慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質
ナメクジから抽出される糖タンパク質製品を提供し、該糖タンパク質製品の調製方法は、乾燥ナメクジ粉末にエタノールを加え、上澄みを除去し、残渣を水で回流抽出し、水抽出液にエタノールを加えて沈殿させることを含む。該糖タンパク質製品は、慢性閉塞性肺疾患の治療に使用することができ、かつ、抗菌抗炎症作用を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性閉塞性肺疾患を治療するための新規医薬組成物に関し、特に蛞蝓(ナメクジ)材料から抽出された糖タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary diseases;COPD)は慢性閉塞性気道疾患の総称であり、主に、不可逆的気道閉塞を伴う、慢性気管支炎及び肺気腫の2つの疾患をさす。最近、中華医学会呼吸器疾患分科会が主導した全国的慢性閉塞性肺疾患の調査は、2002年から2006まで4年間実施された。広東、北京及び上海等の都市部及び農村部からランダムに選ばれた40歳以上の20,245名が、質問票、健康診断及び肺機能検査により調査されて、COPDの総罹患率が、世界平均値の10%よりも低い8.2%であることがわかった。男性の罹患率は12.4%であり、女性の罹患率は5.1%であった。都市部の罹患率は8.8%であり、農村部の罹患率は7.8%であった。現在、中国には約4千万人のCOPD罹患者がおり、百万人を超えるCOPD罹患者が毎年死亡している。約5百万人から1千万人のCOPD罹患者が身体障害者になり、労働能力を喪失し、日常生活が不自由となる。これらの罹患者中、65.8%だけが明確な症状を有し、罹患者の大部分は症状が明確でないために無視されている。現在までのところ、約30%のCOPD罹患者だけが診断、治療され、70%の罹患者は無視されてきた。過去35年で、COPD死亡率は、100%上昇し、COPDは都市部の人々にとって脳血管疾患、癌及び心疾患に次いで4番目の死因になる。
【0003】
喫煙歴の長い者の15%から20%がCOPD罹患者になる可能性があり、また受動喫煙者の成人の罹患可能性が10%〜43%上昇する。気道感染症を繰り返した者、長期的に屋内汚染を被る者、及び微粉の多い環境で働く者は、COPDを誘発されやすい高リスク群である。COPDの罹患率及び死亡率は、今後も上昇し続けると予想される。それ故、COPDの予防及び治療は、社会の注目を引いてきた。
【0004】
COPDの主な治療剤は気管支拡張剤であり、気管支拡張作用が弱いが、罹患者の症状及び肺の過膨張を顕著に改善することはできる。吸入型抗コリン薬(臭化{しゅうか}イプラトロピウム)は、短時間持続型吸入用β2受容体アゴニストよりも気管支拡張作用が強い。長時間持続型吸入用β2受容体アゴニスト(サルメテロール及びフォルモテロール)は、現在通常使用されている有効な気管支拡張剤である。新しい長時間持続型吸入用薬剤、tiotropiumが発売される見込みであり、この薬剤は1日1回のみの使用で、症状のコントロール及び肺機能指標の改善において、1日4回使用の臭化{しゅうか}イプラトロピウムに比べて優れている。アミノフィリンは未だにCOPDの治療に広く使用され、患者の運動耐力及び肺の過膨張を有効に改善する。また、アミノフィリンは抗炎症作用をも有する。
【0005】
COPD罹患者の気管及び肺には慢性炎症があるので、グルココルチコイドは病状の進展を阻止できると予想される。COPD罹患者の約10%はグルココルチコイドの治療効果が認められる。恐らくこれらの患者は気管支喘息を合併しているため、吸入グルココルチコイドを使用すべきであろう。他のCOPD罹患者は、グルココルチコイドの治療効果が認められない。これまで4つの長期大規模臨床試験によって、グルココルチコイドの吸入はCOPDの進展に影響を与えないことが示されている。ホルモン治療はCOPDの急性重症の回数を減少させることができるが、患者にとってこの効果はホルモン剤の副作用のリスクや治療費負担と比べ物にならない。現在のところ、COPDの病状の進展を阻止できる治療法がない。炎症性メディエータ及びプロテアーゼ抑制剤を含む、炎症過程を抑制する治療薬の研究がされており、臨床試験段階にあるホスホジエステラーゼ酵素4抑制剤が期待されているが、未だに発売されていない。したがって、COPD治療の新薬の研究開発が期待されており、新薬の開発には特にCOPDの細胞学的、分子メカニズム的な研究が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療のための薬物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質を提供し、該糖タンパク質はナメクジから次の方法により調製される:
(1)ナメクジを乾燥粉末として準備するステップ、
(2)乾燥ナメクジ粉末をエタノールで抽出し、濾過し、上澄みを除去し、残渣Iを得るステップ、
(3)残渣Iを乾燥させエタノールを除去し、水を加え、回流抽出し、濾過し、上澄みIを得るステップ、及び、
(4)上澄みIをエタノールで沈殿させ、遠心分離し、上澄みを除去し、沈殿物からエタノールを除去し、凍結乾燥し、目的の糖タンパク質を得るステップ、
により抽出されることを特徴とする、糖タンパク質。
【0008】
ステップ(2)で使用されるエタノールが好ましくは60%エタノールであり、該ステップは、具体的に乾燥ナメクジ粉末を60%エタノールで一晩浸漬し、次に濾過し、残渣Iを得、必要に応じて上記残渣Iを60%エタノールで1〜3回繰り返して抽出することを含む。
【0009】
ステップ(4)使用されるエタノールが好ましくは60%エタノールである。
【0010】
ステップ(3)において、水を加え回流抽出し、濾過して上澄み及び残渣IIを得、残渣IIを繰り返して水で回流抽出してよく、濾過して残渣及び上澄みを得、本ステップで得られた上澄みを合わせて上澄みIとする。
【0011】
ステップ(1)で使用されるナメクジが、新鮮ナメクジ又は凍結ナメクジの全身である。
【0012】
本発明の第2の目的は、安全かつ有効量の本発明による糖タンパク質、並びに、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体を含む医薬組成物を提供することである。医薬組成物は、カプセル、顆粒、錠剤、丸剤、滴丸剤、シロップ剤、注射剤、注射用の凍結粉末、及び噴霧剤の形態に製造することが可能である。
【0013】
本発明の第3の目的は、慢性閉塞性肺疾患の治療のための薬物の製造における、本発明による糖タンパク質の使用を提供することである。
【0014】
本発明の第4の目的は、抗菌抗炎症性薬物の製造における、本発明による糖タンパク質の使用を提供することである。
【0015】
上記抗菌は、急性又は慢性咽頭炎に関連する菌、例えば、黄色ブドウ球菌又はα−溶血性連鎖球菌に対抗することである。
【発明の効果】
【0016】
ナメクジは腹足綱有肺目の有肺類軟体動物である。新鮮又は乾燥のナメクジの全身は薬として使用できる。「神農本草経」、「本草綱目」、及び「中薬大辞典」など中国古代・現代医薬書には、ナメクジの性質、効能及び治療等について詳細に記載されており、ナメクジはしばしば咳、痰鳴、咽喉の腫れ及び咽喉痛などの症状に使用される。本発明の糖タンパク質は、ナメクジからエタノールで抽出される糖タンパク質であり、きょ痰、咳及び喘息を抑える作用を有し、慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎、及び気管支喘息等の疾患に治療に使用でき、これらの疾患の症状は、胸部膨張感、咳、喘息、痰が多く、動悸などが挙げられる。
【0017】
本発明による糖タンパク質の調製方法において、各ステップで使用される溶媒は毒性のないエタノール及び水であり、エタノールは容易に除去することができ、したがって、得られる糖タンパク質は何ら毒性物質も含まない。該糖タンパク質によるCOPDに対して特異的優れた効果は、いくつかのin vivo及びin vitro実験により、細胞レベルで証明されている:
【0018】
1.喘息モルモットモデルにおいて、末梢血中の白血球、肺胞洗浄液及び肺組織中、好中球、特に好酸球などの細胞の数が明らかに上昇する。このような喘息モルモットモデルに、有効量の本発明によるナメクジから抽出される糖タンパク質を含めた餌を与えた後、肺胞洗浄液及び肺組織切片を分析したところ、各種の炎症性細胞、特に好酸球の数が明らかに減少しており(P<0.01)、また、投与量と効果の間に明確な相関関係がある。
【0019】
2.本発明による糖タンパク質は、気管及び気管支粘膜からのフェノールスルホンフタレインの排泄を促進することができて、同じ濃度の塩化メタコリンと同程度の効果を有する。
【0020】
3.本発明による糖タンパク質は、ウサギの気管粘膜における繊毛運動を促進することができ、その高用量及び中用量の効果は塩化アセチルコリンと同程度である。
【0021】
4.本発明による糖タンパク質は、マウスにおける黄色ブドウ球菌及びα−溶血性連鎖球菌感染に対して抗菌抗炎症性効果を有することが証明され、その効果はオフロキサシンと同程度である。
【0022】
5.本発明者らの実験は、また、本発明による糖タンパク質が喘息モルモットモデルの死亡率を減少させ、喘息の潜伏期を延長させることができることを示している。
【0023】
本発明による糖タンパク質は、慢性閉塞性肺疾患の治療のために使用することができる。本発明による糖タンパク質は、炎症性細胞の浸潤を抑制することで、喘息及び咳を抑え、きょ痰作用をもたらし、そのため、慢性閉塞性肺疾患を治療することができる。これは、COPDの発症メカニズムに直接的に関連する。以下、具体的に実施例を挙げて、本発明による慢性閉塞性肺疾患の治療のための糖タンパク質を詳細に説明する。なお、以下の実施形態及び実施例は、本発明による糖タンパク質の説明にのみ使用されるものであり、本願発明の範囲を限定するために使用されるべきではない。本明細書の開示に基づく任意の同等な改変は本発明の範囲内に入る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実験2.5におけるモデル対照群ラットの肺組織・気管支の炎症性病変を示す顕微鏡像である。
【図2】実験2.5における低用量ナメクジ糖タンパク質投与群ラットの肺組織・気管支の炎症性病変を示す顕微鏡像である。
【図3】実験2.5における中用量ナメクジ糖タンパク質投与群ラットの肺組織・気管支の炎症性病変を示す顕微鏡像である。
【図4】実験2.5における高用量ナメクジ糖タンパク質投与群ラットの肺組織・気管支の炎症性病変を示す顕微鏡像である。
【図5】実験2.5におけるデキサメタゾン投与対照群ラットの肺組織・気管支の炎症性病変を示す顕微鏡像である。
【図6】実験2.6における各群モルモットの潜伏期の変化を示す棒グラフであり、A:喘息モデル群、B:アミノフィリン治療群、C:ナメクジ糖タンパク質低用量治療群、D:ナメクジ糖タンパク質中用量治療群、E:ナメクジ糖タンパク質高用量治療群、*:非治療群と比較してP<0.01である。
【図7】実験2.6における正常対照群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【図8】実験2.6におけるモデル群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【図9】実験2.6におけるアミノフィリン治療群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【図10】実験2.6におけるナメクジ糖タンパク質低用量治療群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【図11】実験2.6におけるナメクジ糖タンパク質中用量治療群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【図12】実験2.6におけるナメクジ糖タンパク質高用量治療群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施形態1:ナメクジからの糖タンパク質の調製
薬材の由来:新鮮アシヒダナメクジ(Vaginulus alte Ferussac;中国広西省百色産)を−20℃の冷凍庫にて冷凍保存する。
前処理:二回蒸留水にて解凍してナメクジから泥、砂及び雑草を除去する。
【0026】
調製方法:
−20℃の冷凍庫からナメクジを取り出し、各1kgの4等分に分け、二回蒸留水中で約2時間解凍した。次に、ナメクジを、高速組織粉砕器(DS−200;江蘇省江陰科研機器)で、200g/回で5回に分けて粉砕した後、4000r/minで10分間遠心分離し、上澄みを取り出し保存し、残渣は上記操作を繰り返して、最後に4等分のナメクジをそれぞれ1L、2L、3L及び4Lの二回蒸留水に加える。抽出液を4℃にて終夜静置した後、上のほうには明らかな脂肪の層が認められる。次に4層ガーゼで濾過し、濾紙で吸引濾過する。多糖の量をフェノール硫酸法で定量し、タンパク質の量をBCA法で定量する。
【0027】
その後、凍結乾燥する。ナメクジ抽出液を−40℃の凍結乾燥機中に12時間入れ、次に温度を徐々に4℃まで上げて、4℃に12時間保ち、次に10時間かけて温度を徐々に4℃から30℃に上げ、最後にナメクジ糖タンパク質が得られる。該糖タンパク質は淡黄色粉末を呈する。
【0028】
実施形態2:各種剤形の製造
実施例1で調製されたナメクジ糖タンパク質を主原料に、適宜な添加剤を混合し、中国薬局方2000年版第1部製剤通則に記載の方法及び条件に従って、顆粒剤、錠剤、丸剤、滴丸剤、シロップ剤、注射剤、注射用の凍結粉末、又は噴霧剤の剤形とする。
【実施例1】
【0029】
1.実験材料
1.1 薬物及び試薬
1)ナメクジ糖タンパク質:南華大学薬物薬理研究所により提供された。ヒトの臨床用量は700mg/日であると推測される(ロットナンバー:2005012)。薬物サンプルは、淡黄色粉末であり、かすかな魚臭があり、やや苦く塩辛い。投薬体積は10ml/kgであった。0.9%生理食塩水に溶解し、冷蔵庫で貯蔵し、使用前に均一に振り混ぜた。
【0030】
動物に対する用量は、体重にて計算し、高用量はヒトの臨床用量の3倍に決定した。高用量は中用量の3倍と、中用量は低用量の3倍とした。ラットに対して、高用量、中用量及び低用量はそれぞれ、210mg/kg、70mg/kg及び23mg/kgであり、投与濃度はそれぞれ、21mg/ml、7mg/ml及び2.3mg/mlであり、投与体積は10ml/kgであった。マウスに対して、高用量、中用量及び低用量はそれぞれ300mg/kg、100mg/kg及び33mg/kgであり、投与濃度はそれぞれ、30mg/ml、10mg/ml及び3.3mg/mlであり、投与体積は10ml/kgであった。モルモットに対して、高用量、中用量及び低用量はそれぞれ、210mg/kg、70mg/kg及び23mg/kgであり、投与濃度はそれぞれ、21mg/ml、7mg/ml及び2.3mg/mlであり、投与体積は10ml/kgであった。0.9%生理食塩水に溶解し、冷蔵庫で貯蔵し、使用前に均一に振り混ぜた。
【0031】
2)オフロキサシン:上海普康薬業有限公司により提供された(ロットナンバー:20060219)。
3)培養培地:北京奥博星生物技術責任有限会社により提供された牛肉ペースト(ロットナンバー:20040218)。
4)トリプトン:北京奥博星生物技術責任有限会社により提供された(ロットナンバー:20060402)。
5)細菌:黄色ブドウ球菌は南華大学微生物学研究室により提供され、α−溶血性連鎖球菌(32172)は衛生部薬品生物製品検定所により提供された。
6)塩化アンモニウム:北京製薬厰により製造された(ロットナンバー:021018)。
7)フェノールスルホンフタレイン:北京化工厰により製造された(ロットナンバー:980820)。
8)重炭酸ナトリウム:北京化工厰により製造された(ロットナンバー:031012)。
9)エラスターゼ(ロットナンバー:90562745)、卵白アルブミンはSigmaにより提供された。
10)アミノフィリン、水酸化ナトリウム、ペントバルビタール、生理食塩水、ロック溶液、及び二酸化硫黄は利科薬物公司より購入した。
11)IL−2及びIL−4のアッセイキット:深セン晶美公司より購入した。
12)塩化アセチルコリン:上海国薬集団化学試剤有限公司により提供された(ロットナンバー:040910)。
【0032】
1.2 実験動物
1)SDラット(オスメス半々ずつ)、体重は150〜200gであった。湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された(番号:scxk(湘)2003−0003)。
2)昆明種マウス(オスメス半々ずつ)、体重は18〜22gであった。湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された(番号:scxk(湘)2003−0003)。
3)健康モルモット(オス又はメス)、体重は250〜300gであった。湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された(番号:scxk(湘)2003−0003)。
4)ニュージーランドウサギ(クリーン動物、オス又はメス)、体重は1.8〜2.2kgであった。湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された(番号:scxk(湘)2003−0003)。
5)シリアンゴールデンハムスター(オス)、体重は100〜150gであった。湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された(番号:scxk(湘)2003−0003)。
【0033】
上記全ての動物は、中国実験動物国家標準のクリーン級に相当する実験室で飼育し、室温は20〜25℃、相対湿度は55%〜70%であった。
マウス飼育用ペレット飼料は、湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された。
【0034】
1.3 主要な機器
1)ベックマン(BECKMAN)生化学自動分析装置:BECKMAN(米国)により製造された。
2)オリンパス(OLYMPUS−CH)顕微鏡撮影システム:OLYMPUS(日本)により製造された。
3)FA1004電子天秤:上海天秤儀器厰により製造された。
4)1512型ミクロトーム:Leica(ドイツ)により製造された。
5)402A1型超音波霧化器、潅流装置及びT字管:江蘇魚躍医療設備有限公司により製造された。
【0035】
2.実験方法及び結果
2.1 ナメクジ糖タンパク質による肺気腫及び肺動脈高圧に対する治療効果
肺気腫及び肺動脈高圧を有するモデル動物の構築:各100〜150gのオスのゴールデンハムスター90匹から75匹をランダムに選択した。12%ウレタンを腹腔注射することによって動物を麻酔した。次に、口腔を開き、喉を露出させ、プラスチックのパイプを気管に挿入し、パイプを通してエラスターゼを動物の肺内に注入した(60U/100g体重)。それから動物を縦に持ち、揺すって薬液を肺内に均一に行き渡らせた。動物は数時間で自然と覚醒し、随意に摂餌した。残りの15匹のゴールデンハムスターは、正常対照群(A群)として、同量の食塩水を各動物の気管に注入した。
【0036】
21日後、75匹のモデル動物を5群:Bモデル対照群(非治療)、C薬物陽性対照群(アミノフィリン)、Dナメクジ糖タンパク質低用量治療群(23mg/kg/日)、Eナメクジ糖タンパク質中用量治療群(70mg/kg/日)、Fナメクジ糖タンパク質高用量治療群(210mg/kg/日)に分けた。30日間強制経口投与した後、動物を屠殺して次のことを測定した:
【0037】
右心室収縮期圧(RSP;肺動脈圧を反映する):動物の頸部を切開して右頸静脈を露出させ、次にパイプを右頸静脈から3cmほど挿入し右心室に到達した。パイプのもう片端は、生理モニター(RM−6300、日本)に接続し、圧を測定した。同時に、左頸動脈も露出させて、体動脈圧も測定した。
【0038】
右心室肥大指数(RVHI;右心室重量/(左心室+房室中隔の重量)):動物を出血死させ、胸部を開いて心臓を取り出し、次に右心室を切り落とした。心臓を食塩水で洗浄し、水を濾紙に吸収させて、次に右心室を秤量し、また左心室と房室中隔との合計重量を秤量した。
【0039】
気管支肺胞洗浄液分析:等圧潅流装置を用い、等圧恒温下、37℃の酸素を含むロック溶液を潅流し、貯液タンクの底部はT字管よりも60〜100cm高かった。動物を屠殺して胸部を開き、気管を分離して切り落とし、それから気管及び心肺を一緒に取り出して37℃のロック溶液中に入れた。軽く押して肺から空気を排出し、気管をT字管に結紮した。T字管を開いてロック溶液を肺中に潅流させ、流速を約25ml/分に調節した。潅流液を400gで10分間遠心分離し、上澄みを除去し、それから生理食塩水を沈渣に加えて細胞を懸濁させた。気管支肺胞洗浄液(BALF)の細胞数を倒立顕微鏡により、1試料につき4回計数した。肺臓1g当たり、潅流液1mL当たりの細胞数(/ml/g)を計数した。懸濁液のスメアをHEで染色してから、細胞タイプにおけるマクロファージの比を計数した。
【0040】
統計処理:データは、x±sで表して、一元配置分散分析により分析し、Newman−Keuls法により各群を比較した。P<0.05は有意差を意味する。
【0041】
実験結果:
病理学的観察及び形態計測分析:
正常群:気管支、肺胞、及び肺血管の構造は正常であった。
モデル群:細気管支、呼吸細気管支、肺胞管、肺胞嚢、及び肺胞の大部分に明確な拡張があった。
アミノフィリン群:モデル群と比較して、肺気腫の病理学的変化に明確な改善がなかった。
低用量群:モデル群と比較して、肺気腫の病理学的変化に明確な改善がなかった。
中用量群:モデル群と比較して、肺気腫の病理学的変化にある種の改善があり、特に、細動脈の病理学的変化が明らかに改善された。
高用量群:モデル群と比較して、肺気腫の病理学的変化にある種の改善があり、特に、細動脈の病理学的変化が明らかに改善された。
【0042】
詳細なデータを表1に示した。
【表1】
【0043】
表1に示してように、高・中用量のナメクジ糖タンパク質による30日間の治療後、右心室収縮期圧(RSP)及び右心室肥大指数(RVHI)が低下し、気管支肺胞洗浄液(BALF)中のマクロファージ数に明らかに減少があり、また肺気腫の病理学的変化に明らかな改善があり、特に、細動脈の病理学的変化は明らかに改善される(P<0.05)。
【0044】
2.2 ナメクジ糖タンパク質による慢性気管支炎に対する咳止め作用
慢性気管支炎モデルマウスの構築:白色マウス90匹(各20〜25g、オス又はメス)を選択した。マウスをランダムに6群に分けた。正常対照群では、SO2刺激を与えず、マウスを正常に飼育した。他の群では、SO2刺激を与えた。即ち、蒸発皿に0.5gの無水亜硫酸ナトリウムを入れ、これを8Lの鐘の中に置き、各群のマウスを鐘に入れ、50%硫酸5mlを蒸発皿に加え、2分後にマウスを取り出した。1日1回、21日間。
【0045】
21日後、モデル対照群中の動物には、15ml/kgの生理食塩水を強制経口投与した。陽性対照群中の動物には、1.2mg/kgのデキサメタゾンを、1日1回、10日間強制経口投与し、さらに15mg/kgのデキストロメトルファンも8日目から1日1回、3日間強制経口投与した。ナメクジ糖タンパク質の高・中・低用量群の動物には、それぞれ、150mg/kg、100mg/kg、及び60mg/kgを1日1回、10日間強制経口投与した。投与期間中、各群の動物の全身状態を観察した。最終投与の1時間後に上記SO2刺激を与え、マウスの咳の潜伏期、及び、3分間の咳の回数を記録した。群間T検定を行い、医薬品群と対照群の間の比較データを表2に示した。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、明らかに、咳の潜伏期を延長し、咳の回数を減少させることができた。生理食塩水対照群と比較して、高用量群及び中用量群では、有意差が認められた。低用量群においては、咳の潜伏期を延長した傾向はあったが、有意差は認められなかった。
【0048】
2.3 ナメクジ糖タンパク質による慢性気管支炎に対するきょ痰作用
慢性気管支炎モデルマウスの構築:90匹の白色マウス(各20〜25g、オス又はメス)を選択した。マウスをランダムに6群に分けた。正常対照群では、SO2刺激は与えず、マウスを正常に飼育した。他の群では、SO2刺激を与えた。方法は上記2.2に従った。
【0049】
21日後、モデル対照群中の動物には、15ml/kgの生理食塩水を強制経口投与し、陽性対照群中の動物には、1.2mg/kgのデキサメタゾンを1日1回、10日間強制経口投与し、さらに15mg/匹の1.2%NH4Cl溶液も第8日目から1日1回、3日間強制経口投与した。ナメクジ糖タンパク質の高・中・低用量群の動物には、それぞれ、500mg/kg、100mg/kg、及び20mg/kgを1日1回、10日間強制経口投与した。投与期間中、各群中の動物の全身状態を観察し、最終投与の30分後に、各動物に1%フェノールスルホンフタレイン/生理食塩水を0.5ml/匹腹腔注射した。30分後、マウスを屠殺してそれらを手術台上に置き、輪状軟骨から気管分岐部までの気管を頸部から切り出し、5%NaHCO3溶液中に入れ、3回気管を満たして洗い流し、洗浄液を終夜静置し、その後洗浄液のODを測定した。結果を表3に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
表3に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、マウスの気管からのフェノールスルホンフタレインの排液量を明らかに増大させることができた。そのうち、高用量群及び中用量群においては、生理食塩水対照群と比較して、有意差が認められた。
【0052】
2.4 ナメクジ糖タンパク質による慢性気管支炎ラットに対する抗喘息効果
慢性気管支炎モデルラットの構築:60匹のSDラット(各250〜300g、オス又はメス)を選択した。ラットを選別するため、超音波噴霧器に10mlの4%リン酸ヒスタミン及び2%塩化アセチルコリンを注入し、1分間噴霧させることより喘息を誘発し、喘息潜伏期を噴霧開始から攣縮転倒までの時間として測定した。喘息潜伏期が10分を超えた無反応動物を除外した。残りのラットをランダムに5群に分けて、慢性気管支炎モデルを次のように構築した。モデル構築は、0.3ml/100gの10%抱水クロラールによる腹腔内麻酔下で、ラットに実施した。それから、ラットの気管を露出させ、パイプを挿入し、パイプを通じて200μg/200μlのPLSを気管中に注入し、その後3週間飼育した。
【0053】
21日後、モデル対照群中の動物には、15ml/kgの生理食塩水を強制経口投与し、陽性対照群中の動物に、1.2mg/kgのデキサメタゾンを1日1回、10日間強制経口投与し、さらに0.1g/kgアミノフィリンも8日目から1日1回、3日間強制経口投与した。ナメクジ糖タンパク質高・中・低用量群の動物には、それぞれ、210mg/kg、70mg/kg、及び、23mg/kgのナメクジ糖タンパク質を1日1回、10日間強制経口投与した。投与期間中、各群中の動物の全身状態を観察して、最終投与の1時間後に、上記方法により誘発喘息の潜伏期を測定した。結果を記録し、結果についてt検定を行う。結果は表4に示した。
【0054】
【表4】
【0055】
表4に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、リン酸ヒスタミン及び塩化アセチルコリンによる誘発喘息の潜伏期を明らかに延長することができた。高用量群及び中用量群において、生理食塩水対照群と比較して、有意差が認められた。
【0056】
2.5 ナメクジ糖タンパク質による慢性気管支炎ラットの肺炎症性病変に対する治療効果
慢性気管支炎モデルラットの構築:60匹のSDラット(各250〜300g、オス又はメス)を選択した。ラットをランダムに6群に分け、1群は正常対照群であり、他の5群については、上記方法に従ってモデル化した。
【0057】
21日後、モデル対照群中の動物には、15ml/kgの生理食塩水を強制経口投与し、陽性対照群中の動物には、1.2mg/kgのデキサメタゾンを1日1回、10日間強制経口投与した。ナメクジ糖タンパク質高・中・低用量群中の動物には、それぞれ、210mg/kg、70mg/kg、及び、23mg/kgのナメクジ糖タンパク質を1日1回、10日間強制経口投与した。投与期間中、各群中の動物の全身状態を観察して、最終投与から10日後に次の手順を実施した。即ち、ラットは、0.4ml/100gの10%抱水クロラールによる腹腔内麻酔を施し昏睡させ、手術台上にのせ、頸部及び胸部を切開し、気管及び肺組織を取り出して、まず試料の状態を肉眼で観察した。それから、試料は10%ホルマリン溶液で固定し、パラフィンで包埋して切片に切り、HEで染色した。上皮の完全性、腺の厚み、気管粘膜の下における炎症性細胞の浸潤状態、濾胞性リンパ、並びに気管壁の厚み及び腺層の厚みを含む、肺組織・気管支の炎症性病変の程度を顕微鏡で観察した。
【0058】
結果は次の通りであった。気道へLPSを注入してから21日間、ラットは倦怠して、運動量が減り、食餌・水の摂取が少なくなった。明らかな湿性ラッセル音が聞こえた。10日間治療後、各治療群における湿性ラッセル音は徐々に減少したが、モデル対照群における湿性ラッセル音は変化しなかった。肉眼による観察:肺組織は膨張し、灰白色で、表面には出血や液体の滲出はなかった。倒立蛍光顕微鏡による観察:モデル群においては、ラットの気道における分泌物が明らかに増加し、上皮が不完全で、気管腺は厚くなり、気管粘膜層・粘膜下層に大量の炎症性細胞の浸潤が見られ、気管支の周りに濾胞性リンパが形成されていた(図2を参照)。治療群においては、ラットの気道における分泌物が減少し、上皮はほぼ完全で、モデル群に比べて気管壁及び腺は薄くなっており、気管粘膜下の炎症性細胞の浸潤が軽減され、気管支周りの濾胞性リンパは小さくなっていた(図3を参照)。陽性対照群(図5を参照)及びナメクジ糖タンパク質高用量群(図4を参照)においては、モデル対照群(図1を参照)と明らかな差異があった。
【0059】
2.6 ナメクジ糖タンパク質による気管支喘息モデルモルモットに対する治療効果
気管支喘息モデルモルモットの構築:90匹のモルモットを選択し、ランダムに各群15匹の6群に分けた。A群:対照群(健常モルモット)、B群:モデル対照群(非治療)、C群:陽性対照群(アミノフィリン)、D群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(低用量群、23mg/kg/日)、E群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(中用量群、70mg/kg/日)、F群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(高用量群、210mg/kg/日)。
【0060】
滅菌条件下で、各動物に1mlの100g/L水酸化アルミニウムを腹腔内投与し、0.5mlの1%卵白アルブミン(Sigma)を腿に筋肉内注射した。対照群には、水酸化ナトリウム及び卵白アルブミンの代わりに生理食塩水を使用して処置した。2週間後、密閉にて、400mmHgの等圧で、0.5%の卵白アルブミン/生理食塩水を、動物に呼吸加速や腹筋収縮などの気管支炎喘息に関連する多くの症状が生じるまで、噴霧した。対照群に対しては、生理食塩水を用いて同じ手順で処置した。翌日から7日間、喘息誘発の1時間前に、次の群に強制経口投与した:A群:対照群(健常モルモット)、B群:モデル対照群(非治療)、C群:陽性対照群(アミノフィリン)、D群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(低用量群、23mg/kg/日)、E群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(中用量群、70mg/kg/日)、F群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(高用量群、210mg/kg/日)。最後の誘発時、卵白アルブミンの噴霧から腹筋収縮までの時間を記録し、これを誘発喘息の潜伏期とした。喘息の重症度を次のように記録した:クラス0:明確な反応なし;クラス1:軽度の鼻掻き、振戦、及び立毛;クラス2:数回の咳があり、鼻掻き、振戦、及び立毛;クラス3:頻繁な又は連続する咳、呼吸困難、痙攣;クラス4:痙攣、攣縮、失禁、ショック、及び死亡。24時間後、動物は、1.5mlの1%ペントバルビタールによる腹腔内麻酔を施し、昏睡させた。静脈採血後、末梢血中の白血球を計数した。
【0061】
薬理学的実験方法に従って気管支肺胞洗浄を実施し、肺組織への炎症性細胞の浸潤状態を観察した。肺組織を固定して切片に切り、HE染色し、好酸球の浸潤を観察した。
【0062】
実験結果
7日間連続で喘息を誘発して、最後の誘発時間を誘発喘息の潜伏期とした(単位は「s」(秒))。対照群においては明確な反応はなく、喘息モデル群においては、誘発喘息の潜伏期は明らかに短縮されており、治療群においては、モデル群に比べて誘発喘息の潜伏期は明らかに延長されていた。結果を図6の棒グラフに示した。
【0063】
【表5】
末梢血及び肺組織中の白血球数変化の結果を表6に示した。
【表6】
【0064】
図7〜12は、肺組織への好酸球浸潤の形態学的観察を示す(倍率200×)。
【0065】
2.7 ナメクジ糖タンパク質による卵白アルブミンにより感作されるモルモットの肺気管支の潅流への影響
モットの構築及び群分けは上記と同じであった。
【0066】
気管支潅流実験
等圧潅流装置を用い、等圧恒温下、37℃の酸素を含むロック溶液を潅流し、貯液タンクの底部はT字管よりも60〜100cm高かった。モルモットは、1.5mlの1%ペントバルビタールによる腹腔内麻酔を施し、昏睡させた。炎症因子を検出するために、頸動脈から2mlの血液を採った。動物を屠殺して胸部を切開し、気管を分離して切除し、次に気管を心肺と共に摘出し、37℃のロック溶液中に入れた。軽く押して肺から空気を押し出し、気管をT字管に結紮した。T字管を開いてロック溶液を肺中に潅流させ、流速を約25ml/分に調節した。炎症因子を検出するために、5mlの洗浄液を採った。流速が安定した後、T字管を通して0.5%卵白アルブミンを投与し、気管支の攣縮を刺激した。30秒後、毎分の流量を6〜10分間実測して記録した。統計処理:データは、x±sで表して、一元配置分散分析により分析し、Newman−Keuls法で各群を比較した。P<0.05は明確な差を意味した。
【0067】
実験結果:
(ナメクジ糖タンパク質による卵白アルブミンにより感作されたオーバーフロー量の減少に対する予防効果)
どの群においても実験中の動物の死亡が認められた。最終的な実験動物は15匹であった。卵白アルブミンによる刺激前においては、モデル群の肺オーバーフロー量はすでに他の群より明らかに低かった。卵白アルブミンによる感作後は、正常対照群の肺オーバーフローは変化していなかったが、モデル群の肺オーバーフロー量は明らかに減少していた。モデル群と比較して、アミノフィリン群並びにナメクジ糖タンパク質中用量群及び高用量群の肺オーバーフロー量は、明らかに増大していた。ナメクジ糖タンパク質低用量群の効果は顕著ではなかった。データを表7に示した。
【0068】
【表7】
【0069】
(ナメクジ糖タンパク質カプセルによる収縮状態での摘出された気管支の肺オーバーフロー量への影響)
表7に示したように、卵白アルブミンによって感作された後、収縮状態での摘出された気管支の肺オーバーフロー量は、明らかに減少していた。感作の6分後、気管支の肺オーバーフロー量は安定になった。このとき、ナメクジ糖タンパク質又はアミノフィリンをそれぞれ投与して、結果を表8に示した。アミノフィリンを投与した後は、肺オーバーフロー量は明らかに増大し、ナメクジ糖タンパク質を投与した後は、肺オーバーフロー量は明らかな変化はなかった。
【0070】
【表8】
【0071】
(ナメクジ糖タンパク質による気管支肺胞洗浄液及び血清中におけるIL−2、IL−4への影響)
表9に示したように、喘息モデル群において、血清及び気管支肺胞洗浄液(BALF)中のIL−2、IL−4量は明らかに増大し、ナメクジ糖タンパク質群及びアミノフィリン群においては、IL−2、IL−4量は明らかに減少していた。
【0072】
【表9】
【0073】
2.8 ナメクジ糖タンパク質カプセルによる急性気管支炎に対する治療効果
2.8.1 ナメクジ糖タンパク質による急性気管支炎に対する咳止め効果
急性気管支炎モデルマウスの構築:白色マウス(各20〜25g、オス又はメス)を選択した。予めマウスを選別した:1Lビーカー中に蒸発皿を置き、蒸発皿に0.5gの無水亜硫酸ナトリウムを入れ、さらに蒸発皿に50%硫酸5mlを加えて、すぐに蓋をし、15秒後にマウスをビーカー中に入れ、刺激して30秒後にマウスを取り出した。3分間以内に咳を始めたマウス(口を開いた又は咳の音がした)が適格とした。この時、咳の潜伏期及び回数を記録した。3日間飼育した後、適格マウスを5群に分けた。対照群の動物には生理食塩水15ml/kgを投与し、陽性対照群の動物にはデキストロメトルファンを経口により用量15mg/kgで投与し、ナメクジ糖タンパク質高・中・低用量群の動物には、それぞれ、300mg/kg、100mg/kg、及び、32mg/kgのナメクジ糖タンパク質を、1日1回、5日間強制経口投与した。投与期間中、各群の動物の全身状態を観察し、最終投与の1時間後に30秒間、上記SO2刺激を各動物に与えた。各マウスの咳の潜伏期、及び各動物の3分間の咳の回数を記録した。群間T検定を行い、医薬品群と対照群との比較データを表10に示した。
【0074】
【表10】
【0075】
表10に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、咳の潜伏期を明らかに延長させ、咳の回数を減少させることができた。生理食塩水対照群と比較して、高用量群及び中用量群で有意差が認められた。低用量群と高用量群との間で、有意差が認められた。
【0076】
2.8.2 ナメクジ糖タンパク質カプセルによる急性気管支炎に対するきょ痰効果
モデル構築及び群分けは、上記に従って実施した。動物には、最終投与の30分後に、0.25%フェノールレッド(0.3ml/10g)を腹腔内投与した。30分後に、動物を屠殺してその気管を分離し、5%重炭酸ナトリウム溶液で3回洗い流し(1ml/回)、次に洗浄液を合わせた。試料は比色法で分析し、次に統計処理した。結果は表11に示した。
【0077】
【表11】
【0078】
表11に示したように、塩化アンモニウムは明らかな鎮咳効果を有していた。塩化アンモニウム群と対照群との間で有意差が認められた。ナメクジ糖タンパク質300mg/kg群は、塩化アンモニウムと同じ効果を有し、対照群との間で有意差が認められた。
【0079】
2.9 ナメクジ糖タンパク質カプセルによるウサギの気管における繊毛運動への影響
ウサギを、対照群、陽性対照群、高用量300mg/L、中用量100mg/L、及び低用量33mg/Lのナメクジ糖タンパク質群の5群に分けた。ウサギを屠殺し、気管を分離して、切り離し、気管を切開し、繊毛を露出させ、気管を5等分に切り分けた。リンゲル溶液(37℃)で気管粘膜を洗浄し、次に解剖レンズで試料を観察した。
【0080】
正常値を3回実測し、それらの平均を計算して、それから動物に薬品を投与する。生理食塩水、0.01%塩化アセチルコリン(Ach)、ナメクジ糖タンパク質(高用量群、中用量群、及び低用量群)。
【0081】
観察指標
(1)繊毛運動
視野内の全ての繊毛運動が活性: +++
視野内の1/3〜2/3の繊毛運動が活性: ++
視野内の1/3未満の繊毛運動が活性: +
視野内の全ての繊毛運動が不活性: −−
【0082】
(2)輸送速度
気管粘膜にインクを垂らし、インクが1方向へ動き(喉頭に向かって)、マイクロメーター及びストップウォッチにより速度を測定し、次に、粘液繊毛輸送速度を計算した(秒/2mm)。結果を表12に示した。
【0083】
【表12】
【0084】
2.10 ナメクジ糖タンパク質による抗菌効果
2.10.1 黄色ブドウ球菌又はα−溶血性連鎖球菌などの急性咽頭炎に関する幾種かの細菌を選択し、上記細菌を、その病原性及びマウスなどの感作動物によって、所定量で腹腔内投与又は皮下注射し、ある程度の動物の死亡をもたらした。細菌を感染させる前に、及び細菌を感染させた後に薬を投与して、5日間の動物の摂餌行動、摂水行動、及び運動を観察した。
【0085】
次のように動物を6群に分ける:対照群、モデル群、陽性対照群(オフロキサシン0.5g/kg)、ナメクジ糖タンパク質群(高用量5g/kg、中用量1g/kg、低用量0.5g/kg)。4日間の摂餌行動、摂水行動、及び運動を観察し、正常値として記録した。その後、対照群を除いて、他の群の動物に0.5mlの黄色ブドウ球菌を、腹腔内投与又は皮下注射して感染させた。翌日から、5日間動物に強制経口投与し、1日2回、摂餌行動、摂水行動、及び運動の状態、並びに平均生存日数を観察し、対照群と比較した。統計処理による結果を表13及び表14に示した。
【0086】
【表13】
【0087】
【表14】
【0088】
表13及び表14に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、ある程度の抗菌効果を有する。
【0089】
2.10.2 in vivoでナメクジ糖タンパク質による黄色ブドウ球菌感染に対する治療効果
動物を6群に分ける:対照群、モデル群、陽性対照群(オフロキサシン0.5g/kg)、ナメクジ糖タンパク質群(高用量300mg/kg、中用量100mg/kg、低用量33mg/kg)。α−溶血性連鎖球菌を腹腔内投与により動物に注射した以外、2.10.1と同じであった。結果を表15に示した。
【0090】
【表15】
【0091】
表16に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、ある程度の抗菌効果を有する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性閉塞性肺疾患を治療するための新規医薬組成物に関し、特に蛞蝓(ナメクジ)材料から抽出された糖タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary diseases;COPD)は慢性閉塞性気道疾患の総称であり、主に、不可逆的気道閉塞を伴う、慢性気管支炎及び肺気腫の2つの疾患をさす。最近、中華医学会呼吸器疾患分科会が主導した全国的慢性閉塞性肺疾患の調査は、2002年から2006まで4年間実施された。広東、北京及び上海等の都市部及び農村部からランダムに選ばれた40歳以上の20,245名が、質問票、健康診断及び肺機能検査により調査されて、COPDの総罹患率が、世界平均値の10%よりも低い8.2%であることがわかった。男性の罹患率は12.4%であり、女性の罹患率は5.1%であった。都市部の罹患率は8.8%であり、農村部の罹患率は7.8%であった。現在、中国には約4千万人のCOPD罹患者がおり、百万人を超えるCOPD罹患者が毎年死亡している。約5百万人から1千万人のCOPD罹患者が身体障害者になり、労働能力を喪失し、日常生活が不自由となる。これらの罹患者中、65.8%だけが明確な症状を有し、罹患者の大部分は症状が明確でないために無視されている。現在までのところ、約30%のCOPD罹患者だけが診断、治療され、70%の罹患者は無視されてきた。過去35年で、COPD死亡率は、100%上昇し、COPDは都市部の人々にとって脳血管疾患、癌及び心疾患に次いで4番目の死因になる。
【0003】
喫煙歴の長い者の15%から20%がCOPD罹患者になる可能性があり、また受動喫煙者の成人の罹患可能性が10%〜43%上昇する。気道感染症を繰り返した者、長期的に屋内汚染を被る者、及び微粉の多い環境で働く者は、COPDを誘発されやすい高リスク群である。COPDの罹患率及び死亡率は、今後も上昇し続けると予想される。それ故、COPDの予防及び治療は、社会の注目を引いてきた。
【0004】
COPDの主な治療剤は気管支拡張剤であり、気管支拡張作用が弱いが、罹患者の症状及び肺の過膨張を顕著に改善することはできる。吸入型抗コリン薬(臭化{しゅうか}イプラトロピウム)は、短時間持続型吸入用β2受容体アゴニストよりも気管支拡張作用が強い。長時間持続型吸入用β2受容体アゴニスト(サルメテロール及びフォルモテロール)は、現在通常使用されている有効な気管支拡張剤である。新しい長時間持続型吸入用薬剤、tiotropiumが発売される見込みであり、この薬剤は1日1回のみの使用で、症状のコントロール及び肺機能指標の改善において、1日4回使用の臭化{しゅうか}イプラトロピウムに比べて優れている。アミノフィリンは未だにCOPDの治療に広く使用され、患者の運動耐力及び肺の過膨張を有効に改善する。また、アミノフィリンは抗炎症作用をも有する。
【0005】
COPD罹患者の気管及び肺には慢性炎症があるので、グルココルチコイドは病状の進展を阻止できると予想される。COPD罹患者の約10%はグルココルチコイドの治療効果が認められる。恐らくこれらの患者は気管支喘息を合併しているため、吸入グルココルチコイドを使用すべきであろう。他のCOPD罹患者は、グルココルチコイドの治療効果が認められない。これまで4つの長期大規模臨床試験によって、グルココルチコイドの吸入はCOPDの進展に影響を与えないことが示されている。ホルモン治療はCOPDの急性重症の回数を減少させることができるが、患者にとってこの効果はホルモン剤の副作用のリスクや治療費負担と比べ物にならない。現在のところ、COPDの病状の進展を阻止できる治療法がない。炎症性メディエータ及びプロテアーゼ抑制剤を含む、炎症過程を抑制する治療薬の研究がされており、臨床試験段階にあるホスホジエステラーゼ酵素4抑制剤が期待されているが、未だに発売されていない。したがって、COPD治療の新薬の研究開発が期待されており、新薬の開発には特にCOPDの細胞学的、分子メカニズム的な研究が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療のための薬物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質を提供し、該糖タンパク質はナメクジから次の方法により調製される:
(1)ナメクジを乾燥粉末として準備するステップ、
(2)乾燥ナメクジ粉末をエタノールで抽出し、濾過し、上澄みを除去し、残渣Iを得るステップ、
(3)残渣Iを乾燥させエタノールを除去し、水を加え、回流抽出し、濾過し、上澄みIを得るステップ、及び、
(4)上澄みIをエタノールで沈殿させ、遠心分離し、上澄みを除去し、沈殿物からエタノールを除去し、凍結乾燥し、目的の糖タンパク質を得るステップ、
により抽出されることを特徴とする、糖タンパク質。
【0008】
ステップ(2)で使用されるエタノールが好ましくは60%エタノールであり、該ステップは、具体的に乾燥ナメクジ粉末を60%エタノールで一晩浸漬し、次に濾過し、残渣Iを得、必要に応じて上記残渣Iを60%エタノールで1〜3回繰り返して抽出することを含む。
【0009】
ステップ(4)使用されるエタノールが好ましくは60%エタノールである。
【0010】
ステップ(3)において、水を加え回流抽出し、濾過して上澄み及び残渣IIを得、残渣IIを繰り返して水で回流抽出してよく、濾過して残渣及び上澄みを得、本ステップで得られた上澄みを合わせて上澄みIとする。
【0011】
ステップ(1)で使用されるナメクジが、新鮮ナメクジ又は凍結ナメクジの全身である。
【0012】
本発明の第2の目的は、安全かつ有効量の本発明による糖タンパク質、並びに、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体を含む医薬組成物を提供することである。医薬組成物は、カプセル、顆粒、錠剤、丸剤、滴丸剤、シロップ剤、注射剤、注射用の凍結粉末、及び噴霧剤の形態に製造することが可能である。
【0013】
本発明の第3の目的は、慢性閉塞性肺疾患の治療のための薬物の製造における、本発明による糖タンパク質の使用を提供することである。
【0014】
本発明の第4の目的は、抗菌抗炎症性薬物の製造における、本発明による糖タンパク質の使用を提供することである。
【0015】
上記抗菌は、急性又は慢性咽頭炎に関連する菌、例えば、黄色ブドウ球菌又はα−溶血性連鎖球菌に対抗することである。
【発明の効果】
【0016】
ナメクジは腹足綱有肺目の有肺類軟体動物である。新鮮又は乾燥のナメクジの全身は薬として使用できる。「神農本草経」、「本草綱目」、及び「中薬大辞典」など中国古代・現代医薬書には、ナメクジの性質、効能及び治療等について詳細に記載されており、ナメクジはしばしば咳、痰鳴、咽喉の腫れ及び咽喉痛などの症状に使用される。本発明の糖タンパク質は、ナメクジからエタノールで抽出される糖タンパク質であり、きょ痰、咳及び喘息を抑える作用を有し、慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎、及び気管支喘息等の疾患に治療に使用でき、これらの疾患の症状は、胸部膨張感、咳、喘息、痰が多く、動悸などが挙げられる。
【0017】
本発明による糖タンパク質の調製方法において、各ステップで使用される溶媒は毒性のないエタノール及び水であり、エタノールは容易に除去することができ、したがって、得られる糖タンパク質は何ら毒性物質も含まない。該糖タンパク質によるCOPDに対して特異的優れた効果は、いくつかのin vivo及びin vitro実験により、細胞レベルで証明されている:
【0018】
1.喘息モルモットモデルにおいて、末梢血中の白血球、肺胞洗浄液及び肺組織中、好中球、特に好酸球などの細胞の数が明らかに上昇する。このような喘息モルモットモデルに、有効量の本発明によるナメクジから抽出される糖タンパク質を含めた餌を与えた後、肺胞洗浄液及び肺組織切片を分析したところ、各種の炎症性細胞、特に好酸球の数が明らかに減少しており(P<0.01)、また、投与量と効果の間に明確な相関関係がある。
【0019】
2.本発明による糖タンパク質は、気管及び気管支粘膜からのフェノールスルホンフタレインの排泄を促進することができて、同じ濃度の塩化メタコリンと同程度の効果を有する。
【0020】
3.本発明による糖タンパク質は、ウサギの気管粘膜における繊毛運動を促進することができ、その高用量及び中用量の効果は塩化アセチルコリンと同程度である。
【0021】
4.本発明による糖タンパク質は、マウスにおける黄色ブドウ球菌及びα−溶血性連鎖球菌感染に対して抗菌抗炎症性効果を有することが証明され、その効果はオフロキサシンと同程度である。
【0022】
5.本発明者らの実験は、また、本発明による糖タンパク質が喘息モルモットモデルの死亡率を減少させ、喘息の潜伏期を延長させることができることを示している。
【0023】
本発明による糖タンパク質は、慢性閉塞性肺疾患の治療のために使用することができる。本発明による糖タンパク質は、炎症性細胞の浸潤を抑制することで、喘息及び咳を抑え、きょ痰作用をもたらし、そのため、慢性閉塞性肺疾患を治療することができる。これは、COPDの発症メカニズムに直接的に関連する。以下、具体的に実施例を挙げて、本発明による慢性閉塞性肺疾患の治療のための糖タンパク質を詳細に説明する。なお、以下の実施形態及び実施例は、本発明による糖タンパク質の説明にのみ使用されるものであり、本願発明の範囲を限定するために使用されるべきではない。本明細書の開示に基づく任意の同等な改変は本発明の範囲内に入る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実験2.5におけるモデル対照群ラットの肺組織・気管支の炎症性病変を示す顕微鏡像である。
【図2】実験2.5における低用量ナメクジ糖タンパク質投与群ラットの肺組織・気管支の炎症性病変を示す顕微鏡像である。
【図3】実験2.5における中用量ナメクジ糖タンパク質投与群ラットの肺組織・気管支の炎症性病変を示す顕微鏡像である。
【図4】実験2.5における高用量ナメクジ糖タンパク質投与群ラットの肺組織・気管支の炎症性病変を示す顕微鏡像である。
【図5】実験2.5におけるデキサメタゾン投与対照群ラットの肺組織・気管支の炎症性病変を示す顕微鏡像である。
【図6】実験2.6における各群モルモットの潜伏期の変化を示す棒グラフであり、A:喘息モデル群、B:アミノフィリン治療群、C:ナメクジ糖タンパク質低用量治療群、D:ナメクジ糖タンパク質中用量治療群、E:ナメクジ糖タンパク質高用量治療群、*:非治療群と比較してP<0.01である。
【図7】実験2.6における正常対照群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【図8】実験2.6におけるモデル群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【図9】実験2.6におけるアミノフィリン治療群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【図10】実験2.6におけるナメクジ糖タンパク質低用量治療群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【図11】実験2.6におけるナメクジ糖タンパク質中用量治療群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【図12】実験2.6におけるナメクジ糖タンパク質高用量治療群における、肺炎組織の好酸球による浸潤を示す形態学的像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施形態1:ナメクジからの糖タンパク質の調製
薬材の由来:新鮮アシヒダナメクジ(Vaginulus alte Ferussac;中国広西省百色産)を−20℃の冷凍庫にて冷凍保存する。
前処理:二回蒸留水にて解凍してナメクジから泥、砂及び雑草を除去する。
【0026】
調製方法:
−20℃の冷凍庫からナメクジを取り出し、各1kgの4等分に分け、二回蒸留水中で約2時間解凍した。次に、ナメクジを、高速組織粉砕器(DS−200;江蘇省江陰科研機器)で、200g/回で5回に分けて粉砕した後、4000r/minで10分間遠心分離し、上澄みを取り出し保存し、残渣は上記操作を繰り返して、最後に4等分のナメクジをそれぞれ1L、2L、3L及び4Lの二回蒸留水に加える。抽出液を4℃にて終夜静置した後、上のほうには明らかな脂肪の層が認められる。次に4層ガーゼで濾過し、濾紙で吸引濾過する。多糖の量をフェノール硫酸法で定量し、タンパク質の量をBCA法で定量する。
【0027】
その後、凍結乾燥する。ナメクジ抽出液を−40℃の凍結乾燥機中に12時間入れ、次に温度を徐々に4℃まで上げて、4℃に12時間保ち、次に10時間かけて温度を徐々に4℃から30℃に上げ、最後にナメクジ糖タンパク質が得られる。該糖タンパク質は淡黄色粉末を呈する。
【0028】
実施形態2:各種剤形の製造
実施例1で調製されたナメクジ糖タンパク質を主原料に、適宜な添加剤を混合し、中国薬局方2000年版第1部製剤通則に記載の方法及び条件に従って、顆粒剤、錠剤、丸剤、滴丸剤、シロップ剤、注射剤、注射用の凍結粉末、又は噴霧剤の剤形とする。
【実施例1】
【0029】
1.実験材料
1.1 薬物及び試薬
1)ナメクジ糖タンパク質:南華大学薬物薬理研究所により提供された。ヒトの臨床用量は700mg/日であると推測される(ロットナンバー:2005012)。薬物サンプルは、淡黄色粉末であり、かすかな魚臭があり、やや苦く塩辛い。投薬体積は10ml/kgであった。0.9%生理食塩水に溶解し、冷蔵庫で貯蔵し、使用前に均一に振り混ぜた。
【0030】
動物に対する用量は、体重にて計算し、高用量はヒトの臨床用量の3倍に決定した。高用量は中用量の3倍と、中用量は低用量の3倍とした。ラットに対して、高用量、中用量及び低用量はそれぞれ、210mg/kg、70mg/kg及び23mg/kgであり、投与濃度はそれぞれ、21mg/ml、7mg/ml及び2.3mg/mlであり、投与体積は10ml/kgであった。マウスに対して、高用量、中用量及び低用量はそれぞれ300mg/kg、100mg/kg及び33mg/kgであり、投与濃度はそれぞれ、30mg/ml、10mg/ml及び3.3mg/mlであり、投与体積は10ml/kgであった。モルモットに対して、高用量、中用量及び低用量はそれぞれ、210mg/kg、70mg/kg及び23mg/kgであり、投与濃度はそれぞれ、21mg/ml、7mg/ml及び2.3mg/mlであり、投与体積は10ml/kgであった。0.9%生理食塩水に溶解し、冷蔵庫で貯蔵し、使用前に均一に振り混ぜた。
【0031】
2)オフロキサシン:上海普康薬業有限公司により提供された(ロットナンバー:20060219)。
3)培養培地:北京奥博星生物技術責任有限会社により提供された牛肉ペースト(ロットナンバー:20040218)。
4)トリプトン:北京奥博星生物技術責任有限会社により提供された(ロットナンバー:20060402)。
5)細菌:黄色ブドウ球菌は南華大学微生物学研究室により提供され、α−溶血性連鎖球菌(32172)は衛生部薬品生物製品検定所により提供された。
6)塩化アンモニウム:北京製薬厰により製造された(ロットナンバー:021018)。
7)フェノールスルホンフタレイン:北京化工厰により製造された(ロットナンバー:980820)。
8)重炭酸ナトリウム:北京化工厰により製造された(ロットナンバー:031012)。
9)エラスターゼ(ロットナンバー:90562745)、卵白アルブミンはSigmaにより提供された。
10)アミノフィリン、水酸化ナトリウム、ペントバルビタール、生理食塩水、ロック溶液、及び二酸化硫黄は利科薬物公司より購入した。
11)IL−2及びIL−4のアッセイキット:深セン晶美公司より購入した。
12)塩化アセチルコリン:上海国薬集団化学試剤有限公司により提供された(ロットナンバー:040910)。
【0032】
1.2 実験動物
1)SDラット(オスメス半々ずつ)、体重は150〜200gであった。湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された(番号:scxk(湘)2003−0003)。
2)昆明種マウス(オスメス半々ずつ)、体重は18〜22gであった。湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された(番号:scxk(湘)2003−0003)。
3)健康モルモット(オス又はメス)、体重は250〜300gであった。湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された(番号:scxk(湘)2003−0003)。
4)ニュージーランドウサギ(クリーン動物、オス又はメス)、体重は1.8〜2.2kgであった。湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された(番号:scxk(湘)2003−0003)。
5)シリアンゴールデンハムスター(オス)、体重は100〜150gであった。湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された(番号:scxk(湘)2003−0003)。
【0033】
上記全ての動物は、中国実験動物国家標準のクリーン級に相当する実験室で飼育し、室温は20〜25℃、相対湿度は55%〜70%であった。
マウス飼育用ペレット飼料は、湖南農業大学動物科技学院実験動物センターにより提供された。
【0034】
1.3 主要な機器
1)ベックマン(BECKMAN)生化学自動分析装置:BECKMAN(米国)により製造された。
2)オリンパス(OLYMPUS−CH)顕微鏡撮影システム:OLYMPUS(日本)により製造された。
3)FA1004電子天秤:上海天秤儀器厰により製造された。
4)1512型ミクロトーム:Leica(ドイツ)により製造された。
5)402A1型超音波霧化器、潅流装置及びT字管:江蘇魚躍医療設備有限公司により製造された。
【0035】
2.実験方法及び結果
2.1 ナメクジ糖タンパク質による肺気腫及び肺動脈高圧に対する治療効果
肺気腫及び肺動脈高圧を有するモデル動物の構築:各100〜150gのオスのゴールデンハムスター90匹から75匹をランダムに選択した。12%ウレタンを腹腔注射することによって動物を麻酔した。次に、口腔を開き、喉を露出させ、プラスチックのパイプを気管に挿入し、パイプを通してエラスターゼを動物の肺内に注入した(60U/100g体重)。それから動物を縦に持ち、揺すって薬液を肺内に均一に行き渡らせた。動物は数時間で自然と覚醒し、随意に摂餌した。残りの15匹のゴールデンハムスターは、正常対照群(A群)として、同量の食塩水を各動物の気管に注入した。
【0036】
21日後、75匹のモデル動物を5群:Bモデル対照群(非治療)、C薬物陽性対照群(アミノフィリン)、Dナメクジ糖タンパク質低用量治療群(23mg/kg/日)、Eナメクジ糖タンパク質中用量治療群(70mg/kg/日)、Fナメクジ糖タンパク質高用量治療群(210mg/kg/日)に分けた。30日間強制経口投与した後、動物を屠殺して次のことを測定した:
【0037】
右心室収縮期圧(RSP;肺動脈圧を反映する):動物の頸部を切開して右頸静脈を露出させ、次にパイプを右頸静脈から3cmほど挿入し右心室に到達した。パイプのもう片端は、生理モニター(RM−6300、日本)に接続し、圧を測定した。同時に、左頸動脈も露出させて、体動脈圧も測定した。
【0038】
右心室肥大指数(RVHI;右心室重量/(左心室+房室中隔の重量)):動物を出血死させ、胸部を開いて心臓を取り出し、次に右心室を切り落とした。心臓を食塩水で洗浄し、水を濾紙に吸収させて、次に右心室を秤量し、また左心室と房室中隔との合計重量を秤量した。
【0039】
気管支肺胞洗浄液分析:等圧潅流装置を用い、等圧恒温下、37℃の酸素を含むロック溶液を潅流し、貯液タンクの底部はT字管よりも60〜100cm高かった。動物を屠殺して胸部を開き、気管を分離して切り落とし、それから気管及び心肺を一緒に取り出して37℃のロック溶液中に入れた。軽く押して肺から空気を排出し、気管をT字管に結紮した。T字管を開いてロック溶液を肺中に潅流させ、流速を約25ml/分に調節した。潅流液を400gで10分間遠心分離し、上澄みを除去し、それから生理食塩水を沈渣に加えて細胞を懸濁させた。気管支肺胞洗浄液(BALF)の細胞数を倒立顕微鏡により、1試料につき4回計数した。肺臓1g当たり、潅流液1mL当たりの細胞数(/ml/g)を計数した。懸濁液のスメアをHEで染色してから、細胞タイプにおけるマクロファージの比を計数した。
【0040】
統計処理:データは、x±sで表して、一元配置分散分析により分析し、Newman−Keuls法により各群を比較した。P<0.05は有意差を意味する。
【0041】
実験結果:
病理学的観察及び形態計測分析:
正常群:気管支、肺胞、及び肺血管の構造は正常であった。
モデル群:細気管支、呼吸細気管支、肺胞管、肺胞嚢、及び肺胞の大部分に明確な拡張があった。
アミノフィリン群:モデル群と比較して、肺気腫の病理学的変化に明確な改善がなかった。
低用量群:モデル群と比較して、肺気腫の病理学的変化に明確な改善がなかった。
中用量群:モデル群と比較して、肺気腫の病理学的変化にある種の改善があり、特に、細動脈の病理学的変化が明らかに改善された。
高用量群:モデル群と比較して、肺気腫の病理学的変化にある種の改善があり、特に、細動脈の病理学的変化が明らかに改善された。
【0042】
詳細なデータを表1に示した。
【表1】
【0043】
表1に示してように、高・中用量のナメクジ糖タンパク質による30日間の治療後、右心室収縮期圧(RSP)及び右心室肥大指数(RVHI)が低下し、気管支肺胞洗浄液(BALF)中のマクロファージ数に明らかに減少があり、また肺気腫の病理学的変化に明らかな改善があり、特に、細動脈の病理学的変化は明らかに改善される(P<0.05)。
【0044】
2.2 ナメクジ糖タンパク質による慢性気管支炎に対する咳止め作用
慢性気管支炎モデルマウスの構築:白色マウス90匹(各20〜25g、オス又はメス)を選択した。マウスをランダムに6群に分けた。正常対照群では、SO2刺激を与えず、マウスを正常に飼育した。他の群では、SO2刺激を与えた。即ち、蒸発皿に0.5gの無水亜硫酸ナトリウムを入れ、これを8Lの鐘の中に置き、各群のマウスを鐘に入れ、50%硫酸5mlを蒸発皿に加え、2分後にマウスを取り出した。1日1回、21日間。
【0045】
21日後、モデル対照群中の動物には、15ml/kgの生理食塩水を強制経口投与した。陽性対照群中の動物には、1.2mg/kgのデキサメタゾンを、1日1回、10日間強制経口投与し、さらに15mg/kgのデキストロメトルファンも8日目から1日1回、3日間強制経口投与した。ナメクジ糖タンパク質の高・中・低用量群の動物には、それぞれ、150mg/kg、100mg/kg、及び60mg/kgを1日1回、10日間強制経口投与した。投与期間中、各群の動物の全身状態を観察した。最終投与の1時間後に上記SO2刺激を与え、マウスの咳の潜伏期、及び、3分間の咳の回数を記録した。群間T検定を行い、医薬品群と対照群の間の比較データを表2に示した。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、明らかに、咳の潜伏期を延長し、咳の回数を減少させることができた。生理食塩水対照群と比較して、高用量群及び中用量群では、有意差が認められた。低用量群においては、咳の潜伏期を延長した傾向はあったが、有意差は認められなかった。
【0048】
2.3 ナメクジ糖タンパク質による慢性気管支炎に対するきょ痰作用
慢性気管支炎モデルマウスの構築:90匹の白色マウス(各20〜25g、オス又はメス)を選択した。マウスをランダムに6群に分けた。正常対照群では、SO2刺激は与えず、マウスを正常に飼育した。他の群では、SO2刺激を与えた。方法は上記2.2に従った。
【0049】
21日後、モデル対照群中の動物には、15ml/kgの生理食塩水を強制経口投与し、陽性対照群中の動物には、1.2mg/kgのデキサメタゾンを1日1回、10日間強制経口投与し、さらに15mg/匹の1.2%NH4Cl溶液も第8日目から1日1回、3日間強制経口投与した。ナメクジ糖タンパク質の高・中・低用量群の動物には、それぞれ、500mg/kg、100mg/kg、及び20mg/kgを1日1回、10日間強制経口投与した。投与期間中、各群中の動物の全身状態を観察し、最終投与の30分後に、各動物に1%フェノールスルホンフタレイン/生理食塩水を0.5ml/匹腹腔注射した。30分後、マウスを屠殺してそれらを手術台上に置き、輪状軟骨から気管分岐部までの気管を頸部から切り出し、5%NaHCO3溶液中に入れ、3回気管を満たして洗い流し、洗浄液を終夜静置し、その後洗浄液のODを測定した。結果を表3に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
表3に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、マウスの気管からのフェノールスルホンフタレインの排液量を明らかに増大させることができた。そのうち、高用量群及び中用量群においては、生理食塩水対照群と比較して、有意差が認められた。
【0052】
2.4 ナメクジ糖タンパク質による慢性気管支炎ラットに対する抗喘息効果
慢性気管支炎モデルラットの構築:60匹のSDラット(各250〜300g、オス又はメス)を選択した。ラットを選別するため、超音波噴霧器に10mlの4%リン酸ヒスタミン及び2%塩化アセチルコリンを注入し、1分間噴霧させることより喘息を誘発し、喘息潜伏期を噴霧開始から攣縮転倒までの時間として測定した。喘息潜伏期が10分を超えた無反応動物を除外した。残りのラットをランダムに5群に分けて、慢性気管支炎モデルを次のように構築した。モデル構築は、0.3ml/100gの10%抱水クロラールによる腹腔内麻酔下で、ラットに実施した。それから、ラットの気管を露出させ、パイプを挿入し、パイプを通じて200μg/200μlのPLSを気管中に注入し、その後3週間飼育した。
【0053】
21日後、モデル対照群中の動物には、15ml/kgの生理食塩水を強制経口投与し、陽性対照群中の動物に、1.2mg/kgのデキサメタゾンを1日1回、10日間強制経口投与し、さらに0.1g/kgアミノフィリンも8日目から1日1回、3日間強制経口投与した。ナメクジ糖タンパク質高・中・低用量群の動物には、それぞれ、210mg/kg、70mg/kg、及び、23mg/kgのナメクジ糖タンパク質を1日1回、10日間強制経口投与した。投与期間中、各群中の動物の全身状態を観察して、最終投与の1時間後に、上記方法により誘発喘息の潜伏期を測定した。結果を記録し、結果についてt検定を行う。結果は表4に示した。
【0054】
【表4】
【0055】
表4に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、リン酸ヒスタミン及び塩化アセチルコリンによる誘発喘息の潜伏期を明らかに延長することができた。高用量群及び中用量群において、生理食塩水対照群と比較して、有意差が認められた。
【0056】
2.5 ナメクジ糖タンパク質による慢性気管支炎ラットの肺炎症性病変に対する治療効果
慢性気管支炎モデルラットの構築:60匹のSDラット(各250〜300g、オス又はメス)を選択した。ラットをランダムに6群に分け、1群は正常対照群であり、他の5群については、上記方法に従ってモデル化した。
【0057】
21日後、モデル対照群中の動物には、15ml/kgの生理食塩水を強制経口投与し、陽性対照群中の動物には、1.2mg/kgのデキサメタゾンを1日1回、10日間強制経口投与した。ナメクジ糖タンパク質高・中・低用量群中の動物には、それぞれ、210mg/kg、70mg/kg、及び、23mg/kgのナメクジ糖タンパク質を1日1回、10日間強制経口投与した。投与期間中、各群中の動物の全身状態を観察して、最終投与から10日後に次の手順を実施した。即ち、ラットは、0.4ml/100gの10%抱水クロラールによる腹腔内麻酔を施し昏睡させ、手術台上にのせ、頸部及び胸部を切開し、気管及び肺組織を取り出して、まず試料の状態を肉眼で観察した。それから、試料は10%ホルマリン溶液で固定し、パラフィンで包埋して切片に切り、HEで染色した。上皮の完全性、腺の厚み、気管粘膜の下における炎症性細胞の浸潤状態、濾胞性リンパ、並びに気管壁の厚み及び腺層の厚みを含む、肺組織・気管支の炎症性病変の程度を顕微鏡で観察した。
【0058】
結果は次の通りであった。気道へLPSを注入してから21日間、ラットは倦怠して、運動量が減り、食餌・水の摂取が少なくなった。明らかな湿性ラッセル音が聞こえた。10日間治療後、各治療群における湿性ラッセル音は徐々に減少したが、モデル対照群における湿性ラッセル音は変化しなかった。肉眼による観察:肺組織は膨張し、灰白色で、表面には出血や液体の滲出はなかった。倒立蛍光顕微鏡による観察:モデル群においては、ラットの気道における分泌物が明らかに増加し、上皮が不完全で、気管腺は厚くなり、気管粘膜層・粘膜下層に大量の炎症性細胞の浸潤が見られ、気管支の周りに濾胞性リンパが形成されていた(図2を参照)。治療群においては、ラットの気道における分泌物が減少し、上皮はほぼ完全で、モデル群に比べて気管壁及び腺は薄くなっており、気管粘膜下の炎症性細胞の浸潤が軽減され、気管支周りの濾胞性リンパは小さくなっていた(図3を参照)。陽性対照群(図5を参照)及びナメクジ糖タンパク質高用量群(図4を参照)においては、モデル対照群(図1を参照)と明らかな差異があった。
【0059】
2.6 ナメクジ糖タンパク質による気管支喘息モデルモルモットに対する治療効果
気管支喘息モデルモルモットの構築:90匹のモルモットを選択し、ランダムに各群15匹の6群に分けた。A群:対照群(健常モルモット)、B群:モデル対照群(非治療)、C群:陽性対照群(アミノフィリン)、D群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(低用量群、23mg/kg/日)、E群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(中用量群、70mg/kg/日)、F群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(高用量群、210mg/kg/日)。
【0060】
滅菌条件下で、各動物に1mlの100g/L水酸化アルミニウムを腹腔内投与し、0.5mlの1%卵白アルブミン(Sigma)を腿に筋肉内注射した。対照群には、水酸化ナトリウム及び卵白アルブミンの代わりに生理食塩水を使用して処置した。2週間後、密閉にて、400mmHgの等圧で、0.5%の卵白アルブミン/生理食塩水を、動物に呼吸加速や腹筋収縮などの気管支炎喘息に関連する多くの症状が生じるまで、噴霧した。対照群に対しては、生理食塩水を用いて同じ手順で処置した。翌日から7日間、喘息誘発の1時間前に、次の群に強制経口投与した:A群:対照群(健常モルモット)、B群:モデル対照群(非治療)、C群:陽性対照群(アミノフィリン)、D群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(低用量群、23mg/kg/日)、E群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(中用量群、70mg/kg/日)、F群:ナメクジ糖タンパク質カプセル群(高用量群、210mg/kg/日)。最後の誘発時、卵白アルブミンの噴霧から腹筋収縮までの時間を記録し、これを誘発喘息の潜伏期とした。喘息の重症度を次のように記録した:クラス0:明確な反応なし;クラス1:軽度の鼻掻き、振戦、及び立毛;クラス2:数回の咳があり、鼻掻き、振戦、及び立毛;クラス3:頻繁な又は連続する咳、呼吸困難、痙攣;クラス4:痙攣、攣縮、失禁、ショック、及び死亡。24時間後、動物は、1.5mlの1%ペントバルビタールによる腹腔内麻酔を施し、昏睡させた。静脈採血後、末梢血中の白血球を計数した。
【0061】
薬理学的実験方法に従って気管支肺胞洗浄を実施し、肺組織への炎症性細胞の浸潤状態を観察した。肺組織を固定して切片に切り、HE染色し、好酸球の浸潤を観察した。
【0062】
実験結果
7日間連続で喘息を誘発して、最後の誘発時間を誘発喘息の潜伏期とした(単位は「s」(秒))。対照群においては明確な反応はなく、喘息モデル群においては、誘発喘息の潜伏期は明らかに短縮されており、治療群においては、モデル群に比べて誘発喘息の潜伏期は明らかに延長されていた。結果を図6の棒グラフに示した。
【0063】
【表5】
末梢血及び肺組織中の白血球数変化の結果を表6に示した。
【表6】
【0064】
図7〜12は、肺組織への好酸球浸潤の形態学的観察を示す(倍率200×)。
【0065】
2.7 ナメクジ糖タンパク質による卵白アルブミンにより感作されるモルモットの肺気管支の潅流への影響
モットの構築及び群分けは上記と同じであった。
【0066】
気管支潅流実験
等圧潅流装置を用い、等圧恒温下、37℃の酸素を含むロック溶液を潅流し、貯液タンクの底部はT字管よりも60〜100cm高かった。モルモットは、1.5mlの1%ペントバルビタールによる腹腔内麻酔を施し、昏睡させた。炎症因子を検出するために、頸動脈から2mlの血液を採った。動物を屠殺して胸部を切開し、気管を分離して切除し、次に気管を心肺と共に摘出し、37℃のロック溶液中に入れた。軽く押して肺から空気を押し出し、気管をT字管に結紮した。T字管を開いてロック溶液を肺中に潅流させ、流速を約25ml/分に調節した。炎症因子を検出するために、5mlの洗浄液を採った。流速が安定した後、T字管を通して0.5%卵白アルブミンを投与し、気管支の攣縮を刺激した。30秒後、毎分の流量を6〜10分間実測して記録した。統計処理:データは、x±sで表して、一元配置分散分析により分析し、Newman−Keuls法で各群を比較した。P<0.05は明確な差を意味した。
【0067】
実験結果:
(ナメクジ糖タンパク質による卵白アルブミンにより感作されたオーバーフロー量の減少に対する予防効果)
どの群においても実験中の動物の死亡が認められた。最終的な実験動物は15匹であった。卵白アルブミンによる刺激前においては、モデル群の肺オーバーフロー量はすでに他の群より明らかに低かった。卵白アルブミンによる感作後は、正常対照群の肺オーバーフローは変化していなかったが、モデル群の肺オーバーフロー量は明らかに減少していた。モデル群と比較して、アミノフィリン群並びにナメクジ糖タンパク質中用量群及び高用量群の肺オーバーフロー量は、明らかに増大していた。ナメクジ糖タンパク質低用量群の効果は顕著ではなかった。データを表7に示した。
【0068】
【表7】
【0069】
(ナメクジ糖タンパク質カプセルによる収縮状態での摘出された気管支の肺オーバーフロー量への影響)
表7に示したように、卵白アルブミンによって感作された後、収縮状態での摘出された気管支の肺オーバーフロー量は、明らかに減少していた。感作の6分後、気管支の肺オーバーフロー量は安定になった。このとき、ナメクジ糖タンパク質又はアミノフィリンをそれぞれ投与して、結果を表8に示した。アミノフィリンを投与した後は、肺オーバーフロー量は明らかに増大し、ナメクジ糖タンパク質を投与した後は、肺オーバーフロー量は明らかな変化はなかった。
【0070】
【表8】
【0071】
(ナメクジ糖タンパク質による気管支肺胞洗浄液及び血清中におけるIL−2、IL−4への影響)
表9に示したように、喘息モデル群において、血清及び気管支肺胞洗浄液(BALF)中のIL−2、IL−4量は明らかに増大し、ナメクジ糖タンパク質群及びアミノフィリン群においては、IL−2、IL−4量は明らかに減少していた。
【0072】
【表9】
【0073】
2.8 ナメクジ糖タンパク質カプセルによる急性気管支炎に対する治療効果
2.8.1 ナメクジ糖タンパク質による急性気管支炎に対する咳止め効果
急性気管支炎モデルマウスの構築:白色マウス(各20〜25g、オス又はメス)を選択した。予めマウスを選別した:1Lビーカー中に蒸発皿を置き、蒸発皿に0.5gの無水亜硫酸ナトリウムを入れ、さらに蒸発皿に50%硫酸5mlを加えて、すぐに蓋をし、15秒後にマウスをビーカー中に入れ、刺激して30秒後にマウスを取り出した。3分間以内に咳を始めたマウス(口を開いた又は咳の音がした)が適格とした。この時、咳の潜伏期及び回数を記録した。3日間飼育した後、適格マウスを5群に分けた。対照群の動物には生理食塩水15ml/kgを投与し、陽性対照群の動物にはデキストロメトルファンを経口により用量15mg/kgで投与し、ナメクジ糖タンパク質高・中・低用量群の動物には、それぞれ、300mg/kg、100mg/kg、及び、32mg/kgのナメクジ糖タンパク質を、1日1回、5日間強制経口投与した。投与期間中、各群の動物の全身状態を観察し、最終投与の1時間後に30秒間、上記SO2刺激を各動物に与えた。各マウスの咳の潜伏期、及び各動物の3分間の咳の回数を記録した。群間T検定を行い、医薬品群と対照群との比較データを表10に示した。
【0074】
【表10】
【0075】
表10に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、咳の潜伏期を明らかに延長させ、咳の回数を減少させることができた。生理食塩水対照群と比較して、高用量群及び中用量群で有意差が認められた。低用量群と高用量群との間で、有意差が認められた。
【0076】
2.8.2 ナメクジ糖タンパク質カプセルによる急性気管支炎に対するきょ痰効果
モデル構築及び群分けは、上記に従って実施した。動物には、最終投与の30分後に、0.25%フェノールレッド(0.3ml/10g)を腹腔内投与した。30分後に、動物を屠殺してその気管を分離し、5%重炭酸ナトリウム溶液で3回洗い流し(1ml/回)、次に洗浄液を合わせた。試料は比色法で分析し、次に統計処理した。結果は表11に示した。
【0077】
【表11】
【0078】
表11に示したように、塩化アンモニウムは明らかな鎮咳効果を有していた。塩化アンモニウム群と対照群との間で有意差が認められた。ナメクジ糖タンパク質300mg/kg群は、塩化アンモニウムと同じ効果を有し、対照群との間で有意差が認められた。
【0079】
2.9 ナメクジ糖タンパク質カプセルによるウサギの気管における繊毛運動への影響
ウサギを、対照群、陽性対照群、高用量300mg/L、中用量100mg/L、及び低用量33mg/Lのナメクジ糖タンパク質群の5群に分けた。ウサギを屠殺し、気管を分離して、切り離し、気管を切開し、繊毛を露出させ、気管を5等分に切り分けた。リンゲル溶液(37℃)で気管粘膜を洗浄し、次に解剖レンズで試料を観察した。
【0080】
正常値を3回実測し、それらの平均を計算して、それから動物に薬品を投与する。生理食塩水、0.01%塩化アセチルコリン(Ach)、ナメクジ糖タンパク質(高用量群、中用量群、及び低用量群)。
【0081】
観察指標
(1)繊毛運動
視野内の全ての繊毛運動が活性: +++
視野内の1/3〜2/3の繊毛運動が活性: ++
視野内の1/3未満の繊毛運動が活性: +
視野内の全ての繊毛運動が不活性: −−
【0082】
(2)輸送速度
気管粘膜にインクを垂らし、インクが1方向へ動き(喉頭に向かって)、マイクロメーター及びストップウォッチにより速度を測定し、次に、粘液繊毛輸送速度を計算した(秒/2mm)。結果を表12に示した。
【0083】
【表12】
【0084】
2.10 ナメクジ糖タンパク質による抗菌効果
2.10.1 黄色ブドウ球菌又はα−溶血性連鎖球菌などの急性咽頭炎に関する幾種かの細菌を選択し、上記細菌を、その病原性及びマウスなどの感作動物によって、所定量で腹腔内投与又は皮下注射し、ある程度の動物の死亡をもたらした。細菌を感染させる前に、及び細菌を感染させた後に薬を投与して、5日間の動物の摂餌行動、摂水行動、及び運動を観察した。
【0085】
次のように動物を6群に分ける:対照群、モデル群、陽性対照群(オフロキサシン0.5g/kg)、ナメクジ糖タンパク質群(高用量5g/kg、中用量1g/kg、低用量0.5g/kg)。4日間の摂餌行動、摂水行動、及び運動を観察し、正常値として記録した。その後、対照群を除いて、他の群の動物に0.5mlの黄色ブドウ球菌を、腹腔内投与又は皮下注射して感染させた。翌日から、5日間動物に強制経口投与し、1日2回、摂餌行動、摂水行動、及び運動の状態、並びに平均生存日数を観察し、対照群と比較した。統計処理による結果を表13及び表14に示した。
【0086】
【表13】
【0087】
【表14】
【0088】
表13及び表14に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、ある程度の抗菌効果を有する。
【0089】
2.10.2 in vivoでナメクジ糖タンパク質による黄色ブドウ球菌感染に対する治療効果
動物を6群に分ける:対照群、モデル群、陽性対照群(オフロキサシン0.5g/kg)、ナメクジ糖タンパク質群(高用量300mg/kg、中用量100mg/kg、低用量33mg/kg)。α−溶血性連鎖球菌を腹腔内投与により動物に注射した以外、2.10.1と同じであった。結果を表15に示した。
【0090】
【表15】
【0091】
表16に示したように、ナメクジ糖タンパク質は、ある程度の抗菌効果を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質であって、前記糖タンパク質は次の方法:
(1)ナメクジを乾燥粉末として準備するステップ、
(2)前記乾燥ナメクジ粉末をエタノールで抽出し、濾過し、上澄みを除去し、残渣Iを得るステップ、
(3)前記残渣Iを乾燥させエタノールを除去し、水を加え、回流抽出し、濾過し、上澄みIを得るステップ、及び、
(4)前記上澄みIをエタノールで沈殿させ、遠心分離し、上澄みを除去し、沈殿物からエタノールを除去し、凍結乾燥し、目的の糖タンパク質を得るステップ、
により抽出されることを特徴とする、糖タンパク質。
【請求項2】
前記ステップ(2)で使用されるエタノールが60%エタノールであり、前記エタノールで抽出するステップが、前記乾燥ナメクジ粉末を60%エタノールで一晩浸漬し、次に濾過し、残渣Iを得、必要に応じて上記残渣Iを60%エタノールで1〜3回繰り返して抽出することを含む、請求項1に記載の慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質。
【請求項3】
前記ステップ(4)で使用されるエタノールが60%エタノールである、請求項1に記載の慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質。
【請求項4】
前記ステップ(3)において、水を加え回流抽出し、濾過して上澄み及び残渣IIを得、前記残渣IIを繰り返して水で回流抽出してよく、濾過して残渣及び上澄みを得、本ステップで得られた上澄みを合わせて上澄みIとする、請求項1に記載の慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質。
【請求項5】
ステップ(1)で使用される前記ナメクジが、新鮮ナメクジ又は凍結ナメクジの全身である、請求項1に記載の慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質。
【請求項6】
慢性閉塞性肺疾患の治療のための薬物の製造における、請求項1に記載の糖タンパク質の使用。
【請求項7】
抗菌抗炎症性薬物の製造における、請求項1に記載の糖タンパク質の使用。
【請求項8】
前記抗菌は、急性又は慢性咽頭炎に関連する菌に対抗することである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
安全かつ有効量の請求項1に記載の糖タンパク質、並びに、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項10】
カプセル、顆粒剤、錠剤、丸剤、滴丸剤、シロップ剤、注射剤、注射用凍結粉末及び噴霧剤の形態に製造される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項1】
慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質であって、前記糖タンパク質は次の方法:
(1)ナメクジを乾燥粉末として準備するステップ、
(2)前記乾燥ナメクジ粉末をエタノールで抽出し、濾過し、上澄みを除去し、残渣Iを得るステップ、
(3)前記残渣Iを乾燥させエタノールを除去し、水を加え、回流抽出し、濾過し、上澄みIを得るステップ、及び、
(4)前記上澄みIをエタノールで沈殿させ、遠心分離し、上澄みを除去し、沈殿物からエタノールを除去し、凍結乾燥し、目的の糖タンパク質を得るステップ、
により抽出されることを特徴とする、糖タンパク質。
【請求項2】
前記ステップ(2)で使用されるエタノールが60%エタノールであり、前記エタノールで抽出するステップが、前記乾燥ナメクジ粉末を60%エタノールで一晩浸漬し、次に濾過し、残渣Iを得、必要に応じて上記残渣Iを60%エタノールで1〜3回繰り返して抽出することを含む、請求項1に記載の慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質。
【請求項3】
前記ステップ(4)で使用されるエタノールが60%エタノールである、請求項1に記載の慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質。
【請求項4】
前記ステップ(3)において、水を加え回流抽出し、濾過して上澄み及び残渣IIを得、前記残渣IIを繰り返して水で回流抽出してよく、濾過して残渣及び上澄みを得、本ステップで得られた上澄みを合わせて上澄みIとする、請求項1に記載の慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質。
【請求項5】
ステップ(1)で使用される前記ナメクジが、新鮮ナメクジ又は凍結ナメクジの全身である、請求項1に記載の慢性閉塞性肺疾患を治療するための糖タンパク質。
【請求項6】
慢性閉塞性肺疾患の治療のための薬物の製造における、請求項1に記載の糖タンパク質の使用。
【請求項7】
抗菌抗炎症性薬物の製造における、請求項1に記載の糖タンパク質の使用。
【請求項8】
前記抗菌は、急性又は慢性咽頭炎に関連する菌に対抗することである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
安全かつ有効量の請求項1に記載の糖タンパク質、並びに、薬学的に許容される賦形剤、希釈剤又は担体を含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項10】
カプセル、顆粒剤、錠剤、丸剤、滴丸剤、シロップ剤、注射剤、注射用凍結粉末及び噴霧剤の形態に製造される、請求項7に記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2010−517948(P2010−517948A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547515(P2009−547515)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際出願番号】PCT/CN2008/070124
【国際公開番号】WO2008/095429
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(509212616)グアンツォウ コンツェルン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際出願番号】PCT/CN2008/070124
【国際公開番号】WO2008/095429
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(509212616)グアンツォウ コンツェルン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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