説明

抗原、両親媒性化合物及び疎水性担体を含有する組成物、並びにその使用

本発明は、抗原、両親媒性化合物及び疎水性担体を含有する組成物であって、抗原が水の実質的な不在下で前記疎水性担体に懸濁している組成物、及び対象において抗体又は細胞媒介性応答を誘導するためにこれらの組成物を使用する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年10月3日出願の米国特許仮出願第60/977,197号の利益及び優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、抗原、両親媒性化合物及び疎水性担体を含有する組成物に関する。本発明の組成物は、インビボで免疫応答の増強を提供することが認められた。
【背景技術】
【0003】
ワクチン接種は、一般に抗原性物質又は抗原を動物に注射することを含む。抗原性物質は動物において免疫応答を生じさせる。抗原は、例えば死滅生物、例えば死菌又は不活性化ウイルス、抗原性を有する生物の成分、毒性(virulence)が弱い生菌又はウイルスであり得る。
【0004】
免疫応答を刺激するうえでの抗原の有効性は、アジュバントと共に投与することによって増強され得る。アジュバントは、(1)緩徐な放出を生じさせるために体内で抗原を捕捉すること、(2)免疫系の細胞を注射部位に誘引すること、(3)免疫系の細胞を刺激して増殖させ、活性化させること、及び(4)受容者の体内で抗原分散を改善することを含む、種々の機構によって機能し得る。一般に使用されるアジュバントは、アルミニウム塩、油中水型及び水中油型エマルション、無機塩並びに刺激性危険シグナル(stimulatory danger signal)として働くことができる他の化合物を含む。ポリカチオン、例えばジエチルアミノエチルデキストラン(DEAEデキストラン)も、一部の場合にアジュバントとして有効であり得る。アジュバントは、添加物としてワクチンに含まれ得るか又は別途に投与され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多くのワクチン組成物は油中水型又は水中油型エマルションである。油中水型組成物は、特に、そのような組成物が注射部位に長く存在し、免疫の部位で抗原の緩徐な放出を生じさせるので、有効である。しかし、油中水型エマルションは、一旦インビボで注射されると不安定になることがあり、組成物の水相と油相との分離を引き起こし得る。これは、抗原及び他の成分の早期放出又は加速放出を導く。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、本発明は、抗原、両親媒性化合物、及び疎水性担体を含有する、実質的に水を含まない(substantially free of water)組成物を提供する。
【0007】
もう1つの態様では、本発明は、(a)抗原と両親媒性化合物(amphipathic compound)とを組み合わせて乾燥混合物を形成すること、及び(b)前記混合物を疎水性担体に懸濁することを含む、実質的に水を含有しない前述した組成物を作製するための工程を提供する。
【0008】
もう1つの態様では、本発明は、前述した組成物を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0009】
もう1つの態様では、本発明は、前述した組成物をその必要のある対象に投与することを含む、対象において抗体応答又は細胞媒介性免疫応答を誘導するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、C3細胞を移植し、本発明に従って腫瘍移植後8日目にリン酸緩衝食塩水で処置したマウスにおける42日間の腫瘍増殖を示す。C3細胞を移植した対照マウス(第1群、n=10)は、42日間にわたって通常の腫瘍増殖を示した。この群のすべてのマウスを腫瘍移植後(PTI)8日目にリン酸緩衝食塩水で処置した。
【図2】図2は、C3細胞を移植し、8日目に油中水型エマルション中のFP抗原からなる対照製剤で処置したマウスにおける42日間の腫瘍増殖を示す。対照マウス(第2群、n=8)にC3細胞を移植し、8日目に油中水型エマルション中のFP抗原からなる対照製剤で処置した。腫瘍を週に1回、合計42日間観測した。
【図3】図3は、C3細胞を移植し、8日目にFP抗原、DOPC担体及び疎水性担体(不完全フロイントアジュバント)からなる無水組成物(water-free composition)で処置したマウスにおける42日間の腫瘍増殖を示す。マウス(第3群、n=8)にC3細胞を移植し、8日目にFP抗原、DOPC担体及び疎水性担体(不完全フロイントアジュバント)からなる無水組成物で処置した。腫瘍を週に1回、合計42日間観測した。
【図4】図4は、C3細胞を移植し、8日目に油中水型エマルション(不完全フロイントアジュバント)中のFP抗原及びPam3Cysアジュバントからなる対照製剤で処置したマウスにおける腫瘍増殖を示す。対照マウス(第4群、n=8)にC3細胞を移植し、8日目に油中水型エマルション(不完全フロイントアジュバント)中のFP抗原及びPam3Cysアジュバントからなる対照製剤で処置した。腫瘍を週に1回、合計42日間観測した。
【図5】図5は、C3細胞を移植し、8日目にFP抗原、Pam3Cysアジュバント、DOPC担体及び疎水性担体(不完全フロイントアジュバント)からなる無水組成物で処置したマウスにおける42日間の腫瘍増殖を示す。マウス(第5群、n=7)にC3細胞を移植し、8日目にFP抗原、Pam3Cysアジュバント、DOPC担体及び疎水性担体(不完全フロイントアジュバント)からなる無水組成物で処置した。腫瘍を週に1回、合計42日間観測した。
【図6】図6は、以下のようにワクチン接種した3つの群のマウス(n=4)における細胞性免疫応答を示す:第1群のマウスは典型的な油中水型エマルション(不完全フロイントアジュバント)中のFPでワクチン接種し、第2群のマウスはFP、DOPC及び不完全フロイントアジュバントからなる無水製剤でワクチン接種し、そして第3群のマウスはFP及び不完全フロイントアジュバントからなる対照無水製剤でワクチン接種した。細胞性免疫応答をELISPOTアッセイによって測定し、スポット形成単位の平均値として提示する。
【図7】図7は、疎水性担体(バイアルISA51)、本発明に従って製剤したポリIC(バイアル21)、及び両親媒性化合物、DOPC不在で疎水性担体に懸濁したポリIC(バイアル26)を含むバイアル(正面図)を示す。不溶性ポリICの鎖の不均一な懸濁がバイアル26において容易に認められる。
【図8】図8は、疎水性担体(バイアルISA51)、本発明に従って製剤したペプチド抗原(バイアル30)、及び両親媒性化合物、DOPC不在で疎水性担体に懸濁したペプチド抗原(バイアル35)を含むバイアル(底面図)を示す。疎水性担体に再懸濁することができなかった抗原凝集体がバイアル35において容易に認められる(円で囲んでいる)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、抗原、両親媒性化合物及び疎水性担体を含有する、基本的にそれらからなる、又はそれらからなる、実質的に水を含まない組成物を提供する。
【0012】
抗原
本発明の組成物は、1又はそれ以上の抗原を含有する。本明細書で使用される、「抗原」という用語は、抗体又はT細胞受容体に特異的に結合することができる物質を指す。
【0013】
本発明の組成物において有用な抗原は、限定されることなく、ポリペプチド、微生物又はその部分、例えば生菌、弱毒化細菌、不活性化細菌若しくは死滅細菌、ウイルス又は原生動物、又はその部分を含む。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される、「抗原」という用語はまた、抗原として機能するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを包含する。ポリヌクレオチドを含有するワクチン組成物を対象に投与する、核酸に基づくワクチン接種方法は公知である。ポリヌクレオチドによってコードされる抗原性ポリペプチドは、ワクチン組成物自体がポリペプチドを含んでいたかのごとくに、抗原性ポリペプチドが最終的に対象内に存在するように、対象において発現される。本発明に関して、「抗原」という用語は、文脈によって指示される場合、抗原として機能するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを包含する。
【0015】
本発明における抗原として有用であり得るポリペプチド又はそのフラグメントは、限定されることなく、コレラトキソイド、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、B型肝炎表面抗原、赤血球凝集素、ノイラミニダーゼ、インフルエンザMタンパク質、PfHRP2、pLDH、アルドラーゼ、MSP1、MSP2、AMA1、Der−p−1、Der−f−1、アジポフィリン、AFP、AIM−2、ART−4、BAGE、α−フェトプロテイン、BCL−2、Bcr−Abl、BING−4、CEA、CPSF、CT、サイクリンD1Ep−CAM、EphA2、EphA3、ELF−2、FGF−5、G250、性腺刺激ホルモン放出ホルモン、HER−2、腸カルボキシルエステラーゼ(iCE)、IL13Rα2、MAGE−1、MAGE−2、MAGE−3、MART−1、MART−2、M−CSF、MDM−2、MMP−2、MUC−1、NY−EOS−1、MUM−1、MUM−2、MUM−3、p53、PBF、PRAME、PSA、PSMA、RAGE−1、RNF43、RU1、RU2AS、SART−1、SART−2、SART−3、SAGE−1、SCRN 1、SOX2、SOX10、STEAP1、サバイビング(surviving)、テロメラーゼ、TGFβRII、TRAG−3、TRP−1、TRP−2、TERT及びWT1に由来するものを含む。
【0016】
本発明における抗原として有用なウイルス又はその部分は、限定されることなく、牛痘ウイルス、ワクシニアウイルス、偽牛痘ウイルス、ヒトヘルペスウイルス1型、ヒトヘルペスウイルス2型、サイトメガロウイルス、ヒトアデノウイルスA〜F群、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、パルボウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、オルトレオウイルス、ロタウイルス、エボラウイルス、パラインフルエンザウイルス、インフルエンザウイルスA型、インフルエンザウイルスB型、インフルエンザウイルスC型、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、風疹ウイルス、肺炎ウイルス、ヒトRSウイルス、狂犬病ウイルス、カリフォルニア脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ハンタンウイルス、リンパ球脈絡髄膜炎ウイルス、コロナウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、ポリオウイルス、ノロウイルス、フラビウイルス、デング熱ウイルス、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス及び水痘ウイルスを含む。
【0017】
本発明における抗原として有用な細菌又はその部分は、限定されることなく、炭疽菌(Anthrax)、ブルセラ属菌(Brucella)、カンジダ属菌(Candida)、クラミジア肺炎病原体(Chlamydia pneumoniae)、オウム病クラミジア(Chlamydia psittaci)、コレラ菌(Cholera)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)、クリプトコックス属菌(Cryptococcus)、ジフテリア菌(Diphtheria)、大腸菌O157:H7菌(Escherichia coli O157:H7)、腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli)、毒素原性大腸菌(Enterotoxigenic Escherichia coli)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、レジオネラ属菌(Legionella)、レプトスピラ属菌(Leptospira)、リステリア属菌(Listeria)、髄膜炎菌(Meningococcus)、肺炎マイコプラスマ(Mycoplasma pneumoniae)、ミコバクテリウム属菌(Mycobacterium)、百日咳菌(Pertussis)、肺炎菌(Pneumonia)、サルモネラ属菌(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、ブドウ球菌(Staphylococcus)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)及びエルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)を含む。
【0018】
或いは、抗原は原生動物起源、例えばマラリアを引き起こす熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)であり得る。
【0019】
本明細書で使用される、「ポリペプチド」又は「タンパク質」という用語は、長さ(例えば4、6、8、10、20、50、100、200、500又はそれ以上のアミノ酸)又は翻訳後修飾(例えばグリコシル化又はリン酸化)にかかわらず、アミノ酸の任意の鎖を意味する。2つの用語は交換可能に使用される。「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、ポリペプチド又はタンパク質の性質又は機能を模倣するが、分子の性質、例えば分子の安定性又は生物活性を変化させる修飾を組み込んだ分子(例えばペプチドミメティック)を包含することが意図されている。これらの修飾は、例えば、変化した骨格(例えば非ペプチド結合の含有)及び非天然に生じるアミノ酸の組込みを含む。
【0020】
本明細書で使用される、「ポリヌクレオチド」という用語は、任意の長さ(例えば9、12、18、24、30、60、150、300、600、1500又はそれ以上のヌクレオチド)又は任意の鎖数(例えば一本鎖若しくは二本鎖)のヌクレオチドの鎖を包含する。ポリヌクレオチドは、DNA(例えばゲノムDNA若しくはcDNA)又はRNA(例えばmRNA)又はそれらの組合せであり得る。それらは、天然に生じ得るか又は合成(例えば化学合成)であり得る。ポリヌクレオチドは、ヌクレオチド鎖内に1又はそれ以上の窒素含有塩基、五炭糖類又はリン酸基の修飾を含み得ることが考慮される。そのような修飾は当分野において周知であり、例えばポリヌクレオチドの安定性を改善するためであり得る。
【0021】
抗原の濃度は、免疫応答を有効に刺激するために必要とされる高さであり得、抗原の量に対する制限は、抗原が組成物から沈殿するべきではないこと、及び抗原が疎水性担体に再懸濁可能でなければならないことである。さらに、抗原の濃度は、抗原のタイプ及び組成物中の他の成分に依存して異なる。当業者は、特定適用において必要とされる抗原の量を容易に決定することができる。例えば、ペプチド抗原については約0.01〜約5mg/mlが使用され得(組成物の総容量に基づく)、好ましい範囲は0.1mg/ml以上及び1.0mg/ml以下である。他の抗原、例えば組換えタンパク質に関しては、濃度は約0.01〜約0.5mg/mlの範囲内であり得、好ましい範囲は0.01mg/ml以上及び0.5mg/ml以下である。
【0022】
両親媒性化合物
本発明の組成物は、1又はそれ以上の両親媒性化合物を含有する。「両親媒性化合物」は、親水性部分と疎水性部分との両方又は親水性と疎水性との両方の性質を有する化合物である。両親媒性化合物の疎水性部分は、典型的には大きな炭化水素部分、例えばCH(CH[式中、n>4]の形態の長鎖である。両親媒性化合物の親水性部分は、通常は荷電基又は極性非荷電基のいずれかである。荷電基は、アニオン性基及びカチオン性基を含む。アニオン性荷電基の例は以下を含む(分子の疎水性部分を「R」で表す):カルボキシレート:RCO;スルフェート:RSO;スルホネート:RSO;及びホスフェート(リン脂質中の荷電官能基)。カチオン性荷電基は、例えばアミン:RNH(「R」は、やはり分子の疎水性部分を表す)を含む。非荷電極性基は、例えば大きなR基を有するアルコール、例えばジアシルグリセロール(DAG)を含む。両親媒性化合物は、いくつかの疎水性部分、いくつかの親水性部分、又は複数の両者を有し得る。タンパク質及び一部のブロックコポリマーがその例である。ステロイド類、コレステロール、脂肪酸、胆汁酸及びサポニンも、本発明の実施において有用な両親媒性化合物である。
【0023】
本発明の組成物は、単一の両親媒性化合物又は両親媒性化合物の混合物を含有し得る。一部の実施形態では、両親媒性化合物は、リン脂質又はリン脂質の混合物である。
【0024】
広く定義すると、「リン脂質」は、加水分解したときリン酸、アルコール、脂肪酸及び窒素含有塩基を生じる脂質化合物の群の成員である。本発明の実施において使用し得るリン脂質は、2つの脂肪アシル側鎖がグリセロール分子の3つのヒドロキシル基の2つにエステル結合されているリン脂質である、ホスホグリセリド類を含む。グリセロール分子の3番目のヒドロキシル基はホスフェートでエステル結合されている。ホスフェート基はまた、通常、親水性化合物上のヒドロキシル基、例えばエタノールアミン、セリン、コリン又はグリセロールにエステル結合される。ホスホグリセリド類であるリン脂質は、例えばホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン(「DOPC」)、ホスファチジルイノシトール及びジホスファチジルグリセロールを含む。もう1つの一般的なリン脂質はスフィンゴミエリンである。スフィンゴミエリンは、長い不飽和炭化水素鎖を有するアミノアルコール、スフィンゴシンを含有する。脂肪アシル側鎖はアミド結合によってスフィンゴシンのアミノ基に連結され、セラミドを形成する。スフィンゴシンのヒドロキシル基はホスホコリンにエステル結合される。ホスホグリセリド類と同様に、スフィンゴミエリンは両親媒性である。これらや他のリン脂質のすべてを本発明の実施において使用し得る。一部の実施形態では、4〜24の炭素鎖長を有するリン脂質を使用する。同じく使用できるレシチンは、典型的には鶏卵又は羊毛に由来するリン脂質の天然混合物である。リン脂質は、Avanti lipids(Alabastar社、米国アラバマ州(AL,USA))及びlipoid LLC(Newark社、米国ニュージャージ州(NJ,USA))から購入することができる。
【0025】
乳化剤
本発明の組成物は、1又はそれ以上の乳化剤を含み得る。乳化剤は、純粋な乳化剤又は乳化剤の混合物であり得る。本発明の乳化剤は医薬的及び/又は免疫学的に許容される。乳化剤は一般に、両親媒性化合物と抗原との混合物又は両親媒性化合物、抗原及びアジュバントの混合物を疎水性担体に再懸濁するとき、混合物を安定化するのを助ける。
【0026】
乳化剤は両親媒性であり得、それ故、乳化剤は広い範囲の化合物を包含し得る。一部の実施形態では、乳化剤は界面活性剤、例えば非イオン性界面活性剤であり得る。
【0027】
使用し得る乳化剤の例は、ポリエチレングリコリエート化ソルビタール(polyethylene glycolyated sorbital)から誘導される油性液体であるポリソルベート、及びソルビタンエステルを含む。ポリソルベートは、例えばモノオレイン酸ソルビタンを含み得る。典型的な乳化剤は、オレイン酸マンニド(Arlacel(商標)A)、レシチン、Tween(商標)80、並びにSpans(商標)20、80、83及び85を含む。乳化剤は、一般に疎水性担体と予備混合される。
【0028】
一部の実施形態では、乳化剤を既に含む疎水性担体を使用し得る。例えば、疎水性担体、Montanide(商標)ISA−51は、乳化剤であるオレイン酸マンニドを既に含む。他の実施形態では、疎水性担体を、両親媒性化合物及び抗原と組み合わせる前に乳化剤と混合し得る。
【0029】
疎水性担体
疎水性担体は、基本的に純粋な疎水性物質又は疎水性物質の混合物であり得る。
【0030】
本明細書で述べる組成物において有用な疎水性物質は、医薬的及び/又は免疫学的に許容されるものである。担体は、好ましくは液体であるが、大気温度で液体ではないある種の疎水性物質は、例えば加温することによって液化され得、同じく本発明において有用である。
【0031】
油又は油の混合物は、本発明における使用のために特に適切な担体である。油は医薬的及び/又は免疫学的に許容されるべきである。油は代謝可能若しくは非代謝可能であってもよく、又は代謝可能油と非代謝可能油との混合物を使用し得る。
【0032】
油の好ましい例は、鉱油(特に軽鉱油又は低粘度鉱油)、植物油(例えばダイズ油)、堅果油(例えば落花生油)である。低粘度鉱油、例えばDrakeol(登録商標)6VRを一部の実施形態において使用し得る。1つの実施形態では、油は、Montanide(登録商標)ISA 51として市販されている、鉱油溶液中のオレイン酸マンニドである。他の油は、例えば、Montanide ISA 700シリーズ(Seppic社、仏国(France))又はMAS−1(Mercia Pharmaceuticals社)を含み得る。純粋な疎水性担体が存在する実施形態では、疎水性担体を、本発明の組成物中で使用する前に乳化剤と混合し得る。
【0033】
動物性油及び人工疎水性ポリマー材料、特に大気温度で液体であるか又は比較的容易に液化され得るものも使用し得る。
【0034】
液体フルオロカーボンは、同じく本発明の実施において使用し得る、医学的に適用される疎水性担体である。
【0035】
他の成分
組成物は、当分野で公知のように、1又はそれ以上の付加的な成分、例えば医薬的に許容されるアジュバント、賦形剤等をさらに含有し得る:例えばRemington's Pharmaceutical Sciences (Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 1985)及び1999年に公表された米国薬局方:国民医薬品集(The United States Pharmacopoeia: The National Formulary)(USP 24 NF19)参照。
【0036】
「アジュバント」という用語は、抗原に対する免疫応答を増強する化合物又は混合物を指す。アジュバントは、抗原を緩やかに放出する組織デポー剤として、また免疫応答を非特異的に増強するリンパ系活性化剤としても働くことができる(Hood et al, Immunology, 2d ed., Benjamin/Cummings : Menlo Park, CA., 1984; Wood and Williams, In: Nicholson, Webster and May(eds.), Textbook of Influenza, Chapter 23, pp. 317-323参照)。
【0037】
適切なアジュバントは、ミョウバン、他のアルミニウム化合物、カルメット−ゲラン杆菌(BCG)、TiterMax(登録商標)、Ribi(登録商標)、不完全フロイントアジュバント(IFA)、サポニン、界面活性物質、例えばリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、コリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)、QS−21、フロイント完全アジュバント(FCA)、TLRアゴニストファミリーのアジュバント、例えばCpG、ポリIC(二本鎖RNA)、ファルゲリン(falgellin)、リポペプチド類、ペプチドグリカン類、イミダゾキノリン類、一本鎖RNA、リポ多糖類(LPS)、熱ショックタンパク質(HSP)、並びにセラミド類及び誘導体、例えばαGal−cerを含むが、これらに限定されない。適切なアジュバントはまた、ポリペプチド又はDNAコード形態のサイトカイン又はケモカイン、例えば、限定されることなく、GM−CSF、TNF−α、IFN−γ、IL−2、IL−12、IL−15、IL−21を包含する。
【0038】
前記で論じた疎水性担体は、一部の場合、アジュバントとして機能し得る。
【0039】
使用されるアジュバントの量は、抗原の量及びアジュバントのタイプに依存する。当業者は、特定適用において必要とされるアジュバントの量を容易に決定することができる。
【0040】
組成物はまた、1又はそれ以上の付加的なポリペプチドを含んでもよく、これは、短い合成ポリペプチド、例えばTヘルパーエピトープであり得る。
【0041】
組成物の調製
抗原と両親媒性化合物とを混合した後、疎水性担体に懸濁する。好ましくは、抗原と両親媒性化合物とを、実質的に均一な混合物が形成されるように混ぜ合わせる。これは、抗原及び/又は両親媒性化合物を適切な溶媒に可溶化した後、成分を混ぜ合わせることによって達成され得る。或いは、2つの実体をそれらの乾燥形態で共に混合することができる(例えば粉砕によって)。これに関して、抗原と両親媒性化合物との「実質的に均一な混合物」は、両親媒性化合物が抗原成分中に実質的に均一に分散している混合物である。
【0042】
両親媒性化合物又は両親媒性化合物の混合物は、抗原が疎水性担体に再懸濁し得るのに十分な量で本発明の組成物中に存在する。本発明の組成物中の両親媒性化合物の量は、例えば、組成物1mlにつき両親媒性化合物約0.1mg〜約250mg、より好ましくは組成物1mlにつき両親媒性化合物約0.1mg〜約120mgであり得る。
【0043】
抗原及び/又は両親媒性化合物を可溶化する場合、当業者は、特定両親媒性化合物又は抗原を可溶化するための適切な溶媒又は溶媒系(一般に有機溶媒)を容易に同定することができる。リン脂質である両親媒性化合物の場合は、極性プロトン性溶媒、例えばアルコール(例えばtert−ブタノール、n−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール又はメタノール)、水、酢酸若しくはギ酸、又はクロロホルムを使用し得る。抗原、例えばポリペプチドは、極性非プロトン性溶媒、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はテトラヒドロフラン(THF)で可溶化し得る。他の溶媒、例えば非極性溶媒(例えばヘキサン)、並びに液体COも使用し得る。
【0044】
一部の場合、両親媒性化合物と対象抗原との両方を可溶化するために同じ溶媒を使用することができる。
【0045】
次に、可溶化した抗原と可溶化した両親媒性化合物とを混合する。或いは、可溶化の前に抗原と両親媒性化合物とを混合し、その後一緒に可溶化してもよい。さらなる選択的実施形態では、両親媒性化合物又は抗原の一方だけを可溶化し、可溶化していない成分を添加する。
【0046】
次に溶媒を除去するが、これは標準的な手法を用いて実施し得る。容易に蒸発する溶媒、例えばエタノール、メタノール又はクロロホルムを使用する場合は、標準的な蒸発手法、例えば回転蒸発、減圧下での蒸発又は凍結乾燥を使用し得る。溶媒、例えば水は、例えば凍結乾燥(lyophilization, freeze drying)又は噴霧乾燥によって除去し得る。成分の完全性を損なわない低温加熱乾燥も使用できる。加熱はまた、抗原/両親媒性化合物の混合物を、その使用の前に再懸濁するのを助けるためにも使用できる。
【0047】
好ましくは、可溶化した抗原と可溶化した両親媒性化合物とを十分に混合し、その後前述したように乾燥する。好ましくは、乾燥混合物は、両親媒性化合物が抗原成分中に実質的に均一に分散している、抗原と両親媒性化合物との実質的に均一な混合物である。その代わりに、抗原と両親媒性化合物との実質的に均一な混合物を溶媒不含工程、例えば乾式粉砕によって形成する場合は、言うまでもなく乾燥段階は必要ない。
【0048】
抗原と両親媒性化合物との乾燥混合物を、次に、疎水性担体に再懸濁して最終組成物を提供する。一部の実施形態では、疎水性担体は、前記で詳述したように乳化剤を含んでもよく、乳化剤は、抗原と両親媒性化合物との乾燥混合物を疎水性担体に再懸濁し、抗原と両親媒性化合物とを疎水性担体中に懸濁した状態に維持するのに十分な量で提供される。例えば、乳化剤は疎水性担体の約5%〜約15%重量/重量又は重量/容量で存在し得る。
【0049】
前述した付加的な成分、例えばアジュバント又は他の医薬的に許容される補助剤は、製剤工程のいずれの段階で添加してもよい。例えば、1又はそれ以上のそのような付加的な成分は、可溶化の前若しくは可溶化後に抗原若しくは両親媒性化合物と組み合わせ得るか、又は可溶化した混合物に添加し得る。付加的な成分、例えばアジュバントは、その代わりに、抗原と両親媒性化合物との乾燥混合物に添加し得る若しくは乾燥混合物と組み合わせ得るか、又は抗原と両親媒性化合物との乾燥混合物を疎水性担体に懸濁する前若しくは懸濁後に疎水性担体と組み合わせ得る。同様に、乾式混合手法を使用する場合、任意の付加的な成分を粉砕の前又は粉砕後のいずれかに添加し得る。
【0050】
意外にも、実質的な量の水の不在下で、前述したように抗原を疎水性担体に懸濁した場合、強力な免疫応答が得られる。本明細書で述べる組成物に製剤しない限り、抗原を疎水性担体中に入れることができるとは予想されない。実際に、完全に無水の組成物を得ることは難しいと考えられる。すなわち、すべての又は実質的にすべての水が、例えば蒸発、凍結乾燥又は何らかの他の適切な乾燥手法によって製剤工程の適切な段階で除去されるが、少量の水が残存し得る。例えば、組成物の個々の成分は、凍結乾燥又は蒸発のような工程によって完全には除去できない結合水を有することがあり、またある種の疎水性担体は、その中に溶解した少量の水を含み得る。水が、例えば組成物中のエマルションの形態で存在する場合、多少の量の抗原が水に分配し得ることが予想される。従って、組成物中の水の存在は疎水性担体に懸濁する抗原の量を減少させ、それ故、水は最終組成物中では望ましくない。
【0051】
最終組成物は実質的に無水(水を含まない、substantially free of water)である。「実質的に無水」とは、組成物中の抗原の総量に対して水に懸濁している(例えば溶解している)抗原の割合(重量/重量)が、水に懸濁している抗原の量だけでは全体としての組成物によって提供されるものに等しい免疫応答を開始させることができない程度に十分に低いことを意味する。これに対し、疎水性担体に懸濁している抗原の量は、その量(すなわち総量から残存水成分中に存在する抗原量を差し引いた量)で等しい免疫応答を生じさせることができるほど十分に高い。組成物の効果(すなわち所望の生物学的応答を生じさせるその能力)は、それ故、主として疎水性担体に懸濁している抗原に帰せられるはずである。これに関して、組成物の効果は、残存水成分中に抗原が全く存在しない同じ組成物によって誘導される効果の少なくとも80%、85%、90%又は95%の大きさである。
【0052】
「実質的に無水」である本発明の組成物は、一般に重量/重量ベースで約10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%又は0.01%未満の水を含む。残存水成分中に懸濁している抗原の量は、組成物中の抗原の総量の20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ以下(重量ベース)であると予想される。
【0053】
典型的には、本発明の組成物は、肉眼で確認できる油中水型エマルションが形成されない程度に十分に無水である。例えば、望ましくない油中水型エマルションの存在は、組成物に対する非透明な、混濁した又は不透明な外観によって検出され得る。これに対し、本発明の組成物は、典型的には澄んだ又は透明な外観を有し、目に見える微粒子物、例えば疎水性担体に懸濁していない沈殿又は凝集した抗原を含まない。
【0054】
本明細書で述べる組成物は、対象への抗原の送達に適する任意の形態、例えば、非限定的な例として、経口、経鼻、経直腸又は非経口投与に適する形態で製剤され得る。非経口投与は、限定されることなく、静脈内、腹腔内、皮内、皮下、筋肉内、経上皮、肺内、髄腔内、及び局所投与方法を含む。
【0055】
キット及び試薬
本発明は、場合によりキットとして使用者に提供される。例えば、本発明のキットは、本発明の組成物の1又はそれ以上を含む。キットは、1又はそれ以上の付加的な試薬、包装材料、キットの成分を保持するための容器、及び所望の目的のためにキットの成分を使用する好ましい方法を詳述する取扱説明書のセット又は使用者マニュアルをさらに含み得る。
【0056】
1つの実施形態では、抗原と両親媒性化合物との乾燥混合物が第1容器中に包装され、疎水性担体が第2容器中に包装されている、本発明の組成物が提供され得る。抗原と両親媒性化合物との乾燥混合物は、その後、対象への投与の直前に疎水性担体に懸濁され得る。
【0057】
用途
本発明は、対象に抗原を投与することが望ましいいかなる場合にも適用される。対象は、脊椎動物、例えば魚、鳥類又は哺乳動物、好ましくはヒトであり得る。
【0058】
一部の実施形態では、本発明の組成物は、抗原に対する抗体応答を惹起するために対象に投与され得る。
【0059】
「抗体」は、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子のフラグメントによって実質的に又は部分的にコードされる1又はそれ以上のポリペプチドを含むタンパク質である。広く認められている免疫グロブリン遺伝子は、κ、λ、α、γ、δ、ε及びμ定常領域遺伝子、並びに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖はκ又はλのいずれかとして分類される。重鎖はγ、μ、α、δ又はεとして分類され、それらが次に、免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEをそれぞれ規定する。典型的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、4つのポリペプチドを含有するタンパク質を含む。各々の抗体構造単位は、各々が1本の「軽」鎖と1本の「重」鎖とを有する、ポリペプチド鎖の2つの同一の対からなる。各々の鎖のN末端は、主として抗原認識に関与する可変領域を規定する。抗体構造単位(例えばIgA及びIgMクラスの)はまた、互いと共に及び付加的なポリペプチド鎖と共にオリゴマー形態とに、例えばJ鎖ポリペプチドと共にIgM五量体として、集合し得る。
【0060】
抗体は、Bリンパ球(B細胞)と呼ばれる白血球のサブセットの抗原特異的糖タンパク質生成物である。B細胞の表面で発現される抗体と抗原とのかみ合い(engagement)は、B細胞を活性化し、有糸分裂を受けさせ、最終的に、抗原特異的抗体の合成と分泌とに特化した形質細胞へと分化させる、B細胞の刺激を含む抗体応答を誘導することができる。
【0061】
本明細書で使用される、「抗体応答」という用語は、対象の体内への抗原の導入に応答した、対象の体内での抗原特異的抗体の量の増加を指す。
【0062】
抗体応答を評価する1つの方法は、特定抗原と反応性の抗体の力価を測定することである。これは、当分野で公知の様々な方法、例えば動物から得た抗体含有物質の固相酵素免疫検定法(ELISA)を用いて実施し得る。例えば、特定抗原に結合する血清抗体の力価を抗原への暴露前と暴露後に対象において測定し得る。抗原への暴露後の抗原特異的抗体の力価の統計的に有意の上昇は、対象が抗原に対する抗体応答を開始していたことを指示する。
【0063】
一部の実施形態では、本発明の組成物は、抗原に対する細胞媒介性免疫応答(cell-mediated immune response)を惹起するために対象に投与し得る。本明細書で使用される、「細胞媒介性免疫応答」という用語は、対象の体内への抗原の導入に応答した、対象の体内での抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞又はサイトカインの量の増加を指す。
【0064】
歴史的に、免疫系は、免疫の防御機能が体液(抗体を含有する無細胞体液又は血清)中で認められる、体液性免疫及び免疫の防御機能が細胞に関連する、細胞性免疫という2つの分類に分けられている。細胞媒介性免疫は、「非自己」抗原に応答した、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞(NK)、抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球の活性化、及び様々なサイトカインの放出を含む免疫応答である。細胞性免疫は適応性免疫応答の重要な成分であり、抗原提示細胞、例えば樹状細胞、Bリンパ球及び、より小さな程度で、マクロファージとの相互作用を介した細胞による抗原の認識後、様々な機構によって、例えば
1.その表面上に外来抗原のエピトープを提示する体細胞、例えばウイルス感染細胞、細胞内細菌を備える細胞、及び腫瘍抗原を提示する癌細胞においてアポトーシスを誘導することができる抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球を活性化する;
2.マクロファージ及びナチュラルキラー細胞を活性化して、それらが細胞内病原体を破壊することを可能にする;並びに
3.適応性免疫応答及び先天性免疫応答に関与する他の細胞の機能に影響を及ぼす様々なサイトカインを分泌するように細胞を刺激する
ことによって身体を保護する。
【0065】
細胞媒介性免疫はウイルス感染細胞を除去するうえで最も有効であるが、同時に真菌、原生動物、癌及び細胞内細菌に対して防御することにも関与する。また、移植拒絶反応においても重要な役割を果たす。
【0066】
ワクチン接種後の細胞媒介性免疫応答の検出
細胞媒介性免疫は様々な細胞型の関与を含み、種々の機構によって媒介されるので、ワクチン接種後の免疫の誘導を明らかにするためにいくつかの方法が使用できる。これらは、以下の検出に大きく分類することができる:
i)特異的抗原提示細胞;ii)特異的エフェクター細胞及びそれらの機能;並びにiii)可溶性メディエイター、例えばサイトカインの放出。
【0067】
i)抗原提示細胞:樹状細胞及びB細胞(及びより小さな程度でマクロファージ)は、T細胞の活性化増強を可能にする特殊な免疫刺激受容体を備え、専門的抗原提示細胞(APC)と称される。これらの免疫刺激分子(共刺激分子とも呼ばれる)は、感染又はワクチン接種後、エフェクター細胞、例えばCD4及びCD8細胞傷害性T細胞への抗原提示プロセスの間、これらの細胞上で上方調節される。そのような共刺激分子(例えばCD80、CD86、MHCクラスI又はMHCクラスII)は、これらの分子に対する蛍光色素結合抗体を、APCを特異的に同定する抗体(例えば樹状細胞に対するCD11c)と共に用いるフローサイトメトリーを使用することによって検出できる。
【0068】
ii)細胞傷害性T細胞:細胞傷害性T細胞(Tc、キラーT細胞又は細胞傷害性Tリンパ球(CTL)としても公知である)は、ウイルス(及び他の病原体)に感染した細胞又は腫瘍抗原を発現する細胞の死を誘導するT細胞のサブグループである。これらのCTLは、特定の外来分子又は異常分子をその表面上に担持する他の細胞を直接攻撃する。そのような細胞傷害の能力は、インビトロ細胞溶解アッセイ(クロム放出アッセイ)を用いて検出できる。従って、適応性細胞性免疫の誘導は、抗原負荷した標的細胞が、ワクチン接種後又は感染後にインビボで産生される特異的CTLによって溶解される場合、そのような細胞傷害性T細胞の存在によって明らかにすることができる。
【0069】
ナイーブ細胞傷害性T細胞は、そのT細胞受容体(TCR)がペプチド結合MHCクラスI分子と強く相互作用するときに活性化される。この親和性は抗原/MHC複合体のタイプと配向とに依存し、この親和性がCTLと感染細胞とを結合状態に保持する。一旦活性化されると、CTLはクローン性増殖と呼ばれるプロセスを受け、このプロセスにおいてCTLは機能性を獲得し、速やかに分裂して「武装化(armed)」エフェクター細胞の大群を産生する。活性化CTLは、次に、その固有のMHCクラスI+ペプチドを担持する細胞を探し求めて身体全体を移動する。これは、フローサイトメトリーアッセイにおいてペプチド−MHCクラスI四量体を使用することによってそのようなCTLをインビトロで同定するために使用できる。
【0070】
これらの感染又は機能不全体細胞に暴露されたとき、エフェクターCTLはパーフォリン及びグラニュリシンを放出する:これらは、標的細胞の形質膜に孔を形成して、イオンと水が感染細胞内に流れ込むことを可能にし、感染細胞の破裂又は溶解を生じさせる細胞毒である。CTLは、孔を通って細胞に侵入してアポトーシス(細胞死)を誘導するセリンプロテアーゼ、グランザイムを放出する。CTLからのこれらの分子の放出は、ワクチン接種後に細胞性免疫応答が成功裏に誘導されたことの測定として使用できる。これは、CTLを定量的に測定することができる、固相酵素免疫検定法(ELISA)又は酵素結合イムノスポット検定法(ELISPOT)によって実施できる。CTLはまた、重要なサイトカイン、例えばIFN−gを産生することができるので、IFN−g産生CD8細胞の定量的測定が、ELISPOTによって及びこれらの細胞における細胞内IFN−gのフローサイトメトリー測定によって達成できる。
【0071】
CD4+「ヘルパー」T細胞:CD4+リンパ球又はヘルパーT細胞は免疫応答メディエイターであり、適応性免疫応答の能力を確立し、最大化するうえで重要な能力を果たす。これらの細胞は細胞傷害又は食作用活性を有さず、感染細胞を死滅させる又は病原体を除去することはできないが、他の細胞がこれらの作業を実施するのを指令することにより、基本的に免疫応答を「管理する」。2つのタイプのエフェクターCD4+Tヘルパー細胞応答が、各々異なる種類の病原体を排除するように設計された、Th1及びTh2と称される専門的APCによって誘導され得る。
【0072】
ヘルパーT細胞は、クラスII MHC分子に結合した抗原を認識するT細胞受容体(TCR)を発現する。ナイーブヘルパーT細胞の活性化はサイトカインの放出を生じさせ、それを活性化するAPCを含む、多くの細胞型の活性に影響を及ぼす。ヘルパーT細胞は細胞傷害性T細胞よりもはるかに穏やかな活性化刺激を必要とする。ヘルパーT細胞は、細胞傷害性細胞を活性化するのを「助ける」追加(extra)シグナルを提供することができる。2種類のエフェクターCD4+Tヘルパー細胞応答が、各々異なる種類の病原体を排除するように設計された、Th1及びTh2と称される専門的APCによって誘導され得る。Th1又はTh2応答に関連するサイトカインの測定は、ワクチン接種の成功の測定を提供する。これは、Th1サイトカイン、例えばIFN−g、IL−2、IL−12、TNF−a等、又はTh2サイトカイン、例えば、中でも特にIL−4、IL−5、IL10のために設計された特異的ELISAによって実施できる。
【0073】
iii)サイトカインの測定:所属リンパ節から放出されるサイトカインの測定は、免疫成功の良好な指標を提供する。抗原提示並びにAPC及び免疫エフェクター細胞、例えばCD4及びCD8 T細胞の成熟の結果として、いくつかのサイトカインがリンパ節細胞によって放出される。これらのLNCを抗原の存在下にインビトロで培養することにより、特定の重要なサイトカイン、例えばIFN−γ、IL−2、IL−12、TNF−α及びGM−CSFの放出を測定することによって抗原特異的免疫応答が検出できる。これは、培養上清及び標準品として組換えサイトカインを使用するELISAによって実施できる。
【0074】
本発明は、抗原の投与による予防及び/又は治療に対して感受性のある任意の疾患の予防及び治療において広範な適用を有する。本発明の代表的な適用は、癌の治療及び予防、遺伝子治療、アジュバント療法、感染症の治療及び予防、アレルギーの治療及び予防、自己免疫疾患の治療及び予防、神経変性疾患治療、及び動脈硬化症治療、薬剤依存性の治療及び予防、疾患の治療及び予防のためのホルモン制御、避妊のための生物学的プロセスの制御を含む。
【0075】
疾患の予防又は治療は、臨床結果を含む、有益な又は望ましい結果を得ることを包含する。有益な又は望ましい臨床結果は、1又はそれ以上の症状又は状態の緩和又は改善、疾患の程度の軽減、疾患の状態の安定化、疾患の発現の防止、疾患の拡大の防止、疾患の進行の遅延又は緩徐化、疾患の発症の遅延又は緩徐化、病因物質に対する防御免疫の付与、及び疾患状態の改善又は緩和を含み得るが、これらに限定されない。予防又は治療はまた、治療しない場合に予想される期間を越えた患者の生存期間の延長を意味することもあり、また疾患の進行を一時的に阻止することも意味し得るが、より好ましくは、例えば対象において感染を予防することにより、疾患の発生を防止することを含む。
【0076】
当業者は、所望の結果を達成するために任意の特定適用について適切な治療レジメン、投与経路、用量等を決定することができる。考慮し得る因子は、例えば、抗原の性質;予防又は治療されるべき疾患状態;対象の年齢、身体状態、体重、性別及び食事;並びに他の臨床的因子を含む。
本発明を以下の非限定的実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0077】
実施例1
6〜8週齢の無菌雌性C57BL/6マウスをCharles River Laboratories(St Constant社、カナダ国ケベック州(Quebec,Canada))より入手し、施設のガイドラインに従って収容して、水と食餌は自由に摂取させ、フィルター制御空気循環下に置いた。
【0078】
前臨床子宮頸癌研究のための広く記述されているマウスモデルである、この試験で使用したC3細胞系は、B6マウス胚細胞(B6mec)に由来し、それ自体のプロモーター下にある完全HPV 16ゲノムと活性化ras癌遺伝子とで形質転換されたHPV 16発現C3腫瘍細胞である。C3細胞系は、皮下注射したとき腫瘍を発現し、C3腫瘍細胞の移植前又は移植後に投与したワクチンの効果を調べるために癌抗原投与試験において使用されてきた。C3細胞系を、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(Sigma社、ミズーリ州セントルイス(St.Louis,MO))、2mM l−グルタミン、50mM 2−メルカプトエタノール、ペニシリン及びストレプトマイシンを添加したイスコブ改変ダルベッコ培地(IMDM;Sigma社、ミズーリ州セントルイス(St.Louis,MO))に維持した。細胞を37℃/5%COでインキュベートした。
【0079】
CTLエピトープを含むHPV 16 E7(H−2Db)ペプチド、RAHYNIVTF49−57(配列番号:1)は、Dalton Chemical Laboratories社(カナダ国オンタリオ州トロント(Toronto,Ontario,Canada))によってCD4+ヘルパーエピトープを含むPADREに融合された。このペプチドを以下FPと称し、50μg/100μl用量でワクチン中の抗原として使用した。FPは、マウスにおいてC3腫瘍を予防する又は排除するためのワクチン試験において使用されてきた。
【0080】
本明細書で述べるワクチンを製剤するため、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)をtert−ブタノールに可溶化した。FPを最初にジメチルスルホキシドに可溶化したが、FPの水懸濁液も使用できる。次にFPをDOPC/tert−ブタノール混合物に添加した。指示される場合は、合成リポペプチドベースの免疫刺激化合物(アジュバント)を水に再懸濁し、DOPC/FP/tert−ブタノール混合物に添加した。製剤中に存在する溶媒と水を凍結乾燥によって除去して、抗原の乾燥均一混合物(アジュバントを含む又は含まない)を調製した。
【0081】
次に、鉱油ベースのモデル疎水性担体である不完全フロイントアジュバントに乾燥混合物を懸濁した。
【0082】
これらの製剤の効果を、典型的な油中水型エマルション、例えば主として連続する鉱油ベースの油性担体中の水(抗原/アジュバントを含む)からなる不完全フロイントアジュバントベースのエマルション中の抗原からなる製剤(アジュバントを含む又は含まない)と比較した。
【0083】
これらの無水製剤の効果を試験するため、マウスの群(各群につき7〜10匹のマウス)に対し、尾の基部の上方の左側腹部に50万個のC3細胞を皮下注射した。移植後8日目に、すべてのマウスに右側腹部においてワクチン製剤(各用量当たり100μl)を皮下注射した。5つの群のマウスを以下のようにワクチン接種した:第1群のマウスは対照マウスとして使用し、リン酸緩衝食塩水を注射して、腫瘍を通常通り進行させた;第2群のマウスは、エマルションの水性成分中にFP抗原(各用量当たり50μg)を含有する標準的な油中水型の鉱油ベースのエマルション(不完全フロイントアジュバント)でワクチン接種した;第3群のマウスは、前述したように調製した、FP抗原(各用量当たり50μg)、DOPC(各用量当たり12μg)及び疎水性担体(不完全フロイントアジュバント)100μlを含有する均一な無水製剤でワクチン接種した;第4群のマウスは、エマルションの水性成分中にFP抗原(各用量当たり50μg)及びPam3Cysアジュバント(各用量当たり50μg)を含有する標準的な油中水型の鉱油ベースのエマルション(不完全フロイントアジュバント)でワクチン接種した;第5群のマウスは、前述したように調製した、FP抗原(各用量当たり50μg)、Pam3Cysアジュバント(各用量当たり50μg)、DOPC(各用量当たり12μg)及び疎水性担体(不完全フロイントアジュバント)100μlを含有する均一な無水製剤でワクチン接種した;腫瘍増殖へのワクチン接種の影響を評価するため、すべてのマウスにおいて週に1回の割合で42日間腫瘍増殖を観測した。
【0084】
C3細胞を移植した第1群のすべてのマウスが腫瘍を発現し、腫瘍は、腫瘍移植後42日目に1881mmの大きさに達した。油中水型エマルション中のFP抗原からなる対照ワクチン接種は、マウス(第2群)における腫瘍増殖を抑制し、腫瘍は42日目に548mmの平均サイズに進行した。油への抗原の均一な再懸濁を確実にするためにDOPCを両親媒性担体として使用した、疎水性担体中のFP抗原の無水組成物でワクチン接種した第3群のマウスは、腫瘍増殖を抑制するうえで第2群のワクチンよりも有意に有効であった。第3群のマウスにおける平均腫瘍サイズは、腫瘍移植後42日目に73mmであり、8匹のマウスのうち6匹が無腫瘍となった。アジュバント、本実施例ではPam3Cys、の添加は、第2群に対して使用した油中水型ワクチン製剤の効果をわずかに改善した(42日目の第4群の平均腫瘍サイズが320mmであったのに対し、第2群の平均腫瘍サイズは548mmであった)。Pam3Cysアジュバントの添加は無水ワクチン製剤の効果をさらに改善し(第5群のワクチン)、42日目の平均腫瘍サイズは14mmであり、7匹のマウスのうち6匹が無腫瘍となった。
【0085】
これらの結果は、ワクチン製剤からの水の排除及び疎水性担体中の免疫活性化化合物の均一性を確実にするためのリン脂質ベースの両親媒性分子の使用が、標的とする免疫応答の増強を生じさせることを明らかに示す。
【0086】
実施例2
6〜8週齢の無菌雌性C57BL/6マウスをCharles River Laboratories(カナダ国ケベック州セントコンスタント(St Constant,Quebec,Canada))より入手し、施設のガイドラインに従って収容して、水と食餌は自由に摂取させ、フィルター制御空気循環下に置いた。
【0087】
CTLエピトープを含むHPV 16 E7(H−2Db)ペプチド、RAHYNIVTF49−57(配列番号:1)は、Dalton Chemical Laboratories社(カナダ国オンタリオ州トロント(Toronto,Ontario,Canada))によってCD4+ヘルパーエピトープを含むPADREに融合された。このペプチドを以下FPと称し、20μg/100μl用量でワクチン中の抗原として使用した。
【0088】
ワクチンの効果を、免疫C57BL/6マウスから採集した脾細胞において抗原特異的細胞性免疫応答のエクスビボでの検出を可能にする方法、酵素結合イムノスポット検定法(ELISPOT)によって評価した。ELISPOTアッセイは抗原特異的免疫応答の存在/不在を評価するために有用であるが、インビボで標的に対するワクチン効果の相関因子として使用する場合には限界がある。簡単に述べると、免疫後8日目に、96穴ニトロセルロースプレートを、4℃で一晩インキュベートすることによって捕捉抗体である精製抗マウスIFN−γ抗体で被覆し、その後完全培地でブロックした。脾細胞を、100μlの容量にて5×105細胞/ウエルの初期濃度でウエルに添加し、段階希釈液の列を調製した。段階希釈液中の細胞を特異的ペプチド、RAHYNIVTF49−57(10μg/ml)で刺激した。プレートを37℃/5%COで一晩インキュベートした。翌日、プレートを検出抗体(ビオチニル化抗マウスIFN−γ抗体)と共に室温で2時間インキュベートした。非結合検出抗体を洗浄によって除去し、酵素コンジュゲート(ストレプトアビジン−HRP)を添加した。室温で1時間のインキュベーション後、非結合酵素コンジュゲートを洗浄によって除去し、プレートをAEC基質溶液で20分間染色した。プレートを洗浄し、一晩空気乾燥させて、ルーペを用いて染色中心(foci of staining)を計数した。
【0089】
本明細書で述べるワクチンを製剤するため、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)をtert−ブタノールに可溶化した。FPを最初にジメチルスルホキシドに可溶化したが、FPの水懸濁液も使用できる。次にFPをDOPC/tert−ブタノール混合物に添加した。製剤中に存在する溶媒を凍結乾燥によって除去して、抗原とDOPCとの乾燥均一混合物を調製した。
【0090】
次に、鉱油ベースのモデル疎水性担体である不完全フロイントアジュバントに乾燥混合物を懸濁した。
【0091】
この製剤の効果を、典型的な油中水型エマルション、例えば主として連続する鉱油ベースの油性担体中の水(抗原を含む)からなる不完全フロイントアジュバントベースのエマルション中の抗原からなるものと比較した。製剤の効果をまた、抗原/ジメチルスルホキシド保存溶液から典型的な油中水型エマルション、例えば不完全フロイントアジュバントベースのエマルションに直接希釈した抗原からなるものとも比較した。
【0092】
この無水製剤の効果を試験するため、マウスの群(各群につき4匹のマウス)に、右側腹部においてワクチン製剤(各用量当たり100μl)を皮下注射した。3つの群のマウスを以下のようにワクチン接種した:第1群のマウスは対照マウスとして使用し、エマルションの水性成分中にFP抗原(各用量当たり20μg)を含有する標準的な油中水型の鉱油ベースのエマルション(不完全フロイントアジュバント)でワクチン接種した;第2群のマウスは、前述したように調製した、FP抗原(各用量当たり20μg)、DOPC(各用量当たり12μg)及び疎水性担体(不完全フロイントアジュバント)100μlを含有する均一な無水製剤でワクチン接種した;第3群のマウスは対照マウスとして使用し、両親媒性担体(DOPC)を欠くが、FP抗原(各用量当たり20μg)及び疎水性担体(不完全フロイントアジュバント)100μlを含有する均一な無水製剤でワクチン接種した。ELISPOTアッセイによって抗原特異的免疫応答の存在を調べるため、8日後にすべてのマウスから脾臓を切除した。
【0093】
第1群のマウスは、有意の抗原特異的細胞性応答を生じた。ELISPOTによって検出されたそのような応答の存在は、ワクチン製剤がインビボで標的に対する有効な免疫応答を誘導する潜在能を有することを指示する。FP、両親媒性担体(DOPC)及び疎水性油性担体を含有する無水製剤を注射した第2群のマウスも、同様に、インビボで標的に対する有効な免疫応答を誘導する潜在能を指示する免疫応答を誘導することができた。両親媒性担体(DOPC)を欠くがFPと疎水性油性担体とを含有する無水製剤を注射した第3群のマウスは、ELISPOTによって検出された有意に低い免疫応答を誘導し、この特定製剤がかなり低い免疫原性を有することを明らかに指示した。これらの結果は、リン脂質ベースの両親媒性分子が製剤中に存在することを条件として、ワクチン製剤からの水の排除が、標的とする免疫応答の増強を生じさせる潜在的可能性を有することを明確に示す。
【0094】
実施例3
この実施例では、ポリIC二本鎖RNA(Pierce社、米国ミルウォーキー州(Milwaukee,USA))を、遺伝子抗原構築物(ヌクレオチドベースのプラスミド又はRNA分子)に類似した物理的及び化学的性質を有する代表的分子として使用した。ポリICはまた、本発明において抗原と共製剤し得るヌクレオチドベースのアジュバントの典型としても役立つ。本明細書で述べる最終容量1mlのワクチンを製剤するため、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)120.0mgを、40℃の温度で振とうしながら10〜15分間、tert−ブタノール480μlに可溶化した。ポリICを最初に5mg/mlの濃度で水に可溶化した。次にポリI:C 80μl(0.4mg)を水320μlにさらに希釈した。その後、ポリI:C希釈液をバイアル21中のDOPC/tert−ブタノール混合物に添加し、混合した。製剤中に存在する溶媒と水を凍結乾燥によって除去して、DOPC/アジュバントの乾燥均一混合物を調製した。ポリI:Cだけを含む対照製剤(バイアル26)を、DOPCをtert−ブタノールに添加しなかったことを除き、前述したのと同じようにして作製した。
【0095】
次に、バイアル21に疎水性担体0.88ml、そしてバイアル26に疎水性担体1mlを添加することによってバイアル21及び26の乾燥内容物を懸濁した。使用した疎水性担体は、オレイン酸マンニドを含有し、Montanide(登録商標)ISA 51(Seppic社、仏国(France))として公知の鉱油であった。乾燥混合物を約3分間(バイアル21)又は少なくとも30分間(バイアル26)ボルテックスすることによって疎水性担体に再懸濁した。バイアル21と26を、疎水性担体1mlだけを含むバイアル(ISA51と表示したバイアル)と並置して目視検査によって比較した。
【0096】
目視検査したとき(図7)、バイアル21の内容物はISA51のものに類似すると思われ、目に見える微粒子物は存在しなかった。これは、ヌクレオチド分子がDOPCの存在下で疎水性担体に有効に懸濁していることを示唆した。これに対し、DOPCを欠き、ヌクレオチド分子と疎水性担体とだけを含むバイアル26は、目視検査によって容易に検出できる、疎水性担体中のヌクレオチド分子のヘテロジーナス(heterogenous)な懸濁を含んだ。DOPCが存在しない場合、親水性ヌクレオチド分子は疎水性担体に懸濁することができなかった。これは、両親媒性であるDOPCのような分子が、有意の量の水の不在下で疎水性担体中に親水性ヌクレオチドベースの分子を製剤することを容易にしたことを明らかに示す。
【0097】
実施例4
この実施例では、ペプチドS9L(SVYDFFVWL)(配列番号:2)及びF21E(FNNFTVSFWLRVPKVSASHLE)(配列番号:3)をモデル抗原として使用した。ペプチドは、カスタムペプチド製造業者(Anaspec社米国サンノゼ(San Jose,USA))によって化学合成された。本明細書で述べる最終容量1mlの本発明のこれらのペプチドを製剤するため、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)120.0mgを、40℃の温度で振とうしながら10〜15分間、tert−ブタノール470μlに可溶化した。次に混合物を室温(22℃〜25℃)に冷却させた。S9LとF21Eを最初に5mg/mlの濃度でジメチルスルホキシドに別々に可溶化した。次にS9L 10μl(50μg)及びF21E 10μl(50μg)を、ボルテックスしながらDOPC/tert−ブタノール混合物に連続的に添加した。混合物容量を完成させるため、水400μlをバイアル30中のS9L/F21E/DOPC/tert−ブタノール混合物に添加し、混合した。製剤中に存在する溶媒と水を凍結乾燥によって除去して、DOPC/ペプチドの乾燥均一混合物を調製した。S9L及びF21Eペプチドを含む対照製剤(バイアル35)を、DOPCをtert−ブタノールに添加しなかったことを除き、前述したのと同じようにして作製した。
【0098】
次に、バイアル30に疎水性担体0.88ml、そしてバイアル35に疎水性担体1mlを添加することによってバイアル30及び35の乾燥内容物を懸濁した。使用した疎水性担体は、オレイン酸マンニドを含有し、Montanide(登録商標)ISA 51(Seppic社、仏国(France))として公知の鉱油であった。乾燥混合物を約30秒間(バイアル30)又は少なくとも30分間(バイアル35)ボルテックスすることによって疎水性担体に再懸濁した。バイアル30と35を、疎水性担体1mlだけを含むバイアル(ISA51と表示したバイアル)と並置して目視検査によって比較した。
【0099】
目視検査したとき(図8)、バイアル30の内容物はISA51のものに類似すると思われ、目に見える微粒子物は存在しなかった。これは、ペプチドがDOPCの存在下で疎水性担体に有効に懸濁していることを示唆した。これに対し、DOPCを欠き、ペプチドと疎水性担体とだけを含有するバイアル35は、目視検査によって容易に検出できる、疎水性担体中のペプチド凝集体の不均一な懸濁を含んだ。DOPCが存在しない場合、ペプチドベースの抗原は疎水性担体に懸濁することができなかった。これは、両親媒性であるDOPCのような分子が、有意の量の水の不在下でペプチドベースの抗原を疎水性担体中に製剤することを容易にしたことを明らかに示す。
【0100】
本明細書中で引用するすべての公表文献及び特許出願は、各々個々の公表文献及び特許出願が参照により組み込まれることが明確且つ個別に指示されているかのごとくに、参照により本明細書に組み込まれる。いかなる公表文献の引用も、出願日以前のその開示に関してであり、本発明が先行発明によってそのような公表文献に先行する権利を有さないことの承認と解釈されるべきではない。
【0101】
本明細書及び付属の特許請求の範囲において使用される、単数形態「a」、「an」及び「the」は、文脈によって明らかに異なる指示が与えられない限り、複数の言及を包含する。特に異なる定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術及び学術用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0102】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される、「含む(comprising)」という移行語は、「包含する(including)」又は「含有する(containing)」と同意語であることが意図されており、包括的(inclusive)又は非制限的(open-ended)であって、付加的な、列挙されていない要素又は方法工程を除外しない。移行句「からなる(consisting of)」は、特定されていない要素、工程又は成分を除外することが意図されている。移行句「基本的に〜からなる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲を、特定されている物質又は工程並びに特許請求される発明の基本的及び新規特徴に著しい影響を及ぼさない物質又は工程に限定することが意図されている。
【0103】
前記発明を、理解の明瞭さのために例示と実施例によってある程度詳細に説明したが、付属の特許請求の範囲の精神又は範囲から逸脱することなく本発明にある種の変更及び修正を加え得ることは、本発明の教示に照らして当業者には容易に明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原、
両親媒性化合物、及び
疎水性担体
を含有する、実質的に水を含まない組成物。
【請求項2】
前記組成物の総重量に基づき、10重量%未満の水を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
抗原の20重量%未満が水に懸濁している、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記疎水性担体が乳化剤を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記両親媒性化合物がリン脂質を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記両親媒性化合物がレシチンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記疎水性担体が油又は油の混合物を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記乳化剤が、Span80、オレイン酸マンニド又はそれらの混合物を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項9】
前記抗原が、ポリペプチド、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ペプチド、生菌、死菌、生ウイルス、弱毒化ウイルス、不活性化細菌、又はそれらの部分を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
アジュバントをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
組成物1mlにつき両親媒性化合物約0.1〜約250mgを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
疎水性担体が約5重量%〜約15重量の%乳化剤を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項13】
前記抗原と前記両親媒性化合物とが第1容器中で乾燥混合物として提供され、前記疎水性担体と乳化剤とが第2容器中で提供される、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
(a)抗原と両親媒性化合物とを組み合わせて乾燥混合物を形成すること、及び

(b)前記混合物を疎水性担体に懸濁すること

を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物を作製するための工程。
【請求項15】
アジュバントを組成物に添加することをさらに含む、請求項14に記載の工程。
【請求項16】
前記疎水性担体が乳化剤を含む、請求項14又は15に記載の工程。
【請求項17】
前記組合せ段階が、

前記抗原を可溶化すること、

前記両親媒性化合物を可溶化すること、

前記可溶化抗原と前記可溶化両親媒性化合物とを組み合わせて混合物を形成すること、及び

前記混合物を乾燥すること

を含む、請求項14から16のいずれか一項に記載の工程。
【請求項18】
前記組合せ段階が、前記抗原を前記両親媒性化合物と共に乾式粉砕することを含む、請求項14から16のいずれか一項に記載の工程。
【請求項19】
請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物を対象に投与することを含む方法。
【請求項20】
請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物をその必要のある対象に投与することを含む、対象において抗体応答又は細胞媒介性免疫応答を誘導するための方法。
【請求項21】
前記組成物を経口的、経鼻的、経直腸的又は非経口的に投与する、請求項19又は20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−540570(P2010−540570A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527303(P2010−527303)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001747
【国際公開番号】WO2009/043165
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(508105740)イムノバクシーン・テクノロジーズ・インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】IMMUNOVACCINE TECHNOLOGIES INC.
【Fターム(参考)】