説明

情報通信機械室における消火設備システム及びその制御方法

【課題】情報通信機械室における消火設備起動によるICT装置の障害発生を回避可能とする消火設備システム制御技術を提供する。
【解決手段】区画内で火災が発生し(S102)、2以上の煙感知器6が火災を検知した場合(S103)、その情報が制御部8に送信される(S104)。制御部8は、各サーバユニット3bに対して正常機能停止(シャットダウン)を指示する(S106)。サーバユニット3bの正常機能停止を確認後(S108)、直ちに消火設備に対して起動指示を行う(S109)。これによりガス容器ユニット5の起動弁5dが開弁され、主配管5aを介して不活性ガスが供給されて、噴射ヘッド5bから室内に不活性ガスが放出される(S111)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報通信機械室における消火設備システム及びその制御方法に係り、特に、消火設備起動によるICT装置の障害発生を回避可能とするインターロック制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消火設備としては水泡系消火設備やガス系消火設備が知られている。このうち、データセンタ等、ICT装置を多数収容する情報通信機械室では、火災時の消火設備起動による装置への影響を最小限とするために、不活性ガスを用いたガス系消火設備が用いられる事例が増えている。ガス系消火設備は、消防法によりガス噴射ヘッド5bの放射圧力の下限値が規定されており、例えばNガスの場合には1.9MPa以上と定められている。また、ガス系消火設備については、手動又は自動起動の方式が規定されており、手動起動方式については、(a)起動装置の操作者の退避、(b)音響装置(区画内へのガス放出を有効に伝達する装置)の起動インターロック、が定められている。また、自動起動方式の場合には、自動火災報知設備の煙感知器との連動が定められている。
以下、自動起動方式の場合を例に、従来の火災発生時の消火ガス放出に至る動作フローを説明すると、図6を参照して、消火区画内で火災が発生した場合(S1001)、区画内の2以上の煙感知器が火災を感知すると(S1002)、避難アナウンスが開始される(S1003)。アナウンス開始と同時にタイマーが作動し(S1004)、一定時間(無人の場合、例えば5sec)経過後に消火設備の起動、すなわち不活性ガスが区画内に放出される(S1005)。同時に、ガス充満表示灯が点灯される(S1006)。以上の一連の動作フローにより消火に至り、終了する(S1007)。なお、有人時であって手動起動方式の場合には、S1004において起動釦の押釦によりタイマーを作動させるインターロック機構が設けられている。
【0003】
ガス系消火設備に関する先行技術としては、下記文献1乃至3が挙げる技術が例示される。文献1及び3は、消炎濃度以上のガス放出後、開口部からの流出により減少するガスを補うために追加放出を行う技術に関する。また文献2は、同一消火ヘッドから不活性ガス及び水泡消火溶液を連続的に放出する技術に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−95936号公報
【特許文献2】特開2007−6932号公報
【特許文献3】特開平11−57054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガス系消火設備ではガス放出時に、高圧ガスの急速膨張に伴い非常に大きな作動音が発生する。作動音は、圧力波として伝播して消火区画内全域に広がり、区画内の消火対象物に到達した時点で振動エネルギーに変換される。
しかしながら、ICT装置が収容されている情報通信機械室においては、ICT装置、特にHDD等の駆動部は振動に対して脆弱であり、ガス放出時に発生する振動音は、ICT装置の安定動作に重大な支障を及ぼし、誤動作や取り扱いデータの欠損等、サービスに致命的な影響を与える。さらに、このような安定動作障害は火災発生当該箇所のみならず、消火区画内全域に及ぶという問題がある。区画内に人が存在する場合には、上述のように手動起動とするなどのインターロックが講じられているものの、ICT装置の動作不良回避については対策が講じられていない。
なお、消火設備作動時のICT装置への影響については、先行技術文献に見いだせなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためのものであって、消火設備作動に伴うICT装置の動作不良回避を目的とした、消火設備起動インターロック制御に関する。
本発明は、以下の内容を要旨とする。すなわち、本発明に係る情報通信機械室における消火設備システムの制御方法は、
(1)室内にICT装置が収容されている情報通信機械室において、火災発生時に消火設備を起動させる消火設備システムの制御方法であって、消火設備を起動すべき場合に、消火設備の起動タイミングと、消火設備起動に伴うICT装置の動作不良発生防止のための回避措置タイミングとを、連動させることを特徴とする。
消火設備の起動とICT装置の回避措置とを連動させることにより、消火設備起動に伴うICT装置の動作不良発生を防止することが可能となる。
本発明において、「情報通信機械室」とは、データセンタ、電話交換機械室等を含む概念である。
「ICT装置」とは、サーバ、ストレージ、ルータ等の情報通信機器・装置をいう。
本発明において対象とする「消火設備」は、スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備、不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備、CO消火設備、又は粉末消火設備等である。
【0007】
(2)上記発明において、前記ICT装置の前記回避措置終了後に、前記消火設備を起動させることを特徴とする。
本発明によれば、消火設備起動前にICT装置の本体保護、データ保護等の回避措置を講じるため、ICT装置の損傷による誤動作や取り扱いデータの欠損等、サービスへの致命的な影響発生を回避できる。
(3)上記発明において、前記消火設備の起動後、直ちに前記ICT装置の前記回避措置を行うことを特徴とする。
本発明によれば、消火設備起動が常に先行するため、たとえICT装置の回避措置に一定時間を要する場合であっても、一連の消火設備作動を妨げないという効果がある。
(4)上記発明において、前記消火設備がガス系消火設備であることを特徴とする。
本発明によれば、不活性ガス放出時に発生する振動音によるICT装置の損傷を回避できる。
(5)上記発明において、前記回避措置が、前記ICT装置が実行中のデータ処理のバックアップ操作であることを特徴とする。
(6)前記回避措置が、前記ICT装置を正常に機能停止させる操作であることを特徴とする。
(7)前記回避措置が、ガス噴出時の振動によるICT装置の物理的損傷を回避する操作であることを特徴とする。
物理的損傷の回避手段として、例えば、ICT装置のHDD回転停止指示やピックアップヘッドの待避指示を行い、ピックアップヘッドによる記録盤表面への損傷防止がある。
【0008】
本発明に係る情報通信機械室における消火設備システムは、
(8)室内にICT装置が収容されている情報通信機械室における消火設備システムであって、消火設備の起動前に、該起動によるICT装置の安定動作障害発生を防止するための回避措置を行う、インターロック機構を備えて成ることを特徴とする。
(9)室内にICT装置が収容されている情報通信機械室における消火設備システムであって、消火設備の起動後、直ちに該消火設備起動に伴うICT装置の動作不良発生防止のための回避措置を行う手段を備えて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記各発明によれば、情報通信機械室における消火設備作動時において、ICT装置の安定動作障害、物理的損傷あるいは甚大なサービス停止、低下を回避することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第一の実施形態に係る消火設備システム1の全体構成を示す図である。
【図2】消火設備システム1の制御フローを示す図である。
【図3】第二の実施形態に係る消火設備システム20の全体構成を示す図である。
【図4】消火設備システム20の制御フローを示す図である。
【図5】第三の実施形態に係る消火設備システムの制御フローを示す図である。
【図6】従来の消火設備システムの制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る消火設備システム制御方法の実施形態について、図1乃至4を参照してさらに詳細に説明する。重複説明を避けるため、各図において同一構成には同一符号を用いて示している。なお、本発明の範囲は特許請求の範囲記載のものであって、以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。
<第一の実施形態>
本実施形態は、消火設備起動に先立ってICT装置をシャットダウンする制御に関する。
図1、2を参照して、本実施形態に係る消火設備システム1は、消火対象区画である情報通信機械室2に対してガス系消火設備1aを備えている。ガス系消火設備1aは、ガス系消火剤を供給するガス供給装置4と、機械室2の天井部分に配設される複数の噴射ヘッド5b及び火災煙感知器6と、機械室2内に配設される火災発生時の避難アナウンスを行う音声警報装置7と、を主要構成として備えている。
ガス供給装置4は、不活性ガスとして窒素ガスを充填したガス容器ユニット5と、ガス容器ユニット5と噴射ヘッド5bとを接続する主配管5aと、主配管5a経路中に配設される起動弁5dと、起動弁5dを操作する起動弁操作部5gと、により構成されている。起動弁操作部5gは、起動ガス容器ユニット5cと、電磁弁5fと、起動ガス配管5eと、を備えており、電磁弁5fを開にし、起動ガス配管5eを介して起動ガス容器ユニット5cから供給されるガス圧力により、起動弁5dを開状態に制御するように構成されている。
【0012】
機械室2内には複数のサーバラック3が収容されており、各サーバラック内部には、それぞれ複数のICT装置(以下、サーバと略記する)3aが格納されている。サーバ3aは、単独又は複数のサーバ群(以下サーバユニット3bという)単位で所定のデータ処理を行っている。
本システムにおいて、消火設備稼働の制御は制御部8により行われる。制御部8と火災煙感知器6、音声警報装置7、起動ガス容器ユニット5cの電磁弁5fは、それぞれ通信線C2乃至C4を介して結ばれており、相互に信号の授受を可能に構成されている。また、制御部8と、データ処理単位となるサーバユニット3bとは、通信線C1を介して結ばれており、後述するように相互に信号の授受が可能に構成されている。
【0013】
消火設備システム1は以上のように構成されており、次に図2をも参照して、本実施形態における火災発生時の消火設備及びデータ処理制御フローについて説明する。
通常時において、各サーバユニット3bは定められたデータ処理を実行している(S101)。制御部8は、常時、サーバユニット3bの稼動状態を監視している(S101a)この状況下において区画内で火災が発生し(S102)、2以上の煙感知器6が火災を検知した場合(S103)、その情報が制御部8に送信される(S104)。制御部8は、受信後一定時間以内(例えば、5秒以内)に音声警報装置7に指示し(S105)、避難アナウンスが開始される(S105a)。制御部8は、次いで各サーバユニット3bに対して正常機能停止(シャットダウン)を指示する(S106)。これを受けて、各サーバユニット3bは実行中の処理を終了させ、正常に稼動停止する(S107)。
制御部8は、サーバユニット3bの正常機能停止を確認(S108)後、直ちに消火設備に対して起動指示を行う(S109)。これにより、起動ガス容器ユニット5cの電磁弁5fが開弁され(S110)、起動用ガスの圧力により起動弁5dが開弁される。不活性ガスは、主配管5aを経由して噴射ヘッド5bに導かれ、さらに室内に放出される(S111)。このようにして、消炎濃度以上の不活性ガスが室内に充満することにより消火に到る(S112)。
本実施形態によれば、焼損部位に該当するサーバのデータは消失するものの、室内の他のサーバに関するデータについては、たとえガス噴出時の振動によるサーバの物理的損傷があったとしても、誤動作やデータ欠損等によるサービスへの影響を回避することができる。
【0014】
なお、本実施形態では、消火設備の稼働制御及びサーバユニットの稼動制御ともに制御部8により行われる例を示したが、これに限らず、既設の消火設備用制御装置(総合制御盤)が消火設備自体の起動制御を行い、本発明による制御部はこれに対して信号送信等によりインターロックを担保する形態とすることもできる(以下の実施形態においても同様)。
また、動作障害発生の回避手段としてサーバユニットに対して正常機能停止を指示する例を示したが、これに限らず、例えばサーバ内HDDの回転停止指示やピックアップヘッドの待避指示等により、安定動作障害発生を回避する形態とすることもできる(以下の実施形態においても同様)。
また、S108において、サーバユニットの正常機能停止確認後に消火設備に対して起動指示を行う例を示したが、停止指示後、直ちに消火設備に対して起動指示を行う形態としてもよい。
【0015】
<第二の実施形態>
次に、本発明の他の実施形態について説明する。本実施形態は、回避措置として当該消火対象区画以外の場所にデータ転送する制御形態に関する。
図3を参照して、本実施形態に係る消火設備システム20が上述の消火設備システム1と異なる点は、当該消火対象区画以外の場所にバックアップ用サーバ21を備えており、サーバ21と制御部8及びサーバユニット3bとは、それぞれ通信線C5、C6を介して結ばれており、相互に信号の授受が可能に構成されていることである。これにより、制御部8からの指令に基づいて、サーバユニット3bが蓄積している処理データを転送可能に構成されている。その他の構成については消火設備システム1と同一であるので、重複説明を省略する。
【0016】
次に図2をも参照して、本実施形態に係る消火設備システム1の火災発生時における消火制御フローについて説明する。
S201からS205aについては、消火設備システム1の消火制御フロー(図2参照)と同一であるので、重複説明を省略する。
制御部8は次いで、サーバユニット3bに対して蓄積データのバックアップサーバ21への転送を指示する(S206)。これを受けて、サーバユニット3bはサーバ21に該当データを転送する(S207)、バックアップサーバ21はバックアップ処理を行う(207a)。転送が終了すると、サーバユニット3bは直ちに制御部8に対して転送完了信号を送信する(S208)。
その後のフロー(S209からS212)については、図2のフローと同一であるので説明を省略する。
【0017】
なお、本実施形態では消火剤としてガス系消火剤を用いる例を示したが、本実施形態の場合、ICT装置の損傷前にデータが転送されるため、水系消火設備を用いる形態としてもよい。
また、本実施形態では別室のバックアップサーバにデータ転送する例を示したが、これに限らず、消火設備起動前に他のデータセンタに処理を移行することにより、サービスを継続する形態としてもよい。
また、S208において、バックアップサーバからの転送完了信号受信後に、消火設備に対して起動指示を行う例を示したが、サーバユニットへのデータ転送指示後、直ちに消火設備に対して起動指示を行う形態としてもよい。
【0018】
<第三の実施形態>
さらに、本発明の他の実施形態について説明する。本実施形態は、消火設備の起動後にICT装置の回避措置を行う制御形態に関する。
本発明の構成については消火設備システム1と同一であるので、重複説明を省略する。次に図5をも参照して、本実施形態に係る火災発生時における消火制御フローについて説明する。S301からS305aについては、消火設備システム1の消火制御フロー(図2参照)と同一であるので、重複説明を省略する。
避難アナウンス開始後、制御部8は、次いで消火設備に対して起動指示を行う(S306)。これにより、起動ガス容器ユニット5cの電磁弁5fが開弁され(S307)、法定時間内に起動用ガスの圧力により起動弁5dが開弁される(S308)。不活性ガスは、主配管5aを経由して噴射ヘッド5bに導かれ、さらに室内に放出される。このようにして、消炎濃度以上の不活性ガスが室内に充満することにより消火に到る(S312)。
一方、制御部8は起動弁5dの開弁を確認すると(S309)、各サーバユニット3bに対して正常機能停止(シャットダウン)を指示する(S310)。これを受けて、各サーバユニット3bは実行中の処理を終了させ、正常に稼動停止する(S311)。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、情報通信機械室のみならず、消火設備設置が要求されるICT装置を収容する対象空間に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1、20・・・・消火設備システム
1a・・・ガス系消火設備
2・・・・情報通信機械室
3・・・・サーバラック
3a・・・サーバ
3b・・・サーバユニット
4・・・・ガス供給装置
5・・・・ガス容器ユニット
5a・・・主配管
5b・・・ガス噴射ヘッド
5c・・・起動ガス容器ユニット
5d・・・起動弁
5e・・・起動ガス配管
5f・・・電磁弁
5g・・・起動弁操作部
6・・・・煙感知器
7・・・・音声警報装置
8・・・・制御部
21・・・バックアップ用サーバ
C1−C6・・・通信線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内にICT装置が収容されている情報通信機械室において、火災発生時に消火設備を起動させる消火設備システムの制御方法であって、
消火設備を起動すべき場合に、消火設備の起動タイミングと、消火設備起動に伴うICT装置の動作不良発生防止のための回避措置タイミングとを、連動させるものであり、
前記消火設備がガス系消火設備であり、
前記回避措置が、ガス噴出時の振動によるICT装置の物理的損傷を回避する操作である、
ことを特徴とする情報通信機械室における消火設備システムの制御方法。
【請求項2】
前記ICT装置の物理的損傷を回避する操作が、ICT装置のHDD回転停止指示又はピックアップヘッドの待避指示を行い、ピックアップヘッドによる記録盤表面への損傷を防止する操作である、ことを特徴とする請求項1に記載の情報通信機械室における消火設備システムの制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−192213(P2012−192213A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−153353(P2012−153353)
【出願日】平成24年7月9日(2012.7.9)
【分割の表示】特願2009−273248(P2009−273248)の分割
【原出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【Fターム(参考)】