説明

感作性物質のスクリーニング方法

【課題】評価用ペプチドと被験物質との結合性を測定して被験物質の感作性を評価する感作性物質のスクリーニングにおいて、被験物質の親水性/親油性の別に関わらず正確な評価が得られるようにする。
【解決手段】評価用ペプチドと被験物質との結合性を測定して被験物質の感作性を評価する感作性物質のスクリーニング方法であって、有機溶剤を50質量%以上含有する溶媒中で評価用ペプチドと被験物質を反応させるステップを含む感作性物質のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感作性物質のスクリーニング方法に関する。更に詳しくは本発明は、評価用のペプチドと被験物質との結合性を測定することにより当該被験物質の感作性を評価する感作性物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬、農薬、化粧品等の商品の成分として、感作性物質、即ち生体にアレルギー反応等を誘発する化学物質が含有されないようにするため、それらの商品の成分について感作性の評価が求められる。
【0003】
感作性を評価する有効な方法として、被験物質を実験動物に適用する in vivoの評価方法が考えられる。具体的に例示すれば、被験物質を実験動物の皮膚に適用し、適用部位の皮膚反応を観察するMaximization試験やBuehler試験、あるいは被験物質を実験動物の皮膚に適用してリンパ球の増殖を調べるLocal Lymph Node Assay等が挙げられる。しかし、これらの方法においては、実験動物の飼育・管理の手間を要する点に加え、実験動物への被験物質の適用作業が面倒であり、更に皮膚観察あるいは血液検査等の煩雑な作業も必要とし、多量の被験物質を準備する必要もある、等の種々の難点がある。
【0004】
このような点から、最終的に絞り込まれた被験物質については動物実験によるスクリーニングを行うとしても、商品開発の初期段階のように多数の被験物質を扱う場合には、少量の被験物質を用いて簡易・迅速に評価できるin vitroのスクリーニング方法が好ましい。もちろん、このような簡便法であっても、十分な信頼性が要求される。
【0005】
代表的な in vitro スクリーニング方法として、感作性評価用のタンパク質又は低分子量ペプチドと被験物質との結合反応を測定することにより、被験物質の感作性をスクリーニングする方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−014761号公報。 この特許文献1には、システインを含む評価用タンパク質(具体的にはグルタチオン)と被験物質を混合・反応させた混合液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)等で分析し、混合前のタンパク質溶液及び被験物質溶液からは検出されず反応後の混合液からのみ検出される成分(グルタチオンと被験物質の結合物)のピークを調べて、グルタチオンと被験物質との結合性を調べる方法が記載されている。
【0007】
【特許文献2】特開2007−183208号公報。 この特許文献2には、「H-Phe-Thr-Leu-X-Phe-Arg-NH2(XはCys又はHis)」で示される評価用のアミロイドPヘキサマーと被験物質を混合・反応させ、続いて上記の「特許文献1」に記載の方法と類似のプロセスによりアミロイドPヘキサマーと被験物質との結合性を調べる方法が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1及び特許文献2に記載の方法では、いずれの実施例でも、評価用のタンパク質又は低分子量ペプチドを水又は水性緩衝液に溶解させ、一方では被験物質をメタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンといった有機溶剤に溶解させ、これらの溶解液を混和させた混和物中で両者を反応させている。そしてこれらの混和物における水又は水性緩衝液と有機溶剤との混和比率は、水又は水性緩衝液が過剰ないし大過剰である。
【0009】
これに対して、例えば化粧品原料においては、親水性の物質から親油性の物質まで数多くの種類の成分が配合される。感作性物質としては、親水性及び親油性のものが知られているので、当然ながら親油性の成分も被験物質となり得る。
【0010】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の方法のように、水又は水性緩衝液が過剰ないし大過剰である混和液中では、親油性の被験物質の感作性を正しく評価できない恐れがある。本願発明者が実験的に確認したところ、後述の実施例欄における比較例として示すように、感作性が陽性であることが既知の親油性被験物質について、水又は水性緩衝液が過剰ないし大過剰である混和液中で反応させたところ、既知の情報とは一致しない評価結果が得られている。
【0011】
そこで本発明は、評価用ペプチドと被験物質との結合性を測定して被験物質の感作性を評価する感作性物質のスクリーニング方法において、被験物質の親水性/親油性の別に関わらず正確な評価が得られるようにすることを、解決すべき技術的課題とする。
【0012】
本願発明者は、上記課題の解決手段を追求する過程で、次の第1〜第2の点に着眼するに至り、これらの着眼点に基づく試行錯誤の結果、本発明を完成した。
【0013】
第1の着眼点:従来のin vitroスクリーニング法では、有機溶剤は単に被験物質を予備的に溶解させる目的で用いているに過ぎず、評価用のタンパク質又はペプチドと被験物質との反応は実質的に水性溶媒中で行っている。
【0014】
第2の着眼点:評価用ペプチドと被験物質との反応を従来のように実質的な水性溶媒中で行う場合と比較して、実質的な有機溶媒中で行う場合、ペプチドと被験物質の両成分の反応挙動が変わる可能性がある。又、そのことが親水性の被験物質及び親油性の被験物質の感作性の評価に意外な好影響をもたらすかも知れない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(第1発明)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、評価用ペプチドと被験物質とを反応させる反応ステップと、前記反応ステップにおける評価用ペプチドと被験物質との結合性を測定して被験物質の感作性を評価する評価ステップとを含む感作性物質のスクリーニング方法であって、前記反応ステップを有機溶剤を50質量%以上含有する反応溶媒中で行う、感作性物質のスクリーニング方法である。
【0016】
上記の第1発明において「評価用ペプチド」とは、感作性物質と特異的に結合する性質を持つため、被験物質が感作性物質であるか否かを判定する指標として利用できるペプチドをいう。従って、評価用ペプチドと結合し易い被験物質ほど、感作性が高いと判定される。又、「評価用ペプチド」というときの「ペプチド」とは、アミノ酸の重合度が3〜10のオリゴペプチドをいう。
【0017】
(第2発明)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記第1発明に係る反応ステップで用いる有機溶剤がジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及び炭素数1〜4の一価アルコールから選ばれる1種以上である、感作性物質のスクリーニング方法である。
【0018】
(第3発明)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記第1発明又は第2発明に係る反応ステップの反応溶媒が有機溶剤を60質量%以上含有するものである、感作性物質のスクリーニング方法である。
【0019】
(第4発明)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、前記第1発明〜第3発明のいずれかに係る評価用ペプチドが下記の(1)〜(3)のいずれかに示すものである、感作性物質のスクリーニング方法である。
【0020】
(1)H-Phe-Thr-Leu-Cys-Phe-Arg-NH2
(2)H-Phe-Thr-Leu-His-Phe-Arg-NH2
(3)H-Phe-Thr-Leu-Lys-Phe-Arg-NH2
(第5発明)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記第1発明〜第4発明のいずれかに係る被験物質が親油性物質である、感作性物質のスクリーニング方法である。
【0021】
上記の第5発明において「親油性物質」とは、水に溶けにくい物質を指し、詳しくはオクタノール/水分配係数(logKO/W)が1以上、好ましくは2以上の物質をいう。
【発明の効果】
【0022】
本願発明者は、感作性物質と特異的に結合する性質が知られており、あるいはそのような性質を自ら見出した低分子量ペプチドを評価用に用いるという前提のもとに、評価用ペプチドと被験物質の反応挙動が反応溶媒(結合反応の環境)によって影響される可能性を考慮しつつ、反応溶媒を種々に変更して検討した結果、第1発明を完成するに至った。
【0023】
第1発明のように、有機溶剤を50質量%以上含有する反応溶媒中で評価用ペプチドと被験物質を反応させると、被験物質の親水性/親油性の別あるいはそれらの程度に関わらず、感作性の高い被験物質ほど評価用ペプチドと結合し易いことが分かった。従って、被験物質が親水性の物質であっても、親油性の物質であっても、その感作性の評価を通じて、感作性物質を十分な信頼性のもとにスクリーニングすることができる。しかもこの方法は、少量の被験物質を用いて簡易・迅速にスクリーニングすることができるin vitro スクリーニング方法である。
【0024】
反応溶媒が水や緩衝液(水溶液)である場合、あるいは反応溶媒が有機溶剤を含有してもその含有量が50質量%未満である場合は、被験物質、特に親油性の被験物質の感作性を正しく評価できない場合がある。
【0025】
第2発明によれば、本発明の反応ステップで用いるに特に適した有機溶剤が提供される。又、反応ステップにおける評価用ペプチドと被験物質の反応溶媒としては、第3発明に規定するように、有機溶剤を60質量%以上含有するものが特に好ましい。
【0026】
評価用ペプチドは、感作性物質と特異的に結合する性質を持ち、重合度が3〜10の範囲内の低分子量ペプチドである限りにおいて限定されないが、第4発明の(1)〜(3)に規定するペプチドが特に好ましい。これらのペプチドの内、(1)、(2)に規定するものは評価用ペプチドとして公知であるが、(3)に規定するものは、評価用ペプチドとして利用できることを本願発明者が新たに見出したペプチドである。
【0027】
本発明に係る感作性物質のスクリーニング方法は、被験物質が親水性物質であっても有効に適用できるが、第5発明に規定するように、被験物質が親油性物質である場合に特に好ましく適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明を実施するための形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0029】
〔感作性物質のスクリーニング方法〕
本発明に係る感作性物質のスクリーニング方法は、(a)評価用ペプチドと被験物質とを反応させる反応ステップと、(b)前記反応ステップにおける評価用ペプチドと被験物質との結合性を測定して被験物質の感作性を評価する評価ステップとを含む、一種のin vitroスクリーニング方法である。
【0030】
〔反応ステップ〕
本発明の最大の特徴は、評価用ペプチドと被験物質との反応を、有機溶剤を50質量%以上、より好ましくは60質量%以上含有する反応溶媒中で行う点にある。有機溶剤が80質量%以上ないし100質量%を占める反応溶媒も特に好ましく用いられる。
【0031】
反応ステップにおいて反応溶媒に含有させる有機溶剤の種類は限定されないが、特に好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)及び炭素数1〜4の一価アルコールが例示され、炭素数1〜4の一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールが例示される。これらの有機溶剤の内の2種以上の併用、あるいはこれらの有機溶剤と他種の有機溶剤との2種以上の併用も好ましく例示される。
【0032】
反応溶媒は50質量%未満、より好ましくは40質量%未満の水系溶媒を含有することができる。水系溶媒としては水、水性緩衝液が挙げられる。水性緩衝液としてリン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩等の無機酸塩や、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム等の酢酸塩等の有機酸塩等を含む水性緩衝溶液が例示される。反応溶媒はその他にも例えば少量の酢酸等を含有することができる。
【0033】
前記した特許文献1、2に記載の方法では、評価用のタンパク質又は低分子量ペプチドを水性溶媒に溶解させる一方で被験物質を有機溶剤に溶解させ、これらの溶解液を混和させて反応ステップを行っているが、本発明においては、このような手順に従っても良いし、従わなくても良い。
【0034】
即ち、第1の手順例として、被験物質の有機溶媒溶液(第1溶液)と評価用ペプチドの水性溶媒溶液(第2溶液)を別途に準備し、両者の溶液を、有機溶媒が全溶媒(有機溶媒及び水性溶媒)中の50質量%以上を占めることとなる比率で混和させて、被験物質と評価用ペプチドを反応させることができる。第2の手順例として、上記の第1の手順例において第1溶液と第2溶液の溶媒を逆にし、被験物質の水性溶媒溶液と評価用ペプチドの有機溶媒溶液を別途に準備してから、両者の溶液を混和させることができる。第3の手順例として、被験物質と評価用ペプチドをそれぞれ同一組成の溶解液に溶解させた上で、これらの溶解液を混合して被験物質と評価用ペプチドを反応させることができる。第4の手順例として、被験物質と評価用ペプチドとの共通の溶解液を予め準備し、この溶解液に被験物質と評価用ペプチドを順不同で溶解させて反応させることができる。上記した「同一組成の溶解液」あるいは「共通の溶解液」は、有機溶剤が50質量%以上を占める限りにおいて、例えば1種又は2種以上の有機溶剤のみからなる溶解液でも良いし、1種又は2種以上の有機溶剤と、水又は水性緩衝液との混和液であっても良い。本発明の反応ステップでいう「反応溶媒」とは、上記の第1、第2の手順例においては第1溶液と第2溶液とを混和した後の溶媒を言い、第3の手順例においては上記した混合後の「同一組成の溶解液」を言い、第4の手順例においては「共通の溶解液」を言う。
【0035】
反応ステップにおける評価用ペプチドと被験物質との反応条件は限定されないが、例えば、4℃から60℃程度の温度範囲、好ましくは25〜45℃程度に保温しながら、10分間〜約2日間程度、好ましくは2時間〜2日程度、より好ましくは24時間程度かけて行う。
【0036】
〔評価用ペプチドと被験物質〕
本発明で用いる評価用ペプチドは、感作性物質と特異的に結合する性質を持つため、被験物質が感作性物質であるか否かを判定する指標として利用できるペプチドである。このような評価用ペプチドとして、具体的にはアミノ酸の重合度が3〜10のオリゴペプチドが挙げられ、更に好ましくは、限定はされないが、下記の(1)〜(3)に示すものが挙げられる。
【0037】
(1)H-Phe-Thr-Leu-Cys-Phe-Arg-NH2(以下「ペプチドC」と称する)
(2)H-Phe-Thr-Leu-His-Phe-Arg-NH2(以下「ペプチドH」と称する)
(3)H-Phe-Thr-Leu-Lys-Phe-Arg-NH2(以下「ペプチドK」と称する)
本発明においては、被験物質として、親水性の物質も親油性の物質もスクリーニングの対象とすることができる。とりわけ親油性の物質がスクリーニングに適する。反応ステップにおける反応溶媒中の評価用ペプチド、被験物質の濃度は限定されないが、評価用ペプチドについては、例えば0.01μM〜1M程度、通常は10μM〜100mM程度の濃度となるように溶解していることが好ましい。被験物質については、例えば0.01μM〜1M程度、通常は1mM〜500mM程度の濃度となるよう溶解していることが好ましい。
【0038】
反応溶媒中での被験物質と評価用ペプチドの混合比は限定されないが、反応を確実に進行させる必要があり、被験物質:評価用ペプチドのモル比は1:1〜1000:1程度、特に10:1〜200:1程度とすることが好ましい。
【0039】
〔評価ステップ〕
評価ステップでは、前記反応ステップにおける評価用ペプチドと被験物質との結合性を測定して、被験物質の感作性を評価する。この目的を十分な信頼性のもとに達成できる限りにおいて評価ステップの具体的手法は限定されないが、以下の代表的手法を例示できる。
【0040】
第1の手法は、特許文献1、2に記載の方法に準ずるもので、評価用ペプチドと被験物質を混合・反応させた反応液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)等で分析し、混合前の評価用ペプチド溶液及び被験物質溶液からは検出されず反応液からのみ検出される成分(評価用ペプチドと被験物質の結合物)のピークを調べて両者の結合性を調べる方法であって、特定のピークの有無により判定をするものである。
【0041】
第2の、特に好ましい手法は、反応ステップにおいて評価用ペプチドに対して過剰量の被験物質を反応させることを前提として、評価ステップにおいてはHPLC等を利用して評価用ペプチドの残存量を測定し、減少したペプチドは被験物質との結合により消費されたものと見做して、評価用ペプチドと被験物質との結合率を求める、という方法であって、例えばG. Frank Gerberick et al., Toxicological Sciences 81,
332-343 (2004)に記載された方法が例示される。
【0042】
以上の第1、第2の手法において、評価用ペプチドと被験物質を反応させた反応液の分析方法としては、上記HPLCの他に、ガスクロマトグラフィー(GC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、質量分析(MS)等をあげることができ、HPLC、GC、又はTLCのいずれかとMSとを組み合わせた分析方法(LC−MS,GC−MS,TLC−MS)も用いることもできる。この方法によれば、試料に評価用ペプチドと被験物質との複数種類の結合物が含まれていても、それらを個々に分離し、それぞれについて分析することができる。
【0043】
上記のHPLCに用いることのできるクロマトグラフ手法としては、逆相、順相、イオン交換などを挙げることができる。質量分析で利用できるイオン化法として、例えば、マトリクス支援レーザーイオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、電子衝撃イオン化(EI)法、高速原子衝撃イオン化(FAB)法等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は、以下の実施例によって限定されない。
【0045】
〔被験物質〕
本実施例に係る感作性物質の評価試験においては、感作性の有無が既知である5種類の被験物質を試験に供した。これらの被験物質を末尾の表1に列挙した。表1には、それらの被験物質のオクタノール/水分配係数(logKO/W)と油溶性/親水性の区別、及び感作性の有無(「+」が感作性有り、「−」が感作性無し)を併せて示した。
【0046】
〔評価用ペプチド溶液の調製〕
(ペプチドK溶液)
末尾の表2に示す実施例1〜15及び比較例1〜3の内、「ペプチド」の欄に「K」と表記した実施例及び比較例については、前記のペプチドK(SIGMA製、分子量810.98)1mgに対して、当該実施例又は比較例における「溶媒」の欄にそれぞれ示す溶媒1mLを加え、必要があれば超音波分散して、ペプチドKを溶解した。
【0047】
(ペプチドC溶液)
末尾の表2において「ペプチド」の欄に「C」と表記した実施例については、前記のペプチドC(SIGMA製、分子量785.95)1mgに対して、当該実施例の「溶媒」の欄にそれぞれ示す溶媒1mLを加え、必要があれば超音波分散して、ペプチドKを溶解した。
【0048】
(ペプチドH溶液)
末尾の表2において「ペプチド」の欄に「H」と表記した実施例については、前記のペプチドH(SIGMA製、分子量819.95)1mgに対して、当該実施例の「溶媒」の欄に示す溶媒1mLを加え、必要があれば超音波分散して、ペプチドHを溶解した。
【0049】
(使用した溶媒)
なお、表2において溶媒が混合溶媒である場合にはその混合比率を質量比で表記している。例えば実施例7において溶媒を「DMSO:水=80:20」と表記しているのは、80質量部のDMSOと20質量部の水との混合溶媒であることを示す。又、比較例1、2においては溶媒としてエタノール16v/v%を使用しているが、これをエタノールの質量%に換算し、「エタノール:水=13:87」と表記している。末尾の表3には、各実施例及び比較例で利用した溶媒のメーカー、グレード及び純度の一覧表を示している。
【0050】
〔被験物質溶液の調製〕
表2の実施例1〜15及び比較例1〜3について、それぞれの「被験物質」の欄に示す各被験物質を50mg程度精秤し、後述の「ペプチドと被験物質との反応」の項で述べるペプチド溶液との混合後の濃度が結果的に表2の「被験物質濃度」の欄に示す濃度となるような濃度で、溶媒によく溶解させ被験物質溶液とした。なお、その際に用いた溶媒は当該実施例又は比較例における「溶媒」の欄にそれぞれ示す溶媒である。従って、各実施例及び比較例において、その評価用ペプチド溶液と被験物質溶液とは同一組成の溶媒を用いている。
【0051】
〔ペプチドと被験物質との反応〕
5mLエッペンチューブに、マイクロピペッター等を用い200μLの上記ペプチド溶液を添加した。次に300μLの上記被験物質溶液を添加して、チューブに蓋をし、40℃、遮光下で24時間放置したものを試験溶液とした。なお、上記被験物質溶液の代わりに各例に係る溶媒を用い、これと各例に係る評価用ペプチド溶液とを用いて上記と同様の操作を行い、各実施例及び各比較例についてのコントロールの試験溶液を調製した。試験は同じ被験物質について3回行った。
【0052】
〔分析〕
反応後の溶液(上記した24時間放置後の試験溶液及びコントロール)をHPLC移動相溶液A:B=95:5にて10倍希釈し、これを測定用サンプル液としてHPLC分析に供した。使用した測定機器及び分析条件は、以下の通りである。
【0053】
(測定機器)
HPLC:Waters alliance 2695
(分析条件)
カラム:Capcell pak C18 ACR 1.0mmΦ×35mm, 粒径3μm((株)資生堂)
カラム温度:40℃
流量:200μL/分
移動相:A=0.1%ギ酸/水 B=0.095%ギ酸/アセトニトリル
グラジエント:5%(1分)−40%(30分)
検出器:Waters 2996 Photodiode Array Detector
検出波長:220nm
〔分析結果の判定〕
各実施例及び各比較例について、コントロール中の評価用ペプチドと試験溶液中の評価用ペプチドを比較して被験物質と結合していない評価用ペプチドの減少率を求めたとき、3回の試験結果の標準偏差が10未満であれば、それら3回の結果の平均値を減少率として採用した。この減少率が10%以上であれば感作性が陽性、10%未満であれば陰性と判定した。
【0054】
こうして得られた各実施例及び各比較例における評価用ペプチドの減少率と陽性/陰性の判定結果を表2の「ペプチド減少率/判定結果」の欄に示す。更に、各被験物質について、in vivo試験の結果として既に知られている感作性と比較し、一致するかどうかを確認した。その結果を表2の「vivo結果との対比」の欄に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によって、評価用ペプチドと被験物質との結合性を測定して被験物質の感作性を評価する感作性物質のスクリーニング方法において、被験物質の親水性/親油性の区別に関わらず正確な評価が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価用ペプチドと被験物質とを反応させる反応ステップと、前記反応ステップにおける評価用ペプチドと被験物質との結合性を測定して被験物質の感作性を評価する評価ステップとを含む感作性物質のスクリーニング方法であって、
前記反応ステップを有機溶剤を50質量%以上含有する反応溶媒中で行うことを特徴とする感作性物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記反応ステップで用いる有機溶剤がジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド及び炭素数1〜4の一価アルコールから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の感作性物質のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記反応ステップの反応溶媒が有機溶剤を60質量%以上含有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の感作性物質のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記評価用ペプチドが下記の(1)〜(3)のいずれかに示すものであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の感作性物質のスクリーニング方法。
(1)H-Phe-Thr-Leu-Cys-Phe-Arg-NH2
(2)H-Phe-Thr-Leu-His-Phe-Arg-NH2
(3)H-Phe-Thr-Leu-Lys-Phe-Arg-NH2
【請求項5】
前記被験物質が親油性物質であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の感作性物質のスクリーニング方法。

【公開番号】特開2011−94981(P2011−94981A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246139(P2009−246139)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000113274)ホーユー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】