説明

抗腫瘍剤として有用なセリウム錯体

【課題】優れた溶解性と高い抗腫瘍活性を示す化合物の提供。
【解決手段】下記の式(I)で表されるカチオンとセリウムイオン(Ce(IV))とを含む錯体又はその塩。


(式中、Z1は、-N(R1)-C-と一緒になって5員含窒素複素環を形成し;Z2は、-N+(R3)=C-と一緒になって5員含窒素環を形成し;R1、R2およびR3から選択される少なくとも1つの基は、重合度が2〜6のポリアルキレンオキシドであって末端が疎水基により封鎖された基又は酸素原子を2個以上含む複素環により置換されたアルキル基を表し、R1、R2およびR3のその他の基はアルキル基を表し;pは0または1を表し;Yはメチン基または窒素原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、写真材料や医薬品等として有用なセリウム(IV)錯体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
写真科学の分野において、種々のメチン化合物が、分光増感色素として使用されている。これらのうちロダシアニン色素に含まれるメチン化合物は、その溶解性が一般的に低く、写真乳剤に添加する際に問題になっている。一方、医学や薬学の分野においてもメチン化合物が医薬品として有効であることが期待されるが、当分野においても溶解性は重要な問題であり、特に生体中の血液等、高い塩濃度の媒体において、沈殿したり、凝固したりすることは好ましくない。
特表平10−506878(特許文献1)には、優れた溶解性を有するメチン化合物が開示されているが、この化合物は癌治療用の医薬としては活性が不十分であった。
一方、近年、希土類イオン、特にセリウム(IV)イオンの触媒活性、特に生理条件でDNAを迅速に加水分解できる点が着目されている(非特許文献1)。しかし、細胞内でのDNA切断活性についてはこれまで報告がない。
【特許文献1】特表平10−506878号公報
【非特許文献1】希土類の機能と応用 シーエムシー出版 344ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ロダシアニン色素に含まれるメチン化合物を含む優れた溶解性と高い抗腫瘍活性を示す化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題の解決のために鋭意努力し、メチン化合物カチオンとセリウム(IV)イオンとからなる錯体が優れた溶解性と抗腫瘍活性とを有することを見出し、この知見を基に本発明を完成した。
すなわち本発明は下記の式(I):
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、Z1は、-N(R1)-C-と一緒になって5員含窒素複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表し;Z2は、-N+(R3)=C-と一緒になって5員含窒素環を形成するのに必要な非金属原子群を表し;R1、R2およびR3から選択される少なくとも1つの基は、重合度が2〜6のポリアルキレンオキシドであって末端が疎水基により封鎖された基又は酸素原子を2個以上含む複素環により置換されたアルキル基を表し、R1、R2およびR3のその他の基はアルキル基を表し;pは0または1を表し;Yはメチン基または窒素原子を表わす。)
で表されるカチオンとセリウムイオン(Ce(IV))とを含む錯体又はその塩を提供するものである。
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で表わされるカチオンが下記の式(II):
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、Z1は-N(R1)-C-と一緒になってチアゾリジン環、ベンゾチアゾリン環、ベンゾオキサゾリン環、ナフトチアゾリン環またはナフトオキサゾリン環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、;W1およびW2は、水素原子を表すか、又はW1およびW2が結合してナフタレン縮合環又はベンゼン縮合環を形成し; pは0または1を表し;Yはメチン基または窒素原子を表し; R1、R2およびR3から選択される少なくとも1つの基は、下記の式III-aで表される基を表すか、又は式III-bで表わされる置換基を有するアルキル基を表し、R1、R2およびR3のその他の基はアルキル基を表す。)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、R4は炭素数1〜3のアルキル基を表し、mは2〜4の整数を表す。)
で表わされるカチオンである上記錯体又はその塩が提供される。
本発明のさらに好ましい態様によれば、R1、R2およびR3のその他の基が炭素数が5以下のアルキル基である上記錯体又はその塩;Z1が-N(R1)-C-と一緒になってベンゾチアゾリジン環又はナフトチアゾリジン環を形成している上記いずれかの錯体又はその塩;Z1が-N(R1)-C-と一緒になって無置換ベンゾチアゾリジン環又はナフトチアゾリジン環を形成し、W1およびW2が結合してベンゼン縮合環又はナフタレン縮合環を形成している上記いずれかの記載の錯体又はその塩;R1およびR2が各々炭素数1〜3のアルキル基であり、R3が式(III-a)で表される基である上記いずれかの錯体又はその塩;Yがメチン基である上記いずれかの錯体又はその塩が提供される。
【0011】
本発明の別の好ましい態様によれば、セリウムイオンが、重合度が2〜6のポリアルキレンオキシドであって末端が疎水基により封鎖された基又は酸素原子を2個以上含む複素環により置換されたアルキル基における酸素原子と配位結合している上記いずれかの錯体又はその塩;式(I)で表されるカチオンとセリウムイオンとがモル比が1:1である上記いずれかの錯体又はその塩;対イオンとして、ヨウ化物イオン、塩化物イオン又はスルホン酸イオンを含む上記いずれかの錯体又はその塩が提供される。
【0012】
本発明の別の観点からは、上記いずれかの錯体又はその塩を含む抗腫瘍剤;抗腫瘍剤の製造のための上記いずれかの錯体又はその塩の使用;腫瘍の予防および/または治療法であって、上記いずれかの錯体又はその塩の予防及び/又は治療有効量をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、優れた溶解性を有するセリウム(IV)錯体が提供される。該セリウム(IV)錯体は抗腫瘍剤又は写真用感光材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
Z1が-N(R1)-C-と一緒になって形成する複素環としては、チアゾリジン環、ベンゾチアゾリン環、ナフトチアゾリン環及びナフトオキサゾリン環が好ましく、ベンゾチアゾリン環及びナフトチアゾリン環がより好ましく、ナフトチアゾリン環が最も好ましい。又、Z1が-N(R1)-C-と一緒になって形成する複素環は、R1以外には置換基を有しないことが好ましいが、置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基などが好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0015】
W1およびW2で形成される縮合環は置換基を有していてもよく、置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基などが好ましく挙げられる。
【0016】
R1、R2およびR3から選択される少なくとも1つの基は、重合度が2〜6のポリアルキレンオキシドであって末端が疎水基により封鎖された基又は酸素原子を2個以上含む複素環により置換されたアルキル基を示す。R1、R2およびR3から選択される少なくとも1つの基はR3であることが好ましい。
【0017】
上記のポリアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドの重合体が好ましく、特にエチレンオキシドの重合体が好ましい。又、重合度は3〜5が好ましく、3〜4が特に好ましい。末端を封鎖する疎水基としては、低級アルキル基、例えば炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。封鎖の形態としてはエーテル結合やエステル結合があげられる。特に、炭素数1〜3のアルキル基、最も好ましくはメチル基によるエーテル結合により封鎖されていることが好ましい。
【0018】
酸素原子を2個以上含む複素環としては、ジオキソランやジオキサンがあげられ、特に好ましくは1,3−ジオキソラニル基及び1,3−ジオキサニル基があげられる。酸素原子を2個以上含む複素環により置換されたアルキル基におけるアルキル基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。
R1、R2およびR3のその他の基としては、R1及びR2が好ましい。その他の基としては、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。
【0019】
Yはメチン基が好ましく、pは0が好ましい。
上記式(I)で表されるカチオンとしては特に、上記一般式(II)で表わされる化合物が好ましい。
一般式(II)で表わされるカチオンの具体例としては以下の1−1〜1−15の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
【化7】

【0024】
本発明のセリウム錯体において、セリウム(IV)イオンは、上記の、重合度が2〜6のポリアルキレンオキシドであって末端が疎水基により封鎖された基、又は酸素原子を2個以上含む複素環により置換されたアルキル基における酸素原子と配位結合していることが好ましい。セリウム(IV)イオンは酸素と容易に結合して錯体を形成することが知られており(参考文献 希土類元素の化学(化学同人))、式(I)で表されるカチオンもポリアルキレンオキシド部位の酸素原子でセリウム(IV)イオンと配位結合し、安定な錯体を形成することができる。
【0025】
本発明の錯体が塩を形成する場合の対イオンは特に限定されないが、ハロゲンイオンまたは有機酸アニオンが好ましい。ハロゲンイオンまたは有機酸アニオンとしてはヨウ化物イオン、塩化物イオン又はスルホン酸イオンが好ましく、塩化物イオンがより好ましい。
【0026】
上記式(I)で表されるカチオン又はその塩は一般的には米国特許第2,388,963号明細書に記載されている合成法に準じて合成することができる。
また、本発明のセリウムIV錯体は、上記式(I)で表されるカチオン又はその塩とセリウムIVイオンとから、一般的に用いられている方法によって適宜作製することができる。一般的にはCe(NH4)2(NO3)6などのセリウムIV塩と上記式(I)で表されるカチオンとを水などの溶液中で混合することにより、作製することができる。
【0027】
本発明の錯体又は塩は、抗腫瘍剤などの医薬や分光増感色素などとして幅広く使用可能である。
医薬として使用する場合の一般的に好適な投与方法としては、例えば、本発明の錯体又は塩を、例えば、5%ブドウ糖液に溶かした形であるいは適当なキャリアーまたは希釈剤を伴った形で、静脈内、腹腔内、筋肉内または膀胱内に注射する方法が挙げられる。この場合、治療の有効性を確認するために実施される動物試験において注射用製剤としての実用的な溶解性は0.1〜1質量%である。本発明の錯体又は塩は溶解性に優れるため、注射用製剤として好適である。
本発明の錯体又は塩を抗腫瘍剤の有効成分として適用可能な癌としては、特に限定されないが、適用可能な癌としては、例えば、メラノーマ、ヘパトーム、グリオーム、ニューロブラストーマ、サルコーマ並びに肺、結腸、胸部、膀胱、卵巣、精巣、前立腺、頸部、膵臓、胃、小腸及び他の器官のカルチノーマが挙げられる。
【0028】
なお、本明細書において用いられる「抗腫瘍」またはその類義語は、悪性腫瘍の組織又は細胞に対して選択的な増殖抑制作用又は傷害作用などを発揮でき、腫瘍組織又は細胞の縮小や排除を達成できる作用を含めて、最も広義に解釈しなければならない。
【0029】
本発明の錯体又は塩を含む抗腫瘍剤は、さらに医薬上許容可能な希釈剤及び/又はキャリヤーを含むことができ、所望であれば、さらに当業界で公知の従来からの抗腫瘍剤を含む他の治療剤の有効成分を含んでいてもよい。このように用いることができる従来からの抗腫瘍成分の好適な例として、アドリアマイシン、シスプラチン、コルヒチン、CCNU(ロムスチン)、BCNU(カルムスチン)、アクチノマイシンD(Actinomycin D)、5-フルオロウラシル、チオテパ、シトシンアラビノサイド(cytosinearabinoside)、シクロホスファミド、及びマイトマイシンCなどが挙げられる。
【0030】
医薬キャリヤー又は希釈剤の好適な例として、グルコース、スクロース、ラクトース、エチルアルコール、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリトリトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール400、他のポリエチレングリコール類、飽和脂肪酸のモノ−、ジ−及びトリ−グリセリド、例えばグリセリルトリラウレート、グリセリルモノステアレート、グリセリルトリステアレート及びグリセリルジステアレート、ペクチン、スターチ、アルギン酸、キシロース、タルク、セキショウシ、油脂、例えばオリーブ油、ピーナッツ油、ヒマシ油、コーン油、麦芽油、ゴマ油、綿実油、ヒマワリ種子油及びタラ肝油など、ゼラチン、レシチン、シリカ、セルロース、セルロース誘導体、例えばメチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースなど、炭素数12〜22個の脂肪酸のマグネシウム及びカルシウム塩、例えばカルシウムステアレート、カルシウムラウレート、マグネシウムオレエート、カルシウムパルミテート、カルシウムベヘネート及びマグネシウムステアレートなど、乳化剤、飽和及び不飽和脂肪酸のエステル、例えば炭素数2〜22個、特に炭素数10〜18個有し、一価脂肪族アルコール(例えば、アルカノールなどの炭素数1〜20個のもの)又は多価アルコールグリコール、例えばグリセリン、ジエチレングリコール、ペンタエリトリトール、エチルアルコール、ブチルアルコール及びオクタデシルアルコールなどとのエステル、並びにジメチルポリシロキサンなどのシリコーン類が挙げられる。医薬組成物に従来より用いられるキャリヤーをさらに加えてもよい。
【0031】
本発明の錯体又は塩を含む抗腫瘍剤の医薬上の有効量及び投与の方法又は形態は、癌の性質、治療施策、症状のつらさ、悪性の度合い、転移拡がりの範囲、腫瘍の負荷、一般的な健康状態、体重、年齢、性別、及び患者の遺伝又は民族的背景に依存するであろう。しかしながら、一般に、好適な投与方法としては、例えば、本発明の錯体又は塩を、例えば5%ブドウ糖溶液に溶かした形で、あるいは上述の適当なキャリヤーまたは希釈剤を伴った形で、静脈、皮下、腹腔内、筋肉内又は膀胱内への注射もしくは経口使用する方法が挙げられる。
【0032】
抗腫瘍剤における本発明の錯体又は塩の好適な治療量は、抗腫瘍剤の総質量をベースとして、約0.01質量%〜10質量%、より一般的には約0.1質量%〜1質量%である。本発明の錯体又は塩の治療上の好適な有効量は、診察の臨床徴候及び症状の進行の度合いなどの要因を基に医師が適切に定めることができるが、単回又は複数回に、体重70kgに対して1日当たりに投与されるのは、一般的には10mg〜500mg、より一般的には100mg〜200mgの範囲である。
【0033】
本発明の錯体又は塩は、水等に対する溶解性が極めて良好なので、写真用感光材料や抗腫瘍剤などの医薬などとして幅広い用途が期待される。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。なお、下記の実施例中のカチオン番号は上記に示したカチオン例の番号に対応している。
【0035】
例1
特表平10−506878号公報に記載の方法に従って、カチオン1−3、1−4、1−11、1−15の塩化物を合成した。比較化合物としては特表平10−506878号公報に記載のS-1,S-3を使用した。
ヒト上顎癌KB細胞及びマウス乳癌CA755細胞を96穴プラスチック培養プレートに配置し(5,000細胞/穴)、37℃で24時間培養した。被試験化合物を1.1mg/mLの濃度になるように5%グルコース水溶液に溶解し、さらにこの溶液を5%グルコースで5〜0.01μg/mLに段階的に希釈して、それぞれの穴に加えた。コントロールには5%グルコースのみを加えた。細胞を被試験化合物により、37℃で72時間処理した。リン酸緩衝液で2回軽く洗浄した後、MTT溶液0.5mg/mLを添加し、37℃で4時間処理した。上清を除去し、析出したホルマザンの結晶を0.04M塩酸/イソプロピルアルコール/1%SDS溶液により溶解した。これをマイクロプレートリーダーで吸光度(570nm)とコントロール(100%)の吸光度の値を比較することにより、それぞれの穴の比吸光度を求め、作用させた被試験化合物の濃度(IC50)を求めた。
【0036】
カチオン溶液に等モルのCe(NH4)2(NO3)6(セリウム(IV)イオン:Ce(IV)イオン)を加えて抗腫瘍活性を評価した。KB細胞及びCA755細胞に対する結果を表1、表2に示した。
KB細胞に対してはカチオン単独の時と比較してCe(IV)イオンを添加すると抗腫瘍活性がカチオン1-3で2.4倍、カチオン1-11で1.6倍となった。また、CA755細胞に対してはカチオン1-3でその効果が顕著であり、カチオン単独の時と比較してCe(IV)イオンを添加すると抗腫瘍活性が3.0倍となった。
このように、セリウム錯体とすることによって抗腫瘍活性が向上することが示された。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
例2
カチオン1-3に対してCe(IV)イオンの混合比を変化させて抗腫瘍活性を評価した。結果は表3、表4のようになった。KB細胞に対しては、カチオン1-3とCe(IV)イオンの比が1:1の時が最も高活性であり、Ce(IV)イオンを用いない場合と比較して2.3倍の抗腫瘍活性がみられた。また、CA755細胞に対しては1:1及び2:1の時が最も高活性で、ともにCe(IV)イオンを用いない場合と比較して3.0倍の抗腫瘍活性がみられた。
この結果から、カチオン1-3とCe(IV)イオンが1:1の割合で錯体を形成しており、カチオン1-3とともに錯体としてCe(IV)イオンが癌細胞内に取り込まれて抗腫瘍活性が向上していることが示唆された。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
例3
カチオン1-3に対して各種金属イオンを等モル添加して抗腫瘍活性を評価した。結果を表5、表6に示す。
KB細胞に対してはCe(IV)イオンを併用した場合が最も抗腫瘍活性が高く、カチオン1-3単独の場合と比較して2.4倍の効果となった。Ce(NH4)2(NO3)6 ・4H2O(Ce(III)イオン)、LaCl3(La(III)イオン)、MgCl2(Mg(II)イオン)、Mn Cl2(Mn(II)イオン)の各イオンを添加した例では抗腫瘍活性が低下した。一方、CA755細胞に対してはCe(IV)イオン、Ce(III)イオンを添加したときに抗腫瘍活性が向上し、カチオン1-3単独の場合と比較してそれぞれ3.0倍、3.7倍の効果となった。
【0043】
【表5】

【0044】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)で表されるカチオンとセリウムイオン(Ce(IV))とを含む錯体又はその塩。
【化1】

(式中、Z1は、-N(R1)-C-と一緒になって5員含窒素複素環を形成するのに必要な非金属原子群を表し;Z2は、-N+(R3)=C-と一緒になって5員含窒素環を形成するのに必要な非金属原子群を表し;R1、R2およびR3から選択される少なくとも1つの基は、重合度が2〜6のポリアルキレンオキシドであって末端が疎水基により封鎖された基又は酸素原子を2個以上含む複素環により置換されたアルキル基を表し、R1、R2およびR3のその他の基はアルキル基を表し;pは0または1を表し;Yはメチン基または窒素原子を表わす。)
【請求項2】
式(I)で表わされるカチオンが下記の式(II)で表わされるカチオンである請求項1記載の錯体又はその塩。
【化2】

(式中、Z1は-N(R1)-C-と一緒になってチアゾリジン環、ベンゾチアゾリン環、ベンゾオキサゾリン環、ナフトチアゾリン環またはナフトオキサゾリン環を形成するのに必要な非金属原子群を表し、;W1およびW2は、水素原子を表すか、又はW1およびW2が結合してナフタレン縮合環又はベンゼン縮合環を形成し; pは0または1を表し;Yはメチン基または窒素原子を表し; R1、R2およびR3から選択される少なくとも1つの基は、下記の式III-aで表される基を表すか、又は式III-bで表わされる置換基を有するアルキル基を表し、R1、R2およびR3のその他の基はアルキル基を表す。)
【化3】

(式中、R4は炭素数1〜3のアルキル基を表し、mは2〜4の整数を表す。)
【請求項3】
R1、R2およびR3のその他の基が、炭素数が5以下のアルキル基である請求項2に記載の錯体又はその塩。
【請求項4】
Z1が-N(R1)-C-と一緒になってベンゾチアゾリジン環又はナフトチアゾリジン環を形成している請求項2又は3に記載の錯体又はその塩。
【請求項5】
Z1が-N(R1)-C-と一緒になって無置換ベンゾチアゾリジン環又はナフトチアゾリジン環を形成し、W1およびW2が結合してベンゼン縮合環又はナフタレン縮合環を形成している請求項2〜4のいずれか一項に記載の錯体又はその塩。
【請求項6】
R1およびR2が各々炭素数1〜3のアルキル基であり、R3が式(III-a)で表される基である請求項2〜5のいずれか一項に記載の錯体又はその塩。
【請求項7】
Yがメチン基である請求項2〜6のいずれか一項に記載の錯体又はその塩。
【請求項8】
セリウムイオンが、重合度が2〜6のポリアルキレンオキシドであって末端が疎水基により封鎖された基又は酸素原子を2個以上含む複素環により置換されたアルキル基における酸素原子と配位結合している請求項1〜7のいずれか一項に記載の錯体又はその塩。
【請求項9】
式(I)で表されるカチオンとセリウムイオンとがモル比が1:1である請求項1〜8のいずれか一項に記載の錯体又はその塩。
【請求項10】
対イオンとして、ヨウ化物イオン、塩化物イオン又はスルホン酸イオンを含む請求項1〜9のいずれか一項に記載の錯体又はその塩。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の錯体又はその塩を含む抗腫瘍剤。

【公開番号】特開2009−67744(P2009−67744A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239367(P2007−239367)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】