説明

意匠加工シミュレーションプログラム、意匠加工シミュレーション方法及び意匠加工シミュレーション装置

【課題】実際の意匠加工品の質感を擬似的に再現し、試作品を作成する時間及び費用を削減する。
【解決手段】テクスチャ画像データ取得部101は、織物を構成する糸に関する糸情報をピクセル毎に対応付けたテクスチャ画像データを取得し、加工用意匠図データ取得部102は、織物に施す柄を表す加工用意匠図データを取得し、加工条件取得部103は、加工用意匠図データ取得部102によって取得された加工用意匠図データのうちの意匠加工を施す位置を少なくとも含み、意匠加工を施す際の加工条件を取得し、糸情報更新部105は、加工条件取得部103によって取得された加工条件を用いて、加工用意匠図データの意匠加工を施す位置に対応するテクスチャ画像データの各ピクセルの糸情報を更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布素材に柄を施す意匠加工を仮想的にシミュレーションする意匠加工シミュレーションプログラム、意匠加工シミュレーション方法及び意匠加工シミュレーション装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、無地の布素材の表面に柄を施す手法の一つに意匠加工がある。この意匠加工には、プリント加工及びエンボス加工などがある。プリント加工は、染めたい部分に薬剤(染料)を染み込ませることにより、布素材に対して柄を施す。実際にプリント加工では、穴の空いた版画を用意し、穴の空いた部分のみを染める。プリント加工には、薬剤の種類により、オーバープリント加工、抜染プリント加工及びエッチングプリント加工の3種類がある。
【0003】
オーバープリント加工では、布素材に染料を染み込ませるため、布素材の色と柄部分の色とが混じり合った色になる。抜染プリント加工では、無地の布素材を脱色してから染料を染み込ませるため、布素材は染料の色に染まる。また、エッチングプリント加工は、布素材を溶解させる薬剤を使用するため、薬剤が浸透した部分がへこみ、布素材に凹凸ができる。
【0004】
エンボス加工は、凹凸のある金属板を布素材に押し付け、加熱及び加圧することにより、平坦な布素材に凹凸の模様を与える。特に、エンボス加工では、加圧により布素材が溶融して光沢感が変化する。
【0005】
また、織物の表面柄パターンを作成する装置として、例えば特許文献1の技術が知られている。特許文献1に記載の表面柄パターン作成装置は、先染織物に関するデータから布柄イメージを作成している。
【特許文献1】特開平6−248536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、意匠加工品は、実際に試作してみなければ意匠加工結果を確認することができず、デザイナの意図した通りの布素材を作るためには、試作を繰り返し行う必要があった。特許文献1の表面柄パターン作成装置は、先染めされた糸を用いて布素材を作成し、その表面柄パターンを擬似的に作成するものであり、無地の布素材に意匠加工を施すことについては考慮されていない。
【0007】
また、既存のコンピュータグラフィックソフトでは、画像のレイヤ合成により、意匠加工結果を擬似的に作成することは可能であるが、質感が実際の意匠加工品には到底及ばない。そのため、シミュレーション装置により作成した擬似的な意匠加工結果に基づいて、実際に意匠加工品を作成したとしても、デザイナが意図した意匠加工品になるとは限らず、結果、再度繰り返し試作品を作成しなければならない可能性がある。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、実際の意匠加工品の質感を擬似的に再現することができ、試作品を作成する時間及び費用を削減することができる意匠加工シミュレーションプログラム、意匠加工シミュレーション方法及び意匠加工シミュレーション装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る意匠加工シミュレーションプログラムは、布素材に柄を施す意匠加工を仮想的にシミュレーションする意匠加工シミュレーションプログラムであって、複数の領域に分割され、前記布素材を構成する糸に関する糸情報を前記領域毎に対応付けた2次元テクスチャ画像を取得する2次元テクスチャ画像取得手段と、前記布素材に施す柄を表す柄画像を取得する柄画像取得手段と、前記柄画像取得手段によって取得された前記柄画像のうちの前記意匠加工を施す位置を少なくとも含み、前記意匠加工を施す際の加工条件を、取得する加工条件取得手段と、前記加工条件取得手段によって取得された前記加工条件を用いて、前記柄画像の前記意匠加工を施す位置に対応する前記2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報を更新する糸情報更新手段としてコンピュータを機能させる。
【0010】
本発明に係る意匠加工シミュレーション方法は、布素材に柄を施す意匠加工を仮想的にシミュレーションする意匠加工シミュレーション方法であって、複数の領域に分割され、前記布素材を構成する糸に関する糸情報を前記領域毎に対応付けた2次元テクスチャ画像を取得する2次元テクスチャ画像取得ステップと、前記布素材に施す柄を表す柄画像を取得する柄画像取得ステップと、前記柄画像取得ステップにおいて取得された前記柄画像のうちの前記意匠加工を施す位置を少なくとも含み、前記意匠加工を施す際の加工条件を、取得する加工条件取得ステップと、前記加工条件取得ステップにおいて取得された前記加工条件を用いて、前記柄画像の前記意匠加工を施す位置に対応する前記2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報を更新する糸情報更新ステップとを含む。
【0011】
本発明に係る意匠加工シミュレーション装置は、布素材に柄を施す意匠加工を仮想的にシミュレーションする意匠加工シミュレーション装置であって、複数の領域に分割され、前記布素材を構成する糸に関する糸情報を前記領域毎に対応付けた2次元テクスチャ画像を取得する2次元テクスチャ画像取得部と、前記布素材に施す柄を表す柄画像を取得する柄画像取得部と、前記柄画像取得手段によって取得された前記柄画像のうちの前記意匠加工を施す位置を少なくとも含み、前記意匠加工を施す際の加工条件を、取得する加工条件取得部と、前記加工条件取得部によって取得された前記加工条件を用いて、前記柄画像の前記意匠加工を施す位置に対応する前記2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報を更新する糸情報更新部とを備える。
【0012】
これらの構成によれば、複数の領域に分割され、布素材を構成する糸に関する糸情報を領域毎に対応付けた2次元テクスチャ画像が取得され、布素材に施す柄を表す柄画像が取得され、取得された柄画像のうちの意匠加工を施す位置を少なくとも含み、意匠加工を施す際の加工条件が、取得される。そして、取得された加工条件を用いて、柄画像の意匠加工を施す位置に対応する2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報が更新される。
【0013】
したがって、意匠加工を施す際の加工条件を用いて、柄画像の意匠加工を施す位置に対応する2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報が更新されるので、実際の意匠加工品の質感を擬似的に再現することができ、試作品を作成する時間及び費用を削減することができる。
【0014】
また、上記の意匠加工シミュレーションプログラムにおいて、前記意匠加工は、版画を介して薬剤を前記布素材に浸透させ、前記布素材に柄を施すプリント加工を含み、前記糸情報は、前記布素材の繊維密度を表す繊維密度情報を含み、前記加工条件は、前記版画の解像度を表す解像度情報と、前記プリント加工を施す際のスケージ圧を表すスケージ圧情報とを含み、前記糸情報更新手段は、前記解像度情報と前記スケージ圧情報と前記繊維密度情報とに基づいて前記布素材に前記薬剤が浸透する浸透薬剤量を前記領域毎に算出し、算出した浸透薬剤量に基づいて、前記柄画像の前記意匠加工を施す位置に対応する前記2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報を更新することが好ましい。
【0015】
この構成によれば、意匠加工には、版画を介して薬剤を布素材に浸透させ、布素材に柄を施すプリント加工が含まれ、糸情報には、布素材の繊維密度を表す繊維密度情報が含まれ、加工条件には、版画の解像度を表す解像度情報と、プリント加工を施す際のスケージ圧を表すスケージ圧情報とが含まれる。そして、解像度情報とスケージ圧情報と繊維密度情報とに基づいて布素材に薬剤が浸透する浸透薬剤量が領域毎に算出され、算出された浸透薬剤量に基づいて、柄画像の意匠加工を施す位置に対応する2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報が更新される。
【0016】
したがって、布素材に薬剤が浸透する浸透薬剤量に基づいて、柄画像の意匠加工を施す位置に対応する2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報が更新されるので、どれだけの量の薬剤が布素材に浸透するかを考慮して、実際の意匠加工品の質感を擬似的に再現することができる。
【0017】
また、上記の意匠加工シミュレーションプログラムにおいて、前記プリント加工は、版画を介して染料を前記布素材に浸透させるオーバープリント加工を含み、前記糸情報は、前記オーバープリント加工を施す前の糸の色を表す基本色情報と、前記オーバープリント加工を施した後の糸の色を表すプリント色情報とをさらに含み、前記加工条件は、前記染料の色を表す染料色情報をさらに含み、前記糸情報更新手段は、前記解像度情報と前記スケージ圧情報と前記繊維密度情報とに基づいて、前記布素材に前記染料が浸透する浸透染料量を前記領域毎に算出する浸透染料量算出手段と、前記浸透染料量算出手段によって算出された前記浸透染料量と、前記繊維密度情報とに基づいて、前記染料が前記布素材に着色する有効着色染料量を前記領域毎に算出する有効着色染料量算出手段と、前記有効着色染料量算出手段によって算出された前記有効着色染料量と、前記基本色情報と、前記染料色情報とに基づいて、前記オーバープリント加工を施した後の糸の色を前記領域毎に決定するオーバープリント色決定手段と、前記オーバープリント色決定手段によって決定された糸の色をプリント色情報として前記領域毎に設定する糸情報設定手段とを含むことが好ましい。
【0018】
この構成によれば、プリント加工には、版画を介して染料を布素材に浸透させるオーバープリント加工が含まれ、糸情報には、オーバープリント加工を施す前の糸の色を表す基本色情報と、オーバープリント加工を施した後の糸の色を表すプリント色情報とがさらに含まれ、加工条件には、染料の色を表す染料色情報がさらに含まれる。そして、解像度情報とスケージ圧情報と繊維密度情報とに基づいて、布素材に染料が浸透する浸透染料量が領域毎に算出され、算出された浸透染料量と、繊維密度情報とに基づいて、染料が布素材に着色する有効着色染料量が領域毎に算出される。その後、算出された有効着色染料量と、基本色情報と、染料色情報とに基づいて、オーバープリント加工を施した後の糸の色が領域毎に決定され、決定された糸の色がプリント色情報として領域毎に設定される。
【0019】
したがって、布素材に染料が浸透する浸透染料量が領域毎に算出され、染料が布素材に着色する有効着色染料量が領域毎に算出され、オーバープリント加工を施した後の糸の色が領域毎に決定されるので、布素材に染料が浸透する浸透染料量だけでなく、実際に染料が布素材に着色する有効着色染料量をも考慮して、実際の意匠加工品の質感を擬似的に再現することができる。
【0020】
また、上記の意匠加工シミュレーションプログラムにおいて、前記浸透染料量算出手段は、前記解像度情報と前記スケージ圧情報とに基づいて、前記領域毎に投下される染料の量を基本染料量として算出する第1の処理と、前記繊維密度情報に基づいて染料が浸透する浸透染料量を前記領域毎に算出する第2の処理と、前記浸透染料量を積算する第3の処理と、前記基本染料量から前記浸透染料量を減算した残留染料量を周囲に隣接する領域に均等に分散させて前記基本染料量を更新する第4の処理とを繰り返し実行することが好ましい。
【0021】
この構成によれば、第1の処理において、解像度情報とスケージ圧情報とに基づいて、領域毎に投下される染料の量が基本染料量として算出され、第2の処理において、繊維密度情報に基づいて染料が浸透する浸透染料量が領域毎に算出され、第3の処理において、浸透染料量が積算され、第4の処理において、基本染料量から浸透染料量を減算した残留染料量を周囲に隣接する領域に均等に分散させて基本染料量が更新され、これらの処理が繰り返し実行される。
【0022】
したがって、領域毎の浸透染料量を算出するとともに、各領域で浸透しきれなかった染料が隣接する領域に分散されるので、オーバープリント加工が施される部分と施されない部分との境界における染料のにじみを擬似的に再現することができ、よりリアル感のあるオーバープリント加工を擬似的に再現することができる。
【0023】
また、上記の意匠加工シミュレーションプログラムにおいて、前記オーバープリント色決定手段は、前記基本色情報に基づいて算出される前記布素材の色の明度と、前記染料色情報に基づいて算出される前記染料の色の明度とのうちの低い方の明度と、前記有効着色染料量とに基づいて、オーバープリント加工を施した後の糸の色の明度を補正することが好ましい。
【0024】
この構成によれば、基本色情報に基づいて算出される布素材の色の明度と、染料色情報に基づいて算出される染料の色の明度とのうちの低い方の明度と、有効着色染料量とに基づいて、オーバープリント加工を施した後の糸の色の明度が補正される。したがって、オーバープリント加工を施した後の糸の色を、より現実の意匠加工品に近づけることができる。
【0025】
また、上記の意匠加工シミュレーションプログラムにおいて、前記プリント加工は、柄に応じて前記布素材を脱色した後、染料を浸透させる抜染プリント加工を含み、前記糸情報は、前記抜染プリント加工を施す前の糸の色を表す基本色情報と、前記抜染プリント加工を施した後の糸の色を表すプリント色情報とをさらに含み、前記加工条件は、前記染料の色を表す染料色情報をさらに含み、前記糸情報更新手段は、前記解像度情報と前記スケージ圧情報と前記繊維密度情報とに基づいて、前記布素材に前記染料が浸透する浸透染料量を前記領域毎に算出する浸透染料量算出手段と、前記浸透染料量算出手段によって算出された前記浸透染料量と、前記繊維密度情報とに基づいて、前記染料が前記布素材に着色する有効着色染料量を前記領域毎に算出する有効着色染料量算出手段と、前記基本色情報に基づいて算出される前記布素材の色の彩度及び明度に所定の係数を乗算することにより、前記布素材を脱色した際に残留する残留色情報を算出し、前記有効着色染料量と前記基本色情報と前記染料色情報と前記残留色情報とに基づいて、前記抜染プリント加工を施した後の糸の色を前記領域毎に決定する抜染プリント色決定手段と、前記抜染プリント色決定手段によって決定された糸の色をプリント色情報として前記領域毎に設定する糸情報設定手段とを含むことが好ましい。
【0026】
この構成によれば、プリント加工には、柄に応じて布素材を脱色した後、染料を浸透させる抜染プリント加工が含まれ、糸情報には、抜染プリント加工を施す前の糸の色を表す基本色情報と、抜染プリント加工を施した後の糸の色を表すプリント色情報とがさらに含まれ、加工条件には、染料の色を表す染料色情報がさらに含まれる。そして、解像度情報とスケージ圧情報と繊維密度情報とに基づいて、布素材に染料が浸透する浸透染料量が領域毎に算出され、算出された浸透染料量と、繊維密度情報とに基づいて、染料が布素材に着色する有効着色染料量が領域毎に算出される。その後、基本色情報に基づいて算出される布素材の色の彩度及び明度に所定の係数が乗算されることにより、布素材を脱色した際に残留する残留色情報が算出される。有効着色染料量と基本色情報と染料色情報と残留色情報とに基づいて、抜染プリント加工を施した後の糸の色が領域毎に決定され、決定された糸の色がプリント色情報として領域毎に設定される。
【0027】
したがって、布素材を脱色した際に残留する残留色情報が算出され、この残留色情報を用いて、抜染プリント加工を施した後の糸の色が領域毎に決定されるので、布素材を脱色した際に残留する残留色と、染料の色とを混合させた色を擬似的に再現することができ、よりリアル感のある抜染プリント加工を擬似的に再現することができる。
【0028】
また、上記の意匠加工シミュレーションプログラムにおいて、前記プリント加工は、柄に応じて前記布素材の表面を溶解させるエッチングプリント加工を含み、前記糸情報は、布素材の高さを表す高さ値をさらに含み、前記糸情報更新手段は、前記解像度情報と前記スケージ圧情報と前記繊維密度情報とに基づいて、前記布素材に前記薬剤が浸透する浸透薬剤量を前記領域毎に算出する浸透薬剤量算出手段と、前記浸透薬剤量算出手段によって算出された前記浸透薬剤量と、前記繊維密度情報とに基づいて、前記薬剤が前記布素材に定着する有効定着薬剤量を前記領域毎に算出する有効定着薬剤量算出手段と、前記有効定着薬剤量算出手段によって算出された前記有効定着薬剤量に所定の係数を乗算した値を前記高さ値から減算することにより、前記エッチングプリント加工を施した後の前記高さ値を前記領域毎に決定する高さ決定手段と、前記繊維密度情報に所定の係数を乗算することにより、前記エッチングプリント加工を施した後の前記繊維密度情報を前記領域毎に決定する繊維密度決定手段と、前記高さ決定手段によって決定された前記高さ値と、前記繊維密度決定手段によって決定された前記繊維密度情報とを前記領域毎に設定する糸情報設定手段とを含むことが好ましい。
【0029】
この構成によれば、プリント加工には、柄に応じて布素材の表面を溶解させるエッチングプリント加工が含まれ、糸情報には、布素材の高さを表す高さ値がさらに含まれる。そして、解像度情報とスケージ圧情報と繊維密度情報とに基づいて、布素材に薬剤が浸透する浸透薬剤量が領域毎に算出され、算出された浸透薬剤量と、繊維密度情報とに基づいて、薬剤が布素材に定着する有効定着薬剤量が領域毎に算出される。その後、算出された有効定着薬剤量に所定の係数を乗算した値が高さ値から減算されることにより、エッチングプリント加工を施した後の高さ値が領域毎に決定される。また、繊維密度情報に所定の係数が乗算されることにより、エッチングプリント加工を施した後の繊維密度情報が領域毎に決定される。そして、決定された高さ値と繊維密度情報とが領域毎に設定される。
【0030】
したがって、エッチングプリント加工を施した後の高さ値が領域毎に決定され、エッチングプリント加工を施した後の繊維密度情報が領域毎に決定され、決定された高さ値と繊維密度情報とが領域毎に設定されるので、エッチングプリント加工により変化する糸の高さと繊維密度とを擬似的に再現することができ、よりリアル感のあるエッチングプリント加工を擬似的に再現することができる。
【0031】
また、上記の意匠加工シミュレーションプログラムにおいて、前記意匠加工は、型押しすることにより、前記布素材の表面に凹凸を形成するエンボス加工を含み、前記糸情報は、布素材の高さを表す高さ値と、前記布素材を構成する糸の光沢感を表す光沢情報とを含み、前記加工条件は、前記エンボス加工を施す際に型押しする圧力を表す圧力情報を含み、前記柄画像は、前記エンボス加工を施す際に型押しする深さを表す深さ情報を含み、前記糸情報更新手段は、前記深さ情報に基づいて、前記エンボス加工を施した後の前記高さ値を前記領域毎に決定する高さ決定手段と、前記圧力情報に基づいて、前記エンボス加工を施した後の前記光沢情報を前記領域毎に決定する光沢決定手段と、前記高さ決定手段によって決定された前記高さ値と、前記光沢決定手段によって決定された前記光沢情報とを前記領域毎に設定する糸情報設定手段とを含むことが好ましい。
【0032】
この構成によれば、意匠加工には、型押しすることにより、布素材の表面に凹凸を形成するエンボス加工が含まれ、糸情報には、布素材の高さを表す高さ値と、布素材を構成する糸の光沢感を表す光沢情報とが含まれ、加工条件には、エンボス加工を施す際に型押しする圧力を表す圧力情報が含まれ、柄画像には、エンボス加工を施す際に型押しする深さを表す深さ情報が含まれる。そして、深さ情報に基づいて、エンボス加工を施した後の高さ値が領域毎に決定され、圧力情報に基づいて、エンボス加工を施した後の光沢情報が領域毎に決定され、決定された高さ値と光沢情報とが領域毎に設定される。
【0033】
したがって、エンボス加工を施した後の高さ値が領域毎に決定され、エンボス加工を施した後の光沢情報が領域毎に決定され、決定された高さ値と光沢情報とが領域毎に設定されるので、エンボス加工により変化する糸の高さと光沢情報とを擬似的に再現することができ、よりリアル感のあるエンボス加工を擬似的に再現することができる。
【0034】
また、上記の意匠加工シミュレーションプログラムにおいて、前記高さ決定手段は、前記エンボス加工を施した後の前記高さ値を前記領域毎に算出する第1の処理と、算出した高さ値を周囲に隣接する領域に均等に分散させる第2の処理と、前記第2の処理で算出した高さ値が前記第1の処理で算出した高さ値よりも高い場合、前記第2の処理で算出した高さ値を前記第1の処理で算出した高さ値に戻す第3の処理とを繰り返し実行することが好ましい。
【0035】
この構成によれば、第1の処理において、エンボス加工を施した後の高さ値が領域毎に算出され、第2の処理において、算出した高さ値が周囲に隣接する領域に均等に分散され、第3の処理において、第2の処理で算出した高さ値が第1の処理で算出した高さ値よりも高い場合、第2の処理で算出した高さ値が第1の処理で算出した高さ値に戻され、これらの処理が繰り返し実行される。
【0036】
したがって、領域毎に算出された高さ値が周囲に隣接する領域に均等に分散され、分散後の高さ値が、エンボス加工を施した後の高さ値よりも高い場合、分散後の高さ値は、エンボス加工を施した後の高さ値に戻されるので、エンボス加工が施される部分と施されない部分との境界における丸みを擬似的に再現することができ、よりリアル感のあるエンボス加工を擬似的に再現することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、意匠加工を施す際の加工条件を用いて、柄画像の意匠加工を施す位置に対応する2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報が更新されるので、実際の意匠加工品の質感を擬似的に再現することができ、試作品を作成する時間及び費用を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の一実施の形態に係る意匠加工シミュレーション装置について図面を参照しながら説明する。
【0039】
図1は、本実施の形態における意匠加工シミュレーション装置のハードウエア構成を示す図である。図1に示す意匠加工シミュレーション装置は、通常のコンピュータから構成され、入力装置1、ROM(リードオンリメモリ)2、CPU(中央演算処理装置)3、RAM(ランダムアクセスメモリ)4、外部記憶装置5、表示装置6及び記録媒体駆動装置7を備えて構成される。各ブロックは内部のバスに接続され、このバスを介して種々のデータ等が入出力され、CPU3の制御の下、種々の処理が実行される。
【0040】
入力装置1は、キーボード及びマウス等から構成され、操作者が種々のデータ及び操作指令等を入力するために使用される。ROM2には、BIOS(Basic Input/Output System)等のシステムプログラム等が記憶されている。外部記憶装置5は、ハードディスクドライブ等から構成され、所定のOS(Operating System)及び後述する着色シミュレーションプログラム等が記憶されている。RAM4は、CPU3の作業領域等として用いられる。
【0041】
記録媒体駆動装置7は、DVD−ROMドライブ、CD−ROMドライブ又はフレキシブルディスクドライブ等から構成される。なお、意匠加工シミュレーションプログラムを、DVD−ROM、CD−ROM又はフレキシブルディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体8に記録し、記録媒体駆動装置7により記録媒体8から意匠加工シミュレーションプログラムを読み出して外部記憶装置5にインストールして実行するようにしてもよい。また、意匠加工シミュレーション装置が通信装置等を備え、意匠加工シミュレーションプログラムが通信ネットワークを介して接続された他のコンピュータに記憶されている場合、当該コンピュータからネットワークを介して意匠加工シミュレーションプログラムをダウンロードして実行するようにしてもよい。
【0042】
ここで、本実施の形態における意匠加工シミュレーション装置について説明する。意匠加工シミュレーション装置は、織物に柄を施す意匠加工を仮想的にシミュレーションする。上述のように意匠加工には、版画を介して薬剤を織物に浸透させて織物に柄を施すプリント加工と、型押しすることにより織物の表面に凹凸を形成するエンボス加工とが含まれる。さらに、プリント加工には、版画を介して染料を織物に浸透させるオーバープリント加工と、柄に応じて織物を脱色した後、染料を浸透させる抜染プリント加工と、柄に応じて織物の表面を溶解させるエッチングプリント加工とが含まれる。本実施の形態では、オーバープリント加工、抜染プリント加工、エッチングプリント加工及びエンボス加工についてそれぞれ説明する。
【0043】
なお、本実施の形態における意匠加工シミュレーション装置では、仮想的に意匠加工を施す対象を織物としているが、本発明は特にこれに限定されず、編物などの他の布素材であってもよい。
【0044】
(オーバープリント加工)
まず、オーバープリント加工について説明する。図2は、本実施の形態のオーバープリント加工における意匠加工シミュレーション装置の機能を説明するためのブロック図である。
【0045】
図2に示す意匠加工シミュレーション装置は、プログラム実行部100及び記憶部200を備えて構成される。プログラム実行部100は、CPU3が意匠加工シミュレーションプログラムを実行することにより実現され、テクスチャ画像データ取得部101、加工用意匠図データ取得部102、加工条件取得部103、柄特定部104、糸情報更新部105及び表示制御部106を備えて構成される。記憶部200は、外部記憶装置5等から構成され、CPU3が意匠加工シミュレーションプログラムを実行することにより実現され、テクスチャ画像データ記憶部201、加工用意匠図データ記憶部202及び加工条件記憶部203を備えて構成される。
【0046】
テクスチャ画像データ取得部101は、複数の領域に分割され、織物を構成する糸に関する3次元的な糸情報を領域毎に対応付けた2次元のテクスチャ画像データを取得する。テクスチャ画像データは、複数のポリゴンで構成される3次元織物構造を、3次元空間内における仮想的なカメラにより撮影した2次元画像である。テクスチャ画像データは、複数のピクセルにより構成され、ピクセル毎に糸情報が対応付けられている。なお、テクスチャ画像データは、糸の幅が4つのピクセルで構成される解像度で作成される。また、本実施の形態では、各ピクセルに対して糸情報が対応付けられているが、本発明は特にこれに限定されず、複数のピクセルに対して糸情報を対応付けてもよい。
【0047】
糸情報は、織物の高さを表す高さ値、織物の繊維密度を表す繊維密度情報、織物を構成する糸の光沢感を表す光沢情報、プリント加工を施す前のそのピクセルを占める糸の色を表す基本色情報、及びプリント加工を施した後のそのピクセルを占める糸の色を表すプリント色情報を含む。基本色情報及びプリント色情報は、RGB(R:レッド、G:グリーン、B:ブルー)値で表される。オーバープリント加工において、糸情報は、繊維密度情報、基本色情報及びプリント色情報が使用される。
【0048】
なお、本実施の形態においてテクスチャ画像データ取得部101は、3次元織物構造を仮想カメラにより撮影することによりテクスチャ画像データを取得しているが、本発明は特にこれに限定されず、実際の織物をデジタルカメラ等で撮影することによりテクスチャ画像データを取得してもよい。この場合、糸情報は、ユーザが推定値又は近似値を入力することにより設定される。また、テクスチャ画像データ取得部101は、インターネットなどのネットワークを介して接続された他のコンピュータからテクスチャ画像データを取得してもよい。
【0049】
加工用意匠図データ取得部102は、織物に施す柄を表す加工用意匠図データを取得する。加工用意匠図データは、柄に応じて複数の色に塗り分けられたビットマップ形式の画像データであり、各色を指定することが可能となっている。加工用意匠図データは、ユーザにより入力装置1を用いて作成される。
【0050】
加工条件取得部103は、意匠加工を施す際の加工条件を取得する。加工条件は、ユーザにより入力装置1を用いて入力される。加工条件は、プリント加工する際に用いる版画の解像度を表す解像度情報、染料の色を表す染料色情報、プリント加工を施す際のスケージ圧を表すスケージ圧情報、及び加工用意匠図データ上のプリント加工を施す柄部分を表す加工位置情報を含む。
【0051】
柄特定部104は、加工用意匠図データ取得部102によって取得された加工用意匠図データと、加工条件取得部103によって取得された加工条件とに基づいて、テクスチャ画像データ取得部101によって取得されたテクスチャ画像データにおける意匠加工を施す柄部分を特定する。ユーザは、加工用意匠図データの中からプリント加工を施す柄部分を指定する。柄特定部104は、加工用意匠図データの左上端とテクスチャ画像データの左上端とを一致させ、加工用意匠図データにおける指定された柄部分のピクセルに対応するテクスチャ画像データにおけるピクセルを特定する。
【0052】
糸情報更新部105は、加工条件取得部103によって取得された加工条件を用いて、柄特定部104によって特定されたテクスチャ画像データにおける柄部分が有する各ピクセルの糸情報を更新する。糸情報更新部105は、浸透染料量算出部111、有効着色染料量算出部112、色決定部113及び糸情報設定部114を含む。
【0053】
浸透染料量算出部111は、解像度情報とスケージ圧情報と繊維密度情報とに基づいて、織物に薬剤が浸透する浸透染料量をピクセル毎に算出する。なお、オーバープリント加工及び抜染プリント加工においては、薬剤は、染料などの織物に色を着色するための薬剤であり、エッチングプリント加工においては、薬剤は、織物の表面を溶解させるための薬剤である。有効着色染料量算出部112は、浸透染料量算出部111によって算出された浸透染料量と、繊維密度情報とに基づいて、染料が織物に着色する有効着色染料量をピクセル毎に算出する。
【0054】
色決定部113は、有効着色染料量算出部112によって算出された有効着色染料量と、基本色情報と、染料色情報とに基づいて、オーバープリント加工を施した後の糸の色をピクセル毎に決定する。糸情報設定部114は、色決定部113によって決定された糸の色をプリント色情報としてピクセル毎に設定する。
【0055】
表示制御部106は、種々の画面を表示するように表示装置6を制御する。例えば、表示制御部106は、意匠加工が施されるテクスチャ画像データを表示する。また、表示制御部106は、加工用意匠図データを表示し、入力装置1による意匠加工を施す位置の指定を受け付ける。さらに、表示制御部106は、テクスチャ画像データに意匠加工を施したシミュレーション結果を表示装置6に表示する。
【0056】
テクスチャ画像データ記憶部201は、テクスチャ画像データ取得部101によって取得されたテクスチャ画像データを記憶する。加工用意匠図データ記憶部202は、加工用意匠図データ取得部102によって取得された加工用意匠図データを記憶する。加工条件記憶部203は、加工条件取得部103によって取得された加工条件を記憶する。
【0057】
なお、本実施の形態において、テクスチャ画像データ取得部101が2次元テクスチャ画像取得手段の一例に相当し、加工用意匠図データ取得部102が柄画像取得手段の一例に相当し、加工条件取得部103が加工条件取得手段の一例に相当し、糸情報更新部105が糸情報更新手段の一例に相当し、浸透染料量算出部111が浸透染料量算出手段の一例に相当し、有効着色染料量算出部112が有効着色染料量算出手段の一例に相当し、色決定部113がオーバープリント色決定手段の一例に相当し、糸情報設定部114が糸情報設定手段の一例に相当する。
【0058】
次に、図2に示す意匠加工シミュレーション装置によるオーバープリント加工、抜染プリント加工及びエッチングプリント加工の3種類のプリント加工に共通する処理について説明する。図3は、意匠加工シミュレーション装置によるプリント加工処理を説明するためのフローチャートである。
【0059】
まず、ステップS1において、テクスチャ画像データ取得部101は、ピクセル毎に糸情報が対応付けられているテクスチャ画像データを取得する。テクスチャ画像データ取得部101は、予め作成されている3次元織物構造を、3次元空間内における仮想的なカメラにより撮影することでテクスチャ画像データを作成する。テクスチャ画像データ取得部101は、取得したテクスチャ画像データをテクスチャ画像データ記憶部201に記憶する。
【0060】
次に、ステップS2において、加工用意匠図データ取得部102は、織物に施す柄を表す加工用意匠図データを取得する。加工用意匠図データ取得部102は、入力装置1を用いてユーザにより作成された加工用意匠図データを取得する。加工用意匠図データ取得部102は、取得した加工用意匠図データを加工用意匠図データ記憶部202に記憶する。なお、本実施の形態において加工用意匠図データ取得部102は、ユーザにより作成された加工用意匠図データを取得しているが、本発明は特にこれに限定されず、インターネットなどのネットワークを介して接続された他のコンピュータから加工用意匠図データを取得してもよい。
【0061】
次に、ステップS3において、加工条件取得部103は、プリント加工を施す際の加工条件を取得する。加工条件取得部103は、入力装置1を用いてユーザにより入力された加工条件を取得する。すなわち、入力装置1は、解像度情報、スケージ圧情報及び加工位置情報のユーザによる入力を受け付け、加工条件取得部103は、これらの情報を入力装置1から取得する。加工条件取得部103は、取得した加工条件を加工条件記憶部203に記憶する。なお、本実施の形態において加工条件取得部103は、ユーザにより入力された加工条件を取得しているが、本発明は特にこれに限定されず、インターネットなどのネットワークを介して接続された他のコンピュータから加工条件を取得してもよい。
【0062】
次に、ステップS4において、柄特定部104は、テクスチャ画像データにおいてプリント加工を施すピクセルを特定する。柄特定部104は、加工条件取得部103によって取得された加工位置情報に基づいて、プリント加工を施す加工用意匠図データ上の柄部分に対応するテクスチャ画像データ上のピクセルを特定する。
【0063】
次に、ステップS5において、浸透染料量算出部111は、柄特定部104によって柄部分が特定されたテクスチャ画像データのピクセル毎に、織物に染料が浸透する浸透染料量を算出する。なお、この浸透染料量算出処理の詳細については、図4〜6を用いて後述する。
【0064】
次に、ステップS6において、有効着色染料量算出部112は、浸透染料量算出部111によって算出された浸透染料量のうち、染料が織物に着色する有効着色染料量をピクセル毎に算出する。なお、この有効着色染料量算出処理の詳細については後述する。
【0065】
次に、ステップS7において、色決定部113は、オーバープリント加工を施した後の糸の色をピクセル毎に決定する。なお、この色決定処理の詳細については、図7を用いて後述する。
【0066】
次に、ステップS8において、糸情報設定部114は、色決定部113によって決定された糸の色をプリント色情報としてピクセル毎に設定する。すなわち、糸情報設定部114は、テクスチャ画像データ記憶部201に記憶されているテクスチャ画像データの各ピクセルに対応付けられているプリント色情報を、色決定部113によって決定された糸の色にそれぞれ設定する。
【0067】
このように、複数のピクセルに分割され、織物を構成する糸に関する糸情報をピクセル毎に対応付けたテクスチャ画像データが取得され、織物に施す柄を表す加工用意匠図データが取得され、取得された加工用意匠図データのうちの意匠加工を施す位置を少なくとも含み、意匠加工を施す際の加工条件が取得される。そして、取得された加工条件を用いて、加工用意匠図データの意匠加工を施す位置に対応するテクスチャ画像データの各ピクセルの糸情報が更新される。
【0068】
したがって、意匠加工を施す際の加工条件を用いて、加工用意匠図データの意匠加工を施す位置に対応するテクスチャ画像データの各ピクセルの糸情報が更新されるので、実際の意匠加工品の質感を擬似的に再現することができ、試作品を作成する時間及び費用を削減することができる。
【0069】
また、意匠加工には、版画を介して薬剤を織物に浸透させ、織物に柄を施すプリント加工が含まれ、糸情報には、織物の繊維密度を表す繊維密度情報が含まれ、加工条件には、版画の解像度を表す解像度情報と、プリント加工を施す際のスケージ圧を表すスケージ圧情報とが含まれる。そして、解像度情報とスケージ圧情報と繊維密度情報とに基づいて織物に薬剤が浸透する浸透薬剤量がピクセル毎に算出され、算出された浸透薬剤量に基づいて、加工用意匠図データの意匠加工を施す位置に対応するテクスチャ画像データの各ピクセルの糸情報が更新される。
【0070】
したがって、織物に薬剤が浸透する浸透薬剤量に基づいて、加工用意匠図データの意匠加工を施す位置に対応するテクスチャ画像データの各ピクセルの糸情報が更新されるので、どれだけの量の薬剤が織物に浸透するかを考慮して、プリント加工が施された実際の意匠加工品の質感を擬似的に再現することができる。
【0071】
さらに、プリント加工には、版画を介して染料を織物に浸透させるオーバープリント加工が含まれ、糸情報には、オーバープリント加工を施す前の糸の色を表す基本色情報と、オーバープリント加工を施した後の糸の色を表すプリント色情報とがさらに含まれ、加工条件には、染料の色を表す染料色情報がさらに含まれる。そして、解像度情報とスケージ圧情報と繊維密度情報とに基づいて、織物に染料が浸透する浸透染料量がピクセル毎に算出され、算出された浸透染料量と、繊維密度情報とに基づいて、染料が織物に着色する有効着色染料量がピクセル毎に算出される。その後、算出された有効着色染料量と、基本色情報と、染料色情報とに基づいて、オーバープリント加工を施した後の糸の色がピクセル毎に決定され、決定された糸の色がプリント色情報としてピクセル毎に設定される。
【0072】
したがって、織物に染料が浸透する浸透染料量がピクセル毎に算出され、染料が織物に着色する有効着色染料量がピクセル毎に算出され、オーバープリント加工を施した後の糸の色がピクセル毎に決定されるので、織物に染料が浸透する浸透染料量だけでなく、実際に染料が織物に着色する有効着色染料量をも考慮して、オーバープリント加工が施された実際の意匠加工品の質感を擬似的に再現することができる。
【0073】
ここで、図3のステップS5における浸透染料量算出処理について説明する。図4は、浸透染料量算出処理について説明するためのフローチャートである。
【0074】
まず、ステップS11において、浸透染料量算出部111は、解像度情報とスケージ圧情報とに基づいて、テクスチャ画像データを構成するピクセル毎に投下される染料の量をベース染料量として算出する。具体的に、ベース染料量は、下記の(1)式に基づいて算出される。
【0075】
ベース染料量=定数×解像度×(スケージ圧)・・・・(1)
上記(1)式に示すように、浸透染料量算出部111は、スケージ圧を二乗した値に解像度を乗算し、さらに定数を乗算することにより、ベース染料量を算出する。
【0076】
次に、ステップS12において、浸透染料量算出部111は、繊維密度情報に基づいて染料が浸透する浸透量をピクセル毎に算出する。具体的に、浸透量は、下記の(2)式に基づいて算出される。
【0077】
浸透量=(糸の無い空間の浸透係数×(1−繊維密度)+糸のある空間の浸透係数×繊維密度)×0.5・・・・(2)
上記(2)式において、糸の無い空間の浸透係数と、糸のある空間の浸透係数とは、織物の種類や糸の種類に応じて予め記憶されている。上記(2)式に示すように、浸透染料量算出部111は、1から繊維密度を減算した値に糸の無い空間の浸透係数を乗算した値と、繊維密度に糸のある空間の浸透係数を乗算した値とを加算し、さらに0.5を乗算することにより、浸透量を算出する。なお、繊維密度は、0から1までの値を有し、0が繊維がないことを表し、1が最も密度が高いことを表している。
【0078】
次に、ステップS13において、浸透染料量算出部111は、浸透染料量をピクセル毎に算出する。浸透染料量算出部111は、各ピクセルの浸透量を浸透染料量として算出する。ただし、浸透染料量算出部111は、浸透量がベース染料量を超える場合、浸透量ではなく、ベース染料量を浸透染料量として算出する。
【0079】
次に、ステップS14において、浸透染料量算出部111は、浸透染料量を総浸透染料量に加算する。次に、ステップS15において、浸透染料量算出部111は、ベース染料量から浸透染料量を減算し、繊維に浸透しきれなかった残留染料量を算出する。
【0080】
次に、ステップS16において、浸透染料量算出部111は、残留染料量を隣接するピクセルに均等に分散させる染料広がり処理を行う。具体的には、浸透染料量算出部111は、残留染料量が算出されたピクセルと、このピクセルに隣接する8つのピクセルとに残留染料量を均等に分散させる。
【0081】
次に、ステップS17において、浸透染料量算出部111は、染料広がり処理が行われた結果得られる各ピクセルの値をベース染料量とし、前回算出したベース染料量を更新する。
【0082】
次に、ステップS18において、浸透染料量算出部111は、全てのピクセルのベース染料量が0であるか否かを判断する。ここで、全てのピクセルのベース染料量が0であると判断された場合(ステップS18でYES)、浸透染料量算出部111は、ステップS20の処理へ移行する。
【0083】
一方、全てのピクセルのベース染料量が0でないと判断された場合(ステップS18でNO)、ステップS19において、浸透染料量算出部111は、浸透染料量算出処理が所定回数実行されたか否かを判断する。ここで、所定回数実行されていないと判断された場合(ステップS19でNO)、ステップS13の処理に戻り、浸透染料量算出部111は、浸透染料量をピクセル毎に算出する。なお、浸透染料量算出部111は、浸透染料量算出処理を実行した回数を計数するカウンタを備えている。カウンタは、ステップS11のベース染料量を算出する処理の前にカウント値を1に設定し、ステップS19で所定回数実行されていないと判断された場合にカウント値をインクリメントする。また、本実施の形態における所定回数は、例えば100回に設定されている。
【0084】
一方、所定回数実行されたと判断された場合(ステップS19でYES)又は全てのピクセルのベース染料量が0であると判断された場合(ステップS18でYES)、ステップS20において、浸透染料量算出部111は、総浸透染料量を確定させる。
【0085】
図5は、1回目及び2回目の浸透染料量算出処理について説明するための図であり、図6は、3回目及び4回目の浸透染料量算出処理について説明するための図である。図5及び図6において、3行4列の各升目は、テクスチャ画像データを構成するピクセルを表している。
【0086】
まず、浸透染料量算出部111は、各ピクセルのベース染料量を算出する。ベース染料量マップA1は、浸透染料量算出部111によって算出された各ピクセルのベース染料量を表している。図5に示すベース染料量マップA1では、2行2列目のピクセル及び2行3列目のピクセルのベース染料量を便宜的にともに10としている。
【0087】
次に、浸透染料量算出部111は、各ピクセルの浸透量を算出する。浸透量マップB1は、浸透染料量算出部111によって算出された各ピクセルの浸透量を表している。図5に示す浸透量マップB1では、3行3列目のピクセル及び3行4列目のピクセルの浸透量を便宜的にそれぞれ0とし、それ以外のピクセルの浸透量を便宜的にそれぞれ1としている。
【0088】
次に、浸透染料量算出部111は、各ピクセルの浸透染料量を算出する。浸透染料量マップC1は、浸透染料量算出部111によって算出された各ピクセルの浸透染料量を表している。図5に示す浸透染料量マップC1では、浸透量が浸透染料量として算出されるが、浸透量がベース染料量を超えているピクセルについては、全てベース染料量に変更されている。すなわち、2行2列目のピクセル及び2行3列目のピクセルの浸透量はそれぞれ1となり、それ以外のピクセルの浸透量はそれぞれ0となっている。
【0089】
次に、浸透染料量算出部111は、各ピクセルの浸透染料量を総浸透染料量に加算する。総浸透染料量マップD1は、各ピクセルの浸透染料量が総浸透染料量に加算された結果を表している。各ピクセルの最初の総浸透染料量は全て0である。したがって、図5に示す総浸透染料量マップD1では、浸透染料量マップC1に示す各ピクセルの浸透染料量がそれぞれ総浸透染料量に加算されており、2行2列目のピクセル及び2行3列目のピクセルの浸透量はそれぞれ1となり、それ以外のピクセルの浸透量はそれぞれ0となっている。
【0090】
次に、浸透染料量算出部111は、各ピクセルのベース染料量から浸透染料量を減算し、残留染料量を算出する。残留染料量マップE2は、各ピクセルのベース染料量から浸透染料量を減算した結果を表している。図5に示す残留染料量マップE2では、ベース染料量マップA1に示す各ピクセルのベース染料量から、浸透染料量マップC1に示す各ピクセルの浸透染料量が減算されており、2行2列目のピクセル及び2行3列目のピクセルの浸透量はそれぞれ9となり、それ以外のピクセルの浸透量はそれぞれ0となっている。
【0091】
次に、浸透染料量算出部111は、残留染料量が算出されたピクセルと、そのピクセルに隣接する8つのピクセルとに、残留染料量を均等に分散させ、ベース染料量を更新する。ベース染料量マップA2は、残留染料量が9つのピクセルに均等に分散された結果を表している。図5に示すベース染料量マップA2では、残留染料量マップE2に示す残留染料量が、自身を含む隣接する9つのピクセルに均等に分散されており、1行1列目、2行1列目、3行1列目、1行4列目、2行4列目及び3行4列目のピクセルのベース染料量がそれぞれ1となり、1行2列目、2行2列目、3行2列目、1行3列目、2行3列目及び3行3列目のピクセルのベース染料量がそれぞれ2となっている。
【0092】
このとき、全てのベース染料量が0でなく、かつ浸透染料量算出処理を行った回数が所定回数(例えば、100回)に達していないので、再度浸透染料量算出処理が行われる。2回目の浸透染料量算出処理における浸透量マップB2は、1回目の浸透染料量算出処理における浸透量マップB1と同じである。以降、1回目と同様に処理が行われ、浸透染料量マップC2に示す浸透染料量が算出され、総浸透染料量マップD2に示す総浸透染料量が算出される。そして、残留染料量マップE3に示す残留染料量が算出され、染料広がり処理によってベース染料量マップA3に示すベース染料量が算出される。
【0093】
このとき、全てのベース染料量が0でなく、かつ浸透染料量算出処理を行った回数が所定回数(例えば、100回)に達していないので、再度浸透染料量算出処理が行われる。3回目の浸透染料量算出処理における浸透量マップB3は、1回目の浸透染料量算出処理における浸透量マップB1と同じである。以降、1回目及び2回目と同様に処理が行われ、浸透染料量マップC3に示す浸透染料量が算出され、総浸透染料量マップD3に示す総浸透染料量が算出される。そして、残留染料量マップE4に示す残留染料量が算出される。その後、全てのベース染料量が0になるまで、あるいは浸透染料量算出処理を行った回数が所定回数に達するまで、浸透染料量算出処理が繰り返し行われる。
【0094】
このように、第1の処理において、解像度情報とスケージ圧情報とに基づいて、ピクセル毎に投下される染料の量がベース染料量として算出され、第2の処理において、繊維密度情報に基づいて染料が浸透する浸透染料量がピクセル毎に算出され、第3の処理において、浸透染料量が積算され、第4の処理において、ベース染料量から浸透染料量を減算した残留染料量を周囲に隣接するピクセルに均等に分散させてベース染料量が更新され、これらの処理が繰り返し実行される。
【0095】
したがって、領域毎の浸透染料量を算出するとともに、各ピクセルで浸透しきれなかった染料が隣接するピクセルに分散されるので、オーバープリント加工が施される部分と施されない部分との境界における染料のにじみを擬似的に再現することができ、よりリアル感のあるオーバープリント加工を擬似的に再現することができる。
【0096】
続いて、図3のステップS6における有効着色染料量算出処理について説明する。なお、有効着色染料量算出処理は、プリント加工の種類によって異なる。オーバープリント加工における有効着色染料量算出部112は、下記の(3)式に基づいて有効着色染料量を算出する。
【0097】
有効着色染料量=(0.9×繊維密度+0.1)×総浸透染料量×染料濃度・・・・(3)
上記(3)式における染料濃度は、本実施の形態では1に設定され、有効着色染料量に影響を及ぼさないが、染料の種類により総浸透染料量に対して染料濃度の設定が必要となる場合がある。その場合、染料濃度は、染料の種類に応じて設定される。
【0098】
続いて、図3のステップS7における色決定処理について説明する。図7は、オーバープリント加工の色決定処理について説明するためのフローチャートである。
【0099】
まず、ステップS21において、色決定部113は、オーバープリント加工を施す前の織物の色を表す基本色情報のRGB値をHSV(H:色相、S:彩度、V:明度)値に変換する。次に、ステップS22において、色決定部113は、染料の色を表す染料色情報のRGB値をHSV値に変換する。次に、ステップS23において、色決定部113は、基本色情報の明度値と、染料色情報の明度値とのうちの低い方の明度値を選択する。
【0100】
次に、ステップS24において、色決定部113は、染色後の仮RGB値を算出する。なお、染色後の仮RGB値は、下記の(4)式に基づいて算出される。
【0101】
染色後の仮RGB値=有効着色染料量×染料色情報のRGB値×基本色情報のRGB値+基本色情報のRGB値(1−有効着色染料量)・・・・(4)
次に、ステップS25において、色決定部113は、染色後の仮RGB値をHSV値に変換し、染色後の仮HSV値を算出する。次に、ステップS26において、色決定部113は、染色後の最終的な明度値を算出する。なお、染色後の最終明度値は、下記の(5)式に基づいて算出される。
【0102】
染色後の最終明度値=染色後の仮明度値(1−有効着色染料量)+低明度値×有効着色染料量・・・・(5)
上記(5)式において、低明度値とは、ステップS23で選択された、基本色情報の明度値と、染料色情報の明度値とのうちの低い方の明度値である。
【0103】
次に、ステップS27において、色決定部113は、ステップS25で算出した仮HSV値の明度値を、ステップS26で算出した染色後の最終明度値に変更し、変更した仮HSV値をRGB値に変換することにより、染色後のRGB値を算出する。そして、糸情報設定部114は、色決定部113によって算出された染色後のRGB値をプリント色情報としてテクスチャ画像データに設定する。
【0104】
このように、基本色情報に基づいて算出される織物の色の明度と、染料色情報に基づいて算出される染料の色の明度とのうちの低い方の明度と、有効着色染料量とに基づいて、オーバープリント加工を施した後の糸の色の明度が補正される。したがって、オーバープリント加工を施した後の糸の色を、より現実の意匠加工品に近づけることができる。
【0105】
図8は、テクスチャ画像データの一例を示す図である。図9は、加工用意匠図データの一例を示す図である。図10は、オーバープリント加工が施されたテクスチャ画像データの一例を示す図である。
【0106】
図8に示すように、本実施の形態では、表示装置6にテクスチャ画像データF1を表示することも可能である。図8では、表示画面のウインドウW1内にテクスチャ画像データF1が表示されている。図8に示すテクスチャ画像データF1は、糸が赤色に仮想的に染色された3次元織物構造を仮想カメラにより正面から撮影した画像である。このテクスチャ画像データF1を構成する各ピクセルに糸情報が対応付けられている。
【0107】
また、図9に示すように、本実施の形態では、表示装置6に加工用意匠図データT1を表示することも可能である。図9に示す加工用意匠図データT1は、意匠加工を行うべき領域が任意の色で塗り分けられている。初期設定時における加工用意匠図データT1の各領域の色は、任意の色が設定されており、ユーザが、意匠加工を施す領域及び色を指定することが可能となっている。図9の例では、意匠加工を施す円形状の柄部分M1が青色で表されている。
【0108】
さらに、図10に示すように、本実施の形態では、表示装置6にオーバープリント加工が仮想的に施されたテクスチャ画像データF2を表示することも可能である。図10では、表示画面のウインドウW2内にテクスチャ画像データF2が表示されている。図10に示すテクスチャ画像データF2は、図9に示す加工用意匠図データT1の柄部分M1を図8に示すテクスチャ画像データF1にオーバープリント加工した場合のシミュレーション結果を表している。図10において、オーバープリント加工が仮想的に施された柄部分M2は、オーバープリント加工を施す際に使用する染料と織物の染料とが混ざるため、織物の色(赤色)と染料の色(青色)とが混ざった色となっている。また、オーバープリント加工が仮想的に施された柄部分M2の境界は、オーバープリント加工を施す染料の一部と織物の染料とが混ざり、柄部分M2から織物の地部分に向けて徐々に色が変化し、ぼやけて表示される。
【0109】
(抜染プリント加工)
次に、抜染プリント加工について説明する。なお、抜染プリント加工を仮想的に施す意匠加工シミュレーション装置の構成は、図2に示す意匠加工シミュレーション装置の構成と同じであり、色決定部113の機能のみが異なるので、異なる機能のみについて説明する。また、抜染プリント加工で使用される糸情報及び加工条件は、オーバープリント加工と同じ糸情報及び加工条件が使用される。
【0110】
色決定部113は、基本色情報に基づいて算出される織物の色の彩度及び明度に所定の係数を乗算することにより、織物を脱色した際に残留する残留色を算出し、有効着色染料量と基本色情報と染料色情報と残留色とに基づいて、抜染プリント加工を施した後の糸の色をピクセル毎に決定する。なお、本実施の形態において、色決定部113が抜染プリント色決定手段の一例に相当する。
【0111】
次に、抜染プリント加工におけるプリント加工処理について説明する。抜染プリント加工におけるプリント加工処理は、図3のステップS6の有効着色染料量算出処理及びステップS7の色決定処理のみが異なるので、有効着色染料量算出処理及び色決定処理のみを説明する。
【0112】
まず、抜染プリント加工における有効着色染料量算出処理について説明する。有効着色染料量算出部112は、下記の(6)式に基づいて有効着色染料量を算出する。
【0113】
有効着色染料量=(0.4×繊維密度+0.6)×総浸透染料量×染料濃度×0.9・・・・(6)
上記(6)式における染料濃度は、本実施の形態では1に設定されるが、染料の種類により総浸透染料量に対して染料濃度の設定が必要となる場合がある。その場合、染料濃度は、染料の種類に応じて設定される。
【0114】
続いて、抜染プリント加工の色決定処理について説明する。図11は、抜染プリント加工の色決定処理について説明するためのフローチャートである。
【0115】
まず、ステップS31において、色決定部113は、抜染プリント加工を施す前の織物の色を表す基本色情報のRGB値をHSV値に変換する。次に、ステップS32において、色決定部113は、HSV値に変換した基本色情報の彩度値と明度値とに所定の係数を乗算し、残留色情報を算出する。抜染プリント加工では、織物の元の色を脱色した後、染料を加えて染色する。しかしながら、織物の色を完全に脱色することは困難であるため、織物に残留する染料が存在する。そこで、織物の元の色の彩度値及び明度値に所定の係数を乗算することにより、残留した染料の色を残留色情報として算出する。そして、この残留色情報と染料色情報とを混ぜ合わせることにより、抜染プリント加工を仮想的にシミュレーションする。なお、基本色情報の彩度値と明度値とに乗算する所定の係数は、脱色する際に用いる薬剤の種類に応じて設定してもよい。
【0116】
次に、ステップS33において、色決定部113は、算出した残留色情報のHSV値をRGB値に変換することにより、脱色後のRGB値を算出する。次に、ステップS34において、色決定部113は、有効着色染料量と染料色情報のRGB値と残留色情報のRGB値と基本色情報のRGB値とに基づいて、残留色情報と染料色情報とを混ぜ合わせた染色後のRGB値を算出する。なお、染色後のRGB値は、下記の(7)式に基づいて算出される。
【0117】
染色後のRGB値=有効着色染料量×染料色情報のRGB値×残留色情報のRGB値+基本色情報のRGB値(1−有効着色染料量)・・・・(7)
そして、糸情報設定部114は、色決定部113によって算出された染色後のRGB値をプリント色情報としてテクスチャ画像データに設定する。
【0118】
図12は、抜染プリント加工が施されたテクスチャ画像データの一例を示す図である。本実施の形態では、表示装置6に抜染プリント加工が仮想的に施されたテクスチャ画像データF3を表示することも可能である。図12では、表示画面のウインドウW3内にテクスチャ画像データF3が表示されている。図12に示すテクスチャ画像データF3は、図9に示す加工用意匠図データT1の柄部分M1を図8に示すテクスチャ画像データF1に抜染プリント加工した場合のシミュレーション結果を表している。図12において、抜染プリント加工が仮想的に施された柄部分M3は、織物の色(赤色)が脱色された後で染色されているので、染料の色(青色)となっている。また、抜染プリント加工が仮想的に施された柄部分M3の境界は、抜染プリント加工を施す染料の色と織物の染料の色とが混ざった色となっている。
【0119】
このように、プリント加工には、柄に応じて織物を脱色した後、染料を浸透させる抜染プリント加工が含まれ、糸情報には、抜染プリント加工を施す前の糸の色を表す基本色情報と、抜染プリント加工を施した後の糸の色を表すプリント色情報とがさらに含まれ、加工条件には、染料の色を表す染料色情報がさらに含まれる。そして、解像度情報とスケージ圧情報と繊維密度情報とに基づいて、織物に染料が浸透する浸透染料量がピクセル毎に算出され、算出された浸透染料量と、繊維密度情報とに基づいて、染料が織物に着色する有効着色染料量がピクセル毎に算出される。その後、基本色情報に基づいて算出される織物の色の彩度及び明度に所定の係数が乗算されることにより、織物を脱色した際に残留する残留色情報が算出される。有効着色染料量と基本色情報と染料色情報と残留色情報とに基づいて、抜染プリント加工を施した後の糸の色がピクセル毎に決定され、決定された糸の色がプリント色情報としてピクセル毎に設定される。
【0120】
したがって、織物を脱色した際に残留する残留色情報が算出され、この残留色情報を用いて、抜染プリント加工を施した後の糸の色がピクセル毎に決定されるので、織物を脱色した際に残留する残留色と、染料の色とを混合させた色を擬似的に再現することができ、よりリアル感のある抜染プリント加工を擬似的に再現することができる。
【0121】
(エッチングプリント加工)
次に、エッチングプリント加工について説明する。エッチングプリント加工では、柄に応じて織物の色を変化させるのではなく、柄に応じて織物の高さ(厚み)を変化させる。
【0122】
図13は、本実施の形態のエッチングプリント加工における意匠加工シミュレーション装置の機能を説明するためのブロック図である。なお、図1に示すオーバープリント加工における意匠加工シミュレーション装置と同じ構成については説明を省略し、異なる構成についてのみ説明する。また、エッチングプリント加工において、糸情報は、繊維密度情報、基本色情報、プリント色情報及び高さ値が使用され、加工条件は、解像度情報及びスケージ圧情報が使用される。
【0123】
図13に示す糸情報更新部105は、浸透染料量算出部111、有効着色染料量算出部112、高さ決定部115、繊維密度決定部116及び糸情報設定部117を備える。高さ決定部115は、有効着色染料量算出部112によって算出された有効着色染料量に所定の係数を乗算した値を高さ値から減算することにより、エッチングプリント加工を施した後の高さ値をピクセル毎に決定する。
【0124】
繊維密度決定部116は、繊維密度情報に所定の係数を乗算することにより、エッチングプリント加工を施した後の繊維密度情報をピクセル毎に決定する。糸情報設定部117は、高さ決定部115及び繊維密度決定部116によって決定された高さ値及び繊維密度情報をピクセル毎に設定する。
【0125】
なお、本実施の形態において、浸透染料量算出部111が浸透薬剤量算出手段の一例に相当し、有効着色染料量算出部112が有効定着薬剤量算出手段の一例に相当し、高さ決定部115が高さ決定手段の一例に相当し、繊維密度決定部116が繊維密度決定手段の一例に相当し、糸情報設定部117が糸情報設定手段の一例に相当する。
【0126】
次に、エッチングプリント加工におけるプリント加工処理について説明する。エッチングプリント加工におけるプリント加工処理は、図3のステップS6の有効着色染料量算出処理及びステップS7の色決定処理のみが異なる。エッチングプリント加工におけるプリント加工処理では、色決定処理ではなく、高さ及び繊維密度決定処理が行われる。
【0127】
まず、エッチングプリント加工における有効着色染料量算出処理について説明する。有効着色染料量算出部112は、下記の(8)式に基づいて有効着色染料量を算出する。
【0128】
有効着色染料量=総浸透染料量×染料濃度・・・・(8)
上記(8)式における染料濃度は、本実施の形態では1に設定されるが、染料の種類により総浸透染料量に対して染料濃度の設定が必要となる場合がある。その場合、染料濃度は、染料の種類に応じて設定される。
【0129】
続いて、エッチングプリント加工の高さ及び繊維密度決定処理について説明する。図14は、エッチングプリント加工の高さ及び繊維密度決定処理について説明するためのフローチャートである。
【0130】
まず、ステップS41において、高さ決定部115は、エッチングプリント加工後の織物の高さを算出する。このエッチングプリント加工後の織物の高さは、下記の(9)式に基づいて算出される。
【0131】
エッチングプリント加工後の高さ=エッチングプリント加工前の高さ−有効着色染料量×高さ変化係数・・・・(9)
上記の(9)式において、高さ変化係数は、所定の値が予め設定される。また、エッチングプリント加工の場合、染料により織物が着色するのではなく、薬剤により織物の表面が溶解する。そのため、浸透染料量算出部111は、解像度情報とスケージ圧情報と繊維密度情報とに基づいて、織物に薬剤が浸透する浸透染料量をピクセル毎に算出し、有効着色染料量算出部112は、浸透染料量算出部111によって算出された浸透染料量と、繊維密度情報とに基づいて、薬剤が織物に定着する量を有効着色染料量としてピクセル毎に算出する。
【0132】
次に、ステップS42において、繊維密度決定部116は、エッチングプリント加工後の繊維密度を算出する。このエッチングプリント加工後の繊維密度は、下記の(10)式に基づいて算出される。
【0133】
エッチングプリント加工後の繊維密度=エッチングプリント加工前の繊維密度×密度変化係数・・・・(10)
上記の(10)式において、密度変化係数は、所定の値が予め設定される。織物は、表層から地(下層)に向けて繊維密度が増す。そのため、エッチングプリント加工では、織物の高さを変化させるとともに、繊維密度も変化させる。
【0134】
そして、糸情報設定部117は、高さ決定部115及び繊維密度決定部116によって算出されたエッチングプリント加工後の高さ及び繊維密度を高さ値及び繊維密度情報としてテクスチャ画像データに設定する。
【0135】
図15は、エッチングプリント加工が施されたテクスチャ画像データの一例を示す図である。本実施の形態では、表示装置6にエッチングプリント加工が仮想的に施されたテクスチャ画像データF4を表示することも可能である。図15では、表示画面のウインドウW4内にテクスチャ画像データF4が表示されている。図15に示すテクスチャ画像データF4は、図9に示す加工用意匠図データT1の柄部分M1を図8に示すテクスチャ画像データF1にエッチングプリント加工した場合のシミュレーション結果を表している。図15において、エッチングプリント加工が仮想的に施された柄部分M4は、織物の色が変化するのではなく、高さが変化している。すなわち、柄部分M4の高さが、他の部分よりも低くなっており、柄部分M4の境界は、段差による陰影が付いている。
【0136】
このように、プリント加工には、柄に応じて織物の表面を溶解させるエッチングプリント加工が含まれ、糸情報には、織物の高さを表す高さ値がさらに含まれる。そして、解像度情報とスケージ圧情報と繊維密度情報とに基づいて、織物に薬剤が浸透する浸透薬剤量がピクセル毎に算出され、算出された浸透薬剤量と、繊維密度情報とに基づいて、薬剤が織物に定着する有効定着薬剤量がピクセル毎に算出される。その後、算出された有効定着薬剤量に所定の係数を乗算した値が高さ値から減算されることにより、エッチングプリント加工を施した後の高さ値がピクセル毎に決定される。また、繊維密度情報に所定の係数が乗算されることにより、エッチングプリント加工を施した後の繊維密度情報がピクセル毎に決定される。そして、決定された高さ値と繊維密度情報とがピクセル毎に設定される。
【0137】
したがって、エッチングプリント加工を施した後の高さ値がピクセル毎に決定され、エッチングプリント加工を施した後の繊維密度情報がピクセル毎に決定され、決定された高さ値と繊維密度情報とがピクセル毎に設定されるので、エッチングプリント加工により変化する糸の高さと繊維密度とを擬似的に再現することができ、よりリアル感のあるエッチングプリント加工を擬似的に再現することができる。
【0138】
(エンボス加工)
次に、エンボス加工について説明する。エンボス加工は、柄に応じて薬剤を織物に浸透させることにより柄部分の色を変化させたり高さを変化させたりするのではなく、柄に応じた型を織物に押し付けることにより、柄部分の高さを変化させる。
【0139】
図16は、本実施の形態のエンボス加工における意匠加工シミュレーション装置の機能を説明するためのブロック図である。なお、図1に示すオーバープリント加工における意匠加工シミュレーション装置と同じ構成については説明を省略し、異なる構成についてのみ説明する。エンボス加工において、糸情報は、高さ値、光沢情報及び基本色情報が使用される。
【0140】
加工用意匠図データ取得部102によって取得される加工用意匠図データは、エンボス加工を施す際に型押しする深さを表す深さ情報を含む。深さ情報は、織物の厚みに対する相対的な深さを、例えば256階調のグレースケール画像で表したデータであり、型押しする部分及び型押しする部分の深さを指定することが可能となっている。一般的に、織物の厚みは、1〜3mm程度である。グレースケール画像が白(RGB値が255,255,255)である場合、深さは0であり、織物は型押しされない。グレースケール画像が黒(RGB値が0,0,0)である場合、織物はその厚み分の深さで型押しされる。また、グレースケール画像が白と黒との中間の階調(RGB値が128,128,128)である場合、織物の厚みが1mmであるとすると、織物は0.5mmの深さだけ型押しされる。
【0141】
加工条件取得部103によって取得される加工条件は、エンボス加工を施す際に型押しする圧力を表す圧力情報を含む。
【0142】
糸情報更新部105は、高さ決定部118、光沢決定部119及び糸情報設定部120を備える。高さ決定部118は、深さ情報に基づいて、エンボス加工を施した後の高さ値をピクセル毎に決定する。光沢決定部119は、圧力情報に基づいて、エンボス加工を施した後の光沢情報(光沢値)をピクセル毎に決定する。糸情報設定部114は、高さ決定部118によって決定された高さ値と、光沢決定部119によって決定された光沢情報とをピクセル毎に設定する。
【0143】
なお、本実施の形態において、高さ決定部118が高さ決定手段の一例に相当し、光沢決定部119が光沢決定手段の一例に相当し、糸情報設定部120が糸情報設定手段の一例に相当する。
【0144】
次に、図16に示す意匠加工シミュレーション装置によるエンボス加工処理について説明する。図17は、意匠加工シミュレーション装置によるエンボス加工処理を説明するためのフローチャートである。
【0145】
まず、ステップS51において、テクスチャ画像データ取得部101は、ピクセル毎に糸情報が対応付けられているテクスチャ画像データを取得する。このテクスチャ画像データは、上述したプリント加工処理におけるテクスチャ画像データと同じデータである。テクスチャ画像データ取得部101は、取得したテクスチャ画像データをテクスチャ画像データ記憶部201に記憶する。
【0146】
次に、ステップS52において、加工用意匠図データ取得部102は、織物に施す柄を表す加工用意匠図データを取得する。加工用意匠図データは、エンボス加工時に型押しする位置及び深さをグレースケール画像で表したものであり、入力装置1を用いてユーザにより作成される。加工用意匠図データ取得部102は、取得した加工用意匠図データを加工用意匠図データ記憶部202に記憶する。なお、本実施の形態において加工用意匠図データ取得部102は、ユーザにより作成された加工用意匠図データを取得しているが、本発明は特にこれに限定されず、インターネットなどのネットワークを介して接続された他のコンピュータから加工用意匠図データを取得してもよい。
【0147】
次に、ステップS53において、加工条件取得部103は、エンボス加工を施す際の加工条件を取得する。加工条件取得部103は、入力装置1を用いてユーザにより入力された加工条件を取得する。すなわち、入力装置1は、エンボス加工を施す際に型押しする圧力を表す圧力情報のユーザによる入力を受け付け、加工条件取得部103は、圧力情報を入力装置1から取得する。加工条件取得部103は、取得した加工条件を加工条件記憶部203に記憶する。なお、本実施の形態において加工条件取得部103は、ユーザにより入力された加工条件を取得しているが、本発明は特にこれに限定されず、インターネットなどのネットワークを介して接続された他のコンピュータから加工条件を取得してもよい。
【0148】
次に、ステップS54において、高さ決定部118は、加工用意匠図データに基づいて、エンボス加工を施した後の高さ値をピクセル毎に決定する。高さ決定部118は、加工用意匠図データの左上端と、テクスチャ画像データの左上端とを一致させ、加工用意匠図データを構成する各ピクセルと、テクスチャ画像データを構成する各ピクセルとを対応付ける。そして、高さ決定部118は、加工用意匠図データの各ピクセルの織物の厚みに対する型押しする深さの比率を算出し、算出した比率をテクスチャ画像データの各ピクセルの高さ値に乗算することにより、エンボス加工後の高さ値をピクセル毎に決定する。
【0149】
例えば、加工用意匠図データが256階調のグレースケール画像であり、加工用意匠図データの或るピクセルのRGB値が(100,100,100)であるとする。この場合、織物の厚みに対する型押しする深さの比率は、100/256となり、この比率をテクスチャ画像データの対応するピクセルの高さ値に乗算することにより、エンボス加工後の高さ値を得ることが可能となる。
【0150】
なお、エンボス加工では、織物単体に加工する場合と、ウレタン生地を織物の裏地に貼り付けて加工する場合とがある。そのため、深さ情報は、織物の厚みに対する相対的な深さ、又は織物とウレタン生地との総厚みに対する相対的な深さとなる。
【0151】
次に、ステップS55において、高さ決定部118は、算出した各ピクセルの高さ値を隣接するピクセルに均等に分散させる高さ広がり処理を行う。具体的には、高さ決定部118は、エンボス加工後の高さ値が算出されたピクセルと、このピクセルに隣接する8つのピクセルとに高さ値を均等に分散させ、分散させた後の高さ値が、分散させる前の高さ値よりも高くなった場合、分散させた後の高さ値を分散させる前の高さ値に戻す。
【0152】
図18は、図17のステップS55における高さ広がり処理について説明するための図である。図18において、4行4列の各升目は、加工用意匠図データ又はテクスチャ画像データを構成するピクセルを表している。
【0153】
高さマップG1は、型押しする深さを表している。図18に示す高さマップG1では、2行2列目のピクセルの高さを便宜的に9としている。高さマップG2は、元の織物の高さを表している。図18に示す高さマップG2では、全てのピクセルの高さを0としている。
【0154】
高さマップG3は、型押しされた直後、すなわちステップS54の処理が行われた後の織物の高さを表している。図18に示す高さマップG3では、2行2列目のピクセルの高さが−9となっている。高さマップG4は、高さが9つのピクセルに均等に分散された結果を表している。図18に示す高さマップG4では、高さマップG3に示す高さが、自身を含む隣接する9つのピクセルに均等に分散されており、1行1列目、2行1列目、3行1列目、1行2列目、2行2列目、3行2列目、1行3列目、2行3列目及び3行3列目のピクセルの高さがそれぞれ−1となっている。
【0155】
高さマップG5は、均等分散後の織物の高さが型押し直後の織物の高さよりも高い場合に型押し直後の織物の高さに合わせるという制約条件が適用された後の織物の高さを表している。図18に示す高さマップG5では、2行2列目のピクセルが型押し直後の高さである−9に戻され、1行1列目、2行1列目、3行1列目、1行2列目、3行2列目、1行3列目、2行3列目及び3行3列目のピクセルの高さがそれぞれ−1となっている。
【0156】
図18では、高さ広がり処理を1回だけ行った場合を示しているので、型押しされた部分と、それに隣接する部分との段差は大きくなっているが、この高さ広がり処理が複数回数繰り返し行われることにより、型押しされた柄部分の境界が丸みを帯び、実際のエンボス加工された織物を再現することができる。
【0157】
図17に戻って、ステップS56において、高さ決定部118は、高さ広がり処理が所定回数実行されたか否かを判断する。ここで、所定回数実行されていないと判断された場合(ステップS56でNO)、ステップS55の処理に戻り、高さ決定部118は、各ピクセルに対して高さ広がり処理を行う。なお、高さ決定部118は、高さ広がり処理を実行した回数を計数するカウンタを備えている。カウンタは、ステップS54のエンボス加工後の高さを算出する処理の後にカウント値を1に設定し、ステップS56で所定回数実行されていないと判断された場合にカウント値をインクリメントする。また、本実施の形態における所定回数は、例えば100回に設定されている。
【0158】
一方、所定回数実行されたと判断された場合(ステップS56でYES)、ステップS57において、光沢決定部119は、圧力情報に基づいて、エンボス加工を施した後の光沢値をピクセル毎に決定する。すなわち、光沢決定部119は、取得された圧力の大きさに応じた係数を選択し、選択した係数を光沢値に乗算することにより、エンボス加工を施した後の光沢値を決定する。このとき、型押しする際の圧力が大きくなるほど、選択される係数は大きくなり、光沢値も大きくなる。
【0159】
次に、ステップS58において、糸情報設定部114は、高さ決定部118によって決定された高さ値と、光沢決定部119によって決定された光沢値とをピクセル毎に設定する。
【0160】
なお、エンボス加工が施されたテクスチャ画像データは、図15に示すエッチングプリント加工が施されたテクスチャ画像データF4とほぼ同様となる。エンボス加工が施されたテクスチャ画像データの柄部分は、エッチングプリント加工が施されたテクスチャ画像データF4の柄部分M4よりも光沢値が大きくなり、柄部分の境界が丸みを帯びる。
【0161】
このように、意匠加工には、型押しすることにより、織物の表面に凹凸を形成するエンボス加工が含まれ、糸情報には、織物の高さを表す高さ値と、織物を構成する糸の光沢感を表す光沢情報とが含まれ、加工条件には、エンボス加工を施す際に型押しする圧力を表す圧力情報が含まれ、加工用意匠図データには、エンボス加工を施す際に型押しする深さを表す深さ情報が含まれる。そして、深さ情報に基づいて、エンボス加工を施した後の高さ値がピクセル毎に決定され、圧力情報に基づいて、エンボス加工を施した後の光沢情報がピクセル毎に決定され、決定された高さ値と光沢情報とがピクセル毎に設定される。
【0162】
したがって、エンボス加工を施した後の高さ値がピクセル毎に決定され、エンボス加工を施した後の光沢情報がピクセル毎に決定され、決定された高さ値と光沢情報とがピクセル毎に設定されるので、エンボス加工により変化する糸の高さと光沢情報とを擬似的に再現することができ、よりリアル感のあるエンボス加工を擬似的に再現することができる。
【0163】
また、第1の処理において、エンボス加工を施した後の高さ値がピクセル毎に算出され、第2の処理において、算出した高さ値が周囲に隣接するピクセルに均等に分散され、第3の処理において、第2の処理で算出した高さ値が第1の処理で算出した高さ値よりも高い場合、第2の処理で算出した高さ値が第1の処理で算出した高さ値に戻され、これらの処理が繰り返し実行される。
【0164】
したがって、ピクセル毎に算出された高さ値が周囲に隣接するピクセルに均等に分散され、分散後の高さ値が、エンボス加工を施した後の高さ値よりも高い場合、分散後の高さ値は、エンボス加工を施した後の高さ値に戻されるので、エンボス加工が施される部分と施されない部分との境界における丸みを擬似的に再現することができ、よりリアル感のあるエンボス加工を擬似的に再現することができる。
【0165】
なお、本実施の形態における意匠加工シミュレーション装置は、オーバープリント加工、抜染プリント加工、エッチングプリント加工及びエンボス加工をそれぞれ別々に行っているが、本発明は特にこれに限定されず、オーバープリント加工、抜染プリント加工、エッチングプリント加工及びエンボス加工を複数組み合わせてもよい。この場合、意匠加工シミュレーション装置は、図2、図13及び図16に示す構成を全て備えることとなる。また、加工条件取得部103は、加工用意匠図データのうちの意匠加工を施す位置を表す位置情報とともに、オーバープリント加工、抜染プリント加工、エッチングプリント加工及びエンボス加工のうちのどの種類の意匠加工を施すかを表す加工方法情報を取得する。
【0166】
さらに、意匠加工シミュレーション装置は、同一の加工用意匠図データの柄毎にオーバープリント加工、抜染プリント加工、エッチングプリント加工及びエンボス加工のうちのどの種類の意匠加工を施すかを設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】本実施の形態における意匠加工シミュレーション装置のハードウエア構成を示す図である。
【図2】本実施の形態のオーバープリント加工における意匠加工シミュレーション装置の機能を説明するためのブロック図である。
【図3】意匠加工シミュレーション装置によるプリント加工処理を説明するためのフローチャートである。
【図4】浸透染料量算出処理について説明するためのフローチャートである。
【図5】1回目及び2回目の浸透染料量算出処理について説明するための図である。
【図6】3回目及び4回目の浸透染料量算出処理について説明するための図である。
【図7】オーバープリント加工の色決定処理について説明するためのフローチャートである。
【図8】テクスチャ画像データの一例を示す図である。
【図9】加工用意匠図データの一例を示す図である。
【図10】オーバープリント加工が施されたテクスチャ画像データの一例を示す図である。
【図11】、抜染プリント加工の色決定処理について説明するためのフローチャートである。
【図12】抜染プリント加工が施されたテクスチャ画像データの一例を示す図である。
【図13】本実施の形態のエッチングプリント加工における意匠加工シミュレーション装置の機能を説明するためのブロック図である。
【図14】エッチングプリント加工の高さ及び繊維密度決定処理について説明するためのフローチャートである。
【図15】エッチングプリント加工が施されたテクスチャ画像データの一例を示す図である。
【図16】本実施の形態のエンボス加工における意匠加工シミュレーション装置の機能を説明するためのブロック図である。
【図17】意匠加工シミュレーション装置によるエンボス加工処理を説明するためのフローチャートである。
【図18】図17のステップS55における高さ広がり処理について説明するための図である。
【符号の説明】
【0168】
1 入力装置
2 ROM
3 CPU
4 RAM
5 外部記憶装置
6 表示装置
7 記録媒体駆動装置
8 記録媒体
100 プログラム実行部
101 テクスチャ画像データ取得部
102 加工用意匠図データ取得部
103 加工条件取得部
104 柄特定部
105 糸情報更新部
106 表示制御部
111 浸透染料量算出部
112 有効着色染料量算出部
113 色決定部
114,117,120 糸情報設定部
115,118 高さ決定部
116 繊維密度決定部
119 光沢決定部
200 記憶部
201 テクスチャ画像データ記憶部
202 加工用意匠図データ記憶部
203 加工条件記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布素材に柄を施す意匠加工を仮想的にシミュレーションする意匠加工シミュレーションプログラムであって、
複数の領域に分割され、前記布素材を構成する糸に関する糸情報を前記領域毎に対応付けた2次元テクスチャ画像を取得する2次元テクスチャ画像取得手段と、
前記布素材に施す柄を表す柄画像を取得する柄画像取得手段と、
前記柄画像取得手段によって取得された前記柄画像のうちの前記意匠加工を施す位置を少なくとも含み、前記意匠加工を施す際の加工条件を、取得する加工条件取得手段と、
前記加工条件取得手段によって取得された前記加工条件を用いて、前記柄画像の前記意匠加工を施す位置に対応する前記2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報を更新する糸情報更新手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする意匠加工シミュレーションプログラム。
【請求項2】
前記意匠加工は、版画を介して薬剤を前記布素材に浸透させ、前記布素材に柄を施すプリント加工を含み、
前記糸情報は、前記布素材の繊維密度を表す繊維密度情報を含み、
前記加工条件は、前記版画の解像度を表す解像度情報と、前記プリント加工を施す際のスケージ圧を表すスケージ圧情報とを含み、
前記糸情報更新手段は、前記解像度情報と前記スケージ圧情報と前記繊維密度情報とに基づいて前記布素材に前記薬剤が浸透する浸透薬剤量を前記領域毎に算出し、算出した浸透薬剤量に基づいて、前記柄画像の前記意匠加工を施す位置に対応する前記2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報を更新することを特徴とする請求項1記載の意匠加工シミュレーションプログラム。
【請求項3】
前記プリント加工は、版画を介して染料を前記布素材に浸透させるオーバープリント加工を含み、
前記糸情報は、前記オーバープリント加工を施す前の糸の色を表す基本色情報と、前記オーバープリント加工を施した後の糸の色を表すプリント色情報とをさらに含み、
前記加工条件は、前記染料の色を表す染料色情報をさらに含み、
前記糸情報更新手段は、
前記解像度情報と前記スケージ圧情報と前記繊維密度情報とに基づいて、前記布素材に前記染料が浸透する浸透染料量を前記領域毎に算出する浸透染料量算出手段と、
前記浸透染料量算出手段によって算出された前記浸透染料量と、前記繊維密度情報とに基づいて、前記染料が前記布素材に着色する有効着色染料量を前記領域毎に算出する有効着色染料量算出手段と、
前記有効着色染料量算出手段によって算出された前記有効着色染料量と、前記基本色情報と、前記染料色情報とに基づいて、前記オーバープリント加工を施した後の糸の色を前記領域毎に決定するオーバープリント色決定手段と、
前記オーバープリント色決定手段によって決定された糸の色をプリント色情報として前記領域毎に設定する糸情報設定手段とを含むことを特徴とする請求項2記載の意匠加工シミュレーションプログラム。
【請求項4】
前記浸透染料量算出手段は、前記解像度情報と前記スケージ圧情報とに基づいて、前記領域毎に投下される染料の量を基本染料量として算出する第1の処理と、前記繊維密度情報に基づいて染料が浸透する浸透染料量を前記領域毎に算出する第2の処理と、前記浸透染料量を積算する第3の処理と、前記基本染料量から前記浸透染料量を減算した残留染料量を周囲に隣接する領域に均等に分散させて前記基本染料量を更新する第4の処理とを繰り返し実行することを特徴とする請求項3記載の意匠加工シミュレーションプログラム。
【請求項5】
前記オーバープリント色決定手段は、前記基本色情報に基づいて算出される前記布素材の色の明度と、前記染料色情報に基づいて算出される前記染料の色の明度とのうちの低い方の明度と、前記有効着色染料量とに基づいて、オーバープリント加工を施した後の糸の色の明度を補正することを特徴とする請求項3記載の意匠加工シミュレーションプログラム。
【請求項6】
前記プリント加工は、柄に応じて前記布素材を脱色した後、染料を浸透させる抜染プリント加工を含み、
前記糸情報は、前記抜染プリント加工を施す前の糸の色を表す基本色情報と、前記抜染プリント加工を施した後の糸の色を表すプリント色情報とをさらに含み、
前記加工条件は、前記染料の色を表す染料色情報をさらに含み、
前記糸情報更新手段は、
前記解像度情報と前記スケージ圧情報と前記繊維密度情報とに基づいて、前記布素材に前記染料が浸透する浸透染料量を前記領域毎に算出する浸透染料量算出手段と、
前記浸透染料量算出手段によって算出された前記浸透染料量と、前記繊維密度情報とに基づいて、前記染料が前記布素材に着色する有効着色染料量を前記領域毎に算出する有効着色染料量算出手段と、
前記基本色情報に基づいて算出される前記布素材の色の彩度及び明度に所定の係数を乗算することにより、前記布素材を脱色した際に残留する残留色情報を算出し、前記有効着色染料量と前記基本色情報と前記染料色情報と前記残留色情報とに基づいて、前記抜染プリント加工を施した後の糸の色を前記領域毎に決定する抜染プリント色決定手段と、
前記抜染プリント色決定手段によって決定された糸の色をプリント色情報として前記領域毎に設定する糸情報設定手段とを含むことを特徴とする請求項2記載の意匠加工シミュレーションプログラム。
【請求項7】
前記プリント加工は、柄に応じて前記布素材の表面を溶解させるエッチングプリント加工を含み、
前記糸情報は、布素材の高さを表す高さ値をさらに含み、
前記糸情報更新手段は、
前記解像度情報と前記スケージ圧情報と前記繊維密度情報とに基づいて、前記布素材に前記薬剤が浸透する浸透薬剤量を前記領域毎に算出する浸透薬剤量算出手段と、
前記浸透薬剤量算出手段によって算出された前記浸透薬剤量と、前記繊維密度情報とに基づいて、前記薬剤が前記布素材に定着する有効定着薬剤量を前記領域毎に算出する有効定着薬剤量算出手段と、
前記有効定着薬剤量算出手段によって算出された前記有効定着薬剤量に所定の係数を乗算した値を前記高さ値から減算することにより、前記エッチングプリント加工を施した後の前記高さ値を前記領域毎に決定する高さ決定手段と、
前記繊維密度情報に所定の係数を乗算することにより、前記エッチングプリント加工を施した後の前記繊維密度情報を前記領域毎に決定する繊維密度決定手段と、
前記高さ決定手段によって決定された前記高さ値と、前記繊維密度決定手段によって決定された前記繊維密度情報とを前記領域毎に設定する糸情報設定手段とを含むことを特徴とする請求項2記載の意匠加工シミュレーションプログラム。
【請求項8】
前記意匠加工は、型押しすることにより、前記布素材の表面に凹凸を形成するエンボス加工を含み、
前記糸情報は、布素材の高さを表す高さ値と、前記布素材を構成する糸の光沢感を表す光沢情報とを含み、
前記加工条件は、前記エンボス加工を施す際に型押しする圧力を表す圧力情報を含み、
前記柄画像は、前記エンボス加工を施す際に型押しする深さを表す深さ情報を含み、
前記糸情報更新手段は、
前記深さ情報に基づいて、前記エンボス加工を施した後の前記高さ値を前記領域毎に決定する高さ決定手段と、
前記圧力情報に基づいて、前記エンボス加工を施した後の前記光沢情報を前記領域毎に決定する光沢決定手段と、
前記高さ決定手段によって決定された前記高さ値と、前記光沢決定手段によって決定された前記光沢情報とを前記領域毎に設定する糸情報設定手段とを含むことを特徴とする請求項1記載の意匠加工シミュレーションプログラム。
【請求項9】
前記高さ決定手段は、前記エンボス加工を施した後の前記高さ値を前記領域毎に算出する第1の処理と、算出した高さ値を周囲に隣接する領域に均等に分散させる第2の処理と、前記第2の処理で算出した高さ値が前記第1の処理で算出した高さ値よりも高い場合、前記第2の処理で算出した高さ値を前記第1の処理で算出した高さ値に戻す第3の処理とを繰り返し実行することを特徴とする請求項8記載の意匠加工シミュレーションプログラム。
【請求項10】
布素材に柄を施す意匠加工を仮想的にシミュレーションする意匠加工シミュレーション方法であって、
複数の領域に分割され、前記布素材を構成する糸に関する糸情報を前記領域毎に対応付けた2次元テクスチャ画像を取得する2次元テクスチャ画像取得ステップと、
前記布素材に施す柄を表す柄画像を取得する柄画像取得ステップと、
前記柄画像取得ステップにおいて取得された前記柄画像のうちの前記意匠加工を施す位置を少なくとも含み、前記意匠加工を施す際の加工条件を、取得する加工条件取得ステップと、
前記加工条件取得ステップにおいて取得された前記加工条件を用いて、前記柄画像の前記意匠加工を施す位置に対応する前記2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報を更新する糸情報更新ステップとを含むことを特徴とする意匠加工シミュレーション方法。
【請求項11】
布素材に柄を施す意匠加工を仮想的にシミュレーションする意匠加工シミュレーション装置であって、
複数の領域に分割され、前記布素材を構成する糸に関する糸情報を前記領域毎に対応付けた2次元テクスチャ画像を取得する2次元テクスチャ画像取得部と、
前記布素材に施す柄を表す柄画像を取得する柄画像取得部と、
前記柄画像取得手段によって取得された前記柄画像のうちの前記意匠加工を施す位置を少なくとも含み、前記意匠加工を施す際の加工条件を、取得する加工条件取得部と、
前記加工条件取得部によって取得された前記加工条件を用いて、前記柄画像の前記意匠加工を施す位置に対応する前記2次元テクスチャ画像の各領域の糸情報を更新する糸情報更新部とを備えることを特徴とする意匠加工シミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−146247(P2008−146247A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331018(P2006−331018)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(501260510)デジタルファッション株式会社 (13)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】