説明

慢性の霰粒腫および麦粒腫のボツリヌス毒素による治療

霰粒腫および麦粒腫は、ヒト眼瞼において生じる最も一般的な傷害であり、再発は外科的な介入により、炎症性反応に関連する瞼内の脂肪性封入体を除去することにより処理される。本発明は、霰粒腫、麦粒腫、および皮膚感染を治療する非外科的な方法を提供し、該方法は、ボツリヌス毒素を含む組成物を投与することを含む。本発明は、効果的に、マイボーム腺からのマイボム分泌物をブロックし、皮膚上の脂腺性の細菌培養培地、およびツァイス腺からの脂腺性の分泌物を減少させる方法を提供する。本発明の方法の結果、マイボムおよび関連する脂肪性の物質の産生が減少することによって、腺の妨害物および組織の濃縮化が減少し、霰粒腫、麦粒腫、および関連する炎症性の反応および傷害の再発の減少が達成される。

【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、2003年3月6日に出願された米国仮出願60/453,029の優先権を主張する。
【発明の技術分野】
【0002】
本発明は、マイボーム腺性および脂腺性(sebaceous)の分泌の異常分泌に関連する障害を、ボツリヌス毒素で治療する方法に関する。
【発明の背景】
【0003】
霰粒腫(Chalazion)は、眼瞼(eyelid)のマイボーム腺の肉芽腫性の拡大(chronic granulomatous enlargement)である。本障害は、マイボーム腺からのマイボム(meibum)の分泌過多により特徴づけられる。この分泌過多は脂肪性物質の蓄積を生じさせ、これによって腺の管状エレメントを閉塞させる傷害(lesions)が形成される;このことにより周辺の組織への閉塞の侵入(encroachment)が生じ、これにより炎症応答が誘導される。同様に、麦粒腫(hordeola)は、脂腺(sebaceous glands)からの皮脂(sebum)の分泌過多により特徴付けられる。霰粒腫および/または麦粒腫を罹患している個体は、過剰分泌を機械的に除去する、温湿布(warm compresses)または瞼石鹸(lid soaps)で度々処理される。このアプローチは、しばしば無効である。抗菌性目薬の使用は、時折は効果的であるが、しかし、基礎にある問題(炎症を生じる、マイボーム腺および脂腺の分泌過多)を滅多に治癒しない。患者は、通常複数回の外科的な処置を経験して、腺内の脂肪性分泌物および関連する炎症性細胞を除去して、軽減に効果を得る。係る処置は、痛みを伴い、時には瞼に傷を残し、また睫毛の方向性を失わせる結果となる。本発明は、霰粒腫、麦粒腫、および皮膚感染に罹患している被験者を治療する改善された方法を提供し、該方法は、ボツリヌス毒素を投与して、それぞれマイボーム腺および脂腺からのマイボムおよび皮脂の分泌を減少させること又は阻止することを含む。
【0004】
ボツリヌス神経毒(ボツリヌス菌の株から分離された毒素であり、高い濃度および量で致死的な毒素である)は、多くの神経筋疾患〔例えば、ジストニー、半側顔面痙攣、歯ぎしり、痙性麻痺(spasticity)、脳性麻痺、斜頚〕、同様に、感覚障害および皮膚障害〔顔面筋疼痛(myofacial pain)、片頭痛、緊張性頭痛、神経障害、過剰発汗(hyperhydrosis)〕の治療に有用な療法として使用されている。ボツリヌス毒素は過剰発汗(発汗障害)の治療に使用されており、これはおそらくコリン作動性に神経支配されたエクリン汗腺をターゲッティングすることによるものであるが、他の皮膚の腺構造(例えば、マイボーム腺および脂腺)におけるボツリヌス毒素の効果は、記載されておらず、価値を認められていない。過剰発汗およびエクリン汗腺の水性分泌物(汗)に関連する因果関係(consequences)および病理学の双方は、区別され、マイボーム腺および脂腺及びそれらの親油性分泌物の分泌過多障害と関連するものとは劇的に異なる。本発明前に、再発性の霰粒腫、麦粒腫、脂質が豊富な腺性分泌物の感染を阻止する、及びこれらの分泌物の減少させるボツリヌス毒素の有用性は、これまで認識されていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は治療を必要とする被験者の霰粒腫を治療する方法を提供し、該方法は、治療上効果的な量の組成物(ボツリヌス毒素を含む)を前記被験者に投与する工程を含む(ここで、前記組成物は、マイボーム腺からの分泌物を減少させる)。好適な態様において、前記組成物は、注射で眼瞼または結膜(conjunctiva)に1以上の注射部位で投与される。
【0006】
また、本発明は治療を必要とする被験者の麦粒腫を治療する方法を提供し、該方法は、治療上効果的な量の組成物(ボツリヌス毒素を含む)を前記被験者に投与する工程を含む(ここで、前記組成物は、脂腺からの分泌物を減少させる)。好適な態様において、前記組成物は、注射で眼瞼または結膜に1以上の注射部位で投与される。
マイボム(マイボーム腺からの分泌物)は、病的な細菌(例えば、黄色ブドウ球菌および他の粘膜および皮膚の表面の細菌)の成長のための培養培地を提供し、その分泌の減少は抗細菌効果を有する。
【0007】
また、本発明は治療を必要とする被験者の細菌性の又は真菌性の皮膚感染症を治療する方法を提供し、該方法は、治療上効果的な量の組成物(ボツリヌス毒素を含む)を前記被験者に投与する工程を含む(ここで、前記組成物は、皮膚の細菌または真菌の成長を減少させる)。一態様において、前記感染は、ブドウ球菌(Staphylococcus);連鎖球菌(Streptococcus)、およびモラクセラ属(Moraxella)からなる群から選択される生物体により生じる。好ましくは、本発明の方法によって、眼瞼、頭皮、足、鼠径部、および腋窩における細菌性の又は真菌性の皮膚感染が治療される。
【0008】
また、本発明は治療を必要とする被験者の身体表面上の脂腺性の(sebaceous)又は粘液性の分泌物を減少させる方法を提供し、該方法は、治療上効果的な量の組成物(ボツリヌス毒素を含む)を前記被験者に投与する工程を含む(ここで、前記組成物は、脂腺性の又は粘液性の分泌物を減少させる)。
【0009】
本発明の方法は、様々なボツリヌス毒素イムノタイプで実施し得る。一態様において、前記ボツリヌス毒素は、A;B;C;D;E;F;およびGからなる群から選択される任意の1以上のボツリヌス毒素イムノタイプである。さらにまた、本発明の方法は、ボツリヌス毒素の組成物を利用し得る(ここで、前記組成物は、0.5および50,000 マウスLD50ユニットのボツリヌス毒素の間の用量で投与される)。
【発明の詳細な記述】
【0010】
A.定義。
【0011】
本明細書中に記載される、「ボツリヌス毒素」は、タンパク質毒素及びその複合体を意味し、これらはボツリヌス菌の株(A、B、C1、C2、C3、D、E、F、およびGなどの多様なイムノタイプを含む)から単離されたものである。
【0012】
本明細書中に使用される、「治療上効果的な量(a therapeutically effective amount)」は、治療上の応答(therapeutic response)を生じさせるために十分な量である。効果的な量は、オープン(open-labeled)臨床試験または二重盲検試験(bin studies with blinded trials)における用量設定試験で決定することができる。
【0013】
本明細書中に使用される、「被験者(subject)」は、哺乳類を意味する。
【0014】
B.眼瞼障害。
霰粒腫は、眼瞼の瞼板内のマイボーム腺を取り囲んでいるマクロファージ(類上皮細胞)内の脂質物質の蓄積と関連する、瞼(lid)の慢性深部炎症(a chronic deep inflammation)として発生する。前記炎症は、軟部組織(soft tissues)内の脂質および細胞傷害と関連した慢性肉芽型炎症として特徴付けられる。
霰粒腫のケースにおいて、前記傷害は、マイボーム腺の分泌により形成され、前記腺は眼球表面をカバーしている涙液膜の外層に寄与する。
これらの傷害の組織学的な分析によって、脂質物質を提示している明瞭な領域が示され、これは多形核白血球、プラズマ細胞、巨細胞、およびリンパ球により取り囲まれる。
【0015】
麦粒腫は、類似の病的なプロセスを提示するが、しかし、これらの傷害は、眼瞼縁の先端(extreme)で、閉塞された脂腺より発生する。結果的に生じた閉塞および過剰皮脂は、霰粒腫において観察されたものと類似の炎症性反応を生じる。
【0016】
霰粒腫形成は、マイボーム腺からの脂質豊富なマイボムの分泌過多と関連している。また、マイボーム腺分泌物の脂質組成物における変化(遊離脂肪酸およびコレステロールの内容量を含む)は、霰粒腫とリンクしており、涙液膜安定性、結膜性および角膜性の上皮の刺激、および細菌性及び真菌性の感染の感受性の増加を生じる。多数の生物体が、霰粒腫と頻繁に関連する感染症において同定されるが、最も一般的に分離された細菌は、眼瞼炎の眼瞼(blepharitic eyelids)から単離されたものであり、これにはブドウ球菌(Staphylococcus)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、およびプロプリオニバクテリウム(Proprionibacterium)の種が含まれる。黄色ブドウ球菌は、マイボーム腺および関連する眼瞼腺の分泌過多において繁殖することが考えられている。要約すると、霰粒腫および麦粒腫の病態生理学には:1)マイボーム腺分泌および分泌過多の異常;2)分泌物バックアップ(secretion backup)から瞼の軟部組織への炎症;および3)二次炎症が関与する。
【0017】
また、本発明の方法を使用して、脂腺管(sebaceous gland ducts)の閉塞、および眼瞼以外の領域において結果として生じる炎症および感染(例えば、毛嚢炎、毛包炎)と関連する病理を治療し得る。
【0018】
C. ボツリヌス毒素組成物。
本発明の方法による、霰粒腫または麦粒腫に関連する重篤な又は反復性の傷害の治療は、ボツリヌス毒素を生物学的に活性な用量(0.25〜50,000マウスLD50ユニットの範囲)で投与することにより実施し得る。当業者はボツリヌス毒素の投薬(dosing)を傷害の位置および重症度を含む幾つかの要素に基づいて評価するが、適切な投薬(組成物およびボツリヌス毒素イムノタイプに依存して)を、局所的な除神経バイオアッセイ(a regional denervation bioassay)を用いることにより決定し得る。好ましくは、ボツリヌス毒素を含む組成物は、複数の部位に沿って、睫毛基部(lash base)に沿って及びマイボーム腺に対して投与される、これによって効率的に前記神経毒または細胞毒が内部の腺性構造へと導引される。より好ましくは、ボツリヌス毒素の投与は、注射により達成される。
【0019】
本発明の方法は、任意の1以上のボツリヌス毒素イムノタイプで実施し得る。また、本発明は、ボツリヌス毒素およびアルブミンなどのゼクエストレーション因子(sequestration agents)を含む組成物の使用を意図しており、この事項は2003年12月22に出願された米国特許出願10/740,755に開示されており、この出願は本明細書中にその全体が参照によって援用される。
【実施例】
【0020】
以下の実施例は本発明をさらに説明する、これは発明の範囲を限定するものとして解釈されない。
【0021】
実施例1
RKは、44歳の男性であり、複数の霰粒腫および麦粒腫の病歴があり、傷害の排液に関して少なくとも4回の手術を経験している。反復性の感染により、慢性の漏出およびガラスの染色、および流涙(tearing)を生じ、眼瞼は度々早朝に共に固着する。複数の抗生物質、暖気(warms)、瞼石鹸、圧出(expressions)、および外科的な排液処置での取り組みは、前記傷害に関連する症状を寛解することに失敗した。ブドウ球菌性の抗原脱感作を得るためになされた取り組みも、成功しなかった。ボツリヌスA型毒素の数回の注射によって、1.傷害のサイズおよび数の減少 2.分泌物および眼鏡の染色(staining)の減少 3.眼瞼辺縁にそったブドウ球菌性感染の減少が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする被験者の霰粒腫を治療する方法であって、治療上効果的な量のボツリヌス毒素を含む組成物を前記被験者に投与する工程を含み、前記組成物がマイボーム腺からの分泌物を減少させる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記ボツリヌス毒素が、イムノタイプA、B、C、D、E、F、またはGのうちの任意の形態である方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記組成物が、0.5および50,000 マウスLD50ユニットのボツリヌス毒素の間の用量で投与される方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、前記組成物が、0.5および50,000 マウスLD50ユニットのボツリヌス毒素の間の用量で投与される方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記組成物が、注射により眼瞼または結膜へと投与される方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、前記組成物が、注射により眼瞼または結膜へと投与される方法。
【請求項7】
請求項3に記載の方法であって、前記組成物が、注射により眼瞼または結膜へと投与される方法。
【請求項8】
請求項4に記載の方法であって、前記組成物が、注射により眼瞼または結膜へと投与される方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、少なくとも2つの注射部位が存在する方法。
【請求項10】
治療を必要とする被験者の麦粒腫を治療する方法であって、治療上効果的な量のボツリヌス毒素を含む組成物を前記被験者に投与する工程を含み、前記組成物が脂腺からの分泌物を減少させる方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記ボツリヌス毒素が、イムノタイプA、B、C、D、E、F、またはGのうちの任意の形態である方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法であって、前記組成物が、0.5および50,000 マウスLD50ユニットのボツリヌス毒素の間の用量で投与される方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法であって、前記組成物が、注射により眼瞼または結膜へと投与される方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、少なくとも2つの注射部位が存在する方法。
【請求項15】
治療を必要とする被験者の細菌性の又は真菌性の皮膚感染を治療する方法であって、治療上効果的な量のボツリヌス毒素を含む組成物を前記被験者に投与する工程を含み、前記組成物は皮膚の細菌または真菌の成長を減少させる方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記感染が、ブドウ球菌;連鎖球菌、およびモラクセラ属からなる群から選択される生物体により生じる方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法であって、前記感染が、眼瞼、頭皮、足、鼠径部、および腋窩からなる群から選択される領域に存在する方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法であって、前記ボツリヌス毒素が、イムノタイプA、B、C、D、E、F、またはGのうちの任意の形態である方法。
【請求項19】
請求項15に記載の方法であって、前記組成物が、0.5および50,000 マウスLD50ユニットのボツリヌス毒素の間の用量で投与される方法。
【請求項20】
請求項15に記載の方法であって、前記組成物が、注射により投与される方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、少なくとも2つの注射部位が存在する方法。
【請求項22】
治療を必要とする被験者の身体表面上の脂腺性の又は粘液性の分泌物を減少させる方法であって、治療上効果的な量のボツリヌス毒素を含む組成物を前記被験者に投与する工程を含み、前記組成物は脂腺性の又は粘液性の分泌物を減少させる方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、前記感染が、ブドウ球菌;連鎖球菌、およびモラクセラ属からなる群から選択される生物体により生じる方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法であって、前記感染が、眼瞼、頭皮、足、外耳道(external ear canal)、鼠径部、および腋窩からなる群から選択される領域に存在する方法。
【請求項25】
請求項22に記載の方法であって、前記ボツリヌス毒素が、イムノタイプA、B、C、D、E、F、またはGのうちの任意の形態である方法。
【請求項26】
請求項22に記載の方法であって、前記組成物が、0.5および50,000 マウスLD50ユニットのボツリヌス毒素の間の用量で投与される方法。
【請求項27】
請求項22に記載の方法であって、前記組成物が、注射により投与される方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法であって、少なくとも2つの注射部位が存在する方法。
【請求項29】
霰粒腫、麦粒腫、および皮膚感染の治療用の医薬の製造のためのボツリヌス毒素の使用。
【請求項30】
請求項29に記載の使用であって、前記ボツリヌス毒素が、イムノタイプA、B、C、D、E、F、またはGのうちの任意の形態である使用。
【請求項31】
請求項29に記載の使用であって、前記ボツリヌス毒素が、550および550,000μg ゼクエストレーション因子/100LD50ユニット ボツリヌス毒素の間の量のゼクエストレーション因子を含む組成物の形態で存在する使用。
【請求項32】
請求項31に記載の使用であって、前記ゼクエストレーション因子がアルブミンである使用。

【公表番号】特表2007−528351(P2007−528351A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506300(P2006−506300)
【出願日】平成16年3月8日(2004.3.8)
【国際出願番号】PCT/IB2004/000629
【国際公開番号】WO2004/078199
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(505229690)ボツリヌム・トクシン・リサーチ・アソシエイツ・インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】