説明

慣性駆動アクチュエータ

【課題】長期に亘って、安定した動作ができなくなるおそれがある。
【解決手段】第1の方向と第1の方向とは逆の第2の方向に微小変位を発生する変位手段と、変位手段の微小変位によって往復運動する振動基板と、振動基板の平面上に配置され、第1の磁界発生手段を有した移動子と、を有し、移動子の振動基板に対向した移動子側の面に第1の磁界発生手段が発生する磁束がN極、S極ともに集中するように、移動子は、第1の磁界発生手段が発生する磁束を誘導する第1のヨークとを有し、さらに、振動基板の移動子に対向した向きと反対側に第2のヨークを有し、第1の磁界発生手段から発生する磁界を制御することによって、移動子と振動基板の間に働く摩擦力を制御し、移動子を駆動することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を所定方向に移動させる慣性駆動アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動軸に結合された電気機械変換素子に鋸歯状波駆動パルスを供給して駆動軸を軸方向に変位させ、この駆動軸に摩擦結合させた移動部材を軸方向に移動させるアクチュエータが知られている(以下、このようなアクチュエータをインパクト駆動アクチュエータ或いは慣性駆動アクチュエータと称する)。
【0003】
このようなインパクト駆動アクチュエータが、特許文献1に開示されている。図9(a)は、その構成を示す図である。振動部材103は支持部材101の立ち上がり部にあけられた穴に挿入され、振動部材103の軸方向に移動可能に配置されている。振動部材103の一端は圧電素子102の一端と固定され、圧電素子102の他端は支持部材101に固定されているため、圧電素子102の振動に伴い振動部材103が軸方向に振動する。移動体104にも2つの穴が設けられており、振動部材103がその穴に挿入されている。更に移動体104には下方から板ばね105が取り付けられており、板ばね105に設けられている突起部が振動部材103に押付けられている。このように板ばね105による押圧によって、移動体104と振動部材103は互いに摩擦結合されている。
【0004】
図9(b)、(c)に、インパクト駆動アクチュエータを駆動するための駆動波形を示す。図9(b)は移動体104を右に移動させるための駆動波形で、図9(c)は移動体104を左に移動させるための駆動波形である。これらの駆動波形を用いて、インパクト駆動アクチュエータの動作原理を説明する。なお、以下の説明では、圧電素子102が伸びる方向を左、縮む方向を右とする。
【0005】
移動体104を右に動かす場合には、図9(b)に示す駆動波形を用いる。駆動波形は、急峻に立ち上がる部分と緩やかに立ち下がる部分を有している。駆動波形が急峻に立ち上がる部分では、圧電素子102が急激に伸びる。ここで、振動部材103は圧電素子102に固定されているため、振動部材103は、圧電素子102の急激な伸びに応じて急速に左に移動する。このとき、移動体104の慣性は振動部材103との間の摩擦結合力(板ばね105で押圧されている移動体104と振動部材103との間の摩擦力)に打ち勝つことから、移動体104は左には移動せず、その位置にとどまる。
【0006】
次に、駆動波形が緩やかに立ち下がる部分では、圧電素子102が緩やかに縮む。振動部材103は、圧電素子102の緩やかな縮みに応じてゆっくりと右に移動する。この場合、移動体104の慣性は振動部材103との間の摩擦結合力に打ち勝つことができない。そのため、移動体104は振動部材103の移動と共に右に移動する。
【0007】
一方、移動体104を左に動かす場合には、図9(c)に示す駆動波形を用いる。駆動波形は、緩やかに立ち上がる部分と急峻に立ち下がる部分を有している。駆動波形が緩やかに立ち上がる部分では、圧電素子102が緩やかに伸びる。この場合、振動部材103は、圧電素子102の緩やかな伸びに応じてゆっくりと左に移動する。この場合、移動体104の慣性は振動部材103との間の摩擦結合力に打ち勝つことができない。そのため、移動体104は振動部材103の移動と共に左に移動する。
【0008】
次に、駆動波形が急峻に立ち上がる部分では、図9(b)で説明したように、移動体104の慣性は振動部材103との間の摩擦結合力に打ち勝つことから、移動体104は右には移動せず、その位置にとどまる。
【0009】
なお、板ばね105が常に振動部材103を押し付けられていることにより、移動体104は振動部材103に摩擦で支持されている。よって、移動体104が停止している際にも、その位置は保持されている。
【0010】
上記のように、インパクト駆動アクチュエータは、板ばね105による移動体104と振動部材103との摩擦結合と慣性を利用したアクチュエータであって、図9(b)、(c)に示す駆動波形を用いることで、移動体104を移動させることができるアクチュエータである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−288828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
先特許文献1に記載されているインパクト駆動アクチュエータは、板ばねにより振動部材103と移動体104に摩擦力を与えている。しかしながら、板ばねは常に振動部材と接触しているため、摩耗などの影響で所望の摩擦力が得られなくなる。そのため、先特許文献1に記載されているインパクト駆動アクチュエータは、長期に亘って、安定した動作ができなくなるおそれがある。
【0013】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、磨耗等の影響が少なく、効率よく移動体を移動あるいは駆動できる慣性駆動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の慣性駆動アクチュエータは、第1の方向と第1の方向とは逆の第2の方向に微小変位を発生する変位手段と、変位手段の微小変位によって往復運動する振動基板と、振動基板の平面上に配置され、第1の磁界発生手段を有した移動子と、を有し、移動子の振動基板に対向した移動子側の面に第1の磁界発生手段が発生する磁束がN極、S極ともに集中するように、移動子は、前記第1の磁界発生手段が発生する磁束を誘導する第1のヨークを有し、さらに、振動基板の移動子に対向した向きと反対側に第2のヨークを有し、第1の磁界発生手段から発生する磁界を制御することによって、移動子と振動基板の間に働く摩擦力を制御し、移動子を駆動することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の好ましい態様によれば、第1の磁界発生手段から発生する磁界に対して、移動子が振動基板に対向した方向に磁気吸引力または磁気反発力が働くように磁界を発生する第2の磁界発生手段をさらに有し、第2のヨークは、第2の磁界発生手段が発生する磁束が、固定子側の面にN極、S極、ともに集中するように、第2の磁界発生手段が発生する磁束を誘導するために、第2の磁界発生手段周辺に配置されており、第1の磁界発生手段と第2の磁界発生手段から発生する磁界を制御することによって、移動子と振動基板の間に働く摩擦力を制御し、移動子を駆動することが望ましい。
【0016】
また、本発明の好ましい態様によれば、第1の磁界発生手段が電磁コイルであることが望ましい。
【0017】
また、本発明の好ましい態様によれば、第2の磁界発生手段が永久磁石であることが望ましい。
【0018】
また、本発明の好ましい態様によれば、変位手段が圧電素子であることが望ましい。
【0019】
また、本発明の好ましい態様によれば、振動基板が非磁性体であることが望ましい。
【0020】
また、本発明の好ましい態様によれば、振動基板が非磁性部と磁性部を有することが望ましい。
【0021】
また、本発明の好ましい態様によれば、振動基板は、少なくとも一部が第2の磁界発生手段を有することが望ましい。
【0022】
また、本発明の好ましい態様によれば、振動基板は、第2のヨークの機能を兼用することが望ましい。
【0023】
また、本発明の好ましい態様によれば、第1の磁界発生手段が電磁コイルと永久磁石を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、磁気力を用いることで摩耗等の影響を少なくすることができ、さらにヨークを用いることから効率よく移動体を移動あるいは駆動できる慣性駆動アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図2】第2実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、図1(b)と同様の断面図である。
【図3】第3実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【図4】第4実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、図1(b)と同様の断面図である。
【図5】第5実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す図であって、図1(b)と同様の断面図である。
【図6】第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100を駆動するときの駆動方法を示す図である。
【図7】第6実施形態の慣性駆動アクチュエータの構造を示す側面図である。
【図8】第6実施形態の慣性駆動アクチュエータ100を駆動するときの駆動方法を示す図である。
【図9】従来のインパクト駆動アクチュエータを示す図であって、(a)構成を示す図、(b)移動体を右に移動させるための駆動波形を示す図、(c)移動体を左に移動させるための駆動波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本実施形態の慣性駆動アクチュエータの構成による作用効果を説明する。なお、この実施形態によって本発明は限定されるものではない。すなわち、実施形態の説明に当たって、例示のために特定の詳細な内容が多く含まれるが、これらの詳細な内容に色々なバリエーションや変更を加えても、本発明の範囲を超えない。従って、以下で説明する本発明の例示的な実施形態は、権利請求された発明に対して、一般性を失わせることなく、また、何ら限定をすることもなく、述べられたものである。
【0027】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る慣性駆動アクチュエータを図1に示す。図1(a)は慣性駆動アクチュエータの側面図、図1(b)は図1(a)におけるA−Aで示す位置における断面図である。
【0028】
第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100は、圧電素子(変位手段)3と、振動基板4と、移動子10と固定子20で構成されている。固定子20の上部に圧電素子3と振動基板4が位置し、振動基板4の上部に移動子10が位置する。
【0029】
移動子10は、コイル11(第1の磁界発生手段)と第1のヨーク12aとで構成されている。第1のヨーク(磁束誘導部材)12aは外観が溝状(凹状)の部材で、溝の中央でT字状の部材で仕切られている。そして、T字状の部材を中心としてコイル芯を巻いた円筒形状のコイル11が設けられている。また、コイル11に電流を供給する配線Lが、第1のヨーク12aから外側に延びている。なお、溝状の部材とT字状の部材は連結されている。
【0030】
圧電素子3と振動基板4は、共に板状の部材である。ここで、振動基板4には非磁性体の材料が用いられている。圧電素子3の一端と振動基板4の一端は機械的に連結されている。なお、機械的に連結する構成に限られず、接着でも良い。圧電素子3と振動基板4は、固定子20の上部に載置される。圧電素子3は微小変位を発生させ、振動基板4は微小変位によって往復運動する。
【0031】
固定子20は、永久磁石21(第2の磁界発生手段)と第2のヨーク(磁束誘導部材)22aで構成されている。永久磁石21は直方体の部材で、一方の面側がN極、他方の面側がS極となっている。第2のヨーク22aは箱状の部材である。永久磁石21はN極側の面を上にして、第2のヨーク22aの内側に載置されている。この永久磁石21は、第2のヨーク22aの底面部に固定されている。
【0032】
慣性駆動アクチュエータ100の動作について説明する。なお、駆動原理(駆動方法)については図6で説明する。コイル11に、紙面下方向にS極が発生するように電流を流す。ここで、コイル11の両側にはヨーク12aが配置されている。そのため、コイル11で発生した磁束の外部への漏れを、第1のヨーク12aよって抑えることができる。その結果、第1のヨーク12aの中央下部P1にはS極が集中し、第1のヨーク12aの両端下部P2にはN極が集中する。
【0033】
一方、第1のヨーク12aと対向している固定子20では、永久磁石21は第2のヨーク22aで囲まれている。そのため、永久磁石21で発生した磁束の外部への漏れを、第2のヨーク22aによって抑えることができる。その結果、永久磁石21の上部にはN極、第2のヨーク22aの両端上部P3にはS極が集中する。
【0034】
このように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100では、移動子10と固定子20の各々で磁束の外部への漏れを抑制し、これによりS極やN極を所定の領域に集中させることができる。よって、移動子10と固定子20の間に、紙面下側に向かって効率的に磁気吸着力を発生させることができる。
【0035】
逆に、コイル11に、紙面上方向にS極が発生するように電流を流す。すると、第1のヨーク12aの中央下部P1にはN極が集中し、第1のヨーク12aの両端下部P2にはS極が集中する。一方、第1のヨーク12aと対向している固定子20では、永久磁石21の上部にはN極、第2のヨーク22aの両端上部P3にはS極が集中する。そのため、移動子10と固定子20の間に、紙面上側に向かって効率的に磁気反発力を発生させることができる。
【0036】
なお、コイル11に流す電流量を変えることによって、移動子10の振動基板4に対する垂直抗力(移動子10と固定子20の間に発生する磁気吸着力あるいは磁気反発力)の強さを変化させることができる。このようにすることで、移動子10と振動基板4の摩擦力を制御することが可能となる。
【0037】
以上述べたように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100では、移動子10の移動あるいは駆動に磁気力を用いている。すなわち、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100は、駆動したときに磨耗が生じる弾性体のような部材を使っていない。そのため、移動子10の移動あるいは駆動させても磨耗が生じない。その結果、長期間にわたって、安定して移動子10を移動あるいは駆動する(所望の位置に移動させることや、所望の位置で保持する)ことができる。更に、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ100では、ヨークを用いていることから、外部への磁束漏れを抑制できる。これにより、磁気吸着力や磁気反発力を効率よく発生させることができる。このため、簡単かつ低コストな構成でありながら、移動子10を効率よく移動あるいは駆動できる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る慣性アクチュエータについて説明する。上記第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図2は、図1(b)と同様の慣性駆動アクチュエータの断面図である。
【0039】
第2実施形態の慣性駆動アクチュエータ200は、圧電素子3(不図示)と、振動基板4と、移動子10と固定子20で構成されている。固定子20の上部に圧電素子3と振動基板4が位置し、振動基板4の上部に移動子10が位置する。
【0040】
第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100の移動子10では、第1のヨーク12aは2つのコイル11の両方を覆っている。これに対して、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ200の移動子10では、第1のヨーク12bは2つのコイル11のうちの一方のみを覆っている。すなわち、慣性駆動アクチュエータ100では、第1のヨーク12aをコイル11の両脇部に配置していたのに対し、慣性駆動アクチュエータ200では、第1のヨーク12bをコイル11の片脇部のみに配置している。
【0041】
また、固定子20についても、慣性駆動アクチュエータ100では、第2のヨーク22aを永久磁石21の両側に配置していたのに対し、慣性駆動アクチュエータ200では、第2のヨーク22bを永久磁石21の片側のみに配置している。
【0042】
このように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ200は、第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100と構造が多少異なる。しかしながら、磁気吸着力、磁気反発力、ともに第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100と同様の効果がある。また、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ200は、第1のヨーク12bと第2のヨーク22bを、コイル11や永久磁石21の片側のみに配置している。そのため、第1実施形態と全体サイズを同じにした場合、コイルの巻き数を多くすることが出来る。したがって、第1実施形態と同じ電流値でコイル11から磁束を発生させる場合、磁束密度が増加し、磁気吸着力および磁気反発力を増加させることが出来る。
【0043】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る慣性駆動アクチュエータについて説明する。
図3(a)は慣性駆動アクチュエータの側面図、図3(b)は図1(a)におけるA−Aで示す位置における断面図である。第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100と同じ構成については同一の番号を付し、その説明は省略する。なお、配線の図示は省略している
【0044】
第3実施形態の慣性駆動アクチュエータ300は、圧電素子3と、移動子10と、移動基板40で構成されている。振動基板40の上部に振動基板40の上部に移動子10が位置する。そして、圧電素子3の一端と振動基板40の一端は機械的に連結されている。
【0045】
移動子10は、コイル11と第1のヨーク12cとで構成されている。なお、移動子10の構造は第1実施形態の移動子10と同じなので、説明を省略する。本実施形態の移動子10も、第1実施形態の移動子10と同様の役割をする。また、振動基板40は、永久磁石21と第2のヨーク22cで構成されている。振動基板40は、第1実施形態の固定子20と同様の役割をし、振動基板4の役割も果たす。
【0046】
このように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ300は、第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100と同じ作用を行う部材を備えているので、第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100と同様の効果を奏する。更に、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ300では、振動基板40に複数の役割を持たせているので、アクチュエータサイズの小型化が可能となる。
【0047】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る慣性駆動アクチュエータについて説明する。
図4は、図1(b)と同様の慣性駆動アクチュエータの断面図である。第1実施形態の慣性駆動アクチュエータと同じ構成については同一の番号を付し、その説明は省略する。
【0048】
第4実施形態の慣性駆動アクチュエータ400は、圧電素子3(不図示)と、振動基板4と、移動子10と固定子20で構成されている。固定子20の上部に圧電素子3と振動基板4が位置し、振動基板4の上部に移動子10が位置する。
【0049】
移動子10は、コイル11と、第1のヨーク12dと、永久磁石13で構成されている。第1のヨーク12dは外観が溝状の部材で、溝の中央でT字状の部材で仕切られている。そして、T字状の部材を中心としてコイル芯を巻いた円筒形状にコイル11が設けられている。ここで、溝状の部材とT字状の部材は分離しており、その間に永久磁石13が位置している。永久磁石13は、N極がT字状の部材側に位置するように配置されている。一方、固定子20は第2のヨーク22dを有している。
本実施形態は、第1実施形態に比較して、永久磁石21(第2の磁界発生手段)を有していない点が異なる。
【0050】
上記のような構成において、例えば、紙面下方向にN極が発生するように、コイル11に電流を流す。すると、第1のヨーク12dの中央下部にはN極が集中し、第1のヨーク12dの両端下部にはS極が集中する。
永久磁石13からの磁束も同様に第1のヨーク12dの中央下部にN極、第1のヨーク12dの両端下部にS極が集中する。それに対向し、固定子20では、第2のヨーク22dには逆極性が誘起される。すなわち、第2のヨーク22dの中央部にはS極が誘起され、両端部にはN極が誘起される。その結果、移動子10に対して紙面下側に向かって、コイル11に電流を流さないときと比べて強い磁気吸着力が発生する。
【0051】
一方、紙面上方向にN極が集中するように、コイル11に電流を流した場合は、コイル11に電流を流さないときと比べて弱い磁気吸着力が発生する。また、コイル11に流す電流を変えることによって、移動子10の振動基板4に対する垂直抗力の強さを変えることができる。このようにすることで、移動子10と振動基板4の摩擦力を制御することが可能となる。
【0052】
以上述べたように、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ400では、移動子10の移動あるいは駆動に磁気力を用いている。すなわち、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ400は、駆動したときに磨耗が生じる弾性体のような部材を使っていない。そのため、移動子10の移動あるいは駆動させても磨耗が生じない。その結果、長期間にわたって、安定して移動子10を移動あるいは駆動する(所望の位置に移動させることや、所望の位置で保持する)ことができる。更に、本実施形態の慣性駆動アクチュエータ400では、ヨークを用いていることから、外部への磁束漏れを抑制できる。これにより、磁気吸着力や磁気反発力を効率よく発生させることができるため、移動子10を効率よく移動あるいは駆動できる。
【0053】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係る慣性駆動アクチュエータについて説明する。
図5は、図1(b)と同様の慣性駆動アクチュエータの断面図である。第1実施形態の慣性駆動アクチュエータと同じ構成については同一の番号を付し、その説明は省略する。
【0054】
第5実施形態の慣性駆動アクチュエータ500は、圧電素子3(不図示)と、振動基板4と、移動子10と固定子20で構成されている。固定子20の上部に圧電素子3と振動基板4が位置し、振動基板4の上部に移動子10が位置する。
【0055】
第5実施形態の慣性駆動アクチュエータ500と第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100は、振動基板の構造が異なる。第1実施形態の振動基板4は、非磁性体のみで構成されている。これに対して、本実施形態の振動基板4は、磁性体部41と非磁性体部42を有する。磁性体部はヨークとして機能する。磁性体部41は3つに分かれており、それぞれ振動基板4の中央と、中央を挟んだ両側に配置されている。中央の磁性体部41の位置は、T字状の部材(第1のヨーク12e)とほぼ対向する位置である。また、両側の磁性体部41の位置は、溝状の部材(第1のヨーク12e)の端とほぼ対向する位置である。
【0056】
本実施形態の慣性駆動アクチュエータ500では、移動子10の第1のヨーク12eにより誘導された磁束と、固定子20の第2のヨーク22eに誘導された磁束が、それぞれ振動基板4の磁性体部41を介して流れるため、磁束漏れをさらに抑制する効果がある。特に、第1のヨーク12eの両端下部と第2のヨーク22eの両端上部では、両者の間に両側の磁性体部41が存在するため、この間から外部への磁束漏れを大幅に抑制できる。
【0057】
次に、本実施形態の慣性駆動アクチュエータの駆動方法を説明する。
図6は、例えば、第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100を駆動するときの駆動方法を示している。図6において、横軸は時間を示し、縦軸は圧電素子3の変位を示している。図1(a)において、圧電素子3が紙面左方向に伸びた場合を正としている。
【0058】
時刻0からAまでの間、圧電素子3は延伸している。この間は、コイル11に、紙面下方向にS極が発生するように電流を流す。すると、移動子10に対して振動基板4側に働く磁気吸着力が増加する。そのため、移動子10と振動基板4との間の摩擦は増加する。その結果、圧電素子3の延伸とともに振動基板4は紙面左方向に移動し、それとともに移動子10も紙面左方向に移動する。
【0059】
次に、時刻Aから時刻Bまでの間、圧電素子3は収縮している。この間、コイル11に電流を流すのを止める。すると、移動子10に対してコイルにより発生する磁気吸着力が働かなくなる。そのため、移動子10と振動基板4との間の摩擦力は減少する。これは、振動基板4の動きに対して移動子10のすべる量が増加したことを意味する。その結果、圧電素子の収縮とともに振動基板4が紙面右方向に移動しても、見かけ上、移動子10は移動した位置で静止した状態となる。このように、圧電素子3の収縮とともに、紙面右方向に移動する振動基板4に対して移動子10は左方向に滑るため、時刻0から時刻Bまでの間で、移動子10は紙面左方向に移動することとなる。
【0060】
同様のことを、時刻Bから時刻C、時刻Cから時刻Dというように繰り返すことにより、移動子10を紙面左方向に移動させていくことができる。なお、移動子10を紙面右方向へ移動させるには、コイル11に電流を流すタイミングを、図6と逆にすることにより可能である。すなわち、時刻0から時刻Aまでの間、移動子10に対して振動基板4側に磁気吸着力が働くように電流を流す代わりに、磁気反発力が働くようにコイル11に電流を流すことにより、移動子10は紙面右側に移動する。
【0061】
尚、上記の例では、時刻Aから時刻Bまでの間は、コイル11に電流を流すのを止めている。これに代わり、移動子10に対して振動基板4側に磁気反発力が働くように、コイル11に電流を流してもよい。このようにすることで、上記と同様に移動子10の移動が可能である。
【0062】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態に係る慣性駆動アクチュエータについて説明する。
図7は、図1(b)と同様の慣性駆動アクチュエータの側面図である。また、図8(a)、(b)、(c)は、第6実施形態の慣性駆動アクチュエータ100を駆動するときの駆動方法を示している。
【0063】
第6実施形態の慣性駆動アクチュエータは、第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ100における移動子10を2つ備えている。すなわち、第6実施形態の慣性駆動アクチュエータ600は、圧電素子3と、振動基板4と、移動子10aと、移動子10bと固定子20で構成されている。固定子20の上部に圧電素子3と振動基板4が位置し、振動基板4の上部に移動子10aと、移動子10bが位置する。なお、配線の図示は省略している。
【0064】
慣性駆動アクチュエータ600の駆動方法について説明する。図8において、横軸は時間を示し、縦軸は圧電素子3の変位を示している。図7において、圧電素子3が紙面左方向に伸びた場合を正としている。
【0065】
時刻0から時刻Aまでの間、圧電素子3は延伸している。この間、移動子10aのコイル11に電流を流さないでおく。この場合、移動子10aに対して磁気吸着力が働かなくなる。そのため、移動子10aは、その位置を変えずに静止したままである。一方、移動子10bのコイル11に、紙面下方向にS極が発生するように電流を流す。この場合、図6で説明したように、移動子10bに対して振動基板4側に磁気吸着力が働く。そのため、移動子10bは紙面左方向に移動する。
【0066】
次に、時刻Aから時刻Bまでの間、圧電素子3は収縮している。この間、移動子10aのコイル11に、紙面下方向にS極が発生するように電流を流す。この場合、図6で説明したように、移動子10aに対して振動基板4側に磁気吸着力が働く。そのため、移動子10aは紙面右方向に移動する。一方、移動子10bのコイル11に電流を流さないでおく。この場合、移動子10bに対して磁気吸着力が働かなくなる。そのため、移動子10bは、その位置を変えずに静止したままである。
【0067】
以上のように、時刻0から時刻Aの間、移動子10aは静止し、移動子10bは紙面左方向、すなわち移動子10aに向かって移動する。一方、時刻Aから時刻Bまでの間、移動子10aは紙面右方向、すなわち移動子10bに向かって移動し、移動子10bは静止している。その結果、移動子10aと移動子10bを近づけることができる。また、時刻0から時刻Bまでの間の駆動方法を繰り返すことで、移動子10aと移動子10bを更に近づけることができる。また、駆動方法を変えれば、移動子10aと移動子10bを同一方向に移動させることや、移動子10aと移動子10bを離すようにすることもできる。
【0068】
なお、図7および図8では、説明のために2個の移動子の構成とその駆動方法を例示したが、原理的には2個以上の移動子においても、同一の振動基板上で、それぞれを独立に駆動することが可能である。また、第1実施形態から第5実施形態のどれについても、移動子はコイルを有しているため、図7、図8の駆動原理を適用可能である。したがって、本実施形態の慣性駆動アクチュエータについて、同一の振動基板上で、複数の移動子を独立に駆動することは可能である。
【0069】
なお、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形例をとることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明は、長期に亘って、安定した動作、例えば、移動体を所望の位置に移動させることや、所望の位置で移動体を静止させることや、静止した状態を維持することができる慣性駆動アクチュエータに適している。
【符号の説明】
【0071】
3 圧電素子
4、40、42 振動基板
10、10a、10b 移動子
11 コイル
12a、12b、12c、12d、12e 第1のヨーク
13、21 永久磁石
20 固定子
22a、22b、22c、22d、22e 第2のヨーク
41 ヨーク部
100、200、300、400、500、600 慣性駆動アクチュエータ
101 支持部材
102 圧電素子
103 振動部材
104 移動体
105 板ばね
L 配線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向と前記第1の方向とは逆の第2の方向に微小変位を発生する変位手段と、
前記変位手段の前記微小変位によって往復運動する振動基板と、
前記振動基板の平面上に配置され、第1の磁界発生手段を有した移動子と、を有し、
前記移動子の前記振動基板に対向した前記移動子側の面に前記第1の磁界発生手段が発生する磁束がN極、S極ともに集中するように、前記移動子は、前記第1の磁界発生手段が発生する磁束を誘導する第1のヨークを有し、
さらに、前記振動基板の前記移動子に対向した向きと反対側に第2のヨークを有し、
第1の磁界発生手段から発生する磁界を制御することによって、前記移動子と前記振動基板の間に働く摩擦力を制御し、前記移動子を駆動することを特徴とする慣性駆動アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1の磁界発生手段から発生する磁界に対して、前記移動子が前記振動基板に対向した方向に磁気吸引力または磁気反発力が働くように磁界を発生する第2の磁界発生手段をさらに有し、
前記第2のヨークは、前記第2の磁界発生手段が発生する磁束が、固定子側の面にN極、S極、ともに集中するように、前記第2の磁界発生手段が発生する磁束を誘導するために、前記第2の磁界発生手段周辺に配置されており、
前記第1の磁界発生手段と前記第2の磁界発生手段から発生する磁界を制御することによって、前記移動子と前記振動基板の間に働く摩擦力を制御し、前記移動子を駆動することを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項3】
前記第1の磁界発生手段が電磁コイルであることを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項4】
前記第2の磁界発生手段が永久磁石であることを特徴とする請求項2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項5】
前記変位手段が圧電素子であることを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項6】
前記振動基板が非磁性体であることを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項7】
前記振動基板が非磁性部と磁性部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項8】
前記振動基板は、少なくとも一部が前記第2の磁界発生手段を有することを特徴とする請求項2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項9】
前記振動基板は、前記第2のヨークの機能を兼用することを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。
【請求項10】
前記第1の磁界発生手段が電磁コイルと永久磁石を有することを特徴とする請求項1または2に記載の慣性駆動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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