説明

感染を制御するための装置、方法、および組成物

本発明は、便利かつ効果的な創傷洗浄のための新規の高度に効果的な方法および装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2009年10月26日出願の米国仮出願第61/254,906号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
創傷の管理および処置においては、(1)感染の防止、(2)機能の保存および/または回復、ならびに(3)美容的外観の保存および/または回復:という三つの主要な目的が存在する。これらの目的の中で最も重要なものは、感染の防止である。感染の防止の成功は、治癒過程、ならびに機能および美容的外観が回復されかつ/または保存され得る程度に直接影響を与える。しかしながら、従来、感染を低下させるかまたは他の様式で治癒を促進することができる薬物の投与と、創傷洗浄が直接組み合わせられることはなかった。
【0003】
部位に存在する細菌の数が、創傷が感染を受けるか否かの重大な決定要素であることは、公知である。実験的証拠は、細菌の臨界レベルが、組織1グラム当たりおよそ105生物であることを示唆している。このレベル未満では、創傷は典型的には治癒し;組織1グラム当たり105細菌を越えるレベルでは、創傷は、しばしば感染を受ける。全ての外傷が、処置のため、医療施設に創傷が提示される時点までに汚染されている(Dire,Daniel I.[1990] "A comparison of Wound Irrigation Solutions Used in the Emergency Department," Annals of Emergency Medicine 19(6):704-708(非特許文献1))。汚れの付いている創傷、または6時間以内に処置されなかった創傷は、臨界レベルより高いレベルの細菌により汚染されている可能性が高い。創傷およびその周囲の細菌の数を低下させることは、感染を回避し、創傷治癒を促進するために重大である。
【0004】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染は、「ブドウ球菌」としばしば呼ばれる、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)により引き起こされる。数十年前、ブドウ球菌を処置するために一般的に使用されていた広域性抗生物質に対して耐性のブドウ球菌の株が、病院において出現した。これらの抗生物質には、メチシリン、ならびにオキサシリン、ペニシリン、およびアモキシシリンのようなより一般的な抗生物質が含まれる。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と名付けられたそれは、最も強力な薬物以外に対して耐性である最初の病原菌のうちの一つであった。
【0005】
ブドウ球菌は、切創またはその他の創傷を通して身体に侵入しない限り、一般に無害である。高齢者、および疾病を有するかまたは免疫系が弱まっている人々においては、普通のブドウ球菌感染が、重篤な疾病状態を引き起こし得る。MRSAを含むブドウ球菌感染は、免疫系が弱まっている、病院ならびに養護ホームおよび透析センターのようなヘルスケア施設に入院中の人々において最も高頻度に起こる。
【0006】
1990年代に、ある型のMRSAが、より広く市中に出現し始めた。今日、市中感染型MRSAまたはCA-MRSAとして公知のブドウ球菌のその型は、多くの重篤な皮膚および軟組織の感染、ならびに重篤な型の肺炎の原因となっている。適切に処置されない場合、MRSA感染は致命的になり得る。
【0007】
MRSA感染は、米国および世界中で急速に蔓延してきている。Center for Disease Control and Prevention(CDC)によると、抗微生物薬に対して耐性である感染の割合が増大中である。1974年、MRSA感染は、ブドウ球菌感染の総数の2パーセントを占めたが;1995年には22%;2004年にはほぼ63%であった。さらに、最近の研究は、集団の30〜50%が常に身体上にMRSAコロニーを保持しており、感染の蔓延の助長を助けていることを示唆している。
【0008】
MRSAは伝統的に院内感染として見られているが、米国においてもCA-MRSAの流行が存在している。市中型MRSA感染は、通常、面皰(pimple)および炎症性の腫れ物(boil)のような皮膚感染として現われる。これらのCA-MRSA感染は、他には健康な人々において起こり、用具またはタオルおよびカミソリを含む私物を共有する運動選手において好発する。実際、2000年から現在までに、高校の運動チームに影響したCA-MRSAの大流行がいくつか報告されている。運動選手におけるこの流行は、体育館および体育館ロッカールームのような温暖で湿度の高い区域においては、MRSAが極めて急速に増殖するという事実により支援される。フットボールおよび野球において高頻度に起こるもののような一般的な切創および擦過創が、現在、MRSA感染の可能性のため、大きな脅威となっている。
【0009】
バンコマイシンは、MRSA感染の院内株に対して依然として効果的である数少ない抗生物質のうちの一つであるが、この薬物ももはや全ての症例において効果的なわけではない。CA-MRSAに対しては、いくつかの薬物が有効であり続けているが、CA-MRSAは急速に進化している細菌であり、これも大部分の抗生物質に対して耐性になるのは時間の問題であるかもしれない。
【0010】
クロルヘキシジンは、化学的な消毒薬であり、グラム陽性微生物およびグラム陰性微生物の両方に対抗する。それは制菌性であって、細菌の増殖を妨げ、かつ殺菌性であって、細菌を死滅させる。それは、歯垢およびその他の口内細菌を死滅させるために設計された口腔洗浄剤に活性成分としてしばしば使用されている。クロルヘキシジンは、非歯科適用も有する。例えば、それは、一般的な皮膚浄化のため、手術時手洗い用薬剤として、そして術前皮膚前処置剤として使用される。
【0011】
クロルヘキシジンは、典型的には、単独で、またはセトリミドのような他の消毒薬と組み合わせて、酢酸塩、グルコン酸塩、または塩酸塩の形態で使用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Dire,Daniel I.[1990] "A comparison of Wound Irrigation Solutions Used in the Emergency Department," Annals of Emergency Medicine 19(6):704-708
【発明の概要】
【0013】
本発明は、感染を低下させ、防止し、かつ/または処置するための、一つまたは複数の薬物治療またはその他の活性成分の、患者における標的部位への効率的な送達のための、新規の高度に効果的な方法、装置、および組成物を提供する。
【0014】
本発明により患者へ投与され得る薬剤の例には、抗菌剤、抗ウイルス剤、殺真菌剤、化学療法剤、外用消毒薬、麻酔剤、酸素化された(oxygenated)液体および/または薬剤、抗生物質、診断剤、ホメオパシー剤、ならびにOTCの薬物治療/薬剤が含まれるが、これらに限定されない。好ましい態様において、活性薬剤は、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.1%未満、最も好ましくは0.05%以下の濃度のクロルヘキシジングルコン酸塩である。
【0015】
一つの態様において、本発明は、活性薬剤を含む溶液の標的部位への効果的な送達のため、適切な圧力で、十分な容量の溶液が通過することができる1個または複数個のポートを有する放出手段が付着している、一つまたは複数の活性薬剤を含む洗浄溶液を含有しているリザーバーハウジングを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、一つの態様において、活性薬剤を標的部位へ送達するためのリザーバーハウジングおよび放出手段を有する装置を利用する、新規で、便利で、低コストで、かつ効果的な薬物送達技術を提供する。本発明は、組成物、ならびに装置および組成物の使用法も提供する。
【0017】
本発明の材料および方法は、例えば、薬用薬剤を含有している液体を、例えば、創傷へ、便利にかつ容易に適用することを可能にする。一つの態様において、創傷は手術部位である。
【0018】
本明細書において使用されるように、「活性薬剤」とは、治療的なかつ/または診断的な機能を果たす化合物またはその他の実体をさす。この機能は、組織修復の促進、もしくは癌細胞の死滅のような直接的なものであってもよいし、または所望の有益な結果を最終的にもたらす生理学的応答の誘発による間接的なものであってもよい。
【0019】
一つの態様において、0.05%以下(または0.04%未満または0.03%未満であってもよい)のクロルヘキシジンを含む滅菌水(生理食塩水ではない)溶液が、ヒトの皮膚の創傷へ適用される。次いで、好ましくは、創傷は、クロルヘキシジンを含有していない無菌の生理食塩水または水液体により、5分以内(好ましくは1〜3分以内)に濯がれる。
【0020】
もう一つの態様において、溶液は手術部位へ適用される。
【0021】
特定の態様において、本発明に従って使用されるクロルヘキシジングルコン酸塩は以下の化学構造を有する:

【0022】

【0023】
好ましい態様において、約15〜25mgのクロルヘキシジングルコン酸塩が創傷へ適用される。一つの態様において、創傷は擦過創または裂創であり、溶液は修復/閉鎖前に適用される。
【0024】
好ましくは、溶液のpHは、中性であるか、またはわずかに酸性である。好ましくは、pHは5.0〜7.5である。より好ましくは、pHは5.5〜7.0である。一つの態様において、クロルヘキシジンは界面活性剤(sudsing agent)なしに適用される。
【0025】
ある種の態様において、組成物は、微生物の増殖を促進するであろう成分を有していない。好ましくは、組成物はコンシステンシービルダー(consistency builder)を含まない。コンシステンシービルダーという用語は、その全体が本明細書に組み入れられる米国出願第2007/0184114号において使用されている。
【0026】
特定の態様において、CHG含有溶液は、開放性手術創へ適用される。溶液は、圧力下で適用されてもよいし、または非圧力下で適用されてもよい。一つの態様において、溶液はジェット洗浄により適用されない。さらなる態様において、液体は圧力下で適用されない。好ましくは、患者はヒトである。患者は、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ブタ、またはウシであってもよい。
【0027】
好ましくは、CHG溶液の投与の後、部位は、1、5、または10分以内に生理食塩水により洗われる。
【0028】
手術室の環境において、CHG含有溶液は、好ましくは、無菌容器内にある。容器は、例えば、照射により滅菌され得る。
【0029】
一つの態様において、アンプルの内容物が、本明細書に記載されるような濃度のCHGを有するCHG溶液を作出するため、例えば、標準的なサイズの水のボトル、またはIVバッグもしくはIVラインへ添加され得るよう、CHGは、小さなアンプルで提供されてもよい。
【0030】
本発明の溶液は、IVバッグで提供されてもよい。
【0031】
その他の態様において、本発明は、抗微生物性のローション、クリーム、スポンジ、および坐剤を提供する。これらの態様は、好ましくは、活性成分としてCHGを含有している。これらの態様は、抗微生物活性が必要な位置へ、直接、本明細書に示された濃度のCHGを提供する。
【0032】
CHGを含有している水性溶液は、例えば、pH調節剤、緩衝剤、局所麻酔剤、(バイオフィルムの分解を助ける薬剤のような)創傷治癒を促進する薬剤、ならびにその他の治療用および非治療用の化合物を含む、他の要素を有していてもよい。一つの態様において、組成物は、CHGの水性溶液から「本質的になる」。それは、溶液が、細菌増殖を制御する溶液の能力を実質的に変化させる他の活性薬剤を含有していないことを意味する。
【0033】
好ましい態様において、創傷は、CHG含有溶液の適用後に生理食塩水により濯がれる。生理食塩水によってリンスすることにより、CHGが濯ぎ落とされるのみならず、生理食塩水が、CHGを化学的に中和し、それにより、浮腫を防止するかまたは低下させる。濯ぎ液は、好ましくは、CHGの投与から約30秒〜約5分後に適用される。濯ぎ液は、約100ml〜1000mlの生理食塩水であり得、典型的には、約5秒〜約1分で適用される。
【0034】
好ましい態様において、本発明の洗浄溶液の適用は、未処置の創傷、またはクロルヘキシジンを含有していない生理食塩水もしくは水により洗浄された創傷のいずれと比較しても、創傷における細菌の数の低下をもたらす。有利なことに、本発明によるCHGの使用は、組織傷害を引き起こすことなく、感染の効果的な制御をもたらすことができる。
【0035】
有利なことに、本発明の洗浄溶液は、 (血液、組織、ならびに/または汚れおよび砕片を含む)有機材料が存在する時ですら、感染に対抗するために効果的である。当然、そのような材料は、全ての皮膚創傷に存在する。
【0036】
細菌を死滅させることに加えて、本発明の製剤は、例えば、大腸菌(E.coli)およびクレブシエラ・エロゲネス(Klebsiella aerogenes)を含むある種の細菌を「非病原体化(depathogenize)」し、これらの細菌の感染を引き起こす能力を減少させることができる。
【0037】
有利なことに、本発明の組成物および方法は、バイオフィルムが存在する時ですら、創傷を効果的に処置するために使用され得る。
【0038】
本発明の薬物送達法は、表1に示される経路の多くにより、活性薬剤の送達と共に使用され得る。特に重要であるのは、皮膚経路、腹腔内経路、頭蓋内経路、病巣内経路、胸郭内経路(手術中)、洗浄経路、鼻経路、外耳道内経路、経口腸前処置剤としての経路、胃洗浄のための経路、眼洗浄剤としての経路、歯周根経路、直腸経路、軟部組織経路、皮下経路、および膣経路である。本発明の組成物は、足および頭皮の感染を含む、ざ瘡およびその他の皮膚感染を制御するためにも使用され得る。一つの態様において、本発明のクロルヘキシジン組成物は、膿瘍を処置するために使用される。好ましくは、溶液は、効果的な投与を容易にするため、例えば、細長い排出ポートを有する装置を使用して、膿瘍の深部へ適用される。
【0039】
最適の状況の下で、本発明の薬物送達装置および方法は、訓練された医療技術者により利用される;しかしながら、本発明の装置は、単純かつ便利であるため、洗浄を実行する作業者の訓練レベルに関わらず、薬物送達の有効性を大いに増強するために使用され得る。
【0040】
活性薬剤の送達
本発明により患者へ投与され得る薬剤の例には、抗菌剤、抗ウイルス剤、殺真菌剤、化学療法剤、外用消毒薬、麻酔剤、酸素化された液体および/または薬剤、抗生物質、診断剤、ホメオパシー剤、ならびにOTCの薬物治療/薬剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
本発明に従って活性成分が投与され得る標的部位には、創傷および手術部位が含まれるが、これらに限定されない。手術部位には、例えば、関節置換術、腹部手術、脳手術、および口腔/歯周根手術の部位が含まれ得る。各々の場合において、適切な投薬量で特定の部位へ活性薬剤を送達する能力は、独特であり、かつ高度に有利である。
【0042】
活性薬剤を保持する溶液は、例えば、水、生理食塩水、または平衡塩溶液であり得る。溶液は、好ましくは、無菌である。CHGの場合、溶液は、好ましくは、水である。装置は、別々に、またはリザーバーハウジングと共に、煮沸、オートクレーブ処理、ガス滅菌、照射等を含む公知の減菌技術によって滅菌され得る。
【0043】
クロルヘキシジンの使用は、それが広域性であり、皮膚へ結合し(残効性の提供)、即効性であり、かつ本発明に従って使用された時、非毒性であるため、特に有利である。
【0044】
クロルヘキシジンは、グラム陽性微生物およびグラム陰性微生物の両方に対抗するために使用され得る化学的な消毒薬である。それは制菌性かつ殺菌性である。様々な細菌種が、創傷感染および/または二次的な蜂巣炎の病原に関与している。時に、これらの感染は、美観の損失、四肢の損失、回復期の長期化、および/または死亡をもたらし得る。本発明の洗浄溶液の治療効果は、消毒特性および洗浄過程自体に関連したものにより、これらの感染の病理に典型的に関与している微生物に対抗することである。創傷における微生物量の制御は、感染を最小化し、従って、疾患を減少させかつ/または防止するための不可欠な要因である。
【0045】
活性スペクトル
クロルヘキシジンは、好気性および嫌気性のグラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して活性である。この薬物は、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)、ある種の真菌、およびある種のウイルスに対しても、ある程度の活性を有する。
【0046】
好気性菌
クロルヘキシジンは、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、S.ピオゲネス(pyogenes)(A群β溶血性連鎖球菌)、S.サリバリアス(salivarius)、およびS.サンギス(sanguis)を含む、多様なグラム陽性好気性菌に対して高度に活性である。クロルヘキシジンは、黄色ブドウ球菌、S.エピデルミデス(epidermidis)、S.ヘモリチカス(haemolyticus)、S.ホミニス(hominis)、およびS.シムランス(simulans)に対して活性である。この薬物は、(メチシリン耐性[MRSA]ブドウ球菌またはメチシリン感受性ブドウ球菌としても公知の)オキサシリン耐性(ORSA)ブドウ球菌およびオキサシリン感受性ブドウ球菌の両方に対して活性である。クロルヘキシジンは、E.フェカリス(faecalis)およびE.フェシウム(faecium)を含む腸球菌(Enterococcus)に対して活性であり、バンコマイシン感受性株およびバンコマイシン耐性株の両方に対して活性である。
【0047】
嫌気性菌
クロルヘキシジンは、いくつかの嫌気性菌に対して活性である。薬物は、バクテロイデス(Bacteroides)、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、およびスクレノモナス(Selenomonas)のいくつかの株に対して活性であるが、ベイロネラ(Veillonella)に対する活性は低い。
【0048】
真菌
クロルヘキシジンは、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、C.ダブリニエンシス(dubliniensis)、C.グラブラタ(glabrata)(以前はトルロプシス(Torulopsis)グラブラタ)、C.ギレルモンジー(guillermondii)、C.ケフィル(kefyr)(以前はC.シュードトロピカリス(pseudotropicalis))、C.クルセイ(krusei)、C.ルシタニエ(lusitaniae)、およびC.トロピカリス(tropicalis)(以前はC.パラシロシス(parapsilosis))に対して、ある程度の活性を有する。クロルヘキシジンは、エピデルモフィトン・フロッコサム(Epidermophyton floccosum)、ミクロスポラム・ジプセウム(Microsporum gypseum)、M.カニス(canis)、およびトリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)を含む、皮膚糸状菌に対しても、ある程度の活性を有する。
【0049】
ウイルス
クロルヘキシジンは、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)および2型(HSV-2)、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ならびに痘瘡ウイルス(天然痘ウイルス)のような、外殻に脂質要素を有するかまたは外部エンベロープを有するウイルスに対して、抗ウイルス活性を有するようである。
【0050】
方法および製剤
有利なことに、本発明の方法は、患者における標的部位へ正確にかつ効率的に活性成分を送達するために使用され得るため、ある種の態様において、低下した濃度の活性成分を利用することが可能である。従って、本発明の一つの態様において、クロルヘキシジンの低濃度溶液が、例えば、創傷、手術部位、またはその他の組織開口部における感染を効果的に低下させるために使用され得る。好ましい態様において、クロルヘキシジン溶液は4%未満である。より好ましい態様において、クロルヘキシジンは2%未満、または1%未満であり、または0.1%未満であってもよい。一つの態様において、クロルヘキシジン溶液は0.05%である。さらなる態様において、クロルヘキシジン溶液は0.02%〜0.05%である。クロルヘキシジングルコン酸塩の使用が、本明細書に具体的に例示される。
【0051】
上記のように、本発明の一つの態様において、本発明の装置は、抗微生物剤のような活性薬剤を、創傷のような標的部位へ送達するために使用される。次いで、活性薬剤の投与の後、部位は、少なくとも過剰の活性薬剤を除去するため、例えば、生理食塩水により洗い流され得る。好ましくは、この洗い流しは、クロルヘキシジン溶液の投与から5分以内に行われる。より好ましくは、この洗い流しは、クロルヘキシジン溶液の投与から1〜3分以内に行われる。このようにして、活性薬剤に関連した可能性のある毒性を低下させるかまたは排除することができる。クロルヘキシジングルコン酸塩の場合、洗浄液体によりリンスすることにより、例えば、皮膚のタンパク質に結合していない過剰のクロルヘキシジンが除去される。
【0052】
さらにもう一つの態様において、診断剤を、本発明の装置および方法を使用して投与することができる。診断剤は、例えば、標的生体分子に結合する抗体、タンパク質、またはポリヌクレオチドであり得る。次いで、そのような結合は、当業者に公知のテクノロジーを利用して可視化され得る。これらのテクノロジーには、例えば、肉眼により、または適切な検出装置を通して可視化され得る、フルオロフォアまたはその他の標識の使用が含まれる。本発明の診断的適用には、細菌、ウイルス、寄生虫、およびその他の病原体の検出が含まれる。癌細胞も、本発明の診断法を使用して可視化され得る。
【0053】
さらにもう一つの態様において、装置および方法は、増殖因子および/またはプロテアーゼ阻害剤を標的部位へ送達するために使用され得る。例えば、創傷の治癒を促すことができる、そのような増殖因子および/またはプロテアーゼ阻害剤は、当業者に周知である。
【0054】
さらにもう一つの態様において、本発明の方法は、酸素化水および/または「強化水(enhanced water)」を標的部位へ送達するために使用され得る。例えば、強化水は、公開された米国特許出願第20050191364号およびその中に引用された参照(全て、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)に記載されたものであり得る。そのような酸素化水または強化水の効果的な送達のための本発明の方法の使用は、組織治癒を促進し、かつ感染を低下させるために使用され得る。
【0055】
さらなる態様において、本発明の装置および方法は、抗微生物ペプチド(AMP)を標的部位へ効率的に送達するために使用され得る。AMPは当技術分野において周知である。抗微生物ペプチドとは、微生物の増殖を阻害する、主に小さなポリペプチドである。自然免疫のエフェクターとして、抗微生物ペプチドは、広域の細菌、真菌、およびウイルスを直接死滅させる。さらに、これらのペプチドは、局所炎症応答を修飾し、細胞免疫および適応免疫の機序を活性化する。カテリシジンおよびデフェンシンが、皮膚におけるAMPの主要なファミリーを構成するが、プロテイナーゼ阻害剤、ケモカイン、およびニューロペプチドのようなその他の皮膚ペプチドも、抗微生物活性を示す。例えば、Braff,M.et al.,(2005)"Cutaneous Defense Mechanisms by Antimicrobial Peptides," J Invest Dermatol,125:9-13を参照のこと。
【0056】
薬物送達装置
本発明の装置は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる公開された米国出願US-2008-0159963-A1に示されるような装置であり得る。リザーバーは、例えば、100ml〜1000mlであり得る。
【0057】
一つの態様において、本発明は、活性薬剤を含む溶液の標的部位への効果的な送達のため、適切な圧力で、十分な容量の溶液が通過することができる1個または複数個のポートを有する放出手段が付着している、一つまたは複数の活性薬剤を含む洗浄溶液を含有しているリザーバーハウジングを提供する。
【0058】
リザーバーハウジングおよび内容物は、無菌環境、例えば、使用直前に開封される無菌パッケージングに保管され得る。汚染物質または砕片を除去し、活性薬剤を送達するための創傷の洗浄を実行するため、リザーバーハウジングは、創傷の方に向けられ、所望の方向に、所望の圧力で、溶液を押し出すかまたは放出するため、圧搾または圧縮され得る。
【0059】
放出手段は、リザーバーハウジングとは別にパッケージングされてもよい。放出手段は無菌環境にパッケージングされる。一つの態様において、薬物送達装置は無菌トレーで提供される。本発明によると、裂創用トレーは、例えば、本発明の薬物送達装置に加えて、創傷を処置するために便利に提供されるその他の用品を有し得る。トレー内に含まれ得る企図される用品には、持針器(即ち、5"フロアグレード、無鈎);鋏(即ち、4.5"フロアグレード、直型虹彩鋏);止血鉗子(即ち、5"フロアグレード、反型モスキート止血鉗子);鉗子(即ち、フロアグレード、1×2鈎付き組織鉗子);カップ(即ち、2オンス医療用カップ);注射器(即ち、10ccルアーロック注射器);針(即ち、25ゲージ×5/8"針;27ゲージ×1.5"針;18ゲージ×1.5"針);包帯(即ち、ガーゼ包帯);ドレープ(即ち、ポリライン(polylined)穴あきドレープ);およびタオル(即ち、吸収タオル)が含まれるが、これらに限定されない。
【0060】
重要なことに、小さな表面積を有する粒子(例えば、細菌)を創傷から取り除くためには、大きな表面積を有する粒子(例えば、汚れ、砂、または植物)を除去するより多くの力が必要とされることが公知である。洗浄溶液の推奨される最低容量は場合により変動するが、中程度のサイズの汚染されている可能性のある創傷、例えば、長さ3〜6cm、深さ2cm未満の裂創の場合、少なくとも200〜500mlまたはそれ以上が使用されるべきである。より大きな創傷または重度に汚染された創傷には、1〜2リットル程度のより大きな容量が必要とされ得る。少なくとも、全ての可視の緩い粒子状物質が除去されるまで、洗浄は継続されるべきである。
【0061】
以下は、本発明を実施するための手順を例示する実施例である。これらの実施例は、限定的なものとして解釈されるべきでない。
【実施例】
【0062】
実施例1−洗浄の方法
患者が、当技術分野の熟練した医療従事者またはその他のヘルスケア従事者に創傷を提示する時、その医療従事者は、他の全ての命を脅かす損傷を含め、患者が被った損傷の程度を査定する。これらの命を脅かす損傷に関する適切な行為が実行され、履歴が記録される。全ての創傷は、実際の修復過程が始まるまで、さらなる汚染を最小化するために覆われる。
【0063】
創傷の検査のため、医療従事者は、以下のものを含むが、これらに限定されない、組織損傷の程度の詳細な評価を実行すると仮定される:解剖学的区域の考慮、創傷の深さ、損傷の型、例えば、衝突損傷、刺創、咬傷、ミサイル、鋭利な物体による切創等)。この検査に含まれるのは、混入の型の決定、損傷の発生から提示までに経過した時間、創傷の肉眼的な汚染、ならびに感染の発症率の増加に関連したその他の医学的要因(例えば、糖尿病、エイズ患者、および化学療法薬患者)であろう。
【0064】
ヘルスケア従事者の随意で、創傷浄化法を開始する前に、外用麻酔薬、局所麻酔薬、または全身麻酔薬を使用して、創傷および周辺組織に麻酔がかけられてもよい。あるいは、麻酔薬は、本発明の装置および方法を使用して送達されてもよい。
【0065】
活性薬剤を含む洗浄溶液を放出手段のノズルを通して押し出すため、手動でまたは機械的に発生させた圧力が、リザーバーハウジングに適用される。汚染の全ての可視の証拠が除去されるまで、創傷はこの方式で洗浄されるべきである。汚染されている可能性のある任意のサイズの創傷が、最低200〜300mlの洗浄溶液により洗浄されるべきである。重度に汚染された創傷またはより大きな創傷は、2〜3リットルの洗浄溶液を必要とするかもしれない。
【0066】
創傷の初期洗浄の後、創傷の再検査が行われるべきである。可視の外来物質または汚染物質が残存しないことを確認するため、創傷はその基部まで調査されるべきである。外来物質または汚染物質が見出された場合には、洗浄過程を繰り返し、続いて、再検査が行われるべきである。これが数サイクル継続され得る。
【0067】
洗浄が完了したならば、即ち、可視の汚染物質が残存しなくなったなら、傷害を負った組織は、標準的な認められた様式で修復されるであろう。
【0068】
切創、掻き傷、刺創、擦過創等のような皮膚創傷の洗浄には、本発明による洗浄が特に適しており、手術部位の洗浄も同様である。
【0069】
実施例2−投与経路
表1は、本発明に従って使用され得る様々な投与経路のリストを提供する。
【0070】
(表1)投与経路




【0071】
本明細書に記載された実施例および態様は、例示を目的とするものに過ぎず、それらを考慮して、様々な修飾または変化が当業者に示唆されること、そして、それらが、本願の本旨および範囲、ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものであることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.05%以下の濃度でクロルヘキシジンを含む無菌水性溶液を含有している無菌容器。
【請求項2】
前記溶液を100ml〜1000ml含有している、請求項1記載の容器。
【請求項3】
バックスプラッシュシールド(backsplash shield)をさらに含む、請求項1記載の容器。
【請求項4】
クロルヘキシジンが0.05%の濃度で存在する、請求項1記載の容器。
【請求項5】
クロルヘキシジンがクロルヘキシジングルコン酸塩の形態で存在する、請求項1記載の容器。
【請求項6】
請求項1の容器の内容物を創傷へ適用する工程を含む、創傷を洗浄する方法。
【請求項7】
前記装置がバックスプラッシュシールドをさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
クロルヘキシジンを含有していない溶液により5分以内に創傷をリンスする工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項9】
ヒトにおける創傷を処置するために使用される、請求項6記載の方法。
【請求項10】
クロルヘキシジンが0.05%の濃度で存在する、請求項6記載の方法。
【請求項11】
手術部位を洗浄するために使用される、請求項6記載の方法。
【請求項12】
手術の型が、整形外科手術、心臓手術、脳手術、および腹部手術からなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
MRSA感染を処置するために使用される、請求項6記載の方法。
【請求項14】
溶液の投与前にMRSAの存在が知られている、請求項13記載の方法。
【請求項15】
膿瘍を処置するために使用される、請求項6記載の方法。
【請求項16】
アンプルの内容物を、250ml〜5リットルの範囲の既知容量の水と混合した時に、得られる溶液が1.0%未満のクロルヘキシジン濃度を有するような濃度で、クロルヘキシジンの溶液を含有しているアンプル。
【請求項17】
0.05%以下の濃度でクロルヘキシジンを感染の部位へ送達するクリーム、ローション、スポンジ、坐剤、またはコーティングされた留置型医療装置。
【請求項18】
感染を制御するための、請求項17記載の組成物の使用
【請求項19】
請求項1記載の容器と生理食塩水の容器とを含むキット。
【請求項20】
無菌である、請求項19記載のキット。

【公表番号】特表2013−508457(P2013−508457A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536912(P2012−536912)
【出願日】平成22年10月24日(2010.10.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/053884
【国際公開番号】WO2011/056486
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512108614)イノベーション テクノロジーズ インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】