説明

意匠糸、織物、意匠糸の製造方法

【課題】かさ高性に富み、織物とした際に軽量で、張りのある生地とすることができる意匠糸を提供すること。
【解決手段】給糸部11に設置した無撚のロービング3’をドラフト部12にてドラフトした後、同ロービング3’に対して加撚体30による加撚−解撚の仮撚り加工を行って意匠糸1を製造する方法であって、ロービング3’に対する加撚時には芯糸2を加撚体30の回転速度と同速度で回転させながらロービング3’に沿わせ、続けて芯糸2が沿えられたロービング3’に対して解撚を行う。これにより得られる意匠糸1は、加撚された芯糸2の周囲に無撚の仮撚り加工された浮き糸が芯糸2の加撚方向と同一方向に撚り合わされることとなりかさ高な意匠糸1となる。この意匠糸1を使用して芯地を製造した場合でも軽量で通気性に優れた生地ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に洋服用芯地に用いられる意匠糸、その意匠糸を使用した織物及び意匠糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洋服用芯地は洋服、特に上着に対して適度な張りを付与するために使用されている。このうち、洋服に張りを付与するためには芯地に強度が必要となってしまい生地の重量が重くなってしまう。また、張りを出すためには織物の目を詰めた状態で成形することも考えられるが、生地の通気性が悪くなるという問題点もある。これらは洋服としたときに着用感の悪さ、保守の難しさという形で現れることとなる。従来、張りの機能に優れ、かつ軽量な洋服用芯地として特許文献1に示すものがある。
【特許文献1】特開昭58−46172号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1に記載の洋服用芯地は撚糸である下糸と原糸とを合糸して製造した緯糸を用いて織物生地とした後に原糸を溶解させて芯地としている。このため、得られた糸(下糸)は、原糸が引き揃えられた状態となることにより軽量にはなるものの、原糸のみが引き揃えられた状態では、糸のかさ高性を得ることは困難であり、この点において生地の軽量性や通気性を満足させるものではない。
【0004】
そこで、本発明の目的は、上記事情に鑑み、かさ高性に富む糸であって、織物とした際に軽量で張りこしのある生地とすることができる意匠糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、芯糸の周囲に仮撚り加工された浮き糸が撚り合わせさてなる意匠糸であって、前記浮き糸は無撚糸又は甘撚り糸であることを特徴とする意匠糸である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、加撚された芯糸の周囲に、無撚又は甘撚りの仮撚り加工された浮き糸が芯糸の加撚方向と同一方向に撚り合わされていることを特徴とする意匠糸である。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の意匠糸を経糸又は緯糸の少なくとも一方に使用した織物であって、少なくとも緯糸に使用する前記意匠糸の浮き糸に獣毛が含有されていることを特徴とする織物である。
【0008】
請求項4に記載の発明は、無撚又は甘撚りのロービングをドラフトした後、同ロービングに対して加撚体の回転による加撚−解撚の仮撚り加工を行う意匠糸の製造方法であって、前記ロービングに対する加撚時に芯糸を前記加撚体の回転速度と同速度で回転させながらロービングに沿わせ、芯糸が沿えられたロービングに対して解撚を行うことを特徴とする意匠糸の製造方法である。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記芯糸はロービングの加撚時には芯糸自身に撚りは付与されず、ロービングの解撚に伴って芯糸に撚りが付与されることを特徴とする請求項4に記載の意匠糸の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の意匠糸によれば、かさ高性に富む糸となり、織物とした際に軽量で張りこしのある生地とすることができる。また、本発明の織物によれば軽量で張りこしのある生地となる。さらに、本発明の意匠糸の製造方法によれば、かさ高性に富み、織物とした際に軽量で張りこしのある生地となる意匠糸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した意匠糸、その製造方法及び意匠糸を使用した織物の一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。
図1は、本実施形態に係る意匠糸1の拡大模式図である。本実施形態の意匠糸1は、芯糸2と浮き糸3とから構成されており、芯糸2の周囲に浮き糸3が螺旋状に撚り合わされた形状をなしている。芯糸2は、図示を略しているが芯糸2自体に撚り(S撚り)が掛かっている。芯糸2として使用する繊維には特に制限はなく、紡績糸や化学繊維フィラメントを使用することができる。なお、紡績糸を芯糸2として使用する場合には、予めS撚りが掛かった糸を使用する必要がある。Z撚りがかかった糸を使用すると仮撚り加工によりZ撚りが解撚されて強度が極端に低下するからである。また、化学繊維フィラメントの場合は特に制限はなく、モノフィラメント、マルチフィラメントのいずれでも使用することができるが、芯糸2としての強度の点からナイロン、ポリエステル等の合成繊維が好ましい。
【0012】
図1に示すように、芯糸2の周囲には浮き糸3が撚り合わされている。この浮き糸3は芯糸2に対して芯糸2の撚り方向(S撚り)と同一の方向に撚り合わされている。また、図1に示す浮き糸3は無撚状であって仮撚り加工により形成されたクリンプ4を有しており、このクリンプ4によって浮き糸3は芯糸2に対して部分的に浮いた状態を有しながら撚り合わされている。
【0013】
浮き糸3として使用する糸は、原糸の状態では無撚り又は甘撚りのロービング3’が好ましい。したがって、浮き糸3として使用することができるものは、原糸として無撚り又は甘撚りのロービング3’の形態をとり得るものであれば特に制限はない。綿等の植物繊維や羊毛、獣毛(グレーウール)等の動物繊維に代表される天然繊維、レーヨン等の再生繊維、半合成繊維、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維を使用することができ、これら各種の繊維を混合して浮き糸3の原糸とすることができる。特に、芯地として使用する場合には張りを出したい方向に延びる糸に獣毛(グレーウール)を含有させれば強度が向上して芯地により張りこしが付与される。再生繊維、半合成繊維、合成繊維の各繊維を使用する場合にはフィラメントではなく短く切断したステープルの状態で使用する必要がある。
【0014】
また、浮き糸3の原糸となるロービング3’の製造にあたっては意匠糸1となった状態における浮き糸3の太さ(メートル番手、以下単に「番手」という。)と製造工程におけるドラフト比率とに基づいてロービング3’の太さを決定すればよい。なお、ロービング3’は加工段階で芯糸2と撚り合わされて浮き糸3になるものであるから製造段階のある点においてその名称はロービング3’から浮き糸3へと変化する。しかし、用語の連続性を確保するため製造方法・製造工程を説明する場合には主としてロービング3’の語を使用し、芯糸2と撚り合わさった状態でも便宜上ロービング3’という用語を用いる場合がある。一方、意匠糸1を構成する要素としての観点から説明する場合には主として浮き糸3と言う表現を用いる。
【0015】
次に、意匠糸1の製造装置について説明する。
図2は、意匠糸製造装置(以下、端に「製造装置」という。)の概要図である。製造装置10は、主として、給糸部11、ドラフト部12、仮撚り部13、及び巻き取り部14から構成されている。なお、製造装置10について方向を説明する際には相対的に給糸部11側を上流側、巻き取り部14側を下流側という。
【0016】
給糸部11は、意匠糸1のうち浮き糸3となるロービング3’をドラフト部12に供給するためのものであり、ロービング3’が巻き取られたボビン21が回転自在に設置可能となっている。ロービング3’がドラフト部12へ送り込まれるに伴ってボビン21が回転し、ガイドローラ22を介してロービング3’を連続してドラフト部12へと送り出し可能となっている。
【0017】
また、給糸部11の下流に配置されたドラフト部12は、ロービング3’にドラフトを施す箇所であり、ドラフト部12は上流側から順にバックローラ23、ミドルローラ24及びフロントローラ25を備えている。それぞれのローラは対向配置された2つのローラ体を一組として構成され、各2つのローラ体はその対向部分が所定の圧力で当接されており、給糸部11から送られてきたロービング3’をローラ体間で挟着することができる。各ローラ体は図示しないモータ等の駆動手段によって図2中矢印に示す方向に回転駆動する。
【0018】
各ローラの回転時における表面速度はそれぞれ異なっており、3つのローラのうちバックローラ23の表面速度が最も遅く、フロントローラ25の表面速度が最も速くなるように設定されている。バックローラ23とミドルローラ24、及びミドルローラ24とフロントローラ25の表面速度の差を利用してロービング3’を引き伸ばすものである。また、ミドルローラ24の各ローラ体はその周囲がゴム製の無端状ベルト26で覆われて無限軌道状に構成されており、ミドルローラ24の回転に伴って無端状ベルト26が回転することによってよりロービング3’の挟着を高めている。
【0019】
仮撚り部13は、中空スピンドル27及び中空スピンドル27の下流に配置された送り出しローラ28とから構成される。中空スピンドル27は内部が中空の筒状に形成され、図示しないモータ等の駆動手段によって上流側から見て時計回りに回転可能となっている。中空スピンドル27の外側には芯糸2を巻き付けたボビン29を装着することができ、ボビン29は中空スピンドル27の回転に伴って一体回転することとなる。中空スピンドル27はその下端に加撚体であるV字状のスピナー30を備えており(図3)、スピナー30は中空スピンドル27に固定されて中空スピンドル27と一体回転する。スピナー30に対する糸の経路は図3に示すように、糸がスピナー30の裏側から入りスピナー30の前を回り裏から出て行く向きにおいて糸が左側から入って右側から出て行くよう、すなわちスピナー30に対して糸がS撚りとなるように配置する。
【0020】
これらの構成からなる仮撚り部13は、ドラフト部12の末端となるフロントローラ25出口からスピナー30までが糸に撚りを加える加撚部13aとなり、スピナー30から送り出しローラ28までが加撚部13aにて加えられた撚りを元に戻す解撚部13bとなっている。なお、図3では、スピナー30より上流側が加撚部13a、スピナー30よりも下流側が解撚部13bであることを強調した図としている。すなわち、スピナー30に糸が巻き付いている部分を中心として、上流の加撚部13aではロービング3’が加撚され、そのロービング3’に沿って芯糸2が平行に配置されている状態を示し、下流の解撚部13bでは芯糸2に対して解撚されたロービング3’が螺旋状に巻き付いて撚り合わせられている状態を示している。
【0021】
送り出しローラ28は中空スピンドル27から一定距離離間した下流側に配置されており、対向して配置された2つのローラ体を一組として構成されている。2つのローラ体はその対向部分が所定の圧力で当接されており、ローラ体間を通る糸を挟着することができる。送り出しローラ28は図示しない駆動手段により一定速度で回転し、仮撚り加工が施された意匠糸1を一定速度で送り出す。送り出しローラ28の下流側にはガイドローラ31と巻き取りボビン32を装着可能な巻き取りドラム(図示略)を備えた巻き取り部14が設置されており、仮撚り部13から送られてきた意匠糸1を巻き取りボビン32に巻き取る。
【0022】
続けて、上記意匠糸1の製造装置を使用した意匠糸1の製造方法について説明する。
なお、予め給糸部11には浮き糸3の原糸となるロービング3’が巻き付けられたボビン21が、また、中空スピンドル27には芯糸2が巻き付けられたボビン29が装着されているものとする。また、特に説明がない場合でも浮き糸3となるロービング3’は給糸部11から巻き取り部14へと至るまで連続して走行しているものとする。
【0023】
給糸部11のボビン21から引き出されたロービング3’は、ガイドローラ22を経由してドラフト部12へと送られていく。ドラフト部12に到達したロービング3’は、まずバックローラ23を構成する一対のローラ体の間に挿入され、回転駆動するローラ体の回転力によって更に下流へと送られる。この下流側には同じく一対のローラ体を備えたミドルローラ24が配置されており、ロービング3’はこのローラ体の間に挿入されるが、ミドルローラ24はバックローラ23よりも速い表面速度で回転している。このため、ロービング3’はミドルローラ24とバックローラ23との表面速度の差により両ローラ間で引き伸ばされて細くなる。ミドルローラ24を抜けたロービング3’はさらに下流側のフロントローラ25に送られ、その一対のローラ体の間に挿入される。このフロントローラ25はミドルローラ24よりも更に速い表面速度で回転しているため、ロービング3’はフロントローラ25とミドルローラ24との表面速度差により更に引き伸ばされ細くなり、所望の太さのロービング3’が形成される。なお、このドラフト部12におけるロービング3’の延伸率は10〜30倍の範囲が好ましい。
【0024】
ドラフトが施されて細くなったロービング3’は、続けて仮撚り部13の加撚部13aに送られて仮撚り加工が施される。中空スピンドル27の入り口から中空の内部へと送られたロービング3’は、上流側がフロントローラ25に固定され、下流側は中空スピンドル27に固定されたスピナー30に掛け回されている。中空スピンドル27は上流側から見て時計回りに回転しているため、中空スピンドル27一回転に対してロービング3’に一回のZ撚りが掛けられる。この加撚に合わせて、中空スピンドル27と一体回転するボビン29から引き出された芯糸2が中空スピンドル27の入り口から中空の内部へと送られる。芯糸2は中空スピンドル27及びスピナーの回転速度と同速度で回転しているため、ロービング3’に巻き付くことなく平行に沿うように配置されることとなる。
【0025】
したがって、仮撚り部13の加撚部13aではロービング3’自体に加撚が加えられるとともに、ロービング3’に沿って平行に引き揃えられた状態で芯糸2が配置されることとなる。なお、芯糸2は中空スピンドル27とともに回転しながらボビン29から引き出されてロービング3’に配置されるため、加撚部13aでは芯糸2それ自体に撚りは掛からない状態でロービング3’に沿うこととなる。
【0026】
そして、ロービング3’がスピナー30を通過した後には解撚部13bにおいて、スピナー30と送り出しローラ28との間でロービング3’に上記と逆方向の撚り(S撚り)が掛けられ、加撚部13aでロービング3’に対して掛けられた撚りと相殺されてロービング3’に仮撚り加工が施された状態となる。一方、ロービング3’に沿って平行に配置された芯糸2は加撚部13aでは芯糸2自体に撚りは掛けられていないものの、解撚部13bではロービング3’と同様にS撚りが掛けられることとなる。このため、仮撚り部13では芯糸2に掛けられたS撚りに伴うねじれの分、芯糸2はその長さが縮むこととなる。他方、ロービング3’は仮撚り加工によりクリンプ4が形成されており、芯糸2に対して浮いた状態で螺旋状に巻き付けられた浮き糸3となり、意匠糸1が形成される。意匠糸1はそのまま巻き取り部14へと送られて巻き取りボビン32に巻き取られる。
【0027】
実施例
以下の条件で製造した意匠糸を経糸41及び緯糸42に使用して織物生地40を作成した。
【0028】
経糸41に用いる意匠糸1には、芯糸2としてナイロンモノフィラメント(50デニール)を使用した。一方、浮き糸3として、ウール30質量%、レーヨンステープル45質量%、ポリエステルステープル25質量%の割合で混合した無撚りのロービング3’を作成した。このロービング3’を所定の太さに調整し原糸とし、製造装置10の給糸部11に設置した。また、芯糸2を中空スピンドル27に設置した。製造工程では、まず、浮き糸3をドラフト部12で15倍に延伸させて細く引き伸ばした状態として仮撚り部13へと送り、仮撚り部13では浮き糸3の1メートル当たりの送り量に対して450回の割合で中空スピンドル27を回転させて加撚−解撚を施す仮撚り加工を行い、巻き取り部14にて巻き取った。これらの工程により製造された意匠糸1は20番手(メートル番手、以下同様)の太さであった。
【0029】
一方、緯糸42には、芯糸2としてナイロンモノフィラメント(50デニール)を使用した。一方、浮き糸3として、獣毛45質量%、ウール30質量%、ポリエステルステープル25質量%の割合で混合した無撚りのロービング3’を作成した。これら芯糸2及びロービング3’を前記した経糸41と同様の方法でドラフト、仮撚り加工を行って意匠糸1を製造し、巻き取り部14にて巻き取った。なお、仮撚り部13では浮き糸3の1メートル当たりの送り量に対して420回の割合で加撚−解撚を施す仮撚り加工を行った。これにより製造された意匠糸1は16番手であった。
【0030】
上記の方法によりそれぞれ製造した経糸41及び緯糸42を使用して織物生地40を製造した。織物生地40の経密度は22本/インチ、緯密度は25本/インチとし、レピア式織機により平織の組織を製造した。これにより織物生地40の拡大模式図を図4に示す。格子状に延びる経糸41と緯糸42に使用されている意匠糸1は、それぞれ芯糸2を中心としてその周囲に螺旋状に巻き付けられた浮き糸3を備えている。また、浮き糸3にはクリンプ4が形成されており、かつそのクリンプ4はランダムな方向を向いているため織物生地40には多くの空隙Sが形成されており、軽量かつ通気性に優れ、張りのある生地となった。
【0031】
上記実施形態の意匠糸1、その製造方法及び意匠糸1を用いた織物生地40によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態の意匠糸1は、芯糸2の周囲に仮撚り加工された浮き糸3が撚り合わされた形態を有している。このため意匠糸1は、芯糸2に対してその周囲にクリンプ4を有する浮き糸3が螺旋状に巻き付けられた形態を有しており、かさ高な意匠糸1を得ることができる。
【0032】
(2)浮き糸3に形成されたクリンプ4は芯糸2の周方向にランダムな方向に形成されている。したがって、意匠糸1のかさ高性はランダムな方向に得られる。
(3)芯糸2は仮撚り加工時の解撚部13bにて加撚されることによりねじれて長さが短くなる。したがって、長さが短くなった芯糸2に撚り合わせられた浮き糸3はより芯糸2からの浮きが強くなり、浮き糸3のかさ高性が強調される。
【0033】
(4)意匠糸1にて浮き糸3として使用されている糸は無撚である。したがって、浮き糸3の繊維の毛先が平行に揃っており、繊維の毛先が外側に向かって突出しない。このため、この意匠糸1を使用して芯地を形成した場合でも表地との引っ掛かりが少なくなる。
【0034】
(5)本実施形態の意匠糸1を使用して製造した織物生地40は、経糸41間及び緯糸42間に浮き糸3のクリンプ4による大きな空隙Sが発生する。したがって、軽量な生地が形成されるとともに生地の通気性が良好なものとなる。
【0035】
(6)また、本実施形態の意匠糸1を使用して製造した織物生地40は軽量な生地になるとともに張りこしのある生地となる。
(7)浮き糸3として強度的に優れた獣毛を使用した意匠糸1を緯糸42に使用して織物生地40を製造している。この織物生地40を芯地とした場合により張りこしのある芯地となる。
【0036】
(8)製造装置10による加工工程を終了した段階で意匠糸1が完成しており、製造装置10による加工後の工程(織物製造後の原糸の溶解工程等)が不要であるため、意匠糸1の製造が容易となる。
【0037】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 上記実施形態では中空スピンドル27が上流側から見て時計回りに回転していることを前提として芯糸2や浮き糸3に施される或いは予め加えられるべき撚りの方向を説明した。中空スピンドル27の回転方向が実施形態と逆方向の反時計回りとする場合には、上記実施形態にて説明した意匠糸1、芯糸2、浮き糸3、及びロービング3’に掛けられる撚りはいずれも逆向きの撚りとなる。また、スピナー30に対する糸のかけ方(図3)も逆となる。
【0038】
○ 上記実施形態の意匠糸1では浮き糸3として無撚の糸を使用したが甘撚り糸でもよい。撚りを甘く掛けておくと浮き糸3からの繊維の毛羽立ちは少なく、芯地としたときも表地との引っ掛かりが少なくなる。
【0039】
○ 上記意匠糸1を使用して織物生地40を製造したが、織物以外に編物用の糸として使用することもできる。この場合でも浮き糸3のクリンプ4によるかさ高性を発揮した生地とすることができる。
【0040】
○ 浮き糸3として使用する糸の組成は上記実施形態に限られず、芯地の機能や使用する表地の種類等にあわせて適宜変更することができる。
○ 仮撚り部13又は巻き取り部14での加工の際に芯糸2に熱収縮糸を使用して熱セットを施してもよい。これにより浮き糸3に形成されるクリンプ4はより強調されたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本実施形態の意匠糸の拡大模式図
【図2】本実施形態の意匠糸の製造装置の概要図
【図3】本実施形態のスピナー部分の拡大図
【図4】本実施形態の意匠糸を用いた織物生地の拡大模式図
【符号の説明】
【0042】
1・・意匠糸、2・・芯糸、3・・浮き糸、3’・・ロービング(粗糸)、4・・クリンプ、10・・製造装置、11・・給糸部、12・・ドラフト部、13・・仮撚り部、13a・・加撚部、13b・・解撚部、14・・巻き取り部、27・・中空スピンドル、30・・スピナー(加撚体)、40・・織物生地、41・・経糸、42・・緯糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸の周囲に仮撚り加工された浮き糸が撚り合わされてなる意匠糸であって、前記浮き糸は無撚糸又は甘撚り糸であることを特徴とする意匠糸。
【請求項2】
加撚された芯糸の周囲に、無撚又は甘撚りの仮撚り加工された浮き糸が芯糸の加撚方向と同一方向に撚り合わされていることを特徴とする意匠糸。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の意匠糸を経糸又は緯糸の少なくとも一方に使用した織物であって、少なくとも緯糸に使用する前記意匠糸の浮き糸に獣毛が含有されていることを特徴とする織物。
【請求項4】
無撚又は甘撚りのロービングをドラフトした後、同ロービングに対して加撚体の回転による加撚−解撚の仮撚り加工を行う意匠糸の製造方法であって、
前記ロービングに対する加撚時には芯糸を前記加撚体の回転速度と同速度で回転させながらロービングに沿わせ、芯糸が沿えられたロービングに対して解撚を行うことを特徴とする意匠糸の製造方法。
【請求項5】
前記芯糸はロービングの加撚時には芯糸自身に撚りは付与されず、ロービングの解撚に伴って芯糸に撚りが付与されることを特徴とする請求項4に記載の意匠糸の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−13778(P2010−13778A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176954(P2008−176954)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(591050718)株式会社田幸 (2)
【Fターム(参考)】