説明

抗アポトーシス融合タンパク質

本発明は、融合タンパク質を哺乳動物細胞へ導入し得るタンパク質形質導入ドメイン、および配列番号1の配列のアミノ酸を含む抗アポトーシスタンパク質またはその抗アポトーシス活性のある改変体または断片を含む融合タンパク質に関連する。本発明はまた、特にその必要のある患者においてアポトーシスをブロックするための、そのような融合タンパク質を含む薬学的組成物に関連する。本発明はまた、そのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを含む発現ベクター、およびその発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。さらなる局面において、本発明は、その必要のある患者においてアポトーシスをブロックするための薬物を調製するために、これらの物質のいずれかを使用することに関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合タンパク質を哺乳動物細胞へ導入し得るタンパク質形質導入ドメイン、および配列番号1の配列のアミノ酸を含む抗アポトーシスタンパク質、またはその抗アポトーシス活性のある改変体または断片を含む融合タンパク質に関連する。本発明はまた、特にその必要のある患者においてアポトーシスをブロックするための、そのような融合タンパク質を含む薬学的組成物に関連する。本発明はまた、そのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、そのポリヌクレオチドを含む発現ベクター、およびその発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。さらなる局面において、本発明は、その必要のある患者においてアポトーシスをブロックするための薬物を調製するために、これらの物質のいずれかを使用することに関連する。
【背景技術】
【0002】
多細胞生物における細胞数の調節は、生物の発生およびその異なる生命機能の維持の両方に関して必須の必要条件である。アポトーシスは、発生のある段階において必要でない細胞が、プログラム細胞死を受ける過程である。例えば、発生中の胚における組織および臓器の形成を司るのは、増殖およびアポトーシスの正確に制御された相互作用である。アポトーシスは、多くの異なる刺激によって誘導され、そして異なる経路によって伝播する。
【0003】
外因性の経路は、とりわけデスレセプターリガンド、例えばTNF、TRAILおよびCD95Lの、細胞におけるそのそれぞれの受容体分子への結合を含み、その結合は最終的にカスパーゼ−8を活性化する。内因性経路は、例えばDNA損傷トポイソメラーゼ阻害剤ドキソルビシン、エトポシドおよびスタウロスポリン、TCR刺激、UV照射、DNA損傷等の適用によって刺激され、それはミトコンドリアからのチトクロムcの放出、カスパーゼ−9、およびカスパーゼ活性化へのグランザイムB依存性経路の活性化を引き起こす。グランザイムBはBIDおよびカスパーゼ−3および−7をプロセシングしてアポトーシスを開始し得る。これらの経路は、お互いに影響するように関連している。アポトーシスを起こす細胞は一様に、クロマチンの凝縮、細胞の収縮、膜透過性の増加、およびヌクレオソーム間のDNA切断のような、多くの特徴的な特色を示す。
【0004】
発生中のその種々の機能とは別に、障害された、増加した、または欠損したアポトーシスも、多くの疾患または病理的状態に関与している。例えば、虚血および続く再灌流は、内因性および外因性経路の両方によってアポトーシスを誘導し、それはその機能が生物にとって重要である、決定的な組織または臓器の完全な不全を引き起こし得る。例えば、異常に増加した程度のアポトーシスは、腎不全および脳組織の損傷を引き起こし得る。さらに、増加したアポトーシスはまた、胃腸疾患に関与することが報告された。対照的に、異常に減少したアポトーシスは、異なる形態の癌に関与する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アポトーシスの種々の阻害剤が先行技術において示唆されたが、これらのアプローチのいずれも臨床上の実施のために適当であることが立証されなかった。例えば、種々の抗アポトーシスタンパク質が、治療的化合物として議論された。しかし、これらのタンパク質の臨床上の使用は現在、そのような処置を受ける患者にとって予見できないリスクを含む遺伝子伝達方法を用いてのみ可能である。従って、異常に増加したアポトーシスの安全(save)および有効な処置のための手段および方法を提供することが、本発明の目的である。この目的を、融合タンパク質を哺乳動物細胞へ導入し得るタンパク質形質導入ドメイン、および本明細書中でさらに定義される抗アポトーシスタンパク質を含む融合タンパク質によって達成する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって、驚くべきことに、牛痘ウイルスサイトカイン応答修飾因子A(CrmA)タンパク質と、HIV Tatタンパク質のタンパク質形質導入ドメインのようなタンパク質形質導入ドメインとの結合は、抗アポトーシス活性の融合タンパク質を生じ、それは抗アポトーシス処置が必要な患者、すなわち体の細胞または組織における病的なレベルのアポトーシスによって特徴付けられる疾患に罹患した患者において、アポトーシスをブロックするのに有効であることが見出された。
【0007】
よって、融合タンパク質が提供され、当該融合タンパク質は、少なくとも以下の成分を含む:
(a)融合タンパク質を哺乳動物細胞へ導入し得るタンパク質形質導入ドメイン;
(b)配列番号1のアミノ酸配列を含む抗アポトーシスタンパク質またはその抗アポトーシス活性のある改変体または断片。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、TAT−CrmAが、アポトーシスが起こる細胞の初期マーカーであるカスパーゼ−3の活性をブロックし得ることを示す、インビトロアッセイからの結果を示す。使用した溶解物は、未処理のJurkat細胞(A)、抗Fas抗体で処理したJurkat細胞(B)、または抗Fas抗体を加える前にTAT−CrmAで処理したJurkat細胞(C)由来であった。
【図2】図2は、膜電位の変化によって測定されるアポトーシスの決定を示す。スタウロスポリンまたは抗Fas抗体の添加前の、融合タンパク質TAT−CrmAによる細胞の処理はそれぞれ、これらの両方の刺激によって誘導される細胞における膜電位の喪失を部分的に抑制した。
【図3】図3は、TAT−CrmAおよび抗Fas抗体とインキュベートしたJurkat細胞(A)、未処理のJurkat細胞(B)、または抗Fas抗体とのみインキュベートしたJurkat細胞(C)における、FITC標識アネキシンVを用いたFACS分析によるアポトーシスの検出を示す。アポトーシスを起こした細胞の数が、抗Fas抗体のみを用いた反応と比較して、TAT−CrmAを用いた反応において有意に低減される。
【図4】図4は、融合タンパク質TAT−CrmAを用いた、マウスにおけるインビボ研究の結果を示す。その融合タンパク質は、インビボにおいてFas媒介性アポトーシスからマウスを効果的に保護する。
【図5】図5は、融合タンパク質TAT−CrmAを受容したマウスにおけるインビボ研究の結果を示す。その融合タンパク質は、インビボにおいてドキソルビシン誘導アポトーシスからマウスを効果的に保護する。
【図6】図6は、エバンスブルーおよびTTC染色によって決定された、再灌流後の梗塞サイズの比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
治療的に活性なタンパク質またはポリペプチドの使用は、長い間これらのタンパク質またはポリペプチドが細胞膜バリアを横切ることができないことによって妨害されてきた。シャトル分子として作用するHIV Tatタンパク質由来のもののような、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)の発見が、大きなタンパク質またはポリペプチドの標的細胞への形質導入を促進した。タンパク質形質導入ドメインは、PTD−タンパク質複合体が、受容体非依存性の方式で細胞へ入ることを可能にする。今までにいくつかの異なるPTDが、例えばショウジョウバエのアンテナペディアタンパク質(antennapedia protein)、単純ヘルペスウイルスのVP22タンパク質、およびHIV1型のTATタンパク質において同定された。これらのPTDは一般的に、約10−50アミノ酸から成り、そしていくつかの構造的類似性を共有する。PTDの1つの著しい特徴は、数個の塩基性アミノ酸を有することであり、それはこれらの分子が細胞へ入る一般的なメカニズムを示す。標的細胞の表面のヘパラン構造と、PTD配列の塩基性アミノ酸との相互作用が、最終的に分子全体の細胞への形質導入を引き起こすことが推測された。
【0010】
本発明の文脈において使用する場合、「融合タンパク質」という用語は、少なくとも2つの異なるタンパク質またはタンパク質断片を含む、天然に存在しないハイブリッドタンパク質を指す。本発明の融合タンパク質は、融合タンパク質を細胞、好ましくは抗アポトーシス処置が必要な患者の哺乳動物細胞へ導入するために適当なタンパク質形質導入ドメインを含む。好ましくは、その患者はヒト患者であり、そして本発明の融合タンパク質がPTDによって入るべき細胞はヒト細胞、例えば腎臓組織のような臓器組織の細胞である。原則として、PTDが融合または他の方法で結合する抗アポトーシスタンパク質のフォールディングに有害な影響を与えないあらゆるPTDを使用し得る。このことは、PTDが、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質またはその抗アポトーシス活性のある断片または改変体の抗アポトーシス活性に、望ましい抗アポトーシス活性がなくなる程度まで干渉すべきでないことを意味する。しかし、特定の融合タンパク質が、安定性または有効期間の増加、または免疫原性の減少のような薬理学的性質の改善のような、他の有利な特徴を示す場合は、20%、30%、40%、50%、60%、70%、またはさらに80%までの抗アポトーシスタンパク質の活性の喪失を許容し得ることが理解される。当業者は、所与の融合タンパク質が、望ましい治療の状況において使用するために適当であるかどうか、容易に評価し得る。
【0011】
本発明の好ましい局面によって、融合タンパク質において使用されるタンパク質形質導入ドメインは、ショウジョウバエのアンテナペディアタンパク質、単純ヘルペスウイルスのVP22タンパク質、またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)1型のTATタンパク質のいずれか由来である。特に好ましい実施態様によって、その融合タンパク質は、HIV1型のTatタンパク質の形質導入ドメイン由来のタンパク質形質導入ドメインを含む。ヒト免疫不全ウイルス1型のTatタンパク質の形質導入ドメインは、いくつかの出版物において、例えばBhorade,R.ら(2000)、Bioconjug.Chem.11:301−305;Becker−Hapak,Mら(2001)、Methods 24:247−256;およびDietz,G.ら(2002)、Mol.Cell Neurosci.21:29−37において、当該分野で記載された。変異誘発研究によって、HIV Tat形質導入ドメインの11アミノ酸のコア構造が、細胞膜を横切ってのタンパク質の有効な伝達に十分であることが示された。HIV Tat形質導入ドメインの最低限の構造が、11アミノ酸配列YGRKKRRQRRR(配列番号3)によって示される。従って、好ましい実施態様において、その融合タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも80%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、またはそれから成る、タンパク質形質導入ドメインを含む。
【0012】
本発明の融合タンパク質はまた、さらなる成分として、配列番号1のアミノ酸配列、またはその抗アポトーシス活性のある断片または改変体を含む。配列番号1で示されるアミノ酸配列は、牛痘ウイルスのサイトカイン応答修飾因子A(CrmA)タンパク質の一次構造を記載する。このタンパク質は、アポトーシスの有効な抑制因子であることが示された。進化の間に抗アポトーシスタンパク質を発達させることによって、牛痘ウイルスは、増殖のためにウイルスによって使用される宿主細胞を保護する能力を得た。他のアポトーシス抑制因子と異なり、CrmAの効果は、外因性経路のカスパーゼ−1および−8、内因性経路のカスパーゼ−9、および実行因子カスパーゼ−3、−6、および−7の同時阻害に基づく。この多方面にわたる作用様式のために、CrmAは特に強力なアポトーシスの阻害剤である。
【0013】
インビトロ系および動物モデルの両方において、アポトーシスをブロックするためにCrmAタンパク質を使用するいくつかの試みが、当該分野でなされた。これらの試みは、細胞系統またはトランスジェニック動物におけるCrmAタンパク質の異種性発現に基づいていたが、それは一旦発現構築物が標的細胞へ導入されたら、CrmAの発現を止められないという根本的な不都合があった。本発明の特定の利点は、望ましくないアポトーシスの阻害が、限られた時間の間だけ可能であるという事実にある。本発明の融合タンパク質は、一過性の細胞死の抑制が望ましい状況において、アポトーシスの一時的な阻害を可能にする。本発明の融合タンパク質が、約8時間の半減期を示し、融合タンパク質の投与の頻度によって、処置の程度および期間を容易に調整し得ることが示された。言い換えると、タンパク質形質導入ドメインの使用によるCrmAタンパク質の導入は、医師が、処置される患者の臨床状態に対して抗アポトーシス処置を調整することを可能にする。
【0014】
当業者によって認識されるように、牛痘ウイルスは、ウイルスゲノムの高い変異率のために、永続性の修飾を受ける。結果として、配列番号1のアミノ酸配列から1つまたはそれより多くのアミノ酸が異なる、数個のアミノ酸配列が、CrmAタンパク質に関するデータベースにおいて入手可能である。これらのCrmAの改変体は、それらが抗アポトーシス活性を有する限り、本発明によって含まれる。本明細書中で使用される場合、配列番号1のタンパク質の改変体は、配列番号1のタンパク質のアミノ酸配列と、1つまたはそれより多くのアミノ酸の置換、付加、または欠失によって異なるアミノ酸配列を有するタンパク質である。一般的に、できたタンパク質改変体が依然として抗アポトーシス活性を示す限り、配列番号1で示した配列のあらゆるアミノ酸残基を、別のアミノ酸で置換し得る。抗アポトーシス活性の決定を、例えばWenderら(2000)、97(24)13003−8において記載された方法によって行い得る。特に、配列番号1において示されたアミノ酸配列と、5、10、15、20またはさらに25アミノ酸までの位置において異なるタンパク質改変体が含まれる。
【0015】
置換は保存的置換、すなわち機能的同等物として作用する、同様の極性の別のアミノ酸によるアミノ酸残基の置換であることが好ましい。好ましくは、代用物として使用されるアミノ酸残基は、置換されるアミノ酸残基と同じグループのアミノ酸から選択される。例えば、疎水性の残基を、別の疎水性の残基で置換し得る、または極性の残基を、同じ電荷を有する別の極性の残基で置換し得る。保存的置換のために使用し得る、機能的に同族のアミノ酸は、例えばグリシン、バリン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、およびトリプトファンのような、非極性アミノ酸を含む。無電荷極性アミノ酸の例は、セリン、スレオニン、グルタミン、アスパラギン、チロシン、およびシステインを含む。荷電極性(塩基性)アミノ酸の例は、ヒスチジン、アルギニン、およびリシンを含む。荷電極性(酸性)アミノ酸の例は、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。
【0016】
配列番号1の配列より多くのアミノ酸を含むタンパク質配列、すなわち1つまたはそれより多くのアミノ酸が挿入されたタンパク質配列も、「改変体」という用語に含まれる。そのような挿入は、原則として配列番号1のタンパク質のあらゆる位置で起こり得る。その挿入は、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸を含む、近接するアミノ酸のストレッチ(stretch)であり得る。同様に、「改変体」という用語はまた、配列番号1のタンパク質と比較して、1つまたはそれより多くのアミノ酸が欠失したタンパク質配列を含む。その欠失は、配列番号1のタンパク質の数個の近接するアミノ酸残基、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸を含み得る。CrmAタンパク質の特に好ましい改変体は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有する。この改変体はとりわけ、配列番号1の位置55−57に示すバリン−セリン−アラニンのストレッチの欠如によって、配列番号1のCrmAタンパク質と異なる。この欠失は、その改変体の抗アポトーシス活性に影響を与えない。配列番号1のタンパク質の改変体はまた、構造的修飾、例えばリン酸化、グリコシル化、アセチル化、チオール化、分岐、および/または環化によって変化したアミノ酸のような、修飾アミノ酸を含み得る。
【0017】
アミノ酸の置換、付加、または欠失によって修飾された、配列番号1のCrmAタンパク質の改変体は、通常配列番号1のCrmAタンパク質に対してかなりの程度のアミノ酸配列相同性または同一性を示す。好ましくは、アミノ酸レベルの相同性または同一性は、改変体の配列を配列番号1のものと最適に整列した場合、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%である。アミノ酸相同性を決定するための方法およびコンピュータープログラムは、当該分野において周知である。
【0018】
本発明はまた、配列番号1のタンパク質またはその改変体のいずれか由来である、抗アポトーシス活性のある断片の使用を企図する。配列番号1またはその改変体の抗アポトーシス活性のある断片は、配列番号1で示したアミノ酸配列、またはその改変体から、タンパク質のN末端および/またはC末端における1つまたはそれより多くのアミノ酸の欠如によって異なるペプチドまたはポリペプチドを含む。例えば、以下の実施例で使用される融合タンパク質のCrmA成分は、配列番号1で示した配列の位置1におけるメチオニン残基を欠き、それは実際配列番号1の配列の断片を示すことを意味する。当業者はさらに、先行技術において詳細に記載された日常的な方法を行うことによって、配列番号1またはその改変体において示された配列の活性な断片を決定し得る。
【0019】
好ましくは、本発明の融合タンパク質はさらに、タンパク質形質導入ドメインおよび抗アポトーシスタンパク質の間にリンカーを含む。そのリンカーは、CrmA部分の抗アポトーシス活性が維持され、そしてPTDによる融合タンパク質の細胞への導入が依然として達成される限り、任意の数のアミノ酸を含み得る。そのリンカーは、通常5−30アミノ酸、好ましくは8−25アミノ酸、そしてより好ましくは10−20アミノ酸を含む。グリシンは、融合タンパク質の活性部分のタンパク質のフォールディングに影響を与える可能性が低いので、リンカーはつりあいよく、数個のグリシンを含む。その融合タンパク質はまた、さらなる成分、例えばタグに対する結合親和性を示す化合物による融合タンパク質の結合を促進するアフィニティータグを含み得る。例えば、そのアフィニティータグは、ニッケルイオンキレートマトリックスと特異的に相互作用する、6−12のヒスチジン残基を含むポリヒスチジンタグであり得る。本発明の実施例において使用され(TAT−CrmAと呼ばれる)、そして配列番号4で示された融合タンパク質は、精製のために6個のヒスチジン残基のタグを含む。あるいは、そのタグは、グルタチオンマトリックス上での精製を可能にする、グルタチオンS−転移酵素であり得る。さらなるアフィニティータグが当該分野において周知である。アフィニティータグおよびアフィニティーリガンドのペアの制限しない例は、マルトース結合タンパク質(MBP)およびマルトース;アビジンおよびビオチン;Streptagおよびストレプトアビジンまたはニュートラアビジンを含む。アフィニティータグを、関心のある分子のcDNAと、タグをコードする配列との融合/ライゲーションによって分子に結合し得る。アフィニティータグがペプチドまたはポリペプチドである場合、そのようなタグを簡便に本発明の融合タンパク質と一緒に、単一の発現産物として発現し得る。別の実施態様において、そのアフィニティータグを、化学的結合反応によって結合し得る。例えば、ビオチンを融合タンパク質に化学的に結合し得る。
【0020】
本発明の融合タンパク質は、治療的タンパク質の送達のために適当な形態で投与された場合、アポトーシスを阻害またはブロックするのに有効であることが示された。よって、本発明によって提供される融合タンパク質は、その必要のある患者においてアポトーシスをブロックするためのものである。その融合タンパク質を、例えば、再灌流障害、脳卒中、心筋梗塞、毒性または虚血性臓器不全、劇症肝不全、AIDS、神経変性性疾患、移植片対宿主病、アルコール誘発性肝硬変、脊髄損傷、急性白血病、またはウイルス性肝炎のような、調節不全の、過剰なレベルのアポトーシスを伴う疾患を処置するために使用し得る。
【0021】
好ましくは、本発明の融合タンパク質を、薬学的組成物として投与する。よって、本発明はまた、上記で定義したような融合タンパク質を含む薬学的組成物を提供する。その薬学的組成物は、その必要のある患者においてアポトーシスをブロックするためのものである。特に、その組成物は、再灌流障害、脳卒中、心筋梗塞、毒性および虚血性臓器不全、劇症肝不全、AIDS、神経変性性疾患、移植片対宿主病、アルコール誘発性肝硬変、脊髄損傷、急性白血病、またはウイルス性肝炎を処置するためのものである。1つまたはそれより多くの治療的タンパク質を含む薬学的組成物の調製は、薬学の分野で働く人々によって周知である。典型的には、そのような組成物を、液体溶液または懸濁液のいずれかとして注射用に調製する。活性成分(すなわち融合タンパク質)を、薬学的に受容可能であり、そしてヒト患者において使用した場合に融合タンパク質と適合性である賦形剤と混合し得る。本発明の薬学的組成物は通常、活性成分としてその中に溶解または分散した融合タンパク質と共に、生理学的に許容可能な担体を含む。薬学的に受容可能な担体は、例えば水、生理食塩水、リンゲル液、またはデキストロース溶液を含む。本発明の抗アポトーシス融合タンパク質を含む組成物のための、さらなる適当な担体は、標準的な教科書、例えば「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、Mack Pub.Co.、New Jersey(1991)において記載されている。担体に加えて、本発明の薬学的組成物はまた、湿潤剤、緩衝剤、安定剤、色素、保存剤等を任意の濃度で含み得るが、これらの化合物が本発明の融合タンパク質の抗アポトーシス活性に干渉しないことが条件である。
【0022】
融合タンパク質を、アポトーシスの阻害が必要な部位または臓器に提供するために、種々の投与経路が可能である。好ましくは、その薬学的組成物を、全身性投与、例えば非経口投与のために処方する。非経口投与は、静脈内投与、皮内投与、動脈内投与、皮下投与、局所投与、経粘膜投与、または直腸投与を含み得る。特に好ましい実施態様によって、その薬学的組成物を、注射のために処方する。
【0023】
注射のために適当な薬学的組成物は通常、滅菌注射溶液または分散物(dispersion)の即時調製のための、滅菌水性溶液または分散物および滅菌粉末を含む。その組成物はさらに、製造および保存の通常の条件下で安定であるべきである。注射用に意図された組成物は、注射を受ける患者における重度の免疫反応を回避するために、無菌でなければならない。無菌性を維持するために、その薬学的組成物は通常、製品における微生物の増殖を抑制するために、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等のような保存剤を含む。静脈内または動脈内投与のために、適当な担体は、生理学的食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF)、またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含み得る。その担体はまた、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、およびその適当な混合物を含む、溶媒または分散媒であり得る。注射用組成物の延長した吸収を、組成物に吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンを含めることによって達成し得る。活性成分(融合タンパク質)を必要な量で、適当な溶媒中に、上記で述べた成分の1つまたは組み合わせと共に組み込み、続いて滅菌ろ過することによって、滅菌注射溶液を調製し得る。同様に、融合タンパク質を、分散媒および任意で上記で概略を述べた他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって、分散物を調製する。滅菌溶液をまた、融合タンパク質を、減圧乾燥または凍結乾燥のような、当該分野で公知の方法によって滅菌粉末の形態で提供し、そしてその粉末を滅菌液体で再構成して注射のための最終的な溶液を産生することによって得ることができる。あるいは、本発明による薬学的組成物をまた、持続注入によって投与し得る。
【0024】
薬学的組成物の投与をまた、経粘膜または経皮送達によって達成し得る。経粘膜または経皮投与に関して、本発明の融合タンパク質を含む薬学的組成物は、皮膚または粘膜の障壁を横切るために適当な浸透剤を含む。そのような浸透剤は当該分野で公知であり、そして例えば、経粘膜投与に関しては、界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与を、鼻腔内スプレーまたは坐剤の使用によって達成し得る。経皮投与に関して、活性化合物を、当該分野において一般的に公知であるように、軟膏(ointment)、膏薬(salve)、ゲル、またはクリームに処方する。好ましくは、その化合物を、直腸送達のために、カカオバターおよび他のグリセリドのような、従来の坐剤基剤と共に、坐剤の形態に調製する。
【0025】
1つの実施態様において、その活性化合物を、インプラントおよびマイクロカプセル化送達システムを含む、徐放性処方のような、ペプチドを体からの排泄に対して保護する担体と共に調製する。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸のような、生物分解性、生体適合性のポリマーを使用し得る。徐放性の処方を調製するための方法は、当該分野において周知である。さらに、徐放性組成物を調製し得る。徐放性調製物の適当な例は、固体疎水性ポリマーの半浸透性マトリックスを含み、そのマトリックスは形作られたもの、例えばフィルムまたはマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリックスの例は、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド、L−グルタミン酸およびエチル−L−グルタミン酸のコポリマー、非分解性エチレン酢酸ビニル、分解性乳酸−グリコール酸コポリマー等を含む。
【0026】
さらなる局面において、本発明は、上記で定義したような抗アポトーシス融合タンパク質の、治療的に有効な量の投与を含む、その必要のある患者において病的アポトーシスを処置するための方法を提供する。好ましくは、その患者は、再灌流障害、脳卒中、心筋梗塞、毒性および虚血性臓器不全、劇症肝不全、AIDS、神経変性性疾患、移植片対宿主病、アルコール誘発性肝硬変、脊髄損傷、急性白血病、またはウイルス性肝炎のような、調節不全の、過剰なレベルのアポトーシスを伴う疾患に罹患している。
【0027】
治療的に有効な量の抗アポトーシス融合タンパク質は、典型的には、−投与時に−処置される患者の標的臓器または組織において、アポトーシスを有効にブロックまたは阻害するのに十分な量である。典型的には、体重あたりの融合タンパク質の投与量は、患者の体重1kgあたり約0.1mgから患者の体重1kgあたり約50mgまで、そしてより好ましくは患者の体重1kgあたり約0.5mgから患者の体重1kgあたり約20mgまで、そしてさらにより好ましくは患者の体重1kgあたり1mgから患者の体重1kgあたり約10mgまで変動する。投与レジメは、毎日タンパク質の1回またはそれより多くの投与を含み得る。患者に投与される融合タンパク質の具体的な量は、患者の年齢および体重、および処置される医学的症状の性質および重症度のようないくつかの因子に依存することが、当業者によって認識される。望ましい治療的効果を発揮する量を、日常的な実験を用いることによって、個々の症例それぞれにおいて決定し得る。
【0028】
さらなる局面において、本発明は、上記で定義したような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドに関連する。本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAから成り得る。本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、望ましい融合タンパク質の発現を指示するDNAまたはRNA分子を指す。本発明の融合タンパク質をコードする代表的なポリヌクレオチドを、配列番号5に示す;このポリヌクレオチドは、配列番号4のTAT−CrmA融合タンパク質をコードする。しかし、遺伝暗号の縮重のために、1つまたはそれより多くのヌクレオチド位置において配列番号5の配列と異なる、配列番号1のタンパク質をコードする他のポリヌクレオチドも含まれることが理解される。同様に配列番号1のタンパク質の改変体または断片をコードするポリヌクレオチドも含まれる。
【0029】
本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、その融合タンパク質の組換え調製のための手段を提供するために、発現ベクターにおいてクローニングし得る。一般的に、発現ベクターは、ポリヌクレオチドのコーディング配列が、宿主細胞におけるコーディング配列の制御された発現を可能にする、適当な調節性エレメントに操作可能に連結するように、関心のあるポリヌクレオチドが挿入される自己複製DNAまたはRNA構築物である。ポリヌクレオチドの発現に必要な特異的な調節エレメントは、使用される宿主細胞に依存し、そして転写プロモーター、オペレーター、mRNA発現レベルを増加させるためのエンハンサー、リボソーム結合部位、および適当な転写および翻訳ターミネーターを含み得る。そのプロモーターは、構成的または誘導性プロモーター、例えばガラクトキナーゼ、ウリジリルトランスフェラーゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼの通常使用されるプロモーター、またはSV40、サイトメガロウイルス(CMV)、またはモロニー(Molony)マウス白血病ウイルス(MMLV)等に由来するプロモーターのようなウイルスプロモーターであり得る。発現ベクターはまた、宿主細胞内でのベクターの自律増殖のための複製起点、および宿主細胞へのトランスフェクションをモニターすることを可能にする1つまたはそれより多くの選択マーカーを含み得る。
【0030】
その発現ベクターを、原核または真核生物宿主においてその組換えタンパク質を発現するためにデザインし得る。好ましくは、その発現ベクターは、宿主細胞内で安定に複製し、関心のある融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの数を細胞内で増加させる能力を有する。しかし、細胞内で複製できず、そして融合タンパク質の一過性の発現のみを可能にする発現ベクターを使用することも可能である。あるいは、発現ベクターで形質導入またはトランスフェクトされた宿主細胞のゲノムに組み込まれる発現ベクターを使用し得る。原核または真核生物宿主細胞の両方において、本発明の抗アポトーシス融合タンパク質の発現を媒介するために適当な、様々な発現ベクターが、先行技術において公知である。宿主細胞へ発現ベクターを導入するための方法も、文献において広範囲に議論された。本発明の発現ベクターを宿主細胞へ形質導入またはトランスフェクトするために、様々な異なる方法、例えばエレクトロポレーション、微量注入、形質転換、トランスフェクション、プロトプラスト融合、微粒子銃等を使用し得る。
【0031】
よって、本発明はまた、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを有する発現ベクターを含む宿主細胞に関連する。その細胞は、原核生物由来、または下等または高等真核生物由来であり得る。本発明の融合タンパク質をコードする発現ベクターで形質導入またはトランスフェクトされ得る適当な原核生物は、例えば枯草菌、大腸菌等のような細菌を含む。本発明の方法において使用し得る下等な真核生物は、酵母、特にS.cerevisiae、S.bailii、S.bayanus、S.boulardii、S.carlsbergensisのようなSaccharomyces属、P.pastoris、P.methanolica、P.stipitisのようなPichia属、またはD.discoideumのようなDictyostelium属の酵母を含む。高等な真核生物は、動物細胞系統、特に哺乳動物細胞系統、例えばげっ歯類、霊長類、およびヒト由来の細胞系統を含む。本発明によって使用するために有用な細胞系統は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系統、胎児ラット腎臓(BRK)細胞系統、メイディンダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞系統、NSO骨髄腫細胞、サル腎臓COS細胞、ヒト胚性腎臓293細胞、およびSKBR3細胞、Jurket T細胞またはHeLa細胞のような癌細胞系統を含む。
【0032】
好ましくはそれぞれの宿主細胞において発現を指示するために適当な発現ベクターの形態で、本発明の抗アポトーシス融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、本発明の宿主細胞を、その融合タンパク質を調製するために便利に使用し得る。好ましくは、宿主細胞の増殖によってその融合タンパク質の発現が実行されるように、その発現ベクターを宿主細胞へ導入する。よって、本発明はまた、抗アポトーシス融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、またはそのようなポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主細胞を、融合タンパク質の発現を可能にする条件下で培養することを含む、本明細書中で定義されたような融合タンパク質を調製するための方法を提供する。
【0033】
本発明の融合タンパク質の提供は、当該融合タンパク質に結合する抗体の調製を可能にする。その方法は、融合タンパク質による非ヒト動物の免疫化、および当該動物の血清から融合タンパク質に反応して産生された抗体を得ることを含む。
【0034】
従って本発明はまた、その必要のある患者においてアポトーシスをブロックするための薬学的組成物を調製するために、本明細書中で定義された融合タンパク質またはそのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを使用することに関連する。同様に、本発明はまた、その必要のある患者においてアポトーシスをブロックするための薬学的組成物を調製するために、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを使用すること、およびそのようなポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む宿主細胞に関連する。好ましくは、これらの物質は再灌流障害、脳卒中、心筋梗塞、毒性および虚血性臓器不全、劇症肝不全、AIDS、神経変性性疾患、移植片対宿主病、アルコール誘発性肝硬変、脊髄損傷、急性白血病、またはウイルス性肝炎の処置のための薬学的組成物を調製するためのものである。
【0035】
最後に、本発明はまた、本発明の融合タンパク質、そのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、そのようなタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターおよび/またはそのようなポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む宿主細胞を含むキットを企図する。そのキットはさらに、患者への投与のための組成物を調製するために有用な物質を含み得る。例えば、そのキットは、投与の前に融合タンパク質と混合するために、緩衝液、安定剤、担体等を含み得る。そのキットはさらに、増加したまたは調節不全のレベルのアポトーシスに苦しむ患者においてアポトーシスをブロックするための薬学的組成物の調製における構成要素を使用するための説明書を含む。例えば、その説明書は、例えば好ましい投与レジメにおける、融合タンパク質の患者への投与に関連する。もしそのキットが本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを有する発現ベクターを含むなら、その説明書はさらに、当該ベクターの適当な宿主細胞への導入、および本発明の融合タンパク質の発現および回収に適当な条件に関連する。
【実施例】
【0036】
実施例1:TAT−CrmAのクローニングおよび発現
全RNAを、RNeasyミニカラム(Qiagen、Hilden、Germany)を用いることによって、牛痘ウイルスによって引き起こされたヒト皮膚病変から単離した。前向きプライマー(5’−CCGGGTACCGATATCTTCAGGGAAATCGCATC−3’、配列番号6)および逆向きプライマー(5’−CCGGAATTCTTAATTAGTTGTTGGAGAGCAATATCTA−3’、配列番号7)によって、Thermoscript RT−PCR System(Invitrogen、Karlsruhe、Germany)を用いることによって、cDNAを産生した。PCR産物を、KpnI/EcoRI−cut−pTAT−ベクターへクローニングした。ベクターを、pRSE(Invitrogen)に基づいて構築した。このベクターは、精製のための6ヒスチジンリーダーおよび複数のクローニング部位を含む。このベクターにおいて、11アミノ酸のTATタンパク質形質導入ドメイン(Green,M.およびLoewenstein,P.M.(1988)、Cell 55:1179−1188を参照のこと)のコーディング配列を挿入した。
【0037】
TAT−CrmAのcDNAを有する、選択されたコロニーのできたプラスミドを、コンピテントT7 Express 1 E.coli細菌(New England BioLabs)へ形質転換し、続いてイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(0.4mMの最終濃度)を含むLB培地中で発現を誘導した。37℃で2時間誘導した後、細胞を遠心によって(6,500×g、10分、4℃)回収し、続いて結合緩衝液(500mMのNaCl、20mMのTris−HCl、5mMのイミダゾール、pH7.9)中で超音波処理した。
【0038】
実施例2:TAT−CrmAの精製
実施例1によって得られた懸濁液を、遠心によって(14,000×g、20分、4℃)浄化し、そして融合タンパク質を含む上清を、前もって平衡化したNi−NTAカラム(Qiagen、Hilden、Germany)を用いて未変性条件(native condition)下で精製した。高いバックグラウンドの混入している細菌タンパク質を除去するために、増加するイミダゾール濃度の段階的な添加によって、カラムを洗浄した。最後に、500mMのNaCl、20mMのTris−HCl、および100mMのイミダゾール(pH7.9)を含む溶出緩衝液で、標的タンパク質を溶出した。RPMI培地で平衡化した使い捨てPD−10(Sephadex G−25)脱塩カラムを用いて、塩の除去を行った。融合タンパク質を、精製の直後に用いたか、または+4℃または−20℃で保存した。
【0039】
実施例3:カスパーゼ活性の分光蛍光分析
ヒトTリンパ球系Jurkat細胞を、10%のFCSおよびペニシリン−ストレプトマイシンを追加したRPMI培地中で培養した。実験のために、細胞を1.0×10細胞/mlの密度で播種した。その細胞を、未処理のまま(A)、100ng/mlの抗Fas抗体(クローン7C11、Immunotech)単独で処理(B)、または抗Fas抗体の添加前に500nMのTAT−CrmAで30分間処理(C)した。培地を吸引し、そして細胞を氷冷PBSで2回洗浄することによって、細胞の刺激を停止した。細胞を続いて冷たい細胞溶解緩衝液(BD Biosciences)に再懸濁し、そして氷上で30分間インキュベートした。細胞溶解物を次いでカスパーゼ−3基質Ac−DEVD−AMC(Ac−アスパルチル−グルタミル−バリル−アスパルチル−アミノメチルクマリン)単独と、または基質および特異的カスパーゼ−3阻害剤Ac−DEVD−CHOとインキュベートし、そして分光蛍光分析によって分析した。各反応に関して、5μlの再構成したカスパーゼ−3基質単独(黒)または基質およびカスパーゼ−3阻害剤(白)を、50μlの細胞溶解物に加え、そして37℃で1時間インキュベートした。Ac−DEVD−AMCから放出されたAMCの量を、380nmの励起波長および440nmの発光波長で、プレートリーダー(Infinite M200、Tecan)を用いることによって測定した。
【0040】
その結果を図1に示す。阻害剤Ac−DEVD−CHOおよびカスパーゼ−3基質Ac−DEVD−AMCの両方で処理した細胞の溶解物において蛍光は放出されず、カスパーゼ−3活性がブロックされたことを示した(白四角)。未処理細胞において(A)、阻害剤無しで、Ac−DEVD−AMCのみとインキュベートした細胞において(黒四角)、有意な蛍光は検出されず、カスパーゼ−3はこれらの細胞において活性でなかったことを示す。対照的に、抗Fas抗体(B)で処理した細胞において、アミノメチルクマリンに関連する蛍光の著しい放出が、Ac−DEVD−AMCとのみインキュベートした細胞において検出され(黒四角)、カスパーゼ−3が活性であったことを示す。抗Fas抗体および融合タンパク質TAT−CrmAで処理した細胞において(C)、アミノメチルクマリンに関連する蛍光が、(B)と比較してかなり低減された。これは、細胞の融合タンパク質TAT−CrmAとのプレインキュベーションが、カスパーゼ−3の活性を阻害し、それによってアポトーシスの程度の減少を引き起こすことを示す。
【0041】
実施例4:ミトコンドリア膜電位の決定
細胞アポトーシスの初期の指標である、ミトコンドリア透過性の遷移事象(mitochondrial permeability transition event)の検出を、Mito−PTTMキット(Immunochemistry Technologies、LLC)を用いて、膜電位の変化(ΔΨ)によって測定した。このキットは、非アポトーシス(赤色蛍光)およびアポトーシス(緑色蛍光)細胞の間の区別を可能にし、そして製造者の指示に従って使用した。
【0042】
反応あたり2×10のJurkatT細胞を、DMSO(ネガティブ、非誘導細胞)、2.5μMのスタウロスポリン、または100ng/mlの抗Fas抗体(アポトーシス、誘導細胞)で、37℃で4時間処理し、そして次いで1×MitoPTTM溶液で15分間標識した。誘導細胞に関して、それぞれスタウロスポリンまたは抗Fas抗体の添加の前に、500nMのTAT−CrmAを加えることによって処理した、並行反応を調製した。インキュベーションおよび標識を、上記で記載したように行った(37℃で4時間、1×MitoPTTM溶液による15分間の標識)。ミトコンドリアΔΨの崩壊を、490nmの励起波長および600nmの発光波長で、プレートリーダー(Infinite M200、Tecan)を用いることによって測定した。その実験を三連で行った。
【0043】
その結果を図2に示す。それぞれスタウロスポリンまたは抗Fas抗体の追加前に融合タンパク質TAT−CrmAを加えることは、アポトーシス誘導スタウロスポリンまたは抗Fas抗体によってのみ処理した細胞において観察された膜電位の喪失を抑制したことが見られた。
【0044】
実施例5:アネキシンV染色
アポトーシスをまた、FITC標識アネキシンVを用いたFACS分析によって定量した。タンパク質アネキシンVは、アポトーシスの初期の段階に細胞表面へ露出するホスファチジルセリン残基に結合する。Jurkat細胞を、500nMのTAT−CrmAと30分間、続いて抗Fas抗体を37℃で4時間加えてインキュベートするか(A)、またはビヒクルと37℃で4時間インキュベートすることによって未処理のままにするか(B)、または100ng/mlの抗Fas抗体(クローン7C11、Immunotech)と37℃で4時間インキュベートした(C)。刺激後、細胞を回収し、2%のFCSを添加したRPMIで洗浄し、そしてアネキシンV染色(ApoAlert、アネキシンV−FITC、BD Biosciences、Heidelberg、Germany)を、製造者の指示に従って行った。蛍光を、EPICS XL(登録商標)(Coulter、Krefeld、Germany)によって分析した。EPICS System IIソフトウェアを用いて、フローサイトメトリーのデータを分析した。
【0045】
図3に示すグラフは、単一の代表的な実験の結果を示す。アポトーシスを起こす細胞の数が、抗Fas抗体のみを用いた反応(C)と比較して、抗Fas抗体およびTAT−CrmAを用いた反応(A)において、有意に低減されることを見ることができる。α−Fasによる刺激の4時間後、さらに500nMのTAT−CrmAとインキュベートした細胞は、アネキシンV染色陽性の80%減少によって決定されるように、外因性アポトーシスから保護された。
【0046】
実施例6:インビボにおける抗Fas抗体媒介性のアポトーシス
メスBalb/cマウスを、Charles River(Sulzfeld、Germany)から得て、そして6から8週齢で実験に使用した。インビボにおける外因性アポトーシス経路を評価するために、1mg/kg体重のモノクローナルアゴニストα−Fas抗体Jo−2(BD Pharmingen)の腹腔内注射によって、アポトーシスを誘導した。この抗体は、Fas陽性細胞においてアポトーシスを誘導し、そしてマウスにおいて多臓器不全を引き起こす。生存研究のために、2グループのマウス(10匹の動物/グループ)に、抗Fas抗体Jo−2を単独で、または7.5mg/kg体重のTAT−CrmAと組み合わせて与えた。TAT−CrmAを、α−Fas注射の20分および5分前に与えた。
【0047】
組織学的分析のために、α−Fasの適用の5または8時間後にマウスを屠殺した。切片をアセトン固定し、ヘマトキシリン−エオジンで染色し、そして200×および400×の倍率で、光学顕微鏡検査によって調査した。アポトーシス細胞を、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性dUTPニック末端標識(TUNEL、n situ cell death detection kit、TMR red;Roche Molecular Biochemicals、Mannheim、Germany)を用いて、パラホルムアルデヒド固定した臓器切片(5μm)において同定した。染色を、製造者の指示に従って行った。TUNEL陽性細胞を、200×および400×の倍率において、蛍光顕微鏡検査によって可視化した。核を、DAPI(Dianova、Hamburg、Germany)で対比染色した。
【0048】
α−Fas抗体プラスTAT−CrmAを投与したマウスの累積生存は、α−Fas mAb単独を投与したマウスと比較して有意に良好だった(図4)。α−Fas mAbおよびTAT−CrmAを投与したマウスの90%が、3ヶ月を越えて生存し(最初の日を示す)、一方α−Fasグループの全てのマウスが、最初の10時間の間に死亡した。TAT−CrmA単独で処理したマウスは、いかなる毒性効果も示さなかった。
【0049】
肉眼で、α−Fasで処理した動物において、肝臓は暗褐色に見えたが、TAT−CrmAとの併用処置は、コントロールと比較して、肝臓の正常な局面を保存した。重度の構造的肝臓損傷が、組織学的評価によって確認された。α−Fas処置の5および8時間後、HE染色肝臓組織は、重度の肝細胞死を示し、それはTAT−CrmAの添加によって予防された。TUNEL染色は、TAT−CrmAで処置した動物においてアポトーシスが欠如していることを明らかにした。これらの結果は、本発明の融合タンパク質は、インビボにおいて、抗Fas抗体誘導アポトーシスからマウスを保護し得ることを示す。
【0050】
実施例7:インビボにおけるドキソルビシン媒介性アポトーシス
メスBalb/cマウスを、Charles River(Sulzfeld、Germany)から得て、そして6から8週齢で実験に使用した。ドキソルビシンの腹腔内注射によって、アポトーシスを誘導した。DNA損傷トポイソメラーゼ阻害剤ドキソルビシンは、アポトーシスの内因性経路を誘導する。生存研究のために、2グループのマウス(5匹の動物/グループ)を、150μgのTAT−CrmAの2回の適用ありおよび無しで、15mg/kg体重のドキソルビシンのi.p.単回注射によって処理した。TAT−CrmAを、ドキソルビシン注射の20分および5分前に投与した。
【0051】
そうでなければ致命的なドキソルビシン注射後の生存を、最初の7日間、1日2回のTAT−CrmAの適用によって延長した(図5)。全てのドキソルビシン処理マウスは、31日以内に死亡したが、同時にTAT−CrmAの腹腔内注射を投与されたマウスにおいて、40%の生存が記録された(n=5、p<0.05)(図5)。ドキソルビシン処理マウスの臓器不全は、TAT−CrmAによって予防された。合わせると、これらの結果は、インビトロおよびインビボにおける、TAT−CrmA融合タンパク質による、内因性および外因性アポトーシス経路両方の有効な阻害の証拠を提供する。
【0052】
実施例8:TAT−CrmAは、マウスにおいて梗塞サイズを低減し、そして心筋梗塞後の収縮期機能を改善する。
【0053】
アポトーシスは、虚血組織における主な病態生理学的イベントであるので、TAT−CrmAを、心筋梗塞のマウスモデルにおいて試験した。12週齢オスC57BL/6マウスを、塩酸ケタミン(100mg/kg、i.p.)およびキシラジン(4mg/kg、i.p.)によって麻酔した。気管挿管後、2%のイソフルランで麻酔を維持した。マウスに一時的な冠血管動脈結紮を1時間、続いて再灌流を24時間行った。Kempf,T.ら(2006)、Circ.Res.98:351−360において記載されたように、エバンスブルーおよびTTC染色、およびコンピューター化平面面積測定法によって、リスクのある領域(area at risk)および梗塞サイズを決定した。2%のイソフルランで鎮静化したマウスにおいて、直線状15MHzのトランスデューサーによって、経胸壁超音波心エコー検査を行った。[左心室拡張末期容積(left ventricular end−diastolic volume)(LVEDV)および左心室収縮末期容積(left ventricular end−systolic volume)(LVESV)を決定するための]長軸イメージおよびMモードトレーシングを記録した。駆出率を、[(LVEDV−LVESV)/LVEDV]×100としてパーセントで計算した。
【0054】
C57BL/6マウスを、左前下行動脈(left anterior descending artery)(LAD)の結紮の前に、7.5mg/kg体重のTAT−CrmAのi.p.で処置した。1時間の結紮に続いて、24時間再灌流した。冠動脈閉塞の間リスクのある領域は、ビヒクル処置(30.5±4.2mm)およびTAT−CrmA処置マウス(32.8±9.1mm)において匹敵していた。対照的に、再灌流後の梗塞サイズは、エバンスブルーおよびTTC染色によって決定されたように、TAT−CrmA処置マウスに対してビヒクル処置マウスにおいて有意に大きかった(11.6±2.8mm対7.0±2.0mm、p<0.05)(図6)。心エコーによって測定されるように、偽手術マウスの駆出率は、71.0±3.7%であった。再灌流後、TAT−CrmA処置マウスにおける駆出率(50.7±4.9%)は、ビヒクル処置マウス(22.6±1.7%、p<0.001)と比較して有意により少なく低減された。続いて、虚血の1時間後の再灌流時に適用した場合のTAT−CrmAの治療的有効性を、同じ設定で分析した。再び、TAT−CrmAを再灌流の開始と共に投与した場合、梗塞サイズは、約40%低減され得る(表1)。それらのマウスは、ビヒクル処置マウスの23.2±4.9%と比較して、39.3±4.2%の駆出率を示し、TAT−CrmA処置グループの左心室収縮末期容積の有意な低減に対応する。ビヒクル処置マウスの心筋のヘマトキシリン−エオジン染色断面は、心筋細胞の空胞化、浮腫、および顆粒球および単核細胞の浸潤を伴う、典型的な梗塞の心筋形態を示した。これらの組織学的徴候は、TAT−CrmA処置マウスから得られた心臓組織において有意により明白でない。
【0055】
従って、TAT−CrmAは、再灌流の開始と同時に投与した場合でさえ、急性虚血梗塞の間に、心筋組織を、アポトーシス細胞死から保護する。アポトーシス心筋細胞を、TUNEL染色によって検出し、一方ビヒクル処置マウスが、虚血−再灌流障害後に、TAT−CrmA処置同腹仔と比較して、より大きな梗塞サイズおよび梗塞境界領域においてより多くの心筋細胞アポトーシスを生じ、このことは、CrmAがインビボにおいて心筋組織の損傷を制限することを示した。
【0056】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合タンパク質であって、該融合タンパク質は、以下:
(a)該融合タンパク質を哺乳動物細胞へ導入し得るタンパク質形質導入ドメイン;
(b)配列番号1のアミノ酸配列を含む抗アポトーシスタンパク質またはその抗アポトーシス活性のある改変体または断片、
を含む、融合タンパク質。
【請求項2】
前記タンパク質形質導入ドメインが、ヒト免疫不全ウイルス1型のTatタンパク質の形質導入ドメインに由来する、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記タンパク質形質導入ドメインが、配列番号3のアミノ酸配列、または配列番号3のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記融合タンパク質が、前記タンパク質形質導入ドメインと前記抗アポトーシスタンパク質との間にリンカーをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
アポトーシスのブロックを必要とする患者においてアポトーシスをブロックするための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
再灌流障害、脳卒中、心筋梗塞、毒性および虚血性臓器不全、劇症肝不全、AIDS、神経変性性疾患、移植片対宿主病、アルコール誘発性肝硬変、脊髄損傷、急性白血病、またはウイルス性肝炎の処置のための、請求項5のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の融合タンパク質を含む薬学的組成物。
【請求項8】
アポトーシスのブロックを必要とする患者においてアポトーシスをブロックするための、請求項7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
再灌流障害、脳卒中、心筋梗塞、毒性および虚血性臓器不全、劇症肝不全、AIDS、神経変性性疾患、移植片対宿主病、アルコール誘発性肝硬変、脊髄損傷、急性白血病、またはウイルス性肝炎を処置するための、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項10に記載のポリヌクレオチドまたは請求項11に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の融合タンパク質を調製するための方法であって、該方法は、該融合タンパク質の発現を可能にする条件下で、請求項12に記載の宿主細胞を培養する工程を包含する、方法。
【請求項14】
アポトーシスのブロックを必要とする患者においてアポトーシスをブロックするための薬学的組成物を調製するための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の融合タンパク質, 請求項10に記載のポリヌクレオチド、請求項11に記載の発現ベクターまたは請求項12に記載の宿主細胞の使用。
【請求項15】
前記薬学的組成物が、再灌流障害、脳卒中、心筋梗塞、毒性および虚血性臓器不全、劇症肝不全、AIDS、神経変性性疾患、移植片対宿主病、アルコール誘発性肝硬変、脊髄損傷、急性白血病、またはウイルス性肝炎を処置するためのものである、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項10に記載のポリヌクレオチド、請求項11に記載の発現ベクターおよび/または請求項12に記載の宿主細胞を含む、キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2012−508002(P2012−508002A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535138(P2011−535138)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064937
【国際公開番号】WO2010/052341
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(511112674)
【Fターム(参考)】