説明

抗線維素溶解処置のための組成物

本発明は、抗線維素溶解処置および様々な病因の出血および出血性合併症に有用な医薬の調製における、マトリックスメタロプロテイナーゼ-10(MMP-10)に対する中和抗体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗線維素溶解処置および過剰な線維素溶解状態または外科的処置に関連する出血性合併症のための医薬組成物の調製に関する。
【背景技術】
【0002】
止血系は、循環流動性を維持すること、および血管への攻撃に応答して出血を防止することに関与する。生理学的な止血は、凝固およびフィブリンの形成を促進する作用機序によって、およびその分解または線維素溶解を支持する作用機序によって制御される。凝固の過剰な活性化または線維素溶解の異常によって、血管を妨害する血餅の形成(血管内血栓形成)が起こり、虚血および壊死が引き起こされる。しかしながら、一般的な過剰な線維素溶解の状態は、出血の開始を助長する。
【0003】
凝固-線維素溶解系における先天性のまたは後天性の異常によって引き起こされる過剰な線維素溶解状態は、重大な出血性合併症の素因となる。かかる状態は、多量のプラスミノーゲン活性化因子を含有する器官、例えば前立腺、子宮および肺における血栓溶解処置ならびに手術と関連している。また、多くの医学的および/または外科的処置に続発する播種性血管内凝固(DIC)は、様々な器官における大量出血と関連する過剰な線維素溶解状態のプロトタイプを構成する。
【0004】
血液派生物(haemoderivative)の輸血後の他に、異常な凝固または線維素溶解の増大によって引き起こされる根本的な出血性生理病理学を有する疾患において、処置のための薬理学的測定ではしばしば抗線維素溶解性であるが、処置はおおよそ30%の症例において失敗している。
【0005】
抗線維素溶解処置によるフィブリン分解の阻害が模索されている。臨床処置において用いられる最も一般的なものは、リシン結合部位についてプラスミノーゲンと競合するリシンの合成類似体、例えばイプシロンアミノカプロン酸(EACA)およびトラネキサム酸(AMCHA)、および広域プロテアーゼ阻害スペクトルを有するウシ肺派生物であるアプロチニンである。
【0006】
これらの化合物は、様々な臨床医学的および外科的状況において、例えば、頭蓋内(intracraneal)出血、上昇した出血リスクを有する手術および血栓溶解処置に由来する合併症において、有効であることが示されている。
【0007】
外科的レベルにおいて、抗線維素溶解物質は、術後の出血を減少させることに加え、心臓、肝臓および整形外科における輸血および他の血液派生物に代わるものになり得る。しかしながら、これらの調製物の使用は、1つにはそれらの有効性を実証する研究が十分にないこと、またそれらが血栓溶解性合併症のリスクを増大させ得ることから、未だ一般化されていない(Mangano DT et al. The risk associated with aprotinin in cardiac surgery. (心臓手術におけるアプロチニンに関連するリスク)N Engl J Med 2006; 354: 353-365)。
【0008】
例えば、肝臓の手術において、基本的には肝臓移植において、抗線維素溶解剤、例えばアプロチニンおよびAMCHAの使用は、出血性合併症の軽減を達成するが、血栓溶解の問題を伴い得る(de Boer MT et al. Minimizing blood loss in liver transplants: progress through research and evolution of techniques.(肝臓移植における血液損失の最小化:研究による進展と技術の進歩)Dig Surg 2005; 22: 265-275)。
【0009】
頭蓋内出血において、抗線維素溶解剤は臨床実践ガイドに組み込まれていない(You H et al. Hemostatic drug therapies for acute intracerebral haemorrhage. (急性脳内出血のための止血薬治療)Cochrane Database Syst Rev 2006; CD005951)。脳出血の特定の場合において、血栓溶解処置の前または後における(primaria o secundaria a tratamiento trombolitico)組換え第VIIa因子の使用は、死亡率の減少(第VIIa因子を投与した患者の18%と比較してプラセボを投与した患者の29%)および神経学的後遺症の減少の観点において何らかの有利な効果を有すると思われる唯一の処置である(Mayer S.A., Brun N.C. et al.;「Recombinant Activated Factor VII Intracerebral Hemorrhage Trial Investigators. Recombinant activated Factor VII for acute intracerebral hemorrhage(組換え活性化第VII因子、脳内出血治験薬。急性脳内出血のための組換え活性化第VII因子)」; N Engl J Med. 2005; 352: 777-785)。
【0010】
播種性血管内凝固(DIC)は大量出血を含む別の臨床症状であり、DICにおいて現在の抗線維素溶解剤を投与することは、全身性(generalised)血栓症を助長するため禁忌となっている(Paramo JA. Coagulacion intravascular diseminada. (播種性血管内凝固)Med clin (Barc) 2006; 127: 785-9)。
【0011】
tPAまたはウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子による血栓溶解は急性の心臓発作および虚血性卒中における処置の選択肢の1つであるが、その使用には、高頻度の主な出血(症例の14%まで)および頭蓋内出血(症例の4%まで)が伴う。過剰な出血がある場合に、血液派生物による処置に加え、EACAまたはAMCHA型抗線維素溶解剤が示されるが、それらの使用は血栓の再発を助長し得る。
【0012】
抜歯後の過剰な出血は、先天性の凝固障害、例えば血友病Aを有する患者におけるより一般的な合併症の1つである。これらの状況において、抗線維素溶解剤および抗出血剤(例えばトラネキサム酸、デスモプレシンおよび第VII因子)の局所使用は、血餅の残留および出血の予防に貢献する(Franchini M et al. Dental procedures in adult patients with hereditary bleeding disorders: 10 years experience in three Italian Hemophila Centers. (遺伝性出血性疾患を有する成人患者における歯科処置:3つのイタリアの血友病センターにおける10年間の研究)Haemophilia 2005; 11: 504-509)。
【0013】
抗線維素溶解剤は、先天性凝固障害に関連する月経過多を有する女性において、ホルモン治療と組み合わせて行われる最初の処置でもある(Demers C et al. Gynaecological and obstetric management of women with inherited bleeding disorders. (遺伝性出血性障害を有する女性の婦人科および産科管理)J Obstet Gynaecol 2005; 27: 707-732)。
【0014】
フィブリンゲルによる局所処置の適用は、手術創に関係する出血の防止において進歩的であったが、その臨床使用は未だ確立されていない(Gabay M. Absorbable hemostatic agents. Am J Health Syst Pharm. 2006; 63: 1244-53)。
【0015】
MMP阻害剤の静脈内または局所適用は、止血をより迅速に回復させ、局所的出血性合併症またはtPAに関連する出血性合併症を減少させ(Lapchak PA, Araujo DM. Reducing bleeding complications after thrombolytic therapy for stroke: clinical potential of metalloproteinase inhibitors and spin trap agents. (卒中のための血栓溶解治療後の出血性合併症を減少させる:メタロプロテイナーゼ阻害剤およびスピントラップ剤の臨床的潜在性)CNS Drugs. 2001; 15 :819-29)、血餅の残存、手術創の修復および治癒を促進することができる。これは有望な戦略的選択肢であるが、MMP阻害剤を用いるほとんどの臨床試験は、用いる用量が少ないために(効力対毒性)、または観察される副作用のために(筋骨格症候群)失敗している。特異的MMPに関連する分子メカニズムのみを阻止する、より選択的な阻害剤を発見し、それにより有害作用を回避することが必要であろう(Peterson JT. The importance of estimating the therapeutic index in the development of matrix metalloproteinase inhibitors. (マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤の開発における治療指数の推定の重要性)Cardiovasc Res. 2006; 69: 677-687)。
【0016】
本発明の目的は、抗線維素溶解処置のための、および出血性合併症のための、フィブリン血餅の溶解を阻害する新たな別の治療的組成物を提供することである。
【発明の概要】
【0017】
発明の詳細な説明
第一の側面において、本発明は、抗線維素溶解処置のための医薬の調製における、マトリックスメタロプロテイナーゼ-10(MMP-10)を中和する抗体の使用に関する。
【0018】
MMP-10(酵素コードEC番号3.4.24.22)は、マトリックスメタロペプチダーゼ、ストロメライシン-2(STMY2)、トランシン(transin)-2またはプロテオグリカナーゼ(proteoglycanase)-2とも呼ばれる。ヒトにおいて、MMP-10をコードする遺伝子は染色体11上に位置する(11q22.3;HUGO遺伝子命名委員会(Gene Nomenclature Committee)HGNC-ID: 7156;UniProtKB/Swiss-Protアクセッション番号:P09238)。
【0019】
このメタロプロテイナーゼは様々な細胞種、例えば内皮細胞、単球および線維芽細胞によって発現される。それは、プラスミン、カリクレイン(calicrein)、トリプターゼ、エラスターゼおよびカテプシンGによって活性化され得、広範な細胞外マトリクス基質、例えば、アグリカン(agrecane)、エラスチン、フィブロネクチン、ゼラチン、ラミニン、テネイシン-C、ビトロネクチンおよびII、III、IV、IX、XおよびXI型コラーゲンを分解し得ることが知られている。MMP-10は、他のマトリックスメタロプロテイナーゼ、例えば、proMMP-1、-3、-7、-8および-9も活性化し得る(Nakamura H et al.; Eur. J. Biochem., 1998; 253: 67-75)。
【0020】
MMP-10は様々な生理学的過程、例えば骨成長および創傷治癒に関与することも知られている。MMP-10はまた、糖尿病性網膜症を有する患者の角膜において過剰発現され、いくつかのタイプの細胞腫およびリンパ系腫瘍とも関連づけられている。様々なイン・ビトロ研究によって、ケラチノサイト培養物におけるMMP-10の発現は、増殖因子(ケラチノサイトの上皮増殖因子またはTGF-ベータ)によって、および炎症誘発性サイトカイン(TNF-アルファ、IL-1ベータ)によって誘導され得ることが実証されている(Rechardt O et al.; J. Invest. Dermatol., 2000; 115: 778-787);(Li de Q et al.; Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 2003; 44: 2928-2936)。
【0021】
同様に、本発明より以前の情報において、MMP-10は以下のように報告されている:
− 血管リスクの炎症性バイオマーカーであり得る(Montero I et al.; J. Am. Col. Cardiol., 2006; 47: 1369-1378);(Orbe J et al.; J. Thromb. Haemost.; 2007; 5 : 91-97);
− 3Dコラーゲンマトリックス中の毛細血管を形成する内皮細胞において誘導され、MMP-1の活性化による毛細血管形成の退縮に関与する(Saunders WB et al.; J. Cell Sci., 2005; 118 :2325-2340);および
− 再構築および血管新生過程における血管の完全性を保存する細胞内団結(uniones)の保持において基本的役割を果たす(Chang S et al.; Cell, 2006; 126: 321-334)、
− 創傷の治癒、ケラチノサイトの遊走の増大、およびマトリックスタンパク質のタンパク質分解により起こる組織再編成に関与する(Krampert M, et al.; Mol Biol Cell, 2004; 5242-5254)。
【0022】
本発明において、ヒト血漿において、ならびに重合フィブリンの分解の他のイン・ビトロモデルにおいて、血餅の形成および溶解に対するMMP-10およびMMP-3の効果を研究した。
【0023】
本発明者らは、MMP-10は直接的な血栓溶解活性を有さず、それ自体は血餅形成を変化させることも、フィブリンを分解することもできないことを示すことができた。驚いたことに、本発明者らは、血栓溶解活性化剤、特にプラスミノーゲン活性化因子の存在下において、MMP-10はフィブリン血餅の溶解を促進し、溶解時間を減少させることも見出した。それ故に、MMP-10は、他の血栓溶解活性化因子の血栓溶解作用の促進剤またはアジュバントとして働く。
【0024】
対照的に、フィブリンおよびフィブリノゲンに対して直接的なタンパク質分解活性を有する線維素溶解性マトリックスメタロプロテイナーゼ、例えばMMP-3は、血栓溶解の活性化因子自体が行う血餅溶解の時間を減少させることはない。
【0025】
さらに驚いたことに、本発明者らは、MMP-10に特異的な抗体を加えると、MMP-10の効果を阻害することができ、これにより、線維素溶解活性化因子の存在下においてでさえも、血餅溶解を完全に阻止できることを見出した。
【0026】
結果として、MMP-10阻害剤、例えば抗体は、
1.−プラスミノーゲン活性化因子の存在下においてでさえも、フィブリン血餅の溶解を減少させるおよび阻止する能力、
2.−フィブリン血餅の形成を変化させない分子であること
によって、医学的および外科的領域における出血の制御において顕著な利点を表し得、ならびに線維素溶解障害に起因する過剰な出血を有する患者における輸血に代わるものとなり得る。
【0027】
MMP-10は、止血系とは独立した作用機序によって作用するタンパク質ではなく、従来の抗線維素溶解剤の血栓溶解合併症を示さない。
【0028】
さらに、MMP-10の選択的な阻止は、非選択的なMMPの阻害と関連する副作用、例えば筋骨格症候群(他のMMP、例えばMMP-9およびMMP-14が結びつけられている)を引き起こさないであろう。
【0029】
MMP-10中和抗体
第一に、本発明の文脈において、「抗体」なる用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ(kimeric)抗体、ヒト化抗体および完全ヒト化抗体を含む。
【0030】
ポリクローナル抗体は、そもそもは、抗原により免疫化された動物の血清において産生される抗体分子の不均一な混合物である。それらは、例えば目的の抗原の単一エピトープのペプチドを含むカラムにおけるクロマトグラフィーによって、不均一の混合物から得られる単一特異性のポリクローナル抗体も含む。
【0031】
モノクローナル抗体は、抗原の単一エピトープに特異的な抗体の均一な集団である。これらのモノクローナル抗体は、先に報告されている従来技術、例えばKohlerおよびMilstein(Nature, 1975; 256: 495-397)またはHarlowおよびLane(E. HarlowおよびD. Laneによる「Using Antibodies. A Laboratory Manual(抗体の使用。研究室マニュアル)」、発行元:Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York; 1998(ISBN 978-0879695439))によって調製することができる。
【0032】
キメラ抗体は、種々の動物種からの抗体のクローニングまたは組換えによって構築されたモノクローナル抗体である。本発明の、典型的であるが限定するものではない構成において、キメラ抗体は、モノクローナル抗体の一部、一般に抗原を認識し結合する部位を含む可変領域(Fv)およびヒト抗体に対応する別の部分、一般に定常領域および隣接する定常領域などの部分を含む。
【0033】
ヒト化抗体は、ネズミモノクローナル抗体の高頻度可変性相補性決定領域(CDR)をヒト抗体にクローニングし、グラフトして、それ自体の高頻度可変性CDRを置換することによって構築されたモノクローナル抗体である。
【0034】
ヒト抗体は総じて、ヒト免疫系を含むトランスジェニック動物において、またはイン・ビトロにおけるヒト免疫性細胞の免疫化(アジュバントを用いるまたは用いない、純粋なまたは純粋でない抗原を用いる、遺伝子による免疫法および伝統的な免疫法の両方を含む;または抗原を免疫系に曝すいずれかの方法による)によって、またはヒト免疫性細胞から産生されるネイティブ/合成ライブラリーによって、産生された1つのまたは複数の抗体である。これらの抗体は、ヒトイムノグロブリンの遺伝子がクローニングされ、標的抗原によって免疫化されているトランスジェニック動物(例えばマウス)から得られ、選択され得る。同様に、これらの抗体は、単鎖可変フラグメント(scFv)の選択によって、またはファージライブラリー(ファージディスプレイ)に提示されたヒト抗原(Fab)への結合およびその後のヒト抗体へのクローニングおよびグラフトによって、または両方の鎖の可変領域をクローニングし、その後に抗体ライブラリーを作成するためにこれらを組合せ/突然変異させることにより作製されたライブラリーによる産生およびディスプレイのいずれかの他の方法によって、得ることができる。
【0035】
また、本発明の抗体は、いずれかのイムノグロブリンクラスまたはサブクラス、特にIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEであり得る。
【0036】
特定の実施態様において、抗体は、天然イムノグロブリンに典型的な全ての機能性領域、特に抗原を認識し特異的に結合する領域を含む完全抗体である。
【0037】
第二に、「抗体」なる用語は、タンパク質から得られる、または組換え技術によって得られる抗体フラグメントであって、原核生物、酵母または真核生物において発現され、グリコシル化または脱グリコシル化され、そして、結合ペプチドによって互いに連結した抗体の可変領域(scFv)、または重鎖のCHI定常領域の隣の可変領域(Fd)とシステインによりもしくは結合ペプチドおよびジスルフィド架橋により連結した軽鎖(scFab)からなり得る抗体フラグメント、あるいは新規な変異体、例えば重鎖のみ、または、それらがより特異的になるように、免疫原性がより低くなるように(ヒト化)または生物学的液体においてより安定になるようにそれらから作製された修飾物であって、MMP-10の活性中心もしくはその活性を減少させるMMP-10タンパク質の他のいずれかのドメインへの結合によってMMP-10を阻害する能力を有するいずれかの修飾物、も含む。
【0038】
本発明の文脈において、MMP-10の「中和」または「アンタゴニスト」抗体なる用語は、上記の用語において定義された、ナノモーラーまたはピコモーラー範囲における親和性によってMMP-10を認識し、特異的に結合することができる抗体を意味する。また、この抗体は、MMP-10の活性を、総合的にまたは部分的に阻害するまたは阻止することができる。特に、この抗体は、フィブリン血餅の溶解の促進剤としてのMMP-10の溶解時間を減少させる作用(線維素溶解性-血栓溶解活性)を阻害または阻止することができる。特定の実施態様において、中和抗体はプラスミノーゲン活性化因子(tPA、uPAなど)に対してMMP-10がなすアジュバント作用を阻害する。
【0039】
MMP-10中和抗体の獲得
本発明の中和抗体は、抗体を産生するために既に知られている従来法によって産生することができる。限定するものではないが、用いられる方法は以下を含み得る:動物における免疫化技術(ヒトイムノグロブリン遺伝子についてのトランスジェニック動物を含む)、ハイブリドーマによるモノクローナル抗体の産生、抗体ライブラリーによる産生、ここで、ライブラリーは、ネイティブであり得、または合成であり得、または目的の抗原に対して免疫化された生物体に由来し得、そして、提示またはディスプレイ(ファージディスプレイ、リボソームディスプレイなど)の多種の方法によって選択され得、その後遺伝子工学技術によって、種々のサイズ、組成および構造の組換え抗体の産生のために設計されたベクターにおいて再設計され発現され得る。抗体の産生および精製のための主な方法の総説は、以下に見ることができる:
「Handbook of Therapeutic Antibodies(治療的抗体のハンドブック)」、S. Dubel、発行元:Wiley-VCH、2007、第I〜III巻(ISBN 978-3527314539);
「Antibodies: Volume 1: Production and Purification(抗体:第1巻:産生および精製)」、G. Subramanian編、発行元:Springer、第1版、2004(ISBN 978-0306482458);
「Antibodies: Volume 2: Novel Technologies and Therapeutic Use(抗体:第2巻:新技術と治療的使用)」G. Subramanian編、発行元:Springer、第1版、2004(ISBN 978-0306483158);
「Molecular Cloning: a Laboratory manual(分子クローニング:研究室マニュアル)」、J. SambrookおよびD.W. Russelら編、発行元:Cold Spring Harbour Laboratory Press、第3版、2001(ISBN 978-0879695774)。
【0040】
本発明の特定の非限定的な実施態様において、MMP-10の中和モノクローナル抗体を得る、および産生する方法には、以下の工程が含まれ得る:
1.−MMP-10またはMMP-10の免疫原性フラグメントまたはMMP-10もしくは誘導体を含有するプラスミドの溶液によってマウスを免疫化する。
【0041】
2.−ウェスタンブロット、ELISAまたは免疫細胞化学によって、抗原に対するポリクローナル反応によりそれらの動物を選択する。
【0042】
3.−動物の脾臓と骨髄腫細胞(SP2/O-Ag14;P3X63-Ag8.6.5.3;P3-NS-l-Ag4-1;など)との融合を行って種々の細胞種間のハイブリッドを作製する:抗体を産生し、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン)培地を含む培養物において不死である、動物リンパ球Bと骨髄腫細胞とのハイブリッドを選択する。
【0043】
4.−目的の抗体、言い換えると、MMP-10の活性を阻害する抗体を分泌するハイブリドーマを選択する。これを行うために、ハイブリドーマを含有する全てのウェルの上清のサンプルを採取して、それらをイムノアッセイに供する:ngまたはμg量のMMP-10によって被覆したプレートを用いてELISAアッセイを行う;15時間4℃にてインキュベーションし、適切なタンパク質によってブロッキングした後、培養物の上清を加え、ウェルを洗浄し、次いで二次マウス抗イムノグロブリンを加える。洗浄し、酵素反応によって現像した後、色が検出される、または吸光度が増大するウェルは、MMP-10に対する抗体を分泌するハイブリドーマのクローンを含有し得る。
【0044】
5.−蛍光発生基質を用いるアッセイを行うことにより、MMP-10の活性を阻害することができるハイブリドーマを選択する。様々な濃度の抗MMP-10抗体(R&D systems、Clon110343)により被覆したマイクロプレートおよびストロメライシンの蛍光発生基質(MCA-Arg-Pro-Lys-Pro-Val-Glu-Nval-Trp-Arg-Lys-[DNP]-NH2)(R&D systems;ES002, Abingdon, UK)を用いる。蛍光(320 nm励起および405 nm発光)を分光蛍光光度計(SpectraMAX GeminiXS, Molecular Devices, CA, USA)において2時間の間5分ごとに読みとって測定する。一定濃度の活性MMP-10に関して、そのタンパク質とともに37℃にて30分間プレインキュベーションした後に、最低濃度にて、MMP-10の活性を少なくとも50%減少させる(IC50)ハイブリッドを選択する。
【0045】
選択した上清が由来するウェル中の抗体産生細胞を成長させ液体窒素中において凍結させた。
【0046】
6.−抗MMP-10抗体を分泌する細胞の各培養物がモノクローナルであることを保証する。クローニングまたは限界希釈の技術を適用し、はじめのELISAアッセイおよび活性アッセイにおいて陽性であるオリジナルの培養物または幹細胞から出発する新たな培養マイクロプレート中において単離細胞を成長させる。1以上の細胞から生じる新たなコロニーがひとたび十分なサイズを得れば、これらの新たな上清を採取し、それらを新たなELISAおよび活性アッセイに供する。分析した上清の100%がMMP-10の活性に対する抗体を含有するようになるまでこの過程を繰り返す。
【0047】
7.−AKTA FPLC装置(GE Healthcare Bio-Science)において、液体クロマトグラフィー(免疫親和性、アフィニティー、カチオン交換、ヒドロキシアパタイト、疎水性相互作用、ゲル濾過などのクロマトグラフィー)によって上清から抗体を精製する。
【0048】
8.−最後に、選択した抗体の純度、特異性、親和性および線維素溶解性活性を分析する。
【0049】
抗体の純度は、例えば、単一のバンドの存在を実証するためにクーマシーブルー(Coomassie blue)により染色するポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって決定することができる。
【0050】
抗体の特異性は、ng〜μg濃度における他のメタロプロテアーゼ(特にその抗体が最大のホモロジーを共有するMMP-3)に対するウェスタンブロットおよび化学発光による現像によって決定することができる。
【0051】
抗体の親和性定数は、MMP-10により被覆したELISAの、抗体の増大する濃度に対する吸光度の値を表示することにより得られる勾配として定義される解離定数(Kd)から算出することができる。
【0052】
この抗体の線維素溶解性活性の中和能は、比濁法形成アッセイおよびフィブリン血餅の溶解によって、および重合フィブリンアッセイにおいて、例えば実施例1および2に記載のアッセイによって分析することができる。
【0053】
さらに、MMP-10中和抗体をコードする核酸は、MMP-10の中和剤であるキメラまたはヒト化抗体を得るための中間産物であり得る。
【0054】
上記にもかかわらず、MMP-10の中和抗体を産生する方法は決定的に重要な側面ではなく、それ故に当業者であれば、本発明の抗体を、抗体を産生するためのいずれかの従来法によって容易に産生することができる。
【0055】
抗線維素溶解処置のための治療指標
一般に、MMP-10中和抗体(またはそれを含有する医薬)は、抗線維素溶解処置に有用である。
【0056】
特定の実施態様において、本発明の抗体は、出血または出血性合併症の処置、予防または治療に有用である。
【0057】
いくつかの場合において、処置すべき出血性合併症は、先天性異常(血友病A、フォン・ヴィルブランド病、PAI-1またはアルファ2-抗プラスミン因子欠損症)または後天性の合併症、例えば抗凝固剤による処置に由来する合併症に起因し得る過剰な線維素溶解状態および凝固異常を有する患者において、または播種性血管内凝固(DIC)、線維素溶解活性化因子が豊富な組織もしくは器官の何らかの手術または腫瘍を有する患者において、またはプラスミノーゲン活性化因子の除去に失敗する状況、例えば、重篤な肝臓疾患またはDICに関連する急性前骨髄球性白血病において、生じ得る。
【0058】
過剰出血性合併症には特に、これらの月経性の出血(月経過多)、胃腸の出血、尿中の出血、歯の出血、および特に上述の要因のいくつか(血友病A、フォン・ヴィルブランド病、抗凝固処置、DICなど)のための凝固異常を有する患者における出血が含まれる。
【0059】
他の場合において、処置すべき出血および出血性合併症は、外科的処置(移植および生検を含む一般的な手術)、特にプラスミノーゲン活性化因子が豊富な器官(前立腺、肺、子宮)の手術、および上述のような過剰な線維素溶解状態の患者または凝固異常を有する患者の手術において起こり得る。これらの場合において、本発明の目的は、手術に由来する出血を、MMP-10中和抗体を含む医薬による処置(手術の前、最中および/または後)によって減少させることである。
【0060】
また、抗MMP-10抗体の局所使用は、血管移植を行った後に血管連絡を回復させるのに有用であり得、手術創に関する出血を防ぐためのフィブリンゲルタイプの製剤中の本阻害剤を含む。
【0061】
本発明の文脈において、「処置」なる用語は、過剰な線維素溶解状態の症候、合併症または生化学的徴候の発症を防止するまたは減少させるための、とりわけ出血性事象が早期に表れることを防ぐための、MMP-10中和抗体を含有する医薬の投与を含む。処置は、臨床症候または無症候の症候が現れるのを防ぐための予防的処置であり得る。症候が現れた後に症候を抑制するまたは軽減することも治療的処置であり得、輸血に代わるものが必要な場合にその代替物になり得る。
【0062】
医薬組成物
本発明によると、抗線維素溶解処置のための医薬としての医薬組成物の調製において中和抗体を使用する。
【0063】
本医薬組成物は、製薬的に許容される媒体中に少なくともMMP-10中和抗体を含む。
【0064】
本発明の抗体または医薬組成物は、非経口投与、例えば皮下、筋肉内または静脈内投与に特に有用である。
【0065】
本発明の特別な、しかし限定するものではない実施態様において、医薬組成物は、許容される媒体、例えば水性媒体、例えば、水、緩衝用水、生理食塩水、グリシンまたは他の類似の媒体中に溶解した、MMP-10に対する1つまたは複数の中和抗体の溶液を含有する。これらの溶液は滅菌され、一般に微粒子を含まない。医薬組成物は、他のさらなる成分、例えば、pH調整剤、保存剤などを含有し得る。
【0066】
別の実施態様において、医薬組成物は、ゲルまたはペーストの形態にて、またはさらには抜歯後の出血の場合に口腔洗浄薬の飲用可能なアンプルの形態にて、局所投与に適し得る。
【0067】
医薬投与の様々な組成物および医薬的形態、およびそれらを得るのに必要な賦形剤の総説は、例えば、「Tecnologia farmaceutica(製薬技術)」、J.L. Vila Jato、1997、第IおよびII巻、Ed. Sintesis、Madrid;または「Handbook of pharmaceutical manufacturing formulations(製薬のハンドブック)」、S. K. Niazi、2004、第I〜VI巻、CRC Press、Boca Ratonに見ることができる。
【0068】
媒体と組み合わせて単一用量形態を作製することができる活性成分(抗体)の量は、一般に治療効果を生じる量であろう。投与単位の形態に非経口の医薬組成物を調製することによって、その用量の投与および均一性が促進されるので、これは非常に有利である。これらの投与単位は、当業者が従来技術に従って、また達成することが望ましい具体的治療効果および具体的治療指標を考慮に入れて、調製することができる。
【0069】
本発明の医薬組成物の有効量は、これが予防的または治療的処置であるならば、投与方法および経路、作用の標的部位、患者の生理学的状態、他の投与薬物などの複数の因子に依拠するであろう。しかしながら、特定の実施態様において、本発明の中和抗体の投与すべき投与単位は、1.0〜10.0 mg/kgであろう。典型的には、投与計画は本発明の抗体を含む組成物の繰り返し投与を含むであろう。その各投与間の間隔は、毎日、毎週、毎月、隔月、または患者の必要性(具体的指標、重症度など)に従って、また一般的な標準製薬プロトコールに応じて薬理学者が確立するいずれかの他の間隔であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1:実験期間(分)に対する405 nmにおける吸光度の値として表す再石灰化血漿の比濁法アッセイ。A:グラフは、血漿のみの(対照)、またはMMP-10(200 nM)もしくはMMP-3(200 nM)の存在下における血餅形成(最大吸光度)の差異を示す;B:グラフは、プラスミノーゲン活性化因子tPA(30 U/ml)およびuPA(135 U/ml)のみまたはMMP-10(200 nM)との組み合わせの存在下における、およびtPA(30 U/ml)と組み合わせた当量のMMP-3(200 nM)の存在下における、再石灰化血漿フィブリン血餅の形成および溶解を示す。
【図2】図2: tPA(1 U/ml)およびMMP-10(200 nM)のみにより、または一緒に加えたことにより生じた溶解の領域を示す、重合フィブリンプラーク。
【図3】図3:ストロメライシンの蛍光性基質による血漿におけるMMP-10(100 nM)活性のアッセイ。血漿においてMMP-10の活性を阻害するモノクローナル抗体(MAb)の濃度を基質形成勾配における減少によって決定した。IgGアイソタイプ抗体を対照として用いた。
【図4】図4:MMP-10の活性を阻害する抗体によるウェスタンブロット。分子量マーカー(レーン1)、MMP-1(レーン3)、MMP-3(レーン3)、MMP-10(レーン4)。MMP-10活性の抗体阻害剤はMMP-10酵素前駆体(55 kDa)および活性酵素(45 kDa)のみを認識し、他のメタロプロテアーゼとのいずれの交差反応も示さない。
【図5】図5:MMP-10の活性を阻害するモノクローナル抗体(MAb)およびIgGアイソタイプ対照抗体の存在下または非存在下における、MMP-10(200 nM)による再石灰化血漿の比濁法アッセイ。
【図6】図6:MMP-10の活性を阻害するモノクローナル抗体(MAb)およびIgGアイソタイプ対照抗体の存在下または非存在下における、tPA(1 U/ml)およびMMP-10(200 nM)により生じる溶解の領域の差異を示すフィブリンプラーク。
【発明を実施するための形態】
【0071】
実施例
マトリックスメタロプロテイナーゼMMP-10およびMMP-3の、直接の、または他のプラスミノーゲン活性化因子:ウロキナーゼ(uPA)および組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)と組み合わせた、線維素溶解性および血栓溶解活性に対する効果を例証する実施例を以下に記載する。
【0072】
実施例において、以下のものを用いた:
− 組換えMMP-10は、20-30%の48 kDaの成熟酵素を含む58 kDaの酵素前駆体として得(R&D Systems、910-MP、Abingdon、UK)、TCNB緩衝液(50 mMトリス-HCl、pH 7.5、10 mM CaCl2、150 mM NaCl、0.05% Brij35)によって再構成した。
【0073】
− 組換えMMP-3は、52 kDaの酵素前駆体として得(R&D Systems、513-MP、Abingdon、UK)、12.5 mMトリス、5 mM CaCl2、0.025% Brij35および50%グリセリンを含む溶液中に供給した。
【0074】
− ウロキナーゼ(uPA)(Vedim Pharma SA;628602、Barcelona、Spain)。
【0075】
− 組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)(Boerhinger Ingelheim;985937 Actilyse(登録商標)、Ingelheim、Germany)。
【0076】
血栓溶解活性の評価において、比濁法を用いて、von dern Borneらによって先に報告されたプロトコールに従い(Blood, 1995; 86: 3035-3042)、血漿のサンプルにおけるフィブリン血餅の形成および溶解をモニターした。
【0077】
また、フィブリン溶解に対する活性を評価するために、フィブリンプラークについてのアッセイをEdwardにより報告された手順に従って(J. Clin. Path., 1972; 25: 335-337)用いた。
【実施例1】
【0078】
実施例1:血餅の形成および溶解に対するMMP-10およびMMP-3の効果
上述のように、MMP-10およびMMP-3の止血系に対する効果を、von dern Borneらにより報告された手順に従って評価した。この方法において、血餅の形成および溶解過程の指標として濁度/吸光度の変化を、両過程について経時的に調べた。濁度の測定は、血餅の形成および溶解段階の間に光度計リーダー、本件の場合ELISAリーダー(Fluostar Optima, BMG Labtech)を用いて405 nmにおける吸光度を読むことにより行った。濁度/吸光度の増加はフィブリン血餅の形成を示し、一方このパラメーターの減少は血餅の溶解を示す。
【0079】
血餅の形成において、クエン酸血漿75μl、HEPES緩衝液75μl(25 mM HEPES、137 mM NaCl、3.5 mM KCl、6 mM CaCl2、1.2 mM MgCl2、および0.1%BSA、pH=7.5)および150 mM CaCl2 10μlを、マイクロプレートウェル中において混合した。そのプレートを37℃にてインキュベートし、405 nmの吸光度を2時間の間30秒毎に読みとって測定した。
【0080】
血餅形成に対するMMP-10の効果を調べるために、活性化MMP-10(50、100および200 nM)を、血漿およびHEPES緩衝液のはじめの混合物に加えた。それを実験に使用する前に、1時間37℃にて温度処理してMMP-10を活性化させた。
【0081】
平行したアッセイにおいて、MMP-3(200 nM)による血餅形成に対する効果も分析した。この場合において、MMP-3をはじめに1 mM p-アミノフェニル水銀アセテート(APMA、164610、MD Biosciences、La Jolla、USA)によって37℃にて24時間活性化させた。
【0082】
図1Aに見られるように、用いたいずれの用量(表1)においても、MMP-10は血餅形成速度も、到達した最大濁度も変化させなかった。しかしながら、MMP-3は、おそらくフィブリノゲンに対するその直接的なタンパク質分解作用によって、形成される血餅の最大吸光度/濁度を50%減少させた。
【0083】
これらの結果は、MMP-10は、MMP-3における記載とは対照的に、フィブリノゲンに対して何ら活性を持たないので、血餅形成速度を変化させないことを示している。
【0084】
次に、フィブリン血餅溶解速度を調べた。上記の項におけるように、HEPES緩衝液中の再石灰化した血漿を用い、比濁法測定の開始時に、30 U/ml組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)または135 U/mlウロキナーゼ(uPA)から選択したプラスミノーゲン活性化因子と同時にMMP-10(またはMMP-3)を加えた。
【0085】
用いるべきtPAおよびuPAの濃度は、先の用量反応研究(そこでは選択された用量は2時間の間にフィブリン血餅を完全に溶解した用量であった)において決定した。
【0086】
図1Bおよび表1に見られるように、MMP-10はtPAおよびuPAの非存在下においてはフィブリン血餅の溶解を引き起こさなかったが、それら2つの活性化因子tPAまたはuPAの存在下においては、フィブリン血餅の溶解速度を有意に増大させた。試験した最大用量のMMP-10(200 nM)によって、溶解時間(血餅の半分が溶解した時間)の減少は、tPAの存在下においては15分であり(68.3分に対して52.9分、p<0.01)、uPAの存在下においては5分であった(47.5分に対して42分、p<0.05)。この溶解時間の減少は、tPAの存在下における20%の減少、およびuPAによる10%の減少を表している。
【0087】
対照的に、MMP-3はtPAの存在下において血餅溶解速度を変化させなかった。
【0088】
これらの結果は、MMP-10は、MMP-3とは対照的に、フィブリンを消化することはできないが、プラスミノーゲンおよび線維素溶解活性化因子(tPAおよびuPA)の線維素溶解性効果を増大させることを示している。内因性の線維素溶解に作用する能力を持たないMMP-10は、出血の開始を防ぐまたは減弱し得、これにより血栓溶解治療における補助剤(co-adjuvant)として用いる良好な候補となる。
【0089】
【表1】

【実施例2】
【0090】
実施例2:フィブリンの分解に対するMMP-10の効果
上述のEdwardの手順に従って、フィブリン溶解に対する効果を、重合フィブリンプラークに対して起こった溶解のハローまたは領域を測定することによって調べた。
【0091】
フィブリンプラークは、37℃のベロナール緩衝液(BioWhittaker、12-624E、Cambrex、MD, USA)中の6 mg/mlのヒトフィブリノゲン(Sigma、F3879、Saint Louis、MO、USA)の溶液から出発し、濾過し、等量の50 mM CaCl2を加えて調製した。この溶液(6 ml)を1国際単位(NIH単位)のトロンビン(Enzyme Research Lab;HT1200a、Swansea、UK)と混合し、6時間重合させた。
【0092】
種々のフィブリンプラークに対する線維素溶解能を評価するために、tPA(1 U/mI)、MMP-10(200 nM)または両方の組合せを加えた。
【0093】
図2に見られるように、MMP-10のみでは重合フィブリンの溶解は生じなかったが、tPAは著しいハローを作り出した。しかしながら、tPAとMMP-10との組み合わせでは、重合フィブリンの溶解領域が顕著に増大し(188.6%)、この事実は、線維素溶解剤としてのプラスミノーゲン活性化因子と組合せたMPP-10の線維素溶解に対する促進効果を確証づけている。
【実施例3】
【0094】
実施例3:tPAにより誘導された線維素溶解および血餅溶解の抗MMP-10抗体による阻害
実施例1および2の結果による、tPAにより誘導された血餅におけるフィブリン溶解に対するMMP-10の効果の特異性を、種々の用量の活性MMP-10を、その活性を阻止するモノクローナル抗体(R&D Systems、MAB9101、Abingdon、UK)の存在下(1:2の比)および非存在下において、または同じ濃度のネズミIgG2Bアイソタイプ対照(eBioscience、16-4732、San Diego, CA, USA)の存在下および非存在下において、同時に加えることによって分析した。
【0095】
酵素活性を阻止した、酵素:抗体の比は、蛍光発生ストロメライシン基質(MCA-Arg-Pro-Lys-Pro-Val-Glu-Nval-Trp-Arg-Lys-[DNP]-NH2)(R&D Systems;ES002、Abingdon, UK)を用いる、抗MMP-10抗体(R&D Systems、Clon110343)によって被覆したマイクロプレートにおける、MMP-10についての活性試験において先に試験されていた(Lombard et al.; Biochimie, 2005; 87: 265-272)。蛍光(320 nm励起および405 nm発光)を分光蛍光光度計(SpectraMAX GeminiXS、Molecular Devices、CA, USA)において1時間測定し、1:2の比によってその濃度の活性酵素が完全に阻害されたことを証明した(図3)。
【0096】
抗体の特異性をウェスタンブロットによって調べ、他のメタロプロテアーゼとの交差反応の存在の可能性を排除した(図4)。MMP-10阻害抗体は、メタロプロテアーゼファミリーにおいて、特に他のストロメライシンMMP-3と高ホモロジーであるにもかかわらず、このメタロプロテアーゼのみを認識し、これに対して特異的阻害を行った。
【0097】
この結果は、線維素溶解に対する補助剤的効果は、抗MMP-10抗体の存在下において減少したので、MMP-10に特異的であることを示している。この効果は、血漿MMP-10の抗体を加えてその内因性活性を阻止した際に非常に著しかった(図5)。この結果は、血漿中にMMP-10が存在しないことによって、tPAまたはuPAの存在下においてでさえフィブリン血餅の溶解が防止されることを確証付けている(表1)。
【0098】
これらの結果は、重合フィブリンプラークに対する試験において確認された。図6に示すように、抗MMP-10抗体の存在下において、組合せtPA:MMP-10により生じる溶解の領域は減少した(188.6%に対して91.2%)が、対照抗体は何ら効果を有さなかった(184.6%)。これらのデータは、MMP-10に対する特異的抗体の使用によって、フィブリン血餅の薬理学的溶解が中和され阻止されることを確証付けている。
【実施例4】
【0099】
実施例4:出血時間
MMP-10の不在の効果を分析するために、1月齢の17匹のMMP-10ノックアウトマウス(KO)および14匹の野生型マウス(WT)における出血時間を調べた。これらの動物をケタミン(100 mg/kg)およびキシラジン(5 mg/kg)の混合物を腹腔内に用いて麻酔し、37℃にて保温毛布において維持した。尻尾の最後の5 mmをメスで切り、37℃にて0.9%NaCl 1 ml中に浸した。出血の開始から、血液が流れるのが自発的に止まるまでの時間を測定した。また、生理食塩水中に採取した血液の560 nmにおける吸光度によって血液損失量を測定し、その結果を既知の体積のマウス血液により作成した標準曲線と比較した。
【0100】
結果
出血時間によって、止血についてのイン・ビボにおけるさらなる測定値が得られる。
【0101】
表2に見られるように、MMP-10 KOマウスにおける出血時間は、野生型により示された出血時間よりも顕著に短かった。出血時間の間の血液損失は顕著に少なく、これは、出血を制御する能力は、MMP-10の非存在下において、MMP-10が存在する場合よりも高いことを示している。
【0102】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗線維素溶解処置に有用な医薬の調製における、マトリックスメタロプロテイナーゼ-10(MMP-10)に対する中和抗体の使用。
【請求項2】
出血および出血性合併症の処置に有用な医薬の調製における、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
先天性異常に起因する過剰な線維素溶解状態を有する患者における出血および出血性合併症の処置のための医薬の調製における、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
抗血液凝固処置を受けている患者における出血および出血性合併症の処置のための医薬の調製における、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
播種性血管内凝固を有する患者における出血および出血性合併症の処置のための医薬の調製における、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
外科的処置に起因する出血および出血性合併症の処置のための医薬の調製における、請求項2に記載の使用。
【請求項7】
急性の出血における輸血の代替物としての医薬の調製における、請求項2に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−531341(P2010−531341A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514020(P2010−514020)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際出願番号】PCT/ES2008/000453
【国際公開番号】WO2009/000957
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(506061716)プロイェクト、デ、ビオメディシナ、シーマ、ソシエダッド、リミターダ (34)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO DE BIOMEDICINA CIMA, S.L.
【Fターム(参考)】