説明

患者位置決めシステム及び患者位置決め方法

【課題】位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮とを両立できる。
【解決手段】患者12の患部領域を含む画像情報である参照画像及び比較画像を縮小表示可能なモニタ9と、モニタ9に表示された参照画像及び比較画像上に参照点を入力する入力装置10と、入力された参照点をモニタ9の縮小倍率に応じて拡大することにより計算領域を設定し、この設定された計算領域中に代表点を設定し、参照画像中の代表点の位置と比較画像中の代表点の位置とに基づき、患者の移動量を算出する演算装置11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線又は陽子線をはじめとする粒子線等の各種放射線を患部に照射して治療する放射線治療に用いる患者位置決めシステム及び患者位置決め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍細胞を、各種放射線を照射することで壊死させることを目的とする放射線治療は、近年広く行われつつある。用いられる放射線としては最も広く利用されているX線だけでなく、陽子線をはじめとする粒子線を使った治療も行われている。
【0003】
放射線治療の重要なプロセスの一つに患者の位置決めがある。患者の位置決めとは、一般に治療計画装置から出力されたDRR(Digital Reconstructed Radiograph)画像と放射線照射前にX線透視装置を用いて治療台の上に患者を寝かせた状態で撮影するDR(Digital Radiograph)画像とを技師または医師が比較することにより、治療計画で決定した患者の位置と現在の治療台上の患者の位置とのズレを算出し、二種類の画像が一致するように治療台の移動量を求め、治療台を移動させるプロセスである。
【0004】
DRR画像は、DR画像を模擬した画像であり、治療計画時に撮影されたCT画像から生成される。以下、適宜、DRR画像のことを参照画像、またDR画像のことを比較画像と呼ぶ。なお、患者位置決めでは、参照画像として上記DRR画像の代わりにX線シミュレータ等を用いて撮影した画像を用いる場合もある。
【0005】
現在の患者の位置と治療計画時の位置とのズレを算出する方式として、従来、参照点(計算点)入力方式が用いられている。これは、コンピュータのモニタ上に参照画像と比較画像とを表示し、移動量を算出するために、システムの操作者が両画像の対応する点(例えば骨の部分などの明確に識別できる箇所が選ばれる。指定される点は参照点と呼ばれる。)をマウス等の入力手段を用いて指定し、対応する点の誤差が最小になるように移動量を求める方式である(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、参照画像と比較画像の両画像の画素値を比較し、相関係数や差の二乗等が最小になるように移動量を求める画像比較方式も用いられている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
【特許文献1】特表2000−510023号公報(第6−7図)
【特許文献2】特開2004−267250号公報(第8−12図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、画像技術の高度化によりDR画像についても高解像度化且つ大サイズ化する傾向にあり、例えば2048×2048ピクセル程度のDR画像がX線撮像装置から出力される。このような大サイズの画像を通常のモニタ(例えば、1280×1024ピクセルの解像度のモニタ)に全体表示する場合、100%の大きさ(すなわち縮小なし)で画像全体を表示することはできず、上記の例では2048×2048ピクセルの画像を1280×1024の解像度のモニタに表示するのであるから、最大50%に縮小した画像を表示することになる。
【0009】
ここで、上記従来の参照点入力方式において、操作者が通常のモニタを用いてDR画像全体を俯瞰しつつ参照点を入力しようとする場合、上述したように縮小画像に対して参照点を入力することになる。その結果、仮に100%の画像が表示されていた場合には1ピクセルの特定の点を指定できるのに対し、上記の例で言えば画像が高さ及び幅ともに50%に縮小されているので、4ピクセルを一度に選択することになる。さらに、実際の画像表示ソフトウェアではグラフィカルユーザインタフェースのボタンやスクロールバー、メニュー等が画面上に存在するため、画像の表示倍率はさらに小さくなり、一度に選択されるピクセル数はさらに増加する可能性がある。このため、操作者が意図する参照点と対応する画像上の点との対応が曖昧になり、意図した点とは違う画像上の点が参照点となって位置決めの精度が悪化するおそれがあった。
【0010】
一方、上記従来の画像比較方式では、表示の倍率にかかわり無く演算を実施するため、上記のような参照点の曖昧さに起因する位置決め精度低下の問題は発生しない。しかしながら、比較対照となる画像領域全体の画素値を比較する方式のため、参照点入力方式と比較すると計算量が多く、位置決め時間が長くなる問題点があった。
【0011】
以上のように、上記従来の参照点入力方式及び画像比較方式では、位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮とを両立させることができなかった。
【0012】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために考え出されたものであり、その目的は、位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮とを両立できる患者位置決めシステム及び患者位置決め方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、前記患者の患部領域を含む画像情報である第1画像情報及び第2画像情報の少なくとも1つを縮小表示可能な表示装置と、前記表示装置に表示された前記第1画像情報及び前記第2画像情報における特定の領域を指定入力する入力装置と、前記指定入力された特定領域を前記表示装置の縮小倍率に応じて拡大した拡大領域を設定する拡大領域設定処理装置と、前記設定された拡大領域中にその一部領域である代表領域を設定する代表領域設定処理装置と、前記第1画像情報中の代表領域の位置情報と、前記第2画像情報中の代表領域の位置情報とに基づき、前記患者の位置決めに用いる位置決め情報を生成する演算処理装置とを備えることにある。表示装置の縮小倍率に応じて特定領域を拡大し、その拡大領域中に代表領域を設定した上で、対応する代表領域の位置ずれが最小になるように位置決め情報を生成することにより、縮小表示した状態で特定領域(参照点)の指定入力を行った場合でも位置決め精度低下の問題が生じることはない。また、画像比較方式のように画像全体の画素値を比較する方式ではないため、計算量が少なく、位置決め時間も短くて済む。したがって、位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮とを両立させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮とを両立できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本発明の好適な一実施形態である患者位置決めシステムの全体構成図である。
【0017】
この図1に示すように、本実施形態の患者位置決めシステムは、回転ガントリを備えた放射線(例えば陽子線)治療装置に用いられるものを想定している。なお、本発明はこれ以外にもX線治療装置等の一般的な放射線治療装置に適用可能である。
【0018】
図1において、患者位置決め用コンピュータ1は、ネットワークケーブル2を介し、X線透視画像撮影装置3、医用画像サーバ(画像情報格納装置)4、及び治療台制御装置5と接続されている。治療台制御装置5は、患者が治療照射時に横臥するベッド(治療台)6を駆動するベッド駆動装置7の制御を行い、ベッド6の位置を制御する。またX線透視画像撮影装置3は、治療照射前にベッド6上に患者12を寝かせた状態で患者12の患部領域を撮影するためのものであり、回転ガントリ8内において患者12の近傍に配置され、回転ガントリ8の回転に伴い患者12の周囲を回転可能に設置されている。このX線透視画像撮影装置3により撮影された患者12の患部領域を含む画像データ(第2画像情報)は、ネットワークケーブル2を介して比較画像(DR(Digital Radiograph)画像)として患者位置決め用コンピュータ1に出力される。一方、治療計画時に作成されたCT画像(立体画像)及びこのCT画像から生成された適宜の断層画像である参照画像(DRR(Digital Reconstructed Radiograph)画像)は医用画像サーバ4に格納されており、必要に応じて患者位置決め用コンピュータ1によって取得される。この患者位置決め用コンピュータ1は、X線透視画像撮影装置3から取得した比較画像と医用画像サーバ4から取得した参照画像とを表示するモニタ(表示装置)9、コンピュータ操作者が各種入力操作をするためのマウスやキーボード等の入力装置10、及び演算装置(拡大領域設定処理装置、代表領域設定処理装置、演算処理装置)11を備えている。
【0019】
なお、上記では、X線透視画像撮影装置3から患者位置決め用コンピュータ1に直接比較画像が送信されるように記載したが、X線透視画像撮影装置3から医用画像サーバ4に送信されて画像データが一旦保管され、保管された画像データが患者位置決め用コンピュータ1により比較画像として読み出されるようにしてもよい。
【0020】
図2は患者位置決め用コンピュータ1の演算装置11により行われる制御フローである。以下、この図2を用いて、本実施形態の患者位置決めシステムにより行われる患者12の位置決め手順について説明する。なお、このフローは操作者からの適宜の位置決め開始指示(例えば入力装置10からの指示入力)があった際に開始される。
【0021】
まず、治療計画時に作成され医用画像サーバ4に格納されている参照画像を、例えば図示しない記憶装置(メモリ)等に読み込む(ステップ21)。
【0022】
次に、X線透視画像撮影装置3により撮影されたベッド6上に寝ている状態の患者12の比較画像を、X線透視画像撮影装置3から例えば図示しない記憶装置(メモリ)等に読み込む(ステップ22)。なお、この比較画像は、X線透視画像撮影装置3(又は患者位置決め用コンピュータ1でもよい)から医用画像サーバ4にも送信され、サーバ4内に保管される。
【0023】
なお、上記のステップ21とステップ22は、順序が入れ替わってもよいし、並列して行ってもよい。
【0024】
上記ステップ21及びステップ22において参照画像及び比較画像の両画像の読込みが終了すると、患者位置決め用コンピュータ1のモニタ9に両画像を表示する(ステップ23)。この時、モニタ9の画像表示部分に参照画像と比較画像の両画像全体が表示部分に収まるように、必要に応じて縮小して表示する。本実施形態では、例えば、参照画像及び比較画像のサイズは共に2048×2048ピクセルの画像であり(図3(B)参照)、患者位置決め用コンピュータ1のモニタ9におけるそれぞれの画像の画像表示領域のサイズは512×512ピクセルであるとする。したがって、参照画像及び比較画像は共に25%に縮小されて表示される(図3(A)参照)。なお、図3には参照画像及び比較画像のうちの一方のみを図示している。
【0025】
次に、操作者により参照点(特定領域)が入力されたかどうかが判定される(ステップ24)。具体的には、参照画像及び比較画像の両画像全体が25%に縮小表示された状態のモニタ9の画面上で、操作者が入力装置10を用いて参照画像と比較画像のそれぞれの対応する位置に患者位置決めに使用する参照点を入力したかどうかが判定される。なお、この参照点は、画像上において一部分に偏よらずに全体的に分散されて配置されるのが好ましいため、通常、このように患部領域全体を表示させながら操作者により入力される。参照点の入力位置としては、例えば骨の先端部分などの明確に識別できる箇所が選ばれる。
【0026】
図3(A)に4箇所の参照点を入力した例を示す。この図3(A)に示すように、参照点は点で表示されている。
【0027】
次に、操作者により画像の拡大指示入力があったかどうかが判定される(ステップ25)。具体的には、操作者が入力装置10を用いてモニタ9に表示されている画像を拡大する指示入力を行ったかどうかが判定される。拡大指示入力があった場合、点であった参照点を拡大して計算領域(拡大領域)として例えば矩形の線画で表示する(ステップ26)。この状態を図3(B)に示す。この図3(B)は、2048×2048ピクセルの画像が100%表示された状態である(なお、実際にはモニタ9には100%表示の状態では画像全体の1/4しか表示されない)。この計算領域は、図4に示すように1辺が4ピクセルである16ピクセルの矩形領域で構成される。すなわち、図3(A)に示す縮小表示画面上では1ピクセルで構成された参照点が、モニタ9の画像表示を拡大すると図3(B)に示すようにその拡大倍率(言い換えると縮小倍率)に応じて拡大され、4×4ピクセルの計算領域として設定される。
【0028】
さらに、操作者により上記設定された計算領域の修正がされたかどうかを判定する(ステップ27)。本実施形態では、操作者は、計算領域の修正操作として、領域の伸縮、移動、回転等が可能である。操作者により入力装置10を用いて修正入力がされると、修正された計算領域は即座に反映される(ステップ28)。なお、ここでは本計算領域を矩形形状としたが、必ずしも矩形である必要はなく、円形や楕円形等の任意の形状で定義可能である。
【0029】
このようにして計算領域が確定すると、その計算領域中に代表点(代表領域)を設定する。この代表点の算出手法について、図5及び図6を用いて以下に説明する。
【0030】
説明を簡易とするために、図5では計算領域を1辺が3ピクセルである9ピクセルの矩形領域で構成した場合を考える。これは、参照画像及び比較画像が33%の縮小倍率でモニタ9に表示されている状態で操作者が参照点を入力し、100%表示に拡大した状態に相当する。
【0031】
本実施形態では、この計算領域に含まれる各ピクセルを計算点とし、計算領域を9点の計算点の集合であると考える。そして、各計算点に対し重み付けを行い、その重みを考慮して計算領域内に含まれる計算点から一つの代表点を算出する。この代表点を算出するための重みとしては、計算領域内の画素値を使用する。これは、一般にX線透視画像を用いた患者の位置決めでは、骨のような明確な構造物を位置決めのための計算点とすることが多く、X線透視画像上では骨のような明確な構造物は輝度(すなわち画素値)が高くなり、画素値の大きさが骨等の明確な構造物を表す指標であると考えられるからである。
【0032】
具体的には、計算領域内で画素値が最大である計算点の重みを1とし、その他の計算点の画素値を最大の画素値で規格化し重み付けする。そして、各計算点の重みを当該計算点の座標に掛け合わせ、得られた結果を足し算することで代表点を算出する。なお、このときに用いられる各計算点の座標は、計算領域内の中心を原点としたものである。このように計算領域内の画素値を重みに変換し、その重み分布を考慮して代表点を算出することにより、操作者が入力したかった点を再現することができるようになっている。なお、上記重み分布は、入力情報の確実性を表す確率分布であるとも言うことができる(すなわち、重みが1である画素値が最大の点が、操作者が入力した点である確率が最も高いことになる)。
【0033】
図6は図5に示す計算領域に重み付けを行ったときの重み分布の一例を示す図である。この図6に示す分布は、計算領域の中央のピクセルが最も大きな画素値であり、この中央のピクセルに垂直及び平行に隣接するピクセルが2番目に大きな画素値であり、残りの4隅のピクセルが最小の画素値である場合の重みの分布である。この場合、各計算点の重みを当該計算点の座標に掛け合わせ得られた結果を足し算すると、画素値の対称性から中央のピクセルが代表点となる。
【0034】
以上のような算出方法により、自動的に重み付けを行って代表点を算出する。なお、本実施形態では操作者による重み付けの修正が可能である。すなわち、代表点を算出する前に、操作者により上記の計算領域内の画素値分布から自動的に設定される各計算点の重みの修正がされたかどうかが判定される(ステップ29)。このとき、具体的には、患者位置決め用コンピュータ1のモニタ9に計算領域内の重み分布が例えば図6に示したようにグラフィック表示され、操作者は棒グラフ等で表現されている重みを入力装置10(マウス等)を用いて変更することが可能となっている。このようにして、操作者による重みの修正入力がされた場合には、修正された重みは即座に反映される(ステップ30)。
【0035】
このようにして重み付けが確定すると、上述した算出方法によって計算領域毎に代表点を算出する(ステップ31)。そして、患者位置決め計算を実施する(ステップ32)。すなわち、算出された代表点を用い、参照画像と比較画像との代表点間の誤差を最小にする画像の移動量を、最小二乗法を用いて算出する。
【0036】
患者位置決め計算終了後、比較画像を算出された移動量に基づき回転及び移動させ、その結果をモニタ9の画像表示に反映させる(ステップ33)。そして、操作者により位置決め終了指示がされたかどうかが判定される(ステップ34)。操作者が位置決め結果をモニタ9の画像上にて確認し、問題がないと判定して入力装置10を用いて位置決め終了の指示入力をした場合には、ネットワークケーブル2を介して治療台制御装置5に患者12(ベッド6)の移動量(位置決め情報)を送信する(ステップ35)。これにより、治療台制御装置5がベッド駆動装置7の制御を行い、ベッド6が移動されて患者12の位置決めがなされる。
【0037】
以上において、参照画像及び比較画像は、特許請求の範囲各項記載の患者の患部領域を含む画像情報である第1画像情報及び第2画像情報に相当する。
【0038】
以上説明した本実施形態の患者位置決めシステムによれば、以下の効果を奏する。
【0039】
すなわち、本実施形態のように参照画像及び比較画像がモニタ9上で縮小表示された状態で参照点を入力する場合、従来の参照点入力方式では、拡大表示したときの拡大された参照点(すなわち計算領域)に含まれるピクセルの全てが選択されていることになり、それらのピクセルのうちのいずれかのピクセルが計算点として設定され、参照画像と比較画像との間で各計算点間の誤差が最小になるように最小二乗法を用い移動量を計算することになる。したがって、従来方式では計算点となるピクセルが不確定であるため、操作者が意図した点とは異なる画像上の点が計算点となってしまい、位置決めの精度が低下するおそれがある。
【0040】
これに対し、本実施形態の患者位置決めシステムでは、上述したように、操作者が入力した参照点をモニタ9の表示縮小倍率に応じて拡大して計算領域として認識し、この計算領域中の画素値分布(重み分布)を考慮した算出手法により代表点を算出する。これにより、計算領域内における操作者の入力情報の確実性を表す確率分布を考慮して代表点を設定することができるので、操作者が縮小画面上において参照点を入力した際に指定しようとした点を再現することができる。したがって、この代表点を用いて位置ずれ量を算出することにより、上記従来の参照点入力方式における画像の縮小度に起因した参照点入力情報の不確定性を排除することができ、患者位置決めの精度を向上させることができる。
【0041】
さらに、本実施形態では、先に説明した図2のステップ27において、モニタ9の表示の拡大(縮小)倍率に基づき自動で設定される計算領域を操作者の意図に応じてさらに好適な領域に修正することができる。またステップ30において、計算領域の画素値に基づき自動で設定される各計算点の重みを修正することができる。これにより、例えば操作者が医師等である場合にあっては当該医師の専門的な判断による計算領域の修正や重み付けの修正を行うことが可能であり、位置決め精度をさらに向上することができる。
【0042】
一方で、本実施形態の代表点算出においては、ほんの数ピクセル〜数十ピクセルの範囲から構成される計算領域の各ピクセルにおける画素値と座標を乗じてそれらを加算する演算が行われるのみであり、それ以外は従来の参照点入力方式と同様に参照画像と比較画像との代表点間の誤差が最小となるように最小二乗法を用いて移動量を算出するだけである。したがって、参照画像と比較画像において画像の特徴的な形状が捉えられるだけの所定の大きさを有する画像領域に対してそれら領域内の全ての画素値を比較する従来の画像比較方式に比べ、演算量が大幅に少なくて済む。その結果、画像比較方式の患者位置決め方法よりも高速な位置決め演算が可能となり、患者の位置決めに要する時間を短縮することができる。
【0043】
以上のことから、本実施形態によれば、位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮とを両立することができる。
【0044】
(実施形態2)
本実施形態は、上記実施形態1では操作者が参照点を入力する例であったのに対し、操作者が計算領域を入力する例である。すなわち、例えばモニタ9に参照画像及び比較画像を100%又はそれ以上の倍率(150%、200%等)で表示した場合、縮小表示した状態では明確な識別性を有する骨格の尖った部分等が拡大されたために尖り部分が丸くなり、識別性が低下する場合がある。本実施形態はこのような場面に適用される例であり、操作者が目印にしようとした部分を含むある程度の大きさを有する領域を指定すると、その領域から代表点が算出され、患者位置決め計算が行われるものである。
【0045】
図7は本実施形態における患者位置決め用コンピュータ1の演算装置11の制御フローである。以下、この図7を用いて、本実施形態の患者位置決めシステムにより行われる患者12の位置決め手順について説明する。
【0046】
ステップ21〜ステップ23は前述の図2と同様であり、参照画像及び比較画像の両画像が医用画像サーバ4及びX線透視画像撮影装置3から読み込まれ、患者位置決め用コンピュータ1のモニタ9上に表示される。なお、このときの画像は100%又はそれよりも拡大した状態で表示されており、モニタ9上には参照画像又は比較画像の一部分のみが表示された状態である。
【0047】
次に、操作者により計算領域が入力されたかどうかが判定される(ステップ24’)。具体的には、操作者が、参照画像又は比較画像の一部分が表示された状態のモニタ9の画面上で、入力装置10(例えばマウス)を用いて画像を移動又は画像を切り替えながら、入力装置10を用いて参照画像と比較画像のそれぞれの対応する位置に、患者位置決めに使用する計算領域(複数ピクセルで構成される)を目印にしようとする部分を囲むようにラバーバンド等を用いて入力したかどうかが判定される。図8(A)は、100%表示された画像上に4箇所の計算領域を入力した例を示しており、計算領域は矩形領域で表示されている。なお、ここでは操作者が入力する計算領域を矩形形状としているが、必ずしも矩形である必要はなく、円形や楕円形等の任意の形状で定義可能である。
【0048】
計算領域の入力がされると、操作者により画像の拡大又は縮小表示の指示入力がされたかどうかが判定される(ステップ25’)。具体的には、操作者が、例えば入力した計算領域の画面全体上での位置関係等を確認するために、入力装置10を用いて画像の縮小(又は拡大)の指示入力を行ったかどうかが判定される。縮小(又は拡大)指示入力がされると、次に操作者により計算領域の修正がされたかどうかが判定される(ステップ27)。
【0049】
その後、ステップ28〜ステップ35は前述の図2と同様であり、操作者により入力された計算領域中の画素値に応じて重み付けがなされ(修正が可能)、各重みを当該計算点の座標に掛け合わせて足し算することで、各計算領域ごとに代表点が算出される。図8(B)にこのときの状態を示す。そして、参照画像と比較画像との代表点間の誤差を最小にする画像の移動量が最小二乗法を用いて算出され、その結果に問題がない場合には、当該算出結果に応じた患者12(ベッド6)の移動量が患者位置決め用コンピュータ1から治療台制御装置5に送信され、治療台制御装置5の制御によりベッド6が移動されて患者12の位置決めがなされる。
【0050】
上記以外の本実施形態の構成については、前述の実施形態1と同様であるので説明を省略する。
【0051】
以上説明した実施形態2によれば、モニタ9により参照画像又は比較画像が拡大表示され目印にしようとした部分の識別性が低下した場合であっても、操作者が目印にしようとした部分を含むある程度の大きさを有する領域を指定すれば、その領域から画素値分布(重み分布)を考慮した算出手法により代表点が算出され、操作者が参照点として指定しようとした点を再現することができる。したがって、患者位置決めの精度を向上させることができる。また、上記実施形態1と同様に演算量が少なくて済むので、患者の位置決めに要する時間を短縮することができる。したがって、本実施形態においても、位置決め精度の向上と位置決め時間の短縮とを両立することができる。
【0052】
なお、上記実施形態2ではモニタ9の画像表示が100%又はそれよりも拡大表示された場合について説明したが、これに限らず、前述の実施形態1と同様にモニタ9に縮小表示された状態で操作者が計算領域を指定するようにしてもよいのは言うまでもない。この場合、例えば操作者が目が悪い等の原因によりモニタ9に縮小表示された画像に対し適切に参照点を入力できないような場合に、非常に有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の好適な一実施形態である患者位置決めシステムの全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態における患者位置決めシステムの処理フローである。
【図3】25%に縮小表示された画像上に参照点を入力した状態、及び100%表示の画像上に計算領域が設定された状態を示す説明図である。
【図4】100%表示の画像上に設定された計算領域のピクセル構成を示す図である。
【図5】本発明の代表点算出手法を説明するための計算領域のピクセル構成を示す図である。
【図6】図5に示す計算領域の各計算点に対する重み付けを説明するための説明図である。
【図7】本発明の第2実施形態における患者位置決めシステムの処理フローである。
【図8】100%表示の画像上に計算領域を入力した状態、及び100%表示の画像上に代表点が設定された状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
4 医用画像サーバ(画像情報格納装置)
5 治療台制御装置
9 モニタ(表示装置)
10 入力装置
11 演算装置(拡大領域設定処理装置、代表領域設定処理装置、演算処理装置)
12 患者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療を行う患者の位置決めをする患者位置決めシステムにおいて、
前記患者の患部領域を含む画像情報である第1画像情報及び第2画像情報の少なくとも1つを縮小表示可能な表示装置と、
前記表示装置に表示された前記第1画像情報及び前記第2画像情報における特定の領域を指定入力する入力装置と、
前記指定入力された特定領域を前記表示装置の縮小倍率に応じて拡大した拡大領域を設定する拡大領域設定処理装置と、
前記設定された拡大領域中にその一部領域である代表領域を設定する代表領域設定処理装置と、
前記第1画像情報中の代表領域の位置情報と前記第2画像情報中の代表領域の位置情報とに基づき、前記患者の位置決めに用いる位置決め情報を生成する演算処理装置とを備えたことを特徴とする患者位置決めシステム。
【請求項2】
放射線治療を行う患者の位置決めをする患者位置決めシステムにおいて、
前記患者の患部領域を含む画像情報である第1画像情報及び第2画像情報の少なくとも1つを表示する表示装置と、
前記表示装置に表示された前記第1画像情報及び前記第2画像情報における特定の領域を指定入力する入力装置と、
前記指定された特定領域中にその一部領域である代表領域を設定する代表領域設定処理装置と、
前記第1画像情報中の代表領域の位置情報と前記第2画像情報中の代表領域の位置情報とに基づき、前記患者の位置決めに用いる位置決め情報を生成する演算処理装置とを備えたことを特徴とする患者位置決めシステム。
【請求項3】
前記拡大領域又は前記特定領域の画素情報に基づき、前記拡大領域又は前記特定領域中に前記代表領域を設定する前記代表領域設定処理装置を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の患者位置決めシステム。
【請求項4】
前記拡大領域又は前記特定領域内の画素値の分布情報に基づき、前記拡大領域又は前記特定領域中に前記代表領域を設定する前記代表領域設定処理装置を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の患者位置決めシステム。
【請求項5】
前記拡大領域又は前記特定領域内で画素値が最大である領域の重みを1として前記拡大領域又は前記特定領域内の各領域の重みをそれぞれ算出し、各領域における前記重みと当該領域の座標との積を足し合わせることにより前記代表領域を設定する前記代表領域設定処理装置を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の患者位置決めシステム。
【請求項6】
前記拡大領域又は前記特定領域内の各領域の重みを各領域ごとに個別に設定入力することが可能な前記入力装置を備えたことを特徴とする請求項5記載の患者位置決めシステム。
【請求項7】
前記拡大領域設定処理装置により設定された拡大領域を、前記第1画像情報及び前記第2画像情報の少なくとも1つと共に表示する前記表示装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の患者位置決めシステム。
【請求項8】
前記拡大領域設定処理装置により設定された拡大領域の領域を修正入力することが可能な前記入力装置を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項7記載の患者位置決めシステム。
【請求項9】
前記第1画像情報中の代表領域の位置情報と前記第2画像情報中の代表領域の位置情報との偏差が最小となるように、最小二乗法によって前記位置決め情報を生成する前記演算処理装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の患者位置決めシステム。
【請求項10】
前記位置決め情報に基づき、前記患者の治療台の移動制御を行う治療台制御装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の患者位置決めシステム。
【請求項11】
前記第1画像情報及び前記第2画像情報の少なくとも1つを格納する画像情報格納装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の患者位置決めシステム。
【請求項12】
放射線治療を行う患者の位置決めをするための患者位置決め方法において、
前記患者の患部領域を含む画像情報である前記第1画像情報及び前記第2画像情報の少なくとも1つを縮小可能に表示し、
表示された前記第1画像情報及び前記第2画像情報における特定の領域を指定し、
指定された特定領域を前記表示の縮小倍率に応じて拡大し、
拡大された拡大領域中にその一部領域である代表領域を設定し、
前記第1画像情報中の代表領域の位置情報と前記第2画像情報中の代表領域の位置情報とに基づき、前記患者の位置決めに用いる位置決め情報を生成することを特徴とする患者位置決め方法。
【請求項13】
放射線治療を行う患者の位置決めをするための患者位置決め方法において、
前記患者の患部領域を含む画像情報である前記第1画像情報及び前記第2画像情報の少なくとも1つを表示し、
表示された前記第1画像情報及び前記第2画像情報における特定の領域を指定し、
指定された特定領域中にその一部領域である代表領域を設定し、
前記第1画像情報中の代表領域の位置情報と前記第2画像情報中の代表領域の位置情報とに基づき、前記患者の位置決めに用いる位置決め情報を生成することを特徴とする患者位置決め方法。
【請求項14】
放射線治療を行う患者の位置決めをするための患者位置決め用プログラムであって、
前記患者の患部領域を含む画像情報である前記第1画像情報及び前記第2画像情報の少なくとも1つを表示装置に縮小可能に表示させる手順と、
操作者により指定された前記第1画像情報及び前記第2画像情報における特定の領域を、前記表示装置の縮小倍率に応じて拡大する手順と、
前記拡大された拡大領域中にその一部領域である代表領域を設定する手順と、
前記第1画像情報中の代表領域の位置情報と前記第2画像情報中の代表領域の位置情報とに基づき、前記患者の位置決めに用いる位置決め情報を生成する手順とを、コンピュータに実行させるための患者位置決め用プログラム。
【請求項15】
放射線治療を行う患者の位置決めをするための患者位置決め用プログラムであって、
前記患者の患部領域を含む画像情報である前記第1画像情報及び前記第2画像情報の少なくとも1つを表示装置に表示させる手順と、
操作者により指定された前記第1画像情報及び前記第2画像情報における特定の領域中にその一部領域である代表領域を設定する手順と、
前記第1画像情報中の代表領域の位置情報と前記第2画像情報中の代表領域の位置情報とに基づき、前記患者の位置決めに用いる位置決め情報を生成する手順とを、コンピュータに実行させるための患者位置決め用プログラム。
【請求項16】
放射線治療を行う患者の位置決めをするための患者位置決め用プログラムを記録した記録媒体であって、
前記患者の患部領域を含む画像情報である前記第1画像情報及び前記第2画像情報の少なくとも1つを表示装置に縮小可能に表示させる手順と、
操作者により指定された前記第1画像情報及び前記第2画像情報における特定の領域を、前記表示装置の縮小倍率に応じて拡大する手順と、
前記拡大された拡大領域中にその一部領域である代表領域を設定する手順と、
前記第1画像情報中の代表領域の位置情報と前記第2画像情報中の代表領域の位置情報とに基づき、前記患者の位置決めに用いる位置決め情報を生成する手順とを、コンピュータに実行させるための患者位置決め用プログラムを記録した記録媒体。
【請求項17】
放射線治療を行う患者の位置決めをするための患者位置決め用プログラムを記録した記録媒体であって、
前記患者の患部領域を含む画像情報である前記第1画像情報及び前記第2画像情報の少なくとも1つを表示装置に表示させる手順と、
操作者により指定された前記第1画像情報及び前記第2画像情報における特定の領域中にその一部領域である代表領域を設定する手順と、
前記第1画像情報中の代表領域の位置情報と前記第2画像情報中の代表領域の位置情報とに基づき、前記患者の位置決めに用いる位置決め情報を生成する手順とを、コンピュータに実行させるための患者位置決め用プログラムを記録した記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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