説明

情報通信システム、情報通信装置及び情報通信方法、並びにコンピュータ・プログラム

【課題】複数の技術方式のICカードが並存する環境下で、ICカード内に格納されたさまざまなデータ構造のアプリケーション・サービスを利用する。
【解決手段】ICカード内にアプリケーション・サービスの情報を記述したサービス・ディレクトリ・データを蓄積する。カード読み書き装置は、検知したICカードのカード種別を判別した後、サービス・ディレクトリ・データを読み込み、そのカード内に何が蓄積されているかを判断し、そのカードがどのようなアプリケーション・サービスを蓄積しているかを事前に確認してサービス・ディスカバリを行なう。サービス・ディレクトリ処理はミドルウェアで実装可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICカードなどデータ通信機能を備えたデバイスとの間でデータのやり取りを行なう情報通信システム、情報通信装置及び情報通信方法、並びにコンピュータ・プログラムに係り、特に、技術方式が異なる複数のデータ通信機能付きデバイスとデータのやり取りを行なう情報通信システム、情報通信装置及び情報通信方法、並びにコンピュータ・プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
IC(Integrated Circuit)カードに代表される非接触・近接通信システムは、操作上の手軽さから、広範に普及している。ICカードを利用した近接通信システムでは、カード読み書き装置が発生する電磁波によって形成されるRF(Radio Frequency)フィールド(磁界)にICカードを近づけると、ICカードは電磁誘導によって得られる電源で駆動してカード読み書き装置との間でデータのやり取りを行なうことができる(例えば、特許文献1を参照のこと)。近接通信とは、通信を行なう装置間の距離が数10cm以内となって可能となる通信を意味し、装置の筐体同士が接触して行なう通信も含まれる。
【0003】
ICカードの一般的な使用方法は、利用者がICカードをカード読み書き装置をかざすことによって行なわれる。カード読み書き装置側では常にICカードをポーリングしており、外部のICカードを発見することにより両者間の通信動作が開始する。例えば、暗証コードやその他の個人認証情報、電子チケットなどの価値情報などをICカードに格納しておくことにより、キャッシュ・ディスペンサやコンサート会場の出入口、駅の改札口などにおいて、入場者や乗車者の認証処理を行なうことができる。ICカード技術は、内部の情報の複製や改竄が困難で、耐タンパ性を備えており、この種の近接データ通信は、高いレベルでセキュリティを実現することができる。
【0004】
非接触ICカード機能を搭載したICチップは、RFアナログ・フロントエンドとロジック回路(プロトコル制御、RF変復調、コマンド処理、暗号処理、メモリ管理)を1チップで構成してもよいし、あるいはこれらを分離した2チップ以上のICで構成するようにしてもよい。本明細書中では、これらを総称して、単に「ICカード」と呼ぶこともある。
【0005】
また、微細化技術の向上とも相俟って、比較的大容量のメモリを持つICカードが出現している。大容量メモリ付きのICカードによれば、メモリ空間上にファイル・システムを展開し、複数のアプリケーションを同時に格納しておくことができる。例えば、1枚のICカード上に、電子決済を行なうための電子マネーや、特定のコンサート会場に入場するための電子チケットなど、複数のアプリケーション・サービスを格納しておくことにより、1枚のICカードをさまざまな用途に適用させることができる。ここで言う電子マネーや電子チケットは、利用者が提供する資金に応じて発行される電子データを通じて決済(電子決済)される仕組み、又はこのような電子データ自体を指す。
【0006】
ICカードは急速に普及してきているが、ICカードやカード読取装置を製造・販売するカード・ベンダ各社によって区々のICカードのインターフェース規格が提供される。このため、複数のインターフェース規格が混在するという問題がある。例えば、現在実施されているICカード・システムの仕様として、タイプA、タイプBなどと呼ばれているものがある。
【0007】
ここで、タイプAでは、106kbpsのデータ伝送レートにより、カード読み書き装置からICカードへのデータ伝送にはMillerによるデータ符号化方式が、ICカードからカード読み書き装置へのデータ伝送にはManchesterによるデータ符号化方式がそれぞれ適用される。タイプAは例えば蘭ロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス社のMifare方式に採用されている。また、タイプBでは、106kbpsのデータ伝送レートにより、カード読み書き装置からICカードへのデータ伝送にはNRZによるデータ符号化方式が、ICカードからカード読み書き装置へのデータ伝送にはNRZ−Lによるデータ符号化方式がそれぞれ適用される。また、ソニー株式会社の非接触ICカード方式「FeliCa」(登録商標)は、212kbpsのデータ伝送レートで、Manchesterによるデータ符号化方式でICカードとカード読み書き装置間のデータ伝送が行なわれる。
【0008】
最近では、物理層の異なる複数の非接触ICカード・インターフェースと互換性のある近距離無線通信技術も出現してきている。例えば、NFC(Near Field Communication)は、ソニー株式会社と蘭ロイヤル・フィリップス・エレクトロニクス社が共同開発した、非接触ICカードと同じ13.56MHz帯を使う近距離無線通信技術であるが、ソニーの非接触ICカード方式「FeliCa」(登録商標)と、欧米地域で普及しつつあるPhilips社の方式「Mifare」(登録商標)の両方に対して通信の物理層において互換性を持つ。NFC対応の送受信器を備えたカード読み書き装置は、FeliCa方式を採用しているJR東日本の「Suica」(登録商標)や、ビットワレットのプリペイド電子マネー「Edy」(登録商標)とデータ交換を行なうことができる。SuicaやEdyのユーザ数の増加とともに、カードの残高を確認できる携帯電話機や、インターネットで購入した商品の代金をEdyで支払えるパソコンなどに対するニーズの増大が期待できる。NFCは国際標準「ISO/IEC 18092」として承認されている。
【0009】
また、従来は、それぞれサービス提供元となる事業者毎にICカードが個別に発行され、ユーザは利用したいサービス毎にICカードを取り揃えて携帯しなければならなかった。これに対し、比較的大容量のメモリ空間を持つICカードによれば、単一のICカードの内蔵メモリに複数のサービスに関する情報を記録するだけの十分な容量を確保することができる(例えば、非特許文献1を参照のこと)。
【0010】
あるサービス提供元事業者用のファイル・システムをICカードの内蔵メモリに割り当てて、このファイル・システム内で当該事業者によるサービス運用のための情報(例えば、ユーザの識別・認証情報や残りの価値情報、使用履歴(ログ)など)を管理することにより、従来のプリペイド・カードや店舗毎のサービス・カードに置き換わる、非接触・近接通信を基調とした有用なサービスを実現することができる。
【0011】
ICカード内のメモリ領域は、初期状態ではICカード発行者がメモリ領域全体を管理しているが、ICカード発行者以外のサービス提供元事業者がメモリ領域から新たなファイル・システムを分割し、それぞれのサービス運用のためのアプリケーションに割り当てる。ファイル・システムの分割は、仮想的なICカードの発行である。分割操作を繰り返すことにより、ICカード内のメモリ領域は複数のファイル・システムが共存する構造となり、1枚のICカードでマルチアプリケーションすなわち多種多様なアプリケーション・サービスを提供することができる(例えば、特許文献2を参照のこと)。
【0012】
ICカードのメモリ・サイズの増大により、複数のアプリケーション・サービスを1つのカードに搭載することができる。これに伴って、カード読み書き装置(若しくは、読み書き装置を搭載する機器)においては、複数のアプリケーション・サービスをサポートする必要がある。上述したようなNFC技術を利用して複数の物理層の互換性を備えたカード読み書き装置においては、複数の方式の非接触ICカードの並存が可能となるが、各物理層で提供されているすべてのアプリケーション・サービスをサポートしなければならないことになる。
【0013】
一般に、各々のアプリケーション・サービスは、サービス事業者毎に独自のデータ構造を持つが、そのデータ構造はセキュリティの観点から非公開となることが多い。このため、NFC対応のカード読み書き装置は、自分が発見したICカードの物理層を特定できただけではデータのやり取りを開始することはできず、ICカード内に搭載されているアプリケーション・サービスを識別しなければならないという、新たな問題が生じる。
【0014】
アプリケーション・サービス毎にデータ管理方式が異なるが、これをカード読み書き装置側のアプリケーションがそれぞれの技術方式のデータ構造を検知するように構成することも可能である。
【0015】
例えば、ICカードに搭載されているアプリケーション・サービスがFeliCaの場合、衝突回避の仕組みを持つポーリング・コマンドにより、ISO/IEC 14443における非接触ICカードのタイプA、タイプB、又はFeliCaのいずれであるかを特定することができる。ここで、FeliCaであることが判明した段階でさらにシステム・コード及びサービス・コードを参照することでアプリケーション・サービスを特定することができる。また、FeliCa以外の場合であっても、同様にICカード内のアプリケーション・サービスを判断する仕組みがある。例えば、Mifareの場合には、MAD(Mifare Application Directory)なるデータが存在するので、これを参照することでアプリケーション・サービスを判断することができる。
【0016】
しかしながら、このようにカード読み書き装置側のアプリケーションがそれぞれの方式のデータ構造をいちいち把握するように構成すると、ソフトウェアが肥大化してしまう可能性がある。
【0017】
また、ICカードを所持するユーザが、利用する際にカード読み書き装置に対してアプリケーションを指示入力するという方法も考えられるが、ユーザにとっては自分が持つICカードのアプリケーション・サービスの種別を確認しなければならず、煩わしい。また、情報を表示できる携帯電話機ならともかく、通常のカード型の場合、ユーザはどの技術方式のカードであるかを記憶しておかなければならず、使い勝手がよくない。
【0018】
【特許文献1】特開平10−13312号公報
【特許文献2】特開2005−196409号公報
【非特許文献1】「無線ICタグのすべて ゴマ粒チップでビジネスが変わる」(106〜107頁、RFIDテクノロジ編集部、日経BP社、2004年4月20日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、ICカードなどデータ通信機能を備えたデバイスとの間でデータのやり取りを好適に行なうことができる、優れた情報通信システム、情報通信装置及び情報通信方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することにある。
【0020】
本発明のさらなる目的は、技術方式が異なる複数のデータ通信機能付きデバイスとデータのやり取りを好適に行なうことができる、優れた情報通信システム、情報通信装置及び情報通信方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することにある。
【0021】
本発明のさらなる目的は、通信の物理層が異なる複数の方式の非接触ICカードが並存する環境下において、ICカード内に格納されているさまざまなデータ構造のアプリケーション・サービスを利用することができる、優れた情報処理装置及び情報処理方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、その第1の側面は、データ通信機能を備えた情報記憶媒体と、前記情報記憶媒体にアクセスする情報通信装置からなる情報通信システムであって、前記情報記憶媒体は、1以上のアプリケーション・サービスを格納することができるとともに、格納したアプリケーション・サービス毎の属性情報を記述したサービス・ディレクトリ・データを格納し、前記情報通信装置は、検知した情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを読み取り、所望するアプリケーション・サービスに関する属性情報を取得し、該アプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムを起動してアクセスを行なうことを特徴とする情報通信システムである。
【0023】
本発明は、1以上のアプリケーション・サービスを格納するICカードと、ICカードに対して非接触・近接通信によりアクセス動作を行なうカード読み書き装置からなる情報通信システムである。但し、ここで言う「システム」とは、複数の装置(又は特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合した物のことを言い、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは特に問わない(以下、同様)。
【0024】
ICカードを利用した近距離通信技術は、操作上の手軽さと高レベルのセキュリティ通信が可能であることから、価値情報を利用したアプリケーション・サービスを主として広範に普及している。また、カード・ベンダ毎にインターフェース規格が区々であるという問題があったが、NFC技術など複数の通信の物理層において互換性を持つ近距離無線通信技術により解決されている。
【0025】
しかしながら、ICカードに搭載されるアプリケーション種別毎にデータ構造が異なり、そのデータ構造はセキュリティの観点からも非公開であることが多い。このため、NFC技術を利用して複数の物理層の互換性を備えたカード読み書き装置においては、各技術方式で提供されているすべてのアプリケーションをサポートしなければならない。
【0026】
これに対し、本発明に係る情報通信システムでは、各ICカード内に、独自のアプリケーション・データの他に、そのカードの中に格納されているアプリケーション・サービスの情報を記述したサービス・ディレクトリ・データを蓄積するようにしている。したがって、カード読み書き装置は、近接するICカードを検知すると、まずそのサービス・ディレクトリ・データを読み込み、そのカード内に何が蓄積されているかを判断し、そのカードがどのようなアプリケーション・サービスを蓄積しているかを事前に確認すること、すなわちサービス・ディスカバリが可能である。
【0027】
既存の非接触ICカードであっても、サービス事業者の判断により、サービス・ディレクトリ・データを追記することは可能であり、これによって上述したようなサービス・ディスカバリに対応することができる。さらに、世界共通のNFC対応カード読み書き装置から既存のカード・アプリケーションのディスカバリが可能となる。
【0028】
本発明によれば、ICカード側ではすべての技術方式において共通のフォーマットでサービス・ディレクトリ・データを蓄積しているので、カード読み書き装置は、アクセス対象となる各ICカードが通信の物理層やアプリケーション・サービスのデータ構造が区々であっても、同一のサービス・ディスカバリの仕組みを共通に持つことができる。
【0029】
カード読み書き装置は、このような共通のサービス・ディスカバリを実現するサービス・ディレクトリ処理をモジュール化してミドルウェア層に装備すればよい。すなわち、ICカード側のアプリケーション・サービスに対応したサービス用プログラム毎にアプリケーション・サービスの存在を判断する仕組みを実装する必要はないので、ソフトウェアが肥大化することなく、サービス・ディスカバリを実現することができる。
【0030】
本発明に係る情報通信システムにおいて、ICカードとしてのデータ通信機能付き情報記憶媒体は、1以上のアプリケーション・サービスを格納することができるとともに、格納したアプリケーション・サービス毎の属性情報を記述したサービス・ディレクトリ・データを格納する。サービス・ディレクトリ・データとして記述されるアプリケーション・サービスの属性情報は、アプリケーション・サービスのデータ構造若しくはデータ管理方式を識別可能な情報からなり、具体的には、アプリケーション・サービスに関する技術方式と、アプリケーション・サービスの名称並びに種別に関する情報を含む。
【0031】
一方、カード読み書き装置として動作する情報通信装置は、検知した情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを読み取り、所望するアプリケーション・サービスに関する属性情報を取得して、該アプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムを起動してアクセスを行なう。
【0032】
情報記憶媒体のデータ通信機能は、FeliCa(登録商標)やMifare(登録商標)といった、通信に関する任意の物理層を適用している。これに対し、NFC対応の情報通信装置は、検知した情報記憶媒体のデータ通信機能において適用されている通信の物理層を自動検知して、該物理層のプロトコルに則ってサービス・ディレクトリ・データの取得並びにアプリケーション・サービスへのアクセスを行なうことができる。
【0033】
また、情報通信装置は、情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを取得できないことがある。このような場合、その旨をユーザに通知して、該情報記憶媒体へのアクセスを中止する。
【0034】
また、情報通信装置は、情報記憶媒体から読み出したサービス・ディレクトリ・データから判別されるアプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムをサポートしてないときには、その旨をユーザに通知して、該情報記憶媒体へのアクセスを中止する。
【0035】
また、本発明の第2の側面は、データ通信機能付きの情報記憶媒体とデータ交換を行なうための処理をコンピュータ・システム上で実行するようにコンピュータ可読形式で記述されたコンピュータ・プログラムであって、前記情報記憶媒体は、1以上のアプリケーション・サービスを格納することができるとともに、格納したアプリケーション・サービス毎の属性情報を記述したサービス・ディレクトリ・データを格納しており、前記コンピュータ・システムに対し、
検知した情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを読み取るサービス・ディレクトリ・データ取得手順と、
サービス・ディレクトリ・データから所望するアプリケーション・サービスに関する属性情報を取得し、該アプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムを起動してアクセスを行なうサービス・アクセス手順と、
を実行させることを特徴とするコンピュータ・プログラムである。
【0036】
本発明の第2の側面に係るコンピュータ・プログラムは、コンピュータ・システム上で所定の処理を実現するようにコンピュータ可読形式で記述されたコンピュータ・プログラムを定義したものである。換言すれば、本発明の第2の側面に係るコンピュータ・プログラムをコンピュータ・システムにインストールすることによって、コンピュータ・システム上では協働的作用が発揮され、本発明の第1の側面に係る情報通信システムにおいて、カード読み書き装置に相当する情報通信装置として動作することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、ICカードなどデータ通信機能を備えたデバイスとの間でデータのやり取りを好適に行なうことができる、優れた情報通信システム、情報通信装置及び情報通信方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することができる。
【0038】
また、本発明によれば、技術方式が異なる複数のデータ通信機能付きデバイスとデータのやり取りを好適に行なうことができる、優れた情報通信システム、情報通信装置及び情報通信方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することができる。
【0039】
また、本発明によれば、通信の物理層が異なる複数の方式の非接触ICカードが並存する環境下において、ICカード内に格納されている、さまざまなデータ構造のアプリケーション・サービスを利用することができる、優れた情報処理装置及び情報処理方法、並びにコンピュータ・プログラムを提供することができる。
【0040】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0042】
図1には、本発明の一実施形態に係る非接触・近接通信システムの構成を模式的に示している。図示のシステムは、ICカード1と、カード読み書き装置2と、コントローラ3で構成される。ICカード1は、カード読み書き装置2が発生する電磁波によって形成されるRF(Radio Frequency)フィールド(磁界)に突入すると、電磁誘導によって得られる電源で駆動してカード読み書き装置2との間でデータのやり取りを行なうことができる。すなわち、カード読み書き装置2がICカード1に所定のコマンドを送信し、ICカード1は受信したコマンドに対応する処理を行なう。そして、ICカード1は、その処理結果に対応する応答データをカード読み書き装置2に送信する。
【0043】
ここで言う近接通信システムの具体例として、FeliCa(登録商標)や、ISO/IEC 14443における非接触ICカードのタイプA、タイプBといった通信の物理層を想定しているが、勿論、電磁誘導方式に基づくその他の物理層、あるいは静電結合方式や電波通信方式の近接通信技術を適用することも可能である。
【0044】
カード読み書き装置2は、所定のインターフェース(例えば、RS−485Aの規格などに準拠したもの)を介してコントローラ3に接続されている。コントローラ3は、カード読み書き装置2に対し制御信号を供給することで、ICカード1に対する所定の処理を行なわせる。
【0045】
また、ICカード1は、無線通信部、及びデータ送受信機能とデータ処理部を有するICチップを内蔵する非接触ICカード、表面に端子を有する接触ICカード、接触/非接触ICカードと同様の機能を有するICチップを携帯電話機、PHS(PersonalHandyphone System)、PDA(Personal Digital Assistance)などの情報通信端末装置に内蔵した装置である。但し、非接触ICカード機能を搭載したICチップは、RFアナログ・フロントエンドとロジック回路(プロトコル制御、RF変復調、コマンド処理、暗号処理、メモリ管理)を1チップで構成してもよいし、あるいはこれらを分離した2チップ以上のICで構成するようにしてもよい。本明細書では、これらを総称して、単に「ICカード」と呼んでいる。
【0046】
図2には、ICカードのハードウェア構成を模式的に示している。同図に示すように、ICカード部100は、アンテナ部101に接続されたアナログ部102と、ディジタル制御部103と、メモリ104と、外部インターフェース105とで構成され、携帯端末110に内蔵されている。このICカード部100は、1チップの半導体集積回路で構成してもよいし、RFアナログ・フロントエンドとロジック回路部を分離して2チップの半導体集積回路で構成してもよい。
【0047】
アンテナ部101は、図示しないカード読み書き装置との間で非接触データの送受信を行なう。アナログ部102は、検波、変復調、クロック抽出など、アンテナ部101から送受信されるアナログ信号の処理を行なう。これらは、ICカード部100とカード読み書き装置2間の非接触インターフェースを構成する。
【0048】
ディジタル制御部103は、送受信データの処理やその他ICカード部100内の動作を統括的にコントロールする。また、ディジタル制御部103は、アドレス可能なメモリ104をローカルに接続しており、メモリ・アクセス動作を制御する。
【0049】
メモリ104は、例えばEEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)などの電気的に消去書き換え動作が可能なメモリ・デバイスで構成され、電子マネーや電子チケットなどの価値情報を始めとした利用者データすなわちアプリケーション・サービスを格納するために使用される。メモリ104は比較的大容量であり、1以上のサービス提供事業者から提供される複数のアプリケーション・サービスを同時に格納することができ、この場合、1枚のICカードをさまざまな用途に適用させることができる。一般に、各々のアプリケーションは、サービス事業者毎に独自のデータ構造を持つが、そのデータ構造はセキュリティの観点から非公開となることが多い。
【0050】
外部インターフェース105は、カード読み書き装置2と結ぶ非接触インターフェースとは相違するインターフェース・プロトコルにより、ディジタル制御部103が携帯端末110などの装置と接続するための機能モジュールである。メモリ104に書き込まれたデータは、外部インターフェース105を経由して、携帯端末110に転送することができる。
【0051】
ここで、ICカード部100がカード読み書き装置2と通信を行なう際に、カード読み書き装置2からの受信データをそのまま、あるいは適当な変換規則で変換し、あるいは別のパケット構造に変換して、外部インターフェース105を介して携帯端末110に送信する。また逆に、外部インターフェース105を介して携帯端末110から受信したデータをそのまま、あるいは適当な変換規則で変換し、あるいは別のパケット構造に変換して、非接触インターフェースを介してカード読み書き装置に送信する。
【0052】
本実施形態では、ICカード部100は、情報処理端末としての携帯端末110に内蔵して用いられることを想定しており、外部インターフェース105には、UART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)のような有線インターフェースを使用する。
【0053】
ICカード部100は、例えば、アンテナ部101経由で受信されるカード読み書き装置2からの受信電波によって駆動することができる。勿論、携帯端末110側からの有線インターフェース105を介した供給電力によって、一部又は全部が動作するように構成されていてもよい。
【0054】
携帯端末110は、例えば携帯電話機やPDA、パーソナル・コンピュータ(PC)などの情報処理端末に相当する。携帯端末110は、プログラム制御部111と、表示部112と、ユーザ入力部113とで構成される。
【0055】
プログラム制御部111は、例えばマイクロプロセッサと、RAMと、ROMで構成され(いずれも図2には図示しない)、マイクロプロセッサは、ROMに格納されたプログラム・コードに従って、RAMを作業領域に用いてさまざまな処理サービスを実行する。処理サービスには、携帯電話機など携帯端末110本来の機能の他に、ICカード部100に対する処理も含まれる。勿論、プログラム制御部111は、ハード・ディスクなどの外部記憶装置や、その他の周辺装置を備えていてもよい。
【0056】
本実施形態に係るカード読み書き装置は、NFC技術に対応しており、ソニーの非接触ICカード方式「FeliCa」(登録商標)や、欧米地域で普及しつつあるPhilips社の方式「Mifare」(登録商標)など、複数の通信の物理層において互換性を持つものとする。NFC技術に対応したカード読み書き装置のことを、以下では「NFC通信装置」とも呼ぶ。
【0057】
NFC通信装置は、パッシブ・モードとアクティブ・モードという2つの通信モードを持つ。パッシブ・モードでは、通信相手が発生する電磁波(に対する搬送波)を負荷変調することによりデータを送信する。一方のアクティブ・モードでは、自身が発生する電磁波(に対する搬送波)を変調することによりデータを送信する。(電磁誘導による近接通信では、最初に電磁波を出力して通信を開始する(すなわち通信の主導権を握る)装置のことを「イニシエータ」と呼び、イニシエータからのコマンドに対してレスポンスを返す通信相手のことを「ターゲット」と呼ぶ。)
【0058】
図3には、NFC技術に対応したカード読み書き装置2のハードウェア構成を模式的に示している。
【0059】
アンテナ201は、閉ループのコイルを構成しており、このコイルに流れる電流が変化することで、電磁波を出力する。また、アンテナ201としてのコイルを通る磁束が変化することで、アンテナ201に電流が流れる。
【0060】
受信部202は、アンテナ201に流れる電流を受信し、同調と検波を行ない、復調部203に出力する。復調部203は、受信部202から供給される信号を復調し、復号部204に供給する。復号部204は、復調部203から供給される符号化信号を復号してデータ処理部205に供給する。
【0061】
データ処理部205は、復号部204から供給される復号データに対して所定のデータ処理を施す。また、データ処理部205は、他の装置への送信データを符号化部206に供給する。
【0062】
符号化部206は、データ処理部205から供給される送信データを符号化して選択部207に供給する。選択部207は、符号化部206から供給される信号を変調部209又は負荷変調部210のうちのいずれか一方に選択的に出力する。
【0063】
選択部207は、制御部211の制御に従って、変調部209又は負荷変調部210を選択する。制御部211は、通信モードがパッシブ・モードで且つ当該NFC通信装置2がターゲットとなっている場合は、選択部207に負荷変調部210を選択させ、通信モードがアクティブ・モードである場合、又は通信モードがパッシブ・モードで且つ当該NFC通信装置2がイニシエータとなっている場合は、選択部207に変調部209を選択させる。したがって、符号化部206が出力する信号は、通信モードがパッシブ・モードであり、当該NFC通信装置2がターゲットとなっているケースでは選択部207を介して負荷変調部210に供給されるが、他のケースでは選択部207を介して変調部209に供給される。
【0064】
電磁波出力部208は、アンテナ201から所定の単一の周波数の搬送波(の電磁波)を放射させるための電流を供給する。変調部209は、電磁波出力部208がアンテナ201に流す電流としての搬送波を、選択部207から供給される信号に従って変調する。これにより、データ処理部205が符号化部206に出力したデータに従って搬送波を変調した電磁波がアンテナ201から放射される。
【0065】
負荷変調部210は、外部からアンテナ201としてのコイルを見たときのインピーダンスを、選択部207から供給される信号に従って変化させる。通信相手が搬送波としての電磁波を出力して、アンテナ201の周囲にRFフィールド(磁界)が形成されている場合、アンテナ201のインピーダンスが変化することによりアンテナ201の周囲のRFフィールドも変化するという作用を利用して、選択部207から供給される信号に従って通信相手からの搬送波を変調することにより、データ処理部205が符号化部206に出力したデータが通信相手に送信される。
【0066】
変調部209及び負荷変調部210における変調方式として、例えば振幅変調(ASK(Amplitude Shift Keying))方式を採用することができるが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、PSK(Phase Shift Keying)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation)、その他の変調方式を採用することが可能である。また、振幅の変調度についても8%から30%、50%、100%など数値に限定されない。
【0067】
制御部211は、NFC通信装置2を構成する各ブロックを制御する。電源部212は、NFC通信装置2を構成する各ブロックに必要な電源を供給する。但し、制御部211から各ブロックへの制御信号線や、電源部212から各ブロックへの給電ラインは、図面の錯綜を防ぐため、図3では省略している。
【0068】
符号化部206及び復号部204では例えばManchester符号化方式を処理することができるが、タイプAで採用されているモディファイド・ミラーや、タイプBで採用されているNRZなどの複数種類の符号の中から1つを選択して処理することが可能である。
【0069】
図4には、復調部203の構成例を示している。図示の復調部203は、選択部31、2以上であるN個の復調部2321〜232N、及び選択部233で構成されている。
【0070】
選択部231は、制御部211の制御に従い、N個の復調部2321〜232Nの中から、1つの復調部32n(n=1,2,…,N)を選択し、その選択した復調部232nに、受信部202が出力する信号を供給する。
【0071】
復調部232nは、第nの伝送レートで送信されてきた信号を復調し、選択部233に供給する。ここで、復調部232nと復調部232n’(n≠n’)は、異なる伝送レートで送信されてきた信号を復調するので、復調部203としては、第1〜第NのN通りの伝送レートで送信されてくる信号を復調することができる。なお、N通りの伝送レートとしては、例えば、106kbps、212kbps、424kbps、848kbpsなどを採用することができる。すなわち、N通りの伝送レートには、例えば、既存のICカード・システムなどの近接通信において既に採用されている伝送レートと、それ以外の伝送レートとを含めることができる。
【0072】
選択部233は、制御部211の制御に従い、N個の復調部2321〜232Nの中から1つの復調部232nを選択し、その復調部232nで得られた復調出力を復号部204に供給する。
【0073】
制御部211は、例えば、選択部231に、N個の復調部2321〜232Nを順次選択させ、これにより、受信部202から選択部231を介して供給される信号を各復調部2321〜232Nに復調させる。そして、制御部211は、受信部202から選択部231を介して供給される信号を正常に復調することができた復調部232nを認識し、その復調部232nの出力を選択するように選択部233を制御する。選択部233は、制御部211の制御に従って、復調部232nを選択し、これにより、復調部232nで得られた正常な復調出力が復号部204に供給される。
【0074】
したがって、復調部203では、N通りの伝送レートのうちの任意の伝送レートで伝送されてくる信号を復調することができる。
【0075】
なお、復調部2321〜232Nは、正常に復調を行うことができた場合のみ復調出力を出力し、正常に復調を行うことができなかった場合には、例えばハイインピーダンス状態となって何も出力しない。この場合、選択部233は、復調部2321〜232Nの出力すべての論理和をとって、復号部204に出力すれば良い。
【0076】
図5には、変調部209の構成例を示している。変調部209は、選択部241、N個の変調部2421〜242N、及び選択部243で構成される。
【0077】
選択部241は、制御部211の制御に従って、N個の変調部2421〜242Nの中から1つの変調部242n(n=1,2,・・・,N)を選択し、その選択した変調部242nに、選択部207が出力する信号を供給する。
【0078】
変調部242nは、選択部243を介して、アンテナ201に流れる電流(搬送波)を、選択部241から供給される信号に従って変調することによって、第nの伝送レートでデータの送信を行なう。ここで、変調部242nと変調部242n’(n≠n’)は、搬送波を異なる伝送レートで変調するので、変調部209としては、第1〜第NのN通りの伝送レートでデータを送信することになる。なお、N通りの伝送レートとしては、例えば復調部203が復調することができるのと同一の伝送レートを採用することができる。
【0079】
選択部243は、制御部211の制御に従って、N個の変調部2421〜242Nの中から選択部241が選択するのと同一の変調部242nを選択し、その変調部242nとアンテナ201とを電気的に接続する。
【0080】
制御部211は、例えば、選択部241に、N個の変調部2421〜242Nを順次選択させ、これにより、選択部241から供給される信号に従い、選択部243を介して、アンテナ201に流れる電流(搬送波)を変調させる。したがって、搬送波を変調部209で変調して、N通りの伝送レートのうちの任意の伝送レートでデータを送信することができる。
【0081】
なお、負荷変調部210は、例えば図5に示した変調部209と同様に構成することができるので、ここでは説明を省略する。
【0082】
上述したように、NFC通信装置は、搬送波をN通りの伝送レートのうちのいずれかの伝送レートで送信されるデータの信号に変調するとともに、N通りの伝送レートのうちのいずれかの伝送レートで送信されてくるデータの信号を復調することができる。ここで言うN通りの伝送レートには、例えばFeliCa(登録商標)などの既存のICカード・システムにおいて採用されている伝送レートと、それ以外の伝送レートとを含めることができ、NFC通信装置によれば、そのN通りの伝送レートのいずれの伝送レートでもデータのやりとりを行なうことができる。言い換えれば、複数の通信の物理層に対して互換性を持つ。
【0083】
上述したように、ICカードを利用した近距離通信技術は、カード・ベンダ毎にインターフェース規格が区々であるという問題があるが、NFC技術など複数の通信の物理層において互換性を持つ近距離無線通信技術により解決されている。
【0084】
しかしながら、ICカードに搭載されるアプリケーション種別毎にデータ構造が異なり、そのデータ構造はセキュリティの観点からも非公開であることが多い。このため、NFC技術を利用して複数の物理層の互換性を備えたカード読み書き装置においては、各技術方式で提供されているすべてのアプリケーションをサポートしなければならなくなる。
【0085】
そこで、本実施形態に係る近接通信システムでは、ICカード側ではすべての技術方式において共通のフォーマットでサービス・ディレクトリ・データを蓄積するようにしている。したがって、カード読み書き装置は、アクセス対象となる各ICカードが通信の物理層やアプリケーション・サービスのデータ構造が区々であっても、同一のサービス・ディスカバリの仕組みを共通に持つことができる。
【0086】
サービス・ディレクトリ・データは、例えばXML(eXtensible markup Language)などの構造化記述言語を用いて記述することができる。図6には、サービス・ディレクトリ・データの記述例を示している。同図に示す例では、<Service>タグと</Service>タグの内側に、個々のアプリケーション・サービスのタイプ、アプリケーション名、使用する物理層を記述するように、文書構造が定義されている。いずれの記述様式を採用するにせよ、サービス・ディレクトリ・データはすべての技術方式において共通のフォーマットであるとする。
【0087】
サービス・ディレクトリ・データは、メモリ104上に構成されるメモリ空間において、ICカード発見時にカード読み書き装置から参照可能となる場所に配置する必要がある。例えば、メモリ空間がフラットな構造である場合には、ICカードとカード読み書き装置間で既知となる開始番地にサービス・ディレクトリ・データを書き込むようにすればよい(例えば、図7を参照のこと)。また、メモリ空間がアプリケーション・サービス若しくはサービス事業者毎に領域分割を行なうような構造である場合には、サービス・ディレクトリ用の専用領域を設け、その中にサービス・ディレクトリ・データを格納するようにすればよい(例えば、図8を参照のこと)。
【0088】
また、メモリ空間が、ICカード管理事業者公認のアプリケーション・サービスを利用する「共通領域」と、それ以外のレディメイドの「フリー領域」で構成される場合には(この場合、フリー領域を使用するサービス事業者毎に領域分割して複数の「個別領域」を作成することができる)、共通領域内に、他の公認アプリケーション・サービスと同様に、サービス・ディレクトリを設けてその下にサービス・ディレクトリ・データを格納することができる(例えば、図9を参照のこと)。
【0089】
既存の非接触ICカードであっても、サービス事業者の判断により、サービス・ディレクトリ・データを追記することは可能である。
【0090】
カード読み書き装置は、近接するICカードを検知すると、まずそのサービス・ディレクトリ・データを読み込み、そのカード内に何が蓄積されているかを判断し、そのカードがどのようなアプリケーション・サービスを蓄積しているかを事前に確認すること、すなわちサービス・ディスカバリが可能である。
【0091】
また、図7〜図9に示したように、ICカード側ではすべての技術方式において共通のフォーマットでサービス・ディレクトリ・データを蓄積しているので、カード読み書き装置は、アクセス対象となる各ICカードが通信の物理層やアプリケーション・サービスのデータ構造が区々であっても、同一のサービス・ディスカバリの仕組みを共通に持つことができる。
【0092】
カード読み書き装置は、このような共通のサービス・ディスカバリを実現するサービス・ディレクトリ処理をモジュール化してミドルウェア層に装備すればよい。すなわち、ICカード側のアプリケーション・サービスに対応したサービス用プログラム毎にアプリケーション・サービスの存在を判断する仕組みを実装する必要はないので、ソフトウェアが肥大化することなく、サービス・ディスカバリを実現することができる。そして、サービス・ディスカバリによりICカード内のアプリケーション・サービスが特定されると、カード読み書き装置側では該当するサービス用プログラムを起動して、ICカード内のアプリケーションを利用することができる。
【0093】
図10には、カード読み書き装置がサービス・ディスカバリを実現するための仕組みを図解している。
【0094】
世の中には、FeliCa(登録商標)やMifare(登録商標)といった、通信の物理層の異なるICカードが混在している。各々のICカード内には、Suica(登録商標)やEdy(登録商標)、e−plus(登録商標)といった電子マネーや電子チケットなどの価値情報に関するアプリケーション・サービスが格納されている。これらのアプリケーション・サービスは、FeliCa(登録商標)やMifare(登録商標)など既に存在する個別の技術方式に対応したデータ管理方式、あるいはNFCに対応したデータ管理方式がとられている。
【0095】
多くのICカードには、アプリケーション・サービスとともに、図7〜図9に示したような形態でサービス・ディレクトリ・データが蓄積されている。但し、既存のICカードの中には、サービス事業者の判断やその他の理由によりサービス・ディレクトリ・データが蓄積されていない。
【0096】
カード読み書き装置は、サービス・ディスカバリに関する処理動作を実現するサービス・ディレクトリ処理部と、個々のアプリケーション・サービスに対応したサービス処理プログラムが搭載されている。
【0097】
サービス・ディレクトリ処理部は、このサービス・ディレクトリ処理部をミドルウェア層に実装することによって、サービス用プログラム毎にアプリケーション・サービスの存在を判断する仕組みを実装する必要はなくなるので、ソフトウェアが肥大化することなく、サービス・ディスカバリを実現することができる。
【0098】
カード読み書き装置は、アンテナ201から電磁波を発生してRFフィールドを形成している。そして、ICカードがこのフィールド内に突入したことを検知すると、サービス・ディレクトリ処理部が起動して、まずそのサービス・ディレクトリ・データを読み込み、そのカード内に何が蓄積されているかを判断し、そのカードがどのようなアプリケーション・サービスを蓄積しているかを事前に確認する。そして、該当するサービス用プログラムが起動され、アプリケーション・サービスへのアクセス(例えば、電子マネーに対する課金や残高照会、ログの書き込みや参照など)を行なうことができる。
【0099】
図11には、カード読み書き装置がサービス・ディスカバリを実現するための処理手順をフローチャートの形式で示している。
【0100】
カード読み書き装置は、アンテナ201から電磁波を発生してRFフィールドを形成し、ICカードの検知シーケンスを開始している(ステップS1)。
【0101】
ここで、ICカードがこのRFフィールド内に突入すると、通信の物理層においてICカードを検知することができ(ステップS2)、カード種別、すなわち、ICカードが採用している通信の物理層を検知する(ステップS3)。NFC通信装置としてのカード読み書き装置は、複数の通信の物理層に対応することができ、ここで検知された物理層プロトコルに従って、以降の通信動作を行なうことができる。図示の例では、説明の便宜上、カード種別は2種類であるとする。
【0102】
続いて、ミドルウェア層のサービス・ディレクトリ処理部が起動して、カード種別に則った通信動作により、サービス・ディレクトリ・データの取得を試みる(ステップS4)。
【0103】
ここで、ICカード内にサービス・ディレクトリ・データが蓄積されていない、あるいはその他の理由によりサービス・ディレクトリ・データを取得できないときには(ステップS4のNo)、カード読み書き装置は、該当サービスをサポートしていない旨をユーザにフィードバックして、ICカードの検知シーケンスに復帰する(ステップS1)。
【0104】
また、サービス・ディレクトリ処理部がICカードからサービス・ディレクトリ・データを取得することができたときには、このサービス・ディレクトリ・データを解読してICカード内に格納されているアプリケーション・サービスを特定し、該当するサービス用プログラムをカード読み書き装置内に搭載しているかどうかを確認する(ステップS5)。
【0105】
ここで、カード読み書き装置が該当するサービス用プログラムをサポートしていないときには(ステップS5のNo)、カード読み書き装置は、該当サービスをサポートしていない旨をユーザにフィードバックして、ICカードの検知シーケンスに復帰する(ステップS1)。
【0106】
一方、カード読み書き装置が該当するサービス用プログラムをサポートしているときには(ステップS5のYes)、カード読み書き装置は、このサービス用プログラムを用いてICカード内のアプリケーション・サービスにアクセスし(ステップS6)、例えば、電子マネーに対する課金や残高照会、ログの書き込みや参照などを行なう。
【0107】
そして、アプリケーション・サービスに対するアクセス結果をユーザにフィードバックして(ステップS7)、本処理ルーチン全体を終了する。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0109】
本明細書では、非接触・近接通信によりデータのやり取りを行なうICカードとカード読み書き装置で構成されるシステムに本発明を適用した実施形態を中心に説明してきたが、本発明の要旨は必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、ICカードとカード読み書き装置以外の近接通信システムや、近接通信を用いないデバイスで構成される情報通信システムに対しても、同様に本発明を適用することができる。
【0110】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る非接触・近接通信システムの構成を模式的に示した図である。
【図2】図2は、ICカードのハードウェア構成を模式的に示した図である。
【図3】図3は、NFC技術に対応したカード読み書き装置のハードウェア構成を模式的に示した図である。
【図4】図4は、復調部203の構成例を示した図である。
【図5】図5は、変調部209の構成例を示した図である。
【図6】図6は、サービス・ディレクトリ・データの記述例を示した図である。
【図7】図7は、ICカード内のメモリ空間にサービス・ディレクトリ・データを配置した例を示した図である。
【図8】図8は、ICカード内のメモリ空間にサービス・ディレクトリ・データを配置した例を示した図である。
【図9】図9は、ICカード内のメモリ空間にサービス・ディレクトリ・データを配置した例を示した図である。
【図10】図10は、カード読み書き装置がサービス・ディスカバリを実現するための仕組みを説明するための図である。
【図11】図11は、カード読み書き装置がサービス・ディスカバリを実現するための処理手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0112】
1…ICカード
100…ICカード部
101…アンテナ部
102…アナログ部
103…ディジタル処理部
104…メモリ
105…外部インターフェース
110…携帯端末
111…プログラム制御部
112…表示部
113…ユーザ入力部
2…カード読み書き装置
201…アンテナ
202…受信部
203…復調部
204…復号部
205…データ処理部
206…符号化部
207…選択部
208…電磁波出力部
209…変調部
210…負荷変調部
211…制御部
212…電源部
3…コントローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ通信機能を備えた情報記憶媒体と、前記情報記憶媒体にアクセスする情報通信装置からなる情報通信システムであって、
前記情報記憶媒体は、1以上のアプリケーション・サービスを格納することができるとともに、格納したアプリケーション・サービス毎の属性情報を記述したサービス・ディレクトリ・データを格納し、
前記情報通信装置は、検知した情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを読み取り、所望するアプリケーション・サービスに関する属性情報を取得して、該アプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムを起動してアクセスを行なう、
ことを特徴とする情報通信システム。
【請求項2】
サービス・ディレクトリ・データとして記述されるアプリケーション・サービスの属性情報は、アプリケーション・サービスのデータ構造若しくはデータ管理方式を識別可能な情報を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項3】
サービス・ディレクトリ・データとして記述されるアプリケーション・サービスの属性情報は、アプリケーション・サービスに関する技術方式と、アプリケーション・サービスの名称並びに種別に関する情報を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項4】
前記データ通信機能は通信に関する任意の物理層を適用し、
前記情報通信装置は、検知した情報記憶媒体のデータ通信機能において適用されている通信の物理層を自動検知し、該物理層のプロトコルに則ってサービス・ディレクトリ・データの取得並びにアプリケーション・サービスへのアクセスを行なう、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項5】
前記情報通信装置は、情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを取得できないときには、その旨をユーザに通知して、該情報記憶媒体へのアクセスを中止する、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項6】
前記情報通信装置は、情報記憶媒体から読み出したサービス・ディレクトリ・データから判別されるアプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムをサポートしてないときには、その旨をユーザに通知して、該情報記憶媒体へのアクセスを中止する、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報通信システム。
【請求項7】
データ通信機能付きの情報記憶媒体とデータ交換を行なう情報通信装置であって、前記情報記憶媒体は、1以上のアプリケーション・サービスを格納することができるとともに、格納したアプリケーション・サービス毎の属性情報を記述したサービス・ディレクトリ・データを格納しており、
前記データ通信機能を用いて情報記憶媒体と通信を行なう通信手段と、
検知した情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを読み取るサービス・ディレクトリ・データ取得手段と、
サービス・ディレクトリ・データから所望するアプリケーション・サービスに関する属性情報を取得し、該アプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムを起動してアクセスを行なうサービス・アクセス手段と、
を具備することを特徴とする情報通信装置。
【請求項8】
サービス・ディレクトリ・データとして記述されるアプリケーション・サービスの属性情報は、アプリケーション・サービスのデータ構造若しくはデータ管理方式を識別可能な情報を含む、
ことを特徴とする請求項7に記載の情報通信装置。
【請求項9】
サービス・ディレクトリ・データとして記述されるアプリケーション・サービスの属性情報は、アプリケーション・サービスに関する技術方式と、アプリケーション・サービスの名称並びに種別に関する情報を含む、
ことを特徴とする請求項7に記載の情報通信装置。
【請求項10】
前記情報記憶媒体の通信機能は通信に関する任意の物理層を適用しており、
前記通信手段は、検知した情報記憶媒体のデータ通信機能において適用されている通信の物理層を自動検知し、該物理層のプロトコルに則ってサービス・ディレクトリ・データの取得並びにアプリケーション・サービスへのアクセスを行なう、
ことを特徴とする請求項7に記載の情報通信装置。
【請求項11】
前記サービス・ディレクトリ・データ取得手段が情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを取得できないときには、その旨をユーザに通知して、該情報記憶媒体へのアクセスを中止する、
ことを特徴とする請求項7に記載の情報通信装置。
【請求項12】
情報記憶媒体から読み出したサービス・ディレクトリ・データから判別されるアプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムを、前記サービス・アクセス手段がサポートしていないときには、その旨をユーザに通知して、該情報記憶媒体へのアクセスを中止する、
ことを特徴とする請求項7に記載の情報通信装置。
【請求項13】
データ通信機能付きの情報記憶媒体とデータ交換を行なうための情報通信方法であって、前記情報記憶媒体は、1以上のアプリケーション・サービスを格納することができるとともに、格納したアプリケーション・サービス毎の属性情報を記述したサービス・ディレクトリ・データを格納しており、
検知した情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを読み取るサービス・ディレクトリ・データ取得ステップと、
サービス・ディレクトリ・データから所望するアプリケーション・サービスに関する属性情報を取得し、該アプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムを起動してアクセスを行なうサービス・アクセス・ステップと、
を具備することを特徴とする情報通信方法。
【請求項14】
前記情報記憶媒体の通信機能は通信に関する任意の物理層を適用しており、
検知した情報記憶媒体のデータ通信機能において適用されている通信の物理層を自動検知し、該物理層のプロトコルに則ってサービス・ディレクトリ・データの取得並びにアプリケーション・サービスへのアクセスを行なう、
ことを特徴とする請求項13に記載の情報通信方法。
【請求項15】
前記サービス・ディレクトリ・データ取得ステップにおいて情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを取得できないときに、その旨をユーザに通知して、該情報記憶媒体へのアクセスを中止するステップをさらに備える、
ことを特徴とする請求項13に記載の情報通信方法。
【請求項16】
情報記憶媒体から読み出したサービス・ディレクトリ・データから判別されるアプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムをサポートしていないときには、その旨をユーザに通知して、該情報記憶媒体へのアクセスを中止するステップをさらに備える、
ことを特徴とする請求項13に記載の情報通信方法。
【請求項17】
データ通信機能付きの情報記憶媒体とデータ交換を行なうための処理をコンピュータ・システム上で実行するようにコンピュータ可読形式で記述されたコンピュータ・プログラムであって、前記情報記憶媒体は、1以上のアプリケーション・サービスを格納することができるとともに、格納したアプリケーション・サービス毎の属性情報を記述したサービス・ディレクトリ・データを格納しており、前記コンピュータ・システムに対し、
検知した情報記憶媒体からサービス・ディレクトリ・データを読み取るサービス・ディレクトリ・データ取得手順と、
サービス・ディレクトリ・データから所望するアプリケーション・サービスに関する属性情報を取得し、該アプリケーション・サービスに対応するサービス用プログラムを起動してアクセスを行なうサービス・アクセス手順と、
を実行させることを特徴とするコンピュータ・プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−183780(P2007−183780A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1107(P2006−1107)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】