説明

抗モータリン抗体のパラトープ及びエピトープ

【課題】抗モータリン抗体の腫瘍細胞への内在化機能に関与する領域とそのアミノ酸配列を決定し、当該領域を含む腫瘍細胞内への薬剤輸送キャリアを提供すること、及び抗モータリン抗体の癌細胞内在化機能に関与する領域と相互作用する、モータリン上の領域及びそのアミノ酸配列を提供する。
【解決手段】細胞内在性抗モータリン抗体と非内在性抗モータリン抗体とのアミノ酸配列の比較から、その可変領域の配列上の相違を見いだし、かつ抗体が内在化機能を有するか否かで各抗体が認識するモータリン上のエピトープの存在位置を確認することで、該抗体の腫瘍細胞への内在化機能に関与するパラトープ領域のアミノ酸配列を決定した。これにより、当該エピトープをコードする核酸を含む発現ベクターを用いることで、モータリン抗体及びそれに結合させた薬剤などの、癌細胞への内在化促進剤を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内在性機能を有する抗モータリン抗体由来の可変領域及び当該可変領域を用いた一本鎖抗体を用いた細胞内在化用キャリアに関する。
また、本発明は、モータリンのアミノ酸配列中の細胞内在性機能を有する、もしくは有さない抗モータリン抗体を認識するエピトープに関する。
【背景技術】
【0002】
モータリン(モータリン2)は、679アミノ酸からなる分子量73,913ダルトンのタンパク質であり、その前駆タンパク質は46アミノ酸からなるミトコンドリア移行シグナルペプチドを有している。Hsp70ファミリータンパク質の一種であり、熱非応答性タンパク質である。大腸菌のDnaKや酵母のSSC1p、ラットの細胞質画分に恒常発現しているHsp70、Hsc70、ラットの小胞体に存在するアイソフォームであるBiPなどのHsp70ファミリータンパク質と非常に高い相同性を持っている。モータリンは、先ずマウス由来の正常な繊維芽細胞の細胞質画分からモータリン1(mot-1)遺伝子が単離され(非特許文献1)、続いて、マウス不死化細胞のcDNAの免疫クローニングと、正常細胞から単離された配列との比較により、カルボキシル末端のアミノ酸2残基だけ異なるタンパク質をコードするモータリン2遺伝子(mot-2)の存在が明らかとなった(非特許文献2)。モータリン1(mot-1)は正常細胞に存在するが、モータリン2(mot-2)は不死化細胞に存在し、ヌードマウスアッセイによれば、モータリン1(mot-1)の発現は細胞老化様の表現型を引き起こすのに対し、モータリン2(mot-2)の過剰発現は悪性変異を引き起こすという対照的な生物学的活性を生じることが明らかになった(非特許文献4)。ヒトモータリンの場合は、マウスモータリンとタンパク質レベルで95%の高い相同性があり、モータリン2と同様の機能・性質を示す1種類しかないので、ヒトモータリン2(hmot-2)とも呼ばれる(非特許文献3)。本発明においては、特に断らない限り、マウスモータリン2及びヒトモータリン2をあわせて、単にモータリンまたはモータリン2という。
モータリン2はカルシウム依存的な自己リン酸化を経て、細胞内の様々な場所で様々な分子と結合し、ミトコンドリアの輸送、細胞内輸送、シャペロニン機能、ストレス応答、腫瘍形成などの多岐にわたる機能における関与が指摘されている。特に、腫瘍サプレッサータンパクであるp53に結合してその転写活性機能を不活性化すること(非特許文献4)、テロメラーゼと協力してヒト包皮繊維芽細胞を不死化させることが示される(非特許文献5)など、発癌に本質的に関与している事が明らかとなった(非特許文献6−12、特許文献1)。抗モータリン抗体などモータリンに結合し、モータリンの作用・機能を抑える分子は抗ガン剤として利用できる可能性も示されている(非特許文献12−15)。
【0003】
本発明者らは以前、モータリンの発現量の増加と発癌との関連と共にモータリンがガン治療における有効な標的となることについて考察し、癌細胞に内在化機能をもつ抗モータリン抗体、及び当該抗体を用いた癌治療用医薬組成物、薬剤キャリアなどに関する出願を行っている(特許文献1)。癌細胞への内在化機能を有する抗モータリン抗体はそれ自身が抗体医薬として用いられるのみならず、免疫毒などを腫瘍細胞に輸送する薬剤キャリアとして用いることができる。
それらを検討する課程で、本発明者らは、モータリンを特異的に認識する抗体のすべてが、癌細胞内に内在化する機能を有するわけではなく、モータリンを特異的に認識できても、癌細胞に対して内在化できない抗体が存在することを観察していた。しかしながら癌細胞内在化機能を有する抗体と、当該機能を有さない抗体とのアミノ酸配列や構造上の本質的な差異が解明されていないため、抗体全長のどのような領域が内在化機構に関与する領域であるかは全く不明であった。
医薬としては、より正常細胞への副作用が少ない免疫原性の低いヒト化抗体や、できるだけ短い領域のみの投与が可能であることが好ましいことから、モータリン抗体における内在化機構の解明と共に、内在化に関与する領域についての解明が待望されていた。
また、モータリン抗体が癌細胞内に内在化するための最初のステップとして、まずモータリンとの相互作用が必須であると考えられるので、モータリンの側のモータリン抗体との相互作用部位についての解明、特に、内在化機能を有する抗体と内在化機能を有さない抗体との認識領域を解明することも望まれていた。
さらに、内在化機能を有する抗体が認識するエピトープ配列が決定できれば、当該エピトープをコードする核酸分子を用いて癌細胞表面にエピトープを発現させることで、モータリン抗体の内在化を促進することができるから、特に内在化機能を有する抗体のエピトープ配列決定は強く望まれていた。
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2006/022344 A1(特開2005−242063号公報)
【非特許文献1】Wadhwa, R., Kaul, S. C., Ikawa, Y., and Sugimoto, Y. (1993) J Biol Chem 268, 6615-6621.
【非特許文献2】Wadhwa, R., Kaul, S. C., Sugimoto, Y., and Mitsui, Y. (1993) J BiolChem 268, 22239-22242
【非特許文献3】Kaul, S. C., Duncan, E. L., Englezou, A., Takano, S., Reddel, R. R.,Mitsui, Y., and Wadhwa, R. (1998) Oncogene 17, 907-911
【非特許文献4】Wadhwa, R., Shyichi, T.,Robert, M., Yoshida, A., Reddel, R. R., Nomura, H., Mitsui, Y., and Kaul, S. C.(1998) J Biol Chem 273, 29586-29591
【非特許文献5】Kaul, S. C., Yaguchi, T., Taira, K., Reddel, R. R., and Wadhwa, R.(2002) ECR submitted
【非特許文献6】Kaul, S. C., Taira, K., Pereira-Smith, O. M., and Wadhwa, R. (2002) Exp Gerontol 37, 1157-1164.
【非特許文献7】Wadhwa, R., Takano, S., Kaur, K., Deocaris, C. C., Pereira-Smith, O. M., Reddel, R. R., and Kaul, S. C. (2006) Int J Cancer 118, 2973-2980.
【非特許文献8】Deocaris, C. C., Kaul, S. C., and Wadhwa, R. (2006) Cell Stress Chaperones 11, 116-128
【非特許文献9】Dundas, S. R., Lawrie, L. C., Rooney, P. H., and Murray, G. I. (2005) J Pathol 205, 74-81
【非特許文献10】Shin, B. K., Wang, H., Yim, A. M., Le Naour, F., Brichory, F., Jang, J. H., Zhao, R., Puravs, E., Tra, J., Michael, C. W., Misek, D. E., and Hanash, S. M. (2003) J Biol Chem 278, 7607-7616
【非特許文献11】Pizzatti, L., Sa, L. A., de Souza, J. M., Bisch, P. M., and Abdelhay, E. (2006) Biochim Biophys Acta 1764, 929-942.
【非特許文献12】Walker, C., Bottger, S., and Low, B. (2006) Am J Pathol 168, 1526-1530
【非特許文献13】Wadhwa, R., Sugihara, T., Yoshida, A., Nomura, H., Reddel, R. R., Simpson, R., Maruta, H., and Kaul, S. C. (2000) Cancer Res 60, 6818-6821
【非特許文献14】Wadhwa, R., Ando, H., Kawasaki, H., Taira, K., and Kaul, S. C. (2003) EMBO Rep 4, 595-601
【非特許文献15】Deocaris, C. C., Widodo, N., Shrestha, B. G., Kaur, K., Ohtaka, M., Yamasaki, K., Kaul, S. C., and Wadhwa, R. (2007) Cancer Lett (in press).
【非特許文献16】Huston JS, Levinson D, Mudgett-Hunter M, Tai MS, Novotny J, Margolies MN, Ridge RJ, Bruccoleri RE, Haber E, Crea R, et al. Protein engineering of antibody binding sites: recovery of specific activity in an anti-digoxin single-chain Fv analogue produced in Escherichia coli.Proc Natl Acad Sci U S A. 1988 Aug;85(16):5879-83.
【非特許文献17】Luginbuhl, B., Kanyo, Z., Jones, R. M., Fletterick, R. J., Prusiner, S. B., Cohen, F. E., Williamson, R. A., Burton, D. R., and Pluckthun, A. (2006) J Mol Biol 363, 75-97
【非特許文献18】Dall'Acqua WF, Damschroder MM, Zhang J, Woods RM, Widjaja L, Yu J, Wu H. Antibody humanization by framework shuffling. Methods. 2005 May;36(1):43-60.
【非特許文献19】J Biotechnol. 1994 Jul 29;36(1):45-54. Effect of modification of connecting peptide of proinsulin on its export.Kang Y, Yoon JW.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内在化機能を有する抗モータリン抗体と内在化機能を有さない抗モータリン抗体それぞれの可変領域をコードするDNAの塩基配列を決定して、それぞれのアミノ酸配列の比較から、抗モータリン抗体の腫瘍細胞への内在化機能に関与する領域とそのアミノ酸配列を決定し、当該領域を含む腫瘍細胞内への薬剤輸送キャリアを提供することを目的とする。
また、本発明は、抗モータリン抗体の癌細胞内在化機能に関与する領域と相互作用を有する、モータリン上の領域及びそのアミノ酸配列を決定することも他の目的とする。
さらに、本発明は、内在化機能を有する抗モータリン抗体が認識するエピトープ配列を決定すること、及び当該エピトープをコードする核酸分子を用いて癌細胞表面にエピトープを発現させることで、モータリン抗体及びモータリン抗体をキャリアとする薬剤の内在化を促進することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、モータリンと結合する6種類のモノクローナル抗体のL鎖及びH鎖それぞれのアミノ酸配列を決定し、内在化機能を有するものと有しないものとのアミノ酸配列を比較したところ、その可変領域に顕著な配列上の相違を見いだした。
細胞内在化機能を有する5種類のうち4種類の抗体同士の可変領域はきわめて類似した配列を有しているのに対して、同機能を持たない抗体とは類似性が低く、特に各CDR配列において顕著な差異を有している。そして、当該モノクローナル抗体のcDNAを用いて、L鎖及びH鎖の可変領域をペプチドリンカーで繋いだ一本鎖抗体(single chain Fv,scFv)を作製し、モータリンに対するパラトープとしての結合活性を確認した。
また、それぞれの抗体の一部欠失体を用いて抗体パラトープが認識するモータリンのエピトープ位置を検討した結果、両者が認識するエピトープのアミノ酸配列が異なることも確認した。
これらのことから、抗モータリン抗体が細胞内在化能を有するか否かは、その固有のCDR配列、少なくともL鎖及びH鎖の両可変領域の配列に依存している可能性が高いことが示唆される。すなわち、細胞内在化能を有する抗モータリン抗体由来のL鎖及びH鎖の両可変領域を用いたキメラ抗体、又は一本鎖抗体、さらにはそのCDR配列を利用したヒト化抗体も、十分に癌細胞特異的に癌細胞内に内在化してモータリン機能を抑制する可能性が強く示唆される。反対に、細胞内在化能を有さない抗モータリン抗体由来の可変領域を用いたキメラ抗体、一本鎖抗体、及び同CDR配列を利用したヒト化抗体は癌細胞表面にとどまり癌細胞表面のモータリンと結合する可能性が高いことが示唆される。
前者は、癌細胞内に内在化してモータリン活性を阻害する薬剤又は薬剤キャリアとなり得るものであり、また後者はモータリンの細胞内在化を阻止し得るモータリン中和活性薬剤となり得る。すなわち、本発明は、抗モータリンモノクローナル抗体の可変領域のみ、または当該可変領域を用いた一本鎖抗体を有効成分とする抗癌用医療組成物を提供するものであり、また、同可変領域もしくはそれを含む一本鎖抗体をキャリアとして含む癌細胞用薬剤キャリア又は癌細胞のライブイメージ検出用キャリアを提供する。
なお、本発明者らは、細胞内在化能を有する抗モータリン抗体について、当該抗体の癌細胞特異的に内在化する性質を利用して、癌の遺伝子治療用の核酸キャリアに用いることができるのではないかと着想し、当該抗体の片方のH鎖及びL鎖にカチオン高分子を繋ぎ,遺伝子含有プラスミドと混合した分子複合体が、癌細胞に特異的に取り込まれ,癌細胞内で遺伝子が発現することを確認した。この点については、同日付で出願した。
本発明では、さらに、これらの知見を踏まえ、内在化機能を有する抗モータリン抗体が認識するエピトープ配列を有する領域を決定することができたものである。当該領域を、30アミノ酸残基数にまでに絞り込んだ後に、エピトープマッピング法を適用し、内在化機能を有する抗モータリン抗体のみに特異的に認識されるエピトープのアミノ酸配列を決定した。当該エピトープを含むペプチドを免疫原として用いることで、より内在化機能を強化した抗モータリンペプチド抗体を作製でき、当該抗体は、抗体自身を抗癌剤として用いることができ、かつ抗癌剤(低分子化合物、毒素、核酸分子)、標識化合物(蛍光物質、量子ドットなど金属粒子)の癌細胞内へのデリバリーに用いることができるものである。
そして、当該エピトープ配列を含むポリペプチドをコードする核酸を用いて癌細胞表面にモータリンエピトープを発現させることができるが、このような癌細胞表面のモータリンエピトープは、モータリン抗体及びモータリン抗体をキャリアとする薬剤の内在化を促進することができるので、当該エピトープ配列を含むポリペプチドをコードする核酸を含む発現ベクターは、モータリン抗体及びそれに結合させた薬剤の、癌細胞への内在化促進剤として用いることができる。
【0007】
すなわち、本発明は、具体的には以下の通りである。
[1] モータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のL鎖可変領域であって、CDR1が「KSSQSLLDSDGKTYLN(配列番号1)」、CDR2が「LVSKLDS(配列番号2)」であり、CDR3が「WQGTHFPRT(配列番号3)」である組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域。
[2] 下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる前記[1]に記載の組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域、
(a)配列番号4又は5に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号4又は5に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
[3] モータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のL鎖可変領域であって、CDR1が「RASQEISGYLS(配列番号6)」、CDR2が「AASTLDS(配列番号7)」であり、CDR3が「LQYASYPPT(配列番号8)」である組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域。
[4] 下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる前記[3]に記載の組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域、
(a)配列番号9に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号9に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
[5] モータリン2を特異的に認識し、細胞内在化機能を有さない組換え抗モータリン抗体のL鎖可変領域であって、CDR1が「RSSKSLLYSNGITYLY(配列番号10)」、CDR2が「QMSNLAS(配列番号11)」であり、CDR3が「AQNLELPWT(配列番号12)」である組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域。
[6] 下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる前記[5]に記載の組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域、
(a)配列番号13に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号13に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
[7] モータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する組換え抗モータリン抗体のH鎖可変領域であって、CDR1が「SYWMH(配列番号14)」、CDR2が「EIDPSDSYTKYNQKFKG(配列番号15)」又は「EIDPSDSYTDYNQNFKG(配列番号18)」であり、CDR3が「GDY(配列番号16)」である組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域。
[8] 下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる前記[7]に記載の組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域、
(a)配列番号17、19又は20に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号17、19又は20に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
[9] モータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する組換え抗モータリン抗体のH鎖可変領域であって、CDR1が「TNAMN(配列番号21)」、CDR2が「RIRSKSNNYATYYADSVKD(配列番号22)」であり、CDR3が「DGYYSY(配列番号23)」である組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域。
[10] 下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる前記[9]に記載の組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域、
(a)配列番号24に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号24に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
[11] モータリン2を特異的に認識し、細胞内在化機能を有さない組換え抗モータリン抗体のH鎖可変領域であって、CDR1が「SYWMH(配列番号25)」、CDR2が「EINPSNGRTNYNEKFKS(配列番号26)」であり、CDR3が「SRYYGSCYFDY(配列番号27)」である組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域。
[12] 下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる前記[11]に記載の組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域、
(a)配列番号28に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号28に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
[13] 下記(a)〜(d)のいずれかのアミノ酸配列からなる抗モータリン抗体のL鎖可変領域と、下記(e)〜(h)のいずれかのアミノ酸配列からなる抗モータリン抗体のH鎖可変領域を含む一本鎖抗体であって、モータリン2を特異的に認識する抗モータリン一本鎖抗体。
(a)配列番号4又は5に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号4又は5に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列、
(c)配列番号9に示されるアミノ酸配列、
(d)配列番号9に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列、
(e)配列番号17、19又は20に示されるアミノ酸配列、
(f)配列番号17、19又は20に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
(g)配列番号24に示されるアミノ酸配列、
(h)配列番号24に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
[14] 下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる抗モータリン抗体のL鎖可変領域と、下記(c)又は(d)のいずれかのアミノ酸配列からなる抗モータリン抗体のH鎖可変領域を含む一本鎖抗体であって、モータリン2を特異的に認識抗モータリン一本鎖抗体。
(a)配列番号13に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号13に示されるアミノ酸配列においてシグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列、
(c)配列番号28に示されるアミノ酸配列、
(d)配列番号28に示されるアミノ酸配列においてシグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
[15] 下記(a)〜(d)のいずれかのDNAであって、かつモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のL鎖可変領域をコードするDNA、
(a)配列番号4、5又は9に示されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(b)配列番号4、5又は9に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列をコードするDNA、
(c)配列番号42〜46に示される塩基配列からなるDNA、
(d)配列番号42〜46に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
[16] 下記(a)〜(d)のいずれかのDNAであって、かつモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のH鎖可変領域をコードするDNA、
(a)配列番号17,18又は20に示されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(b)配列番号17,18又は20に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列をコードするDNA、
(c)配列番号48〜52に示される塩基配列からなるDNA、
(d)配列番号48〜52に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
[17] 下記(a)〜(d)のいずれかのDNAであって、かつモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体のL鎖可変領域をコードするDNA、
(a)配列番号13に示されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(b)配列番号13に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列をコードするDNA、
(c)配列番号47に示される塩基配列からなるDNA、
(d)配列番号47に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
[18] 下記(a)〜(d)のいずれかのDNAであって、かつモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体のH鎖可変領域をコードするDNA、
(a)配列番号28に示されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(b)配列番号28に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列をコードするDNA、
(c)配列番号53に示される塩基配列からなるDNA、
(d)配列番号53に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
[19] 前記[15]に記載のモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のL鎖可変領域をコードするDNA、及び前記[16]に記載のモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のH鎖可変領域をコードするDNAを含む、モータリン2を特異的に認識する抗モータリン一本鎖抗体をコードするDNA。
[20] 前記[19]に記載の一本鎖抗体をコードするDNAを含む発現ベクター。
[21] 発現ベクターがpET−27b(+)プラスミドベクター、又はPelB配列を組み込んだプラスミドベクターであることを特徴とする、前記[20]に記載の発現ベクター。
[22] 前記[17]に記載のモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体のL鎖可変領域をコードするDNA、及び前記[18]に記載のモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体のH鎖可変領域をコードするDNAを含む、モータリン2を特異的に認識する抗モータリン一本鎖抗体をコードするDNA。
[23] 前記[22]に記載の一本鎖抗体をコードするDNAを含む発現ベクター。
[24] 発現ベクターがpET−27b(+)プラスミドベクター、又はPelB配列を組み込んだプラスミドベクターであることを特徴とする、前記[23]に記載の発現ベクター。
[25] 前記[13]に記載の抗モータリン一本鎖抗体又は当該一本鎖抗体に治療用化合物を結合した複合体を有効成分として用いることを特徴とする、癌細胞内でのモータリン活性を抑制する抗癌剤。
[26] 前記[14]に記載の抗モータリン一本鎖抗体又は当該一本鎖抗体に治療用化合物を結合した複合体を有効成分として用いることを特徴とする、癌細胞表面でのモータリン活性を抑制する抗癌剤。
[27] 前記[19]に記載の抗モータリン一本鎖抗体をコードするDNA又は当該DNAに治療用DNAを結合した複合体を有効成分として用いることを特徴とする、癌細胞内でのモータリン活性を抑制する抗癌剤。
[28] 前記[22]に記載の抗モータリン一本鎖抗体をコードするDNA又は当該DNAに治療用DNAを結合した複合体を有効成分として用いることを特徴とする、癌細胞表面でのモータリン活性を抑制する抗癌剤。
[29] 前記[13]又は[14]に記載の抗モータリン一本鎖抗体に、蛍光標識化合物を結合したことを特徴とする癌細胞検出又は同定用試薬。
[30] 前記[19]又は[22]に記載の抗モータリン一本鎖抗体をコードするDNAに、レポーター遺伝子を結合したことを特徴とする癌細胞検出又は同定用試薬。
[31] モータリン2のアミノ酸配列310−410位の1部配列のうち少なくとも連続した8個のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体を特異的に認識するアミノ酸配列を含むポリペプチド。
[32] モータリン2のアミノ酸配列の310−410位のアミノ酸配列が、配列番号55又は62に示されるアミノ酸配列である、前記[31]に記載のポリペプチド。
[33] モータリン2のアミノ酸配列の381−410位の1部配列のうち少なくとも連続した8個のアミノ酸配列を含む前記[31]又は[32]に記載のポリペプチド。
[34] モータリン2のアミノ酸配列の381−410位のアミノ酸配列が、配列番号56に示されるアミノ酸配列である、前記[33]に記載のポリペプチド。
[35] モータリン2のアミノ酸配列381−410位の1部配列であって、かつ配列番号66に示されるアミノ酸配列「LFGRAP」を含む前記[33]に記載のポリペプチド。
[36] モータリン2のアミノ酸配列381−410位の1部配列が、アミノ酸配列「PKVQQTVQDLFGRAP(配列番号67)」「KVQQTVQDLFGRAPS(配列番号68)」「VQQTVQDLFGRAPSK(配列番号69)」「QQTVQDLFGRAPSKA(配列番号70)」「QTVQDLFGRAPSKAV(配列番号71)」「TVQDLFGRAPSKAVN(配列番号72)」「VQDLFGRAPSKAVNP(配列番号73)」「QDLFGRAPSKAVNPD(配列番号74)」「DLFGRAPSKAVNPDE(配列番号75)」及び「LFGRAPSKAVNPDEA(配列番号76)」から選択される、前記[35]に記載のポリペプチド。
[37] モータリン2のアミノ酸配列381−410位の1部配列が、アミノ酸配列「KAMQDAEVSKSDIGE(配列番号77)」「GEVILVGGMTRMPKV(配列番号78)」「EVILVGGMTRMPKVQ(配列番号79)」「GMTRMPKVQQTVQDL(配列番号80)」「TRMPKVQQTVQDLFG(配列番号81)」及び「RMPKVQQTVQDLFGR(配列番号82)」から選択される、前記[34]に記載のポリペプチド。
[38] アミノ酸配列「LFGRAP(配列番号66)」からなるポリペプチド。
[39] 被検抗体を含む試料に対して、前記[33]〜[38]のいずれかに記載のポリペプチドを作用させることを特徴とする、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体又はその機能的断片のスクリーニング方法。
[40] 前記[31]〜[38]のいずれかに記載のポリペプチドを免疫原として作成したことを特徴とする、アミノ酸配列「LFGRAP(配列番号66)」をエピトープとして認識する細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体又はその機能的断片。
[41] 前記[31]〜[38]のいずれかに記載のポリペプチドをコードする核酸分子であって、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体を特異的に認識するエピトープをコードする核酸分子。
[42] モータリン2のアミノ酸配列310−410位のうち少なくとも連続した15個のアミノ酸配列を含み、かつアミノ酸配列「LFGRAP(配列番号66)」を含む、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体を特異的に認識するポリペプチドをコードする核酸分子。
[43] 前記[41]又は[42]に記載の核酸分子を用いて細胞表面に細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体が認識するエピトープを発現させ、当該エピトープ発現細胞に対して被検抗体を含む試料を作用させることを特徴とする、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体又はその機能的断片のスクリーニング方法。
[44] 前記[41]又は[42]に記載の核酸分子を含む発現ベクターであって、かつ癌細胞表面に細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体が認識するエピトープを発現可能な発現ベクターを有効成分とする、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体もしくはその機能的断片又は当該抗モータリン抗体もしくはその機能的断片に結合された薬剤もしくは標識化合物の癌細胞内への内在化促進剤。
[45] 前記[41]又は[42]に記載の核酸分子を含む発現ベクターであって、かつ癌細胞表面に細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体が認識するエピトープを発現可能な発現ベクターを用いることを特徴とする、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体又はその機能的断片に結合された薬剤又は標識化合物の癌細胞内へのデリバリー方法。
[46] モータリン2のアミノ酸配列410−435位の1部配列のうち少なくとも連続した8個のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体を特異的に認識するエピトープを含むポリペプチド。
[47] モータリン2のアミノ酸配列410−435位のアミノ酸配列が、配列番号30に示されるアミノ酸配列である、前記[46]に記載のポリペプチド。
【発明の効果】
【0008】
本発明により細胞内在化能を有する抗モータリン抗体、又は細胞内在化能を持たない抗モータリン抗体のそれぞれに特異的なCDR配列、及びH鎖及びL鎖の可変領域配列が提供されたことで、同一の機能を有するキメラ抗体、ヒト化抗体または一本鎖抗体を提供できる。そして、癌細胞に内在化して、又は癌細胞表面でモータリン活性を抑制する抗癌剤を提供できる。また癌細胞内への治療用薬剤又は検出用薬剤のキャリアを提供できる。
また、モータリン上の2種類のエピトープ領域の配列情報を利用した抗モータリン抗体の同定・評価方法を提供できる。
さらに、本発明により、内在化機能を有する抗モータリン抗体が認識するエピトープ配列を決定することができた。当該エピトープ配列を含むペプチドは、細胞内在化機能を有する抗体、又は抗体の機能性断片のスクリーニングに用いることができ、また、免疫原として用い、内在化機能のさらに優れたペプチド抗体を作製できる。当該抗体は、抗癌剤(低分子化合物、毒素、siRNAなどの核酸分子)、標識分子(蛍光物質、量子ドット、金属粒子など)の癌細胞内へのデリバリーに用いることができる。そして、当該エピトープ配列を含むポリペプチドをコードする核酸を挿入した発現ベクターは、癌細胞表面にモータリンエピトープを発現させることにより、モータリン抗体及びモータリン抗体をキャリアとする薬剤の癌細胞への内在化促進剤として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.用語の定義
(1)モータリン2及び抗モータリン抗体
本発明において、モータリンあるいはモータリン2というときは、マウスモータリン2(mot-2)あるいはヒトモータリン(hmot-2)を指す。
また、抗モータリン抗体としてはマウスモータリン2に対する抗体又はヒトモータリン2に対する抗体のいずれをも指すが、マウスとヒトのモータリンタンパク質は非常に高い相同性を有することから、マウスモータリン2に対して作成した抗体はヒトのモータリンタンパク質を認識し、その逆も同様である。
そこで、本発明の実施態様で用いた抗モータリン抗体産生ハイブリドーマは、マウスモータリン2全長によりマウスを免疫して作製したマウスモノクローナル抗体を産生する。抗モータリンモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの具体的な製造法については、本発明者らの上記特許文献1の記載に従う。
【0010】
(2)内在化機能を有する抗モータリン2抗体
上述のように、モータリン2に対して特異的に結合する抗モータリンモノクローナル抗体のうちに、癌細胞への内在化機能を有する抗体と、内在化機能を有さず、癌細胞表面でモータリン2に結合する抗体との2種類がある。前者を「内在化機能を有する抗モータリン抗体」、後者を「内在化機能を有さない抗モータリン抗体」という。単に、「内在化機能を有する抗体」、「内在化機能を有さない抗体」ともいい、それぞれの抗体由来の可変領域を、「内在化機能を有する抗体可変領域」、「内在化機能を有さない抗体可変領域」ともいい、それぞれに特有の配列を有しており、特に両者のCDR配列は、全く共通していない。本発明において、「抗モータリン抗体」というとき、1対のH鎖及びL鎖により構成される、抗モータリンモノクローナル抗体、同様の機能を有するそのフラグメント抗体、例えばH鎖及びL鎖の可変領域又はその可変領域からなるFabフラグメント、遊離SH基を有するH鎖及びL鎖1本ずつからなる抗体も包含する。
これらの抗体産生ハイブリドーマは、マウス、ラット、ウサギなど通常の実験動物を免疫して得られる抗体産生細胞、また癌患者から直接得られるヒト由来抗モータリン抗体産生リンパ球を用いて常套の手段で作製することができる。本発明では、これらハイブリドーマから得られるcDNAを用い、CHO細胞などの哺乳類細胞、大腸菌など細菌細胞、及び酵母細胞などの適切な宿主細胞系で発現させた「組換え抗モータリン抗体」を対象とする。組換え抗モータリン抗体としては、H鎖及びL鎖の1本ずつからなる組換え抗体、H鎖及びL鎖の可変領域をリンカーで繋いだ組換え一本鎖抗体(scFv)、及び組換えFabなどの抗体フラグメントであって、細胞内在化機能を有しているものが包含される。また上記特有の可変領域配列又はCDR配列を利用した、キメラ抗体及びヒト化抗体も包含される。
本発明の実施の態様では、5種類の「内在化機能を有する抗モータリン抗体」と1種類の「内在化機能を有さない抗モータリン抗体」を用いて、その可変領域のアミノ酸配列を決定して比較し、特にL鎖について、内在化機能を有する場合と有さない場合との配列上の特徴を以下のように検討した。
【0011】
(3)一本鎖抗体と発現用ベクター
本発明において「一本鎖抗体」とは「scFv(single chain Fv)」ともいい、抗モータリン抗体の重鎖および軽鎖の可変部領域(VHおよびVL)を適当なペプチドリンカーで連結させたものに相当する(非特許文献16)。このようなコンストラクトを遺伝子レベルで構築し、タンパク質発現用ベクターを用いて大腸菌に導入することで一本鎖抗体タンパク質を発現させることができる。
本発明の実施の態様では、リンカー配列としてLuginbuhlらの用いた非反復配列からなるリンカー配列(非特許文献17)を用いたが、アミノ酸数5〜20程度であれば適宜設定できる。
発現させる宿主細胞及び発現用ベクターとしては、一般的に用いられる種々の宿主細胞、及び当該宿主細胞に対する適切なベクターの組み合わせを適宜選択できるが、大腸菌のペリプラズム領域に輸送するシグナル配列(PelB配列)を導入した発現ベクターを用いることで、大腸菌で発現させ、ペリプラズム領域に分泌させることにより簡単に一本鎖抗体(scFv)を取得することができる。本願の実施態様では、PelB配列を持つ発現用プラスミドベクターである「pET-27b(+)plasmid」に、各抗体のcDNAプールから、2種類のプライマーセットで増幅させて作製したscFvをクローニングした。
細胞内内在化抗モータリン抗体に特有な可変領域配列のみで構成された一本鎖抗体は、モータリンに特異的に結合する能力があることが確認されており、癌細胞内への内在化機能も期待されるから、癌細胞内でモータリンと特異的に結合してモータリン活性を抑える抗癌剤として用いることができる可能性がある。また、モータリン活性を抑制する低分子化合物など他の癌治療用薬剤を担持させた薬剤キャリア、カチオン性高分子などにつなぎ遺伝子治療用遺伝子を細胞内に運んで機能させる核酸キャリアとして、蛍光物質等をつけて癌細胞検出用キャリアとして用いることもできる。(当該核酸キャリアについては、同日付で特許出願した。)
細胞内内在化の機能がない可変領域を用いた一本鎖抗体は、癌細胞表面でモータリンと特異的に結合する性質を利用することができるから、同様に抗癌剤、薬剤キャリア、及び癌細胞検出用キャリアとしての有用性がある。
【0012】
(4)還元抗体(遊離SH基を有するH鎖及びL鎖1本ずつからなる抗体)
たとえば、抗体にジチオスレイトール(DTT)を添加し、室温で30分程度反応させた後に、脱塩カラムなどでDTTを除去することで、簡単に得ることができる。(詳細な製造法は、同日付の特許出願明細書中に記載した。)遊離SH基を形成させる程度の還元法であればどのようなものであっても良い。
H鎖及びL鎖をコードするcDNAを用いた遺伝子組換え手法により、本発明における組換え抗モータリン還元抗体を製造することができる。
【0013】
(5)キメラ抗体、CDR抗体
本発明の抗モータリン抗体には、キメラ抗体及びヒト化抗体を包含するが、これらは以下の常法により製造される。すなわち、本発明で得られた細胞内内在化の機能がある抗モータリン抗体由来の可変領域をコードするDNAを、ヒト由来の抗体の定常領域をコードするDNAと結合して、通常の組換え手法で発現させることによりキメラ抗体を作製するか、同CDR1〜3領域をコードするDNAを用いて、(非特許文献18)の手法に従い、ヒト由来抗体のフレームワーク領域及び定常領域をコードするDNAにつないで発現させてCDR抗体(ヒト化抗体)を作製することができる。
【0014】
(6)エピトープ
本発明において、「エピトープ」とは、モータリンの全アミノ酸配列中の、細胞内在化能を有するモータリン抗体、もしくは細胞内在化能を有さないモータリン抗体が認識するアミノ酸配列に対応する領域をいう。すなわち、細胞内在化能を有する抗体のエピトープは、上記細胞内在化能抗体のパラトープに相当する各CDRのいずれか、もしくはそのすべてと結合する。具体的には、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のL鎖可変領域のCDR1の配列である「KSSQSLLDSDGKTYLN(配列番号1)」、同CDR2の配列である「LVSKLDS(配列番号2)」もしくは同CDR3の配列である「WQGTHFPRT(配列番号3)」、同CDR1の配列である「RASQEISGYLS(配列番号6)」、同CDR2の配列である「AASTLDS(配列番号7)」、同CDR3の配列である「LQYASYPPT(配列番号8)」、同H鎖可変領域のCDR1の配列である「SYWMH(配列番号14)」、同CDR2の配列である「EIDPSDSYTKYNQKFKG(配列番号15)」もしくは「EIDPSDSYTDYNQNFKG(配列番号18)」、同CDR3の配列である「GDY(配列番号16)」から選ばれる1つ以上の配列と結合する。
一方、細胞内在化能を有さない抗体のエピトープは、細胞非内在化抗体のパラトープに相当する各CDRのいずれか、もしくはそのすべてと結合する。具体的には、細胞内在化機能を有さない組換え抗モータリン抗体のL鎖可変領域のCDR1の配列である「RSSKSLLYSNGITYLY(配列番号10)」、同CDR2の配列である「QMSNLAS(配列番号11)」、同CDR3の配列である「AQNLELPWT(配列番号12)」、同H鎖可変領域のCDR1の配列である「SYWMH(配列番号25)」、同CDR2の配列である「EINPSNGRTNYNEKFKS(配列番号26)」及びCDR3の配列が「SRYYGSCYFDY(配列番号27)」から選ばれる1つ以上の配列と結合する。
本発明の細胞内在化能を有するモータリン抗体が認識するエピトープは、モータリンのアミノ酸配列中の、ヒト及びマウスモータリン2共通のアミノ酸配列(配列番号56)における381〜410位に相当する領域に存在する連続した、もしくは非連続の5〜8アミノ酸残基からなると推定される。典型的には、配列番号55又は62のアミノ酸配列中の連続した8アミノ酸配列、好ましくは連続した10アミノ酸配列、より好ましくは15アミノ酸配列、最も好ましくは20アミノ酸配列を含むアミノ酸配列である。
モータリン2は、生物種を越えてきわめて保存性が高い。たとえば、ヒト及びマウスでのアミノ酸配列の相同性は、BLAST法によると97.9%である(図13)。したがって、本明細書では、典型的なマウス由来及びヒト由来配列を示すが、これら配列には限られない。他の生物種のモータリン2の細胞内在化能を有するモータリン抗体が認識するエピトープ領域も、モータリン2アミノ酸配列の対応する381〜410位に相当する領域中に存在する。
【0015】
そこで、上記配列番号56に示される381〜410位を含む348〜450位に対してエピトープマッピング法を適用し、内在化抗体に特異的な結合配列である配列番号67〜76に示されるペプチド領域を決定し、共通配列として6アミノ酸配列「LFGRAP(配列番号66)」を、エピトープ配列として決定した。他にも内在化抗体特異的な結合配列が決定できた(配列番号77〜82)ので、これらの各配列を含むペプチドを用いることで、細胞内在化機能を有する抗体、又は抗体の機能的断片のスクリーニングが可能となり、また、免疫原として用いて、内在化機能のさらに優れたペプチド抗体を作製できる。
また、当該エピトープ配列を含むアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、たとえば、配列番号60又は65の部分配列からなり、配列番号66を含むペプチドをコードする核酸を含む発現ベクターを用いて癌細胞表面に当該エピトープを大量に発現させることにより、デリバリーの際の標的領域となり得る。たとえば、細胞内在化能を有するモータリン抗体を癌細胞表面に結合させ、かつ、癌細胞内に当該モータリン抗体を内在化させるのを補助することができる。すなわち、当該発現ベクターは、モータリン抗体及びそれに結合させた抗癌剤、検査用の薬剤を癌細胞内への輸送促進剤、または内在化促進剤として用いることができる。さらに、被検抗モータリン抗体を含む試料(血液、体液、細胞培養液など)を、当該エピトープを含む合成ペプチドと基板上で、もしくは溶液中で反応させるか、又は当該エピトープ発現細胞と接触させることで、当該抗モータリン抗体に癌細胞への内在化機能があるか否かを検出することができるから、より高い内在化機能を有する抗モータリン抗体又はその機能的断片をスクリーニングすることができる。
【0016】
2.本発明における実験方法
以下、本発明の実施例に則した具体的な実施態様について述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
(1)可変領域の配列決定
抗モータリン抗体を産生するハイブリドーマを培養し、total RNAを抽出する。得られたRNAをテンプレートに、5’CDS primerを用いて1回目の1st strand cDNA合成を行う。
次いで、1st strand cDNAをテンプレートとして、Advantage 2 PCR Kit(Clontech製、cat.No.K1910-y)を使用して、タッチダウンPCRを行う。
その際に、用いる遺伝子特異的Primerは、それぞれH鎖、L鎖の定常領域の5’側に設定し、抗体のサブタイプにより選択する。Primerの配列を以下に示す。
・H鎖
MHC-IgG1 GGGCCAGTGGATAGACAGATG
MHC-IgG2a CAGGGGCCAGTGGATAGACCGATG
MHC-IgG2b CAGGGGCCAGTGGATAGACTGATG
MHC-IgG3 CAGGGACCAAGGGATAGACAG
・L鎖
MLC-kappa GCTCACTGGATGGTGGGAAGATG
得られたRACE産物をアガロースゲル電気泳動し、目的のバンドを切り出しゲル抽出(QIAGEN製)する。クローニング効率を上げるためには、適宜pGEM-T Easyベクター(Promega製)を用いてTAクローニングしてもよい。
コロニーPCRにより目的の遺伝子が挿入されたクローンを選択する。なお、1つの配列を決定するのに6つ以上のクローンについてDNA調製を行う。Vector primerでsequencingし、ハイブリドーマ由来のpseudo配列や、途中に終止コドンを含むような配列を除き、PCR errorに注意しながら、同様の配列をもったクローンを4つ以上選び正しい配列として決定する。
【0017】
(2)モータリンに対するscFvとその発現プラスミドベクターの構築
モータリンに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから得た抗体のcDNAを用いて、一本鎖抗体(scFv)の遺伝子を構築し、PelB配列を持つ大腸菌発現用プラスミドベクターpET-27b(+)にscFvの遺伝子をクローニングする。(図3)具体的には、まずVLの遺伝子をPrimer1、Primer2プライマーセットで、VHの遺伝子をPrimer3、Primer4のプライマーセットで増幅させる。ここで、Primer2にはVLとVHを連結させるポリペプチドの配列が含まれており、さらにそれぞれの増幅産物はVLのC末端側とVHのN末端側が相同配列を持つようにデザインされており、Primer4にはFLAGタグをコードした塩基配列が挿入され、VHのC末端側にエンテロキナーゼ認識を挟んでFLAGタグが付加される。それぞれのPCR産物をさらにPrimer1とPrimer4のプライマーセットでPCRを行うことで全長のscFvの遺伝子を作製し、このDNA断片をpET-27b(+)プラスミドベクター(Novagen製)にクローニングした(pET27-mot)。
pET27-motで大腸菌を形質転換して培養しIPTGにより発現誘導し、菌体から浸透圧ショック法によりペリプラズム画分のタンパク質を抽出し、精製してモータリンscFvを得る。
【0018】
(3)ELISAによるモータリンscFvの機能検証
ELISAにより精製したscFvが抗原であるモータリンに結合するかを検証し、scFvの基としたモノクローナル抗体との解離定数を比較する。
【0019】
(4)エピトープマッピング
全長モータリンおよびモータリンの欠失変異体タンパク質の配列を大腸菌で発現させ、精製してBIACOREおよびELISAの実験に用いる。
各タンパク質と細胞内在能を有する抗モータリン抗体及び細胞内在能を有さない抗モータリン抗体との結合の強さをBIACORE(表面プラズモン共鳴(SPR)を利用した分子間の相互作用測定方法)で測定する。
次いで、ELISAにより各タンパク質と抗モータリン抗体との結合度を測定し、BIACOREの結果とあわせて、細胞内在化能を有するもしくは細胞内在化能を有さない抗モータリン抗体のパラトープにより認識されるモータリン配列中のエピトープの位置及びエピトープ配列を決定する。
【0020】
(5)ウエスタンブロッテイングによるscFvを用いたモータリンの検出
モータリンを特異的に認識することができるscFvは、特異的抗体を用いた一般的な分子生物学的手法に応用できる可能性がある。大量にかつ簡便に大腸菌で発現、精製したモータリンに対するscFvが、免疫学的応用としてウェスタンブロッティングの特異的プローブとして利用できるかを検討する。
【0021】
(6)scFvを用いたモータリンの免疫沈降実験への応用可能性の検討
モータリンを特異的に認識することができるscFvは、特異的抗体を用いた一般的な分子生物学的手法に応用できる可能性がある。大量にかつ簡便に大腸菌で発現、精製したモータリンに対するscFvが、免疫学的応用として免疫沈降実験の特異的抗原結合タンパク質として利用できるかを検討する。
【0022】
本発明を以下の実施例でさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0023】
(実施例1)可変領域の配列決定:
1.1.Total RNAの単離
抗モータリン抗体のうち、癌細胞への内在化機能を有するモノクローナル抗体(37−1,37−6,38−5、96−5及び71−1)を産生するハイブリドーマ並びに内在化機能を有さないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、それぞれ1X106 cells/mL以下の細胞濃度で約10mL培養し、細胞を回収後、RNA抽出まで-20℃で保存した。氷上で細胞を融解し、RNeasy Mini kit (QIAGEN製、cat.No.74104)を使用してRNA抽出を行いtotal RNAをそれぞれに調製した。
【0024】
1.2.1st strand cDNA合成
SMART RACE cDNA Amplification(Clontech製、cat.No.634914)を使用して、1.で得られたRNA 1ugをtemplateに、5’CDS primerを用いて1st strand cDNA合成を行った。
【0025】
1.3.5’-RACE
SMART RACE cDNA Amplificationに含まれている、Advantage 2 PCR Kit(Clontech製、cat.No.K1910-y)を使用して、2.で得られた1st strand cDNA 2.5uLをtemplateに、タッチダウンPCRを行った。用いた遺伝子特異的Primerは、それぞれH鎖、L鎖の定常領域の5’側に設定し、抗体のサブタイプにより選択する。Primerの配列を以下に示す。
・H鎖
MHC-IgG1 GGGCCAGTGGATAGACAGATG
MHC-IgG2a CAGGGGCCAGTGGATAGACCGATG
MHC-IgG2b CAGGGGCCAGTGGATAGACTGATG
MHC-IgG3 CAGGGACCAAGGGATAGACAG
・L鎖
MLC-kappa GCTCACTGGATGGTGGGAAGATG
【0026】
1.4.RACE産物のcloning
RACE産物をアガロースゲル電気泳動し、目的のバンドを切り出しゲル抽出し(QIAGEN製、)、pGEM-T Easy Vector(Promega製、cat.No.A1360)につないでTA cloningを行った。
【0027】
1.5.Sequencing
vector primerでcolony PCRし、目的の遺伝子が挿入されたクローンを選択し、1つの配列を決定するのに6つ以上のクローンについてDNA調製を行った。Vector primerでsequencingし、ハイブリドーマ由来のpseudo配列や、途中に終止コドンを含むような配列を除き、PCR errorに注意しながら、同様の配列をもったクローンを4つ以上選び正しい配列として決定した。これらの工程をそれぞれに適用して各々のL鎖及びH鎖の可変領域アミノ酸配列を図1に並べて示す。
図1のL鎖可変領域の配列比較図を見ると、細胞内在性能を有する抗体の可変領域は4種類ともほぼ同一配列を有しており、特にモータリンとの結合に関与するCDRは完全に一致している。一方、細胞内への内在化能を有さない抗体の可変領域と比較すると、FR3領域及びFR4領域には相違箇所がないが、シグナルペプチド領域,FR1領域と共に、各CDR領域は大幅に相違している。
いずれにしても可変領域全体として、細胞内内在化能を有するか否かによりアミノ酸配列の相違が大きいことを見出したことから、L鎖可変領域と,H鎖可変領域を保持していれば(たとえば、両者を適切な長さのリンカー領域で結んだ一本鎖抗体(scFv)の場合など)、もとの抗モータリンモノクローナル抗体の全長と同様の活性を保持することが十分に期待できる。CDR配列も、それぞれに特有の配列を有しているから,これらCDRにより形成されるパラトープが認識するエピトープ配列が異なっている可能性も高いと考えられた。
【0028】
(実施例2)モータリンに対するscFvとその発現プラスミドベクターの構築:
2.1.ベクターデザイン
モータリンに対するモノクローナル抗体37-1を産生するハイブリドーマから得た抗体のcDNAを用いて、一本鎖抗体(single chain Fv, scFv)の遺伝子を構築した。scFvは抗体の重鎖および軽鎖可変部領域(VHおよびVL)を適当なペプチドリンカーで連結させたもので、大腸菌による発現、精製が可能である。翻訳させたタンパク質を大腸菌のペリプラズム領域に輸送するシグナル配列であるPelB配列を持つ、組み換えタンパク質発現用プラスミドベクターであるpET-27b(+)にscFvの遺伝子をクローニングした。まず、VLの遺伝子をPrimer1、Primer2プライマーセットで、VHの遺伝子をPrimer3、Primer4のプライマーセットで増幅させる。Primer2にはVLとVHを連結させるポリペプチドの配列が含まれており、さらにそれぞれの増幅産物はVLのC末端側とVHのN末端側が相同配列を持つようにデザインされている。ポリペプチドリンカーの配列はLuginbuhlらの用いた非反復配列からなるリンカー配列を用いている(非特許文献17)。また、Primer4にはFLAGタグをコードした塩基配列が挿入されており、VHのC末端側にエンテロキナーゼ認識を挟んでFLAGタグが付加される。(図4参照。用いられた具体的なVH及びVLのアミノ酸配列は図5に示されている。)
それぞれのPCR産物を精製後、分子数が1対1となるように混合し、さらにPrimer1とPrimer4のプライマーセットでPCRを行うことで全長のscFvの遺伝子を作製した。このDNA断片をNcoIとNheIによりpET-27b(+)プラスミドベクター(Novagen)にクローニングし、モータリンに対するscFvを発現させるタンパク質発現プラスミド、pET27-motを作製した。(図3参照)
【0029】
2.2.scFvの発現と精製
pET27-motを大腸菌株BL21 (DE3)に形質転換し、シングルクローンをLB培地により濁度が0.4程度になるまで培養する。IPTGを1 mMに成るように添加し27℃にて12時間培養する。その後、6000 gにて菌体を遠心回収し浸透圧ショック法によりペリプラズム画分のタンパク質を抽出する(非特許文献19)。50 mLの培養液から回収した菌体を30 mM TrisHCl (pH 8.0)、20 %スクロース溶液30 mLに完全に懸濁した後、0.5 M EDTAを60 mL加えマグネットスターラーで10分間穏やかに攪拌する。4℃、6000 gで10分間遠心し上清を除き、氷冷した5 mM MgSO4 30 mLにペレットを完全に懸濁させ氷中で緩やかに10分間攪拌する。4℃、6000 gで10分間遠心し、上清を回収する。1.5 mLの500 mMリン酸バッファー(pH 8)を加えた上でTalon(Clontech)を用いたタンパク質精製を行った。30 mLの溶液に対して200 mlのTalonを加え、4℃において一晩振とうさせた後、20 mMイミダゾール/PBSにて洗浄した。溶出は1 Mイミダゾール/PBSを用いた。得られた精製scFvの純度を確認するためにSDS-PAGEにより展開後、クマシーブルー染色によりタンパク質を検出したところ、目的のscFvのバンドのみが精製されていることが確認された。(図6参照)
【0030】
2.3.ELISAによるモータリンscFvの機能検証
ELISAにより精製したscFvが抗原であるモータリンに結合するかを検証した。ELISA用プレートにモータリンを100 ngずつ加え室温で2時間放置しプレートに物理吸着させる。洗浄バッファー(PBS/0.2 % TritonX100)で1回洗浄し、ブロッキングバッファー(2 % BSA, PBS)で2時間、室温で放置する。洗浄バッファーで1回洗浄後、ブロッキングバッファーに希釈したscFvを加え4℃で一晩放置した。洗浄バッファーで3回洗浄後、抗FLAG抗体(Sigma)をブロッキングバッファーで500倍希釈した溶液を加え、室温で1時間放置し洗浄バッファーで3回洗浄する。同様に1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ修飾抗マウス抗体(PIERCE)を加え、室温で1時間放置後、洗浄バッファーで5回洗浄する。その後、PNPP(PIERCE)を加え室温で30分間放置し、プレートリーダーを用いて405 nMの発色反応を測定した。同時にモータリンをコートしていないプレートに対するscFvの非特異的結合も測定し、それを差し引くことでscFvのモータリンに対する結合を見積もった。
その結果、scFvは約10 nM程度の解離定数でモータリンに結合することが分かった。また、scFvの基としたモノクローナル抗体37-1を用いた同様のELISAを行ったところ(抗FLAG抗体の代わりにモノクローナル抗体37-1を用いる)、これは約0.1 nMの解離定数を持つことが分かった。
【0031】
(実施例3)エピトープマッピング:
3.1.全長モータリンおよびモータリンの欠失変異体タンパク質の発現と精製
Hisタグを付加した全長モータリンはpQE30プラスミドベクター(QIAGEN)のマルチクローニングサイトBamHIとSalIサイトにモータリンの配列をクローニングし、大腸菌により発現させた。pQE30プラスミドベクターはクローニングしたタンパク質のN末端にHisタグが付加したタンパク質を発現し、Ni-NTAアガロースゲルにより簡便に精製することが出来る。pQE30/full-length mortalinおよびFig8-10に示した様々な欠失変異体モータリンのプラスミドベクターpQE30del-motは大腸菌M15に形質転換した。シングルコロニーをLB培地を用いて37度で培養し、600nmにおける吸光度が0.4程度のときにIPTG(isopropyl-1-thio-β -D-galactopyranoside)を1mMになるように添加した。さらに37度で5時間培養した後、菌体を回収した。ぺレットを緩衝液A (100mM NaH2PO4, 10mM Tris-Hcl(pH8.0), 8M Urea, 20mM β-メルカプトエタノール、1% TritonX-100)に懸濁し、室温で1時間回転攪拌をおこなった。その後、4℃、15000rpmで30分遠心し、上清のみを別のチューブにうつしてNi-NTAアガロース(SIGMA)を加え、室温で1時間回転攪拌をおこなった。その後、Ni-NTAアガロースを緩衝液B (100mM NaH2PO4, 10mM Tris-Hcl(pH6.5), 8M Urea, 20mM β-メルカプトエタノール)で洗浄し、緩衝液C(100mM NaH2PO4, 10mM Tris-Hcl(pH5.9), 8M Urea )、緩衝液D(100mM NaH2PO4, 10mM Tris-Hcl(pH4.5), 8M Urea)で段階的に目的タンパク質を溶出した。溶出したタンパク質は透析膜(3,500MW Piarce)を用いて、PBSで一晩透析を行い、BIACOREおよびELISAの実験に用いた.
【0032】
3.2.Biacore analysis
各タンパク質と抗モータリン抗体との結合はBIACORE2000および付属ソフトを用いて検証をおこなった。全長モータリンおよびモータリンの欠失変異体はHisタグを有しているため、NTAが固定化されたBIACORE用センサーチップに結合する.各タンパク質を200nMとなるようにランニングバッファー(0.01M HEPES, 0.15M NaCl, 50μM EDTA, 0.005% Surfactant P20, pH7.4)を用いて調整し、20μLを2μL/minでセンサーチップに固定化した.その後、抗モータリン抗体(38-4,52-3, 96-5)をランニングバッファーを用いて400nMとなるように調整して、センサーチップに40μLを20μL/minで流入し、相互作用を検出した.Kd値の測定には段階的に希釈した抗モータリン抗体溶液(500nM,250nM,125nM,62.5nM,31.25nM)を用いて相互作用を検出し、Kd値の算出にもちいた。(図8)
【0033】
3.3.ELISAによる抗モータリン抗体のエピトープマッピング
ELISAにより精製したモータリンの欠失変異体タンパク質が抗モータリン抗体に結合するかを検証した。ELISA用プレートにモータリンの欠失変異体タンパク質を100ngずつ加え室温で2時間放置しプレートに物理吸着させる。洗浄バッファー(PBS/0.2 % TritonX100)で1回洗浄し、ブロッキングバッファー(2 % BSA, PBS)で2時間、室温で放置する。洗浄バッファーで1回洗浄後、ブロッキングバッファーに1000倍希釈した抗モータリン抗体
(38-4, 52-3, 96-5)を加え4℃で一晩放置した。洗浄バッファーで3回洗浄後、1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ修飾抗マウス抗体(PIERCE)を加え、室温で1時間放置後、洗浄バッファーで5回洗浄する。その後、PNPP(PIERCE)を加え室温で30分間放置し、プレートリーダーを用いて405 nMの発色反応を測定した。同時にモータリンの欠失タンパク質を吸着していないプレートに対する抗モータリン抗体の非特異的結合も測定し、それをネガティブコントロールとして差し引いた。(図9)
【0034】
上記3.1〜3.3のBIACOA及びELISAの結果を総合的に判断すると、細胞内在化能を有する38-4抗体及び96-5抗体のエピトープはモータリンのアミノ酸残基310-410の範囲にあり、細胞内在化能を有さない52-3抗体のエピトープはアミノ酸残基403-435の範囲にあると推測される。
そして、このことは、細胞内在化能を有する抗体と有さない抗体とが、それぞれモータリンの全長における別のエピトープ領域を認識することであり、特に細胞内在化能を有するモータリン抗体の場合は、癌細胞表面に存在するモータリンのエピトープを介して癌細胞内に内在化することを示すものである。すなわち、当該エピトープをコードする核酸を含む発現ベクターを用いて癌細胞表面に当該エピトープを大量に発現させることにより、癌細胞内に、モータリン抗体及びそれに結合させた抗癌剤、検査用の薬剤を輸送するのを促進させることができる。
【0035】
(実施例4)さらなるELISA解析
そこで、特に細胞内在化能を有する抗体が認識するモータリン中のエピトープ配列が含まれる領域をさらに絞り込むために、モータリンのアミノ酸配列310-410位を3つに分けて、38-4抗体(内在化抗体)と52-3抗体(非内在化抗体)とを用いたELISA解析を行った。実験手順は、3.3記載と同様に行った。
その結果、本発明の細胞内在化能を有するモータリン抗体が認識するエピトープは、モータリンのアミノ酸配列中の、ヒト及びマウスモータリン2共通のアミノ酸配列における381〜410位に相当する領域(配列番号56)に存在することが推定された。
【0036】
(実施例5)
そこで、上記381〜410位のアミノ酸配列(配列番号56)を含むヒトモータリン由来の348〜450位のアミノ酸配列上で、15アミノ酸ずつずらした89ペプチドを化学合成し、Tecon HS400マイクロアレイ解析ステーションを用いてエピトープマッピング(RepliTopeマッピング)解析を行った。(図14)
各マイクロアレイについてAxon Genepixスキャナを用いてバックグラウンド測定を行い、シグナルが検出されないことを確認した。全マイクロアレイをブロッキングバッファー(Pierce, Puperblock TBS #37536)を用いて処理した。
細胞内在化機能を有する抗モータリンモノクローナル抗体として、抗37-6及び抗38-4の2つの抗体を用意し、比較のために細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体である抗53-3を用意した。マイクロアレイにブロッキングバッファーで希釈した各抗体(30μg/mL, 200μL)をのせ、インキュベーションした。0.1% T20を含むTBSバッファーで3回マイクロアレイを洗浄後、蛍光標識された二次抗体(1μg/mL、anti-mouse-Dylight 649; Pierce #35515)をのせインキュベーションした。同様に二次抗体だけでインキュベーションしたコントロールアレイも処理し、シグナルがでないことを確認した。
マイクロアレイをTBSバッファーで洗浄後、窒素ガスで乾燥させた。Axon Genepix 4000Bスキャナにて、適切な波長設定およびスポット認識ソフトウェアパッケージGenepixPro 6.0を用いてマイクロアレイをスキャンした。各マイクロアレイイメージ上の3つのサブアレイからシグナル強度の平均値を算出し、データ解析を行った。それぞれの結果を、図15,16,17として示す。
各ペプチドのうち、内在化機能を有する抗モータリン抗体(抗37-6及び抗38-4)との特異的な強い結合性を示すペプチド配列が連続して存在することが見出され(配列番号67〜76)たことから、これら配列の共通の6アミノ酸配列の「LFGRAP(配列番号66)」が連続エピトープであることを確認した(図18)。他にも内在化抗体特異的な結合配列が決定できた(配列番号77〜82)。
「LFGRAP(配列番号66)」をBlast検索をしたところ、モータリン以外にはヒットしない。このことからも、当該配列はモータリンのみに存在する特異的配列であることが立証された。
【0037】
(実施例6)ウエスタンブロッテイングによるscFvを用いたモータリンの検出(図10)
NP40 lysis buffer (50 mM HEPES, pH 7.5, 150 mM NaCl, 100 mM NaF, 1 mM PMSF, 0.5% triton-X100, 0.5% NP-40, 1 mM DTT、protease inhibitors cocktail, Roche) により細胞抽出液を調整し13000 rpm 、40Cで10分間遠心したのち、上澄を分離する。Bradford アッセイによりタンパク質濃度を測定し10 ug のタンパク質をSDSサンプルバッファーと混合し96℃で5分間変性させ、SDS−PAGEを行う。Immobilon-Pメンブレン (Millipore)にセミドライブロッティング装置(Atto, Japan)を用いてタンパク質をトランスファーさせる。5% skim milk を懸濁させたTBS-Tバッファーで30分間ブロッキングした後scFV (5-10 ug/ml) を加え4℃で一晩放置する。その後、TBS-Tバッファーで洗浄を行った後polyclonal anti-His 抗体を加え室温で1時間放置し、TBS-Tバッファーで洗浄する。同様にHRP-conjugated secondary anti-rabbit 抗体を加え30分間室温放置した後、TBS-Tバッファーで3回洗浄、TBSバッファーで1回洗浄を行ったあと、ECL (Amersham Biosciences) 試薬を用いた発光検出法によりLumino Image Analyzer (LAS3000-mini, FujiFilm)にてバンドを検出した。その結果、モータリンのバンドを特異的に検出することが可能であった。
【0038】
(実施例7)免疫沈降によるモータリンの検出(図11)
上記の方法で細胞抽出液を調整した後、300 ugの細胞タンパク質と10ugのscFvを混合し4℃で3〜4時間放置した。その後、anti-His polyclonal抗体を加え、4oCで一晩放置した。 for overnight. Immunocomplexes were pelleted after incubation with Protein A-アガロースと混合した後、30分間4℃でゆっくり転倒攪拌した。10, 000 g で2分間遠心し、タンパク質複合体を沈殿させた後、ペレットをNP40バッファーで洗浄した。その後、沈殿させたタンパク質をanti-mortalin 抗体を用いたウェスタンブロッティングにて検出した。その結果、scFvは細胞溶液中でもモータリンと結合し、複合体を形成したまま沈降精製が可能であることが分かった。
これらの結果から見て、パラトープ解析の結果から新たに設計したscFvがモータリンタンパク質に結合することが証明された。
そして、このことは、細胞内在化能を有する抗体と有さない抗体とで、それぞれの抗体可変領域中の主にCDRが形成するパラトープが、癌細胞表面に存在するモータリンの異なる位置のエピトープを認識することを示すものであり、上述のように細胞内在化能を有する抗体と有さない抗体とでは、それぞれに特有のCDR配列を有していることを考え合わせれば、これらのCDR配列が、抗モータリン抗体の癌細胞内への内在化能にきわめて重要な役割を有していることが強く示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のパラトープは、癌細胞内又は癌細胞表面でのモータリン活性を抑制する抗癌剤として、また癌細胞内への治療用薬剤又は検出用薬剤のキャリアとして有用である。
また、本発明のエピトープは抗モータリン抗体の同定・評価方法において有用であり、特に、内在化機能を有する抗モータリン抗体が認識するエピトープについては、当該エピトープをコードする核酸を含む発現ベクターを、モータリン抗体及びそれに結合させた抗癌剤、検出用試薬などの薬剤の、癌細胞への内在化促進剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】各モータリン抗体の可変領域(パラトープ)のアミノ酸配列。
【図2】各モータリンのIgGのサブタイプ。
【図3】モータリンに対するscFv発現プラスミドの概略図。VLドメインとVHドメインをリンカーで連結させ、さらにFLAGタグ配列を付加させたDNA断片をpET-27b(+)プラスミドベクターのNcoI、NheIのサイトにクローニングした。
【図4】scFvの構築にあたり使用したそれぞれのプライマー配列(左から5’末端、右が3’末端)。下はマルチクローニングサイトを含むpET-27b(+)プラスミドの配列。
【図5】発現されると予想されるscFvのDNA配列(配列番号54)とアミノ酸配列(配列番号31)。リンカー部とFLAGタグ配列部は下線で示した。
【図6】大腸菌におけるモータリンに対するscFvの発現誘導と精製。左図はペリプラズムからのscFvの精製プロトコール。右図はIPTGによる発現誘導前後、および精製後のタンパク質のSDS-PAGE 解析結果。IPTG添加により30 kDa程度にタンパク質の発現誘導が見られ、Hisタグによる精製 を行うことでほぼ単一のバンドを得ることができた。
【図7】ELISAによるリコンビナントモータリンに対するモノクローナル抗体とscFvのアフィニティ解析。scFvはリコンビナントモータリンに対して10 nM程度の解離定数で結合することが確認された。
【図8】モータリンの欠失タンパク質。各欠失タンパク質と抗モータリン抗体(38-4,52-3,96-5)との結合をBIACOREにより検出した.三種の抗モータリン抗体と全長モータリンは結合しているが、52-3抗モータリン抗体はC末端のアミノ酸配列を含む欠失タンパク質とのみ結合している.52-3抗体のエピトープはモータリンのアミノ酸残基403-435の間のペプチドであると推測される。
【図9】各欠失タンパク質と抗モータリン抗体(38-4,52-3,96-5)との結合をELISAにより検出を行った.欠失タンパク質をウェルに物理吸着させ、その後抗モータリン抗体(38-4,52-3,96-5)を添加した.洗浄後アルカリフォスファターゼ修飾抗マウスIgGを添加し、405nmに吸収をもつ基質反応物により結合度を測定した。表は、405nmの吸光度を示している。38-4および96-5抗体のエピトープはモータリンのアミノ酸残基310-410の範囲にあり、52-3抗体のエピトープはアミノ酸残基403-435の範囲にあると推測される。
【図10】ウエスタンブロッテイングによるscFvを用いたモータリンの検出。scFvを1次プローブとして用いたウエスタンブロッティング解析を行ったところ、モータリンのバンドを特異的に検出することが可能であった。scFvのC末端に付加したヒスチジンタグを用いて検出した。
【図11】scFvを用いて細胞溶解液中のモータリンの免疫沈降を行った。scFvをanti-His抗体で回収後、ウェスタンブロッティングにてモータリンが共沈することが確認できた。
【図12】細胞内内在化性、もしくは非内在化性抗モータリン抗体が認識する推定エピトープ領域:(A)ELISA及び(B)BIAcoreによるモータリンの欠失変異体とモータリン抗体との相互作用解析。(C)全長モータリン中の細胞内非内在化性モータリン抗体と細胞内内在化性モータリン抗体の結合領域。
【図13】ヒト及びマウスアミノ酸配列の相同性(BLAST法による。)
【図14】89ペプチドからなるペプチドアレイ(各15アミノ酸、モータリンの 348−450 領域を一アミノ酸ずつずらしてある)。抗体によって認識されたペプチドを矢印で示している。
【図15】抗体37-6におけるペプチドの結合シグナル。抗体と結合したペプチドをその配列と供に差し込み図に示した。
【図16】抗体38-4におけるペプチドの結合シグナル。抗体と結合したペプチドをその配列と供に差し込み図に示した。
【図17】抗体52-3におけるペプチドの結合シグナル。結合したペプチドは見られなかった。
【図18】RepliTopeデータのサマリー。ペプチド#46から#55までに共通に含まれる6 アミノ酸LFGRAPがエピトープとして同定された。矢印で示した他のペプチド(#21、34、35、41、43、44)も内在化する抗体に認識された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のL鎖可変領域であって、CDR1が「KSSQSLLDSDGKTYLN(配列番号1)」、CDR2が「LVSKLDS(配列番号2)」であり、CDR3が「WQGTHFPRT(配列番号3)」である組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域。
【請求項2】
下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる請求項1に記載の組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域、
(a)配列番号4又は5に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号4又は5に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
【請求項3】
モータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のL鎖可変領域であって、CDR1が「RASQEISGYLS(配列番号6)」、CDR2が「AASTLDS(配列番号7)」であり、CDR3が「LQYASYPPT(配列番号8)」である組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域。
【請求項4】
下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる請求項3に記載の組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域、
(a)配列番号9に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号9に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
【請求項5】
モータリン2を特異的に認識し、細胞内在化機能を有さない組換え抗モータリン抗体のL鎖可変領域であって、CDR1が「RSSKSLLYSNGITYLY(配列番号10)」、CDR2が「QMSNLAS(配列番号11)」であり、CDR3が「AQNLELPWT(配列番号12)」である組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域。
【請求項6】
下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる請求項5に記載の組換え抗モータリン抗体L鎖可変領域、
(a)配列番号13に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号13に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
【請求項7】
モータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する組換え抗モータリン抗体のH鎖可変領域であって、CDR1が「SYWMH(配列番号14)」、CDR2が「EIDPSDSYTKYNQKFKG(配列番号15)」又は「EIDPSDSYTDYNQNFKG(配列番号18)」であり、CDR3が「GDY(配列番号16)」である組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域。
【請求項8】
下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる請求項7に記載の組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域、
(a)配列番号17、19又は20に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号17、19又は20に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
【請求項9】
モータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する組換え抗モータリン抗体のH鎖可変領域であって、CDR1が「TNAMN(配列番号21)」、CDR2が「RIRSKSNNYATYYADSVKD(配列番号22)」であり、CDR3が「DGYYSY(配列番号23)」である組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域。
【請求項10】
下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる請求項9に記載の組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域、
(a)配列番号24に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号24に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
【請求項11】
モータリン2を特異的に認識し、細胞内在化機能を有さない組換え抗モータリン抗体のH鎖可変領域であって、CDR1が「SYWMH(配列番号25)」、CDR2が「EINPSNGRTNYNEKFKS(配列番号26)」であり、CDR3が「SRYYGSCYFDY(配列番号27)」である組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域。
【請求項12】
下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる請求項11に記載の組換え抗モータリン抗体H鎖可変領域、
(a)配列番号28に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号28に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
【請求項13】
下記(a)〜(d)のいずれかのアミノ酸配列からなる抗モータリン抗体のL鎖可変領域と、下記(e)〜(h)のいずれかのアミノ酸配列からなる抗モータリン抗体のH鎖可変領域を含む一本鎖抗体であって、モータリン2を特異的に認識する抗モータリン一本鎖抗体。
(a)配列番号4又は5に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号4又は5に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列、
(c)配列番号9に示されるアミノ酸配列、
(d)配列番号9に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列、
(e)配列番号17、19又は20に示されるアミノ酸配列、
(f)配列番号17、19又は20に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
(g)配列番号24に示されるアミノ酸配列、
(h)配列番号24に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
【請求項14】
下記(a)又は(b)のアミノ酸配列からなる抗モータリン抗体のL鎖可変領域と、下記(c)又は(d)のいずれかのアミノ酸配列からなる抗モータリン抗体のH鎖可変領域を含む一本鎖抗体であって、モータリン2を特異的に認識抗モータリン一本鎖抗体。
(a)配列番号13に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号13に示されるアミノ酸配列においてシグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列、
(c)配列番号28に示されるアミノ酸配列、
(d)配列番号28に示されるアミノ酸配列においてシグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列。
【請求項15】
下記(a)〜(d)のいずれかのDNAであって、かつモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のL鎖可変領域をコードするDNA、
(a)配列番号4、5又は9に示されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(b)配列番号4、5又は9に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列をコードするDNA、
(c)配列番号42〜46に示される塩基配列からなるDNA、
(d)配列番号42〜46に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項16】
下記(a)〜(d)のいずれかのDNAであって、かつモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のH鎖可変領域をコードするDNA、
(a)配列番号17,18又は20に示されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(b)配列番号17,18又は20に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列をコードするDNA、
(c)配列番号48〜52に示される塩基配列からなるDNA、
(d)配列番号48〜52に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項17】
下記(a)〜(d)のいずれかのDNAであって、かつモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体のL鎖可変領域をコードするDNA、
(a)配列番号13に示されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(b)配列番号13に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列をコードするDNA、
(c)配列番号47に示される塩基配列からなるDNA、
(d)配列番号47に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項18】
下記(a)〜(d)のいずれかのDNAであって、かつモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体のH鎖可変領域をコードするDNA、
(a)配列番号28に示されるアミノ酸配列をコードするDNA、
(b)配列番号28に示されるアミノ酸配列において、シグナル配列及び/又はフレームワーク配列中に1もしくは数個のアミノ酸が欠失・置換・付加されているアミノ酸配列をコードするDNA、
(c)配列番号53に示される塩基配列からなるDNA、
(d)配列番号53に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項19】
請求項15に記載のモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のL鎖可変領域をコードするDNA、及び請求項16に記載のモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体のH鎖可変領域をコードするDNAを含む、モータリン2を特異的に認識する抗モータリン一本鎖抗体をコードするDNA。
【請求項20】
請求項19に記載の一本鎖抗体をコードするDNAを含む発現ベクター。
【請求項21】
発現ベクターがpET−27b(+)プラスミドベクター、又はPelB配列を組み込んだプラスミドベクターであることを特徴とする、請求項20に記載の発現ベクター。
【請求項22】
請求項17に記載のモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体のL鎖可変領域をコードするDNA、及び請求項18に記載のモータリン2を特異的に認識し、かつ細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体のH鎖可変領域をコードするDNAを含む、モータリン2を特異的に認識する抗モータリン一本鎖抗体をコードするDNA。
【請求項23】
請求項22に記載の一本鎖抗体をコードするDNAを含む発現ベクター。
【請求項24】
発現ベクターがpET−27b(+)プラスミドベクター、又はPelB配列を組み込んだプラスミドベクターであることを特徴とする、請求項23記載の発現ベクター。
【請求項25】
請求項13に記載の抗モータリン一本鎖抗体又は当該一本鎖抗体に治療用化合物を結合した複合体を有効成分として用いることを特徴とする、癌細胞内でのモータリン活性を抑制する抗癌剤。
【請求項26】
請求項14に記載の抗モータリン一本鎖抗体又は当該一本鎖抗体に治療用化合物を結合した複合体を有効成分として用いることを特徴とする、癌細胞表面でのモータリン活性を抑制する抗癌剤。
【請求項27】
請求項19に記載の抗モータリン一本鎖抗体をコードするDNA又は当該DNAに治療用DNAを結合した複合体を有効成分として用いることを特徴とする、癌細胞内でのモータリン活性を抑制する抗癌剤。
【請求項28】
請求項22に記載の抗モータリン一本鎖抗体をコードするDNA又は当該DNAに治療用DNAを結合した複合体を有効成分として用いることを特徴とする、癌細胞表面でのモータリン活性を抑制する抗癌剤。
【請求項29】
請求項13又は14に記載の抗モータリン一本鎖抗体に、蛍光標識化合物を結合したことを特徴とする癌細胞検出又は同定用試薬。
【請求項30】
請求項19又は22に記載の抗モータリン一本鎖抗体をコードするDNAに、レポーター遺伝子を結合したことを特徴とする癌細胞検出又は同定用試薬。
【請求項31】
モータリン2のアミノ酸配列310−410位の1部配列のうち少なくとも連続した8個のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体を特異的に認識するアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項32】
モータリン2のアミノ酸配列の310−410位のアミノ酸配列が、配列番号55又は62に示されるアミノ酸配列である、請求項31に記載のポリペプチド。
【請求項33】
モータリン2のアミノ酸配列の381−410位の1部配列のうち少なくとも連続した8個のアミノ酸配列を含む請求項31又は32に記載のポリペプチド。
【請求項34】
モータリン2のアミノ酸配列の381−410位のアミノ酸配列が、配列番号56に示されるアミノ酸配列である、請求項33に記載のポリペプチド。
【請求項35】
モータリン2のアミノ酸配列381−410位の1部配列であって、かつ配列番号66に示されるアミノ酸配列「LFGRAP」を含む請求項33に記載のポリペプチド。
【請求項36】
モータリン2のアミノ酸配列381−410位の1部配列が、アミノ酸配列「PKVQQTVQDLFGRAP(配列番号67)」「KVQQTVQDLFGRAPS(配列番号68)」「VQQTVQDLFGRAPSK(配列番号69)」「QQTVQDLFGRAPSKA(配列番号70)」「QTVQDLFGRAPSKAV(配列番号71)」「TVQDLFGRAPSKAVN(配列番号72)」「VQDLFGRAPSKAVNP(配列番号73)」「QDLFGRAPSKAVNPD(配列番号74)」「DLFGRAPSKAVNPDE(配列番号75)」及び「LFGRAPSKAVNPDEA(配列番号76)」から選択される、請求項35に記載のポリペプチド。
【請求項37】
モータリン2のアミノ酸配列381−410位の1部配列が、アミノ酸配列「KAMQDAEVSKSDIGE(配列番号77)」「GEVILVGGMTRMPKV(配列番号78)」「EVILVGGMTRMPKVQ(配列番号79)」「GMTRMPKVQQTVQDL(配列番号80)」「TRMPKVQQTVQDLFG(配列番号81)」及び「RMPKVQQTVQDLFGR(配列番号82)」から選択される、請求項34に記載のポリペプチド。
【請求項38】
アミノ酸配列「LFGRAP(配列番号66)」からなるポリペプチド。
【請求項39】
被検抗体を含む試料に対して、請求項33〜38のいずれかに記載のポリペプチドを作用させることを特徴とする、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体又はその機能的断片のスクリーニング方法。
【請求項40】
請求項31〜38のいずれかに記載のポリペプチドを免疫原として作成したことを特徴とする、アミノ酸配列「LFGRAP(配列番号66)」をエピトープとして認識する細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体又はその機能的断片。
【請求項41】
請求項31〜38のいずれかに記載のポリペプチドをコードする核酸分子であって、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体を特異的に認識するエピトープをコードする核酸分子。
【請求項42】
モータリン2のアミノ酸配列310−410位のうち少なくとも連続した15個のアミノ酸配列を含み、かつアミノ酸配列「LFGRAP(配列番号66)」を含む、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体を特異的に認識するポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項43】
請求項41又は42に記載の核酸分子を用いて細胞表面に細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体が認識するエピトープを発現させ、当該エピトープ発現細胞に対して被検抗体を含む試料を作用させることを特徴とする、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体又はその機能的断片のスクリーニング方法。
【請求項44】
請求項41又は42に記載の核酸分子を含む発現ベクターであって、かつ癌細胞表面に細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体が認識するエピトープを発現可能な発現ベクターを有効成分とする、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体もしくはその機能的断片又は当該抗モータリン抗体もしくはその機能的断片に結合された薬剤もしくは標識化合物の癌細胞内への内在化促進剤。
【請求項45】
請求項41又は42に記載の核酸分子を含む発現ベクターであって、かつ癌細胞表面に細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体が認識するエピトープを発現可能な発現ベクターを用いることを特徴とする、細胞内在化機能を有する抗モータリン抗体又はその機能的断片に結合された薬剤又は標識化合物の癌細胞内へのデリバリー方法。
【請求項46】
モータリン2のアミノ酸配列410−435位の1部配列のうち少なくとも連続した8個のアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、細胞内在化機能を有さない抗モータリン抗体を特異的に認識するエピトープを含むポリペプチド。
【請求項47】
モータリン2のアミノ酸配列410−435位のアミノ酸配列が、配列番号30に示されるアミノ酸配列である、請求項46に記載のポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−136275(P2009−136275A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36343(P2008−36343)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年8月20日 国立大学法人 東京大学主催の「博士学位論文本審査会」に文書をもって発表
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】