説明

急硬性クリンカ及びセメント組成物

【課題】 製造が容易で特殊な装置や設備を必要とせず、水和活性が優れて良好な急硬性能を有し、経済的にも安価な急硬性クリンカ及び、前記急硬性クリンカを用いた経済的に安価なセメント組成物を提供する。
【解決手段】 急硬性クリンカは、C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)を、還元雰囲気下で焼成することによりなり、X線回折により測定した格子定数が11.93〜11.96Åであり、また前記急硬性クリンカと、硫酸塩とを含んでなる急硬性セメント組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急硬性クリンカ及び当該クリンカを用いたセメント組成物に関し、特に、良好な急硬性を呈するとともに、有害重金属である六価クロムの含有量を低減することができる、急硬性クリンカ及び当該クリンカ用いたセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トンネルや地下空間の建設工事では、モルタルやコンクリート等のセメント混合物を、壁面や露出面に吹き付けてライニングし、壁面や露出面の崩落を防止する吹き付け施工工法が広く実施されている。
かかるコンクリート吹き付け工法においては、コンクリート等を調製し、それを取り扱う際に必要な最低限の可使時間(ハンドリングタイム)を確保するとともに、壁面や露出面に吹き付けた後に、コンクリート等を即時に硬化させる必要がある。
また、止水工事や緊急工事においても、モルタルやコンクリートの可使時間を確保するとともに、即時に硬化させる必要がある。
【0003】
従来、急硬性セメントに使用されるクリンカとしては、ジェットセメントのクリンカ、CSOを主成分とするアーウィン系クリンカ、CAを主成分とするアルミナセメントクリンカ等がある。
また、急硬性成分であるC12を主成分としたクリンカを溶融し、その後これを急冷することによって、非晶質C12を得る方法もある。
【0004】
しかし、従来のジェットセメントクリンカは、カルシウムシリケート相を主成分とし速硬性成分としてC11・CaFを約20〜30重量%含有するクリンカであり、急硬性成分であるC12の含有量が少なく、十分な急硬性を示すことができず、急硬性セメント用のクリンカとしては満足すべきものでない。
また、アーウィン系クリンカは、急硬性を有するアーウィン(CSO)を70重量%以上含有することから急硬性セメント用クリンカとして利用されているが、その急硬性成分の特性により、常温や低温での急硬性に劣るという問題がある。
【0005】
CAを主成分とするアルミナセメントクリンカは、C12を主成分としたクリンカに比べると、急硬性が劣っており、従来のC12を主成分とするクリンカは、例えば、上記したような、急硬性成分であるC12を主成分としたクリンカを一旦溶融し、その後これを急冷することによって非晶質C12を合成する方法によって製造されているが、これらのクリンカを製造する方法は複雑であり、当該製造方法では、クリンカの溶融に電融法を用いていることから多量の電力を消費し、電力費が高くなり、結局製造コストが高騰するという問題がある。
【0006】
また、ポルトランドセメントに急結材を添加して急硬性を付与する急硬性セメントもあるが、通常、ポルトランドセメントに対しては、カルシウムアルミネートやアーウィン等の急結材の混入量を多く添加する必要があり、このため、コストが高くなるのに加え、高い急結性を得ることはできず、強度的にも問題が生じるという欠点がある。
【0007】
特開2002−293594号公報においては、所定の可使時間を確保でき、かつ可使時間の経過後には速やかに硬化する急硬性セメント組成物及び急結材として、一定の範囲の格子定数を有する結晶質のC11・CF固溶体を含有する焼結体が配合され、好ましくは40重量%以上配合される、急硬性セメント用急結材及び当該急結材をベースセメントに対して一定含量添加した急硬性セメント組成物が開示されている。
【0008】
また、特開2003−267762号公報には、コンクリート用急結材として、カルシウムアルミネート、硫酸塩、NaO/Alのモル比が1.0未満であるアルミン酸ナトリウム及びポルトランドセメントを含有する急結材であって、該急結材中のNaO量が1.5〜10.0質量%であり、かつ、カルシウムアルミネート、硫酸塩及びアルミン酸ナトリウムの合計量100質量部に対して、ポルトランドセメントの量が1.0質量部以上である急結材が開示されている。
【0009】
しかし、これらの従来の急結材及び急硬性セメントは、いずれも、急結材を得るに際し、特殊な原料や装置が必要であるため、製造が複雑となってしまうとともに、製造コストが高くなり、また、ポルトランドセメントに急結材を添加するセメント組成物は、期待する程度の高い急結性能を発現させることは難しいという問題を有する。
【0010】
一方、近年、セメント中の六価クロムの低減を目的として、セメント還元雰囲気下での焼成についても検討されており、特開2002−249775号公報には、1000℃以上の還元雰囲気下で製造されたカルシウムアルミネート、セメント、石灰及び石膏を含み、カルシウムアルミネートの作用によって六価クロムの溶出を低減する速硬型固化材が開示されている。
また、特開2004−18339号公報には、六価クロムを含有するセメントクリンカを、還元雰囲気下において650〜1100℃で加熱処理するセメントクリンカ中の六価
クロム低減方法が開示されている。
【0011】
しかし、これらの方法は、六価クロムの量が低減されるもののCSの分解や水和活性低下を引き起こし、強度の低下が生じてしまうといった問題を有している。
【特許文献1】特開2002−293594号公報公報
【特許文献2】特開2003−267762号公報
【特許文献3】特開2002−249775号公報
【特許文献4】特開2004−18339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、製造が容易で特殊な装置や設備を必要とせず、水和活性が優れて良好な急硬性能を有し、経済的にも安価な急硬性クリンカを提供することである。
また、本発明の他の目的は、前記急硬性クリンカを用いて、所定の可使時間を確保できるとともに、優れた急硬性を呈し、経済的に安価なセメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)を還元雰囲気下で焼成することにより、C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)固溶体中でのAl3+からFe3+への置換固溶量を減少させ、水和活性を向上し、急硬作用を発現させることができることを見出し、達成されたものである。
【0014】
すなわち、本発明の急硬性クリンカは、C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)を、還元雰囲気下で焼成することによりなり、X線回折により測定した格子定数が11.93〜11.96Åであることを特徴とする。
好適には、本発明の急硬性クリンカにおいて、前記還元雰囲気下での焼成を、温度1300〜1380℃で行うことを特徴とする。
本発明の急硬性セメント組成物は、上記本発明の急硬性クリンカと、硫酸塩とを含むことを特徴とする。
好適には、本発明のセメント組成物は、前記急硬性クリンカを70〜90質量%、硫酸塩を10〜30質量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の急硬性クリンカは、特殊な装置や設備を必要とせず、製造が容易で、水和活性を向上させて優れた急硬性能を有し、有害重金属である六価クロム含有量を低減させた、経済的にも安価なものとすることができる。
また、本発明のセメント組成物は、所定の可使時間を確保できるとともに、水和活性を向上させて優れた急硬性能を呈し、有害重金属である六価クロムの含有量を低減させた、経済的に安価なものとすることが可能となる。
従って、作業現場等における急硬性用途に有効に適用できるともに、セメント中に含まれる六価クロムによる水質汚染、土壌汚染等の問題を大きく改善することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を次の好適例により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の急硬性クリンカについて説明する。
本発明の急硬性クリンカは、C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)を、還元雰囲気下、好ましくは、1300〜1380℃で焼成させて、得られるものである。
このように、C12またはC11・CaXを還元雰囲気下で焼成することにより、C12またはC11・CaX中のAl3+がFe3+へ置換する置換固溶量を減少させることができ、水和活性を向上させて急硬作用を発現させ、比較的安価で、特殊な設備を必要とせず、六価クロム含有量の少ない急硬性クリンカ、及び当該クリンカを用いることによる急硬性セメント組成物を得ることができることとなる。
【0017】
まずC12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)のカルシウムアルミネートは、例えばボーグ式に基づいて、石灰質原料(例;生石灰、消石灰、石灰石)、アルミナ原料(例;水酸化アルミニウム、アルミナ)、必要に応じてフッ化カルシウム原料(例;ホタル石)を配合する。
次いで、該配合原料を、還元雰囲気下で、焼成してクリンカを得るが、その焼成温度は、原料や焼成方法等によって異なり、一概に決定はできないが、C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)固溶体の融液温度を下回る温度とし、例えば1300〜1380℃の温度で、好ましくは1330〜1370℃で十分に焼成してクリンカを得る。
焼成温度は、例えば、1300℃未満では、焼成が不十分となり、また1380℃を超えるとC12またはC11・CaXの分解が生じてしまう。
焼成時間については、処理するクリンカの量等によって一概に決定することはできないが、通常1〜2時間程度である。
【0018】
この際の雰囲気としては、還元雰囲気下であるが、還元雰囲気としては特に限定的ではなく、通常、密閉状態の容器中で酸素の供給を抑制した状態で、一酸化炭素、水素等の還元性ガスを供給しながら過熱する方法、密閉状態の容器中において酸素の供給を抑制した状態で各種固体燃料、可燃性廃棄物等の可燃物を供給する加熱する方法などによって、還元雰囲気下とすることができ、特に燃焼物の残留によるクリンカの品質変化を防止する点で、還元性ガスを供給する方法が好ましい。
【0019】
還元性ガスは、焼成する箇所に直接供給してもよく、またアルゴン等の不活性ガスで希釈して供給してもよく、希釈の程度については、特に限定されず、通常は、還元性ガス濃度が少なくとも1容量%程度以上であれば十分である。
該還元性ガスを供給する際には、酸素の供給を完全に遮断することが好ましい。
【0020】
このとき、還元性雰囲気下での焼成の過程で、C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)が生成すると、本発明の急硬性クリンカが生成される。
なお、上記のような配合原料からではなく、別に製造されたC12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)を含むクリンカを還元焼成してもよく、例えば、セメントクーラーから適当な経路で取り出された加熱状態のクリンカを処理対象としても、また焼成後冷却されたものを処理対象としてもよく、通常の塊状のクリンカをそのままの大きさで処理対象とすることができる。
【0021】
このように、C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)含有クリンカを、還元雰囲気下で焼成することにより、通常、C11・CaX(Xはハロゲンを示す)中のAl3+には、8〜9質量%のFe3+が置換固溶しているが、Fe3+はFe2+に還元されるため、Fe3+の固溶量が減少することにより水和活性が向上し、良好な急硬性を示すことができる。
また、Cr6+はCr3+に還元されるため、含有される六価クロムが低減できるという効果も期待できる。
【0022】
かかるC12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)含有クリンカには、CAのほかに、C12、C11・CaX(Xはハロゲンを示す)、CS、CSやCAF等を含んでいてもかまわない。
好適には、該C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)含有クリンカ中には、C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)が、20〜30質量%含まれることが好ましい。
20質量%以上であれば、十分な急硬性と強度発現性が得られ、また、30質量%以下であれば、溶融しすぎることがなく良好な性状を維持してクリンカを製造することができる。
【0023】
還元雰囲気で焼成後のC12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)含有クリンカは、X線回折により測定した格子定数が11.93〜11.96Åである。
格子定数が異なることで、凝結速度、すなわち急硬性の程度が異なるものとなるため、可使時間を確保し、急硬性を得るためには、上記焼成温度で焼成することで、かかる範囲の格子定数の急硬性クリンカを得るようにすることが望ましい。
格子定数がかかる範囲であると、得られる急硬性クリンカの性質にバラつきがなく、容易に正確に凝結時間をコントロールすることができるものであり、所定のハンドリングタイムを確保するとともに急硬性を得ることが可能となる。
但し、前記格子定数は、粉末X線回折にて測定した値であり、高純度化学研究所製金属シリコン粉末を内部標準とし、スペクトリス社製X‘Pert Proシステムを用いて、粉末X線回折にて測定したものであり、その測定条件は、下記の実施例にて詳細に説明する。
【0024】
該C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)含有クリンカである急硬性クリンカは、粉砕して粉末としてセメント組成物に利用する。
当該クリンカは、ブレ−ン比表面積が4500cm/g以上に粉砕するのが好ましく、4500cm/g未満では、良好な急硬性が得られない場合があるからである。
また、ブレ−ン比表面積は、それを大きくするほど、粉砕時間を要し生産性が低下しコスト高になるので、5000〜7000cm/gが望ましい。
また、粉砕する際に、粉砕助剤(ジエチレングリコール、トリエタノールアミン等)を添加してもよい。
【0025】
本発明の急硬性セメント組成物は、上記還元雰囲気下で焼成したC12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)含有クリンカ粉末である本発明の急硬性クリンカ粉末に、硫酸塩を配合したものである。
当該硫酸塩は、凝結調整剤として機能する。
具体的には、芒硝(硫酸ナトリウム)、硫酸カリウムなどのアルカリ金属硫酸塩、硫酸マグネシウム、石こう(硫酸カルシウム)などのアルカリ土類金属硫酸塩、硫酸アルミニウムなどが挙げられ、強度発現性から、石こうの使用が、あるいは石こうと芒硝の併用が好ましい。
石こうとしては、無水石こう、半水石こう、2水石こう、またはこれらの混合物が例示できる。
また、その他必要に応じて配合が可能な材料として消石灰が挙げられる。当該消石灰は強度増進のために添加される。
【0026】
これらの硫酸塩や消石灰等の細かさは、特に限定するものではないが、好ましくは3000cm/g以上である。
強度発現性およびコストを考慮した場合、より好ましいのは4000〜10000cm/gの細かさのものである。
【0027】
本発明の本発明の急硬性クリンカ粉末である還元雰囲気下で製造したC12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)クリンカ粉末、硫酸塩、また必要に応じて添加される消石灰の割合は、それぞれ、70〜90質量%、10〜30質量%、0〜1質量%である。
急硬性およびハンドリングタイムを確保する点から、上記還元雰囲気下焼成後のC12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)クリンカ粉末を79〜84質量%、硫酸塩が15〜20質量%、消石灰が0〜1質量%であることが望ましい。
【0028】
上記割合において、前記C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)粉末が70質量%未満では、急硬性が小さくなり、90質量%を超えると瞬結してハンドリングタイムが確保できなくなり、いずれも好ましくない。
また、硫酸塩が10質量%未満では、瞬結してハンドリングタイムが確保できなくなり、30質量%を超えると、急硬性が小さくなり、いずれも好ましくない。
【0029】
前記C12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)クリンカ粉末、硫酸塩、消石灰の混合方法は、特に限定するものではなく、上述した数値範囲内の割合に配合したのち、慣用の混合装置を用いて混合すれば良い。
【0030】
また本発明のセメンの組成物には、他に、凝結遅延材(リグニンスルホン酸系、オキシカルボン酸系、糖類等各種有機酸もしくは有機酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)や減水剤(アルキルアリルスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤も含む)等、液状または粉末状の混和材や、細骨材(川砂、海砂、山砂、砕砂およびこれらの混合物)や、粗骨材(川砂利、海砂利、砕石およびこれらの混合物)等を配合することができる。
【0031】
これらの上記原料を用いたセメント組成物に水を配合してモルタルやコンクリートを製造することができ、これらのモルタルやコンクリートの製造方法は、特に限定するものではなく、慣用のミキサ−で原料を混合すれば良い。
これらのモルタルやコンクリートは、例えば、湿式吹付け工法に適用することができ、吹付け装置なども、慣用の装置をそのまま利用することができるものである。
【実施例】
【0032】
本発明を次の実施例及び試験例に基づき説明する。
試験例
1)クリンカの焼成
焼成後のクリンカの化学組成が表1となるよう、試薬を配合してクリンカ原料を調製した。
なお、表1の化学組成に基づいてボーグ法で求めた理論上のクリンカ鉱物組成は、表2に示すとおりである。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
上記クリンカ原料を電気炉にて、表7に示す各温度にて空気中で1時間焼成した後、当該電気炉より取り出して空気中で急冷して、酸化焼成クリンカを得た。
また、還元焼成品については、坩堝の中にクリンカ原料と活性炭を入れ、表7に示す各温度にて1時間、還元雰囲気下で焼成して、還元焼成クリンカを得た。
【0036】
2)鉱物組成の分析
得られた各クリンカをX線回析装置(理学電機(株)製;RAD−rC)を用いて回析したところ、鉱物組成は理論量どおりであった。
【0037】
3)クリンカの格子定数の測定
得られた各クリンカの格子定数を、以下のようにして測定し、その結果を表3及び図1に示す。
高純度化学研究所製金属シリコン粉末を内部標準とし、スペクトリス社製X‘Pert Proシステムを用い。粉末X線回折にて測定した。
i)測定条件
・管球 :Cu
・X線の単色色:カウンタモノクロメータ
・管電圧 : 45kV
・管電流 : 40mA
・測定モード :ステップ走査
・ステップ幅 :0.0167°
・計数時間 :1秒
・スリット :SS 1mm
:DS 1mm
:RS 0.15mm
・走査範囲(2θ):5〜60°
ii)格子定数の算出
回折角度の読み取りは半値幅中点法により求め、回折角の補正は、得られた内部標準試料の回折線から補正値を算出し、最小二乗法によって行った。
【0038】
【表3】

【0039】
4)EPMAによるクリンカの元素分析
得られた各クリンカを2〜3mmに粗砕し、樹脂中に包埋して鏡面研磨しカーボン蒸着を施し、日本電子社製JXA−8621型X線マイクロアナライザー分析装置を用い元素分析(Al2O3及びFe2O3)を以下のように測定し、その結果を表4及び図2に示す。
測定条件
・加速電圧 :15.0KV
・照射電流 :30nA
・プローブ径 :1μm
・定量補正計算法 :Oxide・ZAF法
【0040】
【表4】

【0041】
5)セメント組成物の調製
次いで、上記各クリンカ100質量部を粗粉砕して、1質量部の芒硝(硫酸ナトリウム)を各クリンカと混合し、0.08質量部の粉砕助剤(ジエチレングリコール)を使用してブレーン比表面積が5200±100cm/g程度まで粉砕して、各クリンカ粉末を得た。
当該クリンカ粉末、無水石膏(商品名;ノンクレーブ、住友大阪セメント(株)製)、半水石膏(商品名;焼きセッコウ、和光純薬工業(株)製)及び消石灰(和光純薬工業(株)製)を、SiO/Alのモル比が1.2となるように、表5の割合で配合して均一に混合し、各セメント組成物を調製した。
【0042】
【表5】

【0043】
6)モルタルの調製
上記の各セメント組成物、砂(豊浦標準砂)、凝結調整剤(試薬;クエン酸、和光純薬工業(株)製)、水及び混和剤(花王(株)製、商品名:マイティ150)を、表6に示す割合で配合して均一に混練し、モルタルを得た。
【0044】
【表6】

【0045】
7)ハンドリングタイム及び練直温度試験
上記で得られた各モルタルについて、ハンドリングタイムを測定した。
各ハンドリングタイムは、JIS R5201−1997の凝結試験法のビガー針に代えて直径1cm高さ2cmの円錐コーン(350g)を取り付け、進入度1.5mmになるまでの時間をハンドリングタイムとした。
また、練直温度は、上記モルタルを得るために各材料及び水を添加して混練した直後の温度を測定した値を示す。
その結果を表7に示す。
【0046】
【表7】

【0047】
表7より、実施例1〜2は、比較例1〜2に対し練直温度が高く、ハンドリングタイムが短くなっている。
このことにより、実施例1〜2は、高い急硬性能を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の急硬性クリンカ及び当該クリンカを用いた急硬性セメント組成物は、トンネルや地下空間の建設工事や土木工事、止水工事、壁面等への吹き付け工事、緊急性を有する道路等の補修工事等、また土壌改良材として、所定のハンドリングタイムを確保しつつ、可使時間経過後には速やかに急結することが要求される作業箇所へ、また、水質汚染や土壌汚染等を抑制することが要される作業箇所へ、有用に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】酸化雰囲気または還元雰囲気下におけるクリンカの焼成温度とC11・CaFの格子定数との関係を示す線図。
【図2】酸化雰囲気または還元雰囲気下において焼成したクリンカの、C11・CaF中のAl含量とFe含量との関係を示す線図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
12またはC11・CaX(Xはハロゲンを示す)を、還元雰囲気下で焼成することによりなり、X線回折により測定した格子定数が11.93〜11.96Åであることを特徴とする、急硬性クリンカ。
【請求項2】
請求項1記載の急硬性クリンカにおいて、還元雰囲気下での焼成を温度1300〜1380℃で行うことを特徴とする、急硬性クリンカ。
【請求項3】
請求項1または2記載の急硬性クリンカと、硫酸塩とを含むことを特徴とする、急硬性セメント組成物。
【請求項4】
請求項3記載のセメント組成物において、急硬性クリンカを70〜90質量%、硫酸塩を10〜30質量%含有することを特徴とする、セメント組成物。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−31193(P2007−31193A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215396(P2005−215396)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】