説明

情報記憶システム

【課題】サーボパターン内に多用途フィールドを有する情報記憶システムを提供する。
【解決手段】情報記憶システムは、選択された数学的特性を有する符号化ビットのシーケンスを含む統合サーボフィールドにおける記憶装置用の主要なサーボ副機能の一部または全てを実装する。統合サーボフィールドは、多数の符号化シーケンスで構成されており、サーボトラックマーク(STM)、位置誤差信号(PES)、およびトラックID等の位置情報、の一部または全部を提供すべく制約されている選択されたシーケンス集合の要素である。トラックID等の位置識別子を符号化する複数のシーケンスがサーボウェッジの集合にまたがって分散されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に情報記憶システムに関し、より具体的には記録ディスク上のサーボパターン、およびディスクが回転する間にディスクのトラック上におけるトランスデューサ(ヘッド)の位置を選択的に決めるサーボ位置決めシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)は、強磁性薄膜材料が蒸着された1個以上のディスクを有する。ディスクに記録される情報は一般に、同心トラック状に構成される。製造工程の一環として、動作中にディスクが回転する際のヘッド位置に関する情報をシステムに提供する永続的なサーボ情報がディスクに記録される。ディスク上のサーボデータは、いくつかの基本的な機能を提供し、通常はトラックの方向に沿って順次配置された4個の別々のフィールドに構成されている。第一に、サーボフィールド内のデータを同期させるために用いられ、且つディスクのデータ部分の書き込みおよび読み出し動作のタイミング情報も与えるタイミングマーク(サーボトラックマーク(STM)またはサーボアドレスマーク(SAM)として知られる)を提供する。第二に、サーボ領域は、物理的なサーボセクタ番号を識別すべく粗いトラックIDに(TID)番号および追加的な情報を提供する10〜30ビットのデジタルフィールドを提供する。TIDは通常、記録されたディビットの有無を表すグレイコードで書き込まれる。シーク動作中に、ヘッドがトラックを横断して動作している場合、ヘッドは通常、各TID内のグレイコードの一部しか読むことができない。グレイコードは、実際に隣接トラックからTIDの部分を組み合わせてシーク動作中の凡そのトラック位置を与えることができる。
【0003】
最後に、サーボフィールドは位置誤差フィールドを与え、これは分数トラック位置誤差信号(PES)を与える。振幅測定または繰り返し可能なランアウト(RRO)フィールド等の補助機能も時折用いられる。読み出しまたは書き込み動作中、ドライブのサーボ制御システムは、ディスク表面に記録されたPESサーボ情報をフィードバックとして用いてヘッドを目標データトラック上のほぼ中央位置に維持する。典型的なPESパターンは、高周波磁束遷移の同一の集合であるバーストが含まれるクワッドバーストパターンと呼ばれる。トラックID(TID)フィールド番号とは異なり、PESバーストは数値情報を符号化しない。TIDとは対照的に、これはトラックの中心線に対してヘッドがどこにあるかに関する情報を提供するバーストの位置である。クワッドバーストパターンは4本のトラックの各集合について繰り返されるため、局所情報しか提供されない。各々のサーボウェッジは、PESバースト用に予約された4個の連続するスロット(A,B,C,D)を有する。各トラックは、4個のスロットのうち1個だけの中央に位置するPESバーストを有する。各バーストは選択されたトラックの中央に位置しているが、その幅は隣接トラックの中心線まで伸びている。従って、ヘッドが選択されたトラックの上で中央に位置している場合、選択されたトラックの中央に位置するバーストから最も強い信号を検出するが、より弱い信号も隣接トラック上のバーストから検出する。例えば、ヘッドが位置Aにバーストを有するトラックの上で中央に位置している場合、右側に隣接トラック上の後続する弱いBバーストを検出し、次いで左側の隣接トラックから弱いDバーストを検出することがある。ヘッドがPESパターンの上を通過する際に、範囲内にあるバーストが、ディスク上のヘッド位置を示し、且つヘッド位置を調整するフィードバックとして用いられるアナログ信号(波形)を生成する。上述の標準クワッドバーストパターンのバリエーションとして、(特許文献1)でSerrano他が述べているように、二重周波数、デュアルバーストサーボパターンと共に散在する2個の従来型の単一周波数、クワッドバーストサーボパターンの利用が含まれる。
【0004】
当業界を通じて比較的変種が少なかったため、PRML記録技術の出現によりデジタル信号処理技術をサーボ問題に適用できるようになって以来、これらサーボ機能の各々の実装方式は比較的変わらずにきた。これらの機能の各々は通常、従来技術のサーボシステムにおけるサーボウェッジの比較的独立した部分を消費する。
【0005】
これらの機能を支援するためのディスクのオーバーヘッドは、ドライブのフォーマット効率に大きく影響する。通常、サーボフィールドはディスクの記録面の5%〜10%を消費する場合がある。磁気およびデータ信号処理要素の面密度を高めることが益々難しくなるにつれて、サーボオーバーヘッドはますます魅力的な削減対象となり、特定のHDD容量ポイントを実現するために必要な面密度目標が緩和される。本明細書に記述する発明は、従来技術のシステムと比較してサーボオーバーヘッドを大幅に削減する。
【0006】
Bandic他による(特許文献2)には、記録ヘッドの位置制御に用いるサーボ情報の疑似ランダムバイナリシーケンスを有するサーボパターンが記述されている。第1の疑似ランダムバイナリシーケンス(PRBS)および第1のPRBSと同一であるが第1のPRBSの周期の一部だけシフトされた第2のPRBSが、サーボパターンの第1の領域内にある交替トラックのトラック境界の間、およびトラックに沿って第1の領域から間隔を置いた第2の領域内にある交替トラックのトラック中心の間に位置している。本発明のサーボデコーダは、各PRBSに1個ずつ、計2個の相関器を有する。各相関器は、そのPRBSが繰り返す際にダイパルスを出力する。ダイパルス同士の振幅の違いはヘッド位置信号を表す。ダイパルスはまた、ヘッドがリードバックした信号の増幅器およびトラックID(TID)探知器のタイミングを制御する。従来技術におけるAGC、STM、およびPESフィールドは疑似ランダムバイナリシーケンス(PRBS)フィールドで代替される。PRBSに含まれないTIDフィールドは非ゼロ復帰(NRZ)符号化を用いて2回符号化され、その結果、グレイコードに用いられた従来技術によるディビット符号化方法よりも小さいフィールドが得られ、且つより効率的である。PRBSフィールドはまた、NRZ符号化を用いて書き込まれる。第1のTIDフィールドは、2個PRBSフィールドの間に位置する。記述する好適な実施形態において、2個のPRBSシーケンスは、1個のPRBSおよびその周期の一部、好適には当該周期の約半分シフトされた同一PRBSを用いて形成される。この周期的なシフトは、元のシーケンスがシフトされたシーケンスに整合する相関器への入力されたときに、幅がシーケンス長のほぼ半分に等しいウインドウでは出力が無いことを意味し、その逆も同じである。この遅延値の範囲にわたり、2個のシーケンスは直交すると言われる。一方のシーケンス(PRBS1)はAバーストおよびCバーストPES機能の両方を符号化するため、A/Cシーケンスと呼ばれる。もう一方のシーケンス(PRBS2)は、BバーストおよびDバーストPES機能の両方を符号化するため、B/Dシーケンスと呼ばれる。
【0007】
関連する従来技術にはCoker他による(特許文献3)が含まれ、これにはPESおよび基本的なTID検出の目的で特定の疑似ノイズ(PN)または疑似ランダムシーケンスフィールドの利用が記述されている。従来技術のAGC、STM、TID、およびPESフィールドは、一対の疑似ランダムバイナリシーケンス(PRBS)フィールドにより代替される。サーボトラック内の2個のPRBSフィールドは同一であるが、隣接トラックのPRBSフィールドは異なる。交替トラックの集合が、良好な自己相関特性を有する疑似ノイズ・シーケンスである先頭の疑似ランダムバイナリシーケンス(PRBS)、および先頭PRBSから周期的にシフトされた後続PRBSを用いる。第1の集合とインターリーブされた交替トラックの第2の集合もまた、先頭PRBSおよび先頭PRBSから周期的にシフトされた後続PRBSを有する。しかし、第2の集合の各トラックの先頭PRBSは、第1トラック集合の先頭PRBSからトラックに沿ってずれている。ヘッド位置決め制御システムは先頭PRBSを用いてサーボタイミングマーク(STM)を生成し、周期的シフトを用いてトラックID(TID)を生成し、隣接トラックからの後続PRBSを用いてヘッド位置誤差信号(PES)を生成する。交替トラック(例:奇数番目のサーボトラック)内の第1のPRBSフィールドは、他のトラック(すなわち偶数番目のサーボトラック)内の第1のPRBSフィールドからずれている。サーボトラック上の第1または先頭PRBSフィールドは、STMとして機能する。STMは、第2のPRBSフィールドのウインドウを提供する基準を提供し、これはTIDおよびPESの両方を符号化するために用いられる。TIDは、第1PRBSフィールドと第2PRBSフィールドの間の周期的シフトに起因して周方向位相関係に符号化される。先頭PRBSと後続PRBSの間の周期的シフトは半径方向における各トラックの一定の増分に対して増大するため、各トラック内の先頭PRBSと後続PRBSの間の周期的シフトの長さがTIDを表す。PESは、読み出しヘッドが半径方向に隣接するサーボトラックを横断するにつれて、異なるサーボトラックからの第2または後続PRBSフィールドの相対的な寄与から導かれる。2個の隣接トラック内の後続PRBSの検出から生じたダイパルスの振幅の違いは、ディスク駆動アクチュエータへ送られたPESを表してヘッドをトラック上に維持する。
【0008】
Blaum他による(特許文献4)には、トラックIDの第1および第2の部分がディスクセクタ内で物理的に分離されている分散トラックIDの方法が記述されている。トラックIDの各部分はグレイコードを用いて符号化される。
【0009】
符号分割多重アクセス(CDMA)等、無線通信技術から導かれた理論的概念もまた、HDDへの応用に利用できるが、HDDにおける問題は全く異なる制約を課すとともに、大幅に異なるシーケンス集合を必要とする。CDMAはスペクトル拡散技術であり、所与の周波数帯において複数のユーザ同時に共存できるように可変データストリームを許す。CDMAは、各ユーザのデータストリームに一意なコードを割り当てて、他のストリームから区別する。CDMAおよび他の高度な無線通信技術で用いられるシーケンスタイプは、周期的拡張および非ゼロ相対遅延時間の下で直交性を維持する直交シーケンス集合を用いる。これらの集合は、文献において緩やかな同期集合またはゼロ相関領域集合として広く知られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,078,445号明細書
【特許文献2】米国特許第6,967,808号明細書
【特許文献3】米国特許第7,193,800号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第20090168227号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第20080266701号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態は、選択された数学的特性を有する符号化ビットのシーケンスを含む統合サーボフィールドにおける記憶装置用の主要なサーボ副機能の一部または全てを実装する。統合サーボフィールドは、可変ユーザーデータが従来技術と同様にサーボウェッジ間に記録された状態で、サーボウェッジ内のディスク上に周期的に配置することができる。統合サーボフィールドは、多数の符号化シーケンスで構成されており、これらは好適には、以下が機能、すなわちサーボトラックマーク(STM)、位置誤差信号(PES)、およびトラックID等の位置情報の一部または全部を提供すべく制約されている選択されたシーケンス集合の要素である。サーボウェッジ内のシーケンスの並置もまた、読み出し信号における隣接シーケンスの寄与の検出可能性を増すべく制約されている。統合サーボフィールドは、隣接シーケンスに対して信号読み出しの振幅を介してデータトラック内の中心に対する位置誤差信号(PES)を提供する。
【0012】
一実施形態において、各統合サーボフィールドは、データトラックの幅の半分であるシーケンスからなる。別の実施形態において、各統合サーボフィールドは、各々がデータトラックと同じ幅であるシーケンスからなり、少なくとも1個のシーケンスがデータトラックの幅の半分だけデータトラックの中心線からずれている状態でタンデムに書き込まれる。
【0013】
シーケンス集合は、統合フィールドが好適には以下の基本サーボ機能を提供すべく数学的に制約されている。
【0014】
1.各シーケンスは好適にはサーボトラックマーク(STM)として機能できる。集合内の各シーケンスは、最適マッチしたフィルタの出力が明確な位置情報を与えるべく充分な非周期自己相関特性を有する。
【0015】
2.これらのシーケンスは、トラックおよびセクタID(位置識別子)等のデジタル位置情報を符号化すべくサーボウェッジ内のパターンとして配置される。許可されたシーケンスの組み合わせは整数の集合にマッピングされ、デジタル位置情報を提供する。
【0016】
3.STM時点でヘッド信号に存在する隣接(クロストラック)シーケンスの相対振幅からPESが決定される。
【0017】
上述の制約(2)は、読み出し信号内に一度に複数のシーケンス(メッセージ)が存在するという利点があることで、標準直交メッセージシグナリング等、他のデジタルシグナリング技術とは実質的に異なる。このデジタル技術はまた、シーケンスの相対振幅を用いてPESの連続的な(「アナログ」)推定を可能にする。ディスク上に配置された際に、隣接シーケンス(クロストラック方向の)は数学的に直交する、すなわち内積がゼロであるように選択される。
【0018】
一実施形態は、高度な無線通信方式から得られる比較的標準的なシーケンス集合と比較して、HDD用途において特に有用且つ効率的な新規のシーケンス集合を生成するHDD固有の制約を含んでいる。その結果生じるシーケンス集合は一般に、その結果得られるフィルタの集合を極めて効率的に読出しチャネルに実装可能にすると共に、サーボライターの位相誤差、DCヘッドの信号シフト、および最も重要なタイプのヘッド非線形性に耐性のあるシステムが得られる。
【0019】
別の実施形態において、複数のサーボウェッジをまたがってトラックID等の位置識別子が分散されている。この実施形態は、HDDのフルストロークをサポートするために必要なシーケンスの数を制限することによりシステムの実装効率を大幅に改善する。本発明のいくつかの実施形態は、選択された数の連続的なサーボウェッジにおいて検出されたシーケンスをディスク上のヘッドの全体的な位置にマッピングする方法を用いる。本発明の方法の範囲内でそのようなマッピングが可能である。例えば、一実施形態では中国余剰定理に基づくマッピングを用いる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】本発明による、ディスク上で隣接する統合サーボフィールドの実施形態の構成図である。
【図1B】本発明による、ディスク上でタンデム/オフセット配置された統合サーボフィールドの実施形態の構成図である。
【図1C】本発明による、冗長な先頭および後続ビットを有する統合サーボフィールドで用いる拡張シーケンスの実施形態の構成図である。
【図2】本発明の実施形態による、tau=1で長さが8の互いにプレシオ同期する4個のバイナリシーケンス集合を示す。
【図3】本発明の一実施形態による、厳密にDCフリーで長さが12である9個のシーケンスを含む6個のシーケンス集合を示す。
【図4】図3の集合C’の9個のシーケンスのプレシオ同期特性を示すグラフである。
【図5】本発明の分散トラックIDの実施形態におけるサーボウェッジのサンプルディスクパターン示す。
【図6】中国余剰定理符号化を用いる本発明の4ウェッジ分散トラックIDの実施形態のディスクパターンを示す。
【図7】中国余剰定理符号化を用いる本発明の4ウェッジ分散トラックIDの実施形態のシーケンスサイクルの例である。
【図8】本発明の一実施形態による例示的フィルタバンクを示す。
【図9】本発明の一実施形態による9シーケンスのフィルタバンクのフィルタ出力および2シーケンス入力を示す。
【図10】本発明の一実施形態によるサーボシステムを示すブロック図である。
【図11】本発明の一実施形態によるディスクドライブシステムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の利点は、従来技術サーボシステムと比較して各サーボウェッジのサイズ要件を大幅に減らすことである。いくつかの実験により、5乃至10分の1程度に削減可能なことを示す。本システムはまた、サイズの利点を維持しつつ、同時にサーボライターの本来的な位相誤差および周波数要件を減らす。
【0022】
本発明は、複数の機能を有する単一の統合サーボフィールドを用いるため、従来技術の方法より効率的である。本発明は、恐らく1ビットのSTMまたはトラックIDを有し、特定のシーケンスタイプ(疑似ノイズ(PN)または疑似ランダムシーケンスのいずれか)しか用いない本質的にPESフィールドとしてのみ動作可能な従来技術の方法に対する改善である。本発明は、従来技術による単一の逆向きに用いるシーケンスの代わりに、複数の有効トラックID(TID)ビットおよびフルシーケンス集合を含む解決策を可能にする。
【0023】
本発明の概念を4個の主要なセクションに記述する。本発明で用いる基本シーケンスおよびシーケンス集合の実施形態について最初に記述する。シーケンス集合および対応するフィルタの集合は本質的にサーボトラックマーク(STM)機能を指定する。第二に、デジタル位置情報(トラックまたはセクタID等)およびPESが符号化できるような仕方でそのようなシーケンス集合をディスク上に配置する方法を記述する。第三に、複数のサーボウェッジにまたがってデジタル位置情報を分散および統合する方法を記述する。最後に、本発明の検出および信号処理態様について議論する。
【0024】
本発明の基本構成ブロックは、統合サーボフィールドが構築される基礎としてのシーケンス集合の設計である。サーボウェッジ内のシーケンスの構成は、分数トラック位置決めにアナログPESを提供しながら、トラックおよびセクタ番号等の所望のデジタル位置情報を符号化する。
【実施例】
【0025】
図11は、本発明の一実施形態による情報記憶システム(ディスクドライブ)110を示すブロック図である。ディスクドライブは、従来の方法で構成されたデータ記録ディスク15、アクチュエータアーム113、および読み出しヘッド112を含んでいる。書き込みヘッド(図示せず)もまた、読み出しヘッドと同一パッケージに含まれる。サーボシステム90、読み出し/書き込み電子機器114、インターフェース電子機器115、コントローラ電子機器116、マイクロプロセッサ117、およびRAM118。基本システム要素は通常、本明細書に記述する場合を除いて、従来技術に従うものとする。ディスクドライブは、ディスクモーターにより回転するハブ上に積み重ねられた複数のディスクを含んでいて、各ディスクの各面に別々のヘッドがあってよい。
【0026】
サーボウェッジ120という用語は、ディスク上でIDからODまで伸びている統合サーボフィールドの連続する集合を意味する。従来技術と同様に、本発明によるディスク15は通常、ディスクの半径方向に配置された複数のサーボウェッジ120を有するが、ここでは2個のみを示す。
【0027】
図1Aは、本発明によるディスク15上の統合サーボフィールド11の実施形態の構成図である。2個のデータトラックの一部だけを示す。通常は数千個のトラックがHDD内のディスク上に見える。データトラック内の幅は、HDD内でヘッド(図示せず)により書き込まれるデータの幅である。ヘッドの有効読み出し幅は書き込み幅より僅かに狭くてよい。この図では4個のシーケンス(A〜D)のみを示すが、実際の実施形態は後述するようにより多くのシーケンスを含んでいる。この実施形態では符号化シーケンスA〜Dの幅はデータトラック幅の半分である。シーケンスA〜Dは好適には、製造工程の一部としてサーボライターにより書き込まれる。シーケンスA〜Dの幅はサーボトラックピッチに等しい。
【0028】
本例における読み出しヘッドの有効読み出し幅は従って、2個の符号化シーケンスの幅を合わせたものにほぼ等しいか、またはこれより僅かに狭い。読み出し信号は従って、少なくとも2個の符号化シーケンスからの寄与を必然的に含んでいる。これらのシーケンスは、読み出し信号における隣接シーケンスの寄与の復号化を容易にすべく選択されてディスク上に配置される。トラックNの統合サーボフィールドは、選択されたシーケンス集合の要素である符号化シーケンスAおよびBから構成されている。トラックN+1の同様に統合されたサーボフィールドは、同様に選択されたシーケンス集合の要素である符号化シーケンスCおよびDから構成されている。
【0029】
図1Bは、本発明によるディスク15上の統合サーボフィールド11Tの代替的な実施形態の構成図である。この実施形態では、符号化シーケンスA〜Dの幅はデータトラック幅に等しい。トラックNのシーケンスAおよびBは、シーケンスBがデータトラックの幅の半分ずれた状態でタンデムに書き込まれる。
【0030】
図1Cは、上述の実施形態のいずれでも利用できる拡張シーケンス12の実施形態の構成図である。拡張シーケンス12は、以下に詳述する方法で決定されるビットB〜Bのシーケンス13からなる。また、各々がBおよびBの複製であるオプションの先頭および後続冗長ビット13L、13Tも示す。このように、先頭冗長ビット13Lは、シーケンス13内の最終ビットであるBの複製である。後続冗長ビット13Tは、シーケンス13内の最初のビットであるBの複製である。シーケンス13の周期的拡張を表す代替的な実施形態を拡張シーケンスと呼ぶ。追加的な冗長ビットは、後述する特別なシーケンス特性に起因してシーケンスの検出可能性を向上させる。
【0031】
シーケンス集合
後述する特定の好適な実施形態は、特にHDD用途に有用であるいくつかの制約をシーケンス集合に課すが、本発明の他の実施形態ではこれらの制約を含める必要がない。HDD用途の場合、記述する実施形態のために採用する制約は以下の通りである。
【0032】
1.シーケンス集合内の各シーケンスは、磁気媒体に書き込み可能または別途保存可能でなければならない。バイポーラバイナリの(+1、−1)シーケンスは、従来方式の記録のためにこの制約に整合する。ユニポーラバイナリ(1、0)シーケンスは、ビットパターン記録(BPR)または離散トラック記録(DTR)用に現在検討中であるDC磁気サーボ書き込みシステムに適している。これらのシーケンスがバイナリでなければならない基本的な理由は無いため、原理的には3進値または実数値であってもよい。例えば、これらの実施形態はバイナリおよびユニポーラオプションの組み合わせから3進(+1、0、−1)シーケンスを含んでいてよい。本明細書に記述する特定の実施形態および例はバイポーラバイナリ制約を用いている。
【0033】
2.集合内の各シーケンスはディスクに記録される際に合理的にDCフリーでなければならない。すなわち、ビットの極端なシーケンスは避けねばならない。好適には、各シーケンスは合計してほぼ0でなければならない。この特性は、読出しチャネルハードウェア内で整合フィルタ検出バンクにおいて、垂直磁気記録システムまたはAC結合ポールにおける低周波問題に対する耐性を上げて、アーム電子機器(AE)およびチャネル電子機器における静的DCオフセット問題を除去する。
【0034】
3.ディスク上に配置された際に、隣接シーケンスが(クロストラック方向で)直交する、すなわち内積がゼロであるように選択される。これは、これらのシーケンスに対応する分析整合フィルタが互いに干渉しないことを意味する。これにより、読出しチャネルハードウェアのフィルタを用いて、読み出し信号に存在する他のシーケンスから所望のシーケンスを分離できる。この制約と標準の直交シーケンス集合の制約との重要な差異は、ディスク上で隣接するシーケンスだけが必然的に互いに直交すればよい点であり、すなわちシーケンス集合は互い直交しない要素を含んでいてよい。制約(1)と(3)の組み合わせは、トラック毎にシーケンス要素(ビット)の厳密に半分が変化して、PES支配クロストラック遷移ノイズを制限することを意味する。最後に、(2)および(3)の組み合わせは、2次オーダーのヘッド非線形性は分析フィルタ出力に影響を及ぼさないことを意味する。
【0035】
4.ディスク上の隣接シーケンスは、周期的拡張および時間シフトの下で「tau」と呼ばれる選択されたパラメータまで直交するように制約されている。この特性はプレシオ同期特性と呼ばれる。プレシオ同期は「緩やかに同期」と同義に用いられ、プレシオ同期シーケンス集合は「ゼロ相関領域」シーケンス集合である。
【0036】
この特性は、サーボ書き込み処理における位相誤差に対する耐性を与え、STM目的のために各シーケンスの自己相関特性を向上させ、検出用電子機器における信号処理チェックとして有用である。
【0037】
当業者は、これらの制約の詳細事項に対する明らかな変更が、本発明の範囲内である他の種類のシーケンス集合に波及し得ることに注意されたい。
【0038】
シーケンス内のビット数が選択されたならば、上に掲載した4個の制約の適用により、コンピュータによる全検索により直接的に見つけられる新たな系統のシーケンス集合が生成される。そのような集合のうち長さが8ビットである最も簡単な4個(括弧に入れられて)を図2に示す。これらのシーケンスは、厳密にはDCフリーではないが、各シーケンスは逆符号である少なくとも2ビットを有しているため、シーケンスの総和は最大+/−4になる。図2に、tau=1で長さが8の互いにプレシオ同期する4個のバイナリシーケンス集合を示す。図2のシーケンス集合の特別なケースにおいて、集合内の全てのシーケンスは互いに直交していて、1単位のサイクルシフトの下でも直交したままである。各シーケンスは、他の全てのシーケンスについて1単位シフトされている。シーケンス内の各ビット値を反転させることにより逆シーケンスが得られる。各集合の逆シーケンスが使用可能であるため、本例では合計8個のシーケンスが統合サーボフィールド内で利用可能である。この点について以下に更に詳細に議論する。
【0039】
【表1】

【0040】
シーケンスおよびその否定(逆シーケンス)がディスク上のサーボウェッジ内で隣接できないという制約は、正STM検出に適しないヌル信号状態を回避する。逆シーケンスは、ワンステップPESおよびヌル位相PES等、PESのみの用途で許されて共通的に用いられる。その結果得られる隣接制約を、図2に一例として示す第3のシーケンス集合から生じるプレシオ同期制約に加えて、表1に示す。図2の第3シーケンス集合の4個のシーケンス21、22、23,24を各々シーケンス番号1〜4として掲載し、それらの4個の対応する逆シーケンスは「^」記号を付けて表す。セル内の「」は、2個のシーケンスがディスク上で隣接してもよいことを意味する。どのシーケンスも自分自身または自身の逆シーケンスとは直交しないが、それ以外の場合には本例では全てのシーケンスは互いに直交してディスク上で隣接していてもよい。
【0041】
図3に、コンピュータが生成したシーケンス集合のより複雑な例を示す。この場合必ずしも集合内のシーケンスの全てが互いにプレシオ同期している訳ではない。図3において、厳密にDCフリーで長さが12である9個のシーケンスを含む6個のシーケンス集合(A’〜F’)が存在する。プレシオ同期であるこれらのシーケンスは、パラメータtau=1を有する。このシーケンス集合は、非直交シーケンスが当該集合の一部であることを許すことによりシーケンス集合のサイズを拡大できる、より一般的なケースを示す。直交シーケンスの利点は、ディスク上の隣接シーケンス(クロストラック方向で)が事実上直交するようにシーケンスがディスク上に現れる順序を決めることにより維持される。この制約を実装できるのは、シーケンスが予め決定されていて、一旦ディスクに書き込まれたならば固定されるためであって、一般的な通信の場合にあてはまらない。
【0042】
図3に示すシーケンス集合C’は、集合内の各シーケンスの回文もまた当該集合内(ある記号内で)に存在するという興味深い特性を有する。「回文の集合」という語句を用いてこの特性を記述する。たとえ全てのパターンが反転されても、同じ基本読出しチャネル電子機器ハードウェアを用いて回文の集合に基づくサーボパターンは復号化できる。そのような特性は、同一マスターを用いてディスクのAおよびB面をBPM製造する際に有用である。(例えば(特許文献5)参照)。
【0043】
図3の集合C’内の9個のシーケンスのプレシオ同期特性を図4のグラフに1〜9とラベル付けして示しており、1が図3の集合C’内の最初のシーケンスであって、9が最終シーケンスである。頂点はシーケンスを表し、エッジの有無で対応シーケンス同士のプレシオ同期特性の有無を示す。
【0044】
表2に図4のシーケンスのシーケンス関係を掲載しており、逆シーケンスは「^」記号を用いて表記している。表2の情報はグラフと等価である。完全グラフとは、全ての頂点がエッジを介して他の全ての頂点に接続しているグラフである。図2の長さが8であるシーケンス集合と同様に使用できる4個のシーケンス(例:シーケンス1、2、4および5)の4個の完全部分グラフが存在する。これらのシーケンスはグラフの頂点である。グラフの頂点を接続するエッジは、どのシーケンスがディスク上で隣接し得るかを指定する。
【0045】
しかし、これらの異なるシーケンス集合は互いに接続していて、新たな自由度および4個の集合が独立に用いる場合により許されるよりも複雑なディスクパターン構成を与える。厳密にDCフリーであるためにシーケンス(オーダー4の集合内で)可能な最短の長さは12である。そのような集合の全てを図3に掲載する。
【0046】
【表2】

【0047】
ここまでの説明は、使用可能なシーケンスの数とシーケンスの複雑さ(すなわち長さ)との間のトレードオフを示す。表3は、このトレードオフがプレシオ同期パラメータ(tau)も含んでいることを示す。表3は、完全に互いにプレシオ同期する集合の最大オーダーMをシーケンス長Lおよびパラメータtauの関数として示す。
【0048】
【表3】

【0049】
複数のシーケンスによるデジタルデータおよびPESの符号化
トラックIDデータおよびPESを符号化すべくディスク上に配置されたシーケンスのパターンの特定の実施形態について記述する。シーケンスが隣接できるための制約の例について上で述べた。一般性をほぼ失なうことなく、トラック毎に、ディスク上でパターンが現れる順序が期間Tの周期的なパターンである場合を考慮してよい。そのような周期的パターンをグラフにおいてエッジではなく頂点を繰り返す閉路として描くことができる。そのような経路を「サイクル」と呼ばれる。例えば1−2−3−4−1−2−3−4−1−2−3−4等の許容可能なサイクル、およびヘッド信号が、ある相対的な振幅のシーケンス2および3で構成されるものと判定できるならば、ヘッドは頂点(シーケンスに対応)2および3を結合しているエッジに沿ったサイクルの一意な位置に存在する筈である。
分数トラック情報(すなわちPES)は、読み出しヘッド(センサ)からの信号内の2個のシーケンスの相対振幅により決定される。例えば、2個の振幅が同一である場合、ヘッドは当該サイクル上の頂点2と3の間のエッジの中間点にある。
【0050】
この例を一般化すれば、ヘッドの読み出し幅がサーボトラックピッチ(データトラック幅の半分)に厳密に等しい場合、サイクルTの長さを法として、ヘッドの整数位置および分数位置の両方を(サイクル上の有限個の特異点を除いて)決定することができる。微小誤差信号(PES)について以下で更に議論する。
【0051】
サイクル長Tを最大化することは、単一の測定で有効トラックまたはセクタIDビットの個数を増す効果がある点で有利である。この問題は、グラフにおいてオイラーサイクル(すなわちちょうど1回あらゆるエッジを用いるサイクル)を発見する公知の問題と等価である。オイラーサイクル定理により、N個のシーケンスおよびN個の逆シーケンスの完全グラフにおいて長さが2(N−1)であるサイクルが常に存在することを示すことが可能である。例えば、N=4の場合、長さ24のサイクルが存在する。N個のシーケンス完全集合により実現できるトラックまたはセクタビットの有効な個数は約1+2log2(N)である。
【0052】
読み出し信号内に3個のシーケンスが存在する場合、グラフは物理的システムに適用する必要がある全ての制約を含んでいる訳ではない。特に、3個の隣接シーケンスの1番目と3番目は逆シーケンスではあり得ない。この余分の制約は通常、極めて弱い。例えば、この追加的な制約に従うグラフに長さ24のオイラーサイクルが存在することを示すのは容易である。
【0053】
同様の考察が、図4に示すような混合シーケンス集合に基づくシステムのようなより複雑な例にあてはまる。このグラフには長さ80のオイラーサイクルが存在し、トラックまたはセクタIDに利用できる約6.4個の有効デジタルビットを与える。この有効ビット数を上回るにはオーダー7の完全グラフシーケンス集合が必要である。そのようなシーケンス集合は存在する(表3に示すように)が、これらのシーケンスはより長くおよび/またはより複雑である。
【0054】
位置誤差信号(PES)
本発明の実施形態におけるヘッドの分数トラック位置決めのPESは、2個以上のシーケンスからの信号振幅から得られる。図1Aの実施形態において、ヘッドの読み出し幅はディスクに書き込まれたシーケンスの(クロストラック)幅より広いがシーケンス幅の2倍よりは狭い。この場合、読み出しヘッドおよび書き込まれたトラックエッジの相対的な位置に応じて、読み出しヘッド信号は常に、隣接トラックからの2または3個のシーケンスの名目的に線形な組み合わせを含んでいる。トラック番号の分数部分(すなわちPES)は、(|V1|−|V2|)/(|V1|+|V2|)に比例しており、ここにV1およびV2は隣接シーケンスから読み出された信号振幅であり、シーケンスの逆バージョンが存在し得るため絶対値が必要である。
【0055】
ヘッドの読み出し幅が3個のシーケンスにまたがっていて、中央のシーケンスの振幅がV2である場合、PESは(|V1|−|V3|)/(|V1|+|V2|+|V3|)に比例している。代替的なPES計算も可能である。ヘッドが2個のシーケンスにまたがっている場合、位置検出はデフォルトとして上で概説したアルゴリズムを用いる。いずれの場合も、2または3個の振幅によりサイクル上の位置が完全に決定される。
【0056】
代替的な実施形態では単一のウェッジ内で複数のフィールドを用いることができる。2重フィールドシステムの例を図1Bに示す。この例では、2個のフィールド内のシーケンスは各々データトラックの幅と同じ幅を有するが、トラックに沿った(ダウントラック方向の)タンデムシーケンスで書き込まれ、図では水平方向に伸びている。この実施形態において、第2のシーケンスフィールド(右側のシーケンスBおよびD)が、対応するシーケンスAおよびC(クロストラック方向に関して)からデータトラック幅の半分ずれた(位相外)位置にある。一例として、読み出しヘッドの読み出し幅がデータトラック幅にほぼ等しく、ディスクが読み出しヘッドの下で右から左に回転していると仮定する。ヘッドがトラックN+1の上で中央に位置している場合、読み出し経路は左側のシーケンスCフィールドの上を直接通過し、次いで右側のシーケンスBおよびDにまたがる。この種の実施形態において、ヘッドの下には一度に1個または2個のシーケンスが存在する。例えば、ヘッドが第1のフィールド内で1個のシーケンスを読み出す場合、ヘッドは通常、第2のフィールド内で2個の隣接シーケンスを読み出すことができる。同様に、第2のフィールド内で1個のシーケンスしか読み出さないようにヘッドが境界に整列配置されている場合、2個のシーケンスは第1のフィールドから読み出すことができる。この半データトラックオフセット配置は、2個の隣接フィールドを読み出す場合に標準のPES計算が機能できるように、従来技術の標準のクワッドバーストPES配置を充分に模倣する。ヘッドがどのフィールドの中央にも置かれていない場合、ヘッドは各フィールド内で2個の隣接シーケンスを読み出すことがある。この実施形態は、隣接フィールドのために読み出された信号の振幅がサーボシステムに対し、クワッドバーストPESから読み出された信号の振幅が行なうのと同様にデータトラックの中央に対してヘッドがどこにあるかを示すため、従来技術PESシステムの特性に模倣すべく容易に設定可能である。
【0057】
複数フィールドにおけるトラックおよびセクタID情報の分散
上の議論から、HDD内の各ディスク上のトラックの数が現在数十万にのぼるため、単一の期間Tでドライブ全体を覆うために必要なシーケンスの数が極めて大きくなり得ることは明らかである。トラックまたはセクタビットの有効な個数を増やす効率的な方法は、必要な情報を複数のフィールドに分散することである。サーボウェッジの複数のフィールド間で情報を共有するか、または複数のサーボウェッジ)の情報フィールドを共有する(またはその両方)ことは可能である。本セクションでは、これらの技術の二つの例を提示する。
【0058】
第1の例において、各ウェッジで単一フィールドを用いて、トラックID情報は4個の隣接するウェッジをまたがって分散される。あるいは、シーケンスが占有する領域が大幅に増大するが、4個のフィールドを各ウェッジに含めることができる。この例ではトラックID情報だけを示すが、同じ概念を用いてセクタ−ID情報を加えることもできる。
【0059】
ヘッドの読み出し幅がサーボトラックピッチ(通常はデータトラックの幅の半分)より十分に大きいことが分かっている場合、4個の連続するウェッジ分散システムが適している。この実施形態において、フルトラックIDは、4個の連続するフィールドを読み出して4個のフィールドからのシーケンスを予想されるトラックIDに一意にマッピングすることにより復元される。この実施形態では中国余剰定理(CRT)マッピングを用いているが、他のマッピングを用いて1個以上のサーボウェッジで読み出されたシーケンス集合をトラックIDに変換することができる。例えば、テーブル参照法により、シーケンスの順序集合をトラックID、セクタIDその他の所望の情報にマッピングできる。
【0060】
図5に、4個のウェッジの集合の第1のサーボウェッジ71内の64個のシーケンスM64のサイクルの配置を示す。各シーケンスはデータトラックの幅の半分であり、従って1トラック当たり2個のシーケンスが存在する。図6に、4個のサーボウェッジ71、72、73、74の集合を示す。この構成図(一定の縮尺では描かれていない)では選択されたサーボフィールドだけを示し、サーボフィールドの間に記録されるデータは示していない。複数のトラックが、図で垂直方向のクロストラック方向に表されている。図6のディスクパターンはIDからODまで繰り返される。サーボウェッジ71では64個のシーケンスM64のサイクルがクロストラック方向に繰り返される。サーボウェッジ72では63個のシーケンスM63のサイクルが繰り返される。サーボウェッジ73では61個のシーケンスM61のサイクルが繰り返される。サーボウェッジ74では59個のシーケンスM59のサイクルが繰り返される。
【0061】
図7に4個のサイクルM64、M63、M61、M59の集合を示し、これらは図3のシーケンス集合C’および「^」記号で表されたそれらの逆シーケンスの長さ12のシーケンスに基づいている。合計18個の許容されたシーケンスが存在する。これらのサイクルは、任意の3個の隣接するシーケンスが互いに異なっていてプレシオ同期である特性を有する。
【0062】
一意性を保証し、各々が互いに素である異なる周期T=64、63、61、59(M64、M63、M61、M59に対応する)を有する図7に示す4個のサイクルの集合により実装される中国余剰定理(CRT)マッピングを用いる。その結果得られるシステムは、i=1,2,3,4についてトラックID(modulo Ti)の整数部分を識別し、中国余剰定理(CRT)の一意な部分により、64636159=14511168個のサーボトラックを法とするトラックID全体を復元する。これは現在のHDDにとり充分に大きい。この例では各データトラックに2個のサーボトラックが存在することに注意されたい。
【0063】
一例として、ヘッドが図6に示す経路82に沿って読み出していると仮定する。この場合ヘッドは図の下から1番目のデータトラックの中央に位置しているものとする。サーボウェッジ71において、ヘッドはM64(1,2)と表記されたサイクルM64内の第1のシーケンス対を読み出す。同様にサーボウェッジ72、73、74において、ヘッドはサイクルM63、M61、およびM59の第1のシーケンス対も読み出す。一つの概念的に簡単な実装では、テーブルを用いて4のシーケンス対をトラック番号に変換することができるが、上述の計算が好適であろう。
【0064】
比較のため、ヘッドが図6に示す経路83に沿って読み出す場合は図の下から33番目のデータトラックの中央に位置しているものとする。サーボウェッジ71において、ヘッドは、再びM64(1,2)と表記されたサイクルM64内の第1のシーケンス対を読み出す。しかし、サーボウェッジ72では、ヘッドはサイクルM63=M63(2,3)内の第2および第3のシーケンス対を読み出す。これは、サイクルM63はM64より1シーケンス分短いためである。続いてサーボウェッジ73においてヘッドはシーケンスM61(4,5)を読み出し、サーボウェッジ74においてヘッドはシーケンスM59(6,7)を読み出す。従って、各トラックに一意に対応するシーケンス集合が系統的に決定される。上で定義された方法を実装する位置識別子デコーダについて、中国剰余ソルバーを用いて記述する。
【0065】
セクタ識別
上ではトラックID番号だけに言及したが、本発明の概念を拡張してセクタ識別子を含めることができる。セクタ符号化はいくつかの方式で実現できる。1トラック当たり数百セクタが存在し得る。一つの方法は、第2のグループのフィルタを用いて例えば図3に示すシーケンスの他の集合のうち1個を復号化するものである。所与のサーボウェッジは、シーケンス集合C’またはシーケンス集合D’のいずれかを用いて、各々「0」または「1」のセクタビットを符号化できる。
【0066】
別の代替方式として、シーケンスを当該サーボウェッジのサイクルから流用できる。例えば、第1のシーケンスフィールドの逆シーケンスを用いてセクタを符号化できる。第2の方法は、より長いサイクルを構築するために逆シーケンスを利用するのではなく、セクタビットを符号化するために逆シーケンスを用いるものである。より効率的には、第1のシーケンスに対して2個の異なるグラフを用いることができる。ここで鍵となるのは、各サーボウェッジに対して分散セクタ識別子(分散方法によらず)に使用できる1ビットの情報を符号化する方法が存在することである。この実施形態では、2個のシーケンスを用いて当該ビットを符号化するために2個の異なるSTMを生成する。第3の方法は、所与のサーボウェッジ用のセクタビットを符号化する別のSTMタイプを導入する。従来技術の装置は、2個の異なるSTMパターンを利用することにより同様の技術を用いる。しかし、STMを符号化する方法は従来技術とは異なる。グラフタイプがセクタビットを符号化する。例えば、図4を参照するに、STM1グラフは、ノード+/−1、+/−2、+/−4、および+5を用いることができる。STM2グラフは、ノード+/−6、+/−8、+/−9および−5を用いることができる。
【0067】
統合サーボフィールドの信号処理および検出
好適な実施形態は、設計の直交制約を利用して整合フィルタによりSTM、シーケンスおよびシーケンスの振幅を検出する。整合フィルタ検出システムにおいて、各シーケンスは、ディスク上のパターン(この場合はシーケンスの周期的拡張)および当該シーケンスの存在の検出に用いる相関フィルタの両方を決定する。これらのシーケンス集合は、ヘッドの信号を表す単一の入力から分析フィルタバンクの複数の出力を高速アルゴリズムに決定させる。
【0068】
図8に、図2のシーケンス集合(シーケンス21、22、23、24)用に高速アルゴリズムを実装しているフィルタバンク81の例を示し、ディスク上のシーケンス(+1または−1)の各要素がM回サンプリングされ、ボックスカーアキュムレータ82によりM個の結果の平均を取る。Aとラベル付けされた出力はシーケンス21に対応し、出力Bはシーケンス22に対応し、出力Cはシーケンス23に対応し、出力Dはシーケンス23に対応する。フィルタバンクの複雑さは基本的に遅延素子により支配される。10個の2入力加算素子および21個のM遅延素子がある。同様に簡単なフィルタバンク実装は、上で考察したタイプのより複雑なシーケンス集合により可能である。
【0069】
図9に、ヘッド信号が三角印と丸印を線で結んだグラフで示すフィルタ出力に対応する最大2個のシーケンスの線形結合を含む9シーケンスのバージョン用の整合フィルタバンクの出力を示す。その結果得られる情報(検出されたシーケンスとその振幅)はPESと共にトラックまたはセクタID情報を与える。STM検出ルールの例は以下の通りである。すなわち、各フィルタ出力の振幅が最大値の両側で充分ゼロに近い(図9のラベル付けされた位置を参照)全振幅の絶対値が存在する位置を見つける。第2の制約は、誤ったSTMを減らすために有用であって、プレシオ同期するtauパラメータから得られる。
【0070】
図10は、本発明の一実施形態によるサーボシステム90を示すブロック図である。上述のような複数のシーケンスフィルタ92が、入力データストリーム内における所定のシーケンスの存在を検出する。シーケンスフィルタ92への入力は、ヘッドから信号を処理する読み出しチャネル(図示せず)からのアナログ/デジタル変換器(ADC)サンプルである。STM/シーケンス検出器94は、シーケンスフィルタ92からの出力を用いて、位置識別子デコーダ、すなわちTIDデコーダ96およびセクタデコーダ97に信号を供給する。PES多重化装置95は、シーケンスフィルタ92からの出力をSTM/シーケンス検出器94からの信号と共に用いる。ハードディスクコントローラ(HDC)/サーボプロセッサ100は、TIDデコーダ96に期待TIDを供給し、次いでTIDデコーダ96は実際のTIDをHDC/サーボプロセッサ100に供給する。セクタデコーダ97は、HDC/サーボプロセッサ100にセクタIDを供給する。HDC/サーボプロセッサ100へのPES信号はPES多重化装置95から送られ、PES多重化装置95はシーケンスフィルタ92からの出力をSTM/シーケンス検出器94からの信号と共に用いる。
【0071】
本発明について実施形態を参照して説明してきたが、当業者には理解されるように、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形式および細部における各種の変更が可能である。従って、開示された本発明の実施形態は説明用に過ぎず、添付の請求項により指定される本発明の範囲を限定することは意図していない。
【符号の説明】
【0072】
11 サーボフィールド
11T サーボフィールド
12 拡張シーケンス
13 ビットシーケンス
13L 先頭冗長ビット
13T 後続冗長ビット
15 データ記録ディスク
21〜24 シーケンス
71〜74 サーボウェッジ
M64,M63,M61,M59 サイクル
81 フィルタバンク
82,83 経路
90 サーボシステム
92 シーケンスフィルタ
94 STM/シーケンス検出器
95 PES多重化装置
96 TIDデコーダ
97 セクタデコーダ
100 HDC/サーボプロセッサ
110 情報記憶システム
112 読み出しヘッド
113 アクチュエータアーム
114 R/W電子機器
115 インターフェース電子機器
116 コントローラ電子機器
117 マイクロプロセッサ
118 RAM
120 サーボウェッジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサーボウェッジ内に配置された複数の事前記録されたサーボフィールドを有するディスクにおいて、各サーボフィールドが所定のシーケンス集合の要素である少なくとも1個のシーケンスを含んでいて、前記シーケンスが位置識別子を定義するシーケンスの順序集合により位置識別子を符号化するパターンに配列されていて、前記シーケンスの順序集合が少なくとも2個のサーボウェッジにまたがって分散されている前記位置識別子を定義するディスクと、
前記ディスクが回転中に、読み出しヘッドの下を通過する前記シーケンスにより生じた信号を生成する読み出しヘッドと、
サーボシステムとを含む情報記憶システムであって、
前記サーボシステムが、
前記信号内の前記シーケンス集合内の各シーケンスを検出するための対応フィルタを含むフィルタの集合と、
前記フィルタにより検出された少なくとも2個のシーケンスを用いて前記位置識別子を導く位置識別子デコーダとを含んでいる情報記憶システム。
【請求項2】
前記位置識別子を定義する前記シーケンスの順序集合が、第1の所定数を法とする前記位置識別子の第1の剰余値を表す第1のサーボウェッジ内の第1のシーケンス対を含む、請求項1に記載の情報記憶システム。
【請求項3】
前記位置識別子を定義する前記シーケンスの順序集合が、第2の所定数を法とする前記トラック識別子の第2の剰余値を表す第2のサーボウェッジ内の第2のシーケンス対を含む、請求項2に記載の情報記憶システム。
【請求項4】
前記第1および第2の所定数が互いに素である、請求項3に記載の情報記憶システム。
【請求項5】
前記位置識別子デコーダが、少なくとも第1および第2の剰余値、並びに中国剰余ソルバーを用いて前記位置識別子を決定する、請求項4に記載の情報記憶システム。
【請求項6】
前記位置識別子を定義する前記シーケンスの順序集合が、第1の所定数を法とする前記位置識別子の第1の剰余値を表す第1のサーボウェッジ内の第1のシーケンス対と、第2の所定数を法とする前記位置識別子の第2の剰余値を表す第2のサーボウェッジ内の第2のシーケンス対とを含んでいて、前記第1および第2のシーケンス対がディスクの半径方向に分散された周期的パターンで繰り返される、請求項1に記載の情報記憶システム。
【請求項7】
前記シーケンス集合が互いに数学的に直交するシーケンスおよび互いに数学的に直交しないシーケンスを含んでいて、前記シーケンスが、クロストラック方向に隣接するシーケンスが数学的に直交するパターンに配置されている、請求項1に記載の情報記憶システム。
【請求項8】
前記サーボシステムが、前記フィルタの集合によるシーケンスの検出を用いてサーボトラックマーク信号を生成する手段を更に含む、請求項1に記載の情報記憶システム。
【請求項9】
前記サーボシステムが、前記信号内の第1および第2のシーケンスに対応する第1および第2の信号振幅を検出して、選択されたデータトラックの上に読み出しヘッドを配置すべく位置誤差信号を生成する手段を更に含む、請求項1に記載の情報記憶システム。
【請求項10】
前記シーケンス集合が互いにプレシオ同期である、請求項1に記載の情報記憶システム。
【請求項11】
前記所定のシーケンス集合が、逆シーケンスを含んでいないシーケンスの第1の部分集合と、前記第1の部分集合の逆シーケンスであるシーケンスの第2の部分集合とを含んでいて、前記第1の部分集合内の各シーケンスが前記第1の部分集合内の他の全てシーケンスと数学的に直交している、請求項1に記載の情報記憶システム。
【請求項12】
複数のサーボウェッジ内に配置された複数の事前記録されたサーボフィールドを有するディスクにおいて、各サーボフィールドが互いに数学的に直交するシーケンスおよび互いに数学的に直交しないシーケンスを含む所定のシーケンス集合の要素である少なくとも1個のシーケンスを含んでいて、前記シーケンスが位置識別子を定義するシーケンスの順序集合により位置識別子を符号化するパターンに配列されていて、前記シーケンスの順序集合が少なくとも2個のサーボウェッジにまたがって分散されている前記位置識別子を定義するディスクと、
前記ディスクが回転中に、読み出しヘッドの下を通過する前記シーケンスにより生じた信号を生成する読み出しヘッドと、
サーボシステムとを含む情報記憶システムであって、
前記サーボシステムが、
前記信号内の前記シーケンス集合内の各シーケンスを検出するためのフィルタを含むフィルタの集合と、
前記フィルタの集合により検出された少なくとも2個のシーケンスを用いて前記位置識別子を導く位置識別子デコーダとを含んでいる情報記憶システム。
【請求項13】
前記位置識別子を定義する前記シーケンスの順序集合が、第1の所定数を法とする前記位置識別子の第1の剰余値を表す第1のサーボウェッジ内の第1のシーケンス対と、第2の所定数を法とする前記位置識別子の第2の剰余値を表す第2のサーボウェッジ内の第2のシーケンス対とを含む、請求項12に記載の情報記憶システム。
【請求項14】
前記第1および第2の所定数が互いに素であって、前記位置識別子デコーダが、少なくとも第1および第2の剰余値、並びに中国剰余ソルバーを用いて前記位置識別子を決定する、請求項13に記載の情報記憶システム。
【請求項15】
前記位置識別子を定義する前記シーケンスの順序集合が、第1のサーボウェッジ内の第1のシーケンス対と、第2のサーボウェッジ内の第2のシーケンス対とを含んでいて、前記第1および第2のシーケンス対がディスクの半径方向に分散されたサーボウェッジ内の周期的パターンで繰り返される、請求項12に記載の情報記憶システム。
【請求項16】
各データトラック毎に各サーボウェッジ内に少なくとも2個のシーケンスがクロストラック方向に横並びに配置されていて、前記2個のシーケンスの各々の幅が前記データトラックの半分である、請求項1又は12に記載の情報記憶システム。
【請求項17】
各データトラック毎に各サーボウェッジ内に少なくとも2個のシーケンスがデータトラックに沿ってダウントラック方向にタンデムに配置されていて、前記2個のシーケンスの各々の幅が前記データトラックとほぼ同じであって、前記2個のシーケンスのうち1個が前記クロストラック方向に前記データトラックの幅の半分ずれている、請求項1又は12に記載の情報記憶システム。
【請求項18】
前記シーケンスが、クロストラック方向に隣接するシーケンスが数学的に直交するパターンに配置されている、請求項12に記載の情報記憶システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−129244(P2011−129244A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278930(P2010−278930)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】