説明

抗原または抗体の検出方法

【課題】抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する方法において、非特異的な核酸増幅によって検出される偽陽性シグナルを簡便に軽減できる抗原または抗体の検出法を提供する。
【解決手段】抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する方法であって、核酸結合タンパク質存在下で核酸を増幅することを特徴とする抗原または抗体の検出方法。さらに、抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する抗原または抗体検出キットであって、核酸結合タンパク質を含有する抗原または抗体検出キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検体中の抗原または抗体の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検体中の抗原を検出する方法として、Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)法が用いられている。ELISA法は特異性の高い抗原抗体反応を利用し、酵素反応に基づく発色・発光をシグナルに用いることで抗原を検出することができる。
【0003】
ELISA法においては、抗体は酵素により標識されるが、抗体を核酸で標識し、核酸増幅反応により検出する技術が開発されている。PCR法による核酸増幅を行うことにより抗原を検出するイムノ−PCR法は、抗原抗体反応の持つ特異性とPCR法の持つ優れた感度を併せ持つ極めて有用な方法である(非特許文献1)。
【0004】
抗プリオン蛋白質抗体と、異常プリオン蛋白質もしくはその部分分解断片との特異的結合を利用したイムノ−PCRにより、試料中に含まれる異常プリオン蛋白質を高感度に検出する方法が開発されている(特許文献1)。
【0005】
また、イムノ−PCR測定キットがCareTIS社から販売されており、Horse Radish Peroxidaseを用いたELISA法であるELISA(HRP)法と比べて約1000倍感度が良いと言われている。
【0006】
さらに、抗体に付加されたDNAタグを制限酵素反応により切り出し、定量Real−Time PCR法により検出する方法が知られている。この方法は、抗体ごとに異なる塩基配列・鎖長のDNAを標識することで、同時に複数の抗体を用いた検出も可能となっている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−267928号公報
【特許文献2】日本特許第4111984号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Science,258,p120−122,1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
抗体を標識する核酸の増幅反応により抗原を検出する既存の方法は、抗原の検出感度を向上することはできたが、非特異的核酸増幅を軽減するには洗浄操作を徹底的に行うことが必要となり、そのため操作が煩雑であった。また洗浄が不完全であると、偽陽性シグナルが検出されることにより、微量に存在する抗原の有無を判定しにくいという問題があった。
【0010】
本発明は、抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する方法において、非特異的な核酸増幅によって検出される偽陽性シグナルを簡便に軽減できる抗原または抗体の検出法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する方法において、抗体または抗原を標識する核酸を増幅する際に、核酸結合タンパク質を添加することにより、抗原または抗体と未反応の抗体または抗原を標識する核酸に由来する非特異的な核酸の増幅を抑制し、偽陽性のシグナルの出現を軽減できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する方法であって、核酸結合タンパク質存在下で核酸を増幅することを特徴とする抗原または抗体の検出方法に係るものである。
【0013】
また、本発明は、抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する抗原または抗体検出キットであって、核酸結合タンパク質を含有する抗原または抗体検出キットに係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する方法において、抗原や抗体の種類に関係なく非特異的な核酸増幅による偽陽性シグナルの出現を簡便な操作で低減することができる。そして、この方法は、非特異的な核酸増幅物の生成を効率的に抑えることができることから、抗原抗体反応に基づいた検出法を必要とする検査や診断をより高感度に行うだけでなく、種々の核酸増幅法による核酸増幅産物を確認するのみで簡便に抗原または抗体の有無を判定でき、抗原抗体反応に基づき、核酸増幅の有無で検査・診断を行うキットを作製する際には非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の比較例1に係る、MUSTagキットによるIL-1α抗原の検出結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係る、MutSによる非特異的核酸増幅の抑制効果を示す図である。
【図3】本発明の実施例2に係る、イムノ−PCR法において核酸結合タンパク質により非特異的な核酸増幅を抑制し、高感度に抗原を検出できることを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の抗原または抗体の検出方法は、抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する方法であって、核酸を増幅する工程において、核酸結合タンパク質を核酸増幅反応液中に添加することを特徴とするものである。核酸増幅方法としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)が最も一般的に使用されており、イムノ−PCR法は、抗体に標識された核酸の増幅反応により抗体を検出する方法として知られている。しかし、抗体を標識する核酸を増幅する方法としてはPCR法に限定されるものではない。Polymerase Chain Reaction(PCR)法、Ligase Chain Reaction(LCR)法、Loop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法、Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids(ICAN)法、Strand Displacement Amplification(SDA)法、Transcription Mediated Amplification(MTD)法、Nucleic Acid Sequence-Based Amplification(NASBA)法から選ばれる1以上の方法を好適に利用し得る。
【0017】
イムノ−PCR法とは、抗原抗体反応を利用して特定の抗原を検出する方法であり、抗体を任意の核酸断片で標識して当該核酸断片をPCR法により検出する。イムノ−PCR法が、通常のELISA法と異なるのは、抗体に付加した核酸断片をPCR法により検出する点のみであるため、本発明は如何なる抗原に対する検出に応用することが可能である。
【0018】
また、本発明の方法は、抗原の検出のみならず、抗原を核酸断片で標識することで抗体の検出に用いることもできる。
【0019】
本発明の抗原または抗体の検出法において、非特異的な核酸増幅の抑制に用いられる核酸結合タンパク質としては、特に制限はないが、種々のDNA結合性転写因子や、核内受容体及びそのリガンド、MutSタンパク質に代表される塩基配列のミスマッチ検出機能を持ったタンパク質、ヒストン等に代表されるクロマチン構造タンパク質などを挙げることができる。サンプルに由来しない核酸結合タンパクを添加することで本発明の効果が得られる。使用される核酸結合タンパク質は、以下のものが使用できるが、特に限定されるものではない。例えば、アデノウイルスE2タンパク質(Adenovirus E2 Protein) 、AraC転写因子(AraC Transcription Factor)、ベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックス型転写因子(Basic Helix-Loop-Helix Transcription Factor +)、塩基性ロイシンジッパー転写因子(Basic-Leucine Zipper Transcription Factor +)、 酪酸反応因子1(Butyrate Response Factor 1)、セントロメアタンパク質B(Centromere Protein B)、COUP転写因子(COUP Transcription Factor +)、初期増殖応答転写因子(Early Growth Response Transcription Factor +)、赤血球特異的DNA結合因子(Erythroid-Specific DNA-Binding Factor +)、逆転刺激因子(Factor For Inversion Stimulation Protein)、Gボックス結合タンパク質(G-Box Binding Factor)、転写因子GATA(GATA Transcription Factor +)、肝細胞核因子(Hepatocyte Nuclear Factor +)、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質K(Heterogeneous-Nuclear Ribonucleoprotein K)、HMGAタンパク質(HMGA Protein +)、HMGBタンパク質(HMGB Protein +)、ホメオドメインタンパク質(Homeodomain Protein +)、IκBタンパク質(I-kappa B Protein)、免疫グロブリンJ組換えシグナル配列結合タンパク質(Immunoglobulin J Recombination Signal Sequence-Binding Protein)、組込み宿主因子(Integration Host Factor)、インターフェロン調節因子(Interferon Regulatory Factor +)、インターフェロン活性化遺伝子ファクター3(Interferon-Stimulated Gene Factor 3 +)、クルッペル様転写因子(Kruppel-Like Transcription Factor +)、ロイシン応答調節タンパク質(Leucine-Responsive Regulatory Protein)、マトリックス付着領域結合タンパク質(Matrix Attachment Region Binding Protein)、メチル化CpG結合タンパク質2(Methyl-CpG-Binding Protein 2)、MutSミスマッチ結合タンパク質(MutS DNA Mismatch-Binding Protein)、MutS相同2タンパク質(MutS Homolog 2 Protein)、骨髄性リンパ性白血病タンパク質(Myeloid-Lymphoid Leukemia Protein)、NF-κB(NF-kappaB +)、NFI転写因子(NFI Transcription Factor)、核呼吸因子(Nuclear Respiratory Factor +)、癌遺伝子産物p55(Oncogene Protein p55)、複製開始点認識複合体(Origin Recognition Complex)、ペアードボックス転写因子(Paired Box Transcription Factor +)、POUドメイン因子(POU Domain Factor +)、癌原遺伝子産物c-Bcl-6(Proto-Oncogene Protein c-Bcl-6)、癌原遺伝子産物c-Ets(Proto-Oncogene Protein c-Ets)、癌原遺伝子産物c-Myb(Proto-Oncogene Protein c-Myb)、c-Mycタンパク質(c-Myc Protein)、癌原遺伝子産物c-Rel(Proto-Oncogene Protein c-Rel)、癌原遺伝子産物c-Sis(Proto-Oncogene Protein c-Sis)、Rad51リコンビナーゼ(Rad51 Recombinase)、Rad52-DNA組換え修復タンパク質(Rad52 DNA Repair and Recombination Protein)、複製タンパク質A(Replication Protein A)、複製タンパク質C(Replication Protein C)、網膜芽細胞腫タンパク質(Retinoblastoma Protein)、Smadタンパク質(Smad Protein +)、SOX転写因子(SOX Transcription Factor +)、Tボックスドメインタンパク質(T-Box Domain Protein)、TCF転写因子(TCF Transcription Factor +)、テロメア結合タンパク質(Telomere-Binding Protein +)、Toll様受容体9(Toll-Like Receptor 9)、トランス活性化因子(Trans-Activator +)、転写因子AP-2(Transcription Factor AP-2)、基本転写因子(General Transcription Factor +)、トリステトラプロリン(Tristetraprolin)、腫瘍抑制因子p53(Tumor Suppressor Protein p53)、ウィングドヘリックス転写因子(Winged-Helix Transcription Factor +)、色素性乾皮症A群タンパク質(Xeroderma Pigmentosum Group A Protein)が挙げられる。これらの核酸結合タンパク質は、これらのタンパクをコードする公知の遺伝子を用いて公知の方法で遺伝子工学的に製造することが可能である。これらを単独で用いても良いし、複数組み合わせて用いても良い。これらのタンパク質のアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、核酸結合能を有するタンパク質であれば、本発明に使用しうる。配列同一性は、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、さらにより好ましくは98%以上である。また、核酸結合に機能するドメインのみを用いてもよい。
【0020】
塩基配列のミスマッチ部位を認識するMutSタンパク質を利用する場合は、核酸を増幅する際に用いるDNAプライマーに、MutSが認識する1から3塩基の欠失やミスマッチ、好ましくは、MutSにより特異的に認識される1から3塩基欠失又はAG、CT、GTのミスマッチ(Aに対してTでなくGにしてミスマッチを形成させる。)を導入しておく必要がある。
【0021】
また、PCR法により核酸増幅を行う場合は、耐熱性の核酸結合タンパク質を用いることが好ましい。ここで耐熱性とは、70℃で30分処理した時に50%以上の活性を保持していることを指し、90℃で30分処理した時に50%以上の活性を保持していることがより好ましい。耐熱性の核酸結合タンパク質としては、例えば、耐熱性のMutSタンパク質を挙げることができる。
【0022】
たとえば、利用可能なMutSタンパク質として、Thermus aquaticus由来のMutS(Taq MutS)が挙げられる。
【0023】
Taq MutSは、50μlのPCR反応液に0.01μg以上好ましくは0.1μg以上を添加して使用することができる。すなわち、0.2mg/L以上、好ましくは2mg/L以上を添加して使用することができる。
【0024】
また、核酸を増幅させる方法としては、等温もしくは可変温度条件で行う2つの方法があり、本発明ではいずれの手法でも実施することが可能である。等温条件で行う方法としては例えばLAMP法やICAN法がある。可変温度条件で行う方法としては例えばPCR法がある。DNAからDNAを複製したり、DNAからRNAを合成したり、あるいは、RNAからDNAを合成することもできる。通常、DNAからDNAを複製するにはDNAポリメラーゼを用いたPCR法により行われるが、種々のDNAポリメラーゼを利用することができる。
【0025】
たとえば、利用可能なDNAポリメラーゼとしてTaqポリメラーゼや、EX−Taq、LA−Taq、Expandシリーズ、Platinumシリーズ、Tbr、Tfl、Tru、Tth、T1i、Tac、Tne、Tma、Tih、及び、Tfi等に代表されるPolI型酵素、Pfu、Pfuturbo、Pyrobest、Pwo、KOD、Bst、Sac、Sso、Poc、Pab、Mth、Pho、ES4、VENT、及び、DEEPVENTに代表されるα型酵素、Bca(exo−)DNAポリメラーゼ、E. coli DNA ポリメラーゼIのクレノウフラグメント、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo−)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、DeepVent DNAポリメラーゼ、DeepVent(Exo−)DNAポリメラーゼ(DeepVent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、Φ29ファージDNAポリメラーゼ、MS−2ファージDNAポリメラーゼ、Z−Taq DNAポリメラーゼ等が好適に用いられるが、これに限定されるものではない。これらを単独で用いても良いし、複数組み合わせて用いても良い。これらのDNAポリメラーゼは市販のものを用いることができる。
【0026】
また、RNAを鋳型として伸長反応を行う場合、逆転写酵素活性を有するポリメラーゼを利用することができる。例えば、好熱菌として知られるThermus thermophilus由来Tth DNA polymeraseなどを好適に用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0027】
また、DNAを鋳型としてRNAの合成を行う場合、転写酵素活性を有するポリメラーゼを利用することができる。例えば、T7ファージ由来のT7 RNA polymeraseなどを好適に用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
抗体−核酸複合体の形成は、非特許文献1に記載されているように、抗体、プロテインA−ストレプトアビジン・キメラ蛋白質、ビオチン化DNAを用いる方法や、非特許文献2に記載されているように、抗原特異抗体を特定の動物例えばマウスで作製し、これにビオチン化抗マウスIg抗体、ストレプトアビジン、ビオチン化DNAを連結させる方法などにより行うことができる。或いは、抗体とアビジンのコンジュゲートを作製してビオチン化DNAと連結させることも可能である(Science,260,p698−699,1993)。抗体を標識する方法は、抗原の標識にも適宜用いることができる。
【0029】
抗原抗体反応後に特異的に結合した抗体−DNAまたは抗原−DNAのDNAタグを鋳型として核酸増幅反応を行う際、抗体または抗原に付加したDNAタグを抗体または抗原に結合したまま鋳型とすることができる。或いは、制限酵素認識配列やジスフィルド結合をDNAタグの抗体または抗原側に導入しておくことにより、制限酵素や還元反応によりDNAタグを切り出して鋳型とすることも可能である。
【0030】
また、核酸増幅産物の検出は、アガロースゲル電気泳動後にエチジウムブロマイドで染色したり、或いは、蛍光インターカレーター存在下で核酸増幅を行った後UVを照射することより行うことができる。また、定量Real−Time PCR法により定量的に分析することも可能である。
【実施例】
【0031】
以下、実験例および実施例を示して本発明を説明するが、本発明はかかる実施例などによって制限されるものではない。
【0032】
(比較例1)
シンセラテクノロジーズ社のMUSTagキットを用いて、同キットに付属のIL-1α抗原サンプルの検出を行った。各種濃度の抗原サンプル(0、0.013、0.064、0.32、1.6、8、40、200pg/ml)を調製し、抗IL−1α抗体固定化プレートの各ウェルに50 μlずつ添加し、プレートの側面を叩きながら攪拌した後、25℃にて1時間インキュベートした。その後、反応液を除去し、100μlの洗浄液(キットに付属)で3回洗浄した。洗浄液を除去した後、各ウェルに30μlのMUSTag溶液を添加し、25℃にて1時間インキュベートした。その後、反応液を除去し、100μlの洗浄液(キットに付属)で3回洗浄した。洗浄液を除去した後、各ウェルに、3μlの10×EcoRI処理バッファ(キットに付属)、27μlの滅菌水、0.02μlの制限酵素EcoRIを添加し、37℃にて15分間静置した。その後、EcoRI反応後の溶液を別の容器に移し、PCR反応により核酸の増幅を行った。PCR反応の条件は以下の通りである。PCR反応液の組成:2.5μl EcoRI反応溶液、5μl 10×ExTaqバッファ、5μl dNTP溶液、0.5μl ExTaq DNAポリメラーゼ、0.3μl プライマーmix(10ng/ml)、36.7μl 滅菌水。PCR反応:94℃、2分→(94℃、30秒→55℃、30秒→72℃、30秒)×20、又は40サイクル→72℃、1分。
【0033】
PCR反応液をアガロースゲル電気泳動に供し、エチジウムブロマイドにより染色した結果を図1に示した。サイクル数が20回では、いずれの濃度の抗原においても核酸増幅物は検出されなかった。また、サイクル数が40回では、ある程度抗原濃度依存的に核酸増幅物が検出されたが、抗原がない場合においてもバンドが検出された(レーン8´)。
【0034】
(実施例1)
GTミスマッチ導入プライマー(5´−GGAAACAGCTATGACCTGA、および、5´−CTATGCGGCATCAGAGCGA:下線はミスマッチ部位を示す。)と、MutSタンパク質を用いて、ごく微量の鋳型存在下での、PCR反応による核酸増幅の抑制を行った。PCR反応の条件は以下の通りである。PCR反応液の組成:5μl 10×ExTaqバッファ、1μl pUC19溶液(1又は10fg/μl)、4μl dNTP溶液、0.5μl ExTaq DNAポリメラーゼ、2μl MutSタンパク質溶液(0、又は1μg/μl)、各々1.5μl GTミスマッチ導入プライマー(10μM)、34.5μl 滅菌水。PCR反応:94℃、2分→(94℃、10秒→55℃、30秒→72℃、30秒)×20、又は40サイクル→72℃、1分。
【0035】
PCR反応液をアガロースゲル電気泳動に供し、エチジウムブロマイドにより染色した結果を図2に示す通り、1fgのpUC19が存在する場合において、MutSによる核酸増幅の抑制効果を確認することができた。
【0036】
(実施例2)
imTag PCRキット(ケアティス社)を用いて、同キットに付属の抗HIV−1 p24抗体を、同キットに付属の固定化溶液で200倍希釈し、50μlずつトップイールドに添加し、37℃にて2時間放置した。その後、各ウェルの抗体溶液を廃棄し、100μlのPBST(0.1%Triton20を含むPBS)で3回洗浄し、100μlのブロッキング溶液を各ウェルに添加し、37℃にて2時間放置した。その後、ブロッキング溶液を除去し、100μlのPBSTで3回洗浄した。
【0037】
各種濃度のキットに付属のHIV−1 p24抗原サンプル(0、0.25、1、4、8、15、30、60pg/ml)を調製し、各々の抗原液を、100μlずつウェルに添加し、37℃にて2時間放置した。その後、ブロッキング溶液を除去し、120μlのPBSTで3回洗浄した。
【0038】
各ウェルに、HIV p24 ELISAキット(バイオアカデミア社)に付属のビオチン化抗HIV−1 p24抗体液を101倍に希釈した溶液を50μlずつ加え、37℃にて1時間静置した。その後、ビオチン化抗体液を除去し、120μlのPBSTで5回洗浄した。このようなサンプルを4セット作製した。
【0039】
3セットのサンプルを用いて、イムノPCRによる検出を行った。50μlの1 ng/μl ストレプトアビジン溶液を加え、30分間反応させた後、ストレプトアビジン溶液を除去し、150μlのPBSTで3回洗浄した。その後、50μlのimTag溶液(imTag PCRキットに付属)を添加し、30分間反応させ、反応後のimTag溶液を除去した後、150μlのPBSTで6回洗浄した。その後、シーリングテープを貼ったトップイールド内でPCR反応を行った。PCR反応液の組成:5μl 10×ExTaqバッファ、4μl dNTP溶液、0.5μl ExTaq DNAポリメラーゼ、2μl MutSタンパク質溶液(3種類の濃度:0、0.2、1μg/μl)、各々1.5μl GTミスマッチ導入プライマー(10μM)、35.5μl 滅菌水。PCR反応:94℃、2分→(94℃、10秒→55℃、30秒→72℃、30秒)×25サイクル→72℃、1分。GTミスマッチ導入プライマー:5´−CCGAATTCGTAATCTGTCA、および、5´−AGCTCATCATTAGGCCCC(下線はミスマッチ部位を示す)。
【0040】
PCR反応液をアガロースゲル電気泳動に供し、エチジウムブロマイドにより染色した結果を図3(A)に示した。MutSを2μg添加することにより、抗原非存在下での偽陽性の核酸増幅を抑制し、0.25pg/mlのHIV p24を検出することができた。
【0041】
残りの1セットを用いて、通常のELISA法での検出を行った。100μlの酵素標識体液(HIV p24 ELISAキットに付属)を加え、37℃にて30分間反応させた。その後、酵素標識体液を除去した後、150μlのPBSTで6回洗浄した。洗浄したウェルに100μlの酵素基質液を添加し、25℃にて30分間静置した後、100μlの反応停止液を加え、450nmの吸光度を測定した。その結果を図3(B)に示した。ELISA法では、15pg/ml以下の濃度のHIV p24を検出することができなかった。
【0042】
(実施例3)
imTag PCRキットを用いて、非特異的な増幅反応を抑制したPCR反応を実施するキットの1例として以下のキットを作製した。16回反応分のキットとして、以下の構成からなるキットを梱包した。
・Ex Taq DNAポリメラーゼ(5U/μl)10μl
・10倍濃縮緩衝液 0.1ml
・dNTP Mixture (各2.5mM)80μl
・プライマー1(5´−CCGAATTCGTAATCTGTCA)(10μM)30μl
・プライマー2(5´−AGCTCATCATTAGGCCCC)(10μM)30μl
・MutS(1mg/ml) 40μl


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する方法であって、核酸結合タンパク質存在下で核酸を増幅することを特徴とする抗原または抗体の検出方法。
【請求項2】
請求項1の抗原または抗体の検出方法であって、核酸の増幅反応がPolymerase Chain Reaction(PCR)法、Ligase Chain Reaction(LCR)法、Loop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法、Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids(ICAN)法、Strand Displacement Amplification(SDA)法、Transcription Mediated Amplification(MTD)法、Nucleic Acid Sequence-Based Amplification(NASBA)法から選ばれる1以上の方法を用いて行う請求項1に記載の抗原または抗体の検出方法。
【請求項3】
核酸の増幅反応が、PCR法を用いて行う請求項2に記載の抗原または抗体の検出方法。
【請求項4】
核酸結合タンパク質が、核酸結合性転写因子や、核内受容体及びそのリガンド、塩基配列のミスマッチ検出機能を持つタンパク質、クロマチン構造タンパク質から選ばれる少なくとも1種のタンパク質であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の抗原または抗体の検出方法。
【請求項5】
核酸結合タンパク質が、アデノウイルスE2タンパク質、AraC転写因子、ベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックス型転写因子、塩基性ロイシンジッパー転写因子、酪酸反応因子1、セントロメアタンパク質B、COUP転写因子、初期増殖応答転写因子、赤血球特異的DNA結合因子、逆転刺激因子、Gボックス結合タンパク質、転写因子GATA、肝細胞核因子、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質K、HMGAタンパク質、HMGBタンパク質、ホメオドメインタンパク質、IκBタンパク質、免疫グロブリンJ組換えシグナル配列結合タンパク質、組込み宿主因子、インターフェロン調節因子、インターフェロン活性化遺伝子ファクター3、クルッペル様転写因子、ロイシン応答調節タンパク質、マトリックス付着領域結合タンパク質、メチル化CpG結合タンパク質2、MutSミスマッチ結合タンパク質、MutS相同2タンパク質、骨髄性リンパ性白血病タンパク質、NF-κB、NFI転写因子、核呼吸因子、癌遺伝子産物p55、複製開始点認識複合体、ペアードボックス転写因子、POUドメイン因子、癌原遺伝子産物c-Bcl-6、癌原遺伝子産物c-Ets、癌原遺伝子産物c-Myb、c-Mycタンパク質、癌原遺伝子産物c-Rel、癌原遺伝子産物c-Sis、Rad51リコンビナーゼ、Rad52-DNA組換え修復タンパク質、複製タンパク質A、複製タンパク質C、網膜芽細胞腫タンパク質、Smadタンパク質、SOX転写因子、Tボックスドメインタンパク質、TCF転写因子、テロメア結合タンパク質、Toll様受容体9、トランス活性化因子、転写因子AP-2、基本転写因子、トリステトラプロリン、腫瘍抑制因子p53、ウィングドヘリックス転写因子、色素性乾皮症A群タンパク質、および、これらのタンパク質が有するアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、から選ばれる少なくとも1種のタンパク質であることを特徴とする請求項4に記載の抗原または抗体の検出方法。
【請求項6】
核酸結合タンパク質が、塩基配列のミスマッチ検出機能を持つタンパク質を用いることを特徴とする請求項4に記載の抗原または抗体の検出方法。
【請求項7】
核酸結合タンパク質が、好熱菌由来のMutSタンパク質を用いることを特徴とする請求項4に記載の抗原または抗体の検出方法。
【請求項8】
核酸の増幅反応において反応液中に核酸結合タンパク質を0.2mg/L以上添加することを特徴とする請求項1に記載の抗原または抗体の検出方法。
【請求項9】
核酸の増幅反応に用いるプライマーとして、1から3塩基の欠失、或いはミスマッチを導入したプライマーを用いることを特徴とする請求項1に記載の抗原または抗体の検出方法。
【請求項10】
核酸の増幅反応に用いるプライマーとして、1塩基の欠失、或いはAG、CT、GTのミスマッチを導入したプライマーを用いることを特徴とする請求項9に記載の抗原または抗体の検出方法。
【請求項11】
抗体または抗原を標識する核酸の増幅反応により抗原または抗体を検出する抗原または抗体検出キットであって、核酸結合タンパク質を含有する抗原または抗体検出キット。
【請求項12】
核酸結合タンパク質が、核酸結合性転写因子や、核内受容体及びそのリガンド、塩基配列のミスマッチ検出機能を持つタンパク質、クロマチン構造タンパク質から選ばれる少なくとも1種のタンパク質であることを特徴とする請求項11に記載の抗原または抗体検出キット。
【請求項13】
核酸結合タンパク質が、アデノウイルスE2タンパク質、AraC転写因子、ベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックス型転写因子、塩基性ロイシンジッパー転写因子、酪酸反応因子1、セントロメアタンパク質B、COUP転写因子、初期増殖応答転写因子、赤血球特異的DNA結合因子、逆転刺激因子、Gボックス結合タンパク質、転写因子GATA、肝細胞核因子、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質K、HMGAタンパク質、HMGBタンパク質、ホメオドメインタンパク質、IκBタンパク質、免疫グロブリンJ組換えシグナル配列結合タンパク質、組込み宿主因子、インターフェロン調節因子、インターフェロン活性化遺伝子ファクター3、クルッペル様転写因子、ロイシン応答調節タンパク質、マトリックス付着領域結合タンパク質、メチル化CpG結合タンパク質2、MutSミスマッチ結合タンパク質、MutS相同2タンパク質、骨髄性リンパ性白血病タンパク質、NF-κB、NFI転写因子、核呼吸因子、癌遺伝子産物p55、複製開始点認識複合体、ペアードボックス転写因子、POUドメイン因子、癌原遺伝子産物c-Bcl-6、癌原遺伝子産物c-Ets、癌原遺伝子産物c-Myb、c-Mycタンパク質、癌原遺伝子産物c-Rel、癌原遺伝子産物c-Sis、Rad51リコンビナーゼ、Rad52-DNA組換え修復タンパク質、複製タンパク質A、複製タンパク質C、網膜芽細胞腫タンパク質、Smadタンパク質、SOX転写因子、Tボックスドメインタンパク質、TCF転写因子、テロメア結合タンパク質、Toll様受容体9、トランス活性化因子、転写因子AP-2、基本転写因子、トリステトラプロリン、腫瘍抑制因子p53、ウィングドヘリックス転写因子、色素性乾皮症A群タンパク質、および、これらのタンパク質が有するアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質、から選ばれる少なくとも1種のタンパク質であることを特徴とする請求項12に記載の抗原または抗体検出キット。
【請求項14】
核酸結合タンパク質が、塩基配列のミスマッチ検出機能を持つタンパク質であることを特徴とする請求項12に記載の抗原または抗体検出キット。
【請求項15】
塩基配列のミスマッチ検出機能を持つタンパク質が、好熱菌由来のMutSタンパク質であることを特徴とする請求項14に記載の抗原または抗体検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−226986(P2010−226986A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76624(P2009−76624)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】