説明

抗真菌性組成物及びその製造方法

【課題】 従来知見による技術では安全性が高く、優れた抗真菌活性の抗真菌性組成物及びその製造方法が工業的優位に出来ていない。即ち、一般の木酢液を主体とする抗真菌性組成物ではホルムアルデヒドや他の発ガン性物質が含まれており、また木酢液の強い臭気は不快を感を覚える人も多く、マスキング剤を添加しても消臭できなかった。
【解決手段】 ヒノキ木酢液をエーテル抽出し、更に分画することを特徴とするβカジネンを含むフェノール化合物の混合物は安全性が高く、木酢液特有の臭気もない。優れた抗真菌活性をもった抗真菌活性組成物として工業的優位に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水虫など治療予防の抗真菌性組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木炭製造の際、木材またはオガ屑を炭化するが、その副生成物として木酢液が採取される。木酢液の生成は木材またはオガ屑の熱分解によるものであり、その量は原料の木材またはオガ屑の約半量と非常に多い。これまで木酢液は、トイレ、し尿処理、家畜舎または魚市場などの悪臭の脱臭用、ヒノキやアカマツなどの種子をまく前に土壌に撒布する土壌消毒液として使用されている。そのほかにも雑草防除用、植物成長促進用、害虫忌避剤用、家畜飼料添加用など幅広い用途を持っているが、その利用の程度は生産量のほんのわずかにしか過ぎない。即ち木酢液の殆んどは目下、産業廃棄物として焼却または埋め立てされており有効利用が待たれている。
一方、植物の抽出物による白癬菌に対する抗菌殺菌作用を利用した水虫治療薬に関する提案は、従来より種々なされている。
【0003】
特開平8−359504号公報では木酢液を主剤として利用することが提案されている。しかしこの木酢液は異臭が強く患者に不快感を与える難点がある。また木酢液にはいろんな不純物が含まれている。
特開2001−288096号公報では木酢液に梅酢液を併用することを提案している。しかし異臭は梅酢液の持つ甘い香りによるマスキング効果で減少するものの、不快感は残っている。また木酢液のいろんな不純物はそのまま残っている。
【特許文献1】特開平8−359504号公報
【特許文献2】特開2001−288096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明は植物の抽出物を利用した新たな水虫治療予防物質を開発するものであり、産業廃棄物であるヒノキ木酢液を有効に活用出来、水虫など治療予防の抗真菌性組成物及びその製造方法を工業的優位に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはヒノキ木酢液中に含まれる化合物の生理活性性を鋭意研究した結果、βカジネンを含むフェノール化合物との混合物が白癬菌に対し、抗真菌活性に優れることを見出し、本発明を完結するに至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明の効果としては、先ず第1に悪臭などのしない水虫など治療予防の抗真菌性組成物を工業的優位に提供できることであり次には産業廃棄物を有効利用できることであり、しかも不純物を分画除去しており安全性が高いことである。すなわち、本発明の目的は産業廃棄物を利用して水虫など治療予防の抗真菌性組成物を工業上有利に提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるβカジネンは合成品でも良いが、ヒノキ木酢液をエーテル抽出し、更に分画して得られたフェノール成分をカラムクロマトグラフィーにより分画したものが産業廃棄物利用の点から好ましい。フェノール成分の内、2−メトキシ−4−メチルフェノールは単独では抗真菌活性を殆んど示さない。フェノール、O−クレゾール及びO−エチルフェノールも単独では夫々弱い抗真菌活性しか示さない。フェノール、O−クレゾール、O−エチルフェノール及び2−メトキシ−4−メチルフェノールはいずれもヒノキ木酢液をエーテル抽出し、更に分画して得られたフェノール成分をカラムクロマトグラフィーにより分画したβカジネンとともに含まれているのでそのまま利用でき、経済的である。即ち、ヒノキ木酢液をエーテル抽出し、更に分画して得られたフェノール成分をカラムクロマトグラフィーにより分画して得られるβカジネン、フェノール、O−クレゾール、O−エチルフェノール及び2−メトキシ−4−メチルフェノールの5成分混合物が抗真菌活性をあげる効果が優れていることが判明している。その抗真菌性活性発現に必要なβカジネン成分は少なくとも60%である。
【0008】
本発明におけるフェノール成分の製造は1例としてあげれば次の如くして行なわれる。先ず、ヒノキ木酢液に10%硫酸、飽和食塩水を添加してエチルエーテルで抽出を行ない、そのエーテル層に10%硫酸、飽和食塩水を添加してエーテル抽出を行なう。得られたエーテル層に40%亜硫酸水素ナトリウムを添加して、エーテル層を得る。更に10%炭酸ソーダ、20%食塩水を添加して得られたエーテル層にシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ワコーゲル C−200:和光純薬製)により分画して得られる。このフェノール成分をn−へキサン、n−へキサン/エチルエーテル(1:1)、エチルエーテルの各溶媒で転溶していき、この分画を繰返すことにより本発明に使用されるβカジネン、フェノール、O−クレゾール、O−エチルフェノール及び2−メトキシ−4−メチルフェノールが得られる。
【0009】
即ち本発明におけるβカジネン、フェノール、O−クレゾール、O−エチルフェノール及び2−メトキシ−4−メチルフェノールは前記の如くして得られたフェノール成分を更にカラムクロマトグラフィーで分画を繰返すことにより製造される。
【実施例】
【0010】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0011】
(抗真菌活性測定方法)内径35mmのシャーレにサブロウ培地1mlを入れ、サンプルのメタノール溶液(25〜200mg/ml)20mlと白癬菌の生理食塩水縣濁溶液50mlを加えた。メタノール20mlのみを加えた菌ブランク、メタノール20mlと生理食塩水50mlを加えたものを培地ブランクとした。30℃で静置培養した後、肉眼で菌の発育状態を観察した。発育状態の結果は、培地ブランクを0%、菌ブランクを100%として決定した。
【0012】
(白癬菌の保存)サブロウ寒天培地(ブドウ糖4g、ペプトン1g、寒天2gを純水1000mlに加温溶解し、試験管10本に分注して121℃で15分間高圧蒸気滅菌したもの)を用いて、30℃で3〜4日間斜面培養した。新しいコロニーが増殖した後、4℃で保存した。但し、1ヶ月ごとに白金耳で古いコロニーを新しい斜面培地に移植して継代した。
【0013】
(機器分析)ガスクロマトグラフィーは日立ガスクロマトグラフィーG−5000(キャピラリーカラム DB−1)型を用いた。成分の定性及び定量には日立製クロマトパックD−2500型を使用した。液体クロマトグラフィーは島津高速液体クロマトグラフLC−6AD、及び日本分析工業LC−09型を用いた。GC−MSスペクトルは日本電子JEOL−JMN−HX質量分析計を用いて測定した。
【0014】
・ 実施例1
ヒノキ木酢液20Lを分液ロートでエチルエーテル抽出し、エーテル濃縮後、2098gの抽出物を得た。常法(栗山旭、日本木材学会講要、16、190、1966)により、ヒノキ木酢液抽出物を中性成分(A)、塩基性成分(B)、フェノール成分(C)、酸性成分(D)およびカルボニル成分(E)に分画した。それらの抗真菌活性を測定した。
【表1】

上表よりフェノール成分(C)が良いことが判る。次に活性の認められたフェノール成分(C)についてシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ワコーゲル C−200 :和光純薬製)による分画を下表の如く行なった。
【表2】

フェノール成分をn−へキサン、n−へキサン−エーテル(1:1)、エーテルの各溶媒で転溶していき、C1−1〜C1−3の3成分に分画した。それぞれについて抗真菌活性を測定した結果、C1−1に最も活性が認められた。
【表3】

更にC1−1より分画した C−1〜C−7の抗真菌活性を測定した結果、C−2〜C−4に活性が認められた。次にC−2〜C−4より分画した C−1〜C−4の抗真菌活性を測定した結果、C−3に活性が認められた。C−3より分画した C−1〜C−4の抗真菌活性を測定した結果、C−3に活性が認められた。C−3より分画した C−1〜C−6の抗真菌活性を測定した結果、C−5に活性が認められた。C−5より分画したC−1〜C−4の抗真菌活性を測定した結果、C−2に優れた活性が認められた。GC−MSの開裂パターンによる同定を行なったところ、βカジネンが主体で他はフェノール、O−クレゾール、O−エチルフェノール及び2−メトキシ−4−メチルフェノールであった。
【0015】
・ 実施例2比較例1
実施例1で得られたβカジネン、フェノール、O−クレゾール、O−エチルフェノール及び2−メトキシ−4−メチルフェノール各化合物単独の抗真菌活性を各化合物の標品を用いて測定した。
【表4】

上表の如くフェノール、O−クレゾール、O−エチルフェノール及び2−メトキシ−4−メチルフェノール及びβカジネン各化合物は単独では強い抗真菌活性を示さなかった。しかしβカジネンと各種フェノール化合物が共存すれば抗真菌活性は著しく改善されることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は植物の抽出物を利用した新たな水虫治療予防物質を開発するものであり、産業廃棄物であるヒノキ木酢液を有効に活用出来、水虫など治療予防の抗真菌性組成物及びその製造方法を工業的優位に提供することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
βカジネンを含むフェノール化合物との混合物からなる抗真菌性組成物。
【請求項2】
フェノール化合物がフェノール、O−クレゾール、O−エチルフェノール及び2−メトキシ−4−メチルフェノールの1種類以上を含有することを特徴とする請求項1記載の抗真菌性組成物。
【請求項3】
ヒノキ木酢液をエーテル抽出し、更に分画して得られたフェノール成分をカラムクロマトグラフィーにより分画することを特徴とするβカジネンを含むフェノール化合物の混合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−91272(P2009−91272A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261506(P2007−261506)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(591210909)協同組合ラテスト (6)
【Fターム(参考)】