説明

手溶接作業分析装置および手溶接作業分析装置に適用する手溶接トーチ一体型監視カメラ

【課題】TIG手溶接作業の挙動を画像化し、画像から抽出した特徴量を基に溶接技能を評価する手溶接作業分析装置および手溶接作業分析装置に適用する手溶接トーチ一体型監視カメラを提供する。
【解決手段】本発明に係る手溶接作業分析装置は、手溶接作業対象周辺に設置した監視カメラで撮影した溶接施工中の溶融池周辺の画像情報を分析、処理する手溶接作業分析装置において、手溶接トーチ3に監視カメラ2を一体接続する手溶接機一体型撮像装置1と、この撮像装置からの画像のデジタル信号を処理、収録する画像データ収録装置8と、収録された画像をデータとして情報処理するデータ処理装置9と、処理した情報をディスプレイするディスプレイ装置10とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手溶接作業分析装置および手溶接作業分析装置に適用する手溶接トーチ一体型監視カメラの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の溶接技術分野、例えばTIG溶接分野では、溶接施工の自動化が進む一方で、自動化の困難な部分に対して依然として熟練溶接士の技能、能力に依存することが高く、熟練技能の継承が問題になっている。
【0003】
また、溶接施工の自動化に伴って知識情報が高度化、複雑化する中において、経験の浅い溶接士あるいは熟練溶接士にとっても、溶接施工中の種々の挙動を画像処理し、画像処理した知識情報をフィードバックし、練度を高める溶接士支援システムの構築が必要とされている。
【0004】
このような情況の中にあって、例えば、従来のTIGによる手溶接作業分析装置では、溶接士の作業時間を測定し、時間を管理して技能習得を図るべき作業ポイントを明確化し、溶接作業の効率化を測るものが大半であった。
【0005】
そして、溶接作業の効率化向上のために、溶接部分をカメラで撮像し、この知識情報を基にして溶接線倣いや溶接条件を制御する技術を溶接士にフィードバックさせる特許文献1が提案されている。
【0006】
また、溶接部分の映像信号に基づき溶接池の状態を把握し、溶接に必要な操作情報を与えてモニター画面に表示する特許文献2が提案されている。
【0007】
また、溶接部分の状況を検出し、溶接軌跡、溶接条件を修正し、良質の溶接部分が施工できる視覚センサー内蔵型溶接トーチを実現した特許文献3が提案されている。
【特許文献1】特許第3322549号公報
【特許文献2】特開2002−205166号公報
【特許文献3】特開2003−164971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
溶接技術に係る溶接機の施工中の挙動は、溶接機の自動化の開発とともにその分析が進んでいるものの、手溶接の施工を行う場合の熟練溶接士の挙動分析は殆ど進んでいない。より一層の溶接施工の自動化推進と相俟って、溶接技術に係る熟練技術の継承を側面から支援するには、これまでよりもより一層高い分解能で熟練溶接士の挙動を分析し、高度化、複雑化した溶接技術を、熟練溶接士自身へのフィードバックも含めて経験の浅い溶接士でも容易に理解、習得ができるような支援システムの構築が必要とされている。
【0009】
一般に、熟練溶接士の溶接施工中の挙動分析においては、磁気や超音波等の媒体を用いて身体表面に予め装着されたセンサの3次元的な位置を同時に検出する方法などが知られている。
【0010】
しかし、このような媒体を用いても、手先の器用さを売り物とする熟練溶接士の技能分析を行うことは難しい。
【0011】
また、上述開示された特許文献は、溶接作業のモニタリングにおいて、溶接機を自動制御用途に特化した特徴抽出に適した構成を示したものであり、手溶接において、熟練溶接士の溶接機操作により制御される量、具体的には、TIG手溶接における溶加棒の送給量の分析は究明されていない。
【0012】
また、上述開示された特許文献は、例えばMAG溶接の場合、ワイヤの送給量をワイヤ自動送給機構の駆動部でモニタリングしていても、溶接施工中のワイヤ突き出し量の変化に対応した送給量の時間変動を測定していない。
【0013】
また、溶加棒は、一般に、表面が一様に光沢しているため、画像処理しても、その画像から溶加棒の送給量を識別することが難しい。
【0014】
また、自動溶接機の場合、ワイヤ送給機構を備えているので、その送給駆動装置の送り量をモニタリングすれば、溶融池への溶加棒の送給量を測定できるようになっているが、手溶接では、通常、右手に持ったトーチを運棒しつつ、左手に持った溶加棒を送り出す動作を行うため、手元に溶加棒の送給量測定機構を設けることが難しい。
【0015】
このような事情から、熟練溶接士の溶接技能を経験の浅い溶接士に承継させるにあたり、熟練溶接士の挙動、溶加棒の送給量等の手溶接に係る知識情報を画像化し、画像化した溶接技術をデジタル的に分析して可視化しておくことが必要とされていた。
【0016】
本発明は、このような事情に照らしてなされたもので、例えば、TIG手溶接作業に際し、熟練溶接士の溶加棒送給挙動等を映像、可視化し、熟練インストラクタや経験の浅い溶接士が当該熟練溶接士のコツあるいは技能等に基づく施工挙動を容易に把握できるようにするとともに、可視化した映像から溶加棒の送給速度や送給量の時間的推移、溶加棒の送給挙動やトーチ運棒の挙動に伴って変化する溶融池の形状、大きさ等の変化を定量的に分析、評価可能な手溶接作業分析装置および手溶接作業分析装置に適用する手溶接トーチ一体型監視カメラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る手溶接作業分析装置は、上述の目的を達成するために、請求項1に記載したように、手溶接作業対象周辺に設置した監視カメラで撮影した溶接施工中の溶融池周辺の画像情報を分析、処理する手溶接作業分析装置において、手溶接トーチに監視カメラを一体接続させる手溶接機一体型撮像装置と、この撮像装置からの画像のデジタル信号を処理、収録する画像データ収録装置と、収録された画像をデータとして情報処理するデータ処理装置と、処理した情報をディスプレイするディスプレイ装置とを備えたものである。
【0018】
また、本発明に係る手溶接作業分析装置は、上述の目的を達成するために、請求項2に記載したように、監視カメラは、溶接アーク光のピーク波長から離れた帯域に通過域を有する光学フィルタを備えたものである。
【0019】
また、本発明に係る手溶接作業分析装置は、上述の目的を達成するために、請求項3に記載したように、手溶接機一体型撮像装置は、監視カメラで撮像された画像を基に溶接中の手溶接トーチの挙動を分析する際、画像中の溶接母材の開先端におけるアーク光の反射強度のコントラストの変化から開先端輪郭線位置を検出するとともに、画像から検出される手溶接トーチの先端位置とで手溶接トーチねらい位置を換算し、前記手溶接トーチのトーチ運棒の分析データを取得する構成にしたものである。
【0020】
また、本発明に係る手溶接作業分析装置は、上述の目的を達成するために、請求項4に記載したように、手溶接機一体撮像装置は、監視カメラで撮像された画像を基にTIG溶接分析を行う際、溶加棒に一定間隔で印を付すとともに、印を付した溶加棒の溶融池への挿入位置、手溶接トーチの電極先端と溶融池との距離、溶加棒の送給量のデータを取得する構成にしたものである。
【0021】
また、本発明に係る手溶接作業分析装置は、上述の目的を達成するために、請求項5に記載したように、溶加棒に一定間隔で付した印は、その周方向に沿って細く削ったくびれ線であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る手溶接作業分析装置は、上述の目的を達成するために、請求項6に記載したように、手溶接一体撮像装置は、監視カメラで撮像された画像を基にTIG溶接分析を行う際、溶融池表面におけるアーク光の反射と開先表面での反射の相違から溶融池の輪郭形状を取得する構成にしたものである。
【0023】
また、本発明に係る手溶接作業分析装置に適用する手溶接トーチ一体型監視カメラは、上述の目的を達成するために、請求項7に記載したように、手溶接作業対象周辺に設置した監視カメラで撮影した溶接施工中の溶融池周辺の画像情報を分析、処理する手溶接作業分析装置において、手溶接トーチに監視カメラを一体接続させる手溶接機一体型撮像装置と、この撮像装置からの画像のデジタル信号を処理、収録する画像データ収録装置と、収録された画像をデータとして情報処理するデータ処理装置と、処理した情報をディスプレイするディスプレイ装置とを備える一方、前記手溶接機一体撮像装置は、前記監視カメラを前記手溶接トーチに対して移動せる軸方向位置調整スライド部と、カメラ仰角を調整するカメラ仰角調整スライド部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る手溶接作業分析装置および手溶接作業分析装置に適用する手溶接トーチ一体型監視カメラは、手溶接の施工作業中の溶接士の手元の挙動を撮像し、撮像した画像からその挙動をデータ化したので、このデータ情報を基に複数の熟練溶接士の間での個人差の定量化、経験の浅い溶接士との動きの相違、特定の個人が溶接技能を修得する過程における挙動の変化等のこれまでに充分な分析、評価が行なわれてこなかった溶接を対象とした技能の分析、考察を容易に実現することができる。
【0025】
特に、手溶接における溶加棒の送給量の自動評価等、これまでの評価が難しいとされていた特徴量の抽出、分析評価ができるため、従来、人手によって多くの補正処理が必要となっていた処理手続きが自動化され、多種、多様な条件での分析経験の実施や多数の溶接士による作業の分析、比較が大幅に効率化される。
【0026】
また、手溶接の技能をデータとして情報化することにより、従来よりも詳細に技能の本質に迫る分析評価が可能になるため、これまでとは異なるアプローチによる、より高度な自動溶接技術の開発に寄与することができ、さらに高齢化と人手不足が懸念される溶接分野における効率的な訓練プログラムの策定やデータ利用により、溶接装置の適用範囲のより一層の拡大を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る手溶接作業分析装置および手溶接作業分析装置に適用する手溶接トーチ一体型監視カメラの実施形態を図面および図面に付した符号を引用して説明する。
【0028】
図1は、本発明に係る手溶接作業分析装置の実施形態を示す概念図である。
【0029】
本実施形態に係る手溶接作業分析装置は、例えば、CCDカメラ(CCD:charge coupled device)2を手溶接トーチ3に一体として接続する手溶接機一体型撮像装置1を右手で把持し、溶加棒4を左手で把持する溶接士5の、その手溶接トーチ一体型撮像装置1の手溶接トーチ3に電流を制御しながら与える電源装置6と、この電源装置6から与えられた電流を基に手溶接トーチ3からのアーク熱で溶加棒4を溶融し、溶接母材7に溶接施工する際、CCDカメラ2で溶接トーチ3、溶加棒4、あるいは溶融池等の変化を撮像し、撮像した画像を1フレーム毎に連続画像化したデジタル信号を処理、収録する画像データ収録装置8と、収録された画像をデータとして情報処理するデータ処理装置9と、処理した情報をディスプレイするディスプレイ装置10とを備えて構成されている。
【0030】
手溶接機一体型撮像装置1は、図2に示すように、手溶接トーチ3に一体として接続させるCCDカメラ2を手溶接トーチ3の電極11に向う軸方向に移動させる軸方向位置調整スライド部12と、この軸方向位置調整スライド部12に交差し、電極11および溶接施工中に生成される溶融池が画角内に入るようにCCDカメラ2の仰角を自在に調整できるカメラ仰角調整スライド部13と、軸方向移動後のカメラ仰角調整スライド部13をセットする軸方向位置固定ねじ部14と、CCDカメラ2の仰角調整後の位置をセットするカメラ仰角位置固定ねじ部15と、CCDカメラ2をカメラ仰角調整スライド部13にセットさせるカメラ位置固定部19と、CCDカメラ2で撮像した画像をデジタル信号に変換して画像データ収録装置に送るケーブル16とを備えている。
【0031】
そして、電極11等を撮像するとき、CCDカメラ2は、その軸線の延長線が手溶接トーチ3の電極11から5mm〜20mmの範囲内の交わる位置にセットされる。
【0032】
また、CCDカメラ2は、像を良好に結像させるカメラレンズ17を備えるとともに、このカメラレンズ17にCCD面に入射する光の強弱、周波数帯域の制限を行う光学フィルタ18を備えている。
【0033】
この光学フィルタ18は、分析の対象となる特徴量によって必要に応じた減弱率、波長帯域を選択してCCDカメラ2に設けられている。
【0034】
また、この光学フィルタ18は、例えば、溶接アーク光のピーク波長から離れた帯域、具体的には850nm以上の波長帯域、あるいは1064nmで半値幅が10nm程度の狭い帯域に通過域を持つ場合にも適用される。
【0035】
また、この光学フィルタ18は、部分的に異なる透過率分布を持つ波長依存性のない減光フィルタと、透過波長を赤外領域で、かつ溶接光のピーク波長から離れた帯域に設定した狭帯域フィルタとを組み合わせることによってより鮮明な像が撮像される。
【0036】
なお、ケーブル16は、明示的に図示したが、実際においては、溶接士5のトーチ運棒の動きや施工状態を監視する視界を妨げない位置に、手溶接トーチ3に配線される。
【0037】
また、CCDカメラ2は、手溶接トーチ3から見て手溶接の進行方向となる方向に設置され、溶加棒4の挿入位置、溶融池の先行距離、電極11、溶接部の開先線等がカメラ視野内に入る位置にセットされる。
【0038】
このような位置にセットされたCCDカメラ2によって撮像された溶接施工状態の画像の一例を図3に示す。
【0039】
図3は、一例として、TIG手溶接による初層の開先キャップ溶接の画像を示すものであり、溶融池20とその周辺位置にある電極11、電極先端部11a、アーク光21、溶融池20に挿入されている溶加棒4の輪郭4aなどが映し出されている。
【0040】
また、アーク光21の開先面に対する反射によって、溶融池20の両側に位置する開先エッジ線22が目視確認されている。
【0041】
このような画像を基に、溶接士5の手溶接施工作業の分析、特徴抽出の処理が行われる。
【0042】
図4は、図1で示したデータ処理装置9内で処理された情報の一つとして、手溶接トーチ3のウィービングと称する運棒挙動の抽出、つまり溶接母材7の開先中心線から見た手溶接トーチ先端位置の動きを抽出処理するアルゴリズムである。
【0043】
本実施形態に係るアルゴリズムは、画像抽出工程(ステップ1)、直線エッジ成分検出工程(ステップ2)、開先エッジ線分交点座標算出工程(ステップ3)、開先中心線算出工程(ステップ4)、開先中心線と電極先端の画像上距離算出工程(ステップ5)、画像から実寸値を換算する実寸値換算工程(ステップ6)および手溶接トーチ運棒挙動評価工程(ステップ7)を備えた構成になっている。
【0044】
まず、本実施形態では、画像抽出工程(ステップ1)で、上述データ処理装置9内で連続的に収録されている溶融池20における周辺画像の1フレーム分を対象として画像抽出が行われる。
【0045】
溶融池20の周辺の画像抽出が行われると、直線エッジ成分検出工程(ステップ2)では、予めCCDカメラ2の手溶接トーチ3への設置位置の固定に対し、CCDカメラ2の視野内に得られる手溶接トーチ電極先端座標(x,y)と、CCDカメラ2の視野の中点(x,y)(CCDカメラ方位の事前設定から、CCDカメラ光軸線と手溶接トーチ中心軸の延長線の交点にほぼ相当)を結ぶ直線に対する垂線Ivを設定し、設定した垂線Iv上のラインプロファイル(輝度分布)を求める。
【0046】
一方、CCDカメラ視野中点から視野の外周に至る直線は、アーク光21、溶融池20、開先加工面(アーク光の反射光)、溶接母材7の表面を順次通ると考えられる。すなわち、「明(光源)」、「暗」、「明」、「暗」の順にプロファイルを有すると予想される。
【0047】
このとき、開先面から溶接母材7の表面に移行する境界に相当する開先端において、輝度が急激に低減する。
【0048】
輝度のこのような急激な低減に対し、開先エッジ線分交点座標算出工程(ステップ43)では、以下に示す分析、処理が行われる。
【0049】
まず、輝度が低減したときの座標と、輝度勾配が負で、かつ勾配の絶対値が最大となる座標点(x,y),(x,y)から求める。
【0050】
このような処理を、上述の垂線Ivに平行な直線に対しても輝度変化の座標を求め、求めた座標を手溶接トーチ3の電極11の左右それぞれの視野内において直線で結び、開先端エッジに相当する2本の線分を検出する。
【0051】
次に、CCDカメラ視野のX,Y座標を基に、検出した2本の線分の交点(CCDカメラ視野における無限遠点)を求める。さらに、開先中心線算出工程(ステップ44)では、開先の中心線は無限遠点を通ることから、この無限遠点と垂線Iv上の開先端に中点{(x+x)/2,(y+y)/2}}に相当する点を結ぶ直線を検出する。検出した直線は、画像上の溶接線(開先の中心線)と見做して扱う。
【0052】
開先中心線と電極先端との画像上距離算出工程(ステップ45)では、検出された中心線と電極先端との距離Dを算出する。
【数1】

【0053】
このようにして距離Dが求められると、画像からの実寸値換算工程(ステップ46)では、画像から実寸値への換算が行われる。すなわち、画像上で得られた寸法が既知の物体のピクセル数、例えば電極の太さを基準として実寸値への換算係数Fを算出し、この換算係数Fを中心線と電極先端の距離Dに乗じることにより、実寸値Mを次式から求める。
【0054】
[数2]
M=F×D
上述に示した各工程による一連の連続した処理を各フレーム毎に算出し、撮像された時間、例えば一定の時間間隔Δtに対応する時系列データを得る。この時系列データを基に、横軸に時間を採り、縦軸に実寸値Mを採ってプロットし、手溶接トーチ運棒の動きの周期や振幅を、手溶接トーチ運棒挙動評価工程(ステップ47)で評価する。
【0055】
このように、本実施形態は、手溶接機一体型撮像装置でトーチ運棒を撮像し、撮像した手溶接トーチ運棒の画像を基にして分析し、処理してトーチ運棒を評価する構成にしたので、溶接士自身の挙動の確認の下、溶接技術のさらなる飛躍のためのデータ情報とすることができ、経験の浅い溶接士の教育資料として溶接技術の継承に寄与することができる。
【0056】
なお、手作業トーチ運棒を評価するにあたり、手溶接トーチ運棒の特徴抽出、換算処理を簡便、かつ高速に行うには、撮影条件を考慮し、幾つかの仮定を採り入れることがある。この仮定として、「CCDカメラが開先中心線軸上近傍にあり、大幅な偏位による左右開先線の実寸換算において、同じ換算係数を用いる」とする要件を採り入れてもよい。
【0057】
また、より局所的な換算係数の取得により、CCDカメラ位置の傾きによる補正を考慮し、溶接速度の計測を含む高い精度の分析評価を行うには、母材開先面に一定(既知)の間隔で直線や点などの印を設け、その印の間隔や画像上での大きさ(ピクセル数)から実寸法に換算してもよい。
【0058】
図5は、TIG手溶接における溶加棒送給量の分析処理を行うフロー図である。
【0059】
溶加棒4は、予め一定間隔で送給量の評価を行うため、マーキングが付される。このマーキングには、例えば、溶加棒の周方向に沿って細く削ったくびれ線が用いられる。くびれ線をマーキングとして用いると、溶加棒罫書刻印位置座標検出工程(ステップ1)では、溶加棒4のくびれ線の角部で、アーク光21の反射率が局所的に変化するので、輝度の高い溶加棒4が撮像、検出される。
【0060】
このようなマーキングを付した溶加棒4を用いて溶接施工したときの画像が図6に示される。この図6中、電極先端(手溶接トーチ先端)、溶加棒軸方向線Pが上述のマーキングを用いることによって可視化されている。
【0061】
また、図6中、溶加棒先端位置の検出は、溶加棒が溶融池に挿入されている状態かどうかの判断が行われる。すなわち、溶加棒が挿入されていない状態においては、開先端での溶融池の形状輪郭の一方の開先側面の延長がなだらかな曲線を描き、反対側の開先側面の輪郭につながるか、あるいはアーク光が重畳することで輝度が高く、しかも境界が不鮮明な輪郭となる。尤も、開先がギャップを有する場合、溶融池の形状輪郭は、開先端における溶融池の形状輪郭線の一部が鋭敏な形状になり、輪郭の輝度が低く、しかも境界が不鮮明になる性質がある。
【0062】
他方、溶加棒が挿入されていない状態になると、溶融池の形状輪郭は変化し、溶加棒挿入部分の溶融池輪郭が溶加棒の渕に接触し、開先端における溶融池の形状輪郭が挿入部近傍で緩やかでなくなる。このため、溶融池と溶加棒の接触部分で局所的に溶融池が盛り上がり、輪郭の鮮明度が高まり、しかも輪郭線の輝度が高くなる。
【0063】
このような事象を利用して、溶加棒先端位置座標検出工程(ステップ2)では、溶融池への溶加棒の挿入の成否の判定と溶加棒先端位置検出が行われる。
【0064】
また、ラインプロファイル(輝度分布)処理工程(ステップ3)では、電極先端位置を含む溶加棒軸方向線Pのラインプロファイル(輝度分布)が図6に示す画像から求められる。
【0065】
また、図6に見られる溶融池周辺の画像では、溶加棒表面に3箇所の罫書刻印N,N,Nからの反射光による輝度の高い領域が認められる。図6に示した溶加棒軸方向線Pに沿って手溶接トーチ先端部から罫書刻印N,N,Nの位置までの輝度分布を求めたのが図7である。そして溶加棒の送給に伴い、時間経過とともに溶加棒が消費され、罫書刻印N,N,Nは、画像の最も遠い場所に出現し、溶融池に向って順次移動し、最後に溶加棒先端位置と重なって溶融池内に消滅する。
【0066】
このとき、個々の画像に対し、得られた溶加棒先端位置座標と罫書刻印N,N,Nの位置座標との間の距離Dwを求め、上述の手溶接トーチ運棒と同様に、時系列データを得る。得られた時系列データは図8に示される。
【0067】
図8では、プロットしたデータに鋸歯状の最遠罫所刻印検出位置急変部分が現れるが、これは、手溶接の進行に伴い溶加棒が消費されるとともに、罫書きの相対位置が変化し、映像視野の端から順次新しい罫書き刻印が出現するためである。
【0068】
溶加棒の送給量を評価するには、鋸歯状プロットを実際の溶加棒送給状況に対応した直線状のプロットに変換した上で溶加棒の長さあるいはその直径を考慮し、溶加棒送給体積量に変換する処理が必要とされる。
【0069】
このため、送給量積算処理工程(ステップ4)では、上述の鋸歯状プロットにおいて、得られた距離Dwの隣りの画像の変化量を求め、この大きさが画像上で溶加棒に付した罫書刻印N,N,Nの間隔に相当するピクセル量Iを求めるとともに、距離Dwからピクセル量Iを差し引いた値を積算距離Dwcとして算出する。
【0070】
検出される罫書刻印が変わる度にピクセル量Iを差し引く回数は、順次増えていくため、最終的に積算距離Dwcは負の値となるが、解析対象となる全ての画像フレームの処理が終了した時点で再スタートを原点に採り、傾きを正負逆に変換して再び処理する。
【0071】
送給量積算処理工程(ステップ4)で得られた処理結果は、図9に示される。
【0072】
送給量積算処理工程(ステップ4)の終了後、消費された溶加棒の実寸への換算が実寸換算処理工程(ステップ54)で行われる。
【0073】
溶加棒の送給速度の評価は、罫書変位フィッティング工程(ステップ6)で、上述の溶加棒の実寸への換算データを対象にして全体または部分の領域に分割し、直線フィッティングによる近似計算から傾きを求め、最終的に、溶加棒送給量、速度評価工程(ステップ7)で溶加棒の送給量および送給速度の評価を行う。
【0074】
このように、本実施形態は、手溶接機一体型撮像装置で溶加棒のラインプロファイル(輝度分布)を撮像し、撮像した溶加棒のラインプロファイルの画像を基に分析し、処理して溶加棒の送給量、速度を評価する構成にしたので、溶接上自身の挙動の確認の下、溶接技術のさらなる飛躍のためのデータ情報とすることができ、経験の浅い溶接士の教育資料として溶接技術の継承に寄与することができる。
【0075】
図10は、溶融池形状の分析処理を行うフロー図である。
【0076】
本実施形態に係る溶融池形状を分析処理するアルゴリズムは、溶融池側面輪郭検出工程(ステップ1)、重畳箇所輪郭推定工程(ステップ2)、溶融池面積評価工程(ステップ3)、実寸換算工程(ステップ4)を備えて構成されている。
【0077】
まず、溶融池側面輪郭検出工程(ステップ1)では、溶融池表面のアーク光反射率が低く、開先面での反射率が高いため、電極先端位置を中心として360°全周方向のラインプロファイル(輝度分布)を求め、電極先端からの輝度変化をトレースした後、得られる座標点の集合に楕円形状の当て嵌めを行い、溶融池の大まかな輪郭の検出が行われる。
【0078】
また、溶融池側面輪郭検出工程(ステップ1)では、予め求めておいた溶加棒の送給位置、電極の位置を基にして溶融池が開先面と接する側面部の輪郭を検出する。
【0079】
電極先端位置から開先面までの線分上でのラインプロファイルは、アーク光、溶融池表面、ビード表面、開先側面に沿って「明」、「暗」、「明」、「明」の順になり、溶融池の輪郭は、「暗」、「明」へのラインプロファイル変化を閾値処理して検出する。
【0080】
検出された輪郭座標点を基に、楕円近似を行うとともに(重畳箇所輪郭検出工程、ステップ2)、楕円の面積を溶融池面積評価工程(ステップ3)で求める。
【0081】
溶融池面積評価工程(ステップ3)で楕円の面積が求められると、求められた楕円の面積を基にして実寸換算工程(ステップ4)で画像上の溶融池面積を実寸に換算する。実寸への換算後、電極や溶加棒に隠れた箇所の情報を利用することなく溶融池面積の評価が得られる。
【0082】
このように、本実施形態は、手溶接機一体型撮像装置で溶融池のラインプロファイルを撮像し、撮像した溶融池のラインプロファイルの画像を基に溶融池の形状を分析、処理する構成にしたので、溶接士自身の挙動の確認の下、溶接技術のさらなる飛躍のためのデータ情報とすることができ、経験の浅い溶接士の教育資料として溶接技術の継承に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係る手溶接作業分析装置の実施形態を示す概念図。
【図2】本発明に係る手溶接作業分析装置に適用する手溶接一体型撮像装置を示す概念図。
【図3】本発明に係る手溶接作業分析装置に適用する手溶接一体型撮像装置で撮像された溶融池周辺を示す画像図。
【図4】本発明に係る手溶接作業分析装置における手溶接トーチ運棒の分析処理を示すフロー図。
【図5】本発明に係る手溶接作業分析装置における溶加棒の送給量分析処理を示すフロー図。
【図6】本発明に係る手溶接作業分析装置における手溶接トーチ先端部分および溶加棒のラインプロファイルを示す画像図。
【図7】本発明に係る手溶接作業分析装置における画像化された溶加棒のピクセル輝度を示す線図。
【図8】本発明に係る手溶接作業分析装置における溶加棒先端、罫書刻印間距離の実寸換算後を示す線図。
【図9】本発明に係る手溶接作業分析装置における溶加棒積算送給量を示す線図。
【図10】本発明に係る手溶接作業分析装置における溶融池の形状の分析処理を示すフロー図。
【符号の説明】
【0084】
1 手溶接機一体型撮像装置
2 CCDカメラ
3 手溶接トーチ
4 溶加棒
4a 輪郭
5 溶接士
6 電源装置
7 溶接母材
8 画像データ収録装置
9 データ処理装置
10 ディスプレイ装置
11 電極
11a 電極先端部
12 軸方向位置調整スライド部
13 カメラ仰角調整スライド部
14 軸方向位置固定ねじ部
15 カメラ仰角位置固定ねじ部
16 ケーブル
17 カメラレンズ
18 光学フィルタ
19 カメラ位置固定部
20 溶融池
21 アーク光
22 開先エッジ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手溶接作業対象周辺に設置した監視カメラで撮影した溶接施工中の溶融池周辺の画像情報を分析、処理する手溶接作業分析装置において、手溶接トーチに監視カメラを一体接続させる手溶接機一体型撮像装置と、この撮像装置からの画像のデジタル信号を処理、収録する画像データ収録装置と、収録された画像をデータとして情報処理するデータ処理装置と、処理した情報をディスプレイするディスプレイ装置とを備えたことを特徴とする手溶接作業分析装置。
【請求項2】
監視カメラは、溶接アーク光のピーク波長から離れた帯域に通過域を有する光学フィルタを備えたことを特徴とする請求項1記載の手溶接作業分析装置。
【請求項3】
手溶接機一体型撮像装置は、監視カメラで撮像された画像を基に溶接中の手溶接トーチの挙動を分析する際、画像中の溶接母材の開先端におけるアーク光の反射強度のコントラストの変化から開先端輪郭線位置を検出するとともに、画像から検出される手溶接トーチの先端位置とで手溶接トーチねらい位置を換算し、前記手溶接トーチのトーチ運棒の分析データを取得する構成にしたことを特徴とする請求項1記載の手溶接作業分析装置。
【請求項4】
手溶接機一体撮像装置は、監視カメラで撮像された画像を基にTIG溶接分析を行う際、溶加棒に一定間隔で印を付すとともに、印を付した溶加棒の溶融池への挿入位置、手溶接トーチの電極先端と溶融池との距離、溶加棒の送給量のデータを取得する構成にしたことを特徴とする請求項1記載の手溶接作業分析装置。
【請求項5】
溶加棒に一定間隔で付した印は、その周方向に沿って細く削ったくびれ線であることを特徴とする請求項4記載の手溶接作業分析装置。
【請求項6】
手溶接一体撮像装置は、監視カメラで撮像された画像を基にTIG溶接分析を行う際、溶融池表面におけるアーク光の反射と開先表面での反射の相違から溶融池の輪郭形状を取得する構成にしたことを特徴とする請求項1記載の手溶接作業分析装置。
【請求項7】
手溶接作業対象周辺に設置した監視カメラで撮影した溶接施工中の溶融池周辺の画像情報を分析、処理する手溶接作業分析装置において、手溶接トーチに監視カメラを一体接続させる手溶接機一体型撮像装置と、この撮像装置からの画像のデジタル信号を処理、収録する画像データ収録装置と、収録された画像をデータとして情報処理するデータ処理装置と、処理した情報をディスプレイするディスプレイ装置とを備える一方、前記手溶接機一体撮像装置は、前記監視カメラを前記手溶接トーチに対して移動せる軸方向位置調整スライド部と、カメラ仰角を調整するカメラ仰角調整スライド部とを備えたことを特徴とする手溶接作業分析装置に適用する手溶接トーチ一体型監視カメラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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