説明

成形性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法

【課題】板厚の増加や不純物元素の増加に伴っても、更に、熱延後で冷間圧延前の焼鈍を施こさない場合でも、プレス成形性や曲げ加工性を向上させた6000系アルミニウム合金板と、その製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】スクラップを溶解原料とし、熱延板を予め焼鈍を施こすことなく冷間圧延を行なって冷延板を製作することを前提とし、主要元素の他に、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の合計含有量が多い6000系アルミニウム合金板の、これらのその他元素の分を含めた分散粒子を制御することを含み、特定条件にてEPMAを用いて測定した分散粒子の平均個数密度やサイズ分布を特定範囲として制御し、板のプレス成形性や曲げ加工性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度でかつ成形性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法に関し、強度・耐力、ベーク後の強度・耐力(以下、AB耐力とも呼ぶ)、曲げ加工性を劣化させること無く、成形後の表面性状(リジングマーク、またはローピングと呼ばれる成形時に発生する表面凸凹)に優れたアルミニウム合金板と、このアルミニウム合金板を、スクラップ再利用率のアップさせた原料にて(リサイクル性に優れる)、確実に諸特性を得ることのできる製造方法に関するものである。
本発明で言うアルミニウム合金板とは、冷延板を溶体化処理した後のアルミニウム合金板を言う。また、以下、アルミニウムを単にAlとも言う。
【背景技術】
【0002】
近年、排気ガス等による地球環境問題に対して、自動車などの輸送機の車体の軽量化による燃費の向上が追求されている。このため、特に、自動車の車体に対し、従来から使用されている鋼材に代わって、圧延板や押出形材、あるいは鍛造材など、より軽量なAl合金材の適用が増加しつつある。
【0003】
この内、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのパネル構造体の、アウタパネル (外板) やインナパネル (内板) 等のパネルには、高強度なAl-Mg-Si系のAA乃至JIS 6000系 (以下、単に6000系と言う) のAl合金板の使用が検討されている。
【0004】
6000系Al合金板は、基本的には、Si、Mgを必須として含み、優れた時効硬化能を有しているため、プレス成形や曲げ加工時には低耐力化により成形性を確保するとともに、成形後のパネルの塗装焼付処理などの、比較的低温の人工時効( 硬化) 処理時の加熱により時効硬化して耐力が向上し、必要な強度を確保できるBH性 (ベークハード性、人工時効硬化能、塗装焼付硬化性) がある。
【0005】
また、6000系Al合金板は、Mg量などの合金量が多い、他の5000系のAl合金などに比して、合金元素量が比較的少ない。このため、これら6000系Al合金板のスクラップを、Al合金溶解材 (溶解原料) として再利用する際に、元の6000系Al合金鋳塊が得やすく、リサイクル性にも優れている。
【0006】
ただし、6000系Al合金板は、5000系Al合金板に比べてプレス成形性が良くないため、改善策としてMgやSi以外の第三、四元素を添加し、或いは合金元素の添加に併せて結晶粒径や晶析出物の分散状態を制御する方法が試みられてきた。しかしこれらの方法でも、近年ますます厳しさを増している需要者の要望を満たすまでには至っておらず、更なるプレス成形性の向上が求められている。
【0007】
一方、6000系Al合金板の曲げ加工性を改善することも従来から提案されている。例えば、Mg-Si 系化合物の最大径が10μm 以上、2 〜10μm 径の化合物数が1000個/mm2以下とし、内側限界曲げ半径が0.5mm 以下とすることが提案されている(特許文献1参照)。このような組織を得るために、特許文献1では、均熱条件は1 回目が450 ℃以上の均熱後に、350 ℃までを100 ℃/h以上の冷却速度で冷却し、2 段階、または2 回の均熱を行なっている。
【0008】
更に、板の曲げ加工性やヘム加工性を改善する方法としては、6000系Al合金板の集合組織に異方性を持たせる方法が種々提案されている。例えば、板の集合組織を結晶粒方位差によって規定することが提案されている (特許文献2、5参照) 。また、この他、Cube方位の強度比、密度などや、 r値の異方性で規定することが提案されている (特許文献3、4、6、7、8、9参照) 。
【0009】
この内、特許文献2では、隣接する結晶方位差を15°以下である結晶粒界の占める割合を20% 以上とすることが提案されている。そのために、特許文献2では、均熱条件は1 回目が480 ℃以上の均熱後に、300 ℃までを150 ℃/h以上の冷却速度で冷却し、2 段階、または2 回の均熱を行なっている。また、特許文献3、4では、均熱条件は1 回目が450 ℃以上の均熱後に、350 ℃までを100 ℃/h以上の冷却速度で冷却し、2 段階、または2 回の均熱を行なっている。そして、上記特許文献5でも、Al合金鋳塊を、500 ℃以上融点未満の温度で均質化処理した後、500 ℃以上の温度から350 〜450 ℃の温度範囲まで冷却して熱間圧延を開始する(2段均熱) か、500 ℃以上の温度から一旦室温まで冷却し、350 〜450 ℃の温度範囲まで再加熱して熱間圧延を開始する(2回均熱) 、段階的な均質化処理方法が提案されている。
【0010】
また、これに対して、熱間圧延されたAl-Mg-Si系Al合金板を、10〜50% の圧下率で冷間圧延後、210 〜440 ℃の温度で中間焼鈍し、更に70% 以上の圧下率で冷間圧延した後、溶体化および焼入れ処理して、Al合金板の集合組織に異方性を持たせることも提案されている (特許文献10参照) 。
【0011】
一方、更なるプレス成形性の向上のために、リジングマークを改善する面からも種々の方法が提案されている。例えば、特定組成のAl-Mg-Si系アルミニウム合金板において、化合物の平均粒径を規制し、Mn化合物として存在するMnの元素量や、Mg化合物として存在するMgの元素量を規定して、リジングマーク特性を向上させることが提案されている(特許文献11)。この特許文献11でも、2段昇温条件で、1段目で450〜500℃の温度範囲で保持し、2段目で500〜550℃の温度範囲で保持するような(実施例)段階的な均質化処理方法を行っている。
【0012】
また、これに関連して、リジングマークの問題に対しては、従来から、6000系Al合金鋳塊を500 ℃以上の温度で均質化熱処理後に冷却して、350 〜450 ℃の比較的低温で熱延を開始することにより(2段均熱)、粗大析出物の生成を防止し、リジングマークを防止することが公知である (例えば、特許文献12、13参照) 。
【0013】
更に、6000系Al合金板の{110}面の結晶方位成分に着目し、集合組織制御などの点からリジングマークを改善する方法も種々提案されている。例えば、板表層部でのCube方位の集積度を2〜5、板表面部の結晶粒径を45μm以下に微細化することが提案されている (特許文献14参照) 。また、板における、Goss方位分布密度:3以下、PP方位分布密度:3以下、Brass方位分布密度:3以下にすることが提案されている (特許文献15参照) 。
【0014】
そして、6000系Al合金板における耳率を4%以上、結晶粒径を45μm以下として、リジングマークを改善する方法もすることも提案されている (特許文献16参照) 。また、特許文献17などでも、成形性を改善するために、6000系Al合金鋳塊を560 ℃以上の第1均質化熱処理後に、450 ℃〜480 ℃の第2均熱を施す2段均熱条件で行われている。
【特許文献1】特開2002-356730号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003-171726号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2003-277869 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2003-277870 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2003-166029 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2003-226926 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献7】特開2003-226927 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献8】特開2003-321723 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献9】特開2003-268475 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献10】特開2003-321754 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献11】特開2005-240113 公報 (特許請求の範囲)
【特許文献12】特許第2823797 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献13】特許第3590685 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献14】特開平11ー189836号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献15】特開平11ー236639号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献16】特開2000ー96175 号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献17】特開2003ー518192号公報 (特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記した集合組織に異方性を持たせた一連の従来技術(特許文献1〜10)では、6000系Al合金板のCube方位を集積させて、大傾角粒界に比して小傾角粒界の割合を増し、粒界段差を少なく、あるいは生じなくする。この結果、曲げ加工の際に、粒界段差が割れの起点とならず、板の曲げ加工性やヘム加工性を改善できる。
【0016】
しかし、最近において、特に、前記したアウタパネルやインナパネル等のパネルは、歩行者や乗員の衝突安全性のために、それまでは軽量化のために、1mm 程度の板厚まで薄肉化されていたものが、1.1 〜1.2mm 程度の板厚まで、逆に厚肉化される傾向にある。このように、板厚が厚くなった場合、板の曲げ加工性やヘム加工性が低下する。
【0017】
また、最近において、6000系アルミニウム合金の溶解原料として、高価なアルミニウム地金に替えて、スクラップ材の使用量が増加している。このため、従来からも不純物として多く含まれる、Fe、Mn、Cr、Zr、V 、Ti、Zn、Cuなどの含有量が増加している。更に、これら不純物元素の他に、従来は不純物としてもあまり含まれることが無かった、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W などの含有量が増加する傾向にある。スクラップ材の配合率にもよるが、これらBi〜W などの合計含有量は、従来の0.01% 以下に対して、0.015%以上、0.1%程度まで、不可避的に混入される。
【0018】
前記Fe〜Cuや前記Bi〜W などの元素は、6000系アルミニウム合金組織中で、分散粒子を形成しやすい。このため、これらFe〜CuやBi〜W の含有量の増加は、6000系アルミニウム合金組織中に、これら元素の分散粒子が増加することを意味する。そして、これら増加した分散粒子は、板のプレス成形性や曲げ加工性に大きな影響を与える。
【0019】
したがって、6000系アルミニウム合金板のプレス成形性や曲げ加工性を向上させるためには、板厚の増加や不純物元素の増加に伴い、従来から考慮していた、主要元素のSi、Mgの分散粒子だけではなく、これら不純物元素の分散粒子のことを考慮しなければならない。
【0020】
更に、6000系アルミニウム合金板の製造ラインにおいては、製造の効率化や製造コストの低減のために、この熱延板を予め焼鈍を施こすことなく、冷間圧延を行なう工程が重要となっている。従来、熱延後、または冷間圧延の途中に中間焼鈍を施す工程(バッチ式または連続式)では、強度、表面性状を満足することが可能であった。しかし、この工程では、中間焼鈍を施す分、熱処理の時間およびエネルギー消費の両方の観点から、コスト高である。ただ、この熱延後で冷間圧延前の焼鈍を施こさない場合には、上記分散粒子の増加は、板のプレス成形性や曲げ加工性に、より大きな悪影響を与えることとなる。
【0021】
本発明はこの様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、板厚の増加や不純物元素の増加に伴っても、更に、熱延後で冷間圧延前の焼鈍を施こさない場合でも、プレス成形性や曲げ加工性を向上させた6000系アルミニウム合金板と、その製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的を達成するための成形性に優れたアルミニウム合金板の要旨は、質量% で、Si:0.5〜1.5%、Mg:0.2〜2.0%を含み、Fe:1.5% 以下、Mn:1.0% 以下、 Cr:0.5%以下、Zr:0.5% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.2% 以下、Zn=1.5% 以下、Cu:1.0% 以下とし、更に、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の合計含有量が0.015%以上で、かつ0.5%以下とし、残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金板であって、このアルミニウム合金板の、下記条件にて測定した、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の平均個数密度が3000〜20000 個/mm2であり、これら測定された分散粒子のサイズX μm を横軸、個数密度Y 個/mm2を縦軸とした座標において、X が10μm 以下のサイズの分散粒子が、Y=Aexp(-BX) で表される分散粒子サイズ分布式において、A/B が1000〜40000 の範囲であり、B が0.5 〜2 の範囲であることとする。
但し、上記分散粒子の各測定は、厚みt のアルミニウム合金板の表面から1/4 t 深さ部分の圧延方向に0.2mm2の面積を、任意の測定箇所10箇所について、電子線プローブマイクロアナライザにより走査して行ない、これらを平均化して行なう。
【0023】
また、上記目的を達成するための成形性に優れたアルミニウム合金板の製造方法の要旨は、上記要旨または後述する好ましい態様のアルミニウム合金板を得る方法であって、質量% で、Si:0.5〜1.5%、Mg:0.2〜2.0%を含み、Fe:1.5% 以下、Mn:1.0% 以下、 Cr:0.5%以下、Zr:0.5% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.2% 以下、Zn=1.5% 以下、Cu:1.0% 以下とし、更に、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の合計含有量が0.015%以上で、かつ0.5%以下とし、残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金鋳塊を、500 ℃以上、融点未満の温度で均質化熱処理後に、500 ℃から350 ℃までの平均冷却速度を40℃/h以上 100℃/h未満として、一旦200 ℃以下の温度まで冷却した上で、300 〜450 ℃の温度まで再加熱後に熱間圧延を開始し、この熱間圧延の終了温度を170 〜300 ℃として熱延板を製作し、更に、この熱延板を、予め焼鈍を施こすことなく、冷間圧延を行なって冷延板を製作し、この冷延板を560 ℃以上の温度で溶体化処理および焼入れ処理することである。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、板厚の増加や不純物元素の増加に伴っても、更に、熱延後で冷間圧延前の焼鈍を施こさない場合でも、6000系アルミニウム合金板のプレス成形性や曲げ加工性を向上させるために、従来から考慮していた、主要元素のSi、Mgの分散粒子だけではなく、組織中に必然的に含まれてくる、これら不純物元素を逆に、活用することに着眼した。
【0025】
具体的には、主要元素のSi、Mgの分散粒子と、これら不純物元素の分散粒子とを含めた、特定サイズ以上の全ての分散粒子の、平均個数密度と、サイズ分布とが一定範囲内に入るように規定する。言い換えると、特定サイズ以上の全ての分散粒子の、平均個数密度と、サイズ分布とが、上記要旨のような規定範囲内にあれば、板厚の増加や不純物元素の増加、分散粒子の増加に伴っても、6000系アルミニウム合金板のプレス成形性や曲げ加工性を向上させることが可能となる。また、これら特定された分散粒子の存在は、前記した中間焼鈍を省略した工程で板を製造しても、6000系アルミニウム合金板のプレス成形時の表面性状向上(リジングマーク抑制)に寄与する。
【0026】
このような、本発明における、主要元素のSi、Mgの分散粒子と、これら不純物元素の分散粒子とを含めた、特定サイズ以上の全ての分散粒子の、平均個数密度とサイズ分布との測定は、電子線プローブマイクロアナライザ (以下、略してEPMAとも言う) を用いて始めて可能となる。このEPMAによれば、板の一定の広さの分散粒子のエリア分析が可能となる。
【0027】
これに対して、従来の分散粒子の分析は、TEM やSEM などを用い、板の観察箇所を増したとしても、μm2単位の超ミクロなエリアに対して行なわれている。このため、このような超ミクロな分析結果と、6000系アルミニウム合金板のマクロな性質であるプレス成形性や曲げ加工性に対する相関性が常に問題あるいは疑問となる。
【0028】
これに対して、本発明のEPMAによれば、板の1 箇所のみの測定点だけでも、圧延方向に0.2mm2の面積を、比較的マクロに分析する。したがって、本発明は、謂わばマクロな分散粒子分析とも言え、測定点を増すほど、6000系アルミニウム合金板のマクロな性質であるプレス成形性や曲げ加工性と良く対応することとなる。このため、板厚の増加や不純物元素の増加に伴っても、更に、熱延後で冷間圧延前の焼鈍を施こさない場合でも、6000系アルミニウム合金板のプレス成形性や曲げ加工性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に、本発明の実施態様につき具体的に説明する。
(Al合金板化学成分組成)
先ず、本発明が対象とする6000系Al合金板の化学成分組成について説明する。本発明が対象とする6000系Al合金板は、前記した自動車材などとして、優れた成形性やBH性、強度、溶接性、耐食性などの諸特性が要求される。このような要求を満足するために、Al合金板の組成は、先ず、Si、Mgの主要元素を、Si:0.5〜1.5%、Mg:0.2〜2.0%を含むものとする。なお、元素含有量である% の記載は、全て質量% の意味である。
【0030】
本発明組成では、次ぎに、Si、Mg以外の他の元素の内、下記元素は、スクラップなどの溶解原料などから混入しやすい元素であり、AA乃至JIS 規格に記載されており、これに沿った各許容量とする。これらの元素とは、具体的には、Fe、Mn、Cr、Zr、V 、Ti、Zn、Cuの群である。これら元素の各含有量が、各上限規定量を越えた場合、本発明における分散粒子の平均個数密度とサイズ分布とを規定しても、6000系アルミニウム合金板のプレス成形性や曲げ加工性を低下させる。したがって、これら元素は、各上限を、Fe:1.5% 以下、Mn:1.0% 以下、 Cr:0.5%以下、Zr:0.5% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.2% 以下、Zn=1.5% 以下、Cu:1.0% 以下、とする。
【0031】
本発明組成では、更に、Si、Mg以外の他の元素の内、AA乃至JIS 規格に記載されていない、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の元素量も規定する。本発明では、前記した通り、アルミニウム合金の溶解原料として、アルミニウム地金に替えて、あるいは加えて、スクラップ材の使用を許容する。このため、これらBi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W などの合計含有量は、従来よりも増加し、0.015%以上不可避的に混入される。
【0032】
但し、本発明では、前記した通り、これらの不純物元素を逆に利用する。即ち、これら不純物元素の存在により、本発明合金中に存在するAl-Fe-Si系、Al-Mn-Fe-Si 系およびMg-Si 系(Mg2Si)、Siなどの析出挙動を遅延化させ、均熱時に析出物を粗大化させない。この効果を発揮させるためには、これらBi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W などの合計含有量で、0.015 %以上が必要である。一方、これら元素の合計含有量が0.5%を越えた場合、本発明における分散粒子の平均個数密度とサイズ分布とを規定しても、粗大析出物が生成し (粗大析出物の生成を抑制できず) 、6000系アルミニウム合金板のプレス成形性や曲げ加工性を低下させる。したがって、本発明では、これら元素の合計含有量の上限は0.5%とする。
【0033】
上記合金元素以外のその他の合金元素やガス成分も不純物である。しかし、リサイクルの観点から、溶解材として、高純度Al地金だけではなく、6000系合金やその他のAl合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として使用して、本発明Al合金組成を溶製する場合には、これら他の合金元素は必然的に含まれることとなる。したがって、本発明では、目的とする本発明効果を阻害しない範囲で、これら不純物元素が含有されることを許容する。
【0034】
上記本発明6000系Al合金における、主要合金元素であるSi、Mgの好ましい含有範囲と意義について以下に説明する。
【0035】
Si:0.5〜1.5%
SiはMgとともに、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記低温での人工時効処理時に、GPゾーンなどの化合物相を形成して、時効硬化能を発揮し、自動車パネルとして必要な、例えば170MPa以上の必要強度を得るための必須の元素である。更に、本発明6000系Al合金板にあって、張り出し成形性、絞り成形性、伸びフランジ性及び曲げ性などの諸特性を兼備させるための最重要元素である。
【0036】
また、パネルへの成形後の低温塗装焼き付け処理後(2% ストレッチ付与後170 ℃×20分の低温時効処理時) の耐力を高くする、優れた低温時効硬化能を発揮させるためには、Si/Mg を質量比で1.0 以上とし、SiをMgに対し過剰に含有させた過剰Si型6000系Al合金組成とすることが好ましい。
【0037】
Si量が0.5%未満では、前記時効硬化能、更には、自動車パネル用途などに要求される、伸びフランジ性及び曲げ性、あるいはプレス成形性などの諸特性を兼備することができない。一方、Siが1.5%を越えて含有されると、粗大な化合物が増加して破壊の起点になり、伸びフランジ性及び曲げ性を低下させる。更に、溶接性をも著しく阻害する。したがって、Siは0.5 〜1.5%の範囲とする。なお、自動車のアウタパネルなどでは、ヘム加工性が特に重視されるため、フラットヘム加工性などの曲げ性をより向上させるためには、Si含有量を0.6 〜1.3%の範囲とすることが好ましい。
【0038】
Mg:0.2〜2.0%
Mgは、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、SiとともにGPゾーンなどの化合物相を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとして、例えば170MPa以上の必要強度を得、更に、張り出し成形性、絞り成形性、伸びフランジ性及び曲げ性を得るための必須の元素である。
【0039】
Mgの0.1%未満の含有では、絶対量が不足するため、人工時効処理時に前記化合物相を形成できず、時効硬化能を発揮できない。このためパネルとして必要な170MPa以上の必要強度が得られない。
【0040】
一方、Mgが2.0%を越えて含有されると、却って、粗大な化合物が増加して破壊の起点になり、伸びフランジ性及び曲げ性を低下させる。したがって、Mgの含有量は、0.2 〜2.0%の範囲とする。また、自動車のアウタパネルなどで重視されるフラットヘムなどのヘム加工性をより向上させるために、Si含有量を前記0.6 〜1.3%のより低めの範囲とする場合には、これに対応して、Mg含有量も0.4 〜1.0 の範囲とすることが好ましい。
【0041】
(Al合金板組織)
次ぎに、本発明6000系Al合金板の組織の要件について説明する。
(分散粒子)
本発明で言う、全分散粒子とは、分散粒子の種類によらず、EPMAによってカウントされる0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子という意味である。
【0042】
分散粒子のサイズを0.5 μm 以上としたのは、これ以上小さな分散粒子は検出しにくい、というEPMAによる検出限界と、これ以上小さな分散粒子は板のプレス成形性や曲げ加工性への影響は小さいとの認識による。
【0043】
因みに、これら分散粒子は、6000系Al合金中に含有される主要元素のSi、Mgからなる分散粒子や、不純物として含有量が増加している、前記Fe〜Cuや前記Bi〜W が形成する分散粒子である。
【0044】
(分散粒子個数密度)
本発明では、板厚の増加や不純物元素の増加に伴っても、プレス成形性や曲げ加工性を向上させるために、先ず、EPMAを用いて測定した、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の平均個数密度を、3000〜20000 個/mm2とする。前記分散粒子の平均個数密度が3000個/mm2未満では、強度やBH (ベークハード) 性、そしてプレス成形におけるリジングマーク発生抑制効果が低下する。一方、前記分散粒子の平均個数密度が20000 個/mm2を越えた場合、プレス成形性や曲げ性が低下する。
【0045】
(分散粒子サイズ分布)
図1 を用いて、本発明における分散粒子サイズ分布規定の概念につき説明する。図1 は、電子線プローブマイクロアナライザ (以下、EPMAとも言う) を用いて測定した、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子のサイズ分布状況の概念図を示す。図1 の座標において、横軸が測定された分散粒子のサイズX μm 、縦軸が個数密度Y 個/mm2である。
【0046】
図1 において、左肩上がりの実線で示す曲線が、X が10μm 以下のサイズの分散粒子の、Y =Aexp(-BX)で表される、分散粒子サイズ分布式である (但し、分布式を示す曲線の右端はX が10μm を越える領域まで示している) 。この分布式を求める際の、分散粒子のサイズを10μm 以下としたのは、これ以上大きな粗大な分散粒子が多くあった場合には、本発明における、この10μm 以下のサイズの分散粒子のサイズ分布式規定の上限を必然的に満たさず、また、この分散粒子のサイズ分布式規定に依らず、プレス成形性や曲げ加工性の特性が低下するからである。
【0047】
従って、本発明では、10μm以上の粗大分散粒子の数密度については、10μm 以上の分散粒子の平均個数密度が100 個/mm2以下であることが好ましい。即ち、前記0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の内、10μm 以上のサイズの分散粒子の平均個数密度が100 個/mm2以下であることが好ましい。因みに、この図1 では、10μm 以上の分散粒子の平均個数密度が60個/mm2程度のレベルである。
【0048】
Y =Aexp(-BX)で表される分散粒子サイズ分布式において、A/B が、X が10μm 以下のサイズの分散粒子の前記座標における上下方向の幅である。図1 に、上向きの矢印の方向で示すように、このA/B が大きいほど、実線で示す曲線が上側に行き、分散粒子の個数密度が大きくなる。このため、曲げ性が低下する一方、プレス成形におけるリジングマーク発生は抑制される。
【0049】
これに対して、A/B が小さいほど、実線で示す曲線が下側に行き、分散粒子の個数密度が小さくなる。このため、曲げ性が向上する一方、本発明で前提条件としている中間焼鈍を省略した板の製造工程では、プレス成形におけるリジングマーク発生は抑制されなくなる。なお、通常の中間焼鈍がある板の製造工程では、分散粒子の個数密度が小さくなっても、プレス成形時のリジングマークは抑制される。
【0050】
このため、相矛盾する曲げ性向上と、リジングマーク発生抑制とを両方満足するためには、このA/B を一定の範囲とする。これが、本発明で規定しているA/B が1000〜40000 の範囲である。図1 において、 [い] で示す細かい点線が上記A/B が1000の下限線である。また、 [あ] で示す粗い点線が、上記A/B が40000 の上限線である。
【0051】
[い] で示す細かい点線、即ち、上記A/B が1000の下限線を越えて小さくなった場合には、プレス成形におけるリジングマークが発生する可能性が大きくなる。一方、[あ] で示す粗い点線、即ち、上記A/B が40000 の上限線を越えて大きくなった場合には、曲げ性が低下する可能性が大きくなる。
【0052】
更に、Y =Aexp(-BX)で表される分散粒子サイズ分布式において、B がこの分布式の傾きを示す。図1 に示す、分散粒子サイズ分布式の曲線に重なった、左肩上がりの直線が、分布式の傾きB を示す。図1 に示す右肩上がりの斜めの矢印で方向を示すように、この傾きB が小さくなるほど、実線で示す曲線の左肩が下がり、サイズの小さな分散粒子の個数密度が小さくなると同時に、粗大な分散粒子の個数密度が大きくなる。このため、曲げ性は向上する一方、プレス成形におけるリジングマーク発生は抑制されなくなる。
【0053】
一方、B が大きいほど、実線で示す曲線の左肩が上がり、サイズの小さな分散粒子の個数密度が大きくなり、粗大な分散粒子の個数密度が小さくなる。このため、曲げ性が低下する一方、プレス成形におけるリジングマーク発生は抑制される。
【0054】
このため、相矛盾する曲げ性向上と、リジングマーク発生抑制とを両方満足するためには、このB を一定の範囲とする。これが、本発明で規定しているB が0.5 〜2 の範囲の範囲である。B が0.5 より小さくなった場合には、細かい点線で示す線a の下限線を越えることとなり、プレス成形におけるリジングマークが発生する可能性が大きくなる。一方、B が2 より大きくなった場合には、粗い点線で示す線b を越えることとなり、曲げ性が低下する可能性が大きくなる。
【0055】
(分散粒子の測定)
これら、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の平均個数密度や、X が10μm 以下のサイズの分散粒子のサイズ分布 (式) は、EPMAによって測定する。但し、測定に再現性を持たせるために、上記分散粒子の各測定条件は、厚みt のアルミニウム合金板の表面から1/4 t 深さ部分の圧延方向に0.2mm2の面積を、任意の測定箇所10箇所について、電子線プローブマイクロアナライザにより走査して行ない、これらを平均化して行なうこととする。
【0056】
以上説明した、本発明のマクロな分散粒子分析と規定によって、板厚の増加や不純物元素の増加に伴っても、更に、熱延後で冷間圧延前の焼鈍を施こさない場合でも、6000系アルミニウム合金板のプレス成形性や曲げ加工性を向上させることが可能となる。
【0057】
(Mg-Si 系化合物)
本発明では、6000系Al合金板の組織における 前記0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の内、Mg-Si 系化合物粒子と、単体Si粒子との個数の和が1500〜5000個/mm2であることが好ましい。
【0058】
Mg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子は、他の前記Fe〜Cuや前記Bi〜W などが形成する分散粒子が増加したとしても、やはり板の特性に大きく影響する主要な分散粒子であることに変わりは無い。このため、板厚の増加や不純物元素の増加に伴っても、プレス成形性や曲げ加工性を向上させるために、前記Mg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子との和が1500〜5000個/mm2であることが好ましい。
【0059】
前記Mg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子との和が1500個/mm2未満では、強度やBH (ベークハード) 性、そしてプレス成形におけるリジングマーク発生抑制効果が低下する可能性が高い。一方、前記Mg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子との和が5000個/mm2を越えた場合、プレス成形性や曲げ性が低下する可能性が高い。
【0060】
上記Mg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子との個数の測定は、上記した分散粒子のサイズ分布のEPMAによる測定条件と同じである。測定装置は、EPMA(日本電子製JXA−8000シリーズ、測定条件は加速電圧20kV)を用いて分散粒子の個数および各粒子の構成元素を計測した。なお、この計測は、約0.1〜0.2mm2 程度を測定し、計測対象は0.5μm以上の粒子を測定し、表1には1mm2 あたりの換算値を記載した。また、分散粒子は、構成元素によって、全粒子のうち、Mg−Si系およびSi系を区分けした。
【0061】
本発明合金中に存在する分散粒子は、Al-Fe-Si系、Al-Fe-Mn-Si 系、Mg-Si 系、Siのほぼ4種類に分類されるが、そのうち、本発明で規定するMg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子の判定・解析方法について説明する。
【0062】
先ず、EPMA装置により、個々の粒子に含有する構成元素分析 Fe 、Mn、Mg、Siの4元素の分析を行う(at% )。ここで得られる定量的な値は、各粒子のサイズやビーム径によって、分析精度に問題が生じるため、本特許では、主要含有元素の比率によって、Mg-Si およびSi粒子の判別を行った。具体的な解析方法を以下に示す。
【0063】
上記EPMA装置により、Fe(at%) +Mn(at%) +Mg(at%) +Si(at%) の合計量(TOTAL量) を求める。次に、1つ1つの粒子につき、Fe/TOTAL、Mn/TOTAL、Mg/TOTAL、Si/TOTALにより、含有4元素中に含まれる (含有4元素の合計量に対する)Fe 、Mn、Mg、Siの各含有比率を求める。
【0064】
この内、Fe/TOTALが0.05以下で且つ、Mn/TOTALが0.3 以下のもの、 Fe/TOTAL が0.05を超えるものでも、Mg/TOTALが0.3 以上のもののいずれかに属するものが、Mg-Si 系または、Si粒子に属することを確認し、上記判定基準による「+の個数の和」をもって、前記Mg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子との和と評価した。
【0065】
(平均結晶粒径)
結晶粒径については、Al合金板の平均結晶粒径は60μm 以下の微細化させることが好ましい。結晶粒径をこの範囲に細かく乃至小さくすることによって、張り出し成形性、絞り加工性、伸びフランジ性及び曲げ性、あるいはプレス成形性が確保乃至向上される。結晶粒径が60μm を越えて粗大化した場合、伸びフランジ性及び曲げ性、あるいはプレス成形性が著しく低下する可能性が高い。また粗大粒である場合、肌荒れ等の問題が生じ好ましくない。
【0066】
なお、ここで言う結晶粒径とは板の長手(L) 方向の結晶粒の最大径である。この結晶粒径は、Al合金板を0.05〜0.1mm 機械研磨した後電解エッチングした表面を、光学顕微鏡を用いて観察し、前記L 方向に、ラインインターセプト法で測定する。1 測定ライン長さは0.95mmとし、1 視野当たり各3 本で合計5 視野を観察することにより、全測定ライン長さを0.95×15mmとする。
【0067】
(製造方法)
次ぎに、本発明Al合金板の製造条件について以下に説明する。
本発明では、中間焼鈍省略を前提とするので、前記の組成を有するアルミニウム合金を、通常のDC鋳造→均質化熱処理→熱間圧延→ (中間焼鈍省略) →冷間圧延→最終焼鈍の各工程を経て製造される。
【0068】
しかし、Al合金板の化学組成や各工程の設定条件によって得られる板の、粗大な再結晶粒や粒界における析出相の形成状況や、板の異方性の状態は変わるので、一連の製造工程として総合的に条件を選択して決定すべきである。以下に、好ましい条件について説明する。
【0069】
先ず、溶解、鋳造工程では、上記6000系成分規格範囲内に溶解調整されたAl合金溶湯を、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。
【0070】
(均質化熱処理)
本発明においては、均質化熱処理を、リジングマーク抑制と中間焼鈍省略化に好ましい2回均熱条件で行う。
(1回目の均熱条件)
1回目の均熱条件は、前記組成のAl合金鋳塊に、500 ℃以上融点未満の温度で均質化熱処理を施す。この均質化熱処理は組織の均質化、すなわち、鋳塊組織中の結晶粒内の偏析をなくすことを目的とする。熱処理温度が500℃より低いと鋳塊の粒内偏析を十分になくすことができず、これが破壊の起点として作用するため、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する。また、熱処理時間は、鋳塊の厚みにもよるが、2hr 以上とすることが好ましい。2hr より低いと鋳塊の粒内偏析を十分になくすことができず、これが破壊の起点として作用するため、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する可能性がある。
【0071】
この1回目の均質化熱処理後に冷却する。この際、分散粒子を細かくし、粗大析出物の生成を抑制するために、冷却速度として、500 ℃から350 ℃の間の温度範囲の平均冷却速度を 40 ℃/h以上、100 ℃/h未満で、冷却を行う。
【0072】
通常、実際のスラブサイズでの均熱処理での冷却速度は、スラブサイズが大きいため(約400 〜600mm 厚さ、幅1000〜2500mm、長さ5〜10m)、バッチ均熱炉内では、冷却速度は20℃/ h未満程度、スラブを炉外に開放しても30〜40℃/ h程度の冷却速度である。このような通常のバッチ均熱炉条件で冷却してしまうと、この冷却過程で、析出物が粗大化し、2回均熱工程では、強度低下、ベーク後耐力の低下、曲げ性等の成形割れが生じる。
【0073】
このため、前記2回均熱の特許文献1 から 3などでは、2回均熱工程の1回目均熱後の冷却速度は、より大きい、100 ℃/ h以上、150 ℃/ h以上等が規定されている。しかしながら、高温保持からの100 ℃/h以上の高い冷却速度は、小型スラブなら実現可能かもしれないが、上述の大型スラブの全体、スラブ中心部まで実現させるには、強制冷却が必要であり、生産性の阻害要因になる。また、強制冷却を実施すると、スラブの熱収縮による変形やソリなど、形状に異常が生じる新たな問題が発生する。
【0074】
したがって、本発明で規定する上限の冷却速度範囲は、強制冷却に伴う上記生産性やスラブ形状の問題を生じさせず、分散粒子を規定の範囲に制御可能な、40℃/ h以上、100 ℃/ h未満の冷却速度とする。より好ましくは、45℃/ h以上である。この規定範囲では、冷却速度が速ければ、速いほど、分散粒子は細かくなり、強度、ベーク後耐力、曲げ性向上などに有利である。また、本発明では、粗大析出物の生成を抑制するポイントとして、前記した通り、不純物元素量も規定しており、100 ℃/ h未満の冷却速度であっても、粗大析出物の生成を抑制できる。
【0075】
その後、一旦200 ℃以下の温度まで冷却して300 〜450 ℃未満の温度まで再加熱する均質化熱処理(2回均熱) を行ない、前記均質化熱処理後に、300 〜450 ℃の温度まで加熱し、熱間圧延を開始する。この2 回均熱においても、上記1 回目および上記2 回目の均質化熱処理における、前記各温度範囲での保持によって、熱間圧延前の組織が最適化される。この保持温度が低いと、粒界における析出相の形成が促進され、強度、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する。一方、保持温度が高過ぎると、強度が大きくなりすぎ、伸び特性が低下する為に伸びフランジ性も低下する。
【0076】
上記1 回目および上記2 回目の均質化熱処理における、保持時間は 2〜15hrを目安とする。保持時間が2hr より短いと、鋳塊晶出物が未固溶のまま残ること、粒界に元素偏析も残ることから、成形性を劣化させる。一方、保持時間が15hrより長いと、逆に、Al-Fe−Mn系の析出物や不純物元素の析出相が粗大化し、却って、成形性、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する可能性がある。
【0077】
(熱間圧延)
これらの均質化熱処理後に、300 〜450 ℃未満の温度で熱間圧延を開始する。熱間圧延開始温度が450 ℃以上では、再結晶が生じて熱間圧延時に粗大な再結晶粒が生成し、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する。また、熱間圧延開始温度が300 ℃未満の場合、熱間圧延自体が困難となる。
【0078】
更に、熱間圧延の終了温度を170 〜300 ℃として、コイル状、板状などの熱延板を製作する。熱間圧延終了温度が300 ℃を超えた場合、SiとMgとの質量比Si/Mg が1 以上であるような過剰Si型の6000系Al合金板は再結晶しやすく、伸びフランジ性及び曲げ性が劣化する。熱間圧延の終了温度が170 ℃未満では、熱間圧延自体が困難となる。
【0079】
(熱延板の焼鈍)
この熱延板の冷間圧延前の焼鈍 (荒鈍) は、製造の効率化や製造コストの低減のために省略し、この熱延板を予め焼鈍を施こすことなく、冷間圧延を行う(本特許の前提)。また、本発明によれば、熱延板を予め焼鈍を施こすことなく、冷間圧延を行なっても、板のプレス成形性や曲げ加工性を向上させることができる。
【0080】
(冷間圧延)
この荒鈍後に、引き続き冷間圧延を行なって、所望の板厚の冷延板 (コイルも含む) を製作する。
【0081】
(溶体化および焼入れ処理)
上記鋳塊の均熱によって本発明範囲内のサイズ分布と量とに制御した分散粒子を活用し、最終の溶体化および焼入れ処理において、リジングマークを抑制するための再結晶核として、ランダムな方位を持つ再結晶方位とするためには、最終の溶体化処理の昇温速度を100 ℃/分以上とすることが好ましい。最終の溶体化処理の100 ℃/分以上の昇温過程で、上記分散粒子は、ランダムな再結晶結晶方位の形成の核として働く。昇温速度は、より好ましくは、200 ℃/分以上、より好ましくは、300 ℃/分以上である。
【0082】
なお、溶体化処理の条件は、板のプレス成形後の塗装焼き付け硬化処理などの人工時効処理によりMg/Si クラスターとβ" 相を十分粒内に析出させるために、好ましくは500 ℃以上、融点以下までの温度範囲で行う。より好ましくは、510 ℃以上、570 ℃以下、更に好ましくは、520 ℃以上560 ℃以下である。
【0083】
次く溶体化処理温度からの焼入れ処理では、冷却速度が遅いと、粒界上にSi、MgSiなどが析出しやすくなり、プレス成形や曲げ加工時の割れの起点となり易く、これら成形性が低下する。この冷却速度を確保するために、焼入れ処理は、ファンなどの空冷、ミスト、スプレー、浸漬等の水冷手段や条件を各々選択して用い、冷却速度を300 ℃/ 分以上の急冷とすることが好ましい。より好ましくは、600 ℃/ 分以上、より好ましくは、700 ℃/ 分以上で、さらに好ましくは、800 ℃/ 分以上である。
【0084】
本発明では、成形パネルの塗装焼き付け工程などの人工時効硬化処理での時効硬化性をより高めるため、焼入れ処理後に、クラスターの生成を抑制し、GPゾーンの析出を促進するために、予備時効処理をしても良い。この予備時効処理は、 60 〜150 ℃、好ましくは70〜120 ℃の温度範囲に、1 〜24時間の必要時間保持することが好ましい。また、予備時効処理後の冷却速度は、1 ℃/hr 以下であることが好ましい。この予備時効処理として、上記焼入れ処理の冷却終了温度を60〜150 ℃と高くした後に、直ちに再加熱乃至そのまま保持して行う。あるいは、溶体化処理後常温までの焼入れ処理の後に、5 分以内に、直ちに60〜150 ℃に再加熱して行う。
【0085】
更に、室温時効抑制のために、前記予備時効処理後に、時間的な遅滞無く、比較的低温での熱処理 (人工時効処理) を行い、GPゾーンを更に生成させても良い。前記時間的な遅滞があった場合、予備時効処理後でも、時間の経過とともに室温時効 (自然時効) が生じ、この室温時効が生じた後では、前記比較的低温での熱処理による効果が発揮しにくくなる。
【0086】
また、連続溶体化焼入れ処理の場合には、前記予備時効の温度範囲で焼入れ処理を終了し、そのままの高温でコイルに巻き取るなどして行う。なお、コイルに巻き取る前に再加熱しても、巻き取り後に保温しても良い。また、常温までの焼入れ処理の後に、前記温度範囲に再加熱して高温で巻き取るなどしてもよい。
【0087】
この他、用途や必要特性に応じて、更に高温の時効処理や安定化処理を行い、より高強度化などを図ることなども勿論可能である。
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0089】
次に、本発明の実施例を説明する。表1 に示すように、不純物として、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の合計含有量が比較的多い6000系Al合金を、スクラップの溶解原料比率が高い、DC鋳造によって鋳造した400mm 厚の鋳塊を、表2 に示す種々の条件で、均質化熱処理 (均熱とも略記) および熱間圧延を行う。得られた各熱延板について、表2 に示す種々の条件で、荒鈍を省略した上で、冷間圧延、溶体化および焼入れ処理を行い、厚さ1mmの最終製品板を得た。なお、表1 中の各元素の含有量の表示において、「−」の表示は、検出限界以下であることを示す。
【0090】
より具体的に、均熱処理は、表2 に示す加熱温度と保持時間の1 回目の均熱の後に、一旦室温まで冷却した後、更に表2 に示す加熱温度と保持時間の2 回目の均熱を行なう2 回均熱を行った。
【0091】
この均熱後に、表2 に示す粗圧延の各開始温度と各終了温度と、仕上げ圧延の各終了温度とで、厚さ2.5mmtまで熱間圧延した。この熱延板を、荒鈍を省略した上で、直接冷間圧延を行い、厚さ1mmの冷延板を得た。
【0092】
そして、この冷延板を、連続式の熱処理設備で、各例とも共通して、昇温速度およそ300 ℃/分で加熱し、550 ℃の溶体化処理温度に到達した時点で( 保持時間 10 秒程度) 、直ちに室温まで、冷却速度およそ600 ℃/ 分の急冷にて焼入れた。また、この焼入れ後直ちに、100 ℃の温度で2 時間保持する予備時効処理を行った (保持後は冷却速度0.6 ℃/hr で徐冷) 。
【0093】
(供試板要件)
これら調質処理後の各最終製品板から供試板 (ブランク) を切り出し、前記調質処理後 3カ月間 (90日間) の室温時効後の各供試板組織の分散粒子要件として、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の平均個数密度、Y =Aexp(-BX)で表される分散粒子サイズ分布式におけるA/B とB 、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の内の10μm 以上のサイズの分散粒子の平均個数密度、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の内のMg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子との個数の和、を前記した測定方法により各々測定した。
【0094】
また、同じく、前記調質処理後 3カ月間の室温時効後の各供試板の特性として、平均結晶粒径 (μm)、圧延方向に対し45°の方向の0.2%耐力 (MPa)と均一伸び(%) 、圧延方向に対し45°方向の曲げ性などを各々測定、評価した。これらの結果を表3 に示す。平均結晶粒径 (μm)は各々前記した方法で求めた。
【0095】
(リジングマーク)
リジングマークは、引張試験による表面凸凹発生状況、絞り成形後の成形品表面の肌荒れを観察して、これらより評価した。
具体的には、上記により得られたAl合金板からJISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、室温引張り試験を行った。室温引張り試験は、JISZ2241(1980)(金属材料引張り試験方法)に基づき、室温20℃で試験を行った。このときの試験片の採取方向は、圧延方向を「直角方向」にし、引張り方向を圧延方向の直角方向とした。引張り速度は、0.2%耐力までは5mm/分、耐力以降は、20mm/min とした。
【0096】
この引張り試験により、板に20%の引張り変形を与え、板表面の凸凹を粗さ計で測定し、図3 に示すように、長さ約20mm範囲の板表面凸凹のプロファイルを測定し、最大高さの山部a と最大深さの谷部b との差h を測定し、Al合金板の測定3箇所の平均値を求めた。なお、実際の測定値は、図3 の点線で示すような細かい変動のプロフェイルであるため、図3 に示すように、各表面位置で平均値化した板表面の凸凹のプロファイル (実線) とし、このプロファイルで得られた前記凸凹の高さh ( μm)で評価した。
【0097】
(As耐力)
上記調質処理直後の供試板の元のAl合金板から、JISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、室温引張り試験を行った。室温引張り試験は、JISZ2241(1980)(金属材料引張り試験方法)に基づき、室温20℃で試験を行った。このときの試験片の採取方向は、圧延方向に平行な方向とした。また、クロスヘッド速度は、5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。この方法によって、0.2%耐力を評価し、AS耐力とした(N数=5の平均値)。
【0098】
(BH 後耐力)
人工時効処理能を調査するため、これらAl合金板がパネルとしてプレス成形されることを模擬して、前記、JIS5 号試験片に、2%の歪みを予め与えた後、170 ℃、20分の人工時効硬化処理を施し、処理後の各供試板の(元板の圧延方向に平行な耐力を上記引っ張り試験条件にて、BH後耐力(MPa )として測定した。
【0099】
(供試板特性)
供試板の成形性として、張出し成形性評価のための割れ限界高さ(LDH50 )および限界絞り比(LDR )、曲げ性を各々試験した。これらの結果を表3 に各々示す。
【0100】
割れ限界高さ(LDH50 )試験は、供試板を、長さ180mm 、幅110mm の試験片に切り、直径101.6mm の球状張出しパンチを用い、潤滑剤としてR-303Pを用いて、しわ押え圧力200kN 、パンチ速度4mm/S で張出し成形し、試験片が割れるときの高さ(mm)を求めた。各サンプルに対して3 回の試験を行い、その平均値を採用した。割れ限界高さが大きい程、張出し成形性に優れていることを意味し、例えば自動車用成形パネルに要求される張出し成形性を満足するためには、27.0mm以上であればよい。
【0101】
限界絞り比(LDR )は、供試板から種々の直径の試験片を打抜きにより作製した上で、ポンチ:50mmφ- 肩R8mm、ダイス:53mmφ- 肩R8mm、潤滑材R-303Pを用いて、しわ押さえ圧300〜600kgf、試験速度20mm/minの条件で深絞り試験を行った。そして、深絞り成形できない成形限界ブランク径を決定し、次の式により限界絞り比を算出した。限界絞り比=成形限界ブランク径/ ポンチ径。限界絞り比が大きいほど、深絞り成形性に優れている事を意味し、例えば自動車用成形パネルに要求される深絞り成形性を満足するためには、1.8 以上であればよい。
【0102】
曲げ性の評価は、供試板から長さ150mm ×幅30mmの曲げ加工試験片を採取し、フラットヘミング加工を想定した曲げ性を評価した。即ち、試験片に対して、15%の歪みを予め加えた後、角度180°の密着曲げ(内側曲げ半径R=約0.25mm)を行った。曲げ性の評価は、曲げ加工後の試験片縁曲部の割れ発生程度を目視で確認し、下記基準に基づいて5 段階で評価した。
0:肌荒れ、及び微小な割れが無い。
1:肌荒れが僅かに発生している。
2:肌荒れが発生しているものの微小なものを含めた割れは無い。
3:微小な割れが発生。
4:大きな割れが発生。
5:大きな割れが複数あるいは多数発生。
上記のランクの内、0 〜2 段階が合格で、3 〜5 段階は不合格である。
【0103】
表2、3における分散粒子のサイズ分布の代表例として、発明例1、3、4および比較例10、11の0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子のサイズ分布を図2に各々示す。図2において、黒丸印が発明例1、黒四角印が発明例3、黒三角印が発明例4、×印が比較例10、白ひし形印が比較例11である。
【0104】
また、図2においては、これら発明例、比較例のY =Aexp(-BX)で表される分散粒子サイズ分布式も、各々下記のように示している。
黒丸印のサイズ分布に近似する太い実線が発明例1のサイズ分布式。
黒四角印のサイズ分布に近似する濃いハッチ線が発明例3のサイズ分布式。
黒三角印のサイズ分布に近似する薄いハッチ線が発明例4のサイズ分布式。
×印のサイズ分布に近似する細かい点線が比較例10のサイズ分布式。
白ひし形印のサイズ分布に近似する長い点線が比較例11のサイズ分布式。
【0105】
表1〜3から明らかな通り、発明例1〜9の板は、発明範囲内の成分組成を有し、好ましい製造条件範囲質内で製造されている。このため、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の平均個数密度、Y=Aexp(-BX) で表される分散粒子サイズ分布式におけるA/B 、B が、発明範囲内である。また、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の内の10μm 以上のサイズの分散粒子の平均個数密度、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の内のMg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子との個数の和も好ましい範囲内である。この結果、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の合計含有量が高くても、プレス成形性や曲げ加工性に優れている。
【0106】
これに対して、比較例10、11、12は、発明範囲内の成分組成(A)を有しているものの、板の製造条件が好ましい範囲から外れている。
【0107】
比較例10は2回均熱ではなく、1回のみの均熱で製造されている。このため、前記全分散粒子の平均個数密度が小さ過ぎ、前記分散粒子サイズ分布式におけるA/B も低めに外れている。この結果、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の合計含有量が高い場合に、リジングマーク性が低い(凹凸高さが高い)。
【0108】
比較例11は2回均熱ではあるが冷却速度が小さ過ぎる。このため、前記全分散粒子の平均個数密度が大き過ぎ、前記分散粒子サイズ分布式におけるA/B も高め、B も低めに外れている。また、前記全分散粒子の内のMg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子との個数の和も大き過ぎる方向に外れている。この結果、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の合計含有量が高い場合に、耐力が低く、曲げ加工性も悪い。
【0109】
比較例12は2回均熱ではあるが、均熱後の強制冷却により冷却速度が大き過ぎる。このため、前記全分散粒子の平均個数密度、前記分散粒子サイズ分布式におけるA/B 、B が、発明範囲内である。また、前記全分散粒子の内の10μm 以上のサイズの分散粒子の平均個数密度、前記全分散粒子の内のMg-Si 系化合物粒子と単体Si粒子との個数の和も好ましい範囲内である。したがって、成形性などの特性は良いものの、スラブの熱収縮による変形やソリなど、形状の異常が発生したため、面削量が大きく増し、歩留りが大幅に低下し、効率的あるいは実用的な製造が困難であった。
【0110】
比較例13〜22は、発明範囲外の成分組成(I〜R)を有している。即ち、比較例13〜22は、Fe、Mn、Cr、Zr、V 、Cuの各含有量が、各々その上限規定量を越えている。このため、板の製造条件は好ましい範囲であるにもかかわらず、前記全分散粒子の内の10μm 以上のサイズの分散粒子の平均個数密度、あるいは前記分散粒子サイズ分布式におけるA/B 、B が発明範囲から外れている。この結果、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の合計含有量が高い場合に、共通して曲げ加工性が悪く、これに、耐力の低さ、リジングマーク性の低さ(凹凸高さが高い)、成形性が低い、などが選択的に加わる。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、板厚の増加や不純物元素の増加に伴っても、更に、熱延後で冷間圧延前の焼鈍を施こさない場合でも、プレス成形性や曲げ加工性を向上させた6000系アルミニウム合金板と、その製造方法を提供できる。この結果、自動車、船舶あるいは車両などの輸送機、家電製品、建築、構造物の部材や部品など、また、特に自動車成形パネル用として、6000系Al合金材の適用を拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明規定の分散粒子のサイズ分布の意味を示す概念図である。
【図2】実施例各例の分散粒子のサイズ分布状況を示す説明図である。
【図3】リジングマーク性評価のための板表面凸凹のプロファイルを示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量% で、Si:0.5〜1.5%、Mg:0.2〜2.0%を含み、Fe:1.5% 以下、Mn:1.0% 以下、 Cr:0.5%以下、Zr:0.5% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.2% 以下、Zn=1.5% 以下、Cu:1.0% 以下とし、更に、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の合計含有量が0.015%以上で、かつ0.5%以下とし、残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金板であって、このアルミニウム合金板の、下記条件にて測定した、0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の平均個数密度が3000〜20000 個/mm2であり、これら測定された分散粒子のサイズX μm を横軸、個数密度Y 個/mm2を縦軸とした座標において、X が10μm 以下のサイズの分散粒子が、Y=Aexp(-BX) で表される分散粒子サイズ分布式において、A/B が1000〜40000 の範囲であり、B が0.5 〜2 の範囲であることを特徴とする、成形性に優れたアルミニウム合金板。
但し、上記分散粒子の各測定は、厚みt のアルミニウム合金板の表面から1/4 t 深さ部分の圧延方向に0.2mm2の面積を、任意の測定箇所10箇所について、電子線プローブマイクロアナライザにより走査して行ない、これらを平均化して行なう。
【請求項2】
前記0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の内、10μm 以上のサイズの分散粒子の平均個数密度が100 個/mm2以下である請求項1に記載の成形性に優れたアルミニウム合金板。
【請求項3】
前記0.5 μm 以上のサイズの全分散粒子の内、Mg-Si 系化合物粒子と、単体Si粒子との個数の和が1500〜5000個/mm2である、請求項1または2に記載の成形性に優れたアルミニウム合金板。
【請求項4】
前記アルミニウム合金板がフランジ部を有する成形パネル用である請求項1または2または3に記載の成形性に優れたアルミニウム合金板。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかのアルミニウム合金板を得る方法であって、質量% で、Si:0.5〜1.5%、Mg:0.2〜2.0%を含み、Fe:1.5% 以下、Mn:1.0% 以下、 Cr:0.5%以下、Zr:0.5% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.2% 以下、Zn=1.5% 以下、Cu:1.0% 以下とし、更に、Bi、Sn、Ga、Co、Ni、Ca、Mo、Be、Pb、W の合計含有量が0.015%以上で、かつ0.5%以下とし、残部がAlおよび不純物からなるアルミニウム合金鋳塊を、500 ℃以上、融点未満の温度で均質化熱処理後に、500 ℃から350 ℃までの平均冷却速度を40℃/h以上 100℃/h未満として、一旦200 ℃以下の温度まで冷却した上で、300 〜450 ℃の温度まで再加熱後に熱間圧延を開始し、この熱間圧延の終了温度を170 〜300 ℃として熱延板を製作し、更に、この熱延板を、予め焼鈍を施こすことなく、冷間圧延を行なって冷延板を製作し、この冷延板を560 ℃以上の温度で溶体化処理および焼入れ処理することを特徴とする、成形性に優れたアルミニウム合金板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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