説明

抗潰瘍剤組成物

【課題】非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤による胃粘膜障害を軽減する医薬組成物を提供する。
【解決手段】トラネキサム酸と有胞子性乳酸菌を含有し、非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤によって引き起こされる胃粘膜障害及び/又は潰瘍の治療剤である医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤による胃粘膜障害を軽減した医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤(以下、NSAIDsと称することがある)は、プロスタグランジン生合成の抑制作用に基づく鎮痛・抗炎症・解熱作用を有する。そのため必然的に胃粘膜が障害され、潰瘍形成にいたる副作用を有することが知られている。
【0003】
トラネキサム酸は、抗プラスミン剤として抗出血、抗アレルギー、抗炎症作用などを有し、出血・湿疹・口内炎・肝斑の内服治療薬として医療用医薬品(例えば、非特許文献1参照)やOTC医薬品(例えば、非特許文献2参照)で使用されている。また、止血用として薬用歯磨剤や、美白等の目的で薬用化粧品にも配合されている。
【0004】
有胞子性乳酸菌は、胞子形成をした乳酸菌(Lactobacillus sporogenes)であり、嫌気性条件で乳酸菌の顔、好気性条件ではBacillus属の顔を持つユニークな菌である。分類学的にはBacillus coagulansであり(非特許文献3参照)、通常の乳酸菌と同様に整腸剤として配合されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
有胞子性乳酸菌が抗潰瘍作用を有することは知られていないが、乳酸菌12菌株について酢酸潰瘍による抗潰瘍効果を調べた結果、Bifidobacterium bifidum の1菌株とBifidobacterium breveの2菌株に抗潰瘍作用が認められたことが報告されている(非特許文献4参照)。
【0006】
これまでに、トラネキサム酸や有胞子性乳酸菌の抗潰瘍作用は知られておらず、トラネキサム酸と有胞子性乳酸菌を配合した医薬組成物も知られていない。更に、当該配合によってNSAIDsによる胃粘膜障害が軽減されることを記載又は示唆したものは見当たらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】医療用医薬品集,2009年版,JAPIC,2008
【非特許文献2】日本医薬品集一般薬,2010-11年版,じほう,2009
【非特許文献3】生物工学,Vol.80,No.12,2002,p.581-583
【非特許文献4】糖質シンポジウム講演要旨集,Vol.16th,1994,p.24-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題はNSAIDsによる胃粘膜障害を顕著に軽減する新たな医薬組成物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を実施した結果、NSAIDsと有胞子性乳酸菌を併用した場合には、胃粘膜障害が増悪されること、しかし、NSAIDs、トラネキサム酸及び有胞子性乳酸菌を同時併用すると、胃粘膜障害が顕著に軽減され、潰瘍が抑制されるという驚くべき事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)を提供するものである。
(1):トラネキサム酸及び有胞子性乳酸菌を含有する医薬組成物。
(2):胃粘膜障害治療剤である(1)に記載の医薬組成物。
(3):潰瘍治療剤である(1)に記載の医薬組成物。及び、
(4):非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤によって引き起こされる胃粘膜障害及び/又は潰瘍の治療剤である(1)〜(3)のいずれか1に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤(NSAIDs)を投与するにあたり、本発明のトラネキサム酸と有胞子性乳酸菌を含有する医薬組成物を併用すると、NSAIDsによる胃粘膜障害を抑制するので、抗潰瘍剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のトラネキサム酸は第15改正日本薬局方に収載されており、有胞子性乳酸菌は日本薬局方外医薬品規格2002に収載されている。
【0013】
本発明の組成物の1回投与量における、トラネキサム酸及び有胞子性乳酸菌の含有量は特に制限はないが、それぞれ、5〜2000mg及び0.1〜400mgで、好ましくは、それぞれ、10〜1200mg及び1〜100mgである。
【0014】
本発明におけるNSAIDsとしては、例えば、アスピリン、イブプロフェン、エテンザミド、ロキソプロフェンナトリウム、ジクロフェナクナトリウム、サザピリン、サリチルアミド、インドメタシン等を挙げることができる。
【0015】
本発明の組成物は、常法に従って製剤されるが、投与方法に合わせて、各薬剤を別々に製剤してもよい。
【0016】
本発明の組成物等は、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤若しくはシロップ剤等の経口投与用組成物である。本発明の組成物には、必要に応じて、乳糖、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の賦形剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、マクロゴール等の結合剤、クロスカルメロースナトリウム等の崩壊剤、メチルパラベン等の安定剤を適宜添加することができ、さらに、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等の矯味矯臭剤や、希釈剤等の添加剤を用いることもできる。
【0017】
以下に、試験例及び製剤例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
(製剤例1)ハードカプセル剤
【0019】
【表1】

【0020】
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「カプセル剤」の項に準じてカプセルを製造する。
【0021】
(製剤例2)錠剤
【0022】
【表2】

【0023】
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造する。なお、所望により剤皮を塗布する。
【0024】
(試験例)抗潰瘍効果試験
(1)被検物質
インドメタシンはSigma-Aldrich製のものを、トラネキサム酸及び有胞子性乳酸菌は第一三共プロファーマ製のものを使用した。
被験物質はメチルセルロース(和光純薬工業製)を注射用水(大塚製薬製)に溶解した0.5%メチルセルロース溶液中に懸濁させて調製した。
【0025】
(2)使用動物
Crl:CD雄性ラット5週齢(日本チャールスリバー)を使用した。動物は温度21−27℃、湿度35−75%、照明時間7−19時に制御されたラット飼育室内で個別飼育した。固形試料(オリエンタル酵母工業ラット用固形飼料、CRF-1)及び水道水を自由に摂取させ、1週間予備飼育した後、毛並、体重増加などの一般症状の良好な動物を選別して供試した。
【0026】
(3)試験方法
24時間以上絶食したラットに、フレキシブル胃管を装着したディスポーザブルシリンジを用いて、被験物質を経口投与した。なお、被験物質はスターラーを用いて撹拌しながら使用した。
被験薬投与後5時間後に、頚椎脱臼により動物を安楽死させ、速やかに胃を摘出し、内部に生理食塩液を10mL 充填後、2%ホルマリンに浸して翌日まで固定した。固定した胃を大弯に沿って切開し、デジタルノギスを用いて胃粘膜における傷害の長さを測定した。なお、個体の胃粘膜における傷害の長さは、長径を計測し、総和を算出した。
【0027】
(4)試験結果
NSAIDs(インドメタシン)の投与による、胃粘膜における傷害の長さの総和(潰瘍長、mm)の結果を表3に示す。表3には、NSAIDsにトラネキサム酸、又は有胞子乳酸菌を各々投与した場合、及び、NSAIDsにトラネキサム酸と有胞子乳酸菌を同時に投与した場合の結果を示した。なお、いずれの投与群も1群9匹であり、潰瘍長(mm)はその平均値で示した。
【0028】
【表3】

【0029】
表3に示したように、インドメタシンにトラネキサム酸を併用しても、インドメタシンによる胃粘膜傷害の軽減作用はほとんどみられなかった。また、インドメタシンに有胞子性乳酸菌を併用した場合には、インドメタシンによる胃粘膜傷害を増悪させる結果であった。
【0030】
一方、インドメタシンにトラネキサム酸及び有胞子性乳酸菌を同時併用すると、胃粘膜傷害の長さが顕著に短くなることが判明した。
【0031】
以上の結果から、トラネキサム酸と有胞子性乳酸菌を含有する医薬組成物は、NSAIDsによる胃粘膜障害を著しく軽減し、潰瘍を抑制することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の医薬組成物は、NSAIDsによる潰瘍を抑制するので、抗潰瘍剤として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラネキサム酸及び有胞子性乳酸菌を含有する医薬組成物。
【請求項2】
胃粘膜障害治療剤である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
潰瘍治療剤である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤によって引き起こされる胃粘膜障害及び/又は潰瘍の治療剤である請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2011−246450(P2011−246450A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96696(P2011−96696)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】