説明

感熱記録像の形成方法および感熱記録像形成用インク

【課題】基材の必要な部分だけに感熱記録像層を形成できるようにすること。
【解決手段】無色または淡色の塩基性染料および顕色剤を主成分とする感熱記録剤を含有するインクを基材に吹き付けて、そのインクの吹き付け部分に熱を加えて無色または淡色の塩基性染料と顕色剤との発色反応を利用して発色させることにより感熱発色画像を発現させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、必要な部分だけに感熱記録できるように、部分的に感熱発色画像を発現させることができる感熱記録像の形成方法およびその感熱記録像形成用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
無色または淡色の塩基性染料と顕色剤との発色反応を利用して熱により両発色物質を接触させて記録像を得る感熱記録紙は広く知られている。この感熱記録紙は、発色が非常に鮮明であることや、記録時に騒音がなく、装置も比較的安価でコンパクトであり、メンテナンスも容易であるなどの利点から、ファクシミリや自動券売機、科学計測器等の記録用媒体としてだけでなく、POSラベル、ATM、CAD、CRT医療画像用等の各種プリンター、プロッターの出力媒体として幅広い分野において使用されている。
【0003】
この感熱記録紙は、染料、顕色剤および増感剤(比較的低融点で融解し、染料および顕色剤の双方に対して良溶媒となる物質であって、記録感度を高めるもの)を湿式粉砕機で微粒化して乳化分散させたものに対して、炭酸カルシウム等の填料やポリビニルアルコール等のバインダー、その他、必要に応じて助剤を配合した塗料を、エアナイフコーター、ブレードコーター、カーテンコーター等の塗工機でシート状基材の全面に塗布して乾燥することにより製造されている。
【0004】
ところが、従来の感熱記録紙は基材全面に染料や顕色剤等を塗布しているため、印字しない部分に塗布された染料や顕色剤等の発色剤が無駄であり、経済的に問題があるとともに、その感熱記録紙を無害化処理する場合において環境上の負荷が増大することが懸念される。
【0005】
例えば、この種の感熱記録紙として、スティックがなく、耐薬品性および耐水性に優れた感熱記録体が特許文献1に開示され、耐水性に優れるとともに印刷適性および印字走行性が良好な感熱記録体が特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開平7−266711号公報
【特許文献2】特開2004−299288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、基材の必要な部分だけに感熱記録像を形成することができる方法およびその感熱記録像形成に用いるためのインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、無色または淡色の塩基性染料および顕色剤を主成分とする感熱記録剤を含有するインクを基材に吹き付けて、そのインクの吹き付け部分に熱を加えて無色または淡色の塩基性染料と顕色剤との発色反応を利用して発色させることにより感熱発色画像を発現させることを特徴としている。
【0008】
インクの粘度は、100cPa・s以下であることが好ましい。インクを吹き付けるインクジェットヘッドの詰まりを防止するためである。
【0009】
インクの構成成分の平均粒子径は、2μm以下であることが好ましい。インクを吹き付けるインクジェットヘッドの詰まりを防止するためである。
【0010】
また、画像の保護および定着用の樹脂を含有するオーバーコート剤を感熱発色画像上に吹き付けることが好ましい。発色部分を保護するためである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は感熱記録剤を含有するインクを基材に吹き付けて感熱発色画像を発現させる方法であるから、基材の必要な部分だけに感熱記録像を形成することができる。
【0012】
基材の形状は問わないので、曲面部分であっても、適切な熱源(例えば、レーザー光)でインク吹き付け部分を加熱することにより印字が可能である。
【0013】
余分な発色剤を使わないので、経済的であり、無害化処理に伴う環境への負荷が少ない。
【0014】
また、本発明の感熱記録剤を含有するインクを対象とする基材に吹き付けて潜在画像を形成しておき、その吹き付け部分の温度を上昇させることにより潜在画像を顕在化させ、感熱発色画像を発現させることができる。この潜在画像形成機能を利用すれば、本発明は後記するように、工程管理ラベルまたは不正防止ラベルとして応用することができる。
【0015】
さらに、従来の感熱記録紙は、バーコーター、グラビアコーター等の塗工機を用いて基材に発色剤を塗布していたため、塗布時に基材に剪断応力が付加される。そのため、発色剤が基材に圧入されやすく、塗布ムラの発生や塗布量が必要以上に多くなるという問題があったが、本発明の感熱記録剤を含有するインクは、公知のインクジェット装置のインクカートリッジに収容して基材に吹き付けて熱を加えるだけで印字できるので、基材に剪断応力が付加されることはなく、少ない発色剤で高い印字濃度を得ることができる。
【0016】
特に、画像の保護および定着用の樹脂を含有するオーバーコート剤を感熱発色画像上に吹き付けることにより、摩擦による発色汚れの防止や発色部分の保護に効果をあげることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の感熱記録剤を含有するインクを吹き付ける基材の種類や形状や機能などは何ら限定されるものでなく、あらゆる基材を対象とすることができる。また、その厚さは任意であるが、例えば、10〜300μm程度のものが、各分野において比較的多く用いられている。
【0018】
例えば、通常の紙の他に、合成紙、あるいはポリエチレン、透明性を有するポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、塩化ビニルなどのプラスチックフィルムを用いることができる。これらプラスチックフィルムを用いる場合には、インクの定着性を改善するために、基材の表面にマット処理、コロナ処理などの表面処理を施すのが好ましい。特に、2軸延伸されたポリエチレンテレフタレートシートが強度、耐熱性、寸法安定性等において優れており、好ましい。さらには、これらに白色原料や充填剤を加えて成膜した白色不透明フィルムあるいは発泡させた発泡シート等も使用できる。また、上記材料の積層体も使用可能であり、代表的には、セルロース繊維と合成紙、セルロース繊維とプラスチックフィルムまたはプラスチックフィルムと合成紙の積層体等を挙げることができる。
【0019】
通常の紙の原料としては、例えば、広葉樹クラフトパルプ、天然パルプ、合成パルプ等が挙げられる。天然パルプとしては、通常に製紙用に用いられるパルプであれば、いずれも使用可能である。すなわち、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等が挙げられる。また、木材繊維を含む主原料として、化学的に処理されたパルプ、木材以外の繊維原料であるケナフ、麻、葦等非木材繊維を主原料として化学的に処理されたパルプやチップを機械的にパルプ化したグランドパルプ、木材またはチップに化学薬品を添加しながら機械的にパルプ化したケミグランドパルプ、及びチップを軟らかくなるまで蒸解した後、レファイナー等でパルプ化したセミケミカルパルプ等のバージンパルプ等が挙げられる。また、必要に応じて、合成パルプ、合成繊維、無機繊維等の各種繊維状物質を原料として用いることができる。また、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙等を原料として製造された古紙パルプを配合することもできる。
【0020】
本発明の基材が紙からなる場合は、上記原料を用いて抄紙して製造することができる。抄紙は、例えば、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、オントップ抄紙機、ハイブリッド抄紙機または丸網抄紙機等の抄紙機を用いて抄紙することができる。抄紙する際には、パルプに、インクジェット記録用紙を製造する際に通常に用いられる添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール系高分子化合物、尿素樹脂、メラミン樹脂、澱粉等の紙力増強剤:硫酸バンド等の薬品定着剤:ポリアクリルアミド、アクリルアミド−アミノメチルアクリルアミドの共重合体の塩、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド−アクリル酸ナトリウムの共重合物等の濾水性あるいは歩留まり向上剤:ロジンサイズ、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)等のサイズ剤:ポリアミド、ポリアミン、エピクロルヒドリン等の耐水化剤:消泡剤、タルク等の填料:染料:色顔料:抗菌剤:紫外線吸収剤:pH調整剤等を挙げることができる。
【0021】
本発明で使用する塩基性染料は、感熱記録紙分野で公知のものはすべて使用可能であり、特に限定されるものではないが、トリフェニルメタン系化合物、フルオラン系化合物、フルオレン系化合物、ジビニル系化合物等を用いることができる。代表的な無色または淡色の塩基性染料の具体例を示すと、トリフェニルメタン系ロイコ染料としては、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリドや3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)フタリドを挙げることができ、フルオラン系ロイコ染料としては、3−ジエチルアミノ−6−メチルフルオランや3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオランを挙げることができ、フルオレン系ロイコ染料としては、3,6,6’−トリス(ジメチルアミノ)スピロ〔フルオレン−9、3’−フタリド〕や3,6,6’−トリス(ジエチルアミノ)スピロ〔フルオレン−9、3’−フタリド〕を挙げることができ、ジビニル系ロイコ染料としては、3,3−ビス−〔2−(p−ジメチルアミノフェニル)−2−(p−メトキシフェニル)エテニル〕−4,5,6、7−テトラブロモフタリドや3,3−ビス−〔2−(p−ジメチルアミノフェニル)−2−(p−メトキシフェニル)エテニル〕−4,5,6、7−テトラクロロフタリドを挙げることができる。塩基性染料の配合量は、特に限定されるものではないが、インクの絶乾重量100%に対して、8〜15重量%が好ましい。
【0022】
本発明で使用する顕色剤は、各種公知のものが使用可能である。例えば、ヒドロキノンモノベンジルエーテル、4−イソプロポキシ−4’−ヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4−4’−ジヒドロキシジフェニルメタンなどを挙げることができる。塩基性染料と顕色剤の配合比率は、用途に応じて適宜選択されるものであり、特に限定されるものではないが、一般に塩基性染料100重量部に対して、顕色剤は150〜200重量部が好ましい。
【0023】
本発明のインクが溶剤系である場合、塩基性染料と顕色剤を接着するバインダーとしては、本発明の所望の効果を阻害しない範囲で有機溶媒に可溶な樹脂を用いることができる。例えば、有機溶媒としては、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エーテル・アセタール類、ケトン類、エステル類を単独あるいは混合有機溶媒として用いることができる。有機溶媒系で使用されるバインダーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリスチレン、アクリル酸エステル・スチレンコポリマー、ポリエステル樹脂、ポリα−メチルスチレン、ABS樹脂、クマロン樹脂、ニトロセルロース、エチレン・酢ビコポリマーなどを挙げることができる。また、水性系で使用されるバインダーとしては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ジイソブチレン・無水マレイン酸共重合体塩、スチレン・無水マレイン酸共重合体塩、エチレン・アクリル酸共重合体塩、スチレン・アクリル酸共重合体塩、尿素樹脂、メラミン樹脂、アミド樹脂、スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリウレタン系ラテックスなどを挙げることができる。バインダーの使用量は、特に、限定されるものではないが、インクの絶乾重量100%に対して、1〜85重量%が好ましく、5〜60重量%がより好ましい。
【0024】
また、本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、従来公知の増感剤を配合することができる。例えば、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、シュウ酸ジベンジル、シュウ酸ジ−p−メチルベンジルエステル、シュウ酸ジ−p−クロロベンジルエステル、テレフタル酸ジメチルエステル、テレフタル酸ジベンジルエステルなどを挙げることができる。これら増感剤の配合量は特に限定されるものではないが、塩基性染料100重量部に対して400重量部を超ない範囲で添加するのが好ましい。
【0025】
また、本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、ケイソウ土、タルク、酸化チタン、水酸化アルミニウムなどの無機または有機の充填剤を添加することができる。
【0026】
また、本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、グルタールアルデヒド、ジアルデヒドスターチ等の多価アルデヒド系化合物、ポリエチレンイミン等のポリアミン系化合物、エポキシ系化合物、ポリアミド樹脂、グリセリンジグリシジルエーテル等のジグリシジル系化合物などの架橋剤を添加することができる。
【0027】
また、記録像の保存安定性を高めるために、保存性改良剤を添加することができる。例えば、保存性改良剤としては、2−2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4−ベンジルオキシ−4’−(2,3−グリシジルオキシ)ジフェニルスルホン、ノボラック型樹脂などを挙げることができる。
【0028】
また、感熱記録像が記録機器や記録ヘッドとの接触によってスティッキングを生じないように、ステアリン酸ワックス、ポリエチレンワックス、カルナバロウワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルボキシ変成パラフィンワックス、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、シリコンオイルなどを添加することができる。
【0029】
さらに、本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、アセチレングリコール、ジアルキルスルホコハク酸塩などの界面活性剤、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレンワックス、カルナバロウなどの滑剤、ベンゾフェノン系やトリアゾール系の紫外線吸収剤、グリオキザールなどの耐水化剤、分散剤、消泡剤、酸化防止剤、蛍光染料、光安定化剤、粘度調整剤、老化防止剤、pH調整剤、消泡剤、各種安定剤などを添加することができる。
【0030】
無色または淡色の塩基性染料、顕色剤、および必要に応じて添加される他の化合物は、ボールミル、アトライタ、サンドミルなどの粉砕機あるいは適当な乳化装置によって、一緒にまたは別々に分散剤とともに2μm以下の平均粒子径になるまで微粒化することができる。なお、本明細書において、平均粒子径とは、日機装(社)製のマイクロトラック粒度分析計(HRA9320−X100型)で測定した体積平均粒子径をいう。
【0031】
本発明のインクが感熱発色して画像を発現させるための熱源としては、特に限定されるものではないが、例えば、サーマルヘッド、レーザーなどを用いることができる。
【0032】
また、感熱発色画像を保護・定着させるために、保護・定着用の樹脂を含有するオーバーコート剤を、その感熱発色画像の上に吹き付けることもできる。保護・定着用の樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)を挙げることができ、その助剤としては、PVAの架橋剤としてのグリオキザール、ポリアクリルアミドなどを挙げることができる。オーバーコート剤の塗布量は、限定されるものではないが、乾燥重量で、0.5〜20g/m2、好ましくは1〜10g/m2程度の範囲に調整される。
【0033】
さらに、発色感度を高める目的で、填料を含有する高分子物質等のアンダーコート層をあらかじめ感熱発色画像の下に形成しておくこともできる。係る高分子物質としては、例えば、カプロン酸アミド、カプリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルシン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、N−メチルステアリン酸アミド、ステアリン酸アニリド、ベンズアニリド、リノール酸アニリド、ポリエチレングリコール、1−ベンジルオキシナフタレン、2−ベンジルオキシナフタレン等を挙げることができる。
【0034】
そして、基材の感熱発色画像とは反対側の面にバックコート層を設け、カールの矯正を図ることもできる。さらに、必要に応じて、基材の感熱発色画像とは反対側の面に帯電防止層を設けたり、粘着剤を塗布することもできる。
【0035】
また、本発明のインクは溶剤系でも水系でもよいが、環境に対する負荷の点からは水系が好ましい。
【0036】
また、本発明のインクをインクジェット装置のインクカートリッジに収容してノズルから噴射する場合、ノズル端面での水分蒸発に伴うインクの粘度上昇やノズル周辺へのインク濃縮物の付着によるノズル目詰まりを防止するために、乾燥防止剤を添加することができる。乾燥防止剤は、インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり、通常水の沸点以上の沸点を有するものが使用される。このような乾燥防止剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類を挙げることができる。
【0037】
また、本発明のインクには、浸透剤を添加することができる。浸透剤は、基材へのインクの浸透や基材上でのドット径の調整を行うものであり、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等を挙げることができる。
【0038】
また、基材は、インクの浸透性や定着性をコントロールするために、下塗りやコロナ放電等の下処理を施すことができる。
【0039】
さらに、各層の形成後に、スーパーカレンダー仕上げ等の平滑化処理を施すなど、感熱記録像形成分野における各種公知の技術を必要に応じて付加することができる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において適宜変更と修正が可能である。
【0041】
(1)感熱記録剤を含有するインクの製造
以下の配合の各分散液の構成成分の平均粒子径に関して、分散液Aについては0.6μm、分散液Bについては1.0μm、分散液Cについては1.0μmになるまで、サンドミルを用いて湿式粉砕した。
〈染料分散液A〉
3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン(ロイコ染料、山本化成社製のODB−2) 100重量部
スルホン酸基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製のゴーセランL−3266) 8重量部〈顕色剤分散液B〉
4−イソプロポキシ−4’−ヒドロキシジフェニルスルホン 100重量部
スルホン酸基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製のゴーセランL−3266) 8重量部
〈増感剤分散液C〉
シュウ酸ジ−P−メチルベンジルエステル 100重量部
スルホン酸基変性ポリビニルアルコール(日本合成化学社製のゴーセランL−3266) 8重量部
上記分散液A、B、Cおよびポリビニルアルコール(クラレ社製のPVA110)を10対20対10対30の重量比率で混合し、最後に固形分濃度が10重量%になるように水で希釈して、本発明の実施例のインクを得た(粘度が50cPa・sのもの)。
【0042】
また、本実施例のインクと比較するめに、希釈水量を変えるかサンドミルの粉砕時間を調整することにより、粘度が100cPa・sを超えるか又は構成成分の平均粒子径が2μmを超える比較例のインクも製造した。
【0043】
(2)基材の選定
シート状の市販のマットコートタイプのインクジェット用紙を使用した。なお、基材の形状や種類は任意に選定することが可能である。基材の形状によっては、それに応じたインクジェット装置が必要で、基材の種類によっては、基材へのインクの定着性を考慮してバインダーその他の助剤を選定するのが好ましい。
【0044】
(3)インクの粘度とインク構成成分の平均粒子径の検討および潜在画像の形成
上記のようにして得たインクを市販のインクジェットプリンター(キャノン社製のBJC−455J)のインクカートリッジに詰めて、上記インクジェット用紙に色々な形状の潜在画像を吹き付ける実験を行った。インクの乾燥は自然乾燥(放置)により行ったが、強制乾燥でもよい。なお、染料として、青発色性染料、緑発色性染料、赤発色性染料、黒発色性染料または近赤外吸収染料を用いれば、カラーの潜在画像を形成することができる。
【0045】
上記のインク吹き付け実験の結果、インクの粘度が100cPa・sを超えるか、またはインク構成成分の平均粒子径が2μmを超えるものでは、インクジェットヘッドの目詰まりを起こしやすい傾向があった。
【0046】
そして、潜在画像形成部分にドライーの熱風(約70℃)を吹き付けて乾燥させると、潜在画像が顕在化して発色画像が発現したことを確認した。
【0047】
(4)サーマルヘッドによる感熱記録像の形成
サーマルヘッドとは、絶縁基板上に複数の発熱素子が配置されたヒータ素子アレイで、例えば、セラミック板の上に形成されるもので、各発熱素子では制御部からの制御により印字命令に対応して通電および遮断が行われ、選択的に通電して発生するジュール熱により感熱記録媒体を発色させるものである。このサーマルヘッドを備えた市販の感熱ファクシミリ(松下電器社製のpanafax DX5200)を使用して用紙の印字面に上記した配合の本発明の実施例のインクをベタ印字すると、サーマルヘッドからの熱により印字部だけが発色したことを確認した。
【0048】
発色濃度、発色感度、発色温度、発色保存性は、発色剤の種類や粒子径、バインダーの種類や配合比、インクの塗布量などによって調整することができる。
【0049】
(5)感熱発色画像の保護および定着
上記のようにして、ドライヤーからの熱により形成された画像発現部を保護および定着するために、その画像発現部に対してポリビニルアルコール(クラレ社製のPVA117)100重量部にグリオキザール3重量部を配合したオーバーコート剤を別のインクカートリッジから噴射した。そして、その画像発現部を手で10数回擦っても汚れず、損傷も見られなかった。このように、保護および定着用樹脂で発色画像を被覆することで、摩擦による発色汚れの防止や発色部分の保護に効果を発揮することが分かった。
【0050】
(6)本発明のインクの具体的な適用例
本発明のインクを用いた具体的な適用例としては、以下のものを挙げることができる。
【0051】
〔工程管理ラベル〕
例えば、第一工程、第二工程、第三工程の順序で製品を製造するプロセスにおいて、第一工程の前に青発色性染料を含む本発明のインクを原材料のラベル貼着部に吹き付けて潜在画像を形成しておき、第一工程終了後に、そのインク吹き付け部を加熱して感熱青色画像を発現し、第二工程の前に緑発色性染料を含む本発明のインクを原材料のラベル貼着部に吹き付けて潜在画像を形成しておき、第二工程終了後に、そのインク吹き付け部を加熱して感熱緑色画像を発現し、第三工程の前に赤発色性染料を含む本発明のインクを原材料のラベル貼着部に吹き付けて潜在画像を形成しておき、第三工程終了後に、そのインク吹き付け部を加熱して感熱赤色画像を発現させるようにすれば、本発明を工程管理ラベルとして利用することができる。
【0052】
〔不正防止ラベル〕
例えば、ある商品との引き換えが可能な引換券の不正使用を防止するために、一度引き換えが終了した引換券が重複して使用されることのないように、未使用の引換券には潜在画像を形成しておき、引き換え時に加熱して感熱発色画像を顕在化させるようにすれば、引換券の重複使用を阻止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の感熱記録像形成用インクを用いて潜在画像を形成しておき、一定の熱を加えて感熱発色画像を顕在化させる方法を適用することにより、上記以外にも、例えば、商品券、入場券、有価証券、磁気カード、ICカード、リライトカードなどの不正使用防止を図ることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無色または淡色の塩基性染料および顕色剤を主成分とする感熱記録剤を含有するインクを基材に吹き付けて、そのインクの吹き付け部分に熱を加えて無色または淡色の塩基性染料と顕色剤との発色反応を利用して発色させることにより感熱発色画像を発現させることを特徴とする感熱記録像の形成方法。
【請求項2】
インクの粘度が100cPa・s以下であることを特徴とする請求項1記載の感熱記録像の形成方法。
【請求項3】
インクの構成成分の平均粒子径が2μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の感熱記録像の形成方法。
【請求項4】
画像の保護および定着用の樹脂を含有するオーバーコート剤を感熱発色画像上に吹き付けることを特徴とする請求項1、2または3記載の感熱記録像の形成方法。
【請求項5】
熱エネルギーによって発色反応を示すインクであって、無色または淡色の塩基性染料および顕色剤を主成分とする感熱記録剤を含有することを特徴とする感熱記録像形成用インク。
【請求項6】
インクの粘度が100cPa・s以下であることを特徴とする請求項5記載の感熱記録像形成用インク。
【請求項7】
インクの構成成分の平均粒子径が2μm以下であることを特徴とする請求項5または6記載の感熱記録像形成用インク。

【公開番号】特開2006−181956(P2006−181956A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380120(P2004−380120)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】