説明

抄紙方法及び抄紙装置

【課題】パルプスラリー中への填料の混合や、ワイヤーへのワイヤー延命剤の添加を行うことなく、ワイヤー全体の摩耗進行を抑制することができ、ワイヤーの取替え頻度を低減することができる抄紙方法及び抄紙装置を提供する。
【解決手段】抄き網を環状の無限軌道ベルトに構成したワイヤー2と、ワイヤー2に当接するように配置され、ワイヤー2の走行とともに回転する、複数のワイヤーロール4と、を備えた抄紙装置1を用い、ワイヤー2表面に、パルプスラリー9を噴き付け、ワイヤー2の網目からパルプスラリー9に含まれる水分を搾水することにより、薄層状の湿紙10を形成する湿紙形成工程50において、ワイヤー2とワイヤーロール4とのニップ部に対し、ワイヤー2の幅方向全域に水を噴き付けながらワイヤー2を走行させ、湿紙10を形成する抄紙方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙方法及び抄紙装置に関するものである。より具体的には、抄紙方法のうちのパルプスラリーから湿紙を形成する湿紙形成工程及び抄紙装置のワイヤーパートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、抄き網を環状の無限軌道ベルトに構成したワイヤーと、前記ワイヤーに当接するように配置され、前記ワイヤーの走行とともに回転する、複数のワイヤーロールと、を備えた抄紙装置が用いられている。
【0003】
このような抄紙装置では、ワイヤーの摩耗が激しく、ワイヤーの取り替えが頻繁に行われると、ワイヤーの取り替えによる操業停止によって、生産性が著しく低下することになる。
【0004】
そこで、ワイヤーの摩耗進行を抑制してワイヤーの取り替え頻度を低減させるための対策として、内添填料として使用する重質炭酸カルシウムに珪砂を混合して抄紙することにより、ワイヤーの摩耗進行を抑制する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、填料が内添されたパルプスラリー中にアルミナやジルコニアを添加した紙料を用いて抄紙することにより、ワイヤーの摩耗進行を抑制する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
更に、紙層が載らないワイヤーの耳部が他の部分より摩耗し易いことに着目し、その摩耗し易いワイヤーの耳部にワイヤー延命剤を添加することにより、ワイヤーの摩耗進行を抑制する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−144190号公報
【特許文献2】特開平10−298894号公報
【特許文献3】特開2007−16362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1又は2に記載の方法は、パルプスラリーに填料を添加する必要があることから、填料を含む湿紙がヤンキードライヤーのシリンダー表面に貼り付けられることになり、当該シリンダー表面のコーティングに悪影響を及ぼすおそれがあった。
【0009】
ヤンキードライヤーにおいては湿紙をシリンダー表面に貼り付けて乾燥し、クレーピングドクターによりクレープを形成しつつシリンダー表面から剥離することによって原紙(湿紙を乾燥したもの)を得る。この際、原紙がシリンダー表面から剥離する剥離力(接着力)を一定にし、均一なクレープを形成するために、シリンダー表面にはコーティング剤が散布されている。
【0010】
しかし、パルプスラリーに填料を添加した場合には、その填料を含む湿紙がシリンダー表面と接触することによってコーティング剤が消失し、前記剥離力(接着力)が不均一となる場合があった。このような場合、原紙に均一なクレープを形成することができず、乾燥斑の発生、巻き取り形状の不具合、紙質のばらつき等の原紙の品質低下が生ずる他、生産性や作業性の悪化にも繋がり好ましくない。また、ワイヤーのうち、パルプスラリーが噴き付けられないワイヤーの幅方向側縁部(耳部)の摩耗を抑制することができないという問題があった。
【0011】
更に、特許文献3に記載の方法は、ワイヤーのうち、パルプスラリーが噴き付けられるワイヤーの幅方向中央部の摩耗を抑制することができないという問題があった。
【0012】
本発明は、前記のような従来技術が有する課題を解決するためになされたものであり、パルプスラリー中への填料の混合や、ワイヤーへのワイヤー延命剤の添加を行うことなく、ワイヤー全体の摩耗進行を抑制することができ、ワイヤーの取替え頻度を低減することができる抄紙方法及び抄紙装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、パルプスラリーが噴き付けられる抄き網であるワイヤーと、そのワイヤーの走行とともに回転するワイヤーロールとの当接部分(ニップ部)に、水を噴き付けることにより上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明によれば、以下の抄紙方法及び抄紙装置が提供される。
【0014】
[1]抄き網を環状の無限軌道ベルトに構成したワイヤーと、前記ワイヤーに当接するように配置され、前記ワイヤーの走行とともに回転する、複数のワイヤーロールと、を備えた抄紙装置を用い、前記ワイヤー表面に、パルプスラリーを噴き付け、前記ワイヤーの網目から前記パルプスラリーに含まれる水分を搾水することにより、薄層状の湿紙を形成する湿紙形成工程において、前記ワイヤーと前記ワイヤーロールとのニップ部に対し、前記ワイヤーの幅方向全域に水を噴き付けながら前記ワイヤーを走行させ、前記湿紙を形成する抄紙方法。
【0015】
[2]前記ニップ部に対しワイヤー走路川上側から水を噴き付ける前記[1]に記載の抄紙装置。
【0016】
[3]前記ニップ部に対して水を噴き付ける際に、前記ワイヤーの幅方向における特定領域に対し、他の領域に比して多量の水を噴き付ける前記[2]に記載の抄紙方法。
【0017】
[4]前記ワイヤーの厚さを測定し、前記ワイヤーの幅方向におけるワイヤー厚さが薄い領域に対し、他の領域に比して多量の水を噴き付ける前記[3]に記載の抄紙方法。
【0018】
[5]前記ワイヤーの乾燥度を測定し、前記ワイヤーの幅方向におけるワイヤー乾燥度が高い領域に対し、他の領域に比して多量の水を噴き付ける前記[3]に記載の抄紙方法。
【0019】
[6]抄き網を環状の無限軌道ベルトに構成したワイヤーと、前記ワイヤーに当接するように配置され、前記ワイヤーの走行とともに回転する、複数のワイヤーロールと、を備えた抄紙装置であって、前記ワイヤーと前記ワイヤーロールとのニップ部に対し、前記ワイヤーの幅方向全域に水を噴き付けるシャワーを更に備えた抄紙装置。
【0020】
[7]前記シャワーが、前記ニップ部に対しワイヤー走路川上側に配置されている前記[6]に記載の抄紙装置。
【0021】
[8]前記シャワーは、前記ワイヤーの幅方向に向かって複数のシャワーノズルが配置されるとともに、前記シャワーノズルの前段に、前記シャワーノズルに供給される水量を調整するバルブが付設されたものである前記[7]に記載の抄紙装置。
【0022】
[9]前記シャワーは、前記複数のシャワーノズルが一体的な多口シャワーとして構成され、前記多口シャワーを前記ワイヤーの幅方向に往復運動させるアクチュエーターを備えた前記[8]に記載の抄紙装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明の抄紙方法及び抄紙装置は、パルプスラリー中への填料の混合や、ワイヤーへのワイヤー延命剤の添加を行うことなく、ワイヤー全体の摩耗進行を抑制することができ、ワイヤーの取替え頻度を低減することができる。従って、ワイヤーの取替えによる操業停止時間を減少させることができ、生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の抄紙方法及び抄紙装置の一の実施形態を模式的に示す工程図である。
【図2】図1に示す抄紙方法及び抄紙装置において用いたシャワーを模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の抄紙方法及び抄紙装置を実施するための形態について図面を参照しながら具体的に説明する。但し、本発明はその発明特定事項を備える抄紙方法及び抄紙装置を広く包含するものであり、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0026】
[1]本発明の抄紙方法の特徴:
本発明の抄紙方法は、図1に示すように、湿紙形成工程50において、ワイヤー2とワイヤーロール4とのニップ部に対し、ワイヤー2の幅方向全域に水6を噴き付けながらワイヤー2を走行させ、湿紙10を形成する点に特徴がある。
【0027】
ワイヤー2とワイヤーロール4とのニップ部に対して水6を噴き付けながらワイヤー2を走行させることで、パルプスラリー9中への填料の添加やワイヤー2へのワイヤー延命剤の添加を行うことなく、ワイヤー2の磨耗を抑制することができる。
【0028】
また、ワイヤー2の幅方向全域に水6を噴き付けながらワイヤー2を走行させることで、パルプスラリー9中への填料の添加やワイヤー2へのワイヤー延命剤の添加を行った場合とは異なり、幅方向全域に渡ってワイヤー2の磨耗を抑制することもできる。
【0029】
このように、本発明の抄紙方法によれば、ワイヤー2の取替え頻度が低減し、ワイヤー2の取替えによる操業停止時間も減少するため、抄紙の生産効率を向上させることができる。
【0030】
[2]本発明の抄紙方法及び抄紙装置の構成:
本発明の抄紙方法は、必須工程として、パルプスラリーから薄層状の湿紙を形成する湿紙形成工程を備え、必要に応じて脱水工程、乾燥工程、カレンダー加工工程、巻取り工程等を備える。以下、工程毎に説明する。
【0031】
[2−1]湿紙形成工程:
図1に示すように、湿紙形成工程50は、パルプスラリー9に含まれる水分を搾水することにより、薄層状の湿紙10を形成する工程である。
【0032】
パルプスラリーとしては、例えば、広葉樹材、針葉樹材から得られる化学パルプ、新聞古紙、上質古紙、OA古紙等を脱墨処理して得られる脱墨古紙パルプ等に対し、水、各種添加剤(例えば、染料、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等)等を添加し、スラリー状としたものを用いることができる。
【0033】
図1に示すように、パルプスラリー9に含まれる水分の搾水は、抄き網を環状の無限軌道ベルトに構成したワイヤー2と、ワイヤー2に当接するように配置され、ワイヤー2の走行とともに回転する、複数のワイヤーロール4と、を備えた抄紙装置1を用いて行うことができる。抄紙装置1のうち、ワイヤー2とワイヤーロール4によって構成される部分は、ワイヤーパート40と称される。湿紙形成工程50は、このワイヤーパート40において行われる。
【0034】
具体的には、ワイヤー2の表面にパルプスラリー9を噴き付け、ワイヤー2の網目からパルプスラリー9に含まれる水分を搾水する。網状に構成されたワイヤー2の表面にパルプスラリー9を薄く噴き付け、ワイヤー2の網目からパルプスラリー9中の水分を除去することで、パルプスラリー9に含まれる水分が搾水され、薄層状の湿紙10が形成される。
【0035】
例えば図1に示すように、パルプスラリー9の噴き付けは、ヘッドボックス8(「フローボックス」、「スタッフボックス」とも称される。)を用いて行うことができる。ヘッドボックス8は、パルプスラリー9を整流し、所望の厚さ、幅、速度でワイヤー2表面に噴き付ける装置である。ヘッドボックスとしては、例えば、開放型、密閉空気加圧型、ハイドローリック型等の従来公知のヘッドボックスを用いることができる。
【0036】
ワイヤー2は、例えば金属、プラスチック等からなる網状体(抄き網)を環状の無限軌道ベルトに構成したものである。ワイヤーとしては、例えば、長網式、円網式、ツインワイヤー式等の従来公知のワイヤーを用いることができる。
【0037】
ワイヤー2は、ワイヤー2に当接するように配置された駆動ロール(自ら回転してワイヤーに推進力を付与するロール)によって走行させる。図1に示す抄紙装置1では2本のフェルトロール24a,24bが駆動ロールであり、フェルトロール24aがワイヤー2を走行させる。即ち、フェルトロール24aが回転し、その回転力がワイヤー2に伝達されることでワイヤー2に推進力が付与される。駆動ロールはワイヤーに推進力を付与できる限り、ワイヤーに直接当接しておらず、他の部材等を介してワイヤーに当接するものであってもよい。図示の例では、駆動ロールであるフェルトロール24aがドライヤーフェルト22、湿紙10を介してワイヤー2に当接している。即ち、ワイヤーロール4の全てを従動ロール(駆動ロールの回転、ワイヤー2の進行に追従して回転するロール)とした例である。但し、複数のワイヤーロール4の全部又は一部が駆動ロールであってもよい。
【0038】
本発明の抄紙方法においては、図1に示すように、ワイヤー2とワイヤーロール4とのニップ部に対し、ワイヤー2の幅方向全域に水6を噴き付けながらワイヤー2を走行させ、湿紙10を形成する。「ニップ部」とは、ワイヤー2とワイヤーロール4との当接部分を意味し、「幅方向全域」とは、パルプスラリー9が噴き付けられるワイヤー2の幅方向中央部のみならず、パルプスラリー9が噴き付けられないワイヤー2の幅方向両側縁部(「耳部」と称される。)も含む趣旨である。
【0039】
ワイヤーは使用を継続すると、劣化してその両側縁部がカールすることがある。この状態でワイヤーを走行させると、ワイヤーの両側縁部がワイヤーロール表面から浮いてスリップし、ワイヤーが磨耗し易くなる。本発明の抄紙方法は、ワイヤーロールに強く当接し、磨耗し易いワイヤーの幅方向中央部は勿論のこと、ワイヤーの幅方向両側縁部における磨耗をも抑制することができる。
【0040】
ニップ部に水を噴き付ける方法については特に制限はない。但し、図1に示すように、シャワー12を用いて水6を噴き付けることが好ましい。シャワー12によれば、簡素な装置で十分な量の水を噴き付けることができる。
【0041】
本発明の抄紙方法においては、ニップ部に対しワイヤー走路川上側から水を噴き付けることが好ましい。例えば、図1に示すように、シャワー12を、ニップ部に対しワイヤー2の走路川上側に配置する。ワイヤー2の走路川上側から水6を噴き付けることで、ワイヤー2の走行に伴ってニップ部に水6が浸入し、水6を噴き付けた効果を十分に得ることができる。
【0042】
なお、「ワイヤー走路の川上側」とは、水を噴き付ける対象となるワイヤーロールと、そのワイヤーロールに隣接し、かつ、ワイヤー走路の川上側に設置されたワイヤーロールとの間の位置を意味する。中でも、水を噴き付ける対象となるワイヤーロールの近傍から水を噴き付けることがより好ましい。
【0043】
また、本発明の抄紙方法においては、ニップ部に対して水を噴き付ける際に、ワイヤーの幅方向における特定領域に対し、他の領域に比して多量の水を噴き付けることが好ましい。即ち、ワイヤーの幅方向全域に均一な量の水を噴き付けるのではなく、ワイヤーの幅方向に向かって水の噴き付け量に差をつけることが好ましい。このような方法により、ワイヤーの磨耗が激しい部分に優先的に水を噴き付けることができ、より効率的にワイヤーの磨耗を抑制することができる。
【0044】
具体的には、ワイヤーの厚さを測定し、ワイヤーの幅方向におけるワイヤー厚さが薄い領域に対し、他の領域に比して多量の水を噴き付けることが好ましい。ワイヤー厚さが薄い領域はワイヤーの磨耗が進行していると考えられるため、当該領域に多量の水を噴き付けることで当該領域の磨耗の進行を遅滞させることができる。ワイヤーの磨耗が激しい部分としては、例えば、スリップによる磨耗が発生し易いワイヤーの幅方向側縁領域を挙げることができる。
【0045】
また、ワイヤーの乾燥度を測定し、ワイヤーの幅方向におけるワイヤー乾燥度が高い領域に対し、他の領域に比して多量の水を噴き付けることも好ましい。乾燥度が高い領域はワイヤーの中でも最も磨耗や劣化が進行し易い。従って、当該領域に多量の水を噴き付けることで、ワイヤーの磨耗や劣化を効果的に抑制することができる。ワイヤーの乾燥度が高い部分としては、例えば、パルプスラリーが噴き付けられないワイヤーの幅方向側縁領域(耳部)を挙げることができる。
【0046】
ワイヤーの乾燥度はワイヤーの走行中においても変化する。例えば、図1に示すようにワイヤー2がワイヤーロール4aを通過した後は、既に水分を含む湿紙10がドライヤーフェルト22に乗り移っているためワイヤー2の乾燥度が高くなる。従って、本発明の抄紙方法においては、ワイヤー2の走路のうち、ワイヤー2の乾燥度が高くなる部分でワイヤー2に対して水6を噴き付けることも好ましい。
【0047】
図1に示す抄紙装置1では、ワイヤーロール4b及びワイヤーロール4cの川上側にシャワー12を設置し、ワイヤー2の乾燥度が高くなるワイヤーロール4aの後段においてワイヤー2に対して水6を噴き付けるように構成されている。
【0048】
なお、ワイヤー2の乾燥度(「キャリーバック」とも称される。)は、ワイヤーの外表面に付着した、或いはワイヤー内部に含まれた水分を以下の方法で回収し、その水分量を測定することにより行うことができる。具体的には、まず、ワイヤーの裏面側(無限軌道内周側)におけるワイヤーから所定の距離だけ離れた位置に、所定のオリフィス径のエアノズルを設置する。次いで、そのエアノズルから所定の圧力でワイヤーに対してエアを吹き付け、ワイヤーの外表面に付着した、或いはワイヤー内部に含まれた水分を回収する。単位時間あたりに回収された水分量を秤量することでワイヤーの乾燥度を測定することができる。
【0049】
水の噴き付け量は特に限定されないが、必要に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。通常、シャワーノズルとしては、1本あたり0.2〜100L/時間の吐出量のものが用いられている。従って、この範囲で適宜決定すればよい。
【0050】
ワイヤーの幅方向全域に水を噴き付けるためには、シャワーが、ワイヤーの幅方向に向かって複数のシャワーノズルが配置されたものであることが好ましい。単一のシャワーノズルから水を噴き付けるよりもワイヤーの幅方向全域に満遍なく水を噴き付けることが可能となる。シャワーノズルの形状は特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、フラットノズル、フルコーン(筒状)等の形状を挙げることができる。
【0051】
また、図2に示すように、シャワー12が複数のシャワーノズル14が配置されたものである場合には、シャワーノズル14の前段に、シャワーノズル14に供給される水量を調整するバルブ16が付設されたものであることが更に好ましい。このように各々のシャワーノズル14にバルブ16を付設することによって、シャワーノズル14毎に水の噴き付け量を変化させることができる。例えば、ワイヤーの幅方向中央領域の水の噴き付け量に対して、ワイヤーの幅方向両側縁領域の水の吹き付け量を増やすといったことも極めて簡便に行うことができる。
【0052】
図2に示すように、シャワー12は、ワイヤーの幅方向全域に水を噴き付けることができるように複数のシャワーノズル14が一体的な多口シャワー20として構成されている。シャワー12は、多口シャワー20をワイヤーの幅方向(図2中、矢印Wの方向)に往復運動させるアクチュエーターを備えていることが好ましい。このような構成によれば、シャワーノズル14の数が少なくてもワイヤーの幅方向全域に満遍なく水を噴き付けることができる。図2に示す多口シャワー20は、複数のシャワーノズル14が一本のパイプ18に取り付けられることにより、一体的に構成されている。
【0053】
多口シャワーをワイヤーの幅方向に往復運動させることができるものである限り、アクチュエーターの種類は特に限定されるものではない。例えば、サーボモーター、油圧シリンダー、空気圧シリンダー、油圧モーター等を挙げることができる。
【0054】
[2−2]脱水工程:
図1に示すように、脱水工程52は、湿紙形成工程50で形成された薄層状の湿紙10の水分を更に除去する工程である。
【0055】
図1に示すように、湿紙10の水分の除去は、フェルトを環状の無限軌道ベルトに構成したドライヤーフェルト22と、ドライヤーフェルト22に当接するように配置され、ドライヤーフェルト22の走行とともに回転する、複数のフェルトロール24と、を備えた抄紙装置を用いて行うことができる。抄紙装置1のうち、ドライヤーフェルト22とフェルトロール24によって構成される部分はプレスパート42と称される。脱水工程52は、このプレスパート42において行われる。具体的には、ワイヤーパート40から送り込まれた湿紙10をドライヤーフェルト22の表面に載置し、繊維状のドライヤーフェルト22を透過させて湿紙10に含まれる水分を更に除去する。
【0056】
[2−3]乾燥工程:
図1に示すように、乾燥工程54は、脱水工程52で水分を除去された湿紙10を乾燥する工程である。
【0057】
図1に示すように、湿紙10の乾燥は、円柱状のドライヤーシリンダー26を備えた抄紙装置により行うことができる。抄紙装置1のうち、ドライヤーシリンダー26が配置された部分はドライパート44と称される。乾燥工程54は、このドライパート44において行われる。
【0058】
具体的には、脱水工程52で水分を除去された湿紙10を、加熱状態としたドライヤーシリンダー26の外周面に圧着させて、更にフード28内部に設置された噴射口からドライヤーシリンダー26の外周側に熱風を噴き付けることで湿紙10を乾燥させ、原紙31を得る。ドライヤーの種類は特に限定されないが、例えば、ヤンキードライヤー等を好適に用いることができる。
【0059】
[2−4]カレンダー加工工程:
図1に示すように、カレンダー加工工程56は、乾燥工程54で湿紙10を乾燥して得られた原紙31にカレンダー加工を施す工程である。
【0060】
カレンダー加工は、図1に示すようなカレンダーロール30と受けロール32を備えた抄紙装置により行うことができる。抄紙装置1のうち、カレンダーロール30と受けロール32によって構成される部分はカレンダーパート46と称される。カレンダー加工工程56は、このカレンダーパート46において行われる。
【0061】
具体的には、乾燥工程54で湿紙10を乾燥して得られた原紙31を、カレンダーロール30と受けロール32の間に挟みこんで押圧することで原紙31表面の平滑化、組織の緻密化、紙厚の均一化、光沢の付与等を行う。
【0062】
カレンダーロール30の種類は特に限定されないが、例えば、金属製のロール等を好適に用いることができる。
【0063】
[2−5]巻取り工程:
図1に示すように、巻取り工程58は、カレンダー加工工程56でカレンダー加工を施した原紙31を巻き取る工程である。
【0064】
巻取りは、図1に示すようなリール34を備えた抄紙装置により行うことができる。抄紙装置1のうち、リール34が配置された部分はリールパート48と称される。巻取り工程は、このリールパート48において行われる。
【0065】
具体的には、カレンダー加工工程56でカレンダー加工を施した原紙31をリール34に取り付けた巻き芯に固定し、リール34を回転させることで、原紙31を巻芯38に巻き取る。この際、湿紙10のドライヤーシリンダー26表面に貼り付けられた面(平滑面)がロールの外側を向くように巻取りを行う。これにより、原紙31がロール状に巻取られた原紙ロール36を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の抄紙方法及び抄紙装置は、ティシュペーパー、キッチンペーパー等のペーパータオル、シート状のトイレットペーパー、ワッティング(紙綿)等の衛生用紙の製造に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
1:抄紙装置、2:ワイヤー、4,4a,4b,4c:ワイヤーロール、6:水、8:ヘッドボックス、9:パルプスラリー、10:湿紙、12:シャワー、14:シャワーノズル、16:バルブ、18:パイプ、20:多口シャワー、22:ドライヤーフェルト、24,24a,24b:フェルトロール、26:ドライヤーシリンダー、28:フード、30:カレンダーロール、31:原紙、32:受けロール、34:リール、36:原紙ロール、38:巻芯、40:ワイヤーパート、42:プレスパート、44:ドライパート、46:カレンダーパート、48:リールパート、50:湿紙形成工程、52:脱水工程、54:乾燥工程、56:カレンダー加工工程、58:巻取り工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄き網を環状の無限軌道ベルトに構成したワイヤーと、前記ワイヤーに当接するように配置され、前記ワイヤーの走行とともに回転する、複数のワイヤーロールと、を備えた抄紙装置を用い、
前記ワイヤー表面に、パルプスラリーを噴き付け、前記ワイヤーの網目から前記パルプスラリーに含まれる水分を搾水することにより、薄層状の湿紙を形成する湿紙形成工程において、
前記ワイヤーと前記ワイヤーロールとのニップ部に対し、前記ワイヤーの幅方向全域に水を噴き付けながら前記ワイヤーを走行させ、湿紙を形成する抄紙方法。
【請求項2】
前記ニップ部に対し前記ワイヤー走路川上側から水を噴き付ける請求項1に記載の抄紙装置。
【請求項3】
前記ニップ部に対して水を噴き付ける際に、前記ワイヤーの幅方向における特定領域に対し、他の領域に比して多量の水を噴き付ける請求項2に記載の抄紙方法。
【請求項4】
前記ワイヤーの厚さを測定し、前記ワイヤーの幅方向におけるワイヤー厚さが薄い領域に対し、他の領域に比して多量の水を噴き付ける請求項3に記載の抄紙方法。
【請求項5】
前記ワイヤーの乾燥度を測定し、前記ワイヤーの幅方向におけるワイヤー乾燥度が高い領域に対し、他の領域に比して多量の水を噴き付ける請求項3に記載の抄紙方法。
【請求項6】
抄き網を環状の無限軌道ベルトに構成したワイヤーと、前記ワイヤーに当接するように配置され、前記ワイヤーの走行とともに回転する、複数のワイヤーロールと、を備えた抄紙装置であって、
前記ワイヤーと前記ワイヤーロールとのニップ部に対し、前記ワイヤーの幅方向全域に水を噴き付けるシャワーを更に備えた抄紙装置。
【請求項7】
前記シャワーが、前記ニップ部に対しワイヤー走路川上側に配置されている請求項6に記載の抄紙装置。
【請求項8】
前記シャワーは、前記ワイヤーの幅方向に向かって複数のシャワーノズルが配置されるとともに、前記シャワーノズルの前段に、前記シャワーノズルに供給される水量を調整するバルブが付設されたものである請求項7に記載の抄紙装置。
【請求項9】
前記シャワーは、複数のシャワーノズルが一体的な多口シャワーとして構成され、
前記多口シャワーを前記ワイヤーの幅方向に往復運動させるアクチュエーターを備えた請求項8に記載の抄紙装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−275646(P2010−275646A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127123(P2009−127123)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(390036799)王子ネピア株式会社 (387)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】