説明

成長促進剤

【課題】ウシ胎児血清を添加する組成物の良好な代替品を提供すること。
【解決手段】動物細胞の成長を促進させて、表面の傷を治療、または胃腸の損傷、疾患若しくは潰瘍を治療するための薬学または獣医学組成物であって、成長促進活性に富み、かつラットの筋芽細胞の増殖を刺激する濃縮された形態で陽イオン交換樹脂を用いてウシチーズホエーから抽出される複数の細胞成長促進因子であって、その等電点が塩基性乃至ほぼ中性である因子を含む乳生成物エキス組成物の有効量と、薬学または獣医学上許容可能なその希釈剤、キャリヤーまたは賦形剤とを含んで成る、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養組成物中の動物細胞の成長に関する。更に具体的には、本発明はチーズホエーエキス(抽出物)組成物を含有する細胞培養組成物を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
動物細胞は培養中に成長して、ヒトワクチン、リンフォカイン、ホルモン、単クローン性抗体、他の薬学上活性を有するタンパク生成物、獣医ホルモン、および研究、開発および診断用のような多数の薬学、診断用および獣医用生成物を提供する。
【0003】
動物細胞の成長には、塩、栄養物、脂質前駆体、核酸前駆体、ビタミンおよびアミノ酸であって、イン・ビボでこれらの細胞を普通に漬ける媒質を模倣して配合したものを含む画定された等張媒質が必要である。普通に用いられるものの例には、イーグル最少必須培地、ダルベッコ改質イーグル最少必須培地(DMEM)、培地199、RPMI1640培地、ハムF12培地が挙げられる。しかしながら、このような培地では動物細胞はほとんど成長せず、血清の補助添加剤が必要である。ウシ胎児血清は、出生後の動物から得られる血清よりも効果が高く且つ濃度が高くなると望ましくない影響を及ぼすことがある免疫グロブリンを最少限の濃度しか含まないので、頻繁に用いられる。
【0004】
ウシ胎児血清の供給は、屠殺される妊娠雌ウシの数によって限定されている。これには、望ましくないロット間変動もあり、毒素を含むことがある。特に関心があることは、それを用いて組換えタンパク質および他のヒト用の製剤を最終的に生産することであり、血清はヒトに有害であり且つ所望な生成物を生成する精製プロトコールによって運搬されることがあるウイルスを含むこともあるからである。主としてこれらの理由により、血清を純粋な成分に置換することに多くの努力が傾注されてきた。このような成分の例は、成長因子、ホルモンおよび細胞付着因子である。不運なことには、成長させるそれぞれの細胞型の要件は異なっており、確立することが困難である。ウシ胎児血清を含む媒質を用いて得ることができるのと同等な成長特性または同等な細胞生成物の収量を「無血清」媒質を用いて得ることが可能であることが明らかにされていないこともしばしばであった。
【0005】
ウシ胎児血清の有用性が限定されていること、そのロット間に変動があり、したがってかなりの費用が掛かること並びに前記の「無血清」媒質の欠陥があることにより、細胞培地における可能性の高い代替品として他の生物学的流体の検討が盛んに行われた。幾らかの進展は、M. Klagsbrun:「ヒト乳は培養された線維芽細胞におけるDNA合成および細胞増殖を促進する」(Proc. Natl. Acad. Sci., USA,75, 5057, 1978);M. KlagsbrunおよびJ. Neumann:「牛初乳を補給した培地におけるBalb/ c3T3細胞の無血清成長」(J. Supramol. Struct., 11, 349, 1979)のような選択された報告によって明らかにされているように牛乳および牛初乳を用いる先行技術に報告されている。
【0006】
先行技術には、「一つの態様で、乳または初乳およびフィブロネクチンを含む細胞培地を特徴とする細胞成長を促進する組成物および方法:フィブロネクチンは好ましくは培養基質にプレコートされる」ことを記載しているM. Klagsbrunに対する米国特許第4,440,860号明細書、およびMorinagaに対する日本国特許JP59166879号明細書に記載の「乳または乳成分を含む細胞インキュベーション用の培地」も挙げられる。G.Lindenらに対する欧州特許第86401911.2号明細書「乳の画分、これらの画分を得る方法およびこれらの画分を得る細胞の培地」およびO. Damerdji ら「培地におけるウシ胎児血清の代替品としてのホエー画分の利用」(Biotech. Tech., 2, 235, 1988)に記載されているように、乳清の限外濾過物も培養細胞の成長を支持するのに用いられてきた。
【0007】
このような進展にも拘らず、ウシ胎児血清に対する良好な代替品は未だ捜し当てられていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、これらの先行技術に関する困難または欠陥の一つ以上を克服しまたは少なくとも解消することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の第一の態様では、乳生成物から抽出された複数の細胞成長刺激因子を含む濃縮された形態での乳生成物エキス組成物であって、前記の因子が塩基性乃至ほぼ中性の等電点を有するものが提供される。
【0010】
「乳生成物」という用語は、ヒトまたは動物の乳生成物からのエキスであって、その塩および/または主要なタンパク質成分を減少または除去したものを意味する。乳エキスの例には、チーズホエーエキス、脱脂乳エキスおよび酸(カゼイン)ホエーが挙げられる。
【0011】
本発明を、好ましいチーズホエーエキスに関して更に詳細に記載する。しかしながら、これは単に例示のためのものであり、本発明の普遍性に対する制限と考えるべきではない。
【0012】
好ましくは、乳生成物エキス組成物は、チーズホエーエキス組成物である。
【0013】
このチーズホエーエキス組成物は、チーズホエーであって、その塩および/または主要なタンパク質成分を減少または除去したものから生成させることができる。乳生成物エキス組成物は、この組成物の総重量に対して約1%(重量/重量)未満の塩を含むことができる。この乳生成物エキスは、組成物の総重量に対して、約0.5%(重量/重量)のカゼイン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、免疫グロブリンまたはアルブミンを含むことができる。
【0014】
本発明のこの態様による乳生成物エキス組成物は、下記のようにイン・ビトロで細胞成長および増殖の促進に用いることができる。この乳生成物エキス組成物は、下記のように哺乳類においてイン・ビボで、表面の傷の修復を促進するのに用いることができる。
【0015】
意外なことには、乳生成物エキス組成物は、ウシ胎児血清で達成されるよりも低いタンパク質濃度で動物細胞の成長を支持し、しかも幾つかの細胞型についてはウシ胎児血清に匹敵する効果を有することができる。
【0016】
また、チーズホエーエキスは、低濃度のウシ胎児血清を含む媒質に対する補充物として用い、培養細胞の成長速度を一層良好にし、且つウシ胎児血清の使用を少なくすることができる。
【0017】
チーズホエーは、チーズの製造の際に本質的に総ての脂肪およびカゼインを除去してしまったチーズ工業の副生成物である。当該技術の現状では、チーズホエーは本質的に無価値であり、これが汚染物質となる可能性があるので実際に工業的に経費が嵩むことになることがある。
【0018】
例えばチーズホエーは、チーズ製造からトンの量で得られる低タンパク質高塩生成物である。チーズホエーに含まれる主要なタンパク質成分はα−ラクトアルブミン(αLA)およびβ−ラクトグロブリン(βLG)であり、これらは通常は含まれるタンパク質の90%を上回っている。かなりの量の血清アルブミン、免疫グロブリンおよび残渣カゼインも含まれることがある。これらのタンパク質はいずれも、酸性の等電点を有する。対照的に、動物細胞の成長を刺激する主要なタンパク質因子は塩基性の等電点を有する。この例には、成長因子である塩基性FGF、IGF−I、デス(1−3)IGF−IおよびPDGFがある。別の状況では豊富に存在する酸性タンパク質が実質的に存在しないチーズホエーのような乳生成物に含まれる塩基性因子の抽出により、乳生成物エキス組成物の意外な効力を説明することができると仮定される。
【0019】
したがって、本発明のもう一つの態様では、濃縮された形態で乳生成物から抽出された複数の細胞成長刺激因子を含む乳生成物エキス組成物であって、前記の因子が塩基性乃至ほぼ中性の等電点を有するものを調製する方法であって、
乳生成物の源、
陽イオン交換樹脂、および
緩衝溶液
を準備し、
乳生成物を陽イオン交換樹脂と接触させて、乳生成物の塩基性の高い成分が樹脂上に吸収されるようにし、
陽イオン交換樹脂を緩衝溶液で溶出し、
溶出液を濾過して、そこから塩を除去する
ことを含む方法が提供される。
【0020】
イオン交換樹脂から塩基性タンパク質を脱着することにより、細胞成長刺激因子に富む調製物が得られる。溶出液は、任意の好適な手法を用いて濃縮し、濾過することができる。溶出液は、例えば通常の限外濾過法または他の手順によって濃縮して、DMEMのような無タンパク質媒質に加えるとき動物細胞の成長を支持するタンパク質の混合物を生成させることができる。
【0021】
乳生成物の源は、不溶性物質を実質的に含まない乳生成物濾液であってもよい。したがって、この調製法は、乳生成物を濾過して、不溶性物質を除去する予備段階を含むことができる。
【0022】
乳生成物は、好適な篩を通して濾過することができる。乳生成物は、画定された細孔度を有する中空のファイバーカートリッジを通して濾過することができる。陽イオン交換樹脂は任意の好適なタイプのものでよい。セファロースを基材とする陽イオン交換ゲルを用いることができる。接触段階は、中性乃至塩基性pHで行うことができる。接触段階は、約6.5〜8.0のpHで行うことができる。
【0023】
カチオン交換樹脂は、約6.5〜8.0のpHの好適な緩衝液で平衡にすることができる。水性クエン酸ナトリウム緩衝液を用いることができる。溶出段階は、好適な溶離液を用いて行うことができる。塩溶液を用いることができる。緩衝した食塩溶液を用いることができる。
【0024】
したがって、本発明のこの態様の好ましい形態では、乳生成物エキス組成物の調製法は、順次
乳生成物に濾過段階を施して、そこから不溶性物質を除去し、
濾液のpHを調整して、約6.5〜8.0とし、濾液を陽イオン交換樹脂と接触させ、
陽イオン交換樹脂から高イオン強度で高pHの好適な緩衝溶液で溶出し、
溶出液に濃縮段階および透析濾過(diafiltration) 段階を施して、溶出液から塩を除去する
ことによる乳生成物の処理を含むことができる。
【0025】
或いは、陽イオン交換樹脂からの溶出は、高イオン強度で、pHを調整することなしに、細胞成長刺激因子が回収されるように行われる。
【0026】
この態様では、細胞成長刺激因子はより少ない不要タンパク質と共に溶出される。
【0027】
チーズホエーから好適なエキスを単離するもう一つの態様では、溶出液を高温で処理し、遠心分離することができる。この改質により余分なタンパク質は除去される。したがって、本発明の方法は、溶出液に熱処理を施して、不要タンパク質の含量を少なくする段階も含むことができる。
【0028】
乳生成物エキス組成物は、殺菌を行い、所望により凍結乾燥して保存することができる。凍結乾燥した物質を殺菌した食塩水に溶解して、培養している細胞に添加することができる。
【0029】
本発明のもう一つの態様では、
濃縮された形態で乳生成物から抽出される複数の細胞成長刺激因子であって、前記の因子が塩基性乃至ほぼ中性の等電点を有するものと、
培地とを
含む乳生成物エキス組成物の有効量を含む細胞培養組成物が提供される。
【0030】
培地は、実質的に無タンパク質の等張培地でよい。実質的に無タンパク質の等張培地は、ダルベッコ改質イーグル最少必須培地(DMEM)でよい。
【0031】
5%ウシ胎児血清を用いて得られるのとほぼ同等なヒト皮膚線維芽細胞の成長速度は、媒質100μlに対して本発明の好ましい態様によるチーズホエーから抽出した細胞成長刺激因子約20μgを用いて達成されることを見出した。
【0032】
また、少量であるが有効量のウシ胎児血清を培地として用いることもできる。約2%のウシ胎児血清を含む媒質100μlに対して細胞成長刺激因子約25μgを添加すると、BalbC/3T3細胞の成長速度がこれを行わない場合には10%ウシ胎児血清を用いて達成される速度まで増加することを見出した。
【0033】
細胞の型によっては、成長因子、付着因子または少量の血清のような他の添加物を媒質に加えることもできる。
【0034】
好ましい形態では、本発明は前記のような細胞培養組成物であって、乳生成物エキスが媒質中に約10〜20,000μg/ml、好ましくは100〜2,000μg/mlのタンパク質濃度で含まれるものを提供する。
【0035】
したがって、本発明の更にもう一つの態様では、細胞の培養法であって、
動物細胞の源と、
濃縮された形態で乳生成物から抽出される複数の細胞成長刺激因子であって、この因子の等電点が塩基性乃至ほぼ中性であるものと、実質的にタンパク質を含まない等張培地とを含む乳生成物エキス組成物の有効量を含んで成る細胞培養組成物とを準備し、
これらの細胞を細胞培養組成物中で十分な時間、所定の細胞濃度を得るのに十分な温度で培養することを含む方法が提供される。
【0036】
この細胞培養法は、周囲温度以上で行うことができる。約35〜40℃の範囲の温度を用いることができる。細胞培養法は、インキュベーター、例えば加湿インキュベーターで行うことができる。
【0037】
細胞培養法は、任意の好適な表面上または懸濁状態で行うことができる。組織培養プレートを用いることができる。
【0038】
この細胞培養法は、所望な細胞濃度によって約1〜5日間継続することができる。
【0039】
この方法は、特にイン・ビトロの動物細胞の成長に適用されるが、表面に傷を有するヒトのような動物に適用することもできる。
【0040】
したがって、もう一つの態様では、本発明は、表面の傷を治療するための薬学または獣医学組成物であって、
濃縮された形態で乳生成物から抽出される複数の細胞成長促進因子であって、この因子の等電点が塩基性乃至ほぼ中性であるものを含む乳生成物エキス組成物の有効量と、
薬学または獣医学上許容可能なその希釈剤、キャリヤーまたは賦形剤とを
含んで成る組成物を提供する。
【0041】
薬学または獣医学組成物は、少なくとも1種類の活性成分の有効量を含むこともできる。
【0042】
少なくとも1種類の活性成分は、抗生物質、殺菌剤、他の成長促進剤、麻酔薬等、およびそれらの混合物から選択することができる。
【0043】
薬学または獣医学組成物は、任意の好適な方法で服用に適合させることができる。この組成物は、内服用または局所投与に適合させることができる。この組成物は、経口、注射または局所用形態にすることができる。この組成物は、洗浄液、ローション、クリーム、軟膏またはゲルの形態を採ることができる。
【0044】
治療を行うことができる表面の傷のタイプには制限がなく、火傷、潰瘍、裂傷および貫入傷が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
したがって、本発明のもう一つの態様では、ヒトを含む動物の表面の傷の治療法であって、治療を受ける患者に薬学または獣医学組成物であって、
濃縮された形態で乳生成物から抽出される複数の細胞成長促進因子であって、この因子の等電点が塩基性乃至ほぼ中性であるものを含む乳生成物エキス組成物の有効量と、
薬学または獣医学上許容可能なその希釈剤、キャリヤーまたは賦形剤とを
含んで成る組成物の有効量を投与することを含む方法が提供される。
【0046】
この方法は、胃腸に損傷、疾患または潰瘍を有するヒトを含む動物に適用することもできる。
【0047】
したがって、もう一つの態様では、本発明は、胃腸の損傷、疾患または潰瘍の治療用の薬学または獣医学組成物であって、
【0048】
濃縮された形態で乳生成物から抽出される複数の細胞成長促進因子であって、この因子の等電点が塩基性乃至ほぼ中性であるものを含む乳生成物エキス組成物の有効量と、
薬学または獣医学上許容可能なその希釈剤、キャリヤーまたは賦形剤とを
含んで成る組成物を提供する。
【0049】
治療を受けることができる胃腸の損傷、疾患または潰瘍の種類には制限はない。
【0050】
したがって、本発明の更にもう一つの態様では、胃腸の損傷、疾患または潰瘍の治療法であって、治療を受ける患者に、薬学または獣医学組成物であって、
濃縮された形態で乳生成物から抽出され、等電点が塩基性またはほぼ中性である細胞成長促進因子を含む乳生成物エキス組成物の有効量と、
薬学または獣医学上許容可能なその希釈剤、キャリヤーまたは賦形剤とを
含んで成る組成物の有効量を投与することを含む方法が提供される。
【0051】
本発明を、下記の例に関して更に詳細に説明する。しかしながら、下記の記載は単に例示のためのものであり、決して前記の発明の普遍性に対する限定と考えるべきではない。
【実施例】
【0052】
例1
成長促進活性に富むチーズホエー(GFE)からの画分の調製
【0053】
チーズ製造の最終生成物として得られる滅菌ホエーを10ミクロンのスクリーンおよび0.2ミクロンザルトリウス・ミクロザート・ザルトコン(Sartorius Microsart Sartocon)IIモジュールを通して濾過して、固形分を除去した。限外濾過液をpH6.5に調整して、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5で平衡にしたS−セファロース・ファスト・フロー(S-SepharoseFast Flow)S陽イオン交換樹脂(ファルマシア(Pharmacia) )のカラムに適用した。カラムを同じ緩衝液で洗浄した後、吸着された物質を0.25MNHOHを含む1 MNaClの溶液で溶出した。この溶出液を伝導率が0μsになるまで水に対して透析濾過(diafiltered) した後、限外濾過によって濃縮した。両工程は3KDa排除メンブランを用いて行った。生成物を凍結乾燥して、「GFE」生成物を得た。
【0054】
18gのタンパク質を含むチーズホエー30リットルからの調製物で、2.66gのタンパク質を含むGFEエキスを得た。
【0055】
例2
成長促進活性に富み、ラクトフェリンを含む異種タンパク質の枯渇したチーズホエーからの画分の調製(GFE−2)
【0056】
滅菌したホエーを濾過し、S−セファロースのカラムに適用し、カラムを例1と同様に洗浄した。溶出は、10mMクエン酸ナトリウムpH6.5に0.4 MNaClを加えた溶液で行った。このGFE−2を、例1に記載したのと同様に、水に対して透析濾過し、濃縮して、凍結乾燥した。
【0057】
18gのタンパク質を含むチーズホエー30リットルからの調製物で、0.56gのタンパク質を含むGFE−2エキスを得た。
【0058】
例3
ラクトペルオキシダーゼを含む異種タンパク質も枯渇した改質GFE−2画分の調製(GFE−3)
【0059】
凍結乾燥したGFE−2(例2)を25mg/mlの濃度で溶解し、80℃で2.5時間加熱した。加熱した試料を素早く冷却して、遠心分離した。透明な上澄液を、使用前に0.22μmフィルターを通した。この溶液には、GFE−2に含まれるタンパク質の50%および約10%のラクトペルオキシダーゼを含んでいた。
【0060】
例4
ウシ胎児血清と比較したチーズホエーエキス(例1、2)による培養細胞の成長の促進
【0061】
培地に添加する前に、凍結乾燥した粉末(GFE、GFE−2)を最初にダルベッコのリン酸緩衝食塩水に懸濁し、0.22μmフィルターを通過させて滅菌した。
【0062】
この例では、細胞ラインL6(ラット筋原細胞)、BalbC/3T3(マウス線維芽細胞)およびSF1972(ヒト二倍体皮膚線維芽細胞)を用いる。それぞれの細胞ラインを96穴組織培養プレート上、5%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改質イーグル最少必須培地中でサブカルチャーを行い、5%CO2、37℃の加湿インキュベーター中で一晩放置して、細胞を確実に付着させた。無菌技法を一貫して用いた。プレートをDMEMで十分に洗浄して、残っている血清を除去し、ホエーエキス(GFEまたはGFE−2)またはウシ胎児血清(FBS)を所定の濃度で加えた。それぞれのウェルにおける総容積は、37℃、5%CO2及び100%湿度で0.1mlであった。
【0063】
更に2日後に、プレートを洗浄して、固定し、自動メチレンブルー法(M.H. Oliver ら、J. Cell Sci., 92,513, 1989 )を用いて細胞数を計数した。成長は、5%ウシ胎児血清を含むDMEM中で細胞を成長させることによって生じる吸光度の増加に関する吸光度単位の増加率として表わす(図1)。
【0064】
この例では、総ての3種類の細胞ラインにおいて、GFEおよびGFE−2はウシ胎児血清と同様に成長を刺激する。更に、BalbC/3T3及びSF1972細胞では、GFE−2の活性はウシ胎児血清としてのタンパク質含量の約10分の1である。
【0065】
例5
GFE−2(例2)と比較してラクトペルオキシダーゼを含む異種タンパク質が枯渇したチーズホエーのエキス(GFE−3、例3)による培養細胞の成長の刺激
【0066】
データーを、5%ウシ胎児血清で得られるのと同じ成長応答が得られるタンパク質含量(μg/100μlウェル)として表わしたこと以外は、実験の詳細は全く例4に記載した通りであった(表1参照)。
【0067】
【表1】

【0068】
成長を刺激するのに要するGFE−3は、GFE−2より明らかに少ない。また、5%ウシ胎児血清のタンパク質含量は250μg/100μlであるので、GFE−2およびGFE−3はいずれも、特にBalbC/3T3細胞およびヒト皮膚線維芽細胞(SF1972)に対しては5%ウシ胎児血清よりも実質的に効果が高い。
【0069】
例6
2%ウシ胎児血清を含む媒質にGFE−2エキス(例2)を補足することによって生じる培養細胞の成長効果
【0070】
ヒト皮膚線維芽細胞ライン(SF1972)の代わりにヒト肺線維芽細胞ライン(HEL)を用いたこと以外は、実験の詳細は全く例4に記載した通りであった。データーは、2日間細胞の成長を行った後得られる吸光度として表わす(表2参照)。
【0071】
【表2】

【0072】
この実験は、2%ウシ胎児血清のみを含む媒質に添加した少量のGFE−2が、成長速度を10%ウシ胎児血清で達成することができる速度まで増加することができることを示している。この成長の増進を達成するのに要するGFE−2のおおよその量は、L6細胞では100μg/100μl、BalbC/3T3細胞では25μg/100μlであり、HEL細胞では5μg/100μlに過ぎなかった。このような増進により、ウシ胎児血清をかなりの量節約することができる。
【0073】
最後に、各種の他の改質および/または変更を、本明細書に記載した本発明の精神から離反することなく、行うことができることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の傷を治療するため動物細胞の成長を促進させるための薬学または獣医学組成物であって、
成長促進活性に富み、かつラットの筋芽細胞の増殖を刺激する濃縮された形態で陽イオン交換樹脂を用いてウシチーズホエーから抽出される複数の細胞成長促進因子であって、その等電点が塩基性乃至ほぼ中性である因子を含む乳生成物エキス組成物の有効量と、
薬学または獣医学上許容可能なその希釈剤、キャリヤーまたは賦形剤とを含んで成る、組成物。
【請求項2】
抗生物質、殺菌剤、他の成長促進剤、麻酔薬等、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1種類の活性成分の有効量をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
胃腸の損傷、疾患または潰瘍の治療用の動物細胞の成長を促進させるための薬学または獣医学組成物であって、
成長促進活性に富み、かつラットの筋芽細胞の増殖を刺激する濃縮された形態で陽イオン交換樹脂を用いてウシチーズホエーから抽出される複数の細胞成長促進因子であって、その因子の等電点が塩基性乃至ほぼ中性である因子を含む乳生成物エキス組成物の有効量と、
薬学または獣医学上許容可能なその希釈剤、キャリヤーまたは賦形剤とを含んで成る、組成物。
【請求項4】
抗生物質、殺菌剤、他の成長促進剤、麻酔薬等、およびそれらの混合物から選択される少なくとも1種類の活性成分の有効量をさらに含む、請求項3に記載の組成物。

【公開番号】特開2007−131630(P2007−131630A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354141(P2006−354141)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【分割の表示】特願平3−511964の分割
【原出願日】平成3年7月9日(1991.7.9)
【出願人】(502390614)グロペップ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】