温湿度を測定し、移動型発汗人体模型装置とのデータの整合性を検証した。モニターに、綿100%の半袖Tシャツとポリエステル100%のスカートを着用させ、32℃、70%RHに制御した恒温恒湿室(B)で5分間の踏み台昇降運動を行わせた。次いで、5分間の体幹後、モニターの衣服内温湿度および皮膚の温度を測定した。その後、恒温恒湿室(B)からすばやく50℃、20%RHに制御した恒温恒湿室(A)にモニターを移動させ、恒温恒湿室(A)にあらかじめ設置しておいたカーシートにモニターを着座させた。着座後、恒温恒湿室(A)の温湿度制御の設定値を18℃、50%RHに変更し、着座を継続した。
【0036】
次いで、着座30分間経過後の体幹後の衣服内温湿度および皮膚の温度を測定した。また、モニターまわりの環境温湿度の測定も行った。使用したカーシートはパッド層がモールドウレタン、ワディング層がスラブウレタン、表皮層が本革の一般的な形状のシートである。以降の実施例でこのモニター試験から得られた結果と、移動型発汗人体模型装置から得られる結果との整合性を検証する。
【実施例】
【0037】
実施例1
図1に示すレール式移動型発汗人体模型装置を用い、発汗チューブ202の温度制御機構204を30℃の定温制御にて作動させた。発汗人体模型装置201には、綿100%の半袖Tシャツとポリエステル100%のスカートを着用させた。発汗人体模型装置201を、32℃、70%RHに制御した恒温恒湿室(B)に設置し、発汗人体模型装置201の皮膚の温度を35℃の定温制御により安定させた。安定後、発汗人体模型装置201の皮膚から発汗を開始させ、32℃、70%RHの恒温恒湿室(B)で、体幹後206の衣服内温湿度および皮膚の温度を5分間測定した。その後、移動機構102により恒温恒湿室(B)から、すばやく50℃、20%RHに制御した恒温恒湿室(A)に発汗人体模型装置201を移動させ、恒温恒湿室(A)にあらかじめ設置しておいたカーシートに発汗人体模型装置201を着座させた。発汗人体模型装置201を着座させた後、恒温恒湿室(A)の温湿度制御の設定値を18℃、50%RHに変更し、着座を継続させた。着座中の30分間、背部の衣服内温湿度および皮膚の温度を測定した。また、発汗人体模型装置201まわりの環境温湿度の測定も行った。使用したカーシートは、パッド層がモールドウレタン、ワディング層がスラブウレタン、表皮層が本革である、一般的な形状のシートである。
【0038】
実施例2
実施例1と同じ装置を用い、発汗チューブ202の温度制御機構204を、30℃の定温制御にて作動させた。発汗人体模型装置201には、綿100%の半袖Tシャツとポリエステル100%のスカートを着用させた。発汗人体模型装置201を32℃、70%RHに制御した恒温恒湿室(B)に設置し、発汗人体模型装置201の皮膚の温度を30℃の定温制御により安定させた。安定後、発汗人体模型装置201の皮膚から発汗を開始させ、32℃、70%RHの恒温恒湿室(B)で背部の衣服内温湿度および皮膚の温度を5分間測定した。その後、移動機構102により恒温恒湿室(B)から、すばやく10℃、50%RHに制御した恒温恒湿室(A)に発汗人体模型装置101を移動させた。次いで、体幹後206の皮膚の温度および発汗孔302から出てくる汗の温度を30分間測定した。また、発汗人体模型装置201まわりの環境温湿度の測定も行った。
【0039】
比較例1
発汗人体模型装置201を用い、発汗チューブ202の温度制御機構204を、30℃の定温制御にて作動させた。発汗人体模型装置201には、綿100%の半袖Tシャツとポリエステル100%のスカートを着用させた。発汗人体模型装置201を32℃、50%RHで制御した恒温恒湿室(A)に設置し、発汗人体模型装置201の皮膚の温度を35℃の定温制御により安定させた。安定後、発汗人体模型装置201の皮膚から発汗を開始させ、32℃、70%RHの恒温恒湿室(A)で背部の衣服内温湿度および皮膚の温度を5分間測定した。恒温恒湿室(A)の温湿度制御の設定値を50℃、20%RHに変更し、恒温恒湿室(A)にあらかじめ設置しておいたカーシートに発汗人体模型装置201を着座させた。恒温恒湿室(A)の温湿度が50℃、20%RHになってから、着座後の恒温恒湿室(A)の温湿度制御の設定値を18℃、50%RHに変更し、着座を継続させた。着座中の体幹後206の衣服内温湿度および皮膚の温度を測定した。また、発汗人体模型装置201まわりの環境温湿度の測定も行った。使用したカーシートはパッド層がモールドウレタン、ワディング層がスラブウレタン、表皮層が本革である一般的な形状のシートである。
【0040】
比較例2
実施例1と同じ装置を用い、発汗チューブ202の温度制御機構204は作動させなかった。発汗人体模型装置201には、綿100%の半袖Tシャツとポリエステル100%のスカートを着用させた。発汗人体模型装置201を32℃、70%RHで制御した恒温恒湿室(B)に設置し、発汗人体模型装置201の皮膚の温度を30℃の定温制御により安定させた。安定後、発汗人体模型装置201の皮膚から発汗を開始させ、32℃、70%RHの恒温恒湿室(B)で背部の衣服内温湿度および皮膚の温度を5分間測定した。その後、移動機構102により恒温恒湿室(B)からすばやく10℃、50%RHに制御した恒温恒湿室(A)に発汗人体模型装置101を移動させた。次いで、体幹後206の皮膚の温度および発汗孔302から出てくる汗の温度を30分間測定した。また、発汗人体模型装置201まわりの環境温湿度の測定も行った。
【0041】
比較例3
実施例1と同じ装置を用い、発汗チューブ202の温度制御機構204を30℃の定温制御にて作動させた。ただし、恒温恒湿室(A)と恒温恒湿室(B)の容積比(A/B)は、3.5/1とした。発汗人体模型装置201には、綿100%の半袖Tシャツとポリエステル100%のスカートを着用させた。発汗人体模型装置201を32℃、70%RHで制御した恒温恒湿室(B)に設置し、発汗人体模型装置201の皮膚の温度を30℃の定温制御により安定させた。安定後、発汗人体模型装置201の皮膚から発汗を開始させ、32℃、70%RHの恒温恒湿室(B)で背部の衣服内温湿度および皮膚の温度を5分間測定した。その後、移動機構102により恒温恒湿室(B)からすばやく10℃、50%RHに制御した恒温恒湿室(A)に発汗人体模型装置101を移動させた。次いで、体幹後206の皮膚の温度および発汗孔302から出てくる汗の温度を30分間測定した。また、発汗人体模型装置201まわりの環境温湿度の測定も行った。
【0042】
比較例4
実施例1と同じ装置を用い、発汗チューブ202の温度制御機構204を30℃の定温制御にて作動させた。ただし、恒温恒湿室(B)と恒温恒湿室(A)の風量を、恒温恒湿室(A)よりも恒温恒湿室(B)の方を多くした。発汗人体模型装置201には、綿100%の半袖Tシャツとポリエステル100%のスカートを着用させた。発汗人体模型装置201を10℃、50%RHで制御した恒温恒湿室(B)に設置し、発汗人体模型装置201の皮膚の温度を35℃定温制御により安定させた。安定後、発汗人体模型装置201の皮膚から発汗を開始させ、10℃、50%RHの恒温恒湿室(B)で体幹後206の皮膚の温度および発汗孔302から出てくる汗の温度を5分間測定した。また、発汗人体模型装置201まわりの環境温湿度も測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
図4の結果より、測定開始から15分後の皮膚の温度は、モニター試験の場合には36.9℃で、レール式移動型発汗人体模型装置を用いると、皮膚の温度は36.7℃であった。この結果から、レール式移動型発汗人体模型装置を用いることで、環境変化時のモニターの皮膚の温度を正確に再現できていることが分かる。また、測定開始から15分後の環境温湿度は、モニター試験の場合には31℃、24%RHであり、レール式移動型発汗人体模型装置を用いた場合には、31℃、27%RHであった。この結果から、環境温湿度も、モニター試験の結果を正確に再現できていることが分かる。さらに、図6、図7の結果より、測定開始から15分後の衣服内温湿度は、モニター試験の場合には36.6℃、36.5mmHgであり、レール式移動型発汗人体模型装置を用いた場合には、36.7℃、37.7mmHgであった。この結果から、衣服内温湿度についても、本発明の快適性評価装置を用いることで、モニター試験の結果を正確に再現できていることが分かる。
【0046】
一方、比較例1のように、1つの恒温恒湿室で温湿度制御設定値を変更すると、測定開始から15分後の皮膚の温度は38.1℃であり、モニター試験の皮膚の温度を再現することができていない。また、測定開始から15分後の環境温湿度および衣服内温湿度は、それぞれ、44℃、47%RHおよび、37.2℃、44.4mmHgであり、モニター試験の結果を再現することができなかった。
【0047】
実施例2において、測定開始から15分後の汗の温度は約29.8℃であった。皮膚の温度と同程度の温度の発汗が安定して得られたのに対し、比較例2において、測定開始から15分後の汗の温度は約23.4℃であった。そのため、皮膚の温度とは大きく異なる温度の発汗が得られた。したがって、温度制御機構を設けていないために環境温度の影響を大きく受けたことが分かる。
【0048】
実施例2の場合には、測定開始15分後の環境温湿度は15℃、47%RHであるのに対し、比較例3では28℃、36%RHであった。すなわち、恒温恒湿室(B)の容積が恒温恒湿室(A)の容積より大きくなる場合、恒温恒湿室(B)の温湿度の影響を受け、環境変化速度が遅くなり、発汗人体模型装置の汗の温度および皮膚の温度にも影響を及ぼすことが分かる。
【0049】
さらに、比較例4の場合には、測定開始15分後の環境温湿度は25℃、41%RHであった。すなわち、恒温恒湿室(B)の風量が恒温恒湿室(A)の風量より大きく、恒温恒湿室(A)が恒温恒湿室(B)に対し負圧になると、恒温恒湿室(B)の温湿度の影響を受けて環境変化速度が遅くなり、発汗人体模型装置の汗の温度および皮膚の温度にも影響を及ぼしていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の移動型発汗人体模型装置は、急激な温熱環境変化時の快適性評価ができるため、オフィスから屋外、リビングから寝室、屋外から自動車室内などの2つの環境を人が移動する際の快適性の定量的な測定装置として有用である。そのため、例えば、夏季の自動車の使用実態に即した快適性に優れるカーシートの開発に寄与することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明で用いる移動型発汗人体模型装置の一例の側面の概略図である。
【図2】本発明の快適性評価装置の模式図である。
【図3】本発明で用いる発汗人体模型装置に採用される発汗機構の構成部分の断面図である。
【図4】夏季に駐車している自動車室内に乗車し、カーシートに着座後、エアコンで室内を冷却することを想定した環境下における、発汗人体模型装置の周囲の温度および湿度の経時変化を測定した結果である。
【図5】夏季に駐車している自動車室内に乗車し、カーシートに着座後、エアコンで室内を冷却することを想定した環境下における、発汗人体模型装置およびモニターの体幹後の皮膚の温度を測定した結果である。
【図6】夏季に駐車している自動車室内に乗車し、カーシートに着座後、エアコンで室内を冷却することを想定した環境下における、発汗人体模型装置およびモニターの体幹後の衣服内温度を測定した結果である。
【図7】夏季に駐車している自動車室内に乗車し、カーシートに着座後、エアコンで室内を冷却することを想定した環境下における、発汗人体模型装置およびモニターの体幹後の衣服内湿度を測定した結果である。
【符号の説明】
【0052】
101:発汗人体模型装置
102:移動機構
103:断熱パネルドア
A:恒温恒湿湿(A)
B:恒温恒湿湿(B)
201:発汗人体模型装置
202:発汗チューブ
203:頭部
204:発汗チューブ温度制御部
205:体幹前
206:体幹後
207:腰部
208:右腕
209:左腕
210:右大腿部
211:左大腿部
212:右下腿部
213:左下腿部
301:本体壁
302:発汗孔
303:模擬皮膚
304:加熱ヒータ
305:発汗チューブ
306:送水ポンプ
307:元水タンク
308:水量調整手段
309:温度センサ
310:衣服
311:温湿度センサ
C:空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発汗人体模型装置201、温度または/及び湿度の異なる2つの恒温恒湿室(A)及び(B)、恒温恒湿室(B)から恒温恒湿室(A)へ発汗人体模型装置201を移動させる移動機構102を具備してなる快適性評価装置であって、
発汗人体模型装置201は、全身を、頭部203、体幹部前205、体幹部後206、腰部207、右腕部208、左腕部209、右大腿部210、左大腿部211、右下腿部212および左下腿部213の10部位に分割され、頭部203以外の前記9部位には、表面側から順に模擬皮膚303、発汗孔302を有する本体壁301、および過熱ヒータ304が積層された発汗機構と、上記発汗孔に水分を供給する水量調整手段308と、模擬皮膚303の表面温度を測定するため、模擬皮膚303の表面に接するように設けられる第1センサ(温度センサ309)と、衣服310を発汗人体模型装置201に装着した場合に、模擬皮膚303と衣服310との間に形成される空気層Cの温度および湿度を測定するため、センサ部が空気層Cに位置するように設置される第2センサ(温湿度センサ311)とを備え、
恒温恒湿室(B)と恒温恒湿室(A)は、壁または床を介して隣接しており、該壁または床には開閉機構が設けられている、快適性評価装置。
【請求項2】
発汗人体模型装置201の頭部203は、外部から発汗人体模型装置201内に発汗チューブ202が挿入され、さらに温度制御機構部204が設けられてなる、請求項1に記載の快適性評価装置。
【請求項3】
発汗人体模型装置101の移動機構102が、発汗人体模型装置101を頭部から吊り下げたレールをスライドさせて発汗人体模型装置101を移動させるレールスライド式移動機構であることを特徴とする、請求項1に記載の快適性評価装置。
【請求項4】
恒温恒湿室(A)および恒温恒湿室(B)の容積比(A/B)が、3/1〜5/1であり、移動前の発汗人体模型装置101が恒温恒湿室(B)に設置されていることを特徴とする、請求項1に記載の快適性評価装置。
【請求項5】
恒温恒湿室(A)および恒温恒湿室(B)の内圧が、恒温恒湿室(A)に対して恒温恒湿室(B)が負圧であることを特徴とする、請求項1または4に記載の快適性評価装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の快適性評価装置を用いて、温度または/および湿度を変化させた環境下で、発汗人体模型装置201の体幹前部205、体幹後部206、腰部207、右腕部208、左腕部209、右大腿部210、左大腿部211、右下腿部212および左下腿部213の衣服内温湿度、皮膚の温度、消費熱量の少なくとも1つを評価する快適性評価方法であって、
恒温恒湿室(B)に配置された発汗人体模型装置201を、恒温恒湿室(B)とは温度または/及び湿度の異なる恒温恒湿室(A)へ、移動機構102を用いて発汗人体模型装置201を移動させることを特徴とする快適性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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