説明

手術部位に注入及び吸引を行うためのポンプの駆動及び制御システム

液体を注入及び吸引すべき医療用ポンプシステムであり、1回使用した後に廃棄できる費用効率的なシステムである。このシステムは、ポンプ作用を受ける流体圧力のピークと谷(変動)を緩和させる緩和機構も含み得る容積式ポンプ64,80、例えば往復動ポンプを特徴とする。緩和機構は、キャビテーションの防止に重要である。本発明の実施形態は、さらに、注入される或る流体、例えば造影剤が、ポンプ作用により患者から直ちに排出されないように、引出し側に遮断弁76を有することを特徴とする。好的な実施形態において、本発明は、注入側と引出し側における流体の圧力/容積を独立に制御するための手段、セルフプライミング能力、連続した流体通路、及び、気泡の目視的検知部20を有することを特徴とし、気泡の目視的検知部は、前記流体通路の重要な地点、例えばポンプ及び弁の位置に配置された覗き窓を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、一般に、流体を患者に注入し、また患者から吸引することを、好ましくは同時に行う医療装置及び医療処置に関する。より詳細には、本発明は、カテーテル、導管又はチューブを通して液体を手術部位に注入し、また手術部位から吸引するための、複数回使用可能な、好ましくは使い捨てのポンプシステムに関する。
【発明の背景】
【0002】
診断治療及び治療処置中に生じた組織屑を洗い流すためにポンプ機構を用いることは新規ではない。例えば、米国特許第6,258,061号(ドレイスラー)(Drasler)及び米国特許第5,879,361号(ナッシュ)(Nash)を参照されたい。これらの発明は、血管の詰まりを除去するためにカテーテルを用いることを記載しており、これらは、血栓を除去するために、フラッシング(洗浄)機構に連結された回転衝撃ヘッドを用い(ナッシュ)、又は、血栓を除去するために流体の高圧噴射を用いる(ドレイスラー)。
【0003】
ナッシュは、注入ポンプ及び引出しポンプとして蠕動ポンプを用いることを開示している(ナッシュ)。蠕動ポンプは、医療用途で幅広く利用されるための多くの特性を有する。蠕動ポンプは、或る範囲の圧力において流れを正確に計量する。ポンプサイクル中の流量の最大変化及び最小変化は、平均流量と大差がない。ポンプの流体通路(例えば、チューブ)は容易に滅菌され、目に見える。動作していないとき、蠕動ポンプヘッドを通って漏れる量は、あっても極めて少ない。
【0004】
しかし一方で、蠕動ポンプは比較的エネルギー効率が悪く、従って、AC電源又は大きいバッテリを電源として必要とする。実際、このようなポンプを用いるポンプシステムは、通常、手術室の「滅菌野」の範囲内に収まらないほどに大きい。従って、このようなポンプシステムは、一般に、手術室から離れた領域に、医者から距離を有して配置され、医者は別の人間に、ポンプシステムを実際に操作し、又は少なくとも監視するように指示しなければならない。
【0005】
ドレイスラーは、血管内の血栓を乳化するために噴流を用いることを開示している。記載されている高圧噴流は、衛生的理由により使い捨て可能に設計された「容積式ポンプ、例えばピストンポンプを用いて」生成される(ドレイスラー)。ポンプは拍動流下又は定常流下で動作できる。ドレイスラーにより記載された発明は、流体の排出を、カテーテル入口のスプレーをカテーテルの排出出口に向けることにより可能にし得る。或いは、「破片化した血栓又は組織を除去するためにバキュームポンプを設け、又は、類似の作用を得るためにローラポンプを用い得る」。
【0006】
ドレイスラーの発明は、高圧の用途、例えば、液体噴流を用いた血栓の切断及び乳化に適している。しかし、医療的インターベンションが、他の処置、例えば、診断用薬剤の注入又は治療に関するものである場合、このような単一シリンダの往復動ポンプは、その設計により、ポンプサイクル中の瞬間流量が大きく変化する。瞬間流量の変動は、最小流量のゼロから、平均流量より数倍大きい最大流量の範囲にわたる。変動する流量は、吸引圧力に著しい影響を及ぼす。
【0007】
ポンプピストンの前後運動の結果としての瞬間流量の変化は、患者とポンプを連結する導管内の液体が、流れが増大する間は加速され、流れが減少する間は減速されることを要求する。流体を吸引するとき、導管内の流れを加速するために必要な力は、ポンプ入口の圧力低下をもたらす。流量の変化は、また、カテーテルにおける瞬間摩擦損失を増大する。なぜなら、摩擦損失は流れの速度の2乗に関連しているからである。瞬間最大流における摩擦損失は、平均流量での定常流に関連する損失よりも実質的に高い。増大した損失を補うために必要な力もまた、ポンプ入口の圧力低下をもたらす。
【0008】
上記の影響は両方共、吸引ポンプにおいて特に問題である。なぜなら、ポンプにおける最小圧力は液体の蒸気圧までに限定されるからである。もし、圧力が液体の蒸気圧まで低下すると、キャビテーションが生じ(液体が沸騰するため)、吸引が妨害されるであろう。特に、蒸気の発生が液体の実際の引出し速度を不確定にするであろう。さらに、もしシステムがその時点で遮断されたならば、気泡がカテーテルを押し戻されて患者に入ることが、少なくとも理論的に起こり得る。これは、例えば、ガイドコネクタブランチ上の注入ポートを作動させて薬剤又は造影剤を導入したことにより、吸引通路の流れが逆になった場合に起こり得る。
【0009】
往復動ポンプに関する別の欠点は、ポンプを停止したときにポンプから生じる漏れである。漏れは流れの方向に生じ、意図された方向だけにほぼ無制限に流れを許容するチェック弁の、ポンプ内での配置が原因である。この欠点は、吸引導管が、高圧環境、例えば動脈に配置された場合に問題となり、又は、吸引が停止したきに吸引導管が、投与薬剤又は他の液体を導入するための通路として用いられる場合に問題となる。特に、動脈血圧は、吸引導管から出血させ、吸引ポンプを通して吸引又は引出しバッグに到達させるに十分である。
【0010】
本発明は、先行技術のこれら及び他の問題点に対処し、これらを解決する。
【発明の概要】
【0011】
往復動タイプのポンプを医療用途に用いるには、このポンプに特有のこれらの限界があるが、往復動ポンプの効率及び経済性は魅力的で無視できない。従って、本発明の目的は、生物の医療処置中に患者に流体を注入し、また患者から流体を排出させる、蠕動ポンプの代わりとなる効率的で低コストのポンプを提供することにある。
【0012】
本発明の目的は、病院の手術室の滅菌領域内に容易に収まるように十分に小型の注入/排出ポンプを提供することにある。
【0013】
本発明の目的は、ポンプユニットを1回だけ使用した後に廃棄することが妥当とされるほどに経済的な注入/排出ポンプを提供することにある。
【0014】
本発明の目的は、吸引圧力の変動を緩和するための手段を有する往復動タイプのポンプを提供することにある。
【0015】
本発明の目的は、吸引ポンプシステムへの逆流を防止するための手段を提供することにある。
【0016】
本発明の目的は、流体通路、特に注入流体路における気泡を目視的に検査するための手段を提供することにある。
【0017】
本発明の目的は、セルフプライミング(自己呼び水)式のポンプシステムを提供することにある。
【0018】
本発明の目的は、流体回路を流れる流体の通常の前方への流れを一時的に停止し、カテーテルを超えた、すなわち、カテーテルより後ろの地点で吸引路を閉鎖し、これにより、カテーテルの注入口を介して診断又は治療用の薬剤を患者に注入できることにある。
【0019】
本発明のポンプシステムは、これら及び他の目的を達成する。詳細には、本発明のポンプシステムは、屑を一掃するためにカテーテルに流体を流して引き出すために、蠕動タイプでない容積式ポンプ、例えば、往復動ポンプを用いる。本発明は、さらに、流れ制御装置、例えばパルスダンパ及び遮断弁、及び、プロセスを制御するためのコントローラを有することを特徴とする。これらの特徴の組合せが、高効率、低コスト及び小型寸法を含む全ての望ましい特性を有する注入/吸引回路をもたらす。
【0020】
本発明の他の目的、及びそれに伴う利点の多くは、以下の詳細な説明を添付図面と共に参照し、考察することで本発明がより良好に理解されることにより、容易に認識されるであろう。
【好適な実施形態の説明】
【0021】
本発明の目的は、診断治療及び治療処置に用いるための小型の使い捨て医療装置のニーズに適した注入/吸引ポンプシステムを提供することにある。本文中に用いられる用語「吸引」(“aspiration”)と「引出し」(“extraction”)は本質的に同義である。好ましい実施形態において、本発明のシステムは、安価な非蠕動タイプのポンプ、例えば単一シリンダの往復動ポンプを組み込むことにより、使い捨て装置として用いるのに適し、このポンプは、他の流体制御要素と共に用いられることで、蠕動ポンプ設計の流れ特性と類似の流れ特性を達成し、しかもコスト及び寸法がかなり低減される。図1を参照されたい。本発明は、本発明のポンプと類似の流れ容積を有する蠕動ポンプを組み込んだ現在の当分野のシステムと比較して寸法が縮小されており、システムの全体が手術室環境の滅菌野内に収まることを可能にし、従って、手術を行う外科医が医療処置中に、システムに、よりアクセスし易い。往復動ポンプのコストの低減は、使い捨ての設計の費用効率を高めることを可能にし、ポンプ機構をその使用後に洗浄又は再滅菌する必要をなくす。
【0022】
本発明の好ましい実施形態のポンプシステム(図2を参照)は、セルフプライミングを行い得る容積式ポンプ、例えば往復動ポンプを用いて、医学的なインターベンション治療中の注入64及び吸引80のために流体流を駆動させる。本発明の流体制御要素は、往復動ポンプに特有の流れ特性を、緩衝機能、及び、スタート/ストップ、すなわち弁機能をもたらすことにより(後に説明する)、流れがインターベンショナルな医療処置での使用に一層適するように変える。さらに、好ましい実施形態は、透明な覗き窓20を有する、より可視的な通路をもたらし、こうして、通路は、ポンプシステムの使用前及び使用中に目視により検査され得る。
【0023】
先に述べたように、往復動タイプのポンプに関する問題の1つは、ポンプ作用を受けている媒体の圧力及び流量の変化又は変動であり、これは、医学的インターベンション、例えばカテーテル法においてしばしば不都合である。従って、現在まで、このような処置には蠕動ポンプが好まれている。本発明は、単一シリンダの往復動ポンプの、流れが変動する不都合に対処する。これは、弾性の要素(例えば、図3及び図4a〜図4cに示されているような、ダイヤフラム30又はダンパばね40及びダンパピストン42、又はエラストマ導管44)を、ガイドカテーテル72と吸引ポンプ80の入口との間の流体通路(図6bに示す)に組み込んで、パルスダンパとして作用させ、導管内の瞬間流量を平滑化することにより行われる。弾性要素は、流体圧力の増大に応じて或る短い距離変形する(図示せず)ことにより、導管内の流れを平滑化する。これは、流体のための有効容積を増大する作用を有し、これにより、ポンプサイクルの高圧部において、導管からの液体(及びエネルギー)を効率的に保存する。逆に、流体圧力が低下するとき、弾性要素は反対方向に移動して、流体のための有効容積を効率的に減少させ、それにより、ポンプサイクルの低圧部においては液体(及びエネルギー)をシステムに解放する。弾性要素は、液体のための有効容積を増大して圧力を低減し、また、液体のための有効容積を低減して圧力を増大させることにより緩衝作用をもたらす簡単な薄壁のエラストマ導管44又は他の任意の通路であり得る。
【0024】
往復動ポンプに関するもう1つの問題、すなわち、漏れの問題も思い出されたい。システムの電力供給が絶たれてポンプが停止されても、流体が流体回路を前方に流れるための開放路がなお存在する。従って、動脈内カテーテルがポンプシステムに取り付けられる動脈インターベンションにおいて、患者の血圧により患者が連続的に、回路の吸引側から出血することがある。好ましい実施形態は、往復動ポンプの漏れの問題を、遮断弁38又は遮断弁51(図3,図5a及び図5bに示す、後に説明する)を、吸引ポンプ80(図6bに示す)への入口に追加することにより解決する。弁38又は弁51は、吸引ポンプ80が停止されたとき、流体通路32を閉鎖する。弁38又は弁51は、多数の手段により、すなわち、電子、導管内の圧力レベル、若しくはポンプ内の圧力レベル、又は手動制御により作動されることができる。導管内の圧力レベルによる作動は特に有益である。なぜなら、このような弁が、患者の血管又はその他の体腔内での過剰圧力の蓄積を防止することを保証し、また一方で、より低圧での流れ、例えば、心血管系の動脈側で典型的に生じる血圧レベルでの流れを防止する。このような弁は、しばしば「圧力作動」(“pressure activated”)弁と称される。
【0025】
好ましい実施形態、例えば、図3に示されている実施形態において、遮断弁38の実施形態は緩衝機構の特徴も組み込み得る。これは、大気圧に露出されたダイヤフラム30の形態の弾性要素により達成されることができ、ダイヤフラム30は、弁が開いているときに、流体通路32内の吸引流量の変化がダイヤフラム30のコンプライアンスにより最小化されるように大気圧に露出されている。吸引ポンプ80が動作していないとき、身体からの動脈圧34がばね35と協働してディスク33を閉じ、それにより、流体通路32を通しての吸引を停止させる。遮断弁38は、吸引ポンプ80が作動されてダイヤフラム30及びディスク33の両方に減圧が加えられると、流体通路32を再び開くことになる。このとき減圧は、流体通路32からダイヤフラム30に、流体バイパスポート31を介して伝達される。ダイヤフラム30の面積が、ディスク33の面積と比較してより大きいことが、ダイヤフラム30に作用する大気圧が、ディスク33に作用するばね35の圧力及び動脈圧34を克服することを可能にし、流体通路32を再び開かせ、流体通路32を通しての引出しを可能にする。
【0026】
別の実施形態、すなわち、図5a及び図5bに示された実施形態において、遮断弁51は、薬剤、造影剤又は他の流体57を注入通路55を通して注入するときに作動され得る。弁51は、特に注入通路55を有することが弁38と異なり、通路55は弁注入ポート53を通じてアクセスされ得る。遮断弁51は、流体57の注入が行われるときに、流体通路32を通しての吸引を閉鎖する。これは、注入される流体57の流れが患者に向かわずに引出しポンプ80に向かうことを防止するために望ましい。これは、流体57の注入が注入通路55内の圧力を増大させ、弁ダイヤフラム56及びプランジャ58に作用し、それにより弁ばね54を圧縮して、プランジャ58に、吸引ポンプ80に通じる流体通路32を通る吸引流を停止させることにより達成される。この実施形態には、さらなる圧力作動弁(図示せず)が必要であろう。この圧力作動弁は、吸引ポンプ80が動力供給されていない状態のときに吸引流体が動脈圧により流体通路32に沿って流れることを防止するためのものである。この圧力作動弁は、所定のラインプレッシャ(流路圧力)又は「クラッキング圧」が得られた後にのみ流れを許容するように設定され得る。この圧力は、吸引ポンプ80が作動しているときには弁が開かれているように、動脈圧よりわずかに高い圧力に設定され得る。
【0027】
単一シリンダの往復動ポンプ、パルスダンパ及び遮断弁の組合せは、高効率、低コスト及び小寸法を含む全ての望ましい特性を有する吸引回路をもたらす。
【0028】
単一シリンダ往復動ポンプは、注入ポンプ回路のために、ポンプの流体通路を目で検査できないことを除いては魅力的な選択肢をもたらす。動脈系又は静脈系に用いられる注入装置は、偶発的な空気の注入を防止するための保護物を有する必要がある。保護のための効率的で安価な手段は、注入前及び注入中に流体通路を目視的に検査することである。
【0029】
往復動ポンプは、本質的に、シリンダ内を前後に移動するピストン、及び、シリンダに出入りする流れを制御する2つの逆止弁から成る。本発明の実施形態は、透明な覗き窓20(図2に示したような)を設け、また透明な管21を用いることにより、目視的検査に関する問題を軽減する。さらに、入口66及び出口68のチェック弁を透明な材料からつくることができる。さらに、好ましい実施形態において、ポンプのこれらの要素が流体通路の可視領域に移動されている。このようにして、容易に点検されることができない残りのポンプ容積がポンプのシリンダ容積まで減らされる。この実施形態に用いられる安価なポンプのための典型的なシリンダ容積は、注入装置の基準に記載されている懸念される閾値よりも小さい。
【0030】
図2を再び参照すると、図示されているポンプシステムは、本発明により考案された実施形態の例示であり、小型化されて低コストの使い捨てパッケージ内に、往復動ポンプ64,80を、これらの往復動ポンプに固有の流れ特性を変えるための流れ制御装置(例えば、遮断弁76、パルスダンパ78など)と共に組み込むことを含む。小型の寸法は、装置の全体が手術室の滅菌野の範囲内に配置されることを可能にし、これにより、外科医がポンプシステムを自ら監視及び/又は制御することを可能にする。
【0031】
先行技術の蠕動ベースのポンプシステムの多くとは異なり、本発明の注入ポンプ64及び吸引ポンプ80は、単一のハウジング23内に、供給及び引出しのための必要なチューブ84,45及び弁66,68(図6a及び図6bを参照)と共に配置され得る。好ましい実施形態において、ハウジング23はモジュール設計で形成されることができ、1つのモジュールが、往復動ポンプ64,80、チューブ21,84,85及び弁66,68,76を収容し、第2のモジュールが、ポンプ及び/又は弁を制御するための必要な電子部品及びユーザインタフェースを収容する(図示せず)。この実施形態はシステムの滅菌を容易にするであろう。特に、ポンプ64,80、及び弁66,68,76がガンマ線照射を用いて最良に滅菌されるときに容易になるであろう。しかし一般に、電子部品はガンマ線照射を用いて滅菌できない。モジュール型の設計により、電子部品を収容しているセクションはポンプシステムの残りの部分から分離して滅菌され得る(放射線を用いない方法、例えば、酸化エチレンを用いて)。
【0032】
図6bに示されている往復動吸引ポンプ80は、インターベンション治療中に、流体及びあらゆる屑を患者から吸引するために用いられ得る。すなわち、ポンプ80は、診断又は処置(例えば血管形成)中に生じたあらゆる屑を除去するために吸引し、これは、管腔、例えばカテーテル72を通して屑を引き出すことにより行われる。吸引ポンプ80の流量は、病巣部位を洗浄し又は揺動させるに十分な流れをもたらすことだけが要求される注入ポンプ64(図6a参照)の流量と一致するか、又はそれを超えることができる。この不均衡な流れは、屑が患者の脈管系の残りの部分に流し込まれずに患者から排出されることを保証するために用いられ得る。導入される液体より多量の液体を除去することにより、正味流量は、システム内に移動する幾らかの血液を有することになり、これにより、生じた全ての屑を、前記移動する幾らかの血液と共に運ぶ。もちろん、血液が患者から抜き取られることになるため、これらの流量は制御されなければならない。一実施形態において、吸引ポンプ80の流量は、例えば40mL/分〜200mL/分の範囲であり得る。吸引ポンプ80は、往復動ピストンポンプであってよく、より好ましくは、往復動ダイヤフラムポンプ、例えば、ACIメディカル社(ACI Medical)(カリフォルニア州、サンマルコス)又は他の製造業者により提供されている往復動ダイヤフラムポンプでよいが、類似の流量を有する蠕動ポンプと比較して、低コスト、縮小寸法の条件を満たす任意の容積式ポンプであってもよい。使用において、吸引ポンプ80の入口を、流体を患者から引き出すのに好適な導管、例えばガイドカテーテル72に連結する。弁(用いれば)を吸引ポンプ80に連結し、吸引ポンプ80は、流体を引出しバッグ82又は容器に送るために導管又は柔軟な吸引チューブ85に連結される。図6bに示されている往復動注入ポンプ64は、処置中に流体を患者に配送するために用いられ、例えば、注入ポンプ64は、流体(例えば、生理食塩水、薬剤及び/又は造影剤)を処置部位(例えば、伏在静脈移植片、頚動脈など)に注入させ、屑を動かして処置を目視できるようにする。一実施形態において、注入ポンプ64の流量は、例えば、20mL/分〜50mL/分の範囲であり得る。注入ポンプ64は、先に論じたように、往復動ダイヤフラムポンプであっても、或いは往復動ピストンポンプであってもよい。
【0033】
使用において、柔軟な注入チューブ84は、注入される流体の源、例えばリザーババッグ62に連結され、リザーババッグ62は、概して、注入ポンプ64より約2フィート(0.610m)上に配置されて、幾らかの正の上部圧力をポンプに加える。注入ポンプ64からの出口が、柔軟な注入チューブ84の導管を介して、流体を身体内に注入する手段、例えば、洗浄カテーテル70に連結される。カテーテル70は71に挿入され、ガイドコネクタブランチ74を介してガイドカテーテル72の内径に挿入されることができ、最終的にガイドカテーテル72の端部から延び出て、処置部位(例えば、伏在静脈移植片、頚動脈など)に入る。
【0034】
吸引ポンプ80及び注入ポンプ64は、ポンプ速度の決定を可能にする機構、例えば、回転モータシャフトの反射面から反射された光を検知する光学センサ、或いは、シャフトの回転速度に比例した変動電圧を検知するセンサ、又は、ポンプの回転を検知する他の任意の手段を含み得る。このようにして、制御システムが、ポンプ速度を監視、維持又は変更するために、或いは、必要であればアラームを、例えばモータが失速した場合に作動させるために用いられ得る。
【0035】
異常な事象又は流れの状態に応答して、ポンプの瞬間速度の変化があるであろう。容積式ポンプは、蠕動ポンプと違って流体と密接に接触しており、システムの必要条件を満たすための十分な流れをもたらす寸法につくられることを意図されている。詰まったカテーテルはポンプを失速させ、詰まりが解消されるまでポンプ作用を停止させるであろう。この特徴が、蠕動システムに要求されるような圧力センサを設ける必要をなくす。なぜなら、容積式ポンプは、かなり大きく恐らく危険な圧力を、ポンプを失速させずに生じるほど強力ではないからである。反対に、ポンプ作用を受ける流体が液体から気体に変化するならば、ポンプは、負荷の大幅な減少により速度を著しく増すであろう。従って、制御システムはこれらの実施形態に非常に適している。
【0036】
負荷変動に対するポンプの感度は、プライミング(始動)プロセス中にも有用である。液体より先に空気がポンプから排除されているとき、ポンプは比較的速く動作し、次いで、液体がポンプシリンダに到達したならば、ポンプはかなり失速する。速度の変化は検知可能であり、ポンプに液体が呼び込まれていることを操作者に通知するために用いられることができる。もし、始動されたシステムが大きな漏れを生じ、その結果、空気が取り込まれてポンプの速度を増した場合にも、同じ速度変化が逆に生じるであろう。先に述べたように、この状態は検知され、例えばアラームを作動するために用いられことができる。
【0037】
ここで、本発明のポンプシステムの典型的な実施形態の使用について説明する。
【0038】
図6a及び図6bは、流体通路を示す。例示の便宜上、流体通路を、注入(図6a)と引出し(図6b)に概略的に分けて示している。詳細には、流体回路は、リザーババッグ62、注入ポンプ64、注入ポンプ入口チェック弁66、注入ポンプ出口チェック弁68、洗浄カテーテル70、ガイドカテーテル72、注入ブランチ73を有するガイドコネクタブランチ74、遮断弁76、パルスダンパ78、内部入口及び排出チェック弁(図示せず)を有する吸引ポンプ80、引出しバッグ82、並びに、注入のための柔軟なチューブ84及び吸引のための柔軟なチューブ85から成り、チューブ84及びチューブ85は、流体を上記構成要素の1つから次の構成要素に運ぶための、好ましくは透明な又は半透明の種類のチューブである。こうして、通常の動作中、リザーババッグ62からの流体は、注入ポンプ入口チェック弁66を通って注入ポンプ64に流れ、注入ポンプ64にて送出され、注入ポンプ出口チェック弁68を超えて、柔軟な注入チューブ84を通り、洗浄カテーテル70の入口部分に入る。そこから流体は、カテーテル70の遠位端から出て、診断治療又は治療処置を受ける患者の身体内の病巣又は処置部位に流れ込む。同時又はほぼ同時に、患者の身体から除去されるべき処置部位内の流体が、圧力下、例えば血圧により、又は減圧が加えられてガイドカテーテル72の遠位端に流れ込み(カテーテル70はガイドカテーテル72に、ガイドコネクタブランチ74を介して挿入され得る)、ガイドカテーテルの近位端を通過し、ガイドコネクタブランチ74内に入り、次いで、柔軟な吸引チューブ85に入る。そこから、引き出された流体が遮断弁76(ダンパ弁78に組み込まれてもよく(図3に示されているように)、又は、ダンパ弁78とは独立のユニットであってもよい)を通過し、その後、吸引ポンプ80に流れ込む。吸引ポンプ80は内部チェック弁(図示せず)を含んでもよく、或いは、外部チェック弁が注入ポンプ64の弁と類似の動作をしてもよい。最後に、吸引ポンプ80からの流体が、より柔軟な吸引チューブ85を通って流れ、引き出しバッグ82により収集される。ここで、実際の医学的インターベンションにおける本発明のポンプシステムの動作をより完全に説明するために、動脈への造影剤の注入について記載する。
【0039】
[生理食塩水の注入の開始]
ポンプ64,80をプライミングした後、又は、より好ましくは、ポンプ64,80のセルフプライミング能力を利用した後、生理食塩水リザーババッグ62を、空気をシステム内に取り込むことを回避するための高い位置に配置し、次いで、洗浄カテーテル70をガイドワイヤ上に、当分野で知られている技術を用いて差し込む。この取付け手順は、洗浄カテーテル70の先端にてカテーテルのすぐ内側に小さい気泡を閉じ込める可能性がある。この場合、注入ポンプ64内を通る開放流路が存在することが、カテーテル70を能動的に流れて気泡を排出させる液滴を形成するように働く。ここで、洗浄カテーテル70をガイドワイヤに沿ってスライドさせ、そして、病巣部位に通じるガイドカテーテル72内に(ガイドコネクタブランチ74を介して)つなげる。ポンププロセスを、最初に吸引ポンプ80を所定時間動作させて、注入ポンプ64が作動する前に吸込圧力を確立することにより開始する。注入ポンプ64は、吸引ポンプの流量よりもかなり低い流量で作動される。これは、屑がガイドカテーテル72内ではなく処置部位の遠位側に押し流されるといったことが起こらないことを保証するためである。
【0040】
さらに別の実施形態において、屑を遠位方向に全く流れさせずに強力に洗浄され得る領域をつくるために遠位バルーン(図示せず)を用い得る。さらに、注入される流体よりも多くの流体を吸引することが、屑が近位方向の動脈(など)に戻ることを防止する。
【0041】
[造影剤の注入]
造影剤を注入するために、リザーババッグ62からの生理食塩水の流れを停止し、引出し側の遮断弁76を閉じる。自動制御システムを用いて、これらのステップをほぼ同時に行うことができる。造影剤を入れた注射器(図示せず)から空気を追い出し、ガイドカテーテル72の近位端に配置されたガイドコネクタブランチ74の注入口73に挿入する。この注射器のプランジャを押し、それにより造影剤をガイドコネクタブランチ74に注入する。この注入口がガイドコネクタブランチ74の引き出し側75への直接の流路にあることに留意されたい。従って、遮断弁76は「閉鎖」位置になくてはならない。そうでなければ、ガイドコネクタブランチ74の引出し側75が生じる抵抗が、ガイドコネクタブランチ74の「患者」側77の抵抗と比較して低いことにより、造影剤の大部分がガイドコネクタブランチ74から直接外に出て、最終的に、造影剤が注入されるべき患者にではなく、引出しバッグ82に到達することになろう。注入が完了したとき、注射器は、ガイドコネクタブランチ74に残されても、又は引き抜かれてもよい。目視化による補助が必要な部位に造影剤が十分に拡散されたならば、ポンプシステムは、先に述べた手順と同じ手順で再び作動され得る。
【0042】
医療的診断処置又は治療処置が完了したならば、ポンプの電源を切り、最初に注入ポンプ64が停止される。引出し側の遮断弁76を閉じる。カテーテル70を患者の身体から引き抜く。生理食塩水を引き出しバッグ82内に排出又は送出してラインを一掃する。次いで、液流回路を分解し、ポンプシステムを廃棄し得る。再使用されるべき部品があれば、洗浄及び滅菌を行う。
【0043】
本文中に開示した発明は、本発明の精神又は一般的特徴から逸脱せずに他の特定の形態で具体化されることができ、それらの形態の幾つかは本文中に示されている。従って、本文中に記載された実施形態は全ての点において例示的であり、現在又は将来の知識を用いることで限定されることはないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の説明によってではなく添付の特許請求の範囲により示されるものとし、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内にある全ての変更が、特許請求の範囲に包含されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のポンプシステムの概略図であり、注入ポンプの外側の入口チェック弁及び出口チェック弁の目に見える配置を示す。
【図2】本発明のポンプシステムの分解図であり、注入ポンプ、吸引ポンプ及び引出し遮断弁を、ハウジング内に収容されるように示す。
【図3】本発明の実施形態に記載された、組み合わされた引出し遮断弁とダンパの拡大断面図である。
【図4a】パルスダンパの拡大断面図であり、ダイヤフラムタイプタイプのダンパを示す。
【図4b】パルスダンパの拡大断面図であり、エラストマチューブタイププのダンパを示す。
【図4c】パルスダンパの拡大断面図であり、ピストンタイプのダンパを示す。
【図5a】圧力作動遮断弁の拡大断面図であり、圧力作動遮断弁が開放位置にあり、流体が吸引ポンプに流れることを可能にする様子を示す。
【図5b】圧力作動遮断弁の拡大断面図であり、圧力作動遮断弁が閉鎖位置にあり、吸引ポンプが作動しておらず、流体、造影剤又は薬剤が注入され、加えられる様子を示す。
【図6a】本発明のシステムの流体通路の注入通路を示した部分の概略図であり、流体の流れが、大きい矢印の方向により示されているように、リザーババッグからカテーテルに向かっている様子を示す。
【図6b】本発明のシステムの流体通路の吸引通路を示した部分の概略図であり、流体の流れが、大きい矢印の方向により示されているように、概してカテーテルから引出しバッグに向かっている様子を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が生物に対して注入及び吸引される医療用途に用いるためのポンプシステムであって、
(a)液体を前記患者に注入するための手段と、
(b)液体を前記患者から吸引するための手段であり、各々が蠕動タイプポンプ以外の、入口及び出口を有する容積式ポンプを含み、少なくとも前記ポンプの入口側に配置された遮断弁を含む、手段と、
(c)ポンプ作用を受ける液体の圧力変動を緩和するためのダンパ装置と、
(d)前記ポンプを制御するための手段と、
(e)前記制御手段に命令を入力するためのユーザインタフェースと
を備えるポンプシステム。
【請求項2】
さらに、注入側及び引出し側の流体の圧力又は容積を独立に制御する手段を備える請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項3】
前記システムが、注入ポンプ手段から患者を通って吸引ポンプ手段へと通じる連続した流体通路を、前記ポンプ手段が動作しているとき及び休止しているときに維持することができる請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項4】
前記システムがセルフプライミングを行うことができる請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項5】
さらに、気泡の目視的検知部を備える請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項6】
前記気泡の目視的検知部が、流体通路に配置された覗き窓を含む請求項5に記載のポンプシステム。
【請求項7】
前記覗き窓位置がポンプ及び弁を含む請求項6に記載のポンプシステム。
【請求項8】
単一のポンプが、前記注入手段のための正圧、前記引出し手段のための負圧の両方をもたらす請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項9】
前記注入手段と前記引出し手段が別々のポンプによりもたらされる請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項10】
前記注入手段がピストンポンプを含む請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項11】
前記引出し手段がダイヤフラムポンプを含む請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項12】
前記ポンプがモータにより駆動され、前記モータが速度センサを含む請求項9に記載のポンプシステム。
【請求項13】
前記速度センサからの電気出力が、前記モータの前記速度を調節するための負のフィードバックループに用いられる請求項12に記載のポンプシステム。
【請求項14】
前記速度センサからの電気出力が、アラーム状態が検知されたならば前記モータの一方又は両方を停止させるための制御システムにより用いられる請求項12に記載のポンプシステム。
【請求項15】
前記ダンパ装置が流体回路の引出し側に配置されている請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項16】
前記遮断弁もまた前記ダンパ装置として機能する請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項17】
前記制御手段が、前記注入手段及び引出し手段から容易に取り外し可能である請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項18】
液体が生物に対して注入及び吸引される医療用途に用いるためのポンプシステムであって、
(a)液体を前記患者に注入するための手段と、
(b)液体を前記患者から吸引するための手段であり、各々が蠕動タイプポンプ以外の、入口及び出口を有する容積式ポンプを含み、少なくとも前記ポンプの入口側に配置された遮断弁を含む、手段と、
(c)前記ポンプを制御するための手段と
を備えるポンプシステム。
【請求項19】
液体が生物に対して注入及び吸引される医療用途に用いるためのポンプシステムであって、
(a)液体を前記患者に注入するための手段と、
(b)液体を前記患者から吸引するための手段であり、各々が蠕動タイプポンプ以外の容積式ポンプを含む、手段と、
(c)ポンプ作用を受ける液体の圧力変動を緩和するためのダンパ装置と
(d)前記ポンプを制御するための手段と
を備えるポンプシステム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が生物に対して注入及び吸引される医療用途に用いるためのポンプシステムであって、
(a)液体を前記患者に注入するための手段と、
(b)液体を前記患者から吸引するための手段であり、各々が蠕動タイプポンプ以外の、入口及び出口を有する容積式ポンプ(64,80)を含み、少なくとも前記ポンプの入口側に配置された遮断弁(76)を含む、手段と、
(c)前記ポンプを制御するための手段と、
を備えるポンプシステム。
【請求項2】
さらに、注入側及び引出し側の流体の圧力又は容積を独立に制御する手段を備える請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項3】
前記システムが、注入ポンプ手段から患者を通って吸引ポンプ手段へと通じる連続した流体通路を、前記ポンプ手段が動作しているとき及び休止しているときに維持することができる請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項4】
セルフプライミングを行うことができる請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項5】
さらに、気泡の目視的検知部を備える請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項6】
単一のポンプが、前記注入手段のための正圧、前記吸引手段のための負圧の両方をもたらす請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項7】
前記注入手段と前記吸引手段が別々のポンプによりもたらされる請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項8】
前記注入手段がピストンポンプを含む請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項9】
前記吸引手段がダイヤフラムポンプを含む請求項1に記載のポンプシステム。
【請求項10】
前記ポンプがモータにより駆動され、前記モータが速度センサを含み、前記速度センタからの電気出力が前記モータの速度を調節するための負のフィードバックループで用いられる請求項7に記載のポンプシステム。
【請求項11】
さらに、ポンプ作用を受ける液体の圧力変動を緩和するためのダンパ装置を備える請求項1に記載のポンプシステム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−500175(P2006−500175A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540181(P2004−540181)
【出願日】平成15年9月23日(2003.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2003/029941
【国際公開番号】WO2004/028592
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(504164491)ケンジー ナッシュ コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】