説明

抄紙機汚れ付着防止剤組成物および抄紙機汚れ付着防止方法

【課題】 紙の製造工程において問題となる抄紙機のワイヤーパートのワイヤー、プレスパートのフェルト、センターロールおよびフェルトロール等に付着する汚れを確実に防止するための抄紙機汚れ付着防止剤組成物および抄紙機汚れ付着防止方法を提供する。
【解決手段】 両末端のうち少なくとも一方にカルボキシル基を有するポリアミドとポリ(オキシアルキレン)グリコールとを結合させて得られるポリエーテルエステルアミド(A)およびポリアミドにアルキレンオキサイドを付加重合して得られるポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の少なくとも一方と、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、イオン性ポリマー、酸性化合物および塩基性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の成分(B)とを必須成分として含有する抄紙機汚れ付着防止剤組成物を、抄紙機の原料系に添加するか、抄紙機におけるワイヤー、プレスパートのロールの表面、プレスパートのフェルトの表面から選ばれる少なくとも1つに適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の製造工程において問題となる抄紙機の汚れ付着を防止するための抄紙機汚れ付着防止剤組成物および抄紙機汚れ付着防止方法に関する。詳しくは、抄紙機のワイヤーパートのワイヤー、プレスパートのフェルト、センターロールおよびフェルトロール等に付着する汚れを防止するための抄紙機汚れ付着防止剤組成物および抄紙機汚れ付着防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙工業においては、パルプ化工程から始まる各工程において、様々な汚れ成分が付着し問題となっている。特に、近年の白水の再利用率向上等による白水系のクローズド化、古紙配合割合の増加および抄造条件の変化(酸性抄造→中性抄造)に伴って、その汚れ付着度合いが増加してきており、従来の防止方法では対応しきれなくなってきている。
【0003】
一般に、製紙工程は、パルプ調成、抄造(脱水、乾燥)、必要に応じて、塗工等の工程からなり、脱水工程において、紙料は大部分の水がワイヤーパートで除去されて湿紙を形成する。しかし、このようにして得られた湿紙は、なお多くの水を含んでおり、そのまま加熱乾燥すれば、多量の蒸気を必要として経済的に不利であるので、湿紙はプレスパート(搾水部)に送られて機械的なプレスにより脱水した後、ドライヤーパート(乾燥部)に送られる。ここで、抄紙機周り、特にワイヤーパートとプレスパートからなるウエットパートを構成する部材に付着する汚れは、紙製造において、操業効率や最終製品の品質に直接影響を及ぼすので、深刻な問題となっている。中でもプレスパートのフェルトに付着した汚れは、フェルトの目詰まりを起こし、プレスパートの搾水性を低下させて、ドライヤーパートにおける湿紙の乾燥に余分な時間を必要とすることとなり、抄造速度の低下を招く原因となる。
【0004】
このような抄紙機に付着する汚れは、有機系汚れと無機系汚れに大きく分けることができる。有機系汚れには紙由来の樹脂分、脱墨されずに抄紙工程に導かれたインキ、その他塗工用に使用されるラテックス(接着剤、バインダー)等があり、無機系汚れには、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどの炭酸塩や硫酸塩、水酸化アルミニウム等があり、通常はこれらの汚れ成分が複合して含まれている場合がほとんどである。
【0005】
従来から、これらの抄紙機に付着する汚れを防止するために、様々な方法が提案されている。例えば、高級アルキルアミンエトキシレート、非イオン性界面活性剤およびキレート作用のある有機ホスホン酸を配合した組成物をプレスパートの各種ロールやフェルトに適用する方法(特許文献1)、エチレンジアミン等のキレート剤および各種界面活性剤(両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤)を配合した組成物をフェルトに適用する方法(特許文献2)、特定のカチオン性ポリマーと界面活性剤、有機ホスホン酸等を配合した組成物を原料系に添加もしくはプレスパートの各種ロールやフェルトに適用する方法(特許文献3)、塩酸、硫酸などの無機酸、キレート剤および塩化ベンザルコニウム塩などのカチオン性界面活性剤を配合した組成物をフェルトに適用する方法(特許文献4)、非イオン性界面活性剤とキレート作用のある多価カルボン酸を配合した組成物をワイヤーパートのワイヤーおよびプレスパートの各種ロールやフェルトに適用する方法(特許文献5)が提案されている。しかしながら、これらの組成物を用いても、その洗浄効果は必ずしも十分とはいえず、さらに効果的な抄紙機用汚れ付着防止方法の開発が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−279081号公報
【特許文献2】特開平11−181691号公報
【特許文献3】特開2003−328296号公報
【特許文献4】特開2004−149966号公報
【特許文献5】特開2005−226180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、紙の製造工程において問題となる抄紙機のワイヤーパートのワイヤー、プレスパートのフェルト、センターロールおよびフェルトロール等に付着する汚れを確実に防止するための抄紙機汚れ付着防止剤組成物および抄紙機汚れ付着防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、両末端のうち少なくとも一方にカルボキシル基を有するポリアミドとポリ(オキシアルキレン)グリコールとを結合させて得られるポリエーテルエステルアミド(A)およびポリアミドにアルキレンオキサイドを付加重合させて得られるポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の少なくとも一方を、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、イオン性ポリマー、酸性化合物および塩基性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の成分(B)と共存させることにより、抄紙機で問題となっている汚れの付着を確実に防止することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)下記(a)成分および下記(b)成分を結合させて得られるポリエーテルエステルアミド(A)と、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、イオン性ポリマー、酸性化合物および塩基性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の成分(B)とを含有することを特徴とする抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
(a)成分:両末端のうち少なくとも一方にカルボキシル基を有するポリアミド
(b)成分:ポリ(オキシアルキレン)グリコール
(2)前記(a)成分が、炭素数5〜12のラクタムを炭素数4〜20のジカルボン酸の存在下で重合することにより得られる重合物である前記(1)に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
(3)前記(b)成分が、ポリオキシエチレングリコールおよび/またはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合物である前記(1)または(2)に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
(4)ポリアミドにアルキレンオキサイドを付加重合させて得られるポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)と、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、イオン性ポリマー、酸性化合物および塩基性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の成分(B)とを含有することを特徴とする抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
(5)前記ポリアミドを構成する単量体が、炭素数5〜12のラクタム、炭素数5〜12のω−アミノカルボン酸、炭素数5〜12のジカルボン酸および炭素数5〜12のジアミンからなる群より選ばれる前記(4)に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
(6)前記アルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイドを単独で、またはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとを併用して用いて付加重合させる前記(4)または(5)に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
【0010】
(7)前記(1)〜(6)に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物を、パルプスラリーおよび白水から選ばれる少なくとも1つの原料系に添加することを特徴とする抄紙機汚れ付着防止方法。
(8)前記(1)〜(6)に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物を、抄紙機におけるワイヤー、プレスパートのロールの表面、プレスパートのフェルトの表面から選ばれる少なくとも1つに適用することを特徴とする抄紙機汚れ付着防止方法。
(9)前記(1)〜(3)に記載のポリエーテルエステルアミド(A)および前記(4)〜(6)に記載のポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の少なくとも一方と前記(1)〜(6)に記載の成分(B)とを、パルプスラリーおよび白水から選ばれる少なくとも1つの原料系にそれぞれ別個に添加することを特徴とする抄紙機汚れ付着防止方法。
(10)前記(1)〜(3)に記載のポリエーテルエステルアミド(A)および前記(4)〜(6)に記載のポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の少なくとも一方と前記(1)〜(6)に記載の成分(B)とを、抄紙機におけるワイヤー、プレスパートのロールの表面、プレスパートのフェルトの表面から選ばれる少なくとも1つにそれぞれ別個に適用することを特徴とする抄紙機汚れ防止方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紙の製造工程において問題となる抄紙機のワイヤーパートのワイヤー、プレスパートのフェルト、センターロールおよびフェルトロール等に付着する汚れを確実に防止することができ、これにより、抄造速度を上げるなど操業効率を著しく向上させることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の抄紙機汚れ付着防止剤組成物および抄紙機汚れ付着防止方法について詳細に説明する。
【0013】
本発明の抄紙機汚れ付着防止剤組成物は、両末端のうち少なくとも一方にカルボキシル基を有するポリアミド((a)成分)およびポリ(オキシアルキレン)グリコール((b)成分)を結合させて得られるポリエーテルエステルアミド(A)、または、ポリアミドにアルキレンオキサイドを付加重合させて得られるポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)のいずれか一方を必須成分として含有する水性混合物である。以下、前記ポリエーテルエステルアミド(A)を必須成分とする組成物を本発明の第一の抄紙機汚れ付着防止剤組成物と称し、前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)を必須成分とする組成物を本発明の第二の抄紙機汚れ付着防止剤組成物と称する。
【0014】
本発明の第一の抄紙機汚れ付着防止剤組成物において、前記ポリエーテルエステルアミド(A)を構成する(a)成分である、両末端のうち少なくとも一方にカルボキシル基を有するポリアミドとしては、ラクタム、アミノカルボン酸、ジカルボン酸およびジアミン等のポリアミド形成モノマーを単独でもしくは2種以上併用して重合させた開環重合物や重縮合物を用いることができる(但し、ジカルボン酸およびジアミンは各々単独で用いられるものではなく、この両者の組み合わせ、もしくはこれら一方とラクタムやアミノカルボン酸との組み合わせで重合に供される)。これらの中でも特に、炭素数5〜12のラクタムを炭素数4〜20のジカルボン酸の存在下で重合することにより得られる重合物が所望の分子量を制御する上で好ましく、この場合、ラクタムとジカルボン酸との共重合物が存在してもよい。
【0015】
前記ポリアミド形成モノマーのうち、ラクタムとしては、例えば、カプロラクタム、エナントラクタム、ドデカラクタム、ウンデカラクタム等が好ましく、アミノカルボン酸としては、例えば、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノカプリル酸、ω−アミノペラルゴン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が好ましく、ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸等が好ましく、ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン等が好ましい。これらのうち特に好ましいものは、カプロラクタム、ω−アミノカプロン酸、およびアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの組み合わせであり、カプロラクタムがより好ましい。
【0016】
前記ポリアミド形成モノマーを重合させる際の反応条件については、特に制限はなく、例えば、無溶媒下または適当な溶媒存在下で、常法により開環重合または重縮合させればよい。このようにして得られた(a)成分であるポリアミドの数平均分子量は、200〜20000であることが好ましく、より好ましくは300〜10000、さらに好ましくは500〜10000であるのがよい。
なお、前記(a)成分として低分子量のポリアミドを用いる場合には、前述した方法で得られたもののほか、例えば、ナイロン6(カプロラクタム重合物)の製造時に副生する数平均分子量200〜1000程度のオリゴマーを回収して使用することも可能である。
【0017】
前記ポリエーテルエステルアミド(A)を構成する(b)成分であるポリ(オキシアルキレン)グリコールとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックまたはランダム共重合物、ビスフェノール類のエチレンオキサイド重付加物などが挙げられる。これらの中でも特に、ポリオキシエチレングリコールおよび/またはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合物が好ましい。
前記(b)成分のポリ(オキシアルキレン)グリコールの数平均分子量は、200〜30000であることが好ましく、より好ましくは300〜20000であるのがよい。
【0018】
前記(a)成分と前記(b)成分とを結合させてなるポリエーテルエステルアミド(A)は、例えば、前記(a)成分と前記(b)成分とを常法に従って別々に合成した後、p−トルエンスルホン酸ナトリウム等の触媒の存在下、窒素雰囲気下で200〜300℃の範囲に加熱して反応させることにより得られる。より詳しくは、例えば、米国特許第3,428,710号公報に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0019】
本発明の第二の抄紙機汚れ付着防止剤組成物において、前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)を構成するポリアミドとしては、特に制限はなく、例えば、前述した(a)成分である両末端のうち少なくとも一方にカルボキシル基を有するポリアミドのほか、両末端のいずれにもカルボキシル基を有しないポリアミド(例えば、両末端がアミノ基となっているもの)も使用可能である。このようなポリアミドを構成する単量体としては、前述したポリアミド形成モノマーと同様のものが使用できるが、特に、炭素数5〜12のラクタム、炭素数5〜12のω−アミノカルボン酸、炭素数5〜12のジカルボン酸および炭素数5〜12のジアミンからなる群より選ばれることが、汚れ付着防止効果を効率的に発揮させうる点で好ましい(但し、ジカルボン酸およびジアミンは各々単独で用いられるものではなく、この両者の組み合わせ、もしくはこれら一方とラクタムやアミノカルボン酸との組み合わせで重合に供される)。ここで、好ましいポリアミド形成モノマーの炭素数がいずれも5〜12であるのは、ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)に適度な疎水性を付与するためである。つまり、抄紙機用具(抄紙機におけるワイヤー、プレスパートのロールの表面、プレスパートのフェルトの表面など)に対して充分な相互作用させ、本発明の汚れ付着防止効果を効率よく発揮させるためには、ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)にある程度の疎水性を付与することが望ましいのであるが、ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の疎水性が過剰になりすぎると、抄紙機用具への過剰吸着を招き、逆に汚れ付着防止効果が低下する恐れがあることを考慮した結果である。
【0020】
前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)は、前記ポリアミドにアルキレンオキサイドが付加重合して生成する。このとき、アルキレンオキサイドは主にポリアミドのアミド結合の活性水素基(N−H)に作用し、N−ポリオキシアルキル化が進行する。また、アルキレンオキサイドによるポリオキシアルキル化反応は、前記N−ポリオキシアルキル化以外に、ポリアミドの末端のカルボキシル基またはアミノ基にも起こり得るが、これらの官能基へのポリオキシアルキル化物が混在していてもよい。
前記ポリアミドへのアルキレンオキサイドの付加モル数は、ポリアミドの窒素原子1個あたり10〜500モル当量であればよく、好ましくは15〜200モル当量であるのがよい。
【0021】
前記ポリアミドに付加重合させて前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)を製造するためのアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。特に、前記アルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイドを単独で、またはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとを併用して用いて付加重合させることが好ましい。なお、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとを併用する場合など、2種以上のアルキレンオキサイドを併用する場合には、その重合形態は特に制限されず、ブロック共重合体またはランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0022】
前記ポリアミドにアルキレンオキサイドを付加重合させてなるポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)は、例えば、常法に従って製造した前記ポリアミドに、無溶媒下あるいは溶媒(例えば、シクロヘキサノン、アセトフェノン等)下で、水酸化カリウム等の触媒を存在させつつ、窒素置換後にアルキレンオキサイドを吹き込み、2〜5kg/cm2の加圧下で130〜180℃の範囲に加熱して反応させることにより得られる。より詳しくは、例えば、英国特許第1,225,176号公報または特公昭45−15752号公報に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0023】
本発明の第一および第二の抄紙機汚れ付着防止剤組成物は、前記ポリエーテルエステルアミド(A)または前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)のいずれか一方とともに、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、イオン性ポリマー、酸性化合物および塩基性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である付着防止性または洗浄性を有する成分(B)をも必須成分として含有する。
前記成分(B)として選択しうる非イオン性界面活性剤としては、好ましくは、活性水素を有する化合物へのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。前記活性水素を有する化合物としては、例えば、脂肪族アルコール、アルキルフェノール、多価アルコール脂肪酸エステル(例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル)、脂肪酸、脂肪酸アミド等を例示することができる。なお、ここで、脂肪酸とあるのは、飽和および不飽和のいずれであってもよい。
【0024】
すなわち、前記非イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪族アルコールへのアルキレンオキサイド付加物であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルフェノールへのアルキレンオキサイド付加物であるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルへのアルキレンオキサイド付加物であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルへのアルキレンオキサイド付加物であるポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルへのアルキレンオキサイド付加物であるポリオキシアルキレンペンタエリスリトール脂肪酸エステル、脂肪酸へのアルキレンオキサイド付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、脂肪酸アミドへのアルキレンオキサイド付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0025】
上述の非イオン性界面活性剤(活性水素を有する化合物へのアルキレンオキサイド付加物)において、分子中に含まれるオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基およびオキシブチレン基より選ばれる1種または2種以上の組み合わせからなるものが好ましい。なお、分子中に含まれるオキシアルキレン基が2種以上であるアルキレンオキサイド付加物においては、ブロック共重合体およびランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0026】
前記成分(B)として選択しうるイオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤を挙げることができる。
前記カチオン性界面活性剤としては、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、高級アルキルアミン塩(酢酸塩や塩酸塩等)、高級アルキルアミンへのエチレンオキサイド付加物、高級脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとの縮合物(例えば、オレイン酸とペンタエチレンヘキサミンとの1:1(モル比)縮合物)、高級脂肪酸とアルカノールアミンとのエステルの塩(例えば、ステアリン酸トリエタノールアミンエステルギ酸塩)、高級脂肪酸アミドの塩(例えば、ステアラミドエチルジエチルアミンの酢酸塩)、高級脂肪酸とアミノエチルエタノールアミンとを加熱縮合させ、これにさらに尿素を結合させた後、酢酸で中和した塩(例えば、アーコベルA型、G型等のカチオン性界面活性剤)、イミダゾリン型カチオン性界面活性剤(例えば、2−ヘプタデセニルヒドロキシエチルイミダゾリン)、アルキルピリジニウム塩等が挙げられる。
【0027】
前記アニオン性界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、α−オレフィン硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、脂肪酸ハライドとN−メチルタウリンとの反応生成物、スルホコハク酸ジアルキルエステル塩、高級アルコールリン酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加物のリン酸エステル塩などを挙げることができる。なお、ここでいう塩とは、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、または炭素数1〜5のアルカノールアミン塩および酸タイプ(塩を形成していない酸自体)を含むものである。
前記両性界面活性剤としては、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウムなどのアミノ酸型両性界面活性剤、ラウリルジメチルベタインなどのベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0028】
前記成分(B)として選択しうるイオン性ポリマーとしては、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、両性ポリマーを挙げることができる。
前記カチオン性ポリマーとしては、ビニルアミン単位を有するポリマー(例えば、ポリビニルアミン等)、水溶性のポリアミドアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムハロゲニド、ジアルキルアミン−エピハロヒドリン縮合物、カチオン変性ポリアクリルアミド(例えば、アクリルアミド・ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの4級アンモニウム塩共重合物、アクリルアミド・ジアリルジメチルアンモニウムハロゲニドの共重合物等)、ジシアンジアミド−ホルムアルデヒド縮合物、ジシアンジアミド−ポリアルキレンポリアミン縮合物、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンアルコキシレートなどを挙げることができる。
【0029】
前記アニオン性ポリマーとしては、ポリアクリル酸またはその塩、ポリメタクリル酸またはその塩、ポリマレイン酸またはその塩、(メタ)アクリル酸・マレイン酸共重合物またはその塩、(メタ)アクリル酸・スチレン共重合物またはその塩、(メタ)アクリル酸・イソブチレン共重合物またはその塩などを挙げることができる。
前記両性ポリマーとしては、エチレン性二重結合を有するカチオン性単量体とエチレン性二重結合を有するアニオン性単量体とを必須成分とする混合物を付加重合してなる高分子化合物などが挙げられる。ここで、前記カチオン性単量体としては、(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメチルクロリド塩、(メタ)アクリル酸2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルベンジルクロリド塩等の(メタ)アクリル酸エステルであって、4級アンモニウム塩を有する化合物等が挙げられる。前記アニオン性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、およびこれらの金属塩等が挙げられる。また、これらの両性ポリマーは、エチレン性二重結合を有するカチオン性単量体とエチレン性二重結合を有するアニオン性単量体に加え、エチレン性二重結合を有する非イオン性単量体をもその分子内に含んでいてもよい。非イオン性単量体としては、例えば、アクリルアミド、ポリエチレングリコールモノアクリレート、スチレンなどが挙げられる。
【0030】
前記成分(B)として選択しうる酸性化合物としては、有機ホスホン酸、無機酸、有機酸、有機スルホン酸を挙げることができる。
前記有機ホスホン酸としては、アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等を挙げることができる。
【0031】
前記無機酸としては、塩酸、硫酸、スルファミン酸などを挙げることができる。
前記有機酸としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸などを挙げることができる。
【0032】
前記有機スルホン酸としては、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などを挙げることができる。
【0033】
前記成分(B)として選択しうる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどの無機塩基性化合物、炭素数1〜6のモノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミンなどの有機塩基性化合物等を挙げることができる。
【0034】
本発明の第一および第二の抄紙機汚れ付着防止剤組成物における前記ポリエーテルエステルアミド(A)または前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)のいずれかと前記成分(B)との含有割合は、(A)または(AA):(B)=0.1:99.9〜50:50(重量比)であることが好ましく、より好ましくは(A)または(AA):(B)=0.5:99.5〜30:70(重量比)であるのがよい。
【0035】
本発明の第一および第二の抄紙機汚れ付着防止剤組成物は、必須成分である前記ポリエーテルエステルアミド(A)または前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)と前記成分(B)とを溶解させる溶媒を含有していてもよい。溶媒としては、通常、水が用いられるが、必要に応じて有機溶剤を添加することもできる。
前記ポリエーテルエステルアミド(A)または前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)と前記成分(B)とを溶媒に溶解させる場合、前記ポリエーテルエステルアミド(A)または前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)は、その濃度が0.1〜80重量%程度となるように添加するのがよく、前記成分(B)は、その濃度が0.1〜94.9重量%程度となるように添加すればよい。また、前記ポリエーテルエステルアミド(A)または前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)と前記成分(B)との合計濃度は、0.5〜95重量%程度となるようにすることが好ましい。
【0036】
本発明の第一および第二の抄紙機汚れ付着防止剤組成物は、必須成分である前記ポリエーテルエステルアミド(A)または前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)と前記成分(B)とともに、抄紙機に既に付着した汚れを洗浄するために通常用いられる各種洗浄剤(例えば、フェルト洗浄剤、ロール洗浄剤、ワイヤー洗浄剤等)や、消泡剤、防腐剤、殺菌剤、防錆剤、増粘剤、グリセリンやポリエチレングリコール等の保湿剤、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼもしくはこれらの変性体等の酵素、過ホウ素酸ナトリウム等の漂白剤、エチレンジアミン四酢酸もしくはその塩等のキレート剤などの添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることもできる。
【0037】
以上のように、本発明の第一および第二の抄紙機汚れ付着防止剤組成物は、それぞれ、前記ポリエーテルエステルアミド(A)または前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)を必須成分とするものであるが、本発明にかかる抄紙機汚れ付着防止剤組成物は、前記ポリエーテルエステルアミド(A)と前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の両方を必須成分とする組成物であっても勿論よい。なお、前記ポリエーテルエステルアミド(A)と前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の両方を必須成分とする場合、前述した前記成分(B)との含有割合や溶媒を用いる際の各濃度などについては、ポリエーテルエステルアミド(A)とポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の合計量が前述した前記(A)または前記(AA)の範囲になるようにすればよい。
【0038】
次に、本発明の抄紙機汚れ付着防止方法について説明する。
本発明の第一の抄紙機汚れ付着防止方法では、上述した本発明の抄紙機汚れ付着防止剤組成物(以下、単に「組成物」と称することもある)を、パルプスラリーおよび白水から選ばれる少なくとも1つの原料系に添加する。これにより、抄紙工程における抄紙機への汚れの付着を確実に防止することができる。この場合、本発明の組成物の原料系への添加量は、パルプスラリー中に含まれる汚れの元となる物質(例えば、内添サイズ剤など)の量に応じて適宜設定すればよいが、通常、パルプ(固形分)100重量部に対して、前記組成物中の前記ポリエーテルエステルアミド(A)または前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)と前記成分(B)との合計が0.005〜0.5重量部となる範囲であるのがよい。本発明の組成物を抄紙機の原料系に添加する場所は、特に限定されないが、例えば、抄紙工程で使用されるミキシングチェスト、マシンチェスト、ファンポンプ入口、セーブオール等の各種設備中に添加することができる。
【0039】
本発明の第二の抄紙機汚れ付着防止方法では、本発明の組成物を、抄紙機におけるワイヤー、プレスパートのロールの表面、プレスパートのフェルトの表面から選ばれる少なくとも1つに適用する。これによっても、抄紙工程における抄紙機への汚れの付着を確実に防止することができる。ここで、「適用する」とは、具体的には、例えば、抄紙機汚れの付着しやすい箇所(すなわち、抄紙機におけるワイヤー、プレスパートのロールの表面、プレスパートのフェルトの表面から選ばれる少なくとも1つ)へ誘導されるシャワー水系に連続的にもしくは間欠的に(好ましくは連続的に)添加するなどの手段を意味する。この場合、本発明の組成物のシャワー水系への添加量は、汚れの程度、装置の規模または抄造速度等に応じて適宜設定すればよいが、通常、抄紙機幅(網幅、フェルト幅またはロール幅)1mあたり0.5〜100mL/分となる範囲であり、好ましくは、抄紙機幅1mあたり1〜60mL/分となる範囲であるのがよい。なお、前記プレスパートのロールには、センターロール、フェルトロール等の各種ロールが含まれる。
【0040】
また、本発明の第三および第四の抄紙機汚れ付着防止方法では、本発明の組成物中の前記ポリエーテルエステルアミド(A)および前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の少なくとも一方と前記成分(B)とを、予め混合して組成物とするのではなく、それぞれ別個に、前記原料系に添加するか、前記抄紙機汚れの付着しやすい箇所(すなわち、抄紙機におけるワイヤー、プレスパートのロールの表面、プレスパートのフェルトの表面から選ばれる少なくとも1つ)に適用する。これによっても、前述の第一の方法や第二の方法と同様に、抄紙工程における抄紙機への汚れの付着を確実に防止することができる。この場合、ポリエーテルエステルアミド(A)およびポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)は、水に溶解させて水溶液として用いることが好ましい。前記ポリエーテルエステルアミド(A)または前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)と前記成分(B)との添加量については、最終的に前述の第一の方法や第二の方法の場合と同様になるように適宜設定すればよい。また、本発明の第三および第四の抄紙機汚れ付着防止方法においては、前記ポリエーテルエステルアミド(A)、前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)および前記成分(B)のほかにも、本発明の組成物に含有させうる前述の添加物を、前記ポリエーテルエステルアミド(A)、前記ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)および前記成分(B)のいずれか一つとともに、もしくはこれらとも別個に、添加または適用するようにしてもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
<ポリエーテルエステルアミド(A)の調製>
オートクレーブに、カプロラクタム90重量部、アジピン酸10重量部および精製水0.5重量部を加え、オートクレーブ内を窒素雰囲気下としたのち封管状態にし、徐々に250℃まで加温して、この温度で3時間反応させることにより、ポリアミド(a1)を得た。該ポリアミド(a1)の数平均分子量をGPC法により測定したところ、5000であった。
次に、上記で得られたポリアミド(a1)を三つ口フラスコに移し、ポリアミド(a1)100重量部に対して、数平均分子量4000のポリオキシエチレングリコール80重量部を加え、さらにp−トルエンスルホン酸0.2重量部を加えた後、系内を窒素置換した。窒素気流下、前記フラスコを加熱し、250℃で5時間反応させることにより、ポリエーテルエステルアミド(A1)を得た。
【0042】
<ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の調製>
常法にてナイロン6(カプロラクタム重合物)の合成反応を行った後、反応混合物を熱水で連続抽出した(この熱水抽出液には、未反応のモノマー(カプロラクタム)およびオリゴマー(低分子量のカプロラクタム重合物)が含まれている)。熱水抽出液を濃縮した後、冷却し、生成した沈殿物を回収した。この沈殿物は、赤外吸収スペクトルで確認したところカプロラクタムのポリアミドオリゴマー(aa1)であった。ポリアミドオリゴマー(aa1)の数平均分子量をGPC法により測定したところ、約450であった。
次に、温度制御機能の付いたステンレス製オートクレーブに、上記で得られたポリアミドオリゴマー(aa1)113重量部と粉末水酸化カリウム10重量部を仕込み、系内を窒素置換した。続いて、系内温度を140℃とし、エチレンオキサイドボンベよりオートクレーブに導入された耐圧配管を通じてエチレンオキサイド1100重量部(ポリアミドオリゴマーの窒素原子1個に対し、25モル当量)を内圧4kg/cm2に保ちながら注入し、圧力平衡になるまで同温度で反応させることにより、ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA1)を得た。GPC法にて数平均分子量を測定したところ、約5000であった。
【0043】
(実施例1〜4および比較例1〜10)
表1〜表3に示す各成分を、それぞれ表1〜表3に示す配合割合で混合して、抄紙機汚れ付着防止剤組成物を調製した。なお、表3中の比較例10は、薬剤を添加しないブランクに相当する。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
<汚れ付着防止試験(1):フェルト汚れに対する効果>
実施例1および3、比較例1、2、5、7、8およびブランクである比較例10について、以下の試験方法によりフェルト汚れに対する付着防止効果を評価した。
(1)某社・新聞用紙抄紙機で60日使用された後のピックアップフェルトからアルベン(エタノール:ベンゼン=1:2(体積比))で抽出して得られたフェルト汚れ成分を前記アルベンに再度溶解し、汚れ成分濃度が10%の汚れ溶液を調製した。
(2)200mLビーカーにイオン交換水200mLを入れ、これに、各実施例または比較例で得られた抄紙機汚れ付着防止剤組成物を薬剤として、各薬剤を500ppmの濃度となるように添加して洗浄液とした。このビーカーに、予め重量を測定したテストピース(SUS304製金属板、100mm×15mm×1mm)を浸漬した。
(3)上記ビーカー内の洗浄液を40℃に保温し、マグネティックスターラーで攪拌しながら上記10%汚れ溶液を1mL(洗浄液中の汚れ成分濃度:500ppm)加えて、5分間攪拌した。
(4)その後、上記テストピースを取り出し、70℃乾燥機にて恒量となるまで乾燥させてテストピースの重量を測定し、ビーカーに浸漬する前の重量に対する増加分(汚れ付着防止試験前後の重量差)を汚れ付着量とした。そして、各実施例および比較例についての汚れ付着防止率(%)を下記式にて算出した。結果を表4に示す。
【0048】
【数1】

【0049】
【表4】

【0050】
表4から、本発明の抄紙機汚れ付着防止剤組成物を薬剤とした実施例1および3では、比較例1、2、5、7、8および10に比べて、フェルト汚れに対する高い汚れ付着防止効果が得られていることがわかる。
【0051】
<フェルト通水性試験:フェルト通水性改善効果>
実施例1および3、比較例1、2、5、7、8およびブランクである比較例10について、図1に示すフェルト通水性測定装置を用いた以下の試験方法により、フェルト通水性改善効果を評価した。
(1)図1に示すように、吸引式フィルターホルダー1に挟まれたガラス繊維ろ紙3の上に、試験フェルト2として前記汚れ付着防止試験(1)と同じピックアップフェルト(直径3.5cm×2枚)をセットし、吸引式フィルターホルダー1の下部から真空ポンプ4で吸引した。真空度は、圧力計5により0.06MPaを保つように調整した。
(2)40℃の温水6を吸引式フィルターホルダー1の上部より注ぎ入れ、1リットルの温水がフェルトを通り抜けるまでの時間を測定し、洗浄前の通水時間とした。
(3)その後、各実施例または比較例で得られた抄紙機汚れ付着防止剤組成物を薬剤として、各薬剤の濃度が500ppmとなるように調製した40℃の洗浄液1リットルを、吸引式フィルターホルダー1の上部より注ぎ入れ、1リットルの洗浄液を通過させることでフェルトを洗浄剤処理した後、すすぎ処理として、40℃の温水1リットルを吸引式フィルターホルダー1の上部から注ぎ入れて同様にフェルトを通過させた。
(4)その後、40℃の温水6を吸引式フィルターホルダー1の上部より注ぎ入れ、この温水1リットルがフェルトを通り抜けるまでの時間を測定し、洗浄後の通水時間とした。
(5)上記洗浄前後の通水時間から下記式によりフェルト通水性向上率(%)を算出した。結果を表5に示す。
【0052】
【数2】

【0053】
【表5】

【0054】
表5から、本発明の抄紙機汚れ付着防止剤組成物を薬剤とした実施例1および3では、比較例1、2、5、7,8および10に比べて、高いフェルト通水性改善効果が得られていることがわかる。
【0055】
<汚れ付着防止試験(2):センターロール汚れに対する効果>
実施例2および4、比較例3、4、6、8、9およびブランクである比較例10について、以下の試験方法によりセンターロール汚れに対する付着防止効果を評価した。
(1)某社・新聞用紙抄紙機のセンターロール(セラミック製)のドクターブレードに付着した異物を採取し、アルベン(エタノール:ベンゼン=1:2(体積比))で抽出して得られたセンターロール汚れ成分を前記アルベンに再度溶解し、汚れ成分濃度が10%の汚れ溶液を調製した。
(2)200mLビーカーにイオン交換水200mLを入れ、これに、各実施例または比較例で得られた抄紙機汚れ付着防止剤組成物を薬剤として、各薬剤を500ppmの濃度または1000ppmの濃度となるように添加して洗浄液とした。このビーカーに、予め重量を測定したテストピース(セラミック製、50mm×50mm×1mm)を浸漬した。
(3)上記ビーカー内の洗浄液を40℃に保温し、マグネティックスターラーで攪拌しながら上記10%汚れ溶液を1mL(洗浄液中の汚れ成分濃度:500ppm)加えて、5分間攪拌した。
(4)その後、上記テストピースを取り出し、70℃乾燥機にて恒量となるまで乾燥させてテストピースの重量を測定し、ビーカーに浸漬する前の重量に対する増加分(汚れ付着防止試験前後の重量差)を汚れ付着量とした。そして、各実施例および比較例についての汚れ付着防止率(%)を下記式にて算出した。結果を表6に示す。
【0056】
【数3】

【0057】
【表6】

【0058】
表6から、本発明の抄紙機汚れ付着防止剤組成物を薬剤とした実施例2および4では、比較例3、4、6、8、9および10に比べて、センターロール(セラミック製)汚れに対する高い汚れ付着防止効果が得られていることがわかる。
【0059】
(試験例1−実機テスト)
実施例1、2で使用したポリエーテルエステルアミド(A1)の10重量%水溶液と、本発明における成分(B)からなる比較例8の組成物とを薬剤として併用して、洋紙製造抄紙機(抄き幅:7m)のプレスパートフェルト4箇所にて実機テストを実施した。各フェルトの幅方向にスプレー管が配管された温水シャワー配管(すなわち、フェルトに誘導されたシャワー水系)に、ポリエーテルエステルアミド(A1)水溶液を5.0mL/分(幅1mあたり)で、比較例8の組成物を10.0mL/分(幅1mあたり)でそれぞれ別個に圧入して該温水シャワー配管内でポリエーテルエステルアミド(A1)水溶液と比較例8の組成物とが混ざり合った薬液が調製されるようにし、フェルトの全幅に対して連続的に薬液をスプレーした。このとき、シャワー水量は40L/分であり、温水温度は40℃とした。薬液のスプレーは、抄き出しから開始し、次回の停抄時まで(約60日間)連続的に行い、テスト期間中の操業状態を観察した。
【0060】
(試験例2−実機テスト)
薬剤として、ポリエーテルエステルアミド(A1)の10重量%水溶液および本発明における成分(B)からなる比較例8の組成物に代えて、ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA1)と本発明における成分(B)とを含む実施例3の組成物を使用した以外は、試験例1と同条件にて前記抄紙機と同じ抄紙機にて実機テストを実施し、テスト期間中の操業状態を観察した。具体的には、各フェルトの幅方向にスプレー管が配管された温水シャワー配管(すなわち、フェルトに誘導されたシャワー水系)に、薬液として実施例3の組成物を10.0mL/分(幅1mあたり)で圧入し、フェルトの全幅に対して連続的に薬液をスプレーした。このとき、シャワー水量および温水温度は試験例1と同様とした。薬液のスプレーは、抄き出しから開始し、次回の停抄時まで(約60日間)連続的に行い、テスト期間中の操業状態を観察した。
【0061】
(比較試験例1、2−実機テスト)
薬剤として一般的なフェルト洗浄剤の配合組成である比較例8の組成物のみを用い、これを、比較試験例1では10.0mL/分(幅1mあたり)で、比較試験例2では15.0mL/分(幅1mあたり)で温水シャワー配管に圧入したこと以外は、試験例1と同様にして実機テストを行い、テスト期間中の操業状態を観察した。
【0062】
試験例1、2および比較試験例1、2の結果から、以下のことがわかった。すなわち、比較試験例1で行った操業に対してポリエーテルエステルアミド(A1)水溶液を5mL/分/m(幅)加えた場合(試験例1)は、比較試験例1で行った操業に対して量のみを同量分増量した場合(比較試験例2)に比べ、センターロール−4Pロール間のドローを0.1%低下させることができ、断紙を減少させることができた。また、後段の乾燥工程での蒸気使用量も大幅に削減することができ、フェルトの通水性が改善されたことによりプレスパートにおける脱水効率が向上したものと推察された。
【0063】
また、ポリオキシアルキル化ポリアミド(AA1)と本発明における成分(B)とを含有する実施例3の組成物を使用した場合(試験例2)には、センターロール−4Pロール間のドローを試験例1の場合よりもさらに0.05%低下させることができ、断紙頻度もさらに減少させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】フェルト通水性測定装置の概略図である。
【符号の説明】
【0065】
1 吸引式フィルターホルダー
2 試験フェルト
3 ガラス繊維ろ紙
4 真空ポンプ
5 圧力計
6 温水(または洗浄液)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分および下記(b)成分を結合させて得られるポリエーテルエステルアミド(A)と、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、イオン性ポリマー、酸性化合物および塩基性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の成分(B)とを含有することを特徴とする抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
(a)成分:両末端のうち少なくとも一方にカルボキシル基を有するポリアミド
(b)成分:ポリ(オキシアルキレン)グリコール
【請求項2】
前記(a)成分が、炭素数5〜12のラクタムを炭素数4〜20のジカルボン酸の存在下で重合することにより得られる重合物である請求項1に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
【請求項3】
前記(b)成分が、ポリオキシエチレングリコールおよび/またはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合物である請求項1または2に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
【請求項4】
ポリアミドにアルキレンオキサイドを付加重合させて得られるポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)と、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、イオン性ポリマー、酸性化合物および塩基性化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の成分(B)とを含有することを特徴とする抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
【請求項5】
前記ポリアミドを構成する単量体が、炭素数5〜12のラクタム、炭素数5〜12のω−アミノカルボン酸、炭素数5〜12のジカルボン酸および炭素数5〜12のジアミンからなる群より選ばれる請求項4に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
【請求項6】
前記アルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイドを単独で、またはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとを併用して用いて付加重合させる請求項4または5に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物を、パルプスラリーおよび白水から選ばれる少なくとも1つの原料系に添加することを特徴とする抄紙機汚れ付着防止方法。
【請求項8】
請求項1〜6に記載の抄紙機汚れ付着防止剤組成物を、抄紙機におけるワイヤー、プレスパートのロールの表面、プレスパートのフェルトの表面から選ばれる少なくとも1つに適用することを特徴とする抄紙機汚れ付着防止方法。
【請求項9】
請求項1〜3に記載のポリエーテルエステルアミド(A)および請求項4〜6に記載のポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の少なくとも一方と請求項1〜6に記載の成分(B)とを、パルプスラリーおよび白水から選ばれる少なくとも1つの原料系にそれぞれ別個に添加することを特徴とする抄紙機汚れ付着防止方法。
【請求項10】
請求項1〜3に記載のポリエーテルエステルアミド(A)および請求項4〜6に記載のポリオキシアルキル化ポリアミド(AA)の少なくとも一方と請求項1〜6に記載の成分(B)とを、抄紙機におけるワイヤー、プレスパートのロールの表面、プレスパートのフェルトの表面から選ばれる少なくとも1つにそれぞれ別個に適用することを特徴とする抄紙機汚れ防止方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−240227(P2008−240227A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32064(P2008−32064)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(502264991)株式会社日新化学研究所 (11)
【Fターム(参考)】