説明

急性呼吸窮迫症候群の治療

検出可能なSP−B依存性活性を生じさせるのに十分な、リン脂質濃度に対するSP−B濃度で、SP−B及びリン脂質を含む、治療に有効な量のサーファクタントを患者に投与することにより、急性呼吸窮迫症候群または急性肺障害を患う患者を治療する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本願は、2006年1月23日に出願の米国仮特許出願第60/761,250号及び2006年1月23日に出願の国際出願第PCT/US2006/02423号の優先権の利益を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、肺サーファクタント製剤を患者に投与することによる、急性肺障害(ALI)及び/または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を患っている患者の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、乳児呼吸窮迫症候群(IRDS)と臨床像が似ており、その両方が、剖検の際に硝子膜症を示したことから、当初は、成人呼吸窮迫症候群と称されていた(非特許文献1及び2)。Avery及びMead(非特許文献3)が、IRDSを有する乳児の肺サーファクタントの量及び活性が異常であることを最初に報告し、その後、サーファクタント補充療法が、IRDSの危険性のある、またはIRDSを有する早産児の標準的治療法となっている。Petty及びAshbaugh(非特許文献4)は、ARDSについての彼らの最初の記述で、サーファクタントの質的及び量的欠乏について説明し、Notterによって最近検討された、その後の科学文献(非特許文献5)によって、ARDS及び重症度の低い急性肺障害(ALI)の両方において、サーファクタントの機能不全の役割が裏付けられた(非特許文献6)。
【0004】
ヒトのARDS及びALIにおけるサーファクタント補充療法は、ほとんどが失敗に終わっている。ARDSまたはALIを有する成人を、エアゾール化された合成のExosurf(Burroughs Wellcome社製、カナダ国ケベック州、カークランド所在)で治療し(非特許文献7)、半合成のSurvanta(Abbott Laboratories社製、米国イリノイ州アボットパーク所在)を投与し(非特許文献8)、組換えサーファクタント特異的タンパク質であるC系(C-based) Venticute(ALTANA Pharma社製、ドイツ国コンスタンツ所在)を投与する(非特許文献9)、3種類の大いに期待されたサーファクタント補充療法の無作為化比較臨床試験では、利益がほとんどないかあるいは全くないことが実証された。
【0005】
サーファクタント製剤は、リン脂質、中性脂肪、及びタンパク質組成が異なっており、先の試験の失敗は、これらの差異に関連している可能性がある。疎水性のサーファクタント・アポ蛋白であるサーファクタント特異的タンパク質Bの重要性は、ごく最近になって認識されるようになった(非特許文献10)。
【0006】
カルファクタントは、天然のウシのサーファクタントに含まれているのと同様の、アポ蛋白SP−Bに対するリン脂質の比を有する、改質された天然のサーファクタントである(非特許文献11)。生物物理学的及び生物学的試験は、天然のサーファクタントと等しい活性(非特許文献12)、ならびに、血漿及び肺障害に関連する他のタンパク質による、または細胞壁及びリゾリン脂質による抑制に対する耐性を、実証している(非特許文献13)。
【0007】
カルファクタントなどのSP−Bを高濃度で含む天然のサーファクタントが、ARDSまたはALIにおける有効性を証明するかもしれないという仮説が立てられた。ALIのために人工換気された29名の子どもにおける非盲検試験では、カルファクタントの投与に対する陽性の急性期反応が1996年に報告され(非特許文献14)、その後の42名の患者の対照非盲検試験において、この急性期改善が再現され、人工換気及び集中治療室の治療の短縮が実証された(非特許文献15)。これらの予備的研究における肯定的な結果から、ADRSまたはALIによる呼吸不全を有する乳児、子ども、及び青年における、プラセボと比較したカルファクタントの多施設の盲検の対照臨床試験が導かれた。
【非特許文献1】Lancet. 1967;2:319-323
【非特許文献2】Chest. 1971; 60:233-239
【非特許文献3】Avery and Mead, Am. J. Dis. Child. 1959:97:517-523
【非特許文献4】Petty and Ashbaugh, Chest. 1971; 60:233-239
【非特許文献5】Notter, Lung Surfactants. New York, NY: Marcel Dekker, 2000
【非特許文献6】Am- J.Respir. Crit. Care Med. 1994; 149:818-824
【非特許文献7】N. Engl. J. Med. 1996;334: 1417-1421
【非特許文献8】Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997; 155:1309- 1315
【非特許文献9】N. Engl. J. Med. 2004;351 :884-892
【非特許文献10】Pediatr.Res. 1986;20:460-467
【非特許文献11】Expert Opin. Pharmacother. 2001 ;2: 1479-1493
【非特許文献12】Am.Rev Respir. Dis. 1992; 145:24-30
【非特許文献13】Am. J. Respir. Crit Care Med. 199R;1 58:28-35
【非特許文献14】Crit Care Med. 1996;24:1316-1322
【非特許文献15】Crit. Care Med. 1999;27:188-195
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、呼吸を持続するために機械的人工換気の使用を必要とする、肺病を患う患者の治療方法に関する。本方法は、検出可能なSP−B依存性活性を生じさせるのに十分な、リン脂質濃度に対するSP−B濃度で、SP−B及びリン脂質を含むサーファクタントを治療に有効な量、患者に投与する工程を含む。
【0009】
サーファクタントは、カルファクタントであることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)または急性肺障害(ALI)を患う患者、及び、呼吸を持続するために機械的人工換気の使用を必要とするが、ARDSまたはALIのためのX線及び/または重症度の基準を満たさない肺病を患っている他の患者を治療する方法に関する。さらに具体的には、本発明は、(a)急性肺障害を患っている患者であって、胸部X線写真で両肺に重度の肺水腫/虚脱が認められ、かつ、吸入酸素濃度FiO2に対する動脈酸素分圧PaO2の比が300未満(PaO2/FiO2<300)である、機械的人工換気を必要とする急性呼吸不全を有する患者;(b)PaO2/FiO2<200を示す、一部のALI患者である、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を患う患者;及び、(c)呼吸を持続するために機械的人工換気の使用を必要とするが、ARDSまたはALIのためのX線及び/または重症度の基準を満たさない肺病を患っている患者、からなる群より選択される患者の治療を対象としている。
【0011】
本方法は、検出可能なSP−B依存性活性を生じさせるのに十分な、リン脂質濃度に対するSP−B濃度で、SP−B及びリン脂質を含むサーファクタントを治療に有効な量、患者に投与する工程を含み、それによって、プラセボ治療された同程度の患者と比較して、患者の生存の可能性が向上する。
【0012】
本発明に関して、「SP−B」という用語は、「アポ蛋白SP−B」または「SP−B様の活性を示すタンパク質」のいずれかを称するものと理解されたい。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態では、サーファクタントは気道内注入によって投与される。
【0014】
本発明の別の好ましい実施の形態では、治療的に有効な量は、体重1kgあたり約10mg〜約200mgのリン脂質を含み、これは、約400mg〜約8400mgリン脂質/m2体表面積、または、約35mg/mlの濃度のリン脂質を含んでいる懸濁液約11ml〜約240ml/m2に相当する。
【0015】
本発明の別の好ましい実施の形態では、サーファクタントは、約25mg/ml〜約100mg/mlのリン脂質に加えて、リン脂質の重量を基準として約0.1重量%〜約4.0重量%の量のSP−Bを含む生食懸濁液を含む。
【0016】
本発明の別の好ましい実施の形態では、サーファクタントは、肺サーファクタントである。
【0017】
本発明の特に好ましい実施の形態では、サーファクタントは、カルファクタントである。
【0018】
SP−Bの活性は、生物物理学的活性または生物活性として測定することができる。生物物理学的活性は、Wangら(Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2002; 283: L897)に記載されるように、20サイクル/分で、Pulsating Bubble Surfactometer(Electronetics社製、米国ニューヨーク州アマースト所在)で振動させた場合に、対象とする懸濁液における逆流する気「泡」の表面張力が、5分以内に最小気泡容積で<3mN/mに達することの観察によって決定される。生物活性は、Bermel(Lung 1984; 162:99- 113)またはMizuno(Pediatr Res 1995, 37:271 -276)の方法を用いて、切除された、またはその場(in situ)でのサーファクタント欠乏動物肺における標準の収縮内圧容量曲線の回復を観察することによって決定される。
【0019】
別の実施の形態では、本発明は、外因性のSP−BまたはSP−Cを単独でまたは組み合わせて含む本発明の組成物の補給、特に、外因性のSP−Bの補給に関する。例えば、本発明の結果は、反直感的である。というのも、ARDS/ALIが、早産児の肺に蔓延する状態を説明するのに使用するのがもっともふさわしいであろう用語である、サーファクタント欠乏状態であるとは容易に特徴付けられないからである。その代わりに、いかなる特定の理論にも拘束されないが、本願で得られた結果は、ARDS/ALIを、標準的なサーファクタント機能が例えば肺損傷に起因するタンパク質及び他の物質によって妨害されている、サーファクタント欠乏状態と称するのが最も適しているかもしれないことを示唆している。
【0020】
さらに、いかなる特定の理論にも拘束されないが、本願で得られた結果は、このようなサーファクタント欠乏状態におけるサーファクタントの保護の態様を強く示唆しており、また、サーファクタントに加えられたSP−B及び/またはSP−Cの存在、特にSP−Bが、ARDS/ALIを患っている患者に、特にこのようなARDS/ALI患者の死亡率を低下させる点で、有利な効果を与えている可能性も強く示唆している。
【0021】
よって上記の観点から、本発明の実施の形態は、限定はしないが、外因性のSP−BまたはSP−Cを加えた、ウシ肺を基本とする本発明のサーファクタントを含む、本発明のサーファクタントの補給に基づいている。例えば、本発明のサーファクタントに、参照することによりそのすべてを本願に援用する、米国特許第6,020,307号または同第 6,458,759号の各明細書に記載のごとく得られたSP−BまたはSP−Cを補給する。このような組成物は、上記の、または上記に加えて、さらなる有利な特性を示す可能性がある。これらの特性のアッセイには、臨床研究、さらには本明細書の別の箇所に記載するような肺機能についての物理的及び生化学的アッセイが含まれる。アッセイには、サーファクタントの機能不全に陥るであろうARDS/ALIの事例の肺にさまざまな化合物が存在するモデルとなる、動物モデルも含まれ、それによって、体外から提供されたSP−BまたはSP−Cを単独で、または組み合わせて含むサーファクタントの保護効果をアッセイ可能にする。
【0022】
本発明の上記の実施の形態では、リン脂質の重量を基準として、サーファクタント中のSP−Bの総量(すなわち、内因性と外因性を足した量)が約0.1重量%〜約40重量%になるような量でSP−Bを加えて差し支えなく、サーファクタント中のSP−Bの総量が、約0.7重量%、0.8重量%、0.9重量%、1.0重量%、1.1重量%、1.2重量%、1.3重量%、1.4重量%、1.5重量%、1.6重量%、1.7重量%、1.8重量%、1.9重量%、2.0重量%、2.1重量%、2.2重量%、2.3重量%、2.4重量%、2.5重量%、2.6重量%、2.7重量%、2.8重量%、2.9重量%、3.0重量%、3.1重量%、3.2重量%、3.3重量%、3.4重量%、3.5重量%、3.6重量%、3.7重量%、3.8重量%、3.9重量%、または4.0重量%になるような量がさらに好ましく、リン脂質の重量を基準として約0.7重量%を超える量がもっとも好ましい。SP−Cも同様の量で加えて構わない。
【0023】
以下の説明は、本発明の方法を例証するものである。当業者は、本発明の範囲が、本発明に記載される特定の実施例および治療のプロトコルによって制限されないことを認識するであろう。
【0024】
患者
本発明に従って、治療が行なわれる患者は、零歳児、すなわち受胎後週数が40週以降であり、生後1週間以上であることが好ましい。
【0025】
Pediatric Acute Lung Injury and Sepsis Investigatorネットワークを通じて、21の小児集中治療室(PICUs)が、2000年7月から2003年7月までの3年間に亘って患者を登録した。各施設での施設内治験審査委員会が研究プロトコルを承認した。登録前に両親または保護者からインフォームド・コンセントを得た。与えられた人口統計学情報には、年齢、性別、及び人種/民族(白人、黒人、ヒスパニック系、またはその他)が含まれ、医療記録から判断された。
【0026】
登録基準として、1週から21歳までの年齢;X線写真上明らかな両肺の実質性肺疾患による呼吸不全;機械的人工換気の開始から24時間以内の登録(最初の50パネル以降は48時間に延長);7よりも高い酸素飽和指数[酸素飽和指数=(吸入酸素濃度)×(平均気道内圧)×100/PaO2]が挙げられる。
【0027】
排除基準には、未熟児(修正在胎期間<37週);喘息重積状態;グラスゴー昏睡尺度で<8の頭部損傷;家庭酸素または利尿剤の使用によって定義される慢性肺疾患;脳死、蘇生禁止指示、心肺蘇生術を行っている、または生命維持の制限;抜管を遅らせる可能性のある、重症の気道疾患;無関係の先天性心疾患、以前から存在する心筋機能障害、または心原性肺水腫が含まれる。
【0028】
無作為化は、研究登録時の各群の肺障害の重症度を階層化して、バランスを取った。階層化は、機械的人工換気の開始から6時間以内に、酸素飽和指数が7より大きく13未満(緩徐登録(slow entry))の患者と比較した、酸素飽和指数が13以上(即時登録(fast entry))の患者の死亡率の増加の証拠を基にした。
【0029】
研究プロトコル
患者に、2回用量の80ml/m2カルファクタント(生理食塩水中の35ml/mlリン脂質懸濁液)または同一の空気容量のプラセボの気道内注入を、無作為に行った。10kg未満の体重の乳児のための、等価のカルファクタントの新生児用量は3ml/kgであった。治療は、小カテーテルを通じて、4等分にして気道内に注入した。等分の投与毎に患者体位を変え(左側臥、頭部上向きの後、下向き;右側臥、頭部上向きの後、下向き)、処置用に鎮静及び神経筋遮断薬を与えた。ガス交換は、機械的人工換気で以前使用したのと同程度の圧力を用い、100%酸素の用手人工換気によって維持された。プロトコルに従い、酸素飽和指数が依然として7を超えている場合には、平均(標準偏差)12(2)時間後に、2回目の治療を行った。
【0030】
ブラインド試験を維持するため、あらかじめ中央で2および4のブロックに無作為化された、適切な即時登録または緩徐登録ファイルから、薬剤師が、次の(不透明な)封筒を取り出し、不透明な容器に入れたカルファクタントまたはプラセボの注射器をPTCUへ送った。患者のケアに関係しない呼吸療法士が、不透明のテープを気管内チューブに取り付けて、治療を行った。患者をケアする内科医、治験責任医師、及び看護士には、研究の間中、治療の割付が分からないままにした。
【0031】
関係している内科医は、8ml/kg未満の1回換気量、0.6未満の吸入酸素濃度、40mmHg未満の最大吸気圧、及び40より大きく60mmHg未満のPaCO2に制限する人工換気のガイドラインに従うことに同意した。血液ガス及び人工換気の設定を、研究第14日目に評価した。
【0032】
他のサーファクタントでの治療は禁止され、臨床ケアチームが患者のケアに関する他のすべての態様を決定した。あらかじめ、すべてのデータを回収した。
【0033】
治験薬
カルファクタント(米国ニューヨーク州アマースト所在のONY社によって製造されたInfasurf)は、IRDS用として米国食品医薬品局(FDA)に承認され、リン脂質、中性脂肪及び疎水性のアポ蛋白SP−B及びSP−Cを、生まれたばかりの子牛の肺の生理食塩水による洗浄によって得られたウシの肺サーファクタントから抽出することによって生成した、改質された天然の肺サーファクタントである。
【0034】
研究成果
有効性の第一義的転帰は、研究登録後28日間のうち、人工換気しない日数によって判断する呼吸不全の継続時間であった。人工換気しない日とは、死亡率及び機械的人工換気の継続時間の両方を取り込んだ複合転帰である。分析では、死亡または膜型人工肺の必要性は、28日間で未解決の呼吸不全に相当し、人工換気しない日には含めない。死亡は、最も重要な転帰としてあらかじめ認定され、安全対策上、注意深くモニターされた。予備的研究における死亡率の差異に基づいて、本研究では、死亡率の利益の認定は期待していなかった(Crit Care Med. 1996;24:1316-1322)。
【0035】
さらなる有効性転帰の評価として、PICU及び病院の在院日数、入院費、酸素補給療法の継続期間、及び従来の機械的人工換気の不発生(高頻度振動人工換気、一酸化窒素、または膜型人工肺の使用によって先験的に定義された)が挙げられる。
【0036】
治療後24時間に亘って、治療群およびプラセボ群における酸素飽和指数を比較することにより、サーファクタント治療の急性効果を評価した。バイタルサインおよび酸素測定を継続的にモニターし、治療後、5分間隔で30分間記録した。研究治療時の合併症には、バイタルサイン(例えば、徐脈、低血圧)または80%未満の酸素飽和度の持続(>30秒)における、任意の顕著な変化が含まれた。安全性の転帰には、死亡率、肺合併症(空気漏れ、肺出血、及び院内肺炎)、及び任意の予期せぬ有害事象が含まれた。
【0037】
研究の管理
最初の研究設計では、300名の患者の登録及び2年間での完了を提唱した。小児呼吸不全の13日の標準的人工換気治療において25%の軽減を示した予備的研究データ(Crit. Care Med. 1999;27: 188-195)に基づいたサンプルサイズ計算には、0.05のαレベル及び0.10のβレベルを有する、274名の患者が必要と思われた。最初の1年の経過後、参加施設に登録されている患者数が期待したよりも少ないことが明らかとなった。データ及び安全性のモニタリング委員会は、1年の研究期間の延長、及び登録者数に関わらず、その年の終わりの時点での研究終了を承認した。データ及び安全性のモニタリング委員会は、100名の患者が登録された際に、安全性の中間解析を行った。有害事象または死亡に顕著な差異は見られなかった。しかしながら、死亡率は、委員会によってすべての死亡についてのブラインド・レビューが行なわれた、先の2つの研究におけるより高かった(Crit. Care Med. 1996;24:1316-1322, Crit. Care Med. 1999;27: 188-195)。委員会は、死亡者数の増加が、現在の研究に免疫不全の子どもを含めたことによるものと結論付けた。米国食品医薬品局の指示で、委員会はさらに各10例の死亡について研究結果のレビューを続けた。研究は、所定の3年の期限の時点で停止したのであって、死亡率の差異を理由として停止したのではない。我々が見出した死亡率の差異は、研究が打ち切られるまで、判明していなかった。
【0038】
統計分析
カテゴリー別の結果についての各群の比較には、x2試験が用いられた。各群と定量結果の比較には、ウイルコクソンの順位和検定が用いられた。時間と改善による抜管との比較には、治癒率モデルが用いられた(Lung 1984; 162:99-1)。経時による被験者内の酸素飽和指数の比較には、反復測定モデルが用いられた。事後解析では、即時登録または緩徐登録の層別因子、研究施設(患者の登録が<10の場所は、1箇所として扱った)、年齢別(<1年、1〜5年、6〜13年、13年>)、及び免疫状態(免疫不全と非免疫不全との対比)で補正された、死亡率における治療効果の評価に、ロジスティック回帰が用いられた。次に、すべての変数及び重要と認められた一部の変数について、治療群を含めた多変量モデルで試験した。我々は、治癒率モデルの適合には統計ソフトウェア(GAUSS(米国ワシントン州ケント所在のAptech Systems社製))を用い、他の解析には米国ノースカロライナ州カリー所在のSAS Institute 社製SAS version 8.2を用いた。統計的有意性は、P<0.05とした。
【0039】
結果
総数153名の患者が同意したが、1組の両親が治療前に同意を撤回した。77名の患者をカルファクタント群に割付し、75名の患者をプラセボ群に割付した(図1)。すべてのデータをITT解析(intention-to-treat analysis)に含めた。
【0040】
研究登録時、患者の91%がARDSの基準を満たしており、すべての患者がALIの基準を満たしていた(Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1994; 149: 818-824)。人口統計学的特性(demographic profile)、無作為化時の病気の重症度、あるいは合併診断または共存疾患について、両群間に有意差は認められなかった(表1)。統計的に有意ではないが、プラセボ群には5名の追加の骨髄移植(手術)患者、サーファクタント治療群には3名の追加の溺水患者がそれぞれ存在し、両群は死亡率のベースラインが高かった。8名のプロトコル違反が認められた:6名の患者(プラセボ3名、カルファクタント3名)は、最初の酸素飽和指数が7未満であったが、他のすべての登録基準を満たしており、2名の患者(プラセボ1名、カルファクタント1名)は研究治療後にプロトコルにないサーファクタント投与を受けた。人工換気のガイドラインの順守は、両群間で同程度であった。吸入酸素濃度及びピーク圧力は、90%を超える確率でガイドラインの範囲内であり、Paco2は、当時で80%を超える確率で、40mmHgよりも高かった。
【0041】
意外なことに、すべての死亡を考慮した場合、死亡率は、カルファクタントの群に比べてプラセボの群が非常に高く(27/75対15/77;オッズ比[OR]、2.32[95%信頼区間{CI}、1.15〜4.85])、呼吸不全が回復していない死亡について考慮した場合でもなお、有意であった(表2)。呼吸不全は、患者の40%における死亡を引き起こす原因であり、患者の43%における死亡の主要原因であった。カルファクタントの患者では、人工換気しなかった日数が28日間で平均(標準偏差)13.2(10)日であったのに対し、プラセボ患者では、平均11.5(10.5)日であった(P=0.21)。最初の28日間に亘る各群の抜管された患者の累積率を図2に示す。
【0042】
酸素飽和指数によって判断される酸化は、カルファクタント投与の両方において、非常に改善された(図を参照)。最初の治療後の改善は、ほとんどの患者において再治療を不要にするほどの効果はなく、ほとんどのカルファクタント患者(70%)及びプラセボ患者(79%)の酸素飽和指数が依然として7よりも大きかったため、研究プロトコルに従って、2回目の治療を施した。
【0043】
12ヶ月未満の乳児は母集団の26%を構成した。プラセボ患者のこの下位群における死亡率は、カルファクタント治療患者の死亡率の3倍よりも高かった(9/19対3/21;P=0.02)。人工換気をしなかった日数もまた、プラセボ患者では有意に少なかった(平均[SD]:57.0[9.9]に対して、15.2[10.3];P=0.01)。
【0044】
表2は他の臨床転帰を報告している。比較的多くのプラセボ患者が、研究治療後の従来の機械的人工換気に反応しなかった。酸素療法の継続期間、病院及びPICUの在院日数、及び入院費の比較では、両群で統計的な差異は示されなかった。
【0045】
注入に関連する直接の合併症は、カルファクタント患者で比較的頻繁に起こり、サーファクタントの注入に対する新生児の急性期反応(Pediatrics. 1997;100:31-38)と似ていた。プラセボ注入の1%と比較して、カルファクタント注入の9%に、低血圧が見られた(P=0.005)。低血圧のすべての患者が、大量注入の影響を受けた。プラセボ注入の3%と比較してカルファクタント注入の12%に、一時的な低酸素状態が起こった(P=0.008)が、カルファクタントの注入速度を緩めるか、及び/または陽圧換気を一時的に増加させることで解消した。治療の合併症の理由から、いずれの患者も本研究から除外されなかった。空気漏れの発生率は、カルファクタント群で13%、プラセボ群で16%であった(P=0.65)。カルファクタント患者の6%及びプラセボ患者の11%に院内肺炎がみられた(P=0.40)。両群において治療が原因とされる全身性の合併症はみられなかった。先天性(即時登録と緩徐登録の対比、施設)または後天性(年齢、免疫状態、登録番号)を確認する因子を補正した死亡率における治療効果のオッズ比(ORs)および関連する95%信頼区間(CIs)を図3に示す。治療群は、モデルのすべてで有意というわけではなく、特に、免疫不全状態を補正したモデルでは有意ではないが、表3に連ねたすべてのモデルで、治療に関係するオッズ比が、少なくとも2.1であった。
【0046】
この多施設共同研究で、カルファクタントで治療されたALIを患う乳児、子ども、及び青年は、死亡率が低下し、酸素飽和指数の改善が比較的早くなり、従来の機械式人工換気に反応する傾向が強くなった。最初の結果因子である人工換気しなかった日数には、両群に有意な差異はなかった。一時的な低酸素状態及び低血圧がカルファクタント治療で比較的頻発したが、これらの影響は穏やかであり、研究から除外する必要はなかった。この試験での人工換気におけるカルファクタントの好ましい急性効果は、子供についてのカルファクタントの過去の研究と一致している(Crit. Care Med. 1996; 24: 1316-l322, Crit. Care Med. 1999; 27: 188-195)。
【0047】
乳児呼吸窮迫症候群は、進行性の肺拡張不全から呼吸不全に至る、サーファクタントの量的欠乏に起因する。サーファクタントは、ARDSおよびALIにおいても欠乏しているが、気腔内に溶出する炎症性メディエータ、血漿タンパク、及び細胞残屑によっても抑制されている。その結果として、ARDSおよびALIにおけるサーファクタント補充療法の成功への挑戦は、IRDSに関するよりさらに複雑である(Biometrics. 2001; 57: 282-286)。IRDSにおける2種類のサーファクタントの効果は、ARDS及びALIにおける大規模臨床試験では、不本意な結果となった(N. Engl. J. Med. 1996; 334: 1417-1421, Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997; 155: 1309-1315)。
【0048】
以前に観察された、肺機能についてのカルファクタントの急性利益は、本研究でも再現された(Crit. Care Med. 1996; 24: 1316-1322, Crit. Care Med. 1999; 27: 188-195)。カルファクタント投与の両方で酸化が改善され、損傷した肺に機能性の膜を形成可能であることが実証された。しかしながら、カルファクタントは、肺機能を正常に至るまで回復するわけではなく、また、すべての患者に陽性の反応を示すわけではなかった。カルファクタント患者の55%にしか(対33%プラセボ患者)、最初の治療後12時間の酸素飽和指数に25%以上の改善が得られなかった。
【0049】
呼吸不全の継続期間は、予備的試験で見られたようにはカルファクタントで改善されなかった(Crit. Care Med. 1999; 27: 188-195)。カルファクタント患者における人工換気の平均継続期間は、在院日数及び入院費と同じように、プラセボ患者のものと同等であった(11.3対10.8日)。これらの因子について利益がなかったのは、カルファクタントで治療された患者の、予期しない不均衡な生存と因果関係があるかもしれない。早産児にサーファクタント療法を導入して観察されたように、生存の増加が、実際は、対症療法を長引かせる必要を増大させている可能性がある(J. Clin. Invest. 1991; 88: 1976-1981)。
【0050】
最初の肺障害の重症度が、生存に影響することが予想された。死亡率は、緩徐登録(20%)と比較して、即時登録(37%)の下位群で確かに高かった。死亡率は、カルファクタント患者の両方の階層で低かった(即時登録ではカルファクタント26%対プラセボ46%、緩徐登録ではカルファクタント14%対プラセボ26%)。呼吸不全が解消されなかったことが、死亡の83%を引き起こす根本原因または主要原因として挙げられ、治療後に酸化が改善されなかったことは死亡率と強い相関があった。呼吸不全がこの試験における死亡の重大な原因であることから、肺機能の改善が、妥当と思われる作用を与え、それによって、カルファクタントの治療が生存期間を延長させる可能性がある。
【0051】
死亡率(56%)が免疫正常患者(13%)の4倍である、以前は排除した免疫不全症の患者を含めたことにより、本研究における全死亡率は予備的研究時よりも高かった(Crit. Care Med. 1999; 27: 188-195)(予備的研究14%に対し、本研究28%)。免疫不全症(50%に対し60%)及び免疫正常患者(7%に対し20%)の下位群の両方で、カルファクタント患者の死亡率が低かった。プラセボ群で免疫不全症の患者の数が数的に大きい(プラセボ群30に対しカルファクタント群22;P=0.17)ことは、観察された両群の全死亡率の差異に影響を与えた。プラセボ治療での死亡率のオッズ比を試みたが、免疫状態の事後の補正後では統計的有意には至らなかった(P=0.08)(表3)。この研究は、特定の患者の下位群で効果を見出すのに十分な動力源ではなかった。
【0052】
3つの大規模なARDS試験(N. Engl. J. Med. 1996; 334: 1417-1421, Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997; 155: 1309-1315, V. Engl. J. Med. 2004; 351: 884-892)における他のサーファクタントでの失敗には複数の理由が存在するであろうが、これらの試験のいずれも、SP−Bを十分な量で含む肺サーファクタント製剤を使用しておらず、このSP−Bは、十分なサーファクタント活性、ならびに、ARDS/ALIの肺胞に存在する、血液及び炎症性タンパク質分子による抑制に対するサーファクタントの耐性にとって必須要素である(J. Clin. Invest. 1991; 88: 1976-1981, Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1996; 153: 176-184)。ヒトにおけるSP−Bの先天的欠損は、致死的な新生児性呼吸促迫症候群を引き起こし(J. Clin. Invest. 1994; 93: 1860- 1863)、SP−Bが不足して生まれたマウスは、呼吸不全で死産となる(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 1995; 92: 7794-7798)。SP−Bタンパク質は単独で、サーファクタントのリン脂質上に完全な生物物理学的活性及び生物活性を与える(J Lipid. Res. 1996; 37: 1749-1760)。本研究に使用したサーファクタントは、リン脂質に対するSP−Bの比率が高いことから、インビトロ及びインビボ実験によって決定されたように、不活性化に対して最高水準の耐性を有している(Expert Opin. Pharmacother. 2001; 2: 1479-1493, Am. Rev Respir. Dis. 1992; 145: 24-30, Eur. Respir J. 1993: 6: 971-977)。それは、以前に成人のARDSの治療に用いられた2種類のサーファクタントである、ExosurfまたはSurvantaよりも強い表面活性及び生理作用を有している(Chem. Phys. Lipids, 2002; 114: 21-34)。さらには、この試験で投与されたカルファクタントの量は、推定正常肺サーファクタント含有量の20mg/kgの3倍を超えた(Lung Surfactants, New York, NY: Marcel Dekker, 2000)。
【0053】
この多施設共同無作為化盲検試験では、小児急性呼吸不全の過程の初期におけるカルファクタントの投与は、酸化が急性改善される結果となり、また、意外にも死亡率を低下させた。治療の副作用はごくわずかであった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】カルファクタント及びプラセボの群に無作為に割り付けられた、患者の登録を表すチャート。
【図2】研究の間にカルファクタント及びプラセボ群における改善による抜管を比較したグラフ。
【図3】カルファクタントとプラセボの患者群における、経過時間に対する酸素飽和指数に関する2つのグラフ。
【図4−1】「発明を実施するための最良の形態」の項で述べた表1。
【図4−2】「発明を実施するための最良の形態」の項で述べた表2及び3。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸を持続するために機械的人工換気の使用を必要とする、肺病を患う患者を治療する方法であって、
検出可能なSP−B依存性活性を生じさせるのに十分な、リン脂質濃度に対するSP−B濃度で、SP−Bおよびリン脂質を含むサーファクタントを治療的に有効な量、前記患者に投与する工程を有してなる方法。
【請求項2】
前記患者が、(a)急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を患う患者、(b)急性肺障害(ALI)を患う患者、及び(c)X線及び/または、ARDSまたはALIの重症度の基準を満たさない他の患者、からなる群より選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記サーファクタントが肺サーファクタントであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記肺サーファクタントがカルファクタントであることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記投与する工程が、前記サーファクタントを気道内注入によって投与する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記患者が少なくとも約1週齢であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記患者が零歳児であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記治療的に有効な量が、体重1kgあたり約10mg〜約200mgのリン脂質を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記サーファクタントが、約25mg/ml〜約100mg/mlのリン脂質に加えて、リン脂質の重量を基準として、約0.1重量%〜約4.0重量%の量のSP−Bを含んでいる生食懸濁液を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記SP−Bが外因性のSP−Bを含むことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記外因性のSP−Bが、前記サーファクタント中のSP−Bの総量が少なくとも約0.7重量%になるように加えられることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
呼吸を持続するために機械的人工換気の使用を必要とする、肺病を患う患者を治療する方法であって、
検出可能なSP−B依存性活性を生じさせるのに十分な、リン脂質濃度に対するSP−Bの濃度で、SP−Bおよびリン脂質を含むサーファクタントを治療的に有効な量、前記患者に投与する工程を有し、
前記サーファクタントがカルファクタントであり、前記SP−Bが、サーファクタントにおけるSP−Bの総量が少なくとも約0.7重量%になるように加えられた外因性のSP−Bを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【公表番号】特表2009−526763(P2009−526763A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552543(P2008−552543)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/060902
【国際公開番号】WO2007/087524
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508221855)ニューマ パートナーズ エルエルシー (1)
【氏名又は名称原語表記】PNEUMA PARTNERS, LLC
【Fターム(参考)】