説明

抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液および抗菌・消臭性塗膜付基材

【課題】抗菌機能、消臭性能等に優れた抗菌・消臭性塗膜を形成するための塗布液および抗菌・消臭性塗膜付基材を提供する。
【解決手段】抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液は、抗菌・消臭性金属成分を酸化物換算で0.1〜20重量%の範囲で含む酸化チタン系微粒子が、水溶性金属キレート化合物を含有する水系分散媒中に分散してなることを特徴とし、水溶性金属キレート化合物はチタンキレート化合物、特に、チタンラクテートアンモニウム塩であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌性能と併せて揮発性有機化合物(VOC)、アンモニア等の臭気成分を分解することのできる抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液および該塗膜を有する抗菌・消臭性塗膜付基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、清潔志向、衛生志向、安全志向、快適志向等、生活環境の向上が求められている。
従来、シリカゲル、複合酸化物、酸化チタン等の粉末、あるいはコロイド粒子に抗菌性を有する銀、銅、亜鉛等の金属成分を担持した抗菌性組成物が知られている。
【0003】
例えば、本願出願人は無機酸化物コロイド粒子に抗菌性金属成分を付着せしめた抗菌剤(特開平6−80527号公報:特許文献1)あるいはメタ珪酸アルミン酸マグネシウムに抗菌性を有する金属イオンをイオン交換した抗菌剤(特開平3−275627号公報:特許文献2)を開示している。
抗菌効果の持続性および抗菌物質の安定性を改善する目的で、抗菌性の金属イオンをゼオライトあるいはアルミノ珪酸塩に担持した抗菌性組成物も知られている(特開平1−283204号公報:特許文献3)。
【0004】
また、本願出願人は、金属成分と該金属成分以外の無機酸化物とから構成される無機酸化物微粒子であって、前記無機酸化物が酸化チタンとシリカおよび/またはジルコニアとを含んでなり、該酸化チタンが結晶性酸化チタンである抗菌性消臭剤を開示している(特開2005−318999号公報:特許文献4)。この抗菌性消臭剤は抗菌性能の他、揮発性有機化合物(VOC)の分解による消臭性能を有することを開示している。
【0005】
上記した無機酸化物粒子系の抗菌剤、消臭剤、抗菌・消臭剤は、通常、微粒子粉体を樹脂、あるいは繊維に練り込んで使用したり、塗料やインキにしてこれを基材に塗布して使用している。あるいは成型してろ材として使用している。
無機酸化物粒子系の抗菌剤、消臭剤を基材上に塗布して薄膜を形成して用いる場合、基材との密着性、膜表面の平坦性、透明性、耐久性等に問題があった。
また、基材上に膜を形成して使用するにはバインダー成分が使用されるが、従来公知のバインダー成分を使用すると抗菌性能、消臭性能が充分発揮できない問題があった。
【0006】
本願出願人は、特開平07−286114号公報(特許文献5)にマトリックス成分としてペルオキソポリチタン酸を水および/または有機溶媒に溶解した状態で含有している被膜形成用塗布液を開示しているが、その後、この被膜形成用塗布液を用いて形成した被膜はアンモニア等の臭気成分を分解して無臭化できることを見出している。
しかしながら、このようなペルオキソポリチタン酸をマトリックス成分として用いた、無機酸化物粒子系の抗菌剤、消臭剤を含む薄膜を形成しても、塗布液の安定性が不充分となり、得られる薄膜は基材との密着性、透明性、表面の平坦性が不充分となったり、クラックが発生する場合があり、加えて抗菌性能、消臭性能も充分とは言えなかった。
【0007】
近年、居住空間、公共施設、医療施設、養護施設、自動車内装等において、抗菌、防かび、防藻、坑ウイルス、抗アレルゲン、害虫忌避等の他、建材等に含まれるホルムアルデヒド、煙草喫煙時に発生するアセトアルデヒド等の有害物質の除去、便所等で発生するアンモニア等に対する消臭性能が求められ、しかも、美観等を損ねることのない、抗菌・消臭性透明薄膜が求められている。しかも、上記性能を長期にわたって維持できる透明薄膜が求められている。
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、抗菌・消臭性金属成分を含む酸化チタン系微粒子をチタンキレート化合物水溶液に分散させた分散液はゲル化することなく長期安定で、しかもこの分散液を塗布して得られる薄膜は透明で、基材との密着性に優れていることを見出して本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−80527号公報
【特許文献2】特開平3−275627号公報
【特許文献3】特開平1−283204号公報
【特許文献4】特開2005−318999号公報
【特許文献5】特開平07−286114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、抗菌機能、消臭性能等に優れた抗菌・消臭性塗膜を形成するための塗布液および抗菌・消臭性塗膜付基材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液は、抗菌・消臭性金属成分を酸化物換算で0.1〜20重量%の範囲で含む酸化チタン系微粒子が水溶性金属キレート化合物を含有する水系分散媒中に分散してなることを特徴としている。
前記抗菌・消臭性金属成分が銀、銅、亜鉛、錫、コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる1種または2種以上の金属成分であることが好ましい。
前記抗菌・消臭性金属成分が少なくとも亜鉛を含むことが好ましい。
前記水溶性金属キレート化合物がチタンキレート化合物であることが好ましい。
前記チタンキレート化合物がチタンラクテートアンモニウム塩であることが好ましい。
【0012】
前記酸化チタン系微粒子の平均粒子径が2〜50nmの範囲にあることが好ましい。
全固形分濃度が0.01〜20重量%の範囲にあり、前記酸化チタン系微粒子の固形分としての濃度が0.005〜19.9重量%の範囲にあり、前記水溶性金属キレート化合物のTiO2としての濃度が0.0001〜10.0重量%の範囲にあり、前記酸化チタン系微粒子の固形分としての重量(Wa)と水溶性金属キレート化合物のTiO2としての重量(Wb)の重量比(Wb)/(Wa)が0.005〜1.0の範囲にあることが好ましい。
【0013】
本発明に係る抗菌・消臭性塗膜付基材は、基材と、基材上に形成された抗菌・消臭性塗膜とからなり、該抗菌・消臭性塗膜が前記抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液を用いて形成された抗菌・消臭性塗膜であることを特徴としている。
前記抗菌・消臭性塗膜中の酸化チタン系微粒子の固形分としての含有量が50〜99.5重量%の範囲にあり、水溶性金属キレート化合物のTiO2としての含有量が0.5〜50重量%の範囲にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定性に優れた抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液および基材との密着性、表面平坦性、透明性、耐久性、クラック抑制等に優れるとともに抗菌性能、消臭性能に優れた抗菌・消臭性塗膜付基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液]
本発明に係る抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液は、抗菌・消臭性金属成分を酸化物換算で1〜20重量%の範囲で含む酸化チタン系微粒子が水溶性金属キレート化合物を含有する水系分散媒中に分散してなることを特徴としている。
【0016】
酸化チタン系微粒子
本発明に用いる酸化チタン系微粒子としては酸化チタン微粒子、酸化チタン以外の酸化物を含む酸化チタン微粒子があり、該酸化チタン以外の酸化物としてはシリカおよび/またはジルコニアが挙げられる。
この時の酸化チタン系微粒子中の酸化チタンの含有量は50重量%以上、さらには70〜95重量%の範囲にあることが好ましい。
酸化チタン系微粒子中の酸化チタンの含有量が50重量%未満の場合は、充分な抗菌性能、消臭性能が得られないことがある。
【0017】
シリカを含むことによって、酸化チタン系微粒子分散液の安定性が向上し、また耐光性、耐候性が向上する傾向がある。また、ジルコニアを含むことによって酸化チタン系微粒子分散液の安定性が向上し、また耐光性、耐候性が向上する傾向があり、抗菌成分の種類によっては変色を抑制することができる。
上記した酸化チタン系微粒子は、本願出願人による特開昭63−185820号公報、特開2005−318999号公報(特許文献4)等に開示した方法に準じて得ることができる。
【0018】
酸化チタン系微粒子は、平均粒子径が概ね2〜50nm、さらには5〜40nmの範囲にあることが好ましい。
酸化チタン系微粒子の平均粒子径が2nm未満の場合は、酸化チタン系微粒子が凝集する傾向があり、また結晶性が不充分となることから得られる抗菌消臭剤の消臭性能、抗菌性能が不充分となることがある。
酸化チタン系微粒子の平均粒子径が50nmを越えると、有効な粒子の外部表面積の低下により消臭性能、抗菌性能が不充分となることがある。
【0019】
抗菌・消臭成分
抗菌消臭成分としては銀、銅、亜鉛、錫、コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる1種または2種以上の抗菌・消臭成分を含むことが好ましい。なかでも銀または亜鉛は抗菌性能と消臭性能のいずれも優れているので好ましい。特に亜鉛の場合は全く変色することもないので好適に採用することができる。
このような抗菌・消臭成分はイオン、酸化物、水酸化物等の化合物またはこれらの混合物のいずれの形態で存在していてもよい。抗菌性の観点からはイオンの形態が好ましく、酸化物であれば消臭性にも優れた抗菌・消臭性塗膜が得られる。
【0020】
また、抗菌・消臭成分は酸化チタン系微粒子の表層に存在するか、酸化チタン系微粒子の内部まで比較的均一に分布していることが好ましい。
抗菌・消臭成分を酸化チタン系微粒子に担持する方法としては、例えば前記特開2005−318999号公報に開示した方法を採用することができる。
具体的には、例えば、負の電荷を有する酸化チタン微粒子が分散した分散液に、抗菌・消臭性成分の金属塩水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0021】
前記金属塩水溶液はアンミン錯塩水溶液が好ましい。アンミン錯塩水溶液を用いると酸化チタン系微粒子分散液の安定性を低下させたり、ゲル化させることなく長期にわたって安定な抗菌・消臭性能を有する抗菌・消臭性塗膜を製造することができる。安定性が低下した抗菌消臭剤、ゲル化した抗菌消臭剤は用途が制限されたり、抗菌性能、消臭性能が不充分となることがある。
好適なアンミン錯塩水溶液は、例えば、酸化亜鉛、酸化銀あるいは酸化銅などをアンモニア水に溶解することによって、亜鉛、銀あるいは銅等のアンミン錯塩水溶液を調製することができる。
【0022】
なお、前記した方法での抗菌消臭剤の調製に際し、水を分散媒とする酸化チタン系微粒子分散液の濃度は酸化物として5重量%以下、好ましくは、0.5重量%〜3重量%の範囲にあることが好ましい。
前述の方法で得られた水を分散媒とする抗菌・消臭成分を担持した酸化チタン微粒子分散液は、公知の方法、例えば限外濾過膜を用いて、所望の濃度に調整される。
【0023】
酸化チタン系微粒子中の抗菌・消臭成分の含有量は酸化物として0.1〜20重量%、さらには1〜15重量%の範囲にあることが好ましい。
抗菌・消臭成分の含有量が0.1重量%よりも少ない場合には充分な抗菌・消臭性能が得られにくい。
抗菌・消臭成分の含有量が20重量%よりも多い場合には、さらに消臭性能および抗菌性能が向上することもなく、むしろ抗菌成分が凝集するためかこれら性能が低下する場合がある。
【0024】
水系分散媒
本発明に用いる水系分散媒としては、水、水とアルコールの混合分散媒が好ましい。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、等が挙げられる。
混合分散媒の場合、混合比率は特に制限はないが、概ね水の割合が10重量%以上であることが好ましい。
【0025】
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液の全固形分濃度は0.01〜20重量%、さらには0.1〜10重量%の範囲にあることが好ましい。
全固形分濃度が0.01重量%未満の場合は、塗布して得られる抗菌・消臭性塗膜の膜厚が薄くなり、抗菌・消臭性能が不充分となるほか、膜の強度が不充分、基材表面に凹凸がある場合は表面の平坦性が不充分となる場合がある。
全固形分濃度が20重量%を超えると、塗布液の安定性が不充分となったり、塗工性が低下し、得られる抗菌・消臭性塗膜の基材との密着性、表面平坦性、透明性、耐久性、クラック抑制等が低下するとともに抗菌性能、消臭性能が不充分となる場合がある。
【0026】
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液中の酸化チタン系微粒子の濃度は固形分として0.005〜19.9重量%、さらには0.1〜10重量%の範囲にあることが好ましい。
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液中の酸化チタン系微粒子の濃度が固形分として0.005重量%未満の場合は、抗菌・消臭性能が不充分となる場合がある。
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液中の酸化チタン系微粒子の濃度が固形分として19.9重量%を超えると、水溶性金属キレート化合物が制限されるが、この場合、塗布液の安定性、基材との密着性、透明性等が低下し膜強度が不充分となる場合がある。
【0027】
水溶性金属キレート化合物
本発明に用いる水溶性金属キレート化合物としては、金属がTi、Al、Zr、Si等である水溶性金属キレート化合物が挙げられる。なかでも、金属がTiである水溶性チタンキレート化合物は抗菌・消臭性能を低下させることがないので好適に使用することができる。
水溶性チタンキレート化合物としては、水溶性チタンラクテートアンモニウム塩、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミン)、チタンラクテート等が挙げられる。
これらの水溶性チタンキレート化合物は、溶液自体も安定であるが、抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液に用いた場合も、安定で、これを塗布して得られる抗菌・消臭性塗膜は基材との密着性、透明性、塗膜表面の平坦性に優れ、且つ、抗菌・消臭性能に優れている。
【0028】
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液中の水溶性金属キレート化合物のTiO2としての濃度は0.0001〜10重量%、さらには0.0005〜8重量%の範囲にあることが好ましい。
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液中の水溶性金属キレート化合物のTiO2としての濃度が0.0001重量%未満の場合は、塗布液の安定性、基材との密着性、透明性等が不充分となる場合がある。
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液中の水溶性金属キレート化合物のTiO2としての濃度が10重量%を超えると、塗布液の安定性がさらに向上することもなく、得られる抗菌・消臭性塗膜中の酸化チタン系微粒子の含有量が低下するために、抗菌・消臭性能が不充分となる場合がある。
【0029】
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液中の抗菌・消臭成分を含む酸化チタン系微粒子の固形分としての重量(Wa)と水溶性金属キレート化合物のTiO2としての重量(Wb)の重量比(Wb)/(Wa)が0.005〜1.0、さらには0.01〜0.5の範囲にあることが好ましい。
前記重量比(Wb)/(Wa)が0.005未満の場合は、水溶性金属キレート化合物が少なくなり、塗布液の安定性、基材との密着性、透明性、表面平坦性等が低下したり、膜強度が不充分となる場合がある。
【0030】
前記重量比(Wb)/(Wa)が1.0を超えると、塗布液の安定性がさらに向上することもなく、得られる抗菌・消臭性塗膜中の酸化チタン系微粒子の含有量が低下するために、抗菌・消臭性能が不充分となる場合がある。
さらに、本発明の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液には他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、顔料、分散材、界面活性剤等の他、通常塗料やインキに配合剤として用いられる成分が挙げられる。
【0031】
[抗菌・消臭性塗膜付基材]
本発明に係る抗菌・消臭性塗膜付基材は、基材と、基材上に形成された抗菌・消臭性塗膜とからなり、該抗菌・消臭性塗膜が前記抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液を用いて形成された抗菌・消臭性塗膜であることを特徴としている。
【0032】
基材
基材としては、ガラス、金属、樹脂、セラミック、木、無機酸化物等の基材が挙げられる。また、接着性樹脂フィルム等の一方の表面に抗菌・消臭性塗膜を形成した後、他の基材を張付けて使用することもできる。
【0033】
抗菌・消臭性塗膜中の酸化チタン系微粒子の固形分としての含有量は50〜99.5重量%、さらには60〜96重量%の範囲にあることが好ましい。
抗菌・消臭性塗膜中の酸化チタン系微粒子の固形分としての含有量が50重量%未満の場合は、抗菌・消臭性能が不充分となる場合がある。
抗菌・消臭性塗膜中の酸化チタン系微粒子の固形分としての含有量が99.5重量%を超えてもさらに抗菌消臭性能が向上することもなく、基材との密着性、透明性、表面平坦性、膜強度等が不充分となる場合がある。
【0034】
抗菌・消臭性塗膜中の水溶性金属キレート化合物のTiO2としての含有量は0.5〜50重量%、4〜40重量%の範囲にあることが好ましい。
抗菌・消臭性塗膜中の水溶性金属キレート化合物のTiO2としての含有量が0.5重量%未満の場合は、基材との密着性、透明性、表面平坦性、膜強度等が不充分となる場合がある。
抗菌・消臭性塗膜中の水溶性金属キレート化合物のTiO2としての含有量が50重量%を超えると、酸化チタン系微粒子の含有量が少ないために抗菌・消臭性能が不充分となる場合がある。
【0035】
抗菌・消臭性塗膜の膜厚は0.1〜50μm、さらには0.1〜20μmの範囲にあることが好ましい。
抗菌・消臭性塗膜の膜厚が0.1μm未満の場合は、抗菌・消臭性能が不充分となる場合があり、長期に亘って高い抗菌・消臭性能を維持することができない場合がある。
抗菌・消臭性塗膜の膜厚が50μmを超えても、抗菌・消臭性能がさらに向上することもなく、塗膜にクラックが生じたり、透明性が低下するため用途が制限される場合がある。
【0036】
このような抗菌・消臭性塗膜付基材は、前記抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液を、ディップ法、スプレー法、スピナー法、ロールコート法、バーコーター法等の周知の方法で前記した基材に塗布し、乾燥し、さらに必要に応じて加熱処理によって硬化させて製造することができる。
【0037】
本発明の抗菌・消臭性塗膜において抗菌の対象となる菌類としては、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、大腸菌、緑膿菌、プロテウス菌、肺炎桿菌、枯草菌等、真菌としては黒かび、黒麹かび、白かび等、ウイルスとしてはインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス等、藻類としてはクロレラ等が挙げられる。
また、消臭の対象となる臭気成分としては、法定悪臭8物質(硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチル、二硫化ジメチル、アンモニア、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、スチレン)、炭化水素、ケトン、アルデヒド、アルコール類、エステル類、窒素化合物、硫黄化合物、低級脂肪酸等が挙げられる。
【0038】
本発明の抗菌・消臭性塗膜は、居住空間、公共施設、医療施設、養護施設、自動車内装等において、抗菌性能とともに消臭性能が求められる箇所において特に有用である。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(1)の調製
イオン交換水85重量部に酸化チタン系微粒子(1)分散液(日揮触媒化成(株)製:ATOMYBALL-(TZ-R)、平均粒子径10nm、固形分濃度10.0重量%、固形分中の抗菌消臭成分(ZnO)含有量8.0重量%)10重量部を配合し、充分に分散させた後、これに水溶性金属キレート化合物としてチタンラクテートアンモニウム塩溶液(マツモトファインケミカル(株)製:オルガチックスTC-300、チタンラクテートアンモニウム塩42重量%、水20重量%、イソプロピルアルコール38重量%、TiO2としての濃度10.0重量%)5重量部を添加して、固形分濃度1.5重量%の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(1)を調製した。
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(1)の安定性を下記の方法で評価したところ、結果は◎であった。
【0040】
安定性評価
ガラスの密閉容器にて、50℃で1週間放置後、目視にて確認。
ゲル化なし :◎
ゲル化、薄く白濁:○
ゲル化、白濁分離:△
ゲル化、白濁沈殿:×
【0041】
抗菌・消臭性塗膜付基材(1)の作成
厚さ0.105mmの工業用純アルミニウム板を脱脂し、苛性処理し、充分に水で洗浄して乾燥したアルミニウム基材表面に抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(1)をバーコーター法で膜厚が約10μmになるように塗布し、120℃で2分間乾燥した。次いで200℃で2分間加熱処理して抗菌・消臭性塗膜付基材(1)を作成した。
得られた抗菌・消臭性塗膜付基材(1)について、膜厚、密着性、表面平坦性および抗菌性能、消臭性能を評価し、結果を表に示す。なお、評価方法、評価基準は以下に示す。
【0042】
膜厚
垂直に切断した膜の断面を走査型電子顕微鏡観察により観察して測定した。
【0043】
密着性
JIS K 5400に基づく基盤目試験に準拠し、透明被膜付基材(1)の表面にナイフで縦横1mmの間隔で11本の平行な傷を付け100個の升目を作り、これにセロハンテープ(登録商標)を接着し、ついで、セロハンテープ(登録商標)を剥離したときに被膜が剥離せず残存している升目の数を、以下の4段階に分類することによって密着性を評価した。結果を表1に示す。
残存升目の数100個 :◎
残存升目の数93〜97個:○
残存升目の数85〜92個:△
残存升目の数84個以下 :×
【0044】
平坦性
触針式表面荒さ計(東京精密(株)製:サーフコム)で表面の平均荒さを評価した。
【0045】
抗菌性能
JIS Z2801に準拠し、抗菌・消臭性塗膜付基材(1)に菌懸濁液、0.4mlを接種し、その上に被覆フイルムを被せて蓋をした後、35±1℃、RH90以上で24時間放置後、菌懸濁液を回収して生菌数を測定し、次式(1)の殺菌活性値により抗菌性能を評価した。結果を表2に示す。
試験菌には、黄色ぶどう球菌、大腸菌、およびMRSAを用い、菌懸濁液の栄養として、肉エキス(3g/L)+ペプトン(10g/L)+塩化ナトリウム(5g/L)を100倍に薄めたものを使用した。
殺菌活性値=Log(植菌数)−Log(試験片生菌数) ・・・(1)
【0046】
消臭性能
試験臭(1):アセトアルデヒド(初期濃度:60ppm)
試験方法:1Lテドラーバッグに検体(10cm×10cm)を入れ、臭気1Lを添加後、室温にて、紫外線照射下(1.0mW/cm2)で放置した。24時間後、検知管にて臭気残存濃度(消臭率)及び二酸化炭素濃度(ppm)を測定した。
【0047】
試験臭(2)および(3):硫化水素(初期濃度:4ppm)、アンモニア(初期濃度:100ppm)
試験方法:5Lテドラーバッグに検体(10cm×10cm)を入れ、臭気3Lを添加後、室温にて、蛍光灯照射下で放置した。2時間後検知管にて臭気残存濃度(消臭率)を測定した。
【0048】
[実施例2]
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(2)の調製
実施例1において、イオン交換水88重量部、チタンラクテートアンモニウム塩溶液2重量部を用いた以外は同様にして固形分濃度1.2重量%の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(2)を調製した。抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(2)の安定性を評価した。結果は◎であった。
【0049】
抗菌・消臭性塗膜付基材(2)の作成
実施例1において、抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(2)を用いた以外は同様にして抗菌・消臭性塗膜付基材(2)を作成した。
得られた抗菌・消臭性塗膜付基材(2)について、膜厚、密着性、表面平坦性および抗菌性能、消臭性能を評価し、結果を表に示す。
【0050】
[実施例3]
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(2)の調製
実施例1において、イオン交換水89.5重量部、チタンラクテートアンモニウム塩溶液を0.5重量部を用いた以外は同様にして固形分濃度1.05重量%の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(3)を調製した。抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(3)の安定性を評価した。結果は◎であった。
【0051】
抗菌・消臭性塗膜付基材(3)の作成
実施例1において、抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(3)を用いた以外は同様にして抗菌・消臭性塗膜付基材(3)を作成した。
得られた抗菌・消臭性塗膜付基材(3)について、膜厚、密着性、表面平坦性および抗菌性能、消臭性能を評価し、結果を表に示す。
【0052】
[実施例4]
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(4)の調製
イオン交換水85重量部に酸化チタン系微粒子分散液(2)(日揮触媒化成(株)製:ATOMYBALL-(L)10、平均粒子径10nm、固形分濃度10.0重量%、固形分中の抗菌消臭成分(Ag2O)含有量4.5重量%)10重量部を配合し、充分に分散させた後、これにチタンラクテートアンモニウム塩溶液5重量部を添加して、固形分濃度1.5重量%の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(4)を調製した。抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(4)の安定性を評価した。結果は◎であった。
【0053】
抗菌・消臭性塗膜付基材(4)の作成
実施例1において、抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(4)を用いた以外は同様にして抗菌・消臭性塗膜付基材(4)を作成した。
得られた抗菌・消臭性塗膜付基材(4)について、膜厚、密着性、表面平坦性および抗菌性能、消臭性能を評価し、結果を表に示す。
【0054】
[実施例5]
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(5)の調製
実施例1において、チタンラクテートアンモニウム塩溶液の代わりに、水溶性金属キレート化合物としてチタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミン)(マツモトファインケミカル(株)製:オルガチックスTC-400、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミン)80重量%、イソプロピルアルコール20重量%、TiO2として濃度13.7重量%)5重量部を添加した以外は同様にして固形分濃度1.685重量%の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(5)を調製した。抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(5)の安定性を評価した。結果は○であった。
【0055】
抗菌・消臭性塗膜付基材(5)の作成
実施例1において、抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(5)を用いた以外は同様にして抗菌・消臭性塗膜付基材(5)を作成した。
得られた抗菌・消臭性塗膜付基材(5)について、膜厚、密着性、表面平坦性および抗菌性能、消臭性能を評価し、結果を表に示す。
【0056】
[比較例1]
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R1)の調製
イオン交換水90重量部に酸化チタン系微粒子分散液(1)(日揮触媒化成(株)製:ATOMYBALL-(TZ-R)、平均粒子径10nm、固形分濃度10.0重量%、固形分中の抗菌消臭成分(ZnO)含有量8.0重量%)10重量部を配合し、充分に分散させて、固形分濃度1.0重量%の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R1)を調製した。抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R1)の安定性を評価した。結果は◎であった。
【0057】
抗菌・消臭性塗膜付基材(R1)の作成
実施例1において、抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R1)を用いた以外は同様にして抗菌・消臭性塗膜付基材(R1)を作成した。
得られた抗菌・消臭性塗膜付基材(R1)について、膜厚、密着性、表面平坦性および抗菌性能、消臭性能を評価し、結果を表に示す。
【0058】
[比較例2]
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R2)の調製
イオン交換水70重量部に酸化チタン系微粒子分散液(1) (日揮触媒化成(株)製:ATOMYBALL-(TZ-R)、平均粒子径10nm、固形分濃度10.0重量%、固形分中の抗菌消臭成分(ZnO)含有量8.0重量%)10重量部を配合し、充分に分散させた後、これにチタンラクテートアンモニウム塩溶液20重量部を添加して、固形分濃度3.0重量%の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R2)を調製した。抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R2)の安定性を評価した。結果は○であった。
【0059】
抗菌・消臭性塗膜付基材(R2)の作成
実施例1において、抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R2)を用いた以外は同様にして抗菌・消臭性塗膜付基材(R2)を作成した。
得られた抗菌・消臭性塗膜付基材(R2)について、膜厚、密着性、表面平坦性および抗菌性能、消臭性能を評価し、結果を表に示す。
【0060】
[比較例3]
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R3)の調製
イオン交換水90重量部に酸化チタン系微粒子分散液(1)(日揮触媒化成(株)製:ATOMYBALL-(TZ-R)、平均粒子径10nm、固形分濃度10.0重量%、固形分中の抗菌消臭成分(ZnO)含有量8.0重量%)10重量部を配合し、充分に分散させた後、シリカゾル(日揮触媒化成(株)製:SN−350、平均粒子径7nm、固形分濃度16.0重量%)5重量部を添加して、固形分濃度1.8重量%の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R3)を調製した。抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R3)の安定性を評価した。結果は△であった。
【0061】
抗菌・消臭性塗膜付基材(R3)の作成
実施例1において、抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R3)を用いた以外は同様にして抗菌・消臭性塗膜付基材(R3)を作成した。
得られた抗菌・消臭性塗膜付基材(R3)について、膜厚、密着性、表面平坦性および抗菌性能、消臭性能を評価し、結果を表に示す。
【0062】
[比較例4]
抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R4)の調製
イオン交換水90重量部に酸化チタン系微粒子分散液(1)(日揮触媒化成(株)製:ATOMYBALL-(TZ-R)、平均粒子径10nm、固形分濃度10.0重量%、固形分中の抗菌消臭成分(ZnO)含有量8.0重量%)10重量部を配合し、充分に分散させた後、固形分濃度10.0重量%の酸化チタンゾル(日揮触媒化成(株)製:ネオサンベールPW−1010、平均粒子径10nm)5重量部を添加して、固形分濃度1.5重量%の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R4)を調製した。抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R4)の安定性を評価した。結果は×であった。
【0063】
抗菌・消臭性塗膜付基材(R4)の作成
実施例1において、抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液(R4)を用いた以外は同様にして抗菌・消臭性塗膜付基材(R4)を作成した。
得られた抗菌・消臭性塗膜付基材(R4)について、膜厚、密着性、表面平坦性および抗菌性能、消臭性能を評価し、結果を表に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌・消臭性金属成分を酸化物換算で0.1〜20重量%の範囲で含む酸化チタン系微粒子が水溶性金属キレート化合物を含有する水系分散媒中に分散してなることを特徴とする抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液。
【請求項2】
前記抗菌・消臭性金属成分が銀、銅、亜鉛、錫、コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる1種または2種以上の金属成分であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液。
【請求項3】
前記抗菌・消臭性金属成分が少なくとも亜鉛を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液。
【請求項4】
前記水溶性金属キレート化合物がチタンキレート化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液。
【請求項5】
前記チタンキレート化合物がチタンラクテートアンモニウム塩であることを特徴とする請求項4に記載の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液。
【請求項6】
前記酸化チタン系微粒子の平均粒子径が2〜50nmの範囲にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液。
【請求項7】
全固形分濃度が0.01〜20重量%の範囲にあり、前記酸化チタン系微粒子の固形分としての濃度が0.005〜19.9重量%の範囲にあり、前記水溶性金属キレート化合物のTiO2としての濃度が0.0001〜10.0 重量%の範囲にあり、酸化チタン系微粒子の重量(Wa)と水溶性金属キレート化合物のTiO2としての重量(Wb)の重量比(Wb)/(Wa)が0.005〜1.0の範囲にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液。
【請求項8】
基材と、基材上に形成された抗菌・消臭性塗膜とからなり、該抗菌・消臭性塗膜が請求項1〜7のいずれかに記載の抗菌・消臭性塗膜形成用塗布液を用いて形成された抗菌・消臭性塗膜であることを特徴とする抗菌・消臭性塗膜付基材。
【請求項9】
前記抗菌・消臭性塗膜中の酸化チタン系微粒子の固形分としての含有量が50〜99.5重量%の範囲にあり、水溶性金属キレート化合物のTiO2としての含有量が0.5〜50重量%の範囲にあることを特徴とする請求項8に記載の抗菌・消臭性塗膜付基材。

【公開番号】特開2011−126941(P2011−126941A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284362(P2009−284362)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】