説明

成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法

【課題】成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05〜0.12%、Si:0.1〜0.7%、Mn:1.4〜2.2%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.1%、B:0.0005〜0.0050%、N:0.0060%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ、焼鈍前の熱延鋼板において、100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物の析出個数密度が1500個/cm2以下である鋼板の上に溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の構造部材に使用される成形加工性に優れた高張力溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体重量軽量化による燃費向上と、衝突安全性の両立の観点から、自動車部材の高強度化が進んでいる。しかし、鋼板が高強度化すると、延性などで表わされる成形加工性は低下するので、高い引張強度と高い成形加工性を両立する鋼材の開発が求められている。
【0003】
鋼板の組織が、軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトからなる2相組織であると、高強度化しても延性劣化が小さいという特徴がある。このような2相組織鋼を製造するには、フェライト−オーステナイトの2相共存域の温度まで加熱し、保持した後に冷却して、オーステナイトをマルテンサイトに変態させる必要がある。
【0004】
しかし、オーステナイトをマルテンサイトに変態させるには、2相共存域の温度からの冷却中に、マルテンサイト変態よりも高温で起こるフェライト変態及びパーライト変態を抑制し、マルテンサイトに変態するオーステナイトを残す必要がある。そのため、フェライト変態及びパーライト変態を抑制するMn、Cr、Moなどの合金元素を添加する方法があるが、製造コストが大きく上昇してしまう。
【0005】
このような観点から、低コストでフェライト変態を抑制するため、ホウ素(B)を添加することが行われつつあるが、Bは、固溶Bが粒界に偏析した状態でなければ、フェライト変態抑制に効果がないので、Bの析出を抑制しなければならないという問題がある。特に、B(質量%)≦11/14N(質量%)なる化学組成を有する鋼においては、BNの析出により焼入れ性が低下する。
【0006】
このような課題に対し、Bよりも強力な窒化物生成元素を添加することで、Nを窒化物として固着し、BNの析出を抑制する方法が知られている。
【0007】
例えば、特許文献1には、Alを0.01〜0.2質量%添加することで、AlNを生成してNを固着して、BNの生成を抑制し、Bによる焼入れ性向上効果を確保する方法が開示されている。特許文献2には、Tiを0.0005〜0.1質量%添加してTiNを析出させ、Bと結びつくNを減らして、BN析出を抑制する方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、TiとZrを、Ti:0.08質量%以下、Zr:0.10質量%以下で、かつ、Ti(質量%)+(48/91)Zr(質量%):0.02〜0.08質量%、及び、Ti(質量%)+(48/91)Zr(質量%)−(48/14)N(質量%)≧0.02質量%なる組成範囲で複合添加して、Nを、TiN、ZrNとして固着する方法が開示されている。
【0009】
しかし、Nを窒化物として固着する方法では、介在物であるAl23の量が増加して、表面疵の発生頻度を高めたり、窒化物形成後の余剰なTiやZrが固溶状態で存在して再結晶を遅らせ、溶融亜鉛めっき鋼板における強度のばらつきをもたらしたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05−098356号公報
【特許文献2】特開2009−179852号公報
【特許文献3】特開平10−183238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、Bが添加された高張力溶融亜鉛めっき鋼板において、窒化物形成元素を意図的に添加することなく、安定した強度・延性バランスが得られる高張力溶融亜鉛めっき鋼板と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意、実験と検討を重ねた結果、熱間圧延工程の条件により、熱延板において、“100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”の個数密度を制御できることを見出し、Ti等の窒化物生成元素を添加することなく、固溶Bを確保でき、冷延板の焼鈍時に、高い焼入れ性を確保できるという知見を得るに至った。
【0013】
熱延板中の100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物の個数密度を制御するには、熱間圧延後の冷却速度を、Mn量及び/又はS量に応じて制御し、巻取り温度を、Mn量及び/又はS量に応じて制御することが重要である。これにより、複合析出物の核であるMnSの析出を抑制し、続くBNの析出を抑制することが可能となる。
【0014】
本発明は、これらの知見を基にして完成されたものであり、その要旨は、以下の通りである。
【0015】
(1)質量%で、C:0.05〜0.12%、Si:0.1〜0.7%、Mn:1.4〜2.2%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.01〜0.1%、B:0.0005〜0.0050%、N:0.0060%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ、焼鈍前の熱延鋼板において、100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物の析出個数密度が1500個/cm2以下である鋼板の上に溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
【0016】
(2)前記複合析出物の析出個数密度が1500個/cm2以下である鋼板が、さらに、質量%で、Ti及びZrの1種又は2種を、合計で0.0050%以下含有することを特徴とする上記(1)に記載の成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
【0017】
(3)前記複合析出物の析出個数密度が1000個/cm2以下であることを特徴とする前記(1)に記載の成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
【0018】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材を1100℃以上に加熱し、仕上げ圧延を900℃以上で行い、下記(式1)を満足する巻取り温度CT[℃]〜仕上げ圧延温度の温度域において、下記(式2)を満足する平均冷却速度CRmin[℃/s]以上で冷却し、巻き取った後、酸洗処理を施し、次いで、冷間圧延を施し、その後、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0019】
400≦CT≦580−1200(Mn+S) ・・・(式1)
CRmin=26+1000(Mn+S) ・・・(式2)
ここで、(式1)及び(式2)におけるMnとSは、元素の含有量[質量%]である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、成分元素とその含有量、及び、熱間圧延工程の条件を適正に設定することで、熱延板において、“100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”の析出を抑制し、高強度でかつ成形加工性に優れる溶融亜鉛めっき鋼板を安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明において、各成分の範囲を限定した理由について説明する。なお、本発明において、%は、特に明記しない限り、質量%を意味する。
【0022】
鋼素材及び鋼板の成分組成;
C:
Cは、鋼の焼入れ性を向上させ、マルテンサイト形成を促進して、鋼の強度を高める作用をなす元素である。本発明では、上記作用を利用して鋼の強度を高めるために、Cを0.05%以上添加する。一方、多量に添加すると鋼の強度が高くなり過ぎて、成形性が損なわれるので、Cは0.12%以下とする。好ましくは、0.07〜0.10%である。
【0023】
Si:
Siは、フェライトを固溶強化して鋼の強度を高くする作用をなす元素である。また、Siは、第2相(マルテンサイト)との間の硬度差を低減して疲労特性を高める作用もなす元素である。これらの添加効果を得るため、0.1%以上添加するが、過度にSiを添加すると、めっきの濡れ性が低下して不めっきが発生するうえ、合金化処理性が悪くなり、生産性を損なうので、上限は0.70%とする。好ましい上限は0.50%で、より好ましい上限は0.30%である。
【0024】
Mn:
本発明においては、高張力鋼板でありながら、良好な延性を備える鋼板とするために、鋼の組織を、軟質なフェライトと硬質なマルテンサイトからなる2相組織とすることが極めて重要である。
【0025】
Mnを添加すると、鋼のAc3点が低下して、焼鈍均熱中のオーステナイトの確保が容易となるので、パーライトの析出抑制とMs点(マルテンサイト変態開始温度)低下の効果を得ることができる。さらに、フェライトに固溶させてフェライトを硬化させ、鋼の強度を高める効果も得ることができる。これらの添加効果を確保するため、Mnは1.4%以上添加する。
【0026】
しかし、2.2%を超えて添加すると、鋼板表面の酸化物が増し、めっき性が劣化して、不めっきなどが発生する恐れがあるうえ、製造コストが上昇するので、Mnは2.2%以下とする。好ましくは、1.6〜2.0%である。
【0027】
P:
Pは、0.05%を超えると、溶接性及び熱延時の生産性に悪影響を与えるので、0.05%以下とする。好ましくは0.02%以下である。
【0028】
S:
Sは、0.01%を超えると、溶接性及び熱延時の生産性に悪影響を与えるので、0.01%以下とする。好ましくは0.006%以下である。
【0029】
Al:
Alは、脱酸剤として用いる元素である。脱酸効果を得るため、0.01%以上添加するが、過剰に添加すると、Ac3点が上昇し、高温加熱が必要となる他、Al23などの介在物が増加して表面疵の発生頻度が高まるので、上限を0.1%とする。好ましくは、0.04〜0.08%である。
【0030】
B:
Bは、鋼のフェライト変態を抑制して、焼入れ性を高める作用をなす元素である。B添加で、冷却速度が比較的遅い場合でも、オーステナイトを低温域まで安定化できるので、硬質相のマルテンサイトを得ることができる。この添加効果を得るため、Bは0.0005%以上添加する。一方、0.0050%を超えると、鉄−ボロン化合物が析出し、鋼の延性を阻害するので、Bは0.0050%以下とする。好ましくは、0.0008〜0.0035%である。
【0031】
N:
N量が多いと、BNの析出が促進されて、固溶Bが減少し、Bによる焼入れ性向上効果が低減するので、Nは0.0060%以下とする。好ましくは、0.0040%以下である。
【0032】
Ti:
Tiは、NをTiNとして固着し、BNの析出を抑制する作用をなす元素であるが、単独で0.0050%を超えると、過剰なTiが固溶し、再結晶を遅らせて、強度のばらつきの原因となるので、0.0050%以下とする。好ましくは、0.0030%以下である。
【0033】
Zr:
Zrは、NをZrNとして固着し、BNの析出を抑制する作用をなす元素であるが、単独で0.0050%を超えると、過剰なZrが固溶し、再結晶を遅らせて、強度のばらつきの原因となるので、0.0050%以下とする。好ましくは、0.0030%以下である。
【0034】
Ti+Zr:
TiとZrを同時に添加する場合、過剰なTi、Zrが固溶し、再結晶を遅らせて、強度のばらつきの原因となるのを避けるため、合計でも0.0050%以下とする。好ましくは、0.0030%以下である。
【0035】
次に、熱延板における析出物の存在条件について説明する。本発明の鋼板の母材は、上記化学組成に加えて、熱延板において、「“100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”の析出個数密度が1500個/cm2以下である」ことを特徴とする。
【0036】
本発明において、熱延板における“100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”の析出個数密度は、冷延板の焼鈍時の焼入れ性を制御するうえで極めて重要な指標である。
【0037】
BNの析出形態として、“100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”の他に、“100nm超のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”が観察されることがある。
【0038】
しかし、100nm超のMnSは、鋳造時に晶出又は析出したものであるので、“100nm超のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”の個数は、熱延工程の条件によって増加することはなく、冷延板の焼入れ性に影響を与えない。
【0039】
したがって、熱延工程で析出する“100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”の個数密度を制御することが重要である。
【0040】
“100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”の個数密度が1500個/cm2より多い場合には、固溶B量が低下し、再結晶焼鈍後の冷却中の焼入れ性が低下するので、高い強度を得ることができない。
【0041】
それ故、“100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”の析出個数密度は1500個/cm2以下とする。好ましくは1000個/cm2以下であり、より好ましくは750個/cm2以下である。下限はとくに設けないが、100個/cm2以上が好ましい。
【0042】
析出物の形態については、1/4板厚部から抽出レプリカ法により試料を作製し、ランダムに選んだ100μm×100μmのエリアの3か所について、TEMによって観察を行い、さらに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)にて解析を行うことで、“MnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”であることを確認する。
【0043】
MnSのサイズは、MnSのTEM観察像において最大となる値とする。複合析出物の個数密度は、前述のエリア内に存在する“100nm以下のMnSをコアとしてBNが析出しているという形態の複合析出物”を数え上げて平均値を取る。
【0044】
次に、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0045】
本発明の成形加工性に優れた高張力溶融亜鉛めっき鋼板は、以下の方法で製造するのが好適である。
【0046】
即ち、上記成分組成を有する鋼素材を1100℃以上に加熱し、仕上げ圧延を900℃以上で行い、600〜仕上げ圧延温度(℃)の温度域において平均冷却速度30℃/s以上で冷却し、400〜600℃で巻き取った後、酸洗し、所定の厚みに冷間圧延し、次いで、通常の再結晶焼鈍を施し、その後、溶融亜鉛めっき槽に浸漬して公知の方法により溶融めっきする。溶融めっき後に、480〜580℃に加熱して合金化処理を施してもよい。
【0047】
熱延スラブ加熱温度は、鋳造時に析出したBNを再溶解するため、1100℃以上に加熱する。なお、1300℃より高温に加熱しようとすると、製造コストが高くなり過ぎるので、加熱温度は1300℃以下が好ましい。
【0048】
仕上げ圧延温度が900℃よりも低いと、圧延によって、MnSの析出サイトである転位が多数導入され、MnSの析出が促進され、さらには、MnSを核としてBNが析出するので、仕上げ圧延温度は900℃以上とする。なお、仕上げ圧延温度に、特に上限は設けないが、仕上げ圧延温度が高い場合には、それに伴いスラブ加熱温度も高くする必要があり、製造コストが高くなるので、仕上げ圧延温度は1000℃以下が好ましい。
【0049】
熱間圧延終了後は、BNの析出核であるMnSの析出を抑制するために、Mn及びSの含有量に応じて、下記(式1)を満足する巻取り温度CT[℃]〜仕上げ温度の温度域において、下記(式2)を満足する平均冷却速度CRmin[℃/s]以上で冷却する必要がある。ここで、上記(式1)及び(式2)におけるMn、Sは、元素の含有量[質量%]である。
【0050】
400≦CT≦580−1200(Mn+S) ・・・(式1)
CRmin=26+1000(Mn+S) ・・・(式2)
【0051】
なお、巻取り温度を示す(式1)、及び、平均冷却速度の下限を示す(式2)は、巻取り温度、冷却速度、及び、“100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物”の個数密度の関係を調査して得られた経験式である。
【0052】
上記(式1)は、定性的には、Mn及びSの添加量が多くなると、MnSの析出が短時間で起こるようになるため、析出時間がより長時間になるように巻取り温度を低温にすることを意味する。しかし、400℃未満になると、硬質なベイナイト又はマルテンサイト組織が生成し、冷間圧延性が悪くなるため、下限を400℃とする。
【0053】
上記(式2)は、定性的には、Mn及びSの添加量が多くなると、MnSの析出が短時間で起こるようになるため、冷却速度を速くして、より短時間で、巻取り温度までに到達するようにする必要があることを意味する。冷却速度を速くしても、複合析出物の析出を抑制するうえで、なんら問題はないが、過度に冷却速度を速くすることは、製造コストの上昇を招くので、上限を200℃/sとすることが好ましい。
【0054】
巻き取った熱延板を酸洗して脱スケールを行い、所定の厚みまで冷間圧延を施す。酸洗条件や冷間圧延条件は常法に従えばよいが、圧下率は、冷延後の焼鈍により再結晶させるために30%以上とするのが好ましい。
【0055】
再結晶焼鈍及び溶融亜鉛めっきは公知の方法により行えばよいが、再結晶焼鈍温度が770℃より低いと、冷却開始時のオーステナイト相の体積分率が低くなり、最終的な鋼板の強度が低下してしまうので、再結晶焼鈍温度は770℃以上が好ましい。
【0056】
一方、再結晶焼鈍温度が840℃を超えると、オーステナイト相が粗大化し、その後の冷却過程で生成するフェライト相の体積分率が減少し、伸び及び伸びフランジ性が低下するので、再結晶焼鈍温度は840℃以下が好ましい。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0058】
(実施例)
表1に示す成分組成を有する鋼を溶製し、鋳造して鋼片を得た。なお、表1には、Mn及びSの含有量[質量%]から、下記(式2)及び(式3)で計算して求めた、熱間圧延後の平均冷却速度の下限値CRmin[℃/s]、及び、巻取り温度の上限値CTmax[℃]を示した。
【0059】
CRmin=26+1000(Mn+S) ・・・(式2)
CTmax=580−1200(Mn+S) ・・・(式3)
【0060】
【表1】

【0061】
得られた鋼片を表2に示す条件で熱間圧延し、一部を、組織観察用に採取した。次いで、得られた熱延板を酸洗し、圧下率60%で冷間圧延を行った。その後、10℃/sの平均加熱速度で820℃まで加熱し、その温度で80秒間保持した。
【0062】
上記保持後、3℃/sの平均冷却速度で650℃まで冷却し、次いで、8℃/sの平均冷却速度で460℃まで冷却して亜鉛めっき浴に浸漬した。その後、10℃/sの平均加熱速度で540℃に加熱し、5秒保持して合金化処理を施し、次いで、10℃/sの平均冷却速度で室温まで冷却して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
【0063】
【表2】

【0064】
採取した熱延板を板厚方向に研磨し、板厚の1/4位置で抽出レプリカ法によりTEM観察のための試料を作成した。得られたTEM観察試料において、ランダムに選んだ100μm×100μmのエリアの3か所についてTEMを用いて観察及びEDS分析を行い、100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出しているという形態に当てはまる複合析出物を数え上げて平均値を求めた。
【0065】
強度及び伸びは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板より圧延方向に採取したJIS5号引張試験片による引張試験を行って測定した。引張試験結果から強度伸びバランスも計算した。
【0066】
成分組成及び製造条件が本発明の規定する範囲内であれば、600MPaを超える引張強度を持ち、かつ、強度延性バランスが引張強度と伸びの積で17000MPa・%以上の優れた成形性を備えるものとなることが解る。
【0067】
これに対し、試番2、8、及び、14(比較例)は、冷却速度が遅いために複合析出物が多量に析出し、焼入れ性を確保できず、引張強度が低い例である。試番3及び11(比較例)は、仕上げ温度が低いために複合析出物が多量に析出し、焼入れ性を確保できず、引張強度が低い例である。試番5及び10(比較例)は、巻取り温度が高いため、複合析出物が多量に析出し、焼入れ性を確保できず、引張強度が低い例である。
【0068】
試番16(比較例)は、Tiが過剰であり、強度−延性バランスが小さい例である。試番17(比較例)は、Bが少ないために、焼入れ性が低く、強度が小さい例である。試番18(比較例)は、Mnが少ないために、焼入れ性が小さく、強度が小さい例である。試番19(比較例)は、Nが過剰であり、複合析出物が多量に析出し、焼入れ性を確保できず、強度が小さい例である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、引張強度600MPa以上で、かつ、優れた強度−延性バランスを備える極めて成形性の優れた鋼板を安価に提供するものである。本発明の鋼板は、例えば、複雑な形状に加工される自動車の構造部品などに好適であるから、自動車の軽量化に大きく貢献することが期待できる。よって、本発明は、産業上の効果が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.05〜0.12%、
Si:0.1〜0.7%、
Mn:1.4〜2.2%、
P :0.05%以下、
S :0.01%以下、
Al:0.01〜0.1%、
B :0.0005〜0.0050%、
N :0.0060%以下、
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつ、焼鈍前の熱延鋼板において、100nm以下のサイズのMnSをコアとしてBNが析出した複合析出物の析出個数密度が1500個/cm2以下である鋼板の上に溶融亜鉛めっき層を有する
ことを特徴とする成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記複合析出物の析出個数密度が1500個/cm2以下である鋼板が、さらに、質量%で、Ti及びZrの1種又は2種を、合計で0.0050%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記複合析出物の析出個数密度が1000個/cm2以下であることを特徴とする請求項1に記載の成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼素材を1100℃以上に加熱し、仕上げ圧延を900℃以上で行い、下記(式1)を満足する巻取り温度CT[℃]〜仕上げ圧延温度の温度域において下記(式2)を満足する平均冷却速度CRmin[℃/s]以上で冷却し、巻き取った後、酸洗処理を施し、次いで、冷間圧延を施し、その後、溶融亜鉛めっき処理を施すことを特徴とする成形加工性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
400≦CT≦580−1200(Mn+S) ・・・(式1)
CRmin=26+1000(Mn+S) ・・・(式2)
ここで、上記(式1)及び(式2)におけるMnとSは、元素の含有量[質量%]である。

【公開番号】特開2012−180574(P2012−180574A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45446(P2011−45446)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】