説明

成形木炭及びその着火方法

【課題】 着火性の悪い木炭に対しても、ライターの火で簡単に着火できるよう、着火層を設けた成形木炭を提供することを課題とする。
【解決手段】 粉粒炭から成形した木炭層11の中央部に、粉粒炭より粒径の小さい微粉炭からなる微粉炭層13を形成する。微粉炭層13上に、酸化鉄と灰を混合したものを付着させた着火層14を形成する。
ライター等で微粉炭層14を所定時間加熱するだけで、灰が酸化鉄を保温し、酸化鉄の受けた熱を微粉炭層13、木炭層14に効率的に伝熱し、着火性を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短時間にライター等の火炎のみで着火できる着火性に優れた成形木炭及びその着火方法に関する。
【背景技術】
【0002】
旅館や料亭等では鍋物や焼き物を提供する際、七輪にパラフィンを主原料とする固形燃料を設置し、これらで鍋等を加熱しながら提供していることが多い。固形燃料は着火性に優れるため、手軽に使用できる一方、独特の匂いが発生する難点がある。また、固形燃料は炎が大きく安全性に劣るほか、わずかな風でも炎がゆらぎ、鍋等に炎が効果的に当たらず、生煮えすることが多々ある。更に、固形燃料では情緒感を演出することができないばかりか、七輪に固形燃料の燃焼残物が付着するため、その除去が困難である。このため、固形燃料ではなく、古くから用いられている木炭を使って鍋物等を提供したいという要望がある。
【0003】
しかし、木炭は周知のとおり、着火には少なからず相応の技術を要するものである。このため、着火材を用いて着火性を向上させた木炭等の固体燃料として、以下の発明が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の発明は、木炭や天然木等の固体燃料に酸化触媒及び易燃焼材を添加した固体燃料及び固体燃料の着火性改善方法である。
【0005】
酸化触媒として鉄粉や酸化鉄粉を用い、易燃焼剤である桧粉を天然木等の固体燃料の上に振り掛け、あるいは液状のナフテン酸鉄を酸化触媒として用い、易燃焼材であるアルコールとともに固体燃料にスプレー添加している。粉末状あるいは液状の酸化触媒によって着火温度が低下することを利用し、固体燃料の着火性を向上させている。
【0006】
特許文献2に記載の発明は、線香束の着火部に、粘結剤を含む水溶液等で酸化鉄と可燃物を混連して配合した着火促進剤を付着させたものである。
【0007】
可燃物に杉葉粉やタブ皮粉やしきび等の生の葉を粉末状にしたものを用い、これらと酸化鉄をシンナーで練り合わせたスラリー状の着火促進剤を作成する。この着火促進剤を線香束の先端に塗布し、乾燥させている。
【特許文献1】特開平10−183147号公報
【特許文献2】特開平8−26959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、鉄粉や酸化鉄粉と桧粉を天然木や木炭に振り掛けているだけである。このため、鉄粉等と木炭等とは密着状態が悪く、また、鉄粉が受けた熱が外部に放熱されてしまい、確実な着火ができない問題がある。
【0009】
また、液状のナフテン酸鉄を用いるとコールタールに類似した異臭があるため、焼き物等を提供すれば、食材に匂いがついてしまう課題を有する。
【0010】
更に、着火温度を低下することが開示されているのみで、どれくらい炙れば着火できるかについては不明であり、特に、市販のライター等のみの火炎で着火できるか否か不明である。
【0011】
特許文献2に記載の着火促進剤を木炭に塗布しても、着火促進剤と木炭との類焼性が悪いため、木炭の燃焼が続かず、着火を促進できないという課題を有する。
【0012】
また、杉葉粉やタブ皮粉やしきび等の生の葉を用いており、これらが燃焼すると葉が燃える際の異臭が発生してしまい、焼き物等の食材を提供する用途には使用できないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、粉粒炭を成形した通風孔を有する木炭層と、前記木炭層に灰と酸化鉄を混合して付着させた着火層とを備え、前記着火層を加熱し熱せられた前記酸化鉄が前記灰により保温されて前記木炭層へ着火することを特徴とする。
【0014】
更に、本発明は、前記成形木炭層と前記着火層との間に前記粉粒炭より粒径が小さい微粉炭からなる微粉炭層を介在させたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記灰として広葉灰、又は、草花灰から1種以上を用いたことを特徴とする。
【0016】
更に、本発明は、前記広葉灰に含まれるカリウム成分の燃焼触媒作用を利用したことを特徴とする。
【0017】
更に、本発明は、前記灰と前記酸化鉄を1:1〜2:1の割合で混合したことを特徴とする。
【0018】
更に、本発明は、前記木炭層の表面を凹凸状にし、凹凸内に前記着火層を付着させたことを特徴とする。
【0019】
更に、本発明は、前記木炭層の表面に前記微粉炭層を積層したことを特徴とする。
【0020】
更に、本発明は、前記木炭層に凹部を設け、前記凹部に前記微粉炭層を埋設したことを特徴とする。
【0021】
更に、本発明は、粉粒炭を成形した通風孔を有する木炭層と前記木炭層に灰と酸化鉄を混合して付着させた着火層とを備える成形木炭を用意し、前記着火層を下向きにした前記成形木炭を七輪に設置し、前記成形木炭の下側から前記着火層をライターで加熱することを特徴とする。
【0022】
更に、本発明は、粉粒炭を成形した通風孔を有する木炭層と前記木炭層に灰と酸化鉄を混合して付着させた着火層とを備える成形木炭を用意し、前記着火層を上向きにした前記成形木炭を七輪に設置し、前記着火層をバーナーで加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に依れば、着火層を形成する灰が酸化鉄を保温するので、短時間に成形木炭に着火できる利点を有する。
【0024】
また、本発明に依れば、成形木炭に着火層を付着しているため、着火時に着火剤を用いる必要がなく、着火層を炙るだけで簡単に着火できる利点を有する。
【0025】
更に、本発明に依れば、ライターで炙るだけで着火できる利点を有し、現行のアルコール固形燃料に代わり成形木炭を七輪の熱源として使用することできる利点を有する。
【0026】
更に、本発明に依れば、粒径が小さく、又、柔らかい広葉灰等を用いており、灰の粒子同士、及び灰と微粉炭層との密着性が高まるため、酸化鉄を良好に保温し、短時間で成形木炭に着火できる利点を有する。
【0027】
更に、本発明に依れば、カリウム成分の多い広葉灰等を用いており、カリウム成分の燃焼触媒としての機能を生かしているため、短時間に成形木炭に着火できる利点を有する。
【0028】
更に、本発明に依れば、木炭層と着火層との間に微粉炭層を設ければ、更に短時間で着火できる利点を有する。
【0029】
更に、本発明に依れば、木炭層あるいは微粉炭層の表面を凹凸状にしており、ここに着火層が付着しており、着火層を下向きにしても着火層が落ちることがないので、着火層を下向きにして使用できる利点を有する。
【0030】
更に、本発明に依れば、成形木炭による加熱では、風による炎のゆらぎの影響がないため、鍋物や焼き物等を確実に加熱でき、生焼けや生煮えを防止できるという利点を有する。
【0031】
更に、本発明に依れば、着火層に灰を用いているため、着火しても匂いが生じることがなく、焼き物等をしても食材に匂いが付着することがない利点を有する。
【0032】
更に、本発明に依れば、全て天然素材からのもので構成しており、人畜に無害であるという利点を有する。
【0033】
更に、本発明に依れば、成形木炭の燃焼後は灰だけとなり、これらは七輪等にこびり付くことがないため、七輪等の掃除を簡単に行える利点を有する。
【0034】
更に、本発明に依れば、広葉灰や草花灰等、生産地にある天然物から灰を調達できる利点を有する。
【0035】
更に、本発明に依れば、七輪等に設置して使用できるので、木炭の柔らかな明かりを楽しみつつ、炭火加熱での食事を楽しめる利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図1を参照して、本発明の成形木炭について説明する。図1(A)は、成形木炭の外観を示す斜視図である。図1(B)は、(A)に示すa−a´断面図である。
【0037】
本発明による成形木炭1は、主に、粉粒炭を成形した木炭層11と、木炭層11の表面に積層した微粉炭層13と、微粉炭層13に灰と酸化鉄を混合して付着させた着火層14から構成される。
【0038】
木炭層11は、粉粒炭を所定の形状に成形したものであり、七輪の大きさや必要燃焼時間等、使用状態に合わせた大きさとすればよい。木炭層11には酸素を取り込み、燃焼性を向上させるため、通風孔12を設けている。通風孔12の数、大きさ、及び形状は木炭層11の大きさや、求める燃焼時間等により適宜設計すればよい。なお、通風孔12は、使用する際に上面となる側の径を大きくし、下面となる側の径を小さくすれば、木炭層11の燃焼に伴って暖かい空気が上昇し、下方から空気を取り込んで、燃焼を促進できる。
【0039】
木炭層11の成形は、粉粒炭にでんぷん質等からなる糊剤を混入し、固化させて形成すればよい。糊剤の配合が多すぎると燃焼性が落ちるので、粉粒炭同士の接合が外れない程度に調節して用いると良い。
【0040】
微粉炭層13は、木炭層11を形成する粉粒炭よりも小さな粒径の微粉炭を、木炭層11の中央部に積層している。微粉炭層13を構成する微粉炭の粒径は特に制限されない。微粉炭層13は粒径の小さな微粉炭を用いているので、火付きが良く、着火性に優れる。更に、着火性を上げるためには、より微小粒径の微粉炭から形成すればよい。
【0041】
微粉炭層13の成形は、微粉炭に前述のでんぷん質等からなる糊剤を混入し、これを木炭層11の所定箇所に積層させて固化させる。糊剤が多すぎると酸素の通り道を塞ぐこととなり、燃焼性の悪化を招く。このため、糊剤は微粉炭同士の接合、及び微粉炭層13と木炭層11との接合が外れない程度の配合量とする。
【0042】
なお、微粉炭層13は、木炭層11への着火の補助をする働きがあるので、省略しても本発明の目的を達成できる。
【0043】
木炭層11、微粉炭層13は、粉粒炭或いは微粉炭に発泡剤を混入させ、発泡させたものを用いることもできる。木炭層11、微粉炭層13に多くの空隙を生じさせることができ、燃焼に要する酸素の循環を高めることができる。
【0044】
着火層14は酸化鉄(FeO)と灰を所定の割合で混合したものである。着火層14の加熱によって灰と微粉炭層13との密着が増して酸化鉄の落下を防ぐとともに、酸化鉄を効果的に保温できる。
【0045】
酸化鉄は着火時に受けた熱を微粉炭層13に伝え、木炭層11の燃焼を促進していると考えられる。また、酸化鉄は強い還元剤であるため、着火時に酸化される過程で、結果的に木炭層11或いは微粉炭層13に酸素を供給している。すなわち、酸化鉄は空気中の酸素を取り込み酸化される過程で、近くの酸化鉄から酸素を奪い、連鎖的に酸素移動を生じさせる結果、木炭層11或いは微粉炭層13に酸素を供給して燃焼を向上させる作用を有している。
【0046】
灰は酸化鉄を保温し、酸化鉄の熱が外部へ放散されないようにしている。着火時の加熱によって灰がセメントのように結合し、酸化鉄が分離しないようにしているものと考えられる。そして、この灰による保温性により、加熱で酸化鉄の受けた熱が放散されにくくなり、微粉炭層13への着火を促進するものと考えられる。
【0047】
また、灰は加熱によって、あたかも多孔質体のように結合するので、酸素の供給路を塞ぐことがなく、酸素供給という酸化鉄の燃焼触媒作用を損なうことがない。このため、内部まで均一に酸素の導入を促進できるため着火性が高くなる。更に、灰が多孔質体のように結合し、結合による収縮で生じるひび割れを抑える。このため、ひび割れ部分から熱が外部に放散されることもなく、効果的に酸化鉄を保温し、酸化鉄が受けた熱を微粉炭層13に伝えることができる。
【0048】
なお、灰を用いず、酸化鉄だけを添加した場合、酸化鉄のみが短時間に酸化されてしまうので、火付きの悪い木炭まで燃焼せることは困難となる。灰を混合することで、灰で酸化鉄の酸化速度を適度に抑えつつ、木炭に効果的に熱や酸素を供給できるので、結果的に着火性を向上させることができる。
【0049】
そして、酸化鉄に灰を混合することで、酸化鉄の粒子の周囲に灰、灰の周囲に酸化鉄の粒子が適宜付着し合い、着火層14内の酸化鉄及び灰の分布状態が均一になる。酸化鉄の分布のバラツキがなく、着火層14では安定かつ均一な酸化反応が起こり、連鎖的に酸素移動を促進し、燃焼反応を微粉炭層13に及ぼすことができる。また、灰も均一的に分散しているので、酸化鉄を一様に保温できる。したがって、着火層14の熱分布は全体的に一定になり、一定に微粉炭層13に着火できるので、着火時間のバラツキが生じることがない。
【0050】
灰は種々のものを用いることが可能であるが、広葉灰、草花灰を好適に用いることができる。広葉灰として周辺に生息する広葉樹の葉の灰、例えば、ナラ、カバ、クワ、朴、ブナ、ケヤキ、トチノキ、スダジイ等を用いることが出来る。また、草花の灰として、周辺に生息している草花の灰を用いることができ、例えば、オシロイバナ、キンモクセイ、カタバミ、ノジギク、スミレ、セイタカアワダチソウ、ユキヤナギ、ヒルガオ等の灰を用いることができる。これらの灰は、混合して用いてもよい。
【0051】
また、広葉灰は針葉樹灰に比べ、カリウム成分を多く含んでいる。硝酸カリウムが火薬の材料として使用されているように、カリウム塩は燃焼促進の触媒作用を有することが知られている。このため、カリウム成分を多く含む広葉灰を使用すると好適である。
【0052】
生の葉を用いると、葉が燃える際に、燃焼による匂いが生じるため、好ましくない。また、生の葉の場合、着火層12を下向きにして七輪等に設置して着火すると、燃えた葉が下に落下してしまい、酸化鉄を保温することができず、成形木炭1の着火を促進できなくなる。
【0053】
灰と酸化鉄の混合割合は、灰の種類にもよるが、概ね1:1〜2:1程度が良好である。酸化鉄の割合が多いと、酸化鉄を覆う灰が少ないため、酸化鉄の保温性が悪くなり、着火性が悪化する。また、酸化鉄と微粉炭層13の密着が悪くなり、着火性が悪化してしまう。一方、酸化鉄の割合が少ないと、触媒作用が相対的に弱くなるので、着火性を促進できなくなる。
【0054】
灰はすり鉢等で細かくして用いる。これに酸化鉄を混合し、微粉炭層13に摺り込むことで、着火層14を形成できる。摺り込む量は、微粉炭層13が隠れる程度の量を用いればよい。微粉炭層13は微粉炭から構成しているため、表面が凹凸状をしており、灰と酸化鉄との混合物を摺り込むだけで、簡単に微粉炭層13を形成することができる。このように、着火層14は微粉炭層13の凹凸部に勘合しているため、微粉炭層14を下向きにしても微粉炭層14が落下することがない。
【0055】
なお、本実施形態では、木炭層11と着火層14の間に、微粉炭層13を設けているが、微粉炭層13を設けない場合も考えられる。この場合、木炭層11表面に灰と酸化鉄からなる着火層14を直接付着すればよい。木炭層11は粉粒炭から形成しており、表面が凹凸状となっているため、ここに灰と酸化鉄が付着し、着火層14が落下することもない。
【0056】
図2は、本発明の他の形態の成形木炭1を示している。図2(A)は成形木炭1の外観を示す斜視図、図2(B)は(A)に示す成形木炭1のa―a´断面図である。図2(B)に示す断面図である。
【0057】
本発明の他の形態の成形木炭1は、木炭層11の中央部に凹部を設けており、この凹部に微粉炭層13を埋設し、着火層14を付着させて構成している。微粉炭層13及び着火層14の出っ張りが無くなるため、成形木炭1を積層して保管することが容易である。また、着火層14を盛り上げて構成すると、通常の網に成形木炭1の着火層14を下向きに設置した場合、網と着火層14が干渉し、不安定になってしまう。しかし、本実施形態のように着火層14の盛り上がりがないため、通常の網でも安定した設置が可能となる。
【0058】
次に、本発明の成形木炭1の着火方法について説明する。図3は、着火層14を下向きに設置してライターで着火する方法を示す図である。図4は、着火層14を上向きに設置してバーナーで着火する方法を示す図である。
【0059】
図3に示すように、七輪31に網33を設置する。網33の上に、成形木炭1の着火層14を下向きにして設置する。本実施例では着火層14が凸状になっているため、着火層14が網33に干渉しないように、網33の中央部をくり貫いたものを用いている。
【0060】
ライター34の先端部を七輪31の種火挿入孔32に挿入し、ライター34の火を点けて着火層14を加熱する。30秒〜60秒加熱して、ライター34の火を消す。着火層14に含まれた酸化鉄が受けた熱が微粉炭層13に伝熱し、徐々に木炭層11全体に燃え広がっていく。
【0061】
着火層14には灰を用いているため、着火時にも異臭が出ることもない。このため、焼き物や鍋物等に対しても、食材に匂いが付着することもない。また、成形木炭1は、全て天然素材を用いているため、燃焼させても害はない。
【0062】
成形木炭1が完全に燃焼した後は、七輪31に残った残物をそのまま捨てることができる。従来のパラフィン系の固形燃料では、七輪31に燃えかすがこびりついてしまい、処理が面倒であったが、本発明の成形木炭11では着火層13を灰と酸化鉄で構成しているため、七輪31に燃えかすが付着することなく、簡単に七輪31の掃除ができる。
【0063】
次に、バーナーで着火する方法について説明する。図4に示すように、七輪31に網33を設置する。網33の上に、成形木炭1の着火層14を上向きにして設置する。
【0064】
バーナー35を点火し、着火層14を加熱する。30秒〜60秒加熱して、バーナー35の火を消す。着火層14に含まれた酸化鉄が受けた熱が微粉炭層13に伝熱し、徐々に木炭層11全体に燃え広がっていく。
【実施例】
【0065】
種々の灰を用いて成形した成形木炭の着火性の実験を行った。木炭層は、直径85mm×高さ20mmの円形状のものに、約10mmの孔を計19個の通風孔を設けたものを用いた。木炭層の中央部に、およそ直径50mm×高さ5mmの微粉炭層を形成し、この上に各種灰と酸化鉄を混合した着火層を付着したものを用いた。微粉炭層を形成する微粉炭は200メッシュ程度の粒径のものを用いた。各種灰はそれぞれすり鉢で細かくし、酸化鉄と混合させ、微粉炭層が隠れる程度の量をすり付け、着火層を形成した。
【0066】
この成形木炭の着火層を上向きにして七輪に設置し、バーナーで着火層を30秒加熱し、着火性の検討を行った。表1に各サンプルの着火性の結果を示す。非接触の赤外線温度計(最高測定温度200℃)を用いて着火層の温度を測定した。
【0067】
【表1】

サンプル1及び2では、広葉灰としてナラ、カバ、クワの葉の灰を混合したものであるが、灰と酸化鉄を1:1、及び2:1で配合したいずれもが、3分後には200℃を超え、13分程度の短時間で成形木炭全体に火が行き渡り、好適に使用できることを確認した。また、灰と酸化鉄の割合は、1:1〜2:1程度で使用すればよいこともわかる。草葉灰、朴葉灰を用いたサンプル3、4ではやや広葉灰よりも全体に火が行き渡った時間が遅かったものの、良好な着火性を示した。なお、草葉灰として、キンモクセイ、カタバミ、ノジギク等の灰を混合して用いたものである。
【0068】
一方、サンプル6、7は針葉樹の葉の灰である松葉灰、杉葉灰を用いたものである。他の灰ではいずれもが徐々に温度上昇している一方で、サンプル6、7では着火層を加熱しても、徐々に着火層の温度が低下していき、全体まで火が行き渡ることなく鎮火した。このことから、針葉樹の葉の灰は酸化鉄を保温できず、徐々に熱が外部へ放散されていったものと考えられる。
【0069】
また、生の草葉を使用したサンプル8、9では成形木炭全体に火が行き渡ったが、着火時に葉が燃える匂いが発生してしまい、調理等に使用するには不適であることを確認した。なお、草葉生と酸化鉄で構成したもの(サンプル8)よりも、草葉の灰を混合して構成したもの(サンプル9)の方が全体に火が行き渡る時間が早い。このことからも、生の葉を用いるよりも灰を用いることで着火性を促進できることが確認できる。
【0070】
図5、及び6に実施例に用いた灰の粒径を示す拡大写真を示す。図5(A)は広葉灰、(B)は草葉灰、(C)は朴葉灰、(D)はオシロイバナ灰の粒径を示している。一方、図6(A)は草葉生、(B)は松葉灰、(C)は杉葉灰の粒径である。
【0071】
図5(A)に示す広葉灰の粒径は概ね1〜3μmと非常に小さい。また、草葉灰、朴葉灰、オシロイバナの灰の粒径も3〜5μmと小さいことがわかる。
【0072】
一方、図6(B)、(C)に示す松葉灰、及び杉葉灰の粒径は概ね10μmと前述のものに比べ大きいことがわかる。また、これらの灰を触ってみると、松葉灰、及び杉葉は前述の広葉灰等に比べ、灰の粒子が硬いことを確認した。
【0073】
これらの結果から、粒径の小さい灰や柔らかい灰を使用すると、灰の粒子同士、及び灰と微粉炭層との密着性が高まるものと考えられる。そして、加熱することにより灰同士がセメントのように結合し、より一層密着性を高め、酸化鉄を良好に保温し、酸化鉄が受けた熱を微粉炭層に伝えることを促進しているものと考えられる。一方、針葉樹の葉の灰等、粒径の大きい灰、あるいは粒子の硬い灰を用いると、灰同士の密着性が悪く、酸化鉄を効果的に保温できなくなり、着火性が促進できなくなるものと考えられる。
【0074】
更に、広葉樹である朴の灰と、針葉樹である杉葉灰のカリウム含有量の分析結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

朴葉灰のカリウム含有量が110g/kg、杉葉灰では48g/kgであり、朴葉灰では杉葉灰の2倍以上のカリウムを含有していることがわかる。朴葉等の広葉灰では酸化剤として燃焼を促進させるカリウム含有量が多いことから、杉葉灰等の針葉灰と比較して着火性が高まったと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明による成形木炭の構造を示す斜視図及び断面図である。
【図2】本発明による成形木炭の他の実施形態の構造を示す斜視図及び断面図である。
【図3】本発明による成形木炭のライターによる着火方法を示す断面図である。
【図4】本発明による成形木炭のバーナーによる着火方法を示す断面図である。
【図5】実施例に用いた着火層を構成する灰の粒径を示す拡大写真である。
【図6】実施例に用いた着火層を構成する灰の粒径を示す拡大写真である。
【符号の説明】
【0077】
1 成形木炭
11 木炭層
12 通風孔
13 微粉炭層
14 着火層
31 七輪
32 種火挿入孔
33 網
34 ライター
35 バーナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉粒炭を成形した通風孔を有する木炭層と、
前記木炭層に灰と酸化鉄を混合して付着させた着火層とを備え、
前記着火層を加熱し熱せられた前記酸化鉄が前記灰により保温されて前記木炭層へ着火することを特徴とする成形木炭。
【請求項2】
前記成形木炭層と前記着火層との間に前記粉粒炭より粒径が小さい微粉炭からなる微粉炭層を介在させたことを特徴とする請求項1に記載の成形木炭。
【請求項3】
前記灰として広葉灰、又は、草花灰から1種以上を用いたことを特徴とする請求項2に記載の成形木炭。
【請求項4】
前記広葉灰に含まれるカリウム成分の燃焼触媒作用を利用したことを特徴とする請求項3に記載の成形木炭。
【請求項5】
前記灰と前記酸化鉄を1:1〜2:1の割合で混合したことを特徴とする請求項3に記載の成形木炭。
【請求項6】
前記木炭層の表面を凹凸状にし、凹凸内に前記着火層を付着させたことを特徴とする請求項1に記載の成形木炭。
【請求項7】
前記木炭層の表面に前記微粉炭層を積層したことを特徴とする請求項2に記載の成形木炭。
【請求項8】
前記木炭層に凹部を設け、前記凹部に前記微粉炭層を埋設したことを特徴とする請求項2に記載の成形木炭。
【請求項9】
粉粒炭を成形した通風孔を有する木炭層と前記木炭層に灰と酸化鉄を混合して付着させた着火層とを備える成形木炭を用意し、
前記着火層を下向きにした前記成形木炭を七輪に設置し、
前記成形木炭の下側から前記着火層をライターで加熱することを特徴とする成形木炭の着火方法。
【請求項10】
粉粒炭を成形した通風孔を有する木炭層と前記木炭層に灰と酸化鉄を混合して付着させた着火層とを備える成形木炭を用意し、
前記着火層を上向きにした前記成形木炭を七輪に設置し、
前記着火層をバーナーで加熱することを特徴とする成形木炭の着火方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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