説明

感熱孔版印刷用マスター

【課題】高画質の印刷画像が得られ、種類の識別や多孔性樹脂膜の欠点の検出が容易な感熱孔版印刷用マスターの提供。
【解決手段】(1)熱可塑性樹脂フィルム上に、樹脂を含む流動体を塗布し乾燥させて形成した多孔性樹脂膜を有し、該多孔性樹脂膜が色材を含有する感熱孔版印刷用マスター。
(2)色材が顔料である(1)記載の感熱孔版印刷用マスター。
(3)顔料が、分散剤を用いることなく樹脂溶液に顔料を分散した顔料分散体として流動体に配合されている(2)に記載の感熱孔版印刷用マスター。
(4)流動体が、溶解した合成樹脂を含む油中水型エマルションである(1)〜(3)のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感熱孔版印刷用マスターに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムにインキ透過性支持体として多孔性薄葉紙などを接着剤で貼り合わせ、且つフィルム表面にサーマルヘッドとのスティック防止のためのスティック防止層を設けたマスターが知られている。実際上、多孔性薄葉紙として麻繊維、合成繊維、木材繊維などを混抄したものにフィルムを接着剤で貼り合わせ且つフィルム表面にスティック防止層を設けたマスターが広く用いられている。しかし従来のマスターには次のような問題があった。
1)繊維の重なった部分とフィルムが接する部分に接着剤が大量に鳥の水掻き状に集積し、その部分においてサーマルヘッドによる穿孔が行われにくくなる。またその部分がインキの通過を妨げ、印刷ムラが発生する。
2)繊維自体がインキの通過を妨げ、印刷ムラが発生する。
3)多孔性薄葉紙などが高価であり、またラミネート加工によるロスも大きく、マスターが高価になる。
4)印刷された紙が重なると、インキがその重なった紙の裏面に付着する、裏移りが発生する。
【0003】
こうした点を解決すべく「フィルム」に繊維からなる「インキ支持体」を貼り合わせた感熱孔版印刷用マスターについて幾つかの提案がされているが(特許文献1〜5参照)、上記間題点を充分に解決したものは得られていない。
そこで、本発明者は感熱孔版印刷用マスターを色々な角度から検討した。その結果、多孔膜はインク通過を妨げ、且つサーマルヘッドによる穿孔を妨げるので、なるべく存在しない方が好ましいが、それではマスター自体のコシが弱く、印刷機における搬送に支障をきたすこと、及び多孔膜はフィルムと比較的小さな接点を有しながら、その構成要素はランダムで且つ適当な大きさの孔を形成していれば、インクの通過やサーマルヘッドによる穿孔を阻害しないことを見出し、特許文献6、7に係る発明について出願した。
【0004】
特許文献6の発明は、樹脂とその良溶媒、貧溶媒を含む流動体をフィルムに塗布し乾燥させて多孔性樹脂膜を形成した感熱孔版印刷用マスターに係るものである。また特許文献7の発明は、W/O(油中水滴)型エマルションを主体とした流動体をフィルム上に塗布し乾燥させて多孔性樹脂膜を形成した感熱孔版印刷用マスターに係るものである。前者の流動体は、乾燥過程においてその良溶媒の蒸発による相対的な貧溶媒の増加、液の濃縮などにより樹脂が析出し乾燥して三次元の網状構造体よりなる多孔性樹脂膜がフィルム上に形成される。後者の流動体は、乾燥過程において水滴の部分が乾燥して孔となり、多孔性樹脂膜がフィルム上に形成される。
【0005】
これらの感熱孔版印刷用マスターは従来のマスターよりも優れており、普通の使用状態では殆ど問題は発生しない。しかし、多孔性樹脂膜が有ることにより、熱可塑性樹脂フィルムに多孔性繊維膜を積層した従来のマスターとは、製版条件(穿孔エネルギー条件等)や印刷条件(インキの通り易さの違いによるインキの種類等)が大きく異なる。このため前記発明に係る多孔性樹脂膜を有するマスターに対応する条件設定をした孔版印刷装置において、従来のフィルムの上に多孔性繊維膜を積層したマスターをセットして印刷を行うと印刷不良が発生する。逆に、従来のマスターに対応した条件設定をした孔版印刷装置において、前記先願発明に係る多孔性樹脂膜を有するマスターをセットして印刷を行うと印刷不良が発生する。しかしながら、オペレータの目視によるマスターの種類の識別は困難である。更に、多孔性樹脂膜は色材を含まない場合には白色であり、欠陥が有っても目立たないため、製造時に欠陥を検出しにくいという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高画質の印刷画像が得られ、種類の識別や多孔性樹脂膜の欠点の検出が容易な感熱孔版印刷用マスターの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、次の1)〜7)の発明によって解決される。
1) 熱可塑性樹脂フィルム上に、樹脂を含む流動体を塗布し乾燥させて形成した多孔性樹脂膜を有し、該多孔性樹脂膜が色材を含有することを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。
2) 流動体に色材を含有させることにより、多孔性樹脂膜に色材を含有させたことを特徴とする1)に記載の感熱孔版印刷用マスター。
3) 色材が顔料であることを特徴とする1)又は2)に記載の感熱孔版印刷用マスター。
4) 顔料が、分散剤を用いることなく樹脂溶液に顔料を分散した顔料分散体として流動体に配合されていることを特徴とする3)に記載の感熱孔版印刷用マスター。
5) 顔料分散体がボールミルにより分散されたものであることを特徴とする4)に記載の感熱孔版印刷用マスター。
6) 流動体が、溶解した合成樹脂を含む油中水型エマルションであることを特徴とする1)〜5)のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
7) 熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に形成した多孔性樹脂膜の表面に、繊維状物質からなる多孔性繊維膜を積層したことを特徴とする1)〜6)のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高画質の印刷画像が得られ、種類の識別や多孔性樹脂膜の欠点の検出が容易な感熱孔版印刷用マスターを提供できる。
本発明では、多孔性樹脂膜に色材を含有させ、その色によって感熱孔版印刷用マスターの種類を目視で容易に見分けることが可能となる。また、製造時には多孔性樹脂膜の欠点の検出が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の感熱孔版印刷用マスターの一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明の感熱孔版印刷用マスター(以下、マスターということもある)の一例の模式断面図を図1に示す。この例では、熱可塑性樹脂フィルム1上に、多孔性樹脂膜2及び多孔性繊維膜3をこの順に有する多孔性支持体4が積層されて、積層体5が構成されている。各層の詳細については後述するが、多孔性繊維膜3はなくてもよい。また、必要に応じて後述する穿孔時の融着を防止する層を積層してもよい。
【0011】
−熱可塑性樹脂フィルム−
本発明で用いる熱可塑性樹脂フィルムとしては、材料、厚さ、大きさ、形状などに特に制限はなく、感熱孔版印刷用マスターに通常使用されている公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができる。
フィルムの材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−塩化ビニリデンコポリマー、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。
特に、二軸延伸した熱可塑性樹脂フィルムが好ましく、例えば、二軸延伸ポリエステル樹脂フィルム、二軸延伸ポリエチレン樹脂フィルム、二軸延伸ポリプロピレン樹脂フィルムなどが挙げられる。
フィルムの厚さは、0.5〜5μmが好ましく、1.0〜3μmがより好ましい。厚さが0.5μm未満では薄すぎて、後述する流動体(多孔性樹脂膜形成用塗布液)の塗布が困難となることがあり、5μmを超えるとサーマルヘッドでの穿孔が困難となることがある。
【0012】
−多孔性樹脂膜−
本発明における多孔性樹脂膜は、膜の内部及び表面に多数の空隙を持つ構造を有するもので、該空隙がインキの通過性の点から多孔性樹脂膜内において厚さ方向に連続構造であるものが望ましい。
多孔性樹脂膜の構造は、不定形の棒状、球状、又は枝状に連結した(和紙のような短い構成単位が絡み合っているものではなく、印刷などで形成される単純な形状の組み合わせでもない)複雑な三次元構造を有するもの、いわゆる糸瓜に似た構造、ハニカム状構造、蜂の巣状構造などが好適である。
【0013】
多孔性樹脂膜の平均孔径は2〜50μmが好ましく、より好ましくは5〜30μmである。平均孔径が2μm未満ではインキ通過性が悪い。そして、十分なインキ通過量を得るために低粘度インキを用いると、画像にじみや印刷中に印刷ドラムの側部や巻装されているマスターの後端から印刷インキが浸み出す現象が発生する。また、多孔質樹脂膜内の空膜率が低くなることが多く、サーマルヘッドによる穿孔を阻害しやすくなる。一方、平均孔径が50μmを超えると、多孔性樹脂膜によるインキの抑制効果が低くなり、印刷時に印刷ドラムとフィルムの間のインキが過剰に押し出され、裏汚れやにじみ等の不具合が発生する。即ち、平均孔径は小さすぎても大きすぎても良好な印刷品質が得られない。特に、多孔性樹脂膜内の空隙の平均孔径が20μm以下である場合、多孔性樹脂膜が厚い程、印刷インキが通りにくくなるので、多孔性樹脂膜の層の厚さによってインキの印刷用紙への転写量を制御することができる。そして多孔性樹脂膜の厚さが不均一であると印刷むらを生じることがあるので、厚さは均一であることが望ましい。
【0014】
流動体を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布した後の乾燥時の雰囲気温度は、無風乾燥時、送風乾燥時共に80℃以下であることが好ましい。温度が高いと乾燥が速く生産効率が高いが、特に乾燥の初期において高温環境に置くと、多孔性樹脂膜の正常な形成が妨げられ、得られる多孔性樹脂膜の空隙率が低くなったり、多孔性樹脂膜にひび割れが発生したりする場合がある為である。また、本発明では熱可塑性樹脂フィルムを扱っているため、80℃を超えるとフィルムが熱収縮し、得られるマスターの品質に悪影響を及ぼすことがある。実際にはフィルム単体の収縮開始温度は80℃よりも低いが、本発明ではフィルム上の流動体の気化熱によってフィルムが冷却されるので、乾燥時の環境温度が80℃以下で高温乾燥時間が適正であればフィルムの熱収縮は発生しない。適正な乾燥時間は実験によって求められる。乾燥時の雰囲気温度は80℃以下であれば特に問題は無いが、雰囲気温度があまりにも低いと乾燥速度が遅くなり生産性が低くなるので20℃以上であることが好ましい。
【0015】
流動体の粘度は50〜2000cPが好ましい。粘度が50cPよりも低いと、機械塗工時のフィルム搬送時に流動が発生しやすく、正常な多孔性樹脂膜形成が妨げられることがある。一方、2000cPを超えると、乾燥時の樹脂収縮によってフィルムにシワが発生しやすい上に、多孔性樹脂膜の空隙率も低くなりやすく、得られる膜のインキ通過性がよくない場合が多い。
流動体の乾燥前付着量は100g/m以下であることが好ましい。100g/mを超えると、塗布後の乾燥過程で液が流動しやすく、正常な多孔性樹脂膜形成が妨げられることがある。なお、インキ通過性を制御できる多孔性樹脂膜を形成するためには、流動体の乾燥前付着量は10g/m以上であることが好ましい。
【0016】
多孔性樹脂膜の厚さは2〜100μm、望ましくは5〜50μmである。2μmでは、サーマルヘッドによる穿孔後に穿孔部の背後に多孔性樹脂膜が残りにくく、インキ転写量が制御されずに印刷物の裏汚れが発生しやすい。また、多孔性樹脂膜のインキ転写量抑制効果は膜が厚いほど大きく、印刷時の紙へのインキ転写量は多孔性樹脂膜の厚さによって調節できる。
多孔性樹脂膜の密度は、通常0.03〜0.8g/m、望ましくは0.06〜0.4g/mである。密度が0.03g/m未満では膜の強度が不足し、また膜自体も壊れやすい。一方、0.8g/mを超えると印刷時のインキ通過性が悪くなる。
【0017】
次に、多孔性樹脂膜の形成方法について説明する。
第1の形成方法は、例えば特許文献1に開示されているように、多孔性樹脂膜を形成する樹脂の良溶媒(樹脂を溶解可能な溶媒を言う)と貧溶媒(実質的に樹脂を溶解せず、蒸発速度が前記良溶媒の蒸発速度より遅い溶媒を言う)とが互いによく溶け合う場合に用いられ、樹脂とその樹脂に対する良溶媒と貧溶媒とを含む流動体を熱可塑性樹脂フィルム上に半析出状態で塗布し乾燥させて形成する。この流動体は、乾燥過程において良溶媒が先に蒸発し、相対的に貧溶媒が増加し、樹脂の濃縮などにより樹脂が析出して、三次元網状構造を形成する。良溶媒と貧溶媒をそれぞれ一種ずつ用いる場合には、良溶媒の沸点は相対的に貧溶媒の沸点より低くなければならない。良溶媒と貧溶媒の選定は任意であるが、一般には沸点差が15〜40℃である場合に所望の特性を持つ多孔性樹脂膜が形成されやすい。沸点差が15℃未満の場合には、両溶媒の蒸発時間差が小さく、形成される膜が多孔性構造になりにくい。貧溶媒の沸点が高すぎる場合には、乾燥に時間がかかり生産性が劣るため、貧溶媒の沸点は150℃以下であることが望ましい。
【0018】
流動体中の樹脂濃度は使用する材料によって異なるが、通常は5〜30重量%程度である。5重量%未満では開口径が大きくなり過ぎたり、多孔性樹脂膜の厚さのむらが生じたりしやすい。逆に、30重量%を超えると多孔性樹脂膜が形成されにくく、あるいは形成されても孔径が小さくなり、所望の特性を得にくい。多孔性樹脂膜の平均孔径の大きさは雰囲気中の貧溶媒の影響を受け、一般にその良溶媒に対する割合が高いほど凝結量が多くなり、平均孔径は大きくなる。貧溶媒の添加比率は、樹脂や溶媒の種類により異なるので実験により適宜決定する必要がある。一般的に貧溶媒の添加量が多くなるに従い、多孔質樹脂膜の孔径が大きくなる。貧溶媒の添加量が多すぎると樹脂が析出し流動体が不安定になる。
この第1の形成方法では、一般的に糸瓜状構造の多孔性樹脂膜が形成され、エーテルやアセトンなど、蒸発の速い溶剤を選択して生産性を高めることができる。
【0019】
第1の形成方法に用いられる樹脂としては特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができる。その例としては、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、塩化ビニル−塩化ビニリデンコポリマー、塩化ビニル−アクリロニトリルコポリマー、スチレン−アクリロニトリルコポリマーなどのビニル系樹脂;ポリブチレン樹脂、ナイロンなどのポリアミド系樹脂;ポリフェニレンオキサイド樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂;アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明の目的であるインキ通過性に優れた多孔性樹脂膜を形成するためには、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0020】
多孔性樹脂膜の第2の形成方法は、多孔性樹脂膜を形成する樹脂の良溶媒と貧溶媒とが互いに混ざり合わない場合に用いられる。例えば、特許文献2に開示されているように、W/O型(油中水型)エマルションを主体とした流動体を熱可塑性樹脂フィルム上に塗布し乾燥して多孔性樹脂膜を形成する方法である。この多孔性樹脂膜は一般的にハニカム状構造、蜂の巣状の三次元的網状構造を有している。また、主として水分が乾燥により蒸発した後、インクが通過する孔となり、溶剤中の樹脂(フィラー、乳化剤などの添加物が含まれていてもよい)が構造体となる。
前記W/O型エマルションの形成には、比較的親油性の強いHLBが2.5〜6の界面活性剤が有効であるが、水相にもHLBが8〜20の界面活性剤を使用するとより安定で均一なW/O型エマルションが得られる。高分子界面活性剤の使用も、より安定で均一なエマルションを得る方法の一つである。また、水系にはポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの増粘剤の添加がエマルションの安定化に有効である。
【0021】
第2の形成方法に用いられる樹脂としては特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、エポキシ系樹脂、アミド系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、セルロース系誘導体、これらの変性物、又はこれらの共重合体などが挙げられる。これらの中でも、ビニルアセタール系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、ウレタン系樹脂が特に好ましい。
【0022】
第2の形成方法では、得られる多孔性樹脂膜の形状が樹脂の溶解度に依存しないので、温度や湿度の影響を受けにくく、形成される多孔性樹脂膜の形状の再現性が高い。また、処方の自由度が高く、多孔性樹脂膜を形成できる範囲が広いので、油相水相の比率や樹脂濃度、樹脂分子量などで流動体の粘度を調整し易い。更に、一般に流動体の固形分濃度が同じならば第1の形成方法よりも流動体の粘度が高粘度になる。
【0023】
多孔性樹脂膜には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、更に、必要に応じて、フィラー、帯電防止剤、スティック防止剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤などを添加することができる。
【0024】
前記フィラーは、多孔性樹脂膜の形成、強度、孔径の大きさ、コシなどを調節するために添加される。ここで、フィラーとは、顔料、粉体や繊維状物質も含まれる概念であり、これらの中でも、特に、針状、板状、又は繊維状のフィラーが好ましい。
フィラーとしては特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ケイ酸マグネシウム、セピオライト、チタン酸カリウム、ウオラストナイト、ゾノライト、石膏繊維などの鉱物系針状フィラー;非酸化物系針状ウイスカ、複酸化物系ウイスカなどの人工鉱物系針状フィラー;マイカ、ガラスフレーク、タルクなどの板状フィラー;カーボンファイバー、ポリエステル繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維などの天然又は合成の繊維状フィラーなどが挙げられる。また顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化亜鉛、二酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカなどの無機顔料などが挙げられる。
これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
フィラーの添加量は、樹脂材料100重量部に対し5〜200重量部が好ましい。添加量が5重量部未満ではカールが発生し易くなることがあり、200重量部を超えると、多孔性樹脂膜の強度が低下することがある。
【0025】
多孔性樹脂膜の乾燥後付着量としては、0.3〜20g/mが好ましく、0.5〜10g/mがより好ましい。付着量が0.3g/m未満では、インキ付着量が制御されずに印刷物の裏移りがひどくなることがあり、20g/mを超えるとインクの通過を阻害して画像が悪くなることがある。
熱可塑性樹脂フィルムヘの流動体の塗布方式としては、ブレード、トランスファーロール、ワイヤーバー、リバースロール、グラビア、ダイ等の従来一般的に用いられている塗布方式が使用でき、特に限定されるものではない。
【0026】
本発明のマスターにおける熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の接着強度は、1.4N/m以上が好ましく、2.8N/m以上がより好ましい。接着強度が1.4N/m未満では、ハンドリング及び搬送時に熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜との剥離が発生し、シワの原因となるばかりでなく、耐刷時にマスターの伸び、ハガレ、破れといった問題を引起こすことがある。なお、接着強度の上限は、インキ通過を阻害しない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
多孔性樹脂膜に含有させる色材としては公知のものが使用でき、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスカーボンなどのカーボンブラック類、アルミニウム粉、ブロンズ粉などの金属粉、弁柄、黄鉛、群青、酸化クロム、酸化チタンなどの無機顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料などのアゾ顔料、無金属フタロシアニン系顔料や銅フタロシアニン顔料などのフタロシアニン系顔料、アントラキノン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ジオキサンジン系、スレン系、ペリレン系、ペリノン系、チオインジゴ系、キノフラノン系、金属錯体などの縮合多環系顔料、酸性又は塩基性染料のレーキなどの有機顔料、ジアゾ染料、アントラキノン系染料などの油溶性染料、蛍光顔料などが挙げられる。また、無機粒子を有機顔料又はカーボンブラックで被覆した着色剤粒子を用いてもよい。染料は耐光性の面で劣るため、不溶性着色剤を使用することが好ましいが、色を補う目的で添加しても構わないし、色によって染料と顔料を使い分けてもよい。一般に顔料は耐光性に優れ、褪色の虞が小さい上に、染料に比べて低コストである。
これらの色材は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。分散された顔料の平均粒子径は0.1〜10μmが好ましい。
色材の添加量は多孔性樹脂膜の1〜20重量%程度が好ましい。1重量%未満では着色効果が低く、20重量%を上回ると多孔性樹脂膜の形状に影響を及ぼすことがある。
【0028】
色材は、流動体に含有させて用いることが好ましい。これにより、色材の添加によるインキ通過性阻害を発生させること無く、多孔性樹脂膜を着色することができる。また、マスターの製造時に、着色のために工程を増やす必要が無く、生産性にも優れる。
また、顔料は通常の場合、顔料分散体として用いるが、得られる多孔性樹脂膜の形状が変化してしまうので、顔料の分散に際し分散剤を用いることは好ましくない。樹脂と溶媒に顔料を添加して顔料を分散すれば、分散剤を用いなくても顔料を分散することができ、多孔性樹脂膜の形状への影響が無いので好ましい。
更に、分散に際し、ボールミルを用いれば、顔料分散処理中の溶剤揮発が無く、処方にズレが生じる虞が無いので好ましい。
【0029】
「通気度」は穿孔したマスターの空気通過量であり、マスターを印刷に供した場合に、優れた各種印刷特性を得るのに適したマスターのインキ通過性を示したものである。多孔性樹脂膜の通気度の値が一定であると考えれば、測定する際に穿孔されたフィルムの開口状態によって変化すると考えられる。
フィルムの穿孔状態はフィルムの種類によって変える必要があり、実際にマスターを印刷に供する場合に、優れた印刷特性を得るのに適切な穿孔状態、即ち開口面積率は、フィルムの種類等により異なる。通気度を測定した場合に、例えば開口面積率が65%で通気度の値が20〜160cm/cm・秒の範囲に入るとすれば、そのマスターは、ほぼ65%の開口面積率でフィルムを穿孔して印刷に供すると、本発明の目的とする印刷特性が得られることになる。通気度の数値範囲は、本発明のマスターの各種有用性をもたらす主たる因子である特定の多孔性樹脂膜によって主に決まっていることは言うまでもない。
【0030】
通気度は次のようにして測定する。
まずマスターに用いる熱可塑性樹脂フィルムを、その表面の開口面積率が20〜80%になるように穿孔する。このサンプルの通気度を、Permeameter(通気度試験機、東洋精機製作所製)を用いて測定する。通気度が20〜160cm/cm・秒であれば、本発明に用いることができると判断する。
開口面積率を20%以上として通気度を測定することにした理由は、20%より小さいと多孔性樹脂膜の通気度は十分であるとしても、印刷に供した場合にフィルム内におけるインキ通過性が不十分になりがちであるためである。
マスターの通気度は小さすぎても大きすぎても良好な印刷品質が得られない。通気度が20cm/cm・秒未満の場合には、多孔性樹脂膜がインキの通過を妨げやすく、一方、通気度が160cm/cm・秒を超えると、多孔性樹脂膜によるインキの抑制効果が低くなり、印刷時に印刷ドラムとフィルムの間のインキが過剰に押し出され嚢汚れやにじみ等の印刷むらが発生する傾向にある。
【0031】
多孔性樹脂膜上に多孔性繊維膜を積層したマスターにおいては、多孔性樹脂膜によりインキが均一に分散されるので、印刷画像品質に優れるとともに、多孔性繊維膜によりコシや強度が高められ、搬送性や耐刷性が向上する。また、多孔性繊維膜を積層しない場合よりも多孔性樹脂膜の付着量を少なくできるので、インキ通過性の高い多孔性樹脂膜を形成しやすい。
−多孔性繊維膜−
多孔性繊維膜としては、材料、大きさ、構造などについて特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができる。
その例としてはガラス、セピオライト、各種金属などの鉱物繊維;羊毛、絹などの動物繊維;綿、マニラ麻、コウゾ、ミツマタ、パルプなどの天然繊維;スフ、レーヨンなどの再生繊維;ポリエステル、ポリビニルアルコール、アクリルなどの合成繊維;カーボンファイバーなどの半合成繊維;ウィスカ構造を有する無機繊維などの薄葉紙が挙げられる。これらの中でも、天然繊維と合成繊維の混抄の多孔性繊維膜、合成繊維のみからなる多孔性繊維膜が好適である。前記天然繊維と合成繊維の混抄の多孔性繊維膜は比較的安価で、良好なインキ通過性や曲げ剛度が得られる。前記合成繊維のみからなる多孔性繊維膜は、機械的強度や帯電特性などの環境依存性が小さくて好ましい上に、天然繊維よりも細い繊維が入手可能で、インキの均一通過性に有利である。
【0032】
多孔性繊維膜を構成する繊維状物質の太さ(例えば直径)、長さ、形状については特に制限はなく、熱可塑性樹脂フィルムの穿孔直径、フィルムの厚さなどに応じて適宜選択することができる。
繊維状物質の太さ(直径)は20μm以下が好ましく、2〜10μmがより好ましい。直径が2μm未満では引張り強度が弱くなることがあり、20μmを超えるとインキ通過が妨げられて繊維による白抜け画像が生じることがある。
繊維状物質の長さは、0.1〜10mmが好ましく、1〜6mmがより好ましい。長さが0.1mm未満では、引張り強度が弱くなることがあり、10mmを超えると、分散を均一に行うのが困難になることがある。
多孔性繊維膜の坪量には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、2〜20g/mが好ましく、4〜10g/mがより好ましい。坪量が、20g/mを超えると、インキの通過性が低下して画像鮮明性が低下することがあり、2g/m未満では、インキ通過性の支持体として十分な強度が得られないことがある。
【0033】
多孔性繊維膜は市販品でもよいし、適宜形成したものであってもよい。
例えば、短繊維を湿式抄紙した抄造紙、不織布、織物、スクリーン紗などのいずれでもよい。これらの中でも、生産性、コスト面などから抄造紙が好適である。
多孔性繊維膜を形成する方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、特公昭49−18728号公報、特公昭49−8809号公報などに記載された方法により形成することもできる。
【0034】
多孔性繊維膜と多孔性樹脂膜とを有する多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせる方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に流動体を塗布し、少なくとも該多孔性樹脂膜の最外表層が乾燥し皮膜化した後に、接着剤が塗布された多孔性繊維層と貼り合せることが好ましい。多孔性樹脂膜が形成される前に多孔性繊維膜を積層すると、多孔性樹脂膜の形成を阻害して所望の多孔性樹脂膜が得られないことがある。また、前記接着剤は、多孔性樹脂膜の孔を閉塞する恐れがあるため、多孔性繊維膜に塗布する方が好ましい。
【0035】
多孔性繊維膜と、多孔性樹脂膜を有するフィルムとを貼り合わせる(ラミネートする)場合に用いる接着剤としては、インキ通過性の面から多孔性樹脂膜の孔を塞がないような高粘度の状態のものが好ましい。接着剤が、完全に硬化するまでの粘度としては、25℃において100cP以上が好ましく、300cP以上がより好ましい。
この場合、接着剤として溶剤型接着剤を使用すると多孔性樹脂膜が侵され、孔を閉塞してしまうため、少なくとも多孔性樹脂膜と多孔性繊維膜とが積層される時点において溶剤はない方が好ましく、この点から、無溶剤型接着剤、水性又はエマルション型接着剤が好適である。
【0036】
接着剤の塗布方法としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、(1)酢酸エチルなどの有機溶剤で希釈された塗工液を多孔性繊維層に塗布し、乾燥した後、多孔性樹脂膜と貼り合せる方法、(2)無溶剤のまま塗布する方法、などが挙げられる。これらの中でも、環境面及び残留溶剤が発生しない点から、前記(2)の方法が好ましい。
また、接着剤の塗布手段としては、例えば、ブレードコーティング法、リバースロールコーティング法、グラビアコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコーティング法、オフセットグラビアコーティング法、キスコーティング法、バーコーティング法などが挙げられる。
【0037】
接着剤としては、所定の接着強度を得るため及び上記条件を満たす点で、特にポリウレタン系接着剤が好適である。ポリウレタン系接着剤としては、低付着量で所望の接着強度が得られる無溶剤型ポリウレタン接着剤が好適である。また、前述のように多孔性繊維膜としては安価な天然繊維を含むものが好ましく用いられるので、水性又はエマルション型ポリウレタン接着剤では、塗工時に多孔性繊維膜の伸縮が発生し、カールなどを悪化させるという面からも無溶剤型ポリウレタン接着剤が好適である。
前記無溶剤型ポリウレタン接着剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(1)ポリオール成分とイソシアネート成分の反応により得られる一液湿気硬化型のウレタンプレポリマー、(2)ポリオール成分とイソシアネート成分に分かれた二液硬化型の接着剤、などが挙げられる。
前記ポリオール成分としては、両末端に水酸基を有する液体であれば特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができる。例えば、両末端に水酸基を有するポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、などが挙げられる。
【0038】
前記イソシアネート成分としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、2,4−ジイソシアネート−1−メチルシクロヘキサン、2,6−ジイソシアネート−1−メチルシクロヘキサン、ジイソシアネートシクロブタン、テトラメチレンジイソシアネート、o−,m−及びp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサヒドロメタキシリデンジイソシアネート(HXDI)、リジンジイソシアネートアルキルエステル(該アルキルエステルのアルキル部分は1〜6個の炭素原子を有することが好ましい)などの脂肪族又は脂環式ジイソシアネート;トルイレン−2,4−ジイソシアネート(TDI)、トルイレン−2,6−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート(MDI)、3−メチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、m−及びp−フェニレンジイソシアネート、クロロフェニレン−2,4−ジイソシアネート、ナフタリン−1,5−ジイソシアネート、ジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、及びこれらの混合物、などが挙げられる。
これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
多孔性繊維膜に無溶剤型ポリウレタン接着剤を塗布する場合、粘度が高すぎると繊維が脱落して塗工不良が発生するので、ロールを加熱することにより粘度を下げて塗工することが好ましい。無溶剤型ポリウレタン接着剤の塗工時の粘度は3000cP以下が好ましく、300〜1500cPがより好ましい。粘度が300cP未満では、多孔性樹脂膜と貼り合せた後に、開口部を閉塞してインキ通過性を阻害するおそれがあり、3000cPを超えると繊維層の繊維脱落が起こり易くなる。
【0040】
無溶剤型接着剤を用いた場合には、ロール状に巻かれたマスターの反応を促進させる目的で、キュアを行うことが好ましい。該キュアの温度としては、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。キュアの温度が50℃を超えると、熱可塑性樹脂フィルムの収縮が発生してカールの問題が生じることがある。なお、キュアの時間は、目的とする接着力が得られさえすれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0041】
本発明のマスターは、従来のマスター(熱可塑性樹脂フィルムと多孔性繊維膜との積層品)と異なり、穿孔阻害の影響を考慮する必要がない。従って、接着剤の付着量は、所望の接着強度が得られ、多孔性樹脂膜及び多孔性繊維膜の孔を閉塞しない範囲であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。通常は0.05〜3.0g/mが好ましく、0.1〜2.0g/mがより好ましい。
【0042】
本発明のマスターにおける熱可塑性樹脂フィルムと多孔性支持体間の接着強度、及び多孔性支持体を構成する膜同士の接着強度は、1.4N/m以上が好ましく、2.8N/m以上がより好ましい。接着強度が、1.4N/m未満では、ハンドリング及び搬送時に多孔性樹脂膜と多孔性繊維膜との膜剥離が発生し、シワの原因となるばかりでなく、耐刷時にマスターの伸び、ハガレ、破れといった問題を引き起こすことがある。なお、接着強度の上限はインキ通過が阻害されなければ特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0043】
本発明のマスターは、フィルムのサーマルヘッドに接触すべき片面に、穿孔時の融着を防止するため、シリコーンオイル、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、界面活性剤、帯電防止剤、耐熱剤、酸化防止剤、有機粒子、無機粒子、顔料、分散助剤、防腐剤、消泡剤等からなる薄層を設けることが望ましい。該融着防止の薄層の厚さは、好ましくは0.005〜0.4μm、より好ましくは0.01〜0.2μmである。
上記融着防止の薄層を設ける方法は特に限定されないが、水、溶剤等に希釈した溶液をロールコーター、グラビアコーター、リバースコーター、バーコーター等を用いて塗布し、乾燥することが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、以下に示す「部」はいずれも重量基準である。
【0045】
実施例1
<顔料分散体の作製>
下記処方の材料を用い、ポリビニルアセタール樹脂を酢酸エチルに溶解した後、青顔料を添加し、ボールミルで顔料を分散して顔料分散体を得た。

・青顔料(東洋インキ製造社製:CYANINE BLUE PRPL) 7.5部
・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製:エスレックKS−1) 7.5部
・酢酸エチル 85.0部

【0046】
<熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の作製>
下記処方の材料を酢酸エチル23.2部に溶解、分散した後、前記顔料分散体8.0部(青顔料:0.6部、KS−1:0.4部、酢酸エチル6.8部の構成)を添加した。
これを攪拌しながら、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)の1重量%水溶液30部をゆっくり添加して白濁した流動体(多孔性樹脂膜形成用塗布液:W/O型エマルション)を得た。
得られた流動体を20℃50%RHの雰囲気中で、厚さ1.8μmの熱可塑性樹脂フィルム(2軸延伸ポリエステルフィルム)上にダイコーターを用いて塗布・乾燥し、多孔性樹脂膜を形成した後、ロール状に巻き取った。乾燥後のフィルム上の多孔性樹脂膜付着量は1.6g/mであった。

・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製:エスレックKS−1) 0.4部
・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製:エスレックKS−3) 0.6部
・タルク(日本タルク社製:ミクロエースL−1) 1.0部
・ソルビタン脂肪酸エステル(日光ケミカルズ社製:SO−15) 0.1部
・変性シリコーンオイル(信越化学工業社製:KF6012) 0.1部
・アクリル系ポリマーO/W型エマルション 0.2部
(ジョンソンポリマー社製:Joncryl−711)

【0047】
<多孔性繊維膜の作製>
湿式抄紙により、繊度1.0dの芯鞘構造のポリエステル繊維60部と繊度0.3dの延伸ポリエステル繊維40部を抄紙し、120℃の温度で熱処理し、坪量7.0g/m、厚さ30.0μmの多孔性繊維膜を得た。
【0048】
<感熱孔版印刷用マスターの作製>
100℃に加温したロールコーターを用いて、前記多孔性繊維膜に一液型ウレタン接着剤(武田薬品工業社製:タケネートA242A)を、塗布量が0.2g/mとなるように延転塗布し、前記熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の多孔性樹脂膜側と重ね合わせ、積層体を得た。次いで、熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製:SF8422)の5重量%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後、巻き取り、30℃で3日間キュアし、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は0.03g/mであった。
【0049】
実施例2
<熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の作製>
下記処方の材料を酢酸エチル30部に溶解、分散した後、青インキ(東洋インキ製造社製:CCST39藍)1.2部を添加した。これを攪拌しながら、HECの1重量%水溶液30部をゆっくり添加して白濁した流動体(W/O型エマルション)を得た。
得られた流動体を20℃50%RHの雰囲気中で、厚さ1.8μmの2軸延伸ポリエステルフィルム上にダイコーターを用いて塗布・乾燥し、多孔性樹脂膜を形成してロール状に巻き取った。乾燥後のフィルム上の多孔性樹脂膜付着量は1.6g/mであった。

・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製:エスレックKS−1) 1.0部
・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製:エスレックKS−3) 0.6部
・タルク(日本タルク社製:ミクロエースL−1) 1.0部
・ソルビタン脂肪酸エステル(日光ケミカルズ社製:SO−15) 0.1部
・変性シリコーンオイル(信越化学工業社製:KF6012) 0.1部
・アクリル系ポリマーO/W型エマルション 0.2部
(ジョンソンポリマー社製:Joncryl−711)

【0050】
<感熱孔版印刷用マスターの作製>
100℃に加温したロールコーターを用いて、実施例1の多孔性繊維膜に一液型ウレタン接着剤(武田薬品工業社製:タケネートA242A)を、塗布量が0.2g/mとなるように延転塗布し、前記熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の多孔性樹脂膜側と重ね合わせ、積層体を得た。次いで、熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製:SF8422)の5重量%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後、巻き取り、30℃で3日間キュアして、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は、0.03g/mであった。
【0051】
実施例3
<熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の作製>
下記処方の材料を酢酸エチル30部に溶解、分散した後、青染料(アビシア社製:pro−jet cyan1)0.7部を添加した。これを攪拌しながら、HECの1重量%水溶液30部をゆっくり添加して白濁した流動体(W/O型エマルション)を得た。
得られた流動体を20℃50%RHの雰囲気中で、厚さ1.8μmの2軸延伸ポリエステルフィルム上にダイコーターを用いて塗布・乾燥し、多孔性樹脂膜を形成してロール状に巻き取った。乾燥後のフィルム上の多孔性樹脂膜付着量は1.6g/mであった。

・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製:エスレックKS−1) 1.0部
・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製:エスレックKS−3) 0.6部
・タルク(日本タルク社製:ミクロエースL−1) 1.3部
・ソルビタン脂肪酸エステル(日光ケミカルズ社製:SO−15) 0.1部
・変性シリコーンオイル(信越化学工業社製:KF6012) 0.1部
・アクリル系ポリマーO/W型エマルション 0.2部
(ジョンソンポリマー社製:Joncryl−711)

【0052】
<感熱孔版印刷用マスターの作製>
100℃に加温したロールコーターを用いて、実施例1の多孔性繊維膜に一液型ウレタン接着剤(武田薬品工業社製:タケネートA242A)を、塗布量が0.2g/mとなるように延転塗布し、前記熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の多孔性樹脂膜側と重ね合わせ、積層体を得た。次いで、熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製:SF8422)の5重量%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後、巻き取り、30℃で3日間キュアして、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は、0.03g/mであった。
【0053】
比較例1
<熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の作製>
下記処方の材料を酢酸エチル30部に溶解、分散した後、これを攪拌しながら、HECの1重量%水溶液30部をゆっくり添加して白濁した色材を含有しない流動体(W/O型エマルション)を得た。
得られた流動体を20℃50%RHの雰囲気中で、厚さ1.8μmの2軸延伸ポリエステルフィルム上にダイコーターを用いて塗布・乾燥し、多孔性樹脂膜を形成してロール状に巻き取った。乾燥後のフィルム上の多孔性樹脂膜付着量は1.6g/mであった。

・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製:エスレックKS−1) 1.0部
・ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製:エスレックKS−3) 0.6部
・タルク(日本タルク社製:ミクロエースL−1) 1.3部
・ソルビタン脂肪酸エステル(日光ケミカルズ社製:SO−15) 0.1部
・変性シリコーンオイル(信越化学工業社製:KF6012) 0.1部
・アクリル系ポリマーO/W型エマルション 0.2部
(ジョンソンポリマー社製:Joncryl−711)

【0054】
<感熱孔版印刷用マスターの作製>
100℃に加温したロールコーターを用いて、実施例1の多孔性繊維膜に一液型ウレタン接着剤(武田薬品工業社製:タケネートA242A)を、塗布量が0.2g/mとなるように延転塗布し、前記熱可塑性樹脂フィルムと多孔性樹脂膜の積層体の多孔性樹脂膜側と重ね合わせ、積層体を得た。次いで、熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製:SF8422)の5重量%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後、巻き取り、30℃で3日間キュアして、感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は、0.03g/mであった。
【0055】
実施例4
<感熱孔版印刷用マスターの作製>
実施例1で作製した流動体を20℃50%RHの雰囲気中、厚さ1.8μmの熱可塑性樹脂フィルム(2軸延伸ポリエステルフィルム)上にダイコーターを用いて塗布・乾燥し、多孔性樹脂膜を形成した後、ロール状に巻き取った。乾燥後のフィルム上の多孔性樹脂膜付着量は6.0g/mであった。
次いで熱可塑性樹脂フィルムの多孔性樹脂膜を積層している面と反対側に、シリコーンオイル(信越化学工業社製:SF8422)の5重量%トルエン溶液をグラビアコーティング方式により塗布、乾燥した後、巻き取り、本発明の感熱孔版印刷用マスターを得た。なお、乾燥後のSF8422の付着量は0.03g/mであった。
【0056】
上記各マスターの特性を以下のようにして測定し評価した。結果を纏めて表1に示す。

<種類識別>
多孔性樹脂膜の有無を色により識別できるかどうかについて、目視により、次の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:識別が可能
×:識別が困難

【0057】
<欠点検出>
多孔性樹脂膜の欠点(塗布ムラ)を目視により検出できるかどうかについて、次の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:検出可能
×:検出困難

【0058】
<画質>
各マスターを、リコー社製:サテリオA450(サーマルヘッド解像度400dpi)に供給し、サーマルヘッド式製版方式により、50mm×50mmの黒べたを有する原稿を用意して製版し、標準速度で100枚印刷した。
この印刷物について目視により次の基準で判定した。
〔評価基準〕
◎:黒べた部で白抜けが無い。
○:黒べた部で白抜けが目立たない。
△:黒べた部で白抜けはあるが実用上問題ない。
×:黒べた部で白抜けが目立つ。

【0059】
<開口面積率>
各マスターを、リコー社製:サテリオA450(サーマルヘッド解像度400dpi)に供給し、サーマルヘッド式製版方式により、100mm×100mmの黒べたを有する原稿を用意して製版した。
次いで、光学顕微鏡により200倍の倍率で穿孔部を写真撮影した。その写真をコンピューターに取り込み、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事製)により穿孔部をマーキングし、穿孔部の面積を全体の面積で割って、開口面積率を求めた。
【0060】
<通気度>
各マスターを、リコ社ー製:サテリオA450(サーマルヘッド解像度400dpi)に供給し、サーマルヘッド式製版方式により、100mm×100mmの黒べたを有する原稿を用意して製版した。マスターの製版された部分をPermeameter(通気度試験機、東洋精機製作所社製)を用いて通気度を測定した。
【0061】
<耐光性>
各マスターに紫外線を24時間照射し、目視により次の基準で評価した。
光源には、HLR100T−2(セン特殊光源社製)を用い、照射距離は100mmとした。
〔評価基準〕
◎:色に変化が認められない。
○:やや褪色が見られる。
−:評価対象外

【0062】
【表1】

【0063】
上記実施例1は、分散剤を用いずに作製した顔料分散体を使用して多孔性樹脂膜に着色を行った例である。分散剤を使用していないため、多孔性樹脂膜形成に最適な処方が保たれ良好な評価結果が得られた。
上記実施例2は、市販の顔料系既成インキを多孔性樹脂膜形成用塗布液(流動体)に添加した例である。市販のインキには、バインダー樹脂(塗料として用いた際に顔料が脱落することを防ぐための樹脂)や分散剤等が含まれるため、得られた多孔性樹脂膜の形状に影響が出ている。フィルムの開口面積率や通気度がやや低く、印刷画像には僅かに白抜けが見られるが、実用上の問題は無かった。
上記実施例3は、色材として染料を用いた例である。染料を用いているため、実施例1、2と比較すると色の耐光性がやや劣る。
上記比較例1は、多孔性樹脂膜が色材を含まない例である。印刷特性は良好であるが、目視による従来のマスター(多孔性樹脂膜を含まない感熱孔版印刷用マスター)との識別や、多孔性樹脂膜の欠点の検出は困難であった。
上記実施例4は、実施例1と同じく、分散剤を用いずに作製した顔料分散体を使用して多孔性樹脂膜に着色を行った例であるが、実施例1と異なり、多孔性樹脂膜上に多孔性繊維膜を積層していない。そのため、支持体としての多孔性樹脂膜の塗布量が実施例1よりも多く必要となり、結果的に実施例1よりも僅かに画質が劣る。しかし繊維膜を積層しないので生産性に優れるという利点がある。
【符号の説明】
【0064】
1 熱可塑性樹脂フィルム
2 多孔性樹脂膜
3 多孔性繊維膜
4 多孔性支持体
5 積層体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【特許文献1】特開平03−193445号公報
【特許文献2】特開昭62−198459号公報
【特許文献3】特開平04−7198号公報
【特許文献4】特開昭54−33117号公報
【特許文献5】特公平05−70595号公報
【特許文献6】特開平10−24667号公報
【特許文献7】特開平11−235885号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルム上に、樹脂を含む流動体を塗布し乾燥させて形成した多孔性樹脂膜を有し、該多孔性樹脂膜が色材を含有することを特徴とする感熱孔版印刷用マスター。
【請求項2】
流動体に色材を含有させることにより、多孔性樹脂膜に色材を含有させたことを特徴とする請求項1に記載の感熱孔版印刷用マスター。
【請求項3】
色材が顔料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の感熱孔版印刷用マスター。
【請求項4】
顔料が、分散剤を用いることなく樹脂溶液に顔料を分散した顔料分散体として流動体に配合されていることを特徴とする請求項3に記載の感熱孔版印刷用マスター。
【請求項5】
顔料分散体がボールミルにより分散されたものであることを特徴とする請求項4に記載の感熱孔版印刷用マスター。
【請求項6】
流動体が、溶解した合成樹脂を含む油中水型エマルションであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。
【請求項7】
熱可塑性樹脂フィルムの一方の面上に形成した多孔性樹脂膜の表面に、繊維状物質からなる多孔性繊維膜を積層したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の感熱孔版印刷用マスター。

【図1】
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【公開番号】特開2013−18135(P2013−18135A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151201(P2011−151201)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】