説明

手浴ベースン

【課題】臥床状態にある手浴対象者の手を浴湯に浸漬させて洗浄する場合に、手浴対象者が側臥位のままで手を浴湯に容易に浸漬させることができ、浴湯を入れて不安定なベッド上でも安定的に設置して使用することができる手浴ベースンを提供する。
【解決手段】手浴対象者の手20は、縦向き姿勢のまま手関節部まで浴槽空間内に収容され、浴槽空間内に貯留される浴湯に浸漬される。このとき、手浴ベースン1の押さえ部材3は、浴槽空間内に挿入した方の前腕部21の内側面と前胸部面または前腹部面との間で挟み込まれて固定される。この挟み込みによって、手浴ベースン1は、臥床場所の上で手浴対象者自身によって保持され、不安定な敷布団またはベッド上でも安定的に設置される。この後、看護者または介護者の両手が挿入口7から浴槽空間内へ挿入されて、その浴槽空間内で浴湯を用いて手浴対象者の手20の洗浄が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臥床状態にある手浴対象者の手を浴湯に浸漬させて洗浄するための手浴ベースンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
疾患や障害のためにベッド上で臥床している患者は、ベッドから起床して自らの手を洗うことが困難なため、自らの手を清潔に保つことができず、看護者や介護者によって、清拭や手浴などの介護を受ける必要がある。ここで、患者の手を手浴するには、一般的に、既製の洗面器が使用されているが、下記特許文献1には、このような既製の洗面器の縁部を部分的に変形させた手洗い桶が提案されている。
【特許文献1】実用新案登録第3099481号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記したような既製の洗面器では、患者が仰臥位で手浴する場合に手を洗面器内の浴湯に十分に浸漬できず、患者の肩や腕が浮いたり、手関節部(手首)が洗面器の縁部に当たるなどして、患者に苦痛を与えてしまうという問題点があった。また、患者が側臥位の姿勢で両手を一度に手浴する場合には、側臥位となった場合に下側となる腕の手を洗面器内の浴湯内に十分に浸漬できず、その腕の手関節部や前腕部が洗面器の縁部に当たり、患者に苦痛を与えるという問題点があった。
【0004】
さらに、既製の洗面器や上記特許文献1記載の手洗い桶では、疾患、障害、長期臥床の状態にある患者が廃用萎縮などによって肩関節、肘関節、手関節、手指に拘縮や変形している場合、正常な関節可動域に制限が加わるため、自らの手を洗面器に入れて浴湯に十分に浸漬することが困難となってしまうという問題点もある。
【0005】
このため、このような場合は、看護者や介護者が洗面器の浴湯を手で繰り返し掬いかけたり、洗面器とベッド上面との間に枕やタオルを挟み込んで洗面器の高さを調節したり、もう1人の介助者が洗面器を持ち上げたり、又は、患者の上肢を伸展させるかなどして、患者の手浴がし易いように洗面器の位置や患者の姿勢を調節する必要があり、看護者や介護者にとって極めて作業が煩雑となるという問題点もある。
【0006】
また、ベッド上にはマットレスや敷き布団が敷かれており、これらは柔軟性のある不安定な面であるため、この上に置かれた洗面器の縁部に患者の前腕部の重みがかかると、洗面器が容易に傾いてしまって、洗面器内の浴湯がこぼれ出て、ベッドシーツや患者寝衣を濡らしてしまうという問題点もある。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するために、臥床状態にある手浴対象者の手を浴湯に浸漬させて洗浄する場合に、手浴対象者が側臥位のままで手を浴湯に容易に浸漬させることができ、浴湯を入れて不安定なベッド上でも安定的に設置して使用することができる手浴ベースンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために請求項1の手浴ベースンは、手浴対象者の手を浸漬させて洗浄するための浴湯を貯留する浴槽空間を有するものであり、手を縦向き姿勢でかつ手指を伸展位にした状態で手関節部まで収容可能な深さを有する前記浴槽空間と、その浴槽空間の底部を閉塞する底板と、その底板に連設され前記浴槽空間の周囲を包囲する周壁板と、その浴槽空間の上方に開口形成されその浴槽空間内へ手を挿入するための挿入口とが設けられる容器部材と、その容器部材の周壁板における一部の上端部に一体的に連設形成され、その周壁板の上端部から更に上方へ略舌片状に延設され、その容器部材の横幅方向に幅広の板状に形成される押さえ部材とを備えている。
【0009】
この請求項1の手浴ベースンによれば、容器部材は、その挿入口が上向きとなった状態で、手浴対象者の臥床場所である敷布団やベッド上に、側臥位の手浴対象者の胸部から腹部にかけた部位に寄り添うようにして設置される。しかも、このように容器部材が設置されたとき、押さえ部材は、手浴対象者が側臥位となった場合に胸部または腹部の横径方向上側となる方の胸部面又は腹部面に密接される。そして、手浴対象者が側臥位の場合に上側となる腕の手が、縦向きの姿勢をとって、容器部材の挿入口から浴槽空間内へ挿入される。
【0010】
この挿入によって、手浴対象者の手は、縦向き姿勢のまま手関節部まで浴槽空間内に収容されて、この浴槽空間内に貯留される浴湯に浸漬される。また、このとき、手浴ベースンの押さえ部材は、側臥位の手浴対象者が浴槽空間内に挿入した方の前腕内側面と前胸部面または前腹部面との間で挟み込まれる。すると、この挟み込みによって、手浴ベースンは、臥床場所の上で手浴対象者自身によって保持される。また、手浴対象者に対する手浴作業は、看護者または介護者の両手が容器部材の挿入口から浴槽空間内へ挿入されることで、その浴槽空間内で浴湯を用いて行われる。
【0011】
請求項2の手浴ベースンは、請求項1の手浴ベースンにおいて、前記押さえ部材は、前記容器部材の後側部分に相当する前記周壁板の上端部から更に上方へ延設されており、その容器部材を側面視した場合、その容器部材の後側上方へ向けて上昇傾斜され、かつ、その容器部材の前側上方へ向けて凸状に湾曲した略円弧状に形成されているものである。
【0012】
この請求項2の手浴ベースンによれば、押さえ部材は、容器部材から略円弧状に湾曲して延設される板状体であるので、この押さえ部材を側臥位の手浴対象者の胸部または腹部の横径方向片側の胸部面または腹部面にフィット(密着)させることができる。よって、手浴対象者が側臥位の場合に上側となる腕の手を容器部材の浴槽空間に挿入する場合、当該腕における前腕内側面と前胸部面または前腹部面との間で押さえ部材を挟み込み易くなり、手浴対象者自身の身体によって手浴ベースンをより一層保持し易くなるという効果がある。
【0013】
なお、押さえ部材の形状は、挿入口を上向きにした容器部材を側臥位の手浴対象者の胸部傍または腹部傍に設置する場合、その胸部または腹部の横径方向上側の胸部面または腹部面にフィットし易い形状であることが望ましく、特に、押さえ部材の湾曲形状は、手浴対象者の前胸部から側胸部にかけての胸部湾曲面、又は、前腹部から側腹部にかけての腹部湾曲面に沿ったカーブを有する形状にすることが好ましい。
【0014】
請求項3の手浴ベースンは、請求項1又は2の手浴ベースンにおいて、前記容器部材の前記周壁板は、その容器部材を平面視した場合、その容器部材の前側部分に相当する前記周壁板の曲率半径に比べて、その容器部材の後側部分に相当する前記周壁板の曲率半径が大きく形成されているものである。
【0015】
この請求項3の手浴ベースンによれば、容器部材の周壁板は、この容器部材を平面視した場合に、前側部分の周壁板の方が曲率が大きく、後側部分の周壁板の方が曲率が小さくてより平坦状に近い形状とされている。このため、容器部材の周壁板の後側部分の外面を、側臥位となった手浴対象者の腰部面または腹部面に更に密着させ易くできるという効果がある。
【0016】
また、このように容器部材は、その周壁板によって形成される外周面の曲率が局所的に異なっているので、例えば、手浴ベースンの使用状況や、手浴対象者の体型に応じて、手浴対象者の身体にフィットし易い曲率を有する周壁板の部分を選択して、手浴対象者の身体に当てることができるという効果もある。
【0017】
また、手浴対象者が押さえ部材を挟み込んで固定する必要がないような場合、例えば、手浴対象者の疾病、障害又は健康の段階によって、上半身を多少起こした体位(ファーラー位)や座位で手浴を実施する場合は、容器部材の向きを変えることで、手浴対象者の身体に当たる容器部材の周壁板の箇所を変更して、容器部材の前側部分にある周壁板、即ち、曲率が大きな周壁板の部分を手浴対象者の身体に当てるようにすることもできるという効果がある。
【0018】
請求項4の手浴ベースンは、請求項1から3のいずれかの手浴ベースンにおいて、前記容器部材は、前記周壁板の上端部であって前記押さえ部材の連設形成部分を除く部分に、前記容器部材の上方外側へ湾曲して略フレア状に広がった湾曲縁板部が形成されており、この湾曲縁板部の上面が略水平に形成されているものである。
【0019】
この請求項4の手浴ベースンによれば、容器部材の周壁板の上端部には、押さえ部材の連設形成部分を除き、略フレア状に広がった湾曲縁板部が湾曲形成されており、この湾曲縁板部の上面が略水平に形成されるので、手を浴槽空間内へ挿入口から挿入した場合に、看護者や介護者の前腕部外側が容器部材の湾曲縁板部に当たっても苦痛や違和感がないという効果がある。
【0020】
また、かかる略フレア状に広がった湾曲縁板部には、容器部材が転倒しない範囲内で、看護者や介護者が手浴作業時に自らの前腕の重みを掛けることもでき、看護者や介護者が手浴時に感ずる疲労を軽減することができるという効果もある。しかも、容器部材の湾曲縁板部には指先を引っ掛けることもできるので、かかる湾曲縁板部を、容器部材を持ち上げるための把手として兼用でき、浴湯を浴槽空間に貯留した状態で手浴ベースンを持ち上げる際に容易に持ち上げることができるという効果がある。
【発明の効果】
【0021】
本願発明の手浴ベースンによれば、特に、手浴対象者が側臥位の姿勢なって使用する場合に、手浴対象者が側臥位となったのときに上側となる方の腕の前腕部を容器部材内へ垂れ下げるよう挿入すれば、手が自然と縦向き姿勢となり、この縦向き姿勢のまま手を、容器部材の浴槽空間へ収容できる。よって、手浴対象者が手関節部、肘関節部または肩関節部を無理に曲げて容器部材内へ手を挿入する必要がなく、手浴時における手浴対象者の苦痛を解消できるという効果がある。
【0022】
しかも、上記したように手浴対象者の手が縦向き姿勢で浴槽空間内へ挿入されるので、手浴対象者の腕の手関節部や前腕部が容器部材の周壁板の上端部に当たりにくく、手浴対象者の手浴時における苦痛を更に解消できるという効果がある。
【0023】
また、手浴用の浴湯が貯留される浴槽空間は、縦向き姿勢の手を、手指を伸展した状態で手関節部まで収容可能な深さが確保されており、その深さが既製の洗面器の深さに比べて極めて大きくされている。このため、浴槽空間内で手を浴湯に浸漬して洗浄する場合に、看護者や介護者がスムーズに手浴対象者の手を洗浄でき、更に、容器部材の外へ浴湯が頻繁に飛び跳ね出ること防いで、手浴対象者の臥床場所である敷布団またはベッドのシーツ等の汚損を防止できるという効果がある。
【0024】
また、手浴対象者が側臥位の場合に上側となる腕の手を手浴ベースンの浴槽空間に挿入する場合、当該腕における前腕内側面と前胸部面または前腹部面とで、手浴ベースンの押さえ部材を挟み込むことで、手浴対象者自身の身体によって手浴ベースンを保持することができ、結果、手浴ベースンを不安定な敷布団またはベッド上でも安定的に設置することができるという効果がある。
【0025】
また、側臥位の手浴対象者が容器部材の浴槽空間へ手を挿入した場合、その手浴対象者の胸部面または腹部面の大部分を、容器部材によって覆うことができる。その上、容器部材の周壁板の上端部からは、横幅の広い略舌片板状の押さえ部材が更に上方へ向けて延設されるので、この押さえ部材を含めると、側臥位の手浴対象者の胸部面または腹部面全体を手浴ベースンによって覆うことができ、手浴時の浴湯の飛び跳ねによる手浴対象者の寝衣の汚損を防止できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施例について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例である手浴ベースン1の外観斜視図である。また、図2は、手浴ベースン1の正面図であり、図3は、手浴ベースン1の背面図であり、図4は、手浴ベースン1の平面図であり、図5は、手浴ベースン1の底面図であり、図6は、手浴ベースン1の右側面図である。なお、手浴ベースン1の左側面図は、右側面図と対称に表れるため省略したものである。
【0027】
また、図7は、図2のVII−VII線における縦断面図であり、図8は、図4のVIII−VIII線における縦断面図であり、図9は、図4のIX−IX線における縦断面図であり、図10は、図2のX−X線における横断面図であり、図11は、図2のXI−XI線における横断面図であり、図12(a)は、手浴ベースン1の使用状態を示す正面図であり、図12(b)は、手浴ベースン1の使用状態を示す側面図である。
【0028】
図1に示すように、手浴ベースン1は、主に、略桶状の容器部材2と、略板状の押さえ部材3とを備えている手浴用の容器体であり、例えば、合成樹脂材料などの材料を用いて一体的に成形されている。この手浴ベースン1の容器部材2には、その内部に手浴対象者の手20(図12参照。以下同じ。)を浸漬させて洗浄するための浴湯を貯留する浴槽空間4が設けられている。この浴槽空間4は、手浴対象者の手20を、縦向き姿勢でかつ手指を伸展位にした状態で手関節部まで収容可能な深さh1を有している。
【0029】
なお、浴槽空間4の深さh1とは、容器部材2の内底面から湾曲縁端部の付け根までの高さを意味する。また、手指の伸展位の意味には、必ずしも、手指を完全に伸展させた状態だけではなく、伸展させた手指を緩やかに弛緩させた状態も含まれる。
【0030】
また、容器部材2には、上記した浴槽空間4の他に、この浴槽空間4の底部を閉塞する底板5(図5参照。)と、その底板5に一体的に連設され浴槽空間4の周囲を包囲する周壁板6と、その浴槽空間4の上方に開口形成されその浴槽空間4内へ手20を挿入するための挿入口7(図4参照。)とが設けられている。
【0031】
この挿入口7は、浴槽空間4と連通する開口部であって、手浴対象者の手20のみならず、看護者又は介護者の両手(図示せず。)を容器部材2の横幅方向(図2、図4の左右方向)両側から挿入でき、かつ、この看護者又は介護者の両手が浴槽空間4内で洗浄時にスムーズに動作できる広さに形成されている。
【0032】
また、容器部材2の周壁板6の上端部には、上記した押さえ部材3が連設形成されている部分を除いて、湾曲縁板部8が一体的に連設形成されている。この湾曲縁板部8は、容器部材2の上方外側へ向けて略円弧状に湾曲形成されており(図2、図3、図6から図9参照。)、全体として略フレア状に広がった形状に形成されており、この上面8aが略水平に形成されている(図6から図9参照。)。
【0033】
また、容器部材2は、その底板5の平面形状(図5参照。)と、その挿入口7の開口形状(図4参照。)とが略相似形となっている。更に、容器部材2は、その高さh2方向における任意の高さ位置(図2のX−X線の位置)で輪切りにした一の横断面形状(図10参照。)と、それとは異なる任意の高さ位置(図2のXI−XI線の位置)で輪切りにした他の横断面形状(図11参照。)とが、互いに略相似形となるように形成されている。
【0034】
しかも、容器部材2は、その浴槽空間4の横断面積(又は口径)が、当該容器部材2の底板5側から挿入口7側へ向かって、即ち、底部から上部へ向けて漸増するように形成されている(図2から図9参照。)。このため、手浴ベースン1の容器部材2の挿入口7から別の手浴ベースン1の容器部材2を嵌入させて、複数の手浴ベースン1を積層状態でスタックすることができる。
【0035】
また、手浴ベースン1は、敷布団又はベッド上に設置される場合の安定性を考慮して、その重心位置が、できる限り容器部材2の底部側となるように設定されている。このため、容器部材2の底板5下面の面積をできる限り大きく形成する必要があり、かかる底板5下面の面積を、挿入口7の開口面積に対して極端に小さくすることができない。
【0036】
そこで、容器部材2は、その底板5下面の横幅w1(図8参照。)が挿入口7の横幅w2(図8参照。)の略80%〜95%(好適には略85%〜90%)の範囲に、底板5下面の奥行き幅d1(図7参照。)が挿入口7の奥行き幅d2(図7参照。)の略80%〜95%(好適には略85%〜90%)の範囲となるように設定されている。
【0037】
また、容器部材2の周壁板6は、この容器部材2を平面視した場合に、その周壁板6の前側部分(図10及び図11の下側部分)の方が曲率が大きく、その周壁板6の後側部分(図10及び図11の上側部分)の方が曲率が小さくてより平坦状に近い形状とされている。このため、特に、容器部材2の周壁板6の後側部分(図10及び図11の上側部分)の外面が、側臥位となった手浴対象者の腰部面または腹部面に更に密着させ易くなっている。
【0038】
そして、図3に示すように、押さえ部材3は、この曲率が小さくて略平坦状となった周壁板6の後側部分の上端部に一体的に連設形成されている。このように、押さえ部材3は、周壁板6の一部の上端部に連設形成されており、又、この連設部分から上方へ向けて更に延設されている。さらに、この押さえ部材3は、図2に示すように、容器部材2の横幅(図2、図8の左右方向)方向に幅広の板状体で正面視略舌片状に形成されている。
【0039】
なお、周壁板6の前側部分とは、周壁板6全体のうち手浴ベースン1の正面側に設けられる部分、即ち、容器部材2の正面部分を意味する。また、周壁板6の後側部分とは、周壁板6全体のうち手浴ベースン1の背面側に設けられる部分、即ち、容器部材2の背面部分を意味する。
【0040】
ここで、押さえ部材3の背面(後面)3aは、この押さえ部材3が連設されている周壁板6の後側部分の外面ともに、側臥位の手浴対象者の胸部面から腹部面にかけた部位面に当接されて使用される(図12(b)参照。)。
【0041】
このため、押さえ部材3は、図6に示すように容器部材2を側面視した場合、その容器部材2の後側部分(図6左側)に相当する周壁板6の上端部から更に上方へ延設されており、この容器部材2の後側上方(図6右斜め上方)へ向けて上昇傾斜され、かつ、その容器部材2の前側上方(図6左斜め上方)へ向けて凸状に湾曲した略円弧状に形成されている。
【0042】
特に、押さえ部材3の湾曲形状は、手浴対象者の前胸部から側胸部にかけての胸部湾曲面、又は、前腹部から側腹部にかけての腹部湾曲面に沿ったカーブを有する形状にすることが好ましい。さすれば、押さえ部材3は、挿入口7を上向きにした容器部材2を側臥位の手浴対象者の胸部傍または腹部傍に設置する場合、その胸部または腹部の横径方向上側の胸部面または腹部面にフィットし易くなる。
【0043】
このように構成された手浴ベースン1によれば、上記した容器部材2の浴槽空間4が縦向き姿勢にした手20を手関節部まで収容可能な深さh1を有するので、かかる浴槽空間4を内部に有する容器部材2の高さh2は、概ね手浴対象者の胸部又は腹部の横径の略2/3〜4/5程度となる。よって、図12(a)に示すように、側臥位の手浴対象者が容器部材2の浴槽空間4へ手20を挿入する場合、その手浴対象者の胸部面または腹部面の大部分を、容器部材2によって覆うことができる。
【0044】
また、容器部材2の周壁板6の上端部からは押さえ部材3が上方へ向けて更に延設されるので、この容器部材2の底板5下面から押さえ部材3の上端までの高さ(以下「手浴ベースン1の全高」という。)Hを、手浴対象者の胸部横径または腹部横径と略等しい程度とすることができる。つまり、手浴ベースン1の全高Hを、手浴対象者の胸部横径または腹部横径に適合したサイズとすることができる。
【0045】
さすれば、図12(a)に示すように、手浴ベースン1を用いて手浴する場合、かかる手浴ベースン1によって、側臥位の手浴対象者の胸部面または腹部面を全体的に覆うことができ、手浴時の浴湯の飛び跳ねによる手浴対象者の寝衣の汚損を防止できる。
【0046】
次に、上記した手浴ベースン1について、手浴対象者が高齢期の長期臥床(寝たきり)状態にある男性又は女性である場合における、具体的寸法を例示する。なお、後述する初老の男性及び女性(Elder lies Men & Female)の胸部横径、腹部横径、及び、第三指長の値は、「設計のための人体寸法データ集/Human body dimensions data for ergonomic design(生命工学工業技術研究所編)」を参照したものである。
【0047】
まず、手浴ベースン1の全高Hは、略25cmが好適である。この値は、健常な初老の男性及び女性(Elder lies Men & Female)の胸部横径、腹部横径の略95%ile値に相当する略30cmから、略5cm減ずることで算出した値である。ここで、上記略30cmから略5cmの減じたのは、例えば、手浴対象者が、加齢や廃用萎縮による全身の骨萎縮、筋萎縮及び脂肪減少、身長及び体重の減少、身体体積の縮小、並びに、手浴時の側臥位による前傾又は後傾姿勢となることを考慮したものである。
【0048】
また、浴槽空間4の深さh1は、略18cmが好適である。この値は、初老の男性及び女性(Elder lies Men & Female)の第三指長の略95%ile値に相当する略19.5cmから略1.5cm減ずることで算出した値である。ここで、上記略19.5cmから略1.5cmの減じたのは、手浴ベースン1の浴槽空間4内へ縦向き姿勢で手20を入れる場合に手指が萎縮等すること、及び、指を緩やかに弛緩させた伸展位の状態で手関節まで浴湯に浸漬させるために必要な浴湯深さが必要であることを考慮したものである。
【0049】
また、容器部材2の挿入口7の横幅w2は略26cmが、容器部材2の挿入口7の奥行き幅d2は略18cmが、それぞれ好適である。さらに、本実施例では、底板5下面の横幅w1が挿入口7の横幅w2の略80%〜95%(好適には略85%〜90%)の範囲に、底板5下面の奥行き幅d1が挿入口7の奥行き幅d2の略80%〜95%(好適には略85%〜90%)の範囲となるように設定されるので、容器部材2の底面の横幅w1は略23cmが好適であり、容器部材2の底板5の奥行き幅d1は略16cmが好適である。
【0050】
なお、青年期や壮年期の急性疾患による安静臥床状態にある者や、高齢期でも麻痺や拘縮のないターミナル期にある者などのように、様々な発達段階と健康段階にある者のことを考慮すれば、発達段階または健康段階の異なる者の体型毎に、その体型に応じた寸法サイズの手浴ベースン1を、複数種類用意するようにしても良い。
【0051】
次に、図12を参照して、上記のように構成された手浴ベースン1の使用方法について説明する。まず、図12(a)に示すように、手浴ベースン1を側臥位の手浴対象者の傍に設置する場合は、容器部材2の挿入口7を上向きにして、この容器部材2を、手浴対象者の臥床場所である敷布団やベッド上に、側臥位の手浴対象者の胸部から腹部にかけた部位に寄り添うようにして設置される。
【0052】
また、このとき、押さえ部材3は、図12(b)に示すように、手浴対象者が側臥位となった場合に胸部または腹部の横径方向上側となる方の胸部面又は腹部面に密接(密着)させられる。それから、側臥位の手浴対象者が、上側となる方の腕の前腕部21を容器部材2内へ垂れ下げるよう挿入すれば、手20が自然と縦向き姿勢となり、この縦向き姿勢のまま手20が、容器部材2の浴槽空間4へ収容される。
【0053】
すると、手浴対象者の手20は、図12(a)に示すように、縦向き姿勢のまま手関節部まで浴槽空間4内に収容され、浴槽空間4内に貯留される浴湯に浸漬される。このとき、手浴ベースン1の押さえ部材3は、浴槽空間4内に挿入した方の前腕部21の内側面と前胸部面または前腹部面との間で挟み込まれて固定される。
【0054】
この挟み込みによって、手浴ベースン1は、臥床場所の上で手浴対象者自身によって保持され、不安定な敷布団またはベッド上でも安定的に設置される。この後、看護者または介護者の両手が容器部材2の挿入口7から浴槽空間4内へ挿入されて、その浴槽空間4内で浴湯を用いて手浴対象者の手20の洗浄が行われる。
【0055】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0056】
例えば、本実施例の容器部材2の内周面に、浴槽空間4内へ貯留されている浴湯量を示す目盛を設けるようにしても良い。また、浴槽空間4内へ患者の一側手20と看護者又は介護者の両手を挿入した場合に浴槽空間4内で浴湯の水位が洗浄に適した水位となるように、容器部材2の内周面に、浴湯の適正水位を示す目印を設けるようにしても良い。また、押さえ部材3の上部にフックを取着して、そのフックで手浴ベースン1をベッドサイドや洗面所などの収納場所に引っ掛けられるようにしても良い。
【0057】
また、手浴対象者が押さえ部材3を挟み込んで固定する必要がないような場合、例えば、手浴対象者の疾病、障害又は健康の段階によって、上半身を多少起こした体位(ファーラー位)や座位で手浴を実施する場合は、手浴ベースン1の容器部材2の向きを変えることで、手浴対象者の身体に当たる容器部材2の周壁板6の箇所を変更して、容器部材2の前側部分にある周壁板6、即ち、曲率が大きな周壁板6の部分を手浴対象者の身体に当てるようにしても良い。
【0058】
さすれば、少なくとも、手浴対象者の前腕部21や手関節部を、容器部材2の周壁板6上端に湾曲形成された湾曲縁板部8で支えることができるため、手浴対象者が周壁板6の接触することに伴う違和感や痛みを回避することはできる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施例である手浴ベースンの外観斜視図である。
【図2】手浴ベースンの正面図である。
【図3】手浴ベースンの背面図である。
【図4】手浴ベースンの平面図である。
【図5】手浴ベースンの底面図である。
【図6】手浴ベースンの右側面図である。
【図7】図2のVII−VII線における縦断面図である。
【図8】図4のVIII−VIII線における縦断面図である。
【図9】図4のIX−IX線における縦断面図である。
【図10】図2のX−X線における横断面図である。
【図11】図2のXI−XI線における横断面図である。
【図12】(a)は、手浴ベースンの使用状態を示す正面図であり、(b)は、手浴ベースンの使用状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 手浴ベースン
2 容器部材
3 押さえ部材
3a 押さえ部材の背面
4 浴槽空間
5 底板
6 周壁板
7 挿入口
8 湾曲縁板部
8a 湾曲縁板部の上面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手浴対象者の手を浸漬させて洗浄するための浴湯を貯留する浴槽空間を有する手浴ベースンにおいて、
手を縦向き姿勢でかつ手指を伸展位にした状態で手関節部まで収容可能な深さを有する前記浴槽空間と、その浴槽空間の底部を閉塞する底板と、その底板に連設され前記浴槽空間の周囲を包囲する周壁板と、その浴槽空間の上方に開口形成されその浴槽空間内へ手を挿入するための挿入口とが設けられる容器部材と、
その容器部材の周壁板における一部の上端部に一体的に連設形成され、その周壁板の上端部から更に上方へ略舌片状に延設され、その容器部材の横幅方向に幅広の板状に形成される押さえ部材とを備えていることを特徴とする手浴ベースン。
【請求項2】
前記押さえ部材は、前記容器部材の後側部分に相当する前記周壁板の上端部から更に上方へ延設されており、その容器部材を側面視した場合、その容器部材の後側上方へ向けて上昇傾斜され、かつ、その容器部材の前側上方へ向けて凸状に湾曲した略円弧状に形成されているものであることを特徴とする請求項1記載の手浴ベースン。
【請求項3】
前記容器部材の前記周壁板は、その容器部材を平面視した場合、その容器部材の前側部分に相当する前記周壁板の曲率半径に比べて、その容器部材の後側部分に相当する前記周壁板の曲率半径が大きく形成されているものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の手浴ベースン。
【請求項4】
前記容器部材は、前記周壁板の上端部であって前記押さえ部材の連設形成部分を除く部分に、前記容器部材の上方外側へ湾曲して略フレア状に広がった湾曲縁板部が形成されており、この湾曲縁板部の上面が略水平に形成されているものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の手浴ベースン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−183438(P2009−183438A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26004(P2008−26004)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(508038242)
【出願人】(508038378)
【Fターム(参考)】