説明

成形性に優れた成形加工用アルミニウム合金板およびその製造方法

【目的】 Al−Mg系の成形加工用Al合金板として、成形性、特に深絞り性に優れたものを提供する。
【構成】 Mg2.0〜9.5%を含有しかつCu0.01〜1.5%、Zn0.05〜2.5%の1種または2種を含有し、さらに必要に応じてMn0.01〜0.7%、Cr0.01〜0.3%、Zr0.01〜0.3%の1種以上を含有し、残部が実質的にAlよりなり、平均ランクフォード値が0.75以上でかつ(111)面回折強度比I111 と(200)面回折強度比I200 との比率I111 /I200 が0.25以上のAl合金板。またその製造にあたり、熱間圧延後の最終板厚までの圧延において、350〜100℃の範囲内での圧延率30%以上の温間圧延を施す製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、自動車のボデイ等の各種陸運車両の部品、あるいは電気機器のシャーシやパネル等に使用される成形加工用のアルミニウム合金板に関し、特に強度と成形性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車のボデイシートには、従来は冷延鋼板を使用することが多かったが、最近では車体軽量化の目的から、アルミニウム合金板を使用することが進められている。またボデイシート以外の自動車等の各種陸運車両の部品、そのほか電気機器部品等の成形加工部品についても、最近ではアルミニウム合金板を使用することが多くなっている。このような成形加工用のアルミニウム合金板としては、従来はAl−Mg系のJIS 5182合金O材や5052合金O材等が最も広く使用されている。
【0003】なお上述のような成形加工用のAl−Mg系合金板の製造方法としては、鋳塊に均質化処理を施した後、熱間圧延を行ない、さらに必要に応じて冷間圧延を行なって最終板厚とした後、最終焼鈍を施すのが一般的であり、またこの場合熱間圧延と冷間圧延との間、もしくは冷間圧延の中途において、必要に応じて中間焼鈍を施すこともある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来から成形加工用に広く用いられているAl−Mg系の合金板は、強度は鋼板と同程度のものが得られるようになっているが、同じ強度で比較すれば、成形加工性、特に深絞り性は鋼板と比べて劣っているのが実情である。
【0005】鋼板においては、成形加工性の指標としてランクフォード値(r値)が従来から広く用いられており、特に平均ランクフォード値が高いほど成形加工性、深絞り性が優れるとされている。ここで平均ランクフォード値とは、圧延方向に対して0°、45°、90°の各方向のランクフォード値(r0 、r45、r90)の平均値、すなわち平均ランクフォード値=(r0 +2×r45+r90)/4であらわされるものである。
【0006】成形加工用の鋼板については、このような平均ランクフォード値を高める技術が確立している。しかしながら、アルミニウム合金板の平均ランクフォード値は鋼板と比較してかなり低く、しかも従来の技術では、アルミニウム合金板については成形加工性と平均ランクフォード値との関係について充分な検討がなされていなかったのが実情である。
【0007】また鋼板とアルミニウム合金板とでは、その結晶構造に決定的な相違があり、鋼板では一般に体心立方構造であるのに対し、アルミニウム合金板では面心立方構造となっている。そして体心立方構造の鋼板では、深絞り性に有利な(111)面が圧延面にあらわれるが、面心立方構造のアルミニウム合金板の再結晶集合組織では、(111)面がほとんど形成されないに加え、成形性に不利な(100)面が主体となっている。そこでこれまでのアルミニウム合金板における成形性向上のための技術開発は、成形性に不利な(100)面を如何に少なくするかに限られており、それだけでは充分な成形性向上が図られていなかったのが実情である。
【0008】この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、自動車用ボデイシートをはじめとする各種陸運車両部品あるいは電気機器部品等に使用される成形加工用アルミニウム合金板として、高強度を有すると同時に成形加工性、特に深絞り性の優れたアルミニウム合金板、およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】前述のような課題を解決するため本発明者等が種々実験・検討を重ねたところ、アルミニウム合金の成分組成を適切に調整するばかりでなく、再結晶が生じる温度域での通常の熱間圧延の後、再結晶が生じない温度域にて適切な温間圧延を施すことによって、最終焼鈍後の再結晶集合組織と平均ランクフォード値を適切に調整することができ、これによって成形加工性、特に深絞り性が優れた高強度成形加工用アルミニウム板が得られることを見出し、この発明をなすに至ったのである。
【0010】具体的には、請求項1に記載の発明の成形加工用アルミニウム合金板は、Mg2.0〜9.5%を含有し、かつCu0.01〜1.5%、Zn0.05〜2.5%のうちの1種または2種を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなり、かつ平均ランクフォード値が0.75以上で、しかもX線回折による純アルミニウム粉末に対する(111)面回折強度比I111 と(200)面回折強度比I200 との比率I111 /I200 が0.25以上であることを特徴とするものである。
【0011】また請求項2に記載の発明の成形加工用アルミニウム合金板は、Mg2.0〜9.5%を含有し、かつCu0.01〜1.5%、Zn0.05〜2.5%のうちの1種または2種を含有し、さらにMn0.01〜0.7%、Cr0.01〜0.3%、Zr0.01〜0.3%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなり、かつ平均ランクフォード値が0.75以上で、しかもX線回折による純アルミニウム粉末に対する(111)面回折強度比I111 と(200)面回折強度比I200 との比率I111 /I200 が0.25以上であることを特徴とするものである。
【0012】そして請求項3に記載のアルミニウム合金圧延板の製造方法は、Mg2.0〜9.5%を含有するとともに、Cu0.01〜1.5%、Zn0.05〜2.5%のうちの1種または2種を含有し、さらに必要に応じてMn0.01〜0.7%、Cr0.01〜0.3%、Zr0.01〜0.3%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなる合金を鋳造し、鋳塊に均質化処理を施してから熱間圧延を施した後、最終板厚まで圧延するにあたり、350〜100℃の範囲内の温度での少なくとも圧延率30%以上の温間圧延を含んで圧延し、さらに最終板厚の圧延板に対して最終焼鈍を行なって、平均ランクフォード値が0.75以上でかつX線回折による純アルミニウム粉末に対する(111)面回折強度比I111 と(200)面回折強度比I200 との比率I111/I200 が0.25以上の板を得ることを特徴とするものである。
【0013】
【作用】先ずこの発明における合金成分組成の限定理由について説明する。
【0014】Mg:Mgはこの発明で対象とするアルミニウム合金における基本となる成分元素であって、強度および成形性、特に伸び、深絞り性、張出性の向上に寄与する。Mg量が2.0%未満では伸び、深絞り性、張出性、穴拡げ性が劣り、一方9.5%を越えれば圧延が困難となるから、Mgは2.0〜9.5%の範囲内とした。
【0015】Cu,Zn:Cu,Znはいずれも強度向上に寄与するから、いずれか一方または双方を添加する。これらのうち、Cuは特に塗装焼付時の加熱によって時効硬化するに寄与する。Cu量が0.01%未満では強度向上の効果が得られず、一方Cu量が1.5%を越えれば伸び、成形性が低下するから、Cu量は0.01〜1.5%の範囲内とした。またZn量が0.01%未満でも強度向上の効果が得られず、一方Zn量が2.5%を越えれば伸び、耐食性が低下するから、Zn量は0.01〜2.5%の範囲内とした。
【0016】Mn,Cr,Zr:これらはいずれも遷移元素であって、再結晶粒の微細化に寄与するから、請求項2の発明のアルミニウム合金板の場合にいずれか1種または2種以上を添加する。いずれも0.01%未満では再結晶微細化の効果が得られず、一方Mnが0.7%を越えるかまたはCr,Zrがそれぞれ0.3%を越えれば、巨大金属間化合物が生成されて、成形性、特に穴拡げ性、張出性、曲げ性、とりわけ圧延方向に平行な曲げ性を劣化させるから、Mnは0.01〜0.7%、Crは0.01〜0.3%、Zrは0.01〜0.3%の範囲内とした。
【0017】以上の各合金元素のほかは、基本的にはAlおよび不可避的不純物とすれば良い。
【0018】なお一般のアルミニウム合金においては、不可避的不純物としてFeやSiが含有される。これらのうちFeはAl−Fe(−Si)系の金属間化合物を生成し、成形性、特に伸び、曲げ性、穴拡げ性劣化の原因となるから、Fe量は0.20%未満に規制することが望ましい。またSiもFeと共存してAl−Fe−Si系の金属間化合物を生成して、成形性、特に伸び、曲げ性、穴拡げ性を劣化させる原因となるから、Siは0.20%未満に規制することが望ましい。
【0019】また一般のアルミニウム合金においては鋳塊結晶粒微細化のために少量のTiを単独で、あるいは少量のTiを微量のBもしくはCと組合せて添加することが多いが、この発明の場合もこれらを添加することは許容される。但し、Tiが0.15%を越えれば初晶TiAl3 の粗大粒子が生じるおそれがあるから、Tiは0.15%以下とすることが望ましく、またBが500ppm を越えれば粗大TiB2 粒子による線状欠陥が生じるおそれがあるから、Bは500ppm 以下とすることが望ましく、さらにCが500ppm を越えれば粗大グラファイトが混入するおそれがあるから、Cは500ppm 以下とすることが望ましい。
【0020】そのほかMgを含有するアルミニウム合金の鋳造時には溶湯の酸化防止のために微量のBeを添加することが多いが、この発明の場合も500ppm 以下のBeの添加であれば特に他の性能を劣化させることはない。
【0021】さらに請求項1、請求項2の発明の成形加工用アルミニウム合金板においては、再結晶集合組織に関する条件として、X線回折による純アルミニウム粉末に対する(111)面回折強度比I111 と(200)面回折強度比I200 との比率I111 /I200 が0.25以上であること、また平均ランクフォード値が0.75以上であることを規定している。ここで、(111)面は既に述べたように深絞り性に有利な面である。一方(200)面は、X線回折試験の都合上、(100)面と等価な面として回折強度比を検出している面であるが、(100)面は既に述べたように成形性、特に深絞り性に不利な面である。したがって比率I111/I200 の値が高いほど、深絞り性に不利な(100)面が少なく、深絞り性に有利な(111)面が多い集合組織となっていることになる。そして上記の比率I111 /I200 が0.25未満では、従来の一般的なAl−Mg系合金板と同程度の深絞り性しか得られず、0.25以上となることによってはじめて深絞り性が従来よりも良好となる。このように集合組織を制御することは、後述するように熱間圧延後に適切な温間圧延を行なうことによって達成できる。また平均ランクフォード値も成形加工性、特に深絞り性の指標として有効であり、平均ランクフォード値が0.75以上であれば、従来の一般的なAl−Mg系合金板よりも成形性、特に深絞り性が良好と言うことができる。このような0.75以上の平均ランクフォード値も、後述するような請求項3に規定した製造プロセスを適用することによって達成できる。
【0022】次に以上のような成形性に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法、すなわち請求項3で規定する製造方法について説明する。
【0023】先ず前述のような成分組成を有する合金の溶湯を常法に従って溶製し、DC鋳造法(半連続鋳造法)などの通常の鋳造法により鋳造する。得られた鋳塊に対しては、均質化処理(均熱処理)を行なう。この均質化処理は、鋳塊の組織を均一化し、最終板の成形性を向上させるとともに、最終焼鈍時における再結晶粒の安定化を図るために必要である。均質化処理の条件は特に限定しないが、処理温度が450℃未満では充分な効果が得られず、一方570℃を越えれば共晶融解のおそれがあり、また処理時間が0.5時間未満では充分な効果が得られず、24時間を越えれば効果が飽和して経済性を損なうだけであり、したがって450〜570℃において0.5〜24時間の条件とすることが好ましい。
【0024】均質化処理後には熱間圧延を施す。この熱間圧延は常法に従って行なえば良く、均質化処理後に直ちに行なっても、あるいは均質化処理後に一旦冷却してから再加熱して行なっても良い。なおここで熱間圧延とは、再結晶温度以上の温度域での圧延、したがって再結晶を伴なう圧延を意味する。したがって通常は350℃を越える高温の温度域での圧延を意味する。
【0025】熱間圧延後には、所定の最終板厚とするためにさらに圧延を行なうが、この発明では特に350〜100℃の範囲内の温度での温間圧延を圧延率30%以上で行なうことが、前述のような再結晶集合組織を得るために重要である。すなわち、350〜100℃の温度域での再結晶を伴なわない圧延を30%以上行なっておくことによって、後の最終焼鈍により前記比率I111 /I200 が0.25以上の再結晶集合組織を有する深絞り性に優れた板を得ることができるのである。
【0026】ここで、温間圧延の温度が350℃を越える高温となれば、圧延中に再結晶が生じて最終焼鈍時における(111)面方位の成長が少なく、一方100℃未満では冷間加工歪が多くなって最終焼鈍時に(100)面方位が主体の再結晶が生じてしまい、さらに350〜100℃の範囲内の温度での圧延率が30%未満でも最終焼鈍時の(111)面方位の成長が少なく、したがっていずれの場合も比率I111 /I200 の値が0.25以上の深絞り性に優れた再結晶集合組織を得ることができない。なおこの温間圧延は、350〜100℃の範囲内でも、特に350〜200℃の範囲内の温度で行なうことが望ましく、350〜200℃の範囲内の温度では特に最終焼鈍時における(111)面方位の成長が著しくなる。
【0027】なお前述のような350〜100℃の範囲内の温度での温間圧延、すなわち再結晶を伴なわない圧延では、再結晶を伴なう熱間圧延の終了後(場合によっては後述するようにさらに冷間圧延を行なった後)、改めて再加熱して行なっても良く、あるいは同一の熱間圧延機において最後の再結晶終了後、350〜100℃の範囲内の温度となるように制御冷却を行なって引続き温間圧延として圧延を行なっても良い。
【0028】なおまた上述のような再結晶を伴なわない350〜100℃の温度域での30%以上の温間圧延は、要は再結晶を伴なう熱間圧延と、最終的な板厚となった圧延板に対する再結晶のための最終焼鈍との間に行なえば良く、希望する最終板厚によっては温間圧延と組合せて冷間圧延を施しても良い。すなわち、熱間圧延と最終焼鈍の間において温間圧延のみを行なっても、あるいは熱間圧延後に温間圧延を行なってから冷間圧延を行なってその後最終焼鈍を施しても、さらには熱間圧延後に一旦冷間圧延を行なってその後に温間圧延を施してから最終焼鈍を施しても良い。但し冷間圧延は、最終焼鈍において(100)面方位主体の再結晶を招きやすくなって深絞り性に悪影響を及ぼすおそれがあるから、冷間圧延を行なう場合でもその圧延率は可及的に小さくすることが望ましく、通常は50%以下の冷間圧延率とする。
【0029】なお前述のような再結晶を伴なう熱間圧延の後、最終焼鈍の前までの圧延工程中においては、一般に圧延性向上のため中間焼鈍を行なうことが多いが、この発明の場合にはその間に温間圧延を行なっているため、中間焼鈍を行なう必要性は少ない。但し、場合によっては中間焼鈍を行なっても良く、またこの中間焼鈍は、温間圧延の前、後(冷間圧延前)、中途のいずれでも良く、さらに冷間圧延の中途でも良い。必要に応じて行なう中間焼鈍の条件は特に限定しないが、バッチ式の中間焼鈍の場合は、250〜450℃で0.5〜24時間の加熱保持とし、連続焼鈍方式の中間焼鈍の場合には、350〜580℃で保持なしもしくは5分以下の保持とすることが好ましい。バッチ式の中間焼鈍の場合、焼鈍温度が250℃未満では充分な中間焼鈍の効果か得られず、450℃を越えれば再結晶粒が粗大化して成形性が低下し、さらに焼鈍時間が0.5時間未満では充分な効果が得られず、一方24時間を越えれば経済性を損なうおそれがある。一方連続焼鈍方式の中間焼鈍の場合、温度が350℃未満では充分な効果が得られず、580℃を越えれば再結晶粒が粗大化して成形性が低下し、さらに保持時間が5分を越えれば、再結晶粒が粗大化して成形性が低下するおそれがある。
【0030】以上のようにして熱間圧延後に温間圧延を行なって最終板厚とした圧延板、あるいは温間圧延と冷間圧延とを組合せて最終板厚とした圧延板(中間焼鈍を施した場合を含む)には、最終的に再結晶させて成形性を向上させるための最終焼鈍を施す。この最終焼鈍によって、既に述べたようにI111 /I200 の値が0.25以上の成形性、特に深絞り性に有利な再結晶集合組織を得ることができ、かつ平均ランクフォード値を0.75以上とすることができる。
【0031】最終焼鈍の条件は、バッチ式の焼鈍の場合には250〜450℃で0.5〜24時間の保持とすることが望ましく、連続焼鈍方式の場合には350〜580℃で保持なしもしくは5分以下の保持とすることが好ましい。バッチ方式の最終焼鈍の場合、温度が250℃未満では再結晶しないため、良好な成形性が得られず、450℃を越えれば再結晶粒が粗大化し、肌荒れが発生して外観不良を生じ、また成形性も低下し、さらに表面酸化層の厚さが増大し、化成処理性が低下する。なおここで再結晶粒の粗大化の目安としては、再結晶粒径が150μm以上となったときに粗大化と言うことができ、これは後述する連続焼鈍方式による最終焼鈍の場合も同じである。またバッチ方式の最終焼鈍における保持時間が0.5時間未満では充分に再結晶が進行せず、24時間を越えれば経済性を損なうばかりでなく、表面酸化層の厚さが増大して、化成処理性が低下する。一方連続焼鈍方式の最終焼鈍の場合、温度が350℃未満では充分に再結晶しないため、良好な成形性が得られず、580℃を越えれば再結晶粒が粗大化し、肌荒れが生じて外観不良となり、また成形性も低下し、さらには表面酸化層の厚みが増大して化成処理性も低下する。また連続焼鈍方式による中間焼鈍の保持時間が5分を越えれば表面酸化層の厚みが増大して化成処理性が低下する。
【0032】
【実施例】表1の合金符号A,B,Cに示す成分組成の各合金を常法に従って溶製し、通常のDC鋳造法によって厚み550mm、幅1500mm、長さ4000mmの鋳塊に鋳造した。なお各合金A,B,Cは全てこの発明で規定する成分組成範囲内の合金であり、またそのうち特に合金Aは、JIS5182相当の合金である。
【0033】得られた鋳塊を500℃×10時間均質化処理した後、常法に従って熱間圧延して、板厚4mmの熱延板とした。なお熱間圧延開始温度は約490℃、熱間圧延終了温度は約330℃である。熱間圧延後の板厚4mmの熱延板について、表2中の製造プロセス番号1〜8に示すような種々の条件で処理した。すなわち温間圧延または冷間圧延を施すか、あるいは温間圧延と冷間圧延の両者を施し、さらに一部については圧延工程中で中間焼鈍を施し、得られた最終板厚(1.0mm)の圧延板に対して最終焼鈍を施した。
【0034】なお表2において、製造プロセス番号1,2はいずれも熱間圧延と最終焼鈍の間にこの発明で規定する条件範囲内の温間圧延のみを行なった本発明例、製造プロセス番号3は、温間圧延の中途において中間焼鈍を行なった本発明例、製造プロセス番号4は板厚4mmの熱延板に対し先ず冷間圧延を施してから温間圧延を施し、かつ温間圧延の中途において中間焼鈍を行なった本発明例、製造プロセス番号5は冷間圧延のみを行なった比較例、製造プロセス番号6,7はこの発明で規定する温間圧延温度範囲を外れた温間圧延のみを行なった比較例、さらに製造プロセス番号8はこの発明で規定する温間圧延率条件を外れる圧延率で温間圧延を施した後に冷間圧延を行なった比較例である。また最終焼鈍は、製造プロセス番号1,3〜8はいずれもバッチ式の焼鈍を、また製造プロセス番号2は連続焼鈍に相当する焼鈍としてソルトバスを用いた焼鈍を適用した。
【0035】以上のようにして得られた最終焼鈍後の板について、圧延方向に引張試験を施して圧延方向の機械的性質を調べるとともに、成形性評価として、平均ランクフォード値、エリクセン値、およびLDR(限界絞り比)を調べ、さらにX線回折により純アルミニウム粉末に対する(111)面回折強度比I111 と(200)面回折強度比I200 との比率(逆極点積分強度比)I111 /I200 を調べた。これらの結果を表3に示す。
【0036】
【表1】


【0037】
【表2】


【0038】
【表3】


【0039】表3から明らかなように、この発明で規定する温度範囲、圧延率を満たす温間圧延を行なった本発明例では、いずれもI111 /I200 の値が0.25以上となって成形性特に深絞り性に有利な再結晶集合組織を有しており、また平均ランクフォード値も0.75以上となって、エリクセン値、LDRで評価される成形性、特に絞り性が優れていることが明らかである。これに対しこの発明で規定する温度範囲条件、圧延率条件を満たす温間圧延が行なわれなかった各比較例の場合は、いずれもI111 /I200 の値が0.25未満で、深絞り性に有利な再結晶集合組織が生成されておらず、しかも平均ランクフォード値も0.75未満であり、エリクセン値、LDRで評価される深絞り性も劣っていた。
【0040】
【発明の効果】以上の実施例からも明らかなように請求項1、請求項2の発明の成形加工用アルミニウム合金板は、Al−Mg系アルミニウム合金板として自動車ボデイ等に要求される高強度を有すると同時に、成形性、特に深絞り性が従来よも著しく優れている。また請求項3の発明の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法によれば、上述のように成形性、特に深絞り性の著しく優れたアルミニウム合金板を実際的かつ容易に得ることができる。
【0041】なおこの発明によるアルミニウム合金板は、自動車ボデイ等の各種陸運車両の部品に最適であるが、各種電気機器のシャーシやパネル、その他各種の成形加工用の用途に使用できることはもちろんである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 Mg2.0〜9.5%(wt%、以下同じ)を含有し、かつCu0.01〜1.5%、Zn0.05〜2.5%のうちの1種または2種を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなり、かつ平均ランクフォード値が0.75以上で、しかもX線回折による純アルミニウム粉末に対する(111)面回折強度比I111 と(200)面回折強度比I200 との比率I111 /I200 が0.25以上であることを特徴とする、成形性に優れた成形加工用アルミニウム合金板。
【請求項2】 Mg2.0〜9.5%を含有し、かつCu0.01〜1.5%、Zn0.05〜2.5%のうちの1種または2種を含有し、さらにMn0.01〜0.7%、Cr0.01〜0.3%、Zr0.01〜0.3%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなり、かつ平均ランクフォード値が0.75以上で、しかもX線回折による純アルミニウム粉末に対する(111)面回折強度比I111 と(200)面回折強度比I200 との比率I111 /I200 が0.25以上であることを特徴とする、成形性に優れた成形加工用アルミニウム合金板。
【請求項3】 Mg2.0〜9.5%を含有するとともに、Cu0.01〜1.5%、Zn0.05〜2.5%のうちの1種または2種を含有し、さらに必要に応じてMn0.01〜0.7%、Cr0.01〜0.3%、Zr0.01〜0.3%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなる合金を鋳造し、鋳塊に均質化処理を施してから熱間圧延を施した後、最終板厚まで圧延するにあたり、350〜100℃の範囲内の温度での少なくとも圧延率30%以上の温間圧延を含んで圧延し、さらに最終板厚の圧延板に対して最終焼鈍を行なって、平均ランクフォード値が0.75以上でかつX線回折による純アルミニウム粉末に対する(111)面回折強度比I111 と(200)面回折強度比I200 との比率I111 /I200 が0.25以上の板を得ることを特徴とする、成形性に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。