説明

抑制性ニューロン特異的にレポーター遺伝子を発現する非ヒト哺乳動物

【課題】抑制性ニューロンを効率よく観察及び解析することのできる動物を提供する。
【解決手段】小胞性GABAトランスポーター遺伝子の約100kbpの5’発現調節領域を含むDNA断片に発現可能に連結されたレポーター遺伝子を非ヒト哺乳動物の染色体上に保持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抑制性ニューロン特異的に蛍光タンパク質遺伝子などのレポーター遺伝子を発現する非ヒト哺乳動物に関する。
【背景技術】
【0002】
脳は、興奮性ニューロンと抑制性ニューロンとで構成される神経ネットワークの集まりからできている。抑制性ニューロンの主要な神経伝達物質(抑制性神経伝達物質)は、γ−アミノ酪酸 (GABA) とグリシンである。GABAを神経伝達物質として放出する神経細胞がGABAニューロンであり、脳および脊髄に広範囲に分布する。一方、グリシンを放出する神経細胞がグリシンニューロンであり、主に脳幹と脊髄に分布する。抑制性伝達物質は神経の電位活動の制御を司り、覚醒、睡眠、概日リズムや学習、運動、感覚情報処理など脳の機能を構築する上で中心的役割を果たしていることが知られている。GABAはてんかん病やアルコール精神病をはじめとする精神神経疾患、不安や抑うつなどの精神症状との関連が報告されている。一方、グリシンはびっくり病(startle disease)との関連が知られている。
従って、(1)GABAやグリシンの作用機序を明らかにすること、(2)GABAやグリシンを伝達物質にもつ抑制性ニューロン(GABAニューロンとグリシンニューロン)の機能を明らかにすることは、脳や神経の機能を理解し、上記疾患の発症機序の解明や治療法の確立に貢献できる。
GABAとグリシンは、小胞型GABAトランスポーター(VGAT)によってシナプス小胞に蓄積された後に、シナプス間隙に放出される。VGATは、抑制性ニューロン(GABAニューロンとグリシンニューロン)に特異的に発現することから、抑制性ニューロンのマーカーとしても使用されている。一方、抑制性ニューロンは一般に中枢神経系に散在し、比較的少数であることから、生体において正確に同定し、電気生理学的特徴などの機能解析は困難であった。
【0003】
抑制性ニューロンを可視化した動物として、グリーン蛍光タンパク質遺伝子がグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子のエクソンと同一の読み取り枠に挿入されているトランスジェニック動物が報告されている(特許文献1)。
また、VGAT遺伝子の発現制御領域の制御下におかれるように連結された蛍光タンパク質をコードする遺伝子を保持する動物も報告されている(特許文献2)。特許文献2においては、VGAT遺伝子の発現制御領域として、5’発現調節領域の約8kbpの領域が用いられていた。しかしながら、これらの文献に記載された動物における蛍光タンパク質の発現量は十分ではなく、より効率よく抑制性ニューロンを可視化できる動物の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2003−088272号公報
【特許文献2】特開2003−204796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は抑制性ニューロンを効率よく観察及び解析することのできる動物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、VGAT遺伝子の約100kbpの5’発現調節領域を含むDNA断片に発現可能に連結されたレポーター遺伝
子を染色体上に保持させた非ヒト哺乳動物を用いることにより、抑制性ニューロンを効率よく観察及び解析することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)小胞性GABAトランスポーター遺伝子の約100kbpの5’発現調節領域を含むDNA断片に発現可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に保持する、非ヒト哺乳動物。
(2)前記レポーター遺伝子が、さらに、その3’側に小胞性GABAトランスポーター遺伝子の3'発現調節領域が連結された遺伝子である、(1)の非ヒト哺乳動物。
(3)約100kbpの5’発現調節領域を含む小胞性GABAトランスポーター遺伝子、及び該遺伝子の翻訳開始コドンの位置に挿入されたレポーター遺伝子を含む遺伝子コンストラクトを染色体上に保持する、(1)の非ヒト哺乳動物。
(4)レポーター遺伝子がヴィーナス遺伝子である、(1)〜(3)のいずれかの非ヒト哺乳動物。
(5)ラットである、(1)〜(4)のいずれかの非ヒト哺乳動物。
(6)(1)〜(5)のいずれかの非ヒト哺乳動物、あるいは該動物から得られる神経組織に被検物質を添加し、抑制性ニューロンにおけるレポーター遺伝子の発現量を指標として抑制性ニューロンからの神経伝達を制御する活性を有する物質を選抜することを特徴とする、神経伝達調節薬のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の非ヒト哺乳動物は抑制性ニューロンにレポーター遺伝子を効率よく発現するものである。したがって、本発明の非ヒト哺乳動物を用いることにより、生きた条件下に抑制性ニューロンを明瞭に同定し、可視化することができる。さらに、情報伝達の分子機構を解析するための電気生理学的実験や、抑制性ニューロンに作用する各種の薬物の活性およびその作用機構を調べるための薬理学的実験を従来に比べて格段に容易に行うことができる。本発明の非ヒト哺乳動物の神経細胞、またはシナプスを用いることにより、不安、抑鬱、てんかん、神経細胞死などの脳神経疾患の治療薬のスクリーニングを効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の非ヒト哺乳動物は、小胞性GABAトランスポーター(VGAT)遺伝子の約100kbpの5’発現調節領域を含むDNA断片に発現可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に保持する、非ヒト哺乳動物である。
【0009】
VGAT遺伝子は、VGATをコードする限り特に制限されないが、マウスまたはラット由来の遺伝子が好ましく、マウス由来の遺伝子がより好ましい。マウス由来のVGAT遺伝子としては、 データベースEnsemblに登録番号ENSMUSG00000037771で登録されている遺伝子(http://www.ensembl.org/Mus_musculus/geneview?gene=ENSMUSG00000037771&db=core)が挙げられ、具体的配列はhttp://www.ensembl.org/Mus_musculus/geneview?gene=ENSMUSG00000037771&db=core&_gene_sequence=1で参照できる。
VGAT遺伝子の約100kbpの5’発現調節領域としては、VGAT遺伝子のエクソン1に含まれる開始コドンATGより5’側の約100kbpの領域が挙げられる。なお、上記領域は、レポーター遺伝子の抑制性ニューロンにおける特異的発現を誘導するものである限り、1又は複数の塩基が置換、欠失、挿入等されたものであってもよい。ここで複数とは、例えば、2〜100個、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜20個である。また、約100kbpとは、例えば、90〜110kbp、好ましくは95〜105kbp、特に好ましくは99〜101kbpである。
また、約100kbpの領域を含む限り、さらに5’側の領域を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の非ヒト哺乳動物は、レポーター遺伝子がVGAT遺伝子の約100kbpの5’発現調節領域を含むDNA断片に発現可能に連結された遺伝子コンストラクトを保持する。該遺伝子コンストラクトは、VGAT遺伝子の5’発現調節領域の下流にレポーター遺伝子のオープンリーディングフレームが連結されていれば良く、5’発現調節領域に直接連結されていても良いし、5’発現調節領域の下流にレポーター遺伝子の発現を阻害しない任意の配列を介して連結されていても良い。VGAT遺伝子の5’発現調節領域の直後の翻訳開始コドンの位置にレポーター遺伝子のオープンリーディングフレーム、好ましくはオープンリーディングフレーム及びポリA配列が挿入された遺伝子コンストラクトが望ましい。
なお、遺伝子コンストラクト上には、VGAT遺伝子の翻訳開始コドン以降の配列(エクソンや3’発現調節領域)が含まれていてもよい。3’発現調節領域としては、VGAT遺伝子の終止コドンの下流の約20kbpの領域が挙げられる。
【0011】
VGAT遺伝子の5’発現調節領域を含むDNAは、BAC、YAC等のゲノムライブラリー等から通常用いられる方法により該DNAを含むクローンを選抜し、VGAT遺伝子の5’発現調節領域を含む断片を制限酵素等により切断して得るか、あるいはポリメラーゼチェインリアクション(PCR)等により取得することができる。このようなDNAの由来は、これを導入する宿主と同種のものが好ましいが、宿主細胞内で導入されたDNAが機能できるものであればこれに限られるものではない。VGAT遺伝子の約100kbpの5’発現調節領域を含むBACライブラリーとしては、例えば、Genome system社(St. Louis, MO,U.S.A.)より入手できるクローン#160L22が挙げられる。
【0012】
レポーター遺伝子としては、抑制性ニューロンを選択的に可視化するために用いる発光又は発色タンパク質遺伝子や、抑制性ニューロンを選択的に破壊するために用いる毒素遺伝子などが挙げられる。発光タンパク質をコードする遺伝子としては、GFP(緑色蛍光タンパク質;Prasher,D.C.,et al., Gene, 111, 229-233 (1992))、紫外線を照射することで緑から赤に変化するカエデをコードする遺伝子(GenBank Accession No. AB085641)、細胞内のカルシウム濃度に依存して発光するカメレオンをコードする遺伝子(GenBank Accession No.AB178711)、ヴィーナス遺伝子(Nat Biotechnol. 2002 Jan;20(1):87-90.)などが挙げられる。発色タンパク質遺伝子としては、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子などが挙げられる。毒素をコードする遺伝子としては、ジフテリア毒素をコードする遺伝子などが挙げられる。
これらのレポーター遺伝子を含むDNA断片は、PCR等で増幅して取得することもできるし、市販のものを用いることもできる。
【0013】
レポーター遺伝子は上記VGAT遺伝子の5’発現調節領域を含むDNAの3'側に制限酵素などを用いて連結することができる。VGAT遺伝子の開始コドンの位置にレポーター遺伝子が挿入された遺伝子コンストラクトは、VGAT遺伝子の開始コドンの前後の配列の間にレポーター遺伝子を挿入した遺伝子コンストラクトを用いた相同組換えによって作製することもできる。なお、遺伝子コンストラクトは100kbp以上の長さを有するため、BAC(大腸菌人工染色体)などを用いて導入することが好ましい。
【0014】
非ヒト哺乳動物としては、マウスまたはラットなどのげっ歯類が好ましく、ラットがより好ましい。すなわち、 (1) GAERS欠神発作ラット、Huntington病ラットなど疾患モデルラットが存在すること、(2) モノクローナル抗体の使用はマウスでは困難であるがラットでは可能であり、組織学的解析が容易になること、(3) 生理学実験の多くがラットで行われておりデータを照合しやすいこと、(4) 脳幹部の小さな神経核の解析はマウスよりもラットで容易であること、などによりラットが特に好ましい。
【0015】
上記のようにして調製された遺伝子コンストラクトを、非ヒト哺乳動物の生殖細胞に導入して遺伝子改変動物細胞を作製し、さらにこれを発生させることにより非ヒト哺乳動物を作製することができる。遺伝子コンストラクトの宿主への導入方法としては、該コンストラクトを、宿主が有するゲノムDNAの不特定の位置に複数コピー挿入する方法や、宿主のゲノムの特定の位置に導入する方法などが挙げられる。
【0016】
非ヒト哺乳動物生殖細胞としては、卵割前の受精卵が好ましく用いられる。このような受精卵は、非ヒト哺乳動物の雄と雌を交配させることによって得られる。受精卵は、自然交配によっても得られるが、動物の雌の性周期を人工的に調節した後、雄と交配させる方法が好ましい。動物の雌の性周期を人工的に調節する方法としては、例えば、初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン;PMSG)、次いで黄体形成ホルモン(ヒト繊毛性性腺刺激ホルモン;hCG)を、例えば腹腔注射等により投与する方法が挙げられる。これらのホルモンの投与量、投与間隔等は、該動物の種類により適宜決定すればよい。上記の通り動物の雌にホルモン投与を行って過剰排卵させ、交配後1日目の卵管から摘出すること等によって受精卵を得ることができる。
得られた受精卵に、遺伝子コンストラクトをマイクロインジェクション法等により注入して、動物の雌の輸卵管に人工的に移植、着床させて出産させることにより、遺伝子改変動物(トランスジェニック動物)を得ることができる。また、動物の雌に黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)あるいはその類縁体を投与した後に、動物の雄と交配させて、受精能を誘起させた偽妊娠雌動物を作製し、得られた偽妊娠雌動物に受精卵を人工的に移植、着床する方法を用いてもよい。
【0017】
上記遺伝子コンストラクトが導入された仔マウスあるいは仔ラットの選択は、マウスあるいはラットの尾の先を切り取って、高分子DNA抽出法(発生工学実験マニュアル、野村達次監修・勝木元也編、講談社(1987))又はDNAeasy Tissue Kit(QIAGEN社製)等の市販のキットを用いることによりゲノムDNAを抽出し、サザンブロット法やPCR法等の通常用いられる方法により該DNA中のレポーター遺伝子、VGAT発現制御領域DNAの存在を確認することによって行うことができる。また、レポーター遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合、蛍光の発光量の測定や、蛍光顕微鏡等による観察によっても行うことができる。
【0018】
本発明の非ヒト哺乳動物は、上記のようにして得られる個体を交配し、導入されたDNAが安定に保持されることを確認して通常の飼育環境で継代飼育することによりその子孫を得ることもできるし、体外受精を繰り返すことによりその子孫を得て、系統を維持することもできる。
本発明の非ヒト哺乳動物は染色体上に上記遺伝子コンストラクトを保持する限り、他の動物との掛け合わせによって得られる動物であってもよい。
例えば、てんかんでは抑制性ニューロンが関与していることが示唆されているため、本発明のラットをSHRラットなどのてんかんモデル動物と掛け合わせることによって、てんかんにおける抑制性ニューロンの動態の観察や、てんかんの病因解析や治療薬のスクリーニングに有用な動物を得ることができる。
また、VGATは膵ランゲルハンス島にも発現していることが知られているため、本発明のラットをGKラットなどの糖尿病モデル動物と掛け合わせることによって、糖尿病における膵ランゲルハンス島の観察や、糖尿病の病因解析や治療薬のスクリーニングに有用な動物を得ることができる。
【0019】
本発明の非ヒ卜遺伝子改変動物、あるいは該動物から得られる神経組織は、レポーター遺伝子により翻訳されるタンパク質の量を指標として、GABAニューロンなどの抑制性ニューロンの電気生理学的解析や形態学的解析に用いることができる。また、GABAニューロンの発生学的解析、GABAニューロンに固有の分子生物学的解析、VGAT遺伝子のin vivoにおける発現動態の解析などにも用いることができる。
なお、レポーター遺伝子に蛍光タンパク質遺伝子を用いる場合、蛍光タンパク質の発現量は、蛍光量として観察、測定することができる。蛍光量の測定の方法は、蛍光顕微鏡等による可視化やFRET(F1uorescenceResonance Energy Transfer)等による定量化、二光子励起法、あるいはフローサイトメトリー等によることができる。
具体的には、本発明の動物に由来する抑制性ニューロンに対して、電気的、あるいは薬物等の刺激を与え、この刺激により抑制性神経細胞またはシナプス中の蛍光強度の変化を観察することにより、該刺激に対する神経細胞あるいはシナプスの機能的あるいは形態的変化を解析することができる。このような解析によれば、中枢神経系における抑制性神経細胞あるいはシナプスに対する刺激や薬物によって誘発される生理薬理効果の作用機構や相互作用等が解明される。これらの解析から得られる知見は、神経伝達や薬理作用のメカニズムの解明につながるものである。
また、VGAT遺伝子はグリシンニューロンにも発現することから、グリシンニューロンを生体で可視化することもでき、グリシンニューロンの機能解析やグリシン神経伝達が関与する疾患の発症機構を解明することにも利用可能である。
【0020】
本発明の非ヒト遺伝子改変動物は、抑制性神経細胞またはシナプスを生体において可視化することができるので、神経細胞あるいはシナプスにおける神経伝達調節薬のスクリーニングや評価に用いることができる。本発明のスクリーニング方法は、本発明の非ヒト哺乳動物を用いて、該動物を被検物質で処理し、該動物における神経細胞、あるいはシナプスに現れる変化を解析し、これを無処理の対照動物と比較することにより行うことができる。
被検物質としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等が挙げられ、これらの物質は新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。該動物を被検物質で処理する方法としては、例えば、経口投与、静脈注射等の通常用いられる公知の方法が挙げられ、試験動物の症状、被検物質の性質等に合わせて適宜選択すればよい。
また、本発明のスクリーニング方法は、本発明の遺伝子改変動物から得られる神経組織を用いて行うこともできる。
神経細胞、あるいはシナプスに現れる変化としては、蛍光タンパク質の発現量や、シナプスの数の変化を伴う構造的、あるいは形態的な効果等が挙げられる。
【実施例】
【0021】
遺伝子コンストラクトの作製
(1)VGAT遺伝子を含む大腸菌人工染色体(BAC)クローンの選択
VGAT遺伝子を含む大腸菌人工染色体(BAC)クローンをマウス大腸菌人工染色体(BAC)ライブラリー(Genome system社、St. Louis, MO, U.S.A.)からPCR法により、3クローン同定した。これらの3クローン(#44G06, #160L22, #184J1)をGenome system社より購入して、各クローンの挿入部位の塩基配列を決定することにより、各クローンの挿入部位の中のVGAT遺伝子の位置を決定した。その結果、#160L22クローンでは、VGAT遺伝子の5'側に約100 kb、3'側に約25 kbあり、VGAT遺伝子(約5 kb)を含めて、全長約130 kbのインサートがあることが判明した。
【0022】
(2)VGAT遺伝子へvenus遺伝子を挿入・改変したBACクローンの作製
VGAT遺伝子のエクソン1の翻訳開始コドン(ATG)にframeを一致させるようにVenus遺伝子(Nat Biotechnol. 2002 Jan;20(1):87-90.)を挿入した。すなわち、Venus遺伝子とそれに続くSV40poly(A)配列を含み、その5'-端にVGAT遺伝子の5'-相同領域(0.94 kbの5'-発現調節領域)、3'-端にVGAT遺伝子の3'-相同領域(1.39 kbのエクソン1とその下流を含む領域)を配置したDNAを作製し、これを相同組み換え用シャトルベクター(pKOV-Kan;Lalioti and Heath, Nucleic Acids Res. 29(3):E14. 2001)に挿入して、ターゲティングコンストラクト、VGAT-venus/KOV (Fig. 1)を作製した。#160L22クローンにVGAT-venus/KOVを導入し、相同組換えにより、#160L22クローン上にあるVGAT遺伝子のATGの位置にvenus遺伝子およびポリA配列を挿入したVGAT-venus BACクローンをLalioti and Heath (2001)の方法に従って作製した。
【0023】
(3)VGAT-venusラットの作製
上記のようにして作製したVGAT-venus BACクローンからBAC DNAを精製し、そのDNAをラット受精卵に注入した後、偽妊娠マウスに移植し、21匹の仔 (Founder) を得た。VGAT-venus遺伝子が導入されているかどうかをPCR法で決定した。用いたprimerはvenus遺伝子内に設計し、sequenceは以下のとおりである。
venus-F: 5'-ATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGT-3'(配列番号1)
venus-R: 5'-TTACTTGTACAGCTCGTCCATGCCGA-3' (配列番号2)。
その結果、21匹の仔のうち、2匹がVGAT-venus遺伝子が導入されたトランスジェニックラット(VGAT-venusラット)であることが判明した。2匹とも野生型ラットと交配した結果、次世代に導入遺伝子が継代され、ラインとして樹立された。
【0024】
(4)VGAT-venusラットの解析
生後1日〜3日のVGAT-venusラットについて蛍光顕微鏡で観察した結果、頭部に自家蛍光を観察した。さらに、パラホルムアルデヒド固定した組織を蛍光顕微鏡で観察した結果、脳に強いに自家蛍光を観察した(図2)。
自家蛍光をもつ細胞が抑制性ニューロンであるかどうか生後3週齢のVGAT-venusラットの脳組織標本を作成し、GFPの自家蛍光の観察、抗GFP抗体と抗GABA抗体を用いた免疫組織化学の検討を行った。図3に大脳皮質標本を用いた結果を示す。抗GFP抗体陽性の細胞は、小型〜中型の大きさで、多様な形態を示し、散在性に分布するGABAニューロンの特徴をもつ。さらに、GFPの自家蛍光と抗GABA抗体を用いた2重染色で、GFPの自家蛍光をもつ細胞が抗GABA抗体陽性細胞であることが、判明した。また、図4に小脳皮質標本を用いた結果を示す。GFPの蛍光が観察される細胞は、分子層では多数の小型の細胞、プルキンエ細胞層では大型の細胞、顆粒層では散在性に少数の細胞が認められた。このGFPの蛍光が観察された細胞は、これまで多数報告されているGABAニューロンの分布と一致する。また、抗GFP抗体陽性の細胞もGABAニューロンの分布と一致する。以上の結果は、大脳皮質、小脳皮質のGFPの自家蛍光をもつ細胞が主な抑制性ニューロンである、GABAニューロンであることを示唆する。従って、VGAT-venusラットがGABAニューロンの機能解析に有用であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】VGAT遺伝子を含むBACクローン (wild-type BAC)、相同組み換え用のターゲティングコンストラクト (targeting construct)、および相同組み換えによる改変したBACクローン(modified BAC)の説明図。
【図2】VGAT-venusラットの脳の蛍光顕微鏡による観察結果を示す図(写真)。
【図3】VGAT-venusラット大脳皮質標本の抗GFP抗体による免疫染色の結果を示す図(写真)。上部が脳膜と第I層、中央部がII層〜V層、下部がVI層と白質。
【図4】VGAT-venusラット小脳皮質標本の蛍光顕微鏡による観察結果を示す図(写真)。上部が分子層、中央部がプルキンエ細胞層、下部が顆粒層である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小胞性GABAトランスポーター遺伝子の約100kbpの5’発現調節領域を含むDNA断片に発現可能に連結されたレポーター遺伝子を染色体上に保持する、非ヒト哺乳動物。
【請求項2】
前記レポーター遺伝子が、さらに、その3’側に小胞性GABAトランスポーター遺伝子の3'発現調節領域が連結された遺伝子である、請求項1に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項3】
約100kbpの5’発現調節領域を含む小胞性GABAトランスポーター遺伝子、及び該遺伝子の翻訳開始コドンの位置に挿入されたレポーター遺伝子を含む遺伝子コンストラクトを染色体上に保持する、請求項1に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項4】
レポーター遺伝子がヴィーナス遺伝子である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項5】
ラットである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の非ヒト哺乳動物、あるいは該動物から得られる神経組織に被検物質を添加し、抑制性ニューロンにおけるレポーター遺伝子の発現量を指標として抑制性ニューロンからの神経伝達を制御する活性を有する物質を選抜することを特徴とする、神経伝達調節薬のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−149330(P2006−149330A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348415(P2004−348415)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】