説明

手織機

【課題】 筬の往復動に連動して自動的に綜絖が上下して手作業のみの布織作業を可能とし、踏み木を廃止することによって、車椅子の状態で作業に着くことができるリハビリ用の手織機を提供する。
【解決手段】 糸巻部1から繰り出されるたて糸3を、綜絖4,5によって上下に分離させ、その上下に分離したたて糸の間に杼によって横糸を通し、その横糸を筬6によって幅寄せしながら布を形成する手織機において、水平方向に筬6を押し出す動きに連動して、綜絖4,5が交互に上下する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足踏み作業を不要とした手織機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より織物は、たて糸の間に横糸を交差して織り込みながら形成するものであるが、古くより使用される手織機は、図7に示すように、たて糸を繰り出す糸巻き部と、その繰り出されたたて糸を案内する間丁と、その間丁から延びたたて糸を上下に分離する綜絖と、綜絖によって上下に分離したたて糸の間に通す杼と、杼によって通された横糸を打ち付けて幅寄せを行う筬を有している。
平織布を織る場合、一対の綜統の一方を上に上げ、他方を下げる。次にこの逆になるように上下動を織る人が足で踏木を操作することによってたて糸の間を開け、その間に杼を通すことにより横糸を通してゆく。杼を1回通すごとに筬によって横糸の織しめが行われ布になってゆき、布巻に巻き取られる。
そして、綜絖を上下させるために、踏み木を交互に足で踏むことによって、両綜統枠が交互に上下動するようになっている。
そして、このような手織機に関する技術として特開昭50−157662号公報記載の技術が知られている。
【特許文献1】特開昭50−157662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の手織機は踏み木を足で交互で操作しなければならず、足が不自由な人には操作ができないという問題があった。そして、足の位置に踏み木があるために、車椅子に乗った状態では作業ができない。
また、手作業のみにて作業を行う手織機もあるが、綜絖を上下させるには、別途特別の操作が必要であり、作業効率が低下するという問題がある。
本発明は係る従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、筬の往復動に連動して自動的に綜絖が上下して手作業のみの布織作業を可能とし、踏み木を廃止することによって、車椅子の状態で作業に着くことができるリハビリ用の手織機を提供することにある。さらに、身障者、お年寄りに織物作業を通じて生きがいを与える手織機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するための手段として、請求項1記載の手織機では、糸巻部から繰り出されるたて糸を、綜絖によって上下に分離させ、その上下に分離したたて糸の間に杼によって横糸を通し、その横糸を筬によって幅寄せしながら布を形成する手織機において、 水平方向に筬を押し出す動きに連動して、綜絖が交互に上下する構成とした。
【0005】
請求項2記載の手織機では、請求項1記載の手織機において、綜絖を吊り下げた状態で保持し、回動することによって綜絖を上下させる回動部と、回動部に連結されて動力を受けて回動部を回動させる2本の係止棒と、係止棒に筬の水平動を伝達する伝達部とを備え、前記係止棒は伝達部上に載せられた状態で配置され、係止棒の下側には伝達部に係止する段差とその段差を解消するガイドとが配置され、筬を押し出すと伝達部が一方側の係止棒を前進させて回動部を回転させ、それと同期して他方側の係止棒を後退させ、筬を戻すと伝達部が2本の係止棒の下を滑りながら戻り、伝達部が戻った時点で後退した他方側の係止棒の段差に係止し、再び筬を押し出すと他方側の係止棒を前進させて回動部を回転させる構成であり、一方側の係止棒を前進させる時に、同期して後退してくる他方側の係止棒の段差をガイドが解消して引っ掛かりを防止する構成とした。
【0006】
請求項3記載の手織機では、請求項2記載の手織機において、前記係止棒は、先端から基端方向へ向かって下側が緩やかに傾斜して盛り上がり、その傾斜が所定長さ確保された所で直角に落下して段差が形成され、その段差からさらに基端方向へ向かった部分にはガイドが吊り下げられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、前記構成を採用することにより、以下の効果が得られる。
請求項1記載の手織機においては、水平方向に筬を押し出す動きに連動して、綜絖が交互に上下する構成としたので、手作業のみで容易に布を織ることができる。
また、踏み木を必要としないので、車椅子に乗った足の不自由な障害者でも、車椅子に乗った状態で作業に着くことができる。
【0008】
請求項2記載の手織機においては、2本の係止棒を使用するので、これらの係止棒が交互に筬の動きを捉えて綜絖を上下させる。
また、係止棒には一方方向へのみ係止する段差が形成されているので、これらの段差に伝達部が確実に係止して動力を伝達する。
さらに、係止棒にはガイドが備えられているので、このガイドが引っ掛かりを防止して係止棒を交互に係止する。
また、伝達部と2本の係止棒、その係止棒の段差及びガイドにより、筬の動に連動して交互に綜絖が上下する確実な動力伝達機構が構成される。
【0009】
請求項3記載の手織機においては、係止棒は、先端から基端方向へ向かって下側が緩やかに傾斜して盛り上がり、その傾斜が所定長さ確保された所で直角に落下して段差が形成されているので、一方向へのみ係止し逆方向へはスムーズに通過する段差が形成される。
また、段差からさらに基端方向へ向かった部分にはガイドが吊り下げられているので、このガイドにより係止棒と伝達部の係止が交互に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0011】
以下、本発明の具体的実施例を説明する。
本発明の一実施例に係る手織機は、図1〜図5に示すように、たて糸を巻き付けている糸巻き部1と、糸巻き部1から繰り出されるたて糸をガイドする間丁2と、間丁2から水平方向へ延びるたて糸3と、そのたて糸3が通過する2枚の綜絖4,5と、綜絖4,5によって二分されたたて糸の間に横糸を通す杼と、杼によって通された横糸を手前に打ち付ける筬6と、織られた布を巻き付ける胸木7を主要な構成としている。
装置本体は床面から架台8によって所定の高さに支えられ、装置の右側(図1参照)には作業者が位置する操作部9が配置され、その操作部9には車椅子に乗った状態で着くことができるように広い幅が確保されている。
本発明の手織機は踏み木を廃止し、その部分は床面となっているので、車椅子の前輪の進入スペースが確保されている。また、胸木が下から斜めに上に突き出しているので、車椅子が進入し易く、また、後退し易い構造となっている。
【0012】
前記一対の綜絖4,5は外枠の中に横一連にたて糸の通過孔が形成され、その通過孔にたて糸を通し、挿通されたたて糸が交互に上下に分離するようになっている。
この綜絖は前後に2枚設けられて回動部11から吊り下げた状態で配置されている。綜絖4,5の外枠には2箇所にベルト10が取付けられ、それらのベルト10が回動部11を回って一対の綜絖4,5を吊り下げた状態で保持している。
また、綜絖4,5の下側にも同様に2箇所にベルト12が取付けられ、回動部13を回って一対の綜絖を保持している。
このように綜絖を配置しているために、一方の綜絖が下降すると他方の綜絖が上昇し、また一方の綜絖が上昇すると他方は下降する。また、下側にもベルト12が取付けられているので、綜絖4,5が横にぶれずに対面した状態ですれ違いながら上下する。
【0013】
装置本体の中央部分には左右に支柱14が立設され(図1省略、図2、3参照)、その支柱14の上端に突軸15が載せられて回動部11が掛け渡されている。この回動部11は両端を支柱14に支えられて回動することになる。
また、その支柱14の上端からは前後方向に水平横架材16が延びて、その横架材16に筬6が吊り下げられている。
その横架材16には支軸17を係止して棒材18が吊り下げられ、その棒材18の下部に筬6が固定されている。よって、支軸17を中心として棒材18が前後に傾き、それによって筬6も前後動するように構成されている。
【0014】
前記回動部11の上側と下側には突片19が配置されている(図3参照)。この突辺19は係止棒20,21同士が干渉しないように幅を確保すべく横にやや間隔を開けて配置されている。そして、突片19は回動部11を挟んで180度逆の方向へ突起している。そのため、綜絖が同一高さの時点でそれぞれの突片は上下へ向かっている。
突片19の先端には係止棒20,21の基端が回動自在に連結されている。
【0015】
前記2本の係止棒20,21はそれぞれ左右対象の直状部材によって形成されている。係止棒の先端22は回動部から外れるのを防止するため鈎錠に下に折れ曲がり、先端から基端方向へ向かって下側23が緩やかに傾斜して盛り上がり、その傾斜23が所定長さ確保された所で直角に落下して段差24が形成されている。この段差24は伝達部25が前進方向へのみ衝突して係止し、後退方向へは係止しない構成である。
また、段差24からさらに基端方向へ向かった部分には横へピン26が突設されてそのピンにガイド27が吊り下げられている。
このガイド27はピン26から吊り下げられて前後に自由に回動するように構成されている。そして、ピンの段差側にはガイドの回動を規制するストッパ28が配置されている。このストッパ28はガイドが段差側へ回動する角度を規制するものであり、ガイド27はその先端が段差24の頂部近辺まで傾動して達し、ストッパ28によってそれ以上の傾きが阻止されている。
これは、伝達部25と段差24がすれ違う時にガイド27が伝達部25に接触して傾き、段差24に被さるようにして段差を解消するためである。
【0016】
前記横架材16から吊り下げられた筬6からは、前後方向に水平の連結材29が延び、その先端が傾動棒30へ連結されている。この傾動棒30は下端を架台8に回動自在に支持され、支点31を中心として前後に傾動するように構成されている。そして、傾動棒30の上部には伝達部25が横方向に連結されている。
伝達部25は横水平方向へ延びる棒材であり、左右を傾動棒30に支持されて傾動部と共に前後動する。
このように構成されているため、筬6を前後に動かすと、その動きは連結材29を伝って傾動棒30を傾動させ、この傾動により伝達部25を前後に動かすことになる。
この伝達部25は2本の係止棒20,21に筬の動きを伝達する部分であり、2本の係止棒を載せた状態で配置している。
一方側の係止棒が引っ張られると、他方側の係止棒が引っ込むように動く。
【0017】
次に図4、図5に基づいて本発明の手織機の作用を説明する。
作業者は車椅子に搭乗した状態で操作部に着く。このとき装置本体には踏み木が無いため、車椅子を奥まで進入させることが可能となる。また、胸木7は斜めにせり出しているために、車椅子が入りやすい。そのため、身障者のリハビリを目的とした作業が可能となっている。
作業者が筬6を押し出すと、連結部29を介してその動きが傾動棒30に伝わり、伝達部25を前方へ押し出すことになる。伝達部25では第1係止棒21の段差に係止して係止棒21を前進させる。係止棒21が前進することにより回動部11が回動する。回動部11の回動によりベルト10が回り綜絖を上下させる。これによってたて糸が上下に二分され、分離したたて糸の間に杼を通す(図4(イ))。
【0018】
横糸を通した後に筬6を打ち付けて横糸を布に寄せる。このとき、筬を引き寄せるのであるが、この動きは連結部29を介して伝達部25を後退させることになる。この後退時には係止棒20,21は動かずに、伝達部25が係止棒の下を滑りながら後退する。係止棒20,21の下側には傾斜が形成されているのでこの傾斜を乗り上げながら後退する。伝達部25はガイド27に接触するが、ガイド27は後方へ倒れて伝達部25との衝突はなく、スムーズに通過する。そして、筬を後退させた時点で第2係止棒20の段差24に落下して伝達部25が係止する(図4(ロ))。
【0019】
次に、再び杼を通すために筬6を前方に押し出す。今度は、第2係止棒20が段差に係止しているので前方へ押し出される。この動きに従って、回動部11が回動して綜絖4,5が上下すると共に、第1係止棒21が後退する。
ここで、後退してくる第1係止棒21の段差24と伝達部25がすれ違うことになる(図4(ハ))。本来はこの第1係止棒21の段差24と伝達部25が係止して伝達部25の前進が阻止されることになる。しかし、本発明では、ガイド27が伝達部25によって押されて斜めに傾いてストッパ28で停止する。そして、このガイド27がピン26から段差24の頂部へ向かう緩やかな傾斜を形成することになる。そして、ガイド27の傾斜を利用して第1係止棒21が段差24を乗り越えることになる。伝達部25が乗り越えた後はガイド27は自重により垂下する。
【0020】
そして、第2係止棒20が前進することにより回動部11が回動する。回動部11の回動によりベルト10が上下して綜絖4,5を上下させる。これによってたて糸が上下に二分され、分離したたて糸の間に杼を通す(図5(ニ))。
【0021】
次に、横糸を通した後に筬6をその横糸に打ち付けて横糸を布に寄せる。このとき、筬を引き寄せるのであるが、この動きは伝達部を後退させることになる。この後退時には係止棒は動かずに、伝達部が係止棒の下を滑りながら後退する。係止棒の下側には傾斜が形成されているのでこの傾斜を通過して後退する。ガイドは伝達部と接触するが、後方へ倒れて伝達部との衝突はなく、スムーズに通過する。そして、筬を後退させた時点で今度は、第1係止棒21の段差に落下して伝達部が係止する(図5(ホ))。
【0022】
次に、再び杼を通すために筬6を前方に押し出す。今度は、第1係止棒21が段差に係止して前方へ押し出される。この動きに従って、回動部11が回動して綜絖が上下すると共に、第2係止棒20が後退する。
ここで、後退してくる第2係止棒20の段差と伝達部がすれ違うことになる(図5(ヘ))。本来はこの第2係止棒の段差と伝達部が係止して伝達部の前進が阻止されることになる。しかし、本発明では、ガイド27が伝達部25によって押されて斜めに傾いてストッパ28で停止する。そして、このガイド27がピン26から段差24の頂部へ向かう緩やかな傾斜を形成することになる。そして、ガイドの傾斜を利用して第2係止棒20が段差を乗り越えることになる。伝達部が乗り越えた後はガイドは自重により垂下する。
以下、上記(イ)〜(ヘ)の工程を繰り返しながら織り布を形成する。
【0023】
以上、実施例を説明したが、本発明の具体的な構成は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、段差の形状については伝達部の一方側方向の滑りへのみ係止し、逆方向へは係止しない構造であれば、他の形状を採用することも可能である。
また、ガイドの形状としては、同期して後退してくる係止棒の段差を解消する構成であれば、他の形状を採用することも可能である。
また、図6に本願発明を具現化した小型の実物機の写真図を添付する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】手織機の概略側面図である。
【図2】手織機の概略平面図である。
【図3】回動部及び係止棒の構造を示す斜視図である。
【図4】(イ)(ロ)(ハ)順に手織機の作用を示す説明図である。
【図5】(ニ)(ホ)(ヘ)順に手織機の作用を示す説明図である。
【図6】本願発明を具現化した小型の実物機の写真図である。
【図7】従来例に係る手織機の説明図である。
【符号の説明】
【0025】
1 糸巻き部
2 間丁
3 たて糸
4 綜絖
5 綜絖
6 筬
7 胸木
8 架台
9 操作部
10 ベルト
11 回動部
12 ベルト
13 回動部
14 支柱
15 突軸
16 横架材
17 支軸
18 棒材
19 突片
20 係止棒
21 係止棒
22 先端
23 下側
24 段差
25 伝達部
26 ピン
27 ガイド
28 ストッパ
29 連結材
30 傾動棒
31 支点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸巻部から繰り出されるたて糸を、綜絖によって上下に分離させ、その上下に分離したたて糸の間に杼によって横糸を通し、その横糸を筬によって幅寄せしながら布を形成する手織機において、
水平方向に筬を押し出す動きに連動して、綜絖が交互に上下する構成とした手織機。
【請求項2】
綜絖を吊り下げた状態で保持し、回動することによって綜絖を上下させる回動部と、回動部に連結されて動力を受けて回動部を回動させる2本の係止棒と、係止棒に筬の水平動を伝達する伝達部とを備え、
前記係止棒は伝達部上に載せられた状態で配置され、係止棒の下側には伝達部に係止する段差とその段差を解消するガイドとが配置され、
筬を押し出すと伝達部が一方側の係止棒を前進させて回動部を回転させ、それと同期して他方側の係止棒を後退させ、筬を戻すと伝達部が2本の係止棒の下を滑りながら戻り、伝達部が戻った時点で後退した他方側の係止棒の段差に係止し、再び筬を押し出すと他方側の係止棒を前進させて回動部を回転させる構成であり、
一方側の係止棒を前進させる時に、同期して後退してくる他方側の係止棒の段差をガイドが解消して引っ掛かりを防止する構成とした請求項1記載の手織機。
【請求項3】
前記係止棒は、先端から基端方向へ向かって下側が緩やかに傾斜して盛り上がり、その傾斜が所定長さ確保された所で直角に落下して段差が形成され、
その段差からさらに基端方向へ向かった部分にはガイドが吊り下げられていることを特徴とする請求項2記載の手織機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−307378(P2006−307378A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131138(P2005−131138)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(500335745)
【Fターム(参考)】