説明

成形濾材およびフィルターユニット

【課題】
本発明の課題は、高風量エアー通過時でも、プリーツ形状の乱れを抑え、圧力損失を抑えた成形濾材を提供することである。
【解決手段】
プリーツ形状を有する濾材を有してなり、前記プリーツの稜線と略垂直な方向に、JAI−7−1991に基づく伸びが190%以下である樹脂を紐状に塗布してなることを特徴とする成形濾材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄に用いられるプリーツ加工された濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
空気清浄に使用されるフィルターにおいて、使用時の圧力損失を小さくし、高い捕集効率および長寿命を得るために、濾材は山谷折りにプリーツ加工されるものが主流となっている。
【0003】
プリーツ加工された濾材には、プリーツの間隔を保持し隣接するプリーツ同士の密着により濾材面積が減少することを防ぐために、セパレーターを設けたものがある。例えば、プリーツ間に櫛を挿入する方法(特許文献1)、プリーツ間に波型に加工された紙等を挟みこむ方法(特許文献2)、プリーツ加工された濾材のプリーツと略垂直な方向に、樹脂を紐状に所定の間隔で形成したもの(特許文献3)などがある。
【0004】
なかでも、樹脂を紐状に形成する方法が作業性が良く多く使用されている。しかしながら、高風量エアー通過時に、プリーツ加工された濾材の形状がエアーの圧力によって変形し、プリーツ形状の乱れが生じ、圧力損失が増加するといった問題が生じていた。
【特許文献1】特開2006−1946号公報
【特許文献2】特開2000−135410号公報
【特許文献3】特開平8−215527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、高風量エアー通過時でも、プリーツ形状の乱れを抑え、圧力損失を抑えた成形濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、プリーツ形状を有する濾材を有してなり、前記プリーツの稜線と略垂直な方向に、JAI−7−1991に基づく伸びが0〜190%である樹脂を紐状に塗布してなることを特徴とする成形濾材である。
【0007】
また本発明は、本発明の成形濾材を有してなることを特徴とするフィルターユニットである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高風量エアー通過時でも、プリーツ形状の乱れを抑え、ひいては圧力損失を抑えた成形濾材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における濾材としては、紙、合成繊維不織布、ガラス繊維不織布、プラスチック等を用いることができる。これらの中でも不織布からなる濾材が集塵性能を高める点で好ましい。
【0010】
また、これらを重ね合わせて用いてもよい。とくに、メルトブロー不織布や分割繊維を構成繊維として用いた不織布などの微細な繊維からなる不織布と、これより目が粗く、保形性を持つ、水流絡合不織布、繊維接着不織布、バインダー接着不織布などの不織布を積層したものが好ましい。
【0011】
また、集塵性能を高めるためには、濾材表面に10−10〜10−7C/cm程度の電荷を有するエレクトレット合成繊維不織布を用いることが好ましい。
【0012】
本発明における濾材は、プリーツ加工されてなる。そうすることで、一定開口面積内の濾材面積を大きくすることができ、高い捕集効率および長寿命が可能となる。濾材をプリーツ加工する手段としては、例えばレシプロ機による方法やロータリープリーツ機による方法を採用することができる。
【0013】
プリーツ加工された濾材は、樹脂を塗布することによりプリーツ形状が固定される。
プリーツ形状を固定するための樹脂としては、 熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂がある。
とくに熱可塑性樹脂が作業面、コスト面に優れる点で好ましい。
【0014】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系、エチレン−酢酸ビニル系、ポリウレタン系、ポリアミド系等を用いることができる。
【0015】
熱可塑性樹脂には、粘着付与樹脂、ワックス等を添加してもよい。ただし、エアフィルター用途に用いる樹脂としは、有機揮発成分を多く含むワックスは含有しないことが好ましい。
【0016】
熱可塑性樹脂の軟化点としては、日本接着材工業規格JAI−7−1991に基づく測定において80℃以上であることが好ましい。熱可塑性樹脂の軟化点を80℃以上とすることで、成形濾材の耐熱性を保持することができる。また、熱可塑性樹脂の軟化点の上限値としては、濾材の融点よりも20℃以上低いことが好ましく、濾材が不織布である場合は、不織布を構成する繊維の中で最も高い融点を有するものの融点よりも20℃以上低いことが好ましい。熱可塑性樹脂は安定した塗布を行う上でその軟化点よりも20℃以上高い温度で加熱溶融しノズル等により濾材に塗布することが好ましく、その際に熱可塑性樹脂の熱による濾材の溶融を防止するためである。
【0017】
熱可塑性樹脂の粘度としては、塗布温度において、日本接着材工業規格JAI−7−1991に基づく値が1000〜20000mPa・sであることが好ましい。20000mPa・s以下とすることで、塗布する濾材に樹脂を適度に染み込ませることができる。また、1000 mPa・s以上とすることで、塗布した不織布から流れ落ちにくくなり、作業性の点からも好ましい。ここに塗布温度とは、濾材に熱可塑性樹脂を塗布する際の熱可塑性樹脂の温度である。
【0018】
本発明の成形濾材は、プリーツの稜線と略垂直な方向に紐状に塗布する樹脂の、日本接着材工業規格JAI−7−1991に基づく伸びが0〜190%であることが重要である。伸びを190%以下とすることにより、プリーツの稜線と略垂直な方向に紐状に塗布した樹脂がプリーツ形状を強固に保持し、高風量エアー通過時でも、プリーツ形状の乱れを抑え、圧力損失を抑えることができる。また、プリーツ加工された濾材を延ばした状態で樹脂を紐状に塗布し樹脂を冷却固化した状態で濾材を再び折り畳みプリーツ形状とする場合には、樹脂の伸びを160%以上とすることが好ましい。そうすることで、プリーツの山となる部分においては樹脂が十分に伸び濾材に皺が発生するのを防ぐことができ、谷となる部分においては樹脂が十分に収縮してプリーツの頂点が膨らむのを防ぐことができる。
【0019】
樹脂の伸びは、材料の選択、その配合比の調整および溶融混合手順の選択等により制御することができる。例えば、粘着付与樹脂の含有量を上げたり、あるいはガラス転移温度の高い粘着付与樹脂を用いると、伸びを小さくすることができる。
【0020】
本発明の成形濾材において、樹脂は、プリーツの稜線と略垂直な方向に塗布する。そうすることで、濾材の有効面積が樹脂の塗布により減少するのを極力抑えつつ、プリーツ形状を保持することができる。
【0021】
紐状の樹脂は、エアーの流入側および流出側の両方に塗布してもよいし、どちらか一方のみに塗布してもよい。両側に塗布した場合は、成形濾材の強度が増す。またどちらか一方のみに塗布する場合は、流出側に塗布するのがエアーの圧力による濾材の変形を効率的に抑える上で好ましい。
【0022】
紐状の樹脂は、濾材に複数本設けることがプリーツ形状を保持する上で好ましく、紐状の樹脂同士の間隔としては、例えば2.5cmや5cmとすることができる。
【0023】
樹脂を紐状に塗布する方法としては、ビード加工(図1)、リボン加工(図2)、垂れ流し加工(図3)等を挙げることができる。ビード加工は、プリーツ加工された濾材を一旦延ばした状態でプリーツの稜線と略垂直な方向に樹脂を紐状に塗布し、再度、濾材を所定のプリーツ間隔のプリーツ状に保持する方法である。リボン加工は、プリーツ加工された濾材のプリーツ間隔を保持した状態で、半溶融状態の樹脂をプリーツの頂点間を橋渡しするように樹脂を塗布する方法である。垂れ流し加工は、プリーツ加工された濾材のプリーツ間隔を保持した状態で、溶融状態の樹脂をプリーツの山の斜面に垂れ流すように塗布する方法である。
【0024】
プリーツ間隔が広い濾材、たとえば、山高さ30mmに対してプリーツ間隔(山と山との間隔)が4mm以上の程度のものに対しては、ビード加工および垂れ流し加工がより好ましい。紐状に塗布する樹脂として濾材と接触する長さを長くとることができることで、プリーツ形状の乱れをより有効に抑えることができるからである。
【0025】
ビード加工において、紐状の樹脂としては、連続状でもよいし、断続状でもよいが、プリーツの谷となる部分に欠損を設ける断続状が好ましい。そうすることで、プリーツの谷部において過剰となった樹脂がプリーツを押しつぶしたり紐状の幅方向に広がって濾材の濾過効率を低減させてしまうのを防ぐことができる。
【0026】
ビード加工においては、樹脂が完全に硬化する前にプリーツ間隔を所定の間隔に保持することが好ましい。そうすることで、硬化後の樹脂に余計な応力を負担させることなく、所定のプリーツ間隔を保持させることができる。また、前述のようにプリーツの谷部に欠損を設ける断続状に樹脂を塗布した場合にも、当該谷部を挟んで隣り合う断続片同士が融合・接着し、谷部近傍においても所定のプリーツ間隔を効率良く強固に保持させることができる。
【0027】
本発明の成形濾材は、例えば枠体により端面を固定し、フィルターユニットとすることができる。フィルターユニットとすることで、空気清浄機等への交換作業性にも優れる。
【0028】
枠体としては、金属、合板、段ボール、樹脂および織編物、不織布等の繊維構造体等を用いることができる。中でも、濾材と一緒に焼却処分することが可能な点で、紙または不織布を用いることが好ましい。
【0029】
枠体により成形濾材の端面を固定する方法としては例えば、成形濾材と枠体の両部材を接着性樹脂によって接着する方法がある。
接着性樹脂としては、エポキシ樹脂やウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、ホットメルト剤などの熱可塑性樹脂、あるいは光硬化性樹脂などがある。なかでもホットメルト剤などの熱可塑性樹脂が、作業面とコスト面に優れる点で好ましい。
【実施例】
【0030】
[測定方法]
(1)樹脂の軟化点
JAI−7−1991に準じて測定した。
測定は、新しい試料を用いて3回行い、測定値の平均値をとり、0.5℃に丸めた。
【0031】
(2)樹脂の溶融粘度
JAI−7−1991 A法に準じて測定した。測定装置として単一円筒回転粘度計を用いた。測定は、新しい試料を用いて2回行い、次の式によって粘度を算出し、有効数字2桁に丸めた。
【0032】
(3)樹脂の伸び率
JAI−7−1991に準じて測定した。23℃雰囲気下、熱プレスを用いてフィルムを作製し、24時間以上放置した。JIS K 6301に規定するダンベル2号形を用いて打ち抜き、中央部分に20mmの標線をつけた。測定装置としてオートグラフ試験機を用いた。
【0033】
(4)濾材の圧力損失およびダスト透過率
JIS B 9908(2001)形式3試験法に準じた評価機器にフィルターをセットし、濾材貫通風速4.5m/minで空気を流し、濾材の圧力損失(ΔP)を求めた。
次いで、ΔPに150Pa加えた最終圧力損失ΔPeの達する時点まで、JIS Z8901(1974)に記載のダスト15種を供給し、濾材に捕集されたダスト量(W)と評価ユニットに捕集されずに下流側の絶対フィルターに捕集されたダスト量(W)から、下記式で濾材ダスト透過率P(JIS15種ダスト透過率P1)を求めた。
=[1−(W/(W+W))]/100
=評価試料が捕集したJIS15種粒子の質量
=評価試料と絶対フィルターが捕集したJIS15種ダスト粒子の質量合計。
【0034】
(5)フィルターの圧力損失
JIS B 9908(2001)形式3試験法に準じた評価機器にフィルターをセットし、濾材貫通風速25.0m/minで空気を流し、フィルターの圧力損失(ΔP)を求めた。
【0035】
(6)構造圧力損失比率
濾材の圧力損失ΔP1より、濾材貫通風速25.0m/minでの濾材の圧力損失ΔP’を次式より算出した。
ΔP’= ΔP×(25.0/4.5)
構造圧力損失比率Aを次式により算出した。
A=(ΔP―ΔP’)/ΔP
【0036】
[実施例1]
(濾材)
エレクトレット不織布(目付12.0g/m、平均繊維径6.0μm、圧力損失1.8Pa、厚み0.12mmのポリプロピレンメルトブロー不織布にエレクトレット処理をしたもの)と、不織布(目付73.5g/m、平均繊維径24.9μm、圧力損失4.4Pa、厚み0.50mmの乾式ケミカルボンド不織布)と、支持体として短繊維不織布(平均繊維径30.0μm、目付70.0g/m)とをエレクトレット不織布/乾式ケミカルボンド不織布/短繊維不織布の層構成で貼り合わせた濾材(圧力損失6.3Pa、JIS15種ダスト透過率0.09%、厚み0.63mm)を用いた。
【0037】
(樹脂)
非晶質オレフィン共重合体50質量%、結晶性ポリブチレン10質量%、粘着付与樹脂40質量%からなり、軟化点141℃、160℃における溶融粘度6500mPa、伸び170%の熱可塑性樹脂を用いた。
【0038】
(プリーツ加工・樹脂塗布)
上記濾材を幅200mmに裁断し、ロータリープリーツ機にて隣り合う山と谷との距離8mmにプリーツ加工した。
次いで、プリーツ加工した濾材を延ばした状態で、上記樹脂を160℃でノズル(直径0.5mm)にて、プリーツの稜線と垂直な方向に紐状に3本塗布した。紐状の樹脂同士の間隔は5.1cmとした。
紐状の樹脂は、プリーツの谷となる部分に欠損を設ける断続状とし、エアーの流入側と流出側との両方に、濾材をはさむように塗布した。
次いで、樹脂が完全に硬化する前の流動性を残している状態で、山間隔3.6mm、山数57個のプリーツに固定し、室温で放置して樹脂を硬化させ、成形濾材を得た。
【0039】
(フィルターユニット)
上記成形濾材の端面と不織布からなる枠体とを熱可塑性樹脂系の接着剤によって接着し、フィルターユニットを得た。
【0040】
(評価)
得られたフィルターの構造圧力損比率は53.0%であった(ΔP=75.0a、ΔP’=35.0Pa)。
【0041】
[実施例2]
(濾材)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0042】
(樹脂)
非晶質オレフィン共重合体42質量%、結晶性ポリブチレン8質量%、粘着付与樹脂50質量%からなり、軟化点140℃、160℃における溶融粘度3000mPa、伸び46%の熱可塑性樹脂を用いた。
【0043】
(プリーツ加工・樹脂塗布)
上記樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして、成形濾材を得た。
【0044】
(フィルターユニット)
上記成形濾材を用い、実施例1と同様にしてフィルターユニットを得た。
【0045】
(評価)
得られたフィルターの構造圧力損比率は52.6%であった(ΔP=73.8Pa、ΔP’=35.0Pa)。
【0046】
[比較例1]
(濾材)
実施例1で用いたのと同様のものを用いた。
【0047】
(樹脂)
非晶質1−ブテン共重合体60質量%、結晶性ポリブチレン15質量%、粘着付与樹脂25質量%からなり、軟化点138℃、160℃における溶融粘度7100mPa、伸び230%の熱可塑性樹脂を用いた。
【0048】
(プリーツ加工・樹脂塗布)
上記樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして、成形濾材を得た。
【0049】
(フィルターユニット)
上記成形濾材を用い、実施例1と同様にしてフィルターユニットを得た。
【0050】
(評価)
得られたフィルターの構造圧力損比率は61.0%であった(ΔP=90.0Pa、ΔP’=35.0Pa)。
フィルターはプリーツの折り曲げ部分が丸く拡大し、流路が狭くなったため、構造圧力損失比率が増大した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明による成形濾材は、ビル空調用、クリーンルーム用、家庭空気清浄機用、車載用、機器用などのフィルターに好ましく使用される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ビード加工された成形濾材を示す概略図である。
【図2】リボン加工された成形濾材を示す概略図である。
【図3】垂れ流し加工された成形濾材を示す概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1 濾材
2 樹脂
3 山部分
4 谷部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリーツ形状を有する濾材を有してなり、前記プリーツの稜線と略垂直な方向に、JAI−7−1991に基づく伸びが0〜190%である樹脂を紐状に塗布してなることを特徴とする成形濾材。
【請求項2】
請求項1記載の成形濾材を有してなることを特徴とするフィルターユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−208014(P2009−208014A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54476(P2008−54476)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】