説明

抗菌剤

【課題】優れた安全性と広範な微生物に対する効果的な抗菌性を備えた、幅広い用途に使用可能な抗菌剤を提供する
【解決手段】下記一般式(1):
a−S−R−COOH (1)
[式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の芳香族炭化水素基を示し、
は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基を示す。]
で表される化合物を含む抗菌剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷却水、水溶性切削油剤、水溶性洗浄剤等の工業薬品には、金属の腐食を防止するために防錆剤が配合されている。これらの水溶性の工業用薬品には、微生物による劣化を受け易いという問題点がある。
【0003】
例えば、冷却水の場合、クーリングタワーで再冷却するため、水が濃縮されて栄養物質や汚染物質の濃度が上昇し、細菌や藻、ときには真菌の繁殖が助長され、汚染物質の吸着も加わってスライムが形成される。スライムの処理には、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、さらし粉、塩素化シアヌル酸、第四級アンモニウム塩、メチレンビスチオシアネート等が使われている。
【0004】
しかし、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系殺菌剤は、即効性はあるものの持続性に乏しく、有機物やアンモニアの存在によって効力が低下してしまう。また、塩素剤は、金属に対する腐食性が強いので、防食剤を併用する必要がある。第四級アンモニウム塩は広い範囲の微生物に有効であり、腐食性もないが、激しく泡立ちすることがあり、スケール防止剤や防食剤と効果を損じあうこともある。メチレンビスチオシアネートも広い微生物に有効であるが、第一鉄イオンが多い水中では不溶性物質を形成し、pH7.5以上では加水分解が早いという問題もある。
【0005】
また、水溶性切削油剤や水溶性洗浄剤は、通常、水で希釈して用いられるが、防錆剤として配合される成分(脂肪酸やアルカノールアミン等)は、細菌、糸状菌、酵母などの微生物の好適な栄養源となるため、液が腐敗するという問題がある。腐敗が生じると性能の低下をきたし、また、悪臭による作業性の低下をきたす。従って、腐敗防止のために各種の防腐剤や抗菌剤が使用されている。
【0006】
防錆剤と共に配合される防腐剤や抗菌剤としては、例えば、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(以下BITと記載)、ホルムアルデヒド供与体化合物、フェノール系化合物等が知られている。しかし、これらの化合物は、毒性が強く、防腐・抗菌に必要な量を使用すると、人体への悪影響がみられるとの問題がある。また、同一の殺菌剤や防腐剤を使用していると、耐性菌が系内に生成し、防腐効果が著しく低下する問題がある。
【0007】
安全面において改良が加えられた抗菌剤としては、脂肪酸モノグリセリドを有効成分としたものが知られている。これらは、食品の日持向上剤や食品製造環境の抗菌剤として使用されている。特に、炭素数が8〜12の脂肪酸モノグリセリドは、食品加工分野で幅広く使用されている(例えば、特許文献1〜3)。しかしながら、脂肪酸モノグリセリドは、エステル結合の構造を有するため、微生物に対する十分な抗菌性を有していない。
【0008】
また、グリセリンとアルキル基を、微生物分解を受け難い結合とすることによって、抗菌活性を高める取り組みがなされており、例えば、アルキルチオ−1,2−プロパンジオール、アルキルアミノ−1,2−プロパンジオール、1,2−アルカンジオール等の使用が報告されている。しかし、これらのジオール化合物は、総じてグラム陰性細菌に対する抗菌活性が低いという問題点を有している。公知の多価アルコール系抗菌剤として、例えば、モノカプリンやモノラウリンに代表されるグリセリン脂肪酸エステル、グリセリンモノアルキルエーテル(C6〜C12)、3−アルキルチオプロパン−1,2−ジオール(C6〜C12)、1,2−アルカンジオール(C8〜C12)等を挙げることができる。
【0009】
このような現在の技術水準を背景として、安全性に優れ、かつ、幅広い微生物に対して効果的な抗菌剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−207179号公報
【特許文献2】特開平4−21608号公報
【特許文献3】特開平3−67573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような状況の下、本発明は、優れた安全性と広範な微生物に対する効果的な抗菌性を備えた、幅広い用途に使用可能な抗菌剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の含硫黄カルボン酸化合物が、金属腐食抑制作用に加えて、広範な微生物に対する効果的な抗菌性を有することを見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに検討を重ねて完成したものであある。すなわち、本発明は、以下の項1〜6に記載の抗菌剤及び該抗菌剤を用いた微生物の増殖抑制方法に関する。
【0013】
項1. 下記一般式(1):
a−S−R−COOH (1)
[式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の芳香族炭化水素基を示し、
は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基を示す。]
で表される化合物を含む抗菌剤。
項2. さらにキレート剤を含む項1に記載の抗菌剤。
項3. さらに多価アルコール系抗菌剤を含む項1又は2に記載の抗菌剤。
項4. さらに中級脂肪酸を含む項1〜3のいずれかに記載の抗菌剤。
項5. 金属腐食抑制剤かつ抗菌剤として使用される項1〜4のいずれかに記載の抗菌剤。
項6. 下記一般式(1):
a−S−R−COOH (1)
[式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の芳香族炭化水素基を示し、
は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基を示す。]
で表される化合物を含む抗菌剤を、微生物に作用させる微生物の増殖抑制方法。
【0014】
以下、本発明について詳述する。
【0015】
本発明の抗菌剤は、下記一般式(1):
a−S−R−COOH (1)
で表される化合物(以下、含硫黄カルボン酸化合物ということがある)を含むことを特徴とする。
【0016】
一般式(1)において、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の芳香族炭化水素基である。
【0017】
において、「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基」の炭素数は、好ましくは1〜14の整数、より好ましくは1〜7の整数である。
【0018】
また、「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基」の置換基は、本発明に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。該置換基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、フッ素原子等が挙げられる。該アルキル基は、これらの群から選ばれる少なくとも1種で1〜3個置換されていてもよい。
【0019】
特に好ましい「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−ノニル基、フェニル基等が挙げられる。
【0020】
において、「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の芳香族炭化水素基」の炭素数は、好ましくは1〜14の整数、より好ましくは1〜8の整数である。
【0021】
また、「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の芳香族炭化水素基」の置換基は、本発明に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。該置換基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、フッ素原子等が挙げられる。該アルキル基は、これらの群から選ばれる少なくとも1種で1〜6個置換されていてもよい。
【0022】
特に好ましい「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の芳香族炭化水素基」としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0023】
一般式(1)において、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基である。
【0024】
において、「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基」の炭素数は、好ましくは1〜14の整数、より好ましくは1〜4の整数である。
【0025】
「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基」の置換基は、本発明に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。該置換基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、フッ素原子等が挙げられる。
【0026】
特に好ましい「置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基」としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、シクロペンチレン基、ヘキシレン基、シクロヘキシレン基、ヘプチレン基、ノニレン基等が挙げられる。
【0027】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、n−エチルチオグリコール酸、n−プロピルチオグリコール酸、n−ブチルチオグリコール酸、n−ペンチルチオグリコール酸、n−ヘキシルチオグリコール酸、シクロヘキシルチオグリコール酸、n−ヘプチルチオグリコール酸、n−オクチルチオグリコール酸、2−エチルヘキシルチオグリコール酸、n−ノニルチオグリコール酸、n−デシルチオグリコール酸、n−ウンデシルチオグリコール酸、n−ドデシルチオグリコール酸、4−tert−ブチルベンジルチオグリコール酸、フェニルエチルチオグリコール酸、フェニルチオグリコール酸、n−エチルチオプロピオン酸、n−プロピルチオプロピオン酸、n−ブチルチオプロピオン酸、n−ペンチルチオプロピオン酸、n−ヘキシルチオプロピオン酸、シクロヘキシルチオプロピオン酸、n−ヘプチルチオプロピオン酸、n−オクチルチオプロピオン酸、2−エチルヘキシルチオプロピオン酸、n−ノニルチオプロピオン酸、n−デシルチオプロピオン酸、n−ウンデシルチオプロピオン酸、n−ドデシルチオプロピオン酸、4−tert−ブチルベンジルチオプロピオン酸、フェニルエチルチオプロピオン酸、フェニルチオプロピオン酸、n−エチルチオ乳酸、n−プロピルチオ乳酸、n−ブチルチオ乳酸、n−ペンチルチオ乳酸、n−ヘキシルチオ乳酸、シクロヘキシルチオ乳酸、n−ヘプチルチオ乳酸、n−オクチルチオ乳酸、2−エチルヘキシルチオ乳酸、n−ノニルチオ乳酸、n−デシルチオ乳酸、n−ウンデシルチオ乳酸、n−ドデシルチオ乳酸、4−tert−ブチルベンジルチオ乳酸、フェニルエチルチオ乳酸、フェニルチオ乳酸、n−エチルチオブタン酸、n−プロピルチオブタン酸、n−ブチルチオブタン酸、n−ペンチルチオブタン酸、n−ヘキシルチオブタン酸、シクロヘキシルチオブタン酸、n−ヘプチルチオブタン酸、n−オクチルチオブタン酸、2−エチルヘキシルチオブタン酸、n−ノニルチオブタン酸、n−デシルチオブタン酸、n−ウンデシルチオブタン酸、4−tert−ブチルベンジルチオブタン酸、フェニルエチルチオブタン酸、フェニルチオブタン酸、n−エチルチオペンタン酸、n−プロピルチオペンタン酸、n−ブチルチオペンタン酸、n−ペンチルチオペンタン酸、n−ヘキシルチオペンタン酸、シクロヘキシルチオペンタン酸、n−ヘプチルチオペンタン酸、n−オクチルチオペンタン酸、2−エチルヘキシルチオペンタン酸、n−ノニルチオペンタン酸、n−デシルチオペンタン酸、フェニルエチルチオペンタン酸、フェニルチオペンタン酸、n−メチルチオヘキサン酸、n−エチルチオヘキサン酸、n−プロピルチオヘキサン酸、n−ブチルチオヘキサン酸、n−ペンチルチオヘキサン酸、n−ヘキシルチオヘキサン酸、シクロヘキシルチオヘキサン酸、n−ヘプチルチオヘキサン酸、n−オクチルチオヘキサン酸、2−エチルヘキシルチオヘキサン酸、n−ノニルチオヘキサン酸、フェニルエチルチオヘキサン酸、フェニルチオヘキサン酸、n−メチルチオヘプタン酸、n−エチルチオヘプタン酸、n−プロピルチオヘプタン酸、n−ブチルチオヘプタン酸、n−ペンチルチオヘプタン酸、n−ヘキシルチオヘプタン酸、シクロヘキシルチオヘプタン酸、n−ヘプチルチオヘプタン酸、n−オクチルチオヘプタン酸、2−エチルヘキシルチオヘプタン酸、フェニルエチルチオヘプタン酸、フェニルチオヘプタン酸、n−メチルチオオクタン酸、n−エチルチオオクタン酸、n−プロピルチオオクタン酸、n−ブチルチオオクタン酸、n−ペンチルチオオクタン酸、n−ヘキシルチオオクタン酸、シクロヘキシルチオオクタン酸、n−ヘプチルチオオクタン酸、n−オクチルチオオクタン酸、フェニルエチルチオオクタン酸、フェニルチオオクタン酸、n−メチルチオノナン酸、n−エチルチオノナン酸、n−プロピルチオノナン酸、n−ブチルチオノナン酸、n−ペンチルチオノナン酸、n−ヘキシルチオノナン酸、シクロヘキシルチオノナン酸、フェニルチオノナン酸、n−メチルチオデカン酸、n−エチルチオデカン酸、n−プロピルチオデカン酸、n−ブチルチオデカン酸、n−ペンチルチオデカン酸、n−メチルチオウンデカン酸、n−エチルチオウンデカン酸、n−プロピルチオウンデカン酸、n−ブチルチオウンデカン酸、n−メチルチオドデカン酸、n−エチルチオドデカン酸、n−プロピルチオドデカン酸、n−メチルチオトリデカン酸、n−エチルチオトリデカン酸、n−メチルチオテトラデカン酸等; 及びこれらのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニム塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩が挙げられる。
【0028】
一般式(1)で表される化合物は、1種単独で抗菌剤に含んでもよいし、2種以上を混合して抗菌剤に含んでもよい。
【0029】
本発明の抗菌剤は、必要に応じて、前記含硫黄カルボン酸化合物(前記一般式(1)で表される化合物)に加えて、他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、キレート剤、他の抗菌剤、中性脂肪酸、界面活性剤、有機溶剤、pH調整剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、防錆剤、金属防食剤、消泡剤、潤滑剤、極圧添加剤、染料等が挙げられる。
【0030】
本発明の抗菌剤は、前記含硫黄カルボン酸化合物とキレート剤を併用することにより、微生物に対する抗菌作用が相乗的に高まり、例えばグラム陰性菌に対しても優れた抗菌作用を奏するので好ましい。
【0031】
前記含硫黄カルボン酸化合物と併用することができるキレート剤としては、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを捕捉するものであれは特に限定されず、公知のキレート剤が使用できる。例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、デカンジカルホン酸、リン酸、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸、ヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジフォスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジフォスホン、エデト酸; チオジグリコール酸、チオジプロピオン酸、チオジブタン酸、プロピルジチオジグリコール酸、ブチルジチオジグリコール酸、ブチルジチオジプロピオン酸、エチルジチオジブタン酸等の含硫黄ジカルボン酸; 及びこれらの塩等が使用できる。これらの中でも、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸、クエン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、デカンジカルボン酸、リン酸、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸、オクチルホスホン酸、チオジグリコール酸、チオジプロピオン酸、チオジブタン酸、プロピルジチオジグリコール酸及びその塩が好ましく使用できる。キレート剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
また、本発明の抗菌剤は、前記含硫黄カルボン酸化合物と他の抗菌剤を併用することによっても、微生物に対する抗菌作用を高めることができる。他の抗菌剤としては、例えば、多価アルコール系抗菌剤が挙げられる。本発明において併用できる多価アルコール系抗菌剤は、特に限定されず、従来公知の多価アルコール系抗菌剤が使用できる。例えば、モノカプリンやモノラウリンに代表されるグリセリン脂肪酸エステル、グリセリンモノアルキルエーテル(C6〜C12)、3−アルキルチオプロパン−1,2−ジオール(C6〜C12)、1,2−アルカンジオール(C8〜C12)等が使用できる。具体例としては、3−ヘキシルチオプロパン−1,2−ジオールが挙げられる。その他、前記多価アルコール系抗菌剤以外の他の抗菌剤としては、例えば、トリアジン化合物、チアゾリン化合物、フェノール化合物、ピリジン化合物、カーバメイト化合物、臭素化合物、モルホリン化合物、カチオン化合物、ニトロ化合物、パラベン類等が使用できる。他の抗菌剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0033】
さらに、本発明の抗菌剤は、前記含硫黄カルボン酸化合物と中級脂肪酸を併用することによっても、微生物に対する抗菌作用を相乗的に高めることができる。本発明において併用できる中級脂肪酸は、特に限定されず、従来公知の中級脂肪酸を使用できる。例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、イソノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸、ウンデシレン酸、ドデカン酸等が使用できる。中級脂肪酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
前記界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれもが併用できる。界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸(例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、高級アルキル硫酸エステル塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等)、アルキルエーテル硫酸エステル塩(例えば、POE−ラウリル硫酸トリエタノールアミン、POE−ラウリル硫酸ナトリウム等)、高級脂肪酸アミドスルホン酸塩(例えば、N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸メチルタウリッドナトリウム等)、リン酸エステル塩(例えば、POE−オレイルエーテルリン酸ナトリウム、POE−ステアリルエーテルリン酸等)、スルホコハク酸塩(例えば、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリルポリプロピレングリコールスルホコハク酸ナトリウム等)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、リニアドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リニアドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン、リニアドデシルベンゼンスルホン酸等)、高級脂肪酸硫酸エステル塩(例えば、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等)、N−アシルグルタミン酸塩(例えば、N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N−ステアロイルグルタミン酸ジナトリウム、N−ミリストイル−L−グルタミン酸モノナトリウム等)、硫酸化油(例えば、ロート油等)、POE−アルキルエーテルカルボン酸、POE−アルキルアリルエーテルカルボン酸、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、高級脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0036】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩(例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等)、アルキルピリジニウム塩(例えば、塩化セチルピリジニウム等)、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ジアルキルモリホニウム塩、POE−アルキルアミン、アルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミノアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
【0037】
両性界面活性剤としては、例えば、イミダゾリン系両性界面活性剤(例えば、2−ウンデシル−N,N,N−(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)−2−イミダゾリンナトリウム、2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ベタイン系界面活性剤(例えば、2−ヘプタデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)が挙げられる。
【0038】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート等)、グリセリンポリグリセリン脂肪酸類(例えば、モノエルカ酸グリセリン、セスキオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル類(例えば、モノステアリン酸プロピレングリコール等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POE−ソルビタン脂肪酸エステル類(例えば、POE−ソルビタンモノオレエート、POE−ソルビタンモノステアレート、POE−ソルビタンテトラオレエート等)、POE−ソルビット脂肪酸エステル類(例えば、POE−ソルビットモノラウレート、POE−ソルビットモノオレエート、POE−ソルビットモノステアレート等)、POE−グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、POE−グリセリンモノステアレート、POE−グリセリントリイソステアレート等)、POE−脂肪酸エステル類(例えば、POE−ジステアレート、POE−モノジオレエート、ジステアリン酸エチレングリコール等)、POE−アルキルエーテル類(例えば、POE−ラウリルエーテル、POE−オレイルエーテル、POE−ステアリルエーテル等)、プルロニック類、POE・POP−アルキルエーテル類(例えば、POE・POP−セチルエーテル、POE・POP−モノブチルエーテル、POE・POP−グリセリンエーテル等)、テトロニック類、POE−ヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体(例えば、POE−ヒマシ油、POE−硬化ヒマシ油、POE−硬化ヒマシ油モノイソステアレート等)、アルカノールアミド(例えば、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、脂肪酸イソプロパノールアミド等)、POE−プロピレングリコール脂肪酸エステル、POE−アルキルアミン、POE−脂肪酸アミド、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0039】
前記有機溶剤としては、炭化水素系溶剤、高級アルコール(例えば、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、バチルアルコール、イソステアリルアルコール等)、低級アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール等)、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、へキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、キシリトール、ソルビトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、トリグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート等が挙げられる。有機溶剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0040】
前記pH調整剤としては、例えば、乳酸、クエン酸、コハク酸、炭酸、リン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、モノイソプロパノールアミン、テトラヒドロキシアミン等が挙げられる。pH調整剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0041】
前記増粘剤としては、例えば、アラビアガム、カラギーナン、カラヤガム、トラガカントガム、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、アラギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、CMC、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、PVA、ポリアクリル酸ナトリウム、グアーガム、タマリントガム、キサンタンガム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ベントナイト、ヘクトライト、ラポナイト等が挙げられる。増粘剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0042】
前記保湿剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、マルチトール等が挙げられる。保湿剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0043】
前記着色料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、チタン酸鉄、黄酸化鉄、黄土、黒酸化鉄、コバルトバイオレット、チタン酸コバルト、群青、パール顔料、金属粉末顔料、有機顔料、クロロフィル、β−カロチン等が挙げられる。着色料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0044】
前記香料としては、ジャコウ、ライム、ビャクダン、ハッカ、バニリン、シトロネラール、オイゲノール、リナロール、クマリン、ケイ皮酸エチル等が挙げられる。香料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0045】
前記防錆剤としては、p−t−ブチル安息香酸のアルカノールアミン塩、p−t−ブチル安息香酸の金属塩、セバシン酸のアルカノールアミン塩、セバシン酸の金属塩、ドデカン二酸のアルカノールアミン塩、ドデカン二酸の金属塩、炭素数5〜20の脂肪酸のアルカノールアミン塩、炭素数5〜20の脂肪酸の金属塩、ホウ酸のアルカノールアミン塩、ホウ酸の金属塩等が挙げられる。防錆剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0046】
前記金属防食剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、3−アミノトリアゾール等が挙げられる。金属防食剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0047】
前記消泡剤としては、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。消泡剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0048】
前記潤滑剤としては、ポリグリコール系合成潤滑剤等が挙げられる。潤滑剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0049】
前記極圧添加剤としては、塩素系、硫黄系、リン系等の塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸、塩素化脂肪油、硫化オレフィン、硫化ラード、アルキルポリサルファイド、硫化脂肪酸、リン酸エステル(塩)系、亜リン酸エステル(塩)系、チオリン酸エステル(塩)系、ホスフィン系、リン酸トリクレジル等が挙げられる。極圧添加剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0050】
前記染料としては、例えば、スダンIII、キノリンイエローWS、フルオレセイン、キニザリングリーンSS、アリズリンパープルSS、スダンブルーB等が挙げられる。染料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
本発明の抗菌剤は、これらの他の成分を併用することにより、各目的に適した抗菌剤とすることができる。また、これらの他の成分を併用することで、溶液、クリーム、ペースト、ゲル、ジェル、固形物、粉末等の各種形態とすることができる。
【0052】
本発明において、前記含硫黄カルボン酸化合物は、前記防錆剤を含んでいなくても中性〜弱アルカリ性の広い領域において防性機能と抗菌機能の両機能を有している。すなわち、本発明の前記含硫黄カルボン酸化合物を、冷却水、金属加工油剤等に配合することにより、別途防錆剤を添加しなくても、優れた抗菌機能と防錆機能の両方を付与することができる。
【0053】
防錆機能の面からは、抗菌剤のpHはpH7〜pH10の範囲内に調整することが好ましい。抗菌剤のpHをこの領域に調整するために、必要に応じて、他の成分として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、テトラヒドロキシアンモニウム、メチルアミン、エチルアミン等アルカリ性の化合物を抗菌剤に配合することができる。抗菌剤の防錆性を増強することを目的とする場合、これらの中でも、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンを他の成分として使用することが好ましい。
【0054】
本発明の抗菌剤は、前記含硫黄カルボン酸化合物のみからなるものであってもよいし、前記キレート剤、多価アルコール系抗菌剤、中級脂肪酸、有機溶剤等の前記他の成分を少なくとも1種含むものでもよい。
【0055】
硫黄カルボン酸化合物と前記他の成分を併用する場合、これらの配合割合(前記含硫黄カルボン酸化合物:前記他の成分の合計量)は、重量比で100:0.1〜100:50程度、好ましくは100:1〜100:10程度である。
【0056】
また、本発明の抗菌剤は、前記含硫黄カルボン酸化合物、必要に応じて併用される他の成分を水で希釈したものであってもよい。希釈する水は、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水、工業用水等が使用でき、特に限定されない。本発明の抗菌剤が水で希釈されたものである場合、抗菌剤に含まれる前記含硫黄カルボン酸化合物の濃度は、通常100ppm〜50000ppm程度、好ましくは1000ppm〜10000ppm程度とすることが好ましい。この濃度以下では、充分な抗菌活性を発揮することが困難であり、これ以上の高濃度では水溶液を調製することが難しい。また、本発明の抗菌剤が水で希釈されたものである場合であって、前記他の成分を併用する場合、抗菌剤中の他の成分の濃度は、それぞれ、通常500ppm〜50000ppm程度、好ましくは250ppm〜2500ppm程度、より好ましくは500ppm〜2000ppm程度とすればよい。
【0057】
本発明の抗菌剤が他の成分を含む場合や、水等で希釈される場合、抗菌剤の調製方法は、例えば、含硫黄カルボン酸化合物と必要に応じて併用される前記他の成分及び/又は水を混合・攪拌して調製することができる。各成分の混合順序は特に限定されない。調製温度、調製圧力も、各成分が均一に混合されれば特に限定されない。
【0058】
本発明の抗菌剤の使用用途及び態様は、微生物の抗菌目的とするものであれば、特に限定されず、幅広い分野に使用できる。本発明の抗菌剤は、金属腐食抑制作用も有するので、例えば、冷却水、金属加工油剤、金属加工後の洗浄剤、塗料ミスト処理剤、水溶性塗料等、金属の腐食対策が必要な液体に配合して特に好適に使用できる。なお、前記一般式(1)で表される化合物が防錆作用を有することは、国際公開WO2007/080839に開示されている。
【0059】
本発明の好ましい実施態様において、本発明の抗菌剤は、例えば、アルカノールアミン等のアルカリ性防錆製剤を配合した冷却水、防錆剤、金属防食剤、消泡剤等を更に配合した金属加工後の洗浄剤;防錆剤、潤滑剤、極圧添加剤、金属防食剤、消泡剤、染料、香料等を更に配合した金属加工油剤とすることができる。
【0060】
本発明の抗菌剤が、冷却水、金属加工油剤、金属加工後の洗浄剤、塗料ミスト処理剤、水溶性塗料等の抗菌剤成分として使用される場合、前記含硫黄カルボン酸化合物の濃度は、通常0.1%〜50%程度、好ましくは1%〜10%程度となるように設定すればよい。また、本発明の抗菌剤が前記他の成分を含む場合、これらの濃度は、それぞれ、通常0.1%〜50%程度、好ましくは0.25%〜2.5%程度、より好ましくは0.5%〜2%程度となるように設定すればよい。
【0061】
本発明の抗菌剤を冷却水、金属加工油剤、金属加工後の洗浄剤、塗料ミスト処理剤、水溶性塗料と混合して使用することにより、優れた安全性と広範な微生物に対する効果的な抗菌性を付与することができる。さらに、本発明の抗菌剤は、防錆機能も兼ね備えているため、クーリングタワーのスライム除去剤、水溶性切削油剤、水溶性洗浄剤等の防錆剤かつ抗菌剤としても有用である。
【発明の効果】
【0062】
本発明の抗菌剤は、優れた安全性と広範な微生物に対する効果的な抗菌性を備えており、幅広い用途に使用可能である。さらに、本発明の抗菌剤は、防錆機能も兼ね備えているため、クーリングタワーのスライム除去剤、水溶性切削油剤、水溶性洗浄剤等の防錆剤かつ抗菌剤としても有用であり、別途防錆剤を使用しなくても、抗菌・防錆機能を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】実施例54〜59及び参考例2〜3の結果を示す図である。
【図2】実施例63〜65、比較例13及び参考例4の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
実施例1〜14及び比較例1〜4
ブチルチオグリコール酸(BTG)、ペンチルチオグリコール酸(PeTG)、ヘキシルチオグリコール酸(HTG)、ヘプチルチオグリコール酸(HpTG)、ペンチルチオプロピオン酸(PeTP)、ヘプチルチオプロピオン酸(HpTP)、ペンチルチオブタン酸(PeTB)、ヘキシルチオブタン酸(HTB)、ヘプチルチオブタン酸、プロピルチオペンタン酸(PTPe)、ブチルチオペンタン酸(BTPe)、ペンチルチオペンタン酸(PeTPe)、チオフェニルプロピオン酸(TPhP)、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸及びドデカン酸を、それぞれトリプトソイ液体培地に溶解した。これを水酸化ナトリウムでpHを7に調整し、各酸の濃度が1000ppmの溶液を調製した。これらの溶液20mlを121℃で20分間滅菌した後、緑膿菌(Psudomonas aeruginosa NBRC3080株)、大腸菌(Esherishia coli IFO3301)、 枯草菌(Bacillus subtilis IFO3025)及びカンジダ菌(Candida utilis JCM9624)をそれぞれ接種して、25℃で旋廻振盪培養した。24時間後に650nmの濁度を測定することにより各菌の増殖をモニターした。薬剤無添加のトリプトソイ液体培地で各菌株を培養した場合(対照)の濁度との比を下記式(1)を用いて計算し、菌の増殖率を求めた。結果を表1に示す。
【0065】
【数1】

【0066】
【表1】

【0067】
表1から明らかなように、含硫黄カルボン酸化合物は、緑膿菌、大腸菌、枯草菌及びカンジダ菌の増殖を効果的に阻害する。
【0068】
実施例15〜20及び比較例5〜7
2000ppmのエチルチオプロピオン酸(ETP)、プロピルチオプロピオン酸(PTP)、ブチルチオプロピオン酸(BTP)、ペンチルチオプロピオン酸(PeTP)、ヘキシルチオプロピオン酸(HTP)、ヘプチルチオプロピオン酸(HpTP)、オクタン酸、デカン酸及びドデカン酸を、それぞれ唯一の炭素源として含有するステイナーの培地を調製した。これらの培地に緑膿菌(Psudomonas aeruginosa NBRC3080株)を接種して25℃にて振盪培養し、650nmの吸光度を測定することにより各菌の増殖をモニターした。前記式(1)により同様にして緑膿菌の増殖率を求めた。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2から明らかなように、緑膿菌は脂肪酸を分解・資化して増殖した。一方、緑膿菌は、含硫黄カルボン酸を資化しなかった。
【0071】
実施例21〜29
緑膿菌(Psudomonas aeruginosa NBRC3080株)及び大腸菌(Echerishia coli IFO3301)をトリプトソイ液体培地に接種し、25℃にて24時間振盪培養した。遠心分離によって集菌し、滅菌生理食塩液に懸濁させた。菌の懸濁を滅菌生理食塩液で希釈し、菌数が約10CFU/mlとなるように調整した。
【0072】
一方、生理食塩液にペンチルチオプロピオン酸(PeTP)、ヘキシルチオプロピオン酸(HTP)及びヘプチルチオプロピオン酸(HpTP)をそれぞれ溶解し、500ppm、1000ppm、2000ppm及び4000ppmの各溶液を調製した。これらの溶液4.9mlに菌の希釈懸濁液0.1mlをそれぞれ添加し、25℃下で放置して、一日後の菌数を測定した。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
表3から明らかなように、PeTP、HTP及びHpTPは、緑膿菌及び大腸菌に対して殺菌作用を有することが認められた。
【0075】
実施例30〜42及び比較例8〜11
EDTA 500ppmを含有するトリプトソイ液体培地を調製した。トリプトソイ液体培地とEDTA添加培地に、ブチルチオグリコール酸(BTG)、ペンチルチオグリコール酸(PeTG)、ヘキシルチオグリコール酸(HTG)、ヘプチルチオグリコール酸(HpTG)、ペンチルチオプロピル酸(PeTP)、ヘプチルチオプロピル酸(HpTP)、ブチルチオブタン酸(BTB)、ペンチルチオブタン酸(PeTB)、ヘキシルチオブタン酸(HTB)、ヘプチルチオブタン酸(HpTB)、プロピルチオペンタン酸(PTPe)、ブチルチオペンタン酸(BTPe)、ペンチルチオペンタン酸(PeTPe)、オクタン酸、デカン酸及びドデカン酸を、それぞれ最終濃度が500ppmとなるように添加した。これらの培地に緑膿菌(Psudomonas aeruginosa NBRC3080株)を接種して25℃で振盪培養した。650nmの吸光度を測定することにより緑膿菌の増殖をモニターした。下記式(2)によってEDTAによる緑膿菌の増殖率を求めた。結果を表4に示す。
【0076】
【数2】

【0077】
【表4】

【0078】
表4から明らかなように、含硫黄カルボン酸化合物の緑膿菌に対する抗菌活性は、EDTAを併用することにより、比較例8〜11の場合よりも増強された。
【0079】
実施例43〜48及び参考例1
EDTA 500ppmを含有するトリプトソイ液体培地を調製した。最終濃度がそれぞれ500ppm、1000ppm及び2000ppmとなるように、トリプトソイ液体培地及びEDTA含有培地にそれぞれヘキシルチオヘキサン酸(HTH)を溶解した。これらの培地に緑膿菌(Psudomonas aeruginosa NBRC3080株)及び大腸菌(Echerishia coli IFO3301)をそれぞれ接種し、25℃にて1日間振盪培養した。650nmの吸光度を測定することにより菌株の増殖をモニターした。前記式(2)により各菌の増殖率を算出した。結果を表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
表5から明らかなように、HTHの抗菌活性はEDTAの添加によって増強された。
【0082】
実施例49〜53及び比較例12
最終濃度が1000ppmとなるようにして、グルコースを炭素源とするステイナーの培地にペンチルチオプロピオン酸(PeTP)を溶解した。この培地に、チオジグリコール酸(TDGA)、チオジプロピオン酸(TDPA)、チオジブタン酸(TDBA)及びプロピルジチオジグリコール酸(PDTDG)をそれぞれ最終濃度が500ppmとなるように溶解し、pHを7に調整した。これらの培地に緑膿菌(Psudomonas aeruginosa NBRC3080株)を接種し、25℃下で振盪培養して、650nmの吸光度を測定することにより菌株の増殖をモニターした。結果を表6に示す。
【0083】
【表6】

【0084】
表6から、PeTPの抗菌活性は、チオジグリコール酸(TDGA)、チオジプロピオン酸(TDPA)、チオジブタン酸(TDBA)又はプロピルジチオジグリコール酸(PDTDG)を添加したことによって増強されたことが分かる。
【0085】
実施例54〜59及び参考例2〜3
表7に示す各濃度で、3−ヘキシルチオプロパン−1,2−ジオール(3HTPD)、ペンチルチオプロピオン酸(PeTPe)及びヘキシルチオプロピオン酸(HTP)を含有するトリプトソイ液体培地をそれぞれ調製した。これらの培地に緑膿菌(Psudomonas aeruginosa NBRC3080株)及び大腸菌(Echerishia coli IFO3301)を接種し、25℃下にて振盪培養して、吸光度を測定することにより菌株の増殖をモニターした。前記式(2)により増殖率を算出した。結果を図1に示す。
【0086】
【表7】

【0087】
表7及び図1から明らかなように、PeTPとHTPの抗菌活性は多価アルコール系抗菌剤の3HTPDを併用することによって向上した。
【0088】
実施例60〜62
3−ヘキシルプロパン−1,2−ジオール(3HTPD) 1000ppm とヘキシルチオプロピオン酸(HTP) 1000ppmを含有するトリプトソイ液体培地を調製した。この培地にネオデカン酸(N−PG)を最終濃度がそれぞれ500ppm及び1000ppmとなるように添加した。これらの培地に緑膿菌(Psudomonas aeruginosa NBRC3080株)及び大腸菌(Echerishia coli IFO3301)をそれぞれ接種し、25℃下で振盪培養して、1日後の菌数を測定した。結果を表8に示す。
【0089】
【表8】

【0090】
実施例63〜65、比較例13及び参考例4
ネオス社製のソルブル型切削油剤ファインカットSTF−150(防腐剤(ジシクロヘキシルアミン)抜き)を水道水で30倍に希釈し、3−ヘキシルチオプロパン−1,2−ジオール(3HTPD)、ペンチルチオプロピオン酸(PeTP)及びヘキシルチオプロピオン酸(HTP)をそれぞれ表9に示す濃度になるように添加した。2−アミノ−2−メチルプロパノールでpHを8.8に調整した後、50mlを100mlのサンプル瓶に採取し、30℃のインキュベーターに静置した。
【0091】
切削油剤の腐敗液を遠心分離して集菌(非特定の菌の混合物)し、同量の蒸留水に懸濁した。菌の懸濁液5mlを切削油剤に添加し、直ちに液の一部を採取し、適宜希釈してトリプトソイ寒天培地に塗布し培養することにより菌数を測定した。1日後、4日後、5日後、8日後、11日後及び14日後に菌数を測定した後、菌の懸濁液5mlを添加した。結果を図2に示す。
【0092】
【表9】

【0093】
図2から明らかなように、通常の防腐剤の代わりに3HTPD、PeTP又はHTPを配合することによって、ソルブル型切削油剤(ファインカット STF−150)と同等の防腐性を発揮することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
a−S−R−COOH (1)
[式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の芳香族炭化水素基を示し、
は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基を示す。]
で表される化合物を含む抗菌剤。
【請求項2】
さらにキレート剤を含む請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
さらに多価アルコール系抗菌剤を含む請求項1又は2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
さらに中級脂肪酸を含む請求項1〜3のいずれかに記載の抗菌剤。
【請求項5】
金属腐食抑制剤かつ抗菌剤として使用される請求項1〜4のいずれかに記載の抗菌剤。
【請求項6】
下記一般式(1):
a−S−R−COOH (1)
[式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の芳香族炭化水素基を示し、
は置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族炭化水素基を示す。]
で表される化合物を含む抗菌剤を、微生物に作用させる微生物の増殖抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−260809(P2010−260809A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112014(P2009−112014)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000135265)株式会社ネオス (95)
【Fターム(参考)】