説明

急性腎不全の予防又は治療剤

【課題】本発明は急性腎不全に対する有効な治療剤又は予防剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明者らは、マウスに腎虚血再灌流障害による急性腎不全を発症させるモデル実験系においてラディシコールを投与した場合に急性腎不全が有意に改善することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明はラディシコールを有効成分として含有する急性腎不全の予防又は治療剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は急性腎不全の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
急性腎不全は、敗血症、呼吸不全、重篤な熱傷や外傷、手術の合併症、あるいは播種性血管内凝固といった病態においてしばしば併発する疾患である。急性腎不全の死亡率は高く、成人における死亡率は50%を超えるとも言われている。また移植腎においても急性腎不全を発症する頻度は非常に高く、発症した場合には、約30%に遅延型拒絶反応が起こる。これらの理由から、急性腎不全を特異的に治療する方法の開発は臨床上強く求められている。しかしながら未だ決定的な治療薬は見いだされておらず、現在行われている治療法は、25年間全く進展していない。
【0003】
一方、ラディシコール(radicicol)は微生物の代謝産物である。ラディシコール又はその誘導体は、抗腫瘍作用や免疫抑制作用等の有用な作用を有することが知られている(特許文献1、2及び3)。しかしながらラディシコールと急性腎不全との関係はこれまで検討されていない。
【0004】
【特許文献1】特許第3055967号公報
【特許文献2】国際公開WO 2002/015925号パンフレット
【特許文献3】特開平6-298764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は急性腎不全に対する有効な治療剤又は予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、マウスに腎虚血再灌流障害による急性腎不全を発症させるモデル実験系においてラディシコールを投与した場合に急性腎不全が有意に改善することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明はラディシコールを有効成分として含有する急性腎不全の予防又は治療剤に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により急性腎不全の予防又は治療が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いられるラディシコールは以下の構造を有する:
【化1】

【0009】
ラディシコールは、Neocosmospora tenuicristata、Cylinderocarpon radicicola、あるいはPenicillium属糸状菌を培地に培養し、培養物中にラディシコールを生成蓄積させ、該培養物中からラディシコールを単離精製することにより得られる[Pohanka, A. 2006. PhD. Thesis. Swedish University of Agricultural Sciences, Uppsala, 41 PP., J. Natural Products, 42, 374 (1979)]。本発明の目的のためには市販されているラディシコールを用いてもよい。
【0010】
ラディシコールは、水との水和物や、低級アルコール等との溶媒和物の形態であってよい。すなわち本発明におけるラディシコールの範囲内には、その水和物又は溶媒和物の形態も包含される。
【0011】
本発明におけるラディシコールの範囲にはまた、ラディシコールの前駆体であって、生体内で代謝されてラディシコールに変換されるいわゆるプロドラッグ化合物も包含される。
【0012】
ラディシコールを投与することにより、哺乳類に属する動物(典型的にはヒト)の体内において急性腎不全を予防又は治療することができる。ヒト以外の対象としては、例えば、サル、チンパンジー等の非ヒト霊長類、マウス、ラット、モルモット等の齧歯類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマなどが挙げられる。すなわち、ラディシコールは哺乳類に属する動物における急性腎不全の予防又は治療剤の有効成分として有用である。ラディシコールの対象動物への投与方法としては、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、坐剤等による非経口投与法、あるいは錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等による経口投与法が挙げられる。
【0013】
ラディシコールを含有する本発明の薬剤の調製にあたっては、投与経路に応じて各種の形態を採用可能である。例えば経口用固形製剤、経口用液体製剤、注射剤、坐剤等の形態に製剤化することができる。本発明の薬剤は、医薬上許容される担体又は賦形剤、或いは他の添加物を含んでもよい。
【0014】
経口用固形製剤とする場合は、ラディシコールに賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、細粒剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ドライシロップ剤等の経口用固形製剤に製剤化することができる。経口用液体製剤とする場合は、ラディシコールに矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等の経口用液体製剤に製剤化することができる。注射剤とする場合は、ラディシコールにpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤等の注射剤に製剤化することができる。これらの製剤化に使用する添加剤としては、当該分野で一般的に使用されている添加剤を使用できる。特に好ましい製剤の形態としては、静脈内用注射剤、皮下用注射剤、筋肉内用注射剤、坐剤、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が挙げられる。
【0015】
上記の各投与単位形態中に配合されるラディシコールの量は、治療又は予防上有効な量である限り、これを適用すべき患者の症状により、あるいはその剤形等に応じて適宜決定することができる。成人に対するラディシコールの投与量は対象疾患、投与経路および投与回数、期間などによって異なるが、通常は1日に10〜200mgを1回または数回に分けて投与する。
【実施例】
【0016】
実験手順
急性腎不全は、以下に手順を示す腎虚血再灌流によって発症させた。
7週齢の雄性ddy系マウスを、ペントバルビタール(ソムノペンチル、Schering-Plough K.K.、NJ)75 mg/kg, i.p.で麻酔後、正中開腹し、両側腎門部周囲の結合組織を鈍性剥離し、microvascular clip(RS-5426、Roboz Surgical Instrument Co., Inc.、MD)を用いて血流を遮断した。35分後clipを外し、再灌流させた(腎虚血再灌流)。その後、縫合し、麻酔から覚醒させた。処置の途中、マウスをホットプレート上で保温することで体温を36℃から38℃に保ち、0.9% NaClを腹腔内投与することで循環血液量を維持した。処置前および再灌流後24時間において採血を行った。血液をヘパリン(富士製薬工業、Tokyo)処理し、12,000 rpmで10分間遠心して血漿を分離した。腎機能を評価するために、血漿を用いてクレアチニン(creatinine, Cr)値および尿素窒素(urea nitrogen, UN)値を測定した。Cr値の測定には、富士ドライケムスライド(CRE-P III、富士写真フイルム株式会社、Tokyo)を用いた。UN値の測定には富士ドライケムスライド(BUN-P II)を用いた。薬物は50%DMSO+50%生食水(vehicle)に溶解し、麻酔の1時間前および縫合の直前に腹腔内投与した。実験結果の項で言及する投与用量は、この2回の投与の合計量である。
【0017】
データは平均±標準誤差で表した。有意差の検定には、studentのt検定を用い、P < 0.05で有意差を判定した。
【0018】
実験結果
急性腎不全に対するradicicolの作用を検討するため、vehicle群、radicicol 40 mg/kg群、radicicol 120 mg/kg群それぞれにおける腎IR処置前、処置後24時間に採血を行い、Cr値およびUN値を測定した。その結果を図1に示す。vehicle群と比較して、radicicol 40 mg/kg群では有意な差は認められなかったが、radicicol 120 mg/kg群では処置後24時間に有意なCr値およびUN値上昇の抑制が認められた(P<0.05)。*はvehicle群とP < 0.05で有意であったことを示す。(n)は例数を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1.1】vehicle群、radicicol 40 mg/kg群、radicicol 120 mg/kg群それぞれにおける、虚血再灌流処置の前日(pre)、および虚血再灌流処置24時間後(24 hrs post IRI)の各時点でのクレアチニン(creatinine, Cr)値を示す。
【図1.2】vehicle群、radicicol 40 mg/kg群、radicicol 120 mg/kg群それぞれにおける、虚血再灌流処置の前日(pre)、および虚血再灌流処置24時間後(24 hrs post IRI)の各時点での尿素窒素(urea nitrogen, UN)値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラディシコールを有効成分として含有する急性腎不全の予防又は治療剤。

【図1.1】
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【図1.2】
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【公開番号】特開2008−255076(P2008−255076A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101788(P2007−101788)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、「地域イノベーション創出総合支援事業」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】