説明

抗腫瘍医薬の製造のための脂肪組織に由来する細胞の使用

間質-血管画分と該間質-血管画分の接着性細胞からなる亜集団とからなる群より選択される髄外白色脂肪組織から単離された細胞の抗腫瘍医薬の製造のための使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍作用を有する医薬の製造のための脂肪組織に由来する細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ガンの有効な治療は、今日の医学における主要な難題の1つのままである。
【0003】
従来の外科治療又は細胞溶解治療(化学療法又は放射線療法)の有効性は、多くのガンにおいて非常に限定的のままである。事実、高頻度で起こる或る種のガン(特に、胃腸管)は、治療剤の拡散にとって好都合でない塊状の外見(mass aspect)を考えれば、治療が常に困難である。したがって、前記ガンの治療には、まず第1に外科的摘出、続いて任意に放射線療法と組み合わせてもよい化学療法が必要である。しかし、外科手術が可能でないか又はもはや可能でない場合には、毒性がなく有効である代替の化学療法が必要である。しかし、利用可能な製品は有効性が限られているか又は容認できない毒性を有している。したがって、十分に広い治療範囲を有し、そのため回復の機会を増大させるために、新たな抗ガン治療の必要性が存在する。
【0004】
例えば、胃腸管(食道、胃、小腸、大腸、結腸)及びそれらに付随する腺(ancillary gland)(肝臓、胆嚢、膵臓)のガンの場合、外科的摘出が可能でないか又はもはや可能でないと、治癒的治療はないことが示されている。事実、現行の治療は、本質的に化学療法(5-フルオロウラシル又は5-FU、ゲムシタビンなど)及び放射線療法に基づき、生存に対する影響は弱く、(特に結腸直腸、胃及び膵臓ガンの場合には)とりわけ待期目的に使用されている(概説には、Diaz-Rubio,The Oncologist,2004,9,282-294)。
【0005】
有効な治療がないことに加えて、通常使用される化学療法剤(例えば、フルオロウラシル、葉酸、白金誘導体(例えば、オキサリプラチン)、マイトマイシンC)の毒性及びこれら治療に伴う副作用は、別の主要な短所を表している。
【0006】
新たな抗ガン剤、例えばペメトレキセド(抗葉酸:細胞傷害性薬剤)、ワクチン、キナーゼ阻害剤(ビロスタチン(byrostatin)、UCN-01、フラボピリドール、CI-1040)、EGFR阻害剤(セツキシマブ、ゲフィチニブ、GW572016、CI-1033、エルロチニブ)及びVEGF阻害剤(ベバシツマブ、PTK787/ZK 222584、アンジオザイム(angiozyme)、ZD6474)が、特に胃腸管ガンで、試験されている。
【0007】
例えば:
・セツキシマブは、ヒト上皮増殖因子レセプター(EGFR)の細胞外ドメインに特異的に結合するキメラモノクローナル抗体であり、EGFRを発現する腫瘍細胞の増殖を阻害しアポトーシスを誘導する。
【0008】
・ベバシツマブは、VEGF(血管内皮増殖因子)に結合し、その結果、インビトロ及びインビボの両方で、内皮細胞の表面に位置するレセプターFlt-1(VEGFR-1)及びKDR(VEGFR-2)へのVEGF結合を阻害するモノクローナルIgG1抗体である。これは、ヒト起源の定常部分とマウス起源の可変部分とを含んでなる。
【0009】
これら新たな製品の単独又は組合せで得られた結果は、効力及び毒性の両方の観点から、以前の治療、特に消化管ガンの治療と比較して何らの改善も示さない。
【0010】
膵臓ガン(西洋諸国において5番目に多いガンの死因である)の場合、医師は更に少ない選択肢しか有さない;膵臓ガンは攻撃性(aggressive)であり、しばしば臨床徴候を遅れて示すことに加えて、その予後は非常に貧弱である(3.5%未満の5年生存率);加えて、外科的摘出は10〜15%の症例でのみ可能である。放射線療法又は化学療法は、腫瘍を切除されていない患者の生存率に対しては僅かな効果しか有さない(生存期間の中央値5〜6ヶ月)(Safioleas MCら,Hepatogastroenterology,2004,51(57):862-868;Jemal A.ら,CA Cancer J Clin,2002,52(1):23-47;Rosewicz S.ら,Lancet,1997,349(9050):485-489;Jafari M.ら,Surg Oncol Clin N Am,2004,13(4):751-760,xi;Kullke MHら,Curr Treat Options Oncol,2002,3(6):449-457)。切除不可能な膵臓ガン、特に膵頭部ガンの場合には、待期誘導又は胆管若しくは十二指腸ステントの配置が、或いは腹腔神経叢の鎮痛性アルコール付けさえも実施される。患者の生存率は非常に低いままである:
【0011】
−局所的に進行した非転移性で切除不可能なガン又は転移ガンの場合、現行の参照治療はゲムシタビンであり、これにより臨床徴候の改善が観察される(疼痛、通過障害(troubles du transit))が、生命予後は貧弱なままである(7〜10ヶ月)(Safioleas MCら,Hepatogastroenterology,2004,51(57):862-868;Jemal A.ら,CA Cancer J Clin,2002,52(1):23-47;Rosewicz S.ら,Lancet,1997,349(9050):485-489;Jafari M.ら,Surg Oncol Clin N Am,2004,13(4):751-760,xi;Kullke MHら,Curr Treat Options Oncol,2002,3(6):449-457)。
【0012】
−膵臓ガンの予後を改善するための一連の研究の1つは、この疾患の進行を減少させる目的を有する、特に切除不可能な腫瘍に適用可能な有効な治療を提供することである。このため、遺伝子療法又は細胞療法を用いる臨床研究プロトコルが設定されている。
【0013】
・例えば、Mulvihillら(Gene Therapy,2001,8,308-315)は、第I相臨床試験を行い、その間に、切除不可能な膵臓ガンに罹患している患者に、コンピュータ断層撮影(CT)装置を用いて、アデノウイルスONYX-015(dl1520)(E1B-55kD遺伝子が欠失したアデノウイルスであり、これはp53タンパク質を欠いている腫瘍細胞中で優先的に複製し、該細胞を殺傷する)の腫瘍内注射を実施した。アデノウイルスの注射は、十分に寛容されるが、客観性のある応答は何も証明されていない。著者らは、腫瘍内のウイルス複製が実質的に十分でないこと、及びアデノウイルスの有効性はONYX-015注射を複数回行うことにより又は化学療法治療と組み合わせることによって最適化され得ることを強調している。
【0014】
・より最近では、Hechtら(Clinical Cancer Research,2003,9,555-561)は、このプロトコルを改変して、(厄介すぎ、感染又は穿孔のような深刻な合併症を引き起こし易い)CT装置を超音波内視鏡検査に置き換えることを提案している。しかし、このチームが実施した第I/II相試験により、ONYX-015での治療の有効性に何らの改善もないことが明らかとなった。加えて、内視鏡に起因する十二指腸穿孔の症例が観察された。
【0015】
・他のアデノウイルスが胃腸の腫瘍を治療するために試験されてきた。そうして、Sangroらのチーム(Journal of Clinical Oncology,2004,22,8,1389-1397)は、膵臓ガン、結腸直腸ガン又は肝臓ガンに罹患している患者におけるインターロイキン12(IL-12)発現アデノウイルス(Ad.IL-12と呼ぶ)の腫瘍内注射を記載している。これら第I相試験により、中程度の抗腫瘍活性のみが明らかになった。なおもAd.IL-12アデノウイルス(AFIL-12とも呼ぶ)によるIL-12の腫瘍内発現を対象として研究を続けている同チームは、より最近、AFIL-12アデノウイルスでトランスフェクトした樹状細胞の腫瘍内注射を試験した(Mazzoliniら,Journal of Clinical Oncology,2005,23,5,999-1010)。しかし、この治療の現実の有効性を評価するためには、更なる臨床試験が必要である。
【0016】
・最後に、5-FUでの放射化学療法と組み合わせた、TNF-αをコードするアデノウイルスベクターの腫瘍内投与もまた研究されている。この試験は、最大用量のTNF-α-アデノウイルスベクターでの抗腫瘍活性を調べている(Senzer N.ら,J Clin Oncol,2004,22(4):592-601)。しかし、アデノウイルスベクターの注射は、一般に、発熱、悪心、リンパ球減少などのような有害な事象を伴う。
【0017】
アデノウイルスを利用するストラテジーに加えて、「自殺遺伝子」アプローチを使用する療法(「遺伝子由来酵素プロドラッグ療法(gene-derived enzyme prodrug therapy)」、略してGDEPT)、すなわち、プロドラッグの投与と遺伝子(その翻訳産物が該プロドラッグを腫瘍細胞に毒性である活性誘導体に代謝する)の投与とを組み合わせる療法も開発され、胃腸管ガン(例えば膵臓ガン)に対して試験されている。Gunzburg及びSalmonsによる論文(Acta Biochimica Polonica,2005,52,3,601-607)は、膵臓ガンに関して細胞療法と組み合わせたこのアプローチを概説している。この論文の著者らは、現存の治療より効果的な新たなガン治療ストラテジーを開発する必要性を強調している。よって、この論文の著者らは、手術不可能な膵臓ガンにおいて、イホスファミドと組み合わせて、シトクロムP450 2B1を発現する組換えHEK 293細胞を含有する硫酸セルロースのマイクロカプセルを投与することを提案している。これは、イホスファミド(血漿活性形態の非常に短い半減期のために通常非常に毒性である)の有効用量を減少させる。マイクロカプセルの投与は、腫瘍中に直接か、又はこの腫瘍に供給している血管循環中のいずれかに行う。このことにより、該腫瘍のレベルでシトクロムP450を濃縮し、したがってイホスファミド代謝物の作用を標的することが可能になる(Lohrら,The Lancet,2001,357,1591-1592)。今までヒトで行われたこの臨床試験は、生存期間の中央値を二倍にすること(Lohrら,2001)及び生存率を3倍増加させること(Lohrら,2001;Gunzburg及びSalmons,2005)が示されている。しかし、得られた結果は満足できるものではなく、これにより、患者の生存を有意に増加させることはできない(10ヶ月の生存期間の中央値及び35.7%の1年生存率)。より最近、この技術は他のタイプのガンに拡張されたが、これは、目下のところ、動物モデルに限定されている。よって、Samelら(Cancer Gene Therapy,2006,13,65-73)は、「標的付けた化学療法」をマウスモデルに適用し、イホスファミドの投与と組み合わせた前記マイクロカプセルの注射が、腹膜ガン症を伴ってヒト結腸直腸ガンを発症しているマウスにおいて、腹膜腫瘍の完全な寛解を導くことができることを示した。
【0018】
マイクロカプセルに入れられた細胞を用いる細胞療法は、腫瘍形成性のヒト細胞系統(HEK 293系統)を用いるという大きな欠点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、全てのガンに適切な、特に固形腫瘍(例えば胃腸管腫瘍)の治療に適切な新たな治療的抗ガンストラテジーを開発する必要が存在する。
【0020】
したがって、本発明者らは、他の治療薬剤と組み合わせたとき、現在提案されている治療より効果的且つ毒性が少ない新たなタイプの抗ガン療法を提供することを目的に据えた;この療法は、胃腸管ガン(例えば、手術不可能な膵臓ガン)に特に適切である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の1つの主題は、抗腫瘍医薬の製造のための、間質-血管画分及び該間質-血管画分の接着性細胞からなる亜集団からなる群より選択される髄外白色脂肪組織から単離した細胞の使用である。
【0022】
脂肪組織は哺乳動物において種々の形態で存在する:生物の主要な貯蔵器官を表す髄外白色脂肪組織、髄質白色脂肪組織(この組織の正確な役割は不明である)及び熱産生性の褐色脂肪組織。
個体の生涯を通じて持続する相当な拡大能力に起因して、成人の白色脂肪組織は、豊富で取得が容易な細胞供給源を構成する。
【0023】
この白色脂肪組織は2つの細胞性画分からなる:
−脂肪組織の30%〜60%の細胞を表し、トリグリセリドの蓄積(浮遊細胞画分)により特徴付けられる脂肪細胞画分。この画分は、非常に優勢な(99%)分化脂肪細胞及び脂質小滴(lipid droplet)中に豊富な幾らかの夾雑マクロファージから構成される;及び
−間質-血管画分(SVF)と呼ばれる非脂肪細胞画分。
【0024】
これら2つの細胞画分は、Bjorntorpら(J. Lipid. Res.,1978,19,316-24)により記載された方法のような方法に従って、比重の差により分離することができる。
間質-血管画分(従来、プレ脂肪細胞の成熟脂肪細胞への分化を研究するために使用されている)は、種々の細胞亜集団を含んでなる不均質な画分である(Planat-Bernard V.ら,Circulation,2004,109,656-663;Zuk PA.ら,Mol. Biol. Cell,2002,13,4279-95;Erickson GR.ら,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2002,290,763-9;Cousin B.ら,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2003,301,1016-22;Safford KM.ら,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2002,294,371-9;国際出願WO 02/055678及び米国出願US 2003/0082152)。
【0025】
より具体的には、本発明者ら及び他のチームは、以前に、SVFの未分化細胞の種々のタイプの分化細胞への分化を誘導することができることを示している。SVF細胞は、事実、特異マーカーを発現する細胞へ分化することが可能である:
【0026】
−造血細胞(国際出願WO 02/055678、欧州出願EP 1 077 254;米国特許6,555,374、国際出願WO 01/62901)、
−平滑筋細胞又は骨格筋細胞(国際出願WO 02/055678、欧州出願EP 1 077 254;米国特許6,555,374)、
−心筋細胞(国際出願WO 02/055678),
−内皮細胞、肝細胞、神経細胞又は大膠細胞(国際出願WO 01/62901),
−膵臓細胞(米国出願2003/0124721)、又は
−眼内間質細胞(国際出願WO 03/039481)。
【0027】
更に、SVFの均質細胞亜集団(表面抗原CD13及びHLA ABCを発現)は、内皮細胞に分化することができる(国際出願WO 2005/025584)。
【0028】
これら全ての刊行物によれば、SVF細胞から得られる分化細胞は、組織修復、細胞系統の再構成及び或る種の組織の機能改善に使用することができる。よって、これら分化細胞は、適切な場合には、以下のために使用することができる:
【0029】
−髄質枯渇が観察される疾患の治療に関して造血系統を再構成するため、例えば抗ガン治療(例えば照射治療)後に免疫抑制されている患者の骨髄を再増殖(repopulating)させるため;
−例えば脳の病状(例えば卒中、アルツハイマー病又はパーキンソン病)の治療に関して、神経組織を修復又は再構築するため;
−例えば進行性の肝臓変性に関して、肝組織を再構築するため;
【0030】
−特にミオパシー、心筋症及び筋肉変性に関連する病状(心筋梗塞)の治療に関して、心筋又は骨格筋組織を再構築するため;
−膵臓の或る種の内分泌障害において観察される膵臓組織の機能を改善するため;
−(例えば腫瘍切除後の)角膜組織又は結合組織損傷の治療に関して、眼内組織を修復又は再構築するため;及び
−特に虚血の治療に関して、機能的な血管ネットワークを完全又は部分的に再構築するため。
【0031】
造血系統の再構築及び神経肝組織修復については、国際出願WO 01/62901はまた、分化細胞ではなく未分化間質細胞を注射することを推奨している。
驚くべきことに、本発明者らは、今回、間質-血管画分及び該間質-血管画分から単離した細胞亜集団(SVFの初代培養後に培養支持体に接着する細胞からなる亜集団)からなる群より選択される髄外白色脂肪組織細胞の抗腫瘍活性を証明した。
【0032】
この接着性細胞亜集団は、今後、区別することなく、「接着性細胞亜集団」、「接着性細胞」又は「接着性SVF細胞」と呼ぶ。
下記において、用語「SVFの全ての細胞」又は「SVF」は同義である。
【0033】
本発明の目的のためには、用語「SVF」は、SVFを構成する全ての細胞を含んでなる間質-血管画分を意味すると意図される。下記において、断らない限り、表現「間質-血管画分の細胞」には、完全な間質-血管画分及び接着性細胞亜集団の両方が含まれる。
接着性細胞亜集団はSVFの全細胞集団の約50%〜60%を表す。
【0034】
驚くべきことに、SVF及び接着性細胞亜集団は共に、腫瘍の進行を顕著に減速させる。この効果は、間質-血管画分又は接着性細胞を腫瘍中に局所的に注射したときだけでなく、全身性に(例えば非経口的に、より具体的には静脈内に)投与したときにも観察される。
【0035】
また驚くべきことに、SVFは、拡大してもしなくても、生理学的又は薬理学的処理をしてもしなくても、また遺伝子又はタンパク質発現プロフィールの任意の操作による改変をしてもしなくても、抗腫瘍医薬の製造に使用することができ;接着性細胞は、生理学的又は薬理学的処理をしてもしなくても、また遺伝子又はタンパク質発現プロフィールの任意の操作による改変をしてもしなくても、抗腫瘍医薬の製造に使用することができる。
【0036】
また驚くべきことに、間質-血管画分の細胞の直接の抗腫瘍効果に加えて、この細胞はまた、間接的にも抗腫瘍効果を発揮する:具体的には、接着性細胞亜集団により条件付けられた培地は、ガン細胞の生存能力を阻害する。この効果はまた、前記接着性細胞亜集団を前もってガン細胞(好ましくは治療すべきガンに由来する細胞)と接触させると、増幅される。
【0037】
本発明者らはまた、驚くべきことに、この抗腫瘍効果はインビトロ及びインビボでのガン細胞における細胞死の誘導と関連付けられることを示した。
【0038】
驚くべきことに、抗腫瘍効果を発揮するためには、SVF細胞の分化を誘導する必要も、特定因子の過剰発現を引き起こす必要もない。この効果は、前記SVF細胞が精製後或いは初代培養及び接着性細胞の選択後に使用されるときに、観察される。
この使用の1つの有利な態様によれば、抗腫瘍医薬は、培養前又は培養後の単離細胞からなる。
【0039】
本発明によれば、前記接着性細胞亜集団は、以下を含んでなる方法により取得することができる:
−髄外白色脂肪組織から間質-血管画分を取得し;
−前記間質-血管画分を精製し;
−適切な液体培地中での初代培養、培養支持体(プラスチックなど)上での非接着性細胞の排除による接着性細胞の選択、適切な培地中でのコンフルエンス後の細胞回収、遠心分離及びペレット回収による、前記精製画分から前記亜集団の細胞を単離すること。
【0040】
これら細胞を取得する方法の例は、Bjorntorpら(前出)による論文に記載されている。
この態様の有利な実施形態によれば、細胞は医薬的に許容し得るキャリアと組み合わされる。
【0041】
本発明によれば、前記細胞はまた遺伝的に改変されてもよい:
−細胞は、自己遺伝子の少なくとも1つの変異を含んでなってもよく
−細胞は、異種遺伝子の少なくとも1つのコピーを含有していてもよい。
【0042】
別の有利な実施形態によれば、細胞は、異種遺伝子(この翻訳産物は治療上興味のあるタンパク質(例えば、プロドラッグを腫瘍細胞に対して毒性の活性化合物に代謝することができる酵素)である)を含んでなる。
前記遺伝的に改変された細胞は好ましくはヒト起源である。
【0043】
前記使用の別の有利な態様によれば、抗腫瘍医薬は、前記接着性細胞亜集団の培養上清からなる。
上清は初代培養上清又は1若しくはそれより多く継代(二次培養又はそれ以上の培養)後に得られる培養上清である。
【0044】
この態様の別の有利な形態によれば、上清は、上記のような接着性細胞亜集団とガン細胞又はガン細胞系統の細胞との共培養物から取得される。
髄外脂肪組織は、動物起源又はヒト起源であり、好ましくは、髄外脂肪組織の間質-血管画分の細胞及びガン細胞は共に、治療すべき患者のものであり、治療すべき患者から事前に採取される。
【0045】
上清は初代培養上清又は1若しくはそれより多く継代(二次培養又はそれ以上の培養)後に得られる培養上清である。
前記使用の別の有利な実施形態によれば、ガンは固形ガン又は液性ガンである。
【0046】
用語「固形ガン」は、器官、例えば肝臓、膵臓、肺、腎臓など(これらに対して、腫瘍は局所的に発現し、次いで血流又はリンパ循環を介して分散し転移を形成する)を冒している任意のガンを意味すると意図される。固形ガンとは反対に、液性ガンには血液のガン又はリンパ系のガンが含まれる。
【0047】
この実施形態の好ましい態様によれば、ガンは、胃腸管の固形ガン(膵臓ガン、胃ガン、結腸直腸ガン)である。
用語「胃腸管のガン」は、食道、胃、小腸、大腸又は結腸の腫瘍及び/又はガンを意味すると意図され、また胃腸管に付随する腺(例えば、肝臓、胆嚢、総胆管及び膵臓)のガン又は腫瘍も意味すると意図される。
【0048】
好ましくは、上記の抗腫瘍医薬は、膵臓ガンの治療に特に適切であり、更により好ましくは手術不可能な膵臓ガンの治療に適切である。
この場合、接着性細胞亜集団とガン細胞系統との共培養物を使用するとき、ガン細胞系統は、有利にはCapan-1膵臓細胞系統(ATCC HTB-79)である。
【0049】
本発明による抗腫瘍医薬は、好ましくは腫瘍内で使用するが、他の経路のいずれかによって、任意に複数の経路により、特に静脈内に、腹腔内に、局部に、経皮的に、皮下に、動脈内に、肺経路により、鼻咽頭に又は経口的に、溶液若しくは水性分散物で又は粉体として、或いは任意の他の医薬的に許容し得る形態で投与してもよい。
【0050】
有効用量は、患者の年齢、健康状態及び体重並びに治療すべきガンのタイプに応じて決定される。
本発明によれば、上記の抗腫瘍医薬の使用は、他の療法、特に手術、放射線療法、化学療法、免疫療法及び分化療法(differentiating therapy)と組み合わせてもよい。
【0051】
腫瘍増殖の減速又は阻害及びガン細胞死(例えば、アポトーシス)の誘導によって特徴付けられる、観察される抗腫瘍効果は、上記の細胞亜集団の細胞に、すなわち、間質-血管画分中に存在し、SVF細胞の初代培養の間に固体支持体(培養支持体)への接着性に基づいて選択される細胞に本質的に起因する;しかし、間質-血管画分全体及び前記亜集団の細胞は両方とも本発明において使用できる。
【0052】
上記の抗腫瘍医薬(接着性SVF細胞亜集団又は前記亜集団の細胞の培養上清)は、以下の理由から特に有利である:
−脂肪組織サンプルは、例えば局所麻酔下での脂肪吸引又は生検により、採取することが容易である;
−豊富性を考えると、ストックを直ぐに作成することができる;加えて、サンプル採取した組織は、それを採取した個体において直ぐに再生することができる;
−これら特性により、脂肪組織に由来する細胞は、同種移植(例えば、自己移植)又は異種移植に特に適切とされる;
【0053】
−脂肪組織サンプルの採取及び続く治療目的でのその使用は、理論的には、倫理的な障害に遭遇するはずがない。なぜならば、サンプルの採取は、比較的非侵襲性であり多くの脂肪組織サンプルが現状では破棄されているからである。加えて、サンプルを採取するに必要な入院期間が短い(特に、血球アフェレーシスを頼る必要も、全身麻酔の必要もない)ことに留意すべきである;
−インビトロで規定培地中に細胞を維持し増やすことが可能であり、不死化することさえも可能である;更に、これら細胞はトランスフェクトすることができ、強力な分泌能力を有するので異種遺伝子を発現させるために使用することができる。したがって、治療用タンパク質、例えばプロドラッグを活性薬物に変換し得る酵素を発現させるためにそれらを使用することが可能である。
【0054】
本発明の1つの主題はまた、上記の抗腫瘍薬剤、すなわち上記の髄外白色脂肪組織細胞、該細胞の培養上清又は該細胞とガン細胞若しくは適切なガン細胞系統の細胞との共培養物の上清からなる群より選択される抗腫瘍薬剤の、抗ガン療法におけるアジュバントとしての使用である。
好ましくは、上清は初代培養上清又は初代共培養上清である。上清はまた、1又はそれより多く継代した後に得られる培養上清又は共培養上清でもある。
【0055】
本発明の1つの手段はまた、上記の抗腫瘍薬剤、すなわち上記の髄外白色脂肪組織細胞、該細胞の培養上清又は該細胞とガン細胞若しくは適切なガン細胞系統の細胞との共培養物の上清からなる群より選択される抗腫瘍薬剤の、他の抗腫瘍医薬、特に前記細胞又は細胞上清と相乗効果で作用し得る他の抗腫瘍医薬についてのインビトロスクリーニングのための使用である。
好ましくは、上清は初代培養上清又は初代共培養上清である。上清はまた、1又はそれより多く継代した後に得られる培養上清又は共培養上清でもある。
【0056】
上記態様に加えて、本発明はまた、本発明の主題である方法の例示的な実施形態及び添付の図面に言及する下記の説明から明らかになる他の態様も含んでなる。添付の図面において:
【0057】
−図1:培養支持体への接着性に基づいて選択したSVF細胞亜集団(□)又はPBS(■)の腫瘍内注射後の腫瘍進行のインビボ決定。x軸:注射後の日数;y軸:パーセンテージ腫瘍進行。*:p<0.05,***:p<0.001。
−図2:接着性細胞亜集団の腫瘍内注射後のインビボでの膵臓腫瘍重量の減少。A:間質-血管画分の細胞(白)又はPBS(コントロール)(黒)の腫瘍内注射後の腫瘍重量(mg)の決定;***:p<0.001。B:接着性細胞亜集団(右)又はPBS(左)の腫瘍内注射後に採取した腫瘍の写真。
【0058】
−図3:接着性細胞亜集団の腫瘍内注射後(I.T.;△)若しくは全身性注射後(I.V.;▲)又はPBSの腫瘍内注射若しくは全身性注射の何れかの後(コントロール;■)のパーセンテージ腫瘍進行のインビボ決定。**:p<0.01。
−図4:DMEM:F12 OK培地、前記亜集団の細胞の培養上清(条件付け培地)、該亜集団の細胞とCapan-1細胞とからの共培養上清(共培養培地)又は10μg/mlのTNF-αを補充したDMEM:F12培地で処理したCapan-1細胞のパーセンテージ生存能のインビトロ決定。***:p<0.001。
【0059】
−図5:接着性細胞亜集団の細胞の培養上清により、及び接着性細胞亜集団の細胞とCapan-1細胞との共培養上清により誘導されるCapan-1細胞アポトーシスのインビトロ決定。A:DMEM:F12 OK培地(ネガティブコントロール)の存在下に置いたCapan-1細胞。B:接着性細胞亜集団の細胞の培養上清で処理したCapan-1細胞。C:5/1のCapan-1/接着性細胞比に従う接着性細胞亜集団の細胞とCapan-1細胞との共培養上清で処理した細胞;D:1/1のCapan-1/接着性細胞比に従う接着性細胞亜集団の細胞とCapan-1細胞との共培養上清で処理した細胞。
【0060】
−図6:接着性細胞亜集団の細胞の腫瘍内注射後のガン細胞アポトーシスのインビボ決定。コントロールの膵臓腫瘍(A)又は接着性細胞亜集団の細胞の注射後の膵臓腫瘍(B)の切片。
【0061】
しかしながら、これら実施例は本発明の主題を例示するためにのみ与えられることを明確に理解すべきである。実施例は如何なる態様でも本発明の制限を構成しない。
【実施例】
【0062】
実施例1:材料及び方法
1)使用培地
−DMEM F12-OK培地は、500mlのDMEM F12(Gibco reference 31330 038)あたり、5mlのASP(抗生物質+抗真菌剤の直ぐに使用できる溶液:0.25μg/mlアンホテリシン、100μg/mlストレプトマイシン、100μg/mlペニシリンG(Sigma reference A7292))、0.5mlの16mMビオチン(0.016mM最終濃度)(Sigma reference B4639)、0.5mlの18mMパントテン酸(Sigma P5155)(最終濃度0.018 mM)、0.5mlの100mMアスコルビン酸(Sigma A4034)(最終濃度100μM)を含んでなる。
【0063】
−消化緩衝液は、3gの組織あたり10mlの消化培地の比率で、DMEM F12-OK、2%BSA(ウシ血清アルブミン)及び2mg/mlのコラゲナーゼ(Sigma reference)を含有する。この緩衝液は、0.2μmフィルター(Acrodisc PF 0.8/0.2μm,ref PALL6224187,VWR)により濾過する。
−溶解緩衝液は、100mlの溶液A(100mlの殺菌H2O中2.08gのTris緩衝液(pH7.65))及び900mlの溶液B(1000mlの殺菌H20中8.3gのNH4Cl)を含んでなる。
【0064】
−完全RPMI培地は、10%の新生仔ウシ血清(NCS Gibco 18010-159)、100μ/mlのペニシリン、100μ/mlのストレプトマイシン及び0.25μg/mlのフンギゾン(fungizone)(Invitrogen,15240-096)を補充したRPMI(Roswell Park Memorial Institute)1640培地(Gibco/Invitrogen(ref 21875034))から調製する。
−PBS溶液はGibcoから入手する(ref 14200-067)。
−トリプシン/EDTA溶液はGibcoから入手する(ref 25300-054)。
【0065】
2)間質-血管画分の取得
消化
脂肪組織は、皮膚脂肪組織切除術(dermolipectomy)又は脂肪吸引を受ける患者から得る:
【0066】
皮膚脂肪組織切除術について:
必要な量の脂肪組織を滅菌ディッシュ中に秤量し、次いで全ての作業を培養フード(culture hood)下で行う。挟みで非常に細かく切り刻むことにより組織を機械的な解離に供し、得られた断片をPBSで濯ぐ。
採取した脂肪組織サンプルを、PBSを含有する滅菌ディッシュ中、顕微鏡下で解剖して、筋肉組織の全ての痕跡を除去し、次いで消化培地中で37℃にて30分間消化させる。消化は10分毎に手で撹拌することにより加速させる。
【0067】
脂肪吸引について:
このプロトコルは、(必要のない)挟みによる組織の機械的解離工程を除いて、同一である。
【0068】
間質-血管画分(SVF)の精製
濾過(25μmフィルター)(PA 25/21,25μm,Tissage de Tissue Techniques,Sailly-Saillisel)により未消化断片を除いた後、遠心分離(600g,10分間)によりSVF細胞を含有するペレットから成熟脂肪細胞を分離する。こうして単離した間質-血管細胞(ペレット)を2mlのDMEM:F12培地+10% NCS(新生仔ウシ血清)中に再懸濁し、計数し(グリッド細胞カウンター又はCoulter粒子カウンターで手作業で計数)、細胞を同じ培地に再懸濁する。同容量の溶解緩衝液を加え、細胞懸濁液を1600rpm(500g)にて5分間遠心分離する。上清を除去し、ペレットをDMEM:F12 OK(ペレットのサイズに依存して500μl〜1ml)中に採取する。
【0069】
3)細胞培養及び細胞亜集団の取得
上記の方法に従って粗製間質-血管画分(SVF)を取得後、細胞を、25cm2フラスコ(Nunc,アングルネック及びフィルターキャップ,ref 055422,Dominique Dutscher)中にディッシュあたり5×105〜106細胞の割合で播種し、DMEM:F12 OK培地において培養する。死細胞及び/又は非接着性細胞を全て除去するために、培養状態に置いた次の日に細胞をPBSで濯ぎ、次いでDMEM:F12 OK培地+10%NCS中で4〜7日間培養する。
【0070】
コンフルエンス後(すなわち、4〜7日の培養後)、細胞をPBSで濯ぎ、培地の痕跡を全て除去する。トリプシン/EDTAの溶液を用いて細胞を剥がし、次いで細胞カウンター(Coulter ZI)を用いて計数する。細胞懸濁液を1600rpm(500g)にて5分間遠心分離し、次いで106細胞/100μlのオーダーの濃度を有するように、ペレットを適切な容量のPBS中に採取する。
【0071】
4)ヒト膵臓ガンのCapan-1系統及びマウスモデル
ヒト膵臓ガンのマウスモデルを下記に示すとおりにセットする。このモデルは皮下レベルに異所性腫瘍を有する。
−Capan-1系統
Capan-1細胞は、ヒト膵臓腺ガンの肝臓転移に由来する(ATCC HTB-79)。Capan-1細胞は、培養フラスコ(reference BD Falcon T-175 353028)において、完全RPMI培養培地中で37℃及び5%CO2にてルーチンで培養し、70〜80%コンフルエンスに達したら継代する。
【0072】
−Swiss nu/nuマウス
雌性胸腺欠損Swiss Nude(nu/nu)マウス(Charles River)は、実験時に6〜8週齢とする。受け入れ後、後の同定のためにSwiss nu/nuマウスの耳に入れ墨をし、次いで12時間の昼夜サイクルに従って、実験前にA2環境中で1週間飼育条件に順応させる(IFR31の畜産技術部,Toulouse)。換気ケージラックシステムで、ケージあたりに5匹のSwiss nu/nuマウスを収容する。
【0073】
−Capan-1細胞の注射
注射可能な細胞懸濁液の調製
Capan-1細胞培養培地を取り除き、細胞を10mlの滅菌PBSで濯ぐ。周囲温度にて5分間のインキュベーション後、PBSを取り除き、3mlのトリプシン/EDTA溶液で37℃にて5分間細胞を解離させる。次いで7mlの完全培地に細胞を採取し、次いでピペットで10サイクルの汲み上げ/逆流後に解離させ、次いで滅菌50mlチューブ(Falcon Blue Max 50ml 352070)に採集する。Coulter Z.I.細胞カウンターを用いて細胞を計数する。注射すべきマウスあたり107相当のCapan-1細胞を滅菌条件下で1400rpm(200g)にて5分間遠心分離する。
【0074】
上清を除去し、次いでペレットを25mlの完全培地に採取し、次いでトリプシンの痕跡を全て除去するために、ピペットで10サイクルの汲み上げ/逆流後に解離させる。1400rpm(200g)にて5分間の遠心分離後、上清を除去し、血清の痕跡を全て除去するためにペレットをRPMI培地中での3サイクルの洗浄に付する。最後に、細胞培養のために107のCapan-1細胞を100μlの滅菌PBS中に採取する。
【0075】
Capan-1腫瘍の移植
マウス(MSC(微生物学的に安全なキャビネット)フード下で厳格に取り扱う)を入れ墨により同定し、体重を測定し、次いで取り扱う前に0.1%イソフルオラン(isofluorane)(Aerrane,Baxter)で5分間麻酔する。この全身麻酔プロトコルにより個体を楽に取り扱うことが可能になり、結果の再現性が確実になる一方で、同時に動物のストレス後の実験的アーチファクトを予防できる。動物が睡眠に入ったことを観察した後、0.3mlの29Gを用いデッドスペースのない33mmツベルクリンシリンジにより1ml/hの速度で、動物の左脇腹にCapan-1細胞(100μl)を皮下注射する。注射部位を消毒し、清潔なリターを有するケージ中でマウスを再馴化させる。これら実験条件下で、麻酔の5〜7分後にマウスは意識を回復する。手術後24時間及び48時間に、注射したマウスのバイタルサインを目視で分析する。これら条件下で、測定した死亡率は0%である。
【0076】
5)接着性細胞亜集団の細胞の注射
接着性細胞亜集団の注射は、胸腺欠損Swiss nu/nuマウスへのCapan-1腫瘍の移植の11〜14日後に行う。このときの平均腫瘍容積は250±18mm3である。上記のように、マウス(MSCフード下で厳格に取り扱う)を入れ墨により同定し、体重を測定し、次いで取り扱う前に0.1%イソフルオランで5分間麻酔する。動物が睡眠に入ったことを観察した後、細胞(50μlのPBS中5×105)を腫瘍中に直接か又は尾静脈中に注射する。
【0077】
腫瘍内移植には、0.3mlの29Gを用いデッドスペースのない33mmツベルクリンシリンジにより1ml/hの速度で、細胞を注射する。このことに関して、これら細胞は、膵臓腫瘍細胞のみの環境中にあり;これらは健常な膵臓組織とは接触しない。静脈内注射には、尾静脈の拡張を促進させるために、マウスを50℃に加温した注射チャンバに入れ、デッドスペースのないPVC製で口径29Gのリンパ管造影装置を用いて細胞を注射する。
2例で、コントロールマウスに50μlの滅菌PBSを腫瘍内に又は全身性に注射する。注射部位を消毒し、清潔なリターを有するケージ中でマウスを再馴化させる。
【0078】
6)統計学的分析
Graphpad Instat V3.05ソフトウェアを用いて統計学的分析を行う。Student-Newman-Keuls多重比較検定を伴うANOVA片側検定を用いて分散分析を行う。0.05を下回る確率を統計学的に有意であるとみなす。
【0079】
7)TUNEL技法によるアポトーシスの検出
TUNEL技法(末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ媒介性dUTP-ビオチンニック末端部標識)により、Capan-1細胞培養物又は実施例1.4に記載のマウスモデルに由来する膵臓腫瘍の切片で、ガン細胞のアポトーシスを検出する。この技法は、アポトーシスの間に生じるDNAフラグメントの遊離3'OH末端での標識ヌクレオチドの組み込みに基づく(Gavrieliら,1992,the Journal of cell Biology,Vol. 119,No. 3,pages 493-501)。ここでは、この技法はApopDETEKキット(EnzoDiagnostic,NY,USA)を製造業者の推奨に従って用いて行う。
【0080】
実施例2:脂肪組織に由来する細胞のインビボでの抗腫瘍効果
髄外脂肪組織の間質-血管画分の細胞をCapan-1細胞に由来する膵臓腫瘍を発現しているSwiss nu/nuマウスの腫瘍中に又は全身性に注射して、該細胞の抗腫瘍効果を評価する。
【0081】
1)腫瘍内注射
マウスを作成し、Capan-1細胞を注射し、接着性細胞亜集団を注射する条件は、実施例1に記載されている。
接着性細胞亜集団の注射後、マウスの体重及び腫瘍の成長を、細胞注射後14日まで2日毎に測定して記録する。腫瘍成長は、生きている動物においてインサイチュで測定する。カリパス尺を用いて、下記の計算式に従ってCapan-1腫瘍の長さ(L)及び幅(l)を測定する:
腫瘍容積(mm3)=L2(mm)×l(mm)×0.52
【0082】
細胞又はPBS(コントロール)の腫瘍内注射の3、6及び13日後に、以下の式に従ってパーセンテージ腫瘍進行を評価する:
時間tでの%腫瘍進行=[(t0での腫瘍容積)/(時間0での腫瘍容積)]×00;t0は接着性細胞亜集団又はPBSの注射に対応する。
【0083】
コントロール腫瘍の指数的進行、該腫瘍の潰瘍化及びこれら腫瘍を有するマウスの高い死亡危険性のために、接着性細胞亜集団の移入の10〜15日後(腫瘍移植の21〜39日後)に、実験を停止する。
腫瘍サイズを測定することによる腫瘍進行の決定に加えて、腫瘍重量もまた決定する。このために、細胞の腫瘍内注射の13日後にマウスを屠殺し、腫瘍を取り出し、秤量し、写真を撮影する。
【0084】
一方で腫瘍進行について、他方で腫瘍重量測定について得られた値は、接着性細胞亜集団の3つの異なる調製物に対応する、群あたり5匹のマウスの3つの独立した実験の代表値である。
腫瘍進行阻害試験の結果を図1に示す。これらは、亜集団細胞注射の3、6及び13日後のCapan-1腫瘍サイズにそれぞれ46%±13%、38%±8%及び57%±14%の激しく有意な減少を示す。これらデータは、細胞の腫瘍内移入後にCapan-1膵臓腫瘍進行が激しく減少することにより明らかになる抗腫瘍効果を示す。この実験は、コントロール腫瘍の指数的な成長及び潰瘍化のために継続することができなかった。
【0085】
接着性細胞亜集団の注射13日後の腫瘍重量及びサイズの測定に関する結果を図2に示す。これらは、Capan-1腫瘍重量が細胞の腫瘍内注射後に50%±0.1%減少することを示す。これら結果は、腫瘍サイズ(図1)の外部測定で得られたパーセンテージ腫瘍進行に関する結果と一致し、したがって種々の細胞を腫瘍内注射したときの抗腫瘍的役割を確証する。
【0086】
2)全身性注射
接着性細胞亜集団の腫瘍内注射による腫瘍進行の減少についてのこれら研究と並行して、本発明者らは、これら細胞が腫瘍部位に移動し該部位で効果を発揮するかどうかを決定するために、細胞を血液を介して投与した。
【0087】
マウスを作成し、Capan-1細胞、接着性細胞亜集団及びPBSを注射する条件は、実施例1に記載されている。より具体的には、本発明者らは、Capan-1腫瘍中に直接投与(腫瘍内注射)又は尾静脈に投与(全身性注射)した亜集団細胞の効果を比較した。亜集団細胞の移入の3日後に、腫瘍サイズを上記のとおりに測定する。得られた値は、2つの異なる細胞調製物に対応する、群あたり3又は4匹のマウスの2つの独立した実験の代表値である。結果を図3に示す。これらは、Capan-1腫瘍を有するマウス尾静脈にSVF細胞を注射したときにSVF細胞移入3日後に測定した腫瘍進行の阻害サイズが、細胞を腫瘍に直接投与したときに観察される阻害サイズに匹敵する(−56%±22% 対 −65%±26%)ことを示す。
【0088】
これら結果は、亜集団細胞を全身性に注射したときのインビボ抗腫瘍効果を支持するものであった。
実施例2に示した全ての結果(腫瘍中に局所的に注射するか又は尾静脈に全身性に投与した亜集団細胞による腫瘍進行の阻害を示す結果)は、髄外白色脂肪組織の間質-血管画分の細胞について抗腫瘍的役割を強く示唆する。
加えて、これら結果は、培養支持体への接着性に基づいて選択したSVF細胞を遠隔で全身血流に投与したときに該細胞が膵臓腫瘍を標的することを示す。
【0089】
実施例3:細胞生存能の測定
本発明者らはまた、インビボで得られた結果(実施例2)を確証及び検証するために、インビトロで、接着性細胞亜集団の培養上清の存在下にCapan 1細胞の生存能を測定した。
96ウェルの平底培養ディッシュ(Nunc 167008)中に、最終容量100μlにウェルあたり25,000細胞の割合にて六つ組みで(in sextuplicate)、Capan-1細胞を播種し、48時間後に細胞を濯ぎ、以下のもので処理する:
【0090】
−100μlの無血清RPMI培地(ネガティブコントロール、図4に示さず);
−100μlの完全RPMI培地(ポジティブコントロール、図4には示さず);
−10μg/mlのTNF-αを補充した100μlのDMEM:F12培地(生存能阻害についてのポジティブコントロール);
−100μlのDMEM:F12 OK培地;
−100μlの接着性細胞亜集団細胞の培養上清;又は
−100μlの接着性細胞亜集団細胞とCapan-1細胞との共培養上清。
【0091】
接着性細胞亜集団の細胞の培養上清は、DMEM:F12 OK培地中での48時間の培養後に得る;接着性細胞亜集団の細胞とCapan-1細胞との共培養上清は、最初のCapan-1細胞/接着性細胞比5/1又は1/1(それぞれ、共培養上清1及び共培養上清2)に従うDMEM:F12 OK培地中での接着性細胞とCapan-1細胞との48時間の培養後に得る。
2日(48時間)後、cell titer 96(商標) AQueous One Solution Cell Proliferation Assay kit(Promega G3582)を用いて細胞生存能を測定する。得られた値は、3つの異なる亜集団細胞調製物に対応する3つの独立した実験の代表値である。
【0092】
結果を図4に示す。これらは、接着性細胞亜集団(培養上清)により条件付けられた培地がCapan-1細胞の生存能を有意に阻害し得ることを示す。更に、接着性細胞亜集団とCapan-1細胞との共培養上清は、Capan-1細胞の生存能に対して、単独の接着性細胞亜集団によって条件付けられた上清より顕著な阻害効果を有する。このことは、これら細胞が膵臓ガン細胞の存在に対して反応し得ることを示す。
これら結果は、髄外白色脂肪組織の間質-血管画分の細胞によって条件付けられた培地が抗腫瘍効果を有し、この効果は該細胞をガン細胞(例えば、Capan-1系統の細胞)によって活性化させると増幅し得ることを示す。
【0093】
実施例4:アポトーシスの誘導
本発明者らは、髄外白色脂肪組織の間質-血管画分の細胞並びに培養上清及び共培養上清の抗腫瘍効果がガン細胞のアポトーシスの誘導に起因するかどうかを調べた。
1)Capan-1細胞アポトーシスのインビトロ誘導
4-well Labtecks(Dutscher)中に、最終容量500μlにウェルあたり50,000細胞の割合にて三つ組み(in triplicate)でCapan-1細胞を播種して培養し、次いで濯ぎ、以下のもので処理する:
【0094】
−500μlのDMEM:F12 OK培地又は10%RPMI培地;
−500μlの接着性細胞亜集団細胞の培養上清;
−500μlの共培養上清1;
−500μlの共培養上清2。
【0095】
接着性細胞亜集団の細胞の培養上清は、実施例3に示したように得る。
24時間後、実施例1.7に示すようなTUNEL技法によりアポトーシスを評価する。
結果を図5に示す。
【0096】
接着性細胞亜集団の細胞の培養上清で処理したCapan-1細胞の核標識を観察する(図5B)。この標識は、DMEM:F12 OK培地又は10%RPMIの存在下に置いたCapan-1細胞については観察されない(図5A)。共培養上清1で処理したCapan-1細胞については、核標識はより強く(図5C)、その強度は、共培養上清2での処理によって更に増大する。共培養上清2での処理については、細胞質の凝縮も観察される(図5D)。これら結果は、共培養上清の存在下でのDNA断片化の量的増加、したがってCapan-1細胞アポトーシスの増加を示す。
したがって、これら結果は、接着性細胞亜集団の細胞の培養上清及び接着性細胞亜集団の細胞の共培養上清が、インビトロでCapan-1細胞アポトーシスを誘導し得ることを示す。
【0097】
2)膵臓ガン細胞のアポトーシスのインビボ誘導
マウスを作成し、Capan-1細胞を注射し、接着性細胞亜集団を腫瘍内注射する条件は、実施例1に記載されている。
接着性細胞亜集団の細胞の注射の5日後に、膵臓腫瘍生検を採取し、次いで切片を調製する。ネガティブコントロール用に、接着性細胞亜集団の細胞を与えていないマウスから、腫瘍切片を調製する。実施例1.7に示すようなTUNEL技法によって、これら2つのタイプの調製物においてアポトーシスを検出する。
【0098】
結果を図6に示す。
コントロールマウスに由来する腫瘍の切片では標識は検出されない(図6A)。他方で、接着性細胞亜集団の細胞の注射を受けたマウスに由来する多くのガン細胞については核標識が観察される(図6B)。このことにより、これら細胞がアポトーシスに入っていることが示される。
これら結果は、接着性細胞亜集団の細胞がインビボでガン細胞のアポトーシスを誘導し得ることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】培養支持体への接着性に基づいて選択したSVF細胞亜集団(□)又はPBS(■)の腫瘍内注射後の腫瘍進行のインビボ決定を示す。
【図2】接着性細胞亜集団の腫瘍内注射後のインビボでの膵臓腫瘍重量の減少。A:間質-血管画分の細胞(白)又はPBS(コントロール)(黒)の腫瘍内注射後の腫瘍重量(mg)の決定を示す。
【図3】接着性細胞亜集団の腫瘍内注射後(I.T.;△)若しくは全身性注射後(I.V.;▲)又はPBSの腫瘍内注射若しくは全身性注射の何れかの後(コントロール;■)のパーセンテージ腫瘍進行のインビボ決定を示す。
【図4】DMEM:F12 OK培地、前記亜集団の細胞の培養上清(条件付け培地)、該亜集団の細胞とCapan-1細胞とからの共培養上清(共培養培地)又は10μg/mlのTNF-αを補充したDMEM:F12培地で処理したCapan-1細胞のパーセンテージ生存能のインビトロ決定を示す。
【図5】接着性細胞亜集団の細胞の培養上清により、及び接着性細胞亜集団の細胞とCapan-1細胞との共培養上清により誘導されるCapan-1細胞アポトーシスのインビトロ決定を示す。
【図6】接着性細胞亜集団の細胞の腫瘍内注射後のガン細胞アポトーシスのインビボ決定を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間質-血管画分と該間質-血管画分の接着性細胞からなる亜集団とからなる群より選択される髄外白色脂肪組織から単離された細胞の、抗腫瘍医薬の製造のための使用。
【請求項2】
前記接着性細胞亜集団が、以下:
−髄外白色脂肪組織から間質-血管画分を取得し;
−該間質-血管画分を精製し;
−該精製画分から、適切な液体培地での初代培養、培養支持体上での接着性細胞の選択、適切な培地でのコンフルエンス後の該細胞の回収、遠心分離及びペレットの回収によって、前記細胞亜集団を単離することを含んでなる方法により取得することができることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記細胞が医薬的に許容し得るキャリアと組み合わされることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記細胞が異種遺伝子を含んでなり、該異種遺伝子の翻訳産物が治療上興味のあるタンパク質、例えばプロドラッグを腫瘍細胞に対して毒性の活性化合物に代謝し得る酵素であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記抗腫瘍医薬が前記接着性細胞亜集団の培養上清からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記上清が前記細胞亜集団とガン細胞又はガン細胞系統の細胞との共培養物から得られることを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記ガンが固形ガン又は液性ガンであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記ガンが胃腸管の固形ガン(膵臓ガン、胃ガン、結腸直腸ガン)であることを特徴とする、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に規定の抗腫瘍剤、すなわち請求項1に規定される髄外白色脂肪組織細胞、前記細胞の培養上清又は前記細胞とガン細胞若しくは適切なガン細胞系統の細胞との共培養物の上清からなる群より選択される抗腫瘍剤の、抗ガン療法におけるアジュバントの製造のための使用。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に規定の抗腫瘍剤、すなわち請求項1に規定される髄外白色脂肪組織、前記細胞の培養上清又は前記細胞とガン細胞若しくは適切なガン細胞系統の細胞との共培養物の上清からなる群より選択される抗腫瘍剤の、他の抗腫瘍医薬、特に前記細胞又は前記細胞の上清と相乗的に作用し得る他の抗腫瘍医薬についてのインビトロスクリーニングのための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2009−537493(P2009−537493A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510501(P2009−510501)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000847
【国際公開番号】WO2007/135284
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(506002731)ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PAUL SABATIER TOULOUSE III
【出願人】(302013564)アンスティテュ ナシオナル ド ラ サント エ ド ラ ルシュルシェ メディカル (6)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
【住所又は居所原語表記】101 rue de Tolbiac,F−75654 Paris Cedex 13,France
【Fターム(参考)】