説明

感熱スクリーン印刷版の製版方法

【課題】感熱孔版原紙を用いて、耐刷性に優れるだけでなく、良好な画像を与えるスクリーン印刷版の製版方法を提供する。
【解決手段】
多孔性支持体に熱可塑性樹脂フィルムを積層してなる感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムを選択的に加熱して画像に対応する開口部を形成する感熱製版工程と、
感熱孔版原紙の多孔性支持体の側に液状の硬化性樹脂を塗布して多孔性支持体に該樹脂を含浸させる硬化性樹脂塗布工程と、
硬化性樹脂塗布工程で塗布された硬化性樹脂の上に液状の非硬化性流動体を塗布するとともに押圧して、製版済感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムの開口部に位置する硬化性樹脂を非硬化性流動体で置換する置換工程と、
置換工程で得られた感熱孔版原紙の非開口部に残留する硬化性樹脂を硬化させる硬化工程と、
とから少なくとも構成される感熱スクリーン印刷版の製版方法。さらに、硬化工程で得られた感熱孔版原紙に洗浄する洗浄工程を備えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐刷性に優れるだけでなく良好な画像を提供する感熱スクリーン印刷版の製版方法及び該製版方法によって製版されたスクリーン印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スクリーン印刷で用いられる版は、枠張りされた紗に感光乳剤を塗工して乾燥させた後、これに画像パターンを設けたマスクを重ねて露光することにより、非画像部を硬化させるとともに画像部の未硬化の感光乳剤を洗浄除去することで製版されていた。しかしながら、この製版方法では、専用の露光装置、暗室などの設備が必要であり、また、未硬化の感光乳剤を洗浄除去する際に出る廃液の処理が必要となるなどの欠点があった。
【0003】
一方、従来、多孔性支持体に熱可塑性樹脂フィルムを積層してなる感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムをサーマルヘッドなどの加熱装置で選択的に加熱して溶融させることにより画像に対応する開口部を設ける感熱製版も、簡便にスクリーン印刷版を得る方法として重用されている。この感熱製版は、暗室などの設備を必要とせず、通常の環境下で製版ができ、また、洗浄工程や廃液処理も必要とせず、環境負荷が小さいというメリットがある。
【0004】
しかし、感熱製版で良好な穿孔を得るためには、感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムの厚さを薄くしなければならないが、この厚さが薄すぎると衝撃や摩擦などでフィルムが破れ易くなり、印刷版の耐刷性が低下するという欠点があった。特に、ポスター、看板等の表示用途では、紙以外に樹脂版、金属板、陶板、コンクリートなど多種の基材に印刷する必要があるが、感熱製版で得られたスクリーン印刷版は、硬く凹凸の多い基材に印刷すると、バリ、ササクレ、砂粒などが版とこすれることにより、非開口部のフィルムが裂け、ピンホールが発生し、版の耐久性が著しく低下する。特に、バリがあると、たった1回の印刷で版にピンホールが発生することがある。また、版自体の強度も低いため、印刷により版が伸び、画像が変形する欠点があった。
【0005】
特開平7−89043号公報では、感熱孔版原紙を製版して得られたスクリーン印刷版の多孔性支持体の側に着色したウレタンエマルジョンをスキージでコーティングした後、乾燥してスクリーン印刷版の耐刷性、寸法安定性、位置合わせの作業性等を改善させることを提案しているが、ウレタンエマルジョンが版の開口部を塞いで画像を劣化させることがあり、特に細字部や細線部では、上記閉塞により、細字の欠けや細線の飛びが発生することがあり、また、より一層の耐刷性の向上も求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−89043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、感熱孔版原紙を用いて、耐刷性に優れるだけでなく、良好な画像を提供するスクリーン印刷版の製版方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的の下に鋭意研究した結果、感熱孔版原紙を感熱製版するとともに、該原紙の多孔性支持体側に硬化性樹脂を塗布して多孔性支持体に含浸させ、さらに該硬化性樹脂の上に非硬化性流動体の層を積層した後、感熱孔版原紙を多孔性支持体の側から押圧して感熱孔版原紙の開口部から硬化性樹脂を排除して非硬化性流動体に置換した後、感熱孔版原紙の非開口部に残留する硬化性樹脂を硬化させることにより、従来よりも耐刷性に優れるだけでなく、良好な画像を提供するスクリーン印刷版が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一局面によれば、
多孔性支持体に熱可塑性樹脂フィルムを積層してなる感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムを選択的に加熱して画像に対応する開口部を形成する感熱製版工程と、
感熱孔版原紙の多孔性支持体の側に液状の硬化性樹脂を塗布して多孔性支持体に該樹脂を含浸させる硬化性樹脂塗布工程と、
硬化性樹脂塗布工程で塗布された硬化性樹脂の上に液状の非硬化性流動体を塗布するとともに押圧して、製版済感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムの開口部に位置する硬化性樹脂を非硬化性流動体で置換する置換工程と、
置換工程で得られた感熱孔版原紙の非開口部に残留する硬化性樹脂を硬化させる硬化工程と、
から少なくとも構成される感熱スクリーン印刷版の製版方法が提供される。
【0010】
本発明の製版方法は、さらに、硬化工程で得られた感熱孔版原紙に洗浄する洗浄工程を備えてもよい。
【0011】
また、本発明の他の局面によれば、前記本発明の製版方法で製版されたスクリーン印刷版が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、感熱孔版原紙を製版するとともに、その多孔性支持体の側に硬化性樹脂を塗布して多孔性支持体に含浸させ、さらに、該硬化性樹脂の上に非硬化性流動体を塗布し、感熱孔版原紙を多孔性支持体の側から押圧して感熱孔版原紙の開口部から硬化性樹脂を通過させて非硬化性流動体に置換した後、硬化性樹脂を硬化させることとしたので、感熱孔版原紙の非開口部のみが硬化性樹脂によって補強され、また、硬化性樹脂が開口部を通過する際に開口部のフィルム残渣を除去し、硬化性樹脂が開口部に残留して塞ぐおそれもないので、耐刷性が向上するとともに画質も向上する。また、本発明の製版方法で得られスクリーン印刷版は、十分に補強されているため、従来の感熱スクリーン印刷版と異なり、多孔性支持体とフィルムとの接着が強化されて両者の剥離(デラミ)が防止され、また、版の洗浄が可能であり、版の再利用が可能であるため、同一の版を用いて長期間にわたり高画質の印刷が行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製版方法の一実施例における手順を示す断面図である。
【図2】本発明の製版方法の一実施例で得られたスクリーン印刷版の画像部の熱可塑性樹脂フィルムの表面の顕微鏡写真(キーエンス社製デジタルビデオマイクロスコープ「VH-1000(商品名)」を用いて倍率=対物x450で撮影したもの)である。
【図3】従来の感熱製版により得られたスクリーン印刷版の画像部の熱可塑性樹脂フィルムの表面の顕微鏡写真(キーエンス社製デジタルビデオマイクロスコープ「VH-1000(商品名)」を用いて倍率=対物x450で撮影したもの)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の製版方法は、前記感熱製版工程、前記硬化性樹脂塗布工程、前記置換工程、及び前記硬化工程から少なくとも構成され、これらの工程の前後または中間には、所望により他の工程を付加してもよい。
前記硬化工程は、前記置換工程の後に行う必要がある。前記置換工程は、前記硬化性樹脂塗布工程の後に行う必要がある。前記感熱製版工程は、前記置換工程の前に行えばよく、前記硬化性樹脂塗布工程の前後又は同時に行ってもよい。
【0015】
(1)感熱製版工程
本発明の感熱製版工程では、多孔性支持体に熱可塑性樹脂フィルムを積層してなる感熱孔版原紙を用意し、該熱可塑性樹脂フィルムを選択的に加熱して画像に対応する開口部を形成する。
【0016】
感熱孔版原紙は、多孔性支持体に熱可塑性樹脂フィルムを積層してなるものであれば特に限定されず、両者が接着剤を介して貼り合わされたものであっても、両者が熱接着等で直接貼り合わされたものであってもよい。
【0017】
熱可塑性樹脂フィルムとしては、加熱により開口部が形成される熱穿孔性又は熱収縮性のものであれば特に限定されず、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレート、ポリスルフォンサルファイド、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などが用いられる。これらの樹脂成分は単独もしくは混合して、または共重合体として用いてもよい。このうち、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルムが好ましく用いられる。熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、0.5〜50μmの範囲が好ましく、1〜20μmの範囲がより好ましい。
【0018】
多孔性支持体は、製版時に加熱により寸法が変化せず、印刷時にインキが通過できるものであれば特に限定されるものではなく、薄葉紙、抄造紙、不織布、織布、スクリーン紗の他、スポンジシートなどの連続気孔体などが挙げられる。このうち、ポリエステル、絹、綿、ナイロン、レーヨン、ステンレス等の紗を使用することが好ましい。多孔性支持体の坪量は 、1〜20g/m2 の範囲が好ましく、5〜15g/m2 の範囲がより好ましい。
【0019】
感熱孔版原紙としては、市販のものを用いることもできる。かかる市販品としては、理想科学工業株式会社製のRISOデジタルスクリーンマスター200P-32ASHQ、200P-32、70P-32(何れも商品名)などが挙げられる。
【0020】
感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムを選択的に加熱して画像に対応する開口部を形成する方法としては、感熱孔版原紙の製版に用いられている通常の方法を使用することができる。かかる製版方法しては、例えば、カーボンブラックやトナーなどの光を吸収して発熱する物質で形成された画像を感熱孔版原紙と重ね合わせ、赤外線ランプを光源として用いて該感熱孔版原紙に光を照射するいわゆるフラッシュ製版の他、レーザー光線、サーマルヘッドを熱源として用いて感熱孔版原紙に画像に対応する穿孔を施す方法が挙げられる。このうち、本発明の感熱製版工程は、サーマルヘッドのように、熱可塑性樹脂フィルムに画像に対応した独立穿孔の集合体を形成する加熱手段を用いて行うことが好ましい。
【0021】
(2)硬化性樹脂塗布工程
本発明の硬化性樹脂塗布工程では、感熱孔版原紙の多孔性支持体の側に液状の硬化性樹脂を塗布して多孔性支持体に該樹脂を含浸させる。
【0022】
硬化性樹脂としては、室温(25℃)で液状で多孔性支持体に含浸するものであり、かつ、硬化工程において硬化するものであれば特に限定されない。また、硬化性樹脂は、感熱孔版原紙への塗布操作が容易に行えるように、スクリーン印刷に適した流動特性を持つことが望ましい。また、硬化性樹脂は、硬化した後に、印刷時の衝撃に耐える柔軟性、伸びを生まない高い弾性と引っ張り強度を有するものであることが好ましい。かかる硬化性樹脂としては、紫外線硬化性樹脂、赤外線硬化樹脂、熱硬化性樹脂、湿気硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、パラフィン類、高周波の電波、各種電子線等によって硬化する樹脂などを用いることができる。硬化性樹脂は、光開始剤、粘度調整剤、重合開始剤などを適宜含有してもよい。
【0023】
このうち、好ましい硬化性樹脂は、紫外線硬化型樹脂のオリゴマーまたはモノマーから主として構成されるものである。かかるオリゴマーまたはモノマーとしては、例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリオール系の(メタ)アクリル酸変性された樹脂の各種オリゴマー及びモノマーなどが挙げられる。オリゴマーとしては、例えばエポキシアクリレート、エポキシ油化アクリレート、ウレタンアクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ビニルアクリレートなどを好ましく用いることができる。モノマーとしては、ジシクロペンテニルエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、フェノール・エチレンオキサイド変性アクリレートなどの単官能アクリレートや、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの多官能アクリレートを好ましく用いることができる。
【0024】
また、別の好ましい硬化性樹脂としては、湿気硬化型シリコーン樹脂が挙げられる。湿気硬化型シリコーン樹脂としては、空気中の水分や物質の表面のOH基と化学反応して硬化するものであれば、特に限定されない。湿気硬化型シリコーン樹脂としては、例えば、湿気硬化型シリコーンゴムが挙げられる。湿気硬化型シリコーンゴムの具体例としては、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製「TSE-399(商品名)」などが挙げられる。
【0025】
硬化性樹脂は、置換工程において非硬化性流動体と容易に置換されるようにチキソトロピー性を備えていることが好ましく、具体的には、非硬化性流動体と同等の、好ましくは非硬化性流動体よりも低い粘度及び/又は降伏値を備えることが望ましい。硬化性樹脂の粘度及び/又は降伏値は、粘度調整剤を添加することにより調整することができる。粘度調整剤としては、有機ベントナイト、有機ヘクトライト、各種ワックス、炭酸カルシウム、シリカ、スターチ類、金属石けん、石英、ガラス、ポリテトラフルオロエチレン等の粉体を用いることができ、必要に応じてゲル化剤を併用してもよい。
【0026】
硬化性樹脂の塗布は、多孔性支持体の全面に硬化性樹脂を均一に塗布できる方法であれば特に制限されず、例えば、刷毛、スプレー、ロールコーター、バーコーター等を使用して行うことができる。また、スキージを用いてスクリーン印刷の要領で行うこともできる。多孔性支持体の全面に硬化性樹脂を均一に含浸させた後は、余剰の硬化性樹脂を除去することが好ましい。
【0027】
(3)置換工程
本発明の置換工程では、硬化性樹脂塗布工程で塗布された硬化性樹脂の上に液状の非硬化性流動体を塗布するとともに押圧して、製版済の熱可塑性樹脂フィルムの開口部に位置する硬化性樹脂を非硬化性流動体で置換する。
【0028】
非硬化性流動体としては、室温(25℃)で液状で、製版済感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムの開口部に位置する硬化性樹脂を該開口部から押し出して置換するものであれば特に限定されない。非硬化性流動体は、感熱孔版原紙への塗布操作が容易に行えるように、スクリーン印刷に適した流動特性を持つことが望ましい。また、非硬化性流動体は、硬化工程での硬化性樹脂の効果を阻害しないものが好ましい。また、非硬化性流動体は、硬化性樹脂と混合せずにこれを上記開口部から押し出すために十分なチキソトロピー性を備えていることが好ましく、具体的には、硬化性樹脂よりも高い粘度及び/又は降伏値を備えることが好ましい。
【0029】
かかる非硬化性流動体としては、例えば、W/Oエマルジョンインキを使用することができる。かかるW/Oエマルジョンインキは、色材を含有していても含有していなくてもよい。W/Oエマルジョンインキの粘度及び/又は降伏値は、該インキの油相と水相の配合割合を変化させることにより容易に調整することができる。
【0030】
また、非硬化性流動体は、粘度及び/又は降伏値調整のための粘度調整剤を含有してもよい。粘度調整剤としては、硬化性樹脂に関して上記したものを使用することができる。また、非硬化性流動体は、置換操作時にフィルム残渣の除去を促進するよう、界面活性剤、溶剤等の洗浄剤成分を含んでも良い。非硬化性流動体への置換を確認しやすくするため、硬化性樹脂と非硬化性流動体に異なる色を付けておいてもよい。
【0031】
置換工程において、硬化性樹脂の上に液状の非硬化性流動体を塗布するとともに押圧する操作は、硬化性樹脂を押圧しながら非硬化性流動体を均一に塗布できる方法であれば特に制限されず、例えば、ローラーや、スキージを用いて行うことができる。例えば、硬化性樹脂塗布工程と感熱製版工程を経た感熱孔版原紙をフレームに張設し、該原紙の熱可塑性樹脂フィルム面を、テーブルに敷設された紙、織布、不織布等の樹脂吸収性シートの上に重ね合わせて配置し、硬化性樹脂が含浸された多孔性支持体の上面に非硬化性流動体をスクリーン印刷の要領でスキージで押圧しながら塗付することで置換工程を行える。このとき、スクリーン印刷と同様に、感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムの開口部に位置する硬化性樹脂は非硬化性流動体に押し出されて、上記樹脂吸収性シートに転位し、非硬化性流動体と置換する。樹脂の転位量は、スキージの圧力、速度、角度などで調節できる。該樹脂吸収性シートに形成された画像を目視で観察し、該樹脂吸収性シートに硬化性樹脂だけでなく非硬化性流動体も転位されたことが確認できれば、置換工程は終了してよい。非硬化性流動体が該樹脂吸収性シートに転位されていない場合は、再度スキージを用いて上記と同様の操作を行えばよい。
【0032】
(4)硬化工程
本発明の硬化工程では、置換工程で得られた感熱孔版原紙の非開口部に残留する硬化性樹脂を硬化させる。
【0033】
硬化工程は、使用する硬化性樹脂に応じて、感熱孔版原紙に紫外線、赤外線、熱等を照射することにより行うことができる。製版済感熱孔版原紙を樹脂吸収性シートの上に重ね合わせ前記置換工程を行った場合は、感熱孔版原紙を樹脂吸収性シートに重ね合わせた状態で、前記照射を行い、その後、該シートを感熱孔版原紙から剥離してスクリーン印刷版を得てもよい。また、硬化性樹脂が湿気硬化型シリコーン樹脂である場合は、感熱孔版原紙の多孔性支持体中で空気中又は支持体中若しくは非硬化性流動体中の水分と反応して硬化するので、硬化工程は、該樹脂を該多孔性支持体に含浸させた後、そのまま放置することにより行うことができる。
【0034】
(5)洗浄工程
本発明の洗浄工程では、硬化工程で得られた感熱孔版原紙に洗浄する。特に、感熱孔版原紙に残留するフィルム残渣や非硬化性流動体を除去するために行われる。この洗浄工程は、本発明の製版方法において、所望により行うことができる。また、この洗浄工程は、スクリーン印刷版を印刷に用いた後に保管する際、版から印刷インクを除去する工程として行ってもよい。
【0035】
洗浄工程で使用する洗浄剤は、水や有機溶剤等から適宜選択することができる。その際、界面活性剤等の薬剤を併用してもよい。また、ブラシやたわし等を用いて洗浄することもできる。本発明の製版方法で得られたスクリーン印刷版は、非開口部が補強されており、耐溶剤性が高められているので、有機溶剤を用いて十分に洗浄を行うことができ、同一の版を用いて長期間にわたり高画質の印刷が行える。
【0036】
(5)スクリーン印刷
かくして得られたスクリーン印刷版は、感光乳剤を用いて得られたスクリーン印刷版と同等またはそれ以上の耐久性を有するので、同様の方法及び設備を利用してスクリーン印刷を行うことができる。また、従来の感熱製版で得られたスクリーン印刷版よりも耐溶剤性が優れているので、溶剤系インク、UVインクなど従来よりも広範囲のインクを選択して印刷を行える。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1
図1に示す手順により、感熱スクリーン印刷版を作成した。図中、1は熱可塑性樹脂フィルム、1´は製版済感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルム、2は多孔性支持体、2´は硬化性樹脂(硬化前)が含浸された多孔性支持体、2´´は硬化性樹脂(硬化後)が含浸された多孔性支持体、3は置換剤、4は樹脂吸収シート、10は開口部である。
【0039】
1.感熱製版工程
理想科学工業株式会社製感熱孔版原紙「RISOデジタルスクリーンマスター200P-32(商品名)」を用意した(図1(a)参照)。該感熱孔版原紙を、理想科学工業株式会社製RISOデジタルスクリーン製版機「SP-400D(商品名)」に装着し、製版を行った。得られた製版済感熱孔版原紙をアルミ製スクリーン枠に張り、スクリーン印刷版を作成した(図1(b)参照)。
【0040】
2.硬化性樹脂塗布工程
スクリーン印刷版をフィルム1´の側が下向きになるよう設置し、版の下に樹脂吸収性シート4を敷いた。樹脂吸収性シート4としては、理想科学工業株式会社製印刷用紙「理想用紙A3(厚口)(商品名)」を用いた。スクリーン印刷版の多孔性支持体2上に紫外線硬化性樹脂(1)をスパチュラで適量とり、スキージを用いて版全体に均一に塗り広げた。その後過剰な樹脂は版上から回収した(図1(c)参照)。
【0041】
3.置換工程
スクリーン印刷版の下の樹脂吸収性シート4を別の印刷用紙に取り換えた。その後、スクリーン印刷版上に置換剤3として理想科学工業株式会社製W/O型エマルジョンインク「RISOインクZタイプ(レッド)(商品名)」をスパチュラで適量とり、スキージを用いて印刷動作と同様に均一に塗り広げた。始め、印刷用紙には紫外線硬化性樹脂が転移したが、印刷動作を繰返すとW/O型エマルジョンインクに置換され、画像に色が付いた。製版画像全体がW/O型エマルジョンインクで印刷されたことで、開口部のインク置換の完了を確認した(図1(e)参照)。
【0042】
4.硬化工程
版上から、余剰のW/O型エマルジョンインクを回収後、ハンディ紫外線(UV)照射装置を用いてUVを照射し紫外線硬化性樹脂を硬化させた。照射による過熱に留意し、全体に満遍なく、各面合計10秒以上照射し、硬化を完了させた。
【0043】
5.印刷
蒲田製作所製簡易スクリーン印刷機「SP-6050(商品名)」にスクリーン印刷版を設置し、スクリーン印刷を行った。
【0044】
ガーデン用コンクリート製敷石(285×285×45mm)に理想科学工業株式会社製W/O型エマルジョンインク「RISOインクZタイプ(黒)(商品名)」で文字を印字した場合、上記のようにして得られた本発明のスクリーン印刷版は、30枚印字後も、画像に異常や地汚れが発生しなかった。これに対し、上記感熱製版工程のみで得られた版は、3枚印字後に、フィルムにピンホールが多数生成し、砂目状に地汚れが発生し、画像が汚れた。
【0045】
ベニヤ板(100×100×10mm)に上記と同様のインクで文字を印字した場合、上記のようにして得られた本発明のスクリーン印刷版は、30枚印字後も、画像に異常や地汚れが発生しなかった。これに対し、上記感熱製版工程で得られた版は、5枚印字後に、地汚れが発生し、これは板角に接する場所で顕著であった。
【0046】
6.洗浄工程
アルコール系洗浄液「クリーンコール75(信和アルコール産業製)」を洗浄剤として用いて版面を洗浄し、インクを除去した。
インク洗浄動作による製版画像の欠け、飛び、地汚れの発生は見られなかった。
【0047】
実施例2
1.感熱製版工程
理想科学工業株式会社製感熱孔版原紙「RISOデジタルスクリーンマスター200P-32(商品名)」を用意した(図1(a)参照)。該感熱孔版原紙を、理想科学工業株式会社製RISOデジタルスクリーン製版機「SP-400D(商品名)」に装着し、製版を行った。得られた製版済感熱孔版原紙をアルミ製スクリーン枠に張り、スクリーン印刷版を作成した(図1(b)参照)。
【0048】
2.硬化性樹脂塗布行程
スクリーン印刷版をフィルム1´の側が下向きになるよう設置し、版の下に樹脂吸収性シート4を敷いた。樹脂吸収性シート4としては、理想科学工業株式会社製印刷用紙「理想用紙A3(厚口)(商品名)」を用いた。スクリーン印刷版の多孔性支持体2上にモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製湿気硬化型シリコーンゴム「TSE-399(商品名)」をスパチュラで適量とり、スキージを用いて版全体に均一に塗り広げた。その後過剰な樹脂は版上から回収した(図1(c)参照)。
【0049】
3.置換工程
スクリーン印刷版の下の樹脂吸収性シート4を別の印刷用紙に取り換えた。その後、スクリーン印刷版上に置換剤3として理想科学工業株式会社製W/O型エマルジョンインク「RISOインクZタイプ(ブルー)(商品名)」をスパチュラで適量とり、スキージを用いて印刷動作と同様に均一に塗り広げた。始め、印刷用紙には未硬化シリコーン樹脂が転移したが、印刷動作を繰返すとW/O型エマルジョンインクに置換され、画像に色が付いた。製版画像全体がW/O型エマルジョンインクで印刷されたことで、開口部のインク置換の完了を確認した(図1(e)参照)。
【0050】
4.硬化工程
版上から、余剰のW/O型エマルジョンインクを回収後、1時間放置した。その間、空気中の水分、及び上記W/O型エマルジョンインク中の水分と反応し、シリコーンゴムが硬化した。
【0051】
5.印刷
蒲田製作所製簡易スクリーン印刷機「SP-6050(商品名)」にスクリーン印刷版を設置し、スクリーン印刷を行った。
【0052】
ガーデン用コンクリート製敷石(285×285×45mm)に セイコーアドバンス社製溶剤系黒色スクリーン印刷インク「PALマット8−710ブラック(商品名)」で文字を印字した場合、上記のようにして得られた本発明のスクリーン印刷版は、30枚印字後も、画像に異常や地汚れが発生しなかった。これに対し、上記感熱製版工程のみで得られた版は、3枚印字後に、フィルムにピンホールが多数生成し、砂目状に地汚れ発生し、画像が汚れ、10枚印字後に、スキージエッジ部分にデラミが発生した。
【0053】
ベニヤ板(100×100×10mm)に理想科学工業株式会社製W/O型エマルジョンインク「RISOインクZタイプ(黒)(商品名)」で文字を印字した場合、上記のようにして得られた本発明のスクリーン印刷版は、30枚印字後も、画像に異常や地汚れが発生しなかった。これに対し、上記感熱製版工程のみで得られた版は、5枚印字後に、画像に地汚れが発生し、板角に接する場所で顕著に発生し、10枚印字後に、スキージエッジ部分にデラミが発生した。
【0054】
6.洗浄工程
酢酸エチルを洗浄剤として用いて版面を洗浄し、インクを除去した。
インク洗浄動作による製版画像の欠け、飛び、地汚れの発生は見られなかった。
置換用樹脂組成物(W/Oエマルジョン型樹脂組成物)
【0055】
実施例3
実施例1の硬化工程で得られたスクリーン印刷版を印刷工程に付さずに洗浄工程に付した後、スクリーン印刷版の画像部の熱可塑性樹脂フィルムの表面の顕微鏡写真を撮影した。また、実施例1の感熱製版工程で得られた従来の製版済感熱孔版原紙の画像部の熱可塑性樹脂フィルムの表面も同様に写真撮影した。その結果を図2及び図3に示す。
【0056】
図2から、本発明の製版方法で得られたスクリーン印刷版は、多数の隣接する開口部が独立して形成されるとともに、これらの開口部からフィルム残渣が除去されて大きく開いているので、インク通過性に優れ、品質の高い画像が提供されることがわかる。これに対し、図3から、従来の感熱製版で得られたスクリーン印刷版は、多数の隣接する開口部が独立して形成されているものの、開口部に縦方向の糸状のフィルム残渣が残っており、インク通過性が劣り、画像劣化の原因となることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の製版方法は、感熱孔版原紙を用いたスクリーン印刷の分野において有用である。
【符号の説明】
【0058】
1…熱可塑性樹脂フィルム
1´…製版済感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルム
10…開口部
2…多孔性支持体
2´…硬化性樹脂(硬化前)が含浸された多孔性支持体
2´´…硬化性樹脂(硬化後)が含浸された多孔性支持体
3…非硬化性流動体
4…樹脂吸収性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持体に熱可塑性樹脂フィルムを積層してなる感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムを選択的に加熱して画像に対応する開口部を形成する感熱製版工程と、
感熱孔版原紙の多孔性支持体の側に液状の硬化性樹脂を塗布して多孔性支持体に該樹脂を含浸させる硬化性樹脂塗布工程と、
硬化性樹脂塗布工程で塗布された硬化性樹脂の上に液状の非硬化性流動体を塗布するとともに押圧して、製版済感熱孔版原紙の熱可塑性樹脂フィルムの開口部に位置する硬化性樹脂を非硬化性流動体で置換する置換工程と、
置換工程で得られた感熱孔版原紙の非開口部に残留する硬化性樹脂を硬化させる硬化工程と、
から少なくとも構成される感熱スクリーン印刷版の製版方法。
【請求項2】
前記硬化性樹脂及び前記非硬化性流動体が何れもチキソトロピー性を有するものである、請求項1に記載の製版方法。
【請求項3】
さらに、硬化工程で得られた感熱孔版原紙に洗浄する洗浄工程を備える、請求項1に記載の製版方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の製版方法で製版されたスクリーン印刷版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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