説明

情報記録媒体の評価方法および情報記録媒体評価装置

光入射面に付着した指紋が信号特性に与える影響に基づいて情報記録媒体を評価する情報記録媒体の評価方法を提供する。
情報記録媒体の光入射面に人工指紋を付着させるステップ(ステップS12)と、人工指紋が付着している付着領域に記録されている信号を再生するステップ(ステップS13)と、再生した信号の信号品質に基づいて情報記録媒体の良否を判定するステップ(ステップS14)とを実行する。これにより、光入射面への指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体を規格外品とし、かかる情報記録媒体が市場に流通する事態を回避することができる。この結果、特に、ベアディスク状態での使用を前提とした情報記録媒体の信頼性を充分に確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度記録が可能な情報記録媒体の良否を評価する情報記録媒体の評価方法および情報記録媒体評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルデータを記録するための大容量記録媒体として、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)に代表される光記録媒体が広く用いられている。この場合、CDのうちの再生専用タイプ(データの追記や書き換えができないタイプのCD(CD−ROM))は、厚みが約1.2mmの光透過性基板上に反射層および保護層が積層されて構成されている。このタイプのCDでは、波長約780nmのレーザービームを光透過性基板側から反射層に向けて照射することによってデータの再生が行われる。また、CDのうちのデータの追記が可能なタイプ(CD−R)やデータの書き換えが可能なタイプ(CD−RW)は、光透過性基板と反射層との間に記録層が形成されて構成されている。このタイプのCDでは、波長約780nmのレーザービームを光透過性基板側から記録層に向けて照射することによってデータの記録および再生が行われる。この場合、上記各タイプのCDにレーザービームを照射する際には、レーザービームを集束するために開口数が約0.45の対物レンズが用いられている。これにより、これらのCDでは、反射層または記録層上におけるレーザービームのビームスポット径が約1.6μmまで絞られて、約700MBの記録容量と、高速なデータ転送レート(基準線速度(約1.2m/sec)において約1Mbps)が実現されている。
【0003】
一方、DVDのうちの再生専用タイプ(データの追記や書き換えができないタイプのDVD(DVD−ROM))は、厚みが約0.6mmの光透過性基板上に反射層および保護層が積層された積層体と、厚みが約0.6mmのダミー基板とが接着層を介して貼り合わされて構成されている。このタイプのDVDでは、波長約635nmのレーザービームを光透過性基板側から反射層に向けて照射することによってデータの再生が行われる。また、DVDのうちのデータの追記が可能なタイプ(DVD−R等)やデータの書き換えが可能なタイプ(DVD−RW等)は、光透過性基板と反射層との間に記録層が形成されて構成されている。このタイプのDVDでは、波長約635nmのレーザービームを光透過性基板側から記録層に向けて照射することによってデータの記録および再生が行われる。この場合、上記各タイプのDVDにレーザービームを照射する際には、レーザービームを集束するために開口数が約0.6の対物レンズが用いられている。これにより、これらのDVDでは、反射層または記録層上におけるレーザービームのビームスポット径が約0.93μmまで絞られて、CDに比べてより小さいビームスポット径が実現されている。また、DVDに対する記録および再生時には、CDに対する記録および再生時よりも波長の短いレーザービームが用いられ、ビームスポット径の小径化と相俟って、DVDでは、約4.7GB/面の記録容量と、高速なデータ転送レート(基準線速度(約3.5m/sec)において約11Mbps)が実現されている。
【0004】
また、近年では、DVDを超えるデータの記録容量を有し、かつ、DVDを超えるデータ転送レートを実現可能な光記録媒体が提案されている(特許文献1参照)。このような次世代型の光記録媒体においては、記録容量のさらなる大容量化を実現するために、波長約405nmのレーザービームが用いられると共に、開口数が約0.85の対物レンズが用いられる。これにより、レーザービームのビームスポット径が約0.43μmまで絞られて約25GB/面の記録容量と、さらに高速なデータ転送レート(基準線速度(約5.7m/sec)において約36Mbps)を実現することが可能となっている。
【0005】
このような次世代型の光記録媒体では、開口数が非常に大きい対物レンズが用いられるため、コマ収差の発生を抑えて十分なチルトマージンを確保するために、レーザービームの光路となる光透過層の厚みが200μm以下(一例として、100μm程度)と非常に薄く規定される。しかし、データの記録や再生に際して開口数が大きい対物レンズから波長が短いレーザービームを射出した場合、上記したように光記録媒体の光入射面上におけるビームスポットも縮小されるため、光入射面に付着した汚れ、特に指紋が再生信号の信号特性に与える影響が大きくなる。この場合、上述した次世代型の光記録媒体のようにレーザービームの光路となる光透過層の厚みが非常に薄い光記録媒体では、光入射面上におけるビームスポットが一層小さくなり、付着した指紋が信号特性に与える影響が非常に大きくなる。このような問題は、カートリッジなどに収容されることなく、ベアディスク状態で使用されることを前提とする光記録媒体において極めて深刻な問題となる。したがって、出願人は、光記録媒体に人工的に形成した擬似的な指紋(人工指紋)を付着させて指紋付着性を評価することにより、指紋が付着し難く、かつ、付着した指紋を除去し易い光記録媒体の開発を進めている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−168248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように指紋が付着し難い光記録媒体の開発を進める一方、出願人は、光入射面に指紋が付着したときにデータの記録再生についての信頼性が低下しない光記録媒体を開発すべきと考えている。具体的には、指紋が付着し難い光記録媒体を開発したとしても、例えばベアディスク状態で使用される光記録媒体では、指紋等の付着を完全に阻止するのが非常に困難となっている。このため、実際の使用環境を想定して製品の信頼性を考慮すれば、光入射面に付着した指紋が信号特性に与える影響が大きい光記録媒体を規格外品として排除し、市場に流通させるべきではないと考えられる。したがって、指紋付着の有無がデータの再生特性や記録特性に与える影響を把握して光記録媒体(情報記録媒体)の良否を評価する必要が生じている。
【0007】
本発明は、光入射面に付着した指紋が信号特性に与える影響に基づいて情報記録媒体を評価する情報記録媒体の評価方法および情報記録媒体評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、情報記録媒体の光入射面に人工指紋を付着させるステップと、前記人工指紋が付着している付着領域に記録されている信号を再生するステップと、前記再生した信号の信号品質に基づいて前記情報記録媒体の良否を判定するステップとを実行する。なお、本発明における情報記録媒体には、CDやDVDなどの光記録媒体のみならず、MOなどの光磁気記録媒体が含まれる。
【0009】
また、本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、前記良否を判定するステップにおいて前記信号品質としてのエラーレートに基づいて前記情報記録媒体の良否を判定する。
【0010】
さらに、本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、前記人工指紋を付着させるステップの実行に先立ち、少なくとも前記付着領域に前記信号を記録するステップを実行する。
【0011】
また、本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、前記人工指紋を付着させるステップの実行後に、少なくとも前記付着領域に前記信号を記録するステップを実行する。
【0012】
さらに、本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、前記人工指紋を付着させるステップとして、人工指紋液を含浸または付着させた人工指紋液供給部材に転写材を押し付けて当該転写材に当該人工指紋液を付着させる第1のサブステップと、前記人工指紋液が付着した前記転写材を前記情報記録媒体の前記光入射面に押し付ける第2のサブステップとを少なくとも実行する。
【0013】
また、本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、複数の前記情報記録媒体を評価する際に、前記人工指紋を付着させるステップにおいて前記人工指紋液供給部材に対する前記転写材の押し付け圧力を一定に維持する。
【0014】
さらに、本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、複数の前記情報記録媒体を評価する際に、前記人工指紋を付着させるステップにおいて前記光入射面に対する前記転写材の押し付け圧力を一定に維持する。
【0015】
また、本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、前記人工指紋液供給部材に含浸または付着させる人工指紋液を所定量に維持する。
【0016】
さらに、本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、前記信号の再生に用いるレーザービームの波長をλ、当該レーザービームを集束するための対物レンズの開口数をNAとしたときに、λ/NAが640nm以下となる条件を満たす環境下で前記信号を再生するステップを実行する。
【0017】
また、本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、光透過層の厚みが200μm以下の前記情報記録媒体を評価対象とする。
【0018】
さらに、本発明に係る情報記録媒体の評価方法は、ベアディスク状態で使用するように構成された前記情報記録媒体を評価対象とする。
【0019】
また、本発明に係る情報記録媒体評価装置は、情報記録媒体の光入射面に人工指紋を付着させる指紋付着部と、前記人工指紋が付着している付着領域に記録されている信号を再生する信号再生部と、前記再生した信号の信号品質に基づいて前記情報記録媒体の良否を判定する判定部とを備えている。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、光入射面に人工指紋を付着させるステップと、付着領域に記録されている信号を再生するステップと、再生信号の信号品質に基づいて情報記録媒体の良否を判定するステップとを実行することにより、光入射面に人工指紋を付着させたときに再生信号の信号品質が規定値を超えるか否かに基づいて情報記録媒体の良否を判別することができる。したがって、光入射面への指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体を規格外品として排除し、かかる情報記録媒体が市場に流通する事態を回避することができる。これにより、特に、ベアディスク状態での使用を前提とした情報記録媒体の信頼性を充分に確保することができる。
【0021】
また、本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、良否を判定するステップにおいてエラーレートを信号品質として良否を判定することにより、光入射面に付着した指紋が再生信号に与える影響を直接的に比較することができる。
【0022】
さらに、本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、人工指紋を付着させるステップの実行に先立ち、少なくとも付着領域に信号を記録するステップを実行することにより、光入射面に付着した指紋が再生特性に与える影響を直接的に評価することができる。
【0023】
また、本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、人工指紋を付着させるステップの実行後に、少なくとも付着領域に信号を記録するステップを実行することにより、光入射面に付着した指紋が再生特性に与える影響のみならず、記録特性に与える影響についても考慮した評価を行うことができる。
【0024】
さらに、本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、人工指紋液供給部材に転写材を押し付けて人工指紋液を付着させる第1のサブステップと、転写材を情報記録媒体の光入射面に押し付ける第2のサブステップとを人工指紋を付着させるステップとして少なくとも実行することにより、比較的簡便な方法で光入射面に人工指紋を形成(転写)することができる。
【0025】
また、本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、人工指紋を付着させるステップにおいて人工指紋液供給部材に対する転写材の押し付け圧力を一定に維持することにより、一定量の人工指紋液を転写材に付着させることができるため、複数の情報記録媒体に対する評価に際して各情報記録媒体に同一条件下で人工指紋液を付着させることができる。したがって、信号品質(エラーレート等)と密接な関係にある人工指紋液の光入射面への付着量が各情報記録媒体の指紋付着性に応じて変化することとなるため、各情報記録媒体の良否を的確に判別することができる。
【0026】
さらに、本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、人工指紋を付着させるステップにおいて光入射面に対する転写材の押し付け圧力を一定に維持することにより、複数の情報記録媒体に対する評価に際して信号品質(エラーレート等)と密接な関係にある人工指紋液の光入射面への付着量が各情報記録媒体の指紋付着性に応じて変化することとなるため、各情報記録媒体の良否を的確に判別することができる。
【0027】
また、本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、人工指紋液供給部材に含浸または付着させる人工指紋液を所定量に維持することにより、一定量の人工指紋液を転写材に付着させることができるため、複数の情報記録媒体に対する評価に際して各情報記録媒体に同一条件下で人工指紋液を付着させることができる。したがって、信号品質(エラーレート等)と密接な関係にある人工指紋液の光入射面への付着量が各情報記録媒体の指紋付着性に応じて変化することとなるため、各情報記録媒体の良否を的確に判別することができる。
【0028】
さらに、本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、λ/NAが640nm以下となる条件を満たす環境下で信号を再生するステップを実行することにより、このような環境下で使用されるのが前提の情報記録媒体(光入射面におけるレーザービームのビームスポットが非常に小さく、指紋付着が信号特性に与える影響が大きい情報記録媒体)のうち、指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体を規格外品として市場に流通する事態を回避することができる。
【0029】
また、本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、光透過層の厚みが200μm以下の情報記録媒体を評価対象とすることにより、このような環境下で使用されるのが前提の情報記録媒体(光入射面におけるレーザービームのビームスポットが非常に小さく、指紋付着が信号特性に与える影響が大きい情報記録媒体)のうち、指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体を規格外品として市場に流通する事態を回避することができる。
【0030】
さらに、本発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、ベアディスク状態で使用するように構成された情報記録媒体を評価対象とすることにより、カートリッジなどに収容されることなく、指紋が付着し易い環境下で使用されるのが前提の情報記録媒体のうち、指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体を規格外品として市場に流通する事態を回避することができる。
【0031】
また、本発明に係る情報記録媒体評価装置によれば、指紋付着部、信号再生部および判定部を備えたことにより、光入射面に人工指紋を付着させたときに再生信号の信号品質が規定値を超えるか否かに基づいて情報記録媒体の良否を判別することができる。したがって、光入射面への指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体を規格外品とし、かかる情報記録媒体が市場に流通する事態を回避することができる。これにより、特に、ベアディスク状態での使用を前提とした情報記録媒体の信頼性を充分に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】光記録媒体評価装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る情報記録媒体の評価方法の一例である良否判定処理100のフローチャートである。
【図3】評価対象の一例である光記録媒体10の構成を示す図であって、一部を切り欠いた状態の斜視図である。
【図4】図3におけるA部を拡大した部分断面図である。
【図5】評価対象の他の一例である光記録媒体20の層構造を示す部分断面図である。
【図6】評価対象のさらに他の一例である光記録媒体30の層構造を示す部分断面図である。
【図7】評価対象のさらに他の一例である光記録媒体40の層構造を示す部分断面図である。
【図8】人工指紋液を付着させた人工指紋液供給部材61に転写材62を押し付けている状態を示す図である。
【図9】人工指紋液を付着させた転写材62を評価対象である光記録媒体10(20,30,40)の光入射面13aに押し付けている状態を示す図である。
【図10】本発明に係る情報記録媒体の評価方法の他の一例である良否判定処理200のフローチャートである。
【図11】本発明に係る情報記録媒体の評価方法のさらに他の一例である良否判定処理300のフローチャートである。
【図12】本発明に係る情報記録媒体の評価方法のさらに他の一例である良否判定処理400のフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る情報記録媒体の評価方法および情報記録媒体評価装置の最良の形態について説明する。
【0034】
最初に、本発明に係る情報記録媒体の評価方法に従って光記録媒体10等(図3,4参照)の良否を判定(評価)する光記録媒体評価装置1の構成について、図面を参照して説明する。
【0035】
図1に示す光記録媒体評価装置1は、本発明に係る情報記録媒体評価装置の一例であって、後述するように、良否判定処理100等を実行して光記録媒体10等の良否を判定(評価)する。この光記録媒体評価装置1は、人工指紋転写装置2、記録再生装置3および制御装置4を備えて構成されている。人工指紋転写装置(以下、「転写装置」ともいう)2は、本発明における指紋付着部に相当し、転写材62を移動させるための移動機構2aと、移動機構2aによる転写材62の人工指紋液供給部材61や光記録媒体10等に対する押し付け圧力を検出するための圧力センサ2bとを備えている。記録再生装置3は、本発明における信号再生部に相当し、制御装置4の制御下で光記録媒体10等に対するデータの記録および光記録媒体10等からのデータの読み出し(データの再生)を実行する。制御装置4は、本発明における判定部に相当し、記録再生装置3からの出力信号(光記録媒体10等から読み出された再生信号)の信号品質に基づいて光記録媒体10等の良否を判定する。
【0036】
また、人工指紋液供給部材(人工指紋液供給用原盤)61は、一例として平板状のポリカーボネートで形成されて後述する良否判定処理100等に際して転写材62に付着させるための人工指紋液が付着(塗布)される。この場合、人工指紋液(人工指紋の材料)としては、特に限定されないが、微粒子状物質と、この微粒子状物質を分散可能な分散媒とを含んで構成することが好ましい。また、実際の指紋に含まれる固体成分の大半がケラチンであるため微粒子状物質としては、ケラチンと呼ばれる蛋白質の微粉末を用いることが好ましい。したがって、人工指紋液としての最も単純な構成は、ケラチンの微粉末を後述する分散媒に添加、混合することによって調製した人工指紋液が挙げられる。具体的には、水、オレイン酸、スクアレンおよびトリオレイン等の分散媒にケラチン微粉末を適当な比率で混合したものを人工指紋液として有効に用いることができる。
【0037】
しかしながら、一般的に入手可能なケラチンが著しく高価であるため、情報記録媒体の評価コストが高騰する。また、市販されているケラチンの粒度分布が実際の指紋に含まれるケラチンの粒度分布と相違するため、必要に応じて予め粒度分布を揃えておく必要がある。したがって、市販のケラチンを微粒子状物質として使用するのは、コストの面でも測定精度およびその再現性の点でも必ずしも好ましいとはいえない。このため、ケラチンに代えて、無機微粒子や有機微粒子から選択した少なくとも1種類の微粒子を含む微粒子状物質を用いることが好ましい。この場合、無機微粒子としては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化鉄微粒子およびこれら微粒子のなかから選択した任意の2種類以上の微粒子の混合物が挙げられる。また、有機微粒子としては、例えば、キチン微粒子、キトサン微粒子、アクリル系微粒子、スチレン系微粒子、ジビニルベンゼン系微粒子、ポリアミド系微粒子、ポリイミド系微粒子、ポリウレタン系微粒子、メラミン系微粒子およびこれら微粒子のなかから選択した任意の2種類以上の微粒子の混合物が挙げられる。
【0038】
上記の無機微粒子は、いずれも、人工指紋液の構成成分としてケラチン微粒子と同等の効果を示し、かつ、市販されているケラチン微粒子よりも十分に安価となっている。したがって、評価コストの低減、並びに測定精度およびその再現性の向上を図るために、人工指紋液に混合する全微粒子状物質のうち、無機微粒子の含有量が50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることが一層好ましい。この場合、人工指紋液に混合する全微粒子状物質のすべて(すなわち、全微粒子状物質のうちの100重量%)を上記の無機微粒子で構成するのが非常に好ましい。また、必要に応じて、有機微粒子を併用することもできる。この場合、有機微粒子のなかでも、アクリル系微粒子、スチレン系微粒子、ジビニルベンゼン系微粒子、ポリアミド系微粒子、ポリイミド系微粒子、ポリウレタン系微粒子およびメラミン系微粒子等が安価であるため好ましい。さらに、ケラチン微粒子を併用することもできる。
【0039】
上記の微粒子状物質は、その平均粒径(すなわち中位径)が100μm以下であることが好ましく、平均粒径が50μm以下であることが一層好ましい。この場合、無機成分を含む平均粒径100μm以下の微粒子状物質としては、例えば、JIS Z8901試験用粉体1、JIS Z8901試験用粉体2、ISO試験粉体12103−1、および(社)日本粉体工業技術協会(APPIE)標準粉体などが挙げられる。上記の試験用粉体は、いずれも粒径が揃っており、しかも、比較的安価に入手できることから、人工指紋液を構成する微粒子状物質として好適に用いることができる。また、JIS Z8901試験用粉体1のなかでも関東ロームが一層好ましい粉体として挙げられる。一方、微粒子状物質の平均粒径については、微粒子状物質が大き過ぎても小さ過ぎても、実際の指紋に含有されているケラチンの代替品としての十分な機能が発揮され難くなるため、0.05μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることが一層好ましい。したがって、平均粒径が0.05μm以上100μm以下の範囲内の微粒子状物質を用いるのが好ましく、平均粒径が0.5μm以上50μm以下の範囲内の微粒子状物質を用いるのが一層好ましい。
【0040】
また、微粒子状物質としては、25℃における臨界表面張力が、混合する分散媒の25℃における表面張力よりも大きいことが好ましい。具体的には、一例として、臨界表面張力が40mNm−1以上であることが好ましく、50mNm−1以上であることが一層好ましい。この場合、無機微粒子として例示した上記の各微粒子は、いずれも、臨界表面張力についての好ましい条件を満たしている。
【0041】
一方、分散媒としては、汗や皮脂を構成する液体、またはそれに近い性状を有する液体であるのが好ましく、具体的には、25℃における表面張力が20〜50mNm−1の範囲内で、かつ、200℃における飽和蒸気圧が760mmHg(101325Pa)以下である液体を用いるのが好ましい。なお、25℃における表面張力が20mNm−1未満であるときには、光入射面に対する濡れ性が実際の指紋よりも高くなり過ぎる。また、25℃における表面張力が50mNm−1を超えるときには、光入射面に対する濡れ性が実際の指紋よりも低くなり過ぎる。さらに、200℃における飽和蒸気圧が760mmHg(101325Pa)を超えるときには、光入射面に付着させた後に分散媒が徐々に揮発し、付着させた人工指紋の状態が短時間のうちに変化してしまうことがある。したがって、表面張力および飽和蒸気圧が上記の範囲内となっていることが好ましい。また、分散媒としては、25℃における粘度が500cP以下であることが好ましく、0.5〜300cPであることが一層好ましく、5〜250cPであることがさらに好ましい。このような粘度を満たす分散媒を用いることにより、光入射面に人工指紋を付着させた後においても微粒子状物質を良好に分散させて光入射面に容易に定着させることができる。
【0042】
分散媒の具体的な材料としては、特に限定されないが、高級脂肪酸、高級脂肪酸の誘導体、テルペン類、およびテルペン類の誘導体等が挙げられる。この場合、高級脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸等が挙げられる。また、高級脂肪酸の誘導体としては、エステル誘導体が挙げられ、一例として、ジグリセリド誘導体およびトリグリセリド誘導体(トリオレイン等)が挙げられる。また、テルペン類としては、種々のテルペン類が挙げられ、具体的には、一例として、スクアレン、リモネン、α−ピネン、β−ピネン、カンフェン、リナロール、テルピネオールおよびカジネン等が挙げられる。これらのなかから、少なくとも1種類を選択し、単独または2種類以上を混合して用いることができる。また、これらの1種類または2種類以上と、水とを混合して用いることもできる。
【0043】
一方、人工指紋を付着させるための転写材62を形成するための材料としては、エラストマーを用いることが好ましい。具体的には、シリコーンゴム、ブタジエンゴムおよびウレタンゴム等を用いることが好ましい。なお、用いるエラストマーの硬度は、デュロメータ(タイプA)で測定した硬さが40以上70以下の範囲内であることが好ましく、50以上60以下の範囲内であることが一層好ましい。また、転写材62は、実際に人の指から型を採取して正確に指紋パターンを模した形状とすることもできるが、より簡便に人工指紋を付着させるために、JIS K2246−1994で規定されている人工指紋液プリント用のゴム栓を転写材62として使用することもできる。すなわち、No.10のゴム栓の小さい円面(直径約26mm)を、JIS R6251、またはJIS R6252に規定されているAA240の研磨材、またはその研磨剤と同等の研磨材を用いて研磨して粗面化したものを転写材62として用いることができる。なお、研磨材による研磨処理は、通常は手作業で行われるが、研磨処理時における平坦性や粗度のばらつき(すなわち、転写材62に対する人工指紋液の付着性のばらつき)を回避するために、転写材62を成形する際の金型表面を予め粗面化しておき、転写材の表面に人工指紋が転写されるように構成することもできる。なお、転写材62としては、実質的に上記の例示と同等の転写性が得られるものであれば、例示した材料を使用したものに限定されない。また、実際の指紋に近い寸法の人工指紋を付着させるためには、上述のゴム栓よりも小径(具体的には、直径8〜25mm程度)のゴム栓を用いることが好ましく、直径8〜20mmのゴム栓を用いることが一層好ましい。
【0044】
次に、評価対象の一例である光記録媒体10,20,30,40のそれぞれの構成について、図面を参照して説明する。
【0045】
図3,4に示す光記録媒体10は、本発明における情報記録媒体の一例であって、その外径が約120mmで厚みが約1.2mmの円板状に形成されている。この光記録媒体10は、図4に示すように、支持基板11、光透過層12、ハードコート層13および記録層14を備えている。また、光記録媒体10は、波長λが380nm以上450nm以下の範囲(一例として、405nm)のレーザービーム50を光入射面13a(ハードコート層13の表面)の側から照射することによって記録層14に対するデータの記録、および記録層14からのデータの読み出し(再生)を行うことができるように構成されている。この場合、光記録媒体10に対するデータの記録再生時には、開口数が0.65以上、好ましくは0.85程度の対物レンズ51が用いると共に、レーザービーム50の波長をλ、対物レンズ51の開口数をNAとしたときに、λ/NA≦640nmとなるように規定するのが好ましい。
【0046】
支持基板11は、記録層14等を形成するための支持部材として機能すると共に、光記録媒体10に求められる厚み(約1.2mm)を確保するための厚み調整用部材として機能するものであって、厚みが1.1mm程度の円板状に形成されている。また、支持基板11の一方の面には、レーザービーム50をガイドするためのグルーブ11aおよびランド11bが中心部近傍から外縁部に亘って螺旋状または同心円状に形成されている。この場合、支持基板11の材料としては種々の材料を用いることが可能であり、一例として、ガラス、セラミックスおよび樹脂などを用いることができる。これら各種材料のうち、成形が容易であることから樹脂を用いるのが好ましい。具体的には、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂およびウレタン樹脂等が挙げられる。このなかでも、加工が容易であることからポリカーボネート樹脂やオレフィン樹脂を用いるのが特に好ましい。この場合、この光記録媒体10では、支持基板11が、レーザービーム50の光路とはならないことから、支持基板11が高い光透過性を有している必要はない。この支持基板11については、スタンパーを用いた射出成形法によって作製することが好ましいが、フォトポリマー法(2P法)等の各種の方法によって作製することも可能である。
【0047】
光透過層12は、記録層14の傷付きを回避すると共にレーザービーム50の光路を形成する層であり、その厚みが10μm以上200μm以下の範囲(一例として、100μm程度)となるように形成されている。この場合、光透過層12を形成するための材料としては、記録再生時に使用されるレーザービーム50の波長領域における光透過率が十分に高い材料である限り特に限定されないが、アクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化性樹脂を用いてスピンコート法などによって形成することが好ましい。また、紫外線硬化性樹脂を硬化させて光透過層12を形成する代わりに、光透過性樹脂で形成された光透過性シートを各種接着剤や粘着剤を用いて貼付することによって光透過層12を形成することも可能である。
【0048】
ハードコート層13は、光記録媒体10に対してレーザービーム50が入射する光入射面13aに形成された薄膜であって、光透過層12を保護して傷付きを回避すると共に、指紋等の汚れの付着を防止する(汚れを付着し難くする)。この場合、ハードコート層13を形成するための材料としては、例えば、エポキシアクリレートオリゴマー(2官能オリゴマー)、多官能アクリルモノマー、単官能アクリルモノマー、および光重合開始剤を含む紫外線硬化性樹脂や、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)およびタンタル(Ta)等の酸化物、窒化物、硫化物、炭化物、またはそれらの混合物を用いることができる。また、ハードコート層13を形成するための材料として紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、スピンコート法によって光透過層12上に形成することが好ましく、上記酸化物、窒化物、硫化物、炭化物、またはそれらの混合物を用いる場合には、これらの構成元素を含む化学種を用いた気相成長法(例えば、スパッタリング法や真空蒸着法)によって光透過層12上に形成することが好ましい。この場合、気相成長法としては、スパッタリング法を採用することが好ましい。
【0049】
また、ハードコート層13に潤滑性を持たせることにより、防汚機能を一層高めることが可能となる。この場合、ハードコート層13に潤滑性を与えるには、ハードコート層13の母体となる材料に潤滑剤を含有させることが有効であり、潤滑剤としては、シリコーン系潤滑剤、フッ素系潤滑剤および脂肪酸エステル系潤滑剤のいずれかを選択することが好ましい。また、母体となる材料に潤滑剤を含有させる量としては、0.1質量%以上、5.0質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0050】
記録層14は、レーザービーム50の照射に伴って記録マークが形成されることでデータを記録する層であり、支持基板11と光透過層12との間に挟まれるようにして形成されている。この場合、記録層14を形成するための材料および記録層14の層構造は、特に限定されるものではないが、光記録媒体10を書き換え型の情報記録媒体として製造する場合には、相変化材料を用いて記録層14を形成することによって可逆的な記録マークが形成されるように構成する。また、光記録媒体10を追記型の情報記録媒体として製造する場合には、例えば、ZnSとSiOの混合物と、LaSiON(La、SiOおよびSiの混合物)とのいずれかを主成分とする誘電体母材にマグネシウム(Mg)および/またはアルミニウム(Al)を添加した材料を用いて記録層14を形成することによって不可逆的な記録マークが形成されるように構成する。さらに、光記録媒体10を追記型の情報記録媒体として製造する場合には、上記のような材料の選択のみならず、例えば、互いに相違する2種類の材料(一例として、シリコン(Si)と銅(Cu))を積層した積層構造を採用して記録層14を形成することにより、不可逆的な記録マークが形成されるように構成することもできる。
【0051】
このように構成された光記録媒体10では、前述したように、レーザービーム50の波長をλ、対物レンズ51の開口数をNAとした場合に、λ/NA≦640nmの条件が満たされ、かつ、光透過層12の厚みが200μm以下(この例では、100μm程度)と非常に薄く規定されていることから、光入射面13aにおけるレーザービーム50のビームスポットが極めて小径となる(一例として、120μm程度)。したがって、各種CD等の従来型の情報記録媒体(光入射面でのビームスポット径が大きい情報記録媒体)と比較して、光入射面13aに付着した指紋が信号特性に与える影響が相対的に大きくなる傾向があり、特に、ベアディスク状態での使用を前提とする場合には、使用に際して指紋等が付着し易いため、付着した指紋が信号特性に与える影響を無視できなくなる。したがって、このような光記録媒体10については、本発明に係る情報記録媒体の評価方法に従って指紋の付着が信号特性に与える影響を十分に評価する必要がある。
【0052】
一方、図5に示す光記録媒体20は、本発明における情報記録媒体の他の一例であって、前述した光記録媒体10における記録層14が第1の誘電体層15および第2の誘電体層16の間に挟まれるようにして保護された層構造が採用されている。なお、光記録媒体10の各層と同一の構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。第1の誘電体層15および第2の誘電体層16は、これらの間に形成されている記録層14を物理的および化学的に保護するための層であって、両誘電体層15,16によって保護されることで、記録層14にデータを記録した後に、長期に亘ってデータの消失(記録情報の劣化)が回避される。
【0053】
この場合、両誘電体層15,16を構成する材料は、使用するレーザービーム50の波長領域における光透過率が十分に高い誘電体であれば特に限定されず、一例として、酸化物、硫化物、窒化物またはこれらの組み合わせた材料を主成分として用いることができる。具体的には、支持基板11等の熱変形の防止、および記録層14に対する保護特性の観点から、Al、AlN、ZnO、ZnS、GeN、GeCrN、CeO、SiO、SiO、Si、SiC、La、TaO、TiO、SiAlON(SiO、Al、SiおよびAlNの混合物)およびLaSiON(La、SiOおよびSiの混合物)等、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、セリウム(Ce)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、タンタル(Ta)等の酸化物、窒化物、硫化物、炭化物、あるいはそれらの混合物を用いることが好ましく、特に、ZnSとSiOとの混合物を用いることが好ましい。この場合、ZnSとSiOのモル比は、80:20に設定することが特に好ましい。この場合、両誘電体層15,16を同一の材料で形成してもよいし、互いに相違する材料で形成してもよい。また、両誘電体層15,16の一方または双方を複数の誘電体膜からなる多層構造とすることもできる。
【0054】
このように構成された光記録媒体20では、レーザービーム50の波長をλ、対物レンズ51の開口数をNAとした場合に、λ/NA≦640nmの条件が満たされ、かつ、光透過層12の厚みが200μm以下(この例では、100μm程度)と非常に薄く規定されていることから、前述した光記録媒体10と同様にして、光入射面13aにおけるレーザービーム50のビームスポットが極めて小径となる(一例として、120μm程度)。したがって、この光記録媒体20についても、前述した光記録媒体10と同様にして、本発明に係る情報記録媒体の評価方法に従って指紋の付着が信号特性に与える影響を十分に評価する必要がある。
【0055】
また、図6に示す光記録媒体30は、本発明における情報記録媒体のさらに他の一例であって、前述した光記録媒体20における支持基板11と第2の誘電体層16との間に反射層17を追加した層構造が採用されている。なお、光記録媒体20の各層と同一の構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。この場合、反射層17は、光入射面13a側から照射されたレーザービーム50を反射して光入射面13aから射出させる層であって、多重干渉効果によって再生信号(C/N比)を高める機能も備えている。また、反射層17を形成するための材料は、レーザービーム50を反射可能である限り特に制限されず、一例として、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、銀(Ag)、白金(Pt)および金(Au)等を用いることができる。これら各材料のうち、高い反射率を有することから、アルミニウム(Al)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)またはこれらの合金(AlとTiとの合金等)などの金属材料を用いることが好ましく、銀(Ag)またはこれを主成分とする合金を用いることが一層好ましい。
【0056】
このように構成された光記録媒体30では、レーザービーム50の波長をλ、対物レンズ51の開口数をNAとした場合に、λ/NA≦640nmの条件が満たされ、かつ、光透過層12の厚みが200μm以下(この例では、100μm程度)と非常に薄く規定されていることから、前述した光記録媒体20と同様にして、光入射面13aにおけるレーザービーム50のビームスポットが極めて小径となる(一例として、120μm程度)。したがって、この光記録媒体30についても、前述した光記録媒体20と同様にして、本発明に係る情報記録媒体の評価方法に従って指紋の付着が信号特性に与える影響を十分に評価する必要がある。
【0057】
一方、図7に示す光記録媒体40は、本発明における情報記録媒体のさらに他の一例であって、既存の一般的なDVDと同様の構造を有している。具体的には、光記録媒体40は、光透過性基板41、ダミー基板42、保護層43、接着層44、ハードコート層13および記録層14を備えて構成されている。この光記録媒体40は、波長λが約405nmであるレーザービーム50が光入射面13a(ハードコート層13の表面)の側から照射されることによってデータの記録および再生が行われ、レーザービーム50の集束用に開口数が0.65程度の対物レンズ51が用いられる。したがって、レーザービーム50の波長をλ、対物レンズ51の開口数をNAとした場合に、λ/NA≦640nmの条件が満たされる。この場合、記録層14を2つの誘電体層で挟むようにして保護する層構造や、記録層14と保護層43との間に反射層を形成する層構造を採用することもできる。
【0058】
このように構成された光記録媒体40では、レーザービーム50の光路となる光透過性基板41の厚みが約0.6mmに規定されており、前述した光記録媒体10,20,30における光透過層12の厚みと比較して光透過性基板41の厚みが十分に厚くなっている。この場合、この光記録媒体40についても、使用するレーザービーム50の波長をλ、対物レンズ51の開口数をNAとした場合に、λ/NA≦640nmの条件が満たされるように構成されている。したがって、記録層14に集束されるレーザービーム50のビームスポットが、CDや既存のDVDなどの従来型の情報記録媒体と比較して非常に小径となるため、従来型の情報記録媒体と比較して、光入射面13aに付着した指紋が信号特性に与える影響が相対的に大きくなる傾向がある。したがって、このような光記録媒体40についても、前述した光記録媒体10,20,30と同様にして、本発明に係る情報記録媒体の評価方法に従って指紋の付着が信号特性に与える影響を十分に評価する必要がある。
【0059】
次いで、光記録媒体評価装置1による光記録媒体10等の評価方法について、図面を参照して説明する。
【0060】
追記型、または書き換え型の情報記録媒体を評価する際には、まず、評価対象の情報記録媒体(例えば、光記録媒体10)を光記録媒体評価装置1にセットして、評価処理(良否判定処理)の開始を指示する。これに応じて、光記録媒体評価装置1の制御装置4が図2に示す良否判定処理100を開始する。この良否判定処理100では、制御装置4は、まず、記録再生装置3を制御して光記録媒体10の記録層14に所定の信号を記録させる(本発明における「信号を記録するステップ」:ステップS11)。この場合、所定の信号を記録する記録条件については、光記録媒体10が実際に使用される環境に鑑みて、実際にデータを記録する際の諸条件(記録線速度、レーザービームのパルス列パターンおよび記録パワー等)と同様となるように記録再生装置3を設定することが好ましい。なお、この良否判定処理100において光記録媒体10に記録する信号は特に限定されず、ランダム信号および単一信号(同一信号の繰り返し)のいずれでもよい。
【0061】
次に、制御装置4は、転写装置2を制御してステップS11において所定の信号が記録された領域上の光入射面13aに、人工指紋を付着させる(本発明における「人工指紋を付着させるステップ」:ステップS12)。この場合、人工指紋とは、人工的に形成した擬似的な指紋であり、実際に人間の指紋を光入射面に付着させる代わりにこの人工指紋を付着させることによって、評価処理の都度、付着の条件を一定に維持することができる(付着条件の再現性を高めることができる)と共に、実際に人間の指紋を付着させる場合と比較して付着処理の作業効率を大幅に高めることが可能となる。なお、光入射面13aに人工指紋を付着させる方法については、後に詳細に説明する。次いで、人工指紋の付着が完了した後に、制御装置4は、記録再生装置3を制御してステップS11において記録させた信号を再生させる(本発明における「信号を再生するステップ」:ステップS13)。この際に、信号を再生する領域としては、ステップS12において人工指紋を付着させた領域を含んでいる必要がある。また、再生条件としては、実際にユーザがデータを再生する際の条件と同様の条件に設定することが好ましい。
【0062】
次いで、制御装置4は、ステップS13において再生された(記録再生装置3から出力された)信号の信号品質を測定し(本発明における「良否を判定するステップ」:ステップS14)、所定のしきい値を超えているときにその光記録媒体10を「不良品」と判定し(ステップS15)、所定のしきい値を超えていないときにその光記録媒体10を「良品」と判定する(ステップS16)。これにより、良否判定処理100が終了する。なお、制御装置4は、上記のステップ14において判定基準とする信号品質として、エラーレート、ジッタ、出力レベル、CN比、反射率、変調度、RF信号平坦度、フォーカス感度曲線のp−p(peak-to-peak)値、フォーカスエラー信号の残留エラー分の量、およびp−p値と残留エラー分の量との比率などのうちのいずれかを測定する。また、判定基準とする信号品質については、上記各信号特性のうちの1つ、または2つ以上を対象とすることができる。この中でも、光入射面13aに付着した人工指紋が与える影響を直接的に判断できることから、エラーレートを判定基準として測定して良否を判定することが特に好ましい。なお、上記の例では光記録媒体10を評価対象として良否判定処理100を実施しているが、光記録媒体20,30,40や、その他の各種情報記録媒体についても同様の処理を実行してその良否を評価することができる。
【0063】
続いて、上記の良否判定処理100におけるステップ12において光入射面13aに人工指紋を付着させる方法について、図面を参照して説明する。
【0064】
上記の良否判定処理100におけるステップ12では、転写装置2が制御装置4の制御下で光入射面13aに人工指紋を付着させる。具体的には、転写装置2は、まず、図8に示すように、移動機構2aが転写材62を移動させ、人工指紋液を付着させた(塗布した)人工指紋液供給部材61に転写材62を押し付けて転写材62に人工指紋液を付着させる。この際に、制御装置4は、移動機構2aによる人工指紋液供給部材61への転写材62の押し付け時に圧力センサ2bから出力される検出信号に基づき、人工指紋液供給部材61に対する転写材62の押し付け圧力(押圧力)を演算すると共に、押し付け開始からの経過時間を計測する。この場合、転写材62を人工指紋液供給部材61に押し付ける際の押圧力を「w1」とし(一例として、50g/cm〜5000g/cm)、転写材62を人工指紋液供給部材61に押し付ける時間を「t1」とし(一例として、5秒〜60秒)、転写材62の材質、表面粗度(平均粗さ)、濡れ性(表面エネルギー)および硬度(弾性率)などに依存して定まるパラメータを「p」とし、人工指紋液供給部材61の材質、表面粗度、濡れ性(表面エネルギー)、硬度(弾性率)および人工指紋液供給部材61の表面に存在する人工指紋液の量などに依存して定まる値を「s」としたときに、転写材62への人工指紋液の付着量(単位面積当り)を「R1」とすると、R1は以下の式(1)で表すことができる。
R1=f1(w1,t1,p,s) ・・・(1)
【0065】
この場合、上記式(1)の「R1」(転写材62への人工指紋液の付着量)は、転写材62を光入射面13aに押し付けた際の光入射面13aへの人工指紋液の付着量に大きな影響を与える。したがって、制御装置4は、圧力センサ2bからの検出信号に基づいて演算した押圧力(上記の「w1」)と、押し付け開始からの経過時間(上記の「t1」)と、転写材62に関する諸処の条件(上記の「p」)と、人工指紋液供給部材61に関する諸処の条件(上記の「s」)とに基づいて、転写材62への人工指紋液の付着量(上記の「R1」)が予め規定された量(一例として、30mg/m〜2010mg/m)となるように、移動機構2aを制御する。具体的には、制御装置4は、移動機構2aに対する制御時に、人工指紋液供給部材61に対する転写材62の押圧力と、人工指紋液供給部材61に転写材62を押圧する時間とを上記の範囲内で調整する。これにより、転写材62に一定量の人工指紋液が付着する。なお、移動機構2aが人工指紋液供給部材61に向けて転写材62を予め規定した移動量だけ移動させて所定時間だけ人工指紋液供給部材61に押し付けることによって転写材62に一定量の人工指紋液を付着させる構成を採用することができる。
【0066】
次いで、図9に示すように、人工指紋液が付着した転写材62を光入射面13aに押し当てる。この場合、転写材62を媒体の光入射面13aに押し当てる際の押圧力を「w2」とし(一例として、50g/cm〜5000g/cm)、転写材62を光入射面13aに押し当てる時間を「t2」とし(一例として、5秒〜60秒)、光記録媒体10における光入射面13aの表面粗度(平均粗さ)、濡れ性(表面エネルギー)および硬度(弾性率)などに依存して定まるパラメータを「d」としたときに、光入射面13aに付着する人工指紋液量(単位面積当り)を「R2」とすると、「R2」は以下の式(2)で表すことができる。
R2=f2(w2,t2,p,R1,d) ・・・(2)
【0067】
この場合、上記式(2)の「R2」(光入射面13aへの人工指紋液の付着量)は、良否判定処理100におけるステップS13において光記録媒体10からデータを読み出す際に、照射したレーザービーム50の戻り光の量に大きな影響を与える。この結果、上記式(2)の「R2」は、ステップS14における判別基準(この例では、エラーレート)に大きな影響を与える。したがって、制御装置4は、圧力センサ2bからの検出信号に基づいて演算した押圧力(上記の「w2」)と、押し付け開始からの経過時間(上記の「t2」)とが予め規定された状態となるように移動機構2aを制御することにより、光入射面13aに対して一定の条件下で人工指紋液を付着させる。この場合、上記式(2)中の各パラメータのうち、「w2」、「t2」、「p」および「R1」が一定の値となるため、結果として、光記録媒体10に関する諸条件(上記の「d」)に応じた量(上記の「R2」)の人工指紋液が光入射面13aに付着することとなる。なお、人工指紋液の付着量「R2」は、一例として、基準となる(良品の)光記録媒体10において20mg/m〜2000mg/mとなる。
【0068】
なお、良否判定処理100のステップS12において転写材62を人工指紋液供給部材61に押し付けるプロセス(本発明における第1のサブステップ)、および転写材62を光入射面13aに押し付けるプロセス(本発明における第2のサブステップ)は、例えばオペレータが手作業で実行することも可能であるが、光入射面13aへの人工指紋液の付着に関する条件(光記録媒体10に関する諸条件「d」を除くパラメータ)を良否判定処理100を実行する都度等しくするために(付着条件に必要十分な再現性が得られるように)、上記の転写装置2のような装置によって自動または半自動で実行されることが好ましい。また、転写装置2のような装置によって上記の両プロセスを実行する場合には、上記式(1)における「w1」および「t1」と、上記式(2)における「w2」および「t2」とを固定することにより、転写装置2を簡便かつ安価に作製することができる。この場合、「w1」、「t1」、「w2」および「t2」を変化させた際の「R1」および「R2」の変化量が比較的小さく、かつ「w1」、「t1」、「w2」および「t2」を極端に増減させると人工指紋液の付着量に関する再現性が著しく低下するおそれがあるため、「w1」、「t1」、「w2」および「t2」の実質的な可変域はさほど広くない。このような点からも「w1」、「t1」、「w2」および「t2」を所定の値に固定しておくのが合理的である。このように、「w1」、「t1」、「w2」および「t2」を固定することで、この変数を転写装置2に組み込むパラメータと見なすことができる。
【0069】
したがって、転写装置2に固有のパラメータ「M1」(M1=g1(w1,t1,p))、「M2」(M2=g2(w2,t2,p))を新たに定義すると、上記の式(1)は、以下の式(3)のように表すことができる。
R1=f1(M1,s) ・・・(3)
同様に、上記式(2)については、以下の式(4)のように表すことができる。
R2=f2(M2,R1,d) ・・・(4)
【0070】
上記式(4)から明らかなように、光入射面13aへの人工指紋液付着量「R2」は、「M2」、「R1」および「d」の3つのパラメータによって定まる。この場合、「M2」については、転写装置2を用いることで一定となり、「d」は評価対象である光記録媒体10の状態を表すパラメータであるため、実質的には、「R1」を変化させることで「R2」を所望の値(評価に適した量)に調整することとなる。この場合、本発明の目的は、所定のしきい値(dthreshold)を超える「d」である光記録媒体(所定の条件下で人工指紋液を付着させた際に所定量を超える人口指紋液が付着する光記録媒体:人工指紋液が付着し易い光記録媒体)を不良品として排除すると共に、指紋の付着によってエラーレート等(再生信号の信号品質)が著しく悪化する情報記録媒体を不良品として排除することにあるため、良否判定処理100では、光記録媒体10(評価対象)に関するパラメータである「d」が所定のしきい値(dthreshold)を超えたときに、再生信号に関するエラーレートが所定のしきい値を超えるように人工指紋液付着量「R2」のしきい値(R2threshold)を規定する必要がある。つまり、
R2threshold =f2(M2,R1,dthreshold)
の条件を満たすように転写装置2によって「R1」を調整する必要がある。
【0071】
一方、転写材62への人工指紋液付着量「R1」を調整するためには、人工指紋液供給部材61の状態(上記の「s」)を調整することとなる。この場合、「s」は、人工指紋液供給部材61の材質、表面粗度、濡れ性、硬度および人工指紋液供給部材61表面の人工指紋液量などに依存するが、このなかでも比較的自由に変化させ得るのは、表面の人工指紋液量である。したがって、人工指紋液供給部材61に付着させる(塗布する)人工指紋液の量を調整して人工指紋液供給部材61の表面に存在する人工指紋液量を一定量(一例として、転写材62に対して30mg/m〜2010mg/mだけ付着させることができる量)に維持することで転写材62への人工指紋液付着量「R1」を一定量に維持するのが好ましい。具体的には、一例として、スピンコート法やディップコート法によって人工指紋液供給部材61の表面に所定量の人工指紋液を均一に塗布し(付着させ)、人工指紋液供給部材61から転写材62に人工指紋液を付着させる都度、人工指紋液供給部材61に対する転写材62の押し付け位置を変更する(人工指紋液供給部材61における転写材62の押し付け位置全体に亘って人工指紋液を均一に塗布する)。これにより、常に一定量の人工指紋液を転写材62に付着させることができる。したがって、上記の良否判定処理100に際しては、転写装置2に固有のパラメータ「M1」、「M2」(「M1」=「M2」であってもよい)を最初に規定し、規定した「M1」、「M2」に応じて適切な「s」を規定することが望ましく、これは、本発明の好ましい一態様に含まれる。また、「s」を定めるに際には、適宜基準となる媒体(dthreshold)を用意し、この媒体に人工指紋を形成してエラーレートを測定することによって規定すればよい。この際に、どのような情報記録媒体を基準ディスクとするかについては、例えば、良否判定処理100の実施者と評価結果の要求者との協議のもとに適宜定めればよい。
【0072】
なお、上述の方法以外に、M1だけでなく、「s」についても予め任意の値に固定しておく方法が考えられる。つまり、上記式(3),(4)において、「M1」だけでなく「s」も任意の値に固定することにより、「R1」が定数となる。したがって、式(4)において「M2」と「R1」とが共に定数となり、「R2」が「d」のみに応じて変化することとなる。そこで、「M2」と「R1」とを予め一定に維持することで、光記録媒体10等のそれそれの状態(上記の「d」)に応じた量の人工指紋液を付着させた状態でエラーレートを測定して評価することができる。
【0073】
一方、転写材62に付着した人工指紋液「R1」の過剰分を「r」とし、この過剰分「r」を「R1」から差し引いた量(「R1」だけ人工指紋液を付着させた転写材62から「r」を拭い去った量)を「R1’」(R1’=R1−r)とすると、「R2」を以下の式(5)で表すことができる。
R2=f2(M2,R1’,d) ・・・(5)
【0074】
上記式(5)で表されるように、転写材62に付着した人工指紋液「R1」から過剰分「r」を何らかの方法によって取り除くことにより、過剰指紋液を除去した「R1’」を転写材62に付着させた状態とすることができる。この場合、過剰な指紋液の除去については、例えば、「R1」だけ人工指紋液が付着している転写材62を試験対象の光記録媒体10に押し付けるのに先立って、除去用の板材等(図示せず)等の表面に押し付けることによって達成することができる。この際に、除去用の板材の材質や、板材に押し付ける条件(押圧力や押圧時間等)などを適宜調整することにより、任意の「r」だけ転写材62から人工指紋液を除去することができ、結果として、「R1’」を所望の状態で一定に維持することができる。しかし、このような方法(過剰な人工指紋液の除去)を実行することは、良否判定処理100が煩雑になると共に、光入射面13aに対する人工指紋液の付着量についての条件にばらつきが生じるおそれもある(評価の再現性の低下に繋がるおそれもある)。したがって、前述したように、人工指紋液供給部材61の状態「s」(つまり、人工指紋液供給部材61表面の人工指紋液量)を調整して「R1」を一定に維持するのが好ましい。
【0075】
なお、上記したように「d」は同種の光記録媒体10等では一定値のため、「M2」と「R1」とを一定に維持した場合、結果として、「R2」が一定となる。具体的には、例えば、支持基板11、光透過層12およびハードコート層13の層構造や材質が同一で、記録層14を形成している記録材料のみが相違する各光記録媒体を評価対象とする際には、上記の「d」が各光記録媒体において同一の値となる。したがって、「M2」と「R1」とを予め一定に維持することで、各光記録媒体に一定量の人工指紋液を付着させた状態でエラーレートを測定して評価することもできる。
【0076】
以上説明したように、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法(良否判定処理100)によれば、人工指紋転写装置2によって光入射面13aに人工指紋を付着させるステップ(ステップS12)と、記録再生装置3によって付着領域に記録されている信号を再生するステップ(ステップS13)と、制御装置4によって再生信号の信号品質に基づいて光記録媒体10等の良否を判定するステップ(ステップS14)とを実行することにより、光入射面13aに人工指紋を付着させたときに再生信号の信号品質(この例では、エラーレート)が規定値を超えるか否かに基づいて光記録媒体10等の良否を判別することができる。したがって、光入射面13aへの指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体(光記録媒体10等)を規格外品として、かかる情報記録媒体が市場に流通する事態を回避することができる。これにより、特に、ベアディスク状態での使用を前提とした情報記録媒体の信頼性を充分に確保することができる。
【0077】
また、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法によれば、良否を判定するステップにおいてエラーレートを信号品質として良否を判定することにより、光入射面13aに付着した指紋が再生信号に与える影響を直接的に比較することができる。
【0078】
さらに、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法によれば、人工指紋を付着させるステップ(ステップS12)の実行に先立ち、付着領域に信号を記録するステップ(ステップS11)を実行することにより、光入射面13aに付着した指紋が再生特性に与える影響を直接的に評価することができる。
【0079】
また、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法によれば、人工指紋液供給部材61に転写材62を押し付けて人工指紋液を付着させる第1のサブステップと、転写材62を光記録媒体10等の光入射面13aに押し付ける第2のサブステップとを人工指紋を付着させるステップとして実行することにより、比較的簡便な方法で光入射面13aに人工指紋を形成(転写)することができる。
【0080】
さらに、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法によれば、人工指紋を付着させるステップにおいて人工指紋液供給部材61に対する転写材62の押し付け圧力を一定に維持することにより、一定量の人工指紋液を転写材62に付着させることができるため、複数の情報記録媒体(この例では光記録媒体10等)に対する評価に際して各情報記録媒体に同一条件下で人工指紋液を付着させることができる。したがって、信号品質(エラーレート等)と密接な関係にある人工指紋液の光入射面13aへの付着量が各情報記録媒体の指紋付着性(上記の「d」)に応じて変化することとなるため、各情報記録媒体の良否を的確に判別することができる。
【0081】
また、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法によれば、人工指紋を付着させるステップにおいて光入射面13aに対する転写材62の押し付け圧力を一定に維持することにより、複数の情報記録媒体(この例では光記録媒体10等)に対する評価に際して信号品質(エラーレート等)と密接な関係にある人工指紋液の光入射面13aへの付着量が各情報記録媒体の指紋付着性に応じて変化することとなるため、各情報記録媒体の良否を的確に判別することができる。
【0082】
さらに、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法によれば、人工指紋液供給部材61に付着させる人工指紋液を所定量に維持する(人工指紋液供給部材61における転写材62の押し付位置全体に亘って人工指紋液を均一に塗布する)ことにより、一定量の人工指紋液を転写材62に付着させることができるため、複数の情報記録媒体(この例では光記録媒体10等)に対する評価に際して各情報記録媒体に同一条件下で人工指紋液を付着させることができる。したがって、信号品質(エラーレート等)と密接な関係にある人工指紋液の光入射面13aへの付着量が各情報記録媒体の指紋付着性(上記の「d」)に応じて変化することとなるため、各情報記録媒体の良否を的確に判別することができる。
【0083】
また、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法によれば、λ/NAが640nm以下となる条件を満たす環境下で信号を再生するステップを実行することにより、このような環境下で使用されるのが前提の光記録媒体10(光入射面13aにおけるレーザービーム50のビームスポットが非常に小さく、指紋付着が信号特性に与える影響が大きい情報記録媒体(この例では光記録媒体10等)のうち、指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体を規格外品として市場に流通する事態を回避することができる。
【0084】
さらに、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法によれば、光透過層12の厚みが200μm以下の光記録媒体10等を評価対象とすることにより、このような環境下で使用されるのが前提の光記録媒体10(光入射面13aにおけるレーザービーム50のビームスポットが非常に小さく、指紋付着が信号特性に与える影響が大きい情報記録媒体(この例では光記録媒体10等)のうち、指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体を規格外品として市場に流通する事態を回避することができる。
【0085】
また、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法によれば、ベアディスク状態で使用するように構成された光記録媒体10等を評価対象とすることにより、カートリッジなどに収容されることなく、指紋が付着し易い環境下で使用されるのが前提の情報記録媒体(この例では光記録媒体10等)のうち、指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体を規格外品として市場に流通する事態を回避することができる。
【0086】
次に、光記録媒体評価装置1による光記録媒体10等の他の評価方法について、図面を参照して説明する。なお、光記録媒体評価装置1による処理のうち、前述した良否判定処理100中の処理と同様の処理内容については、重複する説明を省略する。
【0087】
追記型、または書き換え型の情報記録媒体の評価に際しては、まず、評価対象の情報記録媒体(例えば、光記録媒体10)を光記録媒体評価装置1にセットして、評価処理(良否判定処理)の開始を指示する。これに応じて、光記録媒体評価装置1の制御装置4が図10に示す良否判定処理200を開始する。この良否判定処理200は、本発明における「人工指紋を付着させるステップ」の実行後に本発明における「信号を記録するステップ」を実行する評価方法の一例であって、前述した良否判定処理100におけるステップS11,S12を逆の順序で実行する。具体的には、この良否判定処理200では、制御装置4は、まず、人工指紋転写装置2を制御して光記録媒体10の光入射面13aに人工指紋を付着させる(本発明における「人工指紋を付着させるステップ」:ステップS21)。この際には、前述した良否判定処理100におけるステップS12と同様にして、光入射面13aに予め規定された所定の条件下で人工指紋液を付着させる。次いで、制御装置4は、記録再生装置3を制御して、人工指紋を付着させた領域(付着領域)を含む領域に所定の信号を記録させる(本発明における「信号を記録するステップ」:ステップS22)。良否判定処理200では、ここまでのステップが良否判定処理100と相違し、以後のステップは、良否判定処理100におけるステップS13と同様に実行される。
【0088】
具体的には、制御装置4は、記録再生装置3を制御して、ステップS22において記録させた信号を再生させ(本発明における「信号を再生するステップ」であって、良否判定処理100におけるステップS13と同様のステップ:ステップS23)、記録再生装置3から出力された再生信号の信号品質を測定する(本発明における「良否を判定するステップ」であって、良否判定処理100におけるステップS14と同様のステップ:ステップS24)。この際に、信号品質(一例として、エラーレート)が所定のしきい値を超えていれば、制御装置4は、その光記録媒体10を「不良品」と判定し(ステップS25)、所定のしきい値を超えていなければ、その光記録媒体10を「良品」と判定する(ステップS26)。これにより、良否判定処理200が終了する。なお、上記の例では光記録媒体10を評価対象として良否判定処理200を実施しているが、光記録媒体20,30,40や、その他の各種情報記録媒体についても同様の処理を実行してその良否を評価することができる。
【0089】
このように、この光記録媒体評価装置1による光記録媒体10の評価方法(良否判定処理200)によれば、人工指紋を付着させるステップ(ステップS21)の実行後に、付着領域に信号を記録するステップ(ステップS22)を実行することにより、光入射面13aに付着した指紋が再生特性に与える影響のみならず、記録特性に与える影響についても考慮した評価を行うことができる。
【0090】
次いで、光記録媒体評価装置1による光記録媒体10等の他の評価方法について、図面を参照して説明する。なお、光記録媒体評価装置1による処理のうち、前述した良否判定処理100,200中の処理と同様の処理内容については、重複する説明を省略する。
【0091】
例えば 追記型、または書き換え型の情報記録媒体について、指紋の付着による記録特性の影響を十分に評価する際には、信号を再生するステップの実行に先立ち、人工指紋を付着させるステップにおいて付着させた人工指紋を除去して、その状態で再生信号の信号品質を評価項目として情報記録媒体を評価するのが好ましい。具体的には、まず、評価対象の情報記録媒体(例えば、光記録媒体10)を光記録媒体評価装置1にセットして、評価処理(良否判定処理)の開始を指示する。これに応じて、光記録媒体評価装置1の制御装置4が図11に示す良否判定処理300を開始する。この良否判定処理300では、制御装置4は、まず、人工指紋転写装置2を制御して光記録媒体10の光入射面13aに人工指紋をまず付着させ(本発明における「人工指紋を付着させるステップ」:ステップS31)、その後に、記録再生装置3を制御して人工指紋が付着している領域に所定の信号を記録させる(本発明における「信号を記録するステップ」:ステップS32)。
【0092】
次に、ステップS31において付着させた人工指紋を除去する(ステップS33)。この際には、一例として、ウエス(例えば旭化成工業(株)製ベンコットリントフリーCT−8など)によって光入射面13aから付着している人工指紋液を拭き取ることが好ましい。また、拭き取り回数としては、1.0〜10N/cmの荷重で6回以上400回以下の範囲、好ましくは10回以上200回以下の範囲内とし、その後に、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンおよびアセトン等の揮発性の有機溶剤を用いて光入射面13aに残留している人工指紋液を除去することが特に好ましい。次いで、制御装置4は、記録再生装置3を制御して、ステップS32において記録した信号を再生させる(本発明における「信号を再生するステップ」:ステップS34)。続いて、制御装置4は、再生信号の信号品質(一例として、エラーレート)を測定して所定のしきい値を超えているか否かを判別し(本発明における「良否を判定するステップ」:ステップS35)、信号品質が所定のしきい値を超えているときにその光記録媒体10を「不良品」と判定し(ステップS36)、所定のしきい値を超えていないときにその光記録媒体10を「良品」と判定する(ステップS37)。これにより、良否判定処理300が終了する。
【0093】
この良否判定処理300によれば、ステップS32において所定の信号を記録した後であってステップS34において信号を再生する以前に人工指紋を除去することにより、光入射面13aに付着した指紋が再生特性に与える影響を排除して指紋の付着が記録特性に与える影響を的確に評価することができる。なお、上記の例では光記録媒体10を評価対象として良否判定処理300を実施しているが、光記録媒体20,30,40や、その他の各種情報記録媒体についても同様の処理を実行してその良否を評価することができる。
【0094】
続いて、光記録媒体評価装置1による光記録媒体10等のさらに他の評価方法について、図面を参照して説明する。なお、光記録媒体評価装置1による処理のうち、前述した良否判定処理100,200,300中の処理と同様の処理内容については、重複する説明を省略する。
【0095】
例えば、再生専用(ROM型)の情報記録媒体(光記録媒体)を評価対象とする場合には、まず、その光記録媒体を光記録媒体評価装置1にセットして、評価処理(良否判定処理)の開始を指示する。これに応じて、光記録媒体評価装置1の制御装置4が図12に示す良否判定処理400を開始する。この良否判定処理400では、制御装置4は、人工指紋転写装置2を制御して光記録媒体における光入射面の信号が記録されている領域に人工指紋を付着させる(本発明における「人工指紋を付着させるステップ」:ステップS41)。次いで、制御装置4は、記録再生装置3を制御して人工指紋が付着している付着領域に予め記録されている信号を再生させ(本発明における「信号を再生するステップ」:ステップS42)、再生信号の信号品質(一例として、エラーレート)を測定して所定のしきい値を超えているか否かを判別する(本発明における「良否を判定するステップ」:ステップS43)。この際に、信号品質が所定のしきい値を超えていれば、その光記録録媒体を「不良品」と判定し(ステップS44)、上記所定のしきい値を超えていなければ、その光記録媒体を「良品」と判定する(ステップS45)。これにより、良否判定処理400が終了する。これにより、再生専用型の光記録媒体についても、前述した光記録媒体10等と同様にして、指紋の付着による再生特性の影響を考慮した良否判別を行うことができる。
【0096】
なお、本発明は、以上説明した実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。例えば、図3〜7に評価対象として好ましい情報記録媒体をいくつか挙げたが、本発明による評価の対象とすることが可能な情報記録媒体がこれらに限定されるものではない。したがって、例えば、CDやDVDのような従来型の情報記録媒体を対象として上記の光記録媒体評価装置1による良否判定処理100,200,300,400を実行することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上のように、この発明に係る情報記録媒体の評価方法によれば、光入射面に人工指紋を付着させるステップと、付着領域に記録されている信号を再生するステップと、再生信号の信号品質に基づいて情報記録媒体の良否を判定するステップとを実行することにより、光入射面に人工指紋を付着させたときに再生信号の信号品質が規定値を超えるか否かに基づいて情報記録媒体の良否を判別することができる。したがって、光入射面への指紋の付着に起因して再生信号の信号品質が著しく悪化する情報記録媒体を規格外品として排除し、かかる情報記録媒体が市場に流通する事態を回避することができる。これにより、特に、ベアディスク状態での使用を前提とした情報記録媒体の信頼性を充分に確保し得る情報記録媒体の評価方法が実現される。
【符号の説明】
【0098】
1 光記録媒体評価装置
2 人工指紋転写装置
2a 移動機構
2b 圧力センサ
3 記録再生装置
4 制御装置
10,20,30,40 光記録媒体
12 光透過層
13a 光入射面
50 レーザービーム
51 対物レンズ
61 人工指紋液供給部材
62 転写材
100,200,300,400 良否判定処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記録媒体の光入射面に人工指紋を付着させるステップと、前記人工指紋が付着している付着領域に記録されている信号を再生するステップと、前記再生した信号の信号品質に基づいて前記情報記録媒体の良否を判定するステップとを実行する情報記録媒体の評価方法。
【請求項2】
前記良否を判定するステップにおいて前記信号品質としてのエラーレートに基づいて前記情報記録媒体の良否を判定する請求項1記載の情報記録媒体の評価方法。
【請求項3】
前記人工指紋を付着させるステップの実行に先立ち、少なくとも前記付着領域に前記信号を記録するステップを実行する請求項1または2記載の情報記録媒体の評価方法。
【請求項4】
前記人工指紋を付着させるステップの実行後に、少なくとも前記付着領域に前記信号を記録するステップを実行する請求項1または2記載の情報記録媒体の評価方法。
【請求項5】
前記人工指紋を付着させるステップとして、人工指紋液を含浸または付着させた人工指紋液供給部材に転写材を押し付けて当該転写材に当該人工指紋液を付着させる第1のサブステップと、前記人工指紋液が付着した前記転写材を前記情報記録媒体の前記光入射面に押し付ける第2のサブステップとを少なくとも実行する請求項1から4のいずれかに記載の情報記録媒体の評価方法。
【請求項6】
複数の前記情報記録媒体を評価する際に、前記人工指紋を付着させるステップにおいて前記人工指紋液供給部材に対する前記転写材の押し付け圧力を一定に維持する請求項5記載の情報記録媒体の評価方法。
【請求項7】
複数の前記情報記録媒体を評価する際に、前記人工指紋を付着させるステップにおいて前記光入射面に対する前記転写材の押し付け圧力を一定に維持する請求項5または6記載の情報記録媒体の評価方法。
【請求項8】
前記人工指紋液供給部材に含浸または付着させる人工指紋液を所定量に維持する請求項5から7のいずれかに記載の情報記録媒体の評価方法。
【請求項9】
前記信号の再生に用いるレーザービームの波長をλ、当該レーザービームを集束するための対物レンズの開口数をNAとしたときに、λ/NAが640nm以下となる条件を満たす環境下で前記信号を再生するステップを実行する請求項1から8のいずれかに記載の情報記録媒体の評価方法。
【請求項10】
光透過層の厚みが200μm以下の前記情報記録媒体を評価対象とする請求項9記載の情報記録媒体の評価方法。
【請求項11】
ベアディスク状態で使用するように構成された前記情報記録媒体を評価対象とする請求項1から10のいずれかに記載の情報記録媒体の評価方法。
【請求項12】
情報記録媒体の光入射面に人工指紋を付着させる指紋付着部と、前記人工指紋が付着している付着領域に記録されている信号を再生する信号再生部と、前記再生した信号の信号品質に基づいて前記情報記録媒体の良否を判定する判定部とを備えている情報記録媒体評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【国際公開番号】WO2005/057568
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516109(P2005−516109)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018172
【国際出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】