説明

感染症予防ワクチン

【課題】免疫系が未成熟な新生犬における犬微小ウイルス感染症を予防する母犬接種型ワクチンを提供する。
【解決手段】犬微小ウイルスを抗原とするワクチンを作製し、それを適切な免疫スケジュールで母犬に接種することで、その母犬に犬微小ウイルスに対する中和抗体を誘導し、さらには、そのウイルス中和抗体をワクチン接種する母犬から生まれる新生犬に移行させることで、新生犬における犬微小ウイルス感染症を予防する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新生犬における犬微小ウイルス感染症の予防に十分なウイルス中和抗体を新生犬に移行させるための母犬接種用ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
生後間もない子犬、いわゆる新生犬は、その免疫系が成熟するまでの間、母犬由来の移行抗体で各種病原微生物による感染症から身を守っている。しかしながら、実際には、母犬からの移行抗体が各種病原微生物による感染症の予防に不十分であるため、多くの新生犬が種々の感染症によって生後1〜2週に死亡している。その原因病原微生物としては、犬ヘルペスウイルス(canine herpesvirus、以下、CHVという)、犬パルボウイルス2型(canine parvovirus type 2、以下、CPV-2という)、犬アデノウイルス1型(canine adenovirus type 1、以下、CAV-1という)、犬アデノウイルス2型(canine adenovirus type 2、以下、CAV-2という)、犬ジステンパーウイルス(canine distemper virus、以下、CDVという)、犬コロナウイルス(canine coronavirus、以下、CCVという)、犬パラインフルエンザウイルス(canine parainfluenza virus、以下、CPIVという)、ボルデテラ ブロンキサプティカ(Bordetella bronchiseptica、以下、B.b.という)、各種レプトスピラ(Leptospira spp.)、犬インフルエンザウイルス(Canine influenzavirus、以下、CIVという)、各種バベシア(Babesia spp.)、各種ジアルジア(Giardia spp.)および幾つかの病原微生物が挙げられる。
【0003】
また、これらの他にも、犬パルボウイルス1型(canine parvovirus type-1)とも言われる犬微小ウイルス(minute virus of canines、以下、MVCという。パルボウイルス科パルボウイルス属に分類され、1本鎖のDNAゲノムを有する。)は、近年、感染した新生犬や胎子に致死的な劇症の腸炎をはじめとする消化器症状や肺炎などの呼吸器症状を起こすことが明らかにされ、新生犬における重要な死亡原因ウイルスの一つと考えられている(Carmichael, L. E. 1999. Neonatal viral infection of pups: Canine herpesvirus and minute virus of canines (Canine parvovirus-1). In: Recent advances in canine infectious diseases. Carmichael, L. E. ed. International Veterinary Information Service (www. ivis.org), Ithaca, N.Y. 14853, USA.)。
【0004】
一方、妊娠期にMVCに感染した妊娠犬が胎子死、死産、流産や萎小胎子などを起こすことが知られている。また、米国、日本およびスイスで行われた犬での疫学的調査では、その結果にばらつきはあるが、調べた犬の50-70%もがMVCに対する抗体を保有していたとの報告もある(Carmichael, L. E., et al. 1991. Cornell Vet. 81:151-171.、Carmichael, L. E., et al. 1994. J. Vet. Diagn. Invest. 6:165-174.、Hashimoto, A., et al. 2001. Jpn. J. Vet. Res. 49:249-253.、Mochizuki, M., et al. 2002. J. Clin. Microbiol. 40:3993-3998.)。
【0005】
一般的には、新生犬は免疫系が未成熟のため、たとえワクチンを接種したとしても、そのワクチンが対象とする感染症に対する感染防御免疫や発症防御免疫を賦与することができないとされている。一方、そのような新生犬における感染症の予防法として、母犬に高力価のウイルス中和抗体を誘導し、それを新生犬に移行させることが提唱されている(Poulet, H. and Dubouger, P. 1993. Point Vet. 25:69-75、Carmichael, L. E. 1987. Canine Parvovirus Type-1 (Minute Virus of Canines). In: Horzinek, M. C. ed. Virus Infections of Carnivores 1, Virus Infections of Vertebrates. Amsterdam: Elservier Science Publishers, 5-15.)。
【0006】
免疫系が未成熟な新生犬に病原微生物に対する中和抗体を移行させる感染症予防ワクチンの具体例としては、母犬接種用の不活化CHVワクチンが考案され、市販されている(特表2003-520249、Poulet, H., et al.2001. Vet. Rec. 148:691-695)。
【0007】
一方、新生犬に感染して重篤な臨床症状を起こすMVCについては、ワクチンに関する知見は皆無であり、従って、MVCに対する中和抗体を子犬に移行させるような母犬接種用のMVCワクチンの開発が試みられた経緯もなく、また、その効果についても全く検討されていない。
【0008】
その理由の一つとして、市販用ワクチンの抗原に供するMVCを工業レベルで増殖させるための技術が確立されていなかったことが挙げられる。すなわち、最近まで、MVCはWalter Reed canine cell(WRCC)という特定の者が所有している株化細胞でしか増殖しないと認知されており(Macartney, L., et al. 1988. Cornell Vet. 78:131-145.、Carmichael, L. E.、 et al. 1991. Cornell Vet. 81:151-171.)、犬用ワクチンの抗原に供する各種ウイルスの増殖・製造用細胞として汎用されているMadin-Darby canine kidney(MDCK)株化細胞ではMVCは増殖しないとされてきたことが挙げられる。
【0009】
一方、本発明者らは、最近、MDCK株化細胞で増殖可能なMVC株を見出し、ウイルス株として樹立することに成功して、工業レベルでの生産が可能な本発明のMVCワクチンを開発するに至った。
【特許文献1】特表2003-520249号公報
【非特許文献1】Poulet, H., et al.2001. Vet. Rec. 148:691-695
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の背景技術において記載した欠点を克服すべくなされたものであって、免疫系が未発達で生後間もない子犬すなわち新生犬における重篤なウイルス感染症であるMVC感染症に対するワクチンを提供することを目的とする。
【0011】
本発明はまた、MVCに加えてCHV、CPV-2、CAV-1、CAV-2、CDV、CCV、CPIV、B.b.、各種レプトスピラ、CIV、各種バベシア、各種ジアルジアなどの各種病原微生物に起因する混合感染症を予防するための多価ワクチンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、MVCを抗原として含有するMVC感染症予防ワクチンを提供する。
【0013】
本発明は、不活化したMVCを抗原とするワクチンを分娩前の母犬に接種して抗MVC中和抗体を獲得させ、さらに、そのMVC中和抗体を母犬から子犬に移行させることにより、生まれて間もない子犬におけるMVC感染症を予防することを特徴とする。
【0014】
すなわち本発明は、MVC陰性犬の場合に、妊娠前または妊娠初期〜中期の母犬に初回接種し、次いで分娩前に追加接種することにより、妊娠後期の母犬にMVC感染症の予防に十分な力価の抗MVC中和抗体の産生を誘導し、さらに、その母犬から生まれる子犬に移行する抗MVC中和抗体によって新生犬におけるMVC感染症を予防する不活化したMVCとアジュバントとを含有するワクチンを提供するものである。
また、本発明のMVCワクチンの接種回数は、過去に当該ワクチンの接種歴がある母犬または抗MVC中和抗体を保有する母犬に対しては、分娩前の1回接種でよく、それによって、生まれてくる新生犬にMVC感染症を予防するのに十分な免疫を賦与することができる。
【0015】
本発明はまた、MVCと、CHV、CPV-2、CAV-1、CAV-2、CDV、CCV、CPIV、B.b.、各種レプトスピラ、CIV、各種バベシア、各種ジアルジアなどからなる群より選択される1種以上の各種病原微生物とを抗原として含有し、中和抗体が母犬から新生犬に移行する多価ワクチンを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のワクチンは、これまで予防できなかった新生犬の死亡原因の一つであるMVC感染症を予防することができ、さらには、販売を目的とした犬を多頭同時飼育するブリーダーにおいてMVC集団感染を未然に防ぐことができることから、その経済的効果は非常に大きい。
【0017】
本発明のワクチンは、新生犬でより重篤な臨床症状を呈する複数の病原体による混合感染症に対しても、一病原体としてのMVCの感染を防御することから、混合感染による臨床症状を軽減できる効果がある。
【0018】
また、本発明の多価ワクチンは、MVCと他の病原微生物による混合感染症を予防・軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のワクチンは、MVCを抗原として含有する。本発明の別のワクチンは、MVCに加えて、CHV、CPV-2、CAV-1、CAV-2、CDV、CCV、CPIV、B.b.、各種レプトスピラ、CIV、各種バベシア、各種ジアルジアなどからなる群より選択される1種以上の各種病原微生物をさらに含有する。これらのウイルスは不活化して本発明のワクチンに用いることができる。MVCおよびCHV、CPV-2、CAV-1、CAV-2、CDV、CCV、CPIV、B.b.、各種レプトスピラ、CIV、各種バベシア、各種ジアルジアなどからなる群より選択される1種以上の各種病原微生物は、例えばバイナリーエチレンイミン(binary ethylenimine;BEI)処理で不活化することができるが、ウイルスの不活化方法としては、BEIに限るものではなく、ホルマリン、グルタルアルデヒド、加熱および紫外線照射など、ウイルスおよび細菌等の各種病原微生物の免疫原性を保持できる不活化方法であればよい。本発明のワクチンは、上述のように、不活化したウイルスを抗原としたワクチンであってよいが、不活化ワクチンに限られるものではなく、弱毒化させたMVCを抗原とする生ワクチンであってもよい。
【0020】
本発明のワクチンは、免疫効果を上げる目的でアジュバントをさらに含有することができる。アジュバントは用時に加えてもよい。アジュバントは、好ましくは水中油型アジュバントであるが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明の1つの実施形態では、本発明のワクチンの剤形は、不活化前ウイルス量として1回投与量(1 ml)あたり1 x 104〜1 x 107 TCID50の力価のMVCを含有してよい。本発明の別の実施形態では、本発明のワクチンの剤形は、不活化前ウイルス量として1回投与量(1 ml)あたり、それぞれ1 x 104〜1 x 107 TCID50の力価のMVCと他のウイルス(CHV、CPV-2、CAV-1、CAV-2、CDV、CCV、CPIV、B.b.、各種レプトスピラ、CIV、各種バベシア、各種ジアルジアなどからなる群より選択される1種以上の各種病原微生物)とを含有してよい。なお、剤形に関しては、MVCに対する中和抗体を誘導する性能を有するものであればよく、抗原ウイルス量(ウイルス力価)やアジュバントの種類は適宜変えても良い。また、不活化したウイルスを安定化剤とともに凍結乾燥し、用時にアジュバントや賦形剤を含む溶剤を加えることにより、凍結乾燥した不活化ウイルスを溶解してワクチンを調製することができる。
【0022】
本発明の1価または多価のワクチンは、MVC陰性犬に対しては、妊娠前あるいは妊娠初期〜中期に1回投与量を初回接種し、妊娠後期に1回投与量を追加接種することができる。追加接種の時期は、MVC感染症またはMVCおよびその他の病原微生物による混合感染症の予防に十分な力価の中和抗体をワクチン接種した母犬に誘導でき、さらに、その中和抗体を母犬から生まれる子犬に効率良く移行できるものであればよく、十分な免疫効果をあげるためには初回接種から3週〜4週経過時が好ましいが、この時期に限られるものではない。
また、過去に当該ワクチンの接種歴がある母犬または抗MVC中和抗体を保有する母犬に対しては、本発明の1価または多価のワクチンは、分娩前に1回接種することができる。
【0023】
より効果的なワクチン接種スケジュールは、犬の妊娠期間である約63日を考慮して設定することができる。すなわち、交配後4〜5週前後に母犬に初回接種し、その後、初回接種から3〜4週前後すなわち分娩1〜2週前に追加接種することができる。これにより、高力価の抗ウイルス中和抗体を誘導でき、さらには、その中和抗体を母犬から生まれる子犬に効率良く移行させることができる。
【0024】
本発明のMVCワクチンの有効性は、上述のようなスケジュールでワクチン接種した母犬から生まれる子犬の血中抗MVC中和抗体価がMVC感染症の予防に十分である128倍以上であるか否かで判定することができる。なお、ワクチン接種した母犬から生まれる新生期の子犬の血中抗MVC中和抗体価は、以下の実施例に記載するように、新生犬の血清で中和したMVCを感染させたMDCK細胞について、ウサギ抗MVC血清を一次抗体とし、フルオレッセイン・イソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate;FITC)標識抗ウサギIgGヤギIgG画分(ICN社製)を二次抗体とした間接螢光抗体法を実施し、MVCの感染を抑制した血清の最大希釈倍数として求めることができる。また、中和抗体価128倍以上の血中抗MVC中和抗体を保有する犬がMVC感染症を予防できることは、中和抗体価128倍以上の血中抗MVC抗体を保有する犬へのMVC攻撃試験で証明されている。
【0025】
また、CHV、CPV-2、CAV-1、CAV-2、CDV、CCV、CPIV、B.b.、各種レプトスピラ、CIV、各種バベシア、各種ジアルジアなどのうちCHVについては、血中CHV中和抗体価がCHV感染症の予防に十分である16倍以上であるか否かで判定することができる。抗CHV中和抗体価は、以下の実施例に記載するように、50%プラーク減少法(50% plaque reduction method)にて求めることができる。また、中和抗体価16倍以上の血中抗CHV中和抗体を保有する犬がMVC/CHV混合感染症を予防できることは、中和抗体価16倍以上の血中抗CHV抗体を保有する犬へのCHV攻撃試験で証明されている。
【0026】
以上に示したウイルス中和抗体価の測定を、本発明の1価のワクチンを2回接種した母犬から生まれた新生犬について実施した結果、いずれの新生犬においても、生後3日から1週における血中抗MVC中和抗体価は256倍以上であり(表2参照)、MVC感染症の予防に十分である128倍以上であった。また、MVCとCHVとを抗原として含有する2価のワクチンを2回接種した母犬から生まれた新生犬について実施した結果、いずれの新生犬においても、生後3日における血中抗MVC中和抗体価は256倍以上であって(表7参照)MVC感染症の予防に十分である128倍以上であり、また、血中抗CHV中和抗体価は32〜128倍であって(表5参照)CHV感染症の予防に十分である16倍以上であった。このような試験結果より、MVC感染症またはMVC/CHV混合感染症を予防するのに十分な力価の抗ウイルス中和抗体が子犬に移行したことが判明し、本発明のワクチンのMVC感染症またはMVC/CHV混合感染症に対する有効性が示された。
【0027】
一方、本発明のワクチンの有効性は、以下の実施例に記載するように、ウイルス攻撃試験でも調べることができる。すなわち、上記のように本発明のワクチンを接種した母犬から生まれた新生犬に対して、生後3日〜1週の間にMVCのウイルス液を経口および経鼻で接種し、その後、数週の間におけるMVCの排泄有無で調べることができる。ウイルス攻撃試験の結果からも、ワクチン接種によって抗ウイルス中和抗体が母犬から新生犬に移行したことが判明し、本発明のワクチンのMVC感染症またはMVC/CHV混合感染症に対する有効性が示された(表1〜7参照)。
【0028】
以上のように、MVCワクチンを母犬に接種することで、その母犬から生まれた新生犬にMVC感染症の予防に十分な力価の中和抗体を移行できることを見いだしたのは、本発明者らが最初である。また、MVCとCHVとを抗原として含有する2価のワクチンについて、母犬から新生犬にMVC/CHV混合感染症の予防に十分な力価の中和抗体を移行できることを実証したのも、本発明者らが最初である。
【0029】
本発明において、ワクチン用の抗原としたMVCはMVC HM-6株であり、発明者らが野外のMVC感染犬から分離したものであるが(Mochizuki, M.ら、2002. J. Clin. Microbiol. 40: 3993-3998)、ワクチン用MVC株としては、ワクチンに求められる免疫原性を備えたMVC株であれば、HM-6株に限るものではない。MVC HM-6株のゲノム塩基配列は、DNA Data Bank of Japanに非公開を条件に登録されている(受託番号:AB158475)。
【0030】
なお、本発明のワクチンに用いられるMVC HM-6株は、平成16年1月19日付けで独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託したが、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターによって、ウイルス株であることを受託拒否の事由となる事項として受託拒否され、その旨証明されている(平成16年1月22日通知、通知番号:15産生寄第1749)。したがって、本発明のワクチンに用いられるMVC HM-6株は、出願人が保管しており、出願人が分譲することができる。
【0031】
また、本発明のワクチン用抗原としたCHVはCHV D004株(American Type Cell Cultureから購入、ATCC受託番号: VR-552)であるが、ワクチン用CHV株としては、D004株と同様もしくはそれ以上の免疫原性を有するウイルス株であれば、D004株に限るものではない。
【0032】
さらには、本発明のワクチンの接種法は、注射に限られず、ウイルスに対する免疫を犬に賦与できるものであれば、例えば経鼻接種や経口接種であってもよい。また、本発明のワクチンの接種法は、初回接種時と追加接種時で異なっていてもよい。
【0033】
本発明のワクチンは、新生犬におけるウイルス感染症予防のために使用されるが、新生犬以外に対してもウイルス感染症を予防するワクチンとして使用できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【0035】
(実施例1)
1.不活化MVCワクチンの調製法
5%の牛胎子血清(FCS)を含有する100 mlのイーグル基礎培地(Eagle’s minimum essential medium、EMEM、Invitrogen社製)を用いて約1 x 108個の細胞数に調整したMDCK細胞にMVC(MVC HM-6株)をM.O.I.(multiplicity of infection;感染価)0.1で感染させ、5%の炭酸ガス存在下、37℃で培養した。4〜7日間培養し、ウイルス増殖極期にMVCを含む培養上清を回収し、それに終濃度4 mMのBEIを加え、37℃で3日間感作してMVCを不活化した。次に、この不活化したウイルス液をEMEM倍地で適宜希釈した後、水中油型アジュバント(Seppic社製)と9:1の割合で混合し、不活化MVCワクチンを調製した。
【0036】
<MVC力価測定法>
MVCのウイルス力価は以下に示す方法で測定した。すなわち、5%のFCSを含有するEMEMを用いて1 mlあたり3 x 105個の細胞数に調整したMDCK細胞の懸濁液0.2 mlと5%のFCSを含有するEMEMで10倍ずつ階段希釈したウイルス液0.1 mlとを混和後、8ウェルの螢光抗体法用組織培養用スライドガラス(Lab-Tek Chamber Slide、Nalge Nunc International社製)の各ウェル上に滴下し、5%の炭酸ガス存在下、37℃で培養した。5日後、培養上清を吸引除去し、リン酸緩衝食塩水(phosphate-buffered saline、PBS、pH 7.3)で細胞を洗浄した後、冷却アセトンで10分間細胞を固定した。続いて、アセトンを除去し、さらに風乾した後、細胞とPBSで100倍希釈したウサギ抗MVC血清とを37℃で30分間反応させた。次いで、細胞をPBSで3回洗浄し、PBSで1,000倍希釈したFITC標識抗ウサギIgGヤギIgG画分と37℃で30分間反応させたのち、細胞をPBSで洗浄し、螢光顕微鏡下で螢光標識されたMCV感染細胞を検出し、細胞が螢光標識された最大のウイルス希釈倍数をもってMVCのウイルス力価とした。
【0037】
2.不活化MVCワクチンの有効性判定
(1)ウイルス遺伝子検出による抗MVC効果の判定
<ワクチン接種、ウイルス攻撃、採材>
MVC抗体が陰性の妊娠5週の犬1頭に、不活化前ウイルス量として1 x 105 TCID50のMVCを含有する不活化MVCワクチン1mlを頚背部皮下に接種し、この初回接種から3週後に同ワクチン1mlを同様に追加接種した。陰性対照として、MVC抗体が陰性の妊娠5週の犬1頭にPBSを上記同様に注射した。
【0038】
ワクチン接種した犬から生まれた新生犬3頭をワクチン群(個体番号4〜6)、およびPBSを注射した犬から生まれた新生犬3頭を陰性対照群(個体番号1〜3)とした。
【0039】
生後7日目に、ワクチン群と陰性対照群の新生犬に1 x 103 TCID50/ml /頭のMVC GA3株を経口経鼻で接種し、攻撃後14日間、毎日体重測定および臨床観察を行うとともに直腸スワブを採材し、それを被験材料としてPCRでMVC遺伝子断片を検出した。PCRによるMVC遺伝子断片の検出は、以下に示したように行った。
【0040】
<PCRによるMVC遺伝子断片の増幅法>
採材した直腸スワブは、2mlのPBS中で攪拌・懸濁し、さらに滅菌精製水で100倍希釈した後、MVC遺伝子断片を増幅するための、すなわちウイルス粒子を検出してウイルス排泄の有無を判断するためのPCR (ポリメラーゼ連鎖反応)の試料(鋳型DNA)とした。PCRは以下のように実施した。すなわち、市販のPCRキット(Takara社製TaKaRa Taq TM)を使用し、(94℃、15秒)〜(55℃、30秒)〜(72℃、1分)を1サイクルとするDNA増幅工程を30回繰り返して、目的とするMVC遺伝子断片を増幅した。なお、センス・プライマーとしてpr226 (5'-cgggatccggatgcgacataggcagagttccatc-3')、およびアンチセンス・プライマーとしてpr227 (5'-gcgaattcgtggtatgcacctatatacaacggac-3')を合成し、本PCRに使用した。また、増幅した遺伝子断片はアガロースゲル電気泳動で検出した。
【0041】
<結果>
陰性対照群の新生犬(個体番号1〜3)においてウイルス攻撃後3〜5日にMVC遺伝子断片が検出され、攻撃ウイルスの排泄が認められた。一方、ワクチン群の新生犬(個体番号4〜6)においてはMVC遺伝子断片は検出されなかった(表1)。
【表1】

【0042】
以上の結果より、母犬にMVCワクチンを接種した場合、生まれた新生犬はMVCの感染を防御することが明らかになり、本発明のMVCワクチンにおける抗MVC効果が確認された。
【0043】
(2)中和抗体価の測定による不活化MVCワクチンの有効性判定
上述の(1)ウイルス遺伝子検出による抗MVC効果の判定における<ワクチン接種、ウイルス攻撃、採材>に記載されているようにしてウイルス攻撃を行った場合において、以下に示したように抗MVC中和抗体価を測定し、MVCワクチンの抗MVC効果を判定した。以下にその詳細を説明する。
【0044】
ウイルス攻撃時(ウイルス攻撃前)に全頭(個体番号1〜6)から採血し、陰性対照群(個体番号1〜3)については、さらに攻撃後1週および攻撃後2週にも採血し、各々について血中の抗MVC抗体価を測定した。
【0045】
<血中抗MVC中和抗体価の測定法>
被験血液から調製した血清をEMEMで2倍階段希釈し、その50μlと200 TCID50/50μlに調製したMVCウイルス液50μlとを混合した後、37℃で1時間、中和反応を行った。次いで、5%のFCSを含むEMEMを用いて1 mlあたり3x 105個の細胞数に調整したMDCK細胞懸濁液0.2 mlを分注した8ウェルの螢光抗体法用組織培養スライドガラス(Lab-Tek Chamber Slide、Nalge Nunc International社製)の各ウェル上に上記の中和反応液を滴下した後、5%の炭酸ガス存在下、37℃で培養した。5日後、上記同様に、一次抗体として100倍希釈したウサギ抗MVC血清を、また、二次抗体として1,000倍希釈したFITC標識抗ウサギIgGヤギIgG画分を用いた間接螢光抗体法を実施し、MVCに対する特異螢光が認められなかった最大の血清希釈倍数を求め、その希釈倍数をMVC中和抗体価とした。なお、MVCに対する中和抗体価の測定における陰性対照として、ワクチン未接種の2頭の母犬から調製した血清を用いた。
【0046】
<結果>
全試験期間を通して、ワクチンを接種した母犬において発熱や元気消失といった一般的な臨床観察上の異常および胎子死、死産、流産や萎小胎子などの胎子異常は認められなかった。また、ワクチン接種した母犬から生まれた新生犬においても一般的な臨床観察上の異常は認められなかった。以上の結果より、本発明で作製したワクチンの安全性が示された。
【0047】
ウイルス攻撃時の抗MVC中和抗体価すなわち母犬由来の移行抗体の抗体価は、陰性対照群の新生犬(個体番号1〜3)では検出されなかったが(<2)、ワクチン群の新生犬(個体番号4〜6)では256倍であった(表2)。このことより、ワクチン接種によって産生が誘導された抗MVC中和抗体が母犬から新生犬に移行したことが明らかになった。
【表2】

【0048】
以上の結果より、不活化MVCワクチンを母犬に接種することにより、その母犬から生まれてきた新生犬にMVC感染を防御するに十分な抗MVC抗体を移行できること、また、MVC感染が移行抗体で防御できることが明らかになった。このように、細胞性免疫に頼らず、移行抗体という液性免疫だけで新生犬におけるMVC感染が防御できることを具体的な事例を持って証明した例は過去になく、加えて、移行抗体によってMVC感染を防御できる安全で効果的なワクチンを作製した事例もこれまでになく、本発明が最初である。
【0049】
(実施例2)
1.不活化MVCおよび不活化CHVを抗原とした2価ワクチンの調製法
MVCのウイルス液および不活化は上記の方法で実施した。一方、CHV(CHV D004株)については、以下に示す操作で不活化した。すなわち、5%のFCSを含有する100 mlのEMEMを用いて5%の炭酸ガス存在下、37℃で培養して増殖させた約1 x 108個のMDCK細胞にCHVをM.O.I. 0.03〜0.01で感染させ、5%の炭酸ガス存在下、2%のFCSを含有する100 mlのEMEMを用いて34℃で培養した。4〜7日間培養し、ウイルス増殖極期にCHVを含む培養上清を回収し、それに終濃度4mMのBEIを加え、37℃で2日間感作してCHVを不活化した。以上のようにして得られた不活化MVCと不活化CHVとをワクチン1回投与量(1ml)中に含まれるMVCとCHVの不活化前ウイルス力価がそれぞれ1 x 105 TCID50となるようにPBSで希釈し、それらの希釈ウイルス液を水中油型アジュバント(Seppic社製)と混合して、MVCとCHVとを抗原とする2価のワクチンを調製した。なお、不活化MVC液と不活化CHV液とアジュバントは9:9:2の割合で混合した。
【0050】
<CHV力価測定>
CHVのウイルス力価は以下のように測定した。CHVのウイルス力価は、CHVがMDCK細胞に対して示す細胞変性効果(cytopathic effect、CPE)で測定した。すなわち、CHVのウイルス液をEMEMで10倍ずつ階段希釈し、その希釈ウイルス液を1 x 104個のMDCK細胞に加え、96ウェルの組織培養プレートを用い、2%のFCSを含有するEMEM中、5%の炭酸ガス存在下、37℃で培養した。7日後、組織培養プレートの各ウェル中の細胞を顕微鏡下で観察し、CHVによるMDCK細胞のCPEが認められた最大のウイルス希釈倍数を求め、CHVのウイルス力価とした。
【0051】
2.不活化MVC/CHVワクチンの有効性判定
(1)ウイルス遺伝子検出による抗CHV効果の判定
<ワクチン接種、ウイルス攻撃、採材>
MVC抗体およびCHV抗体が陰性の妊娠5週の犬1頭(母犬1)について、上述のように調製した、不活化前ウイルス量としてそれぞれ1 x 105 TCID50のMVCおよびCHVを含有する不活化MVC/CHVワクチン1mlを頚背部皮下に接種し、この初回接種から3週後に同ワクチン1mlを同様に追加接種した。陰性対照として、MVC抗体およびCHV抗体が陰性の妊娠5週の犬2頭(母犬2および3)にPBSを上記同様に注射した。
【0052】
ワクチン接種した母犬1から生まれた4頭の新生犬のうちの3頭(子犬1〜3)に対して、CHVによるウイルス攻撃を行った。残り1頭の新生犬(子犬4)はウイルス攻撃をしない攻撃対照とした。また、母犬2および3から生まれた4頭ずつ計8頭の新生犬(子犬5〜12)をワクチン未接種対照とし、ウイルス攻撃を行った。ウイルス攻撃は、生後3日目に1 x 104 TCID50/ml /頭のCHV GCH‐1株を経口経鼻接種で実施した。
【0053】
ウイルス攻撃時およびウイルス攻撃後1週にすべての新生犬から口腔スワブを採材し、それを被験材料としてPCRでCHV遺伝子断片を検出した。PCRによるCHV遺伝子断片の検出は、以下に示したように行った。
【0054】
<PCRによるCHV遺伝子断片の増幅法>
採材した口腔スワブを2mlのPBS中で攪拌・懸濁し、さらに滅菌精製水で10倍希釈した後、CHV遺伝子断片を増幅するための、すなわちウイルス粒子を検出してウイルス排泄の有無を判断するためのPCR の試料(鋳型DNA)とした。PCRは以下のように、第1段階のPCRで増幅した遺伝子断片をさらに第2段階のPCRで増幅する、いわゆるネステッドPCRを実施した。すなわち、市販のPCRキット(Takara社製 TaKaRa Taq TM)を使用し、(93℃、45秒)〜(56℃、30秒)〜(71℃、1分)を1サイクルとするDNA増幅工程を30回繰り返して、目的とするCHV遺伝子断片を増幅した。なお、この第1段階のPCRには、センス・プライマーとしてIE-1 (5'-gataattcagcttctagcgatg-3')、およびアンチセンス・プライマーとしてIE-2 (5'-gatctcacatctatagtttggag-3')を合成して使用した。
【0055】
第1段階のPCRで増幅したCHV遺伝子断片を含む溶液を滅菌精製水で10倍希釈したものを鋳型DNAとし、上記と同じ遺伝子増幅工程を実施し、目的とするCHV遺伝子断片を増幅した。なお、この第2段階のPCRには、センス・プライマーとしてIE-1N (5'-aaccaactccagctaaagcat-3')、およびアンチセンス・プライマーとしてIE-2N (5'-gttgattcattaggtaaagcatt-3')を合成して使用した。以上のように増幅したCHV遺伝子断片はアガロースゲル電気泳動で検出・解析した。
【0056】
<結果>
ワクチン未接種の母犬2および3から生まれた8頭の新生犬(子犬5〜12)については、ウイルス攻撃後1週の時点においてCHV遺伝子断片が検出された(表3)。一方、ワクチン接種した母犬1から生まれた3頭の新生犬(子犬1〜3)からは、いずれの時点においてもCHV遺伝子断片は検出されなかった。また、ワクチン接種した母犬1から生まれた新生犬のうち、ウイルス攻撃しなかった1頭(子犬4)についても、いずれの時点においてもCHV遺伝子断片は検出されなかった。
【表3】

【0057】
以上の結果より、母犬にMVC/CHVワクチンを接種した場合、生まれた新生犬はCHVの感染を防御することが明らかになり、本発明のMVC/CHVワクチンにおける抗CHV効果が確認された。なお、MVC単価のワクチンとMVC/CHVを混合した2価ワクチンとはMVC画分の調製が同じであることから、MVC/CHVワクチンを接種した犬へのMVC攻撃後における抗MVC効果は上述の(実施例1)において証明されている。
【0058】
(2)中和抗体価の測定による不活化MVC/CHV 2価ワクチンの有効性判定
上述の(1)ウイルス遺伝子検出による抗CHV効果の判定における<ワクチン接種、ウイルス攻撃、採材>に記載されているようにしてウイルス攻撃を行った場合において、以下に示したように抗MVC中和抗体価と抗CHV中和抗体価とを測定し、MVC/CHVワクチンの抗MVC効果および抗CHV効果を判定した。以下にその詳細を説明する。
【0059】
ワクチン接種した母犬1およびワクチン未接種の母犬2および3について、試験開始前および分娩後3日に、また、ワクチン接種した母犬1から生まれた新生犬(子犬1〜4)ならびに母犬2および3から生まれた新生犬(子犬5〜12)についてはウイルス攻撃時にそれぞれ採血し、血中の抗MVC中和抗体価および抗CHV中和抗体価を測定した。なお、ワクチン未接種の母犬2および3から生まれた新生犬(子犬5〜12)については、攻撃したCHVの感染によって死亡した子犬6および9を除いて、ウイルス攻撃後2週にも採血し、血中の抗CHV中和抗体価を測定して攻撃ウイルスによるCHV感染成立の有無を判定するための試料とした。抗MVC中和抗体価は上述の<血中抗MVC中和抗体価の測定法>に従って測定し、一方、抗CHV中和抗体価の測定は以下に示した50%プラーク減少法で行った。以下にその方法について詳細に説明する。
【0060】
<50%プラーク減少法による抗CHV中和抗体価の測定>
上記のスケジュールで採取した血液から血清を調製し、EMEMで2倍階段希釈した後、以下の操作の被験血清とした。各倍数の希釈血清、0.2 mlあたり400 PFU(plaque forming unit、プラーク形成単位)のウイルス力価のCHVウイルス液、およびEMEMで終濃度15%としたモルモット補体(Sigma社製)のそれぞれを0.4 ml、0.2 mlおよび0.2 mlの割合で混和し、37℃で60分間インキュベーションした後、6ウェルの組織培養プレートの各ウェル中で予め増殖させた4〜6 x 105個のMDCK細胞に添加した。次いで、5%の炭酸ガス存在下、37℃で60分間インキュベーションした後、混和液を吸引除去し、1%(v/v)の寒天(Difco Noble agar、Difco社製)、および2%(v/v)のFCSを含有するEMEMからなるソフト寒天(overlay agar)を各ウェルに2mlずつ重層した。続いて、5%の炭酸ガス存在下、37℃で5日間培養した後、1%(v/v)の寒天、ならびに2%(v/v)のFCSおよび0.01%(w/v)のニュートラルレッドを含有するEMEMからなるソフト寒天を各ウェルに2 mlずつ重層した。次に、5%の炭酸ガス存在下、37℃で1日間培養した後、血清処理していないCHVを感染させたMDCK細胞培養系に出現したプラーク数と比較して、プラーク数が50%以上減少した被験血清の最大希釈倍数を求め、CHVの中和抗体価とした。
【0061】
<結果1 中和抗体価の測定による不活化MVC/CHVワクチンの抗CHV効果>
表4から明らかなように、ワクチン接種した母犬1において、抗CHV中和抗体価は、試験開始前(ワクチン接種前)には検出限界以下(<2)であったが、ワクチン接種によって上昇し、分娩後3日の時点で128倍であった。このようなCHVに対する中和抗体は、対照としたワクチン未接種の母犬2および3では検出されなかった(<2)。一方、ワクチン接種した母犬1から生まれた4頭の新生犬(子犬1〜4)では、ウイルス攻撃時(生後3日)に32倍〜128倍の抗CHV中和抗体が検出された。これに反して、ワクチン未接種の母犬2および3から生まれた新生犬(子犬5〜12)は、ウイルス攻撃時には抗CHV中和抗体は検出されず(<2)、攻撃後2週には、CHV感染症を呈して死亡した子犬6および9を除いて、攻撃したCHVに由来する抗体の上昇(抗体価:32〜64倍)が認められた(表5)。
【表4】

【表5】

【0062】
以上の結果より、MVC/CHVワクチンを母犬に接種することで、新生犬に抗CHV中和抗体が移行し、その移行抗体によって新生犬がCHV感染を防御できることが明らかになり、本発明のMVC/CHVワクチンのCHV感染に対する効果が確認された。
【0063】
<結果2 中和抗体価の測定による不活化MVC/CHVワクチンの抗MVC効果>
表6から明らかなように、ワクチン接種した母犬1については、試験開始時(ワクチン接種前)の血中抗MVC抗体価は検出限界以下(<2)であったが、ワクチン接種によって上昇し、分娩後3日の時点では256倍以上であった。このようなMVCに対する中和抗体は、対照としたワクチン未接種の母犬2および3では検出されなかった(<2)。一方、分娩後3日において、ワクチン接種した母犬1から生まれた4頭の新生犬(子犬1〜4)では256倍以上の中和抗体価の抗MVC抗体が検出されたが、ワクチン未接種の母犬2および3から生まれた新生犬(子犬5〜12)では抗MVC中和抗体は検出されなかった(<2)(表7)。
【表6】

【表7】

【0064】
以上の結果より、MVC/CHVワクチンを母犬に接種することで、感染防御中和抗体価以上の抗MVC中和抗体が新生犬に移行し、その移行抗体によって新生犬がMVC感染を防御できることが明らかになり、本発明のMVC/CHVワクチンのMVC感染に対する効果が確認された。
【0065】
以上のように、本発明者らは、不活化MVCと不活化CHVを抗原とした2価ワクチンを、MVCおよびCHVが陰性の犬の場合に、妊娠前または妊娠初期〜中期の母犬に初回接種し、次いで分娩前に追加接種することで、MVC感染症およびCHV感染症のそれぞれを予防するのに十分な中和抗体価の抗MVC抗体と抗CHV抗体の産生を母犬に誘導できること、また、その中和抗体を効率良く母犬から新生犬に移行することができること、さらには、移行抗体によって新生犬のMVCやCHVに対する感染防御が可能なことを見いだした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
犬微小ウイルスを抗原として含有する犬微小ウイルス感染症予防ワクチン。
【請求項2】
抗犬微小ウイルス中和抗体が母犬から新生犬に移行する請求項1の母犬接種用ワクチン。
【請求項3】
犬微小ウイルスと、犬ヘルペスウイルス、犬パルボウイルス2型、犬アデノウイルス1型、犬アデノウイルス2型、犬ジステンパーウイルス、犬コロナウイルス、犬パラインフルエンザウイルス、ボルデテラ ブロンキサプティカ、各種レプトスピラ、犬インフルエンザウイルス、各種バベシアおよび各種ジアルジアからなる群より選択される1種以上の各種病原微生物とを抗原として含有し、中和抗体が母犬から新生犬に移行する多価ワクチン。