説明

抄紙機におけるドライヤ

【課題】粘着異物を効果的に除去することができ、カンバスを長期にわたって新しい状態に維持することができるようにした抄紙機におけるドライヤを提供する。
【解決手段】カンバス10のリターン側カンバス10b上に、付着物を掻き取るスクレーパ装置20と、そのスクレーパ装置20からリターン側カンバス10bの移動方向の前側に、幅方向全体にわたって圧力水を噴射する圧力水噴射装置30と、幅方向全体にわたって水溶性剥離剤を噴霧する剥離剤噴霧装置40とを設ける。剥離剤噴霧装置40から噴霧される水溶性剥離剤によりカンバス10の表面に剥離性被膜を形成して、異物の付着を防止し、圧力水噴射装置30から噴射される圧力水によってカンバス10のメッシュに詰まる異物の除去とカンバス10表面の洗浄とを行い、さらに、スクレーパ装置20によりカンバス10表面の付着物の掻き取りを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、抄造された帯状の湿紙を熱乾燥させる抄紙機のドライヤに関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機は、ワイヤパート、プレスパートおよびドライパートを有し、上記ワイヤパートにおいて重力や吸引による脱水処理により紙料をろ過濃縮処理して濃度を高め、その脱水処理後の紙料をプレスパートでさらに脱水処理して、固形分濃度が50数%以上とされた湿紙を形成し、その湿紙をドライパートに送り込んで熱乾燥させるようにしている。
【0003】
ここで、湿紙を熱乾燥させるドライパートにはドライヤが設けられている。ドライヤは、湿紙の移送方向に間隔をおいて配置された複数のドライシリンダを上下2段に設け、上段側の複数のドライシリンダと下段側の複数のドライシリンダをジグザグの配置とし、その上段側ドライシリンダと下段側ドライシリンダに掛け渡されたエンドレスのカンバスによりドライシリンダのそれぞれに湿紙を接触させて熱乾燥させるようにしている。
【0004】
上記の抄紙機によって段ボールの中芯を抄造する場合、紙料として回収古紙が多く使用される。その回収古紙には、紙製の粘着テープや、接着式の送り状、ホットメルト等の接着剤、紙力増強剤等が含まれているため、パルパにより離解して紙料を形成した場合、粘着異物が混入する紙料が形成されることになる。
【0005】
上記のような紙料を用いて中芯を抄造すると、粘着異物が混入する湿紙が形成され、その湿紙をドライヤで熱乾燥すると、カンバスやドライシリンダに粘着異物が付着することになる。また、ドライヤの周囲には多量の紙粉が浮遊しており、その紙粉もカンバスやドライシリンダに付着することになる。
【0006】
ここで、粘着異物や紙粉がカンバスに付着すると、通気度が低下し、湿紙を効果的に熱乾燥させることができなくなる。また、粘着異物や紙粉の付着によってカンバスやドライシリンダに汚れが生じると、その汚れが湿紙に転写・付着されて、紙質を低下させ、あるいは、紙剥れや紙切れを生じさせる等のトラブルを発生させることになる。
【0007】
そのような不都合を解消するため、特許文献1では、噴射ノズルからカンバスの表面にシリコーンオイルを主成分とする水溶性剥離剤を噴霧して、カンバス表面に剥離性被膜を形成し、その被膜によって粘着異物や紙粉等の異物の付着を抑制するようにした抄紙機のドライヤを提案している。
【0008】
【特許文献1】特開平8−49185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載された抄紙機のドライヤにおいては、カンバスの幅方向に複数の噴霧ノズルを設け、各噴霧ノズルから水溶性剥離剤を噴霧する構成であるため、水分量が多く、その水分の付着により湿紙に伸びが生じて、湿紙に皺が発生し易くなるという問題がある。
【0010】
また、粘着異物がカンバスの表面に接着し、あるいは、カンバスのメッシュ内に侵入して目詰まりが生じると、水溶性剥離剤の噴霧力だけでは取り除くことができず、カンバスの汚れを完全に解消することができないという問題がある。
【0011】
この発明の課題は、粘着異物等の異物の付着を防止することができると共に、粘着異物が付着した場合でも、その粘着異物を効果的に除去することができ、カンバスを長期にわたって新しい状態に維持することができるようにした抄紙機におけるドライヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、第1の発明においては、プレスパートから送り出されてくる湿紙の移送方向に間隔をおいて配置された複数のドライシリンダを上下2段に配置し、かつ、上段側ドライシリンダと下段側ドライシリンダをジグザグ状の配置とし、上段側ドライシリンダの外周上部と下段側ドライシリンダの外周下部にエンドレスのカンバスのキャリヤ側カンバスを接触させ、その接触部に送り込まれて下流側に移送される前記湿紙をドライシリンダとの接触により熱乾燥させるようにした抄紙機におけるドライヤにおいて、前記キャリヤ側カンバスの上方に位置するリターン側カンバス上に、カンバス表面に付着する付着物を掻き取るスクレーパ装置と、そのスクレーパ装置からリターン側カンバスの移動方向の前側に、そのリターン側カンバスの幅方向全体にわたって圧力水を噴射する圧力水噴射装置と、その圧力水噴射装置からリターン側カンバスの移動方向の前側に、そのリターン側カンバスの幅方向全体にわたって水溶性剥離剤を噴霧する剥離剤噴霧装置とを設けた構成を採用したのである。
【0013】
また、上記の課題を解決するため、第2の発明においては、プレスパートから送り出されてくる湿紙の移送方向に間隔をおいて配置された複数のドライシリンダを上下2段に配置し、かつ、上段側ドライシリンダと下段側ドライシリンダをジグザグ状の配置とし、上段側のドライシリンダ間の下部および下段側のドライシリンダ間の上部にガイドローラを配置し、上段側に配置されたドライシリンダとガイドローラのそれぞれにエンドレスの上部カンバスのキャリヤ側カンバスをジグザグに掛け渡し、かつ、下段側に配置されたドライシリンダとガイドローラのそれぞれにエンドレスの下部カンバスのキャリヤ側カンバスをジグザグに掛け渡し、前記上部カンバスと下部カンバスにより前記湿紙をジグザグ状配置の複数のドライシリンダのそれぞれに接触させて下流側に移送し、かつ、各ドライシリンダとの接触により熱乾燥させるようにした抄紙機におけるドライヤにおいて、前記上部カンバスと下部カンバスのうち、少なくとも上部カンバスのリターン側カンバスに対して、そのカンバス表面に付着する付着物を掻き取るスクレーパ装置と、そのスクレーパ装置からリターン側カンバスの移動方向の前側に、そのリターン側カンバスの幅方向全体にわたって圧力水を噴射する圧力水噴射装置と、その圧力水噴射装置からリターン側カンバスの移動方向の前側に、そのリターン側カンバスの幅方向全体にわたって水溶性剥離剤を噴霧する剥離剤噴霧装置とを設けた構成を採用したのである。
【0014】
上記の構成からなる抄紙機のドライヤにおいては、剥離剤噴霧装置からリターン側カンバスの表面に水溶性剥離剤を噴霧し、かつ、圧力水噴射装置から圧力水を噴射する状態において湿紙の熱乾燥を行い、必要に応じて、あるいは、一定の期間をおいて定期的にスクレーパ装置を作動させてカンバス表面に付着する付着物の掻き取り作業を行うようにする。
【0015】
ここで、剥離剤噴霧装置から水溶性剥離剤を噴霧すると、カンバスの表面に剥離性被膜が形成され、その剥離性被膜によって湿紙に混入する粘着異物や紙粉(以下、粘着異物や紙粉を単に異物という)の付着が防止される。
【0016】
剥離性被膜による異物の付着防止効果は高いものであるが、上記剥離性被膜は水分を多く含む湿紙と接触して下流側に移動し、しかも、剥離性被膜が形成されたカンバスは各ドライシリンダの周囲を移動する際に、その湿紙をドライシリンダの外周に押し付けるため、剥離性被膜はカンバスの表面に常に保持されているものではない。
【0017】
このため、水溶性剥離剤の噴霧のみでは異物の付着を完全に防止することができず、カンバスのメッシュに異物が侵入して目詰まりが生じ、あるいは、異物の付着によってカンバスが次第に汚染されることになる。
【0018】
カンバスのメッシュ内に侵入して目詰まりを生じさせる異物は、水溶性剥離剤の噴霧のみでは除去することができない。しかし、この発明では、圧力水噴射装置によって圧力水をカンバスの表面に向けて噴射するようにしているため、噴射される圧力水との衝突によってメッシュ内に詰まる異物は除去される。
【0019】
ここで、圧力水噴射装置から噴射される圧力水によってカンバスは洗浄され、カンバス表面に付着する異物は除去されるが、カンバスの表面に強く付着する異物は完全に除去することはできず、カンバスは次第に汚染されることになる。
【0020】
そこで、スクレーパ装置を必要に応じて、あるいは、定期的に作動させることにより、カンバス表面の異物を機械的に確実に取り除くことができると共に、カンバスの摩耗による耐久性の低下を抑制することができる。
【0021】
上記スクレーパ装置として、リターン側カンバスの上側方に設けられてカンバスの幅方向に長く延びる支持バーと、その支持バーの長さ方向に等間隔に支持された複数のシリンダと、その複数のシリンダのそれぞれに対応して同数設けられてそれぞれ単独に昇降動され、下降時にカンバス表面に圧接されるスクレーパと、前記支持バーを前記シリンダの取付けピッチに相当する量を移動量としてリターン側カンバスの幅方向に移動させる移動装置とからなるものを採用することにより、カンバスのテンションが幅方向に不均一であったとしても、シリンダの作動によって複数のスクレーパのそれぞれをカンバスの表面に対して所定の圧力で接触させることができる。
【0022】
このため、複数のスクレーパをカンバスの表面に接触させた状態で支持バーをシリンダの取付けピッチに相当する量を移動量としてリターン側カンバスの幅方向に移動させることにより、カンバスの幅方向全体にわたって付着物を機械的に除去することができる。
【0023】
また、シリンダ圧を調整することによって、複数のスクレーパの接触圧を個々に調整することができるため、カンバスにほころびが生じた際にそのほころび部と接触するスクレーパの接触圧力を小さくすることによって、カンバスの損傷を低減させることができ、カンバスの耐久性の低下を抑制することができる。
【0024】
第1の発明および第2の発明に係る抄紙機におけるドライヤにおいて、圧力水噴射装置として、圧力水噴射ノズルと、その圧力水噴射ノズルをリターン側カンバスの幅方向に移動させる移動装置とからなるものを採用することにより、カンバスの幅方向に多数の圧力水噴射ノズルを設け、各圧力水噴射ノズルから圧力水を噴射して、目詰まりの解消とカンバスの表面の洗浄とを行う場合に比較して、圧力水の噴射水量の低減化を図ることができる。また、カンバスに対する水の付着量も少なくなるため、カンバスから湿紙に付着する水分も少なくなり、湿紙が幅方向に伸びて皺が生じるという不都合の発生を防止することができる。
【0025】
また、剥離剤噴霧装置として、剥離剤噴霧ノズルと、その剥離剤噴霧ノズルをリターン側カンバスの幅方向に移動させる移動装置とからなるものを採用することにより、カンバスの表面全体にわたって膜厚の均一な剥離性被膜を形成することができる。
【0026】
また、カンバスの幅方向に多数の剥離剤噴霧ノズルを設け、各剥離剤噴射ノズルから水溶性剥離剤を噴霧する場合に比較して、カンバス表面に対する水分の付着量の低減化を図ることができ、熱乾燥される湿紙に伸びが生じて皺が発生するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
上記のように、第1の発明および第2の発明のいずれの発明においても、剥離剤噴霧装置から噴霧される水溶性剥離剤によりカンバスの表面に剥離性被膜を形成して、異物の付着を防止し、圧力水噴射装置から噴射される圧力水によってカンバスのメッシュに詰まる異物の除去とカンバス表面の洗浄とを行い、さらに、スクレーパ装置によりカンバス表面の付着物の掻き取りを行うようにしたので、カンバスを長期にわたって新しい状態に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明に係る抄紙機におけるドライヤの第1の実施の形態を示す。図示のように、ドライヤ1は、プレスパートから送り出されてくる湿紙Sの移送路に設けられている。
【0029】
ドライヤ1は、複数のドライシリンダ2を上下2段に配置し、かつ、上段側ドライシリンダ2と下段側ドライシリンダ2をジグザグ状の配置とし、上段側ドライシリンダ2の外周上部と下段側ドライシリンダ2の外周下部にエンドレスのカンバス10のキャリヤ側カンバス10aを接触させ、その接触部に送り込まれてカンバス10の矢印で示す方向の移動とドライシリンダ2の矢印で示す方向の回転とにより下流側に移送される湿紙Sをドライシリンダ2との接触により熱乾燥させるようにしている。
【0030】
カンバス10のキャリヤ側カンバス10aの上方に位置するリターン側カンバス10bの上方には、カンバス10の湿紙Sと接していた表面に付着する付着物を掻き取るスクレーパ装置20と、そのスクレーパ装置20からリターン側カンバス10bの移動方向前側においてリターン側カンバス10bの幅方向全体にわたって圧力水を噴射する圧力水噴射装置30と、その圧力水噴射装置30のリターン側カンバス10bの移動方向前側においてリターン側カンバス10bの幅方向全体にわたって水溶性剥離剤を噴霧する剥離剤噴霧装置40とが設けられている。
【0031】
図2に示すように、スクレーパ装置20は、リターン側カンバス10bの上方に設けられてカンバスの幅方向に長く延びる支持バー21と、その支持バー21の長さ方向に等間隔に支持された複数のシリンダ22と、その複数のシリンダ22のそれぞれに対応して同数設けられてそれぞれ個別に昇降動され、下降時にカンバス10表面に圧接されるスクレーパ23と、上記支持バー21を前記シリンダの取付けピッチに相当する量をストローク量としてリターン側カンバス10bの幅方向に移動させる移動装置24とからなっている。
【0032】
移動装置24は、支持バー21の上方に、その支持バー21に平行にねじ軸25を設け、そのねじ軸25にねじ係合したナット部材26を支持バー21に固定し、上記ねじ軸25を端部に連結したモータ27の駆動により正逆回転させて支持バー21を長さ方向に往復動させるようにしている。
【0033】
図3に示すように、圧力水噴射装置30は、圧力水噴射ノズル31と、その圧力水噴射ノズル31をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させる移動装置32とからなる。
【0034】
移動装置32は、リターン側カンバス10bの上方に、カンバス10の幅方向に長く延びる支持枠33を設け、その支持枠33でモータ34と、そのモータ34によって回転されるねじ軸35とを支持し、上記ねじ軸35にねじ係合したナット部材36を圧力水噴射ノズル31に連結し、上記モータ34の駆動によるねじ軸35の回転により圧力水噴射ノズル31をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させるようにしている。
【0035】
図4に示すように、剥離剤噴霧装置40は、2本の剥離剤噴霧ノズル41と、その剥離剤噴霧ノズル41をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させる移動装置42とからなる。
【0036】
移動装置42は、リターン側カンバス10bの上方に、カンバス10の幅方向に長く延びる支持枠43を設け、その支持枠43でモータ44と、そのモータ44によって回転されるねじ軸45とを支持し、上記ねじ軸45にねじ係合したナット部材46を剥離剤噴霧ノズル41に連結した構成とされている。
【0037】
ここで、2本の剥離剤噴霧ノズル41の間隔は、カンバス10の幅寸法の1/2とされ、上記移動装置42はその2本の剥離剤噴霧ノズル41間の間隔をストローク量として剥離剤噴霧ノズル41をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させるようにしている。
【0038】
剥離剤噴霧ノズル41から噴霧される水溶性剥離剤として、ここでは、シリコーンオイルを主成分とし、これにフッ素系界面活性剤を添加したものを採用しているが、水溶性剥離剤はこれに限定されるものではない。
【0039】
第1の実施の形態で示すドライヤは上記の構造からなり、湿紙Sの熱乾燥処理に際しては、2本の剥離剤噴霧ノズル41からリターン側カンバス10bに向けて水溶性剥離剤を噴霧し、その噴霧状態でモータ44の駆動によるねじ軸45の回転により2本の剥離剤噴霧ノズル41を、その剥離剤噴霧ノズル41間に形成された間隔をストローク量としてリターン側カンバス10bの幅方向に往復動させると共に、圧力水噴射ノズル31から圧力水を噴射し、その噴射状態でモータ34の駆動によるねじ軸35の回転により圧力水噴射ノズル31をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させる。
【0040】
剥離剤噴霧ノズル41からリターン側カンバス10bに向けて水溶性剥離剤を噴霧することにより、カンバス10の表面に剥離性被膜が形成される。このとき、剥離剤噴霧ノズル41はカンバス10の幅方向に移動しつつ水溶性剥離剤を噴霧するため、湿紙Sと接触することになるリターン側カンバス10bの表面の幅方向全体にわたって膜厚の均一な剥離性被膜が形成され、その剥離性被膜によって異物の付着が防止される。
【0041】
上記剥離性被膜による異物の付着防止効果は高いものであるが、上記剥離性被膜は水分を多く含む湿紙Sと接触して下流側に移動し、しかも、剥離性被膜が形成されたカンバス10は各ドライシリンダ2の周囲を移動する際に、その湿紙Sをドライシリンダ2の外周に押し付けるため、剥離性被膜はカンバス10の表面から湿紙S側に転移してカンバス10上に常に保持されているものではない。
【0042】
このため、水溶性剥離剤の噴霧のみでは異物の付着を完全に防止することができず、カンバス10のメッシュに異物が侵入して目詰まりが生じ、あるいは、湿紙Sをドライシリンダ2の外周に強く押付ける押圧力によって湿紙Sに混入する異物がカンバス10に強く接着し、カンバス10が次第に汚染されることになる。
【0043】
ここで、剥離剤噴霧ノズル41から噴出される水溶性剥離剤は霧状の噴射であるため、圧力は低く、カンバス10のメッシュ内に侵入して目詰まりを生じさせる異物やカンバス10の表面に強く接着する異物を除去することができない。
【0044】
これらの異物はカンバス10のリターン側に移動する。その異物が圧力水噴射ノズル31の下方の位置まで移動してくると、その圧力水噴射ノズル31はリターン側カンバス10bに向けて圧力水を噴射しているため、メッシュ内に詰まっている異物はその噴射される圧力水との衝突によって除去される。
【0045】
また、圧力水噴射ノズル31から噴射される圧力水によってカンバス10は洗浄されるが、カンバス10の表面に強く付着する異物を完全に除去することはできず、カンバス10は次第に汚染されることになる。
【0046】
ここで、カンバス10の表面が汚染されると、汚れが湿紙Sに転写・付着されて、紙質を低下させ、あるいは、紙剥れや紙切れを生じさせる等のトラブルを発生させることになる。
【0047】
そこで、カンバス10の汚染がひどくなった場合、圧力水噴射装置30からリターン側カンバス10bの移動方向後側に設けたスクレーパ装置20を定期的に作動させる。スクレーパ装置20の作動に際しては、複数のシリンダ22のそれぞれを作動させて、スクレーパ23のそれぞれをリターン側カンバス10bに圧接させ、その圧接状態においてモータ27の駆動によりねじ軸25を回転し、支持バー21をシリンダ22の取付けピッチに相当する量を移動量としてカンバス10の幅方向に移動させる。
【0048】
リターン側カンバス10bに対するスクレーパ23の圧接により、カンバス10の表面に付着する異物は掻き取られることになる。このとき、複数のスクレーパ23はシリンダ22の取付けピッチに相当する量を移動量としてカンバス10の幅方向に移動されるため、カンバス10の幅方向の全体にわたって異物は除去されることになる。
【0049】
このように、第1の実施の形態で示すドライヤ1においては、剥離剤噴霧ノズル41から噴霧される水溶性剥離剤によりカンバス10の表面に剥離性被膜を形成して、異物の付着を防止し、剥離剤噴霧ノズル41からリターン側カンバス10bの移動方向後側に設けた圧力水噴射ノズル31から噴射される圧力水によってカンバス10のメッシュに詰まる異物の除去とカンバス10表面の洗浄とを行い、さらに、圧力水噴射ノズル31からリターン側カンバス10bの移動方向後側に設けたスクレーパ装置20によりカンバス20表面の付着物の掻き取りを行うので、カンバス10を長期にわたって新しい状態に保持することができる。
【0050】
また、スクレーパ装置20による異物の掻き取りは必要に応じて、あるいは、定期的に行うので、カンバス10の摩耗による耐久性の低下を抑制することができる。
【0051】
第1の実施の形態で示すように、圧力水噴射ノズル31や剥離剤噴霧ノズル41をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させて、圧力水を噴射し、あるいは、剥離剤を噴霧することにより、カンバスの幅方向に多数の圧力水噴射ノズルや多数の剥離剤噴霧ノズルを設けて、圧力水の噴射と水溶性剥離剤の噴霧を行う場合に比較して、噴射水量の低減化を図ることができる。また、カンバス10に対する水の付着量も少なくなるため、カンバス10から湿紙Sに付着する水分も少なくなり、湿紙Sが幅方向に伸びて皺が生じるというトラブルの発生を防止することができる。
【0052】
なお、図2においては、モータ27の駆動によって回転されるねじ軸25の回転によりスクレーパ23をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させ、また、図3においては、モータ34の駆動により回転されるねじ軸35の回転により圧力水噴射ノズル31をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させ、さらに、図4においては、モータ44の駆動により回転されるねじ軸45の回転により剥離剤噴霧ノズル41をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させるようにしたが、スクレーパ23、圧力水噴射ノズル31および剥離剤噴霧ノズル41をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させる移動装置24、32および42はこれに限定されるものではない。例えば、エンドレスのチェーンやベルトの移動によってスクレーパ23、圧力水噴射ノズル31および剥離剤噴霧ノズル41をリターン側カンバス10bの幅方向に移動させるようにしてもよい。
【0053】
図5は、この発明に係る抄紙機におけるドライヤの第2の実施の形態を示す。この実施の形態で示すドライヤにおいては、プレスパートから送り出されてくる湿紙Sの移送方向に間隔おいて配置された複数のドライシリンダ2を上下2段に配置し、かつ、上段側ドライシリンダ2と下段側ドライシリンダ2をジグザグ状の配置とし、上段側のドライシリンダ2間の下部および下段側のドライシリンダ2間の上部にガイドローラ3を配置し、上段側に配置されたドライシリンダ2とガイドローラ3のそれぞれにエンドレスの上部カンバス50のキャリヤ側カンバス50aをジグザグに掛け渡し、かつ、下段側に配置されたドライシリンダ2とガイドローラ3のそれぞれにエンドレスの下部カンバス51のキャリヤ側カンバス51aをジグザグに掛け渡し、上記上部カンバス50と下部カンバス51により湿紙Sをジグザグ状配置の複数のドライシリンダ2のそれぞれに接触させて下流側に移送し、かつ、各ドライシリンダ2との接触により熱乾燥させようにしている。
【0054】
上記の構成からなるドライヤにおいて、第2の実施の形態では、上部カンバス50のリターン側カンバス50bおよび下部カンバス51のリターン側カンバス51bに対して、そのカンバス表面に付着する付着物を掻き取るスクレーパ装置20と、そのスクレーパ装置20からリターン側カンバス50b、51bの移動方向の前側に、そのリターン側カンバス50b、51bの幅方向全体にわたって圧力水を噴射する圧力水噴射装置30と、その圧力水噴射装置30からリターン側カンバス50b、51bの移動方向の前側に、そのリターン側カンバス50b、51bの幅方向全体にわたって水溶性剥離剤を噴霧する剥離剤噴霧装置40とを設けている。
【0055】
ここで、スクレーパ装置20、圧力水噴射装置30および剤噴霧装置40は、第1の実施の形態で示すスクレーパ装置20、圧力水噴射装置30および剥離剤噴霧装置40と同一であるため、その構成および作用について説明を省略する。
【0056】
上記第2の実施の形態で示すドライヤにおいても、剥離剤噴霧装置40から噴霧される水溶性剥離剤により上部カンバス50および下部カンバス51の表面に剥離性被膜を形成して、異物の付着を防止し、圧力水噴射装置30から噴射される圧力水によって上部カンバス50および下部カンバス51のメッシュに詰まる異物の除去とカンバス表面の洗浄とを行い、さらに、スクレーパ装置20によりカンバス表面の付着物の掻き取りを定期的に行って、上部カンバス50および下部カンバス51を長期にわたって新しい状態に保持する。
【0057】
なお、第2の実施の形態では、上部カンバス50および下部カンバス51のリターン側カンバス50b、51bのそれぞれに対してスクレーパ装置20、圧力水噴射装置30および剥離剤噴霧装置40を設けるようにしたが、少なくとも上部カンバス50のリターン側カンバス50bに対してスクレーパ装置20、圧力水噴射装置30および剥離剤噴霧装置40を設けるようにして、下部カンバス51のキャリヤ側カンバス51bに対しては、スクレーパ装置20、圧力水噴射装置30および剥離剤噴霧装置40を省略してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明に係る抄紙機におけるドライヤの第1の実施の形態を示す概略図
【図2】スクレーパ装置の正面図
【図3】圧力水噴射装置の正面図
【図4】剥離剤噴霧装置の正面図
【図5】この発明に係る抄紙機におけるドライヤの第2の実施の形態を示す概略図
【符号の説明】
【0059】
2 ドライシリンダ
3 ガイドローラ
10 カンバス
10a キャリヤ側カンバス
10b リターン側カンバス
20 スクレーパ装置
21 支持バー
22 シリンダ
23 スクレーパ
24 移動装置
30 圧力水噴射装置
31 圧力水噴射ノズル
32 移動装置
40 剥離剤噴霧装置
41 剥離剤噴霧ノズル
42 移動装置
50 上部カンバス
50a キャリヤ側カンバス
50b リターン側カンバス
51 下部カンバス
51a キャリヤ側カンバス
51b リターン側カンバス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスパートから送り出されてくる湿紙の移送方向に間隔をおいて配置された複数のドライシリンダを上下2段に配置し、かつ、上段側ドライシリンダと下段側ドライシリンダをジグザグ状の配置とし、上段側ドライシリンダの外周上部と下段側ドライシリンダの外周下部にエンドレスのカンバスのキャリヤ側カンバスを接触させ、その接触部に送り込まれて下流側に移送される前記湿紙をドライシリンダとの接触により熱乾燥させるようにした抄紙機におけるドライヤにおいて、
前記キャリヤ側カンバスの上方に位置するリターン側カンバス上に、カンバス表面に付着する付着物を掻き取るスクレーパ装置と、そのスクレーパ装置からリターン側カンバスの移動方向の前側に、そのリターン側カンバスの幅方向全体にわたって圧力水を噴射する圧力水噴射装置と、その圧力水噴射装置からリターン側カンバスの移動方向の前側に、そのリターン側カンバスの幅方向全体にわたって水溶性剥離剤を噴霧する剥離剤噴霧装置とを設けたことを特徴とする抄紙機におけるドライヤ。
【請求項2】
前記スクレーパ装置が、リターン側カンバスの上側方に設けられてカンバスの幅方向に長く延びる支持バーと、その支持バーの長さ方向に等間隔に支持された複数のシリンダと、その複数のシリンダのそれぞれに対応して同数設けられてそれぞれ単独に昇降動され、下降時にカンバス表面に圧接されるスクレーパと、前記支持バーを前記シリンダの取付けピッチに相当する量を移動量としてリターン側カンバスの幅方向に移動させる移動装置とからなる請求項1に記載の抄紙機におけるドライヤ。
【請求項3】
前記圧力水噴射装置が、圧力水噴射ノズルと、その圧力水噴射ノズルをリターン側カンバスの幅方向に移動させる移動装置とからなる請求項1又は2に記載の抄紙機におけるドライヤ。
【請求項4】
前記剥離剤噴霧装置が、剥離剤噴霧ノズルと、その剥離剤噴霧ノズルをリターン側カンバスの幅方向に移動させる移動装置とからなる請求項1乃至3のいずれかの項に記載の抄紙機におけるドライヤ。
【請求項5】
プレスパートから送り出されてくる湿紙の移送方向に間隔をおいて配置された複数のドライシリンダを上下2段に配置し、かつ、上段側ドライシリンダと下段側ドライシリンダをジグザグ状の配置とし、上段側のドライシリンダ間の下部および下段側のドライシリンダ間の上部にガイドローラを配置し、上段側に配置されたドライシリンダとガイドローラのそれぞれにエンドレスの上部カンバスのキャリヤ側カンバスをジグザグに掛け渡し、かつ、下段側に配置されたドライシリンダとガイドローラのそれぞれにエンドレスの下部カンバスのキャリヤ側カンバスをジグザグに掛け渡し、前記上部カンバスと下部カンバスにより前記湿紙をジグザグ状配置の複数のドライシリンダのそれぞれに接触させて下流側に移送し、かつ、各ドライシリンダとの接触により熱乾燥させるようにした抄紙機におけるドライヤにおいて、
前記上部カンバスと下部カンバスのうち、少なくとも上部カンバスのリターン側カンバスに対して、そのカンバス表面に付着する付着物を掻き取るスクレーパ装置と、そのスクレーパ装置からリターン側カンバスの移動方向の前側に、そのリターン側カンバスの幅方向全体にわたって圧力水を噴射する圧力水噴射装置と、その圧力水噴射装置からリターン側カンバスの移動方向の前側に、そのリターン側カンバスの幅方向全体にわたって水溶性剥離剤を噴霧する剥離剤噴霧装置とを設けたことを特徴とする抄紙機におけるドライヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−144304(P2009−144304A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325987(P2007−325987)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000115980)レンゴー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】